(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228218
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】心拍動下手術用スタビライザー
(51)【国際特許分類】
A61B 17/02 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
A61B17/02
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-538437(P2015-538437)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公表番号】特表2015-533313(P2015-533313A)
(43)【公表日】2015年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2013072244
(87)【国際公開番号】WO2014067841
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年7月29日
(31)【優先権主張番号】102012219752.4
(32)【優先日】2012年10月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502154016
【氏名又は名称】アエスキュラップ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モラレス ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】シャーベルト ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】クリーマー ヨッヘン
【審査官】
沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2004/0171917(US,A1)
【文献】
特開2007−014807(JP,A)
【文献】
米国特許第06322500(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0083664(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定シャフト(10)と、
ほぼ平行な細長い2つの支持部材(21、21)付き組織接触部品(20)と
を備える心臓手術用スタビライザーであり、前記支持部材が、ベース部分(22)に設けられているとともに、1つの血管(B)の対向する2つの側に配置されるようになっているため、前記血管(B)の少なくとも一部分が2つの前記支持部材(21、21)の間を通っており、前記組織接触部品(20)の前記ベース部分(22)は前記固定シャフト(10)の端部(11)に取り付けられているスタビライザーであって、
少なくとも1つの支持部材(21)は、該支持部材(21)の長手方向に、少なくとも前記支持部材の一部分にわたって延びており、前記支持部材の上面から下面まで貫通しており、上方から吸引装置を案内して少なくとも部分的に前記吸引装置を収容するためのスロット(23)を有し、
前記固定シャフト(10)が、軸方向に通るダクト(14)を有しており、該ダクトは、少なくとも前記固定シャフト(10)の一部分にわたって延び、前記ベース部分(22)が取り付けられている前記固定シャフト(10)の端部(11)の領域で、少なくとも1つの接続ダクト(15)と通じており、該接続ダクトは、前記軸方向に通るダクト(14)を周辺と接続し、前記固定シャフト(10)の軸方向の前記端部(11)は、閉じられていることを特徴とするスタビライザー。
【請求項2】
前記固定シャフト(10)に取外し可能に取り付けられるとともに、該固定シャフトの自由端部(12)から前記固定シャフト(10)上をスライドすることができる吸引装置(30)を備えるスタビライザーであり、
前記吸引装置(30)が、
該吸引装置(30)を取外し可能に前記スタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部(33)を備える接続部品(31)と、
少なくとも1つの吸引部品(34)と
を有しており、
前記吸引部品は、少なくとも1つの前記接続空洞部(33)に接続されている軸方向に通るダクトを有するとともに、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に前記支持部材(21)の前記スロット(23)の中に配置されているようになっている、請求項1に記載のスタビライザー。
