(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性金属酸化物微粒子が、酸化スズ系導電性微粒子及び酸化亜鉛系導電性微粒子からなる群より選択される少なくとも一つである請求項2記載の静電荷像現像用トナー。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成法は、高品質な画像や印字が高速で得られることから、各種プリンタ、複写機、ファクシミリ等において広く用いられている。この画像形成法では、帯電させた感光体の表面に対して所望の画像に応じた露光を行うことで静電荷像を形成させ、次いでその静電荷像に粉体の静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」とも呼ぶ。)を静電的に付着させることにより感光体の表面にトナーによる画像を形成させる。そして、このトナーによる画像が紙等の記録媒体に転写されることで、当該記録媒体上に所望の画像が形成される。
【0003】
こうした電子写真方式で用いられる感光体等のユニットは、長期間の使用によって傷ついたり経時劣化を生じたりして徐々に性能が低下するため、所定の寿命が設定されている。そして、設定された寿命を迎えたユニットは交換が必要とされ、ランニングコストや環境負荷を増大させる一因となっていた。そのため近年では、ランニングコストや環境負荷の低減を目的として、こうした各ユニットに対して長寿命設計が施されるようになってきている。このような長寿命設計の一環として、耐摩耗性の高い非晶質シリコン感光体を感光体ドラムとして用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ところで、周知のように、紙等の記録媒体に転写されずに感光体の表面に残留したトナーは、次の静電荷像が感光体の表面に形成される前にクリーニングブレードにより除去される。このとき、トナー粒子は、クリーニングブレードと感光体表面との間の摩擦により帯電し、その電位があまりに高い場合には、その粒子が感光体の表面から除去される際の剥離放電によって感光体層を静電破壊させ、感光体の表面に点状の欠陥(以下、「ドラムクラック」と呼ぶ。)を生じさせることがある。感光体の表面にドラムクラックを生じると、その箇所では帯電されなくなり、その結果、形成された画像に所望しない色点を生じることになる。このような問題は、長寿命化の図られた非晶質シリコン感光体において特に顕著に観察される。
【0005】
このようなドラムクラックが感光体の表面に生じるのを抑制するために、例えば特許文献2には、疎水化されたチタン酸ストロンチウムを外添剤としてトナーに添加することが提案されている。これによれば、トナー粒子がクリーニングブレードと感光体表面との間の摩擦によって帯電したとしても、非晶質シリコン感光体層に対して絶縁破壊を生じる電位に達する前に放電することが可能となり、感光体の表面にドラムクラックを生じることを抑制できるとされている。このような効果は、チタン酸ストロンチウムがトナーの過剰な帯電量上昇を抑制することによりもたらされるものとされる。
【0006】
また、特許文献3には、導電性微粒子を付着させた無機酸化物粒子を外添剤としてトナーに添加し、さらに、画像転写後の感光体表面に残留する未転写トナーに含まれる上記導電性微粒子の存在量を所定の範囲とすることで、クリーニングブレードのエッジ部に低抵抗の外添剤層を形成させ、感光体におけるドラムクラックの発生を抑制することが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の静電荷像現像用トナーの一実施形態について説明する。
【0023】
本発明の静電荷像現像用トナー(上記のように、単に「トナー」とも呼ぶ。)は、電子写真方式における画像形成法に用いられ、キャリアとともに用いられる二成分トナーであってもよいし、キャリアを用いない一成分トナーであってもよい。また、本発明のトナーは、磁性材料を含有する磁性トナーであってもよいし、磁性材料を含有しない非磁性トナーであってもよい。
【0024】
本発明のトナーを用いることにより、感光体の表面から未転写トナーが回収される際に、クリーニングブレードのエッジ部に入り込んだトナーの粒子に電荷が過剰に蓄積されることが抑制される。そのため、本発明のトナーによれば、蓄積されたトナーの電荷が放電されることに伴う感光体の絶縁破壊が抑制される。そのため、感光体ドラムが長寿命であり交換頻度が低く、感光体における静電破壊の問題を生じやすい非晶質シリコン感光体の採用された電子写真方式において特に好ましく用いられる。なお、本発明のトナーは、非晶質シリコン感光体以外の感光体が採用された電子写真方式にも勿論用いることが可能である。
【0025】
