特許第6228043号(P6228043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6228043水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228043
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法
(51)【国際特許分類】
   B63C 9/00 20060101AFI20171030BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20171030BHJP
   A62B 5/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   B63C9/00 Z
   B63C11/00 L
   A62B5/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-45324(P2014-45324)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-168350(P2015-168350A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年1月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物 :基礎工 2014 Vol.42,No.1 発行日 :平成26年1月15日 発行所 :株式会社総合土木研究所 該当頁 :第50−55頁
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】木村 政俊
(72)【発明者】
【氏名】小山 文男
(72)【発明者】
【氏名】土屋 正彦
(72)【発明者】
【氏名】中塚 健司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一教
(72)【発明者】
【氏名】外山 雅昭
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−038798(JP,U)
【文献】 特開2000−289690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/00
A62B 5/00
B63C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底構造物の天端面にあるハッチを包囲する位置に、クレーン船で吊り下げられた筒体がガスケットを介して配設されており、
前記筒体に外側から作用する水圧によって該筒体が前記天端面に相対変位自在に接続されている、水底構造物と筒体の接続構造体。
【請求項2】
前記筒体がその途中位置に止水性を有する可撓継手を備えている請求項1に記載の水底構造物と筒体の接続構造体。
【請求項3】
前記天端面のハッチの周囲に案内部材が設けられ、該案内部材の内側に前記筒体が配設されている請求項1または2に記載の水底構造物と筒体の接続構造体。
【請求項4】
水底構造物の天端面にあるハッチを包囲する位置に、クレーン船で吊り下げられた筒体をガスケットを介して配設し、該筒体に外側から水圧を作用させ、該水圧によって該筒体を前記天端面に対して相対変位自在に接続する第1のステップ、
前記筒体内の水を抜いて筒体内を中空状態にする第2のステップからなる、水底構造物と筒体の接続方法。
【請求項5】
前記第1のステップでは、前記天端面のハッチの周囲に案内部材を取り付けておき、クレーン船で吊り下げられた筒体を該案内部材で案内しながらハッチの周囲に位置決めする請求項4に記載の水底構造物と筒体の接続方法。
【請求項6】
水底構造物内部の人員救助要請を受けて前記筒体を積んだクレーン船が水底構造物にアクセスし、
請求項4または5に記載の接続方法を適用して前記第1のステップと第2のステップを経て水底構造物と筒体を接続し、
ハッチの具備する蓋を開放し、前記筒体を水底構造物内部と外部を繋ぐ人員救助路として水底構造物内部の人員を救助する、水底構造物内から人員を救助する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底に沈設される沈埋トンネル等の水底構造物内にいる人員に緊急事態が生じた場合や、水底構造物内に取り残された人員を救助する場合に、従来は潜水士が水底構造物内にアクセスし、水底構造物に予め設けられている緊急時アクセス用チャンバーを介して潜水士が函内に入り、人員を救助する方法が採用されている。また、水底構造物を海底に設置する等の海洋工事においては、緊急時に備えて潜水艦を陸側に常時配備しておく方法も採用されている。