【請求項3】
少なくとも1つの前記支持部材(21)が少なくとも1つの溝(24)を有し、該溝は前記支持部材(21)の接触面において前記支持部材の長手方向に対してほぼ直角に延びている、請求項1又は2に記載のスタビライザー。
【請求項4】
前記固定シャフト(10)に取外し可能に取り付けられるとともに、該固定シャフトの自由端部(12)から前記固定シャフト(10)上をスライドすることができる吸引装置(30)を備えるスタビライザーであり、
前記吸引装置(30)が、
該吸引装置(30)を取外し可能に前記スタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部(33)を備える接続部品(31)と、
少なくとも1つの吸引部品(34)と
を有しており、
前記吸引部品は、少なくとも1つの前記接続空洞部(33)に接続されている軸方向に通るダクトを有するとともに、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に前記支持部材(21)の前記スロット(23)の中に配置されているようになっており、
前記吸引装置(30)の少なくとも1つの前記吸引部品(34)が、少なくとも1つの半径方向の開口部(35)を有し、前記吸引装置(30)が取外し可能に前記スタビライザーに取り付けられており、また前記吸引部品(34)が部分的に前記支持部材(21)内の前記スロット(23)に配置されている場合に、前記開口部は、前記支持部材(21)内の溝(24)に通じている、請求項3に記載のスタビライザー。
【請求項5】
前記固定シャフト(10)に取外し可能に取り付けられるとともに、該固定シャフトの自由端部(12)から前記固定シャフト(10)上をスライドすることができる吸引装置(30)を備えるスタビライザーであり、
前記吸引装置(30)が、
該吸引装置(30)を取外し可能に前記スタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部(33)を備える接続部品(31)と、
少なくとも1つの吸引部品(34)と
を有しており、
前記吸引部品は、少なくとも1つの前記接続空洞部(33)に接続されている軸方向に通るダクトを有するとともに、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に前記支持部材(21)の前記スロット(23)の中に配置されているようになっており、
2つの前記支持部材(21、21)がそれぞれ1つの長手方向に通るスロット(23)を有し、
前記吸引装置(30)が2つの吸引部品(34)を有しており、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、前記吸引部品は、前記接続部品(31)に接続されているとともに、前記支持部材(21、21)の該当する前記スロット(23、23)の中に少なくとも部分的に配置されているようになっている、請求項2〜4のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
【請求項6】
前記固定シャフト(10)に取外し可能に取り付けられるとともに、該固定シャフトの自由端部(12)から前記固定シャフト(10)上をスライドすることができる吸引装置(30)を備えるスタビライザーであり、
前記吸引装置(30)が、
該吸引装置(30)を取外し可能に前記スタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部(33)を備える接続部品(31)と、
少なくとも1つの吸引部品(34)と
を有しており、
前記吸引部品は、少なくとも1つの前記接続空洞部(33)に接続されている軸方向に通るダクトを有するとともに、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に前記支持部材(21)の前記スロット(23)の中に配置されているようになっており、
前記吸引部品(34)が湾曲したパイプから成る、請求項2〜5のいずれか一項に記載のスタビライザー。
【請求項7】
前記支持部材(21)の接触面が、前記支持部材(21)の長手方向及び/又は横方向において、前記接触面の縁部に丸みが付けられているか、もしくはスキー板状に反り上がっているように形成されている、請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
【請求項8】
前記固定シャフト(10)が、その自由端部(12)に接続部を備えており、該接続部に負圧装置を取り付けることができ、前記接続部は、LUER接続部である、請求項1〜7のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
