(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228367
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】コンクリート構造体の補修方法、及び、補修されたコンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-28778(P2013-28778)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-156742(P2014-156742A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】592067395
【氏名又は名称】日本化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100060690
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 秀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100070002
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】田辺 英男
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−097251(JP,A)
【文献】
特開2001−311288(JP,A)
【文献】
特開平01−295967(JP,A)
【文献】
特開平05−170496(JP,A)
【文献】
特開2007−303247(JP,A)
【文献】
特公平02−013702(JP,B2)
【文献】
特開平07−119114(JP,A)
【文献】
実開昭56−169033(JP,U)
【文献】
特開2007−046263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面にひび割れが生じているコンクリート構造体の補修方法において、前記
ひび割れ及び該ひび割れの周囲の表面上に、接着を絶縁する接着絶縁層を設ける接着絶縁
層形成工程、
前記接着絶縁層及び該接着絶縁層の周囲の表面上に、ポリマーセメント系防水材を塗布
して応力緩和兼防水層を形成するポリマーセメント系防水材層形成工程、及び、
前記応力緩和兼防水層及び該応力緩和兼防水層の周囲の表面上に、前記コンクリート構
造体から伝わってくる引張応力を分散させるネットで補強されたセメントモルタル層を形
成するセメントモルタル層形成工程を有し、
前記ネットが、前記セメントモルタル層内にある
ことを特徴とするコンクリート構造体の補修方法。
【請求項2】
前記ポリマーセメント系防水材が、常温での伸び率が30%以上で、かつ、引張強さが0.5N/mm2以上の伸張性を有することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体の補修方法。
【請求項3】
前記応力緩和兼防水層が、ネットにより補強されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート構造体の補修方法。
【請求項4】
前記ネットが、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維の中から選ばれる1種以上の繊維により形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の補修方法。
【請求項5】
前記接着絶縁層が、前記ひび割れを略中心とし、かつ、前記表面方向の幅が、50mm以上320mm以下の範囲で設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の補修方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の補修方法により補修されていることを特徴とする補修されたコンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れが生じたコンクリート構造体の補修方法、及び、補修されたコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、硬化・乾燥による収縮、日射の有無や乾湿の繰り返しによる膨張・収縮、あるいは、地震や振動などによってひび割れが発生し、かつ、そのひび割れ幅も変化する。
【0003】
このようにコンクリート構造体にひび割れが発生した場合の補修方法として、公共建築改修工事標準仕様書(非特許文献1)では、樹脂注入工法、Uカットシール材充填工法およびシール工法が挙げられている。
【0004】
このうち、樹脂注入工法は、ひび割れ部分にエポキシ樹脂を注入する工法であり、このような工法には自動式低圧エポキシ樹脂注入工法、手動式エポキシ樹脂注入工法、および、機械式エポキシ樹脂注入工法等がある。
