特許第6227986号(P6227986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227986
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】揮散装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20171030BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20171030BHJP
   G09F 19/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   A61L9/12
   A01M1/20 C
   G09F19/00 J
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-246416(P2013-246416)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2015-104409(P2015-104409A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明神 弘恭
(72)【発明者】
【氏名】高畑 美怜
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−049157(JP,A)
【文献】 特開2001−086919(JP,A)
【文献】 特開昭63−139557(JP,A)
【文献】 特開2011−202815(JP,A)
【文献】 実開昭63−180047(JP,U)
【文献】 特開2011−000667(JP,A)
【文献】 特開2003−079303(JP,A)
【文献】 特開2011−072609(JP,A)
【文献】 特開2011−093746(JP,A)
【文献】 特開平11−196747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/12
A01M 1/20
B65D 85/00
G09F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸上揮散体及び容器を備えた揮散装置であって、前記吸上揮散体が樹脂で成型された板状体であり、その表面の少なくとも一部に微細凹凸加工が施されるとともに、前記容器内に収容された液体に前記吸上揮散体の一部が接触するように配置され、前記吸上揮散体の微細凹凸加工が施された部分における算術平均表面粗さRaが7μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さRsmが220μm以下であることを特徴とする揮散装置。
【請求項2】
前記微細凹凸加工により前記吸上揮散体表面に形成された凹凸形状が六角格子状である請求項1記載の揮散装置。
【請求項3】
前記微細凹凸加工がレーザー加工により施されたものである請求項1又は2に記載の揮散装置。
【請求項4】
前記吸上揮散体が前記容器内に起立して設けられたものである請求項1〜のいずれかの項記載の揮散装置。
【請求項5】
前記液体が、香料、消臭剤、防虫剤、殺虫剤、加湿剤よりなる群から選ばれた揮散性薬剤を含有する薬液である請求項1〜のいずれかの項記載の揮散装置。
【請求項6】
少なくとも表面の一部に微細凹凸加工を施した吸上揮散体であって、前記吸上揮散体が樹脂で成型された板状体であり、前記微細凹凸加工が施された部分における算術平均表面粗さRaが7μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さRsmが220μm以下である吸上揮散体
【請求項7】
吸上作用又は揮散作用のいずれか一方の作用を奏するものである請求項記載の吸上揮散体。
【請求項8】
前記微細凹凸加工により形成された凹凸形状が六角格子状である請求項6又は7に記載の吸上揮散体。
【請求項9】
前記微細凹凸加工が、前記吸上揮散体の金型に対してレーザー加工を施したことにより形成されたものである請求項のいずれかの項記載の吸上揮散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揮散装置に関し、更に詳細には、揮散体内部への薬剤の吸収保持を生じないため、薬剤を効率良く揮散させることができ、さらに優れたインジケーター機能と美観を備えた揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、香料、消臭剤、防虫剤等の揮散性薬剤を空間中に揮散させる揮散装置が用いられている。この揮散装置の一般的な構造は、薬液を収容した容器の開口部に、一端部が薬液に浸漬され、他端部が容器の開口部から露出している吸上芯を挿入し、この吸上芯の他端部に揮散体を設置した揮散部材を用いて、内部の薬液を空気中に揮散させるようにしたものである。
