(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0006】
<切削インサート>
以下、一実施形態の切削インサート1(以下、単にインサート1ともいう)について、
図1〜3を用いて説明する。なお、
図1の二点鎖線は、切削インサート1の中心軸Xを示している。
【0007】
図1〜3に示すように、本実施形態のインサート1は、下面2と、上面3と、下面2及び上面3の間に設けられた側面4と、上面3と側面4との交線部に位置した一対のコーナー切刃5(5a、5b)と、一対のコーナー切刃5(5a、5b)の間に位置した主切刃6とを備えている。上面3は、多角形状であって、一対の角部及び一対の角部の間に位置する辺部を有している。下面2は、上面3に対応する多角形状である。一対のコーナー切刃5は、上面3における一対の角部と側面4との交線部に位置している。主切刃6は、上面3における辺部と側面4との交線部に位置している。
【0008】
主切刃6は、全体として下方に窪んだ凹形状であって、第1部位(曲線部)及び一対の第2部位(直線部)を有している。第1部位は、側面視して、下方に窪んだ凹曲線形状である。一対の第2部位は、直線形状であって、第1部位から一対のコーナー切刃5(5a、5b)のそれぞれに向かって延びており、一対のコーナー切刃5(5a、5b)に近づくに従って高さが高くなっている。そして、第1部位における最も下方に位置する部分(底部)6pが、側面視して、一方のコーナー切刃5bの側に寄っている。
【0009】
一対のコーナー切刃5a、5bのうち、被削材を切削する際に被削材の加工面に近接するものを第1コーナー切刃5a、被削材を切削する際に被削材の加工面から離れて位置するものを第2コーナー切刃5bとする。
【0010】
上面3は、多角形状であって、一対の角部及び一対の角部の間に位置する辺部を有している。また、下面2は、上面3に対応する多角形状である。本実施形態におけるインサート1の下面2及び上面3は、それぞれ複数の角部を有する四角形状である。本実施形態における角部は、厳密な意味での角ではなく、上面視して湾曲した円弧形状である。
【0011】
そのため、本実施形態のインサート1においては、上面3の角部に位置する円弧形状の部分がコーナー切刃5となり、上面3の周縁における円弧形状の角部の間に位置する部分が辺部であって主切刃6となる。
【0012】
インサート1には、上下に貫通する貫通孔Hが形成されている。貫通孔Hは、上面3の中央部分から下面2の中央部分にかけて形成されている。貫通孔Hは、ネジを通す穴であって、ネジをホルダに螺子止めすることによって、インサート1をホルダに固定するために用いられる。なお、貫通孔Hの開口部は上面視して円形状であって、例えば直径が2〜12mmである。貫通孔Hが上面3の中心から下面2の中心にかけて形成されていることから、貫通孔Hの中心軸Xは、上下方向に延びている。
【0013】
インサート1の材質としては、例えば、超硬合金あるいはサーメットなどが挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)の粉末を加えて焼結して生成されるWC−Co、WC−Coに炭化チタン(TiC)を添加したWC−TiC−Co、あるいはWC−TiC−Coに炭化タンタル(TaC)を添加したWC−TiC−TaC−Coがある。また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料であり、具体的には、炭化チタン(TiC)、又は窒化チタン(TiN)を主成分としたチタン化合物が挙げられる。
【0014】
インサート1の表面は、化学蒸着(CVD)法又は物理蒸着(PVD)法を用いて被膜でコーティングされていてもよい。被膜の組成としては、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)又はアルミナ(Al
2O
3)などが挙げられる。
【0015】
