特許第6227987号(P6227987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

特許6227987車両における走行用駆動装置の組み立て用治具、およびこの治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法
<>
  • 特許6227987-車両における走行用駆動装置の組み立て用治具、およびこの治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法 図000002
  • 特許6227987-車両における走行用駆動装置の組み立て用治具、およびこの治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227987
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】車両における走行用駆動装置の組み立て用治具、およびこの治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/06 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   B60K17/06 L
   B60K17/06 Z
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-248280(P2013-248280)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-105022(P2015-105022A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077780
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 泰甫
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 健吾
(72)【発明者】
【氏名】原 卓嗣
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−218952(JP,A)
【文献】 特開平07−279984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側をその出力部の軸心周りで一定姿勢に保持すると共に、トランスミッション
側をその入力部の軸心周りで一定姿勢に保持し、この状態で、上記出力部に形成される出
力スプラインと上記入力部に形成される入力スプラインとを互いに嵌合させることにより
、上記エンジン側とトランスミッション側とを互いに組み付ける際に用いられる車両にお
ける走行用駆動装置の組み立て用治具であって、
軸方向の一端部に上記出、入力スプラインのうち、いずれか一方のスプラインと嵌合可
能とされる第1嵌合スプラインが形成される一方、他端部に他方のスプラインと嵌合可能
とされる第2嵌合スプラインが形成された嵌合軸と、この嵌合軸の軸方向の中途部から外
方に突出する突出体とを有し、上記嵌合軸の軸方向に沿った視線で見て、上記第1嵌合ス
プラインの歯と第2嵌合スプラインの歯溝とを合致させたことを特徴とする車両における
走行用駆動装置の組み立て用治具。
【請求項2】
請求項1に記載の治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法であって、
まず、上記一方のスプラインに上記第1嵌合スプラインを嵌合させ、この嵌合状態で、
上記嵌合軸と共に上記突出体を上記一方のスプラインの軸心周りの所定位置まで回動させ
、次に、上記嵌合軸および突出体を上記所定位置に保持したまま上記一方のスプラインか
ら上記第1嵌合スプラインを離脱させ、
次に、上記他方のスプラインに上記第2嵌合スプラインを嵌合させ、この嵌合状態で、
上記嵌合軸と共に上記突出体を上記他方のスプラインの軸心周りの他の所定位置まで回動
させることにより、上記出力スプラインのその軸心周りでの歯溝の位置と、上記入力スプ
ラインのその軸心周りでの歯の位置とを互いに合致させ、次に、上記嵌合軸および突出体
を上記他の所定位置に保持したまま上記他方のスプラインから上記第2嵌合スプラインを
離脱させ、
次に、上記状態のままで、互いに同軸上に位置させた上記出、入力スプラインを、その
軸心上で互いに接近させて互いに嵌合させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載
