【文献】
S.Zaremba,Magnets for cyclotrons,CERN Accelerator School and KVI,NL,CERN,2005年,pp.253-270
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心軸Zの周囲に交互に分散された少なくとも3個の山セクタ(3)と、同じ数の谷セクタ(4)とを含むサイクロトロン(1)用の磁極(2)であって、各山セクタが上表面(3U)を含み、前記上表面(3U)が、
− 第1および第2の上側遠位端(3ude)によって境界を定められ、かつ前記中心軸から最も遠くに配置された前記上表面の縁部として画定される上側周囲縁部(3up)、
− 第1および第2の上側近位端(3upe)によって境界を定められ、かつ前記中心軸の最も近くに配置された前記上表面の縁部として画定される上側中心縁部(3uc)、
− 前記第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部(3ul)、
− 前記第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部(3ul)
によって画定される、磁極(2)において、
少なくとも1つの山セクタの前記上表面が、
− 前記上側周囲縁部および前記上側中心縁部と交差する長手方向軸(8rl)に沿って近位端(8rpe)と遠位端(8rde)との間の長さ(L8)にわたって延在する窪み(8)であって、その長さの少なくとも80%にわたって前記第1および第2の上側側縁部から離されている窪み(8)と、
− 前記窪みに嵌まり込む形状を有し、および前記窪み内に配置されかつ前記窪みに可逆的に結合される極インサート(9)と
をさらに含むこと特徴とする、磁極(2)。
請求項4に記載の磁極において、前記極インサートの前記角柱状部分の前記長手方向軸(8rl)に対して垂直な断面が、前記上表面から集束する側表面を有する台形であることを特徴とする、磁極。
請求項4または5に記載の磁極において、前記極インサートが、前記角柱状部分に隣接する近位部分(9p)を有し、前記近位部分の前記長手方向軸(8rl)に対して垂直な断面の面積が、前記極インサートの近位端に向かって減少し、前記近位部分(9p)が前記上側中心縁部全体を含み、かつ対応する山セクタの前記第1および第2の上側側縁部と面一であることを特徴とする、磁極。
請求項1乃至6の何れか1項に記載の磁極において、前記極インサートが、前記長手方向軸(8rl)と平行に測定される長さ(L9)と、前記長手方向軸に対して垂直に測定される幅(W9)とを有し、かつインサート上表面と、第1および第2のインサート側表面とを含み、少なくとも1つの表面が一連の窪みおよび突起(9gu、9gl、9hu、9hl)によって構造化されることを特徴とする、磁極。
請求項7に記載の磁極において、前記窪みおよび突起が溝(9gu、9gl)および/または穴(9hu、9hl)であり、前記溝が、前記長手方向軸を横切るかまたは前記長手方向軸と平行であるかの何れかであり、かつ直線、曲線または破線に沿って延在し、前記穴が止まり穴または通し穴であることを特徴とする、磁極。
請求項7または8に記載の磁極において、前記窪みおよび突起が、前記極インサートの前記幅全体にわたって前記長手方向軸に対して垂直に延在することを特徴とする、磁極。
請求項1乃至9の何れか1項に記載の磁極において、各山セクタが、前記上表面と前記谷セクタとの間で前記中心軸Zと平行に測定される平均高さHhを有し、前記極インサートが、前記中心軸Zと平行に測定され、かつ山セクタの前記平均高さHhの20〜80%に含まれる高さ(H9)を有することを特徴とする、磁極。
請求項1乃至11の何れか1項に記載の磁極において、各谷セクタが底表面を含み、かつ各山セクタが第1および第2の側表面(3L)を含み、前記第1および第2の側表面(3L)が、前記第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に位置する対応する谷セクタの前記底表面まで横切って延在する表面として画定され、前記第1および第2の上側側縁部が、それぞれ前記第1および第2の上側側縁部の高さに面取り部を形成することを特徴とする、磁極。
請求項1乃至14の何れか1項に記載の第1および第2の磁極を含むサイクロトロンにおいて、前記第1および第2の磁極が、それらのそれぞれの上表面が互いに向き合い、かつ前記第1および第2の磁極の前記中心軸に対して垂直な中間面に対して対称に向いた状態で配置され、前記中心軸が同軸であることを特徴とする、サイクロトロン。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロンは一種の円形粒子加速器であり、そこでは負または正に帯電した粒子がサイクロトロンの中心から外側へ、螺旋状経路に沿って数MeVのエネルギーまで加速される。別段の指示のない限り、用語「サイクロトロン」は、以下、等時性サイクロトロンに言及するために使用される。サイクロトロンは様々な分野、例えば核物理学において、陽子治療などの医療的処置において、または放射性薬理学において使用される。特に、サイクロトロンは、PET画像作成(陽電子放出断層撮影)に好適な短寿命陽電子放出同位元素を生成するために、またはSPECT画像作成(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)用にガンマ放出同位元素、例えばTc99mを生成するために使用可能である。
【0003】
サイクロトロンはいくつかの要素を含み、それらには、入射システム、荷電粒子を加速するための高周波(RF)加速システム、加速された粒子を正確な経路に沿って案内するための磁気システム、そのようにして加速された粒子を収集するための取出しシステム、およびサイクロトロン内に真空を生成し維持するための真空システムが含まれる。
【0004】
荷電イオンから構成された粒子ビームは、相対的に低い初期速度で入射システムによってサイクロトロンの中心またはその近くでギャップに導入される。