【0003】
しかしながら、前者の方法では、水底構造物に対して緊急時アクセス用チャンバーを別途設けておく必要があることから水底構造物の製作コスト増に繋がることや、気象や海象が荒れて潜水作業ができない状況下で緊急の要請があった際に対応できない可能性があるといった課題がある。
【0004】
一方、後者の方法は、常時潜水艦を配備しておくこと自体が現実的でない。たとえば、期間が限られている海洋工事の途中においては、潜水艦の常時配備が現実的でないながらも許容できる可能性を有しているものの、水底構造物供用後において潜水艦の常時配備が許容できる余地はない。
【0005】
ここで、特許文献1には、ダイバーが水中のどの辺りを散策しているのかを把握しながら散策することが可能であり、水底に装置を設置する必要がなく、また、各装置の小型化を実現し、各装置が信号を送受信するために費やす時間を低減することが可能な水中位置検出システム、音源装置、水中位置検出装置、および水中位置検出方法に関する技術が開示されている。より具体的には、音源装置が、外部の測位手段からの測位情報を取得する手段と、自己の位置を算出する手段と、自己の位置を重畳して所定強度の音波として水中に照射する音源とを備え、水中位置検出装置は、照射された音波を取得する手段と、取得した音波に重畳された音源装置の位置を得る処理と音波の強度に基づいて音源装置までの距離を得る処理とを行うことで複数の音源装置の位置および複数の音源装置までの距離を取得する手段と、取得した複数の音源装置の位置および複数の音源装置までの距離に基づいて所定の測位処理を行うことで自己の位置を取得する手段と、を備えているものである。
【0006】
特許文献1で記載される技術によれば、ダイバー自身の位置特定は可能となるものの、水底構造物内にいる人員救助に関する上記課題を何ら解消できるものではない。
【0007】
そして、従来の公開技術には、水底構造物内にいる人員救助に際し、潜水士や潜水艦を適用する以外の技術を開示するものは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−275920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、潜水士や潜水艦を適用することなく、平時であっても緊急時であっても、水底構造物内にいる人員を速やかに救助することのできる、水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による水底構造物と筒体の接続構造体は、水底構造物の天端面にあるハッチを包囲する位置に、クレーン船で吊り下げられた筒体がガスケットを介して配設されており、前記筒体に外側から作用する水圧によって該筒体が前記天端面に相対変位自在に接続されているものである。
【0011】
本発明の水底構造物と筒体の接続構造体は、クレーン船で吊り下げられた状態の筒体が水底構造物の天端面に位置決めされ、筒体に外側から作用する水圧にて該筒体が天端面に対して相対変位自在に接続されているものである。
【0012】
ここで、「水底構造物」とは、水底に沈設された沈埋函(ケーソン)を繋いで構成された沈埋トンネルや、水底からその一部を海水中に臨ませたシールドトンネル等、水底上に設置される、もしくは水底にその一部が埋設される各種構造物を指称するものである。また、「水底」とは、海底や湖底、規模の大きな川底などを含む意味である。
【0013】
水底構造物の天端面には蓋が開閉自在もしくは着脱自在に備えてあるハッチが取り付けられており、このハッチは、少なくとも一人の人員が通過できる大きさの開口を備えたものである。すなわち、人員救助のみを目的としたハッチの場合には、人員が通過できる大きさ、もしくは人員を収容したゴンドラ等が通過できる大きさのハッチを適用すればよいし、人員救助以外にも、水底構造物内から資機材を搬出入したり、比較的大型の車両や機器をハッチを介して搬出入することも用途に含める場合は、最大規模の被搬出入材が通過可能な大きさのハッチを適用すればよい。なお、実際の人員救助は、クレーン船から吊り下げられて救助員が乗り込んでいるゴンドラを筒体内で降下させ、救助員が筒体の蓋を開放し、ゴンドラを水底構造物内に吊り下ろし、水底構造物内の人員をゴンドラに収容し、クレーン船で吊り上げて救助する方法が挙げられる。
【0014】
