(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィンレス伝熱プレートでは、熱交換面積を大きく得ることが難しいため、熱交換性能を確保しにくい。
フィンレス伝熱プレートを用いた熱交換器における熱交換性能を高めるため、特許文献1では、伝熱プレートに形成される凸部のピッチ、特許文献2では、凸部と対向する凹部との隙間をそれぞれ数値限定している。
【0006】
しかしながら、これら伝熱プレートの凸部のピッチ及び、凸部と対向する凹部との隙間では、熱交換器の熱交換性能を高精度に推定できるパラメータとは言い難く、熱交換性能の向上には限界があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、フィンレス伝熱プレートにを用いた熱交換器の熱交換性能を十分に高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため第1の発明にかかる熱交換器は、
複数枚の伝熱プレートを間隔を開けて平行に配設し、各伝熱プレートには表裏両面に、複数の台形状の凸部を一方向に並べて配設し、各凸部内に全長にわたって冷媒通路を形成し、
前記各伝熱プレートの凸部
を、対向する伝熱プレートの凸部間の凹部に対向するように配設し、
前記各伝熱プレート相互間に、前記一方向と平行な方向に流体を流通させるように積層して構成した熱交換用コア部を備えた熱交換器において、
前記伝熱プレートの凸部の流体流通方向上流側の角部と、該伝熱プレートに対向する伝熱プレートの前記凸部の角部に近接する凸部の流体流通方向下流側の角部との間を流通する流体流の主軸が前記対向する伝熱プレート相互を結ぶ垂直方向に対
してなす鋭角側
の角θ
[rad]が、0.25〜0.65の範囲内の値に設定
され、
前記θは、前記伝熱プレートの凸部の基準面からの高さをau、前記基準面に対する垂線からの前記凸部の側面の傾斜角をα、前記基準面と該基準面に対向する伝熱プレートの基準面との距離を2hとしたとき、下記の式で算出されることを特徴とする。
【数1】
【0009】
また、第2の発明に係る熱交換器は、
上記同様の熱交換器において、
前記伝熱プレートの凸部の流体流通方向上流側の角部と、該伝熱プレートに対向する伝熱プレートの前記凸部の角部に近接する凸部の角部との距離dcと、前記対向する各伝熱プレートの前記各角部の流体流通方向上流側に隣接して対向する面相互の距離d1とで定義される縮流比β(=dc/d1)を、0.14〜0.42の範囲内の値に設定したことを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明に係る熱交換器は、
上記同様の熱交換器において、
前記伝熱プレートの凸部の流体流通方向上流側の角部と、該伝熱プレートに対向する伝熱プレートの前記凸部の角部に近接する凸部の角部との距離dcと、前記対向する各伝熱プレートの前記各角部の流体流通方向下流側に隣接して対向する面相互の距離d2とで定義される膨張比d2/dcを、2.0〜4.2の範囲内の値に設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1〜第3の発明にかかる熱交換器及びこれら熱交換器に用いられる伝熱プレートによれば、フィンレス伝熱プレートにおいて、なす角θ、縮流比dc/d1、膨張比d2/dcを各数値範囲内に設定することにより、高い熱交換性能を得られる熱交換器を容易に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係る熱交換器1で、例えば、ヒートポンプ式の車両用空調装置の蒸発器に適用されるが、これに限らず凝縮器を含めた任意の熱交換器に適用できる。
【0014】
熱交換器1は、複数枚の伝熱プレート2を間隔cを開けて平行に配設して熱交換用コア部3が形成され、該熱交換用コア部3の上下端部にヘッダ4,5を連結した概略構成を有している。
【0015】
図3(
図2のA−A断面)に示すように、各伝熱プレート2には表裏両面にそれぞれ上下方向に延びる複数の台形状の凸部21が、水平方向に列設され、各凸部21内に全長にわたって冷媒通路23が形成されている。
【0016】
