(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載された複合膜の製造方法であって、前記P型半導体粒子と前記N型半導体粒子の混合物をエアロゾルデポジション法によって前記基板に吹き付けることを特徴とする複合膜の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら前述したような従来の方法においては、無機半導体膜形成工程、有機半導体層含有溶液の含浸工程、乾燥工程などの多数の工程からなり、製造工程が比較的煩雑になることが課題として挙げられる。
【0007】
一方、前記複合膜の製造方法としては前述のように、例えば、N型半導体である無機半導体膜とP型半導体である有機半導体膜を個別に形成する方法もあるが、他にも、P型半導体粒子とN型半導体粒子をともに溶媒に分散させ、それを基板(基材)に塗布し、その加熱することにより導体粒子を焼結させる方法もある。
しかしながら、P型半導体粒子とN型半導体粒子をともに溶媒に分散させたペーストを焼き固める場合は、焼結工程の際に、例えば有機半導体粒子を使用した場合には有機半導体粒子が変質してしまい、その機能が失われるおそれがあった。一方で、低温域で焼結した場合には、例えば、無機半導体粒子を使用した場合には、無機半導体粒子の焼結が不十分となるおそれがあった。
【0008】
ここで、太陽電池やディスプレイ等の製造を行う際に、大面積の成膜対象物に薄膜を成膜する方法として、粉体吹付法が知られている。粉体吹付法は、成膜原料を粉体(以下、原料粉体という)にして、ガスによって成膜対象物に吹き付けることで、衝突エネルギーや熱、電気等の補助エネルギーを利用して成膜対象物上に成膜する方法である。このような粉体吹付法としては、例えばスプレー法、コールドスプレー法、静電スプレー法、溶射法、エアロゾルデポジション法(以下、AD法という)が知られている。AD法では、原料粉体の吹き付け時の条件を調整することによって、薄膜を多孔質膜にすることが可能になっている。
【0009】
AD法等の粉体吹付法においては、薄膜の多孔質性や緻密度、薄膜と成膜対象物との密着性等の膜質は、原料粉体の平均粒径、硬度の選定と、ガスの流量、原料粉体の吹き付け速度等の成膜条件によって制御できる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、P型半導体とN型半導体からなる複合膜の形成において、それぞれの半導体が均質に分散された複合膜を容易に成膜可能な複合膜の製造方法の提案を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]P型半導体とN型半導体からなる複合膜の製造方法であって、前記P型半導体粒子と前記N型半導体粒子を、気体によって基板に吹き付けることからなる複合膜の製造方法。
[2]上記[1]に記載された複合膜の製造方法であって、前記P型半導体もしくは前記N型半導体の一方が多孔体であることを特徴とする複合膜の製造方法。
[3]上記[1]または[2]に記載された複合膜の製造方法であって、前記P型半導体及び前記N型半導体において、一方の半導体が無機物からなる無機半導体であり、他方の半導体が有機物からなる有機半導体であることを特徴とする複合膜の製造方法。
[4]上記 [3]に記載された複合膜の製造方法であって、前記無機半導体粒子の粒径が1nm〜100μmであることを特徴とする複合膜の製造方法。
[5]上記 [3]または[4]に記載された複合膜の製造方法であって、前記有機半導体粒子の粒径が1nm〜100μmであることを特徴とする複合膜の製造方法。
[6]上記 [3]〜[5]の何れか一項に記載された複合膜の製造方法であって、前記無機半導体粒子が、異なる平均粒子径を有する少なくとも2種の微粒子からなることを特徴とする複合膜の製造方法。
[7]上記 [3]〜[6]の何れか一項に記載された複合膜の製造方法であって、前記無機半導体が、酸化チタンであることを特徴とする複合膜の製造方法。
[8]上記 [3]〜[7]の何れか一項に記載された複合膜の製造方法であって、前記有機半導体が、導電性高分子であることを特徴とする複合膜の製造方法。
[9]上記[3]〜[8]の何れか一項に記載された複合膜の製造方法であって、前記有機半導体粒子の硬度よりも、前記無機半導体粒子の硬度の方が大きいことを特徴とする複合膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合膜の製造方法を用いると、P型半導体粒子とN型半導体粒子を、気体によって同時に基板に吹き付けるため、一つの工程で複合膜を作成できる。そのため、比較的簡易な工程で複合膜を作成することができる。さらに、例えば、P型半導体として無機物からなる無機半導体を、N型半導体として有機物からなる有機半導体を用いた場合、無機半導体と有機半導体を同時に製膜していくため、例えば無機半導体層のほうが多孔体となった場合、その細孔内に十分に有機半導体層が充填された構造をとることができ、それぞれの半導体粒子が均質に分散された複合膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態である複合膜の製造方法を、太陽電池の電極の製造方法に適用したものを例にして、