【0005】
また、Uカットシール工法は、ひび割れに沿って電動カッター等を用いて幅10mm程度、深さ10〜15mm程度のU字型の溝を設け、この溝にコンクリート表面から表面が3〜5mm程度となるように浅めにシーリング材を詰めた後、コンクリート表面に合わせてポリマーセメントモルタルを塗り込む工法である。
【0006】
シール工法は、ひび割れ部にシール材を、パテへら等を用いて幅10mm、厚さ2mm程度に塗布し、その表面を平滑に仕上げる工法である。
【0007】
これら既存技術には次のような問題点がある。
【0008】
樹脂注入工法は、ひび割れ部に確実に樹脂が注入されたかどうかの確認ができず、また、注入できた場合でも、その後、コンクリート構造体に応力、あるいは、動きが生じると、同じ位置、または、近い位置に、ひび割れが再び発生しやすい。
【0009】
Uカットシール材充填工法を用いた場合、施工後にコンクリート構造体に応力、あるいは、動きが生じても、構造物の水密性は確保できるが、Uカットシール材充填工法の表面にモルタルを塗り付けた場合、モルタル面にひび割れが入ったり、あるいは、モルタル部分が剥がれたりしやすい。
【0010】
また、シール工法でも、処理後にコンクリート構造体に応力あるいは動きが生じた場合であっても水密性は確保できるが、シーリング材がコンクリート表面に残るので、美装性に問題があるだけではなく、シーリング材は耐候性が低いので、短期間に再改修する必要が生じやすい。また、美装性、耐候性を改善するために、シール工法による施工後、ポリマーセメントモルタルや仕上げ材を表面に施工することもあるが、この場合、コンクリート構造体の動きにより、ひび割れが表面に伝播することがある。
【0011】
これらの従来技術に係る工法の施工後に、コンクリートやボード類の表面に仕上げモルタルを塗り付ける場合があるが、コンクリートのひび割れやボード類のジョイント部から仕上げモルタルの表面にひび割れが伝播しないためにいくつかの工法が提案されている(特許文献1〜5)。
【0012】
これら従来技術は、コンクリート構造体に発生したひび割れ部の水密性(雨水の浸入、漏水の防止)を確保し、かつ、ひび部分が覆われていると共に、表面に新たなひび割れを伝播することないので美装性が保持されるひび割れ補修方法である。
【0013】
しかしながら、これら改良技術で用いられる目地処理用掩蔽テープ(ノンクラテープ(商品名)等)等は石膏ボードやALCパネル等のジョイント部分のような平滑な面で直線的なひび割れには適用できるが、コンクリート面に凹凸がある場合や非直線的なひび割れに適用するのは困難である。
【0014】
コンクリート構造体で生じる、直線的でないひび割れに対する表面仕上げ材へのひび割れ伝播の防止対策として次のような工法が提案されている。すなわち、ひび割れのあるコンクリートの表面に、弾性を発現する下塗り仕上げ材を塗布し、その上に補強テープを貼るとともに、この補強テープに接着剤を含浸させて固着させて高剛性化させ、その上に仕上げ材を塗布する工法である(引用文献6)。
【0015】
また、コンクリートの表面に、引張破断時の伸び率が30%以上のポリマーセメント系接着剤(ポリマーセメント系塗膜防水剤)と立体網目構造の繊維シートの上に表面仕上げ材を貼り付け、表面仕上げ材のひび割れや剥離を抑える工法が提案されている(引用文献7)。
【0016】
これら技術では、コンクリート面の全体、あるいは、少なくとも1構面に伸び性能を有する層を設けることを前提としており、工数及び工事費用が大きく、また、前者は弾性を発現する下塗り仕上げ材を塗布した段階でひび割れの位置がわからなくなり、そのために補強テープを幅広く貼り付ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005−325627号公報
【特許文献2】特開2004−124534号公報
【特許文献3】特開2002−227372号公報
【特許文献4】特開2000−73512号公報
【特許文献5】特開平10−317630号公報
【特許文献6】特開2002−38727号公報
【特許文献7】特開2009−97248号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】公共建築改修工事標準仕様書(国土交通省大臣官房営繕部監修)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、コンクリート構造体に生じたひびが、直線でない場合にも対応でき、容易にかつ安価に施工でき、施工面に再度ひび割れが生じにくく、かつ、ひび割れが生じた場合であっても防水性が保持される、コンクリート構造体のひび割れ補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のコンクリート構造体の補修方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、少なくとも表面にひび割れが生じているコンクリート構造体の補修方法において、前記ひび割れ及び該ひび割れの周囲の表面上に、接着を絶縁する接着絶縁層を設ける接着絶縁層形成工程、前記接着絶縁層及び該接着絶縁層の周囲の表面上に、ポリマーセメント系防水材を塗布して応力緩和兼防水層を形成するポリマーセメント系防水材層形成工程、及び、前記応力緩和兼防水層及び該応力緩和兼防水層の周囲の表面上に、前記コンクリート構造体から伝わってくる引張応力を分散させる補強されたセメントモルタル層を形成するセメントモルタル層形成工程を有
