(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン液体を構成するアニオンが、塩素イオン、臭素イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、チオシアネートイオン、ジシアノアミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン及びビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドイオンから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の気体分離膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の液膜には、液体が多孔質支持体から漏出することで、耐圧性や長期安定性が低下するといった問題がある。特に透過測定ガスが高圧条件の場合に多孔質支持体からの液体の漏出は顕著となる。
【0010】
また、ゲル状組成物において液体含有率を高くすると、ゲル組成物の強度が低下し、膜を扱う際のハンドリングや耐圧性の点で問題が生じる。よって、ゲル状組成物を分離層として用いた気体分離膜を作製する場合、ピンホール発生等による性能低下を抑制する観点からゲル状組成物は高強度である必要がある。非特許文献5におけるゲル状組成物は、強度が低く、また長期安定性も不十分であるといった問題がある。
【0011】
さらに、特許文献5及び非特許文献6に記載の高強度なゲル状組成物の製造方法では、末端官能基がアミノ基の4官能ポリエチレングリコールを含む溶液と末端官能基がN−ヒドロキシ−スクシンイミジル基の4官能ポリエチレングリコールを含む溶液を混合後、時間と共に緩やかに硬化が進行する。よって、特許文献5及び非特許文献6のゲル状組成物を支持体に積層する場合、混合した溶液の保存安定性が悪いため、ディップコート等の方法で多孔質支持体上に連続的にコーティングして薄膜状のゲル層を有する気体分離膜を製造することは困難である。
【0012】
本発明は、高い気体透過性能と薄膜化とを両立した気体分離膜及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究したところ、多孔質支持体上に、特定のポリマー層を積層し、さらにポリマー層上に特定のゲル層を積層してなる気体分離膜であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
多孔質支持体と、該多孔質支持体上に設けられたポリマー層と、該ポリマー層上に設けられたゲル層と、を備え、ポリマー層は、ポリジメチルシロキサン、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレン、パーフルオロポリマー及びポリエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーを含有し、ゲル層は、ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマーと、イオン液体、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド及び炭素数が15以下のアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の液体と、を含有する、気体分離膜。
【0015】
[2]
ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマーは、下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とのエンチオール反応によって得られるポリマーである、[1]の気体分離膜。
【0016】
【化1】
[一般式(1)中、n1は15〜250の整数であり、m1は3〜20の整数であり、X
1はm1価の有機基であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0017】
【化2】
[一般式(2)中、n2は15〜250の整数であり、m2は3〜20の整数であり、X
2はm2価の有機基であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0018】
[3]
一般式(1)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物であり、一般式(2)で表される化合物が下記一般式(4)で表される化合物である、[2]の気体分離膜。
【0019】
【化3】
[一般式(3)中、n1は15〜250の整数であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0020】
【化4】
[一般式(4)中、n2は15〜250の整数であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0021】
[4]
R
2が、下記式(5−1)〜(5−8)のいずれかである、[2]又は[3]の気体分離膜。
【0022】
【化5】
[式(5−1)〜(5−8)中、*は結合手を表す。]
【0023】
[5]
液体の融点が50℃以下である、[1]〜[4]のいずれかの気体分離膜。
[6]
液体の沸点が150℃以上である、請求項[1]〜[5]のいずれかの気体分離膜。
【0024】
[7]
イオン液体を構成するカチオンが、イミダゾリウムカチオン又はアンモニウムカチオンであり、イミダゾリウムカチオンは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基又はフルオロアルキル基を有し、アンモニウムカチオンは、A
1A
2A
3A
4N
+で表され、A
1、A
2、A
3及びA
4は、各々独立にフェニル基、無置換の炭素数1〜15個のアルキル基、又は、ヒドロキシル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基若しくはフルオロアルキル基を有する炭素数1〜15個のアルキル基である、[1]〜[6]のいずれかの気体分離膜。
[8]
イオン液体を構成するアニオンが、塩素イオン、臭素イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、チオシアネートイオン、ジシアノアミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン及びビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドイオンから選択される、[1]〜[7]のいずれかの気体分離膜。
【0025】
[9]
炭素数が15以下のアミン化合物がアルカノールアミンである、[1]〜[8]のいずれかの気体分離膜。
[10]
液体の含有率が、ゲル層の全質量を基準として30質量%〜90質量%である、[1]〜[9]のいずれかの気体分離膜。
[11]
ポリマー層の膜厚が100nm〜20μmであり、ゲル層の膜厚が100nm〜20μmである、[1]〜[10]のいずれかの気体分離膜。
【0026】
[12]
[1]〜[11]のいずれかの気体分離膜の製造方法であって、多孔質支持体上にポリマー層を積層する工程と、ポリマー層上にゲル層を積層する工程と、を備える、製造方法。
[13]
ポリマー層上にゲル層を積層する工程において、下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とを含む溶液をポリマー層の表面上に塗布し、ポリマー層表面上でエンチオール反応を行う、[12]の製造方法。
