(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
含フッ素ポリイミド樹脂を含むコーティング用組成物であって、該組成物から得られる焼成膜の水接触角が70°以上、イミド化率が20%以上、フッ素含有量が1〜60質量%であることを特徴とする蛋白質付着防止性又は抗血栓性コーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るコーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物は、含フッ素ポリイミド樹脂を含むコーティング用組成物であって、該組成物から得られる焼成膜の
水接触角が70°以上、イミド化率が20%以上、フッ素含有量が1〜60質量%であることを特徴とする。
【0011】
前記含フッ素ポリイミド樹脂組成物から得られる焼成膜(例えばフィルム、コーティング膜)中のフッ素含有量は、1〜60質量%、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは15〜50質量%である。上記フッ素含有量とするためには、使用される酸二無水物又はジアミンの一方又は両方が1個以上のフッ素原子を含めばよい。かかるフッ素含有量であれば、生体物質付着防止性及び抗血栓性と共に、抗菌性及び防汚性の向上にも寄与することができる。
【0012】
前記含フッ素ポリイミドのフィルム又はコーティング膜を形成するための樹脂組成物は、含フッ素ポリイミド樹脂を含んでなり、含フッ素芳香族ポリイミド樹脂及び/又は含フッ素脂環族ポリイミド樹脂を含んでなることが好ましい。また、上記樹脂組成物には、含フッ素ポリアミド酸樹脂が含まれてもよく、より好ましくは含フッ素芳香族ポリアミド酸樹脂及び/又は含フッ素脂環族ポリアミド酸樹脂が含まれる。本明細書中では、イミド化率が0%のものをポリアミド酸、イミド化率が0%を超えるものをポリイミドと称する。
また、本明細書中で、「含フッ素ポリアミド酸樹脂」を「ポリアミド酸樹脂」、「含フッ素芳香族ポリアミド酸樹脂」を「芳香族ポリアミド酸樹脂」、「含フッ素脂環族ポリアミド酸樹脂」を「脂環族ポリアミド酸樹脂」、「含フッ素ポリイミド樹脂」を「ポリイミド樹脂」、「含フッ素芳香族ポリイミド樹脂」を「芳香族ポリイミド樹脂」、「含フッ素脂環族ポリイミド樹脂」を「脂環族ポリイミド樹脂」と各々称することがある。
【0013】
前記含フッ素ポリアミド酸樹脂又は前記含フッ素ポリイミド樹脂は、加熱処理又は環化触媒処理を行うことによりイミド化率を高めることができる。
【0014】
前記含フッ素ポリイミド樹脂組成物から得られる焼成膜のイミド化率は、20%以上であり、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上であり、好ましくは100%以下、より好ましくは99.5%以下、さらに好ましくは99%以下である。かかるイミド化率であれば、蛋白質付着量の低減及び抗血栓性の向上に寄与することができる。なお、イミド化率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。ここで、イミド化率を上記範囲に調節するため、後述されるようにポリアミド酸樹脂をポリイミド化する条件と同様な条件を使用してもよいが、例えば、以下のいずれかの基準を満たせばよい。(1)加熱処理によりイミド化率を高める場合には、好ましくは温度100〜400℃、より好ましくは200〜380℃、好ましくは時間0.5〜10時間、より好ましくは0.75〜5時間の条件下で処理する、(2)環化触媒処理によりイミド化率を高める場合には、脱水環化触媒と反応させる温度は、室温でよいが、好ましくは温度5〜40℃、より好ましくは20〜30℃、混合時間は、後述の条件で処理する。混合後の静置時間は好ましくは24時間以上、より好ましくは48時間以上である。
【0015】
前記含フッ素ポリイミド樹脂組成物から得られる焼成膜の表面の
水接触角は、通常の疎水性を示す程度の角度であればよく、70°以上、好ましくは75°以上、より好ましくは80°以上である。かかる
水接触角の範囲であれば、蛋白質付着性の低減及び良好な抗血栓性を呈する。なお、
水接触角は自動接触角計(協和界面科学製:DM−500)を用いた水による接触角測定を行うことにより算出できる。
【0016】
前記ポリイミド樹脂は、溶媒存在下で、ジアミンと酸二無水物とを重合させて合成されるポリアミド酸樹脂に由来し、ジアミンと酸二無水物の一方又は両方が1分子中に1個以上のフッ素原子を含むことが好ましい。前記ポリアミド酸樹脂は、好ましくは芳香族ポリアミド酸樹脂又は脂環族ポリアミド酸樹脂である。芳香族ポリアミド酸樹脂は、例えば芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物との重合物である。
【0017】
前記芳香族ポリアミド酸樹脂は、芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物の一方又は両方が1分子中に1個以上のフッ素原子及び1個以上の芳香族環構造を有することが好ましく、前記芳香族ポリアミド酸樹脂は、下記式(I)で表される構造を有することが好ましい。
【0018】
【化1】
[上記式(I)中、X
1は2価の有機基を示し、Y
1は芳香族基を有する2価の有機基を示す;Z
1、Z
2及びZ
3は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X
1、Y
1、Z
1、Z
2及びZ
3の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含み、pは0又は1である。]
【0019】
上記式(I)中、p=0である場合にはX
1は存在していなくても(換言すれば、左右のベンゼン環が直接結合していても)よいが、p=1である場合には、左右のベンゼン環はX
1を介して結合する。
X
1で示される2価の有機基としては、具体的には、アルキレン基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンチオ基等が挙げられ、これらの中でも、アルキレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンチオ基が好ましく、アルキレン基、アリーレンオキシ基がより好ましく、これらはハロゲン原子(フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0020】
