特許第6227954号(P6227954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227954
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/44 20060101AFI20171030BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20171030BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20171030BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20171030BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C08G59/44
   C08L63/00
   C08K3/34
   H01L23/30 R
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-200062(P2013-200062)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-67618(P2015-67618A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 卓央
(72)【発明者】
【氏名】鴻巣 修
(72)【発明者】
【氏名】藤林 輝久
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 修輔
(72)【発明者】
【氏名】和田 高明
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−213879(JP,A)
【文献】 特開2007−02170(JP,A)
【文献】 特開2005−048054(JP,A)
【文献】 特開2013−249458(JP,A)
【文献】 特開平02−279675(JP,A)
【文献】 特開昭60−094418(JP,A)
【文献】 特開2001−233945(JP,A)
【文献】 特表2010−518182(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073606(WO,A1)
【文献】 特開2006−299246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59、C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)芳香族アミド化合物、及び、(D)シラン化合物を含む硬化性樹脂組成物であって、
該芳香族アミド化合物は、下記一般式(2):
【化1】
(式中、Rは、トリアゾール骨格を有する複素環構造を表す。)で表されるサリチルアミド構造を有する化合物であり、
該シラン化合物は、シロキサン結合を有し、かつ下記平均組成式(I):
SiO (I)
(式中、Xは、同一又は異なって、イミド結合を含む有機骨格を表す。Yは、同一又は異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群から選ばれる少なくとも1種を表す。Rは、同一又は異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、置換基を有していてもよい。Zは、同一又は異なって、イミド結合を含まない有機骨格を表す。aは0又は3未満の数、bは0又は3未満の数、cは0又は3未満の数、dは0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表される
ことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
更に、(E)マレイミド化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記マレイミド化合物は、分子中に複数のマレイミド基を有する化合物であることを特徴とする請求項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物は、封止材用の組成物であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項に記載の硬化性樹脂組成物を用いてなることを特徴とする封止材。
【請求項6】
請求項に記載の封止材を用いてなることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物及びその用途に関する。より詳しくは、電気、機械、自動車分野を始めとする様々な産業分野において有用な硬化性樹脂組成物、封止材及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性樹脂組成物は、光や熱によって硬化する性質を有する樹脂を含む組成物であり、様々な産業分野において、各用途に求められる物性を有する硬化性樹脂組成物の開発が進んでいる。このような硬化性樹脂組成物の用途の1つに、電子部品や半導体チップ等を実装した基板に用いられる封止材がある。電子部品や半導体チップ等を基板に実装する場合の実装方式は、高密度実装が可能なことから表面実装方式が多く、その際に電気絶縁性を有する封止材で封止しており、このような封止材としては、従来、有機主成分としてエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物が汎用されている。しかし、このような樹脂組成物から得られる硬化物を、例えば200℃以上の高温下で長時間放置した場合には、重量低下が著しく、かつ機械的強度の低下も認められることから、耐熱性の向上が求められている。
【0003】
更に封止材用途では、耐熱性だけでなく、半導体装置内部に存在するリードフレーム等の基材や配線等の構成部材との接着性(密着性)も非常に重要である。接着性が充分ではないと、構成部材から封止材が剥離し、この剥離に起因して半導体装置にクラックが発生することもある。したがって、封止材には、半導体装置の信頼性向上の観点から、耐熱性に加え、半導体装置を長期間使用したり、繰り返し高温環境下に曝したりした際にも、構成部材から封止材が剥離しないほどに充分な接着性を有することが求められる。
【0004】
封止材用途に使用される組成物等としては、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、フィラー及びベンゾトリアゾール化合物を含む樹脂ペースト組成物(特許文献1参照);エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機質充填材及び2−アミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジンを含む半導体封止用エポキシ樹脂組成物(特許文献2参照);エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機質充填材及び2−メルカプトピリミジンを必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物(特許文献3参照);トリアゾール系化合物及び溶剤を含む表面処理剤によって表面処理された半導体用リードフレーム(特許文献4参照);エポキシ樹脂混合物、フェノール樹脂混合物、無機充填剤及びベンゾトリアゾール誘導体を含有する半導体封止用樹脂組成物(特許文献5参照)等が開示されている。
【0005】
一方、耐熱性に優れる硬化物を与え得る硬化性樹脂組成物として、シロキサン結合を形成するケイ素原子にイミド結合を有する有機骨格が少なくとも1個結合してなる構成単位を有するシラン化合物と、有機樹脂とを含む硬化性樹脂組成物が開発されている(特許文献6参照)。この硬化性樹脂組成物は、耐熱性等の各種物性に優れ、高温高圧、多湿等の過酷な環境下においても各種物性の低下が低い硬化物を与えることができるため、実装用途に極めて有用な硬化性樹脂組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−92740号公報
【特許文献2】特開2005−132888号公報
【特許文献3】特開2005−154485号公報
【特許文献4】特開2006−80324号公報
【特許文献5】特開2010−65160号公報
【特許文献6】特表2010−518182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、封止材としては、従来、有機主成分としてエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物が汎用されているが、耐熱性が充分ではないため、特許文献6に代表されるように、耐熱性を付与又は向上させるための技術が種々検討されつつある。しかし、封止材用途により一層好適なものとするため、耐熱性のみならず、半導体装置内部の基材や配線等の構成部材、中でも特にリードフレームや配線等を構成する金属(特に銅やニッケルやその合金)との接着性にも優れる硬化物を得るための工夫の余地があった。また、特許文献1〜5の技術によっても、耐熱性及び金属との接着性により一層優れる硬化物を得ることはできなかった。
