(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6227832
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】滑り止め装置及び滑り止めシステム
(51)【国際特許分類】
B60C 27/02 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
B60C27/02
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-142804(P2017-142804)
(22)【出願日】2017年7月24日
【審査請求日】2017年7月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517259324
【氏名又は名称】株式会社SHINSEI TRANSPORT
(74)【代理人】
【識別番号】100153268
【弁理士】
【氏名又は名称】吉原 朋重
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 修
【審査官】
高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−348519(JP,A)
【文献】
実開昭62−000008(JP,U)
【文献】
特開2017−088079(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3124113(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 27/00−27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車が装着するホイールを利用して取り付ける滑り止め装置であって、
合成繊維のベルト形状を成し、前記ホイールの表裏を貫通する1つの孔に通すベルト部と、
前記ベルト部の一方端部に配置され、ラチェット機構を利用して前記ベルト部の他方端部を巻き込み、締め付けることによって、当該滑り止め装置を前記ホイール及び前記ホイールに装着されるタイヤ周囲の幅方向に固定するための締め付け部と、
前記ベルト部と一体的に設置される部位であって、前記締め付け部及び前記ベルト部を前記孔に通した後、前記締め付け部によって当該滑り止め装置を固定するときに前記タイヤのトレッド部位に位置するように配置され、前記タイヤの幅と同程度の長さであり、前記タイヤのグリップ力を高める機能を発揮する合成樹脂製の滑り止め部と、を有し、
前記締め付け部が、前記ホイールと接触する部位に、前記締め付け部と前記ホイールとの接触による衝撃を緩和するための緩衝部材であるホイール保護部を有することを特徴とする滑り止め装置。
【請求項2】
前記滑り止め部が、前記トレッドの曲面に沿った形状を成すことを特徴とする請求項1に記載の滑り止め装置。
【請求項3】
前記滑り止め部が、中央部位、前方部位及び後方部位を備え、前記中央部位が、前記ベルト部上に配置され、前記前方部位及び前記後方部位が、前記中央部位に関して前後対称位置に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の滑り止め装置。
【請求項4】
前記ベルト部及び前記締め付け部が、所謂エンドレスタイプのラチェットバックル式ラッシングベルトであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の滑り止め装置。
【請求項5】
前記締め付け部が、前記孔に通すことができる大きさであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の滑り止め装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一に記載の滑り止め装置複数個から成り、
前記ホイールに円周状に前記孔が複数設けられているとき、1つの前記孔に、1個の前記滑り止め装置を設置することを特徴とする滑り止めシステム。
【請求項7】
前記ホイール及び前記タイヤに設置された全ての前記滑り止め装置を前記孔付近で連結する飛散防止部を有することを特徴とする請求項6に記載の滑り止めシステム。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れか一に記載の滑り止め装置に関し、
手に持った前記締め付け部を前記タイヤの裏側に回す工程と、
前記タイヤの裏側に回した前記締め付け部を、前記孔に、前記ホイールの裏面から表面の方向へ通す工程と、
