特許第6227665号(P6227665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227665
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】グリチルレチン酸誘導体及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07J 63/00 20060101AFI20171030BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20171030BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C07J63/00CSP
   A61P25/00
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P25/14
   A61P43/00 111
   A61P43/00 105
   A61P9/10
   A61P21/00
   A61P29/00
   A61K31/455
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-549185(P2015-549185)
(86)(22)【出願日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2014080732
(87)【国際公開番号】WO2015076325
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2016年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-243130(P2013-243130)
(32)【優先日】2013年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510204976
【氏名又は名称】株式会社アイ・エヌ・アイ
(73)【特許権者】
【識別番号】516153074
【氏名又は名称】竹内 英之
(73)【特許権者】
【識別番号】516153085
【氏名又は名称】錫村 明生
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 英之
(72)【発明者】
【氏名】錫村 明生
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第10/007788(WO,A1)
【文献】 国際公開第10/103046(WO,A1)
【文献】 特表2009−511511(JP,A)
【文献】 Denise V. KRATSCHMAR et al.,Characterization of activity and binding mode of glycyrrhetinic acid derivatives inhibiting 11beta-h,Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology,2011年,125,129-142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J 63/00
A61K 31/455
A61P 9/10
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/14
A61P 25/16
A61P 25/28
A61P 29/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表されるグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩であって、
【化1】
式中、
環Aは、R1以外にも置換基を有していてもよい複素環を表し、
R1は炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、
R2は水酸基またはカルボニル基(O=)を表し、
R3は水素原子、水酸基または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、
R4は水素原子、水酸基または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、
R5は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、
R6は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基またはハロゲン原子を表し、
R7は水素原子または水酸基を表し、
-はアニオンを表すものである、
グリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
式(1)において、環Aがピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、または2,1‐ベンゾイソチアゾールのいずれかである、請求項1に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項3】
式(1)において、環AがR1のみを置換基として有するものである、請求項2に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項4】
式(1)において、R1がメチル基を表すものである、請求項3に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項5】
式(1)において、環Aがピリジンである、請求項4に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【請求項6】