図1を参照して説明する。尚、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更できる。
【0015】
図1は、本実施形態である複合膜の製造方法(以下、単に成膜方法ともいう。)に適用可能な成膜装置60の模式図である。但し、本実施形態の成膜方法に用いる成膜装置は、基材に複合膜の原料である粉体を吹き付けることができる装置であればよく、
図1に示す構成に限定されない。
【0016】
成膜装置60は、ガスボンベ55と、搬送管56と、ノズル52と、基台63と、成膜室51と、を備えている。
ガスボンベ55には、原料粉体54を加速させて基材53に吹き付けるためのガス(以下、搬送ガスという)が収容されている。
ガスボンベ55には、搬送管56の一端が接続されている。ガスボンベ55から供給される搬送ガスは、搬送管56に供給される。
【0017】
搬送管56には、前段側から順に、マスフロー制御器57と、エアロゾル発生器58と、搬送ガス中の原料粉体54の分散具合を適度に調整できる解砕器59及び分級器61とが設けられている。但し、
図1は太陽電池の製造に適用可能な成膜装置の構成を例示しているものであって、ガスボンベ55とノズル52の間の構成は、
図1に示す構成に限定されず、原料粉体54の材質や薄膜の用途に応じて適宜変更できる。
【0018】
マスフロー制御器57は、ガスボンベ55から搬送管56に供給される搬送ガスの流量を調整するものであり、一般に使用されているマスフローコントローラ等を用いることができる。
エアロゾル発生器58には、原料粉体54が装填されている。なお、太陽電池として色素増感型を製造する場合においては、原料粉体54への増感色素の吸着は、エアロゾル発生器58に装填する前に行われてもよく、エアロゾル発生器58内で行われてもよい。
原料粉体54はマスフロー制御器57から供給された搬送ガス中に分散されて、解砕器59及び分級器61へ搬送される。
【0019】
ノズル52は、図示略の開口部が基台63上のシート状の基材(以降、単に基材という)53に対向するように配置されている。ノズル52には、搬送管56の他端が接続されている。原料粉体54を含んで解砕器59及び分級器61から搬送された搬送ガスは、ノズル52の開口部から基材53に噴射される。ノズル52の開口部は、薄膜の平面視形状や基材53の大きさ等を勘案して適宜決めればよい。
【0020】
基台63は、ノズル52に対向して設置されている。基台63の上面73には、基材53の一面72が当接するように、基材53が載置されている。また、基材53における基台63と反対側の面71は、ノズル52の開口部に対向している。そのため、ノズル52から搬送ガスと共に噴射される原料粉体54が基材53の基台63と反対側の面(以下、成膜面という)71に衝突して、成膜面71に原料粉体からなる薄膜が成膜される。
【0021】
成膜装置60の基台63は、一種類の部材から構成される基台63である。基台63Aは、原料粉体54の成膜面71への密着性をより高め、且つ、成膜面71上に良好な多孔質膜を成膜可能な部材で構成されている。成膜面71上に成膜される薄膜(複合膜)の多孔質性は、原料粉体54の平均粒径と原料粉体54の成膜面71への衝突エネルギーに大きく依存する。そのため、基台63を構成する部材は、原料粉体54の平均粒径、硬度、吹き付け速度に応じて、原料粉体54同士の衝突エネルギーが適度に制御される材質である。
【0022】
基材53は、原料粉体54が成膜面71に衝突した際に成膜面71に食い込んで且つ貫通せずに原料粉体54と密着可能な材質であれば、特に限定されず、原料粉体54の材質、ノズル52からの原料粉体54の吹き付け速度等の成膜条件、及び、薄膜の使用用途に応じて適宜選択できる。
【0023】
成膜室51は、減圧雰囲気内で基材53に成膜を行うために設けられている。そのため、成膜室51には真空ポンプ62が接続されており、必要に応じて成膜室51内が減圧される。
【0024】
尚、ガスボンベ55からノズル52に至る搬送管56で連結された全ての構成が成膜室51に収容されていてもよいが、成膜室51内を減圧雰囲気にするための所要時間と薄膜の製造コストの増大を抑える点から、成膜室51はできる限り小さい方がよく、
