(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クランク室側放圧通路の一部を形成する形成体はクランク室側壁面において通路開口周縁部を突出形成させた突出部を有し、該突出部は突出端部に切欠き溝を有し、該切欠き溝の溝断面積は前記絞り手段の流路断面積より大きく開口形成される構成であって、
前記排出抑制手段は、
前記形成体のクランク室側壁面に配置され、前記クランク室の温度を感知し該感知温度に応じて前記抑制の解除方向に変位可能な感温部を備え、
前記抑制部を前記感温部の変位端に設けると共に、該抑制部を前記感温部の感知温度に応じて前記突出端部に対して接離させ、
前記切欠き溝のみをクランク室側に開口可能に前記抑制部を前記突出端部に当接させて、前記切欠き溝を介して前記抑制をし、前記感知温度が前記所定温度以上のとき、前記抑制部を前記抑制の解除方向に変位させて、前記抑制を解除する構成とした、請求項1に記載の可変容量型圧縮機。
前記圧縮機構は、前記クランク室内に、前記駆動軸に固定されるロータと、該ロータに連結手段を介して前記駆動軸の中心軸線に対する傾角を可変可能に連結される斜板と、を含む構成であって、
前記斜板の回転運動により前記ピストンを往復運動させ、前記斜板の傾角を変化させて前記ピストンのストローク量を変化させ、前記シリンダボアからの冷媒の吐出容量を変更する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の可変容量型圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された可変容量型圧縮機の一例である斜板式のクラッチレス可変容量型圧縮機(以下において「可変容量型圧縮機」という)100の縦断面図である。
本実施形態において、可変容量型圧縮機100は、車両エアコンシステムに組み込まれて使用されるものとし、使用時には車両側のエンジンに取り付けられ、図示省略した冷媒回路(蒸発器及び凝縮器)に接続されている。ここで、冷媒としては、例えば、R134a、R1234yf及び二酸化炭素等の適宜冷媒が適用される。
図1において、この可変容量圧縮機100は、複数のシリンダボア101aが形成されたシリンダブロック101と、シリンダブロック101の一端に設けられたフロントハウジング102と、シリンダブロック101の他端にバルブプレート103等を介して設けられたシリンダヘッド104と、を備えている。
【0013】
例えば、バルブプレート103のシリンダヘッド104側端面には、吐出弁形成体138aが設けられ、吐出弁形成体138aとシリンダヘッド104との間には、ヘッドガスケット138bが設けられる。一方、バルブプレート103のシリンダブロック101側端面には、吸入弁形成体139aが設けられ、吸入弁形成体139aとシリンダブロック101との間には、シリンダガスケット139bが設けられる。
【0014】
シリンダブロック101は、シリンダボア101aとセンタボア101bとを有する。シリンダボア101aは、シリンダブロック101内に、周方向に複数配設される。センタボア101bは、各シリンダボア101aに囲まれるように配設される。シリンダブロック101は、後述する放圧通路147のうちクランク室側放圧通路の一部となる導入通路101cを形成するものでもある。
なお、本実施形態において、前記シリンダブロック101が、本発明に係る「形成体」に相当する。
【0015】
センタボア101bは、具体的には、
図2に示すように、後述のクランク室140に面する第1センタボア101b1と、バルブプレート103側に面する第2センタボア101b2と、滑り軸受131を嵌合させて支持する第3センタボア101b3とを含んで構成される。
【0016】
第1センタボア101b1は、
図2及び
図3に示すように、複数のシリンダボア101aの内側に形成され、シリンダブロック101のクランク室側壁面において、各シリンダボア101aの形成壁となる周壁101b11と、クランク室140と対向する底壁101b12とで凹状に形成される。このように、シリンダブロック101は、クランク室側壁面に凹部を有する。
なお、本実施形態において、前記第1センタボア101b1が、本発明に係る「凹部」に相当し、前記底壁101b12が、本発明に係る「底部」に相当する。
第2センタボア101b2は、複数のシリンダボア101aの内側に形成された周壁101b21と、バルブプレート103と対向する底壁101b22とで凹状に形成される。底壁101b22には、調整ネジ135を収容する収容部が形成されている。
第3センタボア101b3は、第1センタボア101b1の周壁101b11及び第2センタボア101b2の周壁101b21より径方向内側で貫通して形成される。
【0017】
図1に戻って、シリンダブロック101とフロントハウジング102とによって、クランク室140が区画形成される。このクランク室140は、後述するピストン136の背方に位置する。クランク室140内の中央を横断し、かつ、第1センタボア101b1の底壁101b12を貫通して回転可能に支持される駆動軸110が設けられる。駆動軸110の軸方向の中間部周囲には、斜板111が配置されている。斜板111は、駆動軸110に固定されたロータ112に、リンク機構120を介して連結し、駆動軸110の中心軸線に対する傾角を可変可能に連結されている。
【0018】
リンク機構120は、ロータ112から突設された第1アーム112aと、斜板111から突設された第2アーム111aと、一端が第1連結ピン122を介して第1アーム112aに対して回動可能に連結され、他端が第2連結ピン123を介して第2アーム111aに対して回動可能に連結されたリンクアーム121と、を備える。
なお、本実施形態において、前記リンク機構120が、本発明に係る「連結手段」に相当する。
【0019】
斜板111の貫通孔111bは、斜板111が最大傾角と最小傾角の範囲で傾動可能な形状に形成され、貫通孔111bには、駆動軸110と当接する最小傾角規制部が形成されている。斜板111が駆動軸110に対して直交するときの斜板111の傾角を0°とした場合、貫通孔111bの最小傾角規制部は、斜板111を略0°まで傾角可能に形成されている。また、傾角を増大させる方向の斜板111の傾角変位(傾動)は、斜板111がロータ112に当接することによって規制される。したがって、斜板111の傾角は、斜板111がロータ112に当接したときに最大傾角となる。
【0020】
