(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態である車両用変速装置10を備えたパワートレイン11を示す概略図である。
図1に示すように、パワートレイン11は、エンジン12とこれに連結されるトルクコンバータ13とを有している。また、パワートレイン11は、動力分割機構14および無段変速機15によって構成される変速ユニット16を有している。変速ユニット16には前輪出力軸17が連結されており、前輪出力軸17にはギヤ列18を介して後輪出力軸19が連結されている。前輪出力軸17には、デファレンシャル機構を介して前輪(駆動輪)21が連結されている。後輪出力軸19には、図示しないデファレンシャル機構を介して後輪(駆動輪)22が連結されている。このように、エンジン12と駆動輪21,22との間には無段変速機15が設けられている。
【0010】
変速ユニット16を構成する無段変速機15は、プライマリ軸30と、これに平行となるセカンダリ軸31とを有している。無段変速機15のプライマリ軸30には、プライマリプーリ(入力回転体)32が設けられている。プライマリプーリ32には、プーリ溝幅を調整するためのプライマリ室33が設けられている。また、無段変速機15のセカンダリ軸31には、セカンダリプーリ(出力回転体)34が設けられている。セカンダリプーリ34には、プーリ溝幅を調整するためのセカンダリ室35が設けられている。さらに、プライマリプーリ32およびセカンダリプーリ34には駆動チェーン36が巻き掛けられている。プライマリ室33やセカンダリ室35に供給される油圧を調整することにより、プーリ溝幅を変化させて駆動チェーン36の巻き付け径を変化させることが可能となる。このように、プライマリ室33やセカンダリ室35に供給される油圧を調整することにより、無段変速機15の変速比を変化させることが可能となっている。なお、無段変速機15のセカンダリ軸31には、ギヤ列37を介して前輪出力軸17が連結されている。
【0011】
トルクコンバータ13は、エンジン12のクランク軸40に連結されるフロントカバー41を有している。また、トルクコンバータ13は、フロントカバー41に連結されるポンプインペラ42と、ポンプインペラ42に対向するとともにタービン軸43に連結されるタービンランナ44とを有している。また、トルクコンバータ13のタービン軸43には、変速ユニット16を構成する動力分割機構14が連結されている。動力分割機構14は、遊星歯車機構としてダブルピニオン遊星歯車機構45を有している。また、動力分割機構14には、ダブルピニオン遊星歯車機構45の差動状態を制御するため、前進クラッチ(第1クラッチ)46、PSクラッチ(第2クラッチ)47および後退ブレーキ(ブレーキ)48が設けられている。
【0012】
ダブルピニオン遊星歯車機構45は、タービン軸43に連結されるサンギヤ(第1回転要素)Sと、サンギヤSの径方向外方に配置されるリングギヤ(第3回転要素)Rとを備えている。また、ダブルピニオン遊星歯車機構45は、互いに噛み合う一対のピニオンギヤP1,P2と、ピニオンギヤP1,P2を回転自在に支持するとともにプライマリ軸30に接続されるキャリア(第2回転要素)Cとを備えている。なお、ピニオンギヤP1はサンギヤSに噛み合っており、ピニオンギヤP2はリングギヤRに噛み合っている。このダブルピニオン遊星歯車機構45は、速度線図とも呼ばれる共線図上で、サンギヤS、リングギヤR、キャリアCの順に各回転要素が配置された構成を有している。
【0013】
前進クラッチ46は、エンジン12とプライマリプーリ32との間に設けられている。つまり、前進クラッチ46は、エンジン12とプライマリプーリ32とを接続する動力伝達経路上に設けられている。この前進クラッチ46は、タービン軸43に固定されるクラッチドラム50と、キャリアCに固定されるクラッチハブ51とを備えている。クラッチドラム50とクラッチハブ51との間には、クラッチドラム50に組み付けられる摩擦板50aと、クラッチハブ51に組み付けられる摩擦板51aとが設けられている。摩擦板50a,51aを互いに押圧することで前進クラッチ46は締結状態に切り替えられ、摩擦板50a,51aの押圧を解除することで前進クラッチ46は解放状態に切り替えられる。そして、前進クラッチ46を締結状態に切り替えることにより、タービン軸43とキャリアCとは接続される。一方、前進クラッチ46を解放状態に切り替えることにより、タービン軸43とキャリアCとは切り離される。
【0014】