【化6】
[一般式(1)中、n1は15〜250の整数であり、m1は3〜20の整数であり、X
1はm1価の有機基であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化7】
[一般式(2)中、n2は15〜250の整数であり、m2は3〜20の整数であり、X
2はm2価の有機基であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
[14]
エンチオール反応を光及び/又は熱により行う、[13]の気体分離膜の製造方法。
[15]
エンチオール反応を重合開始剤の存在下で行う、[13]又は[14]の気体分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の気体分離膜は、高気体透過性能の液体を有するゲル状組成物をゲル層として用い、ゲル層を薄膜化が可能なため、優れた気体透過度、気体分離性能と薄膜化とを両立した気体分離膜を提供することができる。特に、本発明の気体分離膜は二酸化炭素の透過性に優れており、二酸化炭素含有混合気体から二酸化炭素を分離する際に用いることができる。本発明の気体分離膜は、例えば、二酸化炭素とメタンとの分離や二酸化炭素と窒素との分離に用いることができる。
【0028】
より具体的には、本発明の気体分離膜においては、ポリマー層上に特定の架橋ポリマーを含むゲル層を設けるため、ゲル層の薄膜化の際の欠陥発生を抑制できる。また、ゲル層に含まれる液体に高い気体透過性能の液体を用いることで、気体透過性能の高い気体分離膜を提供することができる。また、本発明においては、ゲル層の下地となるポリマー層が気体透過性の高いポリマーで構成されるため、ポリマー層の透過抵抗が小さく、高い気体透過性、高い気体分離性を有するゲル層の特性を活かした気体分離膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0031】
本実施形態においては、
図1に示すように、気体分離膜1は、多孔質支持体2と、多孔質支持体2上に設けられたポリマー層3と、ポリマー層3上に設けられたゲル層4と、を備える。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0032】
[多孔質支持体]
多孔質支持体は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等の各種樹脂多孔質膜;不織布と多孔質膜の複合積層体などが好ましい。多孔質膜の好ましい例は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリイミドである。不織布の好ましい例は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン、アクリル、ビニロン等の樹脂で作製された不織布である。また、多孔質支持体の形状としては、平膜状、管状、中空糸状などいずれの形状もとることができる。
【0033】
多孔質支持体の膜厚は、5μm〜5mmが好ましく、10μm〜1000μmがより好ましい。膜厚が5μmより小さいと、支持体としての機械的強度が充分でない場合が多く、5mmより大きいと、膜の柔軟性が損なわれ取り扱いが難しくなる傾向があり、また、気体透過の抵抗が大きくなることがあるため好ましくない。
【0034】
多孔質支持体の孔の大きさは0.001μm〜1μmが好ましく、より好ましくは0.01μm〜0.1μmである。孔の大きさが0.001μmよりも小さい場合、得られる複合膜の気体透過度が不十分となる場合がある。逆に孔の大きさが1μmより大きい場合、反応溶液を薄膜状に成形する工程において、反応溶液が孔中に浸透し孔中に充填されてしまったり、ピンホールが発生したりするおそれがある。
【0035】
[ポリマー層]
ポリマー層は、ポリジメチルシロキサン、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレン、パーフルオロポリマー及びポリエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一種のポリマーを含有する。これらのポリマーは高い二酸化炭素透過係数を有するため、ゲル層の下地であるポリマー層の透過抵抗が小さくなり、高気体透過性かつ高気体分離性のゲル層の性能を十分に活かした気体分離膜を提供することができる。高い二酸化炭素透過係数を有する観点から、ポリジメチルシロキサン又はパーフルオロポリマーが好ましい。ポリジメチルシロキサンを使用する場合、ポリジメチルシロキサンを架橋させる触媒、架橋剤、充填材などの添加剤、分子鎖両末端にシラノール基を有するポリオルガノポリシロキサンが予め混合されている市販の室温硬化型(RTV)シリコーンゴム組成物を利用してもよい。このようなシリコーンゴム組成物の具体的な例としては、信越化学工業(株)製のKE44(商品名)、KE45(商品名)、KE441(商品名)、KE445(商品名);モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSE382(商品名);東レ・ダウコーニング(株)製のSH780(商品名)、SE5007(商品名)などを挙げることができる。パーフルオロポリマーの具体的な例としては、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のTeflonAF1600(商品名、登録商標)、TeflonAF2400(商品名、登録商標)、旭硝子社(株)製のCytop(商品名)が挙げられる。
【0036】
[ゲル層]
本実施形態のゲル層は、ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマーと、イオン液体、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド及び炭素数が15以下のアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の液体と、を含有する。なお、本明細書中においてポリエチレングリコール骨格とは、下記一般式(A)で表される骨格を意味し、ポリオキシエチレン骨格又はポリエチレンオキサイド骨格ともいう。ただし、式(A)中、pは自然数である。
【0038】
(ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマー)
ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマーは、下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とのエンチオール反応によって得られるポリマーであることが好ましい。換言すれば、本実施形態に係る架橋ポリマーは、下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とのエンチオール反応によって得られる付加重合体構造を有することが好ましい。
【0039】
【化9】
[一般式(1)中、n1は15〜250の整数であり、m1は3〜20の整数であり、X
1はm1価の有機基であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0040】
【化10】
[一般式(2)中、n2は15〜250の整数であり、m2は3〜20の整数であり、X
