(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高次倍音成分を付加するためのジャワリと呼ばれるブリッジと、共鳴弦を持つ楽器としては、インド古典楽器のシタールが知られている他、特許文献1に開示されている装置を取り付けたヴィオール族の楽器がある。シタールや、特許文献1に開示されている装置を取り付けた楽器は、直接演奏するための主弦と、主に共鳴させるための共鳴弦を備え、共鳴弦の一端をジャワリブリッジが支える。
【0003】
ジャワリブリッジは、共鳴弦との接触面が、僅かに湾曲する凸曲面であることを特徴としており、弦の振動時に、弦振動の端部となる第1支持点に加え、前記第1支持点よりも振動側の位置で、弦を凸曲面と接触させることにより、高次倍音成分の付加された弦振動音を発生させる。その構造については、特許文献1の他、特許文献2や、特許文献3等にも開示されている。
【0004】
共鳴弦は、このジャワリブリッジに支えられなければ、主弦で弾かれた音の残響を響かすのみだが、共鳴弦がこのジャワリブリッジに支えられることにより、高次倍音成分の付加された共鳴音が、主弦で弾かれた音から遅れたタイミングで立ち上がるように響く。
【0005】
例えば、特許文献3には、弦を支持するブリッジ上面(サドル部材上面)が弦方向に沿って緩やかな曲面形状に形成され、弦の振動時に、振動終端となる第1接触位置(弦第1支持点)とその位置よりも振動側の少なくとも一箇所以上の第2接触位置の合計二箇所以上で接触することにより、高次成分の豊富な倍音が発生する旨説明されている。
【0006】
また、高次倍音成分が付加された持続音を鳴らし続けるための楽器に、インド古典楽器のタンブーラがある。タンブーラは、通常、4〜5本の弦と、ジャワリブリッジとを有し、これらの弦を、演奏者が、ほぼ一定のリズムで順番に鳴らし続け、高次倍音成分が複雑に絡み合った持続音を響かせる。
【0007】
しかし、従来のシタールや、特許文献1に開示されている装置を取り付けたヴィオール族の楽器は、その楽器の主弦を弾くことによってのみ、高次倍音成分が付加された共鳴音を発生させることが可能であり、楽器の外部からの音では、高次倍音成分の付加された共鳴音を十分に発生させることはできない。
【0008】
つまり、主弦の音に反応して、高次倍音成分の付加された音が立ち上がるという優れた効果をもつにもかかわらず、これを扱うには、この弦楽器を演奏する専門的な技術が必要とされるために、この効果を発生させて楽しむことができるのは、ごく一部の演奏家に限られていた。これらの弦楽器の演奏技術を持たない者が、高次倍音成分が付加された共鳴音を発生させて楽しむことはできなかった。しかも、主弦の音が小さいときには、高次倍音成分が付加された共鳴音を十分に発生させることはできない。
【0009】
また、多くの弦が楽器の外側に露出しており、弦の端の尖った部分に触れてけがをする危険がある他、弦が切れたときに、はじけた弦でけがをする危険もある。しかも、多くの弦が楽器の外側に露出しているために、楽器のボディ部を手入れしづらいという難点もある。
【0010】
更に、タンブーラでは、ほぼ一定のリズムで弦を、順番に鳴らし続ける演奏者を必要とする。もし、そのような演奏者を必要としないで、タンブーラに特有の、高次倍音成分が複雑に絡み合った持続音を響かせることができれば、それは好ましいことである。
【0011】
次に、特許文献4には、弦と、電磁励振器と、駒とを含む弦楽器であって、電磁励振器は制御装置からの指令信号によって駆動されて弦を励振する弦楽器が記載されている。
【0012】
特許文献4の弦楽器では、指でキーを打鍵し、打鍵に追従して動作するハンマによって弦を打弦して振動させた後、電磁励振器からの誘導磁界により弦の振動状態を変更し、弦の音色等を変更するようにしたものである。制御装置からの指令により、電磁励振器の励磁周波数が制御されること、振動している弦に、電磁励振器からの誘導磁界を与えると、弦の振動状態が変化すること、ある一定の振動状態にある弦における、所定の倍音を生む高周波の弦振動の腹に相当する部分に電磁励振器を移動させて対応させ、そこに誘導磁界を付与することによってその倍音を強調または減衰させることができること、誘導磁界を弦振動と同位相の誘導周波数とすることにより弦振動を増幅し、逆に、誘導磁界を弦振動と逆位相とすることにより弦振動を減衰させ得ること、等が記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献4は、基本的には、キーを指で打鍵し、打鍵に追従して動作するハンマにより、弦を打弦して振動させた後、電磁励振器からの誘導磁界により弦の振動状態を変更し、弦の音色等を変更するようにしたものである。したがって、特許文献4の場合も、この弦楽器を演奏する専門的な技術が必要とされるのであって、演奏技術を持たない者が、特許文献4に記載された音響的効果を享受することはできない。この点で、特許文献4に記載された技術は、特許文献1〜3に挙げた先行技術と、何ら異なるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、演奏技術をもたない者でも、高次倍音成分の付加された音、残響音、または、持続音等を楽しむことの可能な弦楽器を提供することである。
【0016】
本発明のもう一つの課題は、高次倍音成分の付加された音、残響音、または持続音を、簡単、かつ、十分に発生させ得る弦楽器を提供することである。
【0017】
本発明の更にもう一つの課題は、安全性の高い弦楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題の少なくとも1つを解決するため、本発明に係る弦楽器は、ボディ部と、複数の弦と、弦励振部と、ブリッジとを含む。前記ボディ部は、前記弦、前記弦励振部及び前記ブリッジを支持しており、前記弦は、第1支持点と第2支持点との間の間隔によって定まる弦長を有しており、前記弦励振部は、電気信号によって駆動され、前記電気信号に応じて前記弦を励振する。本発明に係る弦楽器は、上記構成において、次の発明特定事項(a)〜(d)の何れかを満たす。
【0019】
(a)前記ブリッジは、前記第1支持点と、前記第1支持点よりも前記第2支持点側にあって前記弦の振動時に前記弦の接触する面とを有している。
(b)前記ブリッジは、前記第1支持点と、前記第1支持点よりも前記第2支持点側にあって前記弦の振動時に前記弦の接触する面とを有しており、
前記ボディ部は、内部空間を有しており、
前記弦、前記弦励振部及び前記ブリッジは、前記ボディ部の前記内部空間内に配置されている。
(c)前記ブリッジは、前記第1支持点と、前記第1支持点よりも前記第2支持点側にあって前記弦の振動時に前記弦の接触する面とを有しており、
前記弦及び前記ブリッジは、前記ボディ部の外面に配置されている。
(d)前記ブリッジは、前記第1支持点を有し、前記第1支持点よりも前記第2支持点側に、前記弦の振動時に前記弦の接触する部分を持たない構造であり、
前記ボディ部は、内部空間を有しており、
前記弦、前記弦励振部及び前記ブリッジは、前記ボディ部の前記内部空間に配置されている。
【0020】