図3に示されるように、この粒子ビームは連続的かつ反復的にRF加速システムによって加速され、磁気システムによって発生される磁場により、ギャップ内に含められた螺旋経路に沿って外に向かって案内される。粒子ビームはその目標エネルギーに達すると、取出し地点PEに設けられた取出しシステムによってサイクロトロンから取り出され得る。この取出しシステムは、例えば、グラファイトの薄いシートから構成された抜取機を含むことができる。例えば、抜取機を通過するH
−イオンは2つの電子を失い、陽性になる。その結果として、磁場のそれらの経路の曲率がそのサインを変化させ、そのようにして粒子ビームはターゲットに向かってサイクロトロンから放出される。当業者に周知の他の取出しシステムが存在する。
【0005】
磁気システムは磁場を生成し、磁場は、荷電粒子のビームを、それがその目標エネルギーに加速されるまで、螺旋経路に沿って案内かつ収束する。以下、用語「粒子」、「荷電粒子」および「イオン」は、同義語として区別せずに使用される。磁場は、2つの磁極間に画定されたギャップ内に、これら磁極の周囲に巻かれた2つのソレノイド巻きコイル14によって生成される。サイクロトロンの磁極は、中心軸の周囲に分散された交互に存在する山セクタと谷セクタとに分割されることが多い。2つの磁極間のギャップは、山セクタにおいてより小さく、谷セクタにおいてより大きい。そのようにして強い磁場が山セクタ内の山ギャップ部分中に生成され、より弱い磁場が谷セクタ内の谷ギャップ部分中に生成される。そのような方位角磁場変化は、粒子ビームが山ギャップ部分に達するたびに、粒子ビームの半径方向および垂直方向の収束をもたらす。このため、そのようなサイクロトロンは時にセクタ収束型サイクロトロンと称される。いくつかの実施形態では、山セクタは、一切れのケーキと同様の円形セクタの形状を有し、中心軸に向かって実質的に半径方向に延在する第1および第2の側表面と、全体的に湾曲した周囲表面と、中心軸に隣接する中心表面と、山ギャップ部分の片側を画定する上表面とを有する。上表面は第1および第2の側縁部と、周囲縁部と、中心縁部とによって境界を定められる。
【0006】
完全に予測可能な磁場を生成する磁極の対を製造することは難しい。その原因は、とりわけ、磁極に使用される鋼中の欠陥およびまたは不均一性、機械加工精度、ならびに鋼の異なるバッチ間の差異である。このため、山セクタの1つの側縁部は、側方極インサートを収容するために切断されることが多い。較正試験の結果、前記側方極インサートは取り外され、その上表面および/または側表面のトポグラフィを修正するために機械加工され、山セクタに再配置される。この作業は、実際の磁場の修正を可能にし、それが目標とする磁場に一致するまで繰り返される。側方極インサートの取外し、機械加工および再配置を含むこれらの反復的な修正は、時間がかかりまた煩雑である可能性がある。これは特に、全ての山セクタの側方極インサートに同じ作業を同様に実行しなければならないため、そのように言える。
【0007】
従って、目標とする特性に一致するように、山セクタ間の山ギャップ部分に形成された磁場の容易かつ費用対効果に優れた細かいチューニングを可能にする等時性セクタ収束型サイクロトロンを提供する必要性が当該技術分野に依然として残っている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は添付の独立請求項中で定義される。好ましい実施形態は従属請求項中で定義される。
【0009】
本発明は、中心軸Zの周囲に交互に分散された少なくとも3個の山セクタと、同じ数の谷セクタとを含むサイクロトロン用の磁極であって、各山セクタが上表面を含み、前記上表面が、
・第1および第2の上側遠位端によって境界を定められ、かつ中心軸から最も遠くに配置された上表面の縁部として画定される上側周囲縁部、
・第1および第2の上側近位端によって境界を定められ、かつ中心軸の最も近くに配置された上表面の縁部として画定される上側中心縁部、
・第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部、
・第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部
によって画定される、磁極において、
少なくとも1つの山セクタの上表面が、
・上側周囲縁部および上側中心縁部と交差する長手方向軸に沿って近位端と遠位端との間の長さにわたって延在する窪みであって、その長さの少なくとも80%にわたって第1および第2の上側側縁部から離されている窪みと、
・前記窪みに嵌まり込む形状を有し、および前記窪み内に配置されかつ前記窪みに可逆的に結合される極インサートと
をさらに含むことを特徴とする、磁極に関する。
【0010】
窪みは好ましくは上側中心縁部までおよび/または上側周囲縁部まで延在する。
【0011】
極インサートの形状は重要である。極インサートは好ましくは角柱状または平行六面体の形状を有する部分を含む。
【0012】
極インサートの窪みへの挿入を容易にするために、極インサートの角柱状部分の長手方向軸に対して垂直な断面は、上表面から集束する側表面を有する台形であることが好ましい。
【0013】
製造上の理由で、極インサートは、中心軸に向かって集束する近位部分を有することができ、前記近位部分は上側中心縁部全体を含み、かつ第1および第2の側縁部と面一である。
【0014】
好ましくは、極インサートは、長手方向軸と平行に測定される長さと、前記長手方向軸に対して垂直に測定される幅とを有し、かつインサート上表面と、第1および第2の側表面とを含み、少なくとも1つの表面は一連の窪みおよび突起によって構造化される。これらの構造は、数値的に予測される目標の特性を得るために磁場を修正することを可能にする。
【0015】
これらの窪みおよび突起は溝および/または穴であり、前記溝は、長手方向軸を横切るかまたは長手方向軸と平行であるかの何れかであり、かつ直線、曲線または破線に沿って延在し、前記穴は止まり穴または通し穴である。
