(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定対象物の測定部位の分割により区切られた小領域毎の放射能量の最大値を、前記測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値に基づいて求め、
前記小領域毎の放射能量の最大値と、前記小領域毎の放射能換算係数とに基づいて小領域毎に放射線検出器の計数率を算出し、
前記計数率を前記小領域の放射能換算係数が大きい順番に加算して得られた和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率以上となったときの前記小領域の加算個数と前記小領域の最大値に基づいて前記測定対象物の放射能量とする放射能評価方法。
全ての小領域について加算して得られた前記計数率の前記和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率に達しない場合、全ての小領域の最大値を、前記実測して得られた計数率となるように前記小領域の最大値を補正する請求項2に記載の放射能評価方法。
測定対象物の測定部位の分割により区切られた小領域毎の放射能量の最大値を、前記測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値に基づいて求めるステップと、
前記小領域毎の放射能量の最大値と、前記小領域毎の放射能換算係数とに基づいて小領域毎に放射線検出器の計数率を算出するステップと、
前記計数率を前記小領域の放射能換算係数が大きい順番に加算して得られた和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率以上となったときの前記小領域の加算個数と前記小領域の最大値に基づいて前記測定対象物の放射能量とするステップをコンピュータに実行させる放射能評価プログラム。
全ての小領域について加算して得られた前記計数率の前記和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率に達しない場合、全ての小領域の最大値を、前記実測して得られた計数率となるように前記小領域の最大値を補正する請求項5に記載の放射能評価プログラム。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の運転・解体に伴って発生する物の中には、放射能レベルが極めて低く健康への影響が無視できる物がある。これらの物は、
放射性濃度が定められた基準値以下であることを確認にすることにより、放射性物質として扱う必要のないものとして一般社会で再生利用できる。
【0003】
ところで、放射性物質として扱う必要のないものとして一般社会で再生利用ができる放射性濃度をクリアランスレベルという。クリアランスレベルは人が自然から受ける放射線量である年間2.4ミリシーベルトよりも、はるかに低い年間0.01ミリシーベルトが基準となり定められている。このクリアランスレベルを超えているか否かを判断するための放射線測定装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
放射線検出器は、γ線、β線の放射線に対する計数率(cps;count per second)を測定するものである。この計数率から放射能量(Bq:ベクレル)を得るには、放射能換算係数(Bq/cps)を用いる必要がある。放射能換算係数は、数値シミュレーションや試験によって、既知の放射能量を有する基準放射線源に対する放射線検出器の計数率を求め、放射能量を計数率で除した値として決定される。
【0005】
図6は、従来の放射能換算係数の求め方の一例である。
この例では、
図6に示すように測定対象物100の表面または体積をメッシュ状に区分して、放射線検出器110の応答が8cpsであった場合を想定している。なお、本明細書では、応答を計数率ともいう。この例では、最も検出しにくい(すなわち、放射能換算係数が最も大きい)コーナー部に放射性物質が集中して存在している状態を想定して、放射能量(Bq)を8(cps) × amax(Bq/cps)と算出している。
【0006】
また、特許文献2では、複数の放射線検出器を用いて検出した結果、それらの放射線検出器の計数率の内、最大のものを用いて放射能換算係数を過大に設定することなく測定を行うようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、放射能換算係数は、放射性物質の付着分布、放射性物質と放射線検出器との位置関係に依存する。同じ放射能量(Bq)であっても、放射性物質と放射線検出器の距離が大きく、または遮蔽物が存在すれば、放射線検出器の計数率(cps)が小さくなり、その結果、放射能換算係数は大きくなる性質を持つ。したがって、同じ計数率(cps)であっても放射能換算係数が大きくなれば、放射能量の評価値(Bq)は大きくなる。これら具体例を
図5に示す。
【0009】
図5(a)〜(d)は同一の測定対象物100に1000Bqの放射性物質がそれぞれ異なる分布で存在している場合の例を示している。
