特許第6228250号(P6228250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228250
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】多糖消化阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20171030BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20171030BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20171030BHJP
【FI】
   A61K36/185
   A61P43/00 111
   A61P3/10
   A23L33/105
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-51218(P2016-51218)
(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公開番号】特開2017-165672(P2017-165672A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】595082696
【氏名又は名称】キューサイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 美保子
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−003225(JP,A)
【文献】 特開2004−091462(JP,A)
【文献】 特開2005−306801(JP,A)
【文献】 特開2000−186044(JP,A)
【文献】 特開2008−063277(JP,A)
【文献】 特開2004−091464(JP,A)
【文献】 特開2003−146901(JP,A)
【文献】 特開2010−001279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
Japio−GPG/FX
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカショウマ抽出物を有効成分とする多糖消化阻害剤(ただし、DPP−4阻害に基づく糖代謝改善剤を除く)
【請求項2】
前記阻害剤がα‐アミラーゼ阻害剤及び/又はα‐グルコシダーゼ阻害剤である、請求項1に記載の多糖消化阻害剤。
【請求項3】
前記抽出物が水及び/又は有機溶媒による抽出物である、請求項1又は2に記載の多糖消化阻害剤。
【請求項4】
請求項1−3のいずれかに記載の多糖消化阻害剤を含むことを特徴とする、多糖消化阻害用飲食品組成物。
【請求項5】
請求項1−3のいずれかに記載の多糖消化阻害剤を含むことを特徴とする、多糖消化阻害用経口用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アカショウマの抽出物を有効成分として含む多糖消化阻害剤に関し、さら詳しくは、アカショウマの抽出物を有効成分として含むα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物は重要なエネルギー源であるが、その過剰摂取は肥満を助長し、さらに肥満は糖尿病等の発症リスクを上昇させることが知られている。しかしながら、食事は古来より人々の交流及び情報交換の場としての重要な社会的役割を担っており、また、ストレスの多い現代人にとっては重要なストレス発散手段でもある。それゆえ、食事の前記機能を損なうことなく、実質的には食事制限と同じ効果を奏し得る方法が強く求められている。
【0003】
食事により摂取された炭水化物は、まず、唾液及び膵液に含まれるα-アミラーゼの作用によって二糖類にまで分解される。その後、小腸粘膜上皮細胞の膜上に局在するα-グルコシダーゼの作用によって単糖へと分解され、該膜上に局在するトランスポーターによって該細胞内に輸送された後、血中へと輸送される。単糖にまで分解されないと小腸粘膜上皮細胞には取り込まれないため、α-アミラーゼ又はα-グルコシダーゼの活性を阻害することで、多糖類の摂取を実質的に制限することが可能である。
【0004】
これまで、α-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼの活性阻害を作用機序とする薬剤が複数開発されており、その一部は食後過血糖改善剤として既に2型糖尿病患者に処方されている。そのような薬剤の代表として、アカルボース(Acarbose;バイエル薬品株式会社のGlucobay)、ミグリトール(Miglitol;株式会社三和化学研究所のSeibule)、及びボグリボース(Voglibose;武田薬品工業株式会社のBasen)が挙げられる。しかしながら、これらの薬剤には種々の副作用が知られており、より副作用の少ない多糖消化阻害剤を求めて、天然の植物及びその抽出物の解析が精力的に行われている。そして、経口摂取した場合にもα-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼ阻害効果を奏し得るものとして、月見草種子のアルコール抽出物(特許文献1)、栗渋皮のエタノール/含水エタノール抽出物(特許文献2)、黒米の含水エタノール抽出物(特許文献3)、ハマナス類の花弁/果実部の水又は(含水)有機溶媒抽出物(特許文献4)、オリーブ葉の水/有機溶媒抽出物(特許文献5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO02/009734号