【0003】
吸上芯は、一般にパルプや合成繊維等の繊維を柱状にしたもので、毛細管現象により薬液を吸上げ、揮散体に薬液を導く。揮散体も、通常パルプ等の繊維を熱融着性のバインダー等と混合し熱圧着等の方法により板状にしたもので、吸上芯により導かれた薬液をその表面から揮散させて空間に芳香等を付与する。
【0004】
この繊維から構成される吸上芯は、吸上げ能力に優れるものであるが、吸上芯内部に揮散性薬剤が吸収保持されやすいため、使用終期には薬剤の揮散速度が低下し、薬剤の効果が十分に発現しない場合があった。また、薬液を収容した容器は、中の薬液の残量が見えるようにするため透明ないしは半透明にする必要があるが、その場合は容器の外部から吸上芯が見えてしまい、美観に影響を与えるという問題もあった。
【0005】
このような繊維から構成された吸上芯ではなく、ガラス板やプラスチックフィルム等を使用し、その側面に連続した微細孔を設け、毛細管現象により薬液を吸い上げる揮散装置も提案されている(特許文献1)。しかし、この揮散装置は、吸上芯の部分では揮散速度の低下は発生し難いものの、吸上芯と接続する揮散体としては繊維原料から構成される揮散体を使用しているため、揮散体内での揮散速度の低下や美観上の問題はなお解消されずに残されていた。
【0006】
さらに素焼きの成型体を用い、これに芳香液を含浸させて揮散させるタイプの揮散装置も提案されている(特許文献2)。この成型体でも同様に内部に揮散性薬剤が吸収保持されやすく、揮散効率の面で十分とはいえない場合があった。
【0007】
一方、薬液の残存量に応じて外観を変化させることにより、薬液の残存状態や終了時期を視覚的に表示させる機能(インジケーター機能)を持たせる試みが提案されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、油透過性材からなる基板材とこの基板材面上に積層された油透過性で光に対し低屈折率の地色層とからなる紙状体およびこの紙状体中に常温揮散性の油液性防虫剤を含浸させた表示器兼用防虫剤が開示されている。更に特許文献4には、液体が付着している間は乾燥時と異なる表面を有する材料に液体を付着させ、この液体の揮発によりその表面が変色するように構成した期間表示具が開示されている。
【0009】
しかし、これらは構造が複雑であったり、薬剤の終点とインジケーターの終了表示が一致しない場合があるなどの問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−204803号公報
【特許文献2】特開平6−209988号公報
【特許文献3】特開昭60−224603号公報
【特許文献4】特開昭57−158682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、揮散性薬剤の揮散体内部への吸収保持が生じず薬剤を効率良く揮散させることができ、さらに簡易な構造でありながら、精度が高いインジケーター機能を備え、美観にも優れた揮散装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行っていたところ、樹脂などから構成される成型体の表面に微細な凹凸加工を施し、その一部を薬液に接触させることにより、当該凹凸加工部分に接触した薬液が安定して吸い上げられるとともに、表面積が増大し、揮散体内部に薬剤が吸収保持されることがないため効率良く揮散され得るとともに揮散装置の小型化が実現できること、また薬液が吸い上げられるのに伴って、微細凹凸加工部分が濡れると不透明な状態から透明になるため、薬液の終点を明確に視認することができ、さらにこのような成型体はそれ自体美観を呈する形態とすることが可能であり、その表面に絵柄や図形などの意匠を施すことによって、より優れた美観を備えたものとなることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明は、吸上揮散体及び容器を備えた揮散装置であって、前記吸上揮散体の表面の少なくとも一部に微細凹凸加工が施されるとともに、前記容器内に収容された液体に前記吸上揮散体の一部が接触するように配置されたことを特徴とする揮散装置である。
【0014】
