【文献】
Europian Respiratory Journal,スイス,ERS Journals,2001年 1月,Vol.17,pp.14-19
【文献】
Critical Care Medicine,米国,Lippincott Williams & Wilkins,2002年11月,Vol.30, No.11,pp.2489-2492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
イロプロストまたはその塩から選択される活性成分を含む、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための医薬組成物であって、有効単回用量の活性成分を含むある量の組成物が、2分以内で吸入されるエアロゾル化形態で供給され、エアロゾルが、12回より多い呼吸で投与される医薬組成物。
0.4mL/分以上の排出速度でエアロゾル化形態の組成物を放出するように適合された吸入器を使用して投与される、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
0.5mL/分以上の排出速度でエアロゾル化形態の組成物を放出するように適合された吸入器を使用して投与される、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
1分あたりイロプロスト2.5μg以上の速度で、エアロゾル化形態の組成物を放出するように適合された吸入器を使用して投与される、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
1分あたりイロプロスト5μg以上の速度で、エアロゾル化形態の組成物を放出するように適合された吸入器を使用して投与される、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
吸入相あたり、所定体積のエアロゾルの直後に、所定体積のエアロゾル不含有空気を放出するように適合された吸入器を使用して投与され、所定体積のエアロゾル不含有空気が、場合により、各吸入相の終わりに0.2〜2秒にわたって吸入器により放出される、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
吸入器が、定量吸入器、ソフトミスト吸入器および振動メッシュ式ネブライザーから選択される、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
10μg/mL以上の濃度を有する、および/または有効単回用量が約1.5μgから約5.0μgである、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
濃度が10μg/mLであり、有効単回用量が2.5μgである、または濃度が20μg/mLであり、有効単回用量が5μgである、肺動脈性肺高血圧症の治療で使用するための請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
イロプロストまたはその塩から選択される活性成分を含む医薬組成物の、肺動脈性肺高血圧症を治療するための医薬の製造における使用であって、有効単回用量の活性成分を含むある量の組成物が、2分以内で吸入されるエアロゾル化形態で供給され、エアロゾルが、12回より多い呼吸で投与される、使用。
【背景技術】
【0002】
イロプロストは、合成プロスタサイクリン類似体である。イロプロストは、プロスタサイクリン(PGI
2またはエポプロステノールとも呼ばれる)の生物活性の少なくともいくらかを模倣する。プロスタサイクリンは、動脈抵抗を低下させ、線維芽細胞増殖を阻害し、血小板凝集を低減することが知られており、抗炎症および抗分裂促進過程に関与すると考えられている。IUPACによるイロプロストの化学名は、5-{(E)-(lS,5S,6R,7R)-7-ヒドロキシ-6[(E)-(3S,4RS)-3-ヒドロキシ-4-メチル-l-オクテン-6-イニル]-ビ-シクロ[3.3.0]オクタン-3-イリデン}ペンタン酸であるが、(E)-(3aS,4R,5R,6aS)-ヘキサヒドロ-5-ヒドロキシ-4-[(E)-(3S,4RS)-3-ヒドロキシ-4-メチル-1-オクテン-6-イニル]-Δ
2(1H),Δ-ペンタレン吉草酸(pentalenevaleric acid)としても知られている。より正確には、イロプロストは、約53:47の比率の4Rと4Sのジアステレオマーの混合物を意味する。それは、油状物質であり、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、およびpH7の水性緩衝液に可溶であり、pH9の水性緩衝液にやや溶けにくく、蒸留水、ならびにpH3およびpH5の水性緩衝液に溶けにくい。分子式はC
22H
32O
4であり、これは分子量360.49に相当する。
【0003】
イロプロストは、肺動脈性肺高血圧症、強皮症、レイノー現象およびある種のタイプの虚血症の治療で使用される。イロプロストは、肺動脈性肺高血圧症のエアロゾル治療のための水性吸入溶液(米国においては、Actelion Pharmaceuticals社、欧州およびいくつかの他の国々においては、Bayer Pharma社により市販されているVentavis(登録商標))として入手可能である。また、Bayer Pharma社およびActelion社により市販されているイロプロストの注射用製剤(Ilomedin(登録商標))も、PAHの治療で使用されている。Ilomedin(登録商標)は、イロプロストの濃度が20μg/mLである、1mLアンプルの形態で入手可能である。一部の国では、他のバイアルサイズおよび濃度のものが同様に市販されているようである。
【0004】
米国の処方情報(2011年12月発行版)によると、Ventavis(登録商標)における不活性成分は、トロメタミン、エタノール、塩化ナトリウム、pH調節のための塩酸、および注射用水である。その製剤を、イロプロストトロメタン、すなわち、イロプロストのトロメタミン塩の形態でイロプロストを含むものであると説明することもできる。
【0005】
肺高血圧症(PH)は、典型的には、めまい、失神、息切れおよび運動不耐性を伴う、肺循環における血圧上昇を特徴とする、深刻で、生命を脅かす可能性のある疾患である。現在、肺高血圧症(PH)は、WHOによって、グループIとしての肺動脈性肺高血圧症(PAH)を含む、5つのグループに分類されている。肺動脈性肺高血圧症はさらに、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)および遺伝子性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)、ならびに他の形態に分けることができ、後者は、薬物および毒物の摂取により誘発される、または他の疾患、例えば、結合組織疾患、HIV感染症、門脈圧亢進症、先天性心患者、住血吸虫症または慢性溶血性貧血に関連している。
【0006】
プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体はしばしば、特に、重度の肺動脈性肺高血圧症に最も有効な治療選択肢であると考えられている。プロスタサイクリン自体またはエポプロステノール(Flolan(登録商標))は、中心静脈カテーテルを介した注入を必要とする注射用製剤として入手可能である。それは、非常に不安定であり、投与の間でさえ、冷却しなければならない。より安定な合成プロスタサイクリン類似体は、静脈内または皮下投与できるトレプロスチニル(Remodulin(登録商標))であるが、皮下注射は、典型的には、かなり痛みを伴う。長い排泄半減期を有するイロプロストは、静脈内投与(Ilomedin(登録商標))、または吸入により投与(Ventavis(登録商標))することができる。最近、トレプロスチニル(Tyvaso(登録商標))の吸入形態が市場に導入された。