【特許文献2】WO2006/030929号
【特許文献3】特開2004-91462号
【特許文献4】特開2005-306801号
【特許文献5】特開2002-10753号
【特許文献6】特開2003-342185号
【特許文献7】特開2009-102419号
【特許文献8】特開2004-91464号
【特許文献9】特開2013-184974号
【特許文献10】特開2007-119373号
【特許文献11】特開2016-3225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記技術的背景を鑑みてなされたものであり、新たな植物に由来する多糖消化阻害剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明者が鋭意検討を行った結果、アカショウマの熱水又は含水有機溶媒抽出物に優れたα-アミラーゼ阻害活性及びα-グルコシダーゼ阻害活性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
アカショウマ(学名:Astilbe thunbergii var. thunbergii)は、ユキノシタ科チダケサシ属の植物で、本州、四国、九州各地の山地に自生する多年草である。アカショウマの根は、解熱、解毒、消炎等の効用で用いられるショウマ(キンポウゲ科のサラシナショウマ)の根茎の代用品として古くから用いられてきた。なお、厚生労働省からの通達では、ショウマの根茎は医薬品だが、アカショウマの根は非医薬品に相当する(ttps://hfnet.nih.go.jp/usr/annzenn/image/iyakuhin2参照)。
【0009】
近年、アカショウマ根茎の乾燥粉末及びその抽出物(水/有機溶媒の混液、又は有機溶媒による抽出物)にはリパーゼ阻害活性があり(特許文献6)、当該乾燥粉末又は抽出物を高脂肪食と同時に摂取したラットでは、高脂肪食のみを摂取したコントロール群と比べて血中のトリグリセリド及びコレステロール値の上昇が抑えられることが報告された(特許文献7)。また、前記乾燥粉末又は抽出物を経口摂取したラットの脂肪細胞では、ノルエピネフリン又は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に誘発される脂肪分解が亢進することが示された(特許文献8)。これらの結果に基づいて、アカショウマ根茎の乾燥粉末及び/又はその抽出物を有効成分とする肥満抑制剤及び血中コレステロール低減剤が提案されている(特許文献7、8)。
【0010】
また、アカショウマ根茎の乾燥粉末及びその抽出物は、ブドウ糖とタンパク質間で起こるメイラード反応(還元糖のカルボニル基とアミノ化合物のアミノ基の間で生じる縮合反応の一種)をin vitroで阻害し(特許文献9)、さらに、メイラード反応産物の一種であるα−ジカルボニル化合物を分解する活性があることが報告されている(特許文献10)。
【0011】
そして、血糖値制御との関係では、前記アカショウマ根茎の乾燥粉末又はその抽出物(水/有機溶媒の混液、又は有機溶媒による抽出物)を経口摂取したラットから単離した脂肪細胞では、インスリンに誘発される脂肪合成が顕著に低下することが報告されている(特許文献8)。インスリンは、主に肝臓、筋肉、脂肪細胞に作用して血糖値を下げるホルモンであり、脂肪細胞に対しては、血中からのブドウ糖の取り込みを促進して脂肪への変換を促進する。よって、アカショウマ根茎の乾燥粉末又はその抽出物には、インスリンの脂肪細胞に対する作用を抑制する活性があることが示唆された。なお、アカショウマ根の熱水抽出物には、インスリン分泌を促進する消化管ホルモン(インクレチン)を分解することで知られるDipeptidyl peptidase-4(以降、DPP-IVと略記)をin vitroで阻害する活性が報告されており(特許文献11)、当該抽出物を摂取することでインスリンの分泌量が増える可能性も示唆されている。
【0012】
このように、アカショウマの根又は根茎の抽出物は、脂肪の消化と吸収を抑制し、インスリンの分泌量とその作用に影響を及ぼし得ることが知られていたが、多糖の消化に関与することを示唆する報告はなかった。
【0013】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] アカショウマ抽出物を有効成分とする多糖消化阻害剤。
[2] 前記阻害剤がα‐アミラーゼ阻害剤及び/又はα‐グルコシダーゼ阻害剤である、前記[1]に記載の多糖消化阻害剤。
[3] 前記抽出物が水及び/又は有機溶媒による抽出物である、前記[1]又は[2]に記載の多糖消化阻害剤。
[4] 前記[1]−[3]のいずれかに記載の多糖消化阻害剤を含むことを特徴とする飲食品。
[5] 前記[1]−[3]のいずれかに記載の多糖消化阻害剤を含むことを特徴とする経口用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、アカショウマに由来するα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼ阻害剤が提供される。そして、前記阻害剤を経口摂取することで、多糖の実質的な摂取制限が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図中のプロット又はバーは、各実験群あたり7匹のGKラットについて得られた測定値の平均値を表し、エラーバーはその標準偏差を表す。図中のアスタリスク(*)、ダブルアスタリスク(**)は、有意性検定の結果、各々、p value<0.05、p value<0.01で陰性対照との有意性が認められたことを表す。