し、前記ネットが、前記セメントモルタル層内にあることを特徴とするコンクリート造体の補修方法である。
【0021】
また、本発明のコンクリート構造体の補修方法は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のコンクリート構造体の補修方法において、前記ポリマーセメント系防水材が、常温での伸び率が30%以上で、かつ、引張強さが0.5N/mm
2以上の伸張性を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のコンクリート構造体の補修方法は、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載のコンクリート構造体の補修方法の補修方法において、前記応力緩和兼防水層が、ネットにより補強されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のコンクリート構造体の補修方法は、請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の補修方法において、前記ネットが、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維の中から選ばれる1種以上の繊
維により形成されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明のコンクリート構造体の補修方法は、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の補修方法において、前記接着絶縁層が、前記ひび割れを略中心とし、かつ、前記表面方向の幅が、50mm以上320mm以下の範囲で設けられていることを特徴とする。
【0025】
本発明のコンクリート構造体は、請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の補修方法により補修されていることを特徴とするコンクリート構造体である。
【発明の効果】
【0026】
本発明のコンクリート構造体の補修方法によれば、前記ひび割れ及び該ひび割れの周囲の表面上に、接着を絶縁する接着絶縁層を設ける接着絶縁層形成工程、前記接着絶縁層及び該接着絶縁層の周囲の表面上に、ポリマーセメント系防水材を塗布して応力緩和兼防水層を形成するポリマーセメント系防水材層形成工程、及び、前記応力緩和兼防水層及び該応力緩和兼防水層の周囲の表面上に、前記コンクリート構造体から伝わってくる引張応力を分散させるネットで補強されたセメントモルタル層を形成するセメントモルタル層形成工程を有
し、前記ネットが、前記セメントモルタル層内にあるとの構成により、コンクリート構造体に生じたひび割れが、直線でない場合、また、ひび割れが生じたコンクリート構造体の表面が平面でない場合にも対応でき、容易にかつ安価に施工でき、施工面に再度ひび割れが生じにくく、かつ、ひび割れが生じた場合あっても防水性が保持されると云う効果を得ることができる。
【0027】
また、前記ポリマーセメント系防水材が、常温での伸び率が30%以上で、かつ、引張強さが0.5N/mm
2以上の伸張性を有する構成を備えていることにより、施工後にひび割れの幅が大きく変化した場合であっても、その動きを吸収し、さらに確実に防水性能を維持することができる。
【0028】
また、前記応力緩和兼防水層が、ネットにより補強されている構成により、一箇所にかかった応力を分散し、ポリマーセメン系防水材からなる層の破断を防止することができる。
【0029】
また、前記ネットが、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維の中から選ばれる1種以上の繊
維により形成されていることにより、ポリマーセメントモルタルの引っ張り強さをより効果的に補強でき、ひび割れ抵抗性をより向上させることができる。
【0030】
また、前記接着絶縁層が、前記ひび割れの前記表面部分を略中心とし、かつ、該表面部分に沿って、50mm以上320mm以下の幅で設けられている構成により、本発明の高いひび割れ再発生防止効果が確実に得られると共に、全面に塗布する場合に比べ工数を削減でき、また、材料費も削減できるメリットがある。
【0031】