ロータ112と斜板111の間の駆動軸110周囲には、斜板111を最小傾角に向けて付勢する傾角減少バネ114が装着されている。また、斜板111と駆動軸110に設けたバネ支持部材116との間の駆動軸110周囲には、斜板111の傾角を最大傾角より小さい所定の傾角まで増大する方向に付勢する傾角増大バネ115が装着されている。最小傾角における傾角増大バネ115の付勢力は、傾角減少バネ114の付勢力より大きく設定される。したがって、駆動軸110が回転していないとき、斜板111は、傾角減少バネ114の付勢力と傾角増大バネ115の付勢力とがバランスする所定の傾角に位置決めされる。
【0021】
駆動軸110の一端は、フロントハウジング102のボス部102a内を貫通してフロントハウジング102外側まで延設し、図示しない動力伝達装置に連結される。駆動軸110とボス部102aとの間には、軸封装置130が挿入され、クランク室140と外部空間とを遮断している。駆動軸110の他端は、センタボア101b内を貫通して、スラストプレート132で支持される。
【0022】
駆動軸110とロータ112の連結体は、ラジアル方向に軸受131、133で支持され、スラスト方向に軸受134、スラストプレート132で支持され、外部駆動源(車両のエンジン)からの動力が動力伝達装置に伝達され、駆動軸110は動力伝達装置と同期して回転する。駆動軸110とスラストプレート134との隙間は、調整ネジ135によって所定の隙間に調整される。
【0023】
シリンダボア101a内には、ピストン136が配置される。ピストン136のクランク室140側に突出している端部の内側空間には、斜板111の外周部が収容される。斜板111は、一対のシュー137を介して、ピストン136と連動する。これにより、斜板111の回転によりピストン136がシリンダボア101a内を往復動する。
【0024】
シリンダヘッド104には、中央部に環状の隔壁で画成された吸入室141と、吸入室141を環状に取り囲む吐出室142とが形成される。
吸入室141は、駆動軸110の中心軸線Oの延長線上に配設され、例えば、ヘッドガスケット138b及び吐出弁形成体138aに形成された連通孔(図示せず)、バルブプレート103に設けられた吸入孔103a、吸入弁形成体139aに形成された吸入弁(図示せず)、を介してシリンダボア101aと連通する。
吐出室142は、例えば、ヘッドガスケット138bに形成された連通孔(図示せず)、吐出弁形成体138aに形成された吐出弁(図示せず)、バルブプレート103に設けられた吐出孔103b、吸入弁形成体139aに形成された連通孔(図示せず)、を介してシリンダボア101aと連通する。
【0025】
フロントハウジング102、シリンダブロック101、シリンダガスケット139b、吸入弁形成体139a、バルブプレート103、吐出弁形成体138a、ヘッドガスケット138b及びシリンダヘッド104が、この順で配置され、複数の通しボルト105によって締結される。これらにより、圧縮機ハウジングが形成される。
なお、フロントハウジング102の外周面及びシリンダヘッド104の軸方向端面には、この圧縮機ハウジングをエンジンに固定するための取付け部(102b、104b)が、突出して形成されている。つまり、可変容量型圧縮機100は、この取付け部(102b、104b)を介して装着対象(エンジン)に取付けられる。
図3に示すUは、取付け部102bの装着対象との取付け面を含む仮想平面を示し、Vは駆動軸110の中心軸線Oを含み、かつ、仮想平面Uと平行な平面を示す。可変容量圧縮機100は、平面Vが重力方向に対して、例えば±45°の範囲に収まるように、装着対象に取付けられる。
【0026】
図1に戻って、シリンダヘッド104には、外側から吸入室141に向かって吐出室142の一部を跨って直線状に吸入通路104aが形成される。吸入室141は、吸入通路104aを介して車両エアコンシステムの吸入側冷媒回路と接続される。また、シリンダヘッド104には、図示しない吐出ポートを備えた吐出通路が形成される。この吐出ポートは、車両エアコンシステムの吐出側冷媒回路に接続される。なお、図示省略するが、この吐出通路には、吐出側冷媒回路から吐出室142への冷媒ガスの逆流を防止する逆止弁が配置されている。この逆止弁は、上流側(吐出室142側)と下流側(吐出側冷媒回路側)との圧力差に応答して動作し、圧力差が所定値より小さい場合には吐出通路を遮断し、圧力差が所定値より大きい場合には吐出通路を開放する。
【0027】
また、シリンダヘッド104には、制御弁300が設けられる。制御弁300は、吐出室142とクランク室140とを連通する圧力供給通路145に介装されて圧力供給通路145の開度を調整し、吐出室142からクランク室140への冷媒ガス(吐出ガス)導入量を制御する。また、クランク室140内の冷媒ガスは、クランク室140と吸入室141とを連通する放圧通路147を介して吸入室141へ流れる。また、放圧通路147には、放圧通路147を流通する流体の流量を規制するオリフィス103cが設けられる。従って、制御弁300によってクランク室140の圧力を変化させることができる。
なお、圧力供給通路145は、シリンダブロック101のクランク室側端面の開口端145a(
図3参照)で、クランク室140側に開口する。また、放圧通路147及びオリフィス103cについては、後に詳述する。
【0028】
制御弁300は、より具体的には、外部信号に基づいて内蔵するソレノイドへの通電量を調整し、吸入室141と接続される圧力導入通路146を介して制御弁300の感圧室に導入される吸入室141の圧力が所定値になるように、吐出容量を可変制御し、また、ソレノイドへの通電を遮断することにより、圧力供給通路145を強制開放して、可変容量型圧縮機100の吐出容量を最小に制御する。
【0029】
斜板111の変角動作は、ピストン136のクランク室140側の面に作用するクランク室140内の圧力に基づく傾角減少モーメントとピストン136のシリンダボア101a側の面に作用するシリンダボア101a内の圧力に基づく傾角増大モーメントとのバランスを崩すことにより行われる。従って、制御弁300によりクランク室140の圧力を変化させれば、斜板111の傾角、つまりピストン136のストロークを変化させることができ、可変容量圧縮機100の吐出容量を可変制御することができる。
【0030】