本発明に係る弦楽器は、発明特定事項(a)〜(d)の何れを満たす場合でも、弦励振部は、電気信号によって駆動され、電気信号に応じて弦を励振するから、声や、演奏しやすい任意の楽器などの様々な音を、音声電気信号として、弦励振部に供給することにより、演奏技術をもたない者でも、声や、演奏しやすい任意の楽器などの様々な音を使って、本発明に係る弦楽器から生じた音響を楽しむことができる。これは、演奏者を必要とする特許文献4からは予測できない作用効果である。また、高次倍音成分の付加された音、残響音、または持続音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
【0021】
発明特定事項(a)〜(c)を満たす場合、ブリッジは、第1支持点と、第1支持点よりも第2支持点側にあって弦の振動時に弦の接触する面とを有しているから、弦励振部からの励振周波数が、弦の固有共振周波数もしくはその倍音周波数と一致しているか又は近接していると、弦励振部からの励振周波数に弦が共振して振動し、弦が、その振動によってブリッジの面に複雑に接触し、弦振動にさまざまな次数の高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。したがって、演奏技術をもたない者でも、インド古典楽器のシタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。なお、弦の振動周波数は、弦長、張力及び線密度等によって定まる。
【0022】
発明特定事項(b)を満たす場合、弦、弦励振部及びブリッジは、ボディ部の内部空間に配置されるから、弦の端の尖った部分に触れてけがをする危険がなくなるほか、弦が切れたときに、はじけた弦でけがをする危険も無くなる。また、ボディ部の手入れが容易になるという利点も得られる。
【0023】
更に、発明特定事項(d)を満たす場合、ブリッジは、第1支持点を有するが、第1支持点よりも第2支持点側に、弦の振動時に弦の接触する部分を持たないから、弦励振部から与えられる種々の励振周波数に共鳴して弦に生じた弦振動音による、残響音を楽しむことができる。
【0024】
しかも、弦、弦励振部及びブリッジは、ボディ部の内部空間に配置されているから、弦の端の尖った部分に触れてけがをする危険がなくなるほか、弦が切れたときに、はじけた弦でけがをする危険も無くなる。また、ボディ部の手入れが容易になるという利点も得られる。
【0025】
更に、本発明に係る弦楽器において、弦励振部は、励振器とともに、変換器を含む構成とすることもできる。前記励振器は、前記弦の弦単線毎に備えられ、前記弦単線を個別に励振する。前記変換器は、前記弦の弦単線毎に備えられ、その振動を電気信号に変換する。このタイプの弦楽器では、弦単線に僅かな振動が生じると、その振動が変換器によって検出され、変換器によって電気信号に変換される。その電気信号は、増幅回路等を経て、当該弦単線に備えられた励振器にフィードバックされる。励振器は、フィードバック信号によって当該弦単線を励振する。これにより、正帰還型の発振回路が形成される。
【0026】
上述した発振回路によると、弦を鳴らしていない状態であっても、正帰還ループ内で起こるノイズなどをトリガ信号として、正帰還が起こり、弦の固有共振周波数又はその倍音周波数で振動を始める。振動し始めた弦は、その振動を一定の振幅まで成長させるため、弦振動の音が、わき上がるように響く。一定の振幅まで成長し、安定状態に達すると、その安定状態で、弦振動は持続される。動作を停止すると、弦振動は減衰して鳴り止む。
【0027】
ブリッジが、発明特定事項(a)〜(c)に特定された構造、即ち、第1支持点と、第1支持点よりも第2支持点側にあって弦の振動時に弦の接触する面を有する場合には、発振回路の発振周波数によって定まる振動音に、高次倍音成分の付加された持続音を発生する。ブリッジが、発明特定事項(d)に特定された構造、即ち、第1支持点を有するが、第1支持点よりも第2支持点側に、弦の振動時に弦の接触する部分を持たない構造である場合には、弦振動による持続音を発生する。なお、発明特定事項(a)〜(d)を有する弦楽器を組み合わせてもよい。
【0028】
本発明において、弦励振部は、電磁コイル、圧電振動子、磁歪振動子、超磁歪振動子、ボイスコイル型励振器、またはスピーカ等によって構成される。これらは、その性質に反しない限り、相互に置換することが可能である。したがって、以下に示す各種の実施の形態において、図示された一つの実施形態は、図示されていない他の励振器の形態をも示唆するものと解釈されなければならない。また、変換器は、好ましくは、非接触型の振動検出センサで構成される。その好ましい一例は、電磁コイルである。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(a)演奏技術をもたない者でも、高次倍音成分の付加された音、残響音、または、持続音等を楽しむことの可能な弦楽器を提供することができる。
(b)高次倍音成分の付加された音、残響音、または、持続音を、簡単、かつ、十分に発生させ得る弦楽器を提供することができる。
(c)安全性の高い弦楽器を提供することができる。
【0030】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】
図1に示した弦楽器を裏面側から見た斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2に示した弦楽器の裏面板を取り除いて示した斜視図である。
【
図4】
図3に示した状態で、ブリッジの部分を拡大して示す図である。
【
図5】
図4に示したブリッジと弦との関係を示す図である。
【
図6】本発明に係る弦楽器の別の例を示す図で、裏面板を取り除いて示した斜視図である。
【
図7】
図6に示した弦楽器のブリッジの部分を拡大して示す図である。
【
図8】本発明に係る弦楽器に用いられるブリッジの他の例を示す図である。
【
図9】本発明に係る弦楽器の別の実施例における弦励振部を示す図である。
【
図10】本発明に係る弦楽器の別の実施例を示す外観斜視図である。
【
図11】
図10に示した弦楽器を裏面側から見た斜視図で、裏面板を取り除いて示してある。
【
図12】
図10及び
図11に示した弦楽器を長手方向の任意の位置で切断して示す斜視図である。
【
図13】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例を示す外観斜視図である。
【
図14】
図13に示した弦楽器の弦励振部を拡大して示す斜視図である。
【
図15】本発明に係る弦楽器の別の例を示す図で、裏面板を取り除いて示した斜視図である。
【
図16】
図15に示した弦楽器の弦励振部を拡大して示す斜視図で、側面板を取り除いて示してある。
【
図17】本発明に係る弦楽器の別の実施例における弦励振部及びブリッジの部分を示す図である。
【
図18】
図17に示した弦励振部及びブリッジの部分を拡大して示す図である。
【
図19】弦楽器の弦励振部の他の例を、側面板を省略したうえで、拡大して示す斜視図である。
【
図20】
図19に示した弦励振部の状態を上面側から見た斜視図である。
【
