(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転部材に取り付けるための取り付け面を有するベース部と、ベース部をインサートして射出成形された成形部とを備え、成形部に円周方向に配列した複数の磁極を有する磁気エンコーダトラックが設けられ、磁気エンコーダトラックの各磁極を磁気センサとの対向領域で移動させることで、回転部材の角度が検出される磁気エンコーダ装置において、
ベース部を焼結金属で形成し、ベース部の表面のうち、成形部と接触する領域に、その表面粗さが取り付け面の表面粗さよりも大きい粗面部を設けたことを特徴とする磁気エンコーダ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるような回転数を検出するための回転検出装置であれば、それほど高い分解能が要求されないので、検出精度に関する限り既存の製品精度でも実用上の不都合はない。これに対し、特許文献2に記載される回転軸の絶対角度を検出する回転検出装置では、単に回転数を検出するにすぎない場合と比べて格段に高い分解能と精度が必要とされる。
【0006】
このように回転軸の角度を検出する場合、特許文献1記載のように樹脂および磁性粉からなる多極磁石を使用すると、回転検出装置が大きな温度変化に晒された際に、多極磁石がそのベースとなる部材(通常は、多極磁石とは別材料で形成される)から剥離し、あるいは多極磁石に割れを生じる場合がある。この剥離や割れにより、多極磁石とベースとなる部材とが同期回転せずに両者間に微少な位相ずれを生じ、そのために絶対角度の検出精度が大きく低下するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、温度変化が大きい環境下で回転軸の角度を検出する際の検出精度の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、回転部材に取り付けるための取り付け面を有するベース部と、ベース部をインサートして射出成形された成形部とを備え、成形部に円周方向に配列した複数の磁極を有する磁気エンコーダトラックが設けられ、磁気エンコーダトラックの各磁極を磁気センサとの対向領域で移動させることで、回転部材の角度が検出される磁気エンコーダ装置において、ベース部を焼結金属で形成し、ベース部の表面のうち、成形部と接触する領域に、その表面粗さが取り付け面の表面粗さよりも大きい粗面部を設けたことを特徴とする。
【0009】
このようにベース部の表面のうち、成形部と接触する領域に粗面部を設けることで、成形部の射出成形材料が粗面部の微小凹部に深く入り込んでアンカー効果を生じる。そのため、ベース部と成形部の間で高い密着力を得ることができ、大きな温度変化が予想される使用条件下でも成形部の剥離や割れを防止してベース部と成形部の微小な位相ずれを防止することができる。従って、幅広い温度範囲で回転部材の角度(例えば絶対角度)を精度良く検出することが可能となる。
【0010】
粗面部は、ベース部の表面のうち、少なくとも磁気エンコーダトラックと対向する面に形成するのが好ましい。ベース部の磁気エンコーダトラックと対向する面は、面積が大きくなるのが通例であるため、かかる構成を採用することで、成形部とベース部の間の密着力を効果的に高めることができる。
【0011】
取り付け面をサイジングで仕上げることで(サイジングで仕上げた面には切削痕や研摩痕等の機械加工痕が存在しない)、取り付け面の平面度、円筒度等の表面精度を低コストに向上させることができる。従って、取り付け面に回転部材を取り付けた場合でも、回転部材の回転中心に対してベース部および成形部を高精度の同軸度をもって回転させることができ、磁気エンコーダトラックの振れ回りを防止して高い検出精度を得ることが可能となる。
【0012】
