(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1ではリベット止34でワークハンガー43と各帯支板45を結合しているので、ワーク48をワークハンガー43に繰り返し脱着するうちに、応力の負荷により、リベット止34が緩み、ワークハンガー43が回転したり、位置がずれたりして、通電性が低下する問題がある。
【0006】
メッキハンガーワーク7は、絶縁膜がされていて、ワーク48とワークハンガー43との接触部の劣化は見えるが、内部の接続部は見えないため、内部の様子を検査することが困難であるため、目視検査ではわからず、通電不良の発見も難しいし、一旦、メッキ不良が発生すれば、新たにメッキし直さなければならず、修復に多大な時間を要することとなる。
【0007】
ワーク48を装着するワークハンガー43は同一の長さと形状とせざるを得ないため、単純な形状のワーク48には対応ができるが、ワーク48の形状が複雑になると、ワークハンガー43に加えて、別の器具によりワークハンガーを安定させることが必要となり、器具が複雑化し作業も面倒になる。
【0008】
例えば、複雑な形状のワークに対応して、ワークハンガー43の長さを変えて不揃いにすると、ばね弾性力のバランスが崩れるおそれがある。特に、ワーク48が樹脂の場合には、メッキ槽に結構な温度があるので、ワーク48を装着することはできるが、ワーク48が変形し、メッキ不良が発生しやすいという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、通電不良を要因とするメッキ不良を防止すること、複雑な形状のワークにも対応できることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、問題の解決策として、ワークとワークハンガーとの接続構造が要因であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明のメッキ電極冶具は、導電性の母材と、該母材の穴にリベット止で結合される導電性の電極部材と、を備え、該電極部材が、リベット通し穴を有する扁平管と、曲がり部を有し、該曲がり部が前記扁平管に挟持され、前記扁平管から延び出す導電性の線材と、前記扁平管の内部に設けられ内面に溶着する金属溶着層と、を備え、
前記電極部材を複数個備え、該複数の電極部材の扁平管の軸方向を相違させて積み重ねることを特徴とするメッキ電極冶具である。
【0013】
前記扁平管が圧潰体であることが好ましい。圧潰体は、丸短管、又は、角単管等に圧力を加えて潰したものであることが好ましい。
【0014】
ここでいう、メッキには、亜鉛メッキ、クロムメッキ、ニッケルメッキ、銅メッキ等が挙げられる。
【0015】
メッキの種類に応じて、母材、リベット止、扁平管の材料、寸法は適宜選択できる。導電性の点を考慮し、リベット止と扁平管の材料は銅が好ましい。「母材」の材質は、一般的に、ステンレス鋼、一般構造用圧延鋼材、リン青銅、チタン等が挙げられる。「母材」は板材が一般的である。
【0016】
「リベット通し穴」はリベット止が貫通可能な大きさで、結合に適した形状と大きさである。
【0017】
「扁平管」の孔は1個でもよいし、複数の孔を備えていてもよい。「扁平管」の寸法は、ワークの寸法に対応した、適宜の寸法に設定される。例えば、ワークには日用品、工業品等の様々な種類があるので、この種類に対応させて、様々な寸法を採択できる。
【0018】
「扁平管」の外形は、小判形状、楕円形状、又は横長の角形が例示されるが、限定されるものではない。
【0019】
「線材」の材質は、一般的に、ステンレス鋼、一般構造用圧延鋼材、リン青銅、チタン等である。
【0020】
「曲がり部」は、直線、曲線の形状のいずれも含み、例えば、V字、U字、又は、コ字形状等が例示される。「線材」の回り止めの趣旨で設けたものである。
【0021】
「内部」は「扁平管」の内側領域をいい、ワークの寸法に対応して適宜の寸法を採択できることは、扁平管の場合と同様である。「内部」は扁平管の形状に対応して扁平な形状が例示されるが、限定されるわけではない。
【0022】
「金属溶着層」の例としての合金溶着層が挙げられる。好ましくは、半田溶着層が挙げられる。一般的に用いられる錫−鉛合金である半田を溶かして、「内部」に浸透させて固着させた層が例示される。
【0023】