図21】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例における弦励振部を拡大して示す外観斜視図である。
【
図22】
図21の弦励振部を構成するのに適した励振器(ボイスコイル)の一例を示す断面図である。
【
図23】弦励振部を構成する励振器(ボイスコイル)の別の例を示す断面図である。
【
図24】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例を、側面板を省略して示す斜視図である。
【
図25】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例を示す斜視図である。
【
図26】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例を示す外観斜視図である。
【
図27】
図26に示した弦楽器を、裏面板を取り除いて示す斜視図である。
【
図28】
図27に示した弦楽器の弦励振部を拡大して示す斜視図である。
【
図29】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例を示す外観斜視図である。
【
図30】
図29に示した弦楽器を、裏面板を取り除いて示す斜視図である。
【
図31】本発明に係る弦楽器の別の実施例を示す図で、裏面板を取り除いて示した斜視図である。
【
図32】
図31に示した弦楽器のブリッジの状態を拡大して示す斜視図である。
【
図33】
図32に示したブリッジと、弦との関係を示す図である。
【
図34】本発明に係る弦楽器の更に別の実施例を示す図で、裏面板を取り除いて示した斜視図である。
【
図35】
図34に示した弦楽器の励振・ピックアップ構造を拡大して示す斜視図である。
【
図36】
図35に示した励振・ピックアップ構造を側面側から見た図である。
【
図37】
図1〜
図33に示した弦楽器及び電子回路と、その音響情報の流れを示すブロック図である。
【
図38】
図37に示した弦楽器及び外部電気・電子回路と、音響情報の流れを示すブロック図である。
【
図39】
図34〜
図36に示した弦楽器及び電子回路と、その音響情報の流れを示すブロック図である。
【
図40】
図39に示した弦楽器及び外部電気・電子回路と、その音響情報の流れを示すブロック図である。
【
図41】
図39に示した電子回路の一部を抽出して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1〜
図41を通して、互いに対応する部分については、同一の参照符号を付し、重複説明を省略することがある。
図1〜
図41のうち、
図1〜
図30は、ジャワリブリッジを用いた弦楽器(第1のタイプと称する)の例を示し、
図31〜
図33は、ジャワリブリッジを用いない弦楽器(第2のタイプ)の例を示し、
図34〜
図36は発振回路を用いた弦楽器(第3のタイプ)の例を示す。
【0033】
1.第1のタイプ
第1のタイプについて、まず、
図1〜
図5を参照するに、図示の弦楽器は、ボディ部1と、複数の弦3と、弦励振部5と、ブリッジ7とを含む。ボディ部1は、内部空間100と、内部空間100を画定する表面板101、裏面板102及び4枚の側面板103〜106を有する。もっとも、内部空間100及びそれを画定する裏面板102及び側面板103〜106の全てを備えることは、必ずしも必須ではない。
【0034】
内部空間100を画定する表面板101〜106は、一般には木製であるが、その一部又は全体が金属、非金属又はそれらの材料を組み合わせた複合材料で構成されていてもよい。非金属材料には、カーボン・グラファイト、グラスファイバ等の合成繊維もしくは合成樹脂またはそれらの複合材料等が含まれる。これらの材料のラミネート板等を用いることもできる。
【0035】
ボディ部1は、この実施例では、六面体状であるが、それに限定する趣旨ではない。内部空間100を持たない平板状であってもよいし、外形形状が曲面等を含む他の形状であってもよい。更に、ボディ部1は、ある部分では、音響効果を高めるのに適した薄い厚みとし、他の部分では、厚みを増大させ、機械的強度を増加させる等の処理が施される。もっとも、弦楽器自体から生じる音に依拠せずに、弦3に生じた振動を電気・電子回路によって増幅する等して、外部に出す場合には、ボディ部1を、薄い部分を設けずに、全体として厚くして、機械的強度を優先させる構造としてもよい。この構造は、ボディ部1を、外部からの音圧の影響を受けにくい構造とする場合も有効である。
【0036】
表面板101〜106のうち、表面板101には、小窓154が開けられている。表面板101の端には、チューニング・ペグ9が配置されている。チューニング・ペグ9は、表面板101を貫通して取り付けられ、表面板101の外側にペグ901〜912のつまみ部が配置されている。実施例では、表面板101に小窓154が設けられているから、小窓154を通して、指先で各弦を鳴らしながらチューニング用のペグ901〜912を使って調弦することができる。ペグ901〜912は、弦3の本数に合わせて備えられる。したがって、弦3の本数が変われば、ペグ901〜912の数も変わる。この実施例では、12本の弦単線301〜312が備えられているから、12本のペグ901〜912が備えられている。
【0037】
表面板101と向き合う裏面板102の外面には、三角形の3頂点に立つ3つの脚部151〜153が立設されている。この3つの脚部151〜153によってボディ部1を支えることにより、設置面に歪みがあったとしても、必ず全ての脚部151〜153が設置面と接触して支える。
【0038】
4つの側面板103〜106のうち、側面板105には、電源スイッチ兼入力ボリューム用のポット121、オリジナル・ボリューム用のポット122、出力ボリューム用のポット123、入力ジャック131、出力ジャック132、電源ジャック133が配置されている。電源ジャック133から電源を供給する構造の他、電池を内蔵する構造や、電源ジャック133から充電可能なバッテリを内蔵する構造等を採用することもできる。
【0039】
弦3、弦励振部5及びブリッジ7は、ボディ部1の内部空間100に配置されている。まず、弦3は、12本の弦単線301〜312を、間隔をおいて平行配置したものである。したがって、12音平均律の各音に調律することができる他、音階の中の特徴的なピッチについて、複数の弦が同じ音程を受け持つことにより、特定の音階に調律することもできる。また、微分音程からなる任意の音律に調律することもできる。もっとも、弦単線301〜312の本数は増減できる。
【0040】
実施例に示す弦3は、磁性金属線であるが、実施の形態によっては、非磁性線を用いることもできる。弦3の弦単線301〜312は、一端が、側面板106の側において、表面板101の内面に設けたテールピース142によって固定され、表面板101の内面に添って、側面板106と対向する側面板105の方向に導かれる。テールピース142は、表面板101の内面に形成された取付部141に、ネジ143等によって固定されている(