【0007】
吸入可能なイロプロスト(Ventavis(登録商標))は、2つの濃度(それぞれ、10μg/mLおよび20μg/mL)で市販されており、HaloLite(登録商標)AAD(登録商標)、Prodose(登録商標)AAD(登録商標)吸入器システム、Venta Neb(登録商標)またはI-neb(登録商標)AAD(登録商標)吸入器システムを使用して、1日あたり6〜9回投与される。Prodose(登録商標)およびHaloLite(登録商標)吸入器は、もはや市販されていないジェット式ネブライザーである。Venta Neb(登録商標)は、超音波式ネブライザーであるのに対し、現在推奨されている吸入システムであるI-neb(登録商標)システムは、より高度な振動メッシュ式ネブライザー技術に基づいている。10μg/mLのイロプロストを含む製剤、およびジェット式ネブライザーの1つを使用する、2.5μgの単回用量のイロプロストの投与には、約4〜5分かかり、5.0μgの用量の場合、約8〜10分かかる。I-neb(登録商標)システムを使用する場合、投与時間はわずかに短く、低用量(2.5μg)の場合は約3.2分、高用量(5.0μg)の場合は約6.5分を要する(Ventavis(登録商標) 10 Mikrogramm/ml Losung fur einen Vernebler,Fachinformation、Bayer Pharma社、2011年7月を参照されたい)。5μgの単回用量は、20μg/mLのイロプロストを含む製剤(この製剤が入手できる国において)を使用して投与することができ、これは、I-neb(登録商標)AAD(登録商標)吸入器システムを使用した場合、吸入するのに約4分かかる。しかし、実際には、患者はしばしば、対照臨床試験から報告される吸入時間よりも長い吸入時間(10〜15分)を経験する。
【0008】
Ventavis(登録商標)を使用する吸入治療の場合において、2.5μgまたは5.0μgの単回用量は、一般的に、マウスピースで吸入装置から送達されるイロプロストの用量として理解される(Ventavis(登録商標) 10 Mikrogramm/ml Losung fur einen Vernebler, Fachinformation、Bayer Pharma社、2011年7月を参照されたい)。
【0009】
必要とされる投与頻度および各投与サイクルの時間を考えると、吸入可能なイロプロストの使用は、非常に便利であるとも、患者に優しいとも思われない。
【0010】
しかし、エアロゾル送達速度の上昇を通じたより短い投与時間は、これまで実行不可能と考えられてきた。実際、吸入可能なイロプロストの投与のための高排出速度を有する超音波式ネブライザー(潜在的に投与時間を大幅に短縮し得る)の適格性が試験された時、研究者は、重大な有害事象が予想されるため、治療が十分に耐容性のままであるように、吸入溶液におけるイロプロストの濃度を低くしなければならないことに合意した。
【0011】
イロプロストの場合、吸入時間の短縮に対する強い偏見が、例えば、Gesslerら、Ultrasonic versus jet nebulization of iloprost in severe pulmonary hypertension、Eur. Respir. J. 17:14〜19(2001)により示されている。その著者は、従来のジェット式ネブライザーおよびより効率的な超音波式ネブライザーの物理的エアロゾル特性の比較に基づくと、超音波式ネブライザーの場合、マウスピースでの2.8μgの単回用量の送達のための吸入時間が、12分から2分に短縮する可能性が存在したであろうと述べている。しかし、これは、治療的に実行不可能であると考えられ、また、予備の右心カテーテル調査が、全身副作用(血圧の低下、全身血管抵抗の低下、紅潮、顎痛など)がイロプロストの急速な吸入に関連していることを示したので、そのような急速な吸入を避ける必要があった。したがって、研究者は、吸入時間が4分となる超音波式ネブライザーを使用する場合、イロプロスト吸入溶液の濃度を10μg/mLから5μg/mLに低めることを決定した。
【0012】
それゆえに、吸入可能なイロプロストによる治療は、患者にとっては依然として不便で、時間のかかるものである。したがって、肺経路を介するイロプロスト投与の患者の利便性を改善する必要性が、依然として存在する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第1の態様において、本発明は、肺内投与用エアロゾルとして使用される、イロプロストまたはイロプロストの塩の医薬組成物を提供する。それは、有効単回用量の活性成分が、2分以内で吸入されるエアロゾル化形態で提供されることを特徴とする。
【0023】
イロプロストは、化学名5-{(E)-(lS,5S,6R,7R)-7-ヒドロキシ-6[(E)-(3S,4RS)-3-ヒドロキシ-4-メチル-l-オクテン-6-イニル]-ビ-シクロ[3.3.0]オクタン-3-イリデン}ペンタン酸、または(E)-(3aS,4R,5R,6aS)-ヘキサヒドロ-5-ヒドロキシ-4-[(E)-(3S,4RS)-3-ヒドロキシ-4-メチル-1-オクテン-6-イニル]-Δ
2(1H),Δ-ペンタレン吉草酸で知られている。現在使用されている形態では、それは、約53:47の比率の4Rと4Sのジアステレオマーの混合物からなる。しかし、本発明は、他のジアステレオマー比、代替の異性体、および医薬として許容されるイロプロストの塩、例えば、トロメタミン塩を用いて実施することもできる。
【0024】
該組成物は、肺内投与用エアロゾルとして使用される。本明細書で使用する場合、エアロゾルは、気相における固相または液相の分散体である。不連続相とも称される分散相は、複数の固体または液体粒子から構成される。一般に、分散相の粒径は、典型的には約100μm未満(はるかに小さい)である。エアロゾルの両方の基本的物理的タイプ、すなわち、気相における固体および液体分散体を、医薬エアロゾルとして使用することができる。気相における固体粒子を代表するエアロゾルの例は、乾燥粒末吸入器(DPI)により放出されるものである。対照的に、加圧式定量吸入器、ソフトミスト吸入器およびネブライザーは、分散相が液体であるエアロゾルを送達する。エアロゾルの肺内投与は、適切な吸入装置を使用して、エアロゾルを発生させ、次いで、そのエアロゾルが、鼻で、または、より典型的には、および本発明によれば好ましくは、適切なマウスピースを介して口で対象に吸入された場合に実現される。
【0025】
本発明の主要な特徴は、組成物が短い時間内で吸入されることであり、それは、従来のネブライザー法、例えば、イロプロストを用いた現在の吸入療法で使用されるものとはかなり異なる。本発明によると、完全な単回用量は、数秒またはほんの数分以内に投与される。そのような吸入法は、各組成物の十分に高い濃度を選択することにより、ならびに、活性成分の有効単回用量である量が、ほんの数秒またはほんの数分以内に送達されるような排出速度で、エアロゾル化形態の組成物を放出できる、および放出するように実際に適合または構成された吸入器を選択することにより実現される。特に、組成物の濃度および吸入器システムは、2分以内で吸入できるエアロゾル化形態で単回用量を供給するように適合される。さらなる実施形態において、投与時間は、それぞれ、2分、1.5分以下、1分以下、および0.5分以下である。
【0026】
本発明の文脈において、各パラメーターの正常な変動性を考慮して、範囲を理解すべきである。例えば、吸入によるイロプロストの単回用量の投与時間の場合、2分という時間は、「約2分」または「おおよそ2分」と通常表される時間と同じである。他のパラメーターについての範囲も同様に解釈されるべきである。誤解を避けるために、属性または値に関連した、用語「本質的に」、「約」、「おおよそ」および同様の用語は、正確または精密な属性または値を除外するものとして解釈されるべきではない。