「圧潰体」はプレス機械で扁平管を上下から挟んでプレスした構造体である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、通電不良を要因とするメッキ不良を防止でき、複雑な形状のワークにも対応できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明実施形態1のメッキ電極冶具1は、
図1〜
図5に示す通り、導電性の母材2と、母材2の穴にリベット止3で結合される電極部材4と、を備え、電極部材4が、リベット通し穴5a(
図5参照)を有する扁平な形状の扁平管5と、曲がり部8aを有し、曲がり部8aが扁平管5に挟持され、扁平管5から延び出し、延び出した部分にワーク7を取り付ける導電性の線材8と、扁平管5の内部の空洞に充填層として設けられ内面に溶着する半田溶着層9と、を備えることを特徴とする。この実施形態ではメッキ電極冶具1はメッキ陰極用の冶具であり、ワーク7を取り付けてメッキするものである。
【0027】
図1に示すメッキ電極冶具1は、説明の便宜のため、樹脂の絶縁膜(図示略)の形成前のものを示すものであり、ワーク7との接触部位のみ絶縁膜の形成を行わないか、又は、メッキ電極冶具1のすべて表面を絶縁膜でコーティングした後、接触部位の絶縁膜を剥離するか、いずれかの処理をした後に、メッキが可能となる。母材2に電流が流れ、この電流が、扁平管5と半田溶着層9を経て、線材8に流れ、ワーク7に電流が流れることにより、ワーク7へのメッキが行われる。メッキするのは、主に、樹脂又は金属である。以下、実施形態1のメッキ電極冶具1について、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
母材2は、
図1等に示す通り、縦板2aと、縦板2aよりも長さが短く縦板2aに対して間隔を置いて直交してリベット止2bで結合される横板2cと、縦板2aの上部にリベット止2bで結合されるフック2dと、を備えている。母材2のフック2dが吊りフレーム(図示略)に掛止され、立設状態で使用される。
【0029】
リベット止3は、電極部材4を母材2に固定するものである。銅製であり、一般的に使用されているものを用いている。
【0030】
電極部材4は、扁平管5が1個のタイプと、複数個を積層したタイプが可能である。
図1では、メッキの効率を高めるため、一度のメッキで複数個のワーク7を同時にメッキすることができるよう、同様の形状の複数個の電極部材4を母材2にリベット止3で固定してある。
図1では16個の電極部材4が母材2に固定されている。電極部材4はメッキ効率の関係から、表裏両面に固定されている箇所もある。
【0031】
扁平管5は、軸方向Xに延び出す断面小判形状の無端外周面5bと、この無端外周面5bの両側端に連続する、Y方向に延び出す垂直面である端部側面5cと、を備えた断面小判形状の構造を備えている。半田溶着層9が、扁平管5の細長の小判形状の内周面に溶着し、扁平管5の空洞を満たしている。この扁平管5は1か所について、それぞれ、1個が固定されている。扁平管5は銅製である。
【0032】
扁平管5は、軸方向Xと径方向Y(
図3等参照)に広がっており、軸方向Xと平行で断面が扁平な筒面である無端外周面5bと、径方向Yと平行で扁平な一対の端部側面5cと、半田溶着層9が充填される空洞と、を有する構造である。
【0033】
実施形態1ではワーク7の寸法に対応して、軸方向Xの長さ10〜12mm、扁平管5の径方向Yの長さ10〜18mm、厚み1.5mm〜3mmが例示されるが、限定されるわけではない。
【0034】
線材8は金属製で弾性のある材料であり、ステンレス鋼、一般構造用圧延鋼材、リン青銅、又は、チタンである。メッキのときに、ワーク7との接点部を構成するものであり、ワーク7を装着し、弾性力で動かないように保持する構造を備えている。線材8の中間部に曲がり部8aは、
図4に示す通り、XY平面に寝た状態で配置される。曲がり部8aにより、線材8がくるくる回ってしまうことを防止できる。曲がり部8aはV型が例示される。曲がり部8aはリベット止3から偏倚した位置に、重ならないように配置されている。線材8の動きがリベット止3には影響しない利点がある。ただし、曲がり部8aとリベット止3を重なる、又は接触させる、又は、隣接させることもできる。線材8の端部には曲がり部8bを備え、ワーク7を係止し易くしている。
【0035】
扁平管5には単数に限らず、複数本の線材8を固定することが可能である。1個の扁平管5に対して複数本(