治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン側の駆動力の出力部に形成される出力スプラインと、上記駆動力を入力するトランスミッション側の入力部に形成される入力スプラインとを互いに嵌合させることにより、上記エンジン側とトランスミッション側とを互いに組み付ける際に用いられる車両における走行用駆動装置の組み立て用治具、およびこの治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両における走行用駆動装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、駆動装置は、エンジン側と、このエンジン側から出力される駆動力を入力して車輪側に変速可能に伝達するトランスミッション側とを備え、これらはそれぞれ車体に着脱可能に支持される。
【0003】
具体的には、上記エンジン側は、内燃機関であるエンジンと、このエンジンのクランク軸の端部側に順次支持されるフライホイールおよびクラッチとを有している。このクラッチの従動側部材の軸心上の部分が駆動力の出力部とされ、この出力部に出力スプライン(内スプライン)が形成される。
【0004】
一方、前記トランスミッション側は、互いに並設される複数の動力伝達軸と、これら各軸に支持されると共に互いに噛合可能とされる歯車組とを有している。上記各軸のうち、一つの軸の端部が上記エンジン側からの駆動力の入力部とされ、この入力部に入力スプライン(外スプライン)が形成される。
【0005】
そして、上記エンジン側とトランスミッション側とが互いに組み付けられて上記駆動装置が組み立てられた状態では、上記出、入力スプラインは、これらの軸心上で互いにスプライン嵌合させられた状態とされる。
【0006】
ここで、上記駆動装置における特にトランスミッション側について保守、点検作業をする場合には、通常、車体にエンジン側を支持させたまま、上記トランスミッション側を、チェーンブロックなどで吊り上げると共に上記エンジン側から取り外して上記保守等の作業を行う。そして、その後は、上記とは逆の手順により、エンジン側にトランスミッション側を組み付ける作業を行い、これにより上記駆動装置の組み立てを行うこととされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−222133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記したように、エンジン側にトランスミッション側を組み付けるときには、上記出、入力スプラインを、これらの軸心上で互いに嵌合させるが、この場合、これら出、入力スプラインのうちの一方のスプラインの歯と他方のスプラインの歯溝との上記軸心周りでの各位置は必ずしも合致しない。そして、この場合には、上記出、入力スプラインをその軸心上で互いに接近させただけでは、これらの互いの嵌合はし難いため、少なくともいずれかのスプラインをその軸心回りにわずかながらでも回動させて、上記した一方のスプラインの歯と他方のスプラインの歯溝との上記軸心周りでの各位置を互いに合致させることが要求される。
【0009】
しかし、上記したようにスプラインをその軸心回りに回動させるとき、このスプラインには上記クラッチの従動側や歯車組などの重量物が連動したり、これに伴い潤滑油が撹拌されたりするため、上記したスプラインの回動作業は重くなりがちである。よって、その分、上記組み付け作業が煩雑となり、つまり、上記駆動装置の組み立て作業が煩雑になるおそれが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、エンジン側の駆動力の出力部に形成される出力スプラインと、上記駆動力を入力するトランスミッション側の入力部に形成される入力スプラインとを互いに嵌合させることにより、上記エンジン側とトランスミッション側とを互いに組み付け、もって、車両における走行用駆動装置の組み立てをする場合に、この組み立て作業が容易にできるようにすることである。
【0011】
請求項1の発明は、エンジン側2をその出力部11の軸心10周りで一定姿勢に保持すると共に、トランスミッション側3をその入力部18の軸心17周りで一定姿勢に保持し、この状態で、上記出力部11に形成される出力スプライン12と上記入力部18に形成される入力スプライン19とを互いに嵌合させることにより、上記エンジン側2とトランスミッション側3とを互いに組み付ける際に用いられる車両における走行用駆動装置の組み立て用治具であって、