インサート1は、下面2又は上面3の最大幅が5〜20mmである。また、下面2から上面3までの高さは2〜8mmである。なお、上面3及び下面2の形状としては、上記の形態に限定されるものではない。例えば、上面視した場合の上面3の形状が三角形、五角形、六角形又は八角形のような多角形状であってもよい。
【0016】
上面3は、
図1,2に示すように、ランド面31及びすくい面32を有している。ランド面31は、コーナー切刃5及び主切刃6と連続している。コーナー切刃5及び主切刃6は、上面3の外縁に相当する。すくい面32は、ランド面31よりも貫通孔Hに近い領域に設けられている。また、すくい面32は、貫通孔Hに向かうにつれて高さが低くなる傾斜面である。なお、本実施形態における下面2は、中心軸Xに対して直交する平面に形成されている。
【0017】
ランド面31は、コーナー切刃5及び主切刃6と連続しており、コーナー切刃5及び主切刃6よりも中心軸Xに近い領域に設けられている。ランド面31は、コーナー切刃5及び主切刃6に沿って設けた幅の狭い帯状の面をいい、すくい面32よりも側面4とのなす内角が大きくなっている。具体的には、ランド面31は、下面2に対してほぼ平行か、中心に向かうにつれて高さが高くなる傾斜面である。なお、ランド面31は、コーナー切刃5に近い領域の一部が、中心に向かうにつれて高さが低くなっていてもよい。
【0018】
ランド面31と側面4との交線部にはコーナー切刃5及び主切刃6が形成されている。ランド面31は、コーナー切刃5及び主切刃6の強度を高めるために設けられている。ランド面31の内側に位置するすくい面32は、中心に向かうにつれて高さが低くなる傾斜面である。そのため、すくい面32と側面4とのなす内角は小さい。
【0019】
しかしながら、ランド面31と側面4とのなす内角は、すくい面32と側面4とのなす内角よりも大きいので、ランド面31を有することによって、コーナー切刃5及び主切刃6の強度を高めることができる。なお、上面3の外縁とすくい面32の外縁との間に位置するランド面31の幅は、切削条件によって適宜設定されるが、例えば0.05〜0.5mmの範囲で設定される。
【0020】
すくい面32は、ランド面31と連続しており、ランド面31よりも中心軸Xに近い領域に設けられている。すくい面32は、主切刃6において切削された切屑が擦過する面をいう。そのため、被削材200の切屑はすくい面32の表面を伝うように流れる。すくい面32は、切屑処理を良好にするために、上面3の中心に向かうにつれて高さが低くなる傾斜面となっている。
【0021】
特に図示しないが、すくい面32に垂直な断面における下面2とすくい面32とのなす角で示される傾斜角度は、例えば5°〜30°の範囲で設定すればよい。すくい面32は、切屑をすくうことができるように、中心に向かうにつれて高さが低くなっていればよいので、傾斜角度が異なる複数の領域によって構成されていてもよい。
【0022】
具体的には、本実施形態のインサート1においては、すくい面32は、主切刃6の曲線部61(第1部位61)に沿って位置する第1すくい面321と、主切刃6の直線部62(第2部位62)に沿って位置する第2すくい面322と、コーナー切刃5に沿って位置する第3すくい面323とを有している。そして、本実施形態においては、第2すくい面322のすくい角が、第1すくい面321及び第3すくい面323のすくい角よりも大きい。言い換えれば
、第1すくい面321及び第3すくい面323のすくい角が第2すくい
角322よりも小さい。
【0023】
切刃における湾曲した領域であるコーナー切刃5及び曲線部
61に沿ったすくい面の領域においては、それぞれの領域内で切屑の流れる方向が変化する。そのため、これらのすくい面の領域には相対的に大きな負荷が加わり易い。しかしながら、第1すくい面321及び第3すくい面323のすくい角が相対的に
小さいことによって、これらの領域の強度を高めることができる。したがって、インサート1の耐久性を良好なものにできる。
【0024】
本実施形態においては、さらに第1すくい面321のすくい角が、第3すくい面323のすくい角よりも大きい。コーナー切刃5の曲率が曲線部61の曲率よりも大きいため、第3すくい面323を流れる切屑の流れる方向の変化が第1すくい面321を流れる切屑の流れる方向の変化よりも大きい。このとき、第3すくい面323のすくい角が相対的に小さいことによって第3すくい面323の強度を高めることができるため、インサート1の耐久性をさらに良好なものにできる。
