特許第6227735号(P6227735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227735
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】タンデム型ソーラーセル
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   H01G9/20 301
   H01G9/20 111A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-175385(P2016-175385)
(22)【出願日】2016年9月8日
(62)【分割の表示】特願2013-520577(P2013-520577)の分割
【原出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2017-5267(P2017-5267A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-131834(P2011-131834)
(32)【優先日】2011年6月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-154243(P2011-154243)
(32)【優先日】2011年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514226958
【氏名又は名称】inQs株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 信明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】落合 忠夫
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/049156(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜が形成された2枚のガラス基板が各々の透明導電膜を向かい合わせて配置され、
前記ガラス基板の一方に、2酸化チタン、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェンから選ばれる1種が配置され、
前記ガラス基板の他方に粒子の径が500nm以下の2酸化ケイ素が配置され、
前記2枚のガラス基板の間に電解質が充填され、
前記2酸化チタン、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェンから選ばれる1種に増感色素が吸着されたことを特徴とする、タンデム型ソーラーセル。
【請求項2】
透明導電膜が形成されたガラス基板の透明導電膜と金属板が向かい合わせて配置され、
前記ガラス基板に、2酸化チタン、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェンから選ばれる1種が配置され、
前記金属板に粒子の径が500nm以下の2酸化ケイ素が配置され、
前記ガラス基板と金属板の間に電解質が充填され、
前記2酸化チタン、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェンから選ばれる1種に増感色素が吸着されたことを特徴とする、タンデム型ソーラーセル。
【請求項3】
透明導電膜が形成されたガラス基板の透明導電膜と金属板が向かい合わせて配置され、
前記ガラス基板に粒子の径が500nm以下の2酸化ケイ素が配置され、
前記金属板に、2酸化チタン、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェンから選ばれる1種が配置され、
前記ガラス基板と金属板の間に電解質が充填され、
前記2酸化チタン、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェンから選ばれる1種に増感色素が吸着されたことを特徴とする、タンデム型ソーラーセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2酸化チタンソーラーセルと2酸化ケイ素ソーラーセルを組み合わせたタンデム型のソーラーセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン等の半導体を用いたソーラーセルが実用段階に入りつつある。半導体ソーラーセルは変換効率が高い反面、高純度の材料を使用するため高価である。
比較的安価なソーラーセルとして2酸化チタン(TiO)を用いるソーラーセルがある。
【0003】
図1により2酸化チタンソーラーセルの基本的な構成を説明する。
