(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施形態に限定されず、その発明特定事項を有する全ての対象を含むものである。なお、同一構造の部材については図面において同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0015】
[1]注射筒:
本発明の注射筒は、筒本体と、注射針を固定するための固定爪とを備える。そして、固定爪が、筒本体を中心として対称となる位置に1対配置されている点に特徴がある。このような構成により、1対の固定爪の配置方向以外の方向の視野が開放される。従って、従来のルアーロック型注射器や特許文献2に記載の注射器と比較して針先や患部の視認性を更に優れたものとすることができる。
【0016】
図1Aは、本発明の注射筒を模式的に示す側面図である。
図1Aに示す注射筒1は、筒本体2、固定爪4の他、フランジ18を備える。以下、構成部材ごとに説明する。
【0017】
[1−1]固定爪:
固定爪は、筒本体に付設された、注射針を固定するための固定部材である。従って、
図1Aに示す固定爪4のように、注射針が固定される部分である筒本体2の先端部に付設されていることが好ましい。「先端部」とは、筒本体を長手方向に3等分した際に、筒本体の先端側1/3を占める部分を意味する。但し、筒本体に付設されている限り、固定爪の付設部位は特に限定されず、注射針の形状(例えば針基のキャップ形状)に応じて適宜決定すればよい。
【0018】
固定爪は、筒本体を中心として対称となる位置に1対配置されている。即ち、
図1Aに示すように、1対の固定爪4,4が、筒本体2を中心として、注射筒1を180°回転させた際に互いに重なり合う位置に配置されている。
【0019】
また、各々の固定爪は、筒本体の外周面から、筒本体の外方に向かって延び、更に筒本体の先端方向に向かって屈曲する略L字型に形成されている。「略L字型」とは、
図1Aに示すように、固定爪4が筒本体2の外方に向かって延びる部分(基部6)と、筒本体2の先端方向に向かって延びる部分(針固定部8)とから構成されていることを意味する。また、「略L字型」とは、固定爪4を幅方向の中心線で切断した際の断面形状が略L字型となっていることを意味する。
【0020】
基部は、筒本体の外方(即ち、筒本体の中心に向かう方向と背向する方向)に向かって延びており、筒本体の外周面と、後述する針固定部との間に空隙を形成している。但し、基部は、筒本体の中心軸と直交する方向に延びている必要はない。例えば、筒本体の中心軸と直交する方向に対し、+45°〜−45°の範囲内で傾斜する方向に延びていてもよい。なお、前記角度表示において、「+」は筒本体の先端側への傾斜角を示し、「−」は筒本体の末端側への傾斜角を示す。
【0021】
針固定部は、筒本体の先端方向(即ち、筒本体の中心軸に沿い、かつ、筒本体の先端側に向かう方向)に向かって延びており、筒本体の外周面と針固定部の内向面との間に注射針を確実に差し込むことを可能とする。
【0022】
固定爪の幅は特に限定されない。但し、図
3Bまたは図4Bに示す固定爪4のように、筒本体2の外径と同等以下の幅
(図3Bまたは図4Bの、図面上下方向の長さ)に形成されていることが好ましい。このような構成とすれば、
注射筒および注射針を上側から見た状態で、固定爪4は
、筒本体2の中心軸と直交する2方向(図
3Bまたは図4Bで言えば、図面左右方向)にのみ突出し、筒本体2の外径の範囲を越えて、固定爪4の
前記突出方向と直交する方向(図
3Bまたは図4Bで言えば、図面
上下方向)に突出されることがない。従って、固定爪4の突出方向と直交する方向の視野が開放される。
【0023】