取り付け面だけでなく、粗面部もサイジングで仕上げれば、粗面部および取り付け面のサイジング代を異ならせるだけで、粗面部と取り付け面の表面粗さに差を設けることができる。粗面部と取り付け面の表面粗さを上記の大小関係にするためには、取り付け面のサイジング代を粗面部のサイジング代よりも大きくする必要があるが、その場合には取り付け面の圧縮率が粗面部よりも高くなるため、取り付け面が高精度の硬質面となる。従って、回転部材に対する磁気エンコーダ装置の取り付け精度をより一層高めることができる。また、射出成形時のベース部の位置決め精度を高めて成形部の成形精度を向上させ、磁気エンコーダトラックの着磁精度を向上させることもできる。
【0013】
このように粗面部および取り付け面をサイジングで仕上げる場合、取り付け面の表面粗さは、粗面部の表面粗さの10〜50%の範囲にするのが好ましい。具体的な数値の例として、取り付け面の表面粗さを3.2μmRa以下とし、粗面部の表面粗さを6.3〜12.5μmRaの範囲とすることが挙げられる。
【0014】
成形部の射出成形材料としては、熱可塑性樹脂と磁性粉を主成分としたものを用いることができる。
【0015】
磁気エンコーダトラックに、それぞれに磁極を有する第一トラックおよび第二トラックを設けることにより、バーニャ原理を活用して回転部材の角度を精度よく検出することが可能となる。
【0016】
以上に述べた磁気エンコーダ装置と、ベース部が取り付けられる回転部材と、磁気エンコーダトラックに対向する磁気センサとで回転検出装置を構成することにより、大きな温度変化が予想される状況下でも、回転部材の角度を精度よく検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形部の剥離や割れが生じにくくなるので、温度変化が大きい場合でもベース部と成形部の間での位相ずれを防止することができる。従って、大きな温度変化が予想される環境下でも回転部材の角度検出を精度良く行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この実施形態の回転検出装置1の概略構成を示す断面図である。
図1に示すように、この回転検出装置1は、回転部材としての回転軸2と、回転軸2に取り付けられる磁気エンコーダ装置3と、ハウジング等の静止部材に取り付けられる磁気センサ4とで構成される。回転軸2は、図示しないモータ(例えばサーボモータ)等の回転駆動源により回転駆動される。
【0021】
図1では、磁気エンコーダ装置3としてラジアルギャップタイプを例示している。この磁気エンコーダ装置3は、ベース部33と成形部34とで構成される。以下、ベース部33および成形部34の主要構成を説明する。
【0022】
ベース部33は、多孔質の焼結金属で円筒状に形成される。焼結金属としては、磁性体である鉄を含むものが使用される。焼結金属中の鉄の含有量は極力多くするのが好ましく、本実施形態では鉄100wt%の焼結金属を使用している。鉄を主成分とする限り、銅や他の金属を含有した焼結金属を使用しても構わない。なお、ベース部33に対する潤滑油の含浸は行われない。ベース部33の外周面33aおよび内周面33bのうち、外周面33aが成形部34を介して磁気センサ4のセンシング面と対向し、内周面33bが回転軸2に取り付けるための取り付け面を構成する。
【0023】
成形部34は、ベース部33の外周面33a、およびベース部33の軸方向両端部を連続して被覆しており、平板状をなす第一プレート部341および第二プレート部342と、円筒状をなす円筒部343とで一体に形成される。第一プレート部341、第二プレート部342、および円筒部343の肉厚は実質的に同一である。
図1に示す実施形態において、第一プレート部341はベース部33の軸方向一方側の端面33cの外径側領域を覆っている。ベース部33の軸方向他方側の端面33dは軸方向の段差を有しており、第二プレート部342はこの段差付き端面33dのうち軸方向一方側の端面33d1を覆っている。また、円筒部343はベース部33の外周面33aを覆っている。ベース部33の内径側の面取り33eは、成形部43には覆われずに露出している。
【0024】