この図において1及び3はガラス基板であり各々1方の面にFTO透明導電膜2が形成され、ガラス基板1側から光が入射する。6は多孔質2酸化チタン焼結体である。5は電解液であり、一般的には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられる。
なお、4は封止材、7は抵抗器等の負荷である。
【0004】
この図においてハッチングされた矢印は紫外光を、白矢印は可視光を、黒矢印は赤外光を示している。また、大きく減衰した透過光は矢印を短くして示し、減衰しないあるいは減衰量が少ない透過光は矢印をそのままにして示すことにする。
以後の図面においては、この記載方法を採る。
【0005】
2酸化チタンが起電する光は波長が380nm以下の紫外光のみであり、この波長領域の紫外光は太陽光中の4%に過ぎない。そのため、最も豊富な光源である太陽光の利用効率は最大でも4%、実際には1%がせいぜいであり、太陽光の利用効率はきわめて低い。
【0006】
利用可能な波長領域が狭い2酸化チタンソーラーセルの欠点を補うため、焼結された多孔質2酸化チタンにルテニウム錯体色素を吸着させることにより利用可能な光の範囲を紫外光より波長が長い可視光領域まで拡げた色素増感ソーラーセル(DSSC:Dye Sensitized Solar Cell)がグレッツエルセルとして知られている。
【0007】
図2により、色素増感ソーラーセルの基本的な構成を説明する。
この図において1及び3はガラス基板であり各々1方の面にFTO透明導電膜2が形成され、ガラス基板1側から光が入射する。8はルテニウム錯体色素を吸着させた多孔質2酸化チタン焼結体である。5は電解液であり、一般的には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられる。
なお、4は封止材、7は抵抗器等の負荷である。
このような構成を有する色素増感ソーラーセルの太陽光利用効率は、理論的に30%、実際には最大で10%である。
【0008】
2酸化チタンは光触媒機能を有しているが、同様に光触媒機能を有する材料としてハロゲン化水素酸で処理された溶融石英粒子を使用することが特開2004−290748号公報及び特開2004−290747号公報に示されている。
【0009】
同様に、光触媒機能を有する材料としてフッ化水素酸で処理された人工水晶粒子を使用することが、国際公開公報WO2005/089941号に示されている。
【0010】
この人工水晶光触媒は、特開2004−290748号公報及び特開2004−290747号公報に示された溶融石英を原材料とする光触媒よりもさらに広い200〜800nmという波長領域で光触媒として機能する。
【0011】
さらに、本発明者等は人工水晶を代表とする2酸化ケイ素がソーラーセルとして利用可能であることを発見し、このソーラーセルは国際公開公報WO2011/049156号に記載されている。
この2酸化ケイ素は無色である。
【0012】
2酸化ケイ素は結晶質である人工水晶ではなくても、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等の非結晶質であるガラスの粒子であっても、ハロゲン化水素酸処理することにより、ソーラーセル材料として機能する。
【0013】
図3により、WO2011/049156号に記載された2酸化ケイ素ソーラーセルの構成の例を説明する。
【0014】
図3において1及び3はガラス基板であり、1方の面にFTO透明導電膜2が形成され、ガラス基板1側から光が入射する。9は2酸化ケイ素焼成体を粉砕した粒状体である。電解液は2酸化ケイ素粒状体9と共存しており、一般的には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられる。
【0015】
光入射側のガラス基板1のFTO層2には酸化亜鉛(ZnO),2酸化チタン(TiO)等のn型半導体層10が形成されている。
光入射側ではないガラス基板3のFTO層2には白金膜8が形成されている。
【0016】
n型半導体層10と白金膜8の間に0.15〜0.20mmの厚さでSiOを含むガラスと有機電解質を混合したソーラーセル材料9が封入されている。
【0017】
ソーラーセル材料9は、SiOを含むガラス等の粒を5%のフッ化水素酸水溶液に5分間浸漬し、水洗後に乾燥させ、粒径が0.2mm以下になるように粉砕したものを用いている。
【0018】
沃素系電解質は、LiIを0.1mol、Iを0.05mol,4−tert-ブチルピリジンを0.5mol,テトラブチルアンモニウムヨージドを0.5molアセトニトリル溶媒に添加したものである。
なお、4は封止材、7は抵抗器等の負荷である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−290748号公報
【特許文献2】特開2004−290747号公報
【特許文献3】国際公開公報WO2005/089941号
【特許文献4】国際公開公報WO2011/049156号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