前記孔を通って表側に出た前記締め付け部に前記ベルト部の他方端部を巻き込み、前記滑り止め部が前記トレッド部位に配置されるように、ラチェット機構を利用して前記ベルト部を締め付け、前記滑り止め装置を前記タイヤ及び前記ホイールに固定する工程と、を含む滑り止め装置の装着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車のタイヤに装着する、自動車用の滑り止め装置の技術に関する。特に、大型・貨物自動車用の滑り止め装置として好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
雪や泥でぬかるんだ場所や凍結した場所を自動車で走行するとき、タイヤがグリップ力を失い、正常走行ができなかったり制御不能となったりする事態を回避するために、タイヤに滑り止め装置を装着する。そうすることにより、タイヤはグリップ力が向上し、スリップのリスクを低減させることができる。
上記のような滑り止め装置に関しては、対地グリップ力、堅牢性、装着容易性などの様々な観点における研究・開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、スリップを防止するために駆動輪へ容易に装着することができるようにした車両用滑り止め装置が提案され、特許文献2では、タイヤへの装着が簡単で、緩みがなく、各クロスチェーンを、タイヤのトレッド面を直角に跨ぐように配置させて、確実な滑り止め効果を得ることができるタイヤ滑り止めチェーンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−329529号公報
【特許文献2】特開2004−330897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術に係る滑り止め装置においては、自動車用タイヤへの装着容易性の観点から改善の余地があるという問題点がある。
【0006】
また、上記の従来技術に係る滑り止め装置においては、装着する自動車・タイヤ・ホイール及び走行する道路への接触によって、接触したものを傷つけてしまうおそれが有るという問題点がある。
【0007】
そこで本発明では、上記問題点に鑑み、表裏を貫通する孔を備えたホイールを付ける自動車用タイヤへの装着作業が容易であると共に、装着する自動車・タイヤ・ホイール及び走行する道路へ与えるダメージが小さい滑り止め装置及び滑り止めシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示する滑り止め装置の一形態は、自動車が装着するホイールを利用して取り付ける滑り止め装置であって、合成繊維のベルト形状を成し、前記ホイールの表裏を貫通する1つの孔に通すベルト部と、前記ベルト部の一方端部に配置され、ラチェット機構を利用して前記ベルト部の他方端部を巻き込み、締め付けることによって、当該滑り止め装置を前記ホイール及び前記ホイールに装着されるタイヤ周囲の幅方向に固定するための締め付け部と、前記ベルト部と一体的に設置される部位であって、前記締め付け部及び前記ベルト部を前記孔に通した後、前記締め付け部によって当該滑り止め装置を固定するときに前記タイヤのトレッド部位に位置するように配置され、前記タイヤの幅と同程度の長さであり、前記タイヤのグリップ力を高める機能を発揮する合成樹脂製の滑り止め部と、を有
し、前記締め付け部が、前記ホイールと接触する部位に、前記締め付け部と前記ホイールとの接触による衝撃を緩和するための緩衝部材であるホイール保護部を有することを特徴とする。
また、開示する滑り止め装置の一形態は、上記構成に加え、前記滑り止め部が、前記トレッドの曲面に沿った形状を成すことを特徴とする。
【0009】
また、開示する滑り止め装置の一形態は、上記構成に加え、前記滑り止め部が、中央部位、前方部位及び後方部位を備え、前記中央部位が、前記ベルト部上に配置され、前記前方部位及び前記後方部位が、前記中央部位に関して前後対称位置に配置されることを特徴とする。
【0011】
また、開示する滑り止め装置の一形態は、上記構成に加え、前記ベルト部及び前記締め付け部が、所謂エンドレスタイプのラチェットバックル式ラッシングベルトであることを特徴とする。
また、開示する滑り止め装置の一形態は、上記構成に加え、前記締め付け部が、前記孔に通すことができる大きさであることを特徴とする。
【0012】
開示する滑り止めシステムの一形態は、上記構成の滑り止め装置複数個から成り、前記ホイールに円周状に前記孔が複数設けられているとき、1つの前記孔に、1個の前記滑り止め装置を設置することを特徴とする。
【0013】
また、開示する滑り止めシステムの一形態は、上記構成に加え、前記ホイール及び前記タイヤに設置された全ての前記滑り止め装置を前記孔付近で連結する飛散防止部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