2はm2価の有機基であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0041】
一般式(1)中のX
1とm1について説明する。X
1はm1価の有機基を表し、X
1の構造によりm1が決定する。X
1は、アルキル基、フェニル基、イソシアヌル環を有することが好ましく、アルキル基を有することが特に好ましい。m1は、3〜20の整数であり、3〜8の整数であることが好ましく、4であることが特に好ましい。m1が4の場合、原料合成の容易さの点から好ましい。
【0042】
一般式(1)中、n1は、15〜250の整数であり、35〜180の整数であることが好ましく、50〜110の整数であることがより好ましく、50〜60の整数であることが特に好ましい。複数あるn1は互いに同一でも異なっていてもよいが、複数あるn1が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になり、高強度なゲル層が得られるため好ましい。
【0043】
一般式(1)中、Y
1における炭素数1〜15の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられ、原料合成の容易さの点から好ましくはエチレン基である。R
11〜R
13における炭素数1〜10の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、トリレン基などが挙げられる。複数あるY
1は、互いに同一でも異なっていてもよいが、高強度なゲル層を製造できる点から同一であることが好ましい。これは、Y
1が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になるためと推測される。
【0044】
一般式(2)中、X
2とm2について説明する。X
2はm2価の有機基を表し、X
2の構造によりm2が決定する。X
2は、アルキル基、フェニル基、イソシアヌル環を有することが好ましく、アルキル基を有することが特に好ましい。m2は、3〜20の整数であり、3〜8の整数であることが好ましく、4であることが特に好ましい。m2が4の場合、原料合成の容易さの点から好ましい。
【0045】
一般式(2)中、n2は15〜250の整数であり、35〜180の整数であることが好ましく、50〜110の整数であることがより好ましく、50〜60の整数であることが特に好ましい。複数あるn2は互いに同一でも異なっていてもよいが、複数あるn2が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になり、高強度なゲル層が得られるため好ましい。
【0046】
一般式(2)中、Y
2における炭素数1〜15の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、トリレン基などが挙げられる。R
21〜R
23における炭素数1〜10の炭化水素基の具体的な例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基、トリレン基などが挙げられる。
【0047】
好ましくは、原料合成の容易さの点から、Y
2は−CO−R
21−であり、さらに好ましくはR
21がメチレン基、つまりY
2が−CO−CH
2−である。複数あるY
2は、互いに同一でも異なっていてもよいが、高強度なゲル層を製造できる点から同一であることが好ましい。これは、Y
2が互いに同一であると、重合後のポリマーが均一な架橋構造になるためと推測される。
【0048】
一般式(2)中、R
2の具体的な例としては、下記式(5−1)〜(5−8)で表される有機基から選ばれる基が挙げられる。高い反応率で付加重合が進行する点から、R
2はビニル基(5−1)であることが好ましい。
【0049】
【化11】
[式(5−1)〜(5−8)中、*は結合手を表す。]
【0050】
本実施形態において、一般式(1)中のn1と一般式(2)中のn2とが同一であると、高強度なゲル層が得られるため好ましい。これは、n1とn2が同一であると、重合後の架橋構造がより均一になるためと推測される。
【0051】
本実施形態において、一般式(1)中のm1と一般式(2)中のm2とが同一であると、高強度なゲル層が得られるため好ましい。これは、m1とm2が同一であると、重合後のポリマーがより均一な架橋構造になるためと推測される。
【0052】
本実施形態において、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とをエンチオール反応(チオール−エン反応)により付加重合することで、高強度なゲル層を得ることができる。これは、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物に含まれる官能基が分子内で相互に反応せず分子内反応が起こらないため、また、一般式(1)で表される化合物のチオール基1つに対し、一般式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合1つが反応するため、均一な架橋構造の付加重合体が得られることが理由だと推定される。均一な架橋構造を有すると、ポリマー内に構造的に弱い部分の発生が抑制されるため、高強度なゲル層が得られると推定される。
【0053】
本実施形態において、ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマーが、上記一般式(1)の好ましい態様である下記一般式(3)で表される化合物と、上記一般式(2)の好ましい態様である下記一般式(4)で表される化合物との付加重合体構造を有することが好ましい。ポリエチレングリコール骨格を有する架橋ポリマーが下記一般式(3)で表される化合物と下記一般式(4)で表される化合物との付加重合体構造を有すると、より高強度なゲル層が得られ、気体分離膜として使用した際の耐圧性が向上するため好ましい。
【0054】
【化12】
[一般式(3)中、n1は15〜250の整数であり、Y
1は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−R
11−、−CO−NH−R
11−、−R
12−O−R
13−、−R
12−NH−R
13−、−R
12−CO−R
13−、−R
12−COO−R
13−、−R
12−CO−NH−R
13−、又は−R
12−O−CO−NH−R
13−であり、R
11〜R
13は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基である。n1同士、Y
1同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0055】
【化13】
[一般式(4)中、n2は15〜250の整数であり、Y
2は炭素数1〜15の炭化水素基、−CO−、−CO−NH−、−CO−R
21−、−CO−NH−R
21−、−R
22−O−R
23−、−R
22−NH−R
23−、−R
22−CO−R
23−、−R
22−COO−R
23−、−R
22−CO−NH−R
23−、又は−R
22−O−CO−NH−R
23−であり、R
21〜R
23は各々独立に炭素数1〜10の炭化水素基であり、R
2は炭素−炭素二重結合を有する1価の有機基である。n2同士、Y
2同士、R
2同士は各々互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0056】
一般式(3)及び一般式(4)のY
1、n1、Y
2、n2、R
2の好ましい範囲は、一般式(1)及び一般式(2)のY
1、n1、Y
2、n2、R
