特許第6228006号(P6228006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228006
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水系インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20171030BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20171030BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41M5/00 100
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2013-271614(P2013-271614)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-124353(P2015-124353A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−041169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有するインクジェット記録用水系インクの製造方法であって、
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)が共有結合してなる複合樹脂を含有し、
前記セグメント(A2)が、炭素数12以上18以下のアルキル基を有するアクリル酸エステル及び炭素数12以上18以下のアルキル基を有するメタクリル酸エステルの少なくとも1種に由来の構成単位(A2−1)を、セグメント(A2)中、5質量%以上50質量%以下含有し、
次の工程(1)〜(3)を含む、インクジェット記録用水系インクの製造方法。
工程(1):セグメント(A1)及びセグメント(A2)の原料モノマーを重合させて、複合樹脂を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた複合樹脂を水性媒体と混合して、ポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液を得る工程
工程(3):工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液と、着色剤を含有する水性分散液とを混合し、インクジェット記録用水系インクを得る工程
【請求項2】
前記セグメント(A2)が、スチレン系化合物に由来の構成単位(A2−2)を、セグメント(A2)中、50質量%以上95質量%以下含有する、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インクの製造方法
【請求項3】
前記セグメント(A2)が、複合樹脂中、5質量%以上50質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水系インクの製造方法
【請求項4】
前記セグメント(A1)が、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂であって、
前記アルコール成分が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を50モル%以上100モル%以下含む、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インクの製造方法
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂粒子(A)の体積平均粒径が50nm以上300nm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インクの製造方法
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂粒子(A)の含有量が、水系インク中、1質量%以上15質量%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インクの製造方法
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたインクジェット記録用水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、前記樹脂製記録媒体を70℃以上150℃以下に加熱する、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水系インク、その製造方法及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
また、水系のインクであるため環境負荷・安全性等の理由で、従来、溶剤系インクやUV硬化インク等によって印刷されてきた、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等の樹脂製記録媒体に対しても、インクジェット記録方式の活用が求められている。
【0003】
特許文献1には、吐出安定性及び被記録材との密着性に優れ、保存性(耐水性、耐候性など)に優れた高鮮度の画像が得られるインクジェット用エマルションインクとして、重縮合性単量体、それらのオリゴマー及びプレポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種を重縮合して得られる重縮合樹脂を含む樹脂粒子及び着色剤を含有するインクジェット用エマルションインクであって、該樹脂粒子及び着色剤が同一極性の電荷を有することを特徴とするインクジェット用エマルションインクが開示されている。
特許文献2には、水性ポリウレタン樹脂特有の柔軟性を有し、高温下および低温下での安定性が良好で、かつポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステルなどのプラスチックに対してもすぐれた密着性を有する水性ポリウレタン樹脂として、水酸基およびカルボキシル基をそれぞれ一つづつ有する脂肪族炭化水素化合物、高分子量ポリオールおよびポリイソシアネート化合物を主成分として反応させて得られる水性ポリウレタン樹脂と、該水性ポリウレタン樹脂を用いた印刷用インキバインダーを含有してなる印刷インキ組成物が開示されている。
特許文献3には、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどの基材への密着性に優れ、耐油性、耐熱性、耐ブロッキング性に優れた印刷インキ組成物として、ポリウレタン樹脂および繊維素系樹脂を必須成分とする印刷インキ組成物において、該ポリウレタン樹脂が、ポリオール成分と有機ジイソシアネートとを反応して得られるウレタンプレポリマーをジアミン化合物で鎖延長し、末端を長鎖アルキル基またはアルケニル基の少なくともいずれか一方を有する脂肪族アミン化合物、および/または長鎖アルキル基またはアルケニル基の少なくともいずれか一方を有する脂肪族アミド化合物で反応停止させたポリウレタン樹脂であることを特徴とする印刷インキ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−332286号公報
【特許文献2】特開2004−231813号公報
【特許文献3】特開2004−204048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PET、PP、PVC等の樹脂製記録媒体は非吸水メディアであるため、水系インクの浸透が起きにくく、定着性が低く、また、フィルム上でのインクの広がりが乏しいため、形成されるインク膜が平滑性に乏しいものとなり光沢性が不十分であった。
本発明は、前記の課題に対して、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れるインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、水系インクで、前記の課題を解決するためには、インクを樹脂製記録媒体表面に印刷した後に、インク中の成分が樹脂製記録媒体に対して高い密着性を持ち安定な保護膜を形成することが重要であると考えて検討を行った。その結果、ポリエステル樹脂からなるセグメントと、特定の炭素数のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル由来の構成単位を特定量含有する付加重合系樹脂からなるセグメントとを有する複合樹脂粒子を含有させることで、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性を向上させることができることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[3]を提供する。
[1]着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有するインクジェット記録用水系インクであって、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)が共有結合してなる複合樹脂を含有し、前記セグメント(A2)が、炭素数12以上18以下のアルキル基を有するアクリル酸エステル及び炭素数12以上18以下のアルキル基を有するメタクリル酸エステルの少なくとも1種に由来の構成単位を、セグメント(A2)中、5質量%以上50質量%以下含有する、インクジェット記録用水系インク。
[2]次の工程(1)〜(3)を含む、前記[1]に記載のインクジェット記録用水系インクの製造方法。
工程(1):セグメント(A1)及びセグメント(A2)の原料モノマーを重合させて、複合樹脂を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた複合樹脂を水性媒体と混合して、ポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液を得る工程
工程(3):工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液と、着色剤を含有する水性分散液とを混合し、インクジェット記録用水系インクを得る工程
[3]前記[1]に記載のインクジェット記録用水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、前記樹脂製記録媒体を70℃以上150℃以下に加熱する、インクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れるインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]第1の実施形態(インクジェット記録用水系インク)