PSクラッチ47は、リングギヤRとセカンダリプーリ34との間に設けられている。つまり、PSクラッチ47は、リングギヤRとセカンダリプーリ34とを接続する動力伝達経路上に設けられている。このPSクラッチ47は、リングギヤRに固定されるクラッチドラム52と、駆動ギヤ53に固定されるクラッチハブ54とを備えている。クラッチドラム52とクラッチハブ54との間には、クラッチドラム52に組み付けられる摩擦板52aと、クラッチハブ54に組み付けられる摩擦板54aとが設けられている。摩擦板52a,54aを互いに押圧することでPSクラッチ47は締結状態に切り替えられ、摩擦板52a,54aの押圧を解除することでPSクラッチ47は解放状態に切り替えられる。そして、PSクラッチ47を締結状態に切り替えることにより、リングギヤRと駆動ギヤ53とは接続される。一方、PSクラッチ47を解放状態に切り替えることにより、リングギヤRと駆動ギヤ53とは切り離される。なお、駆動ギヤ53はプライマリ軸30に対して回転自在に設けられており、駆動ギヤ53に噛み合う従動ギヤ55は前輪出力軸17に固定されている。
【0015】
また、リングギヤRに設けられる後退ブレーキ48は、パワートレイン11のハウジング56に固定されるブレーキドラム57と、リングギヤRに固定されるブレーキハブ58とを備えている。なお、図示する場合には、PSクラッチ47のクラッチドラムと、後退ブレーキ48のブレーキハブ58とが、一体となって固定されている。ブレーキドラム57とブレーキハブ58との間には、ブレーキドラム57に組み付けられる摩擦板57aと、ブレーキハブ58に組み付けられる摩擦板58aとが設けられている。摩擦板57a,58aを互いに押圧することで後退ブレーキ48は締結状態に切り替えられ、摩擦板57a,58aの押圧を解除することで後退ブレーキ48は解放状態に切り替えられる。そして、後退ブレーキ48を締結状態に切り替えることにより、ハウジング56にリングギヤRが固定される。一方、後退ブレーキ48を解放状態に切り替えることにより、ハウジング56からリングギヤRが解放される。
【0016】
続いて、パワートレイン11の制御系60について説明する。
図2はパワートレイン11の制御系60の一部を示すブロック図である。
図2に示すように、パワートレイン11の変速ユニット16を制御するため、制御系60には制御ユニット61が設けられている。制御ユニット61には、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルペダルセンサ62、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキペダルセンサ63、車速を検出する車速センサ64、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ65、セレクトレバーの操作状況を検出するインヒビタスイッチ66等が接続されている。また、パワートレイン11の制御系60には、無段変速機15やクラッチ46〜47等に対して作動油を供給制御するため、複数の電磁バルブおよび油路によって構成されるバルブユニット67が設けられている。バルブユニット67には、動力分割機構14を構成する前進クラッチ46、PSクラッチ47および後退ブレーキ48が油路を介して接続されている。さらに、バルブユニット67には、無段変速機15を構成するプライマリプーリ32およびセカンダリプーリ34が油路を介して接続されている。
【0017】
そして、制御ユニット61は、各種センサ62〜66からの検出信号に基づき変速ユニット16の目標変速比を設定し、目標変速比に応じて設定された制御信号をバルブユニット67に対して出力する。すなわち、制御ユニット61は、クラッチ46,47やブレーキ48を制御することにより、ダブルピニオン遊星歯車機構45の差動状態を制御する遊星歯車制御部として機能している。また、制御ユニット61は、プライマリプーリ32やセカンダリプーリ34を制御することにより、無段変速機15の作動状態を制御する変速機制御部として機能している。なお、制御ユニット61は、制御信号等を演算するCPU、制御プログラム、演算式およびマップデータ等を格納するROM、一時的にデータを格納するRAM等によって構成されている。
【0018】
続いて、前進走行時におけるパワートレイン11の作動状態について説明する。
図3は前進走行時における走行モードの設定領域を示すマップである。
図4(a)は各走行モードにおける前進クラッチ46、PSクラッチ47および後退ブレーキ48の作動状態を示す作動表である。
図4(b)は各走行モードにおけるダブルピニオン遊星歯車機構45の差動状態を示す共線図である。また、
図5はPSモードでのトルクフローを示す説明図である。
図6は直結モードでのトルクフローを示す説明図である。なお、
図4(a)において、「○」はクラッチ46,47やブレーキ48の締結状態を示し、「−」はクラッチ46,47やブレーキ48の解放状態を示している。また、
図5および
図6においては、後輪22に向かうエンジントルクのトルクフローを省略して図示している。
【0019】
図3に示すように、前進走行時に設定される走行モードとして、変速比の大きな第1変速比領域R1において選択されるPSモード(パワースプリットモード)と、第1変速比領域R1よりも変速比の小さな第2変速比領域R2において選択される直結モードとが設定されている。すなわち、最大変速比i1と中間変速比i2との間の第1変速比領域R1においてはPSモードが設定されており、中間変速比i2と最小変速比i3との間の第2変速比領域R2においては直結モードが設定されている。