本発明のコンクリート構造体は、上記のコンクリート構造体の補修方法により補修されているため、施工面に再度ひび割れが生じにくく、かつ、ひび割れが生じた場合あっても防水性が保持される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は本発明のコンクリート構造体の補修方法の各工程を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のコンクリート構造体の補修方法では、ひび割れのコンクリート構造体の表面部分(
図1(a)にコンクリート構造体1、その表面1aに達しているひび割れ2をそれぞれモデル的に示す)及びその周囲に接着絶縁層(
図1中では符号3を付して示す)を設ける接着絶縁層形成工程、応力緩和兼防水層(
図1中では符号4を付して示す)を形成するポリマーセメント系防水材層形成工程、及び、セメントモルタル層(
図1中では符号5を付して示す)を形成するセメントモルタル層形成工程をこの順で行う。
【0034】
<1.接着絶縁層形成工程>
接着絶縁層形成工程で形成される接着絶縁層は、ひび割れのコンクリート構造体の表面部分を略中心とし、かつ、ひび割れのコンクリート構造体の表面部分に沿って、50mm以上320mm以下の幅(
図1(b)中の寸法α)で設けられることが、本発明の高いひび割れ再発生防止効果が確実に得られると共に、全面に塗布する場合に比べ工数を削減でき、また材料費も削減できるメリットがあるので、好ましい。
【0035】
接着絶縁層は、ゼロスパンテンションとして1箇所に応力が集中しないように作用点間隔を確保し、コンクリート構造体のひび割れが拡大した場合、あるいは、ずれが生じた場合などの生じる応力による最終的に形成されるセメントモルタル層への影響を緩和させ、セメントモルタル層におけるひび割れの発生、延いては、漏水の発生を防止する効果を奏する。
【0036】
接着絶縁層の幅が狭すぎると作用点間隔が狭くなることから応力緩和層の機能が発揮されず、ひび割れがわずかに拡大した場合、あるいは、わずかにずれた場合であっても、補修後のセメントモルタル層におけるひび割れが発生する場合があり、また、広すぎると、ポリマーセメント系防水材とコンクリート構造体との接着が絶縁された面積が増え、剥落の危険が生じる場合がある。より好ましい幅は50mm以上200mm以下である。
【0037】
接着絶縁層としてはポリマーセメント系防水材の浸透防止効果が生じるものであればどのようなものを用いてもよい。
【0038】
ただし、一方の面に粘着層が設けられた、ポリエチレン製などの養生テープ(積水化学工業社製マスクライトテープ等)や、各種樹脂テープ、他方の面に離型性が付与されている荷造りで用いられる紙粘着テープ、布粘着テープなどが、コンクリート構造体の表面に容易に貼り付けられ、簡単に接着絶縁層の形成が可能となり、また、厚さも十分に薄いので、後工程で応力緩和兼防水層を形成する妨げにならないために好ましい。
【0039】
ポリマーセメント系防水材層形成工程で用いられるポリマーセメント系防水材は、コンクリートやセメントモルタルとの接着性が優れており、また、伸び性に富むので、施工後の高いひび割れ防止効果と、さらに補修後の表面にひび割れが生じた場合であっても高い防水性能が維持されると云う効果と、が得られる。
【0040】
ポリマーセメント系防水材としては、一般に入手できるものを用いることができる。ここで、ポリマーセメント系防水材のポリマーとしてはポリアクリル酸エステルや、ポリエチレン酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0041】
このようなポリマーセメント系防水材のうち、常温(20℃)での伸び率が30%以上で、かつ、引張強さが0.5N/mm
2以上の伸張性を有するポリマーセメント系防水材を用いることが、より高い防ひび割れ性が得られ、補修後の表面にひび割れが生じた場合であってもより優れた防水性を保持することができるので好ましい。より好ましいポリマーセメント系防水材の伸び率は50%以上、引張強さは1N/mm
2以上である。
【0042】
これらポリマーセメント系防水材を上記の接着絶縁層上及その周囲のコンクリート構造体の表面上に、塗布し、必要に応じて乾燥させて応力緩和兼防水層(
図1(d))を形成する。応力緩和兼防水層は、接着絶縁層の上、及び、接着絶縁層が形成されていないコンクリート構造体表面の上に、連続して設けられていることが必要であり、接着絶縁層が形成されていないコンクリート構造体表面への塗布部分(
図1(c)中の寸法β)は応力緩和兼防水層ひび割れの幅方向にそれぞれ25mm以上225mm以下、より好ましくは50mm以上100mm以下となっていることが好ましい。
【0043】
すなわち、この幅が狭すぎると作用点間隔が狭くなることから応力緩和層の機能が発揮されない場合があり、広すぎると応力緩和兼防水層形成の手間が大きくなり、材料費が高くなる場合がある。
【0044】
応力緩和兼防水層の厚さとしては1mm以上3mm以下であることが好ましい。厚すぎると施工時に流動性があるポリマーセメント系防水材の施工が困難となる場合があると共に材料費が高くなり、薄すぎると応力緩和層としての機能が発揮されない場合がある。より好ましい厚さは2mm程度である。
