特許第6227743号(P6227743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227743
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20171030BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20171030BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20171030BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   B32B27/00 Z
   C08J7/04 E
   C09D201/00
   B32B7/02 103
【請求項の数】2
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2016-211304(P2016-211304)
(22)【出願日】2016年10月28日
(62)【分割の表示】特願2014-558294(P2014-558294)の分割
【原出願日】2013年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-94723(P2017-94723A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年11月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-13092(P2013-13092)
(32)【優先日】2013年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】山手 太軌
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/139476(WO,A1)
【文献】 特開2011−201087(JP,A)
【文献】 特開2003−080624(JP,A)
【文献】 特開昭61−261374(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0197876(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 101/00−201/10
B32B 27/00− 27/42
C08F 2/00− 2/60
C08J 7/00− 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
Aは、
【化2】
(Rは、電子供与性基を表し、aは、0〜5の整数、a’は、0〜7の整数を表す。)
Zは、炭素原子またはケイ素原子、
は、水素原子、水酸基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルキル基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルコキシ基、C3〜C6の環状アルキル基、またはC3〜C6の環状アルコキシ基、
Xは、
Zが炭素原子の場合、
単結合;
酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、C3〜C6の2価の脂肪族環基、C6〜C10のアリーレン基、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基;
C3〜C10の2価の脂肪族環基;
またはC6〜C10のアリーレン基、
Zがケイ素原子の場合、
酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基;
Yは、重合可能な官能基、
nは2または3の整数、
mは1または2の整数、
lは0または1の整数であり、n+m+l=4である。
nが2または3の整数の場合、Aは、同一でも相異なっていてもよい。]
で表される化合物の重合体を含有するコーティング層をプラスチック基材上に直接設けたことを特徴とする成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の成形体上に、さらに機能性を有する積層膜を設けたことを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコーティング剤、特に、プラスチック基材との密着性に優れるコーティング剤に関する。
本願は、2013年1月28日に出願された日本国特許出願第2013−013092号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
アリール基を有する化合物は、透明性と高屈折率を有するポリマー(光学材料)を与えるモノマーとして知られている。例えば、特許文献1、2にはトリフェニルシリル基を有する化合物がレンズ、プリズム等の光学材料として使用できることが記載されている。また、特許文献3には4個のフェニル基を有する化合物が光学素子に使用できることが記載されている。
しかしながら、これらの化合物を含有したコーティング剤がプラスチック基材との密着性に優れるということは知られてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−145310号公報
【特許文献2】特開昭63−145287号公報
【特許文献3】WO2009/139476号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック基材との密着性に優れ、透明性と高屈折率を有する層を形成することができるコーティング剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決のために鋭意検討の結果、式(I)で表される化合物が、プラスチック基材との密着性に優れた層を形成するコーティング剤を与えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)式(I)
【0007】
【化1】
【0008】
[式中、
Aは、
【0009】
【化2】
【0010】
(Rは、電子供与性基を表し、aは、0〜5の整数、a’は、0〜7の整数を表す。)
Zは、炭素原子またはケイ素原子、
は、水素原子、水酸基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルキル基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルコキシ基、C3〜C6の環状アルキル基、またはC3〜C6の環状アルコキシ基、
Xは、単結合;
酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、C3〜C6の2価の脂肪族環基、C6〜C10のアリーレン基、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基;
C3〜C10の2価の脂肪族環基;
またはC6〜C10のアリーレン基、
Yは、重合可能な官能基、
nは2または3の整数、
mは1または2の整数、
lは0または1の整数であり、n+m+l=4である。
nが2または3の整数の場合、Aは、同一でも相異なっていてもよい。]
で表される化合物を含有するコーティング剤。
【0011】
(2)式(I)
【0012】
【化3】
【0013】
[式中、
Aは、
【0014】
【化4】
【0015】
(Rは、電子供与性基を表し、aは、0〜5の整数、a’は、0〜7の整数を表す。)
Zは、炭素原子またはケイ素原子、
は、水素原子、水酸基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルキル基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルコキシ基、C3〜C6の環状アルキル基、またはC3〜C6の環状アルコキシ基、
Xは、単結合;
酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、C3〜C6の2価の脂肪族環基、C6〜C10のアリーレン基、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基;
C3〜C10の2価の脂肪族環基;
またはC6〜C10のアリーレン基、
Yは、重合可能な官能基、
nは2または3の整数、
mは1、
lは0または1の整数であり、n+m+l=4である。
nが2または3の整数の場合、Aは、同一でも相異なっていてもよい。]
で表される化合物を含有するコーティング剤。
【0016】
(3)式(I)
【0017】
【化5】
【0018】
[式中、
Aは、
【0019】
【化6】
【0020】
(Rは、電子供与性基を表し、aは、0〜5の整数、a’は、0〜7の整数を表す。)
Zは、炭素原子またはケイ素原子、