【0016】
窪みおよび突起は、極インサートの幅全体にわたって長手方向軸に対して垂直に延在することができる。
【0017】
磁極の山セクタは、上表面と谷セクタとの間で中心軸Zと平行に測定される高さHhを有し、極インサートは、中心軸Zと平行に測定され、かつ山セクタの高さHhの20〜80%、より好ましくは山セクタの高さの30〜70%、最も好ましくは40〜60%に含まれる高さを有する。
【0018】
山セクタは、第1および第2の上側遠位端の間で測定される方位角長さAhを有し、極インサートの幅は、山セクタの方位角長さの15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0019】
好ましくは、各谷セクタは底表面を含み、かつ各山セクタは第1および第2の側表面を含み、第1および第2の側表面は、第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に位置する対応する谷セクタの底表面まで横切って延在する表面として画定され、それぞれ第1および第2の側縁部に面取り部を形成する。
【0020】
好ましくは、磁極の山セクタの第1および第2の側縁部は直線である。
【0021】
対称性のため、長手方向軸は、第1および第2の上側遠位端から等距離±10%に、好ましくは等距離に配置された上側周囲縁部の地点で上側周囲縁部と交差することができる。
【0022】
本発明はまた、上に記載したような第1および第2の磁極を含むサイクロトロンに関し、第1および第2の磁極は、それらのそれぞれの上表面が互いに向き合い、かつ第1および第2の磁極の中心軸に対して垂直な中間面に対して対称に向いた状態で配置され、前記中心軸は同軸である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によるサイクロトロンの形状
本発明は、等時性セクタ収束型サイクロトロンに関し、以下、上掲の背景技術の節で考察した種類のサイクロトロンとして言及される。
図3に示されるように、本発明によるサイクロトロンは、荷電粒子を、サイクロトロンの中心領域から外方へ、螺旋状経路12に沿って、それらが数MeVのエネルギーで取り出されるまで加速する。例えば、そのようにして取り出された荷電粒子は、陽子、H
+、または重陽子、D
+であり得る。好ましくは、取り出される粒子によって到達されるエネルギーは、5〜30MeV、より好ましくは15〜21MeV、最も好ましくは18MeVである。そのようなエネルギーのサイクロトロンは、例えば、PET画像作成(陽電子放出断層撮影)での使用に好適な短寿命陽電子放出同位元素を生成するために、またはSPECT画像作成(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)用にガンマ放出同位元素、例えばTc99mを生成するために使用される。
【0026】
図1に示されるように、本発明によるサイクロトロン1は、2つの基板5と、一緒にヨークを形成する磁束反転ヨーク6とを含む。磁束反転ヨークは、サイクロトロンの外壁を形成し、およびコイル14の外側の磁場を、それをサイクロトロン内に含有することによって制御する。サイクロトロンは、第1および第2の磁極2をさらに含み、それらは真空チャンバ内に配置され、中心軸Zに対して垂直な中間面MPに対して対称に互いに向き合い、ギャップ7によって互いに分離される。ヨークおよび磁極は全て磁性材料から、好ましくは低炭素鋼から作製され、磁性システムの一部を形成する。磁性システムは、第1および第2の磁極の周囲に巻かれ、磁極と磁束反転ヨークとの間に画成される環状空間内に取り付けられる電気伝導性ワイヤから作製された第1および第2のコイル14によって完成される。
【0027】
図1(b)および2に示されるように、第1および第2の磁極2のそれぞれは、中心軸Zの周囲に半径方向に分散された少なくともN=3の山セクタ3を含む(
図1(b)はN=4の好ましい実施形態を示す)。淡く陰影を付けられた領域として
図1(b)に示されている各山セクタ3は、山方位角αhにわたって延在する上表面3Uを有する。第1および第2の磁極2のそれぞれは、中心軸Zの周囲に半径方向に分散された、暗く陰影を付けられた領域として
図1(b)に示されている同じ数Nの谷セクタ4をさらに含む。各谷セクタ4は2つの山セクタ3が側方に位置付けられ、谷方位角αvにわたって延在する底表面4Bを有し、その結果、αh+αv=360°/Nである。
【0028】
第1の磁極2の山セクタ3および谷セクタ4は、それぞれ第2の磁極2の対向する山セクタ3および谷セクタ4に面する。
図3に示される粒子ビームによって辿られる経路12は、第1および第2の磁極を分離するギャップ7内に含まれる。第1および第2の磁極間のギャップ7は、従って、2つの対向山セクタ3の上表面3U間に画定される山ギャップ部分7hと、2つの対向谷セクタ4の底表面4B間に画定される谷ギャップ部分7vとを含む。山ギャップ部分7hは、2つの対向上表面3Uの領域にわたる山ギャップ部分の平均高さとして画定される平均ギャップ高さGhを有する。
【0029】
平均山および谷ギャップ高さは、山セクタおよび谷セクタのそれぞれ上表面および下表面全体にわたるギャップ高さの平均として測定される。谷ギャップ高さの平均は、底表面の何れの開口も無視する。
【0030】
上表面3Uは、
・第1および第2の上側遠位端3udeによって境界を定められ、かつ中心軸Zから最も遠くに配置された上表面の縁部として画定される上側周囲縁部3up、
・第1および第2の上側近位端3upeによって境界を定められ、かつ中心軸の最も近くに配置された上表面の縁部として画定される上側中心縁部3uc、
・第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部3ul、
・第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部3ul