軸方向の一端部に上記出、入力スプライン12,19のうち、いずれか一方のスプラインと嵌合可能とされる第1嵌合スプライン39が形成される一方、他端部に他方のスプラインと嵌合可能とされる第2嵌合スプライン40が形成された嵌合軸38と、この嵌合軸38の軸方向の中途部から外方に突出する突出体43とを有し、上記嵌合軸38の軸方向に沿った視線で見て(図2)、上記第1嵌合スプライン39の歯39aと第2嵌合スプライン40の歯溝40aとを合致させたことを特徴とする車両における走行用駆動装置の組み立て用治具である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法であって、
まず、上記一方のスプラインに上記第1嵌合スプラインを嵌合させ、この嵌合状態で、
上記嵌合軸と共に上記突出体を上記一方のスプラインの軸心周りの所定位置まで回動させ
、次に、上記嵌合軸および突出体を上記所定位置に保持したまま上記一方のスプラインか
ら上記第1嵌合スプラインを離脱させ、
次に、上記他方のスプラインに上記第2嵌合スプラインを嵌合させ、この嵌合状態で、
上記嵌合軸と共に上記突出体を上記他方のスプラインの軸心周りの他の所定位置まで回動
させることにより、上記出力スプラインのその軸心周りでの歯溝の位置と、上記入力スプ
ラインのその軸心周りでの歯の位置とを互いに合致させ、次に、上記嵌合軸および突出体
を上記他の所定位置に保持したまま上記他方のスプラインから上記第2嵌合スプラインを
離脱させ、
次に、上記状態のままで、互いに同軸上に位置させた上記出、入力スプラインを、その
軸心上で互いに接近させて互いに嵌合させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載
治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法である。
【0013】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明による効果は、次の如くである。
【0015】
請求項1の発明は、エンジン側をその出力部の軸心周りで一定姿勢に保持すると共に、トランスミッション側をその入力部の軸心周りで一定姿勢に保持し、この状態で、上記出力部に形成される出力スプラインと上記入力部に形成される入力スプラインとを互いに嵌合させることにより、上記エンジン側とトランスミッション側とを互いに組み付ける際に用いられる車両における走行用駆動装置の組み立て用治具であって、
軸方向の一端部に上記出、入力スプラインのうち、いずれか一方のスプラインと嵌合可能とされる第1嵌合スプラインが形成される一方、他端部に他方のスプラインと嵌合可能とされる第2嵌合スプラインが形成された嵌合軸と、この嵌合軸の軸方向の中途部から外方に突出する突出体とを有し、上記嵌合軸の軸方向に沿った視線で見て、上記第1嵌合スプラインの歯と第2嵌合スプラインの歯溝とを合致させている。
【0016】
このため、仮に、上記治具の嵌合軸をその軸心回りに任意の回動量だけ回動させることにより、上記出力スプラインと上記嵌合軸の第1嵌合スプラインとを嵌合させると共に、上記入力スプラインと上記嵌合軸の第2嵌合スプラインとを嵌合させたとすると、上記した嵌合軸の軸方向に沿った視線で見て、上記第1嵌合スプラインの歯と第2嵌合スプラインの歯溝とが合致するという本発明に従い、上記視線で見れば、上記第1嵌合スプラインが嵌合する出力スプラインの歯溝と、上記第2嵌合スプラインが嵌合する入力スプラインの歯とが合致することとなる。
【0017】
よって、上記駆動装置の組み立て作業において、上記エンジン側とトランスミッション側とを互いに組み付ける際に、例えば、予め、上記したように治具を用いることによって、同軸上に位置させた上記出力スプラインの歯溝と入力スプラインの歯とを合致させ、かつ、この状態から上記出、入力スプラインを、その軸心上で一旦離反させて上記治具を取り外し、その後、上記出、入力スプラインを、その軸心上で互いに接近させてやれば、これら出、入力スプラインは互いに円滑に嵌合させることができる。しかも、上記した出力スプラインと第1嵌合スプラインとの嵌合や、入力スプラインと第2嵌合スプラインとの嵌合をさせるための上記嵌合軸の回動作業には、上記突出体を取っ手として利用できることから、その分、上記各嵌合のための作業はそれぞれ容易にできる。この結果、上記駆動装置の組み立て作業が、より容易にできる。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1に記載の治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法であって、