開示する滑り止め装置は、表裏を貫通する孔を備えたホイールを付ける自動車用タイヤへの装着作業が容易であると共に、装着する自動車・タイヤ・ホイール及び走行する道路へ与えるダメージが小さい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態に係る滑り止め装置の全体を説明するための図である。
【
図2】本実施の形態に係る滑り止め装置を装着するホイール及びタイヤの一例を示す図である。
【
図3】本実施の形態に係る滑り止め装置を装着するホイール及びタイヤの一例を示す図である。
【
図4】本実施の形態に係るラチェット機構の一例を示す図である。
【
図5】本実施の形態に係る滑り止め装置をホイール及びタイヤに装着した状態を示す図である。
【
図6】本実施の形態に係る滑り止め装置をホイール及びタイヤに装着した状態を示す図である。
【
図7】本実施の形態に係る滑り止めシステムをホイール及びタイヤに装着した状態を示す図である。
【
図8】本実施の形態に係る滑り止め装置をホイール及びタイヤに装着する手順を説明する図である。
【
図9】本実施の形態に係る滑り止め装置をホイール及びタイヤに装着する手順を説明する図である。
【
図10】本実施の形態に係る滑り止め装置をホイール及びタイヤに装着する手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
(本実施の形態に係る滑り止めシステムの構造)
【0017】
図1乃至7用いて、本実施の形態に係る滑り止めシステム1の構造について説明する。滑り止めシステム1は、自動車のタイヤ(1つの車輪に対してタイヤが複数本ある場合は、最外側のタイヤ)30に装着する自動車用滑り止め装置であり、特に、大型・貨物自動車の滑り止め装置として好適である。
【0018】
滑り止めシステム1は、複数の滑り止め装置2を組み合わせて構成されるため、初めに、滑り止めシステム1の構成要素である滑り止め装置2の構造について説明する。
【0019】
図1で示すように、滑り止め装置2は、ベルト部4、締め付け部10、滑り止め部14、ホイール保護部22を有する。
図2及び3で示すように、滑り止め装置2は、自動車が装着するホイール26の表裏面を貫通する孔28を利用して自動車用タイヤ30に取り付ける装置であって、タイヤ30のグリップ力を向上させるための装置である。
【0020】
ベルト部4は、合成繊維を材料とするベルト形状を成し、ホイール26の表裏を貫通する1つの孔28に通す部位である。合成繊維とは、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、ポリウレタン等、有機低分子を重合させて作った高分子を原料とする化学繊維であり、強度、コスト等の条件に鑑み、適切なものが選択される。
【0021】
締め付け部10は、ベルト部4の一方端部6に設けられ、ラチェット機構12を利用してベルト部4の他方端部8を巻き込み、ベルト部4を締め付ける(巻き取る)ことによって、滑り止め装置2をホイール26及びホイール26に装着されるタイヤ30周囲の幅方向に固定するための部位である。
図4で示すように、ラチェット機構12とは、輸送時などにおける荷崩れ防止の目的で使用されるラチェットバックル式ラッシングベルトのラチェットバックルと呼ばれる部位を指している。
なお、ベルト部4及び締め付け部10は、孔28に通して使用するため、孔28に通すことができる程度の大きさである必要がある。
また、ベルト部4及び締め付け部10は、所謂エンドレスタイプのラチェットバックル式ラッシングベルトを転用する形態であっても良い。
【0022】
滑り止め部14は、タイヤ30のグリップ力を高める機能を発揮する部位である。滑り止め部14は、ベルト部4と一体的に設置される部位であって、締め付け部10及びベルト部4を孔28に通した後、締め付け部10によって滑り止め装置2をホイール26及びタイヤ30に固定するときにタイヤ30のトレッド部位32に位置するように配置される。滑り止め部14は、タイヤ30の幅と同程度の長さである。
【0023】
滑り止め部14は、作業用容易性の向上を図るために軽量化し、また、自動車・タイヤ・ホイール及び走行する道路への接触時の衝撃を下げるために、合成樹脂製であることが好適である。
滑り止め部14は、自動車の走行の妨げとならないように、トレッド32の曲面に沿った形状を成していることが好適である。
【0024】
図1で示すように、滑り止め部14は、中央部位16、前方部位18、後方部位20の3つの部位で構成され、中央部位16は、ベルト部4上に配置され、前方部位18及び後方部位20は、中央部位16に関して前後対称位置に配置されることが好適である。タイヤ30のグリップ力を高めるためである。
【0025】
ホイール保護部22は、締め付け部10がホイール26と接触する部位に配置される部位であって、締め付け部10とホイール26とが接触し、ホイール26を傷付けてしまうことを防止するために設けられる部位である。つまり、ホイール保護部22は、締め付け部10による衝撃を緩和するための緩衝部材である。
【0026】