【0027】
さらに、本発明によると、エアロゾルは、2分以内での単回用量の吸入を可能にするように供給されることが分かる。これは、中断のない吸入療法における呼吸の通常の遂行に基づく。換言すると、患者が、投与時間の延長につながる、例えば、咳などの事象において、ある用量のイロプロストの投与を中断することを決定した場合であっても、このことは、単回用量が2分以内で吸入されるエアロゾル化形態で供給されることを排除しないであろう。
【0028】
単回用量のイロプロストの吸入が、ほんの数回の呼吸運動または呼吸、例えば、12回以下の深呼吸で実現できるが、本発明者らは、大量に吸入する呼吸を行うことができない、またはそれに対して抵抗的である患者にも、2分以内で有効用量のイロプロストを供給することができることを発見した。例えば、イロプロスト組成物は、12回より多い比較的短い呼吸、例えば、それぞれ13〜25回の呼吸運動または13〜20回の呼吸運動で単回用量を送達するように構成された吸入装置を使用して投与することができる。例えば、ある用量を、各呼吸が6秒以下である20回の短い呼吸で、またはそれぞれ5秒以下の時間を有する24回の短い呼吸で吸入することができる。この文脈において、呼吸の時間は、一連の呼吸における呼吸の典型的または平均的時間として理解されるべきである。
【0029】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明によるイロプロストの肺内投与が、そのようなタイプの投与が重大な副作用に関連するであろうという従来技術における否定的偏見および予測に反して、技術的かつ臨床学的に実現可能であり、実際に患者によって十分に許容されることを見出した。本発明者らは、本発明による吸入されるエアロゾルの形態で、2.5μgおよび5μgのイロプロストをそれぞれ投与する所望の血行力学的効果(平均肺動脈圧および肺血管抵抗の低下の点で)が、10μg/mLの濃度を有するイロプロスト製剤を使用して、3.2〜5分(2.5μgについて)または6.5〜10分(5μgについて)にわたる同じ用量の吸入の後に観察された効果に匹敵し、同時に、副作用、すなわち、全身動脈圧および全身血管抵抗ならびに良好な臨床的耐容性の変化の点で、イロプロストの遅い吸入に関連する副作用と同様でもあることを見出した。
【0030】
したがって、本発明は、肺動脈性肺高血圧症を患っている患者が、例えば、2.5μgまたは5μgのイロプロストの単回用量のどちらを必要とするかに関係なく、現在入手できる治療法と比較して、はるかに便利で、普通の生活のスケジュールおよび活動によりよく適合する短い吸入時間から恩恵を受けることができる、吸入可能なイロプロストの新規の使用を提供する。
【0031】
本発明による吸入に適した吸入装置としては、異なるエアロゾル化技術に基づく様々なタイプの現代の吸入器が挙げられる。例えば、定量吸入器(MDIまたはpMDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、ソフトミスト吸入器(SMI)または現代の効率的なネブライザーを使用することができる。定量吸入器は、典型的には、加圧される、すなわち、活性成分および任意選択の不活性成分が液体の加圧された噴射剤に分散されるか、溶解される。MDIは、典型的には、通常アルミニウムまたはステンレス鋼製であるキャニスターと、定量の製剤が個々の作動で投与されることを可能にする計量バルブと、患者が装置を操作し、口を介して患者の肺にエアロゾルを向かわせることを可能にする、マウスピースとしばしば組み合わされる作動装置とを含む。
【0032】
乾燥粉末吸入器(DPI)と呼ばれることも多い、粉末吸入器は、定量のエアロゾル形態で放出される固体粉末製剤を含み、投与する。一般的に、DPIは、装置から粉末を取り込み、その後、その粉末を肺に達するのに十分に小さな粒子に分解する、患者の吸入力に依存する。
【0033】
好ましい実施形態において、効率的なネブライザーが、本発明を実施するために選択される。ネブライザーは、ジェット式ネブライザー、超音波式ネブライザー、振動メッシュ式ネブライザー、およびソフトミスト吸入器に細分化される。ジェット式ネブライザーは、液体製剤を霧化またはエアロゾル化するために、圧縮された空気またはガスを使用する。それらは、現在、吸入療法に依然として使用されている最も従来的なタイプのネブライザーである。ジェット式ネブライザーは、エアロゾルの発生に必要な圧縮された空気またはガスのそれらの高処理量により、かなり希釈されたエアロゾルを放出する。本発明者らは、ほとんどのジェット式ネブライザーが、重大な技術的欠点、例えば、圧縮空気の必要性、粉末供給への依存性、高い残留量などを有するので、本発明によるエアロゾルを送達するのに最も適した装置ではないであろうと考えている。
【0034】
超音波式ネブライザーは、液体製剤を呼吸に適したエアロゾルに転換する機械的振動を引き起こす高周波超音波を発生させる電子振動子を含む。1960年代に導入されたこれらのネブライザーは、吸入療法の利便性を改善した、最初の小さな、完全に携帯型の、ほぼ無音のネブライザーであった。それらはまた、一般的に、潜在的により高い排出速度に変換する、より高密度のまたはより濃縮されたエアロゾルを発生させることもできる。特定の装置およびその構成に応じて、超音波式ネブライザーを使用して本発明を実施することが可能であろう。
【0035】
ほんの数年前に導入された振動メッシュ式ネブライザーは、数百または数千の微小な、大部分は、レーザーであけられた開口部を一般的に含む振動メッシュまたは膜により、液体製剤からのエアロゾルを発生させる。液体がその開口部を通して絞られる間、ミクロンサイズのエアロゾル液滴が発生する。振動メッシュ式ネブライザーはまた、小さな携帯型装置である。典型的には、それらは、非常に密度の高いエアロゾルを放出し、したがって、同等の濃度の製剤が使用されることを条件として、例えば、従来のジェット式ネブライザーよりも、はるかに短い吸入時間を必要とする。振動メッシュ式ネブライザーは、本発明が実施されるべき好ましいタイプの吸入器の1つである。適切であり、市販されている振動メッシュ式ネブライザーの例としては、Pari社のeFlow、Respironics社のi-Neb(登録商標)AAD(登録商標)、Omron社のMicroAir(登録商標)、Beurer社のNebulizer IH50(登録商標)、Aerogen社のAeroneb(登録商標)およびActivaero社のAKITA
2 APIXNEB(商標)が挙げられる。
【0036】
そのような振動メッシュ式ネブライザーで使用されるメッシュに関しては、約900〜約9,000の開口部(または穴、または孔)を示すメッシュを選択することが好ましい。より好ましくは、メッシュはそれぞれ、少なくとも約2,000の開口部、少なくとも約3,000の開口部、または少なくとも約4,000の開口部を有する。開口部の直径は、例えば、約1.7μm〜約2.8μmの範囲であってもよい。
【0037】
ソフトミスト吸入器は、加圧されていない溶液製剤を、他のネブライザーのように吸入可能なエアロゾルに転換するので、ネブライザーのサブクラスとみなされることもある。その一方で、それらはまた、患者による作動の後、定量のエアロゾルを発生させることにおいて、定量吸入器に類似する。そのような装置の例は、個々の使用の前に、装置の底を180°回転させる、患者の力学的エネルギーを使用するBoehringer社のRespimat(登録商標)である。その回転は、液体製剤を保持する可撓性容器の周囲のバネにおいて張力を増大させる。患者が装置を作動する場合、バネからのエネルギーが解放され、その可撓性容器に圧力を課し、それにより、液体の一部が2つのノズルを通して絞られ、エアロゾル形態で放出される。原理的に、ソフトミスト吸入器もまた、本発明を実行するのに適している。
【0038】