本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録用水系インクは着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有するインクジェット記録用水系インクであって、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)が共有結合してなる複合樹脂を含有し、前記セグメント(A2)が、炭素数12以上18以下のアルキル基を有するアクリル酸エステル及び炭素数12以上18以下のアルキル基を有するメタクリル酸エステルの少なくとも1種に由来の構成単位(A2−1)を、セグメント(A2)中、5質量%以上50質量%以下含有する、インクジェット記録用水系インクである。
なお、本明細書において、「インクジェット記録用水系インク」を単に「水系インク」ということがある。
【0009】
本発明によると、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れるインクジェット記録用水系インクを提供することができる。本発明のインクジェット記録用水系インクが、このような効果を奏する理由は定かではないが、次のように考えられる。
ポリエステルは分子中に水酸基、カルボキシ基、エステル基等を有する。そのため、ポリエステルを含有する水系インクは、PETフィルム等の極性基を有するフィルムメディアに対しては、水素結合を形成するため密着性が良好であり、また、極性の高い水と親和して可塑化されることにより表面のガラス転移温度が低下し、それにより印字後に平滑性の高いコーティング膜が得られるため光沢性に優れる。しかし、PPフィルム等の極性の低いフィルムメディアに対しては十分な密着性を得ることが困難であった。
【0010】
これに対して、本発明の水系インクは、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂からなるセグメント(ポリエステルセグメント)の他に、アルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル由来の構成単位を特定量含有する付加重合系樹脂からなるセグメント(ビニルポリマーセグメント)を有する。このアルキル基が、フィルムメディアのアルキル基と強い分子間力を発現するため、極性の低いPPフィルムとの密着性が向上する。ここで、アルキル基を含む樹脂は結晶化しやすいため、フィルムへの密着性や、表面の平滑性が低下するところ、本発明においては、アルキル基の炭素数及び含有量を適切な範囲に制御することで、結晶性の発現を抑制しながら、密着性を向上できる。また、アルキル基を有するビニルポリマーセグメントをポリエステルセグメントと複合した樹脂とすることで、極性の高いポリエステルの水との親和性を利用し、水との親和性の低い長鎖アルキル基を含む樹脂でありながら水性媒体中に安定に分散させることが可能となるため、水系インク中に含有させることが可能となるうえ、ポリエステルを含有する水系インクをPETフィルム等の極性基を有するフィルムメディアに対して適用した際に得られる優れた光沢性をPP等の極性の低いフィルムメディアにおいても得ることができる。
これらの結果、本発明の水系インクは、PET等の極性の高いフィルムメディアに加えて、PP等の極性の低いフィルムメディアに対しても、密着性と光沢性のいずれにおいても優れるものと考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分、各工程について説明する。
【0011】
[ポリエステル系樹脂粒子(A)]
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂は、ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)(以下、「ポリエステル樹脂セグメント(A1)」又は「セグメント(A1)」ともいう)及び付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)(以下、「付加重合系樹脂セグメント(A2)」又は「セグメント(A2)」ともいう)が共有結合してなる複合樹脂を含有し、前記セグメント(A2)が、炭素数12以上18以下のアルキル基を有するアクリル酸エステル及び炭素数12以上18以下のアルキル基を有するメタクリル酸エステルの少なくとも1種に由来の構成単位(A2−1)を、セグメント(A2)中、5質量%以上50質量%以下含有するものである。
【0012】
ここで、ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)とは、セグメント(A1)がポリエステル樹脂に由来することを意味する。また、付加重合系樹脂からなるセグメント(A2)とは、セグメント(A2)が付加重合系樹脂に由来することを意味する。更に、当該複合樹脂は、セグメント(A1)及びセグメント(A2)の他に、本発明の効果を阻害しない範囲内において他のセグメントを有していてもよい。しかし、当該複合樹脂中における、セグメント(A1)及びセグメント(A2)の合計含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%である。
なお、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成する樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ポリエステル系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよいが、ポリエステル系樹脂粒子(A)中におけるポリエステル系樹脂の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、より更に好ましくは実質的に100質量%、より更に好ましくは100質量%である。ポリエステル系樹脂以外の樹脂としては、インクジェット記録用水系インクに用いられる公知の樹脂、例えば、スチレン−アクリル共重合体、エポキシ、ポリカーボネート、ポリウレタン等を使用することができる。
【0013】
<ポリエステル系樹脂>
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂は、前記複合樹脂を含有する。
複合樹脂の含有量は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは実質的に100質量%、より更に好ましくは100質量%である。
また、複合樹脂の含有量は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するすべての樹脂中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは実質的に100質量%、より更に好ましくは100質量%である。
【0014】
<複合樹脂>
セグメント(A2)は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、複合樹脂中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、より更に好ましくは18質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは48質量%以下、更に好ましくは45質量%以下、より更に好ましくは42質量%以下である。
また、セグメント(A1)は、同様の観点から、複合樹脂中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは52質量%以上、更に好ましくは55質量%以上、より更に好ましくは58質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下、より更に好ましくは82質量%以下である。
【0015】
複合樹脂の軟化点は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、また、好ましくは130℃以下、より好ましくは125℃以下、更に好ましくは120℃以下である。なお、軟化点は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
複合樹脂のガラス転移温度は、同様の観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上、より更に好ましくは50℃以上であり、また、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは55℃以下である。なお、ガラス転移温度は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
複合樹脂の酸価は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは8mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、また、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下、更に好ましくは23mgKOH/g以下である。なお、酸価は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0016】
(ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1))
複合樹脂を構成するポリエステル樹脂セグメント(A1)は、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られる樹脂セグメントである。
【0017】
〔アルコール成分〕
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むことが好ましい。
なお、本発明において、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンにオキシアルキレン基を付加した構造全体を意味するものである。
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、具体的には次の一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
一般式(I)において、R1O、R2Oはいずれもオキシアルキレン基であり、好ましくは、それぞれ独立に炭素数1以上4以下のオキシアルキレン基であり、より好ましくは、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基である。
x及びyは、アルキレンオキサイドの付加モル数に相当する。さらに、カルボン酸成分との反応性の観点から、xとyの和の平均値は2以上7以下が好ましく、2以上5以下がより好ましく、2以上3以下がさらに好ましい。