【0045】
ここで、上記の応力緩和兼防水層が、織布あるいは不織布により補強されていることが好ましい。用いる織布あるいは不織布としては、ビニロン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる織布あるいは不織布であることが好ましい。
【0046】
このような織布あるいは不織布で補強されている応力緩和兼防水層は、例えば、ポリマーセメント系防水材が塗布された面に織布あるいは不織布を重ね、ローラや刷毛などでポリマーセメント系防水材を、織布あるいは不織布に含浸させながら塗布することによって形成することができる。
【0047】
応力緩和兼防水層形成に次いで、セメントモルタル層形成工程を行う。すなわち、
図1(d)にモデル的に示したように応力緩和兼防水層4上及び応力緩和兼防水層4の周囲のコンクリート構造体の表面1a上に、ネットで補強されたセメントモルタル層5を形成する。
【0048】
このようにネットで補強されているために、セメントモルタルの伸び性能を越えるような、コンクリート構造体のひび割れの拡大あるいはずれが生じた場合であっても、その応力を広い範囲のセメントモルタル層内に分散させることができるので、補修後の表面のひび割れ発生が効果的に防止される。
【0049】
セメントモルタルとしては、施工現場でセメントや砂などを配合した、いわゆる、現場調合モルタルや、製造工場で調合した、いわゆる、既成調合モルタルを用いることができるが、適正に調合され、強度や収縮低減などの品質が確認された、既成調合モルタルを用いることが好ましい。また、補強に用いるネットとしては、耐アルカリ性のものであることが好ましく、例えば耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維の中から選ばれる1種以上の繊維により形成されていることが好ましい。すなわち、これら高ヤング率の繊維により構成されるネットにより補強されていることにより、下地コンクリートから伝わってくる引張応力がネットの繊維に伝わり、繊維の抗張力によりひび割れを抑制する。さらに大きな引張応力がネットの繊維に及んだ場合に、セメントモルタルに微細なひび割れが生じる。このようにひび割れが生じた場合、引張応力はネットの繊維に伝わり、前記ひび割れ箇所から少し離れた位置に微小なひび割れが生じる。このようにネットにより応力の伝播が生じることにより、従来では生じていた、1箇所への応力の集中による幅広いひび割れが防止される。
【0050】
このようなネットで補強されたセメントモルタル層は、例えば、応力緩和兼防水層の表面にセメントモルタルを、ネットで補強されたセメントモルタル層の所望の厚さの半分程度の厚さに塗り付け、直ちにこのセメントモルタル面にネットを積層し、さらにネットをこてなどを用いて押し付けてセメントモルタル内に押し込み、その後、セメントモルタルを塗り重ねることで形成することができる。
【0051】
ネットで補強されたセメントモルタル層の厚さとしては5mm以上30mm以下であることが好ましい。薄すぎるとネットによる補強効果が十分に得られない場合があり、厚すぎるとセメントモルタルの自己収縮によるひび割れが生じる場合もあり、また、材料費も高くなる。より好ましい範囲は7mm以上15mm以下である。
【0052】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明のコンクリート構造体の補修方法、及び、補修されたコンクリート構造体は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0053】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明のコンクリート構造体の補修方法、及び、補修されたコンクリート構造体を適宜改変することができる。このような改変によってもなお本発明のコンクリート構造体の補修方法、及び、補修されたコンクリート構造体の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0054】
コンクリート構造体ひび割れを模したコンクリートブロックの一面にポリマーセメントモルタルを塗り付けた試験体について、コンクリートーセメントモルタル間の応力緩和兼防水層の有無及び応力緩和兼防水層の構成、セメントモルタル内の補強ネットの種別を変更した試験体をそれぞれ作製し、これら試験体について引張試験を行った。
【0055】
<試験体作成材料>
《接着絶縁層》
接着絶縁層:マスクライトテープNo.730(積水化学工業株式会杜。幅:50mm、ポリエチレン製テープの一方の面に粘着層が設けられているもの)。接着絶縁層の幅はこのテープを平行に貼付する数により調整した。
【0056】
《応力緩和兼防水層(ポリマーセメント系防水材層)》
ポリマーセメント系防水材:Z−10(日本化成社製ポリアクリル酸エステル系防水材。20℃での伸び率:103%、引張強さ:1N/mm
