【実施例1】
【0028】
第1実施例の熱輻射光源10は、
図2及び
図3に示すように、真性半導体から成る円柱状のロッド11を、該真性半導体よりも屈折率が低い基体13の表面に複数個配置した光学構造を有する。本実施例では、ロッド11の材料にはSi(屈折率:3.4)を、基体13の材料にはSiO
2(屈折率:1.5)を、それぞれ用いた。ロッド11の半径rは100nm、ロッドの高さhは500nmとした。なお、本実施例では、ロッド11を、周期長aが600nmである正方格子の格子点に配置したが、このようにロッド11を周期的に配置することは、本発明では必須ではない。
【0029】
上記のパラメータのうち、ロッド11の屈折率n及び半径r、並びに正方格子の周期長aにより、以下のように、本実施例の光学構造における共振波長λ
rが定まる。
熱輻射光源内では、周囲よりも屈折率が高いロッド11に沿って、光がロッド11の高さ方向に伝搬する。そして、この光がロッド11の上端及び下端において反射されることにより、定在波が生じ、光の共振状態が形成される。共振波長λ
rは、ロッド11の高さhに依存すると共に、光がロッド11からしみ出すと有効屈折率が変化することからロッド11の半径rにも依存する。また、ロッド11の周期長aの相違は、有効屈折率の相違という点で共振波長λ
rに影響を及ぼすが、ロッド11の半径rの相違による影響ほど大きいものではない。ロッド11の周期長aが短すぎると、ロッド11間で電磁界分布の重なりが大きくなって相互作用が生じ、それにより、光の出射角度に依存して共振波長が変化するという影響が生じてしまう。一方、該周期長aが発光波長よりも長くなると、高次の回折が生じることで一つの共振モードからの輻射が複数の方向に発生する。よって周期長aは、各ロッドからの電磁界のしみ出し距離よりも大きく、且つ、発光波長よりも小さくすることが望ましい。
本実施例では、ロッド11の半径rを100nm、ロッドの高さhを500nmとすることで、各ロッドに生じる共振モードの波長λ
rを950nmとしている。さらに周期長aを共振波長λ
rよりも短く、かつロッド半径よりも十分大きい600nmと設定することで発光強度を保ちつつ出射角度依存性を抑制した。
【0030】
第1実施例の熱輻射光源10が熱を光に変換する原理を説明する。熱輻射光源10を1400K程度の温度まで加熱すると、Siのカットオフ波長λ
g≒1700nmよりも短波長側(カットオフ波長λ
gに対応する光子のエネルギーである0.73eVよりも高エネルギー側)において、真性半導体であるSiのバンド間吸収によるエネルギーの吸収が生じ、そのエネルギーに対応する発光が、カットオフ波長λ
gよりも短波長側(高エネルギー側)において生じる。こうして生じた光のスペクトルは、
図1(a)に示したようにλ
gよりも短波長側で連続しているが、このように連続した波長帯のうち、本実施例の光学構造によって共振波長λ
r≒950nm付近を最大値(ピークトップ)とする波長スペクトルが得られる。
【0031】
第1実施例の熱輻射光源10により得られる波長スペクトルを計算により求めた例を
図4に示す。この例では、熱輻射光源10を1400K(1127℃)に加熱した場合について計算した。この図に示すように、波長スペクトルは波長約950nmをピークトップとする単一のピークになる。Siのカットオフ波長λ
gは約1700nm(対応する光子のエネルギーは約0.73eV)であり、カットオフ波長λ
gよりも長波長側では発光がほとんど生じていない。また、ピークよりも低波長側では、波長が短くなるほど黒体輻射のスペクトルが小さくなるため、それに対応して、熱輻射光源10の波長スペクトルも波長が短くなるほど小さくなっている。
【0032】
このように、本実施例の熱輻射光源10は、共振波長λ
r=950nm付近の波長のみを選択的に放出することができる。一方、シリコン太陽電池は、波長約1000nmを超える光を光電変換することができない。そこで、