X
1の例であるアルキレン基としては、例えば、−C(CA
3)
2−,−C(CA
3)
2−C(CA
3)
2−等を例示することができ、式中Aはフッ素原子である。
X
1の例である上述したアルキレン基の中では、−C(CA
3)
2−が好適である。かかるフッ素置換アルキレン基は、嵩高い構造を取り接触角が大きくなるため、生体物質付着防止性及び抗血栓性の向上に寄与する。
【0021】
X
1の例であるアリーレン基としては、例えば、以下のものを例示することができる。
【0023】
X
1の例であるアリーレンオキシ基としては、例えば、以下のものを例示することができる。
【0025】
X
1の例であるアリーレンチオ基としては、例えば、以下のものを例示することができる。
【0027】
X
1の例である上述したアリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基は、各々独立して、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基よりなる群から選択される基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基に置換している好適な置換基は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。アリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基は、Y
1にフッ素原子が含まれない場合、少なくとも1つ以上のフッ素原子で置換されることが好ましい。
【0028】
X
1の例である上述したアリーレン基、アリーレンオキシ基及びアリーレンチオ基の中では、以下の基が好適である。
【0029】
【化5】
[上記式中、W
1及びW
2はそれぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を示す。]
この場合、W
1とW
2は同一である、即ちW
1とW
2は共に酸素原子であるか或いは硫黄原子であることが好ましく、共に酸素原子であることがより好ましい。
【0030】
上記式(I)中、Y
1で示される芳香族基を有する2価の有機基としては、特に制限されないが、1個のベンゼン環からなる基もしくは、2個以上のベンゼン環が炭素原子、酸素原子、硫黄原子を介して又は直接結合した構造を有する基が挙げられる。具体的には、以下の基を例示することができる。
【0032】
Y
1の例である上述した芳香族基を有する2価の有機基は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。芳香環基を有する2価の有機基に置換している好適な置換基は、特にX
1にフッ素原子が含まれない場合は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
【0033】
上記式(I)中、Z
1、Z
2及びZ
3は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X
1、Y
1にフッ素原子が含まれない場合、Z
1、Z
2及びZ
3の少なくとも1つはフッ素原子である。
【0034】
X
1、Y
1、Z
1、Z
2及びZ
3の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含むことが好ましく、X
1はフッ素原子含有アリーレンオキシ基、Y
1はフッ素原子含有フェニレン基、Z
1、Z
2及びZ
3は全てフッ素原子であることがより好ましく、あるいはX
1はフッ素原子含有アリーレンオキシ基、Y
1はフッ素原子を含有しないフェニルエーテル基、Z
1、Z
2及びZ
3は全て水素原子がより好ましく、あるいはX
1はフッ素原子含有アルキレン基、Y
1はフッ素原子を含有しないフェニルエーテル基、Z
1、Z
2及びZ
3は全て水素原子がより好ましく、あるいはX
1はフッ素原子含有アルキレン基、Y
1はフッ素原子含有フェニレン基、Z
1、Z
2及びZ
3は全て水素原子であることがより好ましい。
【0035】
本発明において、着色の観点から芳香族ポリアミド酸樹脂の代わりに又はこれと共に脂環族ポリアミド酸樹脂を採用することができる。
脂環族ポリアミド酸樹脂は、例えば(1)芳香族ジアミンと脂環族酸二無水物、(2)脂環族ジアミンと芳香族酸二無水物、又は(3)脂環族ジアミンと脂環族酸二無水物の重合物である。脂環族ポリアミド酸樹脂は、芳香族又は脂環族のジアミン及び酸二無水物の一方又は両方が1分子中に1個以上のフッ素原子及び1個以上の脂環式構造を有することが好ましく、前記脂環族ポリアミド酸樹脂は、下記式(II)〜(IV)で表される構造を有することが好ましい。
【0036】
【化7】
[上記式(II)中、X
2は2価の有機基を示し、Y
2は脂環族基を有する2価の有機基を示す;Z
1、Z
2及びZ
3は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X
2、Y
2、Z
1、Z
2及びZ
3の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含み、pは0又は1である。]
【0037】
上記式(II)中、p=0である場合にはX
2は存在していなくても(換言すれば、左右のベンゼン環が直接結合していても)よいが、p=1である場合には、左右のベンゼン環はX
2を介して結合する。
X
2で示される2価の有機基としては、上記X
1として示されるものと同様であってもよい。
【0038】
上記式(II)中、Y
2で示される脂環族基を有する2価の有機基としては、特に制限されないが、1個の脂環族基もしくは、2個以上の脂環族基が炭素原子、酸素原子、硫黄原子を介して又は直接結合した構造を有する基が挙げられる。具体的には、以下の基を例示することができる。
【0040】
Y
2の例である上述した脂環族基を有する2価の有機基は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。脂環族基を有する2価の有機基に置換している好適な置換基は、特にX