固定爪は、筒本体の外周面と対向する面に、注射針を固定するためのネジ山が形成されている。このネジ山は注射針の一部(例えば後述する針基の係合板部など)と相互に噛み合うように形成されているため、注射筒に対して注射針をねじ込んで固定することが可能となる。従って、本発明の注射筒は従来のルアーロック型注射器と同程度に、注射針を確実に固定することができる。また、本発明の注射筒は注射針と注射筒の摩擦力によって注射針を固定するルアーチップ型注射器や、ルアーロックの内方突起と注射針の小突起(フランジ)との係合(引っ掛かり)のみで注射針を固定する引用文献2に記載の注射器と比較して、使用時に注射針の抜けや外れが生じ難い。更に、本発明の注射筒は固定爪の幅の範囲内でネジ山が形成されるため、略円筒状部材の内周面に螺旋状にネジ山を形成する、従来のルアーロックよりもネジ山の長さを短くすることができる。従って、従来のルアーロック型注射器と比較して注射針を迅速に装着することができる。
【0024】
図1Bは、
図1Aに示す注射筒の固定爪を内側から見た状態を模式的に示す図である。
図1Bに示す固定爪4は、筒本体の外周面と対向する針固定部8の内向面に、ネジ山10が形成されている。
【0025】
ネジ山は、筒本体の外周面と対向する面に形成された突条であればよく、その形状は特に限定されない。但し、筒本体の中心軸と直交する直線(
図1Bに示す例では、針固定部8の先端を示す直線と考えればよい。)に対して傾斜する1本の線状に形成されていることが好ましい。その傾斜角は特に限定されない。但し、ネジ山は筒本体の中心軸と直交する直線に対し下向きに5〜15°傾斜していることが好ましい。前記傾斜角を5°以上とし、角度をつけることで、固定爪の幅が狭く、固定爪の幅方向に長いネジ山を形成し難い場合でも、注射針を大きくねじ込むことができ、注射針を確実に固定することができる。前記のように固定爪の幅を狭く構成した場合、固定爪によって針先や患部方向の視野が遮られ難くなる点において好ましい。一方、前記傾斜角を15°以下に制限することで、ネジ山の角度が大きすぎて注射針をねじ込み難くなるという不具合を防止することができる。
図1Bに示すネジ山10は、針固定部8の先端を示す直線に対し、下向きに12.5°傾斜する直線状に形成されている。
【0026】
固定爪は、ネジ山の末端に、ネジ山と連続し、かつ、固定爪の末端側に向かって延びる突条が形成されていることが好ましい。この突条は、注射針をねじ込んだ際に過度のねじ込み(回転)を防止するストッパーとして機能する。従って、注射針が固定爪の幅を超えてねじ込まれることがなく、注射筒に対し注射針を確実に固定することができる。
図1Bに示す例では、ネジ山10の末端から下向きに突条12が形成されており、突条12が針固定部8を越えて基部6に至るように形成されている。但し、突条は、前記ストッパーとしての機能を果たす限り、針固定部のみに形成されていてもよい。
【0027】
前記固定爪のサイズは、特に限定されるものではない。前記筒本体や注射針のサイズ等によって適宜設定すればよい。以下、前記筒本体(薬液を充填する部分)の外径が4.0〜7.0mmのマイクロリッターシリンジの場合の好ましいサイズを例示する。
【0028】
固定爪の幅は、前記のように筒本体の外径と同等以下の幅に形成されていることが好ましい。具体的には、2.5〜7.0mmであることが好ましい。前記幅を2.5mm以上とすることで、前記ネジ山を形成することが可能となる。一方、前記幅を7.0mm以下とすることで、前記固定爪の突出方向と直交する方向の視野が開放される。
【0029】
前記基部の突出長さ(前記筒本体の外周面からの長さ)は、3.0〜5.0mmであることが好ましい。前記突出長さを3.0mm以上とすることで、前記筒本体の外周側に注射針を挿入するためのスペースを形成することができる。一方、前記突出長さを5.0mm以下とすることで、前記固定爪の配置方向前方の視野が過度に遮られることがない。
【0030】
前記針固定部の長さ(前記基部との境界線(屈曲部)から前記針固定部の先端までの長さ)は、3.0〜7.0mmであることが好ましい。前記突出長さを3.0mm以上とすることで、注射針を確実に挿入できる深さを確保することができる。また、ネジ山10を形成するためのスペースを確保することができる。一方、前記突出長さを7.0mm以下とすることで、前記固定爪の配置方向前方の視野が過度に遮られることがない。
【0031】