【請求項9】
前記固定シャフト(10)が、前記ベース部分(22)を取り付けている前記端部(11)の領域に少なくとも1つの環状の溝(16)を有しており、該溝は、少なくとも1つの前記接続ダクト(15)の近くに配置され、シール部材(40)を収容するようになっている、請求項1〜8のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
【請求項10】
前記固定シャフト(10)に取外し可能に取り付けられるとともに、該固定シャフトの自由端部(12)から前記固定シャフト(10)上をスライドすることができる吸引装置(30)を備えるスタビライザーであり、
前記吸引装置(30)が、
該吸引装置(30)を取外し可能に前記スタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部(33)を備える接続部品(31)と、
少なくとも1つの吸引部品(34)と
を有しており、
前記吸引部品は、少なくとも1つの前記接続空洞部(33)に接続されている軸方向に通るダクトを有するとともに、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に前記支持部材(21)の前記スロット(23)の中に配置されているようになっており、
前記接続部品(31)が2つの環状の溝を有し、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、これらの環状の溝の一方は、前記固定シャフト(10)の前記環状の溝(16)に向かい合うように前記接続部品の軸方向の貫通開口部(32)に形成されており、前記2つの溝は、シール(40)を収容するようになっており、
前記接続部品(31)は、もう1つの環状の溝を、その他の前記2つの環状の溝の間に有しており、前記もう1つの溝は、少なくとも部分的に前記接続空洞部(33)を形成している、請求項9に記載のスタビライザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍動下手術用スタビライザーに関し、詳細には冠動脈吻合時に心臓を一時的及び部分的に静止させるためのスタビライザーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、特に心拍動下の吻合時において、心臓の一部の領域を一時的に安定化させる様々な装置が知られている。例えば、米国特許第2004/0143168A1号は、組織接触部分が固定シャフトにヒンジで取り付けられているスタビライザーを開示している。組織接触部分には、ベース部分から互いに平行に延出する2つの支持部材が備えられている。2つの支持部材は、それらの自由端部及びベース部分に取り付けられている端部がスキー板の先端のように反り上がっており、それによって、特に支持部材の端部領域で、安定化させている組織が損傷するのを防止している。
【0003】
また、米国特許第2002/0099268A1号には、固定シャフトに取り付けた共通のベース部分に設けられているスキー板状の2つの支持部材を有するスタビライザーが開示されている。この場合、固定シャフトは、可動かつ変形可能なアームに置き換えられている。ここではまた、組織接触部品がヒンジによってアームに取り付けられている。
【0004】
吻合又はその他の手術が行われる心臓表面の安定化機能及びそれに伴う固定機能は、組織接触部品及び特に支持部分を心臓表面に押し付けることによって達成される。このようにして、術野は、心臓の中に押し込まれて心臓表面に槽状に窪んだ底面にできる。特に心拍動下における吻合術の場合、しかしまたその他のほとんどの心臓手術でも、開いた血管から血液が流出するため、その血液が、それぞれのスタビライザーによって形成される槽状の窪みの中に溜まっていく。術野への十分な視野を確保するため、術者は、時々手術を短時間中断して、血液を吸引しなければならない。術野の中には、血液以外のその他の液体、特に体液も溜まっている。以下において、吸引する血液又は吸引された血液についての言及がある場合は、常にその他の液体及び体液も一緒に含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2004/0143168A1号
【特許文献2】米国特許第2002/0099268A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、特に、好ましくは心拍動下における心臓手術のためのスタビライザーを提供することであり、この場合、溜まっている血液を吸引するために手術を中断する必要はない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、請求項1に基づくスタビライザーによって解決される。本発明に基づスタビライザーの有利な実施形態及び発展形態は、従属請求項の対象である。