本発明のトナーは、トナー母粒子と、外添剤と、成分として樹脂を含有する核粒子の表面に導電性微粒子が付着した複合粒子と、を含んでなる。以下、各成分について説明する。
【0026】
<トナー母粒子>
トナー母粒子は、少なくとも結着樹脂及び着色剤を含み、好ましくはこれらに加えて離型剤及び荷電調整剤を含有する粒子である。トナー母粒子は、これらの材料を混練して粉砕及び分級して得られるものであり、後述する外添剤及び複合粒子とともに混合されることによりトナー(静電荷像現像用トナー)となる。まずは、トナー母粒子を構成する各成分について説明する。
【0027】
[結着樹脂]
結着樹脂は、バインダーとも呼ばれ、トナー母粒子に含まれる成分の一つである。結着樹脂は、トナー母粒子に含まれる着色剤を分散させるとともに、印字の際の定着過程において定着ローラーの熱により記録媒体の表面で一旦溶融してから固化して皮膜となり、記録媒体の表面に着色剤を定着させる。
【0028】
本発明のトナーに用いられる結着樹脂としては、特に限定はなく、従来公知のものを挙げることができる。このような結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン系共重合体、ポリエステル、エポキシ樹脂等の樹脂材料を挙げることができる。これらの結着樹脂は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの結着樹脂の中でも、着色しやすく、鮮明な色彩のトナーが得られるとの観点からは、ポリエステルを好ましく例示できる。
【0029】
なお、ポリエステルは、2価以上の多価アルコールと多塩基酸とからなるモノマー組成物を重合させることにより得られる。
【0030】
ポリエステルの重合に用いられる2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール類、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールA等のビスフェノールAアルキレンオキシド付加物等を挙げることができる。
【0031】
3価以上の多価アルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、蔗糖、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセリン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等を挙げることができる。
【0032】
2価の多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、これらの酸の無水物等を挙げることができる。
【0033】
3価以上の多塩基酸としては、例えば、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、これらの酸の無水物等を挙げることができる。
【0034】
トナー母粒子中の結着樹脂の添加量は、トナーに要求される性能等を考慮して適宜設定されればよいが、一例として、トナー母粒子100質量部中に50〜95質量部であることを挙げることができる。
【0035】
[着色剤]
着色剤は、トナーに着色力を与えるものであり、トナー母粒子に含まれる成分の一つである。本発明のトナーに用いられる着色剤としては、特に限定はなく、従来公知のものを挙げることができる。
【0036】
具体的には、黒色の着色剤として、カーボンブラック、黒色を呈する磁性粉等が例示され、シアン色の着色剤の材料として、銅フタロシアニン、メチレンブルー、ビクトリアブルー等が例示され、マゼンタ色の着色剤として、ローダミン染料、ジメチルキナクリドン、ジクロロキナクリドン、カーミンレッド等が例示され、黄色の着色剤として、ベンジジンイエロー、クロムイエロー、ナフトールイエロー、ジスアゾイエロー等が例示される。その他、所望とする色に応じた着色剤を適宜選択して用いることができる。
【0037】
トナー母粒子中の着色剤の添加量は、トナーに要求される着色力等といった性能等を考慮して適宜設定されればよいが、一例として、トナー母粒子100質量部中に5〜15質量部とすることを挙げることができる。
【0038】
[離型剤]
離型剤は、ワックスとも呼ばれ、トナー母粒子に含まれる成分の一つである。離型剤は、画像形成や印字の際の定着過程において定着ローラーと印面(紙等の記録媒体)との間の離型性を高めるために用いられる。
【0039】