2の好ましい範囲と同一である。
【0057】
一般式(3)の具体的な例としては、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。下記一般式(6)中、n1の好ましい範囲は一般式(3)中のn1の好ましい範囲と同一である。下記一般式(6)で表される化合物は、日本油脂(株)社から、SUNBRIGHT PTE−050SH(n1=約26)、SUNBRIGHT PTE−100SH(n1=約54)、SUNBRIGHT PTE−200SH(n1=約111)の商品名で購入することができる。
【0059】
一般式(4)の具体的な例としては、下記一般式(7−1)〜(7−3)で表される化合物が挙げられる。下記一般式(7−1)〜(7−3)中、n2の好ましい範囲は一般式(4)中のn2の好ましい範囲と同一である。原料合成の容易さ、エンチオール反応で使用する際の反応性の観点から、下記一般式(7−1)で表される化合物が好ましい。
【0061】
一般式(7−1)〜(7−3)で表される化合物は、下記一般式(8)で表される化合物を原料として用いて合成できる。例えば、一般式(7−1)で表される化合物は下記一般式(8)で表される化合物と3−ブテン酸とを原料に合成でき、一般式(7−2)で表される化合物は下記一般式(8)で表される化合物とアクリル酸とを原料に合成でき、一般式(7−3)で表される化合物は下記一般式(8)で表される化合物とアリルアルコールとを原料に合成できる。合成には主に縮合反応が用いられ、有機溶媒中で酸性触媒等の縮合触媒と共に加熱して縮合する方法、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等の縮合剤を用いて縮合する方法が挙げられる。精製方法は特に限定されないが、再結晶法を用いることができる。下記一般式(8)で表される化合物は、例えばJENKEM USA社から4ARM−PEG−10K(n2=約56)の商品名で購入できる。
【0063】
一般式(1)で表される化合物のその他の好ましい例として、下記一般式(9)で表される化合物が挙げられる。下記一般式(9)中、n1の好ましい範囲は一般式(1)中のn1の好ましい範囲と同一である。下記一般式(9)で表される化合物は日本油脂(株)社から、SUNBRIGHT HGEO−200SH(n1=約54)、JENKEM USA社から8ARM−SH−10K(n1=約25)の商品名で購入することができる。
【0065】
一般式(2)で表される化合物のその他の好ましい例として、下記一般式(10−1)〜(10−3)で表される化合物が挙げられる。下記一般式(10−1)〜(10−3)中、n2の好ましい範囲は一般式(2)中のn2の好ましい範囲と同一である。
【0067】
一般式(10−1)〜(10−3)で表される化合物は、下記一般式(11)で表される化合物を原料として用いて合成できる。例えば、一般式(10−1)で表される化合物は下記一般式(11)で表される化合物と3−ブテン酸とを原料に合成でき、一般式(10−2)で表される化合物は下記一般式(11)で表される化合物とアクリル酸とを原料に合成でき、一般式(10−3)で表される化合物は下記一般式(11)で表される化合物とアリルアルコールとを原料に合成できる。合成には主に縮合反応が用いられ、有機溶媒中で酸性触媒等の縮合触媒と共に加熱して縮合する方法、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等の縮合剤を用いて縮合する方法が挙げられる。精製方法は特に限定されないが、再結晶法を用いることができる。下記一般式(11)で表される化合物は、例えばJENKEM USA社から8ARM−PEG−10K(n2=約27)の商品名で購入できる。
【0069】
(液体)
本実施形態において、ゲル層に含有される液体は、イオン液体、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び炭素数が15以下のアミン化合物から選ばれた少なくとも1種の液体である。これらの中でも、イオン液体又は炭素数が15以下のアミン化合物が好ましい。二酸化炭素と親和性が高いイオン液体を用いた場合、二酸化炭素透過性、透過選択性が良好となるため好ましい。また、炭素数が15以下のアミン化合物を用いた場合、気体分離膜が促進輸送膜となることのよって、分離対象ガスに含まれる二酸化炭素が低分圧であり、かつ加湿条件下の場合、非常に高い二酸化炭素透過性、透過選択性が得られるため好ましい。
【0070】
本実施形態における液体の融点は、50℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがさらに好ましく、0℃以下であることが特に好ましい。液体の融点が0℃以下の場合、液体が常温で液状であり、本実施形態のゲル層を常温で気体分離膜として使用できるため好ましい。
【0071】
本実施形態において、液体の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。沸点が200℃以上の場合は、常温にて液体が揮発しにくいため、気体分離膜として使用した際の長期安定性に優れる。
【0072】
イオン液体を構成するカチオンは、イミダゾリウムカチオン又はアンモニウムカチオンから選択される。イミダゾリウムカチオンは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基及びフルオロアルキル基のいずれかの基を有する。アンモニウムカチオンは、A
1A
2A
3A
4N
+で表される。A
1、A
2、A
3、A
4は、各々独立にフェニル基、無置換の炭素数1〜15個のアルキル基、又はヒドロキシル基、エーテル基、アリル基、アミノアルキル基若しくはフルオロアルキル基を有する炭素数1〜15個のアルキル基であることが好ましい。カチオンの具体的な例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)−3−メチルイミダゾリウムカチオン、トリブチルメチルアンモニウムカチオン、トリメチルヘキシルアンモニウムカチオン、トリメチルデシルアンモニウムカチオン、ジメチルブチルイソプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルヘキシルアンモニウムカチオンが挙げられる。好ましくは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンである。
【0073】
イオン液体を構成するアニオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、四フッ化ホウ素イオン、硝酸イオン、チオシアネートイオン、ジシアノアミドイオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドイオンであることが好ましい。好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンである。
【0074】
本実施形態において用いられるイオン液体の具体的な例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−(2−メトキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートが挙げられる。好ましくは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノアミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートである。これらのイオン液体を用いてゲル層を作製し、気体分離膜として使用した場合、二酸化炭素の透過性、選択性のバランスが良好なため好ましい。