前述の通り、吸入装置は、本発明による吸入を可能にするのに十分に高い排出速度でエアロゾルを送達できる吸入器から選択される。好ましい実施形態において、吸入器は、定量吸入器、ソフトミスト吸入器、乾燥粉末吸入器および効率的な携帯型ネブライザーの群から選択される。別の好ましい実施形態において、吸入器は、定量吸入器、ソフトミスト吸入器、振動メッシュ式ネブライザー、および超音波式ネブライザーから選択される。振動メッシュ式ネブライザーおよびソフトミスト吸入器が特に好ましい。
【0039】
選択されたネブライザーは、イロプロストの速い吸入を可能にするのに十分に密度が高いエアロゾルを放出できることが必要であるだけでなく、それに応じて適合される、および/または構成されることも必要であり得る。振動メッシュ式ネブライザーの場合、例えば、膜(例えば、その開口部の数およびサイズ)は、エアロゾルの量および質の点で所望のエアロゾル排出を実現するよう選択されなければならない。
【0040】
高い程度の吸入性を確保するためには、吸入器のタイプおよび構成は、好ましくは、レーザー回折により測定される通り、約1.5μm〜約6μm、特に、約2.5μm〜約5.5μm、または約3μm〜約5μmの範囲の体積中位径を有するエアロゾルをもたらすように選択される。しかし、有用なエアロゾル液滴サイズの範囲は、呼吸流速にも左右されることに留意すべきである。例えば、体積中位径で4〜6μmの比較的大きなエアロゾル液滴は、例えば、20L/分以下の呼吸流速を使用して、比較的ゆっくり吸入される場合、肺内送達に非常に適している可能性がある。
【0041】
幾何学的標準偏差は、エアロゾル液滴の分散度を示す。それは、好ましくは、約1.2〜3、特に、約1.3〜約2の範囲である。さらなる実施形態において、幾何学的標準偏差は、約2以下、約1.8以下、または約1.6以下である。
【0042】
吸入装置は、好ましくは、マウスピースを介して適度な流速でエアロゾルを患者に放出または送達するように適合される。そのような適度な吸気流速は、上気道において沈着されるエアロゾル液滴の割合を低め、したがって、実際に肺深部に送達されるエアロゾルの割合を高めるので有利である。本発明によると、流速は、好ましくは、約2L/分〜約25L/分、約10L/分〜約25L/分、または約10L/分〜約20L/分、例えば、約15L/分である。これは、患者がしばしば、30L/分以上の吸気流速で、噴霧されたエアロゾルを吸入する従来の呼吸パターンとは対照的である。
【0043】
好ましくは、装置は、吸入相の間でのみ、エアロゾルを放出する。上述した通り、各呼吸運動または呼吸は、吸入(または吸気)相および呼気(または排気)相を含むと通常理解される。多くの従来の吸入装置は、患者が吸入するか呼気するかにかかわらず、作動または活性化時に、それらのエアロゾルを放出するが、いくつかのより高度な装置は、患者が吸入する間だけ、呼吸制御または呼吸作動される、および/またはエアロゾルを放出することに留意されたい。
【0044】
さらに好ましい実施形態において、吸入器は、エアロゾルが投与される患者のすべての吸入相に関して、所定体積のエアロゾルの直後に所定体積のエアロゾル不含有空気を放出するように選択される、および/または適合される。空気は、各吸入相の最後に、約0.2〜約2秒にわたって供給され、これは、一般的には、吸気流速に応じて100mL未満〜数百mLという体積に相当する。例えば、約250mLというエアロゾル不含有空気の体積が、15L/分の流速で1秒にわたって放出され得る。
【0045】
換言すると、吸入器からエアロゾルを送達するために、呼吸の間、完全な吸入相を使用する代わりに、吸入相は、エアロゾルが放出される第1の時間と、エアロゾルが放出されないが、実質的にエアロゾル不含有の空気のみが放出される第2の時間に分けることができる。吸入装置がネブライザーである(またはそれを含む)場合、エアロゾルが放出される第1の時間は、通常、噴霧相とも呼ばれる。
【0046】
吸入相の最後に空気を送達するこの技法の効果は、エアロゾルが、呼吸器系のより深い部分に標的化されることであるのに対して、エアロゾル不含有空気が主に、上部気道(口腔、喉頭および咽頭)ならびに原始気管支の部分を、それらの領域でのエアロゾルの沈着を低めるために満たすことである。
【0047】
エアロゾルが吸入装置から放出される、呼吸の吸入相の第1の時間の継続時間は、患者の状態、可能な吸入体積、吸気能力、努力呼気肺活量、吸気流速および他の因子を考慮して選択することができる。この時間は、場合により、それぞれ約1〜約4秒または約1.5〜約3秒の範囲、例えば、約1.5、2、2.5または3秒である。吸入相の総継続時間は、例えば、約2〜約5秒、特に、約2.5〜約4秒の範囲、例えば、2.5、3、3.5または4秒であり得る。有用なのは、例えば、2秒の噴霧相、その後の1秒間のエアロゾル不含有空気の放出であり、結果として、総吸入相は、3秒である。
【0048】
呼吸の呼気相の継続時間は、患者が何を便利と考えるかに左右され得る。しばしば、それは、2〜5秒の範囲である場合、吸入相にかなり類似する(例えば、±25%)。例えば、完全な呼吸は、約4〜9秒、特に、5〜8秒続き得る。6秒という有用な呼吸の例は、3秒の吸入相と、3秒の呼気相との組み合わせであり、ここでは、吸入相の間のエアロゾルを噴霧する時間が2秒であり、その後の、エアロゾル不含有空気を供給する時間が1秒である。しかし、呼気相(およびそれにより呼吸)の他の継続時間も実行可能である。
【0049】
そのような比較的短い呼吸は、ある種の患者群、例えば、ある種の肺疾患もしくは状態を患う患者に、または深呼吸できない任意の患者に特に有用であり得る。
【0050】
15L/分の吸気流速で、3秒の吸入相は、750mLの吸入体積に相当し、これは、ほとんどの肺動脈性肺高血圧症を患っている患者について実行可能である。噴霧相が2秒である場合、これは、約500mLのエアロゾルおよび250mLのエアロゾル不含有空気が吸入されることを意味する。もちろん、この量のエアロゾルに含有される薬物の量は、吸入装置の特性、および製剤の濃度(strength)または濃度(concentration)に大きく依存するであろう。30L/分の吸気流速で、2.5秒の吸入相は、1,250mLの吸入体積に相当するであろう。この高い流速の場合、例えば、2.7μmのVMD(体積中位径)を有する、より小さな液滴サイズが好ましいであろう。より小さな液滴サイズは、発生させるのが幾分困難である。
【0051】
前述の通り、本発明によるイロプロストの吸入は、適切な吸入装置の選択および/または構成だけでなく、イロプロストの適切な製剤の選択および/または構成も必要とする。特に、製剤は、2分以内での有効単回用量のイロプロスト(またはその塩)の投与を可能にするのに十分に高い濃度を有するべきである。
【0052】
特定の患者に応じて、1回の吸入セッションにおいて投与される有効単回用量は、約1μg〜約10μgの範囲のイロプロスト、または約1.5μg〜約5μgの範囲のイロプロストであり得る。現在の肺動脈性肺高血圧症治療で使用されている、約2.5μgおよび約5μgの単回用量も好ましい。これらの値は、吸入器のマウスピースに送達される薬物の量を記述するために使用していることを留意されたい。従来のネブライザーではなく、肺沈着性が改善された高度なネブライザーシステムが使用される場合、現在使用されている2.5μgおよび5μgよりも低い用量、例えば、従来の2.5μgの用量の代わりに1.5〜2μg、従来の5μgの用量の代わりに3〜4μgを使用することも可能である。単回用量は、好ましくは、約1mL以下の体積で収容されるべきである。場合により、単回用量は、約0.5mL以下の体積、例えば、約0.25mL以下、または約0.1mL以下で収容されてもよい。現在市販されている吸入用のイロプロスト製品(Ventavis(登録商標))は、2つの濃度、すなわち、それぞれ10μg/mLおよび20μg/mLの濃度で入手できる。適切なネブライザーと組み合わせて、それらの濃度は、2分以内での単回用量の速い投与に適し得る。本発明のいくつかの特定の実施形態において、10μg/mLの濃度を有するイロプロスト製剤は、2.5μgの単回用量を送達するために使用され、20μg/mLの濃度を有する製剤は、2.5μgまたは5μgの単回用量を送達するためにそれぞれ使用される。
