特許第6227932号(P6227932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6227932-落橋防止構造 図000002
  • 特許6227932-落橋防止構造 図000003
  • 特許6227932-落橋防止構造 図000004
  • 特許6227932-落橋防止構造 図000005
  • 特許6227932-落橋防止構造 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227932
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】落橋防止構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   E01D19/04 101
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-171357(P2013-171357)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2015-40398(P2015-40398A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平林 雅也
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
【審査官】 袴田 知弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−324265(JP,A)
【文献】 特開平10−060824(JP,A)
【文献】 特開平10−159021(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0029711(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に立設される複数の下部構造物と、前記下部構造物と前記下部構造物との間に跨って架設される橋桁と、を備える橋梁の落橋防止構造であって、
前記橋桁を橋軸方向一端側から支持する第1下部構造物と、前記橋桁の、中心よりも幅方向一端側の第1部位との間に配設される第1線材部と、
前記第1部位と、前記橋桁を橋軸方向他端側から支持する第2下部構造物との間に配設される第2線材部と、
前記第2下部構造物と、前記橋桁の、中心よりも幅方向他端側の第2部位との間に配設される第3線材部と、
前記第2部位と、前記第1下部構造物との間に配設される第4線材部と、を有する移動制限線材が、
前記下部構造物と前記橋桁の少なくとも一方に取り付けられた治具に軸方向に移動可能となるように係止されるとともに、略環状をなすように配設され、かつ、緊張した状態とされていることを特徴とする落橋防止構造。
【請求項2】
前記線材部の少なくとも一つが、前記下部構造物に向かって下がっていくように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の落橋防止構造。
【請求項3】
前記移動制限線材が、両端を結合した無終端線になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の落橋防止構造。
【請求項4】
前記橋桁に、前記橋軸方向に沿って複数の開口が形成され、
前記移動制限線材が、各開口に通されるとともに、前記橋桁に巻きつけられることで前記橋桁に係止されていることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の落橋防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落橋を防ぐための落橋防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁は、橋台、橋脚等の下部構造と、橋桁等の上部構造とからなる。また、橋台、橋脚と橋桁とは固定されておらず、橋桁は橋台や橋脚に対して移動可能となっているのが一般的である。このため、地震が発生すると、橋台や橋脚を介して橋桁に三次元的な正負の加速度による慣性力が作用し、この慣性力が大きい場合には、橋桁が回転や滑動(水平方向)、浮き上がり(鉛直方向)といった移動をすることがある。そして、橋桁の移動量が過度に大きくなると橋台や橋脚から橋桁が落下(落橋)してしまう虞がある。特に斜橋の場合、橋桁が橋軸から鋭角に向かう方向に回転すると,橋桁が橋台のパラペット部に引っかかることなく回転し続けることが可能となる場合があり、そこに、滑動、浮き上がりが組み合わさることで落橋の可能性が更に大きくなってしまうこともある。