離型剤としては、トナー母粒子の離型剤として通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。このような離型剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の炭化水素系ワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、クエン酸ベヘニル、モンタン系エステルワックス等のエステルワックス、カルナバワックス、ライスワックス、フィシャートロピシュワックス等を挙げることができる。これらの離型剤は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの離型剤の中でも、エステル系のワックスを好ましく例示できる。
【0040】
トナー母粒子中の離型剤の添加量は、トナーに要求される性能等を考慮して適宜設定されればよいが、一例として、トナー母粒子100質量部中に2〜12質量部であることを挙げることができる。離型剤の添加量がこの範囲であることにより、画像形成や印字の際の定着過程において定着ローラーと印面との良好な離型性が得られるとともに、トナー母粒子から離型剤が溶出することに伴う帯電不良やフィルミング等の各種トラブルを抑制することができる。トナー母粒子中の離型剤の添加量は、トナー母粒子100質量部に対して2〜10質量部であることがより好ましく、3.5〜8質量部であることがさらに好ましい。
【0041】
[荷電調整剤]
荷電調整剤は、トナーの帯電量を調節するために添加されるものであり、トナー母粒子に含まれる成分の一つである。本発明のトナーに用いられる荷電調整剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを挙げることができる。
【0042】
このような荷電調整剤としては、ニグロシン、塩基性染料、モノアゾ染料などの金属錯体、サリチル酸やジカルボン酸等といったカルボン酸のクロムやジルコニウム等といった金属との塩又は錯体、有機染料、ナフテン酸や高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、芳香族系重縮合物等の樹脂型帯電制御剤等を挙げることができる。このような荷電調整剤は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
トナー母粒子中の荷電調整剤の添加量は、トナーに要求される性能等を考慮して適宜設定されればよいが、一例として、トナー母粒子100質量部中に0.5〜8質量部であることを挙げることができる。
【0044】
[トナー母粒子の調製]
トナー母粒子は、上記の各成分をヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合し、二軸押出機や三本ロールミル等の混練機を用いて加熱下で溶融混練する混練工程を行った後、得られた混練物を粉砕機によって粉砕し、分級する粉砕分級工程を経ることで調製される。なお、混練工程を行うに際しては、トナーに要求される性能等の特性を考慮して、上記の各成分に加えて他の成分を加えてもよい。混練物の粉砕に用いる粉砕機としては、特に制限はなく、例えば、ジェットミル、ターボミル、ロータ式粉砕機等を挙げることができる。粉砕及び分級後のトナー母粒子の体積中位粒径(D50)としては、4〜10μmが好ましく例示され、5〜9μmがより好ましく例示される。
【0045】
なお、体積中位粒径(D50)とは、体積基準のメジアン径とも呼ばれ、径がこの値より小さい粒子の体積合計と、径がこの値よりも大きい粒子の体積合計とが、全体の体積合計の各々50%ずつである値を示すものである。体積中位粒径(D50)は、粒度分布測定を行うことにより算出できる。このような粒度分布測定装置として、例えば、ベックマン・コールター社製の「マルチサイザー3」を挙げることができる。
【0046】
<外添剤>
次に、外添剤について説明する。外添剤は、トナー母粒子に対して添加されることでトナー母粒子とともにトナーを構成する粒子成分である。外添剤は、トナー母粒子の表面に付着してトナー母粒子の帯電特性を向上させたり、トナー母粒子と分離した状態で存在してトナーの流動性を向上させたりする等の役割をもつ。本発明における外添剤としては、無機酸化物粒子が好ましく用いられ、これとともに脂肪酸金属塩の粒子が用いられることがより好ましい。以下、これらの成分について説明する。
【0047】
[無機酸化物粒子]
無機酸化物粒子としては、トナー用の外添剤として通常用いられるものを特に制限なく用いることができる。このような無機酸化物微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化スズ、酸化テルル、酸化マンガン、酸化ホウ素等が挙げられる。
【0048】