各伝熱プレート2の凸部21は、対向する伝熱プレートの凸部21間の凹部22に対向するように配設されている。
ヘッダ4,5には、各伝熱プレート2の上端部及び下端部が挿入されて、各冷媒通路23は、ヘッダ4,5内部空間(冷媒通路)と連通している。
【0017】
ヘッダ4には、中央部とその両側の3つの空間を仕切る2個の隔壁41が形成され、ヘッダ5には、中央部にその両側の2つの空間を仕切る1個の隔壁51が形成されている。
ヘッダ4の2個の隔壁41で仕切られる3個の空間のうち、両側の空間には、それぞれ冷媒流入口6、冷媒流出口7が接続される。
【0018】
冷媒は、
図1において、冷媒流入口6からヘッダ4内の図示左側の空間42に流入し、該空間42に連通する複数の伝熱プレート2内の冷媒通路23を下方に流動した後、ヘッダ5の隔壁51より図示左側の空間52に流入する。
【0019】
次いで、図示右側に流動した後、隣接する複数の伝熱プレート2内の冷媒通路23を上方に流動し、ヘッダ4内の図示中央の空間43に流入する。
次いで、図示右側に流動した後、隣接する複数の伝熱プレート2内の冷媒通路23を下方に流動した後、ヘッダ5の隔壁51より図示右側の空間53に空間に流入する。
【0020】
次いで、図示右側に流動した後、隣接する複数の伝熱プレート2内の冷媒通路23を上方に流動し、ヘッダ4内の図示右側の空間44に流入した後、冷媒流出管7から流出する。
【0021】
一方、
図2に示すように、図示しない送風ファンから送風される空気は、熱交換器1の伝熱プレート2の並び方向と直交する方向から送風される。送風空気は、伝熱プレート2間の隙間を通り抜け、その間に冷媒通路23を流通する冷媒と送風空気との間で熱交換が行われ、蒸発器である熱交換器1の冷媒は、空気から熱を受けてガス状の冷媒に気化される。
【0022】
かかる構成を有した熱交換器1の各伝熱プレート2において、熱交換性能改善のため以下の考察を行った。
図4は、隣接する伝熱プレート2間に形成される空気流路の外郭線を抽出して示した図である。
【0023】
図4において、凸部の幅をl、凸部間ピッチをL、凸部の基準面からの高さをa
u、凹部の基準面からの深さをa
l、凸部21及び凹部22のテーパ角(テーパ面の基準面に対する垂線からの角度)をα、前記基準面と該基準面に対向する伝熱プレート2の基準面との距離をd
1(=2h)とする。
【0024】
図4に示される凹凸を有した空気流路を流れる空気の熱伝達率、圧力損失の特性を求めるため、次式(1),(2)のように定義される熱伝達率のjファクター、及び圧力損失の指標となるfファクターを、上記の各諸元l、L、a
u、a
l、α、hの値を変更しつつCFD解析により求めた。
【0026】
数式(1)中でαは熱伝達率、ρ
mは空気の入口〜出口の平均密度、Vは空気の流速、Cpは空気の定圧比熱、Prはプラントル数を示す。また、数式(2)中でρ
inは空気の入口密度、ΔPは圧力損失、K
cは流入損失係数、K
eは流出損失係数、σは前面面積と流体の通過面積の比を示す。
【0027】
CFD解析で得られた多数のjファクター及びfファクターの値と、上記諸元で定まる凸部高さa
u、凹部深さa
l、テーパ角α等のパラメータとの間には、明確な相関関係は確認できなかった。すなわち、これらパラメータのみでは、jファクター,fファクターを精度よく示す相関式を得ることは難しく、熱交換器性能の向上をこれらパラメータだけの設定で予測することが難しいことが判明した。
【0028】
そこで、jファクター,fファクターを精度よく示す相関式を得るため、凹凸を有した空気流路の熱流束分布の解析結果等に基づき、以下の3個のパラメータを新たに設定した。
【0029】
まず、伝熱プレート2の凸部21の空気流通方向上流側の角部と、該伝熱プレート2に対向する伝熱プレート2の前記凸部の角部に近接する凸部21の角部との間を流通する空気流の主軸が、前記対向する伝熱プレート21相互を結ぶ垂直方向に対する鋭角側の「なす角θ」を第1のパラメータとして設定した。この「なす角」は、以下のように算出される。
【0030】
図4(A)において、基準面間の流れは一様な流れであると仮定し、凸部頂面より上側の流れは基準面と平行に直進する流れになるとし、凸部頂面より下側の流れは凸部のテーパ角度に沿って流れるとする。隣接する伝熱プレート2間を流れる流量を1とすれば、上側流れベクトルu