図1】アカショウマ抽出物を経口摂取後にデンプンを経口摂取したGKラットの血糖値の経時変化を表すグラフである。
図2】アカショウマ抽出物を経口摂取後にデンプンを経口摂取したGKラットの血中グルコース濃度時間曲線下面積(Area under the blood concentration-time curve of glucose;グルコースAUCと略記)を表すグラフである。
図3】アカショウマ抽出物を経口摂取後にショ糖を経口摂取したGKラットの血糖値の経時変化を表すグラフである。
図4】アカショウマ抽出物を経口摂取後にショ糖を経口摂取したGKラットのグルコースAUCを表すグラフである。
図5】アカショウマ抽出物を経口摂取後にブドウ糖を経口摂取したGKラットの血糖値の経時変化を表すグラフである。
図6】アカショウマ抽出物を経口摂取後にブドウ糖を経口摂取したGKラットのグルコースAUCを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明により、α-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼ阻害活性を有するアカショウマ抽出物を有効成分とする多糖消化阻害剤が提供される。本発明における“多糖”とは、“二以上の単糖がグリコシド結合(好ましくは、α-1,4−グリコシド結合)によって重合したもの”のことである。
本明細書では、当該分野での慣例に従ってブドウ糖をグルコースと呼ぶ場合があるが、両者に意味上の違いはない。なお、本明細書における%は、特に断りのない場合には重量%を表す。
【0017】
<アカショウマ抽出物>
本発明に用いるアカショウマ(Astilbe thunbergii var. thunbergii)は、自生又は栽培されたアカショウマのいずれであってもよく、好適な部位は根及び/又は根茎である。生及び乾燥させたもののいずれも用いることができ、抽出効率向上の観点からは、細断化又は粉末化されていることが好ましい。
【0018】
アカショウマの抽出に用いる溶媒は、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混液(以降、含水有機溶媒と呼ぶ場合がある)のいずれでもよく、これらの溶媒を組み合わせて段階的に抽出してもよい。ここで段階的に抽出するとは、ある溶媒で抽出して得られた抽出物を、さらに別の溶媒で抽出することを指す。
上記のうち、水、含水有機溶媒、又はこれらの組み合わせ(具体的には、含水有機溶媒で抽出後に水で抽出)が好ましい。なお、含水有機溶媒における水分含量は、10-90v/v%、好ましくは20-80v/v%、さらに好ましくは30-70v/v%、最も好ましくは40-60v/v%である。
【0019】
前記有機溶媒は特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;酢酸エチル等のエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレンアルコール、グリセリン等のグリコール類;ジエチルエーテル、石油エーテル等のエーテル;アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼン、ヘキサン、キシレン等の炭化水素等が挙げられる。このうち、低級アルコール、エステルが好ましく、さらに好ましくは低級アルコールである。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
抽出温度は、常温から溶媒の沸点の範囲内の温度で、溶媒の種類に応じて適宜調整することができる。加圧、常圧、減圧下で行ってもよい。抽出時間も、溶媒の種類に応じて適宜調整してよい。例えば、抽出溶媒として水を用いる場合には、20-140℃、好ましくは60-130℃、さらに好ましくは80-125℃で、1分-1時間、好ましくは、10-30分間の範囲内で行ってもよい。また、抽出溶媒として含水エタノールを用いる場合には、20-100℃、好ましくは40-80℃の範囲内で、1分-1時間、好ましくは、10-30分間の範囲内で行ってもよい。さらに、前記保温期間中に、溶媒の攪拌又は還流を行うと一層好ましい。
抽出に用いる溶媒の量も特に制限されることはなく、例えば、アカショウマの根及び/又は根茎の乾燥物に対し、2-50倍、好ましくは5-50倍、さらに好ましくは10-30倍(重量比)の溶媒を用いてもよい。
【0021】
抽出後に濾過、遠心分離等によって固形物を除去することで、アカショウマ抽出液を得ることができる。当該アカショウマ抽出液は、アカショウマ抽出物としてそのまま用いてもよく、また、濃縮、乾固、又は溶媒除去したものをアカショウマ抽出物として使用してもよい。溶媒除去は当業者に周知の方法で行ってよく、例えば、減圧溶媒留去、凍結乾燥等が挙げられる。
また、アカショウマ抽出物として、市販品を用いることもできる。例えば、乾燥根の含水エタノール抽出物である“アカショウマエキス末(ビーエイチエヌ株式会社製)を使用してもよい。
【0022】
前記アカショウマ抽出物は、さらに慣用の精製法に供して高度に精製してもよく、当該得られた精製物を本発明に係る多糖消化阻害剤の有効成分としてもよい。当該精製法の例としては、活性炭、シリカゲル、ポリマー系担体等を用いた吸脱着、カラムクロマトグラフィー、液-液抽出、分別沈殿、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0023】