前記ネジ山および前記突条の高さは、0.3〜1.0mmであることが好ましい。前記高さを0.3mm以上とすることで、ネジ山や突条を注射針の一部(例えば後述する針基の係合板部など)と相互に噛み合わせることが可能となり、固定爪に注射針を確実に固定する等、ネジ山や突条の機能を十分に発揮させることができる。一方、前記高さを1.0mm以下とすることで、ネジ山や突条の高さが大きいことに起因して、前記固定爪の外径が過度に大きくなることがない。
【0032】
[1−2]筒本体:
筒本体は、ピストンが挿入される内部空間が形成された筒状の部材である。前記内部空間は、注射針から吸入した薬液等を充填するための空間である。筒本体の先端には、孔が形成されている。この孔によって筒本体の内部空間と外部空間とが連通される。
図1Aに示す筒本体2は、筒本体2の先端部中心に前記孔が形成されている。
図1Aに示す注射筒1は、小容量のマイクロリッターシリンジに用いられる注射筒であり、薬液を充填する内部空間の容積が比較的小さい。従って、筒本体2(図示の例では小径部14)の外径が、注射針が装着されるノズル部分(図示の例では固定爪4,4より先端側の部分)の外径と同径に形成されている。但し、大容量の注射器に用いられる注射筒等は、必ずしもこのような構成とする必要はない。例えば、筒本体(小径部)の外径を注射針が装着されるノズル部分の外径より大径に形成して、薬液を充填する内部空間の容積を大きく構成してもよい。
【0033】
筒本体の形状は、筒状である限り特に限定されない。例えば円筒状等を挙げることができる。但し、筒本体は、
図1Aに示す筒本体2のように、先端側に外径が小さい小径部14、末端側に外径が大きい大径部16を有する異径円筒状であることが好ましい。また、筒本体は、
図1Aに示す筒本体2のように、小径部14と大径部16が60°以下の緩やかな傾斜面で連続するように構成されたものであってもよい。即ち、本明細書において「異径円筒状」というときは、小径部と大径部を有していれば足り、前記のように筒本体の外径が連続的に変化する部分を有するものも含まれるものとする。
【0034】
図1Aに示すような異径円筒状の筒本体2は、小径部14に薬液等が充填され、注射筒本来の機能を果たす。また、外径が大きい大径部16によって、注射筒1を持ち易くなり、注射器の操作性が向上する。また、操作時に大径部16を持つことで、指の熱が小径部14に充填された薬液に伝わり難くなり、薬液の温度上昇を防止することができる。
【0035】
図1Aに示す筒本体2においては、小径部14が、液密的な状態を維持しつつピストンを摺動させ得る内径に形成されている。一方、大径部16は、ピストンを非圧着状態で保持することが可能な内径に形成されている。このような構成とすると、注射器を実際に使用するまでの間、ピストンを大径部16に配置しておくことができる。従って、その間、ピストンは筒本体2の内周面に対して圧着されず、応力を生じることがない。従って、ピストンのクリープ変形を有効に防止することができる。
【0036】
「非圧着状態」とは、ピストンの外周面(具体的には、円形部の外周面)が筒本体の大径部の内周面と接触しているか否かに拘わらず、ピストンが前記大径部の内周面に対して圧着されることなく、前記大径部の内部空間に嵌め込まれている状態を意味する。より具体的には、ピストンの外周面と前記大径部の内周面との間に空隙が存在し、ピストンの外周面と前記大径部の内周面が完全に非接触となっている状態の他、ピストンの外周面の全部または一部が前記大径部の内周面と軽く接触しているものの圧着されておらず、ピストンに応力が生じていない状態も含むものとする。
【0037】
なお、ピストンのクリープ変形を防止する効果を得るためには、筒本体が異径円筒状に形成されている必要はない。筒本体の先端側が液密的な状態を維持しつつピストンを摺動させ得る内径に形成され、筒本体の末端側がピストンを非圧着状態で保持することが可能な内径に形成されている限り、筒本体が、先端から末端まで均一な外径であっても前記効果を得ることができる。
【0038】
前記筒本体のサイズは、前記薬液の注入量や注射針のサイズ等によって適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、小径部については、内径1.5〜5.0mm、外径3.5〜7.0mm、長さ20〜70mmとすることが好ましい。また、大径部については、内径2.5〜7.0mm、外径4.5〜9.0mm、長さ10〜40mmとすることが好ましい。