この実施形態において、第一プレート部341および第二プレート部342の内径寸法は何れもベース部33の内径寸法よりも大きい。また、第二プレート部342の内径寸法は、第一プレート部341の内径寸法よりも大きい。成形部34の第一プレート部341の端面とベース部33の軸方向一方側の端面33cとの間には、軸方向の段差が存在するが、成形部34の第二プレート部342の端面とベース部33の軸方向他方側の端面33dの一部(段差付き端面33dのうち軸方向他方側の端面33d2)とは、半径方向で同一平面上にある。
【0025】
図2は回転検出装置1をセンサ4側から見た平面図である。
図1および
図2に示すように、成形部34の円筒部343の外周面には、異なる磁極(N極およびS極)を周方向交互に配置した磁気エンコーダトラック30が形成される。磁気エンコーダトラック30は、バーニャ原理により絶対角度を検出可能としたのもので、
図2に示すように、第一トラック31と第二トラック32とを同心で環状に複列配置した形態をなしている。
【0026】
第一トラック31および第二トラック32のそれぞれに、N極およびS極からなる磁極対31a,32aが異なる磁極を周方向交互に配置して着磁されている。本実施形態では、第一トラック31の磁極を等ピッチλ1とし、第二トラック32の磁極も等ピッチλ2としている。第一トラック31おける磁極対31aの数(例えば32個)は、第二トラック32における磁極対32aの数(例えば31個)と異なる。例えば第一トラック31における磁極対31aを任意の数nとした場合、第二トラック32には、n±1で表される数の磁極対32aを設けることができる。これにより回転軸2の1回転を0°〜360°の範囲の絶対角度で検出することができる。検出可能な絶対角度の範囲を360°ではなく180°とする場合には、第二トラック32にn±2で表される数の磁極対32aを設ければよい。この場合、回転軸2の1回転に対して0°〜180°の範囲の検出を2回繰り返すことになる(いわゆる2xモード)。同様にn±3とした場合には絶対角度検出範囲は120°となり、回転軸2の1回転に対して3回繰り返して検出することになる(いわゆる3xモード)。
【0027】
成形部34は、磁性粉(強磁性体)と熱可塑性樹脂とを主成分とする樹脂材料で形成される。磁性粉としては、例えばストロンチウムフェライトやバリウムフェライトなどに代表されるフェライト系磁性粉の他、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウム−コバルト、サマリウム−鉄−窒素等などに代表される希土類系磁性粉等の公知の磁性粉が使用できる。これらの磁性粉は単独で、あるいは複数組み合わせて使用される。本実施形態では、コストおよび耐候性の面で優位性を示すフェライト系磁性粉を主として使用している。なお、フェライト系の磁性粉を用いる場合、フェライトの磁気特性を向上させるためにランタンやコバルト等の希土類系元素を混合することもできる。
【0028】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系の樹脂材料、例えばPA12を使用することができる。本実施形態のように薄肉(0.5mm程度)の成形部34で高磁力を得るためには磁性粉を高充填する必要があるが、ポリアミド系は流動性に優れることからそのような要求にも応えることができる。また、本実施形態の磁気エンコーダ装置3を例えば自動車の車輪用軸受に使用する場合には、広い温度範囲で耐候性、耐薬品性等を満たすことが求められるが、ポリアミド系は要求される温度範囲(−40℃〜+120℃)でもこれらの特性を満足することができる。ポリアミド系として、PA12の他にPA6,PA66,PA612等も使用可能であるが、特にPA12はこれらの中で吸水性が最も少ないので、吸水による磁気特性低下を防止するために最も好ましい。
【0029】
図2に示すように、磁気センサ4は、第一トラック31および第二トラック32のそれぞれと対面する検出素子4aを有する。各検出素子4aは、トラックピッチの方向に所定距離だけ離隔させた二つの磁気検出素子等からなり、半径方向に0.3mm〜4mm程度のラジアルギャップを介して第一トラック31および第二トラック32のそれぞれと対向している。磁気エンコーダトラック30を回転させることで、各トラック32の磁極が検出素子4aの対面領域を移動するので、二つの検出素子4aの出力波形を比較してその位相差を求めることにより、磁気エンコーダトラック30の絶対角度を検出することが可能となる。