1、下側流れベクトルu
2及びそれらの合成ベクトルu
3は、それぞれ、下式(3)〜(5)で求められる。
したがって、式(5)を用いて、なす角θは、式(6)で算出される。
【0032】
このなす角をパラメータ(変数)とすることで、空気が基準面間から凸部21と凹部22のテーパ面間に湾曲して流れる影響を評価することができると考えられる。
次に、
図4(B)において、伝熱プレートの凸部の空気流通方向上流側の角部と、該伝熱プレートに対向する伝熱プレートの前記凸部の角部に近接する凸部の角部との距離dcと、前記対向する各伝熱プレートの前記各角部の空気流通方向上流側に隣接して対向する面相互の距離d
1(=2h)とで定義される「縮流比β(=dc/d
1)」を、第2のパラメータとして設定する。
【0033】
前記角部同士の距離d
c方向と対向する基準面同士の距離2h方向とのなす角度をα’としたとき、この「縮流比β」は、以下のように算出される。
【0035】
この縮流比βにより、基準面間を通過した流れが凹凸部開始点において縮流する影響を評価することができると考えられる。
次に、
図4(B)において、距離d
cと、対向する各伝熱プレートの前記各角部の空気流通方向下流側に隣接して対向する面相互の距離d
2とで定義される「膨張比γ(=d
2/dc)」を、第3のパラメータとして設定する。この「膨張比γ」は、以下のように算出される。
【0037】
この膨張比γにより、上記のように空気の流れが凹凸部開始点において縮流した後、凸部頂面と凹部底面との間で再度膨張することの影響を評価することができると考えられる。
【0038】
これらのパラメータ、なす角θ,縮流比β,膨張比γについて、それぞれ各値を変更しときの、jファクター及びfファクターのCFD解析値と比較した。
なす角θについては、なす角が大きくなるほどjファクター、fファクターともに小さくなる傾向が示された。
【0039】
縮流比βについては、縮流比βが小さくなるほどjファクター、fファクターともに大きくなる傾向が示された。
膨張比γについては、膨張比γが大きくなるほどjファクター、fファクターともに大きくなる傾向が示された。
【0040】
したがって、これらのパラメータを変数として用いることにより、jファクター及びfファクターの精度の高い相関式の作成が可能になると考えられた。
そこで、上記のなす角θ,縮流比β,膨張比γに、その他の形状として凹凸部幅、凹凸ピッチ、凹凸数を加え、さらに流速に起因するRe数(レイノルズ数)を用い、合わせて7個の変数を用いて、jファクター及びfファクターの相関式を作成した。なお、なす角θ,縮流比β,膨張比γの中には、凸部高さa
u、凹部深さa
l、テーパ角αのパラメータが含まれる。
【0041】
具体的には、jファクター相関式、fファクター相関式を、Re数の関数として(11),(12)式のように整理し、各式中の係数を形状パラメータの関数として式(13),(14)のように整理することとした。
【0043】
式(11),(12)中の各係数は、CFD解析値との偏差が最も小さくなるようにし、最小二乗法を用いて数式(13),(14)中の定数C
0〜C
6を決定した。その結果、各係数の具体的な値は表1,2のようになる。また、表中の臨界Re数は乱数への遷移を示す指標であり、数式(15)で推測される値を用いた。
【0047】
このように、最適な係数にフィッティングすることにより、
図5、6に示すようにjファクター、fファクターともに、CFD解析値との偏差を±15%以内に整理することができ、非常に予測精度の高い相関式を得ることができた。
【0048】
これにより、空気側の熱伝達率、圧力損失について、上記のjファクター相関式とfファクター相関式を用いて、高精度に推定できることが可能となった。しかし、空気側の熱伝達率、圧力損失だけを最適化したとしても、熱交換器全体の性能を最適化できるものではない。特に、本発明のようなフィンレス熱交換器においては、空気側の流路形状が冷媒側の流路形状に大きく影響を与えるため、冷媒側の流れも考慮した最適設計を実施する必要がある。
【0049】
