【実施例】
【0024】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0025】
図において、符号1は、自動車で例示される車両における走行用駆動装置である。
【0026】
上記駆動装置1は、エンジン側2と、このエンジン側2から出力される駆動力を入力して不図示の車輪側に変速可能に伝達するトランスミッション側3とを備え、これら2,3は、不図示の弾性的なエンジンマウントを介し、それぞれ車体に着脱可能に支持される。
【0027】
具体的には、上記エンジン側2は、内燃機関であるエンジン6と、このエンジン6のクランクケース7に支持される不図示のクランク軸と、このクランク軸の軸端部側に順次支持されるフライホイール8およびクラッチ9とを有している。このクラッチ9の従動側部材の軸心10上の部分が駆動力の出力部11とされ、この出力部11の上記軸心10上に内スプラインである出力スプライン12が形成される。
【0028】
一方、前記トランスミッション側3は、その外殻を構成するミッションケース16と、このミッションケース16内で互いに並設されると共にそれぞれこのミッションケース16に支持される複数の不図示の動力伝達軸と、これら各軸に支持されると共に互いに噛合可能とされる不図示の歯車組とを有している。上記各軸のうち、一つの軸の軸心17上の端部が上記エンジン側2からの駆動力の入力部18とされ、この入力部18の軸心17上に外スプラインである入力スプライン19が形成される。この入力スプライン19と前記出力スプライン12とは同形同大とされ、これら12,19の軸心10,17上で互いにスプライン嵌合可能とされる。なお、上記出、入力スプライン12,19の内、外スプラインの形状は逆であってもよい。
【0029】
そして、上記エンジン側2とトランスミッション側3とが互いに組み付けられて上記駆動装置1が組み立てられた状態では、上記クランクケース7の上記出力部11側の開口縁部21と、上記ミッションケース16の上記入力部18側に形成された外向きフランジである開口縁部22とは、これら各開口縁部21,22に沿う方向で複数設けられる締結具23により互いに接合され、かつ、上記出、入力スプライン12,19が、これら12,19の軸心10,17上で互いにスプライン嵌合させられる。
【0030】
上記各締結具23は、それぞれ上記クランクケース7の開口縁部21に形成されたねじ孔26と、上記ミッションケース16の開口縁部22に形成されたボルト挿通孔27と、このボルト挿通孔27に挿通されてその雄ねじ部が上記ねじ孔26に螺合されるボルト28とを有している。
【0031】
ここで、上記駆動装置1を組み立てる場合には、上記した複数のねじ孔26のうちの少なくとも一つねじ孔26にノックピン31が着脱可能に取り付けられる。このノックピン31は、その一端部側が上記ねじ孔26に螺合される雄ねじ部32とされ、他端部側が上記ボルト28とほぼ同じ径寸法のノックピン本体33とされる。
【0032】
上記ノックピン本体33の突出端部には六角穴であるホロセット34が形成される。このホロセット34には不図示のホローレンチが係合可能とされ、このレンチの回動操作により、上記一つのねじ孔26にノックピン31が着脱可能とされる。
【0033】
また、駆動装置1を組み立てる場合には、まず、上記エンジン側2を、例えば車体に支持させたままにして、その出力部11の軸心10周りで一定姿勢に保持すると共に、上記トランスミッション側3を、例えばチェーンブロックで吊り上げて、その入力部18の軸心17周りで一定姿勢に保持し、この状態で、上記各軸心10,17を互いに同軸上に位置させる。そして、次に、上記同軸の軸心10,17上で上記出、入力スプライン12,19を互いに接近させるが、この際、上記一つのねじ孔26に取り付けられたノックピン31のノックピン本体33が上記一つのねじ孔26に対応する上記ボルト挿通孔27と密に嵌合可能とされると共に、上記出、入力スプライン12,19が互いに嵌合可能とされる。
【0034】
上記出、入力スプライン12,19を互いに嵌合させる際、この嵌合が円滑にできるようにするための駆動装置1の組み立て用治具37が設けられる。
【0035】
上記治具37は嵌合軸38を有し、この嵌合軸38の一端部に第1嵌合スプライン39が形成され、他端部に第2嵌合スプライン40が形成される。これら第1、第2嵌合スプライン39,40は、互いに同形同大とされ、上記出、入力スプライン12,19のいずれにも嵌合可能とされる。上記嵌合軸38の軸方向に沿った視線で見て(
図2)、上記第1嵌合スプライン39の歯39aと第2嵌合スプライン40の歯溝40aとは互いに合致することとされる。
【0036】