2(JIS K6301(加硫ゴム物理試験方法)に準拠した測定による)
ポリマーセメント補強繊維:不織布:Z−10不織布(日本化成杜製。ポリエステル・ナイロン繊維から構成されている。目付:50g/m
2)
【0057】
《セメントモルタル層》
ガラス繊維ネット:TD5×5(目本電気硝子社製。耐アルカリガラス繊維から構成されている。目付:150g/m
2)
3Jネット(サカイ産業社製。耐アルカリガラス繊維から構成されている。目付:300g/m
2)
セメントモルタル:NSアグリモルタルHi(日本化成社製)
【0058】
<試験体作製方法>
地先ブロック(略直方体形状。高さ:150mm、幅:120mm、長さ:600mm)をその長さ方向中央で切断し、切断面同士を合わせて、試験片とした。この試験片の一面(高さ:150mm、長さ:600mm)に上記材料を用いて、それぞれの補修施工を行った。
【0059】
補修施工は、(1)応力緩和兼防水層(応力緩和兼防水層は試験片の施工面中央に施工した)の有無、(2)応力緩和兼防水層(ポリマーセメント系防水材層。厚さ:2mm)中の補強材であるネットの有無(用いたネットの幅はそれぞれの応力緩和兼防水層の幅に等しい)、(3)接着絶縁層(接着絶縁層は試験片の施工面中央に施工した)の有無及びその幅、(4)セメントモルタル層で用いられた補強材の層数(ガラス繊維ネット(「1重」として記載)、ガラス繊維ネットと3Jネットとの併用(「2重」として記載)。なお、セメントモルタル層はそれぞれ試験片の施工面全体に施工し、補強材も施工面全体に配置した)の各条件を変更して、計12条件、各n=1で行った。
【0060】
【表1】
【0061】
補修施工後、計12点の各試験片をそれぞれ、長さ方向に引張応力が印加されるように、引張試験装置に取り付け(つかみ間隔:540mm)、ヘッドスピードを0.2mm/分として引張荷重を加え、ひび割れが生じたときの荷重(ひび割れ発生荷重)、そのときの変位(ひび割れ発生変位)と、そのときの補修施工面表面のひび割れ発生状態を調べた。また、防水性評価として、引張試験後の各試験片の補修施工面(補修施工面は水平に、かつ、上面となるように支持されている)上に、高さ50mmの水柱が形成されるように水に接触させ、24時間後に、各試験片の水との接触面と反対側への漏水の有無を観察した。
【0062】
これら評価の結果を表2に併せて示す(表中、「接着絶縁層」は「接着絶縁層位置に相当する表面部分」を示す。さらに表中、例えば「接着絶縁層の幅に5本分散」は「接着絶縁層位置に相当する表面部分の幅方向に対してひび割れが5本、分散して発生した」、また、「接着絶縁層の中央部に1本」は「接着絶縁層位置に相当する表面部分の幅方向の中央にひび割れが1本発生した」を、さらに「接着絶縁層の境界部に2本」は「接着絶縁層の幅方向両端部位置に相当する表面部分の2箇所にひび割れがそれぞれ1本ずつ発生した」を、それぞれ意味する)。
【0063】
ここで、コンクリート構造体に生じたひび割れは、コンクリートの温度応力や乾湿繰り返しによりその幅が増減するが、そのひび割れ幅の変化量は0.3mm未満である。このために、引張試験によるひび割れ発生変位が0.4mm以上であるときに、高いひび割れ抑制効果が得られたとして「○」、ひび割れ発生変位が0.3mm以上0.4mm以下であるときに、十分なひび割れ抑制効果が得られたとして「△」、それ以外の場合には不十分であるとして「×」として評価し、また、防水性に関しては、漏水がないときに十分な防水性が得られたとして「○」、それ以外の場合には不十分であるとして「×」として評価した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2において、ひび割れ発生加重が大きいと云うことは、接着絶縁層を含めた応力緩和及び防水層による引張応力の緩和効果が大きいと云うこと、及び、引張応力に対して補修施工層が引張応力に対して抗張力が大きいことを表している。
【0066】
実施例に係る試験片では、ひび割れ発生加重が10kN前後であるのに対して、比較例に係る試験片では、5kN前後の低い荷重でひび割れが生じている。
【0067】
また、ひび割れ発生変位は、下地コンクリート(コンクリート構造体)のひび割れ幅の変化に対応できる最大対応可能範囲を示しており、実施例に係る試験片では下地コンクリートのひび割れ幅が0.5mm前後拡大した場合であっても補修施工面へのひび割れの発生が抑制されているのに対して、比較例に係る試験片では0.1mm程度増加した場合であっても補修施工面のひび割れが発生している。
【0068】
また、本発明に係る試験片では、補修施工面の表面にひびが発生しているにもかかわらず、十分な防水性が得られていることが表2より理解される。
【0069】
また、接着絶縁層として、上記例ではポリエチレン製の養生テープを用いたが、十分に機能していることが理解される。
【符号の説明】
【0070】
1 コンクリート構造体
1a 表面
2 ひび割れ
3 接着絶縁層
4 応力緩和兼防水層
5 セメントモルタル層