図5(a)は点状に放射性物質が測定対象物に集中している場合、放射線検出器110の計数率(応答)が10cpsであったとすると、放射能換算係数は1000(Bq)/10(cps)=100(Bq/cps)となる。
【0010】
図5(b)は測定対象物100の表面上に均一に分布している場合、放射線検出器110の計数率(応答)が100cpsであったとすると、放射能換算係数は1000(Bq)/100(cps)=10(Bq/cps)となる。
図5(c)は(a)と(b)の中間状態に放射性物質が分布している場合であって、放射線検出器110の計数率(応答)が20cpsであったとすると、放射能換算係数は1000(Bq)/20(cps)=50(Bq/cps)となる。
図5(d)は放射線検出器110と測定対象物100との間に遮蔽物120があった場合である。この場合、遮蔽物により放射線が弱くなり、放射線検出器110の計数率(応答)が1cpsであったとすると、放射能換算係数は1000(Bq)/1(cps)=1000(Bq/cps)となる。
【0011】
これらの例に示すように放射能換算係数は、放射性物質の付着分布、放射性物質と放射線検出器との位置関係、或いは遮蔽物の有無に依存する。ここで、放射性物質の付着分布及び放射性物質と放射線検出器との位置関係が不明の場合は、安全側に放射能換算係数が大きくなるように仮定せざるを得ない。
【0012】
放射能換算係数を簡単でかつ安全側に設定する方法は、放射性物質と放射線検出器の距離を想定される最大の距離に、遮蔽も想定される最大の厚さにし、放射性物質はその位置(以下、「最遠点」という。)に点状に集中していると仮定することである(以下、「最遠スポットモデル」という。)。測定対象物における放射性物質の付着分布が把握できない場合は、最遠スポットモデルを用いるのが一般的である。しかし、最遠点にすべての放射性物質が存在する可能性は低い。
【0013】
検出限界値は、測定時間を長くすると下がる。
放射能換算係数を大きく設定すると、クリアランスレベルに相当する放射能濃度まで検出限界値を下げるための測定時間が長くなる。また、測定時間が長くなることを回避するため、放射線検出器と対象物の距離を短くし、1回の測定重量を減らすことで放射能換算係数を小さくするができるが、いずれにしても、測定作業の効率 は低下する。
【0014】
さらに、実態の放射能量はクリアランスレベルを下回っているのにも関わらず、クリアランスレベルを超えていると判断してしまい、本来は必要のない再除染作業を実施することになる。
【0015】
本発明の目的は、上記のような課題を解消するために過大な放射能換算係数を設定することなく、放射能量の測定が可能となる放射能評価方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記のような課題を解消するために過大な放射能換算係数を設定することなく、放射能量の測定が可能となる放射能評価プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の放射能評価方法は、測定対象物の測定部位の分割により区切られた小領域毎の放射能量の最大値を、前記測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値に基づいて求め、前記小領域毎の放射能量の最大値と、前記小領域毎の放射能換算係数とに基づいて小領域毎に放射線検出器の計数率を算出し、前記計数率を前記小領域の放射能換算係数が大きい順番に加算して得られた和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率以上となったときの前記小領域の加算個数と前記小領域の最大値に基づいて前記測定対象物の放射能量とするものである。
【0017】
また、前記放射能評価方法は、前記放射能換算係数を、前記小領域毎に放射線の遮蔽計算を行うことにより、取得することが好ましい。
また、前記放射能評価方法は全ての小領域について加算して得られた前記計数率の前記和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率に達しない場合、全ての小領域の最大値を、前記実測して得られた計数率となるように前記小領域の最大値を補正することが好ましい。
【0018】
また、本発明の放射能評価プログラムは、測定対象物の測定部位の分割により区切られた小領域毎の放射能量の最大値を、前記測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値に基づいて求めるステップと、前記小領域毎の放射能量の最大値と、前記小領域毎の放射能換算係数とに基づいて小領域毎に放射線検出器の計数率を算出するステップと、前記計数率を前記小領域の放射能換算係数が大きい順番に加算して得られた和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率以上となったときの前記小領域の加算個数と前記小領域の最大値に基づいて前記測定対象物の放射能量とするステップをコンピュータに実行させるものである。
