【実施例1】
【0030】
図1は本発明の冷凍装置の一実施例としての車両用空気調和装置1の構成図を示している。この場合、本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)を有さない電気自動車(EV)であって、バッテリに充電された電力で走行用の電動モータを駆動して走行するものであり(何れも図示せず)、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリの電力で駆動されるものとする。
【0031】
即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路を用いたヒートポンプ運転により暖房を行い、更に、除湿暖房や除湿冷房、冷房等の各運転モードを選択的に実行するものである。尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明は有効である。更には、エンジンで走行する通常の自動車にも本発明は適用可能であり、エンジンルームの温度環境を考慮すると、以下に説明する本発明はこれらエンジンを備えた自動車にとって特に有効と考えられる。
【0032】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮して昇圧する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられて圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電子膨張弁から成る室外膨張弁(ECCV)6と、冷房時には放熱器として機能し、暖房時には蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電子膨張弁から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿暖房時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、吸熱器9における蒸発能力を調整する蒸発能力制御弁11と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。
【0033】
尚、圧縮機2、室外膨張弁6、室外熱交換器7は車室外のエンジンルームに設置されるものである。また、室外熱交換器7には、車両の停止時に外気と冷媒とを熱交換させるための室外送風機15が設けられている。ここで、電気自動車の場合にはエンジンは存在しないが、走行用のモータ他の各機器が設置される車室外空間を本発明ではエンジンルームと称する。また、通常の自動車、ハイブリッド自動車の場合には、エンジンが設置される空間であることは云うまでもない。
【0034】
また、室外熱交換器7は冷媒下流側にヘッダー部14と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷房時に開放される電磁弁(開閉弁)17を介してヘッダー部14に接続され、過冷却部16の出口が逆止弁18を介して室内膨張弁8に接続されている。尚、ヘッダー部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成しており、逆止弁18は室内膨張弁8側が順方向とされている。
【0035】
また、逆止弁18と室内膨張弁8間の冷媒配管13Bは、吸熱器9の出口側に位置する蒸発能力制御弁11を出た冷媒配管13Cと熱交換関係に設けられ、両者で内部熱交換器19を構成している。これにより、冷媒配管13Bを経て室内膨張弁8に流入する冷媒は、吸熱器9を出て蒸発能力制御弁11を経た低温の冷媒により冷却(過冷却)される構成とされている。
【0036】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁(開閉弁)21を介して内部熱交換器19の下流側における冷媒配管13Cに連通接続されている。更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁(開閉弁)22を介して逆止弁18の下流側の冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0037】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、内気吸込口と外気吸込口の各吸込口(
図1では代表して吸込口25で示す)が形成されており、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環モード)と、車室外の空気である外気(外気導入モード)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0038】
また、
図1において23は実施例の車両用空気調和装置1に設けられた補助加熱手段としての熱媒体循環回路を示している。この熱媒体循環回路23は循環手段を構成する循環ポンプ30と、熱媒体加熱電気ヒータ35と、空気流通路3の空気の流れに対して、放熱器4の空気上流側となる空気流通路3内に設けられた熱媒体−空気熱交換器40とを備え、これらが熱媒体配管23Aにより順次環状に接続されている。尚、この熱媒体循環回路23内で循環される熱媒体としては、例えば水、HFO−1234yfのような冷媒、クーラント等が採用される。
【0039】
そして、循環ポンプ30が運転され、熱媒体加熱電気ヒータ35に通電されて発熱すると、この熱媒体加熱電気ヒータ35により加熱された熱媒体が熱媒体−空気熱交換器40に循環されるよう構成されている。即ち、この熱交換器循環回路23の熱媒体−空気熱交換器40が所謂ヒータコアとなり、車室内の暖房を補完する。係る熱媒体循環回路23を採用することで、搭乗者の電気的な安全性を向上させている。