は、水素原子、水酸基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルキル基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルコキシ基、C3〜C6の環状アルキル基、またはC3〜C6の環状アルコキシ基、
Xは、単結合;
酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、C3〜C6の2価の脂肪族環基、C6〜C10のアリーレン基、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基;
C3〜C10の2価の脂肪族環基;
またはC6〜C10のアリーレン基、
Yは、重合可能な官能基、
nは3、
mは1、
lは0である。
Aは、同一でも相異なっていてもよい。]
で表される化合物を含有するコーティング剤。
【0021】
(4)式(I)で表される化合物を含有するコーティング剤がさらに金属化合物を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【0022】
(5)金属化合物がジルコニアであることを特徴とする上記(4)に記載のコーティング剤。
【0023】
(6)式(I)で表される化合物を含有するコーティング剤が更に式(II)
Si(R (II)
(式中、RはC2〜C8のアルケニル基、C6〜C10のアリール基、又はエポキシ基、グリシジルオキシ基若しくは(メタ)アクリロキシ基で置換されていても良いC1〜C30のアルキル基を表し、Rは水酸基又は加水分解性基である)で表される有機シラン化合物の縮合物を含有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のコーティング剤。
【0024】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のコーティング剤を基材上にコーティングし、前記コーティング剤を硬化させた層を直接設けたことを特徴とする成形体。
【0025】
(8)基材がプラスチック基材であることを特徴とする上記(7)に記載の成形体。
【0026】
(9)上記(7)または(8)の成形体上に、さらに機能性を有する積層膜を設けたことを特徴とする成形体。
【0027】
(10)機能性を有する積層膜が、酸化インジウムスズ膜であることを特徴とする上記(9)に記載の成形体に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によればプラスチック基材、特にシクロオレフィンポリマー基材への密着性に優れる高屈折率の層を形成するコーティング剤を提供することができる。また、前記コーティング剤に有機シラン化合物の縮合物を含有する場合は、有機無機複合膜又はその形成用組成物として利用できる。また、本発明のコーティング剤により形成された層は、密着性に優れ、本層を接着層、中間層として用いることができる。従来、プラスチック基材に直接コーティングすることができなかった機能性膜を本発明の膜を介して積層させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1 コーティング剤
(式(I)化合物)
本発明のコーティング剤は、以下の式(I)で表される化合物を含有する。式(I)で表わされる化合物は一種のみであってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0030】
式(I)
【0031】
【化7】
【0032】
式中、Aは、
【0033】
【化8】
【0034】
(Rは、電子供与性基を表し、aは、0〜5の整数、a’は、0〜7の整数を表す。)
Zは、炭素原子またはケイ素原子、
は、水素原子、水酸基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルキル基、直鎖若しくは分岐のC1〜C6のアルコキシ基、C3〜C6の環状アルキル基、またはC3〜C6の環状アルコキシ基、
Xは、単結合;
酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、C3〜C6の2価の脂肪族環基、C6〜C10のアリーレン基、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基;
C3〜C10の2価の脂肪族環基;
またはC6〜C10のアリーレン基、
Yは、重合可能な官能基、
nは2または3の整数、
mは1または2の整数、
lは0または1の整数であり、n+m+l=4である。
nが2または3の整数の場合、Aは、同一でも相異なっていてもよい。
【0035】
の電子供与性基としては、水酸基、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、C1〜C6のアルキルチオ基、C6〜C10のアリール基、C6〜C10のアリールオキシ基が挙げられる。
【0036】
の電子供与性基を具体的に例示すると以下のとおりである。
「C1〜C6のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
「C1〜C6のアルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキトキシ基等が挙げられる。
「C1〜C6のアルキルチオ基」としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基等が挙げられる。
「C6〜C10のアリール基」としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
「C6〜C10のアリールオキシ基」としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。
【0037】
Xの置換基を具体的に例示すると以下のとおりである。
「C1〜C20のアルキレン基」は、二価の炭素鎖であり、たとえば、メチレン鎖、ジメチレン鎖、トリメチレン鎖、メチルジメチレン鎖、テトラメチレン鎖、1,2−ジメチルジメチレン鎖、ペンタメチレン鎖、1−メチルテトラメチレン鎖、2−メチルテトラメチレン鎖、ヘキサメチレン鎖、オクタメチレン鎖、デカメチレン鎖、イコサメチレン基等が挙げられる。
−NR−中のRの「C1〜C6のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
「C3〜C6の2価の脂肪族環基」としては、1,1−シクロプロピレン基、1,2−シクロプロピレン基、1,2−シクロブチレン基、1,3−シクロブチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基等が挙げられる。
「C6〜C10のアリーレン基」としては、1,2−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基等が挙げられる。
酸素原子、硫黄原子、セレン原子は、たとえば、酸素原子の場合、−O−及び−CO−の場合を包含する。
【0038】
「酸素原子、硫黄原子、セレン原子、−NR−(式中、Rは水素原子またはC1〜C6のアルキル基を表す。)、C3〜C6の2価の脂肪族環基、C6〜C10のアリーレン基、アミド構造若しくはウレタン構造を含んでいてもよいC1〜C20のアルキレン基」であるXとして具体的には、以下が挙げられる。
【0039】
【化9】
【0040】
【化10】
【0041】
上記構造中、
【0042】
【化11】
【0043】
で表される構造が好ましい。
【0044】
【化12】
【0045】
【化13】
【0046】
上記構造中、
【0047】
【化14】
【0048】
で表される構造が好ましい。
【0049】
【化15】
【0050】
ここで、R、Rは、電子供与性基を表し、水酸基、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、C1〜C6のアルキルチオ基、C6〜C10のアリール基、C6〜C10のアリールオキシ基が挙げられる。
【0051】
、Rの電子供与性基を具体的に例示すると以下のとおりである。
「C1〜C6のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
「C1〜C6のアルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキトキシ基等が挙げられる。
「C1〜C6のアルキルチオ基」としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基等が挙げられる。
「C6〜C10のアリール基」としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
「C6〜C10のアリールオキシ基」としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。