以下の化学式で表される請求項5に記載のグリチルレチン酸誘導体。
【化2】
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のグリチルレチン酸誘導体を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項8】
神経疾患の予防又は治療用である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
神経因性疼痛の緩和用である請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
神経疾患が虚血傷害、炎症性神経疾患または神経変性疾患である請求項8記載の医薬組成物。
【請求項11】
虚血傷害が脳卒中、脳出血、脳梗塞および脳血管性認知症から選択され、炎症性神経疾患がアルツハイマー病、脳炎後遺症、急性散在性脳脊髄炎、細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、心筋性髄膜炎、ウイルス性髄膜炎およびワクチン性髄膜炎から選択され、神経変性疾患が、アルツハイマー病、頭部外傷、脳性麻痺、ハンチントン病、ピック病、ダウン症、パーキンソン病、エイズ脳症、多系統委縮症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症および脊髄小脳変性症から選択される請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
皮下投与により投与されるものである請求項7〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
皮下注射の形態である請求項12記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩、およびこれを有効成分として含有する医薬組成物、並びに前記グリチルレチン酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を用いる神経疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギャップ結合は、細胞表面にある細胞と細胞の接触部位として知られている。本発明者らは、ギャップ結合阻害剤(グリチルレチン酸誘導体)であるカルベノキソロンが、活性化したミクログリアからの過剰なグルタミン酸の放出を抑制することを見出し、ギャップ結合阻害剤が神経系疾患の治療に用いることができることを明らかにしている(特許文献1)。
【0003】
さらに、ギャップ結合は、種々の刺激伝達に関わっていることがわかっており、新たなギャップ結合阻害剤は、各種研究用途に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2007/088712号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルベノキソロンはギャップ結合阻害剤として有効ではあるが、その分布が全身に及んでしまうため、腎臓での鉱質コルチコイド作用による低カリウム血症や浮腫などが懸念された。本発明は、カルベノキソロンに比べてより実用的なギャップ結合阻害作用を有する新規なグリチルレチン酸誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カルベノキソロンのグリチルレチン酸誘導体に関し種々の検討を行ったところ、グリチルレチン酸骨格の配糖体結合部位である10位にある4−ヒドロキシ−4オキソブタノイルオキシ基に代えて、アミド結合を介して酸素原子,硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜5個含む複素環の塩を付加した誘導体又はその薬学的に許容される塩が、疼痛の閾値を上昇させ、脳脊髄液中のグルタミン酸濃度を低下させることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の式(1)で表されるグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩であって、
【化1】
【0008】
式中、環Aは、R1以外にも置換基を有していてもよい複素環を表し、R1は炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、R2は水酸基またはカルボニル基(O=)を表し、R3は水素原子、水酸基または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、R4は水素原子、水酸基または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、R5は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基を表し、R6は水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基またはハロゲン原子を表し、R7は水素原子または水酸基を表し、Xはアニオンを表すものである、グリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩が提供される。
【0009】
式(1)において、環Aは、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、または2,1‐ベンゾイソチアゾールのいずれかであることが好ましく、特にピリジンであることが好ましい。
【0010】
また、環Aは、R1のみを置換基として有することが好ましい。
【0011】