【0003】
そこで、従来、橋台や橋脚と橋桁とをチェーン等で繋いでおく技術(特許文献1参照)や、橋桁の下面に突起を設け、橋桁が滑動または回転した際に、突起が橋脚または橋台に引っ掛かるようにする技術(特許文献2参照)、橋台または橋脚の上面であって橋桁の側方に突起を設け、橋桁が滑動または回転した際に、橋桁が突起に引っ掛かるようにする技術(特許文献3参照)等によって落橋を防止してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−177255号公報
【特許文献2】特開2011−64000号公報
【特許文献3】特開平9−195226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の落橋防止技術は、橋桁の移動を一定範囲内で許容するものであるため、幸い落橋を免れたとしても、橋桁が元の位置から大きく移動したままとなってしまうことがあった。その場合、復旧作業において橋桁を元の位置に戻すのに多大な労力を要することとなる。
一方、橋台や橋脚と橋桁とを剛な部材によって一体化し、橋桁の三次元的な移動を完全に拘束してしまうことも考えらえるが、橋梁のような大きな構造物において部材と部材とを一体化するには、大きく重い部材を大量に用いることが想定される。しかしながら、橋桁や橋台、橋脚の周囲には、部材の設置に必要な施工空間が十分に確保されていないことが多く、施工が困難となる、施工空間の確保に多くの時間と工事費を要してしまう等の虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、橋台や橋脚、橋桁を備える橋梁において、落橋を起こりにくくするとともに、地震後の復旧作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、地面に立設される複数の下部構造物と、前記下部構造物と前記下部構造物との間に跨って架設される橋桁と、を備える橋梁の落橋防止構造であって、前記橋桁を橋軸方向一端側から支持する第1下部構造物と、前記橋桁の、中心よりも幅方向一端側の第1部位との間に配設される第1線材部と、前記第1部位と、前記橋桁を橋軸方向他端側から支持する第2下部構造物との間に配設される第2線材部と、前記第2下部構造物と、前記橋桁の、中心よりも幅方向他端側の第2部位との間に配設される第3線材部と、前記第2部位と、前記第1下部構造物との間に配設される第4線材部と、を有する移動制限線材が、前記下部構造物と前記橋桁の少なくとも一方に取り付けられた治具に軸方向に移動可能となるように係止されるとともに、略環状をなすように配設され、かつ、緊張した状態とされていることを特徴とする。
【0008】
ここで、「下部構造物」とは、橋梁の両端の橋桁を支持する橋台、または橋梁の中間部において橋桁を支持する橋脚を指す。
また、「略環状」には、移動制限線材の両端を互いに結合させる場合や、両端を下部構造物や橋桁の同じ箇所において一緒に定着させる場合、複数本の移動制限線材を全体として環状に見えるように配設する場合等が含まれる。
また、移動制限線材は、第1構造物,第2下部構造物や、第1,第2部位等の経由箇所において固定してもよいし、軸方向に移動可能に係止するようにしてもよい。
【0009】
このようにすれば、地震によって橋桁が移動しようとするときに、少なくとも一部が略環状に、かつ緊張させた状態で配設された移動制限線材が橋桁の動きを規制する。このとき、移動制限線材の配設形状が変形して移動制限線材が僅かに延びるので、橋桁の移動がある程度許容されることになるが、地震動が落ち着いてくると、移動制限線材の伸びが戻ろうとすることにより、橋桁が元の位置、或いは元の位置から僅かに離れた位置まで戻される。これにより、橋桁を元の位置に戻す必要がなくなる、或いは、元の位置に戻す必要が生じたとしても橋桁を動かす距離が短くなるので、橋梁を容易かつ短時間で復旧させることができる。
また、軽く、場所をとらない移動制限線材を配設するだけでよいので、施工空間を確保し易く、容易に施工することができる。また、新規に建設する橋梁だけでなく、既存の橋梁にも施工することができる。