無機酸化物粒子は、その表面が疎水化処理されていることが好ましい。疎水化処理の方法としては、従来公知の疎水化処理剤を疎水化処理前の無機酸化物粒子の表面に接触させて、疎水性のある官能基や成分を無機酸化物粒子の表面に化学結合させたり付着させたりする方法が挙げられる。無機酸化物粒子を疎水化処理するための疎水化処理剤としては、特に限定はなく、従来公知のものを挙げることができる。このような疎水化処理剤として、オクチルトリエトキシシラン、ポリジメチルシロキサン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等を好ましく例示することができる。これらの疎水化処理剤は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、市販の疎水化無機酸化物粒子を無機酸化物粒子として用いてもよい。
【0049】
これらの無機酸化物粒子の中でも、疎水性シリカが好ましく例示される。無機酸化物粒子は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
無機酸化物粒子の粒子径は、トナーの帯電特性や流動性等を考慮して適宜設定されればよいが、本発明においては、平均一次粒子径が25〜200nmである無機酸化物粒子を用いることが好ましい。この粒子径範囲をもつ無機酸化物粒子は、トナーの外添剤としては比較的大粒径のものであるとされる。本発明においてこうした大粒径の無機酸化物粒子を用いるのは、大粒径の無機酸化物粒子を外添剤として含むトナーを用いることにより、感光体におけるドラムクラックの発生頻度が少なくことを本発明者らが知見したことに基づくものである。こうした大粒径の無機酸化物粒子の平均一次粒子径は、30〜200nmであることがより好ましく、30〜150nmであることがさらに好ましい。
【0051】
大粒径の無機酸化物粒子が外添剤として添加されることにより、感光体におけるドラムクラックの発生頻度が小さくなる理由は必ずしも明らかではないが、概ね次のように推察される。既に述べたように、紙等の記録媒体に転写されずに感光体の表面に残留したトナーは、次の静電荷像が感光体の表面に形成される前にクリーニングブレードにより廃トナーとして回収される。このとき、トナー粒子は、クリーニングブレードと感光体表面との間に挟まれることによる摩擦を受けて帯電する。この帯電が過剰になる(過帯電になる)と感光体層の絶縁破壊を引き起こし、感光体におけるドラムクラックの発生原因となる。
【0052】
しかしながら、大粒径の無機酸化物粒子を外添剤として含むトナーでは、転写効率が向上し、廃トナーが減少する。このように、過帯電の要因となる廃トナーが減少することで、感光体における絶縁破壊が抑制されて、ドラムクラックの発生が抑制されるものと考えられる。本発明におけるドラムクラックの抑制効果は、後述する複合粒子の寄与が大きいと考えられるが、大粒径の無機酸化物粒子が外添剤として採用されることにより、より一層ドラムクラックの抑制効果が高まると考えられる。
【0053】
大粒径の無機酸化物粒子のトナー中における含有量は、トナー母粒子100質量部に対して、1〜5質量部であることが好ましく、2〜4質量部であることがより好ましく、2〜3.5質量部であることがさらに好ましい。
【0054】
本発明のトナーでは、上記のような大粒径の無機酸化物粒子のほか、小粒径の無機酸化物粒子を外添剤として用いてもよい。小粒径の無機酸化物粒子は、主として、トナー母粒子の表面に強く付着してこれを被覆すると考えられ、トナー母粒子の表面から離型剤が露出するのを抑制し、トナーの帯電特性を安定化させると考えられる。小粒径の無機酸化物粒子の平均一次粒子径は、5〜23nmが好ましく例示され、5〜20nmがより好ましく例示され、7〜20nmがさらに好ましく例示される。小粒径の無機酸化物粒子を外添剤として用いる場合、トナー中における、小粒径の無機酸化物粒子の量は、トナー母粒子100質量部に対して0.1〜2質量部であることが好ましく、0.2〜1質量部であることがより好ましく、0.3〜0.7質量部であることがさらに好ましい。
【0055】
[脂肪酸金属塩]
脂肪酸金属塩は、脂肪酸と金属との塩であり、粒子の状態で外添剤としてトナーに添加されることにより、トナー粒子がクリーニングブレードと感光体表面との間に挟まれた際に、摩擦を低減させる滑剤として機能する。こうした滑剤がトナー中に存在することにより、摩擦によるトナー粒子の過帯電が抑制され、感光体層の絶縁破壊に伴う、感光体におけるドラムクラックの発生をより一層低減させることができる。脂肪酸金属塩の粒子は、金属と、炭素数が11〜30のアルキル基を有する高級脂肪酸との塩の粒子であることが好ましい。この高級脂肪酸のアルキル基の炭素数は、12〜24がより好ましく、12〜22がさらに好ましい。
【0056】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛等が挙げられる。また、脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0057】