また、式(1)において、R1は炭素数1〜4のアルキル基であってもよい。さらに、式(1)において、R1はメチル基を表していてもよい。
【0012】
式(1)で表される化合物の具体例としては、以下の式(2)で表されるグリチルレチン酸誘導体が挙げられる。
【0013】
【化2】
【0014】
本発明によれば、上記グリチルレチン酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、神経疾患の予防又は治療用に用いることができる。
【0015】
また、本発明によれば、神経疾患に罹患した哺乳動物を治療する方法であって、式(1)で表されるグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩の治療上有効な量を用意する工程と、前記用意したグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩の治療上有効な量を前記哺乳動物に投与する工程とを有する方法が提供される。
【0016】
このような構成により、神経疾患に罹患した哺乳動物を治療するための新規な方法が提供される。
【0017】
係る方法において、前記哺乳動物はヒトであることが好ましい。
【0018】
さらに、前記治療する方法に用いる式(1)で表される化合物において、環Aは、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾールまたは2,1‐ベンゾイソチアゾールのいずれかであることが好ましく、特にピリジンであることが好ましい。
【0019】
また、環Aは、R1のみを置換基として有していてもよく、R1は炭素数1〜4のアルキル基であってもよい。さらに、式(1)において、R1はメチル基を表していてもよい。
【0020】
なお、前記治療する方法に用いる式(1)で表される化合物の具体例としては、上記式(2)で表されるグリチルレチン酸誘導体を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1で合成したTypeC−05のNMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例1で合成したTypeC−05のLC−MSスペクトルを示す図である。
図3】C57BL/6Jマウスにおける疼痛行動試験による疼痛閾値の経時的変化を示す図である。本図において、*はp<0.05 vs 生理食塩水を示し、†はp<0.05 vs Gabapentinを示す。
図4】C57BL/6Jマウスにおける脳脊髄液グルタミン酸濃度を示す図である。本図において、*はp<0.05 vs 生理食塩水を示す。
図5】ALS急性発症モデルマウスにおける、本発明のグリチルレチン酸誘導体の投与による生存延長効果を示す図である。
図6】アルツハイマー病モデルマウスに対する、本発明のグリチルレチン酸誘導体の記憶障害改善効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで、活性化ミクログリアのグルタミン酸放出について概説する。グリア細胞の一種であるミクログリアでは、活性化していない状態においては、α−ケトグルタル酸がトランスアミナーゼの作用により産生されたグルタミン酸や、細胞外のグルタミン酸がグルタミン酸トランスポータを介してミクログリア内に移行し、正常な生命維持活動に用いられている。一方、活性化されたミクログリアでは、通常とは異なる経路でグルタミン酸を合成・放出することが明らかとなっており、具体的には、ミクログリアの活性化に伴い、当該ミクログリア内のグルタミナーゼが誘導され、細胞外のグルタミンからグルタミン酸を合成して、ギャップ結合ヘミチャネルから細胞外にグルタミン酸を放出している。
【0023】
パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性を伴う疾患を含む脳疾患においては、ミクログリアの活性化が起こることが知られており、また脳に器質性および機能性の障害が生じた際にもミクログリアは活性化され様々な生体応答を招来させることが知られている。
【0024】
そのため、活性化ミクログリアにおけるギャップ結合を阻害するギャップ結合阻害剤を用いることにより、グルタミン酸放出を抑制し、さらに神経系疾患の治療に用いることが可能である。そして、本願発明に係る新規なグリチルレチン酸誘導体は、この活性化ミクログリアからのグルタミン酸放出を抑制することにより、様々な神経疾患を治療し得るものである。
【0025】
具体的には、本発明の新規なグリチルレチン酸誘導体は、疼痛閾値を上昇させ、また脳脊髄液中のグルタミン酸濃度を低下させるため、神経細胞死を生じる神経変性疾患等の予防又は治療に有用である。
【0026】
本発明の新規なグリチルレチン酸誘導体は、それ自体ギャップ結合阻害剤として用いることができ、ギャップ結合の亢進によって生じうる疾患や状態を改善するのに有用である。
【0027】
以下、本発明のグリチルレチン酸誘導体につき詳細に説明する。
【0028】
本発明のグリチルレチン酸誘導体において、式(1)で表される化合物中、環Aは、R1以外にも同一若しくは異なる1〜3個の置換基を有していてもよい複素環である。ここで、「複素環」とは、酸素原子,硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜5個含む環状化合物をいい、ピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾオキサゾール、2,1‐ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、または2,1‐ベンゾイソチアゾールが好ましく、ピリジン、キノリン、イソキノリンがより好ましい。また、前記複素環が有してもよい置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(該アルキル基はハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基から選ばれる基で置換されていてもよい)、水酸基、アルコキシ基、アミノ基(該アミノ基はアルキル基及びアシル基から選ばれる1〜2個の基で置換されていてもよい)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルカノイル基、アルケニル基(アルコキシ基で置換されていてもよい)等が挙げられる。