【0052】
また、a’’、a’’’は、独立して0〜4の整数であり、好ましくは0あるいは1であり、
n1は1〜20の整数であり、好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数である。
n2は、1〜10の整数であり、好ましくは1〜5の整数であり、より好ましくは1〜2の整数である。
n3とn4は、独立して1〜10の整数であり、好ましくは1〜5の整数である。
m1は、0または1の整数である。
【0053】
Yの重合可能な官能基としては、−O−CO−(O)m2−CR=CH(但し、式中、m2は0又は1、Rは水素原子又はメチル基を表す。)、−CH=CH、アリルオキシ基、アリルオキシカルボニルオキシ基、エポキシ基、または、
【0054】
【化16】
【0055】
などの、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイソシアネート若しくはポリカーボネートを形成するために用いられる官能基等が挙げられる。
【0056】
本発明の式(I)で表される化合物を具体的に示すと、以下のものが例示される。
【0057】
【化17】


【0058】
本発明の式(I)で表される化合物は、公知の方法により製造できるが、例えば特開昭63−145287号公報、WO2009/139476号パンフレットなどに記載の方法により製造することができる。
【0059】
具体的には以下のとおりである。
1)3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリフェニルシラン、3−アリルオキシカルボニルオキシプロピルトリフェニルシランの場合
市販のトリフェニルシランと酢酸アリルとの付加体をアルカリで加水分解して得た3−ヒドロキシプロピルトリフェニルシランに(メタ)アクリル酸クロリド又はクロルギ酸アリルを、ピリジン、トリエチルアミンなどの脱塩酸剤の存在下に夫々反応させることにより製造される。
2)3−アリルオキシプロピルトリフェニルシランの場合
市販のトリフェニルシランをジアリルエーテルに付加させて製造される。
3)3−アクリロイルオキシエチルオキシテトラフェニルシランの場合
下記に示す方法に従い製造される。
【0060】
【化18】
【0061】
上記式において、TIPSはトリイソプロピルシリル基を示す。
【0062】
(その他の成分)
その他の共重合性化合物
また、式(I)で表わされる化合物以外のその他の共重合性化合物を含んでいてもよい。
【0063】
式(I)で表わされる化合物以外のその他の共重合性化合物は、融点、粘度または屈折率などの調整目的に応じて適宜選定すればよく、特に限定されるものではないが、たとえば、以下のものが挙げられる。
【0064】
メチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ブロモフェニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアネート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリルエステル類、スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等の芳香族オレフィン類等が挙げられる。
【0065】
全重合性化合物に含まれる式(I)の化合物の割合は、30mol%以上とすることが好ましく、50mol%以上とすることがより好ましい。
【0066】
重合開始剤
また、本発明のコーティング剤は、重合開始剤を含んでいてもよい。ここで、重合反応としては、光重合反応や熱重合反応などが挙げられるが、プラスチック基材への熱的影響を考慮しないで済む光重合反応の方が好ましい。光重合反応に用いる光線としては、紫外線または可視光線が挙げられるが、重合速度が速いことから紫外線が好ましい。
【0067】
光重合開始剤としては、(a)光照射によりカチオン種を発生させる化合物及び(b)光照射により活性ラジカル種を発生させる化合物等を挙げることができる。
【0068】
光照射によりカチオン種を発生させる化合物としては、例えば、カチオン部分が、スルホニウム、ヨードニウム、ジアゾニウム、アンモニウム、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Feカチオンであり、アニオン部分が、BF、PF、SbF、[BX(ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)で構成されるオニウム塩が挙げられる。
【0069】
具体的に、スルホニウム塩としては、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビステトラフルオロボレート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム テトラフルオロボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0070】
ヨードニウム塩としては、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウム テトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム テトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0071】
ジアゾニウム塩としては、フェニルジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウム テトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0072】
アンモニウム塩としては、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロアンチモネート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0073】
(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe塩としては、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロアンチモネート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラフルオロボレート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0074】
光照射により活性ラジカル種を発生させる化合物としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0075】
熱重合開始剤は、加熱によりラジカルを発生する化合物のことを指し、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物及びレドックス開始剤等が挙げられる。
上記有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルマレエートのようなペルオキシド;1,6ビス(t−ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン等のパーオキシカーボネート;パーオキシケタール;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等が挙げられる。
【0076】
上記アゾ化合物としては、2,2'−アゾビスプロパン、2,2'−ジクロロ−2,2'−アゾビスプロパン、1,1'−アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2'−アゾビスイソブタン、2,2'−アゾビスイソブチルアミド、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2'−アゾビス−2−メチルプロピオン酸メチル、2,2'−ジクロロ−2,2'−アゾビスブタン、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、3,5−ジヒドロキシメチルフェニルアゾ−2−メチルマロノジニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸ジメチル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等を挙げることができる。
【0077】
上記レドックス開始剤としては、例えば過酸化水素−鉄(II)塩、有機化酸化物−ジメチルアニリン、セリウム(IV)塩−アルコール等の組み合わせを挙げることができる。
【0078】
本発明において用いられる重合開始剤の配合量は、全重合性化合物の総量に対して、0.01〜20質量%配合することが好ましく、0.1〜10質量%が、さらに好ましい。