より具体的には、脂肪酸金属塩として、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛等のラウリン酸金属塩;ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸バリウム、ミリスチン酸亜鉛等のミリスチン酸金属塩;パルミチン酸リチウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸バリウム等のパルミチン酸金属塩;ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸金属塩等を挙げることができる。これらの脂肪酸金属塩は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの脂肪酸の中でも、ステアリン酸亜鉛又はステアリン酸カルシウムを好ましく例示できる。
【0058】
上記脂肪酸金属塩の粒子における体積中位粒径(D50)は、0.1μm〜5μmであることが好ましく、0.2μm〜3μmであることがより好ましく、0.3μm〜1μmであることがさらに好ましい。上記脂肪酸金属塩の粒子における体積中位粒径が上記の範囲であることにより、感光体におけるドラムクラックの発生が効果的に抑制されるとともに、トナーの帯電量が低下することに伴うカブリの発生が抑制されるので好ましい。
【0059】
脂肪酸金属塩の粒子のトナー中における含有量は、トナー母粒子100質量部に対して、0.1〜1.0質量部であることが好ましく、0.1〜0.4質量部であることがより好ましい。脂肪酸金属塩の粒子のトナー中における含有量が上記の範囲であることにより、感光体におけるドラムクラックの発生が効果的に抑制されるとともに、帯電量が低下することに伴うカブリやトナー飛散が抑制されるので好ましい。
【0060】
[その他の外添剤]
上記の無機酸化物粒子及び脂肪酸金属塩粒子の他に、後述する導電性微粒子を外添剤として少量用いてもよい。ただし、外添剤として用いる導電性微粒子は、あくまでも後述する複合粒子の補助としての位置付けであり、これを多量に添加するとトナーの帯電量が低下することに伴う問題が生じるので注意が必要である。外添剤として用いられる導電性微粒子のトナー中における含有量としては、トナー母粒子100質量部に対して、0〜0.5質量部が例示される。
【0061】
<複合粒子>
次に、複合粒子について説明する。複合粒子は、本発明のトナーにおける最も特徴的な構成成分であり、上記トナー母粒子が、上記外添剤及びこの複合粒子とともに混合されてトナーとなる。複合粒子は、成分として樹脂を含有する核粒子の表面に導電性微粒子が付着したものである。
【0062】
既に述べたように、導電性を備えた粒子(導電性微粒子)がそのままトナーに配合されると、当該導電性微粒子がアースの役割を果たし、トナー粒子の過帯電が抑制される。これにより、感光体層の静電破壊に伴うドラムクラックの発生が抑制されるが、その一方で、トナー全体に満遍なく導電性粒子が含まれるためにトナーの帯電量まで減少してしまい、カブリやトナー消費量の増大という問題を生じることにつながる。本発明者らは、感光体層の静電破壊を抑制するトナー処方について検討を重ねる過程で、導電性微粒子を核となる他の粒子(核粒子)の表面に付着させた上で、これをトナーに添加すると、トナーの帯電量の減少を抑制しながら、感光体層の静電破壊に伴うドラムクラックを抑制できることを見出した。このような効果の得られる理由は、必ずしも明らかでない。しかし、このようにして導電性微粒子がトナーに添加されると、導電性微粒子がトナー中に均一でなく局在化された状態で含まれるようになるので、そのことと何らかの関連があると思われる。以下、複合粒子を構成する各成分について説明する。
【0063】
[核粒子]
核粒子は、複合粒子の核となる粒子であり、後述する導電性微粒子がこれに付着することで上記複合粒子となる。核粒子は、成分として樹脂を含有する。この樹脂としては、既に説明した結着樹脂と同様のものを用いることができる。樹脂として上記結着樹脂と同じものを用いることにより、複合粒子は、印字の際の定着過程において定着ローラーの熱により溶融したあと固化し、記録媒体の表面に着色剤を定着させることに寄与する。なお、核粒子を構成する樹脂は、そのトナーのトナー母粒子に含まれる結着樹脂と同一種類の樹脂であってもよいし、異なる種類の樹脂であってもよい。
【0064】
核粒子を構成する樹脂は、一旦溶融されて固化された後に粉砕機で粉砕され、分級された後に核粒子となる。市販の樹脂を用いる場合には、既に固化された状態となっているので、これをそのまま粉砕及び分級して核粒子としてもよい。粉砕及び分級後の核粒子の体積中位粒径としては、上記トナー母粒子と同様のものが好ましく挙げられ、4〜10μmが好ましく例示され、5〜9μmがより好ましく例示される。なお、核粒子は、複合粒子とされた状態でその大部分がトナー母粒子とともに用紙へと運ばれて消費されることになる。このような観点からは、核粒子は、トナー母粒子と同一の極性に帯電することが望ましく、そのような帯電を実現できるような樹脂や添加剤を含んで構成されることが望ましい。