【0025】
第1すくい角321、第2すくい角322、第3すくい角333は、それぞれ対応する切刃の領域の中心を通り、切刃に対して直交する断面におけるすくい角によって評価すればよい。例えば、曲線部61の中心を通り、この中心において曲線部61に対して直交する断面におけるすくい角が第1すくい面321となる。
【0026】
側面4は、下面2及び上面3の間に設けられている。側面4は、逃げ面として機能し、上面3の外縁に接続されている。側面4は、主切刃6に対応した箇所に位置する平面部41と、コーナー切刃5に対応した箇所に位置する湾曲面42とを有している。このように、側面4は、主切刃6と連続した平面部41を有している。平面部41は、側面視して下面2に平行な方向に沿った長さが、例えば5〜20mmの範囲で設定される。平面部41は、側面視して上下方向の長さが、2〜8mmの範囲で設定される。また、湾曲面42は、異なる側面に位置する平面部41同士をつなげる箇所に位置している。
【0027】
側面4に平面部41が設けられていることで、逃げ面の摩耗の状態を測定するためには、単に平面部41の面がどれだけ摩耗しているかを確認すればよい。そのため、写真などから実測して摩耗が計測され易くなる。なお、本実施形態では、側面4の主切刃6に対応した箇所における上端から下端までの全てを平面部41としたが、これに限られない。例えば、主切刃6と連続する一部の箇所を平面部41とし、この
平面部41の下方に段差等が設けられていてもよい。上面3と側面4との交線部であって、辺部には主切刃6が形成されている。主切刃6は、
図3に示すように、側面視した場合において全体として上方に凹の形状である。
【0028】
側面4に平面部41が設けられていることで、側面4が同じ平面部41の形状を有するものであれば、ホルダ自体の形状を変更せずに、複数種類のインサート1をホルダに取り付けることができる。その結果、被削材200の材質、被削材200の大きさに応じて、必要なインサート1を選び、ホルダ101に取り付けるだけで、被削材200を所望する形状に加工することができる。つまり、ホルダ101自体をインサート1に対応させた物に取り換える必要がなくなり、切削加工物の製造方法を単純化することができ、切削加工物の生産性を向上させることができる。
【0029】
上面3と側面4との交線部には主切刃6が形成されている。主切刃6は、
図3に示すように、側面視した場合に、下方に窪んだ凹曲線形状である第1部位61(曲線部61)と、曲線部61と連続して設けられる一対の第2部位62(直線部62)とを有している。
【0030】
曲線部61は、
図3に示すように、主切刃6において相対的に高さ位置が低い個所に設けられている。そして、コーナー切刃5は相対的に高さ位置が高い個所に設けられている。上下方向において、曲線部61は、コーナー切刃5よりも下方に0.2〜2mmの範囲で低くなるように設定されている。曲線部61は、側面視して湾曲しており、上下方向において主切刃6において最も下方に位置する底部6pを有している。
【0031】
主切刃6に曲線部61と曲線部61を間に挟んで一対の直線部62を設けることで、被削材200の切削時に、主切刃6の全長が同時に被削材200に接触することがなく、主切刃6の全長のうち、同時に接触する箇所を短くすることができる。具体的には、一対の第1コーナー切刃5aの一方が被削材200に接触し、その後、直線部62や曲線部61が被削材200に接触する。その結果、インサート1の主切刃6の切削抵抗が急激に上昇するのを抑制し、インサート1に被削材200から伝わる衝撃を緩和することで、切削工具100にびびり振動が生じるのを抑制することができる。
【0032】
曲線部61(第1部位61)の底部6pは、