また、x個のR1Oとy個のR2Oは、各々同一であっても異なっていてもよいが、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、同一であることが好ましい。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。このビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物が好ましく、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物がより好ましく、これらを併用することが更に好ましい。
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分中におけるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは50モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは70モル%以上100モル%以下であり、更に好ましくは90モル%以上100モル%以下である。
【0020】
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分には、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外に以下のアルコール成分を含有することができる。
具体的には、セグメント(A1)の構成単位の由来する原料モノマー(以下、単に「セグメント(A1)の原料モノマー」ともいう)のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2以上4以下)オキサイド付加物(平均付加モル数1以上16以下)等が挙げられる。前記アルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
〔カルボン酸成分〕
セグメント(A1)はポリエステル樹脂であり、原料モノマーとして、アルコール成分以外にカルボン酸成分が用いられる。
セグメント(A1)の原料モノマーであるカルボン酸成分には、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、コハク酸、アルキル基及び/又はアルケニル基を有するコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸の無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、インクの吐出性を向上させる観点、並びに、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸が好ましく、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、テレフタル酸及びフマル酸が更に好ましい。前記カルボン酸成分は、単独で又は2種以上が含まれていてもよい。
【0023】
また、カルボン酸成分として、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸、例えば不飽和脂肪族カルボン酸及び/又は不飽和脂環式カルボン酸の炭素−炭素不飽和結合の部分は、複合樹脂中でセグメント(A2)との結合部分となることができる。
【0024】
非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸(不飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂環式カルボン酸)としては、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;テトラヒドロフタル酸等の不飽和脂環式カルボン酸等が挙げられる。PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
なお、本実施の形態では、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸のことを「両反応性モノマー」ということがある。
【0025】
カルボン酸成分中、両反応性モノマーの含有量は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上であり、また、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0026】
セグメント(A1)において、樹脂粒子の粒径を適切に調整し、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、アルコール成分の水酸基とカルボン酸成分のカルボキシ基とのモル比(水酸基/カルボキシ基)は、好ましくは100/80〜100/120であり、より好ましくは100/85〜100/110、更に好ましくは100/90〜100/105である。
【0027】
(付加重合系樹脂からなるセグメント(A2))
複合樹脂を構成するセグメント(A2)は、付加重合性モノマー(a2)(以下、「モノマー(a2)」ともいう)に由来する構成単位からなる付加重合系樹脂からなるセグメントである。
このセグメント(A2)は、炭素数12以上18以下のアルキル基を有するアクリル酸エステル及び炭素数12以上18以下のアルキル基を有するメタクリル酸エステルの少なくとも1種(以下、「付加重合性モノマー(a2−1)」ということがある)に由来の構成単位(A2−1)を、セグメント(A2)中、5質量%以上50質量%以下含有する。
この構成単位(A2−1)が、セグメント(A2)中、5質量%以上であれば、PPフィルムのような極性の低いフィルムメディアとの密着性が向上する。また、50質量%以下であれば、PETフィルムのような極性の高いフィルムメディアとの密着性が向上し、また、平滑性の高いコーティング膜が得られるため光沢性に優れる。当該観点から、この構成単位(A2−1)が、セグメント(A2)中、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは45質量%以下、より好ましくは42質量%以下である。
【0028】
付加重合性モノマー(a2−1)において、当該アルキル基は、当該観点から、好ましくは炭素数14以上18以下であり、より好ましくは炭素数16以上18以下であり、更に好ましくは炭素数18である。また、炭素数12以上18以下のアルキル基は、PPフィルムのような極性の低いフィルムメディアとの密着性を向上させる観点から、直鎖であることが好ましい。
【0029】
複合樹脂を構成するセグメント(A2)は、前記の構成単位(A2−1)の他に、スチレン系化合物(a2−2)に由来の構成単位(A2−2)を含有することが好ましい。この構成単位(A2−2)の含有量は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、セグメント(A2)中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは58質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは92質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、より更に好ましくは85質量%以下である。
【0030】
スチレン系化合物(a2−2)としては、スチレン、メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、スチレンスルホン酸又はその塩等のスチレン類が好ましく、スチレンを含むことがより好ましく、スチレンが更に好ましい。
複合樹脂は、前記構成単位(A2−1)及び構成単位(A2−2)の他に、他のモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。
他のモノマーとしては、(a2−1)以外の(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1以上22以下)、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のハロゲン化ビニリデン;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0032】
<複合樹脂の製造>
複合樹脂の製造方法には特に制限はなく、セグメント(A1)及びセグメント(A2)の原料モノマーを重合させることにより、複合樹脂を得ることができるが、下記の第1〜3の製造方法のいずれかにより製造することが好ましい。
なお、モノマーの反応性を制御する観点から、エステル化触媒、エステル化助触媒等の触媒を用いてもよく、更に重合開始剤及び重合禁止剤を用いてもよい。
【0033】
(1)第1の製造方法
第1の製造方法は、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して、ポリエステル樹脂(a1)(以下「樹脂(a1)」ともいう)を調製し(重縮合工程)、次いで、該ポリエステル樹脂(a1)の存在下、付加重合性モノマー(a2)を付加重合(付加重合工程)する方法である。
【0034】
(重縮合工程)
重縮合工程では、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して、ポリエステル樹脂(a1)を調製する。
このポリエステル樹脂(a1)は、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂であり、前記ポリエステル樹脂からなるセグメント(A1)を構成するのに好ましいものである。また、樹脂(a1)のアルコール成分及びカルボン酸成分の好適な種類及び好適な含有量は前記セグメント(A1)の場合と同じである。
【0035】
ポリエステル樹脂(a1)は、例えば、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じエステル化触媒を用いて、180℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
樹脂粒子の粒径制御の観点、並びにPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、ポリエステル樹脂はシャープな分子量分布を有することが好ましく、エステル化触媒を用いて重縮合をすることが好ましい。エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の金属化合物等が挙げられる。ポリエステル樹脂の合成におけるエステル化反応の反応効率の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2−エチルヘキサン)酸スズ、これらの塩等が好ましく用いられ、ジ(2−エチルヘキサン)酸スズがより好ましく用いられる。エステル化触媒の使用量に制限はないが、酸成分とアルコール成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下である。