また、下部構造物には、移動制限線材の強度を超える荷重は作用しなくなるので、橋桁の移動によって下部構造物までもが損傷し、復旧が余計に困難になってしまうのを防ぐことができる。
また、橋桁や下部構造物に孔を空けたり溝を掘ったりする場合に比べ、移動制限線材を容易に掛け渡すことができるし、下部構造物や橋桁の強度を落とす心配が無い。
また、移動制限線材を下部構造物や橋桁に直接掛ける場合と異なり、橋桁の移動によって移動制限線材や下部構造物、橋桁が磨耗しにくくなる。
【0010】
なお、望ましくは、上記発明において、前記線材部の少なくとも一つが、前記下部構造物に向かって下がっていくように傾斜したものとするとよい。
このようにすれば、移動制限線材が橋桁を下方向にも引っ張るようになるので、橋桁の浮き上がり(上方向への移動)を規制することができる。
また、下部構造物に、パラペットのような橋桁の側方にまで達する部位が無い場合であっても容易に移動制限線材を架け渡すことができる。
【0011】
また、望ましくは、上記発明において、前記移動制限線材が、両端を結合した無終端線になっているものとするとよい。
このようにすれば、移動制限線材を下部構造物や橋桁に定着させる場合に比べ、施工が容易になる。
【0013】
また、望ましくは、上記発明において、前記橋桁に、前記橋軸方向に沿って複数の開口が形成され、前記移動制限線材が、各開口に通されるとともに、前記橋桁に巻きつけられることで前記橋桁に係止されたものとするとよい。
このようにすれば、移動制限線材を掛け渡すのに用いる部材を少なくできる。また、移動制限線材と橋桁との間に大きな摩擦力が生じるので、橋桁の移動を規制する力を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、橋台や橋脚、橋桁を備える橋梁において、落橋を起こりにくくするとともに、地震後の復旧作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る落橋防止構造を有する橋梁の一部を示した図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
図2】同実施形態の落橋防止構造を構成する第2治具の一例を橋軸方向から示した縦断面図である。
図3図1の耐震補強構造が、橋桁の移動を制限し、元に戻そうとする仕組みを示した図である。
図4】同実施形態の変形例に係る落橋防止構造を有する橋梁の一部を示した図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る落橋防止構造を有する橋梁の一部を示した図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
【0017】
〔橋梁の落橋防止構造〕
まず、本実施形態における落橋防止構造について説明する。図1は、本実施形態の落橋防止構造を有する橋梁の中心部を示した側面図及び上面図である。
本実施形態の橋梁10は、両端に立設される図示しない橋台と、両橋台の間に所定間隔で複数立設される橋脚1、橋台とその隣の橋脚1との間、隣り合う橋脚1と橋脚1との間に跨って架設される橋桁2等からなる。
【0018】
橋脚1は、鉄筋コンクリートまたは鋼材で形成されている。橋脚1の幅は橋桁の幅よりも大きく、その上面は、橋桁2を載置できるように水平な平面となっている。そして、その上面の所定箇所には、橋桁2を支えるための複数の沓11が設置されている。以下、必要に応じて、橋桁2を橋軸方向一端側(図1の左側)から支持する橋脚を第1橋脚1Aと表記し、橋軸方向他端側から支持する橋脚を第2橋脚1Bと表記する。
橋桁2は、鉄筋コンクリートまたは鋼材で形成されている。橋桁2の上面視形状は、図1(b)に一例として橋軸方向が幅方向よりも長い矩形のものを示したが、本発明はどのような形状であっても適用可能であるため、橋軸方向が幅方向よりも短い矩形、或いは、正方形、平行四辺形、台形等の場合もある。そして、橋桁2の下面の4つの角が沓11の上に載るようになっている。以下、必要に応じて、橋桁2の幅方向一端側の部位(図1(b)の上側半分)を第1部位、幅方向他端側の部位(図1(b)の下側半分)を第2部位と表記する。
そして、橋梁10は、落橋防止器具3によって橋桁2が橋脚1から落下しないようになっている。なお、図示は省略したが、橋梁10端部を支持する橋台とその隣の橋脚1との間に架設される橋桁2も同様の落橋防止器具3により落下しないようになっている。
【0019】