2にフッ素原子が含まれない場合は、フッ素原子及び/又はトリフルオロメチル基であり、最も好適にはフッ素原子である。
【0041】
上記式(II)中、Z
1、Z
2及びZ
3は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X
2、Y
2にフッ素原子が含まれない場合、Z
1、Z
2及びZ
3の少なくとも1つはフッ素原子である。
【0042】
X
2、Y
2、Z
1、Z
2及びZ
3の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含むことが好ましく、X
2はフッ素原子含有アルキレン基、Y
2はシクロヘキシル基、Z
1、Z
2及びZ
3は全て水素原子がより好ましい。
【0043】
【化9】
[上記式(III)中、X
3は2価の有機基を示し、Y
3は脂環族基又は芳香族基を有する2価の有機基を示す;Z
1及びZ
2は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X
3、Y
3、Z
1、及びZ
2の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含み、pは0又は1である。]
【0044】
X
3は、2価の有機基を示し、pが0の場合、X
3は単結合であることが好ましく、pが1の場合、例えば以下に示される基から選択されることが好ましい。
【0046】
X
3の例である2価の有機基(pは1の場合)は、置換可能であれば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。これら置換基は複数であってもよく、その場合には置換基の種類は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
Y
3は脂環族基又は芳香族基を有する2価の有機基を示し、上記X
1、Y
1、X
3に示されるものと同様であってもよい。
【0048】
上記式(III)中、Z
1及びZ
2は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X
3、Y
3にフッ素原子が含まれない場合、Z
1及びZ
2の少なくとも1つはフッ素原子である。
【0049】
【化11】
[上記式(IV)中、X
4は脂環族基を有する4価の有機基を示し、Y
4は脂環族基又は芳香族基を有する2価の有機基を示す;Z
1、Z
2、Z
3、及びZ
4は互いに独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれかを示し、X
4、Y
4、Z
1、Z
2、Z
3、及びZ
4の少なくとも1つはフッ素原子を1個以上含む。]
【0050】
X
4で示される脂環族基を有する4価の有機基としては、炭素数1〜40の脂環族炭化水素基が好ましい。前記有機基には、環構造を2以上含む場合、環同士が1個以上の結合を共有する多環式構造、スピロ炭化水素構造、及びビフェニルのように環と環とを単結合等の結合基で結合した構造等が含まれる。前記結合基としては、前記単結合の他にエーテル結合、チオエーテル基、ケトン基、エステル結合、スルフォニル基、アルキレン基、アミド基及びシロキサン基等が挙げられる。具体的に、X
4は、下記から選ばれる基であることが好ましく、これらは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子又は塩素原子、より好ましくはフッ素原子である。)、メチル基及びトリフルオロメチル基からなる群から選択される基により置換されていてもよい。
【0053】
上記式(IV)中、Z
1、Z
2、Z
3、及びZ
4は、各々同じであってもよく異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子から選ばれ、X
4、Y
4にフッ素原子が含まれない場合、Z
1、Z
2、Z
3、及びZ
4の少なくとも1つはフッ素原子である。
【0054】
前記ポリアミド酸樹脂は、芳香族又は脂環族の酸二無水物と、芳香族又は脂環族のジアミンとを溶媒中で公知の手法によりアミド化反応させることにより、製造することができる。ここで、原料として用いる芳香族又は脂環族の酸二無水物及びジアミン化合物は、得ようとするポリアミド酸樹脂の構造に応じて適宜選択すればよい。
【0055】
芳香族酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0056】
脂環族酸二無水物としては、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2、4、5−テトラカルボン酸酸二無水物等が挙げられる。
【0057】
芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’―ビス(4―アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン等が挙げられる。
【0058】
脂環族ジアミンとしては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0059】
また、脂環族ジアミンは、以下の化合物から選択されるものであってもよい。
【化13】
【0060】
アミド化反応は、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気中、室温で攪拌して均一溶液とすることにより進行する。溶媒は、原料として用いる上記芳香族又は脂環族の酸二無水物及びジアミン化合物に応じて適宜選択すればよい。後述する溶媒をポリアミド酸樹脂と混合した場合、アミド化反応で得られた反応液をそのままポリアミド酸樹脂組成物として用いることができる。
【0061】
上記含フッ素ポリイミドフィルムにおいて、ポリアミド酸樹脂は、熱イミド化又は化学イミド化のいずれかによりイミド化される。熱イミド化によりイミド化する場合では、例えば、基材上にポリアミド酸樹脂組成物を塗布した後、窒素雰囲気下で、好ましくは温度100〜400℃、より好ましくは200〜380℃、好ましくは時間0.5〜10時間、より好ましくは0.75〜5時間の条件下で焼成してイミド化反応を行うことにより、含フッ素ポリイミドフィルムとすることができる。