【0075】
本実施形態において用いられる炭素数が15以下のアミン化合物としては、アルキルアミン、アリールアミン、芳香族アミン、アルカノールアミンが挙げられ、アルカノールアミンが好ましい。アルカノールアミンの具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルモノエタノールアミン、n−ブチルモノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、n‐ブチルエタノールアミン、ジーn−ブチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアミンが挙げられる。好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアミンである。ここで、アミン化合物の炭素数が15以下であると、ゲル層中でのアミン化合物の拡散性が高く、高い透過性能の膜が得られる点で好ましい。また、同様の観点から、アミン化合物の炭素数は、1〜10であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。
【0076】
本実施形態において、アミノ基を有するイオン液体又は炭素数が15以下のアミン化合物を用いた場合、本実施形態の気体分離膜を促進輸送膜として使用することができる。アミノ基を有する液体を用いた場合、アミノ基が二酸化炭素のキャリアとして作用するため、二酸化炭素を選択的に透過することが可能となる。アミノ基を有するイオン液体とは、例えば、イオン液体のカチオンとしてアミノアルキル基を側鎖にもつイミダゾリウムカチオンを含むものやイオン液体のアニオンとしてアミノ酸イオンを含むものが挙げられる。本実施形態の気体分離膜を促進輸送膜として使用した場合、分離対象ガスの二酸化炭素濃度が低分圧の条件において、高い透過性能、分離性能の気体分離膜となる。
【0077】
本実施形態において、ゲル層に含まれる液体の含有率は、ゲル層の全質量を基準として、30質量%〜90質量%であることが好ましいく、40質量%〜80質量%であることがより好ましく、50質量%〜70質量%であることがさらに好ましい。液体の含有率が90質量%を超える場合、ゲル層の強度が低下し欠陥を生じやすくなる。液体含有率が30質量%未満の場合、高気体透過性能である液体成分の寄与が少なくなり気体の透過性が減少するおそれがある。
【0078】
本実施形態におけるゲル層の膜厚は100nm〜20μmであることが好ましく、150nm〜10μmであることがより好ましく、200nm〜5μmであることがさらに好ましい。ゲル層の膜厚が100nm〜20μmの範囲であると、高透過度の気体分離膜となるため好ましい。
【0079】
[気体分離膜の製造方法]
本実施形態の気体分離膜をより詳細に説明するために、気体分離膜の製造方法を説明する。しかし、気体分離膜の製造方法としては、以下の製造方法に限定されるものではなく、上述した気体分離膜が得られれば、どのような製造方法でもよい。
【0080】
本実施形態の気体分離膜の製造方法は、多孔質支持体上にポリマー層を積層する工程と、ポリマー層上にゲル層を積層する工程と、を備えている。
【0081】
多孔質支持体上にポリマー層を積層する工程では、多孔質支持体の表面上であって少なくとも片面に、ポリジメチルシロキサン、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリジフェニルアセチレン、パーフルオロポリマー及びポリエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一種のポリマーを含有する溶液を塗布することが好ましい。塗布の方法としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、グラビアコート、ロールコーティング、スプレーコート、ディップコート、フロートコート、コンマロール法、キスコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。連続生産を考慮した場合、平膜形状の多孔質支持体に塗布する場合は主表面上にフロートコート、中空糸形状の多孔質支持体に塗布する場合はディップコートが好ましい。
【0082】
多孔質支持体上にポリマー層を積層する工程において、フロートコート又はディップコートを用いる場合、上記のポリマーを含有する溶液は、ポリマー1質量部に対してポリマーを溶解させる溶媒10質量部〜1000質量部、好ましくは20質量部〜200質量部、特に好ましくは30質量部〜100質量部を配合する。フロートコート又はディップコートによりポリマー層を積層する場合、ポリマーを溶解させる溶媒が10質量部未満であると、コーティング溶液の粘度が大きくなるためポリマー層の膜厚が厚くなるおそれがある。ポリマー層の膜厚はポリマー層の透過度と反比例するため、膜厚の厚いポリマー層は透過度の低下につながる。一方、ポリマーを溶解させる溶媒が1000質量部を超えると、ポリマー層に欠陥が生じやすくなる。ポリマー1質量部に対してポリマーを溶解させる溶媒を30質量部〜100質量部で配合すると、無欠陥なポリマー層の積層が容易になるため好ましい。
【0083】
ポリマー層を積層する工程の後に、ポリマー層を乾燥する工程を設けてもよい。乾燥する工程では、常圧又は真空下で20℃〜120℃で30分〜24時間加熱することが好ましく、40℃〜80℃で2〜4時間加熱することがより好ましい。
【0084】
ポリマー層の厚みは、100nm〜20μmであることが好ましい。ポリマー層の厚みが100nmより小さいと、ポリマー層を積層する工程において欠陥が生じやすくなり、ポリマー層の厚みが20μmより大きいと、気体分離膜の透過度が小さくなり実用に供することが困難となる場合がある。容易に無欠陥な薄いポリマー層を形成できる観点から、ポリマー層の厚みは、好ましくは150nm〜10μmであり、特に好ましくは200nm〜1μmである。
【0085】
続いて、ポリマー層上にゲル層を積層する工程を説明する。ポリマー層上にゲル層を積層する方法としては、例えば以下の積層法(a)〜積層法(c)が挙げられる。積層法(a)は、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物及び液体を含む反応溶液を作製する工程と、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程と、エンチオール反応を行う工程、により製造する方法である。積層法(b)は、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、液体及び揮発性溶媒を含む反応溶液を作製する工程と、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程と、エンチオール反応を行う工程と、揮発性溶媒を除去する工程、により製造する方法である。積層法(c)は、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物及び反応溶媒を含む反応溶液を作製する工程と、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程と、エンチオール反応を行う工程と、得られた膜を液体及び希釈溶媒を含む混合溶媒に浸漬しゲル層に混合溶媒を染み込ませる工程と、希釈溶媒を除去する工程により製造する方法である。積層法(a)〜積層法(c)において、重合開始剤等の添加剤を添加することが可能である。粘度の調整が可能であり薄膜化が容易である点から、製膜法(b)、製膜法(c)が好ましい。