筒体はクレーン船で吊り下げられた状態となっているが、これは、たとえば筒体が人員救助路として使用される際にクレーン船が筒体を吊った状態で筒体の下端を水底構造物の天端面に配設することによって本発明の接続構造体が形成されるからである。すなわち、人員救助等の緊急時や、平時であっても水底構造物内から人員や各種資機材等を搬出入する等の要請があった際に、クレーン船が筒体を水底構造物まで搬送し、そこで筒体を吊って水底構造物の天端面に設置することで一時的に本発明の接続構造体が形成されるものである。なお、「緊急時」には様々なシチュエーションが含まれる。たとえば、水底構造物の天端面において、その上部が海上等から突出している大型の開口を備えたシャフトが取り付けられている場合に、船舶や起重機船等がこのシャフトに衝突してシャフトが使用できなくなった場合や、海底上で延びる沈埋トンネルの一部が地震等で破損し、人員を残した沈埋トンネルの一部が孤立してしまい、該一部の沈埋トンネルに陸上に通じる沈埋トンネルを介してアクセスできない場合などが挙げられる。
【0015】
ここで、「筒体」とは、鋼製の円管や角管のほか、鋼材からなるトラス架構を筒状に組み、その表面に鋼板を取り付けて構成したものなどが適用できる。また、この筒体には、水底構造物の天端面に設置した後に筒体内部にある水を筒体外に排出できる排出口を設けておいてもよい。
【0016】
また、筒体の下端と水底構造物の天端面は、ボルトや溶接等で双方が強固に固定されることなく、双方の間に介在するガスケットのみを介して、水底構造物の天端面に対して筒体が相対変位自在に接続されていることもまた本発明の接続構造体の特徴構成の一つである。
【0017】
ガスケットは、筒体の下端や水底構造物の天端面にゲル状のガスケットを塗布し、乾燥させて形成したものや、定型のゴムガスケットを筒体の下端や水底構造物の天端面に接着等したものなどを挙げることができる。
【0018】
たとえば鋼管からなる筒体を使用する場合、鋼管の下端に円環状のゴムガスケットを接着しておき、このゴムガスケットを水底構造物の天端面に当接するようにして筒体を水底構造物の天端面に設置することにより、双方のシール性を保証することができる。
【0019】
水底構造物の天端面のハッチの周囲に筒体を配設することで、筒体にはその外部から静水圧が作用し、この静水圧によって筒体を水底構造物の天端面に押圧することができる。
【0020】
筒体はその上端もしくは上端近傍をクレーン船で吊っていることより、水底構造物に対してその設置位置を変化させることなく、その立設姿勢を直立状態から多様な傾斜姿勢に変位自在としながら水底構造物と接続される。すなわち、水底構造物の天端面と筒体は、双方の接続部の水平位置や鉛直位置を動かすことなく、一方に対して他方が回動自在に接続されている、ピン結合構造を形成している。
【0021】
このように、水底構造物の天端面に対して筒体をボルトや溶接等で接続することなく、筒体に外部から水圧を作用させる、いわゆる水圧接合を適用することで、水底構造物に対する筒体の設置を迅速におこなうことができ、このことは水底構造物内の人員を緊急救助する際に好適となる。また、クレーン船で吊られた筒体は波の影響を受けて前後左右に揺動し得るが、筒体の下端が水底構造物に対して相対変位自在となっていることで、筒体の揺動によって水底構造物の天端面を破損させる等の問題も生じ得ない。すなわち、仮に筒体の下端が水底構造物の天端面とボルト等で緊結されていて、波の影響で筒体が揺動した際には、ボルトを介して水底構造物の天端面には引抜力や押込力が作用し、筒体の揺動が大きくて引抜力等が過大な場合には天端面の破損に繋がり得る。
【0022】
また、目的を達した後はクレーン船で筒体を吊り上げることで、筒体撤去も容易かつ迅速に実行できる。なお、筒体はたとえば水底構造物に近い陸上ヤード等に常設しておき、要請があった際にクレーン船に積み上げられ、水底構造物に搬送されて接続構造体の構築に供することができる。
【0023】
また、本発明による水底構造物と筒体の接続構造体の好ましい実施の形態は、前記筒体がその途中位置に止水性を有する可撓継手を備えているものである。
【0024】
たとえば筒体の延長が長い場合に、筒体はその下端が水底構造物の天端面とピン結合構造を呈しているものの、波の影響で筒体が破損する可能性を否定できない。
【0025】
そこで、止水性を有する可撓継手の実施の形態として、筒体をその途中位置で上下2つに縁切りしておき(上筒体、下筒体)、上筒体と下筒体の外側に相対的に大径の鞘管を配設しておき(上鞘管、下鞘管)、上下の鞘管をたとえば波型のゴムガスケット等で繋ぐことにより、筒体の途中位置に止水性を有する可撓継手を形成することができる。
【0026】
また、本発明による水底構造物と筒体の接続構造体の好ましい実施の形態は、前記天端面のハッチの周囲に案内部材が設けられ、該案内部材の内側に前記筒体が配設されているものである。
【0027】
この案内部材は、クレーン船で吊られた筒体を水底構造物の天端面のハッチの周囲に吊り下げながら位置決めする際に好適な部材である。
