【実施例】
【0016】
図1に示すように、例えば、本発明に係るトンネル掘削機1によって掘削されるトンネルTは、住宅地直下を通過するものとなっている。そして、そのトンネルTの上方に位置する地表Sには、多数の住宅Hが建てられている。
【0017】
そこで、トンネル掘削機1は、トンネルTを、住宅H等に極めて近接して掘削することになるため、住宅Hに対して、地盤(切羽)を掘削する際に発生する掘削振動の影響が、及ばない構成を、採用している。
【0018】
図2に示すように、トンネル掘削機1は、円筒状をなす掘削機本体11を有している。そして、掘削機本体11の前端部内には、隔壁となるバルクヘッド12が設けられており、このバルクヘッド12には、リング状をなす回転体13が回転可能に支持されている。
【0019】
回転体13の前部には、複数の連結アーム14が、回転体周方向に等間隔で支持されており、これら連結アーム14の先端には、円盤状をなすカッタヘッド15が連結されている。そして、カッタヘッド15の前面部には、多数のローラカッタ16が回転可能に装着されており、このローラカッタ16は、地盤に切羽を掘削するための刃具となっている。一方、回転体13の後部には、外歯式のリングギヤ17が、当該回転体13と同軸状に設けられている。
【0020】
また、バルクヘッド12には、カッタ回転用モータ18が設けられている。そして、カッタ回転用モータ18の軸先端部には、駆動ギヤ19が装着されており、この駆動ギヤ19はリングギヤ17と噛み合っている。
【0021】
従って、カッタ回転用モータ18を回転させることにより、駆動ギヤ19の回転を、リングギヤ17から回転体13に伝達させることができるので、カッタヘッド15を回転させることができる。これにより、カッタヘッド15に装着されたローラカッタ16によって、地盤に切羽を掘削することができる。
【0022】
更に、上述したように、バルクヘッド12とカッタヘッド15とを、トンネル前後方向(トンネル軸方向)において対向配置させることにより、これらバルクヘッド12とカッタヘッド15との間には、チャンバ20が区画形成されることになる。チャンバ20は、掘削土砂(ずり)を一時的に蓄えるための空間(室)となっており、当該チャンバ20内には、ローラカッタ16の掘削によって生じた掘削土砂が、カッタヘッド15の土砂取込口(図示省略)を介して、取り込まれるようになっている。
【0023】
また更に、掘削機本体11内には、スクリューコンベヤ21が、前端部から後端部に向かうに従って上方に向けて傾斜するように設けられている。このスクリューコンベヤ21の前端部は、バルクヘッド12を貫通して、チャンバ20内に配置されている。
【0024】
従って、スクリューコンベヤ21を駆動させることにより、チャンバ20内に蓄えられた掘削土砂を、そのスクリューコンベヤ21の回転駆動によって、掘削機本体11の後方に向けて排出することができる。
【0025】
ここで、バルクヘッド12の後面には、円筒状をなす円筒支持部材32が、開口端32aをその後面に密着させた状態で、取り付けられている。そして、円筒支持部材32内には、サーボ駆動方式の加振器(加振手段)31が収納支持されており、この加振器31は、加振ロッド31aをロッド軸方向(トンネル軸方向)に摺動させることにより、バルクヘッド12に対して、振動(後述する、逆位相振動)を与えることができる。
【0026】
更に、加振器31によって発生される振動の位相(波形)は、ローラカッタ16が切羽を掘削する際に生じる掘削振動の位相(波形)とは、逆位相となっている。即ち、加振器31は、掘削振動に対して逆位相となる逆位相振動(打消振動)を、カッタヘッド15を介して、振動発生源となるローラカッタ16に伝達させることにより、その掘削振動を相殺するようになっている。
【0027】
一方、
図1に示したように、トンネル施工区間の上方に位置する地表Sには、多数の住宅Hが建てられており、掘削振動は、地盤を介して、地表Sに存在する住宅Hに伝播されることになる。このとき、掘削振動は、住宅Hへの伝播過程において、地盤の土質(硬さ等)や、振動発生源となるローラカッタ16と受振点となる住宅Hとの間の距離等に応じて、減衰する傾向にある。つまり、掘削振動が住宅Hに伝播したときの当該住宅Hが受ける応答振動は、発生直後の掘削振動よりも、少なからず、小さな振動となる。
【0028】
そこで、
図1に示すように、地表S(住宅地)や住宅Hに、受振検出センサ(検出手段)40を設置して、住宅Hが受ける応答振動を、受振検出センサ40によって検出可能とする。そして、住宅Hに対する振動対策から考えれば、上記加振器31を駆動して加振する場合には、受振検出センサ40が検出した応答振動の大きさに応じて、掘削振動の逆位相となる逆位相振動の大きさを、設定するようにしても構わない。即ち、加振器31においては、応答振動が低減されるように、逆位相振動を、カッタヘッド15を介して、ローラカッタ16に伝達させる。
【0029】
また、受振検出センサ40による応答振動の検出は、住宅Hが応答振動を受けるトンネル施工区間(期間)において常時行ったり、そのトンネル施工区間の開始位置においてのみ行ったりしても構わない。更に、上記トンネル施工区間内において地盤の種類が変わる場合には、その開始位置だけでなく、地盤の種類が変わる度に、受振検出センサ40による応答振動の検出を行うようにして構わない。
【0030】
なお、トンネル施工前において、予め、住宅Hの周辺における土質をボーリング調査等によって調査しておき、その土質調査結果に基づいて応答振動の大きさを求める。次いで、その応答振動の大きさに応じて、加振器31が発生する逆位相振動の大きさを、設定するようにしても構わない。これにより、受振検出センサ40を設けなくても、住宅Hが受ける応答振動を低減させることができる。
【0031】