図1では2本又は3本が例示)の線材8を固定することで、ワーク7を複数本の線材8の端部で力を分散させて保持することが可能である。この結果、ワーク7を弱い弾性力で保持できるので、安定性がよく、ワーク7の変形対策も良好である。また、扁平管5に1個のリベット止3を用いればよいので、複数本の線材8を一度に扁平管5に結合できる。ただし、必要に応じて、1個の扁平管5に対して1個のリベット止3と、1個の線材8を用いる場合もあることは無論である。
【0036】
特に、ワーク7が樹脂である場合には、ワーク7が変形しやすいが、電極部材4により、変形が有効に抑制できる。
【0037】
線材8の太さにより扁平管5の肉厚、径を変更することにより、様々な接点形状に対応可能である。
【0038】
線材8の直径によって扁平管5の厚みや径を変えている。線材8の直径は直径0.8mmから3.5mm、特に、2.3〜2.5mmが好ましい。
【0039】
半田溶着層9は、扁平管5の内部の空洞に設けられ、XY平面に拡がる層であり、リベット止3、あるいは、曲がり部8aまで拡がっている。半田溶着層9の厚さ0.1〜0.12mm、長さ10〜12mmが例示される。半田溶着層9は、通電性と、ガタつきをなくすための接着という意義もある。
【0040】
実施形態1のメッキ電極冶具1の作用効果を説明する。ワーク7の繰り返しの線材8への脱着によって線材8に負荷が繰り返し加わったとしても、扁平管5に線材8が挟み込まれ半田溶着層9が扁平管5に包み込まれているので、ワーク7の形状や重量によって応力が加わったとしても、半田溶着層9に亀裂が入り難い。亀裂が入ったとしても、進行の速度が遅いので、必要とする電気量も十分となり、通電不良を防止でき、製品自体のメッキ不良を防止できる。
【0041】
また、扁平管5によって母材2と電極部材4の接続が良好であり、リベット止3の緩みも発生せず、曲がり部8aの作用によって、線材8が回転したり、あるいは、位置がずれることを防止できる。必要とする電気量も十分となり、通電性を安定的に確保でき、メッキ不良を低減できる。また、複数本の線材8を固定できるので、ワーク7の線材8への掛け外しによる接続部への応力も分散されるため、通電不良を要因とするメッキ不良に対する対応の負担が軽減できる。
【0042】
線材8を、扁平管5の空洞に充填された半田溶着層9に固定できるので、電極部材4の母材2のリベット止3による固定後の母材2への接地面積が増加し、半田溶着層9の面積も大になり、通電不良の有効な対策になり、半田溶着層9に亀裂が生じることもない。
【0043】
ワーク7の形状が複雑になったとしても、ワーク7を安定させる別の器具が不要になり、器具の設置労力が低減できる。
【0044】
複雑な形状のワーク7に対応して、線材8の長さを変える必要がなく、線材8のばね弾性力のバランスが安定するので、特に、ワーク7が樹脂の場合には、ワーク7の変形によるメッキ不良を防止できる。
【0045】
扁平管5により、全体がシンプルでなおかつコンパクトな構造にできる。
【0046】
実施形態2のメッキ電極冶具201について
図6を参照して説明する。このメッキ電極冶具201の構造が実施形態1のメッキ電極冶具1と共通する点は説明と図示は援用し、部品番号を200番台とし、相違点を中心として説明する。メッキ電極冶具201の電極部材204は複数個を段重ねに母材202の積層し固定された例であり、個々の電極部材204の軸方向Xが相違する方向に積層されたものである。電極部材204の積層の個数は2個であるが、電極部材204の3以上の適宜数の個数を積層することも可能である。電極部材204を単独で用いることも可能であるが、実施形態1のメッキ電極冶具1を組み合わせて用いることで、多様な要求に応えることができる。
【0047】
各々の電極部材204の扁平管205の軸方向Xは、交差又は直交する角度であり、0〜180度の任意の角度を取り得るようにリベット止203で扁平管205の角度を調整できる。線材208への応力が分散されて影響が小さいのと、様々な電極部材204を段重ねすることで、接点の多様な組み合わせが可能となる。
【0048】
以上の実施形態2のメッキ電極冶具により、実施形態1のメッキ電極冶具1と同様の効果を奏する。その上、線材208の弾性力を同じ強さにする必要から線材208は同じ長さにする制約下でもあっても、扁平管205の交差角度と、線材208の方向や長さを様々に変更することで、ワーク7の安定性を確保できる。
【0049】
複数の電極部材204を段重ねにすることで、線材8の本数や方向を複雑に調整できるので、さらに相当に複雑な形状にも対応が可能である。
【0050】