<用途及び用法>
前記方法によって得られるアカショウマ抽出物は、α-アミラーゼ阻害剤、又はα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼ阻害剤として機能し得るものである。よって、前記アカショウマ抽出物を配合することで、多糖消化阻害剤が提供される。
【0024】
本発明においてα-アミラーゼ阻害剤とは、経口摂取された場合に(すなわち、動物の消化器官内で)、α-アミラーゼ(α-Amylase;EC 3.2.1.1)のα-1,4-グルコシド結合切断活性を阻害し得るものを指す。当該阻害活性は、例えば、動物が経口摂取したデンプンから生じるブドウ糖量(血糖値として評価してもよい)を有意に減少させる活性として評価することができる。
また、本発明においてα-グルコシダーゼ阻害剤とは、経口摂取された場合に(すなわち、動物の消化器官内で)、α-グルコシダーゼ(α-glucosidase;EC 3.2.1.20)のα-1,4-グルコシド結合切断活性を阻害し得るものを指す。当該阻害活性は、例えば、動物が経口摂取したショ糖から生じるブドウ糖の量(血糖値として評価してもよい)を有意に減少させる活性として評価してもよい。
【0025】
本発明に係る多糖消化阻害剤は、前記アカショウマ抽出物(該抽出物からさらに精製された生成物の場合には、該抽出物に換算した値)を0.01-100%、好ましくは0.1-100%含むものであってよい。
【0026】
本発明に係る多糖消化阻害剤は、α-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼ活性を阻害することにより、多糖の単糖への分解を阻害することができる。よって、本発明に係る多糖消化阻害剤は、糖質の摂取制限、食後の血糖上昇の抑制、及び/又は耐糖能異常に起因する食後過血糖の改善を目的として好適に使用することができる。
なお、本発明に係る多糖消化阻害剤は単糖の吸収を実質的に阻害しないため、過剰に摂取しても低血糖状態を引き起こす可能性は極めて低いと考えられる。また、食後血糖の正常化機構も実質的に阻害しないため、耐糖能に異常のない健常者も安心して摂取することができる。
【0027】
本発明に係る多糖消化剤は、多糖を摂取する前(食事前)から食中に経口摂取されることが好ましいが、食後間もない時刻であれば経口摂取により十分に効果を奏し得ると考えられる。よって、食前30分-食後30分、好ましくは食前15分-食後15分、より好ましくは食前10分-食後10分、最も好ましくは食前5分-食中である。
【0028】
摂取量は食事の内容(多糖の量)に合わせて調節することができ、一般的な内容の食事の場合、ヒト(平均体重60kg)に対し、例えば、アカショウマ根原生薬換算量で50-2500mg/回、好ましくは125-2000mg/回、さらに好ましくは250-1500mg/回、最も好ましくは500−1250mg/回を目安とすることができる。アカショウマ根の含水エタノール(例として、エタノール濃度が50-60v/v%)抽出物の場合には、例えば、該抽出物の乾燥重量に換算して、10-500mg/回、好ましくは25-400mg/回、さらに好ましくは50-300mg/回、最も好ましくは100-250mg/回を摂取してもよい。前述したように、過剰に摂取しても低血糖状態を引き起こすリスクは非常に低いと考えられるが、目安として、1日当たりの摂取量が3000mg(アカショウマ根原生薬換算量)を超えない範囲で摂取されることが好ましい。
【0029】
本発明に係る多糖消化阻害剤は、単独で摂取してもよく、また、医薬的に許容される担体、賦形剤、可塑剤、着色剤、防腐剤等と混合して経口用組成物の形で摂取してもよい。当該経口用組成物に用いる担体としては、例えば、糖アルコール(例として、マンニトール)、無機物(例として、炭酸カルシウム)、微結晶性セルロース、セルロース(例として、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、寒天、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。なお、二糖類(例として、乳糖)、及び多糖類(例として、デンプン、コーンスターチ)は当該分野において汎用される担体だが、α-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼの基質であるため、本発明ではこれらの担体は多量に使用しないことが好ましい。
前記経口用組成物の形態は特に限定されることはなく、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、トローチ剤、または溶液(飲料)等の形態とすることができる。
【0030】
また、本発明に係る多糖消化阻害剤は、一般食品、健康食品、保険機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品等)に配合された状態で、好適に摂取することができる。
前記食品としては、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料等の飲料類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト、アイスクリーム、ガム、チョコレート、キャンディー、キャラメル、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の菓子類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;味噌、醤油、ドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース、ふりかけなどの各種調味料;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種加工食品等が挙げられる。