化学イミド化によりイミド化する場合では、後述の脱水環化試薬の使用によりポリアミド酸樹脂組成物中のポリアミド酸樹脂を直接イミド化することができる。化学イミド化処理により得られたポリイミド樹脂組成物は、例えば、基材上に塗布して、窒素雰囲気下、好ましくは100〜400℃、より好ましくは100〜300℃、好ましくは10分〜5時間、より好ましくは30分〜3時間の条件下で焼成して含フッ素ポリイミドフィルムとすることができる。なお、ポリイミド樹脂組成物は、少なくともポリイミド樹脂及び溶媒を含む。該ポリイミド樹脂としては、ポリアミド酸樹脂組成物中のポリアミド酸樹脂をイミド化して得られたポリイミド樹脂溶液から精製されるものを使用することができる。この他、「ポリアミド酸樹脂組成物」又は「ポリイミド樹脂組成物」には、前述の通りに「芳香族」及び/又は「含フッ素」なる用語が含まれるものとする。
【0062】
化学イミド化において、前記脱水環化試薬は、ポリアミド酸樹脂を化学的に脱水環化してポリイミド樹脂とする作用を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。このような脱水環化試薬としては、3級アミンを単独で用いるか、又は、3級アミンとカルボン酸無水物とを組合せて用いることが、イミド化を効率よく促進させうる点で好ましい。
【0063】
3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルエチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも特に、ピリジン、DABCO、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタンが好ましく、DABCOがより好ましい。3級アミンは1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0064】
カルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。カルボン酸無水物は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0065】
前記溶媒としては、溶解性に優れる極性溶媒が好適である。例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、これらの中でも特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチルピロリドンからなる群より選ばれる1種以上であることが、製膜時の溶媒除去が容易である点で好ましい。
【0066】
前記ポリイミド樹脂溶液を調製するに際しては、上述したポリアミド酸樹脂、脱水環化試薬及び溶媒を混合すればよく、混合によりイミド化が進行し、ポリイミド樹脂溶液が得られる。
【0067】
また、芳香族ポリアミド酸の溶液及び脂環族ポリアミド酸の溶液を別々に調製して、これらを混合して、芳香族ポリイミドと脂環族ポリイミドをランダム又は交互に重合させてもよい。
【0068】
ポリアミド酸樹脂の混合量は、ポリイミド樹脂組成物とした際に室温でポリイミド樹脂が析出しない程度の濃度であればよい。かかる観点から、ポリアミド酸樹脂の混合量は、ポリアミド酸樹脂、脱水環化試薬及び溶媒の合計質量に対し、ポリアミド酸樹脂の濃度として45質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。ポリアミド酸樹脂の濃度の下限は特に制限されず、例えば、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上である。いずれにしても、具体的な濃度は予備実験により決定すればよい。
【0069】
脱水環化試薬の混合量は、ポリアミド酸樹脂の混合量に応じて適宜設定すればよく、例えば、脱水環化試薬として3級アミンを用いる場合には、ポリアミド酸樹脂中のアミド単位に対して、0.005当量以上、0.3当量以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01当量以上、0.2当量以下である。3級アミンが0.005当量未満であると、イミド化が充分に進行しない虞があり、一方、0.3当量を超えて添加してもその触媒効果は飽和し経済的に不利になることが懸念される。また脱水環化試薬としてカルボン酸無水物をも併用する場合には、ポリアミド酸樹脂中のアミド単位に対して、カルボン酸無水物を1当量以上、20当量以下とすることが好ましく、より好ましくは1.1当量以上、15当量以下である。カルボン酸無水物が1当量未満であるとアミド結合が残り脱水剤としての効果を十分に発揮できない虞があり、一方、20当量を超えて添加してもその触媒効果は飽和し経済的に不利になることが懸念される。
溶媒の混合量は、ポリアミド酸樹脂の濃度が上述した範囲になるよう適宜設定すればよい。
【0070】
前記ポリイミド樹脂溶液を調製するにあたり、ポリアミド酸樹脂(ポリアミド酸樹脂溶液)、脱水環化試薬及び溶媒の混合順序には、特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸樹脂と溶媒との混合物に対して、脱水環化試薬を直接加えるか、もしくは脱水環化試薬を溶媒に溶解してポリアミド酸樹脂(ポリアミド酸樹脂溶液)に加えるようにすればよい。また、脱水環化試薬として3級アミンとカルボン酸無水物との組合せを用いる場合の両者の混合順序も特に制限されず、例えば、3級アミンとカルボン酸無水物を同時に加えてもよいし、まず何れか一方をポリアミド酸樹脂と溶媒との混合物に加え、ある程度攪拌した後に、他方を加えるようにしてもよい。
【0071】
前記ポリアミド酸樹脂(ポリアミド酸樹脂溶液)、脱水環化試薬及び溶媒の混合は、通常、特段加熱や冷却を行うことなく、好ましくは5〜40℃、より好ましくは20〜30℃で行われるが、イミド化を促進するために必要に応じて100℃程度以下の範囲で加温してもよい。
【0072】