この出願に係る発明は、2酸化チタンソーラーセルと2酸化ケイ素ソーラーセルを組み合わせることにより、優れた性能を発揮するソーラーセルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この出願に係る発明は、2酸化チタンソーラーセルと2酸化ケイ素ソーラーセルをタンデム構成で組みあわせ、あるいは2酸化チタンソーラーセルと2酸化ケイ素ソーラーセルを単一筐体内にタンデム構成で組みあわせ、2酸化チタンソーラーセル側の電極と2酸化ケイ素ソーラーセル側の電極とから出力を取り出す。
【0022】
また、2酸化ケイ素に2酸化チタンソーラーセルで増感色素として使用されるルテニウム錯体色素を吸着させる。
【0023】
光入射側ガラス板と対向するガラス板に代えて金属板を使用する。
【0024】
この出願に係る発明のさらなる特徴は以下のとおりである。
【0025】
(1)透明導電膜が形成された2枚のガラス基板が各々の透明導電膜を向かい合わせて配置し、ガラス基板の一方に2酸化チタン層を配置し、他方に2酸化ケイ素層を配置し、2枚のガラス基板の間に電解質を充填してタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0026】
(2)2酸化チタン層に増感色素を吸着させて、(1)のタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0027】
(3)2酸化ケイ素層に増感色素を吸着させて、(1)のタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0028】
(4)透明導電膜が形成されたガラス基板の透明導電膜と金属板を向かい合わせて配置し、ガラス基板に2酸化チタン層を配置し、金属板に2酸化ケイ素層を配置し、ガラス基板と金属板の間に電解質を充填してタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0029】
(5)2酸化チタン層に増感色素を吸着させて、(4)のタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0030】
(6)2酸化ケイ素層に増感色素を吸着させて、(4)のタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0031】
(7)透明導電膜が形成されたガラス基板の透明導電膜と金属板を向かい合わせて配置し、ガラス基板に2酸化ケイ素層を配置し、金属板に2酸化チタン層を配置し、ガラス基板と金属板の間に電解質を充填してタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0032】
(8)2酸化チタン層に増感色素を吸着させて、(7)のタンデム型ソーラーセルを構成する。
【0033】
(9)2酸化ケイ素層に増感色素を吸着させて、(7)のタンデム型ソーラーセルを構成する。
【発明の効果】
【0034】
2酸化ケイ素ソーラーセルは可視光〜赤外光によっても起電することが可能である。そのため、紫外光によって起電する2酸化チタンソーラーセルが起電に利用しない紫外光以外の光によっても起電する2酸化ケイ素ソーラーセルを組み合わせることによって、光、特に太陽光の利用率が大幅に高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】従来技術の2酸化チタンソーラーセルの構成の模式図。
図2】従来技術の色素増感2酸化チタンソーラーセルの構成の模式図。
図3】従来技術の2酸化ケイ素ソーラーセルの構成の模式図。
図4】先行技術の2酸化ケイ素ソーラーセルの構成の模式図。
図5】実施例1のソーラーセルの構成の模式図。
図6】実施例2のソーラーセルの構成の模式図。
図7】実施例3のソーラーセルの構成の模式図。
図8】実施例4のソーラーセルの構成の模式図。
図9】実施例5のソーラーセルの構成の模式図。
図10】実施例6のソーラーセルの構成の模式図。
図11】実施例7のソーラーセルの構成の模式図。
図12】実施例8のソーラーセルの構成の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図を用いて実施例を説明する。
【0037】
図4に本出願人が他の出願で開示した2酸化ケイ素ソーラーセルを説明する。
このソーラーセルは図3に示した2酸化ケイ素ソーラーセルを図1に示した2酸化チタンの構成に基づいて構成したものである。
【0038】
図4において、11は汎用のガラス板からなるガラス基板であり、一方の面にFTO等の透明導電膜12が形成され、光入射側面とされる。13は11と同様な汎用のガラス板からなるガラス基板であり、一方の面にFTO等の透明導電膜12が形成され、光出射側面とされる。ガラス基板11とガラス基板13は、双方の透明導電膜12が対向するように配置される。