このように、本実施形態に係る可変容量型圧縮機100は、シリンダボア101a内のピストン136を駆動軸110の回転により往復動させて、吸入室141からシリンダボア101a内に吸入した冷媒ガスを圧縮し、この圧縮した冷媒ガスを、吐出室142を介して外部に吐出する圧縮機構と、吐出室142とピストン136の背方のクランク室140とを連通する圧力供給通路145と、クランク室140と吸入室141とを連通する放圧通路147と、を備え、放圧通路147の流量を所定値に規制すると共に、圧力供給通路145の開度を調整することで、クランク室140の圧力を調整して冷媒ガスの吐出容量を変更可能に構成される。
なお、上記放圧通路147の流量とは、この放圧通路147を流通するオイルミスト状の潤滑油を含む冷媒ガスの流量、つまり、潤滑油及び冷媒ガスの全体の流量であり、以下において、この流量を単に「冷媒ガス流量」と言う。
【0031】
そして、本実施形態において、可変容量型圧縮機100は、上記圧縮機構が、クランク室140内に、駆動軸110に固定されるロータ112と、ロータ112にリンク機構120を介して駆動軸110の中心軸線に対する傾角を可変可能に連結される斜板111と、を含む構成であって、斜板111の回転運動によりピストン136を往復運動させ、斜板111の傾角を変化させてピストン136のストローク量を変化させ、シリンダボア101aからの冷媒の吐出容量を変更する、いわゆる斜板式の可変容量型圧縮機である。
【0032】
ここで、クランク室140内の各機構部間等の潤滑のためクランク室内には、潤滑油を貯留させている。この潤滑油は、斜板111等により撹拌されて、その一部は、オイルミスト状になってクランク室140内に飛散する。これにより、クランク室140内の各機構部品間等の潤滑が行われる。
【0033】
このクランク室140内の潤滑油は、可能な限りクランク室内に貯留させることが望ましい。しかし、例えば、駆動軸110の回転数が高速回転に至ると、潤滑油の撹拌、せん断によって発生する発熱量が異常に高くなると、潤滑油の粘性が低下する等して適切な潤滑が行えなくなるおそれがある。
このため、本実施形態における可変容量型圧縮機100は、上記のような異常時に、クランク室140内で飛散する潤滑油の吸入室141側への排出を促進し、通常時には、クランク室140への潤滑油の排出を抑制する排出抑制手段170を備えて構成する。
【0034】
以下では、
図2〜
図5を参照して、放圧通路147、オリフィス103c及び排出抑制手段170について詳細に説明する。
【0035】
まず、放圧通路147とオリフィス103cについて説明する。
放圧通路147は、
図2に示すように、クランク室140と吸入室141とを連通する通路であり、本実施形態においては、クランク室側から、第1センタボア101b1、導入通路101c、第2センタボア101b2、吸入弁形成体139aに形成された連通孔(図示せず)、バルブプレート103に形成されたオリフィス103c、吐出弁形成体138a及びヘッドガスケット138bに形成された連通孔(図示せず)を経由してなる。このようにして、放圧通路147は、一経路からなるように構成される。
【0036】
オリフィス103cは、放圧通路147に設けられ、常時、放圧通路147の一部を絞って、冷媒ガス流量を所定値で規制可能とするものであり、適宜の孔径(例えば、1.6mm程度)で、バルブプレート103を開口して形成される。
なお、本実施形態において、前記オリフィス103cが、本発明に係る「絞り手段」に相当する。
【0037】
導入通路101cは、シリンダブロック101に形成され、放圧通路147のうちオリフィス103cよりクランク室側のクランク室側放圧通路の一部となる。この導入通路101cの通路断面積、各ガスケット及び弁形成体(138a,138b,139a)に形成された上記各連通孔の各開口面積(孔径)は、オリフィス103cの開口面積(孔径)より大きい面積で開口形成される。したがって、放圧通路147を流通する冷媒ガス流量は、放圧通路147の全体で最小の開口面積を有するオリフィス103cによって規制される。
なお、本実施形態において、前記導入通路101cが、本発明に係る「クランク室側放圧通路の一部」に相当する。
【0038】
本実施形態において、導入通路101cは、第1センタボア101b1の底壁101b12(凹部の底部)でクランク室140側に向かって開口される構成である。
具体的には、導入通路101cは、第1センタボア101b1の底壁101b12から、駆動軸110の中心軸線Oと平行して吸入室141側に向かって延設されて、第2センタボア101b2の底壁101b22を開口して、第1センタボア101b1と第2センタボア101b2とを連通して形成される。導入通路101cの一端(第1センタボア側)は、底壁101b12の一部にクランク室140側に突出形成された部分で、第1センタボア101b1側に開口する。
【0039】
また、本実施形態において、導入通路101cは、第1センタボア101b1の底壁101b12で、かつ、駆動軸110の中心軸線Oより重力方向下側で開口する。具体的には、導入通路101cを、可変容量圧縮機100が装着対象(エンジン)に取付けられた状態で、駆動軸110の中心軸線より、重力方向下側で、第1センタボア101b1と連通させる。
【0040】
次に、排出抑制手段170について説明する。
排出抑制手段170は、一経路からなる放圧通路147のうちオリフィス103cよりクランク室140側のクランク室側放圧通路に配置され、クランク室140内で飛散する潤滑油の吸入室141側への排出を抑制する後述の抑制部170bを有するものであって、抑制をしているとき、抑制部170bの配置箇所におけるクランク室側放圧通路の開口面積を、オリフィス103cの流路断面積(例えば直径1.6mm程度)より大きく設定(例えば、直径2〜3mm程度)し、クランク室140の温度が所定温度以上のとき、抑制部170bの配置箇所におけるクランク室側放圧通路の開口面積を増大させて抑制を解除可能に構成される。この排出抑制手段170によって、クランク室141で飛散する潤滑油の排出が抑制されて、クランク室140内の冷媒ガスと一緒に放圧通路147を介して吸入室141に排出される潤滑油の量が減少する。
【0041】
上記クランク室側放圧通路とは、本実施形態においては、第2センタボア101b2、導入通路101c、第1センタボア101b1を経由してなる通路である。後述する排出抑制孔172は、この導入通路101cの通路断面積より小さく、かつ、オリフィス103cの流路断面積より大きく設定される。
【0042】