【0008】
心臓手術及び特に心拍動下手術に適している本発明に基づくスタビライザーは、固定シャフトと組織接触部品とを有している。組織接触部品は、ほぼ平行な細長い2つの支持部材を備え、これらはベース部分に設けられている。固定シャフトによって術者の視野が妨げられるのをできるだけ少なくするため、2つの支持部材は、まずベース部分から遠ざかる方向に延出し、次に、ほぼ180°折り返して反対方向に延出している。支持部材は、1つの血管の対向する2つの側に配置されるようになっているため、血管の少なくとも一部分が2つの支持部材の間を通っている。支持部材を心臓表面の中に押し込むことによって、2つの支持部材の間にある術野に横方向の張力を加えることができる。これにより、術野での切開をより容易に行うことが可能になる。さらに、組織接触部品のベース部分が固定シャフトの端部に取り付けられている。2つの支持部材の少なくとも1つは、支持部材の長手方向に、少なくともこの支持部材の一部分にわたって延びているスロットを有している。好ましくは、このスロットが、それぞれの支持部材の自由端部の近くまで延び、支持部材の2つの部品が自由端部で接続されている。さらに好ましくは、支持部材の反対側の端部の構造は類似している。さらに、固定シャフトが、軸方向に通るダクトを有しており、このダクトは、少なくとも固定シャフトの一部分にわたって延び、ベース部分が取り付けられている固定シャフトの端部の領域で、少なくとも1つの接続ダクトと通じている。この接続ダクトは、軸方向に通るダクトを固定シャフトの周辺と接続する。固定シャフトの軸方向の端部は、好ましくは閉じられている。少なくとも1つの接続ダクトは、固定シャフト内で半径方向に配置することができるが、斜めに配置することもできる。
【0009】
そのようなスタビライザーによって、心臓の一領域を安定化させることができる。少なくとも1つの接続ダクトの開口部が、支持部材の接触面に近い固定シャフトの外面に設けられている場合、固定シャフト内にある軸方向のダクトの他方の端部に吸引装置又は負圧装置を設けることで、これらの開口部を介して術野から血液を吸引することができる。
【0010】
本発明に基づくスタビライザーの有利な実施形態によれば、このスタビライザーが、固定シャフトに取外し可能に取り付けられる吸引装置を備えている。特に、この吸引装置は、固定シャフトの自由端部から固定シャフト上をスライドすることができる。この吸引装置は、吸引装置を取外し可能にスタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部を備える接続部品と、少なくとも1つの吸引部品とを有しており、この吸引部品は、少なくとも1つの接続空洞部に接続されている軸方向に通るダクトを有している。吸引部品は、吸引装置がスタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に支持部材のスロットの中に配置されているようになっている。吸引装置が固定シャフト上をスライドするか、又は固定シャフト上に押し込むことができる場合、接続部品は、固定シャフトの外部断面と一致する貫通孔を有している。
【0011】
本発明に基づくスタビライザーのもう1つの有利な実施形態によれば、少なくとも1つの支持部材が少なくとも1つの溝を有し、この溝は支持部材の接触面において支持部材の長手方向に対してほぼ直角に延びている。この溝により、術野に溜まった血液は、支持部材の下を通って吸引装置に流れることが可能となる。これにより、血液が支持部材を介して流れる血液を吸引できるだけではなく、吸引状態を改善することもできる。
【0012】
本発明に基づくスタビライザーのもう1つの有利な実施形態によれば、吸引装置の少なくとも1つの吸引部品が、少なくとも1つの半径方向の開口部を有し、吸引装置が取外し可能にスタビライザーに取り付けられており、また吸引部品が部分的に支持部材内のスロットに配置されている場合に、この開口部は支持部材内の溝に通じている。そのような半径方向の溝が特に有利であるのは、取付け部材の長手方向へ長い領域にわたって液体を吸引することができ、吸引部品の軸方向の開口部だけで吸引しないからである。少なくとも1つの半径方向の開口部が吸引部品に設けられている場合、吸引部品の軸方向の端部は閉鎖されていてもよい。さらに、半径方向の開口部が、支持部材の接触面内の溝に通じている場合は、特に有利である。というのも、2つの取付け部材の間にある術野から直接、血液を1つ又は複数の吸引部品の方に吸引できるからである。複数の半径方向の開口部が吸引部品内で長手方向に分配されて配置されており、それに対応して、複数の横方向に通る溝が支持部材の接触面内に形成されている場合は特に有利である。さらに、吸引部品にも軸方向の開口部が設けられていてよく、この開口部は、吸引部品と接触している組織が吸引部品の半径方向の開口部から吸引され、場合によっては損傷するのを防いでいる。