【0040】
また、熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、内気や外気の放熱器4への流通度合いを調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、フット、ベント、デフの各吹出口(
図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0041】
次に、
図2において32はマイクロコンピュータから構成された制御手段としてのコントローラ(ECU)であり、このコントローラ32の入力には車両の外気温度を検出する外気温度センサ33と、室外膨張弁6の周囲温度である前述したエンジンルームの温度を検出するエンジンルーム温度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO
2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒圧力を検出する吸込圧力センサ44と、放熱器4の温度(放熱器4自体の温度、又は、放熱器4にて加熱された空気の温度)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た冷媒の圧力)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9自体、又は、吸熱器9にて冷却された空気の温度)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、温度や運転モードの切り換えを設定するための空調操作部53と、室外熱交換器7の温度を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0042】
また、コントローラ32の入力には更に、熱媒体循環回路23の熱媒体加熱電気ヒータ34の温度を検出する熱媒体加熱電気ヒータ温度センサ50と、熱媒体−空気熱交換器40の温度を検出する熱媒体−空気熱交換器温度センサ55の各出力も接続されている。
【0043】
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吸込口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、各電磁弁22、17、21と、循環ポンプ30と、熱媒体加熱電気ヒータ35と、蒸発能力制御弁11が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御する。
【0044】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では大きく分けて暖房モード(冷媒回路Rにより暖房を行うモード)と、除湿暖房モード(冷媒回路Rにより除湿暖房を行うモード)と、内部サイクルモードと、除湿冷房モードと、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける冷媒の流れについて説明する。
【0045】
(1)暖房モード
コントローラ32により或いは空調操作部53へのマニュアル操作により暖房モードが選択されると、コントローラ32は電磁弁21を開放し、電磁弁17、電磁弁22を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は熱媒体−空気熱交換器40により加熱された後(熱媒体循環回路23が作動している場合)、放熱器4内の高温冷媒により加熱される。一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0046】
放熱器4内で液化した冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、そこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(ヒートポンプ)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13D及び電磁弁21を経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。熱媒体−空気熱交換器40や放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0047】
コントローラ32は吐出圧力センサ42又は放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度SCを制御する。
【0048】
図3は暖房モードにおける室外膨張弁6の目標開度(室外膨張弁目標開度)TGECCVscを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F操作量演算部61は、放熱器4の出口における過冷却度SCの目標値である目標過冷却度TGSCと、放熱器温度TCI及び飽和温度TsatuPciからSC演算部62が演算する過冷却度SCと、目標放熱器温度TCOと、空気流通路3に流入した空気の質量風量Gaと、外気温度Tamに基づいて室外膨張弁目標開度のF/F操作量TGECCVscffを演算する。
【0049】