【0079】
なお、本発明においては、必要に応じて増感剤を添加することができる。例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミン及び4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が使用できる。
【0080】
(その他の成分)
また、本発明のコーティング剤には、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で、有機シラン化合物の縮合物、金属化合物、有機溶剤、紫外線吸収剤、染料、防錆剤、防腐剤などの添加成分を配合することができる。
【0081】
有機シラン化合物の縮合物
本発明のコーティング剤には、有機無機層を積層することを目的として、有機シラン化合物の縮合物を含有することができる。これによって、基材と接着性のよい有機無機複合膜を形成することができる。
【0082】
有機シラン化合物の縮合物は、式(II)で表される有機シラン化合物を公知のシラノール縮合の方法を用いて製造することができる。
【0083】
Si(R (II)
【0084】
式中、RはC2〜C8のアルケニル基、C6〜C10のアリール基、又はエポキシ基、グリシジルオキシ基若しくは(メタ)アクリロキシ基で置換されていても良いC1〜C30のアルキル基を表し、Rは水酸基又は加水分解性基を表す。
におけるC2〜C8のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−プロペニル基等が挙げられる。
C1〜C30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、パルミチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基等が挙げられる。
C6〜C10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0085】
の加水分解性基とは、例えば、無触媒、過剰の水の共存下、25℃〜100℃で加熱することにより、加水分解されてシラノール基を生成することができる基や、シロキサン縮合物を形成することができる基を意味し、具体的には、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基等を挙げることができ、炭素数1〜4のアルコキシ基又は炭素数1〜6のアシルオキシ基が好ましい。
【0086】
ここで、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられ、炭素数1〜6のアシルオキシ基としては、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。ハロゲンとしてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0087】
また、本発明において使用される式(II)で表わされる有機シラン化合物は、そのFedorsの推算法により求められた溶解パラメータ(SP1)が、Fedorsの推算法により求められた式(I)で表される化合物の溶解パラメータ(SP2)よりも小さく、かつ、その差が1.6以上の基であることが好ましい。
SP1がSP2より小さく、かつ、その差が1.6以上の場合は、塗膜表面に無機成分が偏析しやすいという利点がある。
ここで、溶解パラメータ(SP値)とは、以下のFedorsの推算法に基づき計算されるものである。
Fedorsの式:SP値(δ)=(E/v)1/2=(ΣΔe/ΣΔv1/2
:蒸発エネルギー
v:モル体積
Δe:各成分の原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δv:各原子又は原子団のモル体積
【0088】
上記の式の計算に使用する各原子又は原子団の蒸発エネルギー、モル体積はR. F. Fedors, Polym. Eng. Sci., 14, 147 (1974)を参照することができる。
【0089】
式(I)で表わされる化合物及び式(II)で表わされる有機ケイ素化合物の溶解パラメータ(SP値)はFedorsの推算法に基づき計算することができるから、あらかじめ計算されたSP値を基に、式(I)で表わされる化合物及び式(II)で表わされる有機ケイ素化合物の組み合わせを決定することができる。
【0090】
例えば、式(I)で表わされる化合物として、3−アクリロイルオキシプロピルトリフェニルシラン(SP値:10.21)を用いる場合、SP値がトリフェニルシラン化合物のSP値より1.6以上小さい有機シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランなど(これらはいずれもSP値が8.61以下である)が挙げられる。
【0091】
式(I)で表される化合物(および、存在するならばその他の共重合性化合物)と式(II)で表される有機シラン化合物の縮合物との層中の質量比は、99:1〜55:45が好ましい。
【0092】
シラノール縮合触媒としては、式(II)で表される化合物中の加水分解性基を加水分解し、シラノールを縮合してシロキサン結合とするものであれば特に制限されず、有機金属、有機酸金属塩、金属水酸化物、酸、塩基、金属キレート化合物、それらの加水分解物、及びそれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。シラノール縮合触媒は1種単独、又は、2種以上の組合せで使用することができる。
【0093】
有機金属としては、例えば、テトラメチルチタン、テトラプロピルジルコニウム等のアルキル金属化合物;金属プロポキシド、金属イソプロポキシド、金属n−ブトキシド、具体的にはテトライソプロポキシチタン、テトラブトキシジルコニウム等の金属アルコラート等が挙げられる。
【0094】
有機酸金属塩は、金属イオンと有機酸から得られる塩からなる化合物であり、有機酸としては、酢酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸等のカルボン酸類;スルフォン酸、スルフィン酸等の含硫黄有機酸;フェノール化合物;エノール化合物;オキシム化合物;イミド化合物;芳香族スルフォンアミド;等の酸性を呈する有機化合物が挙げられる。具体的にはカルボン酸金属塩、スルフォン酸金属塩、フェノール金属塩等が挙げられる。
【0095】
金属水酸化物は、陰イオンとして水酸化物イオンをもつ金属化合物である。
【0096】
金属キレート化合物としては、水酸基若しくは加水分解性基を有する金属キレート化合物であることが好ましく、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有する金属キレート化合物であることがより好ましい。なお、2以上の水酸基若しくは加水分解性基を有するとは、加水分解性基及び水酸基の合計が2以上であることを意味する。加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基が挙げられ、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が好ましい。
【0097】
また、前記金属キレート化合物としては、β−ケトカルボニル化合物、β−ケトエステル化合物、及びα−ヒドロキシエステル化合物が好ましく、具体的には、アセト酢酸メチル、アセト酢酸n−プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n−ブチル、アセト酢酸sec−ブチル、アセト酢酸t−ブチル等のβ−ケトエステル類;アセチルアセトン、へキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、ヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、ノナン−2,4−ジオン、5−メチル−へキサン−2,4−ジオン等のβ−ジケトン類;グリコール酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸等が配位した化合物が挙げられる。
【0098】
また、これら有機金属、有機酸金属塩、金属水酸化物、金属キレート化合物における金属としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、鉛(Pb)等が挙げられ、これらの中でもチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)が好ましく、特にチタン(Ti)が好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上用いることもできる。
【0099】