また、上記クランク室140の温度とは、クランク室140を形成するハウジング部材(フロントハウジング102、シリンダブロック101)のハウジング温度又はクランク室140の圧力が作用する領域の流体温度(冷媒ガス、潤滑油)である。排出抑制手段170は、ハウジング温度及び流体温度の少なくとも一方に応答して動作する。
上記所定温度は、駆動軸110の回転数が常用回転数の範囲(外部駆動源としての車両のエンジンのアイドリング相当回転数から5000rpm程度まで)におけるクランク室140の温度より高く、可変容量型圧縮機100が適切に作動する限界温度(150℃程度)未満で設定される。
【0043】
本実施形態において、排出抑制手段170は、
図4及び
図5に示すように、感温部170aと抑制部170bとを含んで構成される。感温部170aは、クランク室140の温度を感知しこの感知温度に応じて抑制の解除方向に変位可能なものである。抑制部170bは、感温部140の変位端に設けられオリフィス103cの流路断面積より大きく開口される排出抑制孔172を有する。そして、排出抑制手段170は、抑制部170bをクランク室側放圧通路に介装させ、排出抑制孔172を介して潤滑油の排出の抑制をし、感知温度が所定温度以上のとき、抑制部170bを抑制の解除方向に変位させて、潤滑油の排出の抑制を解除する構成とする。
【0044】
具体的には、感温部170aは、シリンダブロック101、つまり、クランク室側放圧通路の一部(導入通路101c)を形成する形成体のクランク室側壁面に配置される。また、この感温部170aの変位端に設けられた抑制部170bは、感温部170aの感知温度に応じてシリンダブロック101に対して当接、離間をする。
【0045】
より具体的には、排出抑制手段170は、
図4及び
図5に示すように、第1センタボア101b1の底壁101b12(凹部の底部)に配置され、感温部170aと抑制部170bとが一体形成された板状の感温部材からなる。感温部170aは、ハウジング温度として第1センタボア101b1の底壁101b12の温度、又は、クランク室140内の流体温度(冷媒ガス、潤滑油)のいずれか高い方の温度に応答して動作する。
排出抑制手段170は、一端側(感温部側)が第1センタボア101b1の底壁101b12に面接触して固定部材160により固定され、他端側(抑制部170b側)が導入通路101cのクランク室140側の開口端部に当接(
図4)、離間(
図5)するように構成される。この板状の排出抑制手段170の他端側は、抑制部170bとしてクランク室側に突出する凸部を有する。排出抑制孔172は、この凸部を貫通し、潤滑油の排出抑制時に導入通路101cの開口端と対峙するように形成される。この排出抑制孔172により、潤滑油の排出が抑制される。
【0046】
排出抑制手段170は、例えば、所定温度で反転動作する反転動作型のバイメタルからなり、クランク室140の温度が適宜予め設定された第1温度以上になると、抑制部170bを抑制の解除方向に移動させ、クランク室140の温度が適宜予め設定された第1温度より低い第2温度以下になると、抑制部170bを導入通路101cの開口端部に当接させる。この第1温度が、前述の所定温度(常用回転数でのクランク室140の温度より高く、限界温度未満の温度)に相当する。つまり、通常の使用状態では排出抑制手段170は反転動作をせず、抑制部170bを導入通路101cの開口端部に当接させ続ける。例えば、第1温度は、110℃から140℃の範囲内で設定され、第2温度は、第1温度より15℃から20℃程度低い温度に設定される。
【0047】
また、排出抑制手段170は、長手方向中間部を変位方向(
図4では上下方向)に屈曲させて反転動作を助長させる屈曲部171を有している。この屈曲部171により反転動作をより確実に行える。
【0048】
本実施形態においては、排出抑制手段170は、第1センタボア101b1の底壁101b12に配置される。排出抑制手段170が反転動作して最大に変位したとき、抑制部170bの先端が、クランク室140側に突出しないように、第1センタボア101b1の深さが規定されている。
【0049】
次に、本実施形態の可変容量型圧縮機100の動作及び作用について、
図1、
図4及び
図5を参照して説明する。なお、クランク室140内には、潤滑油が貯留されているものとして説明する。
【0050】
まず、クランク室140内の温度が第2温度以下であり、このとき、制御弁300による吐出容量の変更制御により吐出室142の高圧の冷媒ガスの一部(吐出ガス)が圧力供給通路145を介してクランク室140に流入していると共に、ピストン136による圧縮工程によりシリンダボア101aとピストン136との隙間を通じて高圧の冷媒ガス(ブローバイガス)がクランク室140へ流入しているものとして、潤滑油の排出の抑制時の動作及びその作用について説明する。
【0051】
排出抑制手段170は、クランク室140の温度が第2温度以下であるため、
図4に示すように、抑制部170bを導入通路101cの開口端部に当接させ続け、抑制部170bの配置箇所における導入通路101cの開度を最小にする。このとき、高圧の冷媒ガス(吐出ガス、ブローバイガス)がクランク室140に流入すると、クランク室140内で飛散する潤滑油が高圧の冷媒ガスの流れに沿って、冷媒ガスと伴に放圧通路147を経由して吸入室141に流れようとする。しかし、導入通路101cの開度が、排出抑制孔172によって最小に設定されているため、吸入室141への潤滑油の排出が排出抑制孔172により抑制される。これにより、吸入室141から吐出室142を介して外部冷媒回路へ流出する潤滑油量を低減、つまりOCRを低減することができる。
具体的には、クランク室140内に飛散している潤滑油(オイルミスト粒子)には、直接、冷媒ガスの流れと合流して排出抑制孔172を通過する粒子があるが、一方で、抑制部170bの表面に沿ってゆっくりと排出抑制孔172側に移動し冷媒ガス流れに合流して排出抑制孔172を通過する粒子や、排出抑制部170bの表面に衝突して跳ね返る粒子等がある。このように、抑制部170bによって、その冷媒ガス流れに向かう粒子の移動速度を低減させたり、粒子を跳ね返したりすることで、粒子(潤滑油)の冷媒ガス流れへの合流を抑制することができる。したがって、抑制部170bによって、導入通路101cの開度を最小にすることにより、吸入室141への潤滑油の排出を、導入通路101cの開度を増大させた場合と比較して抑制することができる。
【0052】