【0039】
本発明の注射筒は、
図9Aに示すように、筒本体の大径部16に、筒本体の中心側に向かって突出し、注射筒の軸方向に沿って延びる複数のリブ17が形成されていることが好ましい。このような形態とすると、ピストン60は複数のリブ17に対して非圧着状態で保持される。
【0040】
図9Aは、
図5に示す注射器50の使用前の状態における各部材の位置関係を模式的に示す図である。
図9Aに示すように、注射器50においては、ピストン60の外周面の一部を構成する鍔部と、大径部16の内周面の一部を構成するリブ17とが非接触の状態に保たれている。
図9Aに示すように、リブ17は鍔部と接触していないものの、鍔部の至近の位置まで突出しており、ピストン60をガイドする機能を果たす。即ち、プランジャーロッド70が注射筒(大径部16、小径部14)の軸方向に対して傾斜した場合には、ピストン60がリブ17と接触するため、ピストン60を注射筒(大径部16、小径部14)の中心軸に沿って押し込むことができる。
【0041】
図9Aに示す注射筒(大径部16、小径部14)は、注射筒の軸方向に沿って延びる4本のリブが形成されている(
図9Aにおいては2本のリブ17のみが示されている。残る2本のリブは不図示。)。そして、その4本のリブは注射筒の中心角にして90°間隔で配置されている。但し、リブの本数は4本でなくてもよい。ピストンをガイドする機能を発揮させるとともに、注射筒の構造を過度に複雑化させないことを考慮すれば、3〜6本のリブを形成し、これらのリブを等間隔で配置することが好ましい。リブの高さは特に限定されないが、0.5〜2.5mmとすることが好ましい。
【0042】
但し、本発明の注射筒においては、必ずしも
図9Aに示すようなリブ17を形成する必要はない。例えば、ピストンの外周面との非接触状態が保たれる程度に大径部の内径を小さく構成し、リブではなく大径部の内周面によってピストンをガイドするように構成してもよい。このような形態とすると、ピストンは大径部の内周面に対して非圧着状態で保持される。リブが形成されていない注射筒は、注射筒の構造を簡素化することができる点において好ましい。
【0043】
[1−3]フランジ:
本発明の注射筒は、その末端部にフランジを有していてもよい。フランジとは、筒本体の末端において、筒本体の外周側に張り出した部分を指す。通常は、筒本体の末端外径の1.5〜3倍程度の外径を有する円環状(鍔状)に形成される。
図1Aに示す注射筒1は、筒本体2の末端に、筒本体2(大径部16)の外径の1.7倍の外径を有する鍔状のフランジ18を形成した例である。但し、フランジの形状は前記鍔状に限定されない。例えば、筒本体の全周方向ではなく、左右両側のみに張り出した2枚羽形状であってもよい(不図示)。
【0044】
前記2枚羽形状のフランジのサイズは、既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、張り出し長さを大人の指がかかる程度の長さ、具体的には、片側が少なくとも1.5cm以上の長さ、更には2cm程度とすることが好ましい。これにより、注射器の操作性が向上する。
【0045】
なお、
図8に示すような、2枚羽形状の指掛部90を有するロッド保持具80を用いる場合には、注射筒のフランジをこれと重複する2枚羽形状とする実益はない。逆に、注射筒のフランジを2枚羽形状とする場合には、ロッド保持具に2枚羽形状の指掛部を形成する必要はない。
【0046】
[1−4]材質:
注射筒を構成する材質については、特に限定されない。但し、樹脂により構成することが好ましい。樹脂の種類は、機械的強度に優れ、成形品を低コストで大量生産することが可能な熱可塑性の硬質樹脂であることが好ましい。例えば、ポリシクロオレフィン(PCO)系樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、低溶出性で、透明性やガスバリヤ性に優れるPCO系樹脂が好ましく、シクロオレフィンポリマー(COP)が特に好ましい。