【0036】
また、没食子酸等のエステル化助触媒を用いてもよい。エステル化助触媒の使用量は、酸成分とアルコール成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
また、必要に応じてラジカル重合禁止剤を使用することができる。ラジカル重合禁止剤としては、tert−ブチルカテコール等が挙げられる。ラジカル重合禁止剤の使用量は、酸成分とアルコール成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0037】
重縮合工程では、セグメント(A1)の原料であるカルボン酸成分のうち、全部を用いてもよいが、一部を重縮合工程で用い、残部を付加重合工程で用いることが好ましい。非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有するカルボン酸を両反応性モノマーとして使用する場合は、付加重合工程で用いることが好ましい。これにより、セグメント(A1)とセグメント(A2)とが共有結合してなる複合樹脂を良好に製造することができる。また、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有する2価以上の多価カルボン酸を両反応性モノマーとして使用しない場合は、付加重合工程に次いで、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有する2価以上の多価カルボン酸及び4−t−ブチルカテコール等のラジカル重合禁止剤を添加するのが好ましい。これにより、非芳香族性の炭素−炭素不飽和結合を有する2価以上の多価カルボン酸成分を含むセグメント(A1)を有する複合樹脂を良好に製造することができる。
【0038】
(付加重合工程)
付加重合工程では、該ポリエステル樹脂(a1)の存在下、付加重合性モノマー(a2)を付加重合する。付加重合性モノマー(a2)の詳細は、前述の通りである。
当該付加重合工程では、重縮合工程で用いなかった前述のカルボン酸成分を、付加重合性モノマー(a2)とともにポリエステル樹脂(a1)に添加するのが好ましい。これにより、セグメント(A1)とセグメント(A2)とが共有結合してなる複合樹脂を良好に製造することができる。
付加重合工程では、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、公知のものが使用でき、例えば、ジブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。ラジカル重合開始剤の使用量は、重合開始剤の種類等によって異なるが、付加重合性モノマー(a2)の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
付加重合工程における反応温度は、重合開始剤の種類等によって異なるが、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、また、好ましくは215℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは205℃以下である。
【0039】
(2)第2の製造方法
第2の製造方法は、付加重合系樹脂セグメント(A2)の原料モノマー(付加重合性モノマー(a2))による付加重合反応を行い(付加重合工程)、その後に、ポリエステル樹脂セグメント(A1)の原料モノマーによる重縮合反応(重縮合工程)を行う方法である。
アルコール成分及びカルボン酸成分については、付加重合反応時に反応系内に存在させておき、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒及び必要に応じて更にエステル化助触媒を添加させることにより重縮合反応を開始することもできるし、重縮合反応に適した温度条件下で反応系内に後から添加することにより重縮合反応を開始することもできる。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒及び必要に応じて更にエステル化助触媒を添加することで分子量及び分子量分布が調節できる。
【0040】
(3)第3の製造方法
第3の製造方法は、アルコール成分及びカルボン酸成分による重縮合反応と付加重合系樹脂セグメント(A2)の原料モノマー(付加重合性モノマー(a2))による付加重合反応とを並行して行う方法である。
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で重縮合反応と付加重合反応とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。
【0041】
<複合樹脂以外のポリエステル系樹脂>
複合樹脂以外のポリエステル系樹脂としては、前記ポリエステル樹脂セグメント(A1)と同様に、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させることによって製造することができる。好ましい酸成分及びアルコール成分の具体例は、前記ポリエステル樹脂セグメント(A1)に用いられるポリエステル樹脂の場合と同様のものが好ましい。
複合樹脂以外のポリエステル系樹脂の軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、複合樹脂と同じ範囲が好ましい。
【0042】
<ポリエステル系樹脂粒子(A)の製造方法>
ポリエステル系樹脂粒子(A)は、前述の複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂を水性媒体中に分散して、ポリエステル系樹脂粒子(A)の水性分散液として得る方法により製造することが好ましい。
前記水性媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点及び環境安全性の観点から、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは実質的に100質量%である。水としては、脱イオン水又は蒸留水が好ましく用いられる。水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等の、水に溶解する有機溶媒が挙げられる。
【0043】
水性媒体中にポリエステル系樹脂を分散させる方法としては、複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂を水性媒体に添加し、分散機等によって分散処理を行う方法、複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法等が挙げられ、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、転相乳化による方法が好ましい。転相乳化法としては、先ず複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂を有機溶媒に溶解させ、次いで、この溶液に水性媒体を添加して転相し、その後、有機溶媒を除去することが好ましい。以下、転相乳化法について述べる。
【0044】
〔転相乳化法〕
まず、複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂を有機溶媒に溶解させて、溶液を得る。
複数種の複合樹脂又は複合樹脂以外の樹脂を含む場合には、予め、これら複合樹脂とその他の樹脂を混合したものを用いてもよいが、これらの樹脂を同時に有機溶媒に添加して溶解させ、溶液を得てもよい。
また、複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂の水性媒体への親和性を向上させ、樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点、及びPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、塩基性水溶液を使用することが好ましい。
溶液を得る方法としては、複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂及び有機溶媒を容器に入れて溶解させ、次いで塩基性水溶液を容器に入れ、撹拌器によって撹拌して溶液を得る方法が好ましい。
ポリエステル系樹脂の有機溶媒への溶解操作、及びその後の塩基性水溶液の添加は、通常、有機溶媒の沸点以下の温度で行う。
【0045】
有機溶媒としては、複合樹脂を含有するポリエステル系樹脂を溶解し、乳化物からの除去が容易である観点から、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数1以上3以下のアルキル基を有するジアルキルケトンが好ましく、より好ましくはメチルエチルケトンである。
有機溶媒とポリエステル系樹脂との質量比(有機溶媒/ポリエステル系樹脂)は、樹脂を溶解し水性媒体への転相を容易にする観点、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上であり、また、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.5以下である。
【0046】
塩基性水溶液に用いられる塩基性化合物としては、無機塩基化合物及び有機塩基化合物が挙げられる。
無機塩基化合物としては、カリウム、ナトリウム、リチウムといったアルカリ金属の水酸化物塩や炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられ、その具体例として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられる。有機塩基としては、アンモニアや、ジエチルエタノールアミンといったアルカノールアミンが挙げられる。樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点、及びPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0047】
塩基性水溶液中の塩基性化合物の濃度は、樹脂粒子分散液の分散安定性及び生産性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
次に、前記の樹脂混合物に水性媒体を添加して、転相し、ポリエステル系樹脂を含有する水性分散液を得る。
水性媒体を添加する際の温度は、樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下である。