によって画定される(
図2参照)。
【0031】
山セクタ3は、
・第1および第2の側表面3Lであって、それぞれ第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に配置された対応する谷セクタの床表面まで横切って延在し、従って側表面を隣接底表面と交差させる縁部として第1および第2の下側側縁部3llを画定し、前記第1および第2の下側側縁部はそれぞれ中心軸から最も遠くに配置された下側遠位端3ldeを有する、第1および第2の側表面3L、
・上側周囲縁部から、第1および第2の下側側縁部の下側遠位端3ldeによって境界を定められるセグメントとして画定される下側周囲線3lpまで延在する周囲表面3P
をさらに含む(
図2参照)。
【0032】
山セクタの平均高さHhは、下側および上側側縁部の間で中心軸と平行に測定される平均距離である。
【0033】
縁部の端部は、その縁部を画定するセグメントの境界を定める2つの末端のうちの1つとして画定される。近位端は、中心軸Zの最も近くに配置された縁部の端部である。遠位端は、中心軸Zの最も遠くに配置された縁部の端部である。端部は、2本以上の線が交わる地点として画定されるコーナー地点であり得る。コーナー地点はまた、曲線の接線がサインを変化させるか、または不連続性を示す地点としても画定され得る。
【0034】
縁部は2つの表面が交わる線セグメントである。縁部は、上で定義されたように2つの端部によって境界を定められ、および2つの交わる表面のそれぞれの片方の側を定める。機械加工工具の制限および応力集中の低減のために、2つの表面は所与の曲率半径Rで交わることが多く、これは、両方の表面と交差する縁部の幾何学的位置を正確に決定することを困難にする。この場合、縁部は、無限の曲率(1/R)で互いに交差するように推定される2つの表面と交差する幾何学的な線として画定される。上側縁部は山セクタの上表面3Uと交差する縁部であり、下側縁部は谷セクタの底表面4Bと交差する縁部である。
【0035】
周囲縁部は、中心軸Zから最も遠くに配置された地点を含む表面の縁部として画定される。最も遠い地点が2つの縁部によって共有されるコーナー地点である場合、周囲縁部はまた、中心軸Zまでの平均距離が最大である表面の縁部である。例えば、上側周囲縁部は、中心軸まで最も遠くに配置された地点を含む上表面の縁部である。山セクタが一切れのタルトと比較される場合、その周囲縁部はタルトの周囲のクラストであろう。
【0036】
同じように、中心縁部は、中心軸Zの最も近くに配置された地点を含む表面の縁部として画定される。例えば、上側中心縁部は、中心軸Zの最も近くに配置された地点を含む上表面の縁部である。
【0037】
側縁部は、近位端の中心縁部を遠位端の周囲縁部に接続する縁部として画定される。そのため、側縁部の近位端は、中心縁部と交差する前記側縁部の端部であり、前記側縁部の遠位端は、周囲縁部と交差する前記側縁部の端部である。
【0038】
サイクロトロンの設計に依存して、上側/下側中心縁部は様々な形状を有し得る。最も一般的な形状は、中心軸に対して有限長さ(0以外)の、多くの場合に円形である凹状の線(または凹状の曲線)であり、これは、互いに分離された第1および第2の上側/下側近位端によって境界を定められる。この構造は、粒子ビームおよび他の要素をギャップへ導入するための空間をあけるために有用である。第1の代替構造において、第1および第2の近位中心端部は、上表面3Uの頂点を形成する単一の近位中心地点に収束され、これは3つの縁部のみを含み、中心縁部はゼロの長さを有する。山セクタが一切れのタルトと再度比較される場合、一切れの鋭利な先端は中心縁部に対応し、従って単一地点に低減される。第2の代替構造において、第1から第2の側縁部への移行部は、中心軸Zに対して湾曲した凸状であり得、これはコーナー地点のない滑らかな移行部をもたらす。この構造において、中心縁部はまた、接線がサインを変化する地点として画定される単一地点に低減される。通常、第1および第2の代替構造においてさえ、山セクタは中心軸まで完全に延在せず、中心軸を直接取り囲む中心領域は、粒子ビームの挿入または他の要素の導入を可能にするように一掃される。
【0039】
図2に示されるように、第1および第2の側表面3Lは好ましくは面取りされ、それぞれ第1および第2の上側側縁部に面取り部3ecを形成する。面取り部は、面取り部のない2つの表面によって形成されたであろう縁部を切除することによって得られた2つの表面間の中間表面として画定される。面取り部は、2つの表面間の縁部に形成された角度を低減する。面取り部は、応力集中を低減するために構造において使用されることが多い。サイクロトロンにおいて、しかしながら、山セクタの上表面のレベルにおける面取りされた側表面は、粒子ビームが山ギャップ部分7hに到達するとき、粒子ビームの収束を向上させる。山セクタの周囲表面3Pも同じく上側周囲縁部に面取りを形成可能であり、これにより周囲縁部の近くの磁場の均一性が改善される。
【0040】
本発明によるサイクロトロンは、N=3〜8の山セクタ3を好ましくは含む。より好ましくは、いくつかの図に示されるように、N=4である。偶数値Nの場合、山セクタ3および谷セクタ4は、中心軸の周囲に2nの対称性で分散され、ここでn=1〜N/2である。好ましくは、n=N/2であり、その結果、N個の山セクタの全てが互いに同一であり、N個の谷セクタの全てが互いに同一である。奇数値Nの場合、山セクタ3および谷セクタ4は、中心軸の周囲にNの対称性で分散される。好ましい実施形態において、全てのN=3〜8の場合、N個の山セクタ3は中心軸の周囲に均一に(すなわちNの対称性で)分散される。第1および第2の磁極2は、それらの各上表面3Uが互いに向き合う状態で、および同軸である第1および第2の磁極2の各中心軸Zに対して垂直な中間面MPに対して対称に向き合う状態で配置される。
【0041】