【0039】
光入射側ガラス基板11の透明導電膜12に2酸化ケイ素粒子焼成体が配置されている。
2酸化ケイ素粒子はハロゲン化水素酸処理した結晶質人工水晶粒又は非結晶質ガラス粒を粒径が0.2mm以下、望ましくは500nm以下に粉砕された人工水晶粒子であり、2酸化ケイ素粒子焼成体はエタノールと混合して白金等の層が形成された透明導電膜12上に塗布し乾燥させた。
【0040】
2酸化ケイ素粒として、2酸化ケイ素の結晶質である水晶あるいは非結晶質である石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰等のガラス粒が使用可能であり、粗粉砕した2酸化ケイ素粒をフッ化水素酸水溶液に浸漬し、次いで水晶粒あるいはガラス粒を水洗後に乾燥し、その後微粉砕する。フッ化水素酸以外に塩化水素酸あるいは臭化水素酸がハロゲン化水素酸として用いられるが、フッ化水素酸が好ましい。
【0041】
2酸化ケイ素粒子の径は500nm以下の微粒子に限定されず、0.2mm程度の径であっても使用可能である。
【0042】
2枚のガラス基板11と13の間に電解質15が充填されている。
14は封止材であり、17は外部負荷である。
【0043】
電解質15には最も簡易には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられるが、この電解質は有色であるため、無色であることが必要なときには次に示す電解質が使用可能である。
【0044】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド:0.4M
テトラブチルアンモニウムアイオダイド:0.4M
4−t−ブチルピリジン:0.2M
グアニジウムイソチオシアネート:0.1M
をプロピレンカーボネート液として調製。
【0045】
この電解液は、I、Brなどのハロゲン分子の濃度が0.0004mol/l以下の場合には、可視光領域においてほぼ無色透明である。
【0046】
この他に、次の電解質も使用できる。
ヨウ化リチウム(LiI)0.5mol,金属ヨウ素(I)0.05molを分子量220のポリエチレングリコールを溶媒として調製したもの。
【0047】
さらに、次の電解質も使用できる。
ヨウ化リチウム(LiI)0.5mol,金属ヨウ素(I)0.05molをメトキシプロピオニトリルに溶かしたものに増粘剤を加え、さらに開放電圧とフィルファクターを向上させるため4−tert-butyl pyridineを添加したもの。
【0048】
最高値を得た電解質として次のものがある。
LiIとI,溶媒に3−メトキシプロピオニトリル,粘性を低くしイオンの拡散をスムーズにする常温溶融塩として1-propyl-2,3 dimethylimidazolium iodide,逆電流を防ぎ開放電圧を高める4-tert-butyl pyridineを所定比混合したもの。
【0049】
なお、無色透明であることを要求されない場合には濃度を下げた沃素係電解液等有色の電解液を用いることもできる。
無色の電解質として酢酸あるいはクエン酸等も使用できる。
【0050】
このソーラーセルの取り出し電極であるFTO層12−12間に取り出し線を取付け、光入射側ガラス基板1側から照射光源として蛍光灯により照度15,000〜19,000luxの光を照射し、取り出し電極の間の解放電圧及び短絡電流を計測した。
【0051】
ソーラーセル材料として、人工水晶,溶融石英ガラス,ソーダ石灰ガラス,無アルカリガラス,ホウケイ酸ガラスについて試験した。その結果は次のとおりである。
(1)人工水晶を用いたソーラーセルの解放電圧は35mV、短絡電流は0.5μAであった。
(2)溶融石英ガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は30mV、 短絡電流は0.5μAであった。
(3)ソーダ石灰ガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は15mV、 短絡電流は0.3μAであった。
(4)無アルカリガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は30mV、 短絡電流は0.4μAであった。
(5)ホウケイ酸ガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は14mV、 短絡電流は0.3μAであった。
【0052】
なお、フッ化水素酸処理をしていない2酸化ケイ素組成物でも、次に示す解放電圧及び短絡電流が得られた。
(1)人工水晶を用いたソーラーセルの解放電圧は3mV、短絡電流は0.1μAであった。
(2)溶融石英ガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は3mV、短絡電流は0.2μAであった。
(3)ソーダ石灰ガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は5mV、短絡電流は0.1μAであった。