また本発明は、少なくとも表面の一部に微細凹凸加工を施したことを特徴とする吸上揮散体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液体揮散装置は、揮散体内部への薬剤の吸収保持が生じず、また表面積が大きいため、小型の装置で安定して薬液を吸上げながら、効率良く薬剤を揮散させることができ、薬剤の効果を十分に発揮させることが可能である。また吸上揮散体表面に形成された微細凹凸部分は、薬液が吸い上げられて濡れると不透明な状態から透明になるため薬液の残存を表示するインジケーターとして機能し、薬液の有無を正確に視認することができる。さらに、吸上揮散体の表面に絵柄や図形などの意匠を施した場合、薬液の吸上に伴って透明になり、意匠が鮮明に浮かび上がるなど視覚効果を与えることができ、美観にも優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明揮散装置の一実施形態(実施形態1)の斜視図。
図2】同構成する吸上揮散体の正面図。
図3】同上方平面図。
図4】同背面図。
図5】同使用状態を示す図。
図6】本発明揮散装置の一実施形態(実施形態2)の正面図。
図7】本発明揮散装置の一実施形態(実施形態3)の斜視図。
図8】本発明揮散装置の一実施形態(実施形態4)の斜視図。
図9】本発明揮散装置の一実施形態(実施形態5)の斜視図。
図10】本発明揮散装置の一実施形態(実施形態6)の斜視図。
図11】本発明吸上揮散体の一実施形態(実施形態A)の斜視図。
図12】本発明吸上揮散体の一実施形態(実施形態B)の斜視図。
図13a】本発明吸上揮散体の一実施形態(実施形態C)の斜視図。
図13b】同使用状態を示す図。
図14】製造例1で製造した吸上揮散体1の表面拡大写真。
図15】同吸上揮散体2の表面拡大写真。
図16】同吸上揮散体3の表面拡大写真。
図17】同吸上揮散体4の表面拡大写真。
図18】同吸上揮散体5の表面拡大写真。
図19】同吸上揮散体6の表面拡大写真。
図20】同吸上揮散体7の表面拡大写真。
図21】同吸上揮散体7の薬液吸上前(A)と吸上後(B)の斜めから撮影した表面拡大写真。
図22】同吸上揮散体8の表面拡大写真。
図23】同吸上揮散体9の表面拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のいくつかの実施態様を示す図面を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0018】
図1〜5に示す揮散装置は、容器2内において、吸上揮散体1を容器底面に対し略垂直に起立して設けた態様である(実施形態1)。吸上揮散体1は、樹脂で成型された長方形の板状体である。吸上揮散体1の材質としては、薬剤により変形したり、薬剤を内部に吸収保持し難い素材であればよく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂の他、ガラスや金属等を用いることもできる。また、吸上揮散体1は吸上げ機能と揮散機能を兼ね備えており、少ない部品点数で揮散装置を構成することができるため、安価で製造が容易な揮散装置を作成することができる。
【0019】
吸上揮散体1の一方の表面には微細凹凸加工が施されている(図4、1a)。この微細凹凸加工部分1aは、一定の表面粗さを備えていることが好ましく、具体的には算術平均表面粗さRaが7μm以上であることが好ましく、9μm以上がより好ましい。Raは粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値である。一方、粗さ曲線要素の平均長さRSmは220μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。RSmは、基準長さ間の粗さ曲線における1周期の距離の平均値である。Ra及びRSmをこのような範囲とすることにより、薬液の吸上能力が向上し、また揮散効率に優れたものとなる。Ra及びRSmはJIS B 0621:2001に準拠して、例えば表面粗さ計(ミツトヨ製小型表面粗さ測定機 SJ−210)を用いて測定される。
【0020】
表面粗さを構成する凹凸部の形状としては特に限定されるものではないが、例えば、格子状、六角格子状、木目状等が例示できる。これらのうち吸上能力や揮散効率に優れ、また外観も良好なものとなることから、格子状、六角格子状等が好適である(図18、20〜23)。このような微細凹凸形状は、例えば、樹脂表面にレーザーを照射するか、あるいは金型にレーザーを照射して表面に微細な凹凸形状を設け、この金型を用いて成型することによって吸上揮散体1表面に形成することができる。このようなレーザー加工の他、吸上揮散体1に直接ブラスト加工などの物理的な粗面加工を施したり、金型に電鋳、エッチングや放電加工などの粗面加工を施してもよい。この中でもレーザー加工によれば、微細で均一な格子状ないし六角格子状の凹凸形状を選択的に形成することができる。
【0021】