【0028】
この案内部材は、筒体よりも大径の鋼管等で形成したものをハッチの周囲の位置に取り付けておいたり、鋼材を組んでハッチの周囲に鋼材架構を形成しておくといった形態が挙げられる。
【0029】
水底構造物の天端面に案内部材があることで、水底構造物の天端面に筒体を吊り下げて位置決めする際の作業効率が格段に高められる。
【0030】
また、本発明は水底構造物と筒体の接続方法にも及ぶものであり、この接続方法は、水底構造物の天端面にあるハッチを包囲する位置に、クレーン船で吊り下げられた筒体をガスケットを介して配設し、該筒体に外側から水圧を作用させ、該水圧によって該筒体を前記天端面に対して相対変位自在に接続する第1のステップ、前記筒体内の水を抜いて筒体内を中空状態にする第2のステップからなるものである。
【0031】
本発明の接続方法によれば、水底構造物の天端面に筒体を配設し、該筒体に対して外部から水圧を作用させる、いわゆる水圧接合を適用することで、水底構造物に対する筒体の設置を迅速におこなうことができる。
【0032】
また、本発明の接続方法において、前記第1のステップでは、前記天端面のハッチの周囲に案内部材を取り付けておき、クレーン船で吊り下げられた筒体を該案内部材で案内しながらハッチの周囲に位置決めするのが好ましい。
【0033】
案内部材を使用しながら水底構造物の天端面に筒体を吊り下げて位置決めすることにより、水底構造物に対する筒体設置の迅速性が一層高められる。
【0034】
さらに、本発明は水底構造物内から人員を救助する方法にも及ぶものであり、この方法は、水底構造物内部の人員救助要請を受けて前記筒体を積んだクレーン船が水底構造物にアクセスし、前記接続方法を適用して前記第1のステップと第2のステップを経て水底構造物と筒体を接続し、ハッチの具備する蓋を開放し、前記筒体を水底構造物内部と外部を繋ぐ人員救助路として水底構造物内部の人員を救助するものである。
【0035】
本発明の人員救助方法によれば、水底構造物の天端面に対する筒体の設置が迅速におこなわれ、要請から早期に人員救助路を形成できることから、水底構造物内の人員の緊急救助を高い成功率の下で実現することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上の説明から理解できるように、本発明の水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法によれば、クレーン船で吊り下げられた筒体を水底構造物の天端面に配設し、該筒体に対して外部から水圧を作用させて水底構造物の天端面と筒体の接続を図ることにより、潜水士や潜水艦を使用することなく、しかも迅速に、平時は勿論のこと緊急時においても、水底構造物内の人員を速やかに、かつ高い成功率の下で救助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の水底構造物と筒体の接続構造体を説明した模式図である。
図2】水底構造物と筒体の接続部を説明した縦断面図である。
図3図2のIII−III矢視図である。
図4】可撓継手を説明した縦断面図である。
図5】波の影響を受けた際の筒体の変位態様を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明の水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法の実施の形態を説明する。なお、図示する水底構造物は水底に沈設された沈埋函やこの沈埋函を繋いで構成された沈埋トンネルを示しているが、本発明の接続構造体を構成する水底構造物や接続方法の接続対象となる水底構造物がこれら沈埋函や沈埋トンネルに限定されるものでないことは勿論のことである。
【0039】
(水底構造物と筒体の接続構造体、水底構造物と筒体の接続方法、および水底構造物内から人員を救助する方法の実施の形態)
図1は本発明の水底構造物と筒体の接続構造体を説明した模式図であり、図2は水底構造物と筒体の接続部を説明した縦断面図であり、図3図2のIII−III矢視図である。
【0040】
図示する接続構造体10は、海底BS上に沈設され、相互に接続された複数の沈埋函1(水底構造物)のうちの1基の沈埋函1と、この沈埋函1の天端面1aに配設された筒体2と、筒体2をワイヤWを介して吊り下げているクレーン船3とから大略構成されている。なお、図示例では、一基の沈埋函1に筒体2が配設されている形態であるが、沈埋トンネル20の延長が長い場合には、筒体2が配設される沈埋函1が複数基設けられているのが好ましい。
【0041】
複数の沈埋函1が相互に接続されて沈埋トンネル20が構成され、この沈埋トンネル20が不図示の2つの陸路に通じて、海底の車道や鉄道をはじめ、インフラ配管路などを形成している。