(4)無アルカリガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は5mV、短絡電流は0.1μAであった。
(5)ホウケイ酸ガラスを用いたソーラーセルの解放電圧は12mV、短絡電流は0.2μAであった。
【0053】
これらの結果から、2酸化ケイ素は光電池としての機能を有しており、フッ化水素酸で処理することにより、光起電圧が著しく高くなることが把握される。
【0054】
処理に使用するハロゲン化水素酸を塩化水素酸とし、同様にLiIを0.1mol、Iを0.05mol,4−tert-ブチルピリジンを0.5mol,テトラブチルアンモニウムヨージドを0.5molアセトニトリル溶媒に添加した有機電解質を使用した時に得られた解放電圧は4mV、短絡電流は0.1μAであった。
【0055】
紫外領域の成分を含まない光源である300Wの白熱電球により、ほぼ直射日光に等しい照度で短絡電流を測定したところ、それぞれ400mVの解放電圧及び0.5μAの短絡電流が観測された。
【0056】
このことから、人工水晶ソーラーセルは紫外領域の成分を含まない光によっても起電するといえる。
【0057】
図1に示した2酸化チタンソーラーセルは太陽光中に4%しか含まれない波長が380nm以下の紫外光のみによって起電するため、太陽光の利用効率は最大でも4%、実際には1%がせいぜいである。
【0058】
また、利用可能な波長領域が狭い2酸化チタンソーラーセルの欠点を補うため、焼結多孔質2酸化チタンにルテニウム錯体色素を吸着させることにより利用可能な光の範囲を紫外光より波長が長い可視光領域まで拡げた色素増感ソーラーセルでも、起電する光は可視光の1部分にすぎないため、太陽光の利用効率は、理論的に30%、実際には最大で10%にすぎない。
【0059】
前に述べたように、紫外領域の成分を含まない光源である300Wの白熱電球により、ほぼ直射日光に等しい照度で短絡電流を測定したところ、それぞれ400mVの解放電圧及び0.5μAの短絡電流が観測されている。
【0060】
この2酸化ケイ素ソーラーセルの赤外線透過に対する影響を調べるためにこの2酸化ケイ素ソーラーセルと、このソーラーセルを構成する両側の2枚のFTOガラスとの光透過率を計測した結果を表1に示す。
この表1において上段の数字は透過率を、下段の括弧内の数字は遮断率である。
【0061】
【表1】
【0062】
この表に示されたように、2酸化ケイ素ソーラーセルは470nm以下の波長領域の光をほぼ100%遮断するのに対し、FTOガラスは289nm以下の波長領域の光をほぼ100%遮断するが、289nm〜470nmの波長領域の光は65%以上透過させる。
また、2酸化ケイ素ソーラーセルは800nmの波長の光を84.7%遮断するのに対し、FTOガラスの遮断率は15.7%に過ぎない。
このような赤外光の遮断と、白熱電球による起電を併せ考えると、2酸化ケイ素ソーラーセルは入射した赤外光によっても起電していると考えられる。
【0063】
以下に説明する実施例は、紫外光により起電する2酸化チタンソーラーセル、あるいは紫外光及び可視光により起電する色素増感2酸化チタンソーラーセルと可視光及び赤外光により起電する2酸化ケイ素ソーラーセルとを組み合わせることにより、太陽光等からの入射光のすべての波長領域の光によって起電することができる。
【実施例1】
【0064】
図5に示す実施例1は、2酸化チタンソーラーセルと2酸化ケイ素ソーラーセルを組み合わせた原理的なタンデム構成のソーラーセルである。
このタンデム構成のソーラーセルは、図1に示した従来技術の2酸化チタンソーラーセルと図4に示した先行技術の2酸化ケイ素ソーラーセルを直列に配置して構成したものである。
【0065】
上側に配置されたのは2酸化チタンソーラーセルであり、このソーラーセルにおいて11及び13は各々1方の面にFTO透明導電膜12が形成されたガラス基板であり、ガラス基板11側から光が入射する。16は多孔質2酸化チタン焼結体である。15は電解液であり、一般的には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられる。
なお、14は封止材、17は抵抗器等の負荷である。
【0066】
下側に配置されたのは2酸化ケイ素ソーラーセルであり、このソーラーセルにおいて11及び13は各々1方の面にFTO透明導電膜12が形成されたガラス基板であり、ガラス基板11側から光が入射する。18は2酸化ケイ素焼成体である。15は電解液であり、一般的には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられる。
なお、14は封止材、17は抵抗器等の負荷である。
【0067】
このタンデム構成のソーラーセルの2酸化チタンソーラーセルのガラス基板11側から紫外光、可視光及び赤外光を含む太陽光等が入射する。
【0068】