【0013】
本発明に基づくスタビラザーの特に有利な実施形態によれば、2つの支持部材がそれぞれ1つの長手方向に通るスロットを有し、吸引装置が2つの吸引部品を有しており、吸引装置がスタビライザーに取り付けられている場合、これらの吸引部品は、接続部品に接続されているとともに、支持部材の該当するスロットの中に少なくとも部分的に配置されているようになっている。これによって、術野の両側で血液を吸引できる吸引装置を備えるスタビライザーが提供される。
【0014】
本発明に基づくスタビライザーのもう1つの有利な実施形態によれば、吸引部品が湾曲したパイプから成る。パイプの自由端部は、好ましくは鋭利なエッジがなく、パイプの外径は取付け部材の厚さとほぼ同じである。これにより、特に簡単に製造することができ、かつ取付け部品の中に特にうまく収納することができ、かつこれらの取付け部品によって保護される吸引部品が形成される。
【0015】
本発明に基づくもう1つの特に有利な実施形態によれば、支持部材の接触面が、支持部材の長手方向及び/又は横方向において、接触面の縁部に丸みが付けられているか、もしくはスキー板状に反り上がっているように形成されている。これにより、支持部材の縁部領域において、特に高い圧力が心臓表面に加えられることで壊死を引き起こすおそれを回避することができる。しかしまた、鋭利な縁部は、心臓に切り傷をつけるおそれもある。前述した支持部材又は支持部材の下面の構造によって、心臓組織の損傷ができる限り防止される。「スキー板状に反り上がっている」とは、この場合、必ずしも、構成部品をその製造後に湾曲しなければならないことを意味しているのではなく、それぞれの構成部品を湾曲を有するように形成することもできる。むしろ、「スキー板状に反り上がっている」とは、スキー板を横から見たときに、スキー板の先端が緩やかに地面から上昇していることを表しており、このとき、スキー板の先端とスキー板の接触面との間に屈曲又は縁部は形成されない。
【0016】
本発明に基づくスタビライザーの特に有利な実施形態によれば、固定シャフトが、その自由端部に接続部を備えており、この接続部に負圧装置を取り付けることができ、この接続部は、好ましくはLUER接続部である。接続開口部及び/又は吸引装置の領域にかかっている圧力よりも低い圧力が固定シャフトの自由端部にかかると、血液が固定シャフトを通って吸引される。
【0017】
本発明に基づくスタビライザーのもう1つの特に有利な実施形態によれば、固定シャフトが、ベース部分を取り付けている端部の領域に少なくとも1つの環状の溝を有しており、この溝は、少なくとも1つの接続ダクトの近くに配置され、シール部材を収容するようになっている。好ましくは、接続部品が2つの環状の溝を有し、吸引装置がスタビライザーに取り付けられている場合、これらの環状の溝の一方は、固定シャフトの環状の溝に向かい合うように接続部品の軸方向の貫通開口部に形成されており、2つの溝は、シール、好ましくはOリングを収容するようになっている。固定シャフト又は接続部品の溝は、固定シャフトと吸引装置との間の接続が外された場合、シール部品が溝の中に残るようになっている。さらに、接続部品は、好ましくはもう1つの環状の溝を、その他の2つの環状の溝の間に有しており、このもう1つの溝は、少なくとも部分的に接続空洞部を形成している。これによって、固定シャフトと吸引装置との間にあるシール部品、好ましくはOリングが、同時に位置付け支援としても、固定手段としても用いられているスタビライザーを提供することができる。これに加え、必要に応じて2つの吸引パイプと2つの接続ダクトとを互いに接続し、それによって詰まりの危険を少なくする接続空洞部も提供される。固定シャフト内の接続ダクトの両側に2つの環状の溝を設けることも可能である。
【0019】
本発明のその他の利点及び特徴は、添付の図及び実施例の詳細な説明から当業者には明白である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施例に基づくスタビライザーの等角図である。
【
図2A】
図1のスタビライザー用吸引装置の等角図である。
【
図2B】
図1のスタビライザー用吸引装置のもう1つの等角図である。
【
図3】第1の実施例による吸引装置付きスタビライザーの等角図である。
【
図4】
図3による吸引装置付きスタビライザーの一部を下から見た図である。