水性媒体の添加速度は、樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点及びPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、転相が終了するまでは、樹脂粒子を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部/分以上、より好ましくは1質量部/分以上、更に好ましくは3質量部/分以上、より更に好ましくは5質量部/分以上であり、また、好ましくは100質量部/分以下、より好ましくは50質量部/分以下、更に好ましくは20質量部/分以下、より更に好ましくは15質量部/分以下である。転相後、樹脂粒子が得られた後の水性媒体の添加速度には制限はない。
【0048】
水性媒体の添加量は、水性分散液の生産性を向上させる観点から、樹脂粒子を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、更に好ましくは150質量部以上であり、また、好ましくは900質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは400質量部以下である。
転相乳化の後に、必要に応じて、転相乳化で得られた分散液から有機溶媒を除去してもよい。
有機溶媒の除去方法は、特に限定されず、任意の方法を用いることができるが、水と溶解しているため蒸留するのが好ましい。
【0049】
このようにして得られたポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液は、金網等で濾過し、粗大粒子等を除去するのが好ましい。また、前記有機溶媒の除去を行った場合には、有機溶媒とともに水も共沸して減じているため、水を添加して固形分濃度を調整することが好ましい。
調整後の固形分濃度は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
【0050】
得られたポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液のpHは、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは6以上、より好ましくは6.5以上であり、また、好ましくは8以下、より好ましくは7.5以下、更に好ましくは7.2以下である。
ポリエステル系樹脂粒子(A)の体積平均粒径は、吐出性に優れ、かつPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは130nm以上であり、また、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
ポリエステル系樹脂粒子(A)の体積平均粒径は、動的光散乱法で測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
【0051】
[着色剤]
本発明において着色剤とは、顔料又は染料をいう。また、後述するとおり、着色剤は、界面活性剤やポリマーを用いてインク中で安定な微粒子にしてもよい。本発明に用いる着色剤としては、特に制限はなく、顔料、疎水性染料、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等を用いることができるが、インクの耐水性、分散安定性及び耐擦過性を向上させる観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いることが好ましい。
【0052】
<顔料>
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。
有機顔料としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0053】
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
これらの中でもインクの発色性を向上させる観点から、キナクリドン顔料が好ましい。
また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料も好適に用いることができる。キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)、又はβ型、γ型等の無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドン、3,10−ジクロロキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロロキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組み合わせからなる固溶体顔料が好ましい。
【0054】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水性媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1以上12以下のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
自己分散型顔料の市販品としては、例えば、キャボット社製のCab−O−Jet 260M(2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)の誘導体)、200、300、400、270Y、470Y、740Y、554B、480V、352B、260M、265M、465M、250C、450C、1027R;オリヱント化学工業社製のBONJET BLACK CW−1、CW−2、M−800;東海カーボン社製のAqua−Black 001、162等が挙げられる。
前記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0055】
<顔料以外の着色剤>
疎水性染料は、ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20g/L以上500g/L以下(25℃)溶解するものが望ましい。ここで、疎水性染料とは、100gの水中(20℃)、溶解度が、好ましくは6質量%未満の染料のことをいう。
疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。
油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリヱント化学工業社、BASF社等から市販されている。
前記の着色剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0056】
<着色剤を含有するポリマー粒子>
着色剤は、水系インクに使用する場合には、界面活性剤、ポリマーを用いて、インク中で安定な微粒子にすることが好ましい。特に、インクの耐滲み性、及び耐水性を向上させる観点から、ポリマーの粒子中に着色剤を含有させることがより好ましく、ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることが更に好ましく、水不溶性ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることがより更に好ましい。
以下に、着色剤を含有するポリマー粒子について説明する。
【0057】
着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径は、インクの画像濃度を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径は、動的光散乱法で測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
【0058】
(水不溶性ポリマー)
着色剤を含有するポリマー粒子には、インク中でのポリマー粒子の水分散性及びインクの画像濃度を向上させる観点から、水不溶性ポリマーを用いることが好ましい。ここで、本発明の「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0059】
ビニル系ポリマーとしては、(a)イオン性モノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。なかでも、更に(c)マクロマー(以下「(c)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0060】
〔(a)イオン性モノマー〕
(a)イオン性モノマーは、着色剤を含有するポリマー粒子をインク中で安定に分散させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記アニオン性モノマーの中では、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0061】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1以上22以下、好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0062】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマー2種類以上を使用することができるが、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリレートを併用することができ、ベンジル(メタ)アクリレートとスチレンを併用することができるが、ベンジル(メタ)アクリレートを単独で用いることがより好ましい。
【0063】
〔(c)マクロマー〕
(c)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する好ましくは数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下がより好ましい。なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定されるものであり、溶媒としてクロロホルム等、標準物質としてポリスチレン等を用いて測定される。
(c)マクロマーとしては、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0064】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下「(d)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0065】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