図4参照)。弦3の各弦単線301〜312は、更に、表面板101の内面に立設されたピン161〜172に架けられ、他端が、表面板101の表面側から内面側に貫通させたペグ901〜912の巻取軸921〜932に巻き取られる。実施例では、弦3の各弦単線301〜312に対するピン161〜172の位置を互いに異ならせ、それによって弦長を異ならせることにより、広い音域をカバーしている。音域は、弦長の他、張力及び線密度等によっても調整することができる。
【0041】
ボディ部1の内部空間100には、更に、ブリッジ7及び弦励振部5が設けられている。ブリッジ7の詳細は、
図4及び
図5に図示されている。このようなブリッジ7を、本発明では、ジャワリブリッジと称することとする。これらの図に示すように、ジャワリブリッジ7は、弦3との接触する面71が、僅かに湾曲する凸曲面である。弦3は、このジャワリブリッジ7に支えられることにより、高次倍音成分の付加された音を響かせる。
【0042】
実施例において、弦単線301〜312は、凸曲面である面71との接触点を第1支持点P1とし、ピン161〜172との接触点を第2支持点P21〜P32とする弦長を有する(
図3〜
図5参照)。第1支持点P1は、面71に対する弦単線301〜312の傾斜角度によって定まるもので、弦単線301〜312において、必ずしも一致するものではないが、説明の簡単化のため、一致するものとして説明する。なお、弦単線301〜312の傾斜角度は、第2支持点P21〜P32における弦支持高さを制御することによって、制御することができる。
【0043】
第2支持点P21〜P32は互いに異なる。ジャワリブリッジ7の面71は、凸曲面となっているので、面71のうち、第1支持点P1よりも第2支持点P21〜P32の側にある面が、弦3に対して微小間隔を隔てて向き合い、弦3の振動時には、弦3の接触する面となる。
【0044】
第1支持点P1よりも第2支持点P21〜P32の側にある面と、弦3との間に生じる微小間隔は、弦3の接触、それによる弦3の振動特性に重要な影響を与えるから、上記微小間隔を調整し、弦3の振動特性を調整する手段を設けることは、極めて有用である。
図6及び
図7は、その調整手段の一例を示している。この実施の形態では、細い線材、例えば、有機系の糸、無機系の糸又はこれらの複合糸等でなる調整具75を、弦単線301〜312と面71との間に介在させ、第1支持点P1及びその前方に生じる微小間隔を調整するようになっている。調整具75のそれぞれは、弦単線301〜312のそれぞれに個別に備えられ、弦単線301〜312のそれぞれ毎に、その長さ方向に移動させて、微小間隔を調整するようになっている。一般には、調整具75の位置が第1支持点P1となる。
【0045】
面71は、凸曲面である必要はない。例えば、
図8に示すように、単純な傾斜面としてもよい。その傾斜面の先端に弦3を接触させることにより、第1支持点P1を形成してもよい。
【0046】
ブリッジ7は、表面板101の内面に設けられたブレーシング73の上に立設された複数の支柱72によって支持されている。表面板101のうち、ブリッジ7の配置される部分は、音響効果を高める観点から、薄い方がよい。ブレーシング73は、薄型化による機械的強度低下を補う手段となる。一方、ピン161〜172の立設される領域は、ピン161〜172に対する取付強度増大のために、厚くする。実施例では、表面板101の長手方向の略中間部に、厚み変化部が設定されている。既に述べたことであるが、弦3に生じた振動を電気・電子回路によって増幅する等して、外部に出す場合、或いは、ボディ部1を、外部からの音圧の影響を受けにくい構造とする場合には、ボディ部1を、薄い部分を設けずに、全体として厚くしてもよい。
【0047】
弦励振部5は、外部から供給される電気信号によって駆動され、電気信号に応じて弦3を励振するものであって、励振器51を有する。励振器51は、
図3に図示するように、ボディ部1の表面板101の内面に取り付けられている。実施例に示す励振器51は、電磁コイルを含むマグネティック・ドライバ(電磁ドライバ)であり、磁性金属線でなる弦3に、直接に磁力線を作用させる位置に配置され、入力信号に応じて発生した磁力線の作用により、弦3を励振する。より具体的には、ジャワリブリッジ7からピン161〜172に至る弦3の中間位置において、表面板101の内面に支持部52を設け、この支持部52の上に、電磁コイルでなる励振器51を支持する取付板53を、例えば、ネジ留め等の手段によって固定した構造となっている。励振器51を構成する電磁コイルは、コアの周りにコイルを巻いた周知の構造であって、コアの端面から磁力線を出す。また、励振器51は、励振する場所の弦長に対する比率を一致させる目的で、弦3の方向に対して、斜めに配置することもある。
【0048】
弦励振部5の励振器51は、振動した弦3に接触しない程度に近づけた状態で配置されている。これは、できるだけ効率よく、弦3に磁力線を作用させるためである。弦3以外の磁性体に磁力線を放射すると、オリジナル音が響いてしまう。磁力線を、弦3に効率よく直接的に放射することにより、入力されたオリジナル音を、弦励振部5から発生させること無く、弦3を励振することができる。また、消費電力も押さえられる。
【0049】
ボディ部1の表面板101の内面には、圧電素子を用いたピエゾ・ピックアプ17が設置されている。ピエゾ・ピックアプ17は、ボディ部1の表面板101の振動を拾うことができる。ピエゾ・ピックアプ17は、この実施の形態では、ジャワリブリッジ7の直下に配置してあるが、ボディ部1の表面板101の振動を拾うことができる位置にあればよいので、図示の位置に限定されない。例えば、ブリッジ7に設置したり、或いはブリッジ7の内部に内蔵させたりすることもできる。
【0050】
ボディ部1の側面板104には、ボディ部1の外側に向けて、内蔵マイク18が設置されている。内蔵マイク18(
図1、
図2参照)には、好ましくは、小型の単一指向性マイクが用いられる。
【0051】
上述したように、
図1〜
図5に図示された弦楽器は、ボディ部1と、複数の弦3と、ブリッジ7とを含んでおり、弦3はボディ部1によって支持され、弦3を第1支持点P1で支持するブリッジ7も、ボディ部1によって支持されているから、第1支持点P1と第2支持点P21〜P32とによって規定される弦3の弦長、張力及び線密度等に応じた振動周波数の音が発生する。
【0052】
本発明に係る弦楽器は、更に、弦励振部5を含んでおり、弦励振部5の励振器51は、電気信号によって駆動され、電気信号に応じて、弦3を励振するから、声や、演奏しやすい任意の楽器などの様々な音を、音声電気信号として、弦励振部5に供給することにより、演奏技術をもたない者でも、本発明に係る弦楽器から生じた音響を楽しむことができる。なお、これまでの説明及び図面に照らして、弦3は、専ら励振器51によって励振されることは明らかである。
【0053】
ブリッジ7は、第1支持点P1と、第1支持点P1よりも第2支持点P21〜P32の側にあって、弦3の振動時に弦3の接触する面71とを有しているから、弦3が、弦励振部5の励振器51からの励振信号に共振して振動したとき、弦3がブリッジ7の面71に複雑に接触することによって、弦振動に高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。したがって、演奏技術をもたない者でも、インド古典楽器のシタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、高次倍音成分の付加された共鳴音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