図6に示すように、インサート1をホルダ101に取り付けた状態で、一対のコーナー切刃5(5a、5b)のうち上方に位置する第2コーナー切刃5b寄りに設けられている。言い換えれば、底部6pは、下方に位置する被削材200を切削する際に、一対のコーナー切刃5(5a、5b)のうち、被削材の加工面から離れて位置する第2コーナー切刃5bの側に寄っている。
【0033】
インサート1は、被削材を切削するときに、第2コーナー切刃5b寄りに底部6pを位置させることで、インサート1をホルダ101に取り付けた状態で、主切刃6の全体としての切り込み量を確保しつつ、主切刃6における被削材に対する切込み角の小さな領域も確保することができる。具体的には、第2コーナー切刃5bに接続した第2直線部62bの切込み角を小さくすることができる。
【0034】
主切刃6における第2コーナー切刃5b寄りの領域まで使用する場合のように切り込み量が大きい場合には、主切刃6に対する切削抵抗も非常に大きくなる。しかしながら、相対的に大きな負荷が加わり易い第2コーナー切刃5bに接続した直線部62bの切込み角が小さいことから、この直線部62bに加わる切削抵抗を軽減することができる。そのため、主切刃6の全体に加わる切削抵抗を抑えることができる。
【0035】
その結果、特に、切込み角が30°以下の高送り加工において、切屑を薄くすることができ、主切刃6の発熱を低減することができる。具体的には、彫り込み加工などで、切込みが深くなりインサート1に大きな切削抵抗が掛かっても、切込み深さが深い位置の切刃の切込み角が小さく、切屑厚みを薄くすることができ、切刃に掛かる負荷を軽減出来るので、主切刃6の欠けが発生するのを抑制することができる。このようにして、主切刃6に欠けが発生するのを抑制することができる。
【0036】
本実施形態に係るインサート1は、上面視して四角形状であり、4つの辺部と4つの角部とを有している。各辺部には、2つの角部が対となって隣接している。そのため、本実施形態に係るインサート1は、4つの主切刃6を有している。そして、上面3の外縁に沿った主切刃6同士の間には、コーナー切刃5が設けられている。そのため、コーナー切刃5は、4つ形成されている。
【0037】
なお、本実施形態のインサート1は、上面視して四角形状であるため、4つの主切刃6及び4つのコーナー切刃5が形成されるが、これに限られない。主切刃6及びコーナー切刃5の数は、上面視したときのインサート1の多角形状に応じて、例えば、3つ,5つ、或いは6つ以上であっても構わない。
【0038】
本実施形態のインサート1を用いた
図4に示す切削工具100においては、4つの主切刃6のうちの1つが被削材の切削加工に用いられる。ここで、長時間の切削加工によって使用している主切刃6が劣化した場合には、インサート1をホルダ101から一旦取り外した後に、インサート1を中心軸Xに対して90°回転させて再度ホルダ101に取り付ければよい。これにより、未使用の他の主切刃6を被削材200の切削加工に用いることができる。
【0039】
なお、上面3と側面4との交線部は、2つの面が交わることによる厳密な線形状ではない。上面3と側面4との交線部が鋭角に尖っていると、主切刃6の耐久性が低下する。そのため、上面3と側面4とが交わる部分がわずかに曲面形状となっている、いわゆるホーニング加工が施されていてもよい。
【0040】
主切刃6は、側面視した場合に全体として直線形状ではなく、下面2を下に上面3を上にした状態で、下方に凹の形状である。具体的には、主切刃6は、下方に窪んだ凹曲線形状である曲線部61(第1部位61)と、曲線部61と連続して設けられる一対の直線部62(第2部位62)とを有している。一対の直線部62は、それぞれ曲線部61から一対のコーナー切刃5に向かって延びている。主切刃6がこのような形状である場合には、主切刃6が上面3に平行な直線形状である場合と比較して、主切刃6を被削材に対して傾斜して接触させ易くなる。そのため、主切刃6が食い付くときの切削抵抗を小さくできるので、被削材を良好に切削加工できる。
【0041】
ここで、一対の直線部62(第2部位62)のうち、第1コーナー切刃5aに向かって延びているものを第1直線部62a、第2コーナー切刃5bに向かって延びているものを第2直線部62bとする。
【0042】