【0030】
次に、以上に述べた磁気エンコーダ装置3の製造工程を順次説明する。
【0031】
先ず、焼結金属製のベース部33が製作される。ベース部33は、焼結金属の製造手法として常用される、金属粉末の圧縮成形→焼結→サイジングの各工程を経て製作される。圧縮成形工程では、鉄粉に潤滑剤を添加した原料粉末を圧縮して圧粉体が成形される。この圧粉体を焼結炉に移送して例えば1120℃で焼結することにより、Fe100wt%の焼結素材が得られる。原料粉に添加された潤滑剤は、焼結の工程中に燃焼あるいは揮散する。
【0032】
焼結後の焼結素材はサイジング工程に移送される。サイジングは、
図3に示すように、焼結素材33’を、その軸方向両端面33c’,33d’をパンチ13,14で拘束しつつダイ11に圧入し、あるいはダイ11に焼結素材33’を収容してから、焼結素材33’の軸方向両端面33c’、33d’をパンチ13,14で加圧することで、焼結金属素材33’を圧迫する工程である。サイジング中は焼結金属素材33’の内周にはコアロッド12が挿入されている。
【0033】
このサイジングにより、焼結素材33’の外周面33a’、内周面33b’、および両端面33c’,33d’がそれぞれダイ11の内周面、コアロッド12の外周面、および両パンチ13,14の端面に押し付けられて塑性変形により矯正され、各面が精度良く仕上げられる。その後、焼結金属素材33’をダイ11内から取り出すことで、ベース部33が完成する。
【0034】
図4に示すように、二点鎖線で示すサイジング前の焼結素材33’の各面33a’〜33d’には所定のサイジング代が設けられている。内周面33b’のサイジング代Qiは、外周面33a’のサイジング代Qoよりも大きくする。なお、
図4における各サイジング代は実際よりも誇張して描かれている。
【0035】
このようにサイジング代に差を設けることで、サイジング代の小さい外周面33a’は、サイジング代の大きい内周面33b’に比べて表面粗さが大きくなり、外周面33a’が表面粗さの大きい粗面部36となる。粗面部36では、サイジング時の圧縮率が低くなるために表面空孔率が内周面33b’よりも大きく、密度が内周面33b’よりも小さくなる。
【0036】
なお、ベース部の33の外周面33a、内周面33b、および両端面33c、33dは何れもサイジングされた面となるため、サイジング後の各面33a〜33dの表面空孔率は、ベース部33の内部(芯部)の空孔率よりも小さくなる。ベース部33の軸方向両端の内径角部および外径角部に設けられた面取り33eはサイジングされないため、面取り33eの表面空孔率および表面粗さは上記各面33a〜33dの表面空孔率および表面粗さよりも大きくなる。また、面取り部33eおよびその周辺での密度が上記各面33a〜33dおよびその周辺での密度よりも小さくなる。
【0037】
サイジング工程を経たベース部33は、射出成形工程に移送される。この射出成形工程は、
図5に示すように、ベース部33を固定金型40および可動金型41内にインサートして位置決め保持し、両金型40,41間に形成したキャビティ42に、上述した熱可塑性樹脂と磁性粉とを含む樹脂材料を、スプール43およびゲート44を介して射出することで成形部34を成形(インサート成形)する工程である。成形部34でのウェルド等の発生を防止するため、ゲート44としては、ディスクゲート(フィルムゲート)を使用するのが好ましい。射出成形に際しては、キャビティ42に磁場をかけながら磁性粉の磁化容易軸を揃える処理(磁場成形)も併せて行われる。
【0038】
樹脂材料の冷却固化後、型開きを行い、図示しない押し出しピンで成形品を押し出す。成形品の押し出しと共にゲートカットが行われ、成形品が離型される。ディスクゲート44を介して射出成形を行っているため、ゲートカットの痕跡であるゲート跡344(
図1参照)は、成形部34の第一プレート部341の内周面全周にわたって形成される。