【
図5】部分的に断面を示した吸引装置が示されている、
図3による吸引装置付きスタビライザーの部分図である。
【
図6A】製造時の状態における、第1の実施例による吸引装置を取り付けていないスタビライザーの等角図である。
【
図6B】使用時の状態における、第1の実施例による吸引装置を取り付けていないスタビライザーの等角図である。
【
図7A】第2の実施例による吸引装置を取り付けていないスタビライザーの側面図である。
【
図7B】第2の実施例による吸引装置を取り付けていないスタビライザーを取付け部材の方向に見た概略図である。
【
図8A】第3の実施例による吸引装置を取り付けていないスタビライザーの側面図である。
【
図8B】第3の実施例による吸引装置を取り付けていないスタビライザーを取付け部材の方向に見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1の実施例を、
図1〜6Bを用いて以下に詳細に説明する。
【0022】
図1は、固定シャフト10と、ほぼ平行な細長い2つの支持部材21、21付き組織接触部品20とを備える心臓手術用スタビライザーを示し、これらの支持部材は、ベース部分22に設けられているとともに、1つの血管Bの対向する2つの側に配置されるようになっているため、血管Bの少なくとも一部分が2つの支持部材21、21の間を通っており、組織接触部品20のベース部分22は固定シャフト10の端部11に取り付けられている。2つの支持部材21、21は、支持部材21の長手方向に、少なくともこの支持部材のほぼ全長にわたって延びているスロット23を有している。固定シャフト10は軸方向の孔14を有しており、この孔は固定シャフト10の全長にわたって延び、組織接触部品20のベース部分22が配置されている端部11で閉じられている。固定シャフト10内の軸方向の孔14は、軸方向のダクト14を横切る接続ダクト15に通じている。これによって、固定シャフト10の接続ダクト15は、固定シャフト10の端部11の近くで2つの開口部を形成している。
【0023】
吸引装置30は、この実施例では接続部品31から成り、吸引装置30は、この接続部品を使用して、2つのOリング40及びこれに対応する収容溝16(図にはひとつの収容溝16だけを示す)によってスタビライザーの固定シャフト10に取外し可能に固定されている。その際、接続部品31は、貫通孔32を使って固定シャフト10上をスライドし、次に、Oリングが収容溝16内に収容されるとともに、接続部品31の底面が組織接触部品20の固定部分22に接触するまで、固定シャフトの端部11に向かって押し込まれる。この接続部品31は、さらに接続空洞部33も有している。
【0024】
吸引装置30は、湾曲したパイプ部材から形成されている2つの吸引部品34を備えている。吸引部品34は軸方向の通路を有し、この通路は、パイプ部材の遠位端又は自由端部に向かって開いている。それぞれのパイプ部材34の近位端では、パイプ部材が接続部品31と接続されているため、各パイプ部材34の軸方向の通路は接続空洞部33に接続されている。さらに、各パイプ部材34は、2つの半径方向の開口部35を有しており、これらの開口部は、各パイプ部材34の下面に向かって延びている。パイプ部材34は、吸引装置30がスタビライザーに取り付けられている場合、部分的に支持部材21のスロット23の中に配置されているようになっている。この場合、パイプ部材34の外径は、支持部材21内のスロット23の幅にほぼ一致している。パイプ部材34は、さらに、スロット23の全長にわたって延びているのではなく、このスロット23の半分の長さを少し上回っている程度である。
【0025】
支持部材21は、それぞれが2つの溝24を有しており、これらの溝は、支持部材21の接触面において支持部材の長手方向に対して横方向に延びている。溝24は、形状とサイズがパイプ部材34の半径方向の開口部35と実質的に一致しており、半径方向の開口部35と溝24とが支持部材21の少なくとも大部分において一直線になるように配置されているため、血液及びその他の液体は、支持部材21の下面で溝24を通って半径方向の開口部35へ流れることができる。
【0026】
本実施例では、特に
図6Bから明らかなように、支持部材21が一方向にのみスキー板状に、つまり、支持部材とベース部分22とが接続されている端部に向かって反り上がっている。支持部材21の自由端部は反り上がっておらず、支持部材21の横方向にも同様に反り上がりは設けられていない。しかしながら、支持部材21の縁部には丸みが付けられているため、鋭利な縁部によって組織が損傷されることはない。
【0027】