また、F/B操作量演算部63は目標過冷却度TGSCと過冷却度SCに基づいて室外膨張弁目標開度のF/B操作量TGECCVscfbを演算する。このF/B操作量演算部63で演算されたF/B操作量TGECCVscfbは、ECCV動作制限部64にて後述する室外膨張弁6の動作制限制御による動作制限が加えられ、制限F/B操作量TGECCVscfbLimとなって当該ECCV動作制限部64から出力される。そして、F/F操作量演算部61が演算したF/F操作量TGECCVscffとECCV動作制限部64から出力される制限F/B操作量TGECCVscfbLimは加算器66で加算され、リミット設定部67で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、室外膨張弁目標開度TGECCVscとして決定される。暖房モードにおいては、コントローラ32はこの室外膨張弁目標開度TGECCVscに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0050】
(2)除湿暖房モード
次に、除湿暖房モードでは、コントローラ32は上記暖房モードの状態において電磁弁22を開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、電磁弁22を経て冷媒配管13F及び13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至るようになる。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0051】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cにて冷媒配管13Dからの冷媒と合流した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0052】
コントローラ32は吐出圧力センサ42又は放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0053】
図4は除湿暖房モードにおける室外膨張弁6の目標開度(室外膨張弁目標開度)TGECCVteを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F操作量演算部61はこの場合、吸熱器9の目標吸熱器温度TEOと、目標放熱器温度TCOと、質量風量Gaと、外気温度Tamに基づいて室外膨張弁目標開度のF/F操作量TGECCVteffを演算する。
【0054】
また、F/B操作量演算部63はこの場合、目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づいて室外膨張弁目標開度のF/B操作量TGECCVtefbを演算する。このF/B操作量演算部63で演算されたF/B操作量TGECCVtefbは、ECCV動作制限部64にて同様に室外膨張弁6の動作制限制御による動作制限が加えられ、この場合の制限F/B操作量TGECCVtefbLimとなってECCV動作制限部64から出力される。そして、F/F操作量演算部61が演算したF/F操作量TGECCVteffとECCV動作制限部64から出力される制限F/B操作量TGECCVtefbLimは加算器66で加算され、リミット設定部67でこの場合の制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、この場合の室外膨張弁目標開度TGECCVteとして決定される。除湿暖房モードにおいては、コントローラ32はこの室外膨張弁目標開度TGECCVteに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0055】
(3)内部サイクルモード
次に、内部サイクルモードでは、コントローラ32は上記除湿暖房モードの状態において室外膨張弁6を閉じる(全閉)。即ち、この内部サイクルモードは除湿暖房モードにおける室外膨張弁6の制御で当該室外膨張弁6を全閉とした状態と云えるので、内部サイクルモードは除湿暖房モードの一部と捕らえることもできる。
【0056】
但し、室外膨張弁6が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入は阻止されるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0057】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを流れ、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクルモードでは室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房モードに比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0058】
また、コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、コントローラ32は吸熱器9の温度Teによるか高圧圧力PCIによるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。
【0059】
(4)除湿冷房モード