前記ポリアミド酸樹脂(ポリアミド酸樹脂溶液)、脱水環化試薬及び溶媒を混合する際の混合時間は、特に制限されないが、自転公転式混合法を用いた場合には極めて効率よく混合が進むので、例えば1分間〜30分間程度とすることができる。具体的な混合時間は、予備実験により決定すればよい。その後、得られたポリイミド樹脂は、脱水環化触媒等の成分を除去する観点から、アセトンなどの有機溶媒に溶解させて希釈し、水含有メタノール中に再沈させて、精製することもできる。化学的にイミド化したポリイミド樹脂は、溶媒可溶性があるため、精製された粉末状ポリイミド樹脂を合成時とは別の有機溶媒に溶解させてポリイミド樹脂組成物を調製してもよい。
【0073】
以上のようにして得られた樹脂組成物は、繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子を有するポリイミド樹脂を含み、好ましくは、さらに繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子及び1個以上の芳香族環構造を有する芳香族ポリイミド樹脂を含み、より好ましくは、下記式(V)で表される芳香族ポリイミド樹脂を含むポリイミド樹脂組成物である。かかる特定構造を有するポリイミド樹脂は、ポリイミドが本来有する高耐熱性、機械的強度などの特性に加え、生体物質付着防止性及び抗血栓性を発現しうるものである。例えば、生体物質付着防止性及び抗血栓性を発現させるため、ポリイミド樹脂は、フッ素含有量を多くする以外に、芳香族環にフッ素置換基、芳香族置換基等の嵩高い構造を含んでいてもよい。
【0074】
【化14】
[上記式(V)中、X
1、Y
1、Z
1、Z
2、Z
3及びpの定義と好適な具体例は、化合物(I)の定義で説明したものと同様とする。]
【0075】
また、得られた樹脂組成物は、繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子を有するポリイミド樹脂を含み、好ましくは、さらに繰り返し単位構造中に1個以上のフッ素原子及び1個以上の脂環式構造を有する脂環族ポリイミド樹脂を含み、より好ましくは、下記式(VI)〜(VIII)で表される脂環族ポリイミド樹脂を含むポリイミド樹脂組成物である。かかる特定構造を有するポリイミド樹脂は、ポリイミドが本来有する高耐熱性、低摩擦性、機械的強度などの特性に加え、生体物質付着防止性及び抗血栓性を発現しうるものである。また、前記脂環式ポリイミド樹脂は、電荷移動反応が生じないため、着色を低減することが出来る。
【0076】
【化15】
[上記式(VI)中、X
2、Y
2、Z
1、Z
2、Z
3及びpの定義と好適な具体例は、化合物(II)の定義で説明したものと同様とする。]
【0077】
【化16】
[上記式(VII)中、X
3、Y
3、Z
1、及びZ
2の定義と好適な具体例は、化合物(III)の定義で説明したものと同様とする。]
【0078】
【化17】
[上記式(VIII)中、X
4、Y
4、Z
1、Z
2、Z
3、及びZ
4の定義と好適な具体例は、化合物(IV)の定義で説明したものと同様とする。]
【0079】
本発明において、前記含フッ素ポリイミド樹脂は、含フッ素芳香族基及び/又は脂環族基を含むことが好ましい。前記含フッ素芳香族基は、含フッ素芳香族酸二無水物及び含フッ素芳香族ジアミンの一方又は両方に由来することが好適であり、より好ましくは含フッ素芳香族酸二無水物に由来するものである。
【0080】
前記樹脂組成物は、さらに必要に応じて、通常用いられる各種添加剤、例えば、分散剤、有機溶媒、無機充填材、離型剤、カップリング剤、難燃剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有していてもよい。
【0081】
前記樹脂組成物から含フッ素ポリイミドフィルムを製造する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶液流延法、溶液キャスト法などの溶液製膜法;カレンダー法;プレス成形法などが挙げられる。これらの方法のなかでは、当該含フッ素ポリイミドフィルムの生産性に優れていることから、溶液製膜法が好ましい。
【0082】
さらに、前記含フッ素ポリイミドフィルムは、延伸されていてもよい。前記含フッ素ポリイミドフィルムの延伸は、一軸延伸であってもよく、二軸延伸であってもよい。一軸延伸は、縦延伸(フィルムの巻取り方向の延伸)であってもよく、横延伸(フィルムの幅方向の延伸)であってもよい。縦延伸の場合、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸であってもよく、フィルムの幅方向の変化を固定とする固定端一軸延伸であってもよい。二軸延伸は、縦延伸後に横延伸を行なう逐次二軸延伸であってもよく、縦横延伸を同時に行なう同時二軸延伸であってもよい。また、フィルムの厚さ方向の延伸又はフィルムのロールに対して斜め方向の延伸を行なってもよい。延伸方法、延伸温度及び延伸倍率は、目的とする前記含フッ素ポリイミドフィルムの光学特性、機械的強度などに応じて適宜選択することが好ましい。
【0083】
前記含フッ素ポリイミドのコーティング膜を製造する場合において、前記樹脂組成物を基材に塗布する際の塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、スプレイコーティング法、バーコーティング法、フレキソ印刷法、ディップコーティング法等の通常の方法を採用することができる。また前記樹脂組成物を基材に塗布する際の塗布量は、乾燥膜厚が0.1μm以上、500μm以下となるようにすることが好ましく、0.5μm以上、200μm以下となるように調整することがより好ましい。その後、溶媒を除去し、必要に応じて熱イミド化又は化学イミド化された含フッ素ポリイミドフィルムを焼成することでコーティング膜を得ることができる。
【0084】