熱交換器全体の性能は、主に熱交換量、通気抵抗、冷媒側圧力損失の3つで評価される。熱交換量は大きく、通気抵抗、冷媒側圧力損失は小さくすることが望ましいが、これらは基本的に相反関係にあり、熱伝達率を高めて熱交換量を大きくすれば、圧力損失も大きくなる。したがって、熱交換器全体の性能を評価するためには、熱交換量、通気抵抗、冷媒側圧力損失の各性能を1つにまとめて評価する必要がある。
【0050】
まず、空気側の圧力損失(通気抵抗)の評価方法について一例を示す。送風ファンのPQ(差圧−風量)特性と通気抵抗との間には、
図7に示すような関係がある。図中の実線はファンのPQ特性を示す。また、破線と一点鎖線は熱交換器A,Bの通気抵抗を示し、これら2本の線の交点がそのファンを用いた場合の熱交換器に流れる動作点風量となる。熱交換器の通気抵抗が大きいと交点は低風量側に移動し、通気抵抗が小さいと高風量側に移動する。一方で、
図8は風量と熱交換器の能力の関係を示している。つまり、熱交換器Aは同一風量での能力は高いが、通気抵抗も高い熱交換器である。
【0051】
ここで、
図8中の動作点風量で能力を比較すると、熱交換器Aは動作点での風量が小さくなるため、実際の能力は熱交換器Bよりも低くなる。このように、動作点風量での能力比較を行うことで、熱交換量と通気抵抗を1つにまとめて評価することができる。
【0052】
一方、冷媒側の圧力損失については、蒸発器を例にとると、蒸発器出口の圧力、温度条件を固定した評価を行うことで、圧力損失の影響が評価できる。蒸発器入口の圧力を基準とした場合、圧力損失の大きい熱交換器であれば、蒸発器入口の圧力は高くなり、熱交換器内を流れる冷媒の飽和温度も高くなる。熱交換量は熱伝達率と伝熱面積及び温度差の積で決まるため、このような条件では圧力損失の影響が熱交換能力に含まれていることになる。
【0053】
以上のような方法であれば、通気抵抗や圧力損失を考慮した熱交換量の比較となり、熱交換器の最適化が可能になる。そこで、このような評価条件の下で、jファクターの相関式及びfファクターの相関式を用いた熱交換器の性能予測シミュレーションによりパラメータスタディを実施した。その結果、得られた熱交換量を新たに設定したパラメータである、なす角θ、縮流比β、膨張比γを横軸にとって整理すると、
図9〜
図11が求められる。同様に、凹凸ピッチ比ε、板厚tを横軸にとって整理すると
図12、
図13が求められる。
【0054】
単位体積当たり熱交換量150[KW/m
3]近傍を良好な熱交換性能を確保できる下限値として設定し、上記各パラメータ毎に、良好な熱交換性能が得られる数値範囲が求められた。
なす角については、
図9に示すように、なす角θが0.25〜0.65[rad]であるときに単位体積当たり熱交換量が下限値以上となって良好な熱交換性能が得られることが明らかとなった。
【0055】
縮流比βについては、
図10に示すように、縮流比βが0.14〜0.42であるときに単位体積当たり熱交換量が下限値以上となって良好な熱交換性能が得られることが明らかとなった。
【0056】
膨張比γについては、
図11に示すように、膨張比γが2.00〜4.30であるときに単位体積当たり熱交換量が下限値以上となって良好な熱交換性能が得られることが明らかとなった。
【0057】
ピッチ比εについては、
図12に示すように、ピッチ比εが4.0以下であるときに単位体積当たり熱交換量が下限値以上となって良好な熱交換性能が得られることが明らかとなった。
【0058】
板厚tについては、
図13に示すように、板厚tが0.3[mm]以下であるときに単位体積当たり熱交換量が下限値以上となって良好な熱交換性能が得られることが明らかとなった。
【0059】
このように、なす角θ、縮流比β、膨張比γ、ピッチ比ε、板厚tをそれぞれ上記の数値範囲内とする伝熱プレート2の形状及び配置(プレート間隔)に設定した熱交換コアを形成することで、熱交換器の熱交換性能を最適化することができる。
【0060】
なお、これらなす角θ、縮流比β、膨張比γ、ピッチ比ε、板厚tをそれぞれ上記の数値範囲内を満たしていれば、
図3に示すように、伝熱プレート2の表面に形成される凸部と裏面に形成される凸部の形状は、異なっていてもよい。