図1Aに示す注射筒1は、これらの樹脂を用い、筒本体2、固定爪4およびフランジ18を一体成形した例である。なお、本明細書において「(ポリ)X系樹脂」、「(ポリ)X系エラストマー」というときは、Xの単独重合体の他、Xの共重合体も含まれることを意味する。例えば、PCO系樹脂には、COPの他、シクロオレフィンコポリマー(COC)も含まれる。
【0047】
[1−5]作用効果:
本発明の注射筒は、注射針とともに用いられる。この際、注射針は、注射筒の先端部に固定された状態で用いられる。以下、本発明の注射筒の作用効果について説明する。
【0048】
まず、本発明の注射筒とともに用いられる注射針の一例について説明する。
図2Aは、本発明の注射筒とともに用いられる注射針を模式的に示す側面図である。
図2Bは、
図2Aに示す注射針を上側から見た状態を模式的に示す平面図である。
【0049】
図2Aおよび
図2Bに示す注射針20は、注射針本体22と、注射針本体22の末端部に付設された針基24と、を有する。針基24には、注射筒の先端部が挿入される内部空間が形成されている。即ち、針基24は、注射筒の先端部の外部形状と相補的な内部形状を有するキャップ状に構成されている。針基24の末端には、注射筒に付設された固定爪のネジ山と係合可能なフランジ(以下、「係合板部26」と記す。)が付設されている。係合板部26は平板状に形成されており、針基24を中心として対称となる位置に1対配置されている。そして、各々の係合板部26,26は、針基24の外周面から、針基24の外方に向かって延びている。
【0050】
次いで、前記注射針を本発明の注射筒に固定する方法について説明する。
図3Aは、本発明の注射筒に注射針を挿入した状態を模式的に示す側面図である。
図3Bは、
図3Aに示す注射筒および注射針を上側から見た状態を模式的に示す平面図である。
【0051】
図3Aおよび
図3Bに示すように、注射筒1に注射針20を挿入した状態においては、固定爪4のネジ山10が突出している方向と、針基24の係合板部26,26が突出している方向が90°ずれており、ネジ山10と係合板部26は噛み合っていない。即ち、注射筒1と注射針20は、ルアーチップ型注射器と同様に、注射筒1の外周面と針基24の内周面との摩擦力のみによって固定されている。
【0052】
図4Aは、本発明の注射筒に注射針を固定した状態を模式的に示す側面図である。
図4Bは、
図4Aに示す注射筒および注射針を上側から見た状態を模式的に示す平面図である。
【0053】
図4Aおよび
図4Bは、
図3Aおよび
図3Bに示す注射針20を右側に90°回転させた状態を示している。この状態においては、固定爪4のネジ山10が突出している方向と、針基24の係合板部26,26が突出している方向が合致しており、ネジ山10と係合板部26が噛み合っている。即ち、注射筒1と注射針20は、ネジの締付力によって強固に固定されている。従って、従来のルアーロック型注射器と同程度に、注射針を確実に固定することができ、使用時に注射針の抜けや外れが生じ難い。また、固定爪4の突出方向以外の方向(
図4Bで言えば、図面上下方向)の視野が開放されている。従って、従来のルアーロック型注射器や特許文献2に記載の注射器と比較して針先や患部の視認性が更に優れる。更に、針基24の係合板部26は、注射筒1の固定爪4と重畳する位置に配置されており、係合板部26が前方の視野を遮ることもない。更にまた、注射針20を90°回転させるのみで注射針20を固定することができるので、従来のルアーロック型注射器と比較して注射針20を迅速に装着することが可能である。
【0054】
[2]注射器:
本発明の医療用の注射器は、少なくとも本発明の注射筒、ピストンおよびプランジャーロッドを備えている。
図5は、本発明の医療用の注射器を模式的に示す一部切り欠き側面図である。
図5に示す注射器50は、本発明の注射筒1、ピストン60およびプランジャーロッド70に加えて、ロッド保持具80を更に備えている。この注射器は、例えば
図2Aおよび
図2Bに示す注射針20のような注射針とともに用いられる。以下、既に説明した注射筒以外の構成部材について説明する。
【0055】
[2−1]ピストン:
ピストンは、筒本体の内周面と液密的に接する円形部を有する摺動部材である。通常、ピストンは円盤状、円柱状または円筒状に構成され、筒本体と液密的に接する円周面を有している。但し、筒本体の内周面と液密的に接することが可能である限り、面状ではなく線状に接していてもよい。
【0056】
筒本体の小径部の内周面に、ピストンの円形部が圧着されることで、注射器の密封性が発揮される。「円形部」の「円形」とは、ピストンの軸と直交する方向の形状が円形であることを意味する。従って、ピストン全体が円柱状、円筒状に構成されている場合には、これらの部分が前記円形部を構成する。また、ピストンがその外周側に突出する円盤部、円環部等を有する場合は、これらの部分が前記円形部を構成する。
【0057】
ピストンは、前記円形部が可撓性材料からなることが好ましい。可撓性材料としては、加硫ゴム、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0058】
熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリスチレン系エラストマー、エチレン・プロピレン系エラストマー、ポリイソブチレン系エラストマー等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばPE系樹脂、PP系樹脂、PC系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、安価で強度や硬度に優れる、PE系樹脂、PP系樹脂、PC系樹脂によりピストンが構成されていることが好ましい。熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性樹脂は、1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0059】
ピストンの円形部は、筒本体の小径部の内径より大径に形成され、その外周部が小径部の内周面に対して圧着可能に構成されているとともに、筒本体の大径部の内径と同等以下の外径に形成されている。ピストンをこのような形状とすることにより、使用前の状態においてはピストンを筒本体の大径部に配置し、ピストンのクリープ変形を防止することができる。また、使用時においては、ピストンを筒本体の小径部に移動し、その内周面と当接させた状態で摺動させることにより、本来的なピストンとしての機能(薬液の吸入・射出)を発揮させることができる。円形部の外径の具体的な数値は特に限定されない。但し、既述のマイクロリッターシリンジの場合、1.6〜5.5mmとすることが好ましい。
【0060】
図6Aは、
図5に示す注射器50のピストンを模式的に示す一部切欠き側面図である。図の右側は、ピストン60を中心軸に沿って切断した断面を示している。
図6Aに示すように、ピストン60は、軸部62と、軸部62の外周側に形成された鍔部64を有する。鍔部64は、樹脂からなり、筒本体の小径部の内径より大径に形成され、筒本体の小径部の内周面に対して圧着可能に構成されているとともに、筒本体の大径部の内径と同等以下の外径に形成されていることが好ましい。
【0061】
図6Aに示すピストン60は、軸部62の外周側に鍔部64を2枚有する形状に形成されている。即ち、ピストン60においては、円環状の鍔部64が前記円形部を構成している。このような構造とすることにより、ピストンを硬質樹脂で構成した場合でも可撓性を付与することができ、ピストンに要求される密封性と摺動性を付与することができる。従って、硬度が求められるプランジャーロッド(ロックウェル硬度:R70〜120程度)とピストンを同一材料で一体成形することが可能となり、注射器の構造を簡素化するとともに製造コストを低減することができる。
図6Aに示すピストン60においては、2枚の鍔部64が、軸部62の先端と、軸部62の長手方向中点よりやや先端寄りの部分に配置されている。
【0062】
図6Bは、別の形態のピストン60Aを模式的に示す一部切欠き側面図である。この図も、
図6Aと同様に、図の右側は、ピストン60Aを中心軸に沿って切断した断面を示している。ピストン60Aにおいては、円環状の鍔部64Aが前記円形部を構成している。