【0054】
しかも、
図1〜
図3に示した実施の形態の場合、弦3、弦励振部5及びブリッジ7は、ボディ部1の内部空間100に配置されるから、弦3の端の尖った部分に触れてけがをする危険がなくなるほか、弦3が切れたときに、はじけた弦3でけがをする危険も無くなる。また、ボディ部1の手入れが容易になるという利点も得られる。なお、
図5〜
図8において、矢印P2は、第2支持点P21〜P32のある方向を示している。
【0055】
次に、
図9の実施の形態では、表面板101の内面に設けた支持体56の振動伝達片562を、電磁コイルでなる励振器51によって励振し、振動伝達片562の立ち上がり部に設けた貫通孔563を貫通する各弦単線301〜312を、間接的に励振するようになっている。支持体56は、表面板101の内面に固定される固定部561を有しており、振動伝達片562は、この固定部561の一端から立ち上がっている。支持体56は、振動伝達片562のうち、少なくとも、電磁コイルでなる励振器51と向き合う部分の全体又は一部が磁性体で構成される。もっとも、支持体56の全体が、磁性体で構成されていてもよい。
【0056】
次に、
図10〜
図12を参照すると、弦3及びブリッジ7は、ボディ部1の表面板101の表面(外面)に配置されている。弦励振部5は、ボディ部1の内部空間100に配置されている。ブリッジ7は、
図4及び
図5で示したジャワリブリッジや、
図6〜
図8に示したジャワリブリッジでもよい。弦3及びブリッジ7が、ボディ部1の外面に配置されていて、弦励振部5を構成する励振器51の電磁コイルがボディ部1の内部空間100に配置されている。したがって、励振器51の電磁コイルからの磁力線は、表面板101を介して、弦3に作用することになる。弦励振部5は、
図11及び
図12に示すように、表面板101の内面に連続する支持部52を設け、この支持部52の上に、励振器51を支持する取付板53を、例えば、ネジ留め等の手段によって固定した構造となっている。
【0057】
図10〜
図12に図示した実施の形態の場合も、ブリッジ7は、弦3の接触する面71が凸曲面のジャワリブリッジ7であるから、シタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。
【0058】
次に、
図13及び
図14の実施の形態でも、弦励振部5は、電磁コイルでなる励振器51を含んでおり、弦3に対する作用端部となるコア端部511が、弦3及びブリッジ7のある表面板101の表面に露出している。励振器51を構成する電磁コイルの大部分は、ボディ部1の内部空間100にあって、そのコア端部511だけが、表面板101に設けられた貫通孔を貫通して、表面に導かれる。したがって、励振器51を構成する電磁コイルのコア端部511から生じる磁力線が、表面板101を間に介することなく、弦3に直接的に作用し、これを励振することになる。
【0059】
次に、
図15及び
図16に図示された弦楽器について説明する。
図15及び
図16に示した実施の形態の特徴は、弦励振部5の励振器55が、圧電振動子で構成されていることである。励振器55を構成する圧電振動子は、円板状の圧電基板551の周辺を、錘となるリング552によって縁取った構造を持ち、圧電基板551の中心部に連結した振動棒553から、圧電振動を取り出すようになっている。もっとも、励振器55を構成する圧圧電振動子は、図示のものに限定されない。
【0060】
励振器55は、表面板101の内面に固定して設けた支持体56によって支持されている。支持体56は、金属等の無機系材料、合成樹脂等を含む有機系材料又はそれらの組合せで構成することができる。この支持体56は、表面板101の内面に固定される固定部561と、この固定部561の一端から立ち上がる振動伝達片562とを含んでいる。振動伝達片562には、励振器55を構成する圧電振動子の振動棒553の一端が、結合されている。また、振動伝達片562の立ち上がり部には、弦3の各弦単線301〜312を通す貫通孔563が開けられている。
【0061】
貫通孔563を貫通した弦3の各弦単線301〜312は、2群に分けられ、そのうちの弦単線301〜306は、側面板104の方向に導かれ、巻取軸921〜926に巻き付け固定され、弦単線307〜312は、側面板103の方向に導かれ、巻取軸927〜932に巻き付け固定される。
【0062】
図15及び
図16に示した実施の形態によれば、圧電振動子で構成された励振器55を電気信号によって駆動すると、励振器55の圧電振動子に生じた電歪振動が振動棒553から振動伝達片562に伝達される。そして、振動伝達片562の立ち上がり部に設けられた貫通孔563を貫通する弦3の各弦単線301〜312が、振動伝達片562によって励振される。弦3に対する第1支持点P1は、ブリッジ7の面71上にあり、第2支持点P2は、振動伝達片562の立ち上がり部に設けられた貫通孔563の位置によって設定される。
【0063】
図15及び
図16に示す実施の形態は、
図1〜
図5に示した実施の形態の電磁コイルを、圧電振動子に代えた点を除けば、
図1〜
図5に示したものと同じ構造であり、同等の作用効果を奏する。
【0064】
次に、
図17及び
図18は、弦励振部5の励振器55を、圧電振動子によって構成した点で、
図15及び
図16と共通であるが、励振器55を構成する圧電振動子によって、ブリッジ7を励振し、ブリッジ7の振動を介して、弦3を励振する点で異なる。図示は省略するが、励振器55を構成する圧電振動によって、ボディ部1の表面板101を励振し、ボディ部1の振動を介して、弦3を間接的に励振してもよい。
図18において、矢印P2は、第2支持点P21〜P32のある方向を示している。
【0065】
図19及び
図20の実施の形態では、弦励振部5は、圧電振動子でなる励振器55を含んでおり、弦3に対する作用端部となる振動伝達片562の端部を、弦3及びブリッジ7のある表面板101の表面に露出させてある。弦励振部5を構成する励振器55及び支持体56は、
図16を参照して説明した構造をもっており、その大部分は、弦3及びブリッジ7のある表面とは反対側に位置する内面側のボディ部1の内部空間100にあって、その振動伝達片562の端部だけが、表面板101に設けられた貫通孔564(
図20参照)を貫通して、表面に導かれる。そして、励振器55によって駆動される振動伝達片562の振動によって、貫通孔563を貫通する弦3が励振される。
【0066】
図15〜
図20を通して、励振器55において、圧電振動子の代わりに、電磁コイルを用いてもよいし、磁歪振動子、超磁歪振動子を用いてもよい。電磁コイルを用いた場合は、既に、