次に、駆動軸110の回転数が常用回転数を超えてさらに上昇し、クランク室140内の温度が第1温度以上になったものとし、このときに、吐出容量の変更制御等により高圧の冷媒ガスがクランク室140へ流入しているものとして、排出の抑制解除動作及びその作用について説明する。
【0053】
排出抑制手段170は、クランク室140の温度が第1温度以上になると、
図5に示すように、抑制部170bを、クランク室140側に向かって移動させて、導入通路101cの開口端部から離間させ、排出抑制孔172による潤滑油の排出の抑制を解除し、抑制部170bの配置箇所における導入通路101cの開口面積を最大にする。高圧の冷媒ガスがクランク室140に流入すると、クランク室140内で飛散する潤滑油が高圧の冷媒ガスの流れに沿って、冷媒ガスと伴に放圧通路147を経由して吸入室141に流れようとする。このとき、導入通路101cの開度が、最大に設定されているため、吸入室141への潤滑油の排出が促進される。これにより、クランク室140内の潤滑油量が常用回転数の場合より減少し、斜板111等の回転部品による潤滑油の撹拌等によって発生する発熱量が減少し、クランク室140の温度上昇が抑制される。
一方、吸入室141に排出された潤滑油は、シリンダボア101a及び吐出室142を経由して外部冷媒回路へ流出される。そして、この潤滑油は、外部冷媒回路の蒸発器で冷却されて、再度、吸入ポート104a、吸入室141に戻って、シリンダボア101aに取り込まれ、ブローバイガス等と伴にクランク室140に還流され、各機構部間の潤滑が効果的に行われる。
この蒸発器により冷却された潤滑油の還流により、クランク室140の温度上昇が抑制される等して、クランク室140の温度が第2温度以下になると、抑制部170bが再び導入通路101cの開口端部に当接して、潤滑油の排出が再び抑制される。これを、クランク室140の温度に応答して繰り返す。このように、排出抑制手段170は、抑制解除後に、再び抑制動作をすることが可能な、可逆動作可能な抑制手段である。
なお、吸入室141から吐出室142を介して外部冷媒回路へ流出する潤滑油量が増加するが、常用回転数より異常に高い場合における過渡的な増加であるため、エアコンシステムの冷房性能に対する実質的な影響は無視できるほどである。
【0054】
ここで、排出抑制孔172は、導入通路101cの通路断面積より小さく、かつ、オリフィス103cの流路断面積より大きい開口面積で形成されているため、潤滑油の排出を抑制することができる上、この排出抑制時においても、オリフィス103cによる流量規制に影響を与えることがない。つまり、排出抑制手段170が動作して、抑制部170bが導入通路101cの開口端部に当接、離間を繰り返しても、放圧通路147全体においては、オリフィス103cが常に冷媒ガス流量の規制部となり、制御弁300によるクランク室140の圧力調整に影響を与えない。したがって、排出抑制手段170の動作に関わらず、制御弁300による吐出容量制御を安定して行うことができる。
【0055】
かかる実施形態の可変容量型圧縮機100によれば、クランク室140と吸入室141とを連通させた一経路からなる放圧通路147のうちオリフィス103cよりクランク室140側のクランク室側放圧通路に配置される抑制部170bを有する排出抑制手段170によって、クランク室140内で飛散する潤滑油がクランク室140内に流入した冷媒ガスと伴にクランク室側放圧通路を介して排出される量を、減少させることができる。そして、この可変容量型圧縮機100によれば、抑制部170bの配置箇所におけるクランク室側放圧通路の開口面積を、オリフィス103cの流路断面積より大きく設定した状態で、クランク室140内で飛散している潤滑油の吸入室141側への排出を抑制し、クランク室140の温度が所定温度以上のとき、潤滑油の吸入室141側への排出の抑制を解除することで、潤滑油の吸入室141側への排出を促進することができ、かつ、常時、つまり、抑制の解除後、及び、抑制をしているときのいずれにおいても、オリフィス103cによって、放圧通路147の冷媒ガス流量を所定値で規制することができる。したがって、排出抑制手段170による排出の解除の有無に関わらず、常時、放圧通路147の冷媒ガス流量を規制してクランク室140の圧力調整を適切に行える上、単に、クランク室140と吸入室141とを一経路で連通させた放圧通路147を、潤滑油の排出通路として兼用することができ、放圧通路147とは別に、潤滑油排出用の通路を別に形成する必要がない。
このようにして、クランク室の圧力調整に影響を与えることなく、簡易な構造で、高温時にクランク室内の潤滑油の吸入室への排出を促進可能な可変容量型圧縮機を提供することができる。
【0056】
また、本実施形態において、排出抑制孔172はクランク室側に突出する凸部を貫通させて形成されているため、排出抑制時に、第1センタボア101b1の底壁101b12や周壁101b11に付着した潤滑油が排出抑制孔172を介して流通し難くなる。これにより、排出抑制手段170による排出抑制が効果的となる。
【0057】
また、本実施形態においては、感温部170aを、シリンダブロック101のクランク室側壁面に配置し、感温部170aの変位端に抑制部170bを設け、感温部170aの感知温度に応じて、抑制部170bをシリンダブロック101cに対して接離させる構成である。このように、排出抑制手段170(感温部170a、抑制部170b)はシリンダブロック101のクランク室側壁面に配置するだけでよく、潤滑油の排出抑制及びその解除を簡易な構造で構築することができる。
なお、排出抑制手段170は、シリンダブロック101のクランク室側壁面に配置する構成に限らず、例えば、導入通路101cの中間部に設けるようにしてもよく、クランク室140の温度を感知し該感知温度に応じて潤滑油の排出抑制の解除方向に変位可能な感温部を備え、抑制部を感温部の変位端に設けると共に、該抑制部に絞り手段の流路断面積より大きく開口される排出抑制孔を有し、排出抑制孔を介して抑制をし、感知温度が所定温度以上のとき、抑制部を抑制の解除方向に変位させて、抑制を解除する構成であればよい。さらに、このように、抑制部に排出抑制孔を設ける構成に限らず、以下に説明する第2実施形態のように構成してもよい。
【0058】
図6は、本発明の第2実施形態に係る可変容量型圧縮機100の排出抑制手段170’を説明するための図であり、排出抑制時の状態を、
図4と同じ断面における部分断面図で示した図である。
図7は、