図6Bに示すピストン60Aは、軸部62Aのうち、2枚の鍔部64Aで挟まれた部分が他の部分より外径が大きく構成されている。このような構成は、
図6Aに示すピストン60と比較して、可撓部分である鍔部64Aの面積が小さくなり、2枚の鍔部64Aが撓み難くなる。従って、鍔部64Aの摺動性は低下するものの、注射器の密封性が向上するという効果を奏する。
【0063】
図6Cは、更に別の形態のピストンを模式的に示す一部切欠き側面図である。この図も、
図6Aと同様に、図の右側は、ピストン60Bを中心軸に沿って切断した断面を示している。
図6Cに示すピストン60Bは、長手方向中点よりやや先端寄りの部分に外径が極大となる部分を有し、その部分から先端および末端に向かって外径が漸減する略樽状に形成された形態である。この形態のピストンは、外径の極大部分が小径部の内周面に当接し、摺動する。即ち、
図6Cに示すピストン60Bにおいては、外径の極大部分が前記円形部を構成している。この形態においては、略樽状のピストン60Bの内部に空洞66が形成されており、空洞66によってピストン60Bに形状追従性および可撓性が付与されている。
【0064】
前記略樽状のピストンは、
図6Aに示すピストン60、
図6Bに示すピストン60Aと比較して成形が難しく、歩留まりが低下するおそれもある。一方、ピストンの外径変化を比較的に自由に設計することができ、ピストンの外周面と筒本体の内周面との接触面積や接触角度を容易に変更することができるという利点がある。また、空洞を形成したピストンは、空洞の大きさや形状を変更することにより、ピストンの可撓性を調整可能である点において好ましい。
【0065】
ピストンは、
図6Aに示すピストン60、
図6Bに示すピストン60Aまたは
図6Cに示すピストン60Bのように、プランジャーロッド70と一体成形されていることが好ましい。このような構造とすれば、注射器の構造を簡素化し、実質的な部品点数を少なくすることができる。従って、注射器を低コストで製造することが可能となる。但し、必ずしもピストンとプランジャーロッドと一体的に形成する必要はない。例えば、ピストンとプランジャーロッドを個別に成形した後に、前記ピストンを前記プランジャーロッドの先端に嵌め合わせ、またはネジ止めすることにより組み立てて、前記ピストンと前記プランジャーロッドを一体化してもよい。
【0066】
なお、「一体成形」には、同一の樹脂材料による一体成形は勿論のこと、異なる樹脂材料による一体成形も含まれる。例えば、二色成形、インサート成形等の技術を利用すれば、ピストンとプランジャーロッドを異なる樹脂材料で構成しつつ、両部材を一体成形することも可能である。このような構成とすれば、ピストンとプランジャーロッドの各々に、これらの要求特性に適合した最適な材質を使用することができる。
【0067】
例えば、
図7Bに示すピストン60Cとプランジャーロッド70Aは、二色成形の技術を利用して、ピストン60Cとプランジャーロッド70Aを異なる樹脂材料で構成しつつ、一体成形した例である。
図7Bに示す例では、ピストン60Cは熱可塑性エラストマーにより形成され、プランジャーロッド70Aは熱可塑性の硬質樹脂であるポリプロピレンにより形成されている。
【0068】
図6Dは、
図7Bに示すピストン60Cを模式的に示す一部切欠き側面図である。この図も、
図6Aと同様に、図の右側は、ピストン60Cを中心軸に沿って切断した断面を示している。ピストン60Cは、
図6Cに示すピストン60Bと同様に、長手方向中点よりやや先端寄りの部分に外径が極大となる部分を有し、その部分から先端および末端に向かって外径が漸減する形状に形成された形態である。但し、
図6Cに示すピストン60Bとは異なり、ピストン先端側の外径がピストン末端側の外径よりも更に小さく形成されている。ピストン60Cも、外径の極大部分が小径部の内周面に当接し、摺動する。即ち、外径の極大部分が前記円形部を構成している。但し、ピストン60Cは、ピストン60Bのような空洞は有していない。即ち、ピストン60Cの中心部には図示されないプランジャーロッドが存在している。この形態においては、ピストン60Cの構成材料である熱可塑性エラストマーによって、ピストン60Cに形状追従性および可撓性が付与されている。