【0020】
図4(a)に示すように、PSモードにおいては、PSクラッチ47が締結状態に切り替えられ、前進クラッチ46および後退ブレーキ48が解放状態に切り替えられる。このPSモードにおいては、
図5に白抜きの矢印で示すように、サンギヤSに入力されたエンジントルクは、リングギヤRからPSクラッチ47を経て駆動ギヤ53に伝達され、駆動ギヤ53から従動ギヤ55を経て前輪出力軸17に伝達される。また、前輪出力軸17に伝達されたエンジントルクは、前輪出力軸17から前輪21に向けて伝達されるとともに、前輪出力軸17からギヤ列37を経てセカンダリプーリ34に伝達される。そして、セカンダリプーリ34に伝達されたエンジントルクは、セカンダリプーリ34からプライマリプーリ32を経てキャリアCに伝達される。すなわち、PSモードにおいては、タービン軸43からサンギヤSに入力されるエンジントルクと、無段変速機15からキャリアCに戻されるエンジントルクとが、ダブルピニオン遊星歯車機構45で合成されてリングギヤRから前輪出力軸17に出力されている。
【0021】
ここで、
図4(b)に示すように、前輪出力軸17に連結されるリングギヤRの回転速度は、プライマリプーリ32に連結されるキャリアCの回転速度によって制御されている。すなわち、
図4(b)に矢印αで示すように、無段変速機15の変速比(以下、プーリ変速比と記載する)が大きくなるダウンシフト側に無段変速機15を制御し、プライマリプーリ32つまりキャリアCの回転速度を上昇させることにより、前輪出力軸17つまりリングギヤRの回転速度を上昇させることが可能となる。一方、
図4(b)に矢印βで示すように、プーリ変速比が小さくなるアップシフト側に無段変速機15を制御し、プライマリプーリ32つまりキャリアCの回転速度を低下させることにより、前輪出力軸17つまりリングギヤRの回転速度を低下させることが可能となる。すなわち、
図3に示すように、PSモードにおいては、プーリ変速比を最小変速比ODに向けて小さくすることにより、車両用変速装置10の変速比つまり変速ユニット16の変速比(以下、総変速比と記載する)を最大変速比i1に向けて大きくすることが可能となる。また、PSモードにおいては、プーリ変速比を最大変速比Lowに向けて大きくすることにより、総変速比を中間変速比i2に向けて小さくすることが可能となる。このように、PSモードにおいては、無段変速機15のプーリ変速比を制御することにより、最大変速比i1と中間変速比i2との間で総変速比を自在に制御することが可能となる。
【0022】
また、
図4(a)に示すように、直結モードにおいては、前進クラッチ46が締結状態に切り替えられ、PSクラッチ47および後退ブレーキ48が解放状態に切り替えられる。このように、直結モードにおいては、前進クラッチ46が締結されることから、
図4(b)に示すように、サンギヤS、リングギヤRおよびキャリアCは一体となって回転する。この直結モードにおいては、
図6に白抜きの矢印で示すように、タービン軸43から出力されるエンジントルクは、差動運動が禁止されるダブルピニオン遊星歯車機構45を経てプライマリプーリ32に伝達される。そして、プライマリプーリ32に伝達されたエンジントルクは、プライマリプーリ32からセカンダリプーリ34を経て前輪出力軸17に伝達される。このように、直結モードにおいては、タービン軸43とプライマリ軸30とが直結されるため、プーリ変速比の大小関係はそのまま総変速比の大小関係となる。すなわち、
図3に示すように、直結モードにおいては、プーリ変速比を最大変速比Lowに向けて大きくすることにより、総変速比を中間変速比i2に向けて大きくすることが可能となる。また、直結モードにおいては、プーリ変速比を最小変速比ODに向けて小さくすることにより、総変速比を最小変速比i3に向けて小さくすることが可能となる。このように、直結モードにおいては、無段変速機15のプーリ変速比を制御することにより、中間変速比i2と最小変速比i3との間で総変速比を自在に制御することが可能となる。
【0023】
次いで、変速ユニット16の総変速比を、ロー側の最大変速比i1からオーバードライブ側の最小変速比i3に制御する際の手順、つまりアップシフト制御を行う際の手順について説明する。ここで、
図7は総変速比とプーリ変速比との関係を示す説明図である。
図7に符号αで示すように、総変速比を最大変速比i1に制御する際には、走行モードとしてPSモードが選択されるとともに、無段変速機15のプーリ変速比が最小変速比ODに制御される。また、
図7に矢印A1で示すように、総変速比を中間変速比i2に向けてアップシフトさせる際には、PSモードを維持しながらプーリ変速比が最大変速比Lowに向けてダウンシフトされる。そして、
図7に符号βで示すように、総変速比が中間変速比i2に到達すると、PSクラッチ47が解放されて前進クラッチ46が締結され、走行モードがPSモードから直結モードに切り替えられる。続いて、
図7に矢印A2で示すように、総変速比を最小変速比i3に向けてアップシフトさせる際には、直結モードを維持しながらプーリ変速比が最小変速比ODに向けてアップシフトされる。
