【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による水底構造物と筒体の接続構造体は、水底構造物の天端面にあるハッチを包囲する位置に、クレーン船で吊り下げられた筒体がガスケットを介して配設されており、前記筒体に外側から作用する水圧によって該筒体が前記天端面に相対変位自在に接続されているものである。
【0011】
本発明の水底構造物と筒体の接続構造体は、クレーン船で吊り下げられた状態の筒体が水底構造物の天端面に位置決めされ、筒体に外側から作用する水圧にて該筒体が天端面に対して相対変位自在に接続されているものである。
【0012】
ここで、「水底構造物」とは、水底に沈設された沈埋函(ケーソン)を繋いで構成された沈埋トンネルや、水底からその一部を海水中に臨ませたシールドトンネル等、水底上に設置される、もしくは水底にその一部が埋設される各種構造物を指称するものである。また、「水底」とは、海底や湖底、規模の大きな川底などを含む意味である。
【0013】
水底構造物の天端面には蓋が開閉自在もしくは着脱自在に備えてあるハッチが取り付けられており、このハッチは、少なくとも一人の人員が通過できる大きさの開口を備えたものである。すなわち、人員救助のみを目的としたハッチの場合には、人員が通過できる大きさ、もしくは人員を収容したゴンドラ等が通過できる大きさのハッチを適用すればよいし、人員救助以外にも、水底構造物内から資機材を搬出入したり、比較的大型の車両や機器をハッチを介して搬出入することも用途に含める場合は、最大規模の被搬出入材が通過可能な大きさのハッチを適用すればよい。なお、実際の人員救助は、クレーン船から吊り下げられて救助員が乗り込んでいるゴンドラを筒体内で降下させ、救助員が筒体の蓋を開放し、ゴンドラを水底構造物内に吊り下ろし、水底構造物内の人員をゴンドラに収容し、クレーン船で吊り上げて救助する方法が挙げられる。
【0014】
筒体はクレーン船で吊り下げられた状態となっているが、これは、たとえば筒体が人員救助路として使用される際にクレーン船が筒体を吊った状態で筒体の下端を水底構造物の天端面に配設することによって本発明の接続構造体が形成されるからである。すなわち、人員救助等の緊急時や、平時であっても水底構造物内から人員や各種資機材等を搬出入する等の要請があった際に、クレーン船が筒体を水底構造物まで搬送し、そこで筒体を吊って水底構造物の天端面に設置することで一時的に本発明の接続構造体が形成されるものである。なお、「緊急時」には様々なシチュエーションが含まれる。たとえば、水底構造物の天端面において、その上部が海上等から突出している大型の開口を備えたシャフトが取り付けられている場合に、船舶や起重機船等がこのシャフトに衝突してシャフトが使用できなくなった場合や、海底上で延びる沈埋トンネルの一部が地震等で破損し、人員を残した沈埋トンネルの一部が孤立してしまい、該一部の沈埋トンネルに陸上に通じる沈埋トンネルを介してアクセスできない場合などが挙げられる。
【0015】
ここで、「筒体」とは、鋼製の円管や角管のほか、鋼材からなるトラス架構を筒状に組み、その表面に鋼板を取り付けて構成したものなどが適用できる。また、この筒体には、水底構造物の天端面に設置した後に筒体内部にある水を筒体外に排出できる排出口を設けておいてもよい。
【0016】
また、筒体の下端と水底構造物の天端面は、ボルトや溶接等で双方が強固に固定されることなく、双方の間に介在するガスケットのみを介して、水底構造物の天端面に対して筒体が相対変位自在に接続されていることもまた本発明の接続構造体の特徴構成の一つである。
【0017】
ガスケットは、筒体の下端や水底構造物の天端面にゲル状のガスケットを塗布し、乾燥させて形成したものや、定型のゴムガスケットを筒体の下端や水底構造物の天端面に接着等したものなどを挙げることができる。
【0018】
たとえば鋼管からなる筒体を使用する場合、鋼管の下端に円環状のゴムガスケットを接着しておき、このゴムガスケットを水底構造物の天端面に当接するようにして筒体を水底構造物の天端面に設置することにより、双方のシール性を保証することができる。
【0019】
水底構造物の天端面のハッチの周囲に筒体を配設することで、筒体にはその外部から静水圧が作用し、この静水圧によって筒体を水底構造物の天端面に押圧することができる。
【0020】
筒体はその上端もしくは上端近傍をクレーン船で吊っていることより、水底構造物に対してその設置位置を変化させることなく、その立設姿勢を直立状態から多様な傾斜姿勢に変位自在としながら水底構造物と接続される。すなわち、水底構造物の天端面と筒体は、双方の接続部の水平位置や鉛直位置を動かすことなく、一方に対して他方が回動自在に接続されている、ピン結合構造を形成している。