このような微細凹凸加工は、吸上揮散体1表面の少なくとも1部に施される。微細凹凸加工を表面全体に対しどの程度施すかは、薬液の物性や内容量、揮散速度等によって適宜設定される。本実施態様では、板状体である吸上揮散体1の一方の表面のほぼ全面に微細凹凸加工処理がされ、表面積が増大し、薬剤が全体から揮散されるため揮散効率が高い。さらに他方の表面や側面に微細凹凸加工を施すこともできる。
【0022】
容器2の底面には、1対の半円形状の曲面が立設して所定間隔で離隔して対向するように配置された支持部材2bが備えられ、この離隔した部分に吸上揮散体1を挿入して容器2の底面に対し略垂直に起立して支持固定される(図3)。容器2内には薬液3が収容され、吸上揮散体1の下方端部及び微細凹凸加工部分1aの一部が薬液3に浸漬している(図4)。吸上揮散体1表面の微細凹凸加工処理部分1aから薬液3が徐々に上方に吸い上げられるとともに、表面から薬剤が揮散されていく。薬液3に配合される揮散性薬剤は特に限定されるものではなく、例えば香料、消臭剤、防虫剤、殺虫剤等が挙げられ、これらが吸上揮散体1表面から空間中に揮散されることによってその作用効果が発揮される。一方、界面活性剤などの不揮発成分は、吸上揮散体1の表面に残存すると外観上好ましくないため、配合しないことが望ましい。なお、本発明の揮散装置に使用する液体は、揮散性薬剤を含有する薬液に限られず、吸上揮散体1表面の微細凹凸加工部分1aに対して拡張ぬれを生じるものであれば特に限定なく使用することが可能である。例えば、水もしくは水に可溶なエタノールなどの添加剤を加えた加湿剤を用いることにより、加湿器として使用することもできる。容器2には蓋体2aが着脱可能に備えられ、開口部2cの開口面積を小さくすることによって液面からの揮散が抑制される。支持部材2bは、振動を与えたときの液面の動揺を抑制して外部への液漏れを防止する作用も有する。なお、薬液などの液体はそのままの状態で吸上揮散体1と接触させて吸い上げさせても良いが、液体を別の担体、たとえば、ろ紙やスポンジなどに含浸させたり、吸水性樹脂や吸油性樹脂に吸収させてもよい。また本発明において、吸上揮散体に接触させる液体には、ペースト状やゲル状のものも包含され、適当なゲル化剤により液体をゲル化させたもの、増粘剤を用いて増粘させたものに、吸上揮散体1を接触させて液体を吸い上げ、揮散させるようにしても良い。
【0023】
吸上揮散体1は、微細凹凸加工により曇りガラスのように不透明であるが、薬液3が吸上げられて微細凹凸部分が濡れると透明になるためインジケーターとして機能する。すなわち、使用開始時は吸上揮散体1の微細凹凸加工部分1aは不透明な状態であるが、薬液3が吸上げられて当該部分が濡れるのに伴い、下方から透明な部分が徐々に拡大していき、最終的には上方端部にまで到達して微細凹凸加工部分1a全体が透明になる(図5図21参照)。一方、微細凹凸加工部分1aからは揮散性薬剤が徐々に空間中に揮散していく。容器2から薬液3が供給されている間は、微細凹凸加工部分1aは透明な状態を維持するが、薬液3が減少して薬液3が吸上揮散体1に吸い上げられなくなると微細凹凸加工部分1aにおける透明な部分は徐々に縮小していき、最終的には再び全体が不透明な状態に戻るため、薬液3の終了時点を正確かつ明瞭に認識することができる。このように吸上揮散体1をインジケーターとしても利用する場合には、微細凹凸加工部分1aの算術平均表面粗さRaの値が大きく、かつ粗さ曲線要素の平均長さRSmの値が小さいほど、微細凹凸加工部分が濡れていない状態での光学的濁度が向上するため、濡れた状態とのコントラストが明確になり、薬液の有無の視認性が向上する。具体的には、算術平均表面粗さRaが4μm以上、かつ粗さ曲線要素の平均長さRSmが200μm以下であることが好ましい。また、容器2の開口部2cから薬液3を補充すれば、再び揮散装置を使用することが可能となる。吸上揮散体1の底部には切り欠け部1eが設けられており、吸上揮散体1を挟んで容器内の空間は連通しているため、微細凹凸加工部分1aが施された面側から薬液3が吸上げられても、他方の面側から薬液3が移行し、両側で薬液3は均等に減少していく。薬液3を補充する際は、開口部2cの一方から薬液3を充填すれば、切り欠け部1eを通じて反対側にも薬液3が移行するため、補充作業を容易に行える(図2)。
【0024】
吸上揮散体1の形状は任意であり、板状体としても四角形だけでなく、三角形、円形、楕円形等の任意の形状をとり得る。また板状体の他にも、円柱、三角柱、四角柱等の柱状体や、円錐、三角錐、四角錐、六角錐等の錐状体、球状体、半球状体等任意の形状とすることができる。多面体の場合、1面だけでなく、複数の面に微細凹凸加工を施してもよく、それにより揮散効率の向上が図れる。またその一部に外部と連通する穴を設け、当該部分にも微細凹凸加工を施せば、薬剤の揮散面積が大きくなり揮散効率が向上する。
【0025】