なお、直線部62がコーナー切刃5に向かって延びているとは、直線部62の仮想的な延長線がコーナー切刃5と交差するという意味に限定されるものではなく、単に一対のコーナー切刃5a、5bが位置する側に向かって延びていることを意味している。例えば、
図5においては、第1コーナー切刃5aが左端に位置していることから、曲線部61から左側に向かって延びているものを第1直線部62aとしている。また、
図5においては、第2コーナー切刃5bが右端に位置していることから、曲線部61から右側に向かって延びているものを第2直線部62bとしている。
【0043】
曲線部61は、下方に窪んだ凹曲線形状であれば、特に形状が限定されるものではなく、例えば、円弧形状、楕円弧形状または放物線形状とすることができる。本実施形態では、曲線部61は、下方に窪んだ円弧形状である。このような場合には、インサート1をホルダ101に取り付ける際のアキシャルレーキの影響を受けにくくなり、安定してインサート1を被削材に食い付かせることができる。
【0044】
ここで仮に、主切刃6が、仮に、主切刃6の全てが直線形状である場合について説明する。インサート1の主切刃6が被削材200の端面に食い付き始める際に、インサート1に強いびびり振動が強く発生する。主切刃6の全てが単に直線形状である場合は、被削材200に主切刃6が当たり始める角度によっては、被削材200に主切刃6の全部が同時に当たり始めることがあり、大きな衝撃がインサート1に加わり、振動が生じてびびり振動が発生する原因となってしまう。ひいては、びびり振動が発生すると切削条件を上げることができないため、加工能率を向上させることができない。
【0045】
また仮に、主切刃6の全てが下方に窪んだ凹曲線形状である場合は、被削材に対して主切刃6が点で接触し始めることもあるが、被削材に食い付き始めると、主切刃6の全てが直線形状であるものと比較して、主切刃6の全体の長さが長くなるため、インサート1に強い衝撃が加わり続ける時間も長くなってしまう。
【0046】
本実施形態に係るインサート1は、主切刃6が、下方に窪んだ凹曲線形状である第1部位61と、第1部位61と連続して設けられる一対の第2部位62とを有している。そのため、食い付き始める際に主切刃6の全体が被削材200に当たることがなく、さらに、主切刃6の全体の長さが主切刃6の全体が下方に窪んだ凹曲線形状とした場合と比較して、主切刃6の全体の長さを短くすることができる。そのため、本実施形態に係るインサート1は、切削抵抗を低減することができ、衝撃を緩和し、インサート1が被削材に食い付き始める際の切削抵抗の上昇を抑えることができる。
【0047】
また、被削材の表面の凹凸が大きい場合においては、切込み深さが常に大きく変動する。このとき、仮に、主切刃6の全体が凹曲線形状である場合には切込み角が一定にならず、安定した切削加工を行うことが出来ないが、本態様では主切刃6が直線部62を有しており、切込み角が一定の領域を2段階に分けている為、切込み深さの変化による切削抵抗の変動を抑制することができる。
【0048】
また、
図6又は
図7に示すように、主切刃6の曲線部61における最も下方に位置する部分である底部6pが、一対のコーナー切刃5(5a,5b)のうち、被削材の加工面にから離れて位置する第2一方のコーナー切刃5bの側に寄って設けられている。底部6pは、コーナー切刃5bの高さ位置と比較して、下方に例えば0.2〜1.2mm低い位置に形成されている。そして、主切刃6は、
図7に示すように、下面2に沿った平面方向に沿って、例えば5mm〜25mmの長さであって、底部6pが主切刃6の平面方向の長さの中心位置Pに対して、第2コーナー切刃5bの側に例えば0.5〜1.5mmずれて形成されている。
【0049】
また、一対の直線部62(62a、62b)のうち、第1コーナー切刃5a寄りの第1直線部62aよりも第2コーナー切刃5b寄りの第2直線部62bが短く形成されている。そのため、主切刃6の全体での切り込み量を大きく確保することができる。なお、ホルダ101にインサート1を取り付けた状態において、主切刃6の被削材表面に沿った平行線Lに対する傾斜角度は、コーナー切刃5a側に向かってのびた第1直線部62aの傾斜角度a1が例えば5〜15°であって、コーナー切刃5bに向かってのびた第2直線部62bの傾斜角度a2が3〜13°となるように設定されている。なお、傾斜角度a2は、傾斜角度a1よりも小さくなるように設定されている。