図5及び6で示すように、滑り止め装置2は、ホイール26が備える1つの孔28を利用して、タイヤ30周囲に装着(固定)する形態である。このようにして、自動車に滑り止め装置2を装着する作業の容易化を図っている。また、滑り止め装置2は、ベルト部4に合成繊維を使用し、滑り止め部14に合成樹脂を使用することによって装置全体を軽量化し、それによっても装着作業の容易化を図っている。
なお、自動車がぬかるみ等軟弱地に嵌ったとき、その状態から脱出するためには、1つの滑り止め装置2を装着するだけでも一定の効果が期待できる。
【0027】
図7で示すように、滑り止めシステム1は、ホイール26が円周状に複数の孔28を有し、1つの孔28につき、1個の滑り止め装置2を設置するとき、この1本のタイヤ30に装着される複数の滑り止め装置2によって構成される。個々の滑り止め装置2は軽く、装着する作業が容易であるため、容易な作業を繰り返すことによって、滑り止めシステム1をタイヤ30に容易に装着可能である。こうすることによって、タイヤ30のトレッド32全体に滑り止め部14を配置させることができ、タイヤ30のグリップ力を定常的に向上させることができる。
【0028】
図7で示すように、滑り止めシステム1は、ホイール26及びタイヤ30に設置された全ての滑り止め装置2を孔28付近で連結する飛散防止部24を有する。飛散防止部24は、滑り止め装置2が破損等によってホイール26及びタイヤ30から脱落することを防止することを目的とする部位である。
(本実施の形態に係る滑り止めシステムの使用方法)
【0029】
図1乃至10を用いて、滑り止めシステム1の使用方法(装着方法)について説明する。
図2及び3で示すように、滑り止めシステム1の構成要素である滑り止め装置2は、表裏面を貫通する孔28を備えるホイール26及びホイール26に装着するタイヤ30に取り付ける。また、滑り止めシステム1は、複数の滑り止め装置2によって構成されるが、はじめに、個々の滑り止め装置2の装着方法について説明する。滑り止めシステム1を装着するには、1つの孔28につき1つの滑り止め装置2を装着する作業を、ホイール26が備える孔28の数の回数だけ繰り返せば良い。
図8で示すように、使用者は、手に持った締め付け部(ラチェットバックル)10をタイヤ30の裏側に回す。
図8及び9で示すように、使用者は、次に、タイヤ30の裏側に回した締め付け部10を、1つの孔28に、ホイール26の裏面から表面の方向へ通す。
図9及び10で示すように、使用者は、次に、ホイール26の表側へ出てきた締め付け部10に、ベルト部4の他方端部8を巻き込ませる。
【0030】
図5、6及び10で示すように、使用者は、次に、滑り止め部14がタイヤ30のトレッド部位32に配置されるように、締め付け部10のラチェット機構12を利用してベルト部4を締め付け、滑り止め装置2をタイヤ30及びホイール26に固定する。
【0031】
そして、
図7で示すように、使用者は、次に、他の滑り止め措置2について、上記した装着作業を実施し、同作業を繰り返すことによって、タイヤ30のトレッド32全面に渡って滑り止め部14が配置されるようになる。
【0032】
上記のように、個々の滑り止め装置2を装着する作業が容易であるため、滑り止めシステム1は、この容易な作業を繰り返すことによって、タイヤ30に容易に装着可能である。このように、滑り止めシステム1は、タイヤ30のトレッド32全体に滑り止め部14を配置させることができ、タイヤ30のグリップ力を定常的に向上させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 滑り止めシステム
2 滑り止め装置
4 ベルト部
6 ベルト部の一方端部
8 ベルト部の他方端部
10 締め付け部
12 ラチェット機構
14 滑り止め部
16 中央部位
18 前方部位
20 後方部位
22 ホイール保護部
24 飛散防止部
26 ホイール
28 孔
30 タイヤ
32 タイヤのトレッド部位
34 タイヤ周囲の幅方向
【要約】
【課題】
開示の装置は、表裏を貫通する孔を備えたホイールを付ける自動車用タイヤへの装着作業が容易であると共に、装着する自動車・タイヤ・ホイール及び走行する道路へ与えるダメージが小さい。
【解決手段】
開示の装置は、自動車が装着するホイールを利用して取り付ける滑り止め装置であって、合成繊維のベルト形状を成し、ホイールの表裏を貫通する1つの孔に通すベルト部と、ベルト部の一方端部に配置され、ラチェット機構を利用してベルト部の他方端部を巻き込み、締め付けることによって、当該装置をホイール及びホイールに固定するための締め付け部と、ベルト部と一体的に設置される部位であって、締め付け部によって当該装置を固定するときにタイヤのトレッドに位置するように配置され、タイヤの幅と同程度の長さであり、タイヤのグリップ力を高める機能を発揮する合成樹脂製の滑り止め部と、を有する。
【選択図】
図5