まず、上記一方のスプラインに上記第1嵌合スプラインを嵌合させ、この嵌合状態で、上記嵌合軸と共に上記突出体を上記一方のスプラインの軸心周りの所定位置まで回動させ、次に、上記嵌合軸および突出体を上記所定位置に保持したまま上記一方のスプラインから上記第1嵌合スプラインを離脱させ、
次に、上記他方のスプラインに上記第2嵌合スプラインを嵌合させ、この嵌合状態で、上記嵌合軸と共に上記突出体を上記他方のスプラインの軸心周りの他の所定位置まで回動させることにより、上記出力スプラインのその軸心周りでの歯溝の位置と、上記入力スプラインのその軸心周りでの歯の位置とを互いに合致させ、次に、上記嵌合軸および突出体を上記他の所定位置に保持したまま上記他方のスプラインから上記第2嵌合スプラインを離脱させ、
次に、上記状態のままで、互いに同軸上に位置させた上記出、入力スプラインを、その軸心上で互いに接近させて互いに嵌合させるようにしている。
【0019】
このため、上記治具を利用しての上記エンジン側とトランスミッション側との互いの組み付け作業によれば、上記治具に比べて質量がかなり大きいエンジン側とトランスミッション側との移動量をできるだけ少なく抑制してこれらの互いの組み付けをすることができる。しかも、この組み付け作業において、上記したように嵌合軸と共に突出体を所定位置まで回動させたり他の所定位置まで回動させたりする場合に、上記突出体は、上記所定位置や他の所定位置に対し上記嵌合軸を位置決めさせるための指針として利用できる。よって、その分、上記駆動装置の組み立て作業が更に容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車両における駆動装置の展開斜視図である。
図2図1のII-II線矢視部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の車両における走行用駆動装置の組み立て用治具、およびこの治具を用いた車両における走行用駆動装置の組立方法に関し、車両における走行用駆動装置の組み立て作業が容易にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0022】
即ち、車両における走行用駆動装置の組み立て用治具は、エンジン側をその出力部の軸心周りで一定姿勢に保持すると共に、トランスミッション側をその入力部の軸心周りで一定姿勢に保持し、この状態で、上記出力部に形成される出力スプラインと上記入力部に形成される入力スプラインとを互いに嵌合させることにより、上記エンジン側とトランスミッション側とを互いに組み付ける際に用いられるものである。
【0023】
上記治具は、軸方向の一端部に上記出、入力スプラインのうち、いずれか一方のスプラインと嵌合可能とされる第1嵌合スプラインが形成される一方、他端部に他方のスプラインと嵌合可能とされる第2嵌合スプラインが形成された嵌合軸と、この嵌合軸の軸方向の中途部から外方に突出する突出体とを有する。上記嵌合軸の軸方向に沿った視線で見て、上記第1嵌合スプラインの歯と第2嵌合スプラインの歯溝とが合致させられている。
【実施例】
【0024】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0025】
図において、符号1は、自動車で例示される車両における走行用駆動装置である。
【0026】
上記駆動装置1は、エンジン側2と、このエンジン側2から出力される駆動力を入力して不図示の車輪側に変速可能に伝達するトランスミッション側3とを備え、これら2,3は、不図示の弾性的なエンジンマウントを介し、それぞれ車体に着脱可能に支持される。
【0027】
具体的には、上記エンジン側2は、内燃機関であるエンジン6と、このエンジン6のクランクケース7に支持される不図示のクランク軸と、このクランク軸の軸端部側に順次支持されるフライホイール8およびクラッチ9とを有している。このクラッチ9の従動側部材の軸心10上の部分が駆動力の出力部11とされ、この出力部11の上記軸心10上に内スプラインである出力スプライン12が形成される。
【0028】