基材を構成する材料としては、例えば、石英;ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス等の無機ガラス;カーボン;金、銀、銅、シリコン、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステン等の金属;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;環状オレフィン開環重合/水素添加体(COP)、環状オレフィン共重合体(COC)等の環状オレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂;エポキシ樹脂;AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニルエーテル、ポリアセタール(POM)、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン(PEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミド酸(PAA)、ポリアミドイミドアクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂等の樹脂;上記金属、又はその酸化物若しくは混合酸化物等を表面に有するガラス、金属、樹脂;木材等が挙げられる。前記混合酸化物としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)等の透明導電性酸化物、SiO
2等が挙げられる。混合酸化物等を表面に有する金属としては、SiO
2/Si基材等が挙げられる。基材は、板状、フィルム状のいずれも使用できる。
【0085】
含フッ素ポリイミドフィルム又はコーティング膜の全体厚み(基材を含まない)は、0.1μm以上、1mm以下とすることが好ましく、0.5μm以上、500μm以下とすることがより好ましく、1μm以上、200μm以下とすることがさらに好ましい。
【0086】
本発明は、前記コーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物を化学的もしくは熱的にイミド化したものであることを特徴とするフィルム、又は前記コーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物を化学的もしくは熱的にイミド化したものであることを特徴とするコーティング膜に関する。
フィルムは、基材を含んでいても含んでいなくともよいが、接着剤又は接着性ポリイミド等を用いて対象物の目的とする部分に貼り合せることができる。
コーティング膜は、対象物の全体又は一部分を被膜したものであり、対象物と一体化してなるものである。
【0087】
本発明において、含フッ素ポリイミドから得られるフィルム又はコーティング膜の生体物質(例えば蛋白質)付着量は、生体適合性を呈する観点から、1μg/cm
2以下であることが好ましく、より好ましくは0.8μg/cm
2以下、さらに好ましくは0.5μg/cm
2以下、さらにより好ましくは0.45μg/cm
2以下である。上記生体物質付着量の下限は、上記値以下であれば特に限定されないが、例えば0μg/cm
2以上、0.001μg/cm
2以上又は0.002μg/cm
2以上である。
生体物質としては、特に限定されないが、核酸、糖、蛋白質、脂質、ビタミン、ホルモン等が挙げられる。
蛋白質としては、特に限定されないが、アルブミン、免疫グロブリン、フィブリノーゲン等の蛋白質等が挙げられる。なかでも、含フッ素ポリイミドフィルムは、フッ素原子により、親水性の蛋白質の付着をより一層低減してもよい。
脂質としては、特に限定されないが、アシルグリセロール、セラミド、リン脂質、糖脂質、リポ蛋白質、脂肪酸等が挙げられる。
【0088】
本発明のコーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物から得られるフィルム又はコーティング膜は、フッ素原子による非粘着性により抗菌効果を発現することもできる。本発明において、「抗菌効果」とは、菌が付着しても増殖しないか、菌の数が低いレベルで抑えられ、その結果時間経過と共に菌が減少していることをいう。
また、本発明のコーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物から得られるフィルム又はコーティング膜は、フッ素による非粘着性及び撥水性により汚れを寄せ付けない防汚効果を発現することもできる。
【0089】
本発明のコーティング用含フッ素ポリイミド樹脂組成物は、例えば医療用部材(カテーテル、ステント、手袋、ピンセット、容器、ガイド、トレー等)、医療用機器等の医療用として利用できる。また、前記組成物は、細胞培養用のシャーレ、マイクロウェル等のプレート、搬送トレー、容器、タンク、ガイド、食品製造機器、病院、老人ホームや幼稚園の壁や台、食品を取り扱う場所でのコーティング等の用途にも利用可能である。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0091】
<フッ素含有量の測定方法>
元素分析装置(ジェイサイエンス製 マイクロコーダー JM−10)により、ポリイミドフィルム中のフッ素含有量の定量を行った。
【0092】
<イミド化率の測定方法>
FT−IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック製 Nicolet Nexus670)によるフィルム状ポリイミドフィルム分析で、ポリイミドのCN伸縮振動に由来する1370cm
-1付近の吸光度(A(1370cm
-1))とベンゼン環骨格振動に由来する1500cm
-1付近の吸光度(A(1500cm
-1))との吸光度比(A(1370cm
-1)/A(1500cm
-1))を用いて、以下の式に基づいてフィルム状ポリイミドフィルムのイミド化率を算出した。
イミド化率(%)
=[試料フィルム状ポリイミドフィルムの(A(1370cm
-1))/(A(1500cm
-1))]÷[熱処理後の試料フィルム状ポリイミドフィルムの(A(1370cm
-1))/(A(1500cm
-1))]×100
なお、上記「熱処理後の試料フィルム状ポリイミドフィルムの(A(1370cm
-1))/(A(1500cm
-1))」は、試料フィルム状ポリイミドフィルムを、完全イミド化(イミド化率:100%)する温度及び時間の条件で処理したフィルム状ポリイミドフィルムにおける測定値である。
【0093】
<生体物質(蛋白質)付着防止性の評価>
1.検量線の作製
蛋白質濃度の測定には、Micro BCA Protein Assay Kit(販売元 タカラバイオ株式会社)を用いた。0.5〜10μg/cm
3の範囲でアルブミン標準液を調製し、本キットの測定方法に従って測定を行い、検量線を作成した。
【0094】
2.蛋白質付着量の算出