【0053】
同時に、約20μg/mL超〜約100μg/mLの高い濃度も、速い吸入に非常に有用であり得る。例えば、100μg/mLの水性イロプロスト製剤は、注入用のIlomedin(登録商標)(またはIlomedine(登録商標))として、いくつかの国で入手可能である。
【0054】
前述の通り、本発明によるイロプロスト投与は、吸入装置が、指定の時間内に所与の濃度のイロプロスト組成物を送達するために、十分な排出速度(すなわち、製剤がエアロゾル化され、装置のマウスピースで送達される速度)でエアロゾルを放出するよう選択および/または構成されることを要する。ほとんどのエアロゾル化技術について、排出速度は、粒径に直接的に左右される。本発明のある種の実施形態のさらなる利点の1つは、低い吸気流速を使用することによって、より大きな液滴の吸入を可能にすることである。
【0055】
特定の実施形態において、イロプロスト組成物は、液体形態で供給され、0.4mL/分以上の排出速度、または0.5mL/分以上の排出速度、例えば、0.5〜1.5mL/分、または1.5mL/分超で、エアロゾル化形態の組成物を放出するように適合された吸入器を使用して投与される。これらの排出速度は、例えば、振動メッシュ技術を使用するいくつかの現代のネブライザーにより実現可能である。そのような排出速度は、本発明が、それぞれ10および20μg/mLの濃度を有する現在入手できる吸入用イロプロスト製剤を用いて実施される場合に、特に有用である。例えば、10μg/mLの濃度と組み合わさった1mL/分の排出速度は、10μg/分のイロプロスト送達速度に相当し、結果的に、2.5μgの単回用量のイロプロストは、約15秒の総噴霧時間を必要とし、例えば、4回の呼吸は、4秒よりもわずかに短い噴霧相をそれぞれ有する。
【0056】
イロプロスト送達速度に関して、吸入器が、1分あたりイロプロスト少なくとも約2.5μgの速度、場合により、1分あたりイロプロスト少なくとも約5μgの速度で、エアロゾル化形態の組成物を放出するように適合されることが、好ましい実施形態の1つである。場合により、吸入器は、約10または20μg/mLの濃度を有するイロプロスト製剤を使用して、1分あたり約5〜約30μgのイロプロストを送達するように適合される。誤解を避けるために、表現「〜に適合される」は、装置が、特定の方法でエアロゾルを放出できること、およびエアロゾルを放出するように構成されることの両方を意味する。別の態様において、本発明はまた、噴霧化されたエアロゾル自体も対象とする。該エアロゾルは、エアロゾルの体積1リットルあたり少なくとも約0.5μgのイロプロストまたは等量のその塩を含む。
【0057】
好ましくは、噴霧化されたエアロゾルは、約10L/分〜約20L/分の速度でネブライザーから放出される。他の特定の実施形態において、該エアロゾルは、1Lのエアロゾル体積において、約1μg〜約2μg、例えば、約1.3μg〜1.7μgのイロプロストを含み、約10L/分〜約17L/分の吸気流速で放出される。特定の実施形態において、該エアロゾルは、少なくとも活性的な噴霧化の間(すなわち、エアロゾルが放出されない吸気相のいずれかの部分の間ではない)、0.4mL以上、例えば、約0.5〜1.5mL/分、または1.5mL/分超の排出速度で放出される。さらに好ましい実施形態において、それは、吸入装置のマウスピースに送達される約2μg〜約6μg(特に、2.5μgまたは5μg)の有効用量が、4回以下の呼吸(または吸入)の間、または2回以下の呼吸で吸入されるような速度で放出される。
【0058】
さらに、放出されたエアロゾルの後には、好ましくは、上記した通り、所定体積のエアロゾル不含有空気が続く。エアロゾルの体積は、例えば、呼吸の間の吸入の総体積の20〜50%を占めるように選択されてもよいし、1回の呼吸の間の吸入の総体積の85%またはそれ以下であってもよく、残りの体積は、エアロゾル不含有空気である。したがって、エアロゾルの体積とエアロゾル不含有空気の体積との比率は、50:50〜80:20の間、または85:15もしくはそれ以下であろう。別の好ましい実施形態において、この比率は、約75:25またはそれ以下である。
【0059】
該組成物は、無菌形態で提供されるべきであり、許容できる程度の安定性、性能および生理学的耐容性を確保するために、必要な任意の不活性成分を組み込むべきである。特定の実施形態の1つによれば、該組成物は、ネブライザーまたはソフトミスト吸入器が吸入装置として使用される場合、好ましい製剤設計である、イロプロスト水溶液の形態である。イロプロストの水溶性は、かなり低いので、有機共溶媒などの可溶化賦形剤、pH調節剤または界面活性剤の組み込みが望まれることがある。少なくとも比較的低い濃度での、吸入に適した生理学的に許容される共溶媒の例は、エタノール、グリセロール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールである。これらのうち、エタノールが好ましい。該組成物は、それでもなお、主に水を溶媒として含むべきであり、それは、例えば、液体成分の少なくとも80wt%に等しい。
【0060】
潜在的に適切な界面活性剤の例としては、特に、リン脂質が挙げられる。リン脂質を、リンを含有する両親媒性脂質と定義することができる。ホスファチドとしても知られているリン脂質は、特に、生体膜の二重層形成成分として、実際に重要な役割を果たす。ホスファチジン酸から化学的に誘導されるリン脂質は、広く存在し、一般的に医薬目的のためにも使用される。適切なリン脂質はまた、それらの生理学的特性により、吸入による投与に適したものである。これらは、特に、天然の供給源、例えば、大豆または卵黄由来のレシチンの形態、好ましくは水素化された形態で抽出されるリン酸脂質混合物、および/または、好ましくは飽和脂肪酸エステルを含む、精製された、富化されたまたは部分的に合成的に調製されたリン脂質を含む。
【0061】
場合により、該組成物は、医薬として許容される賦形剤、例えば、等張化剤、特に、無機塩;pHを調節または緩衝するための賦形剤、例えば、有機または無機塩、酸および塩基;糖および糖アルコール、例えば、スクロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトールおよび他の糖アルコール;安定剤および抗酸化剤、例えば、ビタミンEもしくはビタミンE誘導体、またはアスコルビン酸;さらには、味覚マスキング剤、甘味料および香料をさらに含むことができる。好ましい実施形態の1つにおいて、1種または複数の等張化剤、例えば、塩化ナトリウムが、約200m Osmol/kg〜約400m Osmol/kgの範囲の値にオスモル濃度を調節するために該組成物に組み込まれる。
【0062】
pHを調節し、場合により緩衝するためには、生理学的に許容される酸、塩基、塩およびそれらの組み合わせを使用することができる。pH値を低めるのに適した、または緩衝系における酸性成分として適した賦形剤は、鉱酸、特に、硫酸または塩酸である。さらに、中位の強度の無機および有機酸、ならびに酸性塩、例えば、リン酸またはクエン酸を使用することができる。pH値を上げるのに適した、または緩衝系における塩基性成分として適しているのは、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウムまたは他のアルカリおよびアルカリ土類水酸化物および酸化物、またはトロメタミンである。
【0063】