【0039】
その後、脱磁を行ってから、成形品に着磁を行って磁気エンコーダトラック30を形成する。着磁中は、
図6に示すように、成形品39のベース部33の内周面33bがスピンドル50に嵌合されると共に、図示しないチャック機構でベース部33の端面、例えば軸方向他方側の端面33dが着磁装置の位置決め面51に押し付けられる。この時、位置決め精度の向上のため、成形部34は位置決め面51と接触させないのが好ましい。これにより、成形品39が内周面33bおよび一方の端面(本実施形態では33d)を基準として、着磁装置に対して軸方向および半径方向で位置決めされる。
【0040】
この状態で磁気エンコーダトラック30の外径側に着磁ヘッド52を配置し、成形品をインデックス回転させながら、磁気エンコーダトラック30の第一トラック31と第二トラック32のうち、どちらか一方のトラックの着磁を行う。その後、着磁ヘッド52を軸方向にスライドさせ、同様の操作を繰り返して他方のトラックの着磁を行うことで、
図1および
図2に示す磁気エンコーダ装置3が完成する。なお、インデックス回転させながら複数のトラックを同時に着磁するようにしてもよく、その他、全ての磁極を同時に着磁させる方法を採用することもできる。
【0041】
このようにして製作した磁気エンコーダ装置3のベース部33の内周面(取り付け面)33bに回転部材である回転軸2を固定し、ハウジングの所定位置に磁気センサ4を取り付けることで、
図1および
図2に示す回転検出装置1が完成する。ベース部33と回転軸2との固定は、両者間での芯ずれ防止のために圧入で行うのが好ましいが、芯ずれを回避できる対策を講じれば、接着等の他の固定手段で固定することもできる。例えば自動車の車輪用軸受装置にこの磁気エンコーダ装置を使用する場合、車輪用軸受装置の内輪(回転部材)の外周面にベース部33の取り付け面33bが嵌合固定され、軸受外輪やナックル等の車体側の部材の所定位置に磁気センサ4が取り付けられる。
【0042】
本発明の磁気エンコーダ装置3においては、ベース部33が焼結金属で形成され、かつベース部33の回転軸2に対する取り付け面(内周面)33bがサイジングにより矯正されている。そのため、取り付け面33bは高い平面度および円筒度を有し、かつ両端面33c、33dに対する直角度や回転軸心に対する同軸度も良好なものとなる。このように取り付け面33bが高い表面精度を有するため、ベース部33の取り付け面33bに回転軸2を嵌合固定して回転軸2を回転させた場合でも、磁気エンコーダトラック30の振れ回りを小さくすることができる。そのため、回転中の磁気エンコーダトラック30の幾何学的な誤差、さらには磁気センサ4との間のギャップ変動に基づく誤差を小さくすることができ、回転軸2の角度(例えば絶対角度)の検出精度を高めることができる。
【0043】
以下、この作用効果を
図7に示すモデルを用いて説明する。同図において、磁気エンコーダトラック30の半径Rに対して、磁気エンコーダトラック30の中心が回転軸心OからΔRだけ偏心した位置に固定されている場合を想定すると、磁気エンコーダトラック30に回転角θに依存したΔRの振れ回りが発生する。これにより、tanΔθ〜ΔR/Rの大きさで変動する角度誤差(幾何学的な誤差)が観測されることになる。
【0044】
例えば、複列の磁気エンコーダトラック30を用いて1回転を12ビット(4096分割)以上の分解能で測定する場合、磁気エンコーダトラック30の各トラック31,32のピッチ誤差を±0.5%以下に抑えることが望まれる。R=25mmの位置に32極対の磁気エンコーダトラック30を形成する場合を考えると、1磁極対に相当する回転角度は360°/32=11.25°なので、ピッチ誤差0.5%は、11.25°×0.5%=0.05625°となり、その場合、許容される偏心量はΔR<Rtan(0.05625°)=24.5μmとなる。従って、ピッチ誤差を0.5%以下にするためには、ベース部33の取り付け面33bにおける公差を±20μm以下に設定することが望まれる。少なくともベース部33の取り付け面33bを焼結金属で形成し、これにサイジングを施せば、取り付け面33bをそのような公差範囲に収めることは容易であるので、ピッチ誤差を0.5%以下に抑えた磁気エンコーダトラック30を低コストに提供することが可能となる。