落橋防止器具3は、図1(b)に示すように、橋脚1に取り付けられた第1治具31と、橋桁2に取り付けられた第2治具32と、各治具31,32に架け渡された移動制限線材(以下線材33)とで構成されている。
第1治具31は、各橋脚1の上面であって橋桁2の幅方向両側方に、橋脚1の上面から上方に突出するようにそれぞれ取り付けられている。第1治具31には、橋脚1がコンクリート構造物である場合には、例えば、あと施工アンカー等を、橋脚1が鋼構造物である場合には、例えば、ボルト、リベット等を用いる。また、第1治具31には、線材33を係止するための係止部31aが形成されている。係止部31aは、例えば、第1治具31の側面に沿って略水平方向に形成される突起または溝となっており、線材33を突起または溝に這わせることにより、第1治具31に係止するものとなっている。
【0020】
第2治具32は、橋桁2の長辺に沿った両側面の、第1治具31よりも上方となる位置(本実施形態では上端部)に2つずつ、該側面から側方に突出するように取り付けられている。一方の面に取り付けられる2つの第2治具32のうちの一方は、橋桁2の中心よりも橋軸方向一端側に、他方は、橋桁2の中心よりも橋軸方向他端側にそれぞれ取り付けられている。第1治具31と同様、第2治具32には、橋脚1がコンクリート構造物である場合には、例えば、あと施工アンカー等を、橋脚1が鋼構造物である場合には、例えば、ボルト、リベット等を用いる。第2治具32の先端には、線材33を係止するための係止部32bが形成されている。係止部32bは、例えば、橋桁2の長手方向に向かって開口するリングまたは筒、先端が上方に向かって湾曲したフック等となっており、線材33をリングまたは筒に通す、或いは、フックに掛けることにより、第2治具32に係止するものとなっている。
【0021】
特に、橋桁2の上部が、図2に示すような、橋桁2の幅方向に延びるフランジ24となっている場合には、第2治具32として、一端部に係止部32bが形成され、他端部に、フランジ24の、橋桁2の橋軸方向へ伸びる部位に係合できるように、橋軸方向と反対側に開放されたコ字状をなす係合部32aが形成されたものを用いる。詳細は後述するが、地震が発生すると、橋桁2が移動しようとして、線材33に橋桁2から離れようとする方向の荷重が作用する場合があるが、もしそうなったとしても第2治具32は外れることがない。
【0022】
線材33は、鋼製、炭素繊維製または合成繊維製のワイヤーであり、両端が結合されて環状になっている。なお、線材33の両端の結合方法は任意である。また、線材33は、各第1,第2治具31,32の係止部31a,32bに掛けられるとともに、所定の張力を有するように緊張させた状態とされることにより、第1橋脚1Aの第1治具31と、橋桁2の幅方向一端側の側面(橋軸線よりも幅方向一端側の第1部位)の第2治具32との間に配設される第1線材部33aと、橋桁2の幅方向一端側の側面の第2治具32と、橋桁2を橋軸方向他端側から支持する橋脚1(以下第2橋脚1B)との間に配設される第2線材部33bと、第2橋脚1Bと、橋桁2の、橋軸線よりも幅方向他端側の第2部位との間に配設される第3線材部33cと、第2部位と、第1橋脚1Aとの間に配設される第4線材部33dと、を有している。この第1〜第4線材部33a〜33dは、第2治具32から第1治具31に近づくに従って橋桁2から離れるとともに下方に向かって傾斜するように配設されている。
【0023】
〔落橋防止の原理〕
次に、上記落橋防止器具3が、地震等による橋桁2の橋脚1からの落下を防止する仕組みについて説明する。図3は、地震時における橋梁10を上方から示した図である。なお、図中に実線で示されているのは通常時の状態、二重鎖線で示されているのは振動時の状態である。
【0024】
例えば、橋梁10に地震動が作用し、図3に示すように、橋桁2に回転するような慣性力が作用すると、橋桁2に取り付けられた第2治具32のうち、橋軸方向一端側かつ幅方向一端側(図の左上)の第2治具32と、橋軸方向他端側かつ幅方向他端側(図の右下)の第2治具32が、それぞれ環状に配設してある線材33を引っ張り、線材33の配設形状を変形させようとする。しかし、線材33は緊張させた状態としてある上、第1,第2治具31,32が、線材33との間に作用する摩擦力によって線材33の変形を規制するので、橋桁2の回転は、線材33によって制限される。一方、線材33は、荷重が作用することにより伸びるので、橋桁2の移動が、落橋しない程度の僅かな距離だけ許容される。しかし、地震動が落ち着いてくると、線材33の伸びが戻ろうとする力で,橋桁2は元の位置、或いは元の位置の近くまで戻る。