【0031】
本発明に係る多糖消化阻害剤は、ヒトに限らず、ヒト以外の動物に対しても前記効果を奏し得るものである。よって、本発明に係る多糖消化阻害剤は、家畜やペット用の飼料に配合することもできる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0033】
試験例1:素材ライブラリーのスクリーニング
本発明者は、日本及び海外において主に商業ベースで入手した植物の凍結乾燥品及びエキスパウダーからなる素材ライブラリー(294素材)を作製しており、該ライブラリーをスクリーニングすることでDPP-IV阻害活性を有する51の素材を見出している(特許文献11)。そこで、各素材から熱水抽出物を作製し(手法1)、手法2に記載した試験を行ってα-アミラーゼに対する阻害活性を解析した。
【0034】
[手法1:熱水抽出物の作製]
各素材を10倍量(重量)の超純水(MilliQ水)に懸濁し、オートクレーブを用いて121℃で15分間抽出した。その後遠心(10,000rpm、10分)を行い、上清を回収して熱水抽出物とした。
下記手法2、3では、前記熱水抽出物を50%DMSO水溶液で100倍に希釈したものを被験物質として用いた。
【0035】
[手法2:in vitro アミラーゼ阻害活性試験]
・反応溶液(500μl)
(1)被験物質 in 50%DMSO水溶液、100μl
(2)Starch azure in buffer、350μ
(3)0.5U/mL ブタ膵臓由来α-アミラーゼ) in buffer、50μl
*buffer:0.01M CaCl2含有0.1M トリス塩酸緩衝液(pH6.9)
・方法
2.0ml用マイクロチューブに(2)を入れて37℃で5分間インキューベーションした後、(1)、(3)の順に添加し、振盪しながら37℃でさらに15分間インキューベーションした。50%酢酸を加えて反応を停止させた後、遠心を行い(4℃、1500×g、5分間)、上清200μlを96ウェルマイクロプレートに移して595nmの吸光度を測定した。なお、blankには前記酵素液の代わりにバッファーを、negative controlには被験物質の代わりに50%DMSO水溶液を、positive controlには被験物質としてアカルボース(10μM)を用いた。
各被験物質について2回の反復測定を行い、平均値を算出し、下記式(1)に従ってα-アミラーゼ活性阻害率を算出した。なお、下記式(1)において、ODsampleは被験物質を添加したウェル、ODsample blankは被験物質の存在下で酵素の代わりにバッファーを添加したウェル、ODcontrolはnegative controlウェル、ODcontrol blankはnegative controlにおいてさらに酵素の代わりにバッファーを添加したウェルの吸光度をそれぞれ表す。
【0036】
【数1】
【0037】
前記294素材のうち、α-アミラーゼの活性を強く(具体的には80%以上)阻害したのは僅か15素材で、229素材(77.9%)では活性阻害率が50%以下であった。興味深いことに、特許文献11においてDPP-IV阻害活性が確認された51素材のうち、42素材(ローズ、チャーガ、カリン、クコシ、クマザサ、ケツメイシ、高麗人参、サンザシ、月桃葉、甜茶、杜仲茶、マタタビ、松かさ、紫玄米、菊花、スターフルーツ葉、タイソウ、ツルレンゲ、トゲナシ、ボダイジュ、酵母ペプチド、ブロッコリースプラウト、青花椒、ローゼル(roselle calyx)、康乃磬、イチョウ葉、エレウテロコック、カミツレ、黒にんにく、ドクダミ、ハス胚芽、ヒハツ、紅麹、メグスリノキ、ヤーコン葉、ヨモギ、ラカンカ、レイシ、レモンバーム、黒酢、ツバキ種子、橄欖、及びトウチローズ)ではα-アミラーゼの活性阻害率が50%以下であった。さらに、前記42素材のうち、ローズ、イチョウ、ボダイジュを除く39素材では、α-アミラーゼに対する阻害活性が実質的に検出されなかった。
【0038】
本発明者は、前記80%以上の阻害率を示した15素材に対し、下記手法3に従ってα-グルコシダーゼの阻害活性を解析した。
【0039】
[手法3:in vitro グルコシダーゼ(マルターゼ)阻害活性試験]
・反応溶液(500μl)
(1)被験物質 in 脱塩水、100μl
(2)3.5mM マルトース in 0.1M リン酸緩衝液(pH6.3)、350μl
(3)ラット小腸アセトンパウダー(Sigma)より調製した粗酵素溶液、350μl
・方法
2.0ml用マイクロチューブに(1)と(2)を入れて37℃で5分間インキューベーションした後、(3)を添加し、振盪しながら37℃でさらに15分間インキューベーションした。2M トリス塩酸緩衝液(pH7.0)を750μl加えて反応を停止させた後、逆相ショートカラムに通し、グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を用いて遊離グルコース量を定量した。
なお、negative controlには被験物質の代わりに脱塩水を、positive controlには被験物質としてアカルボース(5μM)を用いた。また、前記反応液に反応停止液(2M トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、750μl)加えてからインキュベーション(37℃、15分間)した溶液から得られた値を、サンプル由来のバックグラウンドとして各測定値から差し引いた。各被験物質のα-グルコシダーゼ活性阻害率は、negative controlのα-グルコシダーゼ活性に対する阻害率として表した。