【0029】
「ハロゲン原子」とはフッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、または臭素原子を意味し、「アルキル」とは炭素数1〜6個、好ましくは炭素数1〜4個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルを意味し、「アルコキシ」とは炭素数1〜6個、好ましくは炭素数1〜4個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルコキシを意味し、「アルカノイル」とは炭素数1〜7個、好ましくは炭素数2〜5個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルカノイルを意味し、「アルケニル」とは炭素数2〜6個、好ましくは炭素数2〜4個の直鎖状もしくは分岐鎖状アルケニルを意味する。
【0030】
環Aは、かかる置換基を有さずにR1のみを有していてもよい。R1は、置換されていないアルキル基であることが好ましい。置換されていないアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられる。アルキル基としてより好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルであり、さらに好ましくは、メチル又はエチルであり、特に好ましくはメチルである。
【0031】
なお、環Aがグリチルレチン酸骨格と結合する位置は特に制限されない。例えば、環Aがピリジンで、置換基がR1のみである場合、下記のように環A(ピリジン)のいずれの位置でグリチルレチン酸骨格と結合してもよい。
【0032】
【化3】
【0033】
本発明のグリチルレチン酸誘導体は、ギャップ結合の阻害剤としての作用を損なわない限り、環A以外のグリチルレチン酸骨格において種々の置換基を有していてもよい。具体的には、式(1)において、R2〜R7がそれぞれ以下の置換基であってもよい。
【0034】
R2としてカルボニル基(O=)または水酸基、R3及びR4として水素原子、水酸基または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、R5として水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)または炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基、R6として水素原子、水酸基、カルボニル基(O=)、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基またはハロゲン原子、R7として水素原子または水酸基。
【0035】
より好ましくは、R2としてカルボニル基(O=)、R3として水素原子、水酸基、メチル基又はエチル基、R4として水素原子、メチル基又はエチル基、R5として水素原子、水酸基又はカルボニル基(O=)、R6として水素原子又はハロゲン原子、R7として水素原子又は水酸基である。
【0036】
本発明のグリチルレチン酸誘導体は、環A以外のグリチルレチン酸骨格において、前記R2〜R7以外にさらに置換基を有していてもよい。このような置換基はギャップ結合阻害剤としての作用を損なわないものであれば特に限定されず、ハロゲン原子、アルキル基(該アルキル基はハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基から選ばれる基で置換されていてもよい)、水酸基、アルコキシ基、アミノ基(該アミノ基はアルキル基及びアシル基から選ばれる1〜2個の基で置換されていてもよい)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルケニル基(アルコキシ基で置換されていてもよい)等が挙げられる。中でも、アルキル基、水酸基、ハロゲン原子などが好ましい例として挙げられる。
【0037】
本発明のグリチルレチン酸誘導体としては、以下の式(2)で表される化合物が好ましい。
【0038】
【化4】
【0039】
本発明のグリチルレチン酸誘導体については、置換基の種類によっては光学異性体(光学活性体、ジアステレオマー等)または幾何異性体が存在する。従って、本発明のグリチルレチン酸誘導体には、これらの光学異性体または幾何異性体の混合物や単離されたものも含まれる。
【0040】
また、本発明のグリチルレチン酸誘導体におけるXは、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等の無機アニオン;酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、シュウ酸アニオン及びコハク酸アニオンなどの有機アニオンが包含される。好ましくは、ヨウ素イオン等の無機アニオンである。
【0041】