山セクタの形状は、(しばしば上で考察されるように先端のない)一切れのタルトのようにくさび形であることが多く、その第1および第2の側表面3Lは周囲表面から中心軸Zに向かって(通常それに到達することなく)収束する。山方位角αhは、収束角度に一致し、それは中心軸Zにおけるまたはそれに隣接する側表面の(推定される)上側側縁部の交差地点のレベルで測定される。山方位角αhは、好ましくは360°/2N±10°、より好ましくは360°/2N±5°、最も好ましくは360°/2N±2°に含まれる。
【0042】
中心軸Zのレベルで測定される谷方位角αvは好ましくは360°/2N±10°、より好ましくは360°/2N±5°、最も好ましくは360°/2N±2°に含まれる。谷方位角αvは山方位角αhに等しい場合がある。Nの対称性の程度の場合、αv=360°/N−αhであり、例えば、N=4の場合、αvはαhの相補角であり、αv=90°−αhである。
【0043】
中心軸と周囲縁部との間の最大距離Lhは、好ましくは200〜2000mm、より好ましくは400〜1000mm、最も好ましくは500〜800mmに含まれる。例えば、18MeV陽子サイクロトロンにおいて、最長距離Lhは通常750mm未満であり、500〜750mm、典型的には520〜550mmのオーダーであることができる。上側周囲縁部は、第1および第2の上側周囲端部間で測定される方位角長さAhを有し、およそAh=Lh×αh[rad]であり得る。
【0044】
2つの磁極2および各磁極の周囲に巻かれたソレノイド巻きコイル14は、(電)磁石を形成し、(電)磁石は、磁極間のギャップ7内に磁場を生成し、磁場は、サイクロトロンの(中心軸Zの周囲の)中心領域を起点とする
図3に示される螺旋経路12に沿って荷電粒子のビーム(=粒子ビーム)を、それが例えば18MeVの目標エネルギーに到達するまで案内かつ収束し、その結果としてビームは取り出される。上で考察されたように、磁極は、中心軸Zの周囲に分散される交互に存在する山セクタおよび谷セクタに分割される。その結果、強い磁場が、山セクタ内の平均高さGhの山ギャップ部分7h内に生成され、より弱い磁場が、谷セクタ内の>Ghである平均高さGvの谷ギャップ部分7v内に生成され、その結果、粒子ビームの垂直収束がもたらされる。
【0045】
粒子ビームはサイクロトロン内に導入されると、ディー(不図示)と称される高電圧電極間に、および磁場がより弱い、谷セクタ内に配置された、磁極の側縁部に取り付けられたグラウンド電圧電極間に生成された電界によって加速される。加速粒子は山ギャップ部分7hに進入するたびに、前の山セクタ内で有していた速度よりも速い速度を有する。山セクタ内に存在する高い磁場は加速粒子の軌道を逸らし、それにより、それが前の山セクタ内で辿るよりも大きい半径の本質的に円形の経路を辿るようにする。粒子ビームがその目標エネルギーまで加速されると、粒子ビームは
図3に示されるように取出し地点PEと称される地点でサイクロトロンから取り出される。例えば、高エネルギー陽子H
+は、加速されたH
−イオンのビームを、グラファイトの薄いフォイルシートから構成された抜取機に押し通すことによって取り出すことができる。抜取機を通過するH
−イオンは2つの電子を失い、陽のH
+になる。粒子荷電のサインを変えることによって磁場内のその経路の曲率はサインを変え、そのように粒子ビームはサイクロトロンの外へ目標(不図示)に向かって出される。他の取出しシステムが当業者に知られており、使用される取出しシステムの種類および詳細は本発明に必須ではない。通常、取出し地点は、山ギャップ部分7hに配置される。サイクロトロンは、同一の山部分にいくつかの取出し地点を含むことができる。サイクロトロンの対称要件により、2つ以上の山セクタが取出し地点を含む。Nの対称性の程度の場合、N個全ての山セクタが同じ数の取出し地点を含む。取出し地点は個々に(一度に1つのみ)または同時に(一度に数個)使用可能である。
【0046】
極インサート
図1および3は、N=4の対称性で中心軸Zの周囲に交互に分散されたN=4の山セクタとN=4の谷セクタとを含むサイクロトロン用の磁極の好ましい実施形態の例を示す。
図2および4は、各山セクタ3が上側周囲縁部3upと、上側中心縁部3ucと、第1および第2の上側側縁部3ulとによって境界を定められた上で定義したような上表面3Uを含むそのような磁極の1つの山セクタを示す。本発明によれば、少なくとも1つの山セクタの上表面は、
− 上側周囲縁部および上側中心縁部と交差する長手方向軸8rlに沿って窪み近位端8rpeと窪み遠位端8rdeとの間の長さL8にわたって延在する窪み8(
図4)であって、その長さL8の少なくとも80%にわたって第1および第2の上側側縁部から離され、大部分は中心軸Zから離れている窪み8と、
− 前記窪みに一致する形状を有し、および前記窪み内に配置されかつ前記窪みに可逆的に結合される極インサート9(
図5)と
をさらに含む。
【0047】
「一致する」という用語は、極インサートが、窪みに正確に挿入されかつその中に嵌め込まれることができる全体形状を有することを意味する。
【0048】
上で考察した偶数値Nの場合には2nの、および奇数値Nの場合にはNの対称要件のために、同じ対称性が様々な山セクタ上の極インサートの有無に適用される必要がある。従って、各山セクタは、好ましくは、同様の窪みおよび極インサートを含む。
【0049】
極インサートを含む先行技術のサイクロトロンにおいて、極インサートは、山セクタの上表面の側縁部から機械加工された窪み内に配置された。しかしながら、そのような極インサートへのアクセスは、上側側縁部の領域に重なるRF加速システムの部分によって困難にされる。そのような極インサートへのアクセスは、最初にRFシステムの重なっている部分を取り除くことを必要とする。極インサートは、通常、上表面の縁部に配置され、なぜなら、そこでそれは山ギャップ部分内の磁場全体を最小限に中断するであろうと考えられていたからである。
【0050】