【0024】
次いで、変速ユニット16の総変速比を、オーバードライブ側の最小変速比i3からロー側の最大変速比i1に制御する際の手順、つまりダウンシフト制御を行う際の手順について説明する。
図7に符号γで示すように、総変速比を最小変速比i3に制御する際には、走行モードとして直結モードが選択されるとともに、無段変速機15のプーリ変速比が最小変速比ODに制御される。また、
図7に矢印B1で示すように、総変速比を中間変速比i2に向けてダウンシフトさせる際には、直結モードを維持しながらプーリ変速比が最大変速比Lowに向けてダウンシフトされる。そして、
図7に符号βで示すように、総変速比が中間変速比i2に到達すると、前進クラッチ46が解放されてPSクラッチ47が締結され、走行モードが直結モードからPSモードに切り替えられる。続いて、
図7に矢印B2で示すように、総変速比を最大変速比i1に向けてダウンシフトさせる際には、PSモードを維持しながらプーリ変速比が最小変速比ODに向けてアップシフトされる。
【0025】
また、図示する車両用変速装置10においては、PSモードでプーリ変速比を最大変速比Lowに制御したときの総変速比と、直結モードでプーリ変速比を最大変速比Lowに制御したときの総変速比とが、ほぼ一致するように、駆動ギヤ53、従動ギヤ55およびギヤ列37のギヤ比が設計されている。これにより、直結モードとPSモードとを滑らかに切り替えることが可能となる。このように、PSモードにおける総変速比の最小値と、直結モードにおける総変速比の最大値とは、中間変速比i2においてほぼ一致しているが、これに限られることはなく、PSモードの総変速比最小値と直結モードの総変速比最大値とをずらして設定しても良い。ここで、
図8は総変速比とプーリ変速比との関係の他の例を示す説明図である。
図8に示すように、PSモードにおける総変速比の最小値iaが、直結モードにおける総変速比の最大値ibよりもオーバードライブ側に設定されるように、駆動ギヤ53、従動ギヤ55およびギヤ列のギヤ比を設定しても良い。この場合には、PSモードにおける総変速比と直結モードにおける総変速比とが交差するタイミングTで、PSモードと直結モードとが切り替えられる。
【0026】
続いて、車両後退時に設定される後退モードについて説明する。
図9は後退モードでのトルクフローを示す説明図である。まず、
図4(a)に示すように、後退モードにおいては、後退ブレーキ48が締結状態に切り替えられ、PSクラッチ47および前進クラッチ46が解放状態に切り替えられる。このように、後退モードにおいては、後退ブレーキ48の締結に伴ってリングギヤRが固定されることから、
図4(b)に示すように、プライマリプーリ32が接続されるキャリアCを逆転方向に回転させることが可能となる。すなわち、
図9に白抜きの矢印で示すように、サンギヤSに入力されたエンジントルクは、リングギヤRが固定されることから、回転方向を反転させてキャリアCからプライマリプーリ32に出力される。そして、プライマリプーリ32に伝達されたエンジントルクは、プライマリプーリ32からセカンダリプーリ34を経て前輪出力軸17に伝達される。このように、後退モードにおいては、プライマリプーリ32の回転方向が前進走行時とは逆向きになり、前輪21や後輪22を後退方向に回転させることが可能となる。
【0027】
これまで説明したように、PSモードと直結モードとを設けることにより、プーリ変速比の変速比幅を維持しながら、総変速比の変速比幅を拡大することが可能となる。これにより、無段変速機15の大型化を抑制しながら、車両用変速装置10の変速比幅を拡大することが可能となる。すなわち、車両用変速装置10においては、ダブルピニオン遊星歯車機構45を構成する回転要素のうち、共線図上で、一端に配置されるサンギヤSをエンジン12に接続し、他端に配置されるキャリアCをプライマリプーリ32に接続している。また、ダブルピニオン遊星歯車機構45を構成する回転要素のうち、共線図上で、サンギヤSとキャリアCとの間に配置されるリングギヤRをセカンダリプーリ34に接続している。これにより、プーリ変速比をアップシフトさせることで総変速比をダウンシフトさせ、プーリ変速比をダウンシフトさせることで総変速比をアップシフトさせるPSモードを設定することが可能となる。このようなPSモードを設定することにより、無段変速機15の大型化を抑制しながら、車両用変速装置10の変速比幅を拡大することが可能となる。
【0028】
また、前述の説明では、エンジン12にサンギヤSを接続してプライマリプーリ32にキャリアCを接続しているが、これに限られることはなく、エンジン12にキャリアCを接続してプライマリプーリ32にサンギヤSを接続しても良い。なお、セレクトレバーをNレンジに操作したときに設定される中立モード(ニュートラルモード)においては、
図4(a)に示すように、PSクラッチ47、前進クラッチ46および後退ブレーキ48の全てが解放状態に切り替えられる。
【0029】