次に、除湿冷房モードでは、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21、電磁弁22を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が熱媒体−空気熱交換器40及び放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され(熱媒体循環回路40は停止)、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0060】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てヘッダー部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0061】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0062】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱(暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0063】
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、前述した冷媒回路Rの高圧圧力(放熱器圧力PCI)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の冷媒圧力(後述する放熱器圧力PCI)を制御する。
【0064】
次に、
図5はこの除湿冷房モードにおける室外膨張弁6の目標開度(室外膨張弁目標開度)TGECCVpcを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F操作量演算部61はこの場合、外気温度Tamと、質量風量Gaと、目標放熱器温度TCOと、目標放熱器圧力PCOと、目標吸熱器温度TEOに基づいてこの場合の室外膨張弁目標開度のF/F操作量TGECCVpcffを演算する。
【0065】
また、F/B操作量演算部63はこの場合、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力PCIに基づいて室外膨張弁目標開度のF/B操作量TGECCVpcfbを演算する。このF/B操作量演算部63で演算されたF/B操作量TGECCVpcfbは、ECCV動作制限部64にて同様に室外膨張弁6の動作制限制御による動作制限が加えられ、この場合の制限F/B操作量TGECCVpcfbLimとなってECCV動作制限部64から出力される。そして、F/F操作量演算部61が演算したF/F操作量TGECCVpcffとECCV動作制限部64から出力される制限F/B操作量TGECCVpcfbLimは加算器66で加算され、リミット設定部67で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、この場合の室外膨張弁目標開度TGECCVpcとして決定される。除湿冷房モード(後述する冷房モードも同様)においては、コントローラ32はこの室外膨張弁目標開度TGECCVpcに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0066】
(5)冷房モード
次に、冷房モードでは、コントローラ32は上記除湿冷房モードの状態において室外膨張弁6を全開(弁開度を制御上限)とし、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風されない状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されないので、ここは通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。
【0067】
このとき室外膨張弁6は全開であるので冷媒はそのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てヘッダー部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0068】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気は冷却される。
【0069】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過すること無く吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房モードにおいては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度Teに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。そして、コントローラ32は、外気温度や目標吹出温度に応じて上記各運転モードを選択し、切り換えていくものである。
【0070】
(6)室外膨張弁6の動作制限制御
上記の如く各運転モードにおいてコントローラ32は室外膨張弁6の弁開度を制御するものであるが、次に、
図6〜
図9、
図13を参照しながらコントローラ32による室外膨張弁6の動作制限制御について説明する。前述した
図13の場合の如く、室外膨張弁6の耐熱温度TcoilHiLimを+150℃、室外膨張弁6が設けられるエンジンルームの温度(室外膨張弁6周囲の温度)が最高で+120℃になるものとすると、室外膨張弁6のコイル温度は通電率が40%まで上昇した時点で耐熱温度TcoilHiLimを超えてしまう。
【0071】
そこで、安全率を考慮した耐熱温度TcoilHiLim2を例えば+145℃とすると、通電率が30%〜35%になった時点でコイル温度は耐熱温度TcoilHiLim2になる。従って、室外膨張弁6のコイルの自己発熱による損傷を回避するためには、室外膨張弁6のコイルへの通電率は30%〜35%に抑えなければならないことが分かる。
【0072】
一方、一般的な電子膨張弁は、その開度(現在のパルス数。位置)を保持するために、動作前後に500msecの通電(励磁)が必要である。その様子が