前記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
ビニル系ポリマー製造時における、前記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
(b)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは98質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0067】
(c)成分を含有する場合の(c)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
(d)成分を含有する場合の(d)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
また、(c)成分を含有する場合の〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の質量比は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性及びインクの画像濃度を向上させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上、より更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.10以上であり、また、好ましくは1以下、より好ましくは0.67以下、更に好ましくは0.50以下である。
【0068】
(水不溶性ポリマーの製造)
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
【0069】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上80℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点と、インクの画像濃度を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、また、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、更に好ましくは300,000以下、より更に好ましくは200,000以下である。なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0070】
<着色剤を含有するポリマー粒子の製造>
着色剤を含有するポリマー粒子は、水性分散液として次の工程A及びBを有する方法により、製造することが好ましい。
工程A:水不溶性ポリマー、有機溶媒、着色剤、及び水を含有する混合物を分散処理して、着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程B:工程Aで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液を得る工程
また、任意の工程であるが、更に工程Cを行ってもよい。
工程C:工程Bで得られた水性分散液と架橋剤を混合し、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子に架橋処理する工程
【0071】
(工程A)
工程Aでは、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させて水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液を得、次に着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、着色剤の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、ケトン類がより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0072】
水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーのアニオン性基の中和度は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中及び水性媒体中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、また、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0073】
前記分散体中、着色剤は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。また、有機溶媒は、好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
前記分散体中、水不溶性ポリマーは、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。水は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下である。
前記水不溶性ポリマーの量に対する着色剤の量の質量比〔着色剤/水不溶性ポリマー〕は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中及び水性媒体中での分散安定性を向上させる観点から、50/50〜90/10であることが好ましく、60/40〜80/20であることがより好ましく、70/30〜80/20であることが更に好ましい。
【0074】
工程Aにおける分散体の分散方法に特に制限はない。本分散だけで着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程Aの分散における温度は、0℃以上40℃以下が好ましく、0℃以上25℃以下がより好ましく、分散時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、また、好ましくは30時間以下、より好ましくは25時間以下である。
分散体を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0075】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、着色剤を含有するポリマー粒子を小粒径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0076】
(工程B)
工程Bでは、工程Aで得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液を得ることができる。得られた着色剤を含有するポリマー粒子を含む水性分散液中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液は、着色剤を含有する固体のポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該水不溶性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、該水不溶性ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、該水不溶性ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0077】
(工程C)
工程Cは、任意の工程であるが、工程Bで得られた水性分散液と架橋剤を混合し、着色剤を含有するポリマー粒子に架橋処理する工程である。工程Cを行うことが、水性分散液及びインクの保存安定性の観点から好ましい。
ここで、架橋剤は、水不溶性ポリマーがアニオン性基を有するアニオン性水不溶性ポリマーである場合において、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0078】
架橋剤の使用量は、水性分散液及びインクの保存安定性を向上させる観点から、〔架橋剤/アニオン性水不溶性ポリマー〕の質量比で0.3/100〜50/100が好ましく、1/100〜40/100がより好ましく、5/100〜25/100が更に好ましい。
得られた着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水性分散液は、金網等で濾過し、粗大粒子等を除去するのが好ましい。また、水性分散液の生産性及び保存安定性を向上させる観点から、後述の水系インク中に任意に添加される、有機溶媒、防腐剤、防黴剤等の各種添加剤を、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水性分散液に添加してもよい。
着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水性分散液の固形分濃度は、水性分散液の生産性及び保存安定性を向上させる観点、及びPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
【0079】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、前述の着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する。
本発明の水系インクに含まれる着色剤の含有量は、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、水系インク中で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
本発明の水系インクに含まれるポリエステル系樹脂粒子(A)の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点、並びに、PET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、水系インク中で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
【0080】
本発明の水系インクに含まれる水の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点から、水系インク中で、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは55質量%以下、より更に好ましくは50質量%以下、より更に好ましくは45質量%以下である。
本発明の水系インクに含まれるポリエステル系樹脂粒子(A)に対する着色剤の質量比〔着色剤/ポリエステル系樹脂粒子(A)〕は、水系インクの吐出性を良好にする観点、並びにPET、PP等の樹脂製記録媒体への密着性及び光沢性に優れる水系インクを得る観点から、水系インク中で、好ましくは20/80〜70/30、より好ましくは30/70〜60/40、更に好ましくは40/60〜50/50であり、より更に好ましくは40/60〜48/52である。