【0025】
また、図示は省略するが、橋梁10に地震動が作用し、橋桁2にある方向へ滑動するような慣性力が作用すると、橋桁2に取り付けられた第2治具32のうち、滑動方向と反対側にある2つの第2治具32が、それぞれ線材33を引っ張り、線材33の配設形状を変形させようとするが、回転の場合と同様の仕組みで、橋桁2の回転は、線材33によって制限される。また、地震動が落ち着いてくると、橋桁2は元の位置、或いは元の位置の近くまで戻る。
また、橋梁10に地震動が作用し、橋桁2に浮き上がるような慣性力が作用すると、第2治具32から第1治具31に近づくに従って下方に向かって傾斜する第1〜第4線材部33a〜33dの張力によって、橋桁2の浮き上がりが制限される。
【0026】
以上のように、本実施形態の橋梁10には、橋桁2を橋軸方向一端側から支持する第1橋脚1A(下部構造物)と、橋桁2の、中心よりも幅方向一端側の第1部位2aとの間に配設される第1線材部33aと、第1部位2aと、橋桁2を橋軸方向他端側から支持する第2橋脚1B(下部構造物)との間に配設される第2線材部33bと、第2橋脚1Bと、橋桁2の、中心よりも幅方向他端側の第2部位2bとの間に配設される第3線材部33cと、第2部位2bと、第1橋脚1Aとの間に配設される第4線材部33dと、を有する線材33が、少なくとも一部が略環状をなし、かつ、緊張した状態となるように配設されている。
【0027】
このため、地震によって橋桁2が移動しようとするときに、少なくとも一部が略環状に、かつ緊張させた状態で配設された線材33が橋桁2の動きを規制する。このとき、線材33の配設形状が変形して線材33が僅かに延びるので、橋桁2の移動がある程度許容されることになるが、地震動が落ち着いてくると、線材33の伸びが戻ろうとすることにより、橋桁2が元の位置、或いは元の位置から僅かに離れた位置まで戻される。これにより、橋桁2を元の位置に戻す必要がなくなる、或いは、元の位置に戻す必要が生じたとしても橋桁2を動かす距離が短くなるので、橋梁10を容易かつ短時間で復旧させることができる。
また、軽く、場所をとらない線材33を配設するだけでよいので、施工空間を確保し易く、容易に施工することができる。また、新規に建設する橋梁だけでなく、既存の橋梁にも施工することができる。
また、橋脚1には、線材33の強度を超える荷重は作用しなくなるので、橋桁2の移動によって橋脚1までもが損傷し、復旧が余計に困難になってしまうのを防ぐことができる。
【0028】
また、本実施形態では、第1〜第4線材部33a〜33dが、下部構造物に向かって下がっていくように傾斜している。
こうすることで、線材33が橋桁2を下方向にも引っ張るようになるので、橋桁2の浮き上がり(上方向への移動)を規制することができる。
また、橋台と異なりパラペットのような橋桁の側方にまで達する部位が無い橋脚1であっても容易に線材33を架け渡すことができる。
【0029】
また、本実施形態では、線材33が、両端を結合した無終端線になっている。
こうすることで、線材33を橋脚1や橋桁2に定着させる場合に比べ、施工が容易になる。
【0030】
また、本実施形態では、橋脚1と橋桁2に、線材33を係止するための第1,第2治具31,32が取り付けられている。
こうすることで、橋桁2や橋脚1に孔を空けたり溝を掘ったりする場合に比べ、線材33を容易に掛け渡すことができるし、橋脚1や橋桁2の強度を落とす心配が無い。
また、線材33を橋脚1や橋桁2に直接掛ける場合と異なり、橋桁2の移動によって線材33や橋脚1、橋桁2が磨耗しにくくなる。
【0031】
<第1実施形態変形例>
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
ここでは、上記実施形態と相違する点のみ説明することとし、共通する点については説明を省略する。
【0032】
図4は、本変形例の落橋防止構造を有する橋梁10Aの側面図及び上面図である。
本変形例の橋梁10Aは、図4に示すように、落橋防止器具の構成が上記実施形態と異なる。
具体的には、本変形例の落橋防止器具3Aは、図4(a)に示すように、第1治具31が橋脚1の互いに向かい合う側面に設けられ、第2治具32が橋桁2Bの長辺に沿った側面の下端部に設けられている。なお、橋桁2の下部に、橋桁2の幅方向に延びるフランジが形成されている場合には、図2に示した第2治具32を、上下が逆になるよう回転させることで、本変形例でも用いることができる。治具31,32の配置をこのようにしたことで、架け渡される線材33の配設形状も変化することになるが、地震発生時は上記実施形態の落橋防止器具3と同様に機能する。