さらに、本発明のグリチルレチン酸誘導体には、生体内において代謝されて本発明のグリチルレチン酸誘導体に変換される化合物、いわゆるプロドラッグもすべて含まれる。本発明のグリチルレチン酸誘導体とプロドラッグを形成する基としては、Prog.Med.5:2157−2161(1985)に記載されている基や、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163〜198に記載されている基が挙げられる。具体的には、加水分解、加溶媒分解により、又は生理学的条件の下で本発明におけるようなHOC(=O)−等に変換できる基であり、OHのプロドラッグとしては、例えば、置換されてもよい低級アルキル−C(=O)O−、置換されてもよいアリール−C(=O)O−、ROC(=O)−置換されてもよい低級アルキレン−C(=O)O−(RはH−又は低級アルキルを示す。以下同様)、ROC(=O)−置換されてもよい低級アルケニレン−C(=O)O−、ROC(=O)−低級アルキレン−O−低級アルキレン−C(=O)O−、ROC(=O)−C(=O)O−、ROS(=O)−置換されてもよい低級アルケニレン−C(=O)O−、フタリジル−O−、5−メチル−1,3−ジオキソレン−2−オン−4−イル−メチルオキシ等が挙げられる。
【0042】
(グリチルレチン酸誘導体の製造方法)
次に、本発明のグリチルレチン酸誘導体の代表的な製造方法について説明する。
【0043】
本発明のグリチルレチン酸誘導体は、その基本骨格又は置換基の種類に基づいて、種々の合成法を適用して製造することができる。以下に上記式(2)中、Xがヨウ素イオン(I)であるグリチルレチン酸誘導体の例を挙げて、代表的な製造方法について説明する。典型的な製造スキームを以下に示す。
【0044】
【化5】
【0045】
まず原料としてグリチルレチン酸を準備し、グリチルレチン酸骨格の配糖体結合部位の水酸基に代えてアミノ基を導入し、次いでニコチン酸クロリド・塩酸塩と反応させてアミド結合を形成させてニコチン酸を導入し、さらに、ヨウ化メチル等によりアルキル基をピリジン環の窒素原子に導入できる。
【0046】
典型的には、得られた本発明のグリチルレチン酸誘導体はピリジニウム塩として製造され、単離される。なお、遊離の塩基として得られる場合には、造塩反応を付すことによりピリジニウム塩として本発明のグリチルレチン酸誘導体を製造することができる。
【0047】
なお、本発明のグリチルレチン酸誘導体の原料化合物(出発物質)は、天然よりあるいは商業的に入手することができるほか、類似骨格化合物から従来公知の合成方法により製造することができる。
【0048】
このようにして製造された本発明のグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩の単離精製は、抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等の通常の化学操作を適用して行われる。また、各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより、或いは異性体間の物理的又は化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、適当な原料を選択することにより、或いはラセミ化合物のラセミ分割法(例えば、一般的な光学活性な酸とのジアステレオマー塩に導き、光学分割する方法等)により立体化学的に純粋な異性体に導くことができる。
【0049】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、有効成分として本発明のグリチルレチン酸誘導体を含有している。本発明のグリチルレチン酸誘導体は、一般的に用いられている種々の処方を適用して各種の製剤形態をとる医薬組成物として提供される。本発明の医薬組成物は、典型的には、本発明のグリチルレチン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩から選択される1種若しくはそれ以上を有効成分として含有することができ、また薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。また、通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、注射剤、坐剤、軟膏、貼付剤等に調製され、経口的(舌下投与を含む)な方法、または皮下注射および腹腔内注射を含む非経口的な方法により投与される。
【0050】
本発明の医薬組成物である製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤:及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができる。)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;脂肪酸ナトリウム塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体を挙げることができる。)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる。)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類を挙げることができる。)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸を挙げることができる。)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等を挙げることができる。)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0051】