図9に示した実施の形態、及び、その説明において示唆したように、支持体56の全体を磁性体で構成してもよいし、振動伝達片562のうち、少なくとも、励振器55の電磁コイルと向き合う部分の全体又は一部を磁性体で構成してもよい。磁歪振動子や超磁歪振動子を用いた場合は、支持体56は、磁性材料である必要はなく、金属等の無機系材料、合成樹脂等を含む有機系材料又はそれらの組合せで構成することができる。
【0067】
次に、
図21の実施の形態では、表面板101の内面に設けた支持体56の振動伝達片562を、励振器60によって励振し、振動伝達片562の立ち上がり部に設けた貫通孔563を貫通する各弦単線301〜312を、間接的に励振するようになっている。支持体56は、磁性材料である必要はなく、金属等の無機系材料、合成樹脂等を含む有機系材料又はそれらの組合せで構成することができる。
【0068】
図22及び
図23は、励振器60の具体的な構造を示す図である。これらは、何れもボイスコイル型励振器である。まず、
図22に示す励振器60は、キャップ状の第1ヨーク601の筒状端面にリング状第2ヨーク603を配置すると共に、第1ヨーク601の中心部に配置した永久磁石602の先端面に第3ヨーク606を配置し、第3ヨーク606と第2ヨーク603との間に生じる隙間に、コイル604を配置した構造になっている。第2ヨーク603の下側には、弾性材でなるダンパ605が設けられており、ダンパ605の側を、取付板607に取り付けてある。
【0069】
図21の実施例では、
図22に図示された励振器60が用いられており、取付板607を、振動伝達片562に、ネジ止め608等の手段によって取り付けた構造となっている。
【0070】
図23に示すボイスコイル型励振器60は、リング状のマグネット602を、第1ヨーク601及びリング状の第2ヨーク603で挟み込んである。第1ヨーク601は、中心ヨーク部をリング状マグネット602及びリング状第2ヨーク603の中心孔内に位置させてあり、リング状第2ヨーク603の内面と第1ヨーク601との間に発生するリング状の隙間に、コイル604を配置した構造となっている。第2ヨーク603と支持体との間には、ダンパ605が配置されている。もっとも、ボイスコイル型励振器60は、
図22、
図23に図示された構造のものに限らず、種々のタイプのものを用いることができる。
【0071】
更に、
図24は、
図19及び
図20に示した実施の形態において、弦励振部5を、圧電振動子に代えて、ボイスコイル型励振器60によって構成したもので、ボイスコイル型励振器60によって駆動される振動伝達片562の振動によって、弦3が励振される。
【0072】
図25は、ボイスコイル型励振器60によって構成される弦励振部5により、ボディ部1の、例えば表面板101を励振し、ボディ部1の振動によって、弦を間接的に励振する例を示している。
【0073】
次に、
図26〜
図28の実施の形態では、ボディ部1の内部空間100にスピーカ600を、弦3と向き合うように配置し、スピーカ600の音圧によって、ボディ部1の内部空間100に張設された弦3を励振するようになっている。表面板101には、スピーカ600と向き合う位置に報音孔111が設けられている。スピーカ600は、表面板101の内面に設けた支持台57の上に取り付けられている。
【0074】
次に、
図29及び
図30に示す実施の形態では、ブリッジ7は、第1支持点P1とともに、第1支持点P1よりも第2支持点P21〜P32の側にあって、弦3の振動時に、弦3の接触する面71を有している。ボディ部1の内部空間100にスピーカ600を、弦3と向き合うように配置し、スピーカ600の音圧によって、ボディ部1の表面板101の外面に張設された弦3を励振するようになっている。表面板101には、スピーカ600と向き合う位置に報音孔111が設けられている。スピーカ600は、表面板101の内面の一部を構成する支持台57の上に取り付けられている(
図30参照)。
【0075】
図9〜
図30の実施の形態の場合も、ブリッジ7は、弦3の接触する面71が凸曲面のジャワリブリッジ7であるから、演奏技術をもたない者でも、シタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。
【0076】
2.第2のタイプ
図31〜
図33の実施の形態では、ブリッジ7は、第1支持点P1を有するのみで、第1支持点P1よりは、第2支持点P2の側に、弦3の接触する面を持たない。この条件を満たす限りにおいて、ブリッジ7の端面は、ブレード状、平面状、曲面状等の任意の形状をとり得る。ブリッジ7は、支持台75の上に搭載され、支持台75は、支柱72によって、表面板101の内面に設けられたブレーシング73に取り付けられている。
【0077】
上述した構成のブリッジ7を用いた場合、第1支持点P1が、弦単線301〜312のそれぞれを支持していて、第1支持点P1よりも第2支持点P2の側に弦3の振動時に弦3の接触する部分を持たないから、弦励振部5から与えられる励振周波数に共鳴して弦3に生じる残響音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、上述した残響音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
【0078】
しかも、弦3、弦励振部5及びブリッジ7は、ボディ部1の内部空間100に配置されているから、弦3の端の尖った部分に触れてけがをする危険がなくなるほか、弦3が切れたときに、はじけた弦3でけがをする危険も無くなる。また、ボディ部1の手入れが容易になるという利点も得られる。
【0079】
3.第3のタイプ
図34〜
図36に示す実施の形態では、弦3の弦単線301〜304毎に、励振器及びその振動を電気信号に変換する変換器が備えられている。具体的には、ボディ部1の表面板101の内面に配置された弦3の各弦単線301〜304のそれぞれに対して、第1励振器211、第2励振器232、第3励振器213及び第4励振器234を対向して配置してある。第1励振器211の対向する弦単線301に第1変換器221を対向させ、第2励振器232の対向する弦単線302に第2変換器242を対向させ、第3励振器213の対向する弦単線303に第3変換器223を対向させ、第4励振器234の対向する弦単線304に第4変換器244を対向させてある。第1励振器211〜第4励振器234及び第1変換器221〜第4変換器244は、何れも電磁コイルである。
【0080】
図示の例では、第1励振器211、第3励振器213、第1変換器221及び第3変換器223を、一つの支持台215の一面上に取り付けて、第1組み立て体21を構成し、第1組み立て体21の支持台215を、側面板103、104の内面に添って、表面板101の内面に立設した取付部571、572に取り付けた構造となっている。同様に、第2励振器232、第4励振器234、第2変換器242及び第4変換器244を、一つの支持台235の一面上に取り付けて、第2組み立て体23を構成し、第2組み立て体23の支持台235を、第1組み立て体21から間隔をおいて、側面板103、104の内面に添って表面板101の内面に立設した取付部571、572に取り付けた構造となっている。
【0081】