【0065】
より好ましい態様として、核粒子がトナー母粒子であることを挙げることができる。核粒子としてトナー母粒子を用いることにより核粒子を調製する工程を省略できるので、工数の削減という点でメリットがある。このときのトナー母粒子は、上記トナー母粒子と同一種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。また、核粒子を構成するトナー母粒子の色は、それが含まれるトナーの色と同一であってもよいし、異なってもよい。核粒子を構成するトナー母粒子の色と、それが含まれるトナーの色とを異なるものとしても、トナー中の複合粒子(核粒子が含まれる。)の含有量はそれほど多いものとはならず、トナー全体としての色には大きな影響がないためである。ただしこの場合、トナー全体としての色への影響を極力小さくするために、黄色のトナー母粒子を核粒子として用いることが好ましい。
【0066】
[導電性微粒子]
導電性微粒子は、少なくとも電気を通す性質を持っていれば足り、金属や導電性高分子等のような導電体であってもよいし、金属酸化物に不純物がドープされて半導体となったものであってもよい。なお、導電体と半導体とは、科学的には別の電気的特性を持つものとしてそれぞれ分類されるものであるが、本発明では、上記のように少なくとも電気を通す性質を持っていれば足りるので、いずれの場合であっても「導電性」があるとして扱われる。
【0067】
導電性微粒子は、導電性金属酸化物微粒子であることが好ましい。導電性金属酸化物は、金属酸化物に不純物がドープされて導電性が発現された化合物であり、公知のものを特に制限なく用いることができる。このような化合物を構成する金属酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸ストロンチウム等の複合酸化物や、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム等の金属酸化物を挙げることができる。また、ドープされる不純物としては、アルミニウム、アンチモン、スズ、ニッケル、ホウ素、リン等を挙げることができる。これらの中でも、酸化スズに不純物がドープされた酸化スズ系導電性微粒子や、酸化亜鉛に不純物がドープされた酸化亜鉛系導電性微粒子を好ましく挙げることができ、より具体的には、アルミニウムがドープされた酸化スズ微粒子や酸化亜鉛微粒子が挙げられる。導電性金属酸化物の微粒子は各種のものが市販されているので、市販されているものを導電性微粒子として用いてもよい。これらの導電性微粒子は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
導電性微粒子の平均一次粒子径としては、5〜100nmが好ましく例示され、5〜60nmがより好ましく例示され、10〜40nmがさらに好ましく例示される。導電性微粒子の平均一次粒子径が上記の範囲であることにより、導電性微粒子が上記核粒子の表面へ良好に付着するので好ましい。
【0069】
導電性微粒子の複合粒子中における含有量は、核粒子100質量部に対して、10〜30質量部であることが好ましく、15〜25質量部であることがより好ましく、18〜22質量部であることがさらに好ましい。
【0070】
[複合粒子の調製]
上記核粒子及び導電性微粒子は、混合されることにより導電性微粒子が核粒子の表面に付着して複合粒子となる。これらを混合するために用いられる混合装置としては、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等が挙げられる。混合装置は、これらに限定されず、粉体を混合できる装置であればいずれの混合装置も用いることができる。
【0071】
複合粒子のトナー中における含有量は、トナー母粒子100質量部に対して、0.3〜5質量部が好ましく、0.5〜2.5質量部がより好ましい。複合粒子のトナー中における含有量が上記の範囲であることにより、トナー粒子の過帯電が抑制され、感光体層の静電破壊に伴うドラムクラックの発生が抑制されるので好ましい。
【0072】
<トナーの調製>
上記の外添剤及び複合粒子をトナー母粒子と混合処理させる外添工程を経ることにより、トナーが調製される。その際、トナーの諸特性を向上させるために他の成分を適宜加えてもよい。
【0073】
トナー母粒子、外添剤及び複合粒子を混合させる際に用いられる混合装置としては、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等が挙げられる。混合装置は、これらに限定されず、粉体を混合できる装置であればいずれの混合装置も用いることができる。