【0019】
また、前記放射能評価プログラムは、前記放射能換算係数を、前記小領域毎に放射線の遮蔽計算を行うことにより、取得することが好ましい。
また、放射能評価プログラムは、全ての小領域について加算して得られた前記計数率の前記和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率に達しない場合、全ての小領域の最大値を、前記実測して得られた計数率となるように前記小領域の最大値を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の放射能評価方法及び放射能評価プログラムによれば、過大な放射能換算係数を設定することなく、放射能量の測定が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態について
図1〜
図4を参照して説明する。
図1に示すように、放射能評価装置10は、コンピュータからなり、CPU20と、ROM30と、記憶部40とを備えるとともに、測定対象物50から所定距離離間して配置された放射線検出器12と、入力装置14及びディスプレイ16を備えている。CPU20は、ROM30に記憶された放射能評価プログラムに基づいて各種演算を行う。記憶部40には各種のデータが記憶されている。記憶部40は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ等の読み出し及び書込み可能な記憶装置にて構成されている。また、図示はしないが、放射能評価装置10は、各種の演算を行う際の作業用メモリとなる図示しないRAMを備えている。
【0023】
本実施形態では、放射線検出器12は、Ge半導体検出器及びアルカリハライドシンチレータ(タリウム活性化ヨウ化ナトリウム)が用いられている。
(実施形態の作用)
次に、
図2〜
図4を参照して放射能評価装置10が前記放射能評価プログラムに従って行う処理について説明する。
図2は、放射能評価装置10のCPU20が実行する放射能評価プログラムのフローチャートである。
【0024】
(ステップS10)
前記プログラムが起動されると、CPU20は、放射線検出器で1回に測定する測定対象物の測定部位を、複数個の小領域52に仮想的に分割する。小領域52に分割する個数は、測定対象物50の大きさに応じて予め設定されている。また、分割する小領域の形状は限定するものではない。本実施形態では、例えば、測定対象物50が四角板状をなしており、分割される小領域も四角形をなすようにメッシュ状に分割される。例えば、放射性物質が測定対象物50の表面にのみ存在している場合、小領域52はこの表面を例えば約100cm
2毎に分割した領域にする。この面積の数値は例示であり、限定するものではない。
【0025】
また、例えば、放射性物質が測定対象物の表面及び内部に存在して体積線源となっている場合、小領域はこの体積を約1000cm
3にする。この体積の数値は例示であり、限定するものではない。
【0026】
分割された各小領域に対して、CPU20は放射能量alの初期値として0を付与する。
図3を使用して具体例で説明する。なお、具体例では、説明を簡明化するために測定対象物50を、四角形状の単純化した形状にしている。本ステップS10では、
図3(a)に示すように測定対象物50が10cm×10cm単位のメッシュ状に小領域52が形成されて、各小領域52に対して、[1]〜[16]の領域番号が付与される。また、分割された各小領域52には初期値0の放射能量alが付与される。
【0027】
(ステップS20)
CPU20は、測定対象物50における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ(単位面積または単位体積)当たりの放射能量の最大値に小領域の表面積または体積を乗じて小領域毎の放射能量(b)の最大値を求める。(b)の符号は、後述する具体例の説明に使用するために便宜的に付与したものである。
【0028】
前記事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値、前記小領域の表面積または体積は、入力装置14により、記憶部40に予め格納されている。なお、前記事前調査では、測定対象物50に対して放射線検出器を近接させて当該検出器面毎に測定して、単位面積当たりの放射能量(Bq/cm
2)、または単位体積当たりの放射能量(Bq/cm
3)を取得する。この後、これに単位メッシュの面積または体積を乗じて単位メッシュ当たりの放射能量を算出し、この算出した単位メッシュの中で単位メッシュの最大値を求めることが行われる。
【0029】
また、前記事前調査では、単位面積当たり、または単位体積当たりの放射能量(Bq/cm
2またはBq/cm
3)が取得されて、前記記憶部40に予め記憶されて、当該ステップS20で読み出される。すなわち、ステップS10において、放射性物質が測定対象物50の表面にのみ存在していると想定されている場合は、前記単位面積当たりの放射能量が使用される。