2酸化チタンソーラーセルにおいては、紫外光により2酸化チタンが起電し、紫外光は減衰して出射するが、可視光及び赤外光は吸収される以外はそのまま出射する。
【0069】
出射した減衰紫外光、可視光及び赤外光は2酸化ケイ素ソーラーセルのガラス基板11から入射する。
【0070】
2酸化ケイ素ソーラーセルにおいては、可視光及び赤外光により2酸化ケイ素が起電し、可視光及び赤外光も減衰して出射する。
【0071】
2酸化チタンを用いた複合ガラス板が起電する紫外光は2酸化ケイ素が起電する可視光・赤外光と比較してソーラーセル内を透過しにくいため、2酸化チタンソーラーセルは、光が入射する側に配置することが好ましい。
なお、2酸化ケイ素ソーラーセルを光が入射する側に配置することができることは言うまでもない。
【0072】
以下に説明する実施例の場合も同様であるが、2酸化チタン焼結体に増感色素を添加することが可能であることは言うまでもない。
【実施例2】
【0073】
図6により実施例2のタンデム型ソーラーセルを説明する。
実施例2のタンデム型ソーラーセルは、2酸化チタンを用いたソーラーセルと2酸化ケイ素を用いたソーラーセルを電解質を共通要素として1個の筐体に収納にしたものである。2酸化チタンが起電する紫外光は2酸化ケイ素が遮断・起電する可視光・赤外光と比較してソーラーセル中を透過しにくいため、光が入射する側のガラス基板に2酸化チタン層を配置する。
【0074】
図6において、11はガラス板からなるガラス基板であり、一方の面にFTO等の透明導電膜12が形成され、光入射側面とされる。13は11と同様な汎用のガラス板からなるガラス基板であり、一方の面にFTO等の透明導電膜12が形成され、光出射側面とされる。ガラス基板11とガラス基板13は、双方の透明導電膜12が対向するように配置される。
【0075】
光入射側ガラス基板11の透明導電膜12に2酸化チタン16が配置され、光出射側ガラス基板13の透明導電膜12に2酸化ケイ素18が配置されている。
なお、2酸化ケイ素18を光入射面側に配置し、2酸化チタン18を光出射側面に配置することができることは言うまでもない。
2枚のガラス基板11,13の間に電解質15が充填されている。
14は封止材、17は外部負荷であり、透明導電膜12,12に接続される。
【0076】
2酸化チタン16は、スパッタリング,化学的蒸着法(CVD),物理的蒸着法(PVD),ゾル−ゲル法,メッキ法,電解重合法,分子プレカーサー法等の手段により形成された2酸化チタン膜である場合と、焼結等の手段により固体化された2酸化チタン多孔質焼結体である場合とがある。
分子プレカーサー法の場合には機能向上のために、2酸化チタン粒子を別途添加することが望ましい。
【0077】
光入射側には2酸化チタンの他に、CuO,MgO,ZnO,SrTiO,窒化炭素、グラフェン等も使用可能である。
【0078】
2酸化ケイ素焼成体50の粒子は粒径が0.2mm以下、望ましくは500nm以下に粉砕された人工水晶粒子であり、エタノールと混合して白金等の層が形成された透明導電膜12上に塗布し乾燥させたものである。
【0079】
2酸化ケイ素粒として、2酸化ケイ素の結晶質である人工水晶あるいは非結晶質である石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰等のガラス粒が使用可能であり、粗粉砕した2酸化ケイ素粒をフッ化水素酸水溶液に浸漬し、次いで人工水晶粒あるいはガラス粒を水洗後に乾燥し、その後微粉砕する。フッ化水素酸以外に塩化水素酸がハロゲン化水素酸として用いられるが、フッ化水素酸が好ましい。
【0080】
人工水晶粒子あるいは他のガラス粒子はフッ化水素酸以外のハロゲン化水素酸、塩化水素酸あるいは臭化水素酸で処理することが可能である。
【0081】
電解質15には最も簡易には沃化カリウム水溶液に沃素を溶解した沃素系電解質が用いられるが、他の電解質も使用可能である。
【0082】
実施例1のソーラーセルと同様に以下の組成の電解質が有用である。
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド:0.4M
テトラブチルアンモニウムアイオダイド:0.4M
4−t−ブチルピリジン:0.2M
グアニジウムイソチオシアネート:0.1M
をプロピレンカーボネート液として調製。
【0083】
この電解液は、I、Brなどのハロゲン分子の濃度が0.0004mol/l以下の場合には、可視光領域においてほぼ無色透明である。
【0084】
この他に無色透明である酢酸あるいはクエン酸等も透明電解液として使用可能である。
【0085】
ソーラーシミュレータにより太陽常数である1kw/mの光を面積が1cm×1cmのタンデム型ソーラーセルに照射し、ソーラーセルとしての特性を測定したところ、348μAの短絡電流、620mVの開放電圧が得られた。
【0086】