【0087】
積層法(a)における、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物及び液体からなる反応溶液を作製する工程を説明する。該工程において、一般式(1)で表される化合物のチオール基のモル数と一般式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合のモル数とが同モル数になるように配合することが好ましい。同じモル数になるように配合することで、重合反応が均一に進行し、高強度のゲル層を得ることができる。反応溶液の配合については、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対して液体を43〜900質量部配合することが好ましい。より好ましくは100〜400質量部である。反応溶液の配合比率を調整することで、得られるゲル層の液体含有率を調整することができる。
【0088】
積層法(a)における、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程の塗布方法としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、グラビアコート、ロールコーティング、スプレーコート、ディップコート、フロートコート、コンマロール法、キスコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。連続生産を考慮した場合、平膜形状の気体分離膜を作製する場合はフロートコート、中空糸形状の気体分離膜を作製する場合はディップコートが好ましい。
【0089】
積層法(a)におけるエンチオール反応を行う工程は、光(光重合反応)又は熱(熱重合反応)を用いることが好ましい。簡便にエンチオール反応を進行できる観点から、光重合反応が好ましい。なお、熱重合反応と光重合反応とを併用して行うこともでき、例えば熱重合反応の後に光重合反応を行うか、光重合反応させた後に熱重合反応するか、あるいは光重合反応と熱重合反応とを同時に行うこともできる。
【0090】
光重合反応は、γ線、紫外線、可視光線、電子線などの照射によって進行することが好ましい。装置の入手容易性の観点から紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0091】
紫外線は、200〜400nmの波長を用いて、10〜5000mJ/cm
2で照射されることが好ましい。波長は、より好ましくは約250〜360nmである。500〜3000mJ/cm
2で照射することがさらに好ましく、600〜2000mJ/cm
2で照射することが特に好ましい。
【0092】
紫外線等を照射する場合、添加剤として光重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤を用いない場合、紫外線等の光を直接チオール基が吸収し、チオラジカルが発生することで重合が進行する。光重合開始剤を用いるとラジカルが発生しやすくなるため好ましい。光重合開始剤としては、公知のものを使用でき、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、4−(1−t−ブチルジオキシ−1−メチルエチル)アセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)―フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、4−(1−t−ブチルジオキシ−1−メチルエチル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;アシルフォスフィンオキサイド類及びキサントン類が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0093】
光重合開始剤の添加量は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対し0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。
【0094】
熱重合反応は、40℃〜120℃で、30分〜24時間加熱することにより行われることが好ましい。約60〜80℃で、約2〜4時間加熱することがさらに好ましい。
【0095】
熱重合反応を行う場合、添加剤として熱重合開始剤を用いてもよい。具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエー卜、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物等が挙げられる。また、熱重合時には硬化促進剤を混合して使用してもよく、硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等又は3級アミン等が好ましい。
【0096】
熱重合開始剤の添加量は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましい。
【0098】
積層法(b)における一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、液体及び揮発性溶媒を含む反応溶液を作製する工程を説明する。該工程において、一般式(1)で表される化合物のチオール基のモル数と一般式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合のモル数とが同モル数になるように配合することが好ましい。同じモル数で配合することで、重合反応が均一に進行し、高強度のゲル層を得ることができる。反応溶液の配合については、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対して液体を43〜900質量部、揮発性溶媒を10〜5000質量部配合することが好ましく、液体を100〜400質量部、揮発性溶媒を500〜3000質量部配合することがより好ましい。反応溶液の配合量により、得られるゲル層の液体含有率を調整することができる。また、希釈溶媒の配合量により反応溶液の粘度を調整できるため、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程が容易となる。
【0099】
積層法(b)における反応溶液に含まれる揮発性溶媒としては、液体、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物と相溶性があり、ある程度揮発性を有し、ポリマー層とある程度親和性を有する溶媒を用いることができる。ポリマー層と親和性が低い場合、反応溶液のポリマー層に対する濡れ性が良好でないため、反応溶液を塗布する際に反応溶液が液滴となり、反応溶液を均一に塗布することができないおそれがある。揮発性溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、アセトニトリル、ニトロメタンなどから選ばれる1種又は2種以上の混合液が挙げられる。好ましくはクロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、より好ましくはジクロロメタン、1,4−ジオキサンが用いられる。