吸上揮散体1の一方の表面のみに微細凹凸加工を施した場合、他方の表面に絵柄や図形などの任意の意匠を施すことができる。本実施態様では、他方の表面に、3辺を囲み、周囲よりも一段高く盛り上がった凸部1cを設けたうえで、凸部1cの内側に意匠1bが施されている(図2)。揮散装置使用前は不透明であるため意匠1bがはっきりと視認できないが、使用時に薬液が吸上げられ、微細凹凸加工部分1aが濡れて透明になるに伴い、反対の面に施された意匠1bが徐々に鮮明に現れてくるため、動的な視覚効果を与えることができる(図5)。
【0026】
また同一面においても、その一部に絵柄や図形などの意匠を施し、意匠を施した部分又はそれ以外の部分のいずれかにのみ微細凹凸加工処理を行うと、当該部分が濡れた状態と濡れていない状態とにおいて、全体のトーンが変化して異なる印象を与えることができる。
【0027】
このように本発明の揮散装置は、吸上揮散体の表面に形成された微細凹凸構造により、薬液を吸上げながら、薬剤を揮散させるものであり、表面積が大きく、かつ揮散性薬剤が内部に吸収保持されることがないため、小型化した装置でも効率良く薬剤が揮散してその効力を有効に発現させることができる。
また微細凹凸加工部分は、薬液で濡れることによって透明性が変化するため、インジケーターとして機能するとともに、絵柄や図形などの意匠を施すことによって、動的な視覚効果を付与することが可能である。
【0028】
図6は、本発明揮散装置の別の実施態様を示す図であり(実施形態2)、吸上揮散体1の同一面上において、絵柄の部分には凹凸加工を施さず、それ以外の部分にのみ微細凹凸加工を施したものである。微細凹凸加工部分に薬液が吸上げられるのに伴って、当該部分が徐々に透明になっていき、全体のトーンが少しずつ変化する視覚効果を与える。
【0029】
図7は、本発明揮散装置の別の実施態様を示す図である(実施形態3)。吸上揮散体1の一方の表面に、吸上揮散体1の3辺を囲み、周囲よりも一段高く盛り上がった凸部1cを設けたうえで、凸部1cの内側にのみ微細凹凸加工を施したものである。微細凹凸加工部分に薬液が吸上げられた状態でも、凸部1cが堰の役割を果たし、凸部1cの外側にある微細凹凸未加工部分1dには薬液が漏れることがない。また、吸上揮散体1を容器2から着脱する際などに微細凹凸未加工部分1dを手で持つようにすれば、手に薬剤が付着することなく吸上揮散体1に触れることができる。
【0030】
図8〜10は、本発明揮散装置の別の実施態様を示す図である。図8は吸上揮散体1が四角錐体の形態である(実施形態4)。底面を除く4面のうち、1又は複数の面に微細凹凸加工を施すことにより薬剤の揮散量を調節することが可能である。
【0031】
図9は、吸上揮散体1が円柱状体の形態である(実施形態5)。上面と底面に連通する穴を設けて、当該部分にも微細表面加工を施すことにより、揮散面の面積が増大し揮散効率の向上を図ることができる。さらに、連通する穴の表面に絵柄を施したり、穴の内側に物品を配置することもできる。この場合、使用開始時には微細凹凸加工部分が不透明な状態であり、絵柄や物品が視認できないが、微細凹凸加工部分に薬液が吸い上がり透明な状態になるに従って、絵柄や物品が姿を現す視覚効果を付与することが可能である。
【0032】
図10は、球状体の吸上揮散体1を複数個重ねて配置したものである(実施形態6)。吸上揮散体1同士が接触している部分を介して薬液が吸い上げられる。
【0033】
本発明の吸上揮散体は、上記本発明の揮散装置を構成する吸上揮散体と同一のものであるが、その吸上作用のみ、または揮散作用のみを利用するなど、別の態様で使用することができる。吸上揮散体を構成する材質、表面粗さの好適な範囲、微細凹凸加工の加工方法や凹凸形状などは上記と同様である。
【0034】
図11は本発明の吸上揮散体の一実施形態(実施形態A)であり、吸上揮散体1自体で薬液を収容する容器を形成している。その内壁面に微細凹凸加工が施されているため、中に薬液を入れると内壁に沿って薬液が吸上げられるとともに薬剤が揮散される。
【0035】
図12は、吸上揮散体1を容器2内に収容してその吸上機能のみを利用した形態である(実施形態B)。吸上揮散体1の表面に微細凹凸加工が施されているため、容器2内の薬液3が上方に吸い上げられる。薬液3が上方に吸い上げられると吸上揮散体1は透明な状態になるため、容器2が透明である場合にも外部から吸上揮散体1が視認できず、美観に影響を与えない揮散装置を作成することができる。そして、吸上揮散体1の上端に別途公知の揮散体を接合すれば、吸上げられた薬液が揮散体に導かれ空間に揮散される。
【0036】