図6に示されている。この図の最上段は電子膨張弁の制御周期が1sec、上から二段目は2sec、三段目は3sec、四段目は4sec、最下段は5secの場合を示す。動作前後の500sec通電(励磁)のみの最低通電率は、制御周期1secの場合は75%、2secの場合は50%、3secの場合は33%(実際は33.33%)、4secの場合は25%、5secの場合は20%となる。
【0073】
従って、通電率35%に抑える場合、制御周期1secと2secでは電子膨張弁動作のための通電(励磁)はできなくなり、制御周期3secで0.05sec((35%−33.33%)×3sec)、制御周期4secで0.4sec、制御周期5secで0.75secとなる。これが通電率30%に抑える場合には、制御周期1secと2secと3secでは電子膨張弁動作のための通電(励磁)はできなくなり、制御周期4secで0.2sec、制御周期5secで0.5secとなる。
【0074】
他方、一般的な電子膨張弁を動作させるための1パルス(PLS)は、1000/90msec(11.11msec)であるから、通電率を35%以下に抑えるための動作1回当たりの最大パルス数は、
図7に示す如く制御周期3secの場合4.5パルス(0.05÷0.01111)、4secの場合は36パルス、5secの場合は67.5パルスとなる。また、通電率を30%以下に抑えるための最大パルス数は、制御周期4secの場合18パルス(0.2÷0.01111)、5secの場合は45パルスとなる。
【0075】
そこで、以下の実施例では室外膨張弁6の通常制御における制御周期を1sec、動作1回当たりの最大パルス数は500パルス(制限なし)とする一方、室外膨張弁6の動作制限制御における制御周期はそれより長い4sec、動作1回当たりの最大パルス数は通電率35%のときの36パルス(制限値)に制限する。即ち、実施例では室外膨張弁6の動作制限制御中は、コントローラ32は室外膨張弁6の制御周期を4secに延長し、その動作量を最大で36パルス(制限値)以内に抑制(制限)することで、室外膨張弁6の通電率を35%以下に制限(低減)し、室外膨張弁6のコイルの温度が安全率を考慮した耐熱温度TcoilHiLim2(所定値)を超えないように制御することとした。
【0076】
(7)室外膨張弁6の実際の動作制限制御の一例
次に、
図8、
図9を参照しながらコントローラ32のECCV動作制限部64が実行する室外膨張弁6の動作制限制御の一例を説明する。この例では、室外膨張弁6のコイルの温度を推定して動作制限制御を実行する。
図8は室外膨張弁6のコイル温度推定に関するコントローラ32の制御ブロック図、
図9はそれを用いた動作制限制御に関する制御ブロック図である。
図8においてコントローラ32は、現在の室外膨張弁6の開度(現在のパルス数。位置)から前回値(制御1周期前の開度)を減算器69にて減算することにより、今回の動作量(パルスの変化分)を算出し、これを絶対値演算部71に入力して動作量の絶対値を算出する。
【0077】
次に、通電率マップ部72にて1sec〜4secまでの制御周期における動作量(パルス)とコイルの通電率の関係(図の左下に示す)から、室外膨張弁6のコイルへの今回の通電率(コイル通電率Recoil)を算出する。次に、このコイル通電率Recoilからコイル温度変化の伝達関数部73でコイルの温度上昇(コイル温度上昇ΔTcoil)を算出する。コイル温度変化の伝達関数部73では、各通電率(100%、60%、30%等)におけるコイルへの通電時間とコイル温度上昇の関係(図の中央下に示すコイル温度応答)から、動作開始当初からの温度上昇分を積算することで、コイル温度上昇ΔTcoilを算出する。
【0078】
次に、このコイル温度上昇ΔTcoilにエンジンルーム温度センサ34が検出する室外膨張弁6周囲の温度(コイル周囲温度Tcoilamb)を加算器74で加算することにより、推定コイル温度Tcoilestを算出する。即ち、コントローラ32は今回の室外膨張弁6の動作量から通電率(室外膨張弁6のコイルへの通電状況)を導き、当該通電率から伝達関数を用いて動作開始当初からの温度上昇を積算することで現在までのコイル温度の上昇分を算出し、それに周囲温度を加算することで、現在の室外膨張弁6のコイルの温度を推定する(Tcoilest)。
【0079】
尚、実施例ではエンジンルーム温度センサ34を用いて室外膨張弁6のコイル周囲温度を検出しているが、係る温度センサが設けられない場合には、エンジンルームで想定される最悪値、即ち、最高温度(例えば+120℃)を加算器74でコイル温度上昇ΔTcoilに加算して推定コイル温度Tcoilestを算出するものとする。
【0080】
次に、コントローラ32は、推定した室外膨張弁6の推定コイル温度Tcoilestに基づき、
図9のブロック図により室外膨張弁6の動作制限制御の実行と解除を判断する。先ず、コントローラ32は
図9の動作制限制御切換え条件部76で、室外膨張弁6の推定コイル温度Tcoilestが耐熱温度TcoilHiLim2(所定値)に上昇した場合、室外膨張弁動作制限フラグfECCVRedownをセット「1」する。また、動作制限制御切換え条件部76は、室外膨張弁6の推定コイル温度Tcoilestが耐熱温度TcoilHiLim2より所定のヒステリシス分HYS(例えば5deg)低い値(TcoilHiLim2−HYS)に低下した場合、室外膨張弁動作制限フラグfECCVRedownをリセット「0」する。そして、この室外膨張弁動作制限フラグfECCVRedownはANDゲート77に入力される。
【0081】