【0021】
このように、水底構造物の天端面に対して筒体をボルトや溶接等で接続することなく、筒体に外部から水圧を作用させる、いわゆる水圧接合を適用することで、水底構造物に対する筒体の設置を迅速におこなうことができ、このことは水底構造物内の人員を緊急救助する際に好適となる。また、クレーン船で吊られた筒体は波の影響を受けて前後左右に揺動し得るが、筒体の下端が水底構造物に対して相対変位自在となっていることで、筒体の揺動によって水底構造物の天端面を破損させる等の問題も生じ得ない。すなわち、仮に筒体の下端が水底構造物の天端面とボルト等で緊結されていて、波の影響で筒体が揺動した際には、ボルトを介して水底構造物の天端面には引抜力や押込力が作用し、筒体の揺動が大きくて引抜力等が過大な場合には天端面の破損に繋がり得る。
【0022】
また、目的を達した後はクレーン船で筒体を吊り上げることで、筒体撤去も容易かつ迅速に実行できる。なお、筒体はたとえば水底構造物に近い陸上ヤード等に常設しておき、要請があった際にクレーン船に積み上げられ、水底構造物に搬送されて接続構造体の構築に供することができる。
【0023】
また、本発明による水底構造物と筒体の接続構造体の好ましい実施の形態は、前記筒体がその途中位置に止水性を有する可撓継手を備えているものである。
【0024】
たとえば筒体の延長が長い場合に、筒体はその下端が水底構造物の天端面とピン結合構造を呈しているものの、波の影響で筒体が破損する可能性を否定できない。
【0025】
そこで、止水性を有する可撓継手の実施の形態として、筒体をその途中位置で上下2つに縁切りしておき(上筒体、下筒体)、上筒体と下筒体の外側に相対的に大径の鞘管を配設しておき(上鞘管、下鞘管)、上下の鞘管をたとえば波型のゴムガスケット等で繋ぐことにより、筒体の途中位置に止水性を有する可撓継手を形成することができる。
【0026】
また、本発明による水底構造物と筒体の接続構造体の好ましい実施の形態は、前記天端面のハッチの周囲に案内部材が設けられ、該案内部材の内側に前記筒体が配設されているものである。
【0027】
この案内部材は、クレーン船で吊られた筒体を水底構造物の天端面のハッチの周囲に吊り下げながら位置決めする際に好適な部材である。
【0028】
この案内部材は、筒体よりも大径の鋼管等で形成したものをハッチの周囲の位置に取り付けておいたり、鋼材を組んでハッチの周囲に鋼材架構を形成しておくといった形態が挙げられる。
【0029】
水底構造物の天端面に案内部材があることで、水底構造物の天端面に筒体を吊り下げて位置決めする際の作業効率が格段に高められる。
【0030】
また、本発明は水底構造物と筒体の接続方法にも及ぶものであり、この接続方法は、水底構造物の天端面にあるハッチを包囲する位置に、クレーン船で吊り下げられた筒体をガスケットを介して配設し、該筒体に外側から水圧を作用させ、該水圧によって該筒体を前記天端面に対して相対変位自在に接続する第1のステップ、前記筒体内の水を抜いて筒体内を中空状態にする第2のステップからなるものである。
【0031】
本発明の接続方法によれば、水底構造物の天端面に筒体を配設し、該筒体に対して外部から水圧を作用させる、いわゆる水圧接合を適用することで、水底構造物に対する筒体の設置を迅速におこなうことができる。
【0032】
また、本発明の接続方法において、前記第1のステップでは、前記天端面のハッチの周囲に案内部材を取り付けておき、クレーン船で吊り下げられた筒体を該案内部材で案内しながらハッチの周囲に位置決めするのが好ましい。
【0033】
案内部材を使用しながら水底構造物の天端面に筒体を吊り下げて位置決めすることにより、水底構造物に対する筒体設置の迅速性が一層高められる。
【0034】
さらに、本発明は水底構造物内から人員を救助する方法にも及ぶものであり、この方法は、水底構造物内部の人員救助要請を受けて前記筒体を積んだクレーン船が水底構造物にアクセスし、前記接続方法を適用して前記第1のステップと第2のステップを経て水底構造物と筒体を接続し、ハッチの具備する蓋を開放し、前記筒体を水底構造物内部と外部を繋ぐ人員救助路として水底構造物内部の人員を救助するものである。
【0035】
本発明の人員救助方法によれば、水底構造物の天端面に対する筒体の設置が迅速におこなわれ、要請から早期に人員救助路を形成できることから、水底構造物内の人員の緊急救助を高い成功率の下で実現することができる。