【0100】
積層法(b)における反応溶液をポリマー層上に塗布する工程とエンチオール反応を行う工程とは、それぞれ積層法(a)における反応溶液をポリマー層上に塗布する工程とエンチオール反応を行う工程とで述べた方法と同様にして実施することができる。
【0101】
積層法(b)における揮発性溶媒を除去する工程は、常圧又は真空下で20℃〜120℃で、約30分〜24時間加熱することが好ましく、40℃〜80℃で、2〜4時間加熱することがより好ましい。
【0102】
積層法(b)において、揮発性溶媒を除去する工程とエンチオール反応を行う工程との順番を入れ替えてもよい。また、揮発性溶媒を除去すると同時に光重合反応や熱重合反応によりエンチオール反応を行ってもよい。
【0104】
積層法(c)における、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物及び反応溶媒を含む反応溶液を作製する工程を説明する。該工程において、一般式(1)で表される化合物のチオール基のモル数と一般式(2)で表される化合物の炭素−炭素二重結合のモル数とが同モル数になるように配合することが好ましい。同じモル数で配合することで、重合反応が均一に進行し、高強度のゲル層を得ることができる。また、反応溶液は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との合計質量100質量部に対して反応溶媒を100〜9900質量部配合することが好ましく、500〜2000質量部配合することがより好ましい。反応溶媒の配合量により反応溶液の粘度を調整できるため、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程が容易となる。
【0105】
反応溶媒は、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物と相溶性があり、ある程度揮発性を有し、ポリマー層とある程度親和性を有する溶媒を用いることができる。ポリマー層と親和性が低い場合、反応溶液のポリマー層に対する濡れ性が良好でないため、反応溶液を塗布する際に反応溶液が液滴となり、反応溶液を均一に塗布することができないおそれがある。反応溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、アセトニトリル、ニトロメタンなどから選ばれる1種又は2種以上の混合液が挙げられる。好ましくは、水、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、1,4−ジオキサンであり、より好ましくはジクロロメタン、1,4−ジオキサンである。
【0106】
積層法(c)における、反応溶液をポリマー層上に塗布する工程とエンチオール反応を行う工程は、それぞれ製膜法(a)における反応溶液をポリマー層上に塗布する工程とエンチオール反応を行う工程で述べた方法と同様にして実施することができる。
【0107】
積層法(c)における、得られた膜を液体と希釈溶媒との混合溶媒に浸漬しゲル層に混合溶媒を染み込ませる工程を説明する。該工程において、混合溶媒はゲル100質量部に対し1000質量部以上用いることが好ましい。過剰量の混合溶媒を用いることで、ゲル層の内部に液体と希釈溶媒とを染み込ませることができる。なお、エンチオール反応を行う工程の際に用いた反応溶媒は混合溶媒により十分希釈されるため、また、希釈溶媒を除去する工程において同時に除去されるため、最終的に得られるゲル層には残存しない。液体と希釈溶媒との混合比率は、液体100質量部に対し希釈溶媒が25質量部〜5000質量部が好ましく、250質量部〜2000質量部がより好ましい。液体と希釈溶媒との混合比率を調整することで、得られるゲル層の液体含有率を調整することができる。溶媒に浸漬する時間は、30分〜24時間が好ましく、1時間〜12時間がより好ましく、4時間〜8時間がさらに好ましい。なお、反応溶媒を任意の乾燥法により除去してから、得られた膜を液体と希釈溶媒との混合溶媒に浸漬しゲル層に混合溶媒を染み込ませる工程を行ってもよい。または、ゲル層に別の溶媒に一度置換させた後に、得られた膜を液体と希釈溶媒との混合溶媒に浸漬しゲル層に混合溶媒を染み込ませる工程を行ってもよい。
【0108】
希釈溶媒は、液体と相溶性があり、かつ、ある程度揮発性を有する溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、好ましくは、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサンであり、より好ましくはメタノールである。
【0109】
積層法(c)における希釈溶媒を除去する工程は、常圧又は真空下で20℃〜120℃で、30分〜24時間加熱することが好ましく、40℃〜80℃で、2〜4時間加熱することがより好ましい。
【0110】
[気体分離膜の使用方法]
本実施形態の気体分離膜は、気体分離膜モジュールとすることが好ましい。気体分離膜モジュールの例としては、スパイラル型、中空糸型、プリーツ型、管状型、プレート&フレーム型などが挙げられる。
【0111】
本実施形態の気体分離膜を使用する際の温度条件は、好ましくは10℃〜100℃、さらに好ましくは15℃〜90℃、特に好ましくは20℃〜70℃である。
【0112】
本実施形態の気体分離膜を使用する際の圧力条件は、分離対象ガスの圧力がゲージ圧で0.1MPa〜10MPaであることが好ましい。
【0113】
本実施形態の気体分離膜のゲル層に含まれる液体としてアミノ基を有するイオン液体又は炭素数が15以下のアミン化合物を使用した場合、本実施形態の気体分離膜を促進輸送膜として使用できる。本実施形態の気体分離膜を促進輸送膜として使用する場合、分離対象ガスの圧力条件がゲージ圧で0.1MPa〜0.5MPaであることが好ましく、0.1MPa〜0.2MPaであることがより好ましい。分離対象ガスの湿度条件は、10%RH〜95%RHの加湿条件であることが好ましい。分離対象ガスの二酸化炭素濃度は、1%〜50%が好ましく、2%〜10%がより好ましい。
【0114】
本実施形態の気体分離膜は、二酸化炭素を含有する混合気体から二酸化炭素を分離する気体分離膜として用いることができる。この技術は、油田のオフガス、ゴミ焼却や火力発電の排ガス、天然ガス等からの二酸化炭素の分離回収に利用することができる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0116】
[実施例1]
<末端がビニル基の4官能ポリエチレングリコール(4ARM−PEG−ビニル−10K)の合成>
まず、内容量500mlのガラス製1口フラスコにp−トルエンスルホン酸・一水和物(PTSA)3.6g、テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株):試薬特級)50mlを加え、スターラ−で撹拌し溶解した。溶解後、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)5.6gをテトラヒドロフラン50mlで溶解した溶液にゆっくり加えた。10分間撹拌後、析出した白色沈殿を濾過し、得られた沈殿物を塩化メチレン(和光純薬工業(株):試薬特級)とヘキサン(和光純薬工業(株):試薬特級)とを用い再結晶し、白色の針状結晶を得た(PTSA/DMAP:収率72%)。次に、内容量200mlのガラス製フラスコを用い、ディーン・スターク装置を準備した。これに末端が水酸基の4官能ポリエチレングリコール(JENKEM USA社製:4ARM−PEG−10K(商品名)、分子量10000Da)5g、3−ブテン酸(東京化成工業(株)製)12g、トルエン(和光純薬工業(株)製:試薬特級)15g、PTSA/DMAPを440mg加え、窒素置換した。副生成物として発生する水を共沸により除去し、必要に応じてトルエンを注ぎ足しながら120℃で3時間還流させた。冷却後、飽和食塩水を加え、クロロホルム(和光純薬工業(株):試薬特級)を用いて抽出し、炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製)飽和水溶液で不純物を抽出により取り除いた。エバポレーターでクロロホルムを除去した後、エタノール(和光純薬工業(株)製:試薬特級)とヘキサンとを用いて再結晶を行い、白色結晶を得た(収率89%)。