【0040】
上記解析の結果、顕著なα-アミラーゼ阻害活性(阻害率86%)を有し、さらにα-グルコシダーゼ阻害活性(阻害率約20%)も有する素材として、アカショウマが見出された。
【0041】
試験例2:アカショウマ抽出物のin vitro酵素活性阻害作用
前記手法1において使用したアカショウマ素材は、アカショウマ根を含水エタノール(エタノール濃度:50−60v/v%)で抽出し、濾過して残渣を除去した後、スプレードライして得られた乾燥粉末(すなわち、含水エタノール抽出物)である(ビーエイチエヌ株式会社製の“アカショウマエキス末”、原生薬対比5:1)。そこで、当該含水エタノール抽出物のα-アミラーゼ阻害活性(手法2)、α-グルコシダーゼ阻害活性(手法3)、及びDPP-IV阻害活性(DPP-4 inhibitor screening assay kit(Cayman Chemical社製)を使用、特許文献11参照)を解析した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、前記アカショウマ含水エタノール抽出物は、終濃度0.1mg/ml-1mg/mlの範囲でα-アミラーゼ活性を95%以上阻害した。0.01mg/mlでは阻害率が数%に低下したことから、当該抽出物のα-アミラーゼ阻害活性のIC50(50%阻害する濃度)は0.01-0.1mg/mlの間にあると考えられる。また、終濃度0.1mg/mlでα-グルコシダーゼ活性を20%、DPP-IV活性を36%阻害したことから、前記アカショウマ抽出物はα-グルコシダーゼとDPP-IVに対する阻害活性も有していることがわかる。
【0044】
よって、アカショウマの熱水及び含水有機溶媒抽出物にはα-アミラーゼ、α-グルコシダーゼ、及びDPP-IVを阻害する活性があり、このうち、α-アミラーゼ阻害活性が最も顕著であることが明らかとなった。
【0045】
試験例3:アカショウマ抽出物のin vivoデンプン消化阻害作用
アカショウマ抽出物に見出されたα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼ阻害活性が、該抽出物を経口摂取した場合にも発揮されるかどうかを解析した。
アカショウマ抽出物をII型糖尿病モデルラットであるGKラット(Goto-Kakizaki rat)に経口摂取させ、その直後にデンプンを経口摂取させて、2時間後までの血糖値を経時的に計測した(手法4)。GKラットでは食後のインスリン分泌量が少ないために過血糖となるため、糖類の消化・吸収に対する薬物の影響を感度良く解析することができる。比較のために、試験例1のスクリーニングにおいて、アカショウマと同様にα-アミラーゼ阻害活性を有する素材として見出されたノブドウの熱水抽出物(α-アミラーゼ阻害活性:71%)も解析した。解析結果を図1に示す。
【0046】
[手法4:デンプン負荷後の血糖値測定]
・GKラットの調整
GKラット(雄、5週齢)は日本エスエルシー株式会社より入手し、1週間の予備飼育後に使用した。各実験群あたり7匹を使用した。
・被験物質
(1)日本薬局方注射用水(陰性対照)
(2)アカルボースを前記注射用水に溶解した溶液(陽性対照);10mg/kg体重となるように投与
(3)前記アカショウマの含水エタノール抽出物を前記注射用水に懸濁した懸濁液;100mg/kg体重、又は300mg/kg体重となるように投与
(4)ノブドウの熱水抽出物を前記注射用水に懸濁した懸濁液;100mg/kg体重、又は300mg/kg体重となるように投与
・投与と血糖値測定
GKラットを18時間絶食させて空腹時血糖を測定した後、ディスポーザブル胃ゾンデ及びディスポーザブルシリンジを用いて被験物質を経口投与した。被験物質の投与から2分後に、デンプン(精製水に溶解したもの、2g/kg体重)を単回経口投与した。デンプン投与から30、60、90及び120分後に尾静脈から採血し、簡易型血糖測定器(ニプロフリースタイルフリーダムライト、FS血糖センサーライト、ニプロ株式会社製)を用いて血糖値を測定した。
【0047】
図1に示されるように、陰性対照ではデンプンの摂取後速やかに血糖値が上昇し、60分後に最大値(396±96mg/dL)に達し、以降は減少に転じた。これに対し、陽性対照では血糖値の上昇が非常に緩やかで、60分後でも117±43mg/dLという低い値であった。陽性対照では、アカルボースによってα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼの活性が抑制されたために、デンプンの消化が阻害されて(すなわち、生じるブドウ糖の量が減少して)血糖値の上昇が緩やかになったと考えられる。
【0048】
そして、本発明に係るアカショウマ抽出物を摂取した実験群においても、血糖値の上昇は緩やかであった。100mg/kg、300mg/kgのいずれの容量を摂取した場合にも、30分後及び60分後の血糖値は陰性対照と比べて有意に低かった(60分後の血糖値:250±26mg/dL(100mg/kg体重)、231±27mg/dL(300mg/kg体重))。よって、本発明に係るアカショウマ抽出物を経口摂取すると、デンプンの消化が抑制されて、血糖値の上昇が遅くなることが示された。
【0049】