図1に示すように、ノズル52と基台63と基材53のみが収容されていることが好ましい。
また、成膜室51は、図示略の基台交換手段を備えている。
【0025】
次いで、成膜装置60を用いた本実施形態複合膜の製造方法について説明する。
【0026】
本実施形態に係る複合膜の製造方法は、例えば上述したような成膜装置60を用いたP型半導体とN型半導体からなる複合膜の製造方法であって、前記P型半導体粒子と前記N型半導体粒子とからなる原料粉体54を、気体(搬送ガス)によって基板(基材)に吹き付ける方法である。
なお、P型半導体及びN型半導体のそれぞれは、ともに無機物からなる半導体、もしくはともに有機物からなる半導体を用いることが可能であるが、本実施形態において、一方の半導体が無機物からなる無機半導体であり、他方の半導体が有機物からなる有機半導体であることが好ましい。
以下、P型半導体として有機半導体を、そしてN型半導体として無機半導体を用いた複合膜の製造方法を例に挙げ詳細に説明する。
図1を用いて説明すると、まず無機半導体微粒子と有機半導体粒子とからなる原料粉体54をエアロゾル発生器58に納め、そこに搬送管56を通して搬送ガスを導入することで原料粉体54をエアロゾル化する。次に、基板53が設置されている成膜室51とエアロゾル発生器58との間に、真空ポンプ62によって圧力差を設けることで、このエアロゾル化した原料粉体54を搬送管56を通して成膜室51へ搬送し、基台63に設置された基板53に吹き付けることで、複合膜を製造する。
以下、本実施形態に係る複合膜の製造方法における条件等を、より詳細に説明する。
【0027】
先ず、成膜室51内に基台63を設置する。本実施形態の製造方法では、基台63として、原料粉体54や基材53の材質及び成膜条件を勘案し、原料粉体54である無機半導体微粒子と有機半導体粒子それぞれの平均粒径に応じて、基材53の成膜面71の上に多孔質膜を成膜可能な適度な硬度を有する部材を選択する。基台63の硬度が低すぎると、原料粉体54が成膜面71に衝突したときの衝突エネルギーが低下し、原料粉体54の成膜時に原料粉体54同士の接合が不十分になり、複合膜の密着性が低下してしまうため、好ましくない。一方、基台63の硬度が高すぎると、原料粉体54が成膜面71に衝突したときの衝突エネルギーが過剰に高まり、緻密な膜が形成されるため、好ましくない。このような適度な硬度を有する部材としては、例えばポリ四フッ化エチレンが挙げられるが、特に限定されない。
【0028】
次に、基台63の上面73に基材53を載置して基材53の成膜面71をノズル52の開口部に対向させる。基材53には、原料粉体54が成膜面71に衝突したときに原料粉体54を食い込ませ、原料粉体54との密着性を高めることが可能な適度に柔らかい材質を用いる。しかしながら、基材53が柔らか過ぎると、原料粉体54が成膜面71に衝突したときに基材53を貫通し、基材53を破断させてしまうため、好ましくない。一方、基材53の材質が硬いと、原料粉体54が成膜面71に衝突したときに基材53の内部に充分食い込まず、原料粉体54と基材53との密着性が低下してしまうため、好ましくない。このような適度に柔らかい部材としては、基材として一般に使用されている樹脂材料等を用いればよく、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)或いはPEN(ポリエチレンナフタレート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
次に、真空ポンプ62を稼動させて成膜室51内を減圧する。成膜室51内の圧力は、例えば、5〜1000Paに設定することが好ましい。これにより、成膜室51内に対流を発生させることなく、ノズル52の開口部から原料粉体54を成膜面71の所定の箇所に吹き付けることができる。
【0030】
次に、ガスボンベ55から搬送ガスを搬送管56へ供給し、搬送ガスの流速及び流量をマスフロー制御器57で調整する。
搬送ガスとしては、例えば、O
2、N
2、Ar、He、または空気など一般的なガスを用いることができるが、原料粉体54を構成する無機半導体粒子及び有機半導体粒子の種類に応じて適宜選択できる。
搬送ガスの流速及び流量は、ノズル52から吹き付ける原料粉体54の材質、平均粒径、流速及び流量に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
次に、無機半導体粒子及び有機半導体粒子からなる原料粉体54をエアロゾル発生器58に装填する。
原料粉体54をエアロゾル発生器58に装填する方法は特に限定しないが、無機半導体粒子及び有機半導体粒子はエアロゾル発生器58に装填する前に混合されていることが好ましい。このように、無機半導体粒子及び有機半導体粒子を事前に混合しておくことにより、均質な複合膜を形成することができる。なお、有機半導体粒子と無機半導体粒子を別々のノズルより吹き付ける場合は予め混合していなくてもよい。