また、上記治具37は、上記嵌合軸38の軸方向の中途部から外方に向かって突出する突出体43を有している。この突出体43は、上記嵌合軸38の中途部からその径方向の外方に向かって突出する突出体基部44と、この突出体基部44の突出端から上記嵌合軸38の軸方向に向かって一体的に延出する延出部45とを有している。上記嵌合軸38の径方向外方における上記延出部45の外端面は、上記嵌合軸38の径方向外方に向かってのテーパ形状とされ、上記延出部45の外端面に先鋭部46が形成される。
【0037】
次に、上記ノックピン31と治具37とを用いての駆動装置1の組立方法につき説明する。
【0038】
まず、
図2中実線で示すように、上記出力スプライン12に上記治具37の嵌合軸38の第1嵌合スプライン39を嵌合させ、この嵌合状態で、上記嵌合軸38と共に上記突出体43を上記出力スプライン12の軸心10周りの所定位置(
図2中二点鎖線)まで回動Aさせる。この所定位置は、前記した一つのねじ孔26に取り付けられたノックピン31に対し、上記突出体43の先鋭部46が指向する位置である。つまり、上記嵌合軸38を所定位置にする場合に、上記突出体43は指針として働き、上記ノックピン31は目盛として働く。なお、この目盛は別途設けてもよい。
【0039】
そして、次に、上記嵌合軸38および突出体43を上記所定位置に保持したまま、上記嵌合軸38を上記出力スプライン12から離れるよう移動させて、この出力スプライン12から上記嵌合軸38の第1嵌合スプライン39を離脱させる。
【0040】
次に、
図2中三点鎖線で示すように、上記入力スプライン19に上記治具37の嵌合軸38の第2嵌合スプライン40を嵌合させ、この嵌合状態で、上記嵌合軸38と共に上記突出体43を上記入力スプライン19の軸心17周りの他の所定位置(
図2中二点鎖線)まで回動Bさせる。この他の所定位置は、前記した一つのねじ孔26に対応するボルト挿通孔27に対し、上記突出体43の先鋭部46が指向する位置である。つまり、上記嵌合軸38を上記他の所定位置にする場合に、上記突出体43は指針として働き、上記ノックピン31は目盛として働く。なお、この目盛は別途設けてもよい。
【0041】
ここで、上記他の所定位置と前記所定位置は互いに同じ位置となっている。このため、前記した嵌合軸38の第1嵌合スプライン39の所定位置までの回動Aに連動した上記出力スプライン12の上記軸心10周りでの歯溝の位置と、嵌合軸38の第2嵌合スプライン40の他の所定位置までの回動Bに連動した上記入力スプライン19の上記軸心17周りの歯の位置とは互いに合致することとなる。この場合、上記各所定位置は、それぞれ個別に設定してもよい。
【0042】
そして、次に、上記嵌合軸38および突出体43を上記他の所定位置に保持したまま、上記嵌合軸38を上記入力スプライン19から離れるよう移動させて、この入力スプライン19から上記嵌合軸38の第2嵌合スプライン40を離脱させる。
【0043】
次に、上記状態のままのエンジン側2とトランスミッション側3とを、互いに同軸上に位置させた上記軸心10,17上で互いに接近させる。すると、まず、上記ノックピン31とボルト挿通孔27とが嵌合して、上記クランクケース7の開口縁部21とミッションケース16の開口縁部22との相対位置が、より精度よく定められる。また、上記出力スプライン12の歯溝と入力スプライン19の歯とが上記軸心10,17周りで精度よく合致して、これら出、入力スプライン12,19の嵌合が円滑に達成され、よって、その分、駆動装置1の組み立て作業が容易にできることとなる。
【0044】
また、上記したエンジン側2とトランスミッション側3とを互いに更に接近させれば、上記クランクケース7の開口縁部21とミッションケース16の開口縁部22とが互いに当接し、この際、上記出、入力スプライン12,19同士の嵌合が完了して、上記エンジン側2とトランスミッション側3との互いに組み付け作業が完了する。そこで、上記両開口縁部21,22を各締結具23により締結する。また、この際、上記一つのねじ孔26からノックピン31を取り外し、上記一つのねじ孔26に対し、上記ボルト挿通孔27に挿通させたボルト28を螺合させれば、上記両開口縁部21,22の接合が完了し、駆動装置1の組み立てが終る。
【0045】
そして、上記したエンジン側2とトランスミッション側3との組み付け作業では、上記治具37の突出体43は、嵌合軸38を回動A,Bさせる際の取っ手として利用でき、また、突出体43の先鋭部46は、上記嵌合軸38を上記した所定位置や他の所定位置にまで回動A,Bさせて位置決めする際の指針としても利用できる。よって、その分、上記駆動装置1の組み立て作業が、より容易にできる。
【0046】
なお、上記治具37は金属製でも樹脂製でもよい。また、上記駆動装置1の組立方法において、上記出力スプライン12に第1嵌合スプライン39を嵌合させて治具37を回動Aさせることと、上記入力スプライン19に第2嵌合スプライン40を嵌合させて治具37を回動Bさせることとの順序は逆であってもよい。