これに対し、ノブドウ抽出物を摂取した実験群では、デンプン摂取から2時間後までのいずれの測定時刻においても、陰性対照と比べて血糖値に有意差が見られなかった。よって、ノブドウ抽出物は、経口摂取された場合には、α-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼに対する阻害作用を実質的に発揮できないことが明らかとなった。この理由としては、ノブドウ抽出物中に含まれる当該阻害活性を担う成分が、消化酵素によって分解された可能性が考えられる。
【0050】
図2及び表2に、デンプン摂取後0−120分後までのグルコースAUC(Area under the blood glucose curve;AUC0-120min)を示す。アカショウマを摂取した実験群では、陰性対照の約79%(100mg/kg体重)、76%(300mg/kg体重)にまでグルコースAUCが大幅に低下したことがわかる。
【0051】
【表2】
【0052】
以上の結果より、本発明に係るアカショウマ抽出物は、経口摂取された場合にも、動物体内においてα-アミラーゼ及び/又はα-グルコシダーゼの活性を抑制することができ、多糖の消化を有意に阻害できることが示された。すなわち、アカショウマ抽出物を多糖と同時または少し前に経口摂取することで、血中に移行するブドウ糖量が(非摂取の場合よりも)減少して血糖値の上昇が緩やかになることが明らかとなった。
【0053】
試験例4:アカショウマ抽出物のin vivoショ糖消化阻害作用
前述したように、デンプンからブドウ糖への消化過程はα-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼ両方の酵素活性に依存するため、試験例3の結果からは、アカショウマ抽出物が動物体内ではいずれか一方の酵素活性のみを阻害する(もう一方の酵素活性は阻害できない)可能性を排除できない。そこで、次に、消化過程がα-グルコシダーゼにのみ依存するショ糖を用いて、アカショウマ抽出物の消化阻害効果を解析した。具体的には、前記手法4において、「デンプン(精製水に溶解したもの、2g/kg体重)」を「ショ糖(精製水に溶解したもの、2g/kg体重)」に代えて血糖値を測定した。また、本解析では7週齢の雄性GKラットを用いた(7匹/実験群)。結果を図3に示す。
【0054】
図3に示されるように、陰性対照ではショ糖の摂取後速やかに血糖値が上昇し、90分後に最大値(251±71mg/dL)に達し、以降は減少に転じた。これに対し、陽性対照では血糖値の上昇幅が少なく、90分後でも161±45mg/dLであった。陽性対照では、アカルボースによってα-グルコシダーゼの活性が抑制されたために、ショ糖から生じるブドウ糖の量が減少して血糖値の上昇幅が減少したと考えられる。
【0055】
そして、本発明に係るアカショウマ抽出物を摂取した実験群においても、血糖値の上昇幅が陰性対照よりも少なかった。100mg/kg体重で投与した実験群では陰性対照との有意差が見られなかったが、300mg/kg体重で投与した実験群では、90分及び120分後の血糖値が陰性対照よりも有意に低かった(90分後:189±32mg/dL、120分後:139±15mg/dL)。
よって、本発明に係るアカショウマ抽出物は、経口摂取された場合に動物体内においてショ糖の消化を阻害できること、すなわち、α-グルコシダーゼの活性を阻害できることが示された。
【0056】
図4及び表2に、ショ糖摂取後0−120分後までのグルコースAUCを示す。アカショウマを100mg/kg体重で摂取したGKラットでは陰性コントロールとの有意差が見られなかったが、300mg/kg体重で摂取したGKラットでは、陰性対照の約83%にまでグルコースAUCが有意に低下したことがわかる。
【0057】
なお、アカショウマ抽出物を100mg/kg体重で摂取した場合には、デンプン摂取後の血糖値上昇は有意に抑制された(図1及び2)。当該摂取量ではα-グルコシダーゼ活性は実質的に阻害されないことから(図3及び4)、該摂取量でデンプン摂取後の血糖値上昇が抑制されたのはα-アミラーゼ活性が阻害されたためと考えられる。
【0058】
以上の結果より、本発明に係るアカショウマ抽出物は、経口摂取された場合に、α-アミラーゼ及びα-グルコシダーゼの両方の活性を阻害できることが示された。
【0059】
試験例5:アカショウマ抽出物のin vivoブドウ糖吸収への影響
次に、本発明に係るアカショウマ抽出物が、小腸におけるブドウ糖の吸収とその後の血中移行には影響しないことを確認した。具体的には、GKラットにアカショウマ抽出物とブドウ糖を経口摂取させて、血糖値の変化に及ぼす影響を解析した(手法5)。なお、本解析では、DPP-IV阻害剤であるアナグリプチンを経口摂取した実験群を陽性対照とした。図5に結果を示す。
【0060】
[手法5:グルコース負荷後の血糖値測定]
・被験物質
(1)日本薬局方注射用水(陰性対照)
(2)アナグリプチンを前記注射用水に溶解した溶液(陽性対照);10mg/kg体重となるように投与
(3)前記試験例1で調整したアカショウマの含水エタノール抽出物を前記注射用水に懸濁した懸濁液;100mg/kg体重、又は300mg/kg体重となるように投与
・投与と血糖値測定
GKラット(8週齢の雄性ラット、7匹/実験群)を18時間絶食させて空腹時血糖を測定した後、ディスポーザブル胃ゾンデ及びディスポーザブルシリンジを用いて被験物質を経口投与した。被験物質の投与から15分後に、ブドウ糖(精製水に溶解したもの、2g/kg体重)を単回経口投与した。ブドウ糖投与から30、60、90及び120分後に尾静脈から採血し、簡易型血糖測定器(ニプロフリースタイルフリーダムライト、FS血糖センサーライト、ニプロ株式会社製)を用いて血糖値を測定した。