無機半導体微粒子と有機半導体の混合方法は特に制限されないが、例えば、無機半導体と有機半導体を適当な溶媒に分散させたのち、溶媒を蒸発させることで混合することができる。また、無機半導体微粒子と有機半導体をあらかじめ化学結合させておくこともできる。
また、無機半導体粒子と有機半導体粒子の混合比は特に限定せず、原料粉体54として用いる材料や平均粒径に応じて適宜決定すればよい。なお、複合膜における無機半導体粒子と有機半導体粒子との均質化の観点から、無機半導体粒子と有機半導体粒子の混合比は1:99〜99:1の範囲とすることが好ましい。
なお、本実施形態においては、予め増感色素を無機半導体粒子に吸着させておき、エアロゾル発生器58に装填してもよい。
【0032】
無機半導体としてはN型の無機半導体を用いることができる。材料としては例えば、TiO
2、ZnOなどの酸化物半導体や、CdSe、CdTeなどの化合物半導体を用いることができるが、特に限定されず、複合膜の用途に応じて適宜選択できる。
無機半導体粒子の粒径は、1nm〜100μmの範囲であることが好ましい。無機半導体粒子の粒径が小さすぎると、吹付時の衝突エネルギーが十分ではなくなり基板への密着性が不足するおそれがあり好ましくない。一方、無機半導体粒子の粒径が大きすぎると無機半導体と有機半導体との界面の面積が不十分となるおそれがあり好ましくない。これらの観点から、無機半導体粒子の粒径は1nm〜100μmとすることが好ましく、より好ましくは10nm〜10μmの範囲である。
なお、原料粉体54を構成する無機半導体粒子は、異なる平均粒子径を有する少なくとも2種の微粒子からなることが好ましい。このように、無機半導体粒子として、粒子サイズの異なる多種類の微粒子を採用することにより、無機半導体と有機半導体の界面の面積を保ちつつ基板への密着性を保つことができる。
【0033】
有機半導体としてはP型の有機半導体を用いることができる。材料としては低分子系の有機半導体や高分子系の有機半導体を例示でき、具体的には、例えば、低分子系の有機半導体としてはペンタセン誘導体やペリレン誘導体、ピレン誘導体などが挙げられる。また、高分子系の有機半導体としては、P3HT、polyaniline、PEDOTを挙げることができる。しかしながら、本実施形態に係る有機半導体としてはこれらの材料に特に限定されず、複合膜の用途に応じて適宜選択できる。
また、例えば、本実施形態に係る複合膜を色素増感太陽電池の電極への応用を想定した場合、有機半導体粒子の材料としては、可視光領域に光吸収を有する物質を有する材料を用いることが好ましく、具体的には300nm〜1000nmの波長領域に吸収を示す有機半導体を用いることが望ましい。このように、有機半導体粒子の材料として可視光領域に光吸収を有する物質を有する材料を用いることで、増感色素を用いることなく色素増感太陽電池の電極を製造でき、製造コストを抑制できるとともに製造プロセスを簡素化させることができる。
有機半導体粒子の粒径は、1nm〜100μmの範囲であることが好ましい。有機半導体粒子の粒径が小さすぎると吹付時の衝突エネルギーが十分ではなくなり基板への密着性が不足するおそれがあり好ましくない。一方、有機半導体粒子の粒径が大きすぎると無機半導体と有機半導体との界面の面積が不十分となるおそれがあり好ましくない。これらの観点から、有機半導体粒子の粒径は1nm〜100μmとすることが好ましく、より好ましくは10nm〜10μmの範囲である。
【0034】
無機半導体粒子の硬度は、有機半導体粒子の硬度よりも大きいことが好ましい。こうすることにより、無機半導体粒子と有機半導体粒子を基材53に吹き付けた際、無機半導体粒子間に有機半導体粒子をより充填することができる。つまり、有機半導体粒子の硬度を無機半導体粒子よりも小さくすることにより、基材53に吹き付けた際に有機半導体粒子の方がより潰されやすくなり、その結果、有機半導体粒子を無機半導体粒子間に十分に充填させることができる。
【0035】
続いて、原料粉体54をエアロゾル発生器58に装填した後は、搬送管56内を流れる搬送ガス中に原料粉体54を分散させて、加速する。
【0036】
次に、ノズル52の開口部から、亜音速から超音速の速度で原料粉体54を噴射させて基材53の成膜面71に積層する。この際、原料粉体54の成膜面71への吹き付け速度は、例えば、10〜1000m/sに設定できるが、特にこの速度に限定されず、基材53の材質に応じて設定することが好ましい。
【0037】
原料粉体54の成膜面71への吹き付け方法については