タンデム型ソーラーセルの面積を2cm×2cmにしたところ、1.7990mAの短絡電流、570mVの開放電圧が得られ、従来のソーラーセルとは逆に面積が大きいものの方が大きな光−電気変換能を示した。
【0087】
なお、粒径が0.2mm以下の人工水晶粒子の場合には1cm×1cmの場合、20μAの短絡電流、417mVの開放電圧が得られた。
【0088】
なお、2酸化ケイ素側から照射した場合と2酸化チタン側から照射した場合との間で大きな差は認められなかった。
【0089】
実施例では光入射側に2酸化チタンを使用しているが、酸化亜鉛等他の適宜な材料が選択可能である。
【実施例3】
【0090】
図7に示す実施例3のタンデム型ソーラーセルは、実施例2のタンデム型ソーラーセルの2酸化チタン16に加えて、2酸化チタン粒19を用いたタンデム型ソーラーセルである。
【0091】
2酸化チタン粒は、2酸化チタン16上に散布した後全体を焼成する等の手段により固定される。
【0092】
その他の構成及び変形構成は実施例2のタンデム型ソーラーセルと異なる点はないので、さらなる説明は省略する。
【実施例4】
【0093】
図8に示す実施例3のタンデム型ソーラーセルは、実施例2のタンデム型ソーラーセルの2酸化ケイ素18にルテニウム錯体等の増感色素を吸着させている。
【0094】
その他の構成及び変形構成は実施例2のタンデム型ソーラーセルと異なる点はないので、さらなる説明は省略する。
【0095】
2酸化ケイ素は、フッ化水素酸で処理した粒径が500nm以下の人工水晶微粒子にルテニウム増感色素を吸着が吸着させ、エタノールを溶媒として白金粉末を混合してFTO膜2上に塗布し焼成したものである。
【0096】
増感色素を吸着した2酸化ケイ素起電体と焼結多孔質2酸化チタン起電体が入射光に対して直列に配置された実施例4のタンデム型ソーラーセルにおいて、2酸化ケイ素起電体は可視光より長波長の光で起電し、紫外線は透過する。増感色素は可視光領域の光で起電し、焼結多孔質2酸化チタン起電体が2酸化ケイ素起電体を透過した紫外光により起電する。このように、実施例4のタンデム型ソーラーセルは広範な波長領域の光を有効に利用して起電することができる。
【0097】
2酸化ケイ素粉末と白金粉末との焼成体はルテニウム錯体増感色素の吸着量が多くはないため、2酸化チタンの場合よりも着色は少ない。
そのため、電解質を無色透明なものとした場合には、全体の着色は非常に少ない。
【実施例5】
【0098】
ソーラーセルを窓ガラスとして使用せず、屋根等に設置する場合には対電極が透明である必要はなく、対電極を金属板とすれば、ソーラーセルの強度が増すとともに、構造も簡素になる。
図9に示したのは図3に示した従来技術のソーラーセルの対電極を金属板としたソーラーセルである。
【0099】
実施例5のソーラーセルが従来技術のソーラーセルと異なるのは、対電極がFTOガラス2及びガラス基板3から金属板21に変更された点のみであるので、さらなる説明は省略する。
【0100】
金属板21としては、アルミニウム、銀、ニッケル等が採用されるが、電解液に対する耐食性を考慮する場合には、合金あるいは複合材が用いられる。
【実施例6】
【0101】
図10に示した実施例6のソーラーセルは、図4に示した先行技術の2酸化ケイ素ソーラーセルのFTOガラス2及びガラス基板3を金属板21に変更した点のみであるので、さらなる説明は省略する。
【実施例7】
【0102】
図11に示した実施例7のソーラーセルは、図5に示した実施例1のタンデム型ソーラーセルの2酸化ケイ素ソーラーセルのFTO膜12及びガラス基板13を金属板21に変更した点のみであるので、さらなる説明は省略する。
【実施例8】
【0103】
図12に示した実施例8のソーラーセルは、図6に示した実施例2のタンデム型ソーラーセルのFTO膜12及びガラス基板13を金属板21に変更した点のみであるので、さらなる説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
2酸化ケイ素を用いたソーラーセルと2酸化チタンソーラーセルを組み合わせたタンデム型ソーラーセルは紫外光から赤外光に及ぶ広範囲の光による起電が可能であり、エネルギー問題の解決にきわめて有効である。
【符号の説明】
【0105】
1,3,11,13 ガラス基板
2,12 FTO透明導電膜
4,14 封止材
5,15 電解液
6 2酸化チタン膜
8 増感色素添加2酸化チタン多孔質焼結体
16 2酸化チタン
18 2酸化ケイ素
21 金属板
図1
図2
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図4
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図6
図7
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図10
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図12