続いて、本発明の他の実施の形態である車両用変速装置70について説明する。
図10は本発明の他の実施の形態である車両用変速装置70を備えたパワートレイン71を示す概略図である。なお、
図10において、
図1に示す部材と同様の部材や部品については、同一の符号を付してその説明を省略する。パワートレイン71は、動力分割機構72および無段変速機15を備える変速ユニット73を有している。変速ユニット73を構成する動力分割機構72は、遊星歯車機構としてラビニョウ遊星歯車機構74を有している。ラビニョウ遊星歯車機構74は、シングルピニオン遊星歯車機構とダブルピニオン遊星歯車機構とを組み合わせるとともに、双方の遊星歯車機構でピニオンギヤPa1が共用される複合型の遊星歯車機構である。また、動力分割機構72には、ラビニョウ遊星歯車機構74の差動状態を制御するため、ハイクラッチ(第1クラッチ)75、ロークラッチ76、PSクラッチ(第2クラッチ)77および後退ブレーキ(ブレーキ)78が設けられている。
【0030】
ラビニョウ遊星歯車機構74は、タービン軸43に連結される第1サンギヤ(第1回転要素)Sa1と、プライマリ軸30にロークラッチ76を介して連結される第2サンギヤ(第2回転要素)Sa2とを備えている。また、第1サンギヤSa1および第2サンギヤSa2の径方向外方には、リングギヤRaが配置されている。第1サンギヤSa1とリングギヤRaとの間には、互いに噛み合う一対のピニオンギヤPa1,Pa2が設けられている。ピニオンギヤPa1はリングギヤRaに噛み合っており、ピニオンギヤPa2は第1サンギヤSa1に噛み合っている。また、第2サンギヤSa2とリングギヤRaとは、ピニオンギヤPa1を介して噛み合っている。また、ラビニョウ遊星歯車機構74は、一対のピニオンギヤPa1,Pa2を回転自在に支持するキャリア(第3回転要素)Caを備えている。このラビニョウ遊星歯車機構74は、速度線図とも呼ばれる共線図上で、第1サンギヤSa1、リングギヤRa、キャリアCa、第2サンギヤSa2の順に各回転要素が配置された構成を有している。
【0031】
ハイクラッチ75は、エンジン12とプライマリプーリ32との間に設けられている。つまり、ハイクラッチ75は、エンジン12とプライマリプーリ32とを接続する動力伝達経路上に設けられている。このハイクラッチ75は、タービン軸43に固定されるクラッチハブ80と、プライマリ軸30に固定されるクラッチドラム81とを備えている。クラッチドラム81とクラッチハブ80との間には、クラッチドラム81に組み付けられる摩擦板81aと、クラッチハブ80に組み付けられる摩擦板80aとが設けられている。摩擦板80a,81aを互いに押圧することでハイクラッチ75は締結状態に切り替えられ、摩擦板80a,81aの押圧を解除することでハイクラッチ75は解放状態に切り替えられる。そして、ハイクラッチ75を締結状態に切り替えることにより、タービン軸43とプライマリ軸30とは接続される。一方、ハイクラッチ75を解放状態に切り替えることにより、タービン軸43とプライマリ軸30とは切り離される。
【0032】
ロークラッチ76は、第2サンギヤSa2とプライマリ軸30との間に設けられている。このロークラッチ76は、第2サンギヤSa2に固定されるクラッチハブ82と、プライマリ軸30に固定されるクラッチドラム83とを備えている。クラッチドラム83とクラッチハブ82との間には、クラッチドラム83に組み付けられる摩擦板83aと、クラッチハブ82に組み付けられる摩擦板82aとが設けられている。摩擦板82a,83aを互いに押圧することでハイクラッチ75は締結状態に切り替えられ、摩擦板82a,83aの押圧を解除することでハイクラッチ75は解放状態に切り替えられる。そして、ロークラッチ76を締結状態に切り替えることにより、第2サンギヤSa2とプライマリ軸30とは接続される。一方、ロークラッチ76を解放状態に切り替えることにより、第2サンギヤSa2とプライマリ軸30とは切り離される。
【0033】
PSクラッチ77は、キャリアCaとセカンダリプーリ34との間に設けられている。つまり、PSクラッチ77は、キャリアCaとセカンダリプーリ34とを接続する動力伝達経路上に設けられている。また、キャリアCaには駆動ギヤ84が固定されており、駆動ギヤ84に噛み合う従動ギヤ85は前輪出力軸17に回転自在に設けられている。PSクラッチ77は、前輪出力軸17に固定されるクラッチハブ86と、クラッチハブ86の外周部に噛み合うクラッチスリーブ87と、従動ギヤ85に固定されるクラッチホイール88を備えている。クラッチスリーブ87にはフォーク部材89が装着されており、フォーク部材89には電動アクチュエータ90が連結されている。電動アクチュエータ90によってクラッチスリーブ87を矢印a方向に移動させると、クラッチスリーブ87はクラッチホイール88に噛み合い、PSクラッチ77は締結状態に切り替えられる。また、電動アクチュエータ90によってクラッチスリーブ87を矢印b方向に移動させると、クラッチスリーブ87はクラッチホイール88から離れ、PSクラッチ77は解放状態に切り替えられる。PSクラッチ77を締結状態に切り替えることにより、キャリアCaと前輪出力軸17とは接続される。一方、PSクラッチ77を解放状態に切り替えることにより、キャリアCaと前輪出力軸17とは接続される。