1H−NMR測定により、白色結晶が、上記一般式(7−1)に相当する末端がビニル基の4官能ポリエチレングリコール(4ARM−PEG−ビニル−10K)であることを確認した。
【0117】
<ポリマー層の積層>
内容量500mlのポリエチレン製広口瓶に室温硬化型(RTV)シリコーンゴム組成物であるTSE382(商品名)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を8g、塩化メチレン(和光純薬工業(株):試薬特級)392gを加え撹拌した後に、溶液の一部を200mlメスシリンダーに移した。PVDF製中空糸UF膜(旭化成ケミカルズ(株)製)を20cmの長さに切り、先端を圧着して封止し、2gの重りをつけ、上記の溶液に浸漬し垂直に引き上げることでディップコートを行った。コート後、70℃で10分間乾燥を行い、12時間静置し、ポリマー層が積層された中空糸膜を得た。
【0118】
<ゲル層の積層>
内容量20mlのスクリュー管に上述のように合成した4ARM−PEG―ビニル−10Kを500mg、上記一般式(6)に相当する末端がチオール基の4官能ポリエチレングリコールである4ARM−SH−10K(商品名)(JENKEM USA社製:分子量10000Da)500mg、IRGACURE2959(商品名)(Ciba製)10mg、1,4−ジオキサン(和光純薬工業(株):試薬特級)9.0gを加え、気泡がなくなるまで静置した。静置後、片端のみ封止された25cm程度の長さの細長いガラス管に溶液を移し、ガラス管の開放部が上部になるように垂直に設置した。ポリマー層の積層の工程で得られた中空糸膜の先端を圧着して封止し、先端に2gの重りをつけ、上記の溶液に浸漬し垂直に引き上げることでディップコートを行った。コート後、中空糸を金属製の枠に貼り付け、中空糸の全面を数回に分けて露光機(UVシステムズ製:FUSION VPS―6)で1512mJ/cm
2(254nmにおける露光量)照射した。照射後12時間静置し、得られた膜をメタノールに12時間浸漬した後、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液に12時間浸漬した。70℃、2時間真空下で乾燥することでメタノールを除去し、ゲル層が積層された気体分離膜を得た。
【0119】
[実施例2]
実施例1の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液を1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート:メタノール=1:7(質量比)の溶液に代えた以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を作製した。
【0120】
[実施例3]
実施例1の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液をポリエチレングリコール400(和光純薬(株)製):メタノール=1:7(質量比)の溶液に代えた以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を作製した。
【0121】
[実施例4]
実施例1の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液をグリセリン(和光純薬(株)製):メタノール=1:7(質量比)の溶液に代えた以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を作製した。
【0122】
[実施例5]
実施例1の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:メタノール=1:7(質量比)の溶液をジエタノールアミン(東京化成工業(株)製):メタノール=1:7(質量比)の溶液に代えた以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を作製した。
【0123】
[実施例6]
実施例1のTSE−382をTeflonAF1600(商品名、登録商標)(三井・デュポン フロロケミカル(株)製)に、塩化メチレンをフッ素系溶剤のNovec7300(商品名)(住友3M製)にそれぞれ代えた以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を作製した。
【0124】
(ゲル層の液体含有率)
ゲル層の液体含有率は次の方法で測定した。ゲル層を作製する際に用いた塗布溶液と同じ組成の溶液を用い自立膜を作製し、自立膜の質量を正確に計測した(計測値をW1とする)。過剰量のメタノールに自立膜を24時間浸漬した後、12時間70℃真空乾燥を行い、自立膜の質量を再び計測した(計測値をW2とする)。液体含有率(%)=(W1−W2)/W1×100の式により自立膜の液体含有率を計算し、この自立膜の液体含有率をゲル層の液体含有率とした。結果を表1にまとめた。
【0125】
(ゲル層の膜厚)
ゲル層の膜厚については走査型電子顕微鏡(JCM−5100型、JEOL製)を用いて、断面を観察することによって測定した。結果を表1にまとめた。
【0126】
(気体透過測定)
気体透過測定はジーティーアールテック社製等圧式ガス透過率測定装置(GTR20FMAK)を用いて実施した。実施例1〜実施例4、実施例6については、相対湿度0%、50℃、大気圧、40%二酸化炭素(CO
2)/60%窒素(N
2)の混合ガスを用い測定し、実施例5については相対湿度80%、50℃、大気圧、5%二酸化炭素(CO
2)/95%窒素(N
2)の混合ガスを用い測定した。測定結果より、二酸化炭素の透過係数(PCO
2)、理想分離係数(α
*CO
2/N
2)を算出した。
【0127】
表1の記号や略称を説明する。
Q:透過度(1GPU=1×10
−6[cm
3(STP)/cm
2/s/cmHg])
α
*:理想分離係数
emimTFSA:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
emimBF
4:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート
PEG400:ポリエチレングリコール400
【0128】
【表1】
【0129】
表1における実施例1より、多孔質支持体とゲル層との間にポリマー層を設けることにより、無欠陥かつ薄膜状のゲル層を積層することが可能であることが分かる。これは、ゲル層と多孔質支持体との間にポリマー層が積層されているため、ゲル層を積層する際に用いる架橋ポリマー前駆体溶液の多孔質支持体への染み込みが抑制され、欠陥の発生が抑制できるためと考えられる。また、実施例5で示すとおり、ゲル層に含有される液体としてアミン化合物を用いることで、促進輸送膜を作製することも可能である。