【0042】
図2で示すように、筒体2が配設される沈埋函1の天端面1aには開閉自在(開放方向X)な蓋1c’を備えたハッチ1cが装備されており、さらに、天端面1aにおいてこのハッチ1cを包囲する位置には、鋼材を環状に組み付けて構成され、ハッチ側に下り勾配を成している案内部材5が設けられている。なお、案内部材5の平面線形は、図3で示すような環状以外にも、矩形枠状(正方形枠状、長方形枠状)などであってもよい。
【0043】
また、図2,3で示すように、天端面1aにおけるハッチ1cと案内部材5の間には型鋼から形成された環状のガスケット台座1dが設けられている。
【0044】
筒体2は、異径の鋼管からなる上管21および下管22(下管22が相対的に大径)と、上管の途中位置にその一端が固定された上鞘管23、および下管22の上端にその一端が固定された下鞘管24から構成されている。
【0045】
上鞘管23と下鞘管24は同径の鋼管からなり、M型のガスケット25で相互に繋がれており、これら上鞘管23と下鞘管24、およびガスケット25にて可撓継手2aを構成している。
【0046】
また、下管22の下方にはガスケット取り付けフランジ22aが装備されており、ガスケット取り付けフランジ22aの下面に環状で定型ゴム製のガスケット4が固定されている。
【0047】
ワイヤWを介してクレーン船3で吊り下げられた筒体2は、その下端にあるガスケット4を沈埋函1の天端面1aにあるガスケット台座1dに位置決めされるように吊り下ろされる。この筒体2の吊り下ろしの際に、天端面1aに臨むハッチ1cの周囲にある案内部材5に案内されるように筒体2を吊り下ろすことにより、ガスケット4をガスケット台座1dに対して効率的に位置決めすることが可能となる。
【0048】
筒体2がクレーン船3で吊られた状態において、図2で示すように、沈埋函1の天端面1aに対してガスケット4を介して筒体2の下端を配設することにより、ガスケット4には水圧qが作用し、この水圧qによってガスケット4が潰されて筒体2と沈埋函1が接続される。
【0049】
この接続構造では、ボルトや溶接等は一切適用されていない。すなわち、ガスケット4を介して間接的に接続された筒体2と沈埋函1の天端面1aは、沈埋函1に対して筒体2が水平方向や鉛直方向にずれることなく(ガスケット4による摩擦力や静水圧によって保証されている)、任意の角度で傾斜する変位のみが許容された、いわゆるピン結合構造10aを形成している。
【0050】
筒体2の下端が沈埋函1の天端面1aに対してガスケット4を介して配設された後、筒体2の内部にある海水を不図示のポンプ等を使用して筒外へ排水する。
【0051】
筒体2の上端は海上に臨んでおり、ハッチ1cの蓋1c’を開放することで、沈埋函1の函内1bがハッチ1cを介して筒体2の内部に通じ、さらに海上に通じることになる。
【0052】
図2で示すように、この筒体2の内部は、筒体2の上端から吊り下ろされた別途のワイヤW’に吊持されたゴンドラ6の移動通路となり、ゴンドラ6に救助員が収容されて筒体2の内部で吊り下ろされ(Y1方向)、ハッチ1cを介して沈埋函1の函内1bまで吊り下ろされる。函内1bにいる人員はゴンドラ6に収容され、海上まで吊り上げられて、海上にいるクレーン船3等で救助される。
【0053】
このように、筒体2の内部の海水が排水された状態において、この筒体内部空間は人員救助路2bを形成する。
【0054】
このように筒体2の内部から海水を排水した際に、筒体2には浮力が作用し、この浮力によってガスケット4を下方に十分に押圧できなくなる場合が想定される。このような事態が想定される場合には、浮力が作用しても十分にガスケット4を押圧できるだけの重量の錘を筒体2に取り付けておいたり、あるいは、クレーン船3に搭載された反力架台等を介して筒体2の浮き上がりを防止し、少なくともガスケット4に静水圧が作用するような措置を講じておけばよい。
【0055】
図4は可撓継手を説明した縦断面図である。図示する可撓継手2aは、上管21に固定された上鞘管23(上管21よりも相対的に大径)と、下管22に固定された下鞘管24(上鞘管23と同径)を、M型で環状のガスケット25で繋いで構成されており、上管21と下管22、および可撓継手2aにて止水空間26を形成している。上鞘管23および下鞘管24とガスケット25の接続は、接着剤による接着とボルトBによる結合にておこなわれる。
【0056】
同図において、上管21の下端21aは下管22の上端に当接しているのみであり、双方は縁切りされている。したがって、下管22に対して上管21は水平方向や鉛直方向にずれることができる。
【0057】