本発明のグリチルレチン酸誘導体又はその薬学的に許容される塩の投与量は、症状、年齢等により異なり、適宜決定される。たとえば、経口投与の場合には、1回当り1日下限0.1mg(好ましくは、1mg)、上限1000mg(好ましくは、500mg)を、静脈内投与の場合には、1回当り1日下限0.01mg(好ましくは、0.1mg)、上限500mg(好ましくは、200mg)を成人に対して、1日当り1または数回に分けて、症状に応じて投与することができる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、ギャップ結合の亢進が原因となる疾患又は症状、あるいはギャップ結合の阻害が有効な疾患又は症状の予防、治療及び改善に用いることができる。例えば、グルタミン酸による興奮性神経障害による細胞死阻害として用いることが好ましい。また、こうした興奮性神経障害による神経細胞死が関連するヒト及び家畜やペットなどの非ヒト動物の神経系疾患の予防・治療用に用いることが好ましい。神経系疾患としては、例えば、虚血障害、炎症性神経疾患及び神経変性疾患等が挙げられる。また本発明の医薬組成物は神経因性疼痛の緩和にも有用である。
【0053】
虚血傷害としては、例えば、脳卒中、脳出血、脳梗塞及び脳血管性認知症が挙げられる。炎症性神経疾患としては、例えば、アルツハイマー病、脳炎後遺症、急性散在性脳脊髄炎、細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、ウイルス性髄膜炎、ワクチン性髄膜炎等の中枢神経系炎症性神経疾患が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病(炎症性神経疾患でもある)、頭部外傷、脳性麻痺、ハンチントン病、ピック病、ダウン症、パーキンソン病、エイズ脳症、多系統萎縮症、多発性硬化症(炎症性神経疾患でもある)、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症等が挙げられる。
【0054】
なお、本発明の医薬組成物は、神経変性疾患等に有効な他の薬剤と共に使用することを妨げない。例えば、虚血障害、炎症性神経疾患及び神経変性疾患等に用いられる各種薬剤との併用を妨げない。例えば、アルツハイマー病にあっては、ドネペジル、メマンチン、リバスチグミン、ガランタミン等、多発性硬化症にあっては、インターフェロン、糖質ステロイド、抗けいれん剤、免疫抑制剤等、パーキンソン病にあっては、ドーパミン、抗コリン剤、ドーパミン放出抑制剤(アマンタジン)、ドーパミン受容体刺激剤(麦角又は非麦角アルカロイド)、ドーパミン分解抑制剤(セレギレン)等、脊髄小脳変性症にあっては、酒石酸プロチリレン、タルチリレン水和物等、筋萎縮性側硬化症にあっては、リルゾール等が挙げられる。
【0055】
(他のグリチルレチン酸誘導体との比較)
本発明者らは、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体とは異なるグリチルレチン酸誘導体の合成にも成功している(特許第4649549号)。当該特許発明に係るグリチルレチン酸誘導体(当該特許における「化合物B」、以下「化合物B」と称する)は、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体と同様に、ギャップ結合を阻害することにより活性化ミクログリアからのグルタミン酸放出を抑制し、また神経細胞死を抑制し、そして種々の神経疾患の治療剤となり得るものである。
【0056】
本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体および化合物Bを種々の経路によって投与した場合における脳内移行の有無を比較すると、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体および化合物Bのいずれもが、動脈注射および静脈注射によって脳内に移行することが明らかとなっている。また、腹腔内注射を用いた場合にも、モデルマウスを用いた実験において、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体および化合物Bのいずれも、中枢神経系に到達し、薬効を発揮する。しかし、化合物Bをモデルマウスに皮下注射した場合には、脳内に移行しないことが明らかとなっている。一方、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体では、モデルマウスを用いた実験において、皮下注射で投与した場合にも脳内に移行することが明らかとなっている(後述の実施例を参照)。化合物Bと本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体とはその構造は類似するものの、脳細胞に移行する際のメカニズムが異なると考えられ、これは本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体の脂溶性(LogD)が化合物Bよりもやや低いことに起因するものと考えられる(化合物B=4.28に対して、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体(後述する実施例における化合物no.37)=2.94)。この点において本願発明は顕著な効果を有するものである。
【0057】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
(本発明のグリチルレチン酸誘導体の合成)
式(2)の化合物において、Xがヨウ素イオン(I)である本発明のグリチルレチン酸誘導体(以下、TypeC−05ともいう)を以下のスキームで合成した。
【0059】
【化6】
【0060】
以下、各工程に分けて説明する。
【0061】
(1)第1工程
【化7】
【0062】
グリチルレチン酸(compound1,327g,694mmol)をアセトン(6.5L)に溶解後、氷冷下Jones試薬(306mL,765mmol)をゆっくりと加えた後、2時間同温度で撹祥した。Jones試薬(30mL)を追加し、さらに1時間30分間同温度で撹枠した。氷冷水(6.0L)へ注ぎ込み、クロロホルム(6.0L)を加え、しばらく撹祥後ろ紙にてろ過し、ロート上の固体をクロロホルムにて洗浄した。ろ液を分液し、有機層を水(6.0L)で3回洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、ろ液を減圧濃縮すると目的化合物(compound2,302g,645mmol,白色固体)を得た。収率は93%であった。