ピン161〜164は、弦3の長さ方向で見て、全て同一の位置に設けられており、弦3の各弦単線301〜304の全ての弦長が同じになっている。この場合は、各弦単線301〜304のそれぞれの弦の張力及び線密度等を段階的に変えることによって、広い音域をカバーすることができる。
【0083】
4.回路・音響情報系
本発明に係る弦楽器の回路・音響情報系は、
図1〜
図33に図示された弦楽器に向けられた
図37〜
図38の回路・音響情報系と、
図34〜
図36に図示された弦楽器に向けられた
図39〜
図41の回路・音響情報系の2つに大別される。なお、
図37〜
図41において、点線矢印付ラインは、音響・音圧伝搬を示す。
【0084】
(1)
図37〜
図38の回路・音響情報系
図37は、
図1〜
図33に示した弦楽器及びその電気・電子回路とともに、音響情報の流れを示すブロック図、
図38は弦楽器と外部との間の電気・電子回路とともに、音響情報の流れを示すブロック図である。図において、参照符号Aは本発明に係る弦楽器を示し、参照符号Bは外部入力機器または入力信号を示し、参照符号Cは外部音響を示している。
図37及び
図38は、一つの図として統合できるものであるが、紙面の都合から、2つに分けて示した。以下、
図37及び
図38とともに、随時、
図1〜
図33を参照しながら説明する。なお、
図1〜
図30の弦楽器は、高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせるのに対し、
図31〜
図33の弦楽器は残響音を響かせるという点に、違いがあるだけである。そこで、説明の簡素化のために、主として、
図1〜
図30の弦楽器に焦点を合わせる。
図31〜
図33の楽器については、当業者であれば、
図1〜
図30の弦楽器についての説明から、容易に理解できる。
【0085】
まず、外部で演奏された、楽器音や声などの音40は、内蔵マイク18によって拾われる。マイクやピックアップ41が内蔵された楽器の音40は、内蔵マイク18によって拾う方法の他、入力ジャック131から、音響情報を入力することもできる。電気ギターや電子ピアノなどの電気楽器42は、入力ジャック131から音響情報を入力する。また、音楽プレーヤーやパソコンからの音声信号43も、入力ジャック131から、音響情報を入力することができる。
【0086】
外部からの音声信号及び内蔵マイク18からの信号は、入力ジャック131に組み込まれた入力セレクタ801によって選択される。入力ジャック131に、外部からの音声信号を伝送するプラグが接続されると、入力ジャック131からの音声信号が選択される。一方、入力ジャック131に外部からの音声信号を伝送するプラグが接続されなければ、内蔵マイク18からの信号が選択される。入力セレクタ801によって選択された入力装置からの音声信号は、入力ボリューム802で入力音量が調節される。入力ボリューム802で音量調節された音声信号は、内蔵アンプ803で増幅される。
【0087】
内蔵アンプ803で増幅された音声信号は、弦励振部5に供給される。そして、弦励振部5によって、弦3が振動させられる。振動させられた弦3は、ブリッジ7がジャワリブリッジである場合(
図1〜
図30)には、ブリッジ7の面71の複数の点で接触することにより、高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。即ち、弦3が、弦励振部5からの励振信号に共振して振動したとき、弦3がブリッジ7の面71に複雑に接触することによって、さまざまな次数の高次倍音成分が弦振動に付加され、高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。したがって、演奏技術を持たない者であっても、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、高次倍音成分の付加された共鳴音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
【0088】
図31〜
図33に示した構造の場合には、ブリッジ7は、第1支持点P1を有するが、第1支持点P1よりも第2支持点(P21〜P32)の側には、弦3の振動時に弦3の接触する部分を持たない構造であるから、演奏技術をもたない者でも、弦励振部5から与えられる種々の励振周波数に共鳴して弦3に生じる残響音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、上述した残響音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
【0089】
弦3の振動音は、表面板101及びボディ部1に伝わり、アコースティックな音響62として放出されるともに、ピエゾ・ピックアップ808によって拾われ、更に、出力ボリューム810によって調節され、出力ジャック132から出力される。
【0090】
また、入力セレクタ801から分岐されたオリジナル音の音響信号は、オリジナル・ボリューム816でオン・オフと音量が調節され、オンの場合は出力ジャック132から出力される。
【0091】
出力ジャック132から出力された音声信号は、外部のアンプ812とスピーカ813を通して、音量が増幅された音響63として放出される。または、外部の録音機器814に直接録音される。
【0092】
上記の音響情報の伝達の結果、楽器音や声などの音40を発すると、オリジナル音響61が響くと同時に、その音に反応して、共鳴音のアコースティック音響62が響く。また、外部アンプ812及びスピーカ813が設置されていると、そのオリジナル音と、高次倍音成分が付加された共鳴音(
図31〜
図33の場合は残響音)がミックスされた増幅音響63が響く。このとき、ミックスされる割合は、オリジナル・ボリューム816及び出力ボリューム810を調整することにより、自在に調整することができ、オリジナル音のみや、高次倍音成分が付加された共鳴音(
図31〜
図33の場合は残響音)のみを、増幅音響63として響かせることもできる。
【0093】
電気ギターや電子ピアノなどの電気楽器42を演奏した場合や、録音された音源を音楽プレーヤーやパソコン43などから再生させた場合は、外部アンプ812及びスピーカ813が設置されていると、そのオリジナル音と、高次倍音成分の付加された共鳴音(
図31〜
図33の場合は残響音)とをミックスした増幅音響63が響く。このとき、ミックスされる割合は、オリジナル・ボリューム816及び出力ボリューム810を調整することにより、自在に調整することができ、オリジナル音のみや、高次倍音成分が付加された共鳴音(
図31〜
図33の場合は残響音)のみを、増幅音響63として響かせることもできる。また、オリジナル音のみの増幅音響63の音量を調節し、高次倍音成分が付加された共鳴音(
図31〜
図33の場合は残響音)のアコースティック音響62と一緒に響かせることや、高次倍音成分が付加された共鳴音(
図31〜
図33の場合は残響音)のアコースティック音響62のみを響かせることもできる。また、これらを外部録音機器814に録音することもできる。
【0094】
(2)
図39〜
図41の回路・音響情報系
図39、
図40は、主として、
図34〜
図36に示した弦楽器及びその電気・電子回路とともに、音響情報の流れを示すブロック図である。
図39及び