【0030】
また、ステップS20において、放射性物質が測定対象物の表面及び内部に存在して体積線源となっていると想定されている場合は、前記単位体積当たりの放射能量が使用される。なお、ここでの事前調査に使用される放射線検出器は、例えば、GM(ガイガーミュラー)管式サーベイメータ及びプラスチックシンチレーションサーベーイメータとしているが限定されるものではない。例えば事前調査に使用する放射線検出器は、放射線検出器12と同じでもよい。また、事前調査は、抜き取り調査でもよく、或いは全数調査でもよい。前記抜き取り調査の場合、統計的手法を用いることにより、前記最大値を把握できる。
【0031】
(ステップS30)
CPU20は、分割した小領域毎に放射線の遮蔽計算を行い、当該小領域毎の放射能換算係数(a)を求める。(a)の符号は、後述する具体例の説明に使用するため便宜的に付与したものである。
【0032】
ここで、前記事前調査の方法により、当該小領域内に放射性物質が均一に分布していると予想された場合は、均一に分布した場合を条件とした遮蔽計算法により放射能換算係数を求める。また、前記事前調査の方法により、当該小領域内に放射性物質が均一に分布したと仮定することが難しい場合は、当該小領域内の最遠点に放射性物質が点状に分布した場合を条件とした遮蔽計算法により、放射能換算係数を求める。前記遮蔽計算は、例えば点減衰核法を挙げることができる。
【0033】
(ステップS40)
CPU20は、ステップS20により得られた小領域毎の放射能量(b)の最大値をステップS30で求めた小領域毎の放射能換算係数(a)で除して、小領域毎に放射線検出器の計数率(c)を求める。(c)の符号は、後述する具体例の説明に使用するため便宜的に付与したものである。
【0034】
(ステップS50)
CPU20は、次の処理を行う。
(1)ステップS30で求めた放射能換算係数が大きい順番に小領域毎に、測定対象物50における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られた小領域の放射能量の最大値a_lmaxを当てはめていく。
【0035】
(2)上記(1)で放射能量の最大値をあてはめた小領域毎の放射線検出器12の計数率の和(cps)を求める。
(3)(2)の和(cps)が、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率P(cps)と同じまたはそれ以上となるまで、上記(1)の処理を繰返す。なお、実測して得られた計数率Pが、検出限界計数率未満であった場合は、検出限界計数率と同じまたはそれ以上となるまでとする。
【0036】
(4)上記(3)の条件により、上記(1)の繰り返しが終了したときの前記和(最終合計)を測定対象物50の放射能量とする。すなわち、(3)の条件が成立するまでに加算した小領域の個数×最大値a_lmaxを測定対象物の放射能量とする。
【0037】
なお、前記事前調査により得られた小領域の放射能量の最大値をすべての小領域にあてはめても小領域毎の計数率の上記(2)の和(cps)が、測定対象物を放射線検出器で実測して得られる計数率P(cps)を下回る場合がある。このような場合が生ずるのは、例えば、バックグラウンドを含めて測定した計数率を測定値と見なす場合又は測定時間が短く検出限界計数率が比較的大きい場合などである。
【0038】
この場合は、下記の方法で放射能換算係数を設定する。
すなわち、放射能換算係数は、前記事前調査により得られた小領域の放射能量の最大値a_lmaxをすべての小領域にあてはめる場合の、その放射能量の和(Bq)を、該当小領域の放射能量の該当最大値をあてはめる計数率の和(cps)で除した値とする。そして、この放射能換算係数と、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率P(cps)に基づいて、測定対象物の放射能量を算出する。
【0039】
ここで、この場合の測定対象物の放射能量は、上記(4)での小領域毎の放射線検出器12の計数率の和(cps)を補正することになる。この補正は、前記小領域の最大値a_lmaxを補正することと同義である。
【0040】
図3(b)に示す具体例では、各小領域52において、ステップS30で求められた放射能換算係数の大きい順番が領域番号[1]〜[16]の順であったとする。この場合、
図3(b)では、領域番号[1]の小領域52の放射能量が0から最大値a_lmaxに置換された状態が図示されている。
【0041】
また、
図3(c)に示す具体例では、領域番号[1]〜[8]の小領域52の放射能量が0に代えて最大値a_lmaxに置換された状態が図示されている。
また、
図3(d)に示す具体例では、領域番号[1]〜[16]の小領域52の放射能量が0から最大値a_lmaxに置換された状態が図示されている。
【0042】
【表1】
表1には、
図3(a)〜(d)の具体例において、領域番号[1]〜[16]が付与された小領域52の放射能換算係数(a)、放射能量(b)、計数率(c)が記載されている。
【0043】