図5に示すように、熱輻射光源10と、熱輻射光源10に太陽光を集光する集光レンズ19Aと、熱輻射光源10による熱輻射光を受光するシリコン太陽電池19Bにより、太陽光発電装置19を構成することができる。これにより、波長約1000nmを超える光を含む広い波長スペクトルを有する太陽光を、熱輻射光源10によって波長1000nm以下(本実施例では950nm)に波長スペクトルのピークを有する光に変換したうえで、シリコン太陽電池19Bにおいて光電変換を行うことができるため、光電変換の効率を高めることができる。
【0033】
次に、実際に熱輻射光源10を作製したうえで測定を行った結果を、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6(a)は作製した熱輻射光源10を撮影した光学顕微鏡写真であり、(b)は熱輻射光源10のロッド11及び基体13を拡大して撮影した電子顕微鏡写真である。作製した熱輻射光源10では、SiO
2製であって厚さ約3μmの板状の基体13の表面に、Si製であって円柱状のロッド11を、1辺が400μmである正方形の領域内に正方格子状に配置した。ロッド11の半径rは100nm、高さhは450nmであり、正方格子の周期長aは500nmである。また、基体13の下面(ロッドの反対側の面)に接するように、基体13に近い側から順にTiから成る層、Ptから成る層、Tiから成る層の3層構造を有する板状のヒータ15が設けられている。ヒータ15に電流を流すと、熱輻射光源10は約500Kの温度に加熱され、上述の原理によって熱が光に変換されることにより、発光が得られた。得られた発光のスペクトルを測定したところ、
図7に示すように、約900nmの波長においてピークを有する波長スペクトルが得られた。
【0034】
ここまではロッド11の材料にSiを用いた例を示したが、SiCやCu
2Oなど、Si以外の真性半導体を用いてもよい。ロッド11の材料に3C-SiCを用いた場合には、カットオフ波長λ
gがSiの場合よりも短い800nmとなるため、ロッド11の高さ及び半径をSiの場合よりも小さくすることにより、750nmよりも短波長側にピークを有する波長スペクトルを有する熱輻射光を発する熱輻射光源が得られる。このような特性を有する熱輻射光源は、GaAs太陽電池に、太陽光を変換した熱輻射光を照射する光源として好適に用いることができる。
【0035】
また、第1実施例ではロッド11を正方格子状に配置したが、三角格子状などの配置を取ってもよい。また、ロッド11の形状は円柱状としたが、角柱、円錐、角錐などの形状としてもよい。さらには、ロッド11の周囲を、SiO
2等、ロッド11よりも屈折率が低い材料で埋めてもよい。
【実施例2】
【0036】
第2実施例の熱輻射光源20は、
図8及び
図9に示すように、真性半導体から成る塊状部材21の上面への法線から45°傾斜した方向に延びる空孔柱22を周期的に形成したものである。空孔柱22は、塊状部材21の上面における断面においては、周期長aで三角格子状に配置されている。また、空孔柱42が延びる方向は、この三角格子の格子点の一列おき(
図9(a)の断面A-A上、及び断面B-B上の交互)に互いに90°異なっている(
図9(b), (c))。このような構成により、真性半導体から成る塊状部材21内に3次元的な周期的屈折率分布を有する3次元フォトニック結晶構造(本実施例における光学構造)が形成されている。本実施例では、塊状部材21の材料はSiとし、周期長aは680nmとした。
【0037】
第2実施例の熱輻射光源20により得られる波長スペクトルの例を
図10に示す。この例では、熱輻射光源20を1300K(1027℃)に加熱した場合について、計算により波長スペクトルを求めた。この図に示すように、波長約1300nmをピークトップとする波長スペクトルが得られる。
【0038】
塊状部材21の材料は上述のSiには限られず、SiCやCu
2O等を用いることもできる。また、空孔柱22の代わりに、塊状部材21よりも屈折率が低い部材を用いてもよい。あるいは、
図11に示すように、真性半導体から成るロッド状部材29を平行に並べたものを、ロッド状部材の向きを90°変えながら積層した3次元フォトニック結晶(特許文献3を参照)を用いることもできる。