【0045】
また、磁気エンコーダトラック30の振れ回り量が小さくなることで、磁気センサ4と各磁極との間のギャップ変動を抑えることができる。既存の磁気エンコーダ装置では、磁気センサ4と各磁極との間のギャップは、機械部品の加工精度や組み付け精度によって制限され、その変動幅が大きいためにギャップを小さくするには限度がある。これに対し、本発明では、磁気エンコーダトラック30の振れ回り量が小さいため、ギャップの変動範囲を±0.1mm以下に抑えることができる。そのため、磁気センサ4と各磁極との間のギャップを詰めることができ、磁気強度の増大を通じてノイズの少ない高品質の信号を出力することが可能となる。この点からも、回転軸2の絶対角度の検出精度を高めることができる。
【0046】
また、
図6に示すように、磁気エンコーダトラック30に着磁する際には、ベース部33の取り付け面33bが着磁装置のスピンドル50に嵌合すると共に、どちらか一方の端面(本実施形態では軸方向他方側の端面33d)が位置決め面51と当接している。着磁の際には、スピンドル50の回転角度を基準として磁気パターンを形成するため、着磁面に振れ回りがあると、正確な角度ピッチで着磁することが困難となる。これに対し、本実施形態の構成では、被位置決め面となるベース部33の取り付け面33bおよび端面33dがサイジングにより高精度に成形されているので、着磁装置のスピンドル50に対するベース部33の取り付け姿勢を安定化することができ、磁気エンコーダ装置3の使用時と同レベルの同軸状態で着磁を行うことができる。そのため、着磁中の成形部34の振れ回りを小さくして、振れ回りによる着磁パターンの幾何学的誤差を防止することができ、これにより回転軸2の絶対角度をさらに精度良く検出することが可能となる。
【0047】
異種材料からなるベース部33と成形部34の複合成形品を、温度変化の大きい環境下で使用した場合には、成形部34のうちベース部33との境界部の一部領域で剥離(浮き上がりやはがれ)や割れを生じるおそれがある。このような剥離や割れを放置すると、振動等によりベース部33と成形部34が同期回転せずに微小な位相ずれを生じる場合がある。特に本実施形態の磁気エンコーダ装置3のように回転軸2の絶対角度を検出する場合には、このような微小な位相ずれが絶対角度の検出精度に大きな影響を与える。
【0048】
これに対し、本発明では、ベース部33の外周面33aを内周面33bよりも表面粗さの大きい粗面部36にしている。かかる構成では、成形部34を構成する樹脂材料が射出成形時に粗面部36の微小凹部に深く入り込んでアンカー効果を生じるため、ベース部33と成形部34の間で高い密着力を得ることができる。従って、大きな温度変化が予想される使用条件下でも成形部34の剥離や割れを防止してベース部33と成形部34の微小な位相ずれを防止し、そのような条件下での回転部材の絶対角度の検出精度を向上させることが可能となる。粗面部36および内周面33bをサイジングで仕上げているので、粗面部36と内周面33bにおける表面粗さの差は、両者のサイジング代Qi,Qoを異ならせるだけで容易に得ることができる。
【0049】
その一方で、表面粗さの小さい内周面33b(取り付け面)は、圧縮率が高くなるために高精度の硬質面となる。従って、回転軸2に対する磁気エンコーダ装置3の取り付け精度を高めることができ、また、射出成形時のベース部33の位置決め精度を高めて成形部34の成形精度を向上させ、磁気エンコーダトラック30の着磁精度を向上させることができる。以上から、幅広い温度範囲で回転部材の絶対角度を精度良く検出可能な磁気エンコーダ装置3を提供することが可能となる。
【0050】