具体例では、表1に示すように、ステップS20において、領域番号[1]〜[16]の小領域52における放射能量(b)の最大値a_lmaxとして「0.8」が求められたとする。
【0044】
また、表1に示すように領域番号[1]〜[4]、領域番号[5]〜[12]、及び領域番号[13]〜[16]の小領域52の放射能換算係数(a)としてステップS30においては、それぞれ「10」、「4」、及び「1」が算出されたとする。
【0045】
この結果、ステップS40では、表1に示すように、領域番号[1]〜[4]、領域番号[5]〜[12]、及び領域番号[13]〜[16]の小領域52毎の計数率(c)は、それぞれ「0.08」、「0.2」、及び「0.8」が算出される。
【0046】
そして、表1の測定対象物からの計数率の欄では、領域番号[1]〜[16]の小領域52の計数率を、それぞれ順次加算するステップS50の上記(2)の処理により得られる加算和(d)が記述されている。
【0047】
また、表1の測定対象物の値の放射能量の欄では、領域番号[1]〜[16]の放射能量(b)を順次加算した和(加算和)である放射能量(e)(=Σ(b))が記述されている。
【0048】
また、表1の測定対象物の値の放射能換算係数の欄には領域番号[1]〜[16]の小領域のそれぞれまでの計数率(c)の加算和(d)と、放射能量(b)の加算和である放射能量(e)から得られる放射能換算係数が記述されている。
【0049】
放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率Pが「1.1(cps)」の場合、ステップS50において、表1に示す加算和(d)の値が「1.12(cps)」となる領域番号[8]まで(2)の処理が行われる。
【0050】
そして、ステップS50では、測定対象物の放射能量を加算和(d)の値が「1.12(cps)」になったときの、放射能量(e)を「6.4(Bq)」とする。このときの、測定対象物の放射能換算係数(f)は、「5.71(Bq/cps)」となる。
【0051】
上記の具体例では、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率Pが「1.1(cps)」の場合で説明した。
次の他の具体例では、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率Pが「6.80(cps)」の場合で説明する。
【0052】
この場合、ステップS50において、表1に示すように[1]〜[16]の領域番号のすべての小領域の計数率の加算和(d)の値は、「5.12(cps)」となり、計数率Pの「6.80(cps)」に達してない。
【0053】
この場合は、前記事前調査により得られた小領域の放射能量の最大値をすべての小領域にあてはめても小領域毎の計数率の上記(2)の和(cps)が、測定対象物を放射線検出器で実測して得られる計数率P(cps)を下回る場合である。
【0054】
この場合は、表1に示すように、測定対象物の値である放射能換算係数が「2.5」に設定される。
そして、この放射能換算係数「2.5」と、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率P(cps)「6.80」に基づいて、測定対象物の放射能量として「17」を算出する。
【0055】
ここで、この場合の測定対象物の放射能量は、上記(4)での小領域毎の放射線検出器12の計数率の和(cps)を補正することになる。この補正は、前記小領域の最大値を、補正計数αを1.3として、A=α×16×a_lmaxとするように補正することと同義である。なお、Aは、測定対象物の放射能量である。
【0056】
さらに他の具体例では、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率Pが「8.00(cps)」の場合で説明する。
この場合、ステップS50において、表1に示すように[1]〜[16]の領域番号のすべての小領域の計数率の加算和(d)の値は、「5.12(cps)」となり、計数率Pの「8.00(cps)」に達しない。
【0057】
この場合は、前記事前調査により得られた小領域の放射能量の最大値をすべての小領域にあてはめても小領域毎の計数率の上記(2)の和(cps)が、測定対象物を放射線検出器で実測して得られる計数率P(cps)を下回る場合である。
【0058】
この場合は、表1に示すように、測定対象物の値である放射能換算係数が「2.5」に設定される。
そして、この放射能換算係数「2.5」と、放射線検出器12で測定対象物50を実測して得られた計数率P(cps)「8.00」に基づいて、測定対象物の放射能量として「20」算出する。
【0059】
ここで、この場合の測定対象物の放射能量は、上記(4)での小領域毎の放射線検出器12の計数率の和(cps)を補正することになる。この補正は、前記小領域の最大値を、補正計数αを1.6として、A=α×16×a_lmaxとするように補正することと同義である。
【0060】