【0008】
本発明者等は、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールや3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール−4−カルボン酸等の複数の反応性官能基及び環窒素原子を有する含窒素環状化合物に着目し鋭意検討を重ねた結果、この課題を解決できることを見いだした。だが、これらの含窒素環状化合物を封止材に使用した場合、成型時の温度において、硬化性樹脂組成物の粘度が急激に上昇する為、可使時間が短くなり、実用上重大な課題があった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、充分な耐熱性を有するとともに、金属(特に、銅やニッケルやその合金)との接着性にも優れる硬化物を与えることができるうえ、充分な可使時間を示すことができる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、このような硬化性樹脂組成物を用いた封止材及び半導体装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、封止材用途等に好ましく適用できる材料について種々検討したところ、上述したように複数の反応性官能基及び環窒素原子を有する含窒素環状化合物を添加した硬化性樹脂組成物は、優れた耐熱性及び金属(特に銅やニッケルやその合金)との接着性に優れる硬化物を与えることができる一方で、成型時の可使時間が低下するという課題があることに着目した。そこで、含窒素環状化合物に代えて、水酸基を含む芳香環及びアミド結合を有する芳香族アミド化合物を用いると、硬化物において複数の金属との接着性と成型時の可使時間を改善することができることを見いだし、封止材用途の材料としても有用なものとなることを見いだした。そして、エポキシ樹脂、硬化剤、及び本発明の芳香族アミド化合物を含む硬化性樹脂組成物とすれば、極めて高強度で、銅に対する接着性及び耐熱性に優れる硬化物を与えることができることを見いだした。また、当該硬化性樹脂組成物はニッケルに対する接着性にも優れる硬化物を与えることを見いだし、当該硬化性樹脂組成物が封止材用途に特に好適なものであることを見いだした。更に、これを用いた半導体装置が、高温高圧、多湿等の過酷な環境下でも物性低下がないことが強く求められる電機・電子部品や自動車部品、機械部品等の用途に極めて有用なものとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、及び、(C)芳香族アミド化合物を含む硬化性樹脂組成物であって、該芳香族アミド化合物は、水酸基を含む芳香環とアミド結合とを有する化合物である硬化性樹脂組成物である。
本発明はまた、上記硬化性樹脂組成物を用いてなる封止材でもある。
本発明は更に、上記封止材を用いてなる半導体装置でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下において段落に分けて記載される本発明の好ましい形態の2又は3以上を組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0012】
〔硬化性樹脂組成物〕
本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤及び(C)芳香族アミド化合物を含むが、これら各成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。また、これらを必須とする限り、(D)シラン化合物、(E)マレイミド化合物や、(F)その他の成分を適宜含むこともできる。
なお、本明細書中、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(D)シラン化合物及び(E)マレイミド化合物を「硬化性樹脂成分」とも称す。
【0013】
(A)エポキシ樹脂
上記エポキシ樹脂としては、後述する硬化剤及び芳香族アミド化合物と相溶し得るものを、適宜、1種又は2種以上を使用することができる。本明細書中では、グリシジル基もエポキシ基に含むものとする。
【0014】
上記エポキシ樹脂としては、分子内に1個以上のエポキシ基を含む化合物であれば特に限定されず、例えば、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;該エポキシ樹脂を、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)と更に付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類(フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、スフェノールS等)と、ホルムアルデヒド、アセトアルテヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジシクロペンタジエン、テルペン、クマリン、パラキシリレングリコールジメチルエーテル、ジクロロパラキシリレン、ビスヒドロキシメチルビフェニル等とを縮合反応させて得られる多価フェノール類を、更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂;該芳香族結晶性エポキシ樹脂に、更に、上記ビスフェノール類や、テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;トリスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール類、芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類(テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフタレンジオール等)、又は、単/多糖類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、PEG600、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、PPG、グリセロール、ジグリセロール、テトラグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン及びその多量体、ペンタエリスリトール及びその多量体、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等)と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;該脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を、上記ビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4−エポキシシクロヘキサン)メチル3′,4′−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸等と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒダントインや、シアヌール酸、メラミン、ベンゾグアナミン等と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0015】
これらのエポキシ樹脂の中でも、芳香族部位を持つエポキシ樹脂を少なくとも使用することが好ましい。また、より硬化性を高めるため、分子内に2個以上のエポキシ基を含む化合物(多官能エポキシ化合物)を用いることが好適である。
【0016】
上記エポキシ樹脂は、エポキシ当量が70〜500g/molであることが好適である。より好ましくは80〜450g/mol、更に好ましくは90〜400g/molである。
【0017】
上記エポキシ樹脂はまた、重量平均分子量が150〜20000であるものが好適である。このような分子量のエポキシ樹脂を用いると、硬化性樹脂組成物の成型時粘度が良好で成型時に未充填の無い硬化物を得ることができる。より好ましくは180〜15000、更に好ましくは200〜10000である。
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば、後述するGPC測定条件の下、GPC測定により求めることができる。
【0018】
上記エポキシ樹脂の含有割合は、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、1〜99重量部とすることが好適である。より好ましくは10〜80重量部、更に好ましくは30〜70重量部である。
【0019】
(B)硬化剤
上記硬化剤としては特に限定されず、通常使用されているものを1種又は2種以上使用すればよい。例えば、酸無水物類、多価フェノール類、アミン類、BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類等が挙げられる。中でも、酸無水物類、多価フェノール類及び/又はアミン類を用いることが好ましい。これにより、硬化性樹脂組成物がより充分に硬化され、耐熱性等の各種物性により一層優れる硬化物を与えることが可能になる。
【0020】