山ギャップ部分内の磁場は、側縁部から実質的に離れかつグランド電極から離れた山セクタの上表面に極インサートを配置することにより、効果的に制御できることが観察された。そのように極インサートを上表面に配置することにより、取外し、機械加工、および窪みへの再挿入のために、極インサートに簡単かつ直接的にアクセスすることができる。このように、本発明を用いると、予測される磁場および粒子経路をもたらす最適な極インサートトポグラフィを得ることがはるかにより簡単であり、かつ効率的である。
【0051】
好ましくは、全ての極インサートは同じ形状を有し、同じ材料から作製される。好ましくは、極インサートは、対応する山セクタと同じ材料から作製される。
【0052】
製造ラインを出ると、サイクロトロンは試験され、そのようにして試験された実際の特性が、数値的に予測される目標の特性と比較される。次いで、サイクロトロンの実際の特性が予測される目標の特性と一致するまで、極インサートの形状はコンピュータ分析の結果に従って修正される。サイクロトロンの特性の各測定後、極インサートはサイクロトロンから取り外され、コンピュータ分析によって決定されたように機械加工される。機械加工された極インサートは、それらの各窪みに嵌め込まれ、サイクロトロンは再度試験される。このプロセスは、サイクロトロンの実際の特性が所望の通りになるまで、反復シーケンスにおいて繰り返すことができる。
【0053】
好ましくは、窪みは、中心軸と交差する長手方向軸に沿って延在する。窪みの近位端は上側中心縁部まで延在し、そこで開放可能であり、および/または窪みの遠位端は上側周囲縁部まで延在し、そこで開放可能である。
図4に示されるように、窪みは好ましくは両端部においてオープンエンドにされ、上側中心縁部から上側周囲縁部まで延在する。さらに好ましい実施形態において、長手方向軸は、第1および第2の上側遠位端から等距離に位置する地点で上側周囲縁部と交差し、ここで、第1および第2の上側遠位端は、好ましくは長手方向軸に対して対称である。例えば、中心縁部に隣接する近位部分9pを除いて、極インサートは、
図6(a)に示されるように、概ね平行六面体の形状を有する。
【0054】
窪みが上側中心縁部でオープンエンドにされる場合、極インサートの近位端は上側中心縁部を含む。山セクタのこの部分は、特に、当然のことながら、近位縁部が単一地点まで低減される場合、山セクタの最も狭い部分である。極インサートの近位端は、従って、山セクタの上側中心縁部の全てまたは一部に取って代わる上側近位縁部を含み、かつ山セクタの第1および第2の側表面のわずかな部分に取って代わる、長手方向軸に沿って測定される極インサート長さの20%以下の第1および第2の近位側表面を含む。第1および第2の側表面は中心軸に向かって集束するため、極インサートの第1および第2の近位側表面は、従って、集束部分を形成する。
【0055】
窪みが上側周囲縁部まで延在しそこでオープンエンドにされる場合、極インサートの遠位端9dcは、上側周囲縁部の一部を形成する。極インサートによって形成される上側周囲縁部の部分は、上側周囲縁部の長さAhの好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。好ましくはこの遠位端は周囲表面に面取り部を形成する。
【0056】
図5に示されるように、極インサート9は、窪みに嵌め込まれ、かつ対応する山セクタに可逆的に結合される。例えば、極インサートは、ねじ9Sによって山セクタに結合することができる。
【0057】
極インサート9は、長手方向軸と平行に測定される長さL9と、前記長手方向軸に対して垂直に測定される幅W9と、長手方向軸および幅の両方に対して垂直に測定される高さH9とを有する。好ましくは、極インサートの長さL9は窪みの長さL8に等しい。
【0058】
極インサートの幅W9は、上側周囲縁部の長さAhの15%以下、好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。
【0059】
極インサートの高さH9は、中心軸と平行に測定され、山セクタの高さHh以下である(H9≦Hh)。好ましくは、高さH9は、山セクタの高さHhの20〜80%、より好ましくは30〜70%、最も好ましくは山セクタの高さHhの40〜60%に含まれる。
【0060】
図6(a)および7に示されるように、極インサートは、インサート上表面9Uを有する。このインサート上表面は、好ましくは、窪みを含む山セクタの上表面と少なくとも部分的に平行であり、例えば、上表面と少なくとも部分的に面一であることができる。極インサートはまた、インサート上表面から横切って延在する第1および第2のインサート側表面9Lを含む。サイクロトロンの特性を最適化するために機械加工する前、極インサートは、好ましくは、それが密接に嵌まり込むチャネルの形状と一致し、インサート上表面は山セクタの上表面と面一である。
図6(b)に示されるように、インサート側表面および窪みの側壁は、互いに平行であり得、インサート上表面に対して垂直に延在し得る。代替実施形態において、
図6(c)に示されるように、第1および第2のインサート側表面は、インサート上表面から集束しながらわずかにテーパ状にされる。形状の一致する窪みのテーパ状側壁により、これは、極インサートの窪みからのより簡単な取出しおよび窪みへのより簡単な挿入を可能にする。
【0061】
上で考察したように、極インサートは好ましくは、長さL9pの集束近位部分9pを除いて、その長さL9の少なくとも80%にわたって長手方向軸に沿って角柱状の形状を有する。角柱状部分の長手方向軸に対して垂直な断面C9は、上表面から集束する側表面を有する台形であると好ましい。長さL9の最大20%を形成する極インサートの近位部分は、好ましくは第1および第2の側表面を含み、第1および第2の側表面は極インサート近位縁部9peに向かって集束し、山側表面3Lと面一でありかつそれと連続する。山上表面3Uと山側表面との間の隆起部が面取りされる場合、窪みの近位部分の対応する隆起部も面取り可能である。
【0062】