場合により、該組成物は、安定剤、例えば、抗酸化剤をさらに含む。抗酸化剤は、活性剤の酸化を防いだり妨げる天然または合成物質である。これらは、主に、それら自体酸化できる、または還元剤として作用するアジュバント、例えば、酢酸トコフェロール、リコピン、還元グルタチオン、カタラーゼ、ペルオキシドジスムターゼである。相乗性物質は、酸化過程において反応物として直接的に作用しないが、間接的メカニズム、酸化において触媒的に作用する金属イオンの錯体形成などの、酸化において反作用する物質であり、これは、例えば、EDTA誘導体(EDTA:エチレンジアミン四酢酸)についての場合である。さらに、潜在的に適切な抗酸化剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムおよびアスコルビン酸の他の塩およびエステル(例えば、パルミチン酸アスコルビル)が挙げられる。
【0064】
本明細書に記述する組成物は、吸入療法のために、すなわち、それを必要とする患者への肺内投与のために使用されることになる。該組成物から恩恵を受けることができる患者は、様々な形態の肺高血圧症(PH)、例えば、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を患っている患者を挙げることができる。例えば、該組成物は、WHOのグループIの肺高血圧症患者として定義される(Dana Point; California、US、2008)患者に使用することができる。このグループは、種々の因子により引き起こされるPAH(特発性(IPAH)、先天性(HPAH)を含む)、および他の疾患、例えば、結合組織病、HIV感染症、門脈圧亢進症、先天性心疾患、住血吸虫症、慢性溶血性貧血、薬物および毒物、新生児遷延性肺高血圧症に伴うPAH(APAH)を患っている患者を含む。さらに、それは、門脈肺動脈性高血圧症(portopulmonary arterial hypertension)、血栓塞栓肺高血圧症、慢性血栓塞栓肺高血圧症(CTEPH)および他の形態の肺高血圧症を患っている患者のために使用することができる。
【0065】
さらなる選択肢によると、該組成物は、結合組織病または薬物により誘発された、中等度または重度相の疾患による、原発性肺高血圧症または続発性肺高血圧症;および手術できない慢性肺血栓塞栓症による中等度または重度の続発性肺高血圧症を患っている患者を治療するために使用することができる。
【0066】
特に、その製品は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類のクラスII、IIIまたはIV(いくつかの国特有の違いがある)による心血管系症状を示す患者に使用される。このスキームによると、クラスIIIの症状は、比較的軽い日常活動、例えば、短い距離(20〜100m)の徒歩の間さえ、症状を理由に、活動が著しく制約され、安静時のみ安定している患者であると記載されている。クラスIVは、安静時の間でさえ症状に見舞われる、深刻な制約を有するほぼ寝たきりの患者に関する。
【0067】
本発明は、限定されないが、以下の他の形態の肺高血圧症(PH)の治療にも有用であると考えられる:原因不明の肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH)を有する、BMPR2、ALK1、エンドグリン(先天性出血性毛細血管拡張症を有するまたは有しない)、PHまたはPAH;左心疾患、例えば、収縮機能障害、拡張機能障害および/または弁膜症に起因するPH;肺疾患および/または低酸素血症、例えば、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、拘束性および閉塞性の混合型パターンを有する他の肺疾患、睡眠呼吸障害、肺胞低換気障害、高所への慢性的曝露、および/または発育異常に起因するPH;不明確な多因子メカニズム、例えば、血液疾患、例えば、骨髄増殖性疾患、脾臓摘出;または全身性障害、例えば、サルコイドーシス、肺ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、神経線維腫症、血管炎;または代謝障害、例えば、糖原病、ゴーシェ病、甲状腺障害;または他の疾患、例えば、腫瘍閉塞、線維性縦隔炎、または透析を受けている慢性腎不全に伴うPH。
【0068】
症状を抑制するために、該組成物を、できるだけ頻繁に必要に応じて使用することができるが、耐容性の限界を考慮する。典型的には、例えば、それぞれ、2〜12回の投与(または投薬)、より好ましくは3〜9回の投与、または6〜9回の投与など、1日あたり数回の用量が投与される。
【0069】
さらなる態様によれば、本発明は、上記の組成物と、2分以内で吸入される、有効単回用量の活性成分を含むエアロゾル化形態のある量の組成物を供給するように適合された吸入器とを含むキットを提供する。該組成物は、好ましくは、単回用量のイロプロストを投与するのに必要とされる量をそれぞれ保持する無菌容器に入れられる。その製品は、通常、毎日数回使用されるので、キットは、該組成物を含む複数の単回用量の容器を含むことができる。該組成物を投与するのに有用なものとして上記した吸入器のいずれかのタイプであり得る吸入器は、先に説明した通り、2分以内でアロゾル化形態の組成物を放出するように適合される。好ましくは、キットにおける吸入器は、高効率のネブライザー、例えば、振動メッシュ式ネブライザーである。
【0070】
ネブライザーの代わりに、またはそれに加えて、キットはまた、本発明による吸入用の有効単回用量の活性成分を含むエアロゾル化形態のある量の組成物を供給するように、吸入器の操作を制御できる電子データ記憶手段も含むことができる。換言すると、いくつかの潜在的に適切なネブライザーを、様々なタイプのエアロゾルを送達するように適合、構成、および/または制御することができ、また、本発明の投与法が可能になるように、それらを適合、構成、および/または制御することが必要不可欠であろう。これは、手動的または電子的に行うことができる。好ましい実施形態の1つにおいて、電子データ記憶手段、例えば、プログラム可能なチップカードは、この目的のために使用され、したがって、キットに含まれていてもよい。
【0071】
さらに、本発明は、肺動脈性肺高血圧症を患っている患者を治療する方法を提供する。該方法は、(a)イロプロストおよびその塩から選択される活性成分を含む医薬組成物を準備する工程と、(b)13回以上の呼吸運動でおよび2分以内で吸入される、有効単回用量の活性成分を含むエアロゾル化形態のある量の組成物を送達するように適合された吸入器を準備する工程と、(c)吸入器を使用することにより、組成物をエアロゾルとして患者に投与する工程とを含む。該組成物および該吸入器に関しては、特許請求される方法にも適用できる、上記の特徴を参照する。
【0072】
次の実施例により、本発明をさらに例示するが、それらが、特許請求される主題の範囲を限定ことを意図するものであると誤解すべきではない。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
インビトロでの噴霧化研究において、エアロゾル化された、2.5μgおよび5μgの単回用量のイロプロストをネブライザーのマウスピースに送達することの実行可能性を評価した。電気振動メッシュ式ネブライザー(PARI社によるものであり、Touchspray Technology(登録商標)を組み込んでいる;PARI社のeFlow(登録商標)ネブライザーにいくらかの類似している)と、呼吸パターンを制御する装置(AKITA(登録商標))とを含むネブライザーシステムを、15L/分の流速で水溶液からのエアロゾルを送達するように電子チップカードを用いて構成した。吸入システムは、AKITA
2 APIXNEB(商標)(Activaero社による)としても知られている。AKITA
2ユニットを使用して、患者の呼吸パターンの制御を可能にする目的で、APIXNEB(商標)システムにおけるネブライザーハンドセット装置は、電気コード、および例えば、所定の吸気空気流を供給するための追加のチューブによってAKITA