【0050】
さらに、一対の直線部62(62a、62b)のうち、第2コーナー切刃5b寄りの第2直線部62bが、第1コーナー切刃5a寄りの第1直線部62aよりも短いことから、被削材200に第2直線部62bが接触する接触長さを効果的に抑えることができ、第2直線部62bが被削材200に食付き始める際の切削抵抗の上昇を抑えることができる。具体的には、第2直線部62bの平行線Lに対する傾斜角度a2が第1直線部62aの傾斜角度a1よりも小さく、第2直線部62bの長さが第1直線部62aの長さよりも短いことによって、切り込み量が大きい時に使用する第2直線部62bの切屑厚みを薄くし、耐欠損性を向上させることができ、インサート1自体の強度も向上させることができる。
【0051】
このように、主切刃6が、下方に窪んだ凹曲線形状である曲線部61と、曲線部61と連続して設けられる一対の直線部62とを有している。そのため、主切刃6の全部が直線形状である場合と、主切刃6の全部が凹曲線形状である場合の両方の良い点を備えている。さらに、曲線部61の底部6pが、第2コーナー切刃5bの側に寄っているため、主切刃6の全部が直線形状である場合に、被削材200との接触時の接触長さが長くなってしまうという、デメリットを効果的に抑えることができる。一方、本実施形態に係るインサート1は、主切刃6が全体として下方に凹んだ形状なので、主切刃6が被削材に接触する際に主切刃6の全体が同時に接触することが避けられ、良好な切削を行うことができる。
【0052】
本実施形態に係るインサート1は、主切刃6が、側面視して、凹んだ曲線部61と、曲線部61から一対のコーナー切刃5(5a、5b)のそれぞれに向かってのびた一対の直線部62(62a、62b)を有し、曲線部61における底部6pが、下方に位置する被削材200を切削するときの一対のコーナー切刃5(5a、5b)のうち、上方に位置する第2コーナー切刃5bの側に寄っていることで、衝撃を緩和し、インサート1が被削材200に食付き始める際の切削抵抗の上昇を抑えることができる。
【0053】
また、本実施形態における主切刃6は、上面視して、上面3の内側に向かって窪んだ凹形状である。言い換えれば、本実施形態における主切刃6は、上面3の中心に向かって窪んだ凹形状である。ここで、上面3の中心に向かって窪んでいるとは、一対のコーナー切刃5(5a、5b)の両方に接する接線よりも上面3の中心に近くなるように位置していることを意味している。上面3の中心に最も近付いている部分と上記の接線との間隔は、0.02〜0.2mmの範囲で設定されている。
【0054】
本実施例における主切刃6は、上記のように平面視した場合において凹形状であることから、インサート1をホルダ101に取り付けて、被削材を切削したときに、主切刃6の外周側の切込み角を小さくすることができる。これにより、肩加工時においてはコーナー切刃5の付近での切屑の厚みを薄くすることができ、切削時の衝撃を緩和できる。従って、コーナー切刃5や主切刃6の耐欠損性を向上させることができる。
【0055】
なお、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0056】
<切削工具>
次に、一実施形態の切削工具100について
図4〜7を用いて説明する。
図4〜6は、インサート1がホルダ101のインサートポケット102(以下、単にポケット102ともいう)にネジ103によって取り付けられた状態を示している。なお、
図4の二点鎖線は、切削工具100の回転中心軸Yを示している。
【0057】
本実施形態の切削工具100は、
図4〜6に示すように、回転中心軸Yを有し、先端側の外周面に複数のポケット102を有するホルダ101と、ポケット102にそれぞれ装着される上記のインサート1とを備えている。
【0058】