上記酸無水物類としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、オクテニル無水コハク酸、ドデシル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、2,4−ジエチル無水グルタル酸、無水ハイミック酸(5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、無水メチルハイミック酸、メチルナジック酸無水物(メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、無水クロレンディック酸、ジフェン酸無水物、3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロぺニル)−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1−イソプロピル−4−メチル−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2、3−ジカルボン酸無水物等の一官能性酸無水物;ピロメリット酸二無水物、マレイン化アロオシメン、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラビスベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、(3、4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビシクロ〔2.2.2〕オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の二官能性酸無水物;β,γ−無水アコニット酸、無水グリコール酸、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等の遊離酸を有する酸無水物;等が挙げられる。
【0021】
上記多価フェノール類としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェノールメタン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格又はナフチレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、ビスフェノール化合物等が挙げられる。また、硬化性の観点から、多価フェノール類の水酸基当量は、例えば、90〜500g/eqであることが好適である。
【0022】
上記多価フェノール類として好ましくは、構造中に、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格又はナフチレン骨格を含むアラルキル基を有する化合物である。このような化合物を用いて得た硬化物は、フェノール性水酸基が少ないために低吸水化を実現することもでき、したがって、耐半田リフロー性をより向上することが可能になる。また、ナフチレン骨格を含有する化合物は、ガラス転移温度を高く、かつ線膨張係数を低くすることができるため、例えば当該硬化物を半導体装置に適用した場合に、低反り性をより充分に発揮することが可能になる。
【0023】
上記多価フェノール類としてより好ましくは、下記一般式(1):
【0024】
【化1】
【0025】
(式中、Rは、フェニレン基、ビフェニレン基又はナフチレン基を表す。−R(OH)−は、ヒドロキシフェニレン基、1−ヒドロキシナフチレン基又は2−ヒドロキシナフチレン基を表す。R及びRは、各々、R及びRに導入される基であり、同一又は異なって、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。pの平均値は、1〜10の数であり、qは、0〜5の整数であり、rは、0〜5の整数である。)で表される化合物を含むものである。このような化合物は、多価フェノール類の総量100質量%に対して10質量%以上であることが好ましく、これによって、耐半田リフロー性及び低反り性をより一層発揮することができる。より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。なお、−R(OH)−がヒドロキシナフチレン基である場合には、上述したように、ガラス転移温度の上昇や線膨張係数の低下により、低反り性を向上させる効果が得られ、更に芳香族炭素を多く有するため、耐燃性の向上も実現することができる。
【0026】
上記アミン類としては、第1級アミン又は第2級アミンを分子中に1又は2個以上有するものが好ましく、例えば、ジエチレントリアミン、トリエラレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン等の脂肪族アミン;イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン等の脂環式アミン;N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジン等のピペラジン型アミン;m−キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、2,4−ジアミノトルエン、ジアミノベンゼン、メチレンジアニリン、ビス(クロロアニリノ)メタン、オキシジアニリン、ビス(ヒドロキシアニリノ)メタン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジメチルジアミノビフェニル等の芳香族アミン;等が挙げられる。これらのアミン類の中でも、硬化物の強度やガラス転移温度を高める観点から、芳香族アミンが好適である。
【0027】
上記硬化剤の含有割合としては、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、1〜99重量部とすることが好適である。より好ましくは10〜80重量部、更に好ましくは20〜70重量部である。
【0028】
(C)芳香族アミド化合物
上記芳香族アミド化合物は、水酸基を含む芳香環とアミド結合とを有する化合物である。水酸基を含む芳香環とは、水酸基が芳香環に結合した構造、すなわちフェノール骨格であることが好適である。すなわち上記芳香族アミド化合物は、1分子内に、フェノール骨格とアミド結合とを各々1個以上有する化合物であることが好ましい。このような構造を有する芳香族アミド化合物を含むことで、本発明の硬化性樹脂組成物は充分な可使時間を示し、その硬化物は金属(特に、銅やニッケルやその合金)等に対して優れた接着性を示すことが可能になる。
【0029】
上記芳香族アミド化合物として好ましくは、下記一般式(2):
【0030】
【化2】
【0031】
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、窒素原子、複素環及び芳香環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。)で表されるサリチルアミド構造を有する化合物である。このようなサリチルアミド構造を、分子内に1個以上有することが好適である。このように上記芳香族アミド化合物が、上記一般式(2)で表されるサリチルアミド構造を有する化合物である形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0032】
上記一般式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、窒素原子、複素環及び芳香環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。
上記アルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、置換基を有していてもよい。
上記複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、硫黄原子、酸素原子を有する構造が好ましい。より好ましくは、ヘテロ原子として窒素原子を有する構造である。また、3〜10員環であることが好ましいが、4〜6員環構造がより好ましい。
上記芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。
なお、上記Rは、複素環と芳香環とを含む構造であることも好適である。
【0033】
上記一般式(2)中のRはまた、複数の環窒素原子を含むことが好適である。すなわち上記芳香族アミド化合物は、1分子内に2個以上の環窒素原子を有する化合物であることが好適である。これによって、硬化性樹脂組成物を用いて形成される硬化物の金属(特に、銅やニッケルやその合金)等に対する接着性がより強固になるとともに、耐熱性にもより優れるものとなる。このように上記一般式(2)中のRが、複数の環窒素原子を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0034】