固定シャフト10は、その自由端部12に接続部、すなわちLuer接続部を備えている。この接続部には、吸引ポンプを取り付けることができ、この吸引ポンプは、好ましくは外科的用途のために特別に調整されている。この場合、吸引ポンプは、連続で又は断続的に作動させることができる。
【0028】
すでに前述したように、接続部品31は、2つのOリング40を使用して、固定シャフト10又はその端部11に取外し可能に固定される。Oリング40は、そのために、接続部品31内にある2つの環状の内部溝の中に収容されている。接続部品31内にある環状の内部溝が固定シャフト10の環状の外部溝よりも深く形成されていることで、Oリング40は、ほとんどの場合、接続部品31の環状の内部溝の中に留まっており、固定シャフトの溝16からは解放される。
【0029】
図5に示されているように、固定シャフト11、接続部品31、パイプ部材34及びOリング40は、吸引された血液などが通る共通の空洞部を形成している。接続ダクト15でのみ接続されている2つの空洞部が形成されないように、接続部品31には、空洞部を接続するさらにもう1つの環状の溝が設けられている。
【0030】
例えば外科的吸引ポンプなどの負圧源を、Luer接続部を備えるホースと接続する場合、一方では手術を中断することなく、また他方では術野への視野が制限されることなく、血液などを槽部分Wから吸引することができる。内部ダクトを備える固定シャフトが形成されていることによって、組織接触部品へのホース配線は必要ない。
【0031】
図6A及び6Bから、この実施例の場合に、どのようにして組織接触部分20が製造されるか明らかである。ベース部分22及び2つの支持部材21は、まず平坦な構成部品として形成されている。次に、支持部材21が折り曲げられ、少なくとも一方の側にスキー板状の反り上がりができる。支持部材21が反り上がっている縁部領域では、その下にある組織の負荷が軽減されるため、そうしたスキー板状の反り上がりは特に有利である。
【0032】
図7及び8から、本発明に基づくスタビライザーがどのように心臓Hの表面に設置されるか明らかである。スタビライザーを血管Bに対して確実に位置決めするとともに、心臓Hの安定化を達成するため、スタビライザーが心臓Hに押し付けられる。このようにして、槽状の窪みWが形成され、場合によってはこの窪みが血液及びその他の液体で一杯になるおそれがある。
図7及び8の破線は、心臓Hの表面にスタビライザーを配置していない場合に、心臓表面がどのようになっているかを示している。特に
図7B及び8Bから明らかなように、槽状の窪みのもっとも深い場所が血管の横に生じている。本発明に基づくスタビライザーの場合、ちょうどその場所に吸引部材34が配置されている。
【0033】
本発明の第2の実施例を、
図7A及び7Bを用いて以下に詳細に説明する。
【0034】
図7A及び7Bから明らかなように、この実施例の組織接触部品20は、スキー板状の反り上がりを有していない。両方の支持部材21bは平坦に形成されており、傾斜部によってベース部分22に接続されている。しかし、そのような実施形態では、支持部材21bの縁部が非常に鋭利に形成されていた場合、心臓組織の損傷を引き起こすおそれがある。特に支持部材21bの縁部領域では、支持部材21bの下にある組織の圧迫もとりわけ強く、このことが組織の壊死につながるおそれもある。
【0035】
本発明の第3の実施例を、
図8A及び8Bを用いて以下に詳細に説明する。
【0036】
この実施例では、支持部材21cが、支持面のあらゆる方向でスキー板状に反り上がっている。これにより、心臓組織Hを特に保護する組織接触部品20が提供される。
【0037】
添付の図及び請求項から、当業者にはその他の実施形態及び変更例が明らかである。例えば、
図8Aによる支持部材の長手方向のスキー板状の形態と、
図7Bによる支持部材の横方向の平坦な形態とを組み合わせることも可能である。もちろん、支持部材を異なる形に形成することも可能である。様々な方向で形成されている図示されている支持部材の構造はすべて、任意に組み合わせることができる。
以下の項目は、国際出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
[項目1]
固定シャフト(10)と、
ほぼ平行な細長い2つの支持部材(21、21)付き組織接触部品(20)と
を備える心臓手術用スタビライザーであり、前記支持部材が、ベース部分(22)に設けられているとともに、1つの血管(B)の対向する2つの側に配置されるようになっているため、前記血管(B)の少なくとも一部分が2つの前記支持部材(21、21)の間を通っており、前記組織接触部品(20)の前記ベース部分(22)は前記固定シャフト(10)の端部(11)に取り付けられているスタビライザーであって、