ホルダ101は、回転中心軸Yを中心とする略円柱形状をなす。そして、ホルダ101の先端側の外周面には、ポケット102が複数設けられている。ポケット102は、インサート1が装着される部分であり、ホルダ101の外周面及び先端面に開口している。複数のポケット102は、等間隔で設けられていても不等間隔で設けられていてもよい。ホルダ101には、複数のポケット102が形成されていることから、厳密な円柱形状ではない。
【0059】
そして、ホルダ101に設けられた複数のポケット102に、インサート1が装着される。複数のインサート1は、主切刃6がホルダ101の先端面から前方、すなわちホルダ101の先端面よりも被削材に向かって突出するように装着される。具体的には、複数のインサート1は、第1コーナー切刃5a及び主切刃6の一部がホルダ101の先端面から突出するようにホルダ101に装着されている。
【0060】
このとき、第1コーナー切刃5aが切削時にホルダ101の先端面から最も突出した位置に固定される。インサート1は、
図5に示すように、コーナー切刃5aがホルダ101の先端面から前方に向かって突出するようにホルダ101のポケット102に装着される。これにより、曲線部61の底部6pが、被削材の加工面から離れて上方に位置する第2コーナー切刃5bの側に寄って、ホルダ101に取り付けられる。
【0061】
本実施形態においては、インサート1は、ネジ103によって、ポケット102に装着されている。すなわち、インサート1の貫通孔Hにネジ103を挿入し、このネジ103の先端をポケット102に形成されたネジ孔(不図示)に挿入して、ネジ103をネジ孔に固定させることによって、インサート1がホルダ101に装着されている。なお、ホルダ101としては、鋼、鋳鉄などを用いることができる。特に、これらの材質の中で靱性の高い鋼を用いることが好ましい。
【0062】
<切削加工物の製造方法>
次に、一実施形態の切削加工物の製造方法について
図8〜10を用いて説明する。
図8〜
図10は、切削加工物の製造方法を示している。切削加工物は、被削材を切削加工することによって作製される。本実施形態における切削方法は、以下の工程を備えている。すなわち、
(1)上記実施形態に代表される切削工具100を回転させる工程と、
(2)回転している切削工具100における主切刃6を被削材200に接触させる工程と、
(3)切削工具100を被削材200から離す工程と、
を備えている。
【0063】
より具体的には、まず、切削工具100を回転中心軸Yの周りで回転させながら被削材200に相対的に近付ける。次に、
図9に示すように、切削工具100の主切刃6を被削材200に接触させて、被削材200を切削する。そして、
図10に示すように、切削工具100を被削材200から相対的に遠ざける。
【0064】
本実施形態においては、被削材200を固定するとともに切削工具100を近づけている。また、
図8,9においては、被削材200を固定するとともに切削工具100を回転中心軸Yの周りで回転させている。また、
図10においては、被削材200を固定するとともに切削工具100を遠ざけている。なお、本実施形態の製造方法における切削加工では、それぞれの工程において、被削材200を固定するとともに切削工具100を動かしているが、当然ながらこのような形態に限定されるものではない。
【0065】
例えば、(1)の工程において、被削材200を切削工具100に近づけてもよい。同様に、(3)の工程において、被削材200を切削工具100から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、切削工具100を回転させた状態を維持して、被削材200の異なる箇所にインサート1の主切刃6を接触させる工程を繰り返せばよい。使用している主切刃6が摩耗した際には、インサート1を貫通孔Hの中心軸Xに対して90度回転させて、未使用の主切刃6を用いればよい。なお、被削材200の材質の代表例としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス、鋳鉄、又は非鉄金属などが挙げられる。