【0061】
図5に示されるように、陰性対照ではブドウ糖の摂取後速やかに血糖値が上昇し、90分を過ぎると減少に転じた。血糖値が減少した主な理由は、血中に分泌されたインスリンの作用により、肝臓におけるブドウ糖の消費(グリコーゲンへの変換)とインスリン感受性細胞(主に筋細胞及び脂肪細胞)におけるブドウ糖の取り込みが亢進したからである。
そして、本発明に係るアカショウマ抽出物を摂取した実験群では、ブドウ糖の摂取後、陰性対照とほぼ同じ速さで血糖値が上昇し、ほぼ同じタイムコースで血糖値が減少した(いずれの測定時刻においても、陰性対照と有意差なし)。
よって、本発明に係るアカショウマ抽出物を経口摂取しても、ブドウ糖が小腸で吸収されて血中に移行するまでの過程と、その後の(高濃度になった)ブドウ糖が消費される過程には影響しないことが示された。
なお、前述したように、アカショウマの乾燥粉末及びその抽出物には脂肪細胞のインスリン感受性を下げる作用があることが報告されているが(特許文献8)、血糖値の変化には至らないことが確認された。
【0062】
一方、DPP-IV阻害剤であるアナグリプチンを摂取した陽性対照では、ブドウ糖摂取後に陰性対照と同様に血糖値が上昇したが、陰性対照よりも早く(具体的には60分を過ぎると)血糖値が減少し始めた。これは、アナグリプチンによってDPP-IVの活性が阻害されてインクレチンの分解が遅れたために、インクレチンが長い間膵臓に作用してインスリンの分泌量が増えたためと考えられる。
【0063】
図6及び表2に、ブドウ糖摂取後0−120分後までのグルコースAUCを示す。アナグリプチンを摂取するとグルコースAUCが有意に減少するが(陽性対照)、本発明に係るアカショウマを摂取してもグルコースAUCは有意には変化しないことがわかる。
【0064】
以上より、本発明に係るアカショウマ抽出物を経口摂取しても、単糖の吸収と血中移行は実質的に阻害されないことが示された。また、本発明に係るアカショウマ抽出物は、食後血糖を正常化する機構も実質的に阻害しないことが示された。
【0065】
試験例4−6の結果より、本発明に係るアカショウマ抽出物は、多糖と一緒に経口摂取することで、多糖の実質的な摂取を阻害できることが明らかとなった。
【0066】
以下に、本発明に係るアカショウマ抽出物を配合した飲食品及び経口用組成物の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の配合量はいずれも重量%を表す。
【0067】
[実施例1:野菜ジュース]
<処方>
成分 配合量
(1)アカショウマ熱水抽出物(試験例1で製造したもの) 0.5
(2)野菜搾り汁 84.5
(3)リンゴ5倍濃縮果汁 5.0
(4)レモン3倍濃縮果汁 2.0
(5)アスコルビン酸ナトリウム 0.05
(6)精製水 残余
合計 100.0
<製法>
成分(1)−(6)を混合して野菜ジュースを得た。
【0068】
[実施例2:クッキー]
<処方>
成分 配合量
(1)アカショウマ含水エタノール抽出物(試験例2で製造したもの) 10.0
(2)ショートニング 40.0
(3)牛乳 2.0
(4)人工甘味料(アスパルテーム) 7.5
(5)卵 7.5
(6)ベーキングパウダー 0.001
(7)薄力粉ベーキングパウダー 残余
合計 100.0
<製法>
攪拌器を用いて成分(2)−(4)を混合した後、(5)を少しずつ加えて均一になるまで混合した。当該混合物に、予め混合しておいた(6)、(7)、及び(1)を加えて混練し、生地を得た。該生地を冷蔵庫で30分間静置した後、適切な型に成形し、オーブンで焼いてクッキーを得た。
【0069】
[実施例3:グミ]
<処方>
成分 配合量
(1)アカショウマ熱水抽出物(試験例1で製造したもの) 2.5
(2)リンゴ5倍濃縮果汁 45.0
(3)蜂蜜 41.5
(4)レモン搾り汁 5.0
(5)ゼラチン 6.0
(6)シナモン 適量
合計 100.0
<製法>
成分(1)−(4)を加熱混合し、(5)、(6)加えてさらに均一になるまで加熱混合した。当該混合液を型に流し入れ、4℃で1時間冷却した。その後、型から外してグミを得た。
【0070】
[実施例4:錠剤型サプリメント]
<処方>
成分 配合量
(1)アカショウマ含水エタノール抽出物(試験例2で製造したもの) 10.0
(2)微結晶セルロース 75.0
(5)アスコルビン酸ナトリウム 10.0
(6)グリセリン脂肪酸エステル 3.0
(7)タルク 1.8
(8)ステアリン酸ナトリウム 0.2
合計 100.0
<製法>
成分(1)−(8)を均一に混合した後、単発式打錠機を用いて打錠し、直径5mm、質量15mgの錠剤を得た。
【0071】
[実施例5:顆粒型サプリメント]
<処方>
成分 配合量
(1)アカショウマ含水エタノール抽出物(試験例2で製造したもの) 15.0
(2)アスコルビン酸 25.0
(3)酢酸d-α-トコフェロール 1.5
(4)粉末還元麦芽糖水飴 54.0
(5)アスパルテーム 0.6
(6)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5
(7)リボフラビン酪酸エステル 0.2
(8)スクラロース 0.2
(9)ショ糖脂肪酸エステル 2.0
合計 100.0
<製法>
成分(1)−(6)を混合した混合物と、成分(7)、(8)を25mlのエタノールに溶解した溶解液を混合し、練合後、押し出し造粒機を用いて造粒した。得られた造粒物(顆粒)に成分(9)を添加・混合して、顆粒剤(顆粒型サプリメント)を得た。
図1
図2
図3
図4
図5
図6