上記一般式(2)中のRが複数の環窒素原子を含む場合、当該芳香族アミド化合物としては、例えば、トリアゾール骨格、トリアジン骨格、ベンゾトリアゾール骨格、チアゾール骨格、イミダゾール骨格等の環窒素含有骨格を、1又は2以上有する化合物であることが好ましい。これらの環窒素含有骨格の中でも、硬化物が高温環境下に晒された後においても各種物性の経時変化が充分に小さく接着性等の優れた物性を安定して発現できるという観点からは、トリアゾール骨格、トリアジン骨格及び/又はベンゾトリアゾール骨格が好適である。これにより、金属に対する接着性及び耐熱性に優れるとともに、高温環境下に晒された後においても各種物性の経時変化が充分に小さく接着性等の優れた物性を安定して発現する硬化物を与えることができるという本発明の作用効果をより一層発揮することが可能となる。より好ましくは、トリアゾール骨格である。トリアゾール骨格を有する芳香環アミド化合物としては、N−(2H−1,2,4−トリアゾール−5−イル)サリチルアミドが特に好適である。
【0035】
上記芳香族アミド化合物の分子量は、例えば、100〜1000であることが好適である。1000を超える高分子化合物であると、硬化性樹脂組成物の粘度が非常に高くなってしまうおそれがある。また、100未満であると、実質的に芳香環骨格を含まない化合物となり、耐熱分解性等が充分とはならないおそれがある。より好ましくは100〜800、更に好ましくは100〜600である。
【0036】
上記芳香族アミド化合物は、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、0.001〜30重量部とすることが好適である。より好ましくは0.01〜20重量部、更に好ましくは0.1〜10重量部である。
【0037】
(D)シラン化合物
本発明の硬化性樹脂組成物は、更に、(D)シラン化合物を含むことが好適である。これにより、機械的強度や耐熱性、絶縁特性により優れた硬化物を与えることが可能になる。このように上記硬化性樹脂組成物が更に(D)シラン化合物を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0038】
上記シラン化合物は、シロキサン結合(Si−O−Si結合)を有し、かつ下記平均組成式(I):
SiO (I)
(式中、Xは、同一又は異なって、イミド結合を含む有機骨格を表す。Yは、同一又は異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群から選ばれる少なくとも1種を表す。Rは、同一又は異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、置換基を有していてもよい。Zは、同一又は異なって、イミド結合を含まない有機骨格を表す。aは0又は3未満の数、bは0又は3未満の数、cは0又は3未満の数、dは0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表されるものが好適である。このようなシラン化合物を含むことで、耐熱性、耐圧性、機械的・化学的安定性により優れる硬化物を与えることが可能となる。また、高温高圧等の過酷な環境下においても各種物性低下がより抑制された硬化物を形成でき、半導体封止材等の実装用途等により好適に使用することができる。
【0039】
上記シラン化合物において、シロキサン骨格(シロキサン結合を必須とする主鎖骨格)の構造は、例えば、鎖状(直鎖状又は分岐状)、ラダー状、網状、環状、かご状、キュービック状等が好ましく例示される。中でも、上記シラン化合物の添加量が少量であっても効果が発揮されやすいため、ラダー状、網状、かご状であることが好ましい。すなわち上記シラン化合物は、シルセスキオキサンを含むものが特に好適である。
なお、上記シラン化合物におけるシロキサン骨格の占める割合としては、シラン化合物100質量%中、10〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは15〜70質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。
【0040】
上記平均組成式(I):XSiOにおいて、Xの好ましい形態は後述するとおりであるが、Yとしては、水酸基又はOR基が好適である。Rはアルキル基であり中でも好ましいのは炭素数1〜8のアルキル基である。また、Zとしては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等の芳香族残基、及び、不飽和脂肪族残基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(これらは置換基を有していてもよい)。より好ましくは、置換基を有していてもよい、炭素数1〜8のアルキル基、又は、アリール基やアラルキル基等の芳香族残基である。また、aは、0≦a<3の数であり、bは、0≦b<3の数であり、cは、0≦c<3未満の数であり、dは、0<d<2の数である。
【0041】
上記シラン化合物は、例えば、下記式(3):
【0042】
【化3】
【0043】
(式中、X、Y及びZは、各々上記と同様である。n及びnは、重合度を示す。nは、0でない正の整数であり、nは、0又は正の整数である。)で表すことができる。
なお、「Y/Z−」は、Y又はZが結合していることを表し、「X1〜2−」は、Xが1又は2個結合していることを表し、「(Z/Y)1〜2−」は、Z又はYが1個結合するか、Z又はYが2個結合するか、Z及びYが1個ずつ、合計2個結合することを表す。「Si−(X/Y/Z)」は、X、Y及びZから選ばれる任意の3種がケイ素原子に結合していることを示す。
上記式(3)において、Si−OmとSi−Omは、Si−OmとSi−Omの結合順序を規定するものではなく、例えば、Si−OmとSi−Omが交互又はランダムに共縮合している形態、Si−OmからなるポリシロキサンとSi−Omのポリシロキサンが結合している形態等が好適であり、縮合構造は任意である。
【0044】
上記シラン化合物は、上記平均組成式(I)で表すことができるが、該シラン化合物が有するシロキサン骨格(シロキサン結合を必須とする主鎖骨格)は、(SiOと表すこともできる。このようなシラン化合物における(SiO以外の構造は、イミド結合を有する有機骨格(イミド結合を必須とする構造)X、水素原子や水酸基等のY、及び、イミド結合を含まない有機基Zであり、これらは主鎖骨格のケイ素原子に結合することとなる。
X、Y及びZは、「鎖」の形態となった繰り返し単位に含まれてもよく、含まれていなくてもよい。例えば、Xは、側鎖として1分子に1つ以上含まれていればよい。上記(SiOにおいて、nは、重合度を表すが、該重合度は、主鎖骨格の重合度を表し、イミド結合を有する有機骨格は、必ずしもn個存在していなくてもよい。言い換えれば、(SiOの1つの単位に必ず1つのイミド結合を有する有機骨格が存在していなくてもよい。また、イミド結合を有する有機骨格は、1分子中に1つ以上含まれていればよいが、複数含まれる場合、上述したように、1つのケイ素原子に2以上のイミド結合を有する有機骨格が結合していてもよい。これらは、以下においても同様である。
【0045】
上記主鎖骨格(SiOにおいて、mは、1以上、2未満の数であることが好ましい。より好ましくはm=1.5〜1.8である。
上記nは、重合度を表し、1〜5000であることが好ましい。より好ましくは1〜2000、更に好ましくは1〜1000であり、特に好ましくは1〜200である。
上記nが2である場合のシラン化合物としては、ケイ素原子にイミド結合を有する有機骨格(X)が少なくとも1個結合してなる構成単位(以下、「構成単位(1)」とも称す)が2つ含まれる形態と、該構成単位(1)が1つしか含まれない形態が挙げられる。具体的には、下記式:
【0046】
【化4】
【0047】
(式中、AはY又はZであり、X、Y及びZは、各々上記と同様である。)等が好適であり、同一の構成単位(1)を2つ含むホモポリマーの形態と、異なる構成単位(1)を2つ含むホモポリマーの形態と、当該構成単位(1)を1つしか含まないコポリマーの形態(共縮合構造の形態)がある。
【0048】
上記平均組成式(I)におけるXは、下記式(4)で表される構成単位であることが好適である。すなわち、本発明のシラン化合物は、上記平均組成式(I)中のXが、下記式(4):
【0049】
【化5】
【0050】
(式中、Rは、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一又は異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表される構成単位である、シラン化合物を含むことが好適である。このようなシラン化合物を含むことで、硬化物の耐熱性が更に向上されることになる。
【0051】
上記式(4)で表される構成単位において、x及びzは、同一又は異なって、0以上5以下の整数である。また、yは、0又は1であり、0であることが好ましい。x+zとしては、0以上10以下の整数であればよいが、3〜7であることが好ましく、より好ましくは3〜5であり、特に好ましくは3である。
【0052】
また上記式(4)中、Rは、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。すなわち、Rが、芳香族化合物の環構造(芳香環)を有する基、複素環式化合物の環構造(複素環)を有する基及び脂環式化合物の環構造(脂環)を有する基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であることを表す。