【0034】
また、リングギヤRaに設けられる後退ブレーキ78は、パワートレイン71のハウジング56に固定されるブレーキドラム91と、リングギヤRaに固定されるブレーキハブ92とを備えている。ブレーキドラム91とブレーキハブ92との間には、ブレーキドラム91に組み付けられる摩擦板91aと、ブレーキハブ92に組み付けられる摩擦板92aとが設けられている。摩擦板91a,92aを互いに押圧することで後退ブレーキ78は締結状態に切り替えられ、摩擦板91a,92aの押圧を解除することで後退ブレーキ78は解放状態に切り替えられる。そして、後退ブレーキ78を締結状態に切り替えることにより、ハウジング56にリングギヤRaが固定される。一方、後退ブレーキ78を解放状態に切り替えることにより、ハウジング56からリングギヤRaが解放される。
【0035】
続いて、パワートレイン71の制御系93について説明する。
図11はパワートレイン71の制御系93の一部を示すブロック図である。なお、
図11において、
図2に示す部材と同様の部材や部品については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図2に示すように、パワートレイン71の変速ユニット73を制御するため、制御系93には制御ユニット61およびバルブユニット67が設けられている。制御ユニット61には、PSクラッチ77を制御する電動アクチュエータ90が接続されている。また、バルブユニット67には、動力分割機構72を構成するハイクラッチ75、ロークラッチ76および後退ブレーキ78が油路を介して接続されている。なお、制御ユニット61は、クラッチ75,76,77やブレーキ78を制御することにより、ラビニョウ遊星歯車機構74の作動状態を制御する遊星歯車制御部として機能している。また、前述の説明では、電動アクチュエータ90を用いてPSクラッチ77を制御しているが、これに限られることはなく、油圧アクチュエータを用いてPSクラッチ77を制御しても良い。
【0036】
続いて、前進走行時におけるパワートレイン71の作動状態について説明する。
図12(a)は各走行モードにおけるハイクラッチ75、ロークラッチ76、PSクラッチ77および後退ブレーキ78の作動状態を示す作動表である。
図12(b)は各走行モードにおけるラビニョウ遊星歯車機構74の差動状態を示す共線図である。また、
図13はPSモードでのトルクフローを示す説明図である。
図14は直結モードでのトルクフローを示す説明図である。なお、
図12(a)において、「○」はクラッチ75〜77やブレーキ78の締結状態を示し、「−」はクラッチ75〜77やブレーキ78の解放状態を示している。また、
図13および
図14においては、後輪22に向かうエンジントルクのトルクフローを省略して図示している。
【0037】
図12(a)に示すように、PSモードにおいては、ロークラッチ76およびPSクラッチ77が締結状態に切り替えられ、ハイクラッチ75および後退ブレーキ78が解放状態に切り替えられる。このPSモードにおいては、
図13に白抜きの矢印で示すように、第1サンギヤSa1に入力されたエンジントルクは、キャリアCaから駆動ギヤ84を経て従動ギヤ85に伝達され、従動ギヤ85からPSクラッチ77を経て前輪出力軸17に伝達される。また、前輪出力軸17に伝達されたエンジントルクは、前輪出力軸17から前輪21に向けて伝達されるとともに、前輪出力軸17からギヤ列37を経てセカンダリプーリ34に伝達される。そして、セカンダリプーリ34に伝達されたエンジントルクは、セカンダリプーリ34からプライマリプーリ32およびロークラッチ76を経て第2サンギヤSa2に伝達される。すなわち、PSモードにおいては、タービン軸43から第1サンギヤSa1に入力されるエンジントルクと、無段変速機15から第2サンギヤSa2に戻されるエンジントルクとが、ラビニョウ遊星歯車機構74で合成されてキャリアCaから前輪出力軸17に出力されている。
【0038】
ここで、
図12(b)に示すように、前輪出力軸17に連結されるキャリアCaの回転速度は、プライマリプーリ32に連結される第2サンギヤSa2の回転速度によって制御されている。すなわち、
図12(b)に矢印αで示すように、プーリ変速比が大きくなるダウンシフト側に無段変速機15を制御し、プライマリプーリ32つまり第2サンギヤSa2の回転速度を上昇させることにより、前輪出力軸17つまりキャリアCaの回転速度を上昇させることが可能となる。一方、
図12(b)に矢印βで示すように、プーリ変速比が小さくなるアップシフト側に無段変速機15を制御し、プライマリプーリ32つまり第2サンギヤSa2の回転速度を低下させることにより、前輪出力軸17つまりキャリアCaの回転速度を低下させることが可能となる。すなわち、前述した