このANDゲート77には安定判定部78の出力も入力される。この安定判定部78は、暖房/除湿暖房モードでは、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力PCIの差(PCO−PCI)の絶対値が所定値(例えば0.2MPaG)以下の場合、除湿冷房モードでは、目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teの差(TEO−Te)の絶対値が所定値(例えば3deg)以下の場合「1」を出力し、それ以外の場合には「0」を出力する。即ち、車両用空気調和装置1の運転状態が各モードにおいて安定状態であるとき、安定判定部78は「1」を出力し、過渡期(運転開始初期や設定変更時など)には「0」を出力する。
【0082】
また、ANDゲート77の出力は室外膨張弁動作制限制御要求フラグfREQECCVmoveLimとして切換部79に入力される。即ち、室外膨張弁動作制限フラグfECCVRedownが「1」であり、且つ、安定判定部78の出力が「1」である場合のみ、室外膨張弁動作制限制御要求フラグfREQECCVmoveLimは「1」となり、それ以外の条件では「0」となる。
【0083】
切換部79には動作制限制御時の条件格納部81と通常制御時の条件格納部82が入力されており、室外膨張弁動作制限制御要求フラグfREQECCVmoveLimが「1」のとき、条件格納部81の制御条件が選択され、「0」のときは条件格納部82の制御条件が選択されて切換部79から出力される。動作制限制御時の条件格納部81には、室外膨張弁動作制限実行フラグfECCBmoveLim=1、室外膨張弁制御周期INTLECCV=4sec、室外膨張弁制限値ECCVmoveLim=36パルスの制御条件が格納されており、通常制御時の条件格納部82には、室外膨張弁動作制限実行フラグfECCBmoveLim=0、室外膨張弁制御周期INTLECCV=1sec、室外膨張弁制限値ECCVmoveLim=500パルス(制限なし)の制御条件が格納されている。
【0084】
即ち、この実施例でコントローラ32は、車両用空気調和装置1の運転状態が過渡期であるとき、又は、室外膨張弁6の推定コイル温度Tcoilestが耐熱温度TcoilHiLim2より低い場合、室外膨張弁6の制御周期を1secとし、最大動作量を500パルス(制限なし)とする通常制御を実行する。
【0085】
一方、車両用空気調和装置1の運転状態が安定状態であるときであって、且つ、室外膨張弁6の推定コイル温度Tcoilestが耐熱温度TcoilHiLim2まで上昇した場合は、コントローラ32は室外膨張弁6の制御周期を4secに長くし、最大動作量も36パルスという制限値以内に抑える動作制限制御を実行する。前述したECCV動作制限部64からは、この室外膨張弁6の動作制限制御による動作制限が加えられた制限F/B操作量TGECCVscfbLimが出力される。これにより、室外膨張弁6のコイルへの通電率を35%以下(所定値以下)に抑制し、コイルの温度が耐熱温度TcoilHiLim2(所定値)を超えないよう制御するものである。
【0086】
このように、コントローラ32は室外膨張弁6のコイルの温度が所定値(耐熱温度TcoilHiLim2)を超えないよう、室外膨張弁6の動作を制限する動作制限制御を実行するので、通電に伴う自己発熱によって室外膨張弁6のコイルの温度がそれの耐熱温度(TcoilHiLim)を超える不都合を未然に回避し、耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0087】
特に使用環境が最悪となる車両用空気調和装置1で使用される室外膨張弁6において、顕著な効果を奏する。また、耐熱性の高い電子膨張弁に変更する必要もなくなるので、生産コストが高騰する不都合も防止することが可能となる。
【0088】
この場合、コントローラ32は動作制限制御において、室外膨張弁6の制御周期を長くし、且つ、室外膨張弁6の動作量を所定の制限値以内に抑制することで通電率を制限するので、的確且つ効果的に室外膨張弁6のコイル温度の上昇を抑制することが可能となる。この実施例の場合、コントローラ32は室外膨張弁6のコイルの温度が所定値(耐熱温度TcoilHiLim2)に上昇した場合に動作制限制御を実行するので、コイルの温度が耐熱温度(TcoilHiLim)を超えてしまう不都合を確実に回避することが可能となる。
【0089】
このときコントローラ32は、室外膨張弁6のコイルへの通電状況と、当該室外膨張弁6の周囲温度又は当該周囲温度で想定される最高温度とに基づき、コイルの温度(Tcoilest)を推定するので、室外膨張弁6の周囲温度が検出できる場合には、当該周囲温度に自己発熱分を加えた温度をコイルの温度として推定することができる。一方、周囲温度が検出できない場合には、周囲温度として想定される最高温度に自己発熱分を加えた温度をコイルの温度として推定することができ、何れの場合にも室外膨張弁6のコイル温度を検出するための格別なセンサを設けること無く、室外膨張弁6の保護を図って、その耐久性を向上させることができるようになる。
【0090】
また、コントローラ32は、車両用空気調和装置1の動作状態の過渡期には動作制限制御を実行しないので、運転開始初期や設定が変更されたとき等の過渡期に迅速に室外膨張弁6を動作させることが可能となり、制御性を担保することが可能となる。更に、
図3〜
図5の制御ブロック図では、F/B操作量演算部63が出力する室外膨張弁目標開度のF/B操作量のみにECCV動作制限部64で動作制限を加えるようにしている。これは上記と同様の理由で、条件変化や設定変化時に変化するF/F操作量演算部61のF/F操作量に動作制限を加えるべきでは無いからである。