上記Rとして具体的には、フェニレン基、ナフチリデン基、ノルボルネンの2価基、(アルキル)シクロヘキシレン基、シクロヘキセニル基等が好ましい。
なお、上記式(4)で表される構成単位は、Rがフェニレン基である場合には下記式(4−1)で表される構成単位となり、Rが(アルキル)シクロヘキシレン基である場合には下記式(4−2)で表される構成単位となり、Rがナフチリデン基である場合には下記式(4−3)で表される構成単位となり、Rがノルボルネンの2価基である場合には下記式(4−4)で表される構成単位となり、Rがシクロヘキセニル基である場合には下記式(4−5)で表される構成単位となる。
【0053】
【化6】
【0054】
上記式(4−1)〜(4−5)中、x、y及びzは、各々上記式(4)と同様である。
上記式(4−1)中、R〜R10は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。上記R〜R10としては、全てが水素原子である形態が好ましい。
【0055】
上記式(4−2)中、R11〜R14及びR11´〜R14´は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。上記R11〜R14及びR11´〜R14´としては、R12若しくはR13がメチル基で残りの全てが水素原子である形態、又は、R11〜R14及びR11´〜R14´全てが水素原子である形態、又は、R11〜R14及びR11´〜R14´全てがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、R12又はR13がメチル基で残りの全てが水素原子である形態である。
【0056】
上記式(4−3)中、R15〜R20は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。上記R15〜R20としては、全てが水素原子である形態、又は、全てがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
【0057】
上記式(4−4)中、R21〜R26は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。上記R21〜R26としては、全てが水素原子である形態、全てがフッ素原子である形態、又は、全てが塩素原子である形態のいずれかの形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
【0058】
上記式(4−5)中、R27〜R30、R27´及びR30´は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。上記R27〜R30、R27´及びR30´としては、全てが水素原子である形態、全てがフッ素原子である形態、又は、全てが塩素原子である形態のいずれかの形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
【0059】
上記式(4)で表される構成単位の中でも、下記式(4−6):
【0060】
【化7】
【0061】
(式中、R31は、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。)で表される構成単位であることが好適である。すなわち、本発明のシラン化合物は、上記平均組成式(I)中のXが上記式(4−6)で表される構成単位である、シラン化合物を含むことが好適である。なお、上記式(4−6)中のR31は、上記式(4)において説明したRと同様であることが好ましい。
【0062】
上記シラン化合物の特に好ましい形態としては、R31がフェニレン基であるポリ(γ−フタロイミドプロピルシルセスキオキサン);R31がメチルシクロヘキシレン基であるポリ{γ−(へキサヒドロ−4−メチルフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン};R31がナフチリデン基であるポリ{γ−(1,8−ナフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン};R31がノルボルネンの2価基であるポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン};R31がシクロヘキセニル基であるポリ〔(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルシルセスキオキサン〕である。これらの化合物の構造は、H−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MSを測定して同定することができる。
【0063】
上記シラン化合物を得る方法としては特に限定されないが、例えば、下記の製法(a)及び(b)等が挙げられる。
(a)上記シラン化合物におけるイミド結合を含む有機骨格Xに対応するアミド結合を有する有機骨格X’と、シロキサン結合とを有する平均組成式X’aYbZcSiOdで表される(シラン化合物からなる)中間体を、イミド化させる工程を含む製造方法。
(b)上記シラン化合物におけるイミド結合を含む有機骨格Xに対応するイミド結合を有する有機骨格が、ケイ素原子に結合し、かつ加水分解性基を有するシラン化合物よりなる中間体を、加水分解・縮合させる工程を含む製造方法。
【0064】
上記シラン化合物の分子量は、例えば、数平均分子量が100〜10000であることが好適である。10000を超える高分子化合物であると、エポキシ樹脂又は硬化剤とより充分に混じり合うことができないおそれがある。また、100未満であると、耐熱分解性等がより充分なものとはならないおそれがある。より好ましくは500〜5000、更に好ましくは1000〜5000である。また、重量平均分子量は100〜10000であることが好適である。より好ましくは500〜5000、更に好ましくは1000〜5000である。シラン化合物の分子量(数平均分子量及び重量平均分子量)は、例えば、以下の測定条件下、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
【0065】
<分子量のGPC測定条件>
計測機器:東ソー社製「HLC−8220GPC」
カラム:昭和電工社製「Asahipak GF−7M HQ」×2本
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド
流速:0.6mL/分
温度:40℃
検量線:ポリスチレン標準サンプル(東ソー社製)を用いて作成。
【0066】
上記シラン化合物(固形分)の含有量としては、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、1〜50重量部であることが好適である。シラン化合物が1重量部未満であると、機械的強度や耐熱性、絶縁特性をより充分なものとすることができないおそれがあり、また、50重量部を超えると、樹脂組成物の粘度が非常に高くなるおそれがある。より好ましくは2〜30重量部、更に好ましくは3〜20重量部である。
【0067】
(E)マレイミド化合物
本発明の硬化性樹脂組成物は、更に、(E)マレイミド化合物を含むことが好適である。これにより、耐熱性により優れた硬化物を与えることが可能になる。このように上記硬化性樹脂組成物が更に(E)マレイミド化合物を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。
【0068】
上記マレイミド化合物としては、反応性をより高める観点から、分子中に複数のマレイミド基を有する化合物が好ましい。具体的には、ビスマレイミド化合物(ビスマレイミド樹脂とも称す)が例示される。ビスマレイミド化合物(ビスマレイミド樹脂)としては、分子内に2個以上のマレイミド基を有する化合物であれば特に限定されず、1種又は2種以上を使用することができる。
【0069】
上記ビスマレイミド化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−p,p’−ジフェニルジメチルシリルビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−メチレンビス(3−クロロ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジシクロヘキシルメタンビスマレイミド、N,N’−ジメチレンシクロヘキサンビスマレイミド、N,N’−m−キシレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルシクロヘキサンビスマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0070】
上記ビスマレイミド化合物はまた、下記一般式(5):
【0071】
【化8】
【0072】
(式中、R32は、下記式:
【0073】
【化9】
【0074】
で表される2価の基を表す。Qは、2つの芳香環に直結する基であり、炭素数1〜10の2価の炭化水素基、6フッ素化されたイソプロピリデン基、カルボニル基、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基及びオキシド基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を表す。)で表されるビスマレイミド化合物であってもよい。