各実施例及び比較例で得られたフィルムを各アルブミン溶液に浸漬し、36.5℃でフィルムへ吸着させる。アルブミンを吸着させたフィルムをリン酸バッファー溶液に浸漬して各フィルム表面に付着した余剰アルブミンを洗浄した。その後、1%のドデシル硫酸ナトリウム溶液へ浸漬し、各フィルムに吸着したアルブミンを抽出した。得られた抽出液を前記のMicro BCA Protein Assay Kit(販売元 タカラバイオ株式会社)を用い、先に作成した検量線により含まれる蛋白質濃度を定量した。
【0095】
<抗血栓性の評価>
血液中の血小板は、血液凝固阻止剤によって凝固が阻止される。しかし、高分子材料等に触れるなどの環境変化により、止血栓として機能する。そのため、血小板の凝着体は、フィブリンの作用により固められ、最終的に凝血となる。抗血栓性試験として、各実施例及び比較例で得られたフィルムを3時間血液中に浸漬した後の、1平方センチメートルあたりの血小板の粘着個数を調べることにより、抗血栓性を評価した。ポリスチレンフィルムの血小板付着量を標準として、以下の通り評価した。
付着量判定:ポリスチレンを基準として付着した血小板数がより多い時を×とし、僅かに少ない時を△とし、大幅に少ない時を○とした。
【0096】
≪調製例1≫
100ml容量の三口フラスコに1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン4.489g(24.9ミリモル)、4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)14.51g(24.9ミリモル)、N−メチルピロリドン31.0gを仕込んだ。窒素雰囲気下、室温で、5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度38.0質量%)を得た。
【0097】
≪調製例2≫
100ml容量の三口フラスコに1,4−ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン2.976g(10.2ミリモル)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物4.524g(10.2ミリモル)、N−メチルピロリドン42.5gを仕込んだ。窒素雰囲気下、室温で、5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。
【0098】
≪調製例3≫
100ml容量の三口フラスコに1,4−シクロヘキサンジアミン1.53g(13.4ミリモル)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物5.97g(13.4ミリモル)、N−メチルピロリドン42.5gを仕込んだ。窒素雰囲気下、室温で、5日間攪拌することで、含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度15.0質量%)を得た。
【0099】
≪比較調製例1≫
100ml容量の三口フラスコに4,4−ジアミノジフェニルエーテル2.393g(12.0ミリモル)、無水ピロメリット酸2.607g(12.0ミリモル)、N−メチルピロリドン45.0gを仕込んだ。窒素雰囲気下、室温で、5日間攪拌することで、フッ素原子を含まないポリアミド酸樹脂組成物(固形分濃度10.0質量%)を得た。
【0100】
≪実施例1≫
調製例1において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後のポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、300℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は36質量%であり、イミド化率は90%であり、水接触角は78°であった。また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行った結果を表1に示す。
【0101】
≪実施例2≫
調製例1において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物20gを100mlガラス容器に移し、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン0.035g(0.31ミリモル)、無水酢酸2.14g(0.02モル)を加え、5分間撹拌反応させた後24時間静置することで、含フッ素ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた含フッ素ポリイミド樹脂溶液をアセトンで希釈し、水及びメタノール中に再沈させて、精製し、得られた粉末状含フッ素ポリイミド樹脂を15%濃度の2−ブタノン溶液に溶解させて含フッ素ポリイミド樹脂組成物を得た。この含フッ素ポリイミド樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが0.5μmとなるようにフィルム状に製膜し、200℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は36質量%であり、イミド化率は98%であり、水接触角は78°であった。また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行った結果を表1に示す。
【0102】
≪実施例3≫
調製例2において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、250℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は17質量%であり、イミド化率は90%であり、水接触角は90°であった。
また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0103】
≪比較例1≫
調製例2において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、50℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は17質量%であり、イミド化率は2%であり、水接触角は72°であった。