【0063】
(2)第2工程
【化8】
【0064】
ケトン体(compound2,302g,645mmol)をアセトン(6L)に溶解後、炭酸カリウム(134g,968mmol)を加えた後、ヨウ化メチル(60mL,968mmol)をゆっくり加え、室温にて一晩撹排した。水(10L)へ注ぎ込み、クロロホルム(8L)を加え撹祥後、分液した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して、目的化合物(compound3,304g,630mmol)を得た。収率は98%であった。
【0065】
(3)第3工程
【化9】
【0066】
2Lのフラスコに、ケトン体(compound3,80.0g,166mmol)とピリジン(400ml)を加えた。粉末は完全に溶解していない。撹祥しながらヒドロキシルアミン塩酸塩(58g,834mmol,5eq)を加えた。内温40度で2時間撹祥し、原料の消失を確認した。減圧下で溶媒を留去し、氷冷下で3M塩酸を加えた。クロロホルムにて抽出し、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。得られた化合物(compopund4,81.6g,164mmol,白色粉末)はそのまま次の反応へ使用した。収率は99%であった。
【0067】
(4)第4工程
【化10】
【0068】
TiCl溶液(12%TiCl,5%HCl)の事前調整
水(260mL)に濃塩酸(104mL)を加え、氷冷下でTiCl(22%)を376mL加えた。アルゴンガスをバブリングして撹枠しながら酢酸ナトリウム(215g)を加え、水(160mL)で希釈した。
【0069】
5Lのフラスコにオキシム体(compound4,81.6g,164mmol)をエタノール1600mLに溶解した。ボラン(35.6g,410mmol)を加え、氷冷した。アルゴンガスをバブリングしながら、別途調整したTiCl溶液(12%TiCl,5%HCl,上記調整溶液)を4時聞かけて滴下し、室温まで15時間かけて昇温した。飽和食塩水(300mL)を加え、生じた固体をろ過により除き、メタノールで洗浄した。溶媒を減圧化で2Lになるまで留去し、クロロホルム(2.0L)にて分液した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム(200mL)にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧化で溶媒を留去した。得られた固体(compoud5,51.9g,1.07mmol,白色粉末)は精製することなく次の反応に使用した。収率は66%であった。
【0070】
(5)第5工程
【化11】
【0071】
アミン体(compound5,51.9g,107mmol)をTHF(900mL)およびMeOH(900ml)に溶解した。水酸化カリウム(180g,3.21mol)を水(450mL)に溶解したアルカリ水溶液をゆっくりと加えた。内温60度で1時間撹排した後、減圧下で溶媒を留去した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、析出した白色粉末をろ過し、水で洗浄した。減圧下で白色粉末を乾燥させた後、酢酸エチル/メタノール=9/1(500ml)にて懸濁洗浄し、目的化合物(compound6,38.4g,75.9mmol,白色粉末)を得た。収率は77%であった。
【0072】
(6)第6工程
【化12】
【0073】
2Lフラスコにアミン−カルボン酸体(compound6,38.4g,79.4mmol)を加え、塩化メチレン(530mL)とトリエチルアミン(44.0mL,317mmol,4eq)を加えた。氷冷下で、ニコチン酸クロリド・塩酸塩(21.2g,119mmol,1.5eq)を撹枠しながら加え、氷冷下で30分、室温で30分間撹祥した。飽和塩化アンモニウム水溶液(200mL)を加え、水層をクロロホルム(100mL)で2回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。得られた固体を酢酸エチル/へプタン=1/1(500mL)にて懸濁洗浄し、減圧下乾燥後、目的化合物(compound7,39.8g,69.2mmol,白色粉末)を得た。収率は87%であった。
【0074】
(7)第7工程
【化13】
【0075】
500mLフラスコにニコチン酸誘導体(compound7,5.0g,8.70mmol,1.0eq)を加え、アセトニトリル(50mL)とクロロホルム(50mL)に溶解し、ヨウ化メチル(1.1mL,17.7mmol,2eq)を加えた。反応溶液を15時間加熱還流した後、撹祥しながらゆっくりと冷却した。得られた沈殿物をろ過し、アセトニトリル・クロロホルム(1/1)で洗浄し、減圧下で乾燥後、目的物粗体(TypeC−05,1.99g,黄色粉末)を得た。同様にニコチン酸誘体(compound7)を19.3g、15.0g、9.1gスケールにて本反応をそれぞれ実施し、目的物粗体(TypeC−05,25.7g,黄色粉末)を得た。上記反応で得られた粗体(1.99g)を合わせて目的物粗体の総収量(27.7g)へ酢酸エチル(適量)を加え、懸濁洗浄を行いTypeC−05(27.1g,37.8mmol,淡黄色固体)を得た。トータル収率は49%であった。得られたTypeC−05のNMRスペクトルを図1に示す。また、LC−MSスペクトルを図2に示す。
【実施例2】
【0076】
疼痛行動試験(機械的アロデニア)