【0075】
上記一般式(5)で表されるビスマレイミド化合物として具体的には、例えば、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エーテル、下記一般式(6):
【0076】
【化10】
【0077】
(式中、Qは、置換基があってもよい芳香環からなる2価の基を表す。nは、繰り返し数を表し、平均で0〜10の数である。)で表される化合物等が好適である。上記Qとして具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の2価の基(フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチリデン基等)が好ましい。
【0078】
上記マレイミド化合物の含有割合としては、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、1〜25重量部とすることが好適である。より好ましくは2〜15重量部、更に好ましくは3〜10重量部である。
【0079】
(F)その他の成分
上記硬化性樹脂組成物はまた、必要に応じて、上述した(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)芳香族アミド化合物、必要に応じ添加される(D)シラン化合物や(E)マレイミド化合物以外のその他の成分を含有していてもよい。例えば、硬化促進剤;無機充填材;有機溶剤や希釈剤等の揮発成分;難燃剤;カップリング剤;離型剤;着色剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0080】
上記硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7等の第3級アミン化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物;アルミニウムやジルコニウム等の有機金属化合物;等の他、異環型アミン化合物、ホウ素錯化合物、有機アンモニウム塩、有機スルホニウム塩、有機過酸化物、これらの反応物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
上記硬化促進剤の含有割合は、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、0.01〜10重量部とすることが好適である。より好ましくは0.05〜5重量部、更に好ましくは0.1〜3重量部である。
【0081】
上記無機充填材としては特に限定されず、通常の実装基板の封止材等で使用されるものを1種又は2種以上用いればよい。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、微粉シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、マグネシア等が挙げられる。
上記無機充填材の含有割合は、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、200〜550重量部とすることが好適である。より好ましくは250〜520重量部、更に好ましくは300〜500重量部である。このように多量の無機充填材を用いることで、例えば、実装基板の封止材等を得るために用いた場合に、硬化後の基板の反り発生を充分に防ぐことが可能になる。
【0082】
上記揮発成分としては特に限定されず、通常使用されるものを1種又は2種以上使用すればよい。例えば、上述した、エーテル結合、エステル結合及び窒素原子からなる群より選ばれた少なくとも一つ以上の構造を有する化合物を含有してなる溶媒等が挙げられる。
ここで、本発明の硬化性樹脂組成物は、揮発成分を極力含まないことが望まれる用途、すなわち例えば、実装用途、光学用途、オプトデバイス用途、機械部品用途、電機・電子部品用途、自動車部品用途等に用いることができるが、この場合、上記硬化性樹脂組成物100質量%中の揮発成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは実質的に揮発成分を含まないことである。実質的に揮発成分を含まないとは、揮発成分の含有量が、組成物を溶解させることができる量未満であることを意味し、例えば、上記硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下であることが好適である。なお、印刷インク用途等のように、揮発成分を含んでもよい用途に用いる場合にあっては、上記硬化性樹脂組成物は揮発成分を含んでいてもよく、このような形態も本発明の好適な実施形態の1つである。
【0083】
上記難燃剤としては特に限定されず、通常使用されるものを1種又は2種以上使用すればよいが、ノンハロゲン化合物やノンアンチモン化合物が好適である。例えば、リン酸エステル、酸化トリフェニルホスフィン、赤リン等のリン含有化合物;メラミン、メラミン誘導体、メラミン変性フェノール樹脂、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体、トリアジン環含有化合物等の窒素含有化合物;シクロホスファゼン等のリン及び窒素含有化合物;酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、モリブデン亜鉛、スズ酸亜鉛等の亜鉛化合物;酸化鉄、酸化モリブデン等の金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ジシクロペンタジエニル鉄等の金属錯体化合物等が挙げられる。
上記難燃剤の含有割合は、例えば硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、1〜80重量部とすることが好適である。より好ましくは2〜40重量部である。
【0084】
上記カップリング剤としては特に限定されず、通常使用されるものを1種又は2種以上使用すればよい。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
上記カップリング剤の含有割合は、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、0.1〜10重量部とすることが好適である。より好ましくは1〜5重量部である。
【0085】
上記離型剤としては特に限定されず、通常使用されるものを1種又は2種以上使用すればよい。例えば、ラウリル酸、ラウリル酸Na、カルナバワックス、酸化ポリエチレン等が挙げられる。
上記離型剤の含有割合は、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、5〜20重量部とすることが好適である。より好ましくは2〜10重量部である。
【0086】
上記着色剤としては特に限定されず、通常使用されるものを1種又は2種以上使用すればよい。例えば、カーボンブラック、顔料、染料、それらを樹脂に分散させた化合物等が挙げられる。
上記着色剤の含有割合は、例えば、硬化性樹脂組成物に含まれる全硬化性樹脂成分100重量部に対し、0.1〜10重量部とすることが好適である。より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0087】
〔硬化性樹脂組成物の製造方法〕
本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤及び(C)芳香族アミド化合物を含む限り、その調製方法は特に限定されず、これらの成分を通常の手法で混合することにより得ることができる。例えば、エポキシ樹脂に硬化剤及び芳香族アミド化合物を添加し硬化性樹脂組成物を得た後、必要に応じて配合されるその他の成分を同時又は順次添加し、ミキサー等を用いて各成分が均一に分散するように混合した後、ニーダー、ロール、1軸押出混練機、2軸押出混練機、プラネタリーミキサー等を用いて混練することによって得ることができる。なお、混合及び混練工程では、必要に応じて加熱したり冷却したりしてもよい。
【0088】
上記硬化性樹脂組成物は低温で注型する場合、硬化前の状態が、低温(60℃)で液状態にあることが好適である。具体的には、結晶が析出しておらず、かつ高粘度の流体ではない状態であることが好ましい。これにより、加工や成形がより容易になり、液状封止材用途にもより好適なものとなる。また、このような状態は目視で確認すればよいが、粘度で判断することも可能である。具体的には、60℃での粘度が100Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは80Pa・s以下、更に好ましくは60Pa・s以下である。また、0.01Pa・s以上であることが好適である。
硬化性樹脂組成物の粘度は、例えば、動的粘弾性測定装置(AERS−3、TAインスツルメント社製)を用い、測定条件を〔plate−plate測定、サンプル厚:1mm、周波数:1Hz、strain:0.5%〕として求めることができる。
【0089】
上記硬化性樹脂組成物は、高温で注型する場合、175℃における粘度が5〜100Pa・sであることが好ましい。硬化性樹脂組成物がこのような適度な粘度を有するものであると、例えば、塗布する際のハンドリング性に優れたものとなる。より好ましくは10〜90Pa・sである。