図3に示すように、PSモードにおいては、プーリ変速比を最小変速比ODに向けて小さくすることにより、総変速比を最大変速比i1に向けて大きくすることが可能となる。また、PSモードにおいては、プーリ変速比を最大変速比Lowに向けて大きくすることにより、総変速比を中間変速比i2に向けて小さくすることが可能となる。このように、PSモードにおいては、無段変速機15のプーリ変速比を制御することにより、最大変速比i1と中間変速比i2との間で総変速比を自在に制御することが可能となる。
【0039】
また、
図12(a)に示すように、直結モードにおいては、ハイクラッチ75が締結状態に切り替えられ、ロークラッチ76、PSクラッチ77および後退ブレーキ78が解放状態に切り替えられる。この直結モードにおいては、
図6に白抜きの矢印で示すように、タービン軸43から出力されたエンジントルクは、締結されるハイクラッチ75を経てプライマリプーリ32に伝達される。そして、プライマリプーリ32に伝達されたエンジントルクは、プライマリプーリ32からセカンダリプーリ34を経て前輪出力軸17に伝達される。このように、直結モードにおいては、タービン軸43とプライマリ軸30とが直結されるため、プーリ変速比の大小関係はそのまま総変速比の大小関係となる。すなわち、
図3に示すように、直結モードにおいては、プーリ変速比を最大変速比Lowに向けて大きくすることにより、総変速比を中間変速比i2に向けて大きくすることが可能となる。また、直結モードにおいては、プーリ変速比を最小変速比ODに向けて小さくすることにより、総変速比を最小変速比i3に向けて小さくすることが可能となる。このように、直結モードにおいては、無段変速機15のプーリ変速比を制御することにより、中間変速比i2と最小変速比i3との間で総変速比を自在に制御することが可能となる。
【0040】
次いで、変速ユニット73の総変速比を、ロー側の最大変速比i1からオーバードライブ側の最小変速比i3に制御する際の手順、つまりアップシフト制御を行う際の手順について説明する。
図7に符号αで示すように、総変速比を最大変速比i1に制御する際には、走行モードとしてPSモードが選択されるとともに、無段変速機15のプーリ変速比が最小変速比ODに制御される。また、
図7に矢印A1で示すように、総変速比を中間変速比i2に向けてアップシフトさせる際には、PSモードを維持しながらプーリ変速比が最大変速比Lowに向けてダウンシフトされる。そして、
図7に符号βで示すように、総変速比が中間変速比i2に到達すると、ロークラッチ76およびPSクラッチ77が解放されてハイクラッチ75が締結され、走行モードがPSモードから直結モードに切り替えられる。続いて、
図7に矢印A2で示すように、総変速比を最小変速比i3に向けてアップシフトさせる際には、直結モードを維持しながらプーリ変速比が最小変速比ODに向けてアップシフトされる。
【0041】
次いで、変速ユニット73の総変速比を、オーバードライブ側の最小変速比i3からロー側の最大変速比i1に制御する際の手順、つまりダウンシフト制御を行う際の手順について説明する。
図7に符号γで示すように、総変速比を最小変速比i3に制御する際には、走行モードとして直結モードが選択されるとともに、無段変速機15のプーリ変速比が最小変速比ODに制御される。また、
図7に矢印B1で示すように、総変速比を中間変速比i2に向けてダウンシフトさせる際には、直結モードを維持しながらプーリ変速比が最大変速比Lowに向けてダウンシフトされる。そして、
図7に符号βで示すように、総変速比が中間変速比i2に到達すると、ハイクラッチ75が解放されてロークラッチ76およびPSクラッチ77が締結され、走行モードが直結モードからPSモードに切り替えられる。続いて、
図7に矢印B2で示すように、総変速比を最大変速比i1に向けてダウンシフトさせる際には、PSモードを維持しながらプーリ変速比が最小変速比ODに向けてアップシフトされる。
【0042】
また、図示する車両用変速装置70においては、PSモードでプーリ変速比を最大変速比Lowに制御したときの総変速比と、直結モードでプーリ変速比を最大変速比Lowに制御したときの総変速比とが、ほぼ一致するように、駆動ギヤ84、従動ギヤ85およびギヤ列37のギヤ比が設計されている。これにより、直結モードとPSモードとを滑らかに切り替えることが可能となる。このように、PSモードにおける総変速比の最小値と、直結モードにおける総変速比の最大値とは、中間変速比i2においてほぼ一致しているが、これに限られることはない。すなわち、前述した
図8に示すように、PSモードにおける総変速比の最小値iaが、直結モードにおける総変速比の最大値ibよりもオーバードライブ側に設定されるように、駆動ギヤ84、従動ギヤ85およびギヤ列37のギヤ比を設定しても良い。
【0043】
続いて、車両後退時に設定される後退モードについて説明する。
図15は後退モードでのトルクフローを示す説明図である。まず、