通常、磁気エンコーダ装置3においては、成形部34のうち、磁気センサ4に対向する面(本実施形態では円筒部343の外周面)が、磁気エンコーダトラック30を形成する関係で広大な面となる。これに対応して、ベース部33の表面のうち、磁気エンコーダトラック30と対向する面(本実施形態では外周面33a)を粗面部36にすることで、ベース部33と成形部34の密着面積が大きくなり、成形部34とベース部33の間の密着力を効果的に高めることが可能となる。
【0051】
もちろんベース部33の外周面33aだけでなく、成形部34と接触する領域(本実施形態でいえば、軸方向一方側端面33cおよび軸方向他方側端面33dの各外径側領域)を粗面部36にすることで、成形部34とベース部33の間の密着力をさらに高めることができる。このように粗面部36の形成領域を拡大するため、
図4では、焼結素材33’の軸方向両側の端面33c’、33d’のサイジング代を、内周面33b’のサイジング代Qiよりも小さくしている。
【0052】
なお、取り付け面33bの表面粗さは、粗面部36の表面粗さの10〜50%の範囲にするのが好ましい。具体的な数値例として、取り付け面33bの表面粗さを3.2μmRa以下とし、粗面部36の表面粗さを6.3〜12.5μmRaの範囲とすることが挙げられる。この場合、取り付け面33bの表面空孔率は5〜20%、粗面部36の表面空孔率は15〜40%程度が好ましい。また、取り付け面33bおよびその周辺領域での密度は6.4〜7.0g/cm
3とし、粗面部36およびその周辺領域での密度は6.2〜6.8g/cm
3とするのが好ましい。ここで、表面粗さRaは、JIS B0601に規定される算術平均粗さを意味する。
【0053】
以下、本発明の他の実施形態を説明する。なお、以下の実施形態の説明において、
図1および
図2に示す実施形態と共通する構成および部材には共通の参照符号を付して重複説明を省略する。
【0054】
図8および
図9は、アキシャルギャップタイプの回転検出装置1の断面図および平面図である。この実施形態においは、複列の磁気エンコーダトラック30が磁気センサ4に対向する成形部34(第一プレート部341)に形成される。磁気エンコーダトラック30は、半径方向に離隔した第一トラック31と第二トラック32とを有している。また、ベース部33が焼結金属で形成されると共に、ベース部33の各面33a〜33dがサイジングで仕上げられ、これらの面にサイジング代の差を与えることで、ベース部33の内周面33b(取り付け面)を除く各面(外周面33a、軸方向一方側の端面33c、および軸方向他方側の端面33d)に粗面部36が形成されている。粗面部36は、少なくとも磁気エンコーダトラック30と対向する軸方向一方側の端面33cに形成されていれば足りる。
【0055】
以上の説明では、成形部34の射出成形材料として熱可塑性樹脂と磁性粉を主成分とするものを例示したが、射出成形材料としては着磁可能でかつ射出成形可能である限り任意の材料を使用することができる。例えばゴムと磁性粉を主成分とする射出成形材料で成形部34を成形することもできる。
【0056】
また、以上の説明では、成形部34に形成する複列の磁気エンコーダトラック30として、第一トラック31と第二トラック32の磁極対の数を異ならせると共に、第一トラック31の磁極を等ピッチλ1とし、第二トラック32の磁極を等ピッチλ2としたものを説明したが、磁気エンコーダトラック30の磁極パターンはこれに限定されず、回転軸2の絶対角度を検出可能なあらゆる磁極パターンを採用することができる。例えば
図10(a)に示すように、第一トラック31と第二トラック32で磁極対の数を同じにすると共に、第一トラック31および第二トラック32のそれぞれで磁極ピッチを不等ピッチにすることもできる。この他、
図10(b)に示すように、第一トラック31を、異なる磁極を交互に等ピッチで形成した回転検出用トラックとすると共に、第二トラック32を、回転基準位置検出用の磁極を周方向の一カ所もしくは複数個所に形成した、インデックス信号(Z相)生成用トラックとしてもよい。
【0057】
以上に述べた回転検出装置1は、回転軸2の絶対角度の検出が求められる用途に適用することができ、例示した車輪用軸受装置の他、ロボットの関節部分、精密位置決め装置をはじめ、各種産業機器に広く用いることが可能である。