硬化性樹脂組成物の175℃粘度は、例えば、フローテスタ(CFT−500D、島津製作所社製)を用い、測定条件を〔ダイ穴径0.5mm、ダイ長さ1mm、シリンダ圧力0.98MPa〕として求めることができる。
【0090】
〔硬化物〕
本発明の硬化性樹脂組成物は、例えば、熱硬化することにより、硬化物とすることができる。硬化方法は特に限定されず、通常の熱硬化手法を採用すればよい。例えば、硬化温度は、70〜250℃が好適であり、より好ましくは80〜230℃である。また、硬化時間は、0.1〜15時間が好適であり、より好ましくは0.5〜10時間である。なお、熱硬化は2段階以上で行なってもよい。
【0091】
上記硬化物の形状は、例えば、異形品等の成形体、フィルム、シート、ペレット等が挙げられる。このように本発明の硬化性樹脂組成物を用いてなる硬化物(本発明の硬化性樹脂組成物から形成される硬化物)もまた、本発明の好ましい形態の1つである。
【0092】
上記硬化物は、熱機械分析装置(TMA)によるガラス転移温度が180℃以上であることが好適である。これにより、例えば、実装基板の封止材等のエレクトロニクス実装材料により好適に利用することができる。より好ましくは220℃以上、更に好ましくは230℃以上である。
【0093】
上記硬化物は、本発明の硬化性樹脂組成物から得られることに起因して、ガラス転移温度が高く、機械的強度及び金属に対する接着性に優れるとともに、高温高圧、多湿等の過酷な環境下に晒された後においても、各種物性の経時変化が充分に小さく接着性等の優れた物性を安定して発現できることから、例えば、実装用途、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品用途、電気・電子部品用途、自動車部品用途、印刷インク用途等の種々様々な用途に有用なものである。具体的には、封止材等のエレクトロニクス実装材料、ポッティング材、アンダーフィル材、導電性ペースト、絶縁ペースト、ダイポンド材、印刷インク等に好ましく使用される。中でも、エレクトロニクス実装材料に用いることがより好ましく、特に、実装基板の封止材に極めて有用である。このように上記硬化性樹脂組成物を用いてなる封止材もまた、本発明の1つであり、上記硬化性樹脂組成物は、封止材用の組成物であることが好適である。封止材として特に好ましくは、半導体封止材である。また、上記硬化物を用いて構成された半導体装置又はプリント配線板もまた、本発明の好ましい形態に含まれる。上記封止材を用いてなる半導体装置は、本発明の1つでもある。
【0094】
上記封止材は、例えば、半導体部品(素子)を封止する際に使用される部材であるが、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じ、例えば、硬化促進剤、安定剤、離型剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、可とう化剤、各種ゴム状物、光感光剤、充填材、難燃剤、顔料等を含むことができる。また、上記封止材は、揮発成分を多量に含むと不具合を生じるおそれがあるため、揮発成分を含まないことが望まれており、例えば、上記封止材100質量%中の揮発成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは実質的に揮発成分を含まないことである。
【0095】
上記封止材を用いてなる半導体装置として具体的には、例えば、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子;コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子;等の素子を搭載し、必要な箇所を本発明の硬化性樹脂組成物で封止した形態が挙げられる。上記硬化性樹脂組成物により素子を封止する方法としては、例えば、低圧トランスファー成型法や、インジェクション成型法、圧縮成型法等の通常の手法を用いればよい。
【0096】
また上記硬化物を用いて構成されたプリント配線板としては、例えば、コンポジットタイプ積層板(片面、両面、多層等)、ガラスエポキシタイプ積層板、アラミドエポキシタイプ積層板、金属ベース配線基板、ビルドアップタイプ配線基板等が挙げられる。これらは、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物を強化材に含浸又は基材に塗布し、適宜乾燥させた後、硬化させることにより得ることができる。この場合の硬化性樹脂組成物は、溶剤を含むことが好ましく、また、硬化促進剤や難燃剤、充填剤等を更に含むことが好適である。
【発明の効果】
【0097】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述の構成よりなり、充分な耐熱性を有するとともに、金属(特に、銅やニッケルやその合金)との接着性にも優れ、過酷な環境下に晒された後においても各種物性の経時変化が充分に小さく接着性等の優れた物性を安定して発現する硬化物を与えることができ、しかも成型時粘度や可使時間に優れるものである。そのため、実装基板の封止材等の材料として有用なものである。このような本発明の硬化性樹脂組成物を用いれば、電機・電子部品や自動車部品、機械部品等の用途で極めて有用な高性能の封止材等を好適に得ることが可能になり、特にこのような封止材を用いてなる半導体装置は、電機・電子、自動車、機械分野で極めて有用なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0098】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0099】
調製例1
ポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}の合成
撹拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた300mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したジグライム35.1gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン30.8gを投入し、撹拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に100℃のまま反応液温度を維持しながら5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物28.2gを30分かけで4分割投入した。投入終了後9時間で5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
反応生成物をサンプリングしてH−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MSを測定し、下記化学式(i):
【0100】
【化11】
【0101】
で表される化合物を含有することを確認した。
H−NMR:0.40(t、2H)、1.35(m、2H)、1.46(dd、2H)、3.08−3.17(m、1H)、3.20(dd、2H)、3.28−3.37(m、1H)、3.40(s、9H)、3.42(m、1H)、3.48(m、1H)、5.91(s、2H)、6.22(bs、1H)、11.0(bs、1H)
13C−NMR:8.1、21.2、40.6、44.9、45.8、50.3、50.6、52.3、134.5、177.8、178.1
MALDI−TOF−MS:350(M+Li)
【0102】
続いて脱イオン水9.3gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノール及び縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時にピリジン1.4gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時開かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却した。
反応生成物は不揮発分58.2%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量測定したところ数平均分子量2340、重量平均分子量2570であった。H−NMR、13C−NMRを測定し、下記化学式(ii):
【0103】
【化12】
【0104】
で表される化合物(シラン化合物1)を含有することを確認した。
H−NMR:0.25−0.45(bs、2H)、1.2−1.45(bs、2H)、1.47(dd、2H)、3.0−3.2(bs、4H)、3.4−3.6(bs、2H)、5.8−6.0(bs、2H)
13C−NMR:9.7、21.5、40.4、44.9、45.7、50.1、134.2、178.0
【0105】
実施例1
攪拌装置、連結管にリービッヒ冷却管を付けた溶媒留去用装置を備え付けた4つ口フラスコに、表1に示す樹脂、及び、調製例1で得たシラン化合物1(ポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン})含有液体を、表1に示す組成で投入し、乾燥窒素流入下で150℃に加熱攪拌し、3KPaまで減圧し、3時間かけて溶媒を留去し、シラン化合物含有エポキシ樹脂組成物を得た。