2ユニットへの連結を可能にする改良によって、eFlow(登録商標)システムとは異なる。装置についてのさらなる詳細は、例えば、Fact Sheet AKITA
2 APIXNEB(商標)(Art.-Nr. 05DK0105 | V 1.0 / Aufl.1)から得ることができる。1呼吸運動あたりの吸気時間を、1,025mLの吸入体積に対応する4.1秒で設定した。噴霧化時間を、775mLのエアロゾル体積に対応する3.1秒に調節した。また、装置を、すべての吸気サイクルの間、エアロゾルを放出した後に250mLのエアロゾル不含有空気を送達するようにプログラムした。
【0074】
2種の異なるメッシュをネブライザーで使用した。両方のメッシュは、直径約2μmの約3,000の開口部を有した。ここで使用する吸入システム内で、メッシュAは、等張塩化ナトリウム溶液を用いて操作される場合、幾何学的標準偏差(GSD)が1.47である、4.0μmの体積中位径(VMD)を有する液滴を含むエアロゾルをもたらすのに対して、メッシュBは、4.1μmのVMDおよび1.48のGSDを示した。
【0075】
試験の運転につき、0.9wt%の食塩溶液中の、50μg/mLのイロプロストと、目印となる放射性同位元素
99mTcとを含む0.5mLの水性組成物を、ネブライザーの流体リザーバーに満たした。吸入器システムを作動させて、一連の4回のシミュレートされた呼吸運動の間、溶液をエアロゾル化した。放出されたエアロゾルを、吸入フィルターにより捕獲し、エアロゾルの量をシンチレーションカウンターで決定した。
【0076】
2回の一連の実験の結果において、最初の2回の呼吸運動について、送達されたエアロゾルの平均量は、それぞれ、イロプロスト2.50μgおよび2.53μgに相当し、すべての4回の呼吸運動について、送達されたエアロゾルの平均量は、それぞれ、イロプロスト5.25μgおよび5.19μgであった。したがって、2回の呼吸運動のみにおいて、噴霧化された単回用量2.5μgのイロプロスト、および4回の呼吸運動のみにおいて、噴霧化された単回用量5μgのイロプロストを送達し、吸入することの実行可能性を明確に立証した。
【0077】
(実施例2)
インビトロでの噴霧化研究において、3種の異なる吸入装置および2種の異なる水性イロプロスト製剤を使用して、本発明による吸入によって、エアロゾル化された単回用量2.5μgおよび5μgのイロプロストを送達することの実行可能性を評価した。試験した2種の製剤は、それぞれ、10μg/mLおよび20μg/mLの市販のVentavis(登録商標)吸入溶液であった。同時に、粒径(液滴サイズ)に関して、得られるエアロゾル特性を決定した。
【0078】
第1の吸入装置(A)は、実施例1に記述したAKITA
2APIXNEB(商標)システムであった。このシステムを、15L/分の吸気流速を供給するよう構成した。各吸入相の継続時間は5秒であり、この時間を、4秒の噴霧化相、その直後の、エアロゾル不含有空気が放出される1秒に分けた。各呼気相の継続時間を5秒と設定し、結果として、各呼吸の総継続時間は10秒であった。
【0079】
第2の吸入装置(B)は、eFlow(登録商標)rapid(PARI社から入手できる)であり、これは、AKITA
2APIXNEB(商標)システムとは異なり、連続的噴霧化モードで作動する振動メッシュ式ネブライザーシステムである。換言すると、このネブライザーは、呼気相の間でも、エアロゾルを発生させ続ける。予測される吸入時間の計算のために、患者の呼吸は、同じ長さの吸入相および呼気相からなると仮定した。この装置は、マウスピースにおいて、吸気流を制御しないので、試験の設定は、流量シミュレーター(または呼吸シミュレーター)を使用して、500mLの吸入体積を有する呼吸を生じさせ、吸入相も呼気相も2秒の継続時間を有する、DIN13544に従った。この装置は、呼吸リズムを制御しないので、標準用量を吸入するのに必要な呼吸運動の数の計算、ならびに、総吸入時間の計算を、患者がそれぞれ、4秒の吸入相および呼気相を有する8秒の呼吸を行うと仮定して実施した。
【0080】
第3の吸入装置(C)は、同時係属中の欧州特許出願第12 15 8852.9号に記載されているような、振動メッシュ式ネブライザーを含む携帯型電子吸入器のプロトタイプであった。要するに、この装置は、所望の範囲の吸気流速を確実にすることができる、電子制御ユニットおよび空気ポンプを組み込んだ基部を含む。向きがほぼ水平である混合チャネルは、空気ポンプからの制御された空気流を、上流側の球状の入口開口部を介して受ける。混合チャネルに達する前に、空気を、疎水性の低流動抵抗(low flow resistance)フィルターに通して濾過する。
【0081】
振動メッシュエアロゾル発生器は、横(ほぼ、上部)の位置から、混合領域での混合チャネル中にほぼ垂直に突き出ており、そこでは、エアロゾル発生器から放出されるエアロゾル、および空気が混合される。エアロゾル発生器が混合チャネル中に突き出る場合、チャネルは急に狭くなり、下流端部に向かって連続して約8cmにわたって再び広がり、約5〜6°の開口部角度を有する先細りの楕円形シリンダーを形成し、これはマウスピース中に移行する。噴霧化される溶液を保持するリザーバーは、エアロゾル発生器の上端部に位置する。
【0082】
エアロゾル発生器は、管状部を有する回転部品である主要部材を備え、その管状部の外側領域はリング状の広がった部分を示す。その主要部材は、圧電性材料のリング状部分を貫通する。穿孔された膜は、主要部材の前端と接続する。
【0083】
装置Aと同様に、装置Cを、各吸入相が5秒の継続時間を有するように構成し、この時間を、4秒の噴霧化相、その直後の、エアロゾル不含有空気が放出される1秒に分けた。各呼気相の継続時間を5秒と設定し、結果として、各呼吸の総継続時間は10秒であった。
【0084】
すべての吸入装置について、マウスピースでのエアロゾル排出速度を、両方のイロプロスト製剤と組み合わせて秤量することにより決定した。イロプロスト濃度が実験を通して一定して存続すると仮定して(製剤がかなり低い溶質濃度を有する水溶液であるという観点から正当化される)、マウスピースでのイロプロスト送達速度も算出した。結果をTable 1(表1)に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
それらの結果から、2.5μgおよび5μgの単回用量のイロプロストを送達するのに必要な総噴霧化時間をそれぞれ算出した。4秒の噴霧相を有する呼吸と仮定して、それらの用量を送達するのに必要とされる呼吸運動の回数を推計した。それぞれの場合について、各呼吸の継続時間が10秒(装置AおよびC)または8秒(装置B)であるという仮定に基づいて総吸入時間も算出した。それぞれの数字をTable 2(表2)(イロプロストの用量:2.5μg)およびTable 3(表3)(イロプロストの用量:5.0μg)に示す。
【0087】
総吸入時間を、わずかに異なる結果を導ける異なる方法で、最終呼吸に関して算出することができることに留意すべきである。Table 2(表2)およびTable 3(表3)において、これは、呼吸運動の計算された回数に、呼吸の継続時間を掛けることにより得られた。あるいは、総吸入時間を、最後の呼吸の全体の長さを考慮して計算することができる。なぜなら、噴霧相のみは、用量の残りの割合のみが送達される必要があることを考慮して略記できるが、最後の呼吸は、いずれかの先行する呼吸と同じ時間を費やすように行われ得るからである。換言すると、総吸入時間は、整数に切り上げられた、呼吸の全回数に基づいて計算されるであろう。場合により、総吸入時間は、薬物の用量の最後の割合を噴霧化し、吸入するのに必要とされる最終呼吸の割合のみを考慮することによっても計算できるであろう。この場合、算出された総吸入時間は、Table 2(表2)およびTable 3(表3)に示したものよりわずかに短いであろう。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