【0074】
本発明のトナーによれば、感光体の表面から未転写トナーが回収される際に、クリーニングブレードのエッジ部に入り込んだトナー粒子の電荷がクリーニングブレードと感光体の表面との間の摩擦により過剰に蓄積されるのが抑制される。このため、トナーに蓄積された電荷が放出されることに伴う感光体の絶縁破壊が抑制され、非晶質シリコン感光体のような長寿命の感光体ドラムを用いた場合であってもドラムクラックの発生を長期間にわたって抑制することができる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明の静電荷像現像用トナーをさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0076】
[トナー母粒子の調製]
結着樹脂として市販のポリエステル樹脂(商品名:FC1565、三菱レイヨン株式会社製)64.5部と、同じく結着樹脂として市販のポリエステル樹脂(商品名:ER561、三菱レイヨン株式会社製)15.6部と、着色剤として黄色着色剤(ピグメントイエロー180系着色剤)11.9部と、荷電調整剤として樹脂系電荷制御剤(商品名:アクリベースFCA−201−PS、藤倉化成株式会社製)4部と、離型剤として脂肪酸エステルワックス(商品名:WE−10、日油株式会社製)4部と、をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機を用いて溶融混練した。得られた混練物を溶融及び固化させ、ロートプレックスにて粗粉砕した後、ジェットミルで微粉砕し、風力分級機を用いて分級して体積中位粒径が7.5μmの正帯電性トナー母粒子を得た。
【0077】
[複合粒子の調製]
上記トナー母粒子80部と、酸化亜鉛系導電性微粒子(商品名:Pazet
CK、ハクスイテック株式会社製、アルミニウムドープ酸化亜鉛)20部と、疎水性シリカ(TG−820F、キャボット社製)0.5部と、をミキサーで1分間撹拌して複合粒子Aを得た。また、上記トナー母粒子80部と、酸化スズ系導電性微粒子(商品名:SN−100P、石原産業株式会社製、アンチモンドープ酸化スズ)20部と、上記疎水性シリカ0.5部と、をミキサーで1分間撹拌して複合粒子Bを得た。
【0078】
[トナーの調製]
表1及び2に記載の配合にて各材料を配合した後、これらをヘンシェルミキサー(周速40m/s)で20分間混合し、実施例1〜9、及び比較例1〜3のトナーを得た。なお、表1及び2に示す配合量は質量部である。また、表1及び2中、大粒径無機酸化物粒子は、疎水性シリカ(商品名:H05TA、ワッカーケミカルズ社製、平均一次粒子径30nm)であり、小粒径無機酸化物粒子は、疎水性シリカ(商品名:TG820F、キャボット社製、平均一次粒子径7nm)であり、導電性微粒子は、アルミニウムドープ酸化亜鉛(商品名:PazetCK、ハクスイテック株式会社製)である。また、表1及び2に記載された「D50」は、体積中位粒径を意味する。
【0079】
[ドラムクラック発生評価]
評価用非磁性二成分方式の正帯電性帯電方式のカラープリンタを用いて、温度25℃、湿度50%の環境で、ISOチャートISO−IEC24712を100,000枚印刷し、上記チャートにおけるベタ画像の外側の部分にて色点として発生したドラムクラックの個数を観察した。結果を表1及び2の「ドラムクラック」欄に示す。なお、評価基準は下記の通りである。
◎: ドラムクラックの発生個数が2個未満である
○: ドラムクラックの発生個数が2個以上、5個未満である
△: ドラムクラックの発生個数が5個以上、10個未満である
×: ドラムクラックの発生個数が10個以上である
【0080】
[カブリ発生評価]
評価用非磁性二成分方式の正帯電性帯電方式のカラープリンタを用いて、温度25℃、湿度50%の環境で印字率5%チャートを13,000枚印刷し、カブリの発生状況を観察した。そして、実用上問題となるカブリの認められるものを「×」とし、実用上問題となるカブリの認められないものを「○」とし、それらの中間的な評価を「△」としたときの評価結果を表1及び2の「カブリ」欄に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表1及び2に示すように、本発明のトナーによれば、感光体でのドラムクラックの発生が抑制されるとともに、トナーの帯電量が低下することに伴うカブリの発生も抑制されることがわかる。さらに、実施例1〜4と実施例5〜8とを対比すると、脂肪酸金属塩の体積中位粒径(D50)が0.1μm〜5μmであることや、平均一次粒子径が25nm〜200nmの無機酸化物粒子が含まれることや、この無機酸化物粒子の含有量がトナー母粒子100質量部に対して2〜5質量部であることにより、より好ましい結果になることがわかる。