【0081】
[水系インクの任意成分]
本発明の水系インクは、有機溶媒、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
有機溶媒としては、前記の炭素数1以上3以下のアルキル基を有するジアルキルケトンのほかに、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、アセチレングリコール等の多価アルコール、2−ピロリドン等のピロリドン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のグリコールエーテルが好ましく、これらを2つ以上併用することがより好ましい。
本発明において、有機溶媒の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点から、水系インク中で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0082】
本発明において、界面活性剤の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点から、水系インク中で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
前述した本発明のインクジェット記録用水系インクは、吐出性、樹脂製記録媒体への定着性及び高温での画像保存性に優れるため、当該水系インクを用いたインクジェット記録方法には特に制限はないが、次に説明する本発明のインクジェット記録方法によれば、吐出性、樹脂製記録媒体への定着性及び高温での画像保存性をより向上させることができる。
【0083】
[2]第2の実施形態(インクジェット記録用水系インクの製造方法)
本発明のインクジェット記録用水系インクは、次の工程(1)〜(3)を経ることにより、好適に製造することができる。
工程(1):セグメント(A1)及びセグメント(A2)の原料モノマーを重合させて、複合樹脂を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた複合樹脂を水性媒体と混合して、ポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液を得る工程
工程(3):工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液と、着色剤を含有する水性分散液とを混合し、インクジェット記録用水系インクを得る工程
【0084】
[工程(1)及び工程(2)]
工程(1)及び工程(2)は、前述したとおりである。
【0085】
[工程(3)]
工程(3)では、工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水性分散液と、着色剤を含有する水性分散液と、必要に応じて前述した任意成分とを混合する。次に、工程(3)の好適例を説明する。
先ず、イオン交換水等の水と、必要に応じて任意成分である有機溶剤及び各種添加剤の少なくとも1種とを混合し、必要に応じて撹拌して、混合溶液を得る。
次いで、この混合液を、着色剤を含有する水性分散液に混合し、更に工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)の水性分散液を滴下しながら撹拌混合し、その後、必要に応じてフィルター等で濾過することにより、水系インクを好適に得ることができる。
【0086】
[3]第3の実施形態(インクジェット記録方法)
本発明のインクジェット記録方法は、着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、該樹脂製記録媒体を70℃以上150℃以下に加熱する、インクジェット記録方法である。
なお、水系インクの詳細は、前述したとおりであるため、省略する。
【0087】
本発明のインクジェット記録方法においては、樹脂製記録媒体を記録媒体として用いるため、本発明の水系インクの効果である記録媒体への定着性及び高温での画像保存性をより発揮させることができる。
また、本発明では、水系インクを樹脂製記録媒体に付着させた後、樹脂製記録媒体を70℃以上150℃以下に加熱するため、記録媒体への定着性及び高温での画像保存性を更に発揮させることができる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例等により、本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例等においては、各物性は次の方法により測定した。なお、「部」及び「%」は特記しない限り、「質量部」及び「質量%」である。
【0089】
[複合樹脂A〜K、ポリエステル樹脂L、樹脂ブレンドM、及び付加重合系樹脂Nの酸価]
測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更したこと以外は、JIS K0070に従って測定した。
【0090】
[複合樹脂A〜K、ポリエステル樹脂L、樹脂ブレンドM、及び付加重合系樹脂Nの軟化点]
フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0091】
[複合樹脂A〜K、ポリエステル樹脂L、樹脂ブレンドM、及び付加重合系樹脂Nのガラス転移温度]
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、測定用サンプルを調製した。その後、昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0092】
[ポリエステル系樹脂粒子の水性分散液中の樹脂粒子の体積平均粒径(DV)]
動的光散乱型粒径測定機「ZETASIZER NANO ZS」(マルバーン社製)を用いて、以下の条件で体積平均粒径(DV)を測定した。
固形分濃度:0.1質量%
測定温度:25℃
媒質:水
測定用セル:Glass Cuvette
レーザー仕様:He−Ne、4mW,633nm
検出光学系:NIBS、173℃
測定回数:10回
等温化時間:5分
解析ソフト:Zeta Sizer Software 6.2
解析方法:General Purpose Mode(キュムラント法)
【0093】
[ポリエステル系樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度]
赤外線水分計「FD−230」(ケツト科学研究所社製)を用いて、水性分散液5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、水性分散液の水分(質量%)を測定した。固形分濃度は次の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100−M
M:水性分散液の水分(質量%)=[(W−W0)/W]×100
W:乾燥前の試料質量(初期試料質量)
0:乾燥後の試料質量(絶対乾燥質量)
【0094】
[ポリエステル系樹脂粒子の水性分散液のpH]
pHメーター「HM−20P」(東亜ディーケーケー社製)を用いて、25℃で測定した。
【0095】
[水不溶性ポリマー(アニオン性ポリマー)の重量平均分子量の測定]
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により測定した。標準物質としては、ポリスチレン「A−500」「A−2500」「F−1」「F−10」(以上、いずれも東ソー社製)を用いた。試料はN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し固形分0.3質量%の溶液とした。
【0096】
[顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の水性分散液の固形分濃度の測定]
30mLの軟膏容器にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0097】
[顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の体積平均粒径(DV)の測定]
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子社製、キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10-3質量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0098】
[密着性の評価]
水系インク1.0gをPETフィルム「ルミラー75T60」(東レ社製)及びコロナ処理PPフィルム「FOR−15」(フタムラ化学社製)に卓上コーター「ModelTC−1」(三井電気精機社製)のNO.20のワイヤーバーにて塗工し、80℃の乾燥機にて10分乾燥し、25℃50%の環境室にて1日静置した後、塗工面に長さ4cmのテープ「セロテープCT15」(登録商標、ニチバン社製)を貼りつけた後90°の角度で10cm/secの速度で剥がし、その剥がれ具合を目視により次の11段階で評価した。
(評価基準)
剥離面積0%:10点
剥離面積5%以下:9点
剥離面積10%以下:8点
剥離面積20%以下:7点
剥離面積30%以下:6点
剥離面積40%以下:5点
剥離面積50%以下:4点
剥離面積60%以下:3点
剥離面積70%以下:2点
剥離面積80%以下:1点
剥離面積100%以下:0点
【0099】
[光沢性の評価]
水系インク1.0gをPETフィルム「ルミラー75T60」(東レ社製)に卓上コーター「ModelTC−1」(三井電気精機社製)のNO.20のワイヤーバーにて塗工後、80℃の乾燥機にて10分乾燥し、塗工面を上にしてKPカット紙(国際紙パルプ商事社製)上に乗せ、光沢度計「IG−300」(堀場製作所社製)で入射角60°にて測定した。値が大きいほど光沢性に優れる。
【0100】
製造例1〜11
(複合樹脂A〜Kの製造)
表1、2に示すフマル酸及び両反応性モノマー以外のセグメントA1(ポリエステル樹脂)の原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後235℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、160℃まで冷却し、表1、2に示すセグメントA2(付加重合系樹脂)の原料モノマー、両反応性モノマー及びラジカル重合開始剤の混合溶液を1時間かけて滴下した。その後、30分間160℃に保持したのち、200℃まで昇温し、更に8kPaの減圧下で1時間反応させた後、180℃まで冷却した。フマル酸及びラジカル重合禁止剤を加え、210℃まで2時間かけて昇温を行った。210℃にて1時間反応後、40kPaにて、表1、2に記載の軟化点に達するまで反応させて、複合樹脂A〜Kを得た。なお、反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