酸としては、有機酸、鉱酸が挙げられ、具体的には例えば、有機酸としては酢酸、ギ酸、シュウ酸、炭酸、フタル酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等、鉱酸としては、塩酸、硝酸、ホウ酸、ホウフッ化水素酸等が挙げられる。
ここで、光照射によって酸を発生する光酸発生剤、具体的には、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等も酸に包含される。
【0100】
塩基としては、テトラメチルグアニジン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等の強塩基類;有機アミン類、有機アミンのカルボン酸中和塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0101】
シラノール縮合触媒の配合比は、有機シラン化合物の質量に対して、1:99〜99:1、好ましくは1:99〜50:50である。
【0102】
金属化合物
本発明のコーティング剤には、形成される層の屈折率や硬度をあげることを目的として、金属化合物を添加することができる。金属化合物としては、前述の有機シラン化合物や、シラノール縮合触媒として例示された有機金属、有機酸金属塩、金属水酸化物、金属キレート化合物が挙げられるが、それら以外の金属化合物としては、金属酸化物が挙げられ、具体的には、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化コバルトの金属酸化物粒子等が挙げられる。特に酸化ジルコニウムが好ましい。
粒子の形状としては、球状、多孔質粉末、鱗片状、繊維状等が挙げられるが、多孔質粉末状であることがより好ましい。
また、本発明の金属酸化物粒子としては、コロイド状金属酸化物粒子も使用できる。具体的には、コロイド状シリカ、コロイド状ジルコニウムを挙げることができ、水分散コロイド状、あるいはメタノールもしくはイソプロピルアルコールなどの有機溶媒分散コロイド状の金属酸化物粒子を挙げることができる。
【0103】
有機溶媒
本発明のコーティング剤には、有機溶媒を含むことができる。使用可能な代表的有機溶媒としては、エーテル系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、ケトン系、有機ハロゲン化物系などがあるが、中でも安全性などの点から、エーテル系、エステル系、脂肪族炭化水素系が好ましい。エーテル系の具体的化合物としてはジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、エステル系の具体的化合物としてはエチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、アミルアセテート、ヘプチルアセテート、エチルブチレート、イソアミルイソバリレート、脂肪族系炭化水素系の具体的化合物としてはノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、シクロヘキサン、芳香族系の具体的化合物としてはトルエン、キシレン、ケトン系の具体的化合物としてはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、有機ハロゲン化物系の具体的化合物としてはトリクロロエタン、トリクロロエチレンなどが挙げられる。さらには、プロピレングリコールモノメチルエーテルやプロピレングリコールモノエチルエーテルなどの比較的非活性な溶剤も使用可能である。中でも、本発明が自然環境下の開放系で用いられることが多いことを考慮すると、芳香性を有するプロピルアセテート、ブチルアセテート、イソアミルアセテート、ヘプチルアセテート、エチルブチレート、イソアミルイソバリレートなどのエステル系を含んでなる溶剤が好ましい。
【0104】
2 成形体
本発明の成形体は、プラスチック基材上に上記式(I)で表される化合物を含有するコーティング剤をコーティングし、前記コーティング剤を硬化させた層を直接設けたものである。
【0105】
(基材)
本発明のコーティング剤が使用できる基材としては、プラスチック基材が好ましく、例えば、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリエーテルスルフォンが挙げられるが、特に、シクロオレフィン樹脂が好適に用いられる。
【0106】
(コーティング層の形成)
1)コーティング剤の調製
本発明におけるコーティング剤は、通常、有機溶媒中に前記式(I)で表される化合物のほか、必要に応じて、前記有機シラン化合物の縮合物、光重合開始剤、金属化合物等を混合して調製される。
なお、有機シラン化合物の縮合物を含有する場合は、有機無機複合膜又はその形成用組成物とも言う。
【0107】
用いる溶媒としては、前述の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0108】
また、得られる塗膜の硬度向上を目的として4官能シランやコロイド状シリカを添加することもできる。4官能シランとしては、例えば、テトラアミノシラン、テトラクロロシラン、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラベンジロキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラ(メタ)アクリロキシシラン、テトラキス[2−(メタ)アクリロキシエトキシ]シラン、テトラキス(2−ビニロキシエトキシ)シラン、テトラグリシジロキシシラン、テトラキス(2−ビニロキシブトキシ)シラン、テトラキス(3−メチル−3−オキセタンメトキシ)シランを挙げることができる。また、コロイド状シリカとしては、水分散コロイド状シリカ、メタノールもしくはイソプロピルアルコールなどの有機溶媒分散コロイド状シリカを挙げることができる。
【0109】
また、得られる塗膜の着色、厚膜化、下地への紫外線透過防止、防蝕性の付与、耐熱性などの諸特性を発現させるために、別途、充填材を添加・分散させることも可能である。この充填材としては、例えば有機顔料、無機顔料などの非水溶性の顔料または顔料以外の粒子状、繊維状もしくは鱗片状の金属および合金ならびにこれらの酸化物、水酸化物、炭化物、窒化物、硫化物などが挙げられる。この充填材の具体例としては、粒子状、繊維状もしくは鱗片状の鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、銀、亜鉛、フェライト、カーボンブラック、ステンレス鋼、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、合成ムライト、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、クレー、ケイソウ土、消石灰、石膏、タルク、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、雲母、亜鉛緑、クロム緑、コバルト緑、ビリジアン、ギネー緑、コバルトクロム緑、シェーレ緑、緑土、マンガン緑、ピグメントグリーン、群青、紺青、岩群青、コバルト青、セルリアンブルー、ホウ酸銅、モリブデン青、硫化銅、コバルト紫、マルス紫、マンガン紫、ピグメントバイオレット、亜酸化鉛、鉛酸カルシウム、ジンクエロー、硫化鉛、クロム黄、黄土、カドミウム黄、ストロンチウム黄、チタン黄、リサージ、ピグメントエロー、亜酸化銅、カドミウム赤、セレン赤、クロムバーミリオン、ベンガラ、亜鉛白、アンチモン白、塩基性硫酸鉛、チタン白、リトポン、ケイ酸鉛、酸化ジルコン、タングステン白、鉛亜鉛華、バンチソン白、フタル酸鉛、マンガン白、硫酸鉛、黒鉛、ボーンブラック、ダイヤモンドブラック、サーマトミック黒、植物性黒、チタン酸カリウムウィスカー、二硫化モリブデンなどを挙げることができる。
【0110】
その他、オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、テトラエトキシシランなどの公知の脱水剤、各種界面活性剤、前記以外のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、染料、分散剤、増粘剤、レベリング剤などの添加剤を添加することもできる。
【0111】
本発明におけるコーティング層形成用溶液中の固形分としては、1〜90質量%であることが好ましく、5〜60質量%であることがより好ましい。
【0112】
2)コーティング層の形成
本発明のコーティング層は、光重合開始剤を使用する場合には、(A)上述したコーティング剤を基体上に塗布し、乾燥する工程、(B)紫外線を含む光を照射し、コーティング剤を硬化する工程を経ることにより製造できる。熱重合開始剤を使用する場合は、上記(B)工程として光を照射する代わりに加熱すればよい。
【0113】