C57BL/6Jマウス(8週齢オス,各群n=4)の後肢に、慢性坐骨神経損傷手術(CCI)を施し、慢性痛を引き起こした。マウスの後肢足蹠にvon Frey hairを押し当て、回避行動を示す機械強度の閾値を記録した(CCI術前日〜術後14日)。
【0077】
薬物についてはCCI術後7日から14日まで下記薬剤を1日1回投与して治療効果を検討した。本実施例において「化合物No.37」は上述の式(2)で表される化合物である。
コントロール:同容量生理食塩水
Gabapentin:30mg/kg 腹腔内投与
化合物No.37:100mg/kg 皮下投与
化合物No.37:20mg/kg 皮下投与
化合物No.37:20mg/kg 腹腔内投与
図3に示すように、術後8日目の観測から各試験群に相違が生じ始め、化合物No.37を100mg/kgで皮下投与した群および化合物No.37を20mg/kgで腹腔内投与した群においては、Gabapentinと比較して顕著に疼痛閾値の上昇が見られた。特に腹腔内投与ではGabapentinよりも低い濃度において疼痛閾値の上昇が見られている。
【実施例3】
【0078】
脳脊髄液グルタミン酸濃度の測定
CCI術後14日目に上述のマウスの大後頭孔から脳脊髄液を採取し、グルタミン酸濃度をHPLCで定量測定した。
【0079】
図4に示すように、化合物No.37(100mg/kg 皮下投与)、化合物No.37(20mg/kg 皮下投与)、および化合物No.37(20mg/kg 腹腔内投与)のいずれの群においても、Gabapentinと同程度またはそれ以上に脳脊髄液中のグルタミン酸濃度の低下が見られた。
【0080】
以上のことから、上記式(2)の化合物は、脳脊髄液におけるグルタミン酸濃度を低下させ、その結果疼痛閾値を上昇させることがわかった。このことから、式(2)の化合物が神経細胞死を抑制することが推測された。
【実施例4】
【0081】
LD50試験
本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体(上記式(2)の化合物)とカルベノキソロンとのLD50(50%致死量)を比較した。その結果、カルベノキソロンが100mg/kgであったのに対して、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体では>5000mg/kgを示した(図示せず)。このことから、本願発明に係るグリチルレチン酸誘導体はカルベノキソロンに比べて最大耐量が高く、安全性の観点からみても従来のギャップ結合阻害剤よりも優れていることがわかる。
【実施例5】
【0082】
ALSの急性発症モデルマウスにおける生存延長効果の確認
神経変性疾患に対する動物モデルとして、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の急性発症モデルとして汎用されている、ヒトスーパーオキシドジスムターゼ1(superoxide dismutase 1,SOD1)G93A変異トランスジェニックマウスを用いて、薬効評価を行った。
【0083】
ALS発症初期と考えられる7〜8週齢から、20mg/体重kgの本願発明のグリチルレチン酸誘導体(化合物No.37群)あるいは同容量の生理食塩水(saline群)を週3回腹腔内投与した。
【0084】
生存解析はKaplan−Meier法を用いた。結果を図5に示す。
【0085】
図5に示されるように、本願発明のグリチルレチン酸誘導体投与群では、平均で17日間の生存延長効果を認めた(p<0.05)。この値は、本モデルマウスにおいては極めて良好な生存延長効果であると考えられる。
【実施例6】
【0086】
アルツハイマー病モデルマウスにおける生存延長効果の確認
次に、神経変性疾患に対する動物モデルとして、アルツハイマー病モデルとして汎用されている、ヒトアミロイドβ1−42ペプチド(Aβ)脳室内注入マウス(Doi et al.,Am J Pathol.175(5):2121−32,2009)を用いて、本願発明のグリチルレチン酸誘導体(化合物No.37群)の薬効評価を行った。
【0087】
300pmol/3μlのAβを脳室内注入し、注入当日から、20mg/体重kgの本願発明のグリチルレチン酸誘導体(化合物No.37群)あるいは同容量の生理食塩水(vehicle群)を週3回腹腔内投与した。対照群としては、同齢の野生型マウス(C57BL/6J)を用いた。行動解析には以下の恐怖条件付け学習試験を用いた。
【0088】
恐怖条件付け学習試験
連合学習は恐怖条件付け学習試験を用いて評価した(Mouri et al.,FASEB J.21,2135−2148,2007;Nagai et al.,FASEB J.17,50−52,2003)。マウスをステンレス製グリッドを設置した透明のアクリル製ケージに入れ、20秒間の音刺激(80dB)を与え、さらに、その最後の5秒間に電気刺激(0.6mA)を加えた。この組み合わせ刺激を1セットとし、15秒間のインターバルで4回繰り返し、恐怖条件付けを行った。状況依存性試験および音刺激依存性試験は、恐怖条件付けの24時間後に行った。前者では、恐怖条件付けを行ったグリッド付アクリル製白色ケージへマウスを入れ、音および電気刺激を与えない状況下でのすくみ行動を2分間測定した。また、後者では、床にウッドチップを敷いたアクリル製黒色ケージにマウスを入れ、連続した音刺激を与えたときのすくみ行動を1分間測定した。結果はそれぞれ、全測定時間に対するすくみ行動時間の百分率(%)として表した。結果を図6に示す。
【0089】
本願発明のグリチルレチン酸誘導体投与群では、状況依存性試験においてAβ脳室内投与マウス生理食塩水投与群で見られたすくみ行動時間の減少は有意に緩解し、記憶障害の有意な改善効果が認められた(p<0.05)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6