従って、トンネル掘削機1によってトンネルTを構築する場合には、カッタ回転用モータ18を駆動させることにより、カッタヘッド15を回転させながら、掘削機本体11を前進させる。これにより、回転するカッタヘッド15に装着された多数のローラカッタ16が、地盤に切羽を掘削する。
【0032】
また、上述した地盤掘削に伴って発生した掘削土砂は、カッタヘッド15の土砂取込口を介して、チャンバ20内に充満することになり、このチャンバ20は、充満した掘削土砂によって、所定の圧力に維持される。そして、チャンバ20内に充満した掘削土砂は、スクリューコンベヤ21の回転駆動によって、トンネル後方に向けて排出される。
【0033】
つまり、トンネル掘削機1においては、掘削土砂をチャンバ20内に充満させて、そのチャンバ20を所定の圧力に維持しながら排土することにより、切羽の安定化を図りながら、その切羽をローラカッタ16によって掘削するようになっている。
【0034】
更に、このように、ローラカッタ16が切羽を掘削する際には、掘削振動が発生する。そして、トンネル掘削機1が、上方に住宅地が位置するトンネル施工区間に到達すると、加振器31が駆動して、逆位相振動がローラカッタ16に伝達されるため、掘削振動が低減される。
【0035】
このとき、加振器31の加振ロッド31が、円板状をなすバルクヘッド12を振動させるため、このバルクヘッド12は、太鼓の如く振動することになる。これにより、加振器31によって発生させた逆位相振動は、バルクヘッド12から、回転体13及び連結ビームを介して、カッタヘッド15に伝達されるだけでなく、バルクヘッド12から、チャンバ20内に蓄えられた掘削土砂を介して、カッタヘッド15に伝達される。
【0036】
従って、逆位相振動を、カッタヘッド15の全域に万遍なく伝達させることができるので、多数のローラカッタ16がカッタヘッド15の前面部に点在されていても、逆位相振動を、ローラカッタ16から発生する掘削振動に対して、効率的に干渉させることができる。よって、掘削時に発生する掘削振動を、低減させることができるので、周辺地域への振動被害を防止することができる。
【0037】
また、加振器31によって発生させる逆位相振動の大きさを、受振検出センサ40によって検出した応答振動が低減される程度に設定することにより、逆位相振動の大きさを、必要以上の大きさに設定することが無くなるため、加振器31の小型化を図ることができる。
【0038】
なお、上述した実施例1においては、加振器31の設置位置(加振位置)を、バルクヘッド12を振動可能とする位置としているが、
図3乃至
図5に示した設置位置としても構わない。
【0039】
具体的には、
図3に示すように、カッタヘッド15の前部内面には、円筒状をなす複数の撹拌翼33が、開口端33aをその前部内面に密着させた状態で、取り付けられている。即ち、撹拌翼33は、カッタヘッド15の前部内面から、当該カッタヘッド15の内部を貫通して、チャンバ20内に突出するように配置されており、チャンバ20内に蓄えられた掘削土砂を、撹拌可能となっている。
【0040】
そして、撹拌翼33内には、加振器31が収納支持されており、この加振器31は、加振ロッド31aをロッド軸方向(トンネル軸方向)に摺動させることにより、カッタヘッド15に対して、逆位相振動を与えることができる。
【0041】
このように、加振器31を、カッタヘッド15に支持された撹拌翼33内に設けることにより、加振器31を、振動発生源となるローラカッタ16に近接して配置することができる。よって、ローラカッタ16から発生する掘削振動を、確実に、且つ、効率的に低減させることができる。
【0042】
また、
図4及び
図5に示すように、掘削機本体11内におけるバルクヘッド12の後方には、複数の円筒支持部材32が、掘削機本体11の周方向に等角度間隔で支持されている。各円筒支持部材32は、掘削機本体11の径方向に延設するように配置されており、それぞれの開口端32aは、掘削機本体11の径方向外側に向けて開口している。
【0043】
そして、円筒支持部材32内には、加振器31が収納支持されており、その加振ロッド31aの先端には、可動そり(摺接部材)34が取り付けられている。よって、加振器31は、加振ロッド31aをロッド軸方向(トンネル径方向)に摺動させる、即ち、可動そり34を掘削機本体11の外周面に対して出没させることにより、トンネルTの内壁面(トンネル内周面、地盤)に対して、逆位相振動を与えることができる。
【0044】
このとき、可動そり34がトンネルTの内壁面に逆位相振動を与えることになるが、可動そり34の外面は、トンネルTの内壁面に対して、トンネル軸方向に摺接可能となっている。これにより、トンネル掘削機1の掘進時において、加振器31の可動そり34がトンネルTの内壁面と接触しても、当該可動そり34はトンネルTの内壁面上を滑るため、その接触(加振)が掘進の抵抗とならないようになっている。
【0045】
従って、加振器31によって発生させた逆位相振動を、地盤を介して、ローラカッタ16に伝達させることができる。よって、掘削時に発生する掘削振動を、低減させることができるので、周辺地域への振動被害を防止することができる。
【0046】
なお、上述した実施例1〜3においては、加振器31による加振位置を、それぞれ、バルクヘッド12、または、カッタヘッド15、あるいは、トンネルTの内壁面としているが、それらの3つの加振位置のうち、少なくとも1つの加振位置を加振できるように、加振器31を設置するようにしても構わない。
【0047】
また、実施例3においては、加振器31の加振ロッド31に取り付けた可動そり34によって、トンネルTの内壁面を加振するようにしているが、トンネルTの内壁面から推進反力を得ることができる推進装置(グリッパ装置)を加振手段として使用し、その推進装置のグリッパ(摺接部材)によって、トンネルTの内壁面を加振するようにしても構わない。