上記の各具体例における、放射線検出器で測定対象物を実測して得られる計数率と、測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られた小領域の放射能量の最大値を当てはめる小領域毎の放射能量の和の関係を
図4に示す。
図4において、横軸は計数率(cps)を、縦軸は放射能量である。
【0061】
図4のグラフ上において、(ア)〜(カ)は、上記具体例のそれぞれの場合を示している。
このようにして、測定対象物の放射能量が求められる。この結果、測定対象物の放射性物質の汚染状況の事前調査により、単位メッシュ当たりの最大値を、放射能換算係数を計算して設定する際に活用し、測定対象物の放射能量をより実態に近く測定することが可能となる。
【0062】
本実施形態によれば、下記の特徴を有する。
(1)本実施形態の放射能評価方法及びプログラムは、測定対象物の測定部位の分割により区切られた小領域毎の放射能量の最大値を、測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値に基づいて求める。また、前記小領域毎の放射能量の最大値と、前記小領域毎の放射能換算係数とに基づいて小領域毎に放射線検出器の計数率を算出する。そして、前記計数率を前記小領域の放射能換算係数が大きい順番に加算して得られた和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率以上となったときの前記小領域の加算個数と前記小領域の最大値に基づいて前記測定対象物の放射能量とする。
【0063】
すなわち、本実施形態では、放射能換算係数を計算する際、測定対象物の単位メッシュ当たりの放射能量が、測定対象物における放射性物質の汚染状況の事前調査により得られる単位メッシュ当たりの放射能量の最大値を超えないことを制約条件としている。そして、前記放射能換算係数を正確に求めるためには、放射性物質の付着分布を正確に把握する必要がある。しかし、測定を行ってもクリアランスレベル付近では測定値が検出限界値未満となり、放射性物質の付着分布は不明のままであるが、検出限界値という最大値の情報は得ることができる。また、前記最大値は測定対象物の全面を測定しなくても、統計的手法を用いて抜き取り測定で把握できる。
【0064】
前記制約条件により、最遠スポットモデルによる放射能換算係数よりも小さい放射能換算係数を設定することができる。従って、この放射能換算係数を乗じることによって得られる放射能量も小さくなる。これにより、最遠スポットモデルに対して測定時間の短い放射能測定が可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、前記制約条件を前提条件とした状態で、放射能換算係数が最も大きくなる放射性物質の分布を仮定して放射能量を測定する。このことにより、前記制約条件の中では放射能換算係数が最も大きくなるが、最遠スポットモデルより小さな放射能換算係数の設定が可能となる。この結果、本実施形態によれば、過大な放射能換算係数を設定することなく、放射能量の測定が可能となる。
【0066】
また、前記制約条件にした状態で、放射性物資が点状に集中していて、放射性物質と放射線検出器の間に遮蔽物がある場合を仮定した最遠スポットモデルで得られる放射能換算係数よりも小さい放射能換算係数を設定することができる。従って、この放射能換算係数を乗じることによって得られる放射能量も小さくなる。これにより、最遠スポットモデルに対して測定時間の短い放射能測定が可能となる。
【0067】
(2)本実施形態の放射能評価方法及びプログラムは、前記放射能換算係数を、前記小領域毎に放射線の遮蔽計算を行うことにより取得する。この結果、本実施形態によれば、放射能換算係数を遮蔽計算により、容易に得ることができる。
【0068】
(3)本実施形態の放射能評価方法及びプログラムは、前記計数率の前記和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率に達しない場合、全ての小領域の最大値を、前記実測して得られた計数率となるように前記小領域の最大値を補正する。この結果、本実施形態によれば、計数率の前記和が、前記放射線検出器で前記測定対象物を実測して得られた計数率に達しない場合であっても、補正により過大な放射能換算係数を設定することなく、放射能量の測定が可能となる。
【0069】
なお、本発明の実施形態は、上記実施形態に限定されるものではない、下記のようにしてもよい。
・前記実施形態では、遮蔽計算は点減衰核法で行ったが、点減衰核法に限定されるものではない。遮蔽計算として、離散座標SN法、直接積分法、モンテカルロ法、モーメント法、球面調和関数法、インバリアント・エンディング法等を使用してもよい。
【0070】
・前記実施形態では、放射線検出器12は、Ge半導体検出器及びアルカリハライドシンチレータ(タリウム活性化ヨウ化ナトリウム)を用いた。これに代えて、他の種類の放射線検出器であってもよい。また、放射線検出器12は、γ線、β線測定用に限定されるものではなく、他の種類の放射線測定用であってもよい。