その一方で、下鞘管24と上鞘管23はガスケット25で相対変位自在に接続されていることから、下管22に対して上管21がずれた場合でも、下管22と上管21の間の止水性は保証される。
【0058】
次に、筒体2が波の影響を受けた際の変位態様を、図5を参照して説明する。
【0059】
筒体2はワイヤWを介してクレーン船3にて吊持されているに過ぎないことから、波が強い場合等には波の影響を受け、沈埋函1の天端面1aに対してガスケット4の片側を押し込みながら傾斜する(Z1方向)。
【0060】
しかしながら、筒体2のガスケット取り付けフランジ22aからガスケット4に作用する静水圧qにより、ガスケット4を介して沈埋函1の天端面1aとの間の止水性は保証される。
【0061】
また、波の状況によっては、筒体2が可撓継手2aを介して止水性を保持しながら上下に分離される。すなわち、筒体2の下管22に対して上管21が相対的に傾斜等することができ(Z2方向)、このことによって、波の影響で筒体2がその途中位置で座屈や塑性変形等して破損するのを抑制することができる。
【0062】
次に、本発明の水底構造物と筒体の接続方法、および、水底構造物内から人員を救助する方法を概説する。
【0063】
この接続方法は、図1で示すように、海底BS上に基礎砕石CSを敷設し、一方の陸路から沈埋函1を随時沈設し、もしくは双方の陸路から沈埋函1を中央位置に向かって随時沈設し、沈埋函1同士を相互に繋いで2つの陸路間を海底で繋ぐ沈埋トンネル20を構築する。
【0064】
この沈埋トンネル20の構築後(沈埋トンネル20の供用後)、もしくは沈埋トンネル20の構築中(施工途中)において、沈埋函1の函内1bで人員が閉じ込められ、沈埋トンネル20の施工業者もしくは沈埋トンネル20の管理会社が緊急救助の要請を受けた際に、近隣の海岸に停泊しているクレーン船3に筒体2を積み込み、天端面1aにハッチ1cを備えた沈埋函1にクレーン船3を近接させる。
【0065】
クレーン船3で筒体2を吊り下ろし、沈埋函1の天端面1aにおけるハッチ1cの周囲にあるガスケット台座1dに対し、筒体2の下端に取り付けられたガスケット4を位置決めする。
【0066】
この際に、ガスケット台座1dの周囲にある案内部材5にて筒体2を案内しながら吊り下ろすことで、沈埋函1の天端面1aに対する筒体2の位置決め効率が高まる。
【0067】
筒体2をガスケット4を介して沈埋函1の天端面1aの所定位置に配設することにより、筒体2の下端に静水圧を作用させ、筒体2をガスケット4を介して沈埋函1の天端面1aに水圧接合する(以上、接続方法の第1のステップ)。すなわち、筒体2と沈埋函1の接合においてボルトや溶接等を適用しない。
【0068】
このように、ボルト等を使用せず、筒体2をガスケット4を介して沈埋函1の天端面1aに水圧接合することにより、双方の接続に要する時間は短時間でよい。
【0069】
水圧接合にて沈埋函1の天端面1aと筒体2を接続し、筒体2の内部から海水を排水し、ハッチ1cの蓋1c’を開放して、函内1bと海上を繋ぐ人員救助路2bを形成するとともに沈埋函1(水底構造物)と筒体2の接続構造体10を形成する(以上、接続方法の第2のステップ)。
【0070】
筒体2の内部(人員救助路2b)にワイヤW’で吊持された救助員を収容するゴンドラ6を吊り下ろし、さらに函内1bまで吊り下ろした後、函内1b内にいる人員をゴンドラ6に収容し、クレーン船3で吊り上げて海上で救助する(以上、人員の救助方法)。
【0071】
このように、緊急要請を受けた後、クレーン船3を所定の沈埋函1に近接させ、速やかに筒体2を沈埋函1に繋いで人員救助路2bを形成することから、海象等が荒れた条件下では作業できない潜水士等に頼ることなく、如何なる海象条件下においても、早期に人員救助を図ることが可能となる。
【0072】
そして、人員救助後には、クレーン船3で筒体2を吊り上げるのみで接続構造体10を速やかに解除することができ、速やかな沈埋トンネル20の供用開始や沈埋トンネル20の施工開始を図ることができる。
【0073】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…沈埋函(水底構造物)、1a…天端面、1b…函内、1c…ハッチ、1c’…蓋、1d…ガスケット台座、2…筒体、2a…可撓継手、2b…人員救助路、21…上管、22…下管、22a…ガスケット取り付けフランジ、23…上鞘管、24…下鞘管、25…ガスケット、3…クレーン船、4…ガスケット、5…案内部材、6…ゴンドラ、10…接続構造体、10a…ピン結合構造、20…沈埋トンネル、S…海水、BS…海底、CS…基礎砕石、W,W’…ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5