本発明におけるコーティング膜は上記(B)工程を経ることで、式(I)で表わされる化合物の重合が行われ、さらに、式(II)で表わされる有機シラン化合物の縮合物を含有する場合は、膜表面部の炭素原子含有量が膜の内部(基材との接合部付近)の炭素原子含有量に比して少ない構成となり、膜表面にシラン化合物の縮合物の濃縮層を形成することができる。
【0114】
コーティング剤の塗布方法としては、公知の塗布方法を用いることができ、例えば、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スピンコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法、シルクスクリーン法、インクジェット法等を挙げることができる。また、形成する膜厚としては、特に制限されるものではなく、例えば、0.1〜200μm程度である。
【0115】
コーティング剤を塗布して形成した層の乾燥処理としては、例えば、40〜200℃で、0.5〜120分程度行うことが好ましく、60〜120℃で、1〜60分程度行うことがより好ましい。
【0116】
紫外線の照射は、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーランプ等の公知の装置を用いて行うことができる。
【0117】
(機能性の積層膜)
本発明のコーティング剤を使用して形成した層の上に機能性の積層膜を設けることができる。
本発明のコーティング剤を使用して形成した層は、非常にプラスチック基材と密着性がよいため、本層を接着層、中間層として用いることができる。従来、プラスチック基材に直接コーティングすることができなかった機能性膜を本発明の膜を介して積層させることができる。複数層を積層することができ、また、本発明のコーティング剤を複数層上にさらにコーティングし、さらに積層することもできる。
【0118】
機能性の積層膜としては、透明導電膜やガスバリア膜が挙げられる。
透明導電膜としては、スズがドープされた酸化インジウム膜(ITO膜)、フッ素がドープされた酸化スズ膜(FTO膜)、アンチモンがドープされた酸化亜鉛膜やインジウムがドープされた酸化亜鉛膜等が挙げられる。
ガスバリア膜は、酸素、水蒸気等のガスバリア性を有する限り特に制限はないが、好ましくは、無機化合物の薄膜であり、特に、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タンタル、亜鉛、タングステン及び鉛から成る群より選ばれた金属元素を有する金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物又はそれらの複合物の薄膜が好ましい。
【0119】
これらの機能性積層膜の厚さは、通常10〜300nm、好ましくは10〜200nm、より好ましくは10〜100nmである。
【0120】
無機化合物からなる透明導電性膜又はガスバリア膜を、コーティング剤を使用して形成した層上に形成する方法は、公知の方法により形成することが可能であるが、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の物理的方法や、スプレー法、ディップ法、熱CVD法、プラズマCVD法等の化学的方法等により行うことができる。
【0121】
たとえば、スパッター法等によれば、例えばケイ素化合物を酸素ガス存在下で焼結させたもの等をターゲットとして用いることにより、酸化ケイ素からなる膜を成膜することもでき、金属シリコンをターゲットとして酸素存在下で反応性スパッターすることによっても成膜することができる。また、プラズマCVD法によれば、シランガスを、酸素ガスおよび窒素ガスと共に、プラズマを発生させたチャンバーの中に供給し、反応させ、基板上に酸化窒化ケイ素からなる膜を成膜することができる。また、熱CVD法等によれば、例えばケイ素化合物を含有する有機溶媒溶液等を蒸発物として用いることにより、酸化ケイ素からなる膜を成膜することができる。
【0122】
本発明においては、特に、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法又はプラズマCVD法により成膜するのが好ましい。
【0123】
また、機能性の積層膜を形成する際に、必要に応じて、コーティング剤を使用して形成した層の表面を予めプラズマ処理またはUVオゾン処理しておいてもよい。
【0124】
以下に実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0125】
1−1 化合物の合成−1
(合成例1)
3−メタクリロキシプロピルトリフェニルシラン(A−1)の製造
【0126】
【化19】
【0127】
十分に乾燥した空気で反応フラスコを置換した。これに、トリフェニルシラン25.04g(0.0962mol)を仕込み、冷却管、温度計、窒素封入管を取り付けた後、N気流下で酢酸アリル36.41g(0.364mol)を仕込み、N気流下で室温にて攪拌を行った。塩化白金酸のエタノール溶液(Pt換算で10wt%)0.5gを滴下し、N気流下、室温で3時間攪拌した。H−NMRでSi−Hのシグナル(5.5ppm)が消失したことを確認し、反応が完結した事を確認後、過剰の酢酸アリルを減圧下留去、さらにその残渣とPt触媒をカラム精製して、白色結晶の3−アセトキシプロピルトリフェニルシラン(Mw 360.52)を27.78g(収率80.1%)得た。得られた生成物の核磁気共鳴(NMR)の測定を行った結果を以下に示す。なお、下記測定は、基準物質としてテトラメチルシランを、溶媒は重クロロホルムを用いて行った。H−NMRスペクトル値:7.4ppm、7.6ppm、4.1ppm、2.0ppm、1.8ppm、1.5ppm。
反応フラスコに、3−アセトキシプロピルトリフェニルシラン12.97g(0.036mol)を仕込み、冷却管、温度計を取り付けた後、1Nの炭酸ソーダ、エタノール溶液に加え、70−80℃ 5時間加熱し、加水分解して白色結晶の3−ヒドロキシプロピルトリフェニルシラン(Mw 318.48)を 11.4g(0.0358mol)を得た(収率99.4%)。得られた生成物の核磁気共鳴(NMR)の測定を行った結果を以下に示す。なお、下記測定は、基準物質としてテトラメチルシランを、溶媒は重クロロホルムを用いて行った。H−NMRスペクトル値:7.4ppm、7.6ppm、3.6ppm、1.7ppm、1.4ppm。
乾燥不活性ガス(窒素)で十分に置換した反応フラスコに超脱水トルエン300gを入れ、これに3−ヒドロキシプロピルトリフェニルシラン5.01g(0.01573mol)、トリエチルアミン1.91g(0.01888mol)を溶解した。これにメタクリル酸クロライド1.976g(0.01890mol)を徐々に加えた。滴下終了後、室温下6時間攪拌後、反応液を水、0.5N塩酸、水、1N炭酸ソーダ、水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。トルエン留去し、透明液体の3−メタクリロキシプロピルトリフェニルシラン(A−1)(Mw 386.56)を4.976g(0.012874mol)得た(収率82%)。得られた生成物の核磁気共鳴(NMR)の測定を行った結果を以下に示す。なお、下記測定は、基準物質としてテトラメチルシランを、溶媒は重クロロホルムを用いて行った。H−NMRスペクトル値:7.4ppm、7.6ppm、6.4ppm、6.1ppm、5.8ppm、4.2ppm、1.8ppm、1.4ppm。
【0128】
(合成例2)
3−アクリロキシプロピルトリフェニルシラン(A−2)の製造
【0129】
【化20】
【0130】
乾燥不活性ガス(窒素)で十分に置換した反応フラスコに超脱水トルエン300gを入れ、これに3−ヒドロキシプロピルトリフェニルシラン5.28g(0.01658mol)、トリエチルアミン2.01g(0.01989mol)を溶解した。これにアクリル酸クロライド1.801g(0.0199mol)を徐々に加えた。滴下終了後、室温下6時間攪拌後、反応液を水、0.5N塩酸、水、1N炭酸ソーダ、水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。トルエン留去し、透明液体の3−アクリロキシプロピルトリフェニルシラン(A−2)(Mw 372.53)を5.56g(0.01492mol)得た(収率89.99%)。得られた生成物の核磁気共鳴(NMR)の測定を行った結果を以下に示す。なお、下記測定は、基準物質としてテトラメチルシランを、溶媒は重クロロホルムを用いて行った。H−NMRスペクトル値:7.4ppm、7.6ppm、6.4ppm、6.1ppm、5.8ppm、4.2ppm、1.8ppm、1.4ppm。
【0131】
1−2 コーティング剤の調製−1
上記生成物(A−1)又は(A−2)2gを8gのメチルエチルケトン(MEK)で溶解した。その後、光重合開始剤 Irgacure(登録商標)907(BASF社製、UV重合開始剤、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン)を0.08g添加、15分間攪拌溶解させ、コーティング剤(B−1)、(B−2)を調製した。