【実施例3】
【0039】
第3実施例の熱輻射光源30は、
図12に示すように、板状部材31に空孔(異屈折率領域)32が周期的に空けられていることにより、2次元フォトニック結晶構造(本実施例における光学構造)が形成された構成を有する。板状部材31の材料には、本実施例ではSi(屈折率:3.4)を用いた。空孔32は三角格子状に配置されている。個々の空孔32の平面形状は円形である。このように、本実施例の熱輻射光源30では、真性半導体であって屈折率が3.4であるSi製の板状部材31に、屈折率が約1である空孔32が周期的に配置されていることにより、2次元的な周期的屈折率分布が形成されている。
【0040】
本実施例では、空孔32の周期長aを600nmとした。また、空孔32の半径は150nmとした。また、板状部材31は厚みを500nmとし、空孔32は板状部材31の一方の表面から深さ200nmまで形成した。このように空孔32が板状部材31の一方の表面で開口し、他方の表面で開口しないように設けられているため、板状部材31に垂直な方向に関して非対称性が形成される。そのため、空孔32が貫通した方の板状部材31の表面から、より大きい強度で熱輻射光を放出させることができる。なお、本実施例では、空孔32の直径が大きいほど板状部材31と空孔32を合わせた平均の屈折率が小さくなるため、周期長aが同じ場合には、該直径が大きいほど、空気中での波長は短くなる。
【0041】
本実施例では、Siのカットオフ波長λ
g≒1700nmよりも短波長側の共振波長λ
r=1600nmに近い波長の光のみが選択されて増幅し、外部に放出される。
【0042】
板状部材31の厚みは、孔径、孔の深さ、周期等を調整することで、同様の共振波長を保ちながらある範囲内で変えることが可能である。しかしながら、この厚みを厚くしすぎると、真性半導体における真性キャリアによるエネルギーの吸収が生じ、それにより、カットオフ波長λ
gよりも長波長側において不所望の発光が生じるおそれがある。一例として、本実施例と同じ厚みが0.5μm(500nm)のSiの板状部材と、厚みが10μm及び100μmのSiの板状部材について、1400K(1127℃)に加熱したときのエネルギーの吸収率を計算で求めた。
図13に示すように、吸収率はSiのカットオフ波長λ
g≒1700nm(対応する光子のエネルギー:0.73eV)よりも長波長側において、板状部材の厚みが100μmの場合にはほぼ0.7であり、厚みが10μmの場合には0.30〜0.35という値を有するのに対して、厚みが0.5μmの場合にはほぼ0である。これは、板状部材の厚みが厚いほど、長波長側における不所望の発光がより大きい強度で生じることを意味している。従って、このような発光を抑えるために、板状部材31の厚みは薄い方が望ましい。ただし、板状部材31の厚みが極端に薄くなると、共振波長における発光も減少してしまうので、この点も勘案して適切な厚みを選択することが望ましい。本実施例では0.5μmが最適であった。
【0043】
このような長波長側の不要な発光は、第1及び第2実施例でも生じうる。第1実施例においては、真性半導体製のロッド11の高さや径を変更することで、基体13の表面に平行な方向で平均した真性半導体の実効厚みを変化させることができ、それにより、長波長側の発光が抑制されるように調整することができる。第2実施例においては、共振波長よりも長波長側に3次元的なフォトニックバンドギャップが形成されるように空孔柱22やロッド状部材29の周期を調整することにより、長波長側の光は3次元フォトニック結晶構造内に存在できなくなるため、その発光が抑制される。
【0044】
ここまでは板状部材31の材料にSiを用いた例を示したが、SiCやCu
2Oなど、Si以外の真性半導体を用いてもよい。また、ここまでは空孔32を三角格子状に配置した例を示したが、正方格子状などの配置を取ってもよい。空孔32の平面形状は円形としたが、正三角形など、円形以外の平面形状としてもよい。さらには、空孔32の代わりに、SiO
2から成る部材など、板状部材31の材料よりも屈折率が低い部材を設けてもよい。