図12(a)に示すように、後退モードにおいては、PSクラッチ77および後退ブレーキ78が締結状態に切り替えられ、ロークラッチ76およびハイクラッチ75が解放状態に切り替えられる。このように、後退モードにおいては、後退ブレーキ78の締結に伴ってリングギヤRaが固定されることから、
図12(b)に示すように、前輪出力軸17が接続されるキャリアCaを逆転方向に回転させることが可能となる。すなわち、
図9に白抜きの矢印で示すように、第1サンギヤSa1に入力されたエンジントルクは、リングギヤRaが固定されることから、回転方向を反転させてキャリアCaから駆動ギヤ84に伝達される。そして、駆動ギヤ84に伝達されたエンジントルクは、従動ギヤ85からPSクラッチ77を経て前輪出力軸17に伝達される。このように、後退モードにおいては、前輪出力軸17の回転方向が前進走行時とは逆向きになり、前輪21や後輪22を後退方向に回転させることが可能となる。
【0044】
これまで説明したように、PSモードと直結モードとを設けることにより、プーリ変速比の変速比幅を維持しながら、総変速比の変速比幅を拡大することが可能となる。これにより、無段変速機15の大型化を抑制しながら、車両用変速装置70の変速比幅を拡大することが可能となる。すなわち、車両用変速装置70においては、ラビニョウ遊星歯車機構74を構成する回転要素のうち、共線図上で、一端に配置される第1サンギヤSa1をエンジン12に接続し、他端に配置される第2サンギヤSa2をプライマリプーリ32に接続している。また、ラビニョウ遊星歯車機構74を構成する回転要素のうち、共線図上で、第1サンギヤSa1と第2サンギヤSa2との間に配置されるキャリアCaをセカンダリプーリ34に接続している。これにより、プーリ変速比をアップシフトさせることで総変速比をダウンシフトさせ、プーリ変速比をダウンシフトさせることで総変速比をアップシフトさせるPSモードを設定することが可能となる。このようなPSモードを設定することにより、無段変速機15の大型化を抑制しながら、車両用変速装置70の変速比幅を拡大することが可能となる。
【0045】
また、前述の説明では、エンジン12に第1サンギヤSa1を接続してプライマリプーリ32に第2サンギヤSa2を接続しているが、これに限られることはなく、エンジン12に第2サンギヤSa2を接続してプライマリプーリ32に第1サンギヤSa1を接続しても良い。また、セカンダリプーリ34にキャリアCaを接続しているが、これに限られることはなく、セカンダリプーリ34にリングギヤRaを接続しても良い。ラビニョウ遊星歯車機構74において、リングギヤRaは、共線図上で第1サンギヤSa1と第2サンギヤSa2との間に配置される回転要素である。なお、セレクトレバーをNレンジに操作したときに設定される中立モード(ニュートラルモード)においては、
図12(a)に示すように、ハイクラッチ75、ロークラッチ76、PSクラッチ77および後退ブレーキ78が解放状態に切り替えられる。また、PSクラッチ77は解放状態に切り替えられているが、これに限られることはなく、PSクラッチ77は締結されていても良い。
【0046】
前述の説明では、無段変速機としてチェーン式の無段変速機15を用いているが、これに限られることはなく、ベルト式の無段変速機を用いても良く、トロイダル式の無段変速機を用いても良い。また、前述の説明では、PSクラッチ77として噛合クラッチを用いているが、これに限られることはなく、PSクラッチ77として摩擦クラッチを採用しても良い。さらに、他のクラッチ46,47,75,76として噛合クラッチを採用しても良く、後退ブレーキ48,78として噛合ブレーキを採用しても良い。
【0047】
前述の説明では、遊星歯車機構としてダブルピニオン遊星歯車機構45とラビニョウ遊星歯車機構74とを挙げているが、これに限られることはなく、遊星歯車機構として例えばシングルピニオン遊星歯車機構を採用しても良い。シングルピニオン遊星歯車機構においては、共線図上で、サンギヤ、リングギヤ、キャリアの順に各回転要素が配置されている。シングルピニオン遊星歯車機構を用いる場合には、サンギヤがエンジン12またはプライマリプーリ32の一方に接続され、キャリアがエンジン12またはプライマリプーリ32の他方に接続され、リングギヤがセカンダリプーリ34に接続される。これにより、前述したPSモードを設定して車両用変速装置の変速比幅を拡大することが可能となる。
【0048】
前述した車両用変速装置10,70においては、プーリ変速比を最大変速比Lowまで制御してから、PSモードと直結モードとの間で走行モードを切り替えているが、これに限られることはなく、任意のプーリ変速比において走行モードを切り替えても良い。例えば、
図7に矢印Xで示すように、急制動等が行われたときには、プーリ変速比を最大変速比Lowまで制御することなく、直結モードからPSモードに切り替えることにより、素早く総変速比をロー側に制御しても良い。なお、図示する車両用変速装置10,70は四輪駆動用の車両用変速装置であるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や後輪駆動用の車両用変速装置であっても良いことは言うまでもない。