【0033】
以上のように、本変形例では、第1治具31を、第1,第2橋脚1A,1Bの相対する側面に取り付けている。
こうすることで、上記実施形態の橋梁10と同様の落橋防止効果を得ることができるのは勿論のこと、橋脚1の上面に第1治具31を取り付けるのが困難な場合でも施工が可能となる。
また、上記した実施形態のように橋脚の上面に第1治具31を設けた場合、複数の橋桁を有する橋梁の各橋桁を落橋防止構造とする際に、ある橋桁に架け渡された線材33と、その隣の橋桁に架け渡された線材33とを、一つの第1治具に交差するように係止することとなり、線材33と線材33とが互いに干渉して配設を困難にしたり、地震の際に線材33と線材33とが擦れて損傷してしまう虞があるが、本変形例のようにすれば、橋桁が複数ある場合であっても橋桁毎に第1治具が備えられることになるので、線材同士の干渉や摩擦による損傷の心配が無い。
【0034】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
ここでは、第1実施形態と相違する点のみ説明することとし、共通する点については説明を省略する。
【0035】
〔落橋防止構造〕
図5は、本実施形態の落橋防止構造を有する橋梁の側面図及び上面図である。
本実施形態の橋梁10Bは、図5に示すように、橋桁の構造および落橋防止器具の構成が第1実施形態と異なる。
【0036】
具体的には、本実施形態の橋桁2Aは、複数の鉄骨22と、複数の枕木23等で構成されている。
各鉄骨22は、隣り合う橋脚1と橋脚1との間に跨って、互いに平行となるように架設されている。
枕木23は、2本の鉄骨22の上に跨るように所定間隔で配設されている。
そして、鉄骨22と枕木23とがこのように配設されることにより、橋桁2Aには、複数の開口2Aaが形成される。
また、本実施形態の落橋防止器具3Bは、第2治具32を備えておらず、線材33が各開口2Aaに通されるとともに鉄骨22に巻き付けられている。つまり、本実施形態では、鉄骨22が第2治具と同様の役割を果たしていることになる。
【0037】
以上のように、本実施形態では、橋桁2Aに、橋軸方向に沿って複数の開口2Aaが形成され、線材33が、各開口2Aaに通されるとともに、橋桁2Aに巻きつけられることで橋桁2Aに係止されるようにしている。
こうすることで、第1実施形態の橋梁10,10Aと同様の落橋防止効果を得ることができるのは勿論のこと、線材33を掛け渡すのに用いる部材を少なくできる。
また、線材33と橋桁2との間に大きな摩擦力が生じるので、橋桁2の移動を規制する力を高めることができる。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、上記実施形態では、1つの橋桁に対して無終端線にした線材を1本だけ用いたが、複数本用いるようにしても良い。
また、上記実施形態では、線材を1つの大きな環状となるように配設したが、例えば、線材を8の字状に配設して、2つの環状部を有するようにしてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、治具を用いて線材を橋台と橋桁とに掛け渡したが、橋台、橋桁に直接孔や溝を形成し、その孔や溝に線材を通すようにしてもよい。
また、上記実施形態では、第2治具を橋桁の側面に取り付けたが、幅方向一端側に取り付けるべき第2治具は第1部位の任意の箇所に取り付けることができるし、幅方向他端側に取り付けるべき第2治具は第2部位の任意の箇所に取り付けることができる。
また、上記実施形態では、第1治具を橋台の上面或いは互いに向かい合う側面に、第2治具を橋桁の側面にそれぞれ取り付けるようにしたが、第1治具を橋台の幅方向を向く側面に取り付けたり、第2治具を橋桁の上面または下面に取り付けたりするようにしてもよい。
また、上記実施形態において、第1治具を各橋脚に2つずつ取り付けたが、一つずつとしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10,10A,10B 橋梁
1 橋脚(下部構造物)
2,2A,2B 橋桁
2Aa 開口
2a 第1部位
2b 第2部位
31 第1治具
32 第2治具
33 線材
33a 第1線材部
33b 第2線材部
33c 第3線材部
33d 第4線材部
a 橋軸
図1
図2
図3
図4
図5