【0132】
1−3 ジルコニア粒子添加コーティング剤の調製
(B−2)2.5gと20wt%MEK分散ジルコニアコロイド2.5gを混合し、コーティング剤(B−2’)を得た。
【0133】
1−4 有機シラン化合物添加コーティング剤の調製
1)シラノール縮合触媒の合成
ジイソプロポキシビスアセチルアセトナートチタン(日本曹達製、T−50、酸化チタン換算固形分量:16.5重量%)303.03gをエタノール584.21gに溶解した後、攪拌しながらイオン交換水112.76g(10倍モル/酸化チタンのモル)を加えた。この溶液を40℃に加温しながら2時間攪拌し加水分解させた。次に溶液をろ過し、黄色透明な酸化チタン換算濃度5重量%の酸化チタンナノ分散液[C−1]を得た。酸化チタンの平均粒径は4.1nmで単分散性であった。
【0134】
2)有機シラン化合物の加水分解縮合物の調製
有機シラン化合物として、ビニルトリメトキシシラン264.76g(信越化学工業株式会社製、KBM−1003)と3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン190.19g(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を(ビニルトリメトキシシラン/3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン=70/30:モル比)混合させた液[D−1]を使用した。
次に、元素比(Ti/Si=1/9)となるように[C−1]453.09gと[D−1]454.95gを混合し、さらに、イオン交換水を91.96g(2倍モル/有機ケイ素化合物のモル)を加え、24時間攪拌した液[E−1]を作製した。
【0135】
3)コーティング剤(有機無機複合膜形成用組成物)の調製
固形分の割合が10重量%/90重量%=[E−1]/[B−2]となるように上記[E−1]液と[B−2]液を混合させ、コーティング剤(有機無機複合膜形成用組成物)[B−2’’]を作製した。
【0136】
1−5 コーティング層の形成−1
・フィルムサンプル
コーティング剤[(B−1)、(B−2)、(B−2’)、(B−2’’)]を厚さ188μmのCOPフィルム(日本ゼオン株式会社 ZF−16)にバーコーターにて成膜し、温風循環型乾燥器にて130℃、3分間加熱した。続いて、集光型高圧水銀灯(365nm、313nm、254nmの波長の光を主成分とするUV光、アイグラフィックス社製、120W/cm、ランプ高9.8cm、コンベア速度5m/分)により、積算照射量400mJ/cmの紫外線を照射して薄膜を得た。これを用いて膜厚測定、碁盤目テープ剥離試験、ヘイズ率の測定を行った。
・屈折率測定用サンプル
塗膜形成用組成物[(B−1)、(B−2)、(B−2’)]をシリコンウェハー上にディップコーターにて成膜し、温風循環型乾燥器にて130℃、3分間加熱した。続いて、集光型高圧水銀灯(365nm、313nm、254nmの波長の光を主成分とするUV光、アイグラフィックス社製、120W/cm、ランプ高9.8cm、コンベア速度5m/分)により、積算照射量400mJ/cmの紫外線を照射して薄膜を得た。
【0137】
[測定条件]
・塗膜屈折率
J.A.Woollam社製 高速分光エリプソメーター M−2000Dを用いて測定した。
・膜厚測定
フィルメトリクス(株)製 非接触式膜厚測定装置 型式F−20を用いて測定した。
・碁盤目テープ剥離試験(密着性)
JIS K5600に準拠し、塗膜に1mm間隔の切り込みを縦横11本ずつ入れて100個の碁盤目を作成した。各試料にセロテープ(登録商標)を貼付け、指の腹で複数回擦り付けて密着させた後テープを剥し、塗膜が剥離せずに残存した格子の目数で評価した。
・ヘイズ率
塗膜のヘイズ率を、ヘイズメーター(日本電色工業製)を用いて測定した。
・全光線透過率
フィルム切片を色彩・濁度同時測定器(日本電色工業;COH 400)を用いて測定した。
【0138】
【表1】
【0139】
すべての基材において、コーティング層の剥離は見られず、密着性に優れていることが確認された。またコーティング層は透明性にすぐれ屈折率も高いものであった。
【0140】
2−1 化合物の合成−2
(合成例3)
ジフェニルメチルシリルプロピルアクリレート(A−3)
【0141】
【化21】
【0142】
乾燥不活性ガス(窒素)で十分に置換した反応フラスコに超脱水THF 60.00g、3−(メチルジフェニルシリル)−1−プロパノール 7.30g(0.02355 mol)、トリエチルアミン 4.29g(0.0428mol)を入れ、溶解させつつ液温が10℃以下になるまで冷却した。これにアクリル酸クロライド 3.87g(0.0428mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。滴下終了後、室温下で1晩攪拌した。反応混合物を水、0.5N塩酸、水、1N炭酸ソーダ、水で順次洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、トルエンを留去した。酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−3を6.87g(0.02214 mol)収率 94%で得た。H−NMRスペクトル値:7.6ppm、7.4ppm、6.4ppm、6.1ppm、5.7ppm、4.1ppm、1.7ppm、1.2ppm、0.5ppm。
【0143】
(合成例4)
トリフェニルシリルフェノキシエチルアクリレート(A−4)
【0144】
【化22】
【0145】
反応フラスコにTHF 44.00gと4−トリフェニルシリルフェノール 3.00 g(0.00851mol)、トリフェニルホスフィン 3.35g(0.01277 mol)、ヒドロキシエチルアクリレート 1.48 g(0.01277mol)を入れ、溶解させつつ液温が0℃以下になるまで冷却した。アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、約2.2mol/L) 5.56 g(0.01277mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。その後、室温下で1晩攪拌した後、さらに液温50℃下で3時間攪拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−4を3.29 g(0.0076 mol)収率 51%で得た。H−NMRスペクトル値:7.7ppm、7.4ppm、7.2ppm、6.9ppm、6.4ppm、6.2ppm、5.8ppm、4.5ppm、4.3ppm。
【0146】
(合成例5)
ジフェニルシリルジフェノキシエチルアクリレート(A−5)
【0147】
【化23】
【0148】
反応フラスコにTHF 50.00gと4,4’−ジフェニルシランビスフェノール5.00g(0.01357mol)、トリフェニルホスフィン 10.68g(0.04071mol)、ヒドロキシエチルアクリレート 4.73g(0.04071mol)を入れ、溶解させつつ液温が0℃以下になるまで冷却した。アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、約2.2mol/L)17.73g(0.04071mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。その後、室温下で1晩攪拌した後、さらに液温50℃下で3時間攪拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−5を4.67g(0.0083mol)収率 61%で得た。H−NMRスペクトル値:7.3−7.6ppm、6.9−7.0ppm、6.4ppm、6.2ppm、5.8ppm、4.5ppm、4.3ppm。
【0149】
(合成例6)
トリフェニルメチルプロピルアクリレート(A−6)
【0150】
【化24】
【0151】
乾燥不活性ガス(窒素)で十分に置換した反応フラスコに超脱水THF 42.36g、4,4,4−トリフェニルブタノール5.00g(0.01653mol)、トリエチルアミン 3.35g(0.03307mol)を入れ、溶解させつつ液温が10℃以下になるまで冷却した。これにアクリル酸クロライド 2.24g(0.02480mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。滴下終了後、室温下で1晩攪拌した。反応混合物を水、0.5N塩酸、水、1N炭酸ソーダ、水で順次洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、トルエンを留去した。酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−6を5.36g(0.0150 mol)収率91%で得た。H−NMRスペクトル値:7.3ppm、7.2ppm、6.4ppm、6.1ppm、5.8ppm、4.1ppm、2.7ppm、1.5ppm。