また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0104】
≪実施例4≫
調製例2において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物20gを100mlガラス容器に移し、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン0.035g(0.31ミリモル)、無水酢酸2.14g(0.02モル)を加え、5分間撹拌反応させた後24時間静置することで、含フッ素ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた含フッ素ポリイミド樹脂溶液をアセトンで希釈し、水及びメタノール中に再沈させて、精製し、得られた粉末状含フッ素ポリイミド樹脂を15%濃度の2−ブタノン溶液に溶解させて含フッ素ポリイミド樹脂組成物を得た。この含フッ素ポリイミド樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、200℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は17質量%であり、イミド化率は98%であり、水接触角は90°であった。また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0105】
≪実施例5≫
調製例3において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、250℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は22質量%であり、イミド化率は30%であり、水接触角は88°であった。
また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0106】
≪実施例6≫
調製例3において得られた含フッ素ポリアミド酸樹脂組成物20gを100mlガラス容器に移し、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン0.035g(0.31ミリモル)、無水酢酸2.14g(0.02モル)を加え、5分間撹拌反応させた後24時間静置することで、含フッ素ポリイミド樹脂溶液を得た。得られた含フッ素ポリイミド樹脂溶液をアセトンで希釈し、水及びメタノール中に再沈させて、精製し、得られた粉末状含フッ素ポリイミド樹脂を15%濃度の2−ブタノン溶液に溶解させて含フッ素ポリイミド樹脂組成物を得た。この含フッ素ポリイミド樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後の含フッ素ポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、200℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、含フッ素ポリイミドフィルムを得た。得られた含フッ素ポリイミドフィルムのフッ素含有量は22質量%であり、イミド化率は98%であり、水接触角は88°であった。また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0107】
≪比較例2≫
比較調製例1において得られたポリアミド酸樹脂組成物を、基材としてSiウェハ上に、スピンコーター(ミカサ製 1H−DX2)を用いて、焼成後のポリイミドフィルム厚みが20μmとなるようにフィルム状に製膜し、340℃で1時間、窒素雰囲気下で焼成を行った後、Siウェハより剥離し、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムのフッ素含有量は0質量%であり、イミド化率は18%であり、水接触角は68°であった。
また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0108】
≪比較例3≫
比較調製例1において得られたポリアミド酸樹脂組成物を用いて、実施例2と同様にしてポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムのフッ素含有量は0質量%であり、イミド化率は80%であり、水接触角は59°であった。
また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0109】
≪比較例4≫
ポリスチレンからなるフィルムを得た。得られたフィルムのフッ素含有量は0質量%であり、イミド化率は0%であり、水接触角は90°であった。
また、フィルムについて、蛋白質付着性及び抗血栓性の評価を行い、その結果を表1に示す。
【0110】
各実施例及び比較例で作製されたフィルムについて、酸二無水物/ジアミン、化学・熱イミド、焼成温度、フッ素含有量、イミド化率、水接触角と共に、蛋白質付着性及び抗血栓性の結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例1〜6の含フッ素ポリイミドフィルムは、所定のフッ素含有量、イミド化率、水接触角を有し、優れた蛋白質付着防止性及び抗血栓性を示す。特に、実施例3〜6の含フッ素ポリイミドフィルムは、上記式(V)又は(VI)のX
1、X
2としてフッ素置換アルキレン基(−C(CF
3)
2−)を芳香族環に含んで嵩高い構造を有するため、実施例1及び2の水接触角よりも大きな水接触角を示し、優れた蛋白質付着防止性及び抗血栓性を示す。
比較例1は、所定のイミド化率を満足せず、比較例2は、所定のフッ素含有量、イミド化率、水接触角を満足せず、比較例3は、所定のフッ素含有量、水接触角を満足せず、比較例4は、所定のフッ素含有量、イミド化率を満足しないことから、蛋白質付着防止性及び抗血栓性が十分ではない。
比較例2、3のポリイミドフィルムは、フッ素含有量が0質量%であり水接触角も実施例1〜6のものより小さいことから、フッ素含有量が水接触角に寄与することが分かる。
以上のことから、含フッ素ポリイミドフィルムが所定のフッ素含有量、イミド化率及び水接触角の全てを満足すれば、結果として、蛋白質付着防止性及び抗血栓性を向上させることができる。