メッキ電極冶具301の製造方法について説明する。部品番号は300番台とする。メッキ電極冶具301は実施形態1、2とは若干形状が相違しているが、基本的には共通する構成を備えている。
【0051】
(1)線材308の加工
図7(a)に示す通り、適当な長さにされた線材308に曲がり部308a、308bを形成する。
【0052】
(2)母材302の穴加工
図7(b)に示す通り、母材302に貫通穴302aを貫設する。
【0053】
(3)短管305Aの準備
図7(c)に示す通り、所定設計寸法の丸形の短管305Aを作る。丸形に代えて、角形の管でもよい。孔は1個の短管305Aを例示するが、複数の穴を備えた管でもよい。
【0054】
実施形態1のように電極部材4が単体の場合は、短管305Aの直径の外径Aが、10〜20mm、例えば、10,12.3,16mmが例示される。軸方向Xの長さBは10〜12mm、例えば、12mmが例示される。短管305Aの厚みCが1.5〜3.0mm、例えば、1.5,2.0,3.0mmが例示される。
【0055】
実施形態2のように電極部材204が段重ねの場合、短管305Aの直径の外径Aが、16〜20mm、例えば、16,18,20mmが例示される。軸方向Xの長さBは10〜12mm、例えば、12mmが例示される。短管305Aの厚みCが1.5〜3.0mm、例えば、1.5,2.0、3.0mmが例示される。
【0056】
(4)短管305Aのプレス プレス機械で、
図7(c)に示す空洞305Bを有する短管305Aを、
図7(d)に示す空洞305Dを有する扁平管305Cに潰す。空洞305Dは線材308を通すことができる寸法とする。
【0057】
(5)圧潰 扁平管305Cの空洞305Dに線材308を通し、空洞に曲がり部308aが位置するように水平に配置(V型を寝かせる)し、プレス機械で扁平管305Cと線材308とが圧着するように、例えば、扁平管305Cを小判形状に圧潰し、扁平管305Eとする。
【0058】
(6)穿孔
図7(e)に示す通り、扁平管305Eに貫通孔305mを穿孔する。線材308がどのように動いても、リベット止(
図5参照)には直接影響しないように、貫通孔305mは線材308の通っている領域を避けた位置に設けることが好ましい。
【0059】
(7)線材308の折り曲げ加工
図7(f)に示す通り、線材308を折り曲げる。
【0060】
(8)リベット止 リベット(図示略)を貫通孔305mと貫通穴302aに差し込み、リベット止(
図5参照)を形成し、電極部材304Aを母材302に固定する。
【0061】
上記(6)の工程で、電極部材304Aは1個でもよいし、複数の電極部材304Aを母材302の主面に対して垂直に段重ねすることもできる。このとき同種の電極部材304Aでもよいし、形状の異なる別種の電極部材を段重ねしてもよい。段重ねする場合、基準方向に対して±180度の角度の範囲で適宜に回転位置を調整することが可能である。母材302に対して電極部材304Aを、あらゆる角度に調整できる。電極部材304Aの取り付け角度の変更が、リベット止を取り付けるときに、任意に回転させて、自由に調整できる利点がある。
【0062】
(9)半田付け 扁平管305Eの内部の空洞305Fと近辺に半田付けを施し、円滑に溶融半田が空洞に浸透してゆき、
図4、
図5に示す半田溶着層9が形成されて、通電が確実になる。
【0063】
(10)絶縁膜の形成 ワーク7と接する部位を除き、絶縁膜を表面全体にコーティングする。
【0064】
以上の通り、扁平管305Eの空洞305Fに半田が浸入する上に、なおかつ、リベット止3が施してあるので、電気伝導性もかなりあがって、半田も亀裂が入ることがなく、仮に亀裂が生じたとしても、亀裂の進行が抑えられる。
【0065】
以上、本発明の一例として本実施形態を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において本発明の構成を様々に改変、置換、追加等ができることは当然であり、このような改変、置換、追加等も、本発明の技術的範囲に属するものである。
【解決手段】 メッキ電極冶具1は、導電性の母材2と、母材2の穴にリベット止3で結合される電極部材4と、を備え、電極部材4が、リベット通し穴5aを有する扁平で扁平管5と、曲がり部8aを有し、曲がり部8aが扁平管5に挟持される、ワーク7の取り付け用の導電性の線材8と、扁平管5の内部に設けられる半田溶着層9と、を備え、電極部材4は、扁平管5が1個のタイプと、複数個を積層したタイプとがある。