例えば、極インサートの角柱状部分の幅W9が15〜150mmに含まれる場合、極インサートの長さL9は400〜800mmに含まれることができ、極インサートの高さH9は15〜150mmに含まれることができる。極インサートの長さに対する極インサートの近位部分の長さの比率L9p/L9は≦20%である。
【0063】
サイクロトロンの試験の間、インサートの上表面および/または側表面は、一連の窪みおよび突起を有する構造をそれに適用するように機械加工し、それにより磁場を較正し、その結果、実際の磁場を目標の磁場に一致させるようにすることができる。上で考察したように、インサート表面の構造(窪みおよび突起)の最適な形状は、反復的な試験および数値的な計算によって決定される。
【0064】
この反復プロセスの最後に、極インサートの表面のトポグラフィは修正される。
図7に示されるように、インサート上表面9Uならびに/または第1および第2の側表面9Lのトポグラフィは、上表面または側表面の長手方向軸を横切るまたはそれと平行な溝9gu、9glを形成するように機械加工することができる。溝は直線、曲線または破線に沿って延在し得る。代わりに、穴9hu、9hlを表面に穿孔可能である。穴は止まり穴(すなわち有限深さのもの)であることができ、または通し穴であることができる。上で説明したように、各山セクタは、対称性のために、極インサートを含み、磁極の全ての極インサートは、同じ最終トポグラフィを有さなければならない。極インサートは個々に機械加工可能であり、または横並びに整列させ、全てを一緒に機械加工することができる。機械加工された極インサートの結果として得られる態様は、機械加工前のその態様とかなり異なっていてもよい(
図6および7参照)。
【0065】
本発明は、これまでよりもはるかに簡単に極インサートを取り外し、再び挿入できるため、従来技術の解決策よりもかなり有利である。従って、与えられた時間内により多くの反復作業を実行可能であり、これにより、従来技術のサイクロトロンよりもそれらの目標の近くで作動する費用対効果に優れたサイクロトロンが生産されることになる。
【0066】
図8は、本発明によるサイクロトロンの磁極の好ましい実施形態の例を示す。この実施形態では、上側周囲縁部3upは、第1および第2の上側遠位端によって境界を定められ、山セクタの上側周囲縁部は円弧3acを含み、円弧3acは、その中心が中心軸に対してオフセットされ、およびその半径Rhが、中心軸から、第1および第2の上側遠位端まで等距離である上側周囲縁部の中間点までの距離Lhの85%以下である(Rh/Lh≦85%)。
【0067】
好ましくは、距離Lhに対する半径Rhの比率Rh/Lhは、75%以下(Rh/Lh≦75%)、より好ましくは65%以下(Rh/Lh≦65%)である。
【0068】
中心が中心軸に対してオフセットされた円弧を含む上側周囲縁部を有する目的は、上側周囲縁部の少なくとも一部を、サイクロトロンの山ギャップ部分7h内の螺旋経路12の最大エネルギー(=最終)の軌道に相似的に近づけることである。「軌道に相似的に近づける」は、上側周囲縁部の円弧部分および取出し地点に隣接する粒子の最終軌道の両方が、異なる半径で同じ中心を共有する円の弧であることを意味する。従って、この円弧は、取出し地点に直接隣接しかつその上流の前記最終軌道の一部とほぼ平行である。取り出される軌道の経路の長さおよび軌道と上側周囲縁部との間の角度は、取出しシステム(例えば抜取機)の方位角位置と無関係になる。結果として、取り出されるビームの特性は、取出し地点の位置と(ほぼ)無関係である。
【0069】
好ましくは、円弧は、上側周囲縁部の第1の上側遠位端から第2の上側遠位端まで延在し、従って、山セクタの全周囲縁部を画定し、および円弧の中心は上表面の二等分線上にあり、前記二等分線は中心軸と上側周囲縁部の中間点とをつなぐ直線として画定される。
【0070】
好ましくは、周囲表面は、上側周囲縁部に隣接する面取り部を形成する。
【0071】
上に記載したように、サイクロトロンは粒子ビームを所与の経路にわたって第1の取出し地点まで加速し、それにより、粒子ビームを所与のエネルギーでサイクロトロンから排出することができる。有利には、山セクタは2つ以上、例えば2つの取出し地点を含み得る。2つの磁極の中間面MPに関連する2つの対向する山セクタの上側周囲縁部の円弧部分は、第1の取出し地点の直接上流の所与の経路の一部と平行でありかつそれを相似的に再現する。円弧は、周囲縁部全体にわたって所与の経路の一部と同じ中心を共有し、所与の経路の一部と平行である。用語「上流」および「下流」は、粒子ビームの方向に関連して定義される。
【0072】
粒子ビームがその目標エネルギーに到達すると、粒子ビームは取出し地点で取り出され、次いで、取出し地点の下流の取出し経路を辿る。この取出し経路の一部は第1および第2の磁極の間にあり、従って山ギャップ部分内に依然含まれ、磁場にさらされる。対向する山セクタの対が第1および第2の取出し地点を含む場合、粒子ビームを第1もしくは第2の取出し地点またはその両方で取り出すことができる。粒子ビームは、次いで、第1または第2の取出し地点の下流の第1または第2の取出し経路を辿る。本実施形態による上側周囲縁部の少なくとも一部の円形の形状により、第1の取出し地点の下流のギャップ内に含まれる取出し経路の長さL1および第2の取出し地点の下流のギャップ内に含まれる取出し経路の長さL2は実質的に等しい。
【0073】
第1および第2の取出し地点の下流の取出し経路の同じ長さを有する主な利点は、1つの取出し地点から取り出される粒子ビームが第2の取出し地点から取り出されるものと類似した光学特性を有することを保証することである。
【0074】
図9は上で考察した先行実施形態の何れかに従うサイクロトロン用の磁極の好ましい実施形態の例を示す。この例では、各山セクタは、第1および第2の側表面3L、上に定義したものなどの周囲表面3Pをさらに含む。少なくとも1つの山セクタの上表面の上側周囲縁部3upは2つの凸状部分を含み、それらは、対応する山セクタの周囲表面に少なくとも部分的に延在する窪み10を画定する、中心軸に対して凹状の部分によって分離される。
