特許第6227958号(P6227958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227958
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】車両用駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20171030BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   F16H57/04 B
   F16H57/04 P
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-205892(P2013-205892)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68488(P2015-68488A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 力
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆兵
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−113303(JP,A)
【文献】 特開2006−275164(JP,A)
【文献】 特開2008−196626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00−57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動歯車機構部が設けられたデフ室を内部に形成しているハウジングケースと、
前記デフ室内に配されたセパレータプレートと、
を備えており、
前記デフ室に貯留されたオイルが、前記差動歯車機構部のリングギヤにより上方に掻き上げられて所定部位の潤滑に利用されるように構成されている、車両用駆動力伝達装置であって、
前記ハウジングケースのうち、前記デフ室の周辺壁部には、バルブボディ室のオイル導入口が設けられており、
前記セパレータプレートは、
前記リングギヤの背面側に位置する起立板部から前記リングギヤよりも高い位置まで延びた状態に設けられた延設部と、
この延設部からその前面側に突出し、かつ前記リングギヤによって掻き上げられて前記リングギヤの上方に飛散するオイルが当たる下向き面を有するフランジ部と、
このフランジ部の下部寄りの部分に基端が繋がるようにして前記延設部からその前面側に突出した状態に設けられ、かつ先端側よりも前記基端側の方が低い高さとされているとともに、前記先端には上向きの起立部が形成されていることにより、前記フランジ部の下向き面を伝ってきたオイルを受けて所定量を溜めておくことが可能なオイル受け部と、
前記セパレータプレートに一体または別体で設けられ、かつ前記オイル受け部からその前面側に流出したオイルを前記バルブボディ室のオイル導入口へ導くオイルガイド部と、
を備えていることを特徴とする、車両用駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン出力を車輪に伝達するための車両用駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、車両用駆動力伝達装置の一例として、特許文献1に記載のものを先に提案している。
同文献に記載の装置においては、変速機を収容するハウジングケース内に、差動歯車機構部が組み込まれたデフ室が設けられている。デフ室には、オイルが貯留されており、このオイルは、差動歯車機構部のオイルをリングギヤによって上方に掻き上げることにより、所定部位の潤滑に利用されている。デフ室の油面高さが高いと、リングギヤが回転する際のオイル攪拌抵抗が大きくなり、メカロスも大きくなるため、これを解消する手段として、セパレータプレートを用いて、デフ室をオイルの攪拌室と非攪拌室とに区画している。非攪拌室には、セパレータプレートの上部を越えて非攪拌室に進入してきたオイルをある貯留させておくことが可能なオイル貯留部が設けられている。
このような構成によれば、リングギヤのオイル攪拌抵抗を小さくし、メカロスの減少、低燃費の促進を図ることが可能である。非攪拌室に進入したオイルについては、オイル貯留部に貯留させつつ、この貯留部から所定の潤滑対象部位に供給することができる。
【0003】
しかしながら、従来においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0004】
まず、前記したような車両用駆動力伝達装置において留意すべき事項としては、次のような事項が挙げられる。
すなわち、リングギヤによってオイルが上方に掻き上げられたとしても、このオイルの多くが攪拌室に流れ落ちてくる場合には、攪拌室の油量は余り減少しない。この場合には、攪拌室の油面高さが高く、リングギヤの攪拌抵抗を余り小さくすることができない。
デフ室には、差動歯車機構部の各部の潤滑に必要な量のオイルを貯留させておく必要があり、その油量は比較的多い。これに対し、車両用駆動力伝達装置には、各部の油圧制御手段として、バルブボディが配されたバルブボディ室が設けられ、かつこのバルブボディ室とデフ室とでは、オイルが共用されているのが一般的である。このため、デフ室の油量が多いと、バルブボディ室の油面を余り高くすることができなくなり、バルブボディのストレーナのエア吸いが生じることが懸念される。