図6のB矢視方向から見た後述する突出部101dの上面図である。第1実施形態とは抑制部及び導入通路101cのクランク室側の開口端部の形状のみが異なる。第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。排出抑制及びその解除動作についても、第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0059】
本実施形態において、シリンダブロック101はクランク室側壁面において、導入通路101cの通路開口周縁部を突出形成させた突出部101dを有し、突出部101dは端部に切欠き溝101eを有し、切欠き溝101eの溝断面積はオリフィス103cの流路断面積より大きく開口形成される構成である。
【0060】
本実施形態において、排出抑制手段170’は、感温部170aと、感温部170aの変位端に設けられ、感温部170aの感知温度に応じて突出部101dの突出端部101fに対して接離する抑制部170b’と、を備え、切欠き溝101eのみをクランク室140側に開口可能に抑制部170b’を突出端部(突出端面)101fに当接させて、切欠き溝101eを介して前記抑制をし、感知温度が所定温度以上(第1温度)のとき、抑制部170b’を前記抑制の解除方向に変位させて、前記抑制を解除する構成とする。
排出抑制手段170’は、感温部170aと抑制部170b’とが一体形成された単なる板状の感温部材である。抑制部170b’は、第1実施形態とは異なり板状に形成されている。
【0061】
かかる実施形態の可変容量型圧縮機100によれば、第1実施形態と同様に、クランク室の圧力調整に影響を与えることなく、簡易な構造で、高温時にクランク室内の潤滑油の吸入室への排出を促進可能な可変容量型圧縮機を提供することができる。
また、本実施形態においては、導入通路101cのクランク室側の開口端部(通路開口周縁部)の形状を工夫することで、抑制部170bに排出抑制孔を形成する必要がなく、排出抑制手段の形状を簡素化することができる。
【0062】
上記第1実施形態及び第2実施形態において、排出抑制手段170,170’は、第1センタボア101b1の底壁101b12に配置される。したがって、排出抑制手段170とクランク室140内の斜板111等との干渉を容易に防止することができる。また、導入通路101cは、第1センタボア101b1の底壁101b12(凹部の底部)でクランク室140側に向かって開口される構成である。これにより、導入通路101cは、第1センタボア101b1と第2センタボア101b2とを単に直線的に連通する通路であるので、通路形成が容易である。
【0063】
また、各実施形態において、シリンダボア101cは、シリンダブロック101内に、周方向に複数配設される構成である。そして、排出抑制手段170が配置されている第1センタボア101b1は、各シリンダボア101aに囲まれるように、シリンダブロック101における駆動軸110が挿通する中央部に設けられ、かつ、凹状に形成されているため、クランク室140内で飛散する潤滑油が流入し難いオイルプアな領域である。したがって、排出抑制時に、第1センタボア101b1の底壁101b12や周壁101b11に付着した潤滑油が排出抑制孔172、切欠き溝101eを介して流通し難くなる。これらにより、排出抑制手段170,170’による排出抑制がより効果的となる。
【0064】
さらに、各実施形態において、駆動軸110は、クランク室140内の中央を横断し第1センタボア101b1の底壁101b12を貫通して支持され、導入通路101cは底壁101b12で、かつ、駆動軸110の中心軸線Oより重力方向下側でクランク室140側に向かって開口される構成である。ここで、高速回転時には、その撹拌により第1センタボア101b1に侵入する潤滑油量が常用回転数の場合より増大し、かつ、導入通路101cは駆動軸110の中心軸線Oより重力方向下側で開口される。したがって、例えば、底壁101b12等に付着して底壁101b12に沿って重力方向下側に流れて導入通路101cの開口端部に至る潤滑油の量が、導入通路101cを中心軸線Oより重力方向上側で開口させた場合と比較して、多くなる。その結果、潤滑油が導入通路101cを介して排出され易くなる。これらにより、排出の抑制解除時において、潤滑油の排出がより効果的に促進される。
【0065】
そして、各実施形態において、排出抑制手段170,170’は、バイメタルからなるものとした。反転動作型のバイメタルは、反転温度より低い温度ではあまり変位せず、反転温度を超えると大きく変位するため、通常時は潤滑油の排出を確実に抑制し、クランク室140の温度が第1温度以上になったときに、導入通路101cの開口端部から抑制部170bを瞬時に離間させて、排出の抑制を迅速に解除することができる。
【0066】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、さらに、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0067】
例えば、各実施形態において、排出の抑制を解除した後、クランク室140の温度が、第1温度より15℃から20℃程度低い第2温度以下になったとき、再度排出を抑制する構成としたが、これに限らず、少なくとも第1温度未満になったときに、再度排出を抑制するように構成すればよい。
【0068】
また、各実施形態において、排出抑制手段170,170’は、感温部と抑制部とが一体形成される構成で説明したが、これに限らず、感温部と抑制部とを別体で構成してもよい。また、排出抑制手段(感温部材)はバイメタルからなるものとしたが、これに限らず、形状記憶合金等の他の感温部材からなるものとしてもよい。
【0069】
さらに、各実施形態において、導入通路101cのクランク室側の開口端位置は第1センタボア101b1内の駆動軸110の中心軸線Oの重力方向下側としたが、これに限らず、例えば、上側であってもよい。また、吸入室141はシリンダヘッド104の中央部に配置され、吐出室142は吸入室141を環状に取り囲むように形成されるものとしたが、これに限らず、吐出室142が中央部に配置され、吸入室141が吐出室142を環状に取り囲むように形成されるものとしてもよい。そして、絞り手段は開度固定のオリフィス103cであるものとしたが、これに限らず、開度可変の絞り又は弁機構であってもよい。
【0070】