このシラン化合物含有エポキシ樹脂組成物に、表1に示す硬化剤、ビスマレイミド、難燃剤、シリカ、カーボンブラック及び含窒素化合物を、表1に示す組成で配合し、三本ロールにて混練分散した後、真空脱泡して、硬化性樹脂組成物(封止用エポキシ樹脂組成物)を作製した。
この硬化性樹脂組成物について、下記方法にて、銅接着強度(MPa)及びポットライフ(60℃/h)を測定した。結果を表1に示す。
【0106】
実施例2〜3、比較例1〜4
原料及び使用量を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3及び比較例1〜4の硬化性樹脂組成物(封止用エポキシ樹脂組成物)を各々作製した。得られた各硬化性樹脂組成物について、実施例1と同様にして、銅接着強度(MPa)及びポットライフ(60℃/h)を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
<銅接着強度>
硬化性樹脂組成物0.15mgを銅板で12.5mm×15mm(厚さ0.2mm)の大きさに圧着し、イナートオーブン(ヤマト科学社製)にて、120℃/1.5時間、230℃/3時間(N雰囲気下)で硬化させ、インストロン万能試験機(型式55R1185)を用いた引張試験によって、常温(23℃)における接着強度(MPa)を測定した。
【0108】
<ポットライフ>
動的粘弾性測定装置(AERS−3、TAインスツルメント社製)を用い、測定条件を〔plate−plate測定、サンプル厚:1mm、周波数:1Hz、strain:0.5%〕として、60℃での粘度を測定した。1時間後の粘度が、1.5倍以下であれば「◎」、1.5倍を超えて2倍以下であれば「○」、2倍を超えれば「×」と判定した。
【0109】
【表1】
【0110】
実施例4
攪拌装置、ト字管連結管にリービッヒ冷却管を付けた溶媒留去用装置を備え付けた4つ口フラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(製品名「セイカキュアS」、和歌山精化工業社製)、上記調製方法で作成したポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}含有液体を表2に示す組成で投入し、乾燥窒素流入下で160℃に加熱攪拌し、3kPaまで減圧し、3時間かけて溶媒を留去しシラン化合物含有ジアミン硬化剤を得た。各種原料を表2に示す組成で配合し、三本ロール混練機を用いて80℃にて3分間混練した後、粉砕して硬化性樹脂組成物(封止用エポキシ樹脂組成物)を作製した。
この硬化性樹脂組成物について、下記方法にて、銅接着強度(MPa)、ニッケル接着強度(MPa)、粘度(175℃)及びガラス転移温度を測定した。結果を表2に示す。
【0111】
実施例5〜6、比較例5〜6
原料及び使用量を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5〜6及び比較例5〜6の硬化性樹脂組成物(封止用エポキシ樹脂組成物)を作製した。得られた各封止用エポキシ樹脂組成物について、実施例4と同様にして、銅接着強度(MPa)、ニッケル接着強度(MPa)、粘度(175℃)及びガラス転移温度を測定した。結果を表2に示す。
【0112】
<銅及びニッケル接着強度>
樹脂組成物を、銅及びニッケルそれぞれのリードフレームに、φ2mm×2mmの大きさで175℃にて3分間圧着した後、250℃にて3時間窒素雰囲気下にて硬化させ、ボンドテスター(「Dage series4000」、Dage社製)を用いて常温(23℃)における接着強度(MPa)を測定した。
【0113】
<175℃粘度>
フローテスタ(CFT−500D、島津製作所社製)を用い、ダイ穴径0.5mm、ダイ長さ1mm、シリンダ圧力0.98MPaにて、175℃での粘度を測定した。
【0114】
<ガラス転移温度>
熱プレス成型機を用いて175℃にて3分間加圧成型を行い、90mm×60mm×4mmの平板状の成型品を得た。得られた成型品を250℃で3時間窒素雰囲気下にて硬化させた後、5mm×4mm×10mmにカットし、熱機械測定(TMA4000SA、Bruker社製)を行い、ガラス転移温度を計測した。
【0115】
【表2】
【0116】
表1、2中の略号は、以下のとおりである。
エポキシ樹脂1:ナフタレン型エポキシ樹脂(製品名「HP−4032D」、DIC社製)
エポキシ樹脂2:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(製品名「EXA−830−LVP」、DIC社製)
エポキシ樹脂3:トリグリシジルイソシアヌレート(製品名「TEPIC−S」、日産化学社製)
エポキシ樹脂4:トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(製品名「EPPN−501HY」、日本化薬社製)
硬化剤1:メチルテトラヒドロ無水フタル酸(製品名「HN2000」、日立化成工業社製)
硬化剤2:メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(製品名「カヤハードMCD」、日本化薬社製)
硬化剤3:4,4‘−ジアミノジフェニルスルホン(製品名「セイカキュアS」、和歌山精化工業社製)
硬化剤4:ノボラック型フェノール(製品名「TD−2131」、DIC社製)
シラン化合物(シラン化合物1):ポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}
ビスマレイミド1:4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド(製品名「BMI−7000」、大和化成工業社製)
ビスマレイミド2:フェニルメタンマレイミドオリゴマー
(製品名「BMI−2300」大和化成工業社製)
難燃剤1:水酸化マグネシウム(製品名「マグシーズS−6」、神島化学工業社製)
難燃剤2:フォスファゼン化合物(製品名「SPE−100」、大塚化学社製)
難燃剤3:水酸化アルミニウム(製品名「ハイジライトH−42M」昭和電工社製)
シリカ1:シリカ(製品名「S3020」、マイクロン社製)
シリカ2:シリカ(製品名「HS104」、マイクロン社製)
カーボンブラック:カーボンブラック(製品名「MA600」、三菱化学社製)
離型剤:カルナバワックス(製品名「TOWAX−132」、東亜化成社製)
硬化促進剤:2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(製品名「2P4MHZ−PW」、四国化成社製)
カップリング剤(製品名「KBM−403」、信越化学工業社製)
含窒素化合物1:3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール(試薬)
含窒素化合物2:3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(試薬)
含窒素化合物3:ベンゾトリアゾール−4−カルボン酸(日本カーバイド社製)
含窒素化合物4:N−(2H−1,2,4−トリアゾール−5−イル)サリチルアミド(製品名「アデカスタブCDA−1M」、アデカ社製)
【0117】
表1より、下記のことが確認された。
含窒素化合物4は、本発明における芳香族アミド化合物の好適な一例であるのに対し、含窒素化合物1〜3は、本発明における芳香族アミド化合物には該当しない。
このような相違の下、含窒素化合物4又は含窒素化合物3を用いた点以外は全て同じ条件で硬化性樹脂組成物を得た実施例2と比較例2とを対比すると、含窒素化合物4を用いた実施例2では、含窒素化合物3を用いた比較例2に比較して、硬化物の銅接着強度が高く、樹脂組成物のポットライフも低下することなく良好であることが分かる。また、含窒素化合物4又は含窒素化合物2を用いた点以外は全て同じ条件で封止用エポキシ樹脂組成物を得た実施例3と比較例1とを対比すると、実施例3では、比較例1に対しポットライフの点で著しく優れることが分かる。
【0118】
表2より、下記のことが確認された。
含窒素化合物4又は含窒素化合物2を用いた点以外は全て同じ条件で硬化性樹脂組成物を得た実施例5と比較例6とを対比すると、含窒素化合物4を用いた実施例5では、含窒素化合物2を用いた比較例6に比較して、硬化物のニッケル接着強度が著しく高く、粘度も低く、良好な粘度になっている。また、シラン化合物及びビスマレイミド化合物を用いた点以外ほぼ同じ条件で硬化性樹脂組成物を得た実施例4と実施例6とを対比すると、シラン化合物及びビスマレイミド化合物は、銅やニッケルへの接着強度に影響がないことが分かる。
【0119】
上記実施例では、本発明における芳香族アミド化合物として含窒素化合物4のみを使用したが、水酸基を含む芳香環とアミド結合とを有する化合物(好ましくは上記一般式(2)で表されるサリチルアミド構造を有する化合物、より好ましくは該一般式(2)中のRが複数の環窒素原子を含む形態の化合物)である限り、本発明の効果を生じさせる作用機構は同様である。すなわち本発明では、上述した当該芳香族アミド化合物を添加剤として使用することに本発明の本質的特徴があり、芳香族アミド化合物と同様の構造を有するものであれば、同様の化学的特性を有するといえるため、この実施例で示されるような効果を奏することになる。