特許文献1によれば、前記した2つの事項のうち、前者の事項は解消し得るものの、バルブボディ室の油面を高い状態に維持する後者の事項については、適切に解消し得るものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4574511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、差動歯車機構部のメカロスを小さくし得るとともに、バルブボディ室の油面高さの低下をも適切に防止することが可能な車両用駆動力伝達装置を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両用駆動力伝達装置は、差動歯車機構部が設けられたデフ室を内部に形成しているハウジングケースと、前記デフ室内に配されたセパレータプレートと、を備えており、前記デフ室に貯留されたオイルが、前記差動歯車機構部のリングギヤにより上方に掻き上げられて所定部位の潤滑に利用されるように構成されている、車両用駆動力伝達装置であって、前記ハウジングケースのうち、前記デフ室の周辺壁部には、バルブボディ室のオイル導入口が設けられており、前記セパレータプレートは、前記リングギヤの背面側に位置する起立板部から前記リングギヤよりも高い位置まで延びた状態に設けられた延設部と、この延設部からその前面側に突出し、かつ前記リングギヤによって掻き上げられて前記リングギヤの上方に飛散するオイルが当たる下向き面を有するフランジ部と、このフランジ部の下部寄りの部分に基端が繋がるようにして前記延設部からその前面側に突出した状態に設けられ、かつ先端側よりも前記基端側の方が低い高さとされているとともに、前記先端には上向きの起立部が形成されていることにより、前記フランジ部の下向き面を伝ってきたオイルを受けて所定量を溜めておくことが可能なオイル受け部と、前記セパレータプレートに一体または別体で設けられ、かつ前記オイル受け部からその前面側に流出したオイルを前記バルブボディ室のオイル導入口へ導くオイルガイド部と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、デフ室のオイルをリングギヤの攪拌を利用してバルブボディ室に送り込むことができるために、デフ室の油面高さを低くすることができる。したがって、リングギヤによるオイル攪拌抵抗を減少させて、メカロスを低減することができる。その一方、バルブボディ室には、オイル供給が行なわれるために、バルブボディ室の油面高さを高くし、ストレーナにエア吸いが生じるといった不具合を生じないようにすることができる。
デフ室からバルブボディ室へのオイル供給は、セパレータプレートを利用して行なわれているために、オイルポンプなどの機器は不要であり、製造コストの上昇も好適に抑えることができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る車両用駆動力伝達装置の全体の概略構成を示す平面図である。
図2図1に示す車両用駆動力伝達装置の差動歯車機構部の要部断面図である。
図3図2に示す差動歯車機構部に設けられるセパレータプレートの取り付け状態を示す要部正面図である。
図4図1に示す車両用駆動力伝達装置の要部構成を示す分解斜視図である。
図5図4の要部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1に示す車両用駆動力伝達装置Sは、エンジン(図示略)の出力軸10の駆動力を、左右一対のアクスルシャフト11,11aに伝達するためのものであり、第1および第2のケース21,22を組み合わせて構成されたハウジングケース2内に、エンジンの出力軸10に連結されたトルクコンバータ12、変速機(図示略)、および差動歯車機構部Dが組み込まれている。変速機は、たとえばベルト式無段変速機あるいは歯車式有段変速機などであるが、その種別は問わない。ハウジングケース2の下部領域には、変速機などの各部の油圧制御を行なうためのバルブボディ(図示略)をオイルサンプ内に配したバルブボディ室9が設けられている。
【0014】
差動歯車機構部Dは、後述するセパレータプレート6に関連する構成を除き、基本的な構造は従来のものと同様である。すなわち、図2に示すように、差動歯車機構部Dは、変速機からの回転力を受けるリングギヤ30と、このリングギヤ30に一端が連結されたデフケース31、このデフケース31にピン40を介して取り付けられた一対のピニオンギヤ41,41a、およびこれらと歯合し、かつアクスルシャフト11,11aに取り付けられているサイドギヤ42,42aなどを有している。一方のアクスルシャフト11aは、第1のケース21の側壁部21aを貫通しており、他方のアクスルシャフト11は、第
2のケース22の側壁部22aを貫通している。差動歯車機構部Dが配されたデフ室5内には、潤滑用のオイルが溜められている。
【0015】
セパレータプレート6は、デフケース31の周囲を覆う略傾斜筒状のデフケースカバー部60、このデフケースカバー部60の前端部に連結された起立板部61、この起立板部61の上部が斜め上方に延設されてリングギヤ30よりも高い位置に配される延設部62、この延設部62に設けられたフランジ部63、およびオイル受け部64を有している。さらに、このセパレータプレート6には、このセパレータプレート6とは別体で構成された後述のオイルガイド部7が取り付けられる。
【0016】
起立板部61は、リングギヤ30の背面側(デフケース31側)に位置し、デフ室5を攪拌室50Aと非攪拌室50Bとに区分する。図3図5に示すように、起立板部61には、たとえば90度の角度範囲の扇形状の切欠き部61aが設けられている。これは、デフ室5の下部寄り領域を完全に仕切らなくても、本実施形態によればエンジン始動後にデフ室5の油面を即座に下げることができること、および起立板部61の一部が攪拌室50Aを仕切っている構成によりリングギヤ30のオイル攪拌抵抗を十分に下げる効果が得られることによる。ただし、起立板部61に切欠き部61aを設けない構成としてもよいことは勿論である。
【0017】
デフケースカバー部60は、リングギヤ30によって掻き上げられてから落ちてくるオイルがデフケース31に当たらないようにするための部位である。本実施形態では、前記した起立板部61と同様に、デフケースカバー部60の下部側の一部が切り欠かれているが、デフケース31上へのオイル落下防止機能を十分に備えたものとなっている。勿論、デフケースカバー部60を、デフケース31の全周を囲む筒状としてもよい。
【0018】