一方、前記トランスミッション側3は、その外殻を構成するミッションケース16と、このミッションケース16内で互いに並設されると共にそれぞれこのミッションケース16に支持される複数の不図示の動力伝達軸と、これら各軸に支持されると共に互いに噛合可能とされる不図示の歯車組とを有している。上記各軸のうち、一つの軸の軸心17上の端部が上記エンジン側2からの駆動力の入力部18とされ、この入力部18の軸心17上に外スプラインである入力スプライン19が形成される。この入力スプライン19と前記出力スプライン12とは同形同大とされ、これら12,19の軸心10,17上で互いにスプライン嵌合可能とされる。なお、上記出、入力スプライン12,19の内、外スプラインの形状は逆であってもよい。
【0029】
そして、上記エンジン側2とトランスミッション側3とが互いに組み付けられて上記駆動装置1が組み立てられた状態では、上記クランクケース7の上記出力部11側の開口縁部21と、上記ミッションケース16の上記入力部18側に形成された外向きフランジである開口縁部22とは、これら各開口縁部21,22に沿う方向で複数設けられる締結具23により互いに接合され、かつ、上記出、入力スプライン12,19が、これら12,19の軸心10,17上で互いにスプライン嵌合させられる。
【0030】
上記各締結具23は、それぞれ上記クランクケース7の開口縁部21に形成されたねじ孔26と、上記ミッションケース16の開口縁部22に形成されたボルト挿通孔27と、このボルト挿通孔27に挿通されてその雄ねじ部が上記ねじ孔26に螺合されるボルト28とを有している。
【0031】
ここで、上記駆動装置1を組み立てる場合には、上記した複数のねじ孔26のうちの少なくとも一つねじ孔26にノックピン31が着脱可能に取り付けられる。このノックピン31は、その一端部側が上記ねじ孔26に螺合される雄ねじ部32とされ、他端部側が上記ボルト28とほぼ同じ径寸法のノックピン本体33とされる。
【0032】
上記ノックピン本体33の突出端部には六角穴であるホロセット34が形成される。このホロセット34には不図示のホローレンチが係合可能とされ、このレンチの回動操作により、上記一つのねじ孔26にノックピン31が着脱可能とされる。
【0033】
また、駆動装置1を組み立てる場合には、まず、上記エンジン側2を、例えば車体に支持させたままにして、その出力部11の軸心10周りで一定姿勢に保持すると共に、上記トランスミッション側3を、例えばチェーンブロックで吊り上げて、その入力部18の軸心17周りで一定姿勢に保持し、この状態で、上記各軸心10,17を互いに同軸上に位置させる。そして、次に、上記同軸の軸心10,17上で上記出、入力スプライン12,19を互いに接近させるが、この際、上記一つのねじ孔26に取り付けられたノックピン31のノックピン本体33が上記一つのねじ孔26に対応する上記ボルト挿通孔27と密に嵌合可能とされると共に、上記出、入力スプライン12,19が互いに嵌合可能とされる。
【0034】
上記出、入力スプライン12,19を互いに嵌合させる際、この嵌合が円滑にできるようにするための駆動装置1の組み立て用治具37が設けられる。
【0035】
上記治具37は嵌合軸38を有し、この嵌合軸38の一端部に第1嵌合スプライン39が形成され、他端部に第2嵌合スプライン40が形成される。これら第1、第2嵌合スプライン39,40は、互いに同形同大とされ、上記出、入力スプライン12,19のいずれにも嵌合可能とされる。上記嵌合軸38の軸方向に沿った視線で見て(図2)、上記第1嵌合スプライン39の歯39aと第2嵌合スプライン40の歯溝40aとは互いに合致することとされる。
【0036】
また、上記治具37は、上記嵌合軸38の軸方向の中途部から外方に向かって突出する突出体43を有している。この突出体43は、上記嵌合軸38の中途部からその径方向の外方に向かって突出する突出体基部44と、この突出体基部44の突出端から上記嵌合軸38の軸方向に向かって一体的に延出する延出部45とを有している。上記嵌合軸38の径方向外方における上記延出部45の外端面は、上記嵌合軸38の径方向外方に向かってのテーパ形状とされ、上記延出部45の外端面に先鋭部46が形成される。
【0037】
次に、上記ノックピン31と治具37とを用いての駆動装置1の組立方法につき説明する。
【0038】
まず、図2中実線で示すように、上記出力スプライン12に上記治具37の嵌合軸38の第1嵌合スプライン39を嵌合させ、この嵌合状態で、上記嵌合軸38と共に上記突出体43を上記出力スプライン12の軸心10周りの所定位置(図2中二点鎖線)まで回動Aさせる。この所定位置は、前記した一つのねじ孔26に取り付けられたノックピン31に対し、上記突出体43の先鋭部46が指向する位置である。つまり、上記嵌合軸38を所定位置にする場合に、上記突出体43は指針として働き、上記ノックピン31は目盛として働く。なお、この目盛は別途設けてもよい。