【0152】
(合成例7)
トリフェニルメチルフェノキシエチルアクリレート(A−7)
【0153】
【化25】
【0154】
反応フラスコにTHF 50.00gと4−トリフェニルメチルフェノール 5.00g(0.01486mol)、トリフェニルホスフィン 5.85g(0.02229mol)、ヒドロキシエチルアクリレート 2.59g(0.02229mol)を入れ、溶解させつつ液温が0℃以下になるまで冷却した。アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、約2.2mol/L)9.71 g(0.02229mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。その後、室温下で1晩攪拌した後、さらに液温50℃下で3時間攪拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−7を3.29 g(0.0076 mol)収率 51%で得た。H−NMRスペクトル値:7.3−7.0ppm、6.9ppm、6.4ppm、6.2ppm、5.8ppm、4.5ppm、4.3ppm。
【0155】
(合成例8)
4−[トリス(4−メトキシフェニル)メチル]フェノキシエチルアクリレート(A−8)
【0156】
【化26】
【0157】
反応フラスコにTHF 30.00gと4−[トリス(4−メトキシフェニル)メチル]フェノール 3.00 g(0.00703mol)、トリフェニルホスフィン 2.27g(0.01055 mol)、ヒドロキシエチルアクリレート 1.23 g(0.01055mol)を入れ、溶解させつつ液温が0℃以下になるまで冷却した。アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、約2.2mol/L)4.56 g(0.01055mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。その後、室温下で1晩攪拌した後、さらに液温50℃下で3時間攪拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−8を2.03g(0.00387mol)収率55%で得た。H−NMRスペクトル値:7.1ppm、7.0ppm、6.9ppm、6.7ppm、6.4ppm、6.2ppm、5.8ppm、4.5ppm、4.3ppm。
【0158】
(合成例9)
ジフェニルメチルジフェノキシエチルアクリレート(A−9)
【0159】
【化27】
【0160】
反応フラスコにTHF 50.00gと4,4’−ジヒドロキシテトラフェニルメタン5.00 g(0.01419mol)、トリフェニルホスフィン 11.16g(0.04256 mol)、ヒドロキシエチルアクリレート 4.94 g(0.04256 mol)を入れ、溶解させつつ液温が0℃以下になるまで冷却した。アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、約2.2mol/L)18.53 g(0.04256mol)を徐々に加え、1時間攪拌した。その後、室温下で1晩攪拌した後、さらに液温50℃下で3時間攪拌した。溶媒を留去した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−9を3.66 g(0.0067 mol)収率 51%で得た。H−NMRスペクトル値:7.3−7.0ppm、6.9ppm、6.4ppm、6.2ppm、5.8ppm、4.5ppm、4.3ppm。
【0161】
(合成例10)
トリフェニルシリルプロポキシカルボニルアミノエチルアクリレート(A−10)
【0162】
【化28】
【0163】
窒素置換した反応フラスコに、トルエン 50.00gと2−イソシアナートエチルアクリラート2.50g(0.01884mol)、3−トリフェニルシリル-1-プロパノール 5.04g(0.01570mol)、ラウリル酸ジブチル錫を触媒量入れ、溶解させつつ液温が70℃になるまで加温し、6時間反応した。反応終了後、反応液を室温まで冷やし、蒸留水 20gを入れ、未反応イソシアネート化合物を失活させた。有機層の溶媒を留去した後、酢酸エチル/ヘキサン混合溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。化合物A−10を5.84g(0.01272 mol)収率 81%で得た。H−NMRスペクトル値:7.2−7.5ppm、6.4ppm、6.1ppm、5.8ppm、4.9ppm、4.2−4.1ppm、3.5ppm、1.8ppm、1.4ppm。
【0164】
2−2 コーティング剤の調整−2
上記化合物(A−3)〜(A−9)をそれぞれ 1gをシクロヘキサン 4gに加え、完全に溶解するまで、攪拌した。その後、光重合開始剤 Irgacure(登録商標)907(BASF社製、UV重合開始剤、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン)0.04 gを添加し、コーティング剤(B−3)〜(B−9)を作成した。
【0165】
2−3 コーティング層の形成−2
(B−3)〜(B−9)のコーティング剤を下記のプラスチック基盤にバーコートにて成膜し、温風循環型乾燥機にて100℃、3分間加熱した。集光型高圧水銀灯(365nm、313nm、254nmの波長の光を主成分とするUV光、アイグラフィックス社製、1灯型、120W/cm、ランプ高9.8cm、コンベア速度5m/分)により、積算照射量400mJ/cmの紫外線を照射して薄膜を得た。
基材1:PETフィルム コスモシャインA4300(188μm)、東洋紡績
基材2:PENフィルム テオネックスQ65F (125μm)、帝人デュポン
基材3:アクリル板 デラグラスA(2mm)、旭化成
基材4:ポリイミド カプトン 500H(126.7μm)、東レ・デュポン
【0166】
・密着性試験
JIS K5600−5−6のクロスカット法に準拠して密着性試験を行った。
すべての基材において、コーティング層の剥離は見られず、密着性に優れていることが確認された。
【0167】
2−4 コーティング層の形成−3
(B−4)〜(B−8)のコーティング剤を下記のプラスチック基盤にバーコートにて成膜し、温風循環型乾燥機にて100℃、3分間加熱した。集光型高圧水銀灯(365nm、313nm、254nmの波長の光を主成分とするUV光、アイグラフィックス社製、1灯型、120W/cm、ランプ高9.8cm、コンベア速度5m/分)により、積算照射量400mJ/cmの紫外線を照射して薄膜を得た。
基材5:COPプレート ZEONOR 1600(1mm)、日本ゼオン
基材6:COPプレート ZEONOR 1430R(1mm)、日本ゼオン
基材7:COCプレート TOPAS COC 5018L-10(1 mm)、ポリプラスチックス
基材8:COCプレート TOPAS COC 6017S-04(1mm)、ポリプラスチックス
【0168】
・密着性試験
JIS K5600−5−6のクロスカット法に準拠して密着性試験を行った。
すべての基材において、コーティング層の剥離は見られず、密着性に優れていることが確認された。
【0169】
2−5 コーティング層の形成−4
(B−4)、(B−6)〜(B−8)のコーティング剤を下記のプラスチック基盤にバーコートにて成膜し、温風循環型乾燥機にて100℃、3分間加熱した。集光型高圧水銀灯(365nm、313nm、254nmの波長の光を主成分とするUV光、アイグラフィックス社製、1灯型、120W/cm、ランプ高9.8cm、コンベア速度5m/分)により、積算照射量400mJ/cmの紫外線を照射して薄膜を得た。
基材9:COPフィルム ZEONOR Film ZF-14(188μm)、日本ゼオン(延伸フィルム)
基材10:COPフィルム ZEONOR Film ZF-16(188μm)、日本ゼオン(延伸フィルム)
基材11:PETフィルム ルミラーT60、東レ(延伸フィルム)
【0170】
・密着性試験
JIS K5600−5−6のクロスカット法に準拠して密着性試験を行った。
すべての基材において、コーティング層の剥離は見られず、密着性に優れていることが確認された。
【0171】
2−6 機能性の積層膜の形成
コーティング剤(B−2)、(B−2’)、(B−2’’)、(B−4)、(B−6)、(B−7)を使用して、実施例1−5記載の方法でコーティング層を作成した。この薄膜の上にDCスパッタ法でスズがドープされた酸化インジウム膜(ITO膜)を約40nm積層した。
【0172】
・密着性試験
JIS K5600−5−6のクロスカット法に準拠して密着性試験を行ったところ、ITO膜の剥離は見られず、密着性に優れていることが確認された。