図40は、一つの図として統合できるものであるが、紙面の都合から、2つに分けて示した。
図39、
図40では、特に、
図34〜
図36の弦楽器の音響情報の流れに関係する部分だけを取り出して示してある。
図39、
図40において、
図37、
図38に現れた部分に対応する部分については、同一参照符号を付し、重複説明は省略する。
【0095】
図39及び
図40とともに、
図34〜
図36を参照しながら説明すると、弦単線301〜304に独立して向けられた第1変換器221〜第4変換器244からの信号を、同じ弦単線に独立して用意された内蔵アンプ827を通して、同じ弦に独立して向けられた第1励振器211〜第4励振器234に送る。上記回路は、弦3の振動→マグネチック・ピックアップ(電磁コイルによる変換器)→内蔵アンプ827→マグネチック・ドライバ(電磁コイルによる励振器)→弦3の励振という正帰還形の発振回路を構成する。
【0096】
上述した発振回路によると、弦3を鳴らしていない状態であっても、正帰還ループ内で起こるノイズなどをトリガ信号として、正帰還が起こり、弦3に含まれる弦単線301〜304のうち、対応する弦単線が、その共振周波数で振動を始める。振動し始めた弦3は、その振動を一定の振幅まで成長させるため、弦振動の音が、わき上がるように響く。一定の振幅まで成長し、安定状態に達すると、その安定状態で、弦振動は持続される。動作を停止すると、弦振動は減衰して鳴り止む。
【0097】
このとき、
図34〜
図36に図示したように、弦3が、ジャワリブリッジ7に支えられている場合は、高次倍音成分の付加された音をわき上がるように立ち上がらせたのち、高次倍音成分が付加された持続音を響かせ続けることができる。動作を停止すると、高次倍音成分の付加された音が、自然な減衰を始め、やがて鳴り止む。
【0098】
上述したように、
図34〜
図36に示した弦楽器によれば、演奏技術をもたない者でも、高次倍音成分の付加された持続音を、簡単、かつ、十分に発生させ、その持続音を楽しむことができる。
【0099】
弦3が、
図33に図示したようなブリッジ7によって支えられている場合も、基本的に同様の動作をし、持続音を発生する。この場合には、演奏技術をもたない者でも、持続音を簡単、かつ、十分に発生させ、その持続音を楽しむことができる。
【0100】
内蔵アンプ827に含まれる各内蔵アンプは、コントロール部804によって、個別に制御される。内蔵アンプ827の動作開始、動作順序、信号増幅度、動作停止、更には、動作開始と動作停止の周期等は、コントロール部804によって実行される。制御方法としては、好ましくは、アナログ的な手法が用いられる。もっとも、コントロール部804を、CPU(Central Processing Unit)や、MPU(Micro-Processing Unit)等を含む構成とし、内蔵アンプ827をプログラム制御してもよい。コントロール部804による内蔵アンプ827の設定に関しては、例えば、次のような場合を例示することができる。
【0101】
(a)弦単線301〜304の全て、又は、任意に選択された弦単線を、持続的に鳴らし続けるように設定する。
(b)弦単線301〜304のそれぞれについて、個別に、動作開始と動作停止のタイミングを設定し、鳴らし続ける。
(c)弦単線301〜304のそれぞれについて、その動作開始及び動作停止がランダムに現れるようなプログラムを設定し、鳴らし続ける。
【0102】
上記(a)〜(c)のような設定をすることにより、タンブーラのように高次倍音成分が複雑に絡み合った持続音を、任意の音程に調律された弦から響かせ続けることができる。特に、各弦単線301〜304を一定のリズムで順番に鳴らし続ける設定によると、タンブーラの演奏に近い音響となる。
【0103】
図41は、内蔵アンプ827及びコントロール部804の具体的な回路構成を示している。図を参照すると、内蔵アンプ827は、弦単線301〜304の本数に合わせて、内蔵アンプ831〜834の4つを備えている。まず、内蔵アンプ831は、弦単線301に備えられた変換器221から供給される弦振動検出信号を増幅し、その増幅信号を、弦単線301を励振する励振器211に供給する。他の内蔵アンプ832〜834のそれぞれも、弦単線302〜304のそれぞれに備えられた変換器242、223、244から供給される弦振動検出信号のそれぞれを増幅し、その増幅信号を、弦単線302〜304を励振する励振器232、213、234のそれぞれに、個別に供給する。
【0104】
図34〜
図36に図示された実施例では、ブリッジ7として、ジャワリブリッジを用いているが、これに限定するものではない。例えば、
図33に示した構造のブリッジ7を用いることもでき、その場合には、弦振動による持続音を楽しむことができることは前述したとおりである。
【0105】
5.変形例
本発明に係る弦楽器は、更に、以下のような変形が可能である。
(1)
図1〜
図33に図示した弦楽器は、外部からの音に反応して、高次倍音成分が付加された共鳴音又は残響音を響かせるが、
図37に示すように、FM音源などのサウンドチップを使用した内蔵音源・内蔵音源のコントロール部819を搭載し、これから発生される音声信号を、内蔵アンプ803で増幅したうえで、励振部5に送ることにより、共鳴音を響かせてもよい。
【0106】
これにより、例えば、内蔵音源から持続音の信号を送り、その信号に共振可能な弦が共振することにより、持続音を、アコースティックな弦振動の音として響かせ続けることができる。また、このような弦3の持続音を、内蔵音源からの信号を使って響かせ続けながら、同時に外部からの音を使って、弦振動による高次倍音成分が付加された共鳴音又は残響音を一緒に響かせることもできる。
【0107】
(2)
図1〜
図36に図示した弦楽器において、
図37及び
図39に示すように、本発明に係る弦楽器から生じた音を拾う手段として、圧電振動子を用いたピエゾ・ピックアップ808の他に、内部音用の内蔵マイク805や、電磁コイルを用いたマグネティック・ピックアップ815などを設置して使用してもよい。内部音用の内蔵マイク805は、表面板101及びボディ部1の振動から発せられる音圧を捉える。マグネティック・ピックアップ815は、弦3の振動を捉える。本発明に係る弦楽器から生じた音を拾う手段として、複数の装置を設置した場合には、ピックアップセレクタ809を設置し、どの装置からの信号を出力ボリューム810に送るのかを選択することができる。
【0108】
(3)
図34〜
図36に示した実施の形態において、
図39に示すように、入力ジャック131、入力ボリューム802及び内蔵アンプ803等をとおして、外部から励振器818に信号を与えてもよい。これによると、持続音を響かせ続けながら、同時に外部からの音を使って、外部音に共振した共鳴音を、一緒に響かせることができる。もっとも、励振器818は、励振器211、213、232、234をそのまま用いてもよいし、別に備えてもよい。
【0109】
図示は省略されているが、
図39に示す回路に対して、
図37及び
図38に示された構成を、適宜組み込むことができる。更には、
図1〜
図33に示した弦楽器と、ボディ部1を共有する関係で組み合わせてもよい。