意義深いことには、すべての吸入装置は、2分以内でのイロプロストの吸入を可能にする。両方のイロプロスト溶液、すなわち、10μg/mLおよび20g/mLの濃度を有するイロプロスト溶液は、この目的に適している。特に、短く、便利な処理時間は、2.5μgの用量のイロプロストを投与するために、10μg/mLの濃度を使用することによって、および、2.5μgまたは5μgの用量のイロプロストを投与するために、20μg/mLの濃度を使用することによってもたらされる。
【0091】
各装置について、10μg/mLの濃度を有するイロプロスト組成物を使用して放出されるエアロゾルの粒径分布も、レーザー回折により決定し、それにより、予測される肺沈着パターンを、Koebrichら(1994)により説明されているソフトウェアを使用して、ICRP沈着モデル(Human Respiratory Tract Model for Radiological Protection, ICRP Publication 66, Ann. ICRP 24, 1994; Guide for the Practical Application of the ICRP Human Respiratory Tract Model, ICRP Supporting Guidance 3, Ann. ICRP 32, 2002)に基づいて算出した。モデル化を目的として、年齢25歳および機能的残気量(FRV)3,300mLを想定した。
【0092】
沈着のモデル化の結果を、Table 4(表4)に示す。このモデルによれば、総沈着は、肺沈着と胸腔外沈着の合計であり、これは、呼吸器系のいずれかの部分にも沈着されることなく、放出され、吸入され、吐き出されるエアロゾル粒子(液滴)の割合のみを除外する。肺沈着は、気道内沈着、気管支沈着および肺胞沈着に分けることができる。本発明の場合において、高い割合の肺胞沈着が、所望の治療効果の観点から、特に価値のあるものであると考える。Table 4(表4)に示す通り、すべての装置は、かなりの程度の肺沈着を実現し、装置AおよびCは、それらが非常に高い程度の肺胞沈着を示すという点で、特に有用であると思われる。
【0093】
【表4】
【0094】
(実施例3)
本発明による吸入により投与された噴霧化イロプロストの安全性および耐容性を評価するための臨床パイロット研究を、4人の患者で行った。25mmHgよりも高い平均肺動脈性肺血圧(PAP)、240dyn*s*cm
-5よりも高い肺血管抵抗(PVR)、3mmHgよりも高い中心静脈圧(CVP)および12mmHgよりも低い肺毛細血管楔入圧(PCWP)を有する、18〜70歳の肺動脈性肺高血圧症の男性および女性患者が適格である。
【0095】
心臓カテーテル法の禁忌(例えば、凝固障害、出血性障害、急性感染症、重度の不整脈)を有する患者、妊娠している患者、110mmHg以下の全身収縮期血圧を有する患者、心係数が1.8L/分*m
2以下である高度の心室機能障害を有する患者、および肺血管反応性を欠いていることが分かった患者を除外した。
【0096】
患者を、ECG、パルスオキシメトリーおよび非侵襲性血圧測定によりモニターした。心臓カテーテルを、遠位肺動脈中に挿入し、PAP、CVP、PCWPおよび心拍出量を測定した。心拍数、全身動脈圧(SAP)、全身血管抵抗(SVR)、中心動脈および静脈血中ガスも測定した。すべてのパラメーターの最初の決定の後、酸素(2〜4L/分)および一酸化窒素(20ppm)に対する肺の血管系の反応性を試験した。
【0097】
その後、患者は、実施例1に記載したものと同じ吸入システムおよびイロプロスト組成物を使用して、2回の連続呼吸運動で2.5μgの単回用量の噴霧化イロプロストを吸入した。患者の血行力学的パラメーターおよび臨床症状を、吸入の前におよび吸入の後30分まで評価した。副作用の非存在下で、用量5μgのイロプロストに対応する4回の連続呼吸運動による第2の吸入を行い、その後、少なくとも30分間観察した。
【0098】
その結果、すべての患者が、治療に十分に耐えたことが分かった。肺血管治療効果(PAPおよびPVRの変化により示されるものであり、
図1および
図2を参照されたい)は、従来のイロプロスト治療、すなわち、イロプロストの遅い吸入後に観察される肺血管治療効果に匹敵した。同じことが、全身性副作用(SAPおよびSVRの変化により示されるものであり、
図3および
図4を参照されたい)にも当てはまった。
【0099】
比較として、Olschewskiら(Chest 2003; 124:1294〜1304)は、異なる3種のネブライザーを使用して、とりわけ、10〜12分にわたる5μgのイロプロストの従来の噴霧化および吸入に応答したPAP、PVR、SAPおよびSVRの変化を研究した。Olschewskiらは、使用したネブライザーに応じた、-38.0%〜-36.4%という範囲のPVRの平均最大変化を報告した。PAPの平均最大変化は、-21.8%〜-18.5%であった。SAP変化についてのそれぞれの値は、-7,8%〜-2.3%の範囲であり、SVRの平均最大変化は、特定のネブライザーに応じて、-24.6%〜-17.0%であった。類似する結果が、Gesslerら(Eur. Respir. J. 2001; 17:14〜19)により報告されている。
【0100】
(実施例4)
さらに6人の肺高血圧症(PH)を患っている患者を、実施例3におけるように、イロプロストの吸入によって治療した。これらのさらなる患者は、種々の病因、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、特発性肺動脈性肺高血圧症(iPAH)、門脈肺動脈性肺高血圧症、および慢性血栓塞栓肺高血圧症(CTEPH)を含めた種々の病因を示した。結果として、イロプロストの速い吸入は、実施例3で判明した効果に大いに匹敵した所望の肺血管効果を実現したことを確認した。さらに、軽度であり、従来のイロプロスト治療、すなわち、イロプロストの遅い吸入の後に観察されたものに似たSAPおよびSVRの変化以外、副作用は観察されなかった。
【0101】
(実施例5)
(仮想例)
肺動脈性高血圧症を患っているさらなる患者は、2秒の噴霧相、その後の、エアロゾル不含有空気が放出される1秒(結果として、吸入相の継続時間が3秒である)の間、1呼吸につきエアロゾルを送達するように構成した吸入装置を使用することを除いて、実施例3と同様に、エアロゾル化イロプロストにより同じ治療を受ける。呼気相を3秒に設定し、したがって、平均の呼吸の全体の長さは、6秒である。一部の患者には、10μg/mLの濃度を有するイロプロスト溶液を使用して、2.5μgの単回用量のイロプロストを与え、その他の患者には、20μ/mLの濃度を有するイロプロストを使用して、5μgの単回用量のイロプロストを与え、どちらの場合においても、エアロゾル化され、送達される液体の量は、0.25mLである。
【0102】
前に実施例2で第3の吸入装置(C)として記述したタイプのものである吸入装置は、それぞれ、約0.5mL/分または約8.33μL/秒の排出速度を示す。これらの条件下で、単回用量のイロプロストを吸入するには、平均的には、約15回の呼吸が必要となる。単回用量が投与される総吸入時間は、約90秒である。
【0103】
結果として、イロプロストの速い吸入は、実施例3で判明した効果に匹敵する所望の肺血管効果を実現することを再度確証すると予想される。さらに、従来のイロプロスト治療、すなわち、イロプロストの遅い吸入の後に観察されるものと同様のSAPおよびSVRの軽度な変化以外、副作用は観察されない。結論として、12回より多い呼吸を使用する2分以内での単回用量の吸入による、エアロゾル化イロプロストの効率的で、安全で、信頼性が高く、便利な投与を実証する。