【0075】
用語「凹状」は、内側に湾曲することまたは内側へくり抜かれることを意味する。縁部の中心軸に対して凹状の部分は、中心軸の方に湾曲する縁部の部分である。この用語は、「凸状」の反対であり、「凸状」は外側へ湾曲することまたは中心軸から外方へ延在することを意味する。
【0076】
好ましくは、上側周囲縁部3upは、第1および第2の窪み遠位地点10rdpを含み、それらは窪みの境界を定め、かつ上側周囲縁部の接線がサインを変えるか、または不連続性を示す地点として画定される。第1および第2の窪み遠位地点は、距離L10によって互いに分離される。窪みはまた、中心軸Zの最も近くに位置する窪みの地点として画定される窪み近位地点10rppを含む。第1および第2の窪み遠位地点10rdpは、第1および第2の窪み集束縁部10rcによって窪み近位地点10rppとつながる。窪み深さH10は、第1および第2の窪み遠位地点10rdpと窪み近位地点10rppとによって形成され、かつ窪み近位地点10rppを通過する三角形の平均高さとして定義される。
【0077】
好ましくは、第1および第2の窪み遠位地点間の距離L10は、上側周囲縁部の方位角長さAhの5%〜50%、より好ましくは10%〜30%、最も好ましくは15%〜20%の範囲である。
【0078】
窪みの深さH10は、上側周囲縁部の方位角長さAhの3%〜30%、好ましくは5%〜20%、より好ましくは8%〜15%に含まれる。
【0079】
好ましくは、窪みはまた、上側周囲縁部3upから下側周囲線3lpに向かって周囲表面3Pにわたって中心軸Zと平行に延在する。従って、窪みは、上側周囲縁部と下側周囲線との間で中心軸と平行に測定される周囲表面の高さの画分ζにわたって周囲表面に延在する。画分ζは好ましくは25%〜100%、好ましくは40%〜75%、最も好ましくは45%〜55%に含まれる。
【0080】
先行技術のサイクロトロンでは、突出型グラディエントコレクタが使用された。突出型グラディエントコレクタは、いくつかの欠点を有する:
・真空チャンバの体積の増大、
・ヨークおよびサイクロトロン全体の体積の増大、
・サイクロトロンの重量の増大、
・手動で実行する必要のあるグラディエントコレクタの正確な位置付けの難しさ、
・磁場の外方への偏向。
【0081】
突出型グラディエントコレクタの代わりに窪んだグラディエントコレクタを使用することはいくつかの利点を有する。第1に、これにより、磁極を受け入れる真空チャンバのサイズの低減が可能になり、これにより、真空チャンバから気体を排出するために必要なエネルギーの低減と、気体排出時間の短縮とがもたらされる。第2に、サイクロトロンの全体重量が低減され、なぜなら、一方では山セクタの重量が増大される代わりにわずかに低減されるからであり、他方では磁束反転ヨークの内側表面の直径全体が低減されるからである。第3に、粒子ビームが山セクタの周囲縁部と交差する角度の最適化を可能にする数値的に制御される機械加工により、窪みの位置を正確に形成かつ位置付けすることができる。第4に、突出型グラディエントコレクタが磁場を外側に偏向するとき、磁場は窪んだグラディエントコレクタによって内側に偏向され、その結果、粒子経路の最終サイクルが山セクタの周囲縁部からさらに内側へシフトされ、そこで磁場は周囲縁部の近くよりも均一である。従って、取り出される粒子ビームの特性を制御すること、特にその収束を制御することはより簡単であり、より予測可能である。加速領域に向かうこの偏向はまた、コイルに供給される電力を低減することを可能にする。
【0082】
好ましくは、窪みは概ねくさび形であり、その第1および第2の窪み集束縁部は直線(または内方または外方へわずかに湾曲した)の線である。くさびの先端は窪み近位地点に一致し、中心軸の全体方向を指す。くさびの先端の集束角θは、好ましくは、70°〜130°、より好ましくは80°〜110°、最も好ましくは90°±5°に含まれる。本明細書で使用される表現「内方」および「外方」は、それぞれ中心軸「の方」または「から離れる方」として理解される。
【0083】
窪みの位置は、第1および第2の側縁部から離されることができ、または第1もしくは第2の側縁部に隣接することができる。好ましくは、山セクタは、側縁部から離された少なくとも1つの窪みを含む。
【0084】
より一般的には、くさび形の窪みの集束部分は、以下の形状の1つを有し得る:
・上で考察したくさび状に成形される窪みに対応する、三角形の窪みを形成する鋭角コーナー部分、
・台形状に窪んだくさびを形成する直線縁部、または
・丸みを帯びた縁部のくさび。
【0085】
好ましくは、取出し地点は、対向する山セクタの対の周囲縁部に隣接して山ギャップ部分内に配置される。窪みは、前記第1の取出し地点の下流に配置される。ここで、下流は粒子ビームの方向に関連して定義される。窪みは、粒子ビームが第1の集束窪み縁部と90°±15°の角度で交差するように、取出し地点に対しておよび取出し経路に対して正確に機械加工され、前記第1の集束窪み縁部は第1の窪み遠位地点10rdpと窪み近位地点10rppとをつなぐ縁部として画定される。粒子ビームは、従って、磁場に対してほぼ直角に山セクタから離れ、これは出ていく粒子ビームの収束を改善する。窪みの位置および形状は、数値的な計算および/または試験によって決定される。
【0086】
要約すると、本発明は、取出し、機械加工および窪みへの再挿入のために、極インサートに簡単かつ直接的にアクセスするという利点を提供する。本発明によれば、従って、予想される磁場および粒子経路をもたらす最適なインサートトポグラフィを得ることがはるかにより簡単であり、かつ効率的である。
【解決手段】中心軸Zの周囲に交互に分散された山セクタおよび谷セクタを含む等時性セクタ収束型サイクロトロン用の磁極であって、少なくとも1つの山セクタの上表面は、上側周囲縁部および上側中心縁部と交差する長手方向軸に沿って近位端と遠位端との間の長さにわたって延在する窪みが設けられ、その窪みに極インサート9が可逆的に結合される。