【0039】
そして、次に、上記嵌合軸38および突出体43を上記所定位置に保持したまま、上記嵌合軸38を上記出力スプライン12から離れるよう移動させて、この出力スプライン12から上記嵌合軸38の第1嵌合スプライン39を離脱させる。
【0040】
次に、図2中三点鎖線で示すように、上記入力スプライン19に上記治具37の嵌合軸38の第2嵌合スプライン40を嵌合させ、この嵌合状態で、上記嵌合軸38と共に上記突出体43を上記入力スプライン19の軸心17周りの他の所定位置(図2中二点鎖線)まで回動Bさせる。この他の所定位置は、前記した一つのねじ孔26に対応するボルト挿通孔27に対し、上記突出体43の先鋭部46が指向する位置である。つまり、上記嵌合軸38を上記他の所定位置にする場合に、上記突出体43は指針として働き、上記ノックピン31は目盛として働く。なお、この目盛は別途設けてもよい。
【0041】
ここで、上記他の所定位置と前記所定位置は互いに同じ位置となっている。このため、前記した嵌合軸38の第1嵌合スプライン39の所定位置までの回動Aに連動した上記出力スプライン12の上記軸心10周りでの歯溝の位置と、嵌合軸38の第2嵌合スプライン40の他の所定位置までの回動Bに連動した上記入力スプライン19の上記軸心17周りの歯の位置とは互いに合致することとなる。この場合、上記各所定位置は、それぞれ個別に設定してもよい。
【0042】
そして、次に、上記嵌合軸38および突出体43を上記他の所定位置に保持したまま、上記嵌合軸38を上記入力スプライン19から離れるよう移動させて、この入力スプライン19から上記嵌合軸38の第2嵌合スプライン40を離脱させる。
【0043】
次に、上記状態のままのエンジン側2とトランスミッション側3とを、互いに同軸上に位置させた上記軸心10,17上で互いに接近させる。すると、まず、上記ノックピン31とボルト挿通孔27とが嵌合して、上記クランクケース7の開口縁部21とミッションケース16の開口縁部22との相対位置が、より精度よく定められる。また、上記出力スプライン12の歯溝と入力スプライン19の歯とが上記軸心10,17周りで精度よく合致して、これら出、入力スプライン12,19の嵌合が円滑に達成され、よって、その分、駆動装置1の組み立て作業が容易にできることとなる。
【0044】
また、上記したエンジン側2とトランスミッション側3とを互いに更に接近させれば、上記クランクケース7の開口縁部21とミッションケース16の開口縁部22とが互いに当接し、この際、上記出、入力スプライン12,19同士の嵌合が完了して、上記エンジン側2とトランスミッション側3との互いに組み付け作業が完了する。そこで、上記両開口縁部21,22を各締結具23により締結する。また、この際、上記一つのねじ孔26からノックピン31を取り外し、上記一つのねじ孔26に対し、上記ボルト挿通孔27に挿通させたボルト28を螺合させれば、上記両開口縁部21,22の接合が完了し、駆動装置1の組み立てが終る。
【0045】
そして、上記したエンジン側2とトランスミッション側3との組み付け作業では、上記治具37の突出体43は、嵌合軸38を回動A,Bさせる際の取っ手として利用でき、また、突出体43の先鋭部46は、上記嵌合軸38を上記した所定位置や他の所定位置にまで回動A,Bさせて位置決めする際の指針としても利用できる。よって、その分、上記駆動装置1の組み立て作業が、より容易にできる。
【0046】
なお、上記治具37は金属製でも樹脂製でもよい。また、上記駆動装置1の組立方法において、上記出力スプライン12に第1嵌合スプライン39を嵌合させて治具37を回動Aさせることと、上記入力スプライン19に第2嵌合スプライン40を嵌合させて治具37を回動Bさせることとの順序は逆であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 駆動装置
2 エンジン側
3 トランスミッション側
6 エンジン
7 クランクケース
10 軸心
11 出力部
12 出力スプライン
16 ミッションケース
17 軸心
18 入力部
19 入力スプライン
21 開口縁部
22 開口縁部
23 締結具
26 ねじ孔
27 ボルト挿通孔
28 ボルト
31 ノックピン
32 雄ねじ部
33 ノックピン本体
34 ホロセット
37 治具
38 嵌合軸
39 第1嵌合スプライン
39a 歯
40 第2嵌合スプライン
40a 歯溝
43 突出体
44 突出体基部
45 延出部
46 先鋭部
図1
図2