図1に示すように、有機半導体粒子と無機半導体粒子をともにエアロゾル発生器58に装填し、1つのノズルより吹きつけてもよいが、有機半導体粒子と無機半導体粒子を別々のノズル(不図示)より吹き付けてもよい。またこのように、有機半導体粒子と無機半導体粒子それぞれを別々のノズルを用いて噴射する場合は、有機半導体粒子と無機半導体粒子を同時に噴射して吹きつけてもよいし、交互に噴射して吹き付けてもよい。
【0038】
ノズル52の開口部から噴射された直後の原料粉体54は、一定の衝突エネルギーをもって、基材53の成膜面71に衝突する。基材53には適度に柔らかい材質を用いているため、衝突した原料粉体54は基材53内に食い込んで基材53に密着する。
【0039】
この後、原料粉体54の複合膜が所定の膜厚になるまで、ノズル52の開口部からの原料粉体54の吹き付けを継続する。これにより、基材53の成膜面71に食い込んだ原料粉体54に対して、次々に原料粉体54を衝突させて、原料粉体54同士の衝突によって互いの原料粉体54の表面に新生面を形成し、この新生面において原料粉体54同士を接合させる。
【0040】
以上の工程により、基材53の成膜面71の上に無機半導体粒子と有機半導体粒子とからなる原料粉体54を接合させた複合膜を形成できる。また、以上の工程によって、無機半導体粒子と有機半導体粒子のどちらか一方の半導体を多孔体とし、その多孔体内に他方の半導体粒子を均質分散させた状態である複合膜を形成することができる。
また、原料粉体54からなる複合膜と基材53との密着性をより高めることができる。尚、原料粉体54同士の衝突時は原料粉体54が溶融するような温度上昇は生じないため、新生面には、ガラス質からなる粒界層は形成されない。
【0041】
原料粉体54の多孔質膜が所定の膜厚になった時点で、ノズル52からの原料粉体54の吹き付けを停止する。
以上の工程により、基材53の成膜面71の上に原料粉体54からなる所定の膜質及び膜厚の薄膜が成膜される。
【0042】
上記説明したように、本実施形態の複合膜の製造方法では、無機半導体粒子と有機半導体粒子からなる原料粉体を基板に同時に吹き付ける、もしくは無機半導体粒子と有機半導体粒子を交互に基板に吹き付けることにより、それぞれの半導体を構成する各粒子が均質に分散された複合膜を製造することができる。
また、無機半導体粒子と有機半導体粒子からなる原料粉体を気体によって基板に吹き付けることにより、多孔体となる無機半導体(もしくは有機半導体)粒子間に十分かつ均質に有機半導体(もしくは有機半導体)を充填させることができる。その結果、例えば、本実施形態に係る複合膜を太陽電池の電極に適用した場合、電極特性に優れた複合膜を得ることができる。
【0043】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0044】
表1は、実施例及び比較例についての成膜条件を示すものであり、表2は、実施例及び比較例の複合膜について評価した結果を示すものである。
(実施例1)
基材53として、あらかじめFTO(フッ素ドープ酸化スズ)がガラス基板に製膜されたFTO−ガラス基板を用いた。
(無機半導体粒子および有機半導体粒子)
N型の無機半導体粒子として平均粒子径が約20nmのアナターゼ型TiO
2粒子(日本エアロジル(株):P25)を用いた。また、P型の有機半導体粒子としてPolyhexylthiophene(P3HT、アルドリッチ(株))を用いた。これらの物質をエタノール中にそれぞれ10wt%になるように分散させ、EtOHを減圧乾燥させることで、無機半導体粒子と有機半導体の混合物を得た。
(製膜)
図1に記載の成膜装置60を使用して、エアロゾルデポジッション(AD)法によって前記混合物を成膜した。表1中の成膜法の「AD」はエアロゾルデポジッション法によって成膜していることを示す。
具体的には、成膜室51内において、10mm×0.5mmの長方形の開口部を持つノズル52からFTO−ガラス基板に対して前記混合物を吹き付けた。
搬送ガスであるN
2をボンベ55から搬送管56へ供給し、その流速をマスフロー制御器57で調整した。吹き付け用の混合物粒子をエアロゾル発生器58に装填し、搬送ガスに分散させて、解砕器59および分級器61へ搬送し、ノズル52から基材53へ噴射した。成膜室51には真空ポンプ62が接続されており、成膜室内を陰圧にした。ノズル52における搬送速度は5mm/secとした。
以上により、基材53上に複合膜81を製造した。
【0045】
(実施例2)
P型の有機半導体粒子としてPolyaniline(PANI、シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.))を用いた以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