そして、各実施形態では、斜板式の可変容量型圧縮機を一例として説明したが、本発明は、斜板式の可変容量型圧縮機に限らず、例えば、いわゆる揺動板式の可変容量型圧縮機についても適用できる。揺動板式の可変容量型圧縮機の場合、斜板111の回転運動をピストン136の往復運動に変換する手段として揺動板が設けられる。また、本発明に係る可変容量型圧縮機は、クラッチレスの圧縮機に限らず、電磁クラッチ等を装着した圧縮機にも適用できる。
【0071】
ところで、前述の特許文献1に記載の可変容量型圧縮機では、放圧通路のクランク室側への接続通路を2経路に分岐し、この2系統の通路のうちの一方の通路のクランク室側への開口端に開閉手段を設け、この開口端をクランク室の周壁の近傍に配置させている。しかし、この周壁近傍の領域は、駆動軸や斜板等に付着した潤滑油が遠心力によって飛散等してオイルリッチな領域となっているため、開閉手段によって周壁近傍の通路を開放すると、この周壁近傍の通路から過剰に潤滑油が排出されてしまうおそれがある。その結果、クランク室内の各摺動部の潤滑不足を招く可能性がある。また、周壁近傍の通路は他方の通路との合流点に至る通路形状が複雑である。そこで、この課題を解決するため、以下に、本発明の参考例としての可変容量型圧縮機について説明する。
【0072】
本発明の参考発明についての可変容量型圧縮機の参考例について、
図8〜
図14を参照して説明する。本参考例に係る可変容量型圧縮機100’は、前述の第1実施形態(
図1〜
図6)に係る可変容量圧縮機100の構成を基本構成として利用しており、前述の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。なお、本参考例においても、第1実施形態において説明した種々の変形態様を採り得る。
【0073】
図8は、本参考例の可変容量型圧縮機100’の縦断面図である。
参考発明の可変容量型圧縮機100’は、センタボアと該センタボアを囲むように配置される複数のシリンダボアとが区画形成されたシリンダブロックと、各シリンダボア内のピストンを駆動軸の回転により往復動させて、吸入室からシリンダボア内に吸入した冷媒ガスを圧縮して吐出室を介して外部に吐出する圧縮機構と、前記吐出室と前記ピストン背方のクランク室とを連通する圧力供給通路と、前記クランク室と前記吸入室とを連通する放圧通路と、前記放圧通路に設けられ、常時、前記放圧通路の前記冷媒ガス流量を前記所定値で規制可能とする絞り手段と、を備え、前記放圧通路の流量を所定値に規制すると共に、前記圧力供給通路の開度を調整することで、前記クランク室の圧力を調整して冷媒の吐出容量を変更可能な可変容量型圧縮機において、前記放圧通路のうち前記絞り手段よりクランク室側のクランク室側放圧通路は、一端がクランク室側に開口する第1導入通路と、第1導入通路と別経路で一端がクランク室側に開口する第2導入通路と、第1導入通路の他端と第2導入通路の他端とを合流させる合流部と、を有し、前記センタボアは、前記クランク室側に開口する第1センタボアと、前記吸入室側に開口する第2センタボアと、を有する構成とし、前記第1導入通路に開閉手段が設けられ、前記第2センタボアが前記合流部を成し、前記第1導入通路及び第2導入通路のうち、少なくとも前記第1導入通路を前記第1センタボアに開口させて構成したことを特徴とする。この構成を、以下において、参考発明の基本構成を成す参考構成1と言う。
【0074】
図9及び
図10に示すように、本参考例の可変容量型圧縮機100’において、クランク室側放圧通路は、前述の導入通路(以下において第1導入通路という)101c1と別経路で、一端がクランク室側に開口する第2導入通路101c2を備えると共に、第1導入通路101c1の他端と第2導入通路101c2の他端とが合流する合流部と、を備え、第1導入通路101c1に開閉手段が配設される。開閉手段としては、前述の第2実施形態(
図7)の板状の感温部材からなる排出抑制手段170’(以下において、開閉手段170’と呼ぶ)が適用される。
【0075】
また、
図9に示すように、第2センタボア101b2が上記合流部をなし、少なくとも開閉手段170’が配設されている第1導入通路101c1が第1センタボア101b1に開口している。開閉手段170’は、例えば、常用回転数で運転しているときは、
図11に示すように、第1導入通路101cのクランク室側の開口端を全閉し、回転数が常用回転数を超えて更に上昇して、クランク室140の温度が第1温度以上になると、
図12に示すように、第1導入通路101c1の開口端を全開にし、温度が低下して、例えば、第2温度以下になると、再び、
図11に示すように全閉する。
【0076】
本参考例の可変容量型圧縮機100’によれば、開閉手段170’が配設されている第1導入通路101c1がオイルプアな領域である第1センタボア101b1内に開口しているので、開閉手段170’により第1導入通路101c1が開放されても、クランク室140内で飛散する潤滑油の過度な流出が抑制され、クランク室140内に貯留される潤滑油が枯渇するおそれはない。また、開閉手段170’が配設されている第1導入通路101c1は第1センタボア101b1と第2センタボア101b2とを単に直線的に接続するだけでよいため、通路形成が容易である。
【0077】
上記参考構成1において、本参考例では、さらに、第1センタボア101b1は、シリンダブロック101のクランク室側壁面において、各シリンダボア101aの形成壁となる周壁101b11と、クランク室140と対向する底壁101b12とで凹状に形成され、第1導入通路101c1は、駆動軸110と略平行に延設され、かつ、その一端が底壁101b12に開口し、他端が第2センタボア101b2に開口し、開閉手段170’は一端側が第1センタボア101b1の底壁101b12に面接触すると共に固定され、他端側が第1導入通路101c1のクランク室側の開口端を閉塞する感温部材であって、クランク室の温度が所定温度以上のとき、他端側がクランク室側に向かって変位して前記開口端を開放する構成(以下、参考構成2と言う)を含む。
この参考構成2によれば、第1導入通路101c1は、駆動軸110と略平行に延設されているので通路構成がより容易となる。また、開閉手段170’は、第1センタボア101b1の底壁101b12に面接触で固定され、クランク室140に対峙しているので、第1センタボア101b1の底壁101b12の温度とクランク室内の流体温度のどちらか高い方の温度に確実に応答して動作し、信頼性向上に寄与する。
【0078】