少なくとも1つの支持部材(21)は、該支持部材(21)の長手方向に、少なくとも前記支持部材の一部分にわたって延びているスロット(23)を有し、
前記固定シャフト(10)が、軸方向に通るダクト(14)を有しており、該ダクトは、少なくとも前記固定シャフト(10)の一部分にわたって延び、前記ベース部分(22)が取り付けられている前記固定シャフト(10)の端部(11)の領域で、少なくとも1つの接続ダクト(15)と通じており、該接続ダクトは、前記軸方向に通るダクト(14)を周辺と接続し、前記固定シャフト(10)の軸方向の前記端部(11)は、好ましくは閉じられていることを特徴とするスタビライザー。
[項目2]
前記固定シャフト(10)に取外し可能に取り付けられるとともに、特に、該固定シャフトの自由端部(12)から前記固定シャフト(10)上をスライドすることができる吸引装置(30)を備えるスタビライザーであり、
前記吸引装置(30)が、
該吸引装置(30)を取外し可能に前記スタビライザーに固定可能にするとともに少なくとも1つの接続空洞部(33)を備える接続部品(31)と、
少なくとも1つの吸引部品(34)と
を有しており、
前記吸引部品は、少なくとも1つの前記接続空洞部(33)に接続されている軸方向に通るダクトを有するとともに、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、少なくとも部分的に前記支持部材(21)の前記スロット(23)の中に配置されているようになっている、項目1に記載のスタビライザー。
[項目3]
少なくとも1つの前記支持部材(21)が少なくとも1つの溝(24)を有し、該溝は前記支持部材(21)の接触面において前記支持部材の長手方向に対してほぼ直角に延びている、項目1又は2に記載のスタビライザー。
[項目4]
前記吸引装置(30)の少なくとも1つの前記吸引部品(34)が、少なくとも1つの半径方向の開口部(35)を有し、前記吸引装置(30)が取外し可能に前記スタビライザーに取り付けられており、また前記吸引部品(34)が部分的に前記支持部材(21)内の前記スロット(23)に配置されている場合に、前記開口部は、前記支持部材(21)内の溝(24)に通じている、項目3に記載のスタビライザー。
[項目5]
2つの前記支持部材(21、21)がそれぞれ1つの長手方向に通るスロット(23)を有し、
前記吸引装置(30)が2つの吸引部品(34)を有しており、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、前記吸引部品は、前記接続部品(31)に接続されているとともに、前記支持部材(21、21)の該当する前記スロット(23、23)の中に少なくとも部分的に配置されているようになっている、項目2〜4のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
[項目6]
前記吸引部品(34)が湾曲したパイプから成る、項目2〜5のいずれか一項に記載のスタビライザー。
[項目7]
前記支持部材(21)の接触面が、前記支持部材(21)の長手方向及び/又は横方向において、前記接触面の縁部に丸みが付けられているか、もしくはスキー板状に反り上がっているように形成されている、項目1〜6のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
[項目8]
前記固定シャフト(10)が、その自由端部(12)に接続部を備えており、該接続部に負圧装置を取り付けることができ、前記接続部は、好ましくはLUER接続部である、項目1〜7のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
[項目9]
前記固定シャフト(10)が、前記ベース部分(22)を取り付けている前記端部(11)の領域に少なくとも1つの環状の溝(16)を有しており、該溝は、少なくとも1つの前記接続ダクト(15)の近くに配置され、シール部材(40)を収容するようになっている、項目1〜8のうちいずれか一項に記載のスタビライザー。
[項目10]
前記接続部品(31)が2つの環状の溝を有し、前記吸引装置(30)が前記スタビライザーに取り付けられている場合、これらの環状の溝の一方は、前記固定シャフト(10)の前記環状の溝(16)に向かい合うように前記接続部品の軸方向の貫通開口部(32)に形成されており、前記2つの溝は、シール(40)、好ましくはOリングを収容するようになっており、
前記接続部品(31)は、好ましくはもう1つの環状の溝を、その他の前記2つの環状の溝の間に有しており、前記もう1つの溝は、少なくとも部分的に前記接続空洞部(33)を形成している、項目9に記載のスタビライザー。