(実施例3)
P型の有機半導体粒子としてPerylene(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.))を用いた以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
(実施例4)
P型の有機半導体粒子としてPentacene(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.))を用いた以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
(実施例5)
N型の無機半導体粒子として平均粒子径が約100nmの酸化亜鉛(ZnO)粒子(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.))を用い、P型の有機半導体粒子としてPolyhexylthiophene(P3HT、アルドリッチ(株))を用いた以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
(実施例6)
N型の無機半導体粒子として平均粒子径が約100nmの酸化亜鉛(ZnO)粒子(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.))を用い、P型の有機半導体粒子としてPolyaniline(PANI、シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.))を用いた以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
(比較例1)
成膜方法としては、印刷焼成を用いて成膜を行った。
印刷焼成としては具体的には、11重量%のTiO
2粒子が含有された市販のペースト(ソラロニクス社製、商品名:T/SPペースト)に、P3HTがTiO
2粒子の全重量(100重量部)に対して100重量%で添加されたペーストを調製し、そのペーストを所定の膜厚となるように基板上にドクターブレード法により塗布した後、500℃で30分焼成することによって複合膜の成膜を行った。
(比較例2)
成膜方法としては、印刷乾燥を用いて成膜を行った。
印刷乾燥としては具体的には、11重量%のTiO
2粒子が含有された市販のペースト(ソラロニクス社製、商品名:T―Lペースト)に、P3HTがTiO
2粒子の全重量(100重量部)に対して100重量%で添加されたペーストを調製し、そのペーストを所定の膜厚となるように基板上にドクターブレード法により塗布した後、150℃で30分乾燥することによって複合膜の成膜を行った。
【0047】
(評価)
成膜された複合膜の評価は、膜厚、外観、曲げ試験について行った。
外観は、光学顕微鏡で観察した結果を示したものであり、膜にクラックや成膜ムラ、変色(有機物の分解による)が見られない場合は「○」、いずれかがある場合は「×」で示した。
曲げ試験は、複合膜が成膜された基板を直径80mmの円筒に10回巻き付けた際に、成膜された複合膜が基板から剥離するか否かを目視で確認することにより行った。剥離しなかった場合は「○」、剥離した場合は「×」で示した。
【0048】
実施例1について、得られた複合膜81の膜厚を測定した結果、6.2μmであった。
また、得られた複合膜81を光学顕微鏡で観察した結果、膜にクラックや成膜ムラ、変色が見られず、外観は良好であった。
複合膜81について、さらにSEM画像観察してみると、光学顕微鏡での結果と同様に外観は良好であり、無機半導体粒子が多孔質体となっていることが確認でき、さらに、有機半導体粒子が、多孔質体となっている無機半導体内に十分にかつ均質に充填されていることが観察された。
また、曲げ試験によって、複合膜は基板から剥離されなかった。
実施例2〜6について、膜厚は表2に示した通りであり、外観及び曲げ試験結果はいずれも「○」であった。
以上の通り、本発明の複合膜の製造方法で得られた複合膜である実施例ではいずれも十分な膜厚が得られ、外観が良好であり、曲げ試験でも剥離はなかった。
【0049】
これに対して、比較例1ではクラックと変色が観測され、曲げ試験で剥離が観察された。また、比較例2では曲げ試験で剥離が観察された。
【0051】
図2は、本実施例によって得られた複合膜81を太陽電池100に適用した場合の断面模式図である。太陽電池100の構造は、透明電極82、複合膜81及び金属電極83をこの順に積層させたものである。このように、有機半導体粒子が、多孔質体となっている無機半導体内に十分にかつ均質に充填された複合膜81を太陽電池100に適用した場合、電極特性を向上させることができる。