得られた複合樹脂A〜Kの物性等を表1、2に示す。
【0101】
製造例12
(ポリエステル樹脂Lの製造)
表2に示すフマル酸以外のポリエステル樹脂の原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後235℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、180℃まで冷却し、フマル酸及びラジカル重合禁止剤を加え、210℃まで2時間かけて昇温を行った。210℃にて1時間反応後、40kPaにて軟化点が120℃に達するまで反応させて、ポリエステル樹脂Lを得た。
得られたポリエステル樹脂Lの物性等を表2に示す。
【0102】
製造例13
(樹脂ブレンドMの製造)
表2に示すフマル酸以外のポリエステル樹脂の原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温を行った。その後235℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、160℃まで冷却し、表2に示す付加重合系樹脂の原料モノマー、ラジカル重合開始剤の混合溶液を1時間かけて滴下した。その後、30分間160℃に保持したのち、200℃まで昇温し、更に8kPaの減圧下で1時間反応させた後、180℃まで冷却した。フマル酸及びラジカル重合禁止剤を加え、210℃まで2時間かけて昇温を行った。210℃にて1時間反応後、40kPaにて、表2に記載の軟化点に達するまで反応させて、ポリエステル樹脂と付加重合系樹脂の混合物である樹脂ブレンドMを得た。
得られた樹脂ブレンドMの物性等を表2に示す。
【0103】
製造例14
(付加重合系樹脂Nの製造)
付加重合系モノマーとしてスチレン179g、ステアリルメタクリレート45g、重合溶媒としてメチルエチルケトン224gを温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した2リットルの四つ口フラスコに入れ、オイルバスで70℃まで昇温後、重合開始剤としてパーブチルPV(t-Butyl peroxypivalate、10時間半減期温度54.6℃(日本油脂社製))9g入れ、窒素雰囲気下で70℃10時間撹拌しながら重合反応を行い、付加重合系樹脂Nを得た。
得られた付加重合系樹脂Nの物性等を表2に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
製造例15〜26
(ポリエステル系樹脂粒子を含有する水性分散液等a〜lの製造)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器(「スリーワンモーターBL300」(新東科学社製))及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表3に示す種類及び配合量の複合樹脂を入れ、30℃でメチルエチルケトン200gと混合し溶解させた。次いで、表3に示す量の5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して30分撹拌後、30℃で撹拌下で20mL/minの速度で脱イオン水を滴下した後、60℃に昇温した後、80kPa〜30kPaに段階的に減圧していきながらメチルエチルケトンを留去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網で濾過し、イオン交換水にて固形分濃度を30質量%に調整し、ポリエステル系樹脂粒子を含有する水性分散液等を得た。
得られた水性分散液の物性等を表3に示す。
【0107】
製造例27(比較例6)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器(「スリーワンモーターBL300」(新東科学社製))及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表3に示す配合量の樹脂ブレンドMを入れ、30℃でメチルエチルケトン200gと混合し溶解させた。次いで、表3に示す量の5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して30分撹拌後、30℃で撹拌下で20mL/minの速度で脱イオン水を滴下したところ、滴下中にゲル化して水性分散液が得られなかった。
【0108】
製造例28(比較例7)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器(「スリーワンモーターBL300」(新東科学社製))及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表3に示す配合量の付加重合系樹脂Nのメチルエチルケトン溶液(固形分50質量%)400gを入れ、次いで、表3に示す量の5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して30分撹拌後、30℃で撹拌下で20mL/minの速度で脱イオン水を滴下したところ、滴下中にゲル化して水性分散液が得られなかった。
【0109】
【表3】
【0110】
製造例29(着色剤(顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子の水性分散液の調製)
(1)水不溶性ポリマー(アニオン性ポリマー)の合成
ベンジルメタクリレート399部(和光純薬工業社製)、メタクリル酸91部(和光純薬工業社製)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート「M−230G」(新中村化学工業社製、オキシエチレン基の平均付加モル数23)140部、スチレンマクロマー「AS−6S」(東亞合成社製、固形分50%)140部を混合し、モノマー混合液(770部)を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン15.75部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.350部、前記モノマー混合液の10%(77部)を入れて混合し、窒素ガス置換を行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の80%(616部)と前記重合連鎖移動剤2.45部とメチルエチルケトン173.25部及び重合開始剤「V−65」(和光純薬工業社製、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))5.6部を混合したものを入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を撹拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を4.5時間かけて滴下した。その後モノマー混合液の残り10%(77部)と前記重合連鎖移動剤0.7部とメチルエチルケトン126部及び前記重合開始剤1.4部を混合したものを2段目滴下として75℃、1.7時間かけて滴下した。
滴下終了後、前記開始剤2.1部を混合し80℃まで昇温し、1.5時間撹拌した。この開始剤の混合、昇温及び撹拌操作をさら2回行なうことでポリマー溶液(ポリマー重量平均分子量:26000)を得た。
【0111】
(2)顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の水性分散液の製造
前記(1)で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー20部をメチルエチルケトン62.8部に溶解し、その中に、5N水酸化ナトリウム水溶液5.01部、25%アンモニア水1.13部、及びイオン交換水236.5部を加え、10〜15℃でディスパー翼を用いて2000rpmで15分間撹拌混合を行なった。続いてマゼンタ顔料:PV19「Inkjet Magenta E5B02」(クラリアント社製)45部及びPR122「6111T」(大日精化工業社製)25部を加え、10〜15℃でディスパー翼を用いて7000rpmで3時間撹拌混合した。得られた分散液を200メッシュ濾過し、マイクロフルイダイザー「M−110K」(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー)を用いて、150MPaの圧力で20パス分散処理した。
得られた分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分を孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製)で濾過して粗大粒子を除いた。さらにこの分散液80部にグリセリン(花王社製)5.0部、プロキセルXL2(アビシア社製)0.2部、及びイオン交換水14.8部を混合し、70℃で1時間の滅菌処理を行なったのち、25℃まで冷却し、前記孔径5μmのフィルターで濾過することで、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の水性分散液〔固形分濃度20質量%、体積平均粒径133nm〕を得た。
【0112】
実施例1〜7及び比較例1〜7
(水系インクの製造)
100mLスクリュー管にグリセリン(花王社製)8.67部、ジエチレングリコール(和光純薬工業社製)15.0部、「サーフィノール104PG50」(日信化学工業社製、有効成分:アセチレングリコール、濡れ剤)1.50部、「エマルゲン120」(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、乳化剤)1.50部及びイオン交換水29.96部を混合し、マグネチックスターラーで室温で15分間撹拌して、混合溶液を得た。
次に製造例29で得られた顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水性分散液26.67部(顔料分換算4.0部(水系インク100部中))をマグネチック・スターラーで撹拌しながら、前記混合溶液を混合し、さらに表4に示すポリエステル系樹脂粒子を含有する水性分散液等16.7部(固形分換算5.0部(水系インク100部中))をスポイトで滴下しながら撹拌混合した。最後に孔径1.2μmのフィルターで濾過し、水系インクを得た。得られた水系インクの評価結果を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
表4の結果から、実施例の水系インクは、比較例の水系インクに比べて、PET及びPPへの密着性、及び光沢性に優れることがわかる。