また、上記参考構成2に加えて、本参考例では、第1導入通路101c1は、第2導入通路101c2より重力方向下側に配設形成され、開閉手段170’が第1導入通路101c1のクランク室140側の開口端を閉塞しているとき、第1導入通路101c1が第1センタボア101b1から第2センタボア101b2に流入した潤滑油を貯留する貯留空間となる構成(以下、参考構成3と言う)を含む。
この参考構成3によれば、重力方向上側である第2導入通路101c2を介して潤滑油が第2センタボア101b2側に向かって流入しても、第2センタボア101b2が潤滑油の貯留部となる上、クランク室140側の開口端が閉塞された第1導入通路101c1を潤滑油の貯留部として機能させることができるため、吸入室141への潤滑油の排出をより効果的に抑制することができる。なお、これに限らず、上記参考構成1において、単に、参考構成3を含む参考構成としてもよい。
【0079】
さらに、上記参考構成2及び3に加えて、本参考例では、第2導入通路101c2も第1センタボア101b1に開口させる構成(以下、参考構成4と言う)を含む。
この参考構成4によれば、単に、第1センタボア101b1と第2センタボア101b2との間に2つの通路を形成するだけであるので、通路形成が容易で、かつ、開閉手段170’により第1導入通路101c1が閉塞されているとき、冷媒回路への潤滑油の流出が効果的に抑制され、冷媒性能を向上させることができる。なお、これに限らず、上記各参考構成において、単に、参考構成4を含む参考構成としてもよい。
【0080】
さらにまた、上記参考構成2,3及び4に加えて、本参考例では、第1導入通路101c1及び第2導入通路101c2は、それぞれ、駆動軸110と略平行に延設され、かつ、一端が底壁101b12に開口し、他端が第2センタボア101b2に開口する構成(以下、参考構成5と言う)を含む。
この参考構成5によれば、2系統の通路形成がより一層容易となる。なお、これに限らず、上記各参考構成において、単に、参考構成5を含む参考構成としてもよい。
【0081】
ここで、本参考例では、参考構成5のように、第2導入通路101c2は、駆動軸110と略平行に延設され、かつ、一端が底壁101b12に開口し、他端が第2センタボア101b2に開口する構成としたが、これに限らず、
図13に示すように、駆動軸110の内部に形成され、一端側の開口が第1センタボア101b1の周壁101b11側に向って対峙する構成(以下、参考構成6と言う)としてもよい。なお、これに限らず、参考構成5を含まない各参考構成において、単に、参考構成6を含む参考構成としてもよい。
【0082】
上記参考構成6は、具体的には、
図13に示すように、第2導入通路101c2は、駆動部110の一端面から内部に向けて駆動軸110の中心軸線O方向に延設された連通孔110aと、連通孔110aの端部から第1センタボア101b1の周壁101b11に向けて中心軸線Oと直交する方向に延設された連通孔110bとから成り、連通孔110bの開口は第1センタボア101b1の周壁101b11に対峙し、連通孔110aの開口はスラストプレート132及び調整ネジ135の貫通孔を経由して第2センタボア101b2に連通して構成される。
この参考構成6によれば、第2導入通路101c2の中心軸線O方向の長さを短くすることができ、単に、駆動軸110の軸端及び外周から通路を形成するだけでよいため、通路形成が容易である。また、連通孔110bの開口は第1センタボア101b1の周壁101b11に対峙し、オイルプアな第1センタボア101b1内に位置し、かつ、その開口部が駆動軸110と共に回転するため、第2導入通路101c2から第2センタボア101b2への潤滑油の流出を著しく抑制することができ、第1開閉手段170’により第1導入通路101c1を閉塞しているときのエアコンシステムの冷房性能をより向上させることができる。
【0083】
また、本参考例では、圧力供給通路145と放圧通路147はそれぞれ独立して形成されているものとしたが、これに限らず、
図14に示すように、圧力供給通路145と放圧通路147とが共通部分を有するものとしてもよい。つまり、上記各参考構成において、第2センタボア101b2と第2導入通路101c2は圧力供給通路145の一部を兼ねる構成(以下において参考構成7と言う)としてもよい。
図14は
図13に対し圧力供給通路145のみが異なる。
【0084】
上記参考構成7では、具体的には、
図14に示すように、圧力供給通路145は吐出室142から制御弁300を経由して第2センタボア101b2に開口端145bを介して開口し、第2センタボア101b2から第2導入通路101c2、第1センタボア101b1を経由してクランク室140に至る。このようにして、第2センタボア101b2から第1センタボア101b1に至る領域が圧力供給通路145と放圧通路147の共用部分となる。第2センタボア101b2は、第1導入通路101c1と第2導入通路101c2の合流部となると共に、圧力供給通路145との合流部でもある。
【0085】
参考構成7において、制御弁300が閉じている場合の、放圧通路147における冷媒の流れは、
図13に示した参考構成6と同じである。
制御弁300が閉状態から開状態になると、吐出室142からクランク室140に向かう高圧の冷媒ガス流れが発生する。この冷媒ガスは第2センタボア101b2、第2導入通路101c2、第1センタボア101b1を経由してクランク室140に流入するが、冷媒ガスには潤滑油も含まれているため、冷媒ガスの噴流に沿って潤滑油が飛散してクランク室140内の各摺動部間を潤滑する。連通孔110bは第1センタボア101b1の周壁101b11に対峙して開口しているため、連通孔110bの開口から冷媒ガスとともに潤滑油が周壁101b11に向けて噴射される。周壁101b11に衝突した潤滑油は、クランク室140側に向けて飛散し、特に圧縮側の斜板111とシュー137との摺動面の潤滑に寄与する。
なお、可変容量型圧縮機100’が吐出容量制御状態において、制御弁300の開度を全閉と全開の間の任意の開度にしているときは、その開度により規定された量の冷媒ガスが第2センタボア101b2に導入されるため、この導入された冷媒ガス量に応じて、圧力供給通路145と導入通路147との共通の通路に双方向の流れが生じ、これにより、クランク室140の圧力を変化させ、ピストン136のストロークを変化させることにより吐出容量の可変制御をすることができる。
この参考構成7によれば、圧力供給通路及び放圧通路全体の形成が極めて容易となる。