図13は、板状体である吸上揮散体1の片面全体に微細凹凸加工を施し、他方の面に絵柄を形成した形態であり、これを台座4で支持したものである(実施形態C)。この態様では、吸上揮散体1を薬液に浸漬させておらず、スプレーなどで吸上揮散体1表面に薬液を直接噴霧するものである。使用前は全体が不透明であるが(図13a)、薬液で濡れた部分は透明となって、反対の表面に形成された絵柄が鮮明に現れて視覚効果を与える(図13b)。
【0037】
製造例1
吸上揮散体の製造:
粗面加工により凹凸を形成した金型を用いて、片面に微細凹凸加工が施されたPET製吸上揮散体1〜9を成型した。1〜2はエッチング加工、3〜4は放電加工、5〜9はレーザー加工により微細凹凸を形成した。吸上揮散体1〜7については60mm×100mm、8、9については75×80mmの板状体とした。各吸上揮散体の表面拡大写真を図14〜23に示す。
【0038】
実施例1
製造例1で作製した吸上揮散体4〜9について、ミツトヨ製小型表面粗さ測定機 SJ−210を用いて算術平均表面粗さRaおよび粗さ曲線要素の平均長Rsmを測定した。RaおよびRsmは、吸上揮散体表面の微細凹凸加工を施した部分の任意の9点を測定しその平均値として求めた。なお吸上揮散体6は凹凸形状が木目状であり方向依存性があることから、9点の測定箇所において、木目方向に沿った方向及びこれと直交する方向で測定し、その平均値とした。
また吸上揮散体4〜9を用いて上記実施形態1の揮散装置を作製した。容器に液体香料(粘度14.1mPa・s、表面張力31.1mN/m)約4gを充填し、吸上揮散体の下端が香料に浸るようにして垂直に起立させた。一定時間毎に、吸上揮散体の下端から香料が吸上げられて透明になった部分までの高さを測定し、当初の液面高さとの差を求めた。また併せて容器内の香料の重量を測定し、当初からの減少分を揮散量として求めた。吸上揮散体4〜7については、対照として微細凹凸加工未処理の同形状のPET成型体を用い、同様にして吸上高さ及び揮散量を測定した。その結果を表1に示す。また吸上揮散体8〜9の結果を表2に示す。参考として吸上揮散体を使用しなかった場合の揮散量を測定した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
この結果から明らかなように、本発明品の吸上揮散体は薬液を吸上げるとともに効率よく薬液を揮散させる効果を示した。
【0042】
実施例2
上記実施例1で用いた液体香料3質量%、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(株式会社クラレ製:商品名「ソルフィット」)6質量%および水88質量%の芳香液に、ゲル化剤としてカラギーナン3質量%を分散させた。これを約60℃に加熱分散後、上面開放のカップ型容器に100gを充填し、冷却固化してゲル状の芳香剤を製造した。このゲル状芳香剤に上記製造例1の吸上揮散体8の下端を挿入し、揮散装置を得た。この揮散装置は、ゲルとの接触面より芳香液を吸い上げ、約1か月間空間に芳香を付与することができた。
【0043】
実施例3
純水に対し10質量%のエタノールを添加して空間加湿剤を作成した。この空間加湿剤を上記製造例1の吸上揮散体9を用いた上記実施形態1の揮散装置に充填し、加湿器を得た。この加湿器を使用したところ、吸上揮散体の下端から空間加湿剤が吸い上げられ、空間の湿度の上昇が観測された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の吸上揮散体及びこれを利用した揮散装置は、吸上揮散体の表面に形成された微細凹凸構造により、薬液を吸上げながら、薬剤を揮散させるものであり、揮散体内部への薬剤の吸収保持が生じず、また表面積が大きいため、小型の装置で安定して薬液が吸上げられるとともに、効率良く薬剤が揮散してその薬効を効果的に発現させることができる。
【0045】
また微細凹凸加工部分は、薬液で濡れることによって透明性が変化するため、インジケーターとして機能するとともに、絵柄や図形などの意匠を施すことによって、動的な視覚効果を付与することが可能であり、美観にも優れる。さらに少ない部品点数で揮散装置を構成することができるため、安価で製造も容易である。
【0046】
従って、本発明の吸上揮散体及び揮散装置は、芳香剤、消臭剤、防虫剤、殺虫剤、加湿剤などの種々の揮散性薬剤を空間に揮散させるための装置として極めて有利に利用することができるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 … … 吸上揮散体
1a … … 微細凹凸加工部分
1b … … 意匠
1c … … 凸部
1d … … 微細凹凸未加工部分
1e … … 切り欠け部
2 … … 容器
2a … … 蓋体
2b … … 支持部材
2c … … 開口部
3 … … 薬液
4 … … 台座
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