起立板部61の延設部62には、開口部65が設けられている。この開口部65は、リングギヤ30によって掻き上げられたオイルを起立板部61の背面側(デフケースカバー部60側)の非攪拌室50Bに進行させるための部位である。デフケースカバー部60には、図3に示すように、オイル用のストッパリブ66が起立して設けられ、その基部側にオイル溜め部67が設けられている。このオイル溜め部67は、ストッパリブ66とデフケースカバー部60とが交差して形成された隅部である。オイルが開口部65を通過して非攪拌室50Bに進行すると、このオイルはストッパリブ66に当たってから下向きに流れ、オイル溜め部67に溜められることとなる。ここに溜められたオイルは、図2に示すように、アクスルシャフト11aの軸受48やオイルシール49に向けて流れていき、この部分の潤滑に利用される。
【0019】
延設部62に設けられたフランジ部63は、図3および図4に示すように、リングギヤ30によって掻き上げられたオイルをオイル受け部64に効率よく導くための部分であり、前記した開口部65の周囲に位置するようにして延設部62からその手前側(本発明でいう「前面側」と同義であり、以下同様)に突出している。オイル受け部64は、フランジ部63を伝ってきたオイルを受け、かつ適当量だけ溜めておくことが可能な部分であり、フランジ部63の下部寄りの位置において延設部62からその手前側に突出した板状である。オイル受け部64に溜められるオイルの量を多くするための手段として、このオイル受け部64は先端側よりも基端側の方が低い高さとされ、かつ先端部には起立部が形成されている。
【0020】
オイルガイド部7は、図4および図5に示すような形態を有しており、上下方向に起立した背板部70と、この背板部70の下部または中間高さ位置に設けられたオイル流出部71とを備えている。オイル流出部71は、背板部70からその手前側に突出した水平壁およびその両側に位置して上向きに起立した一対の起立壁を有する形態である。オイルガイド部7は、図4に示すように、オイル受け部64の下側に位置するように取り付けられ
ており、オイル受け部64からその手前側下方にオイルが流れると、このオイルを背板部70に沿って流れてさせてからオイル流出部71へ導くことが可能である。
【0021】
図4に示すように、第2のケース22のうち、第1のケース21と対面し、かつデフ室5を規定する側壁部22aには、バルブボディ室9のオイル導入口90が開口して設けられている。オイルガイド部7のオイル流出部71はオイル導入口90にオイルを流入させることが可能な配置に設定されている。
【0022】
図4および図5に示すように、デフ室5を構成する壁部のうち、デフケース31の一側方に相当する箇所には、一対のリブ28が設けられている。このリブ28は、オイル噴出用経路を形成する部位であり、図示されていないオイル噴出手段から噴出されたオイルは、一対のリブ28の相互間の経路を通過してデフケース31に供給可能とされている。セパレータプレート6には、これらのリブ28との干渉を回避するための切欠き部69が設けられている。一方、オイルガイド部7は、前記したオイル噴出領域よりも手前側に位置し、前記したオイル噴射の支障にならないように設けられている。
【0023】
次に、前記した車両用駆動力伝達装置Sの作用について説明する。
【0024】
まず、リングギヤ30によって掻き上げられたオイルのうち、一部のオイルについては、開口部65から非攪拌室50Bに進行する。このオイルは、図3に示したオイル溜め部67に溜められてから軸受48やオイルシール49の潤滑に利用される。これ以外のオイルとしては、フランジ部63のガイドによってオイル受け部64によって受けられてからバルブボディ室9に向けて供給されるオイルがある。したがって、本実施形態においては、リングギヤ30によって掻き上げられたオイルのうち、多くのオイルがそのまま攪拌室50Aに戻されることはない。したがって、エンジン停止時において、デフ室5内の油面が高い場合であっても、エンジン始動後には即座に油面を低くし、リングギヤ30のオイル攪拌抵抗を少なくし、メカロスを少なくすることができる。また、リングギヤ30によって掻き上げられたオイルがデフケース31に当たることもセパレータプレート6の存在により防止されるために、メカロスをより少なくすることができる。
【0025】
一方、既述したように、リングギヤ30によって掻き上げられたオイルの一部は、バルブボディ室9に送られる。したがって、バルブボディ室9の油面高さを高い状態に維持し、そのストレーナにエア吸いが生じるといった不具合を生じないようにすることができる。バルブボディ室9へのオイル供給は、セパレータプレート6およびオイルガイド部7を利用して行なわれており、オイルポンプなどの特別な機器を用いる必要はない。したがって、その構成は合理的であり、製造コストの上昇を好適に抑制することができる。
【0026】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両用駆動力伝達装置の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0027】
上述の実施形態では、オイルガイド部がセパレプレートとは別部材を用いて構成されているが、本発明はこれに限定されず、セパレータプレートと一体的に構成することもできる。本発明でいう「セパレータプレート」とは、デフ室を2以上の室に区分する部材である。上述の実施形態において、セパレータプレートに切欠き部61aが設けられていることからも理解されるように、デフ室を攪拌室と非攪拌室とに区分する場合、これらは略完全に遮断されている必要はない。バルブボディ室のオイル導入口の具体的な位置は限定されず、要は、デフ室の周辺壁部のいずれかの位置に設けられていればよい。オイルガイド部の具体的な構成は、オイル導入口の位置に対応させて適宜設計変更することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
D 差動歯車機構部
S 車両用駆動力伝達装置
2 ハウジングケース
21,22 第1および第2のハウジングケース
22a 側壁部(デフ室の周辺壁部)
30 リングギヤ
5 デフ室
6 セパレータプレート
7 オイルガイド部
9 バルブボディ室
90 オイル導入口(バルブボディ室の)
図1
図2
図3
図4
図5