【0069】
[2−2]プランジャーロッド:
プランジャーロッドは、ピストンより小径の棒状に形成され、ピストンの末端に突設された部材である。プランジャーロッドにより、ピストンを前進させ、または後退させる操作が可能となる。
【0070】
図7Aは、
図5に示す注射器50のプランジャーロッドを模式的に示す側面図である。プランジャーロッドは、
図7Aに示すプランジャーロッド70のように、棒状部74と、棒状部74の末端に付設された操作フランジ72と、を有しているものが好ましい。操作フランジとは、棒状部の末端において、棒状部の外周側に張り出した部分を指す。操作フランジは、棒状部より大面積に形成されているため指を掛け易く、ピストンを前進させ、または後退させる操作を容易にすることができる。
【0071】
棒状部、操作フランジの形状は特に限定されない。棒状部は、例えば丸棒状とすることができる。操作フランジは、例えば円形平板状、四角形平板状等の形状とすることができる。中でも、操作が容易な円形平板状であることが好ましい。既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、棒状部は外径1.0〜3.3mmの丸棒状とすることが好ましく、操作フランジは外径1〜5cm程度の円形平板状とすることが好ましい。
【0072】
プランジャーロッドには、
図7Aに示すプランジャーロッド70のように、凹溝76が形成されていることが好ましい。このような構造は、凹溝76と、ロッド保持具のロッド挿入部(より具体的には、ロッド挿入部の内縁部)との噛み合わせ構造によって、筒本体の大径部にピストンを位置させた状態で、プランジャーロッド70を一時固定することができる点において好ましい。
【0073】
図7Aに示す凹溝76は、プランジャーロッド70の外径(より具体的には、棒状部74の外径)を他の部分より縮小させることにより形成されている。このような凹溝は、構造が簡素であり、製造も容易である点において好ましい。但し、前記凹溝の形成方法は特に限定されない。例えば、プランジャーロッドの外周側に前後1対の突条を設け、プランジャーロッドの外径を他の部分より拡大させることにより、前記前後1対の突条の間に前記凹溝を形成してもよい(不図示)。凹溝の幅、深さは特に限定されない。但し、既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、幅0.3〜3.0mm、深さ0.1〜1.0mmとすることが好ましい。前記範囲とすることにより、前記凹溝とロッド保持具のロッド挿入部とを確実に噛み合わせることができる。
【0074】
プランジャーロッドには、
図7Aに示すプランジャーロッド70のように、段差部78が形成されていることが好ましい。このような構造は、段差部78と、ロッド保持具のロッド挿入部(より具体的には、ロッド挿入部の内縁部)との噛み合わせ構造によって、一旦、筒本体の小径部に押し込まれたピストンが筒本体の大径部まで後退させないようにすることができる点において好ましい。
【0075】
図7Aに示す段差部78は、凹溝76と同様の理由から、プランジャーロッド70の外径(より具体的には、棒状部74の外径)を他の部分より縮小させることにより形成されている。段差部の高さは特に限定されない。但し、既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、高さ0.1〜1.0mmとすることが好ましい。前記範囲とすることにより、前記段差部とロッド保持具のロッド挿入部とを確実に噛み合わせることができる。
【0076】
なお、
図7Bに示すプランジャーロッド70Aは、ピストン60Cが一体成形される先端部の構造以外は、
図7Aに示すプランジャーロッド70と同様に構成されている。
【0077】
[2−3]ロッド保持具:
本発明の注射器は、ロッド保持具を更に備えるものであってもよい。ロッド保持具は、プランジャーロッドを挿入可能なロッド挿入部が形成された部材であり、注射筒の末端に取り付けられる。ロッド保持具によって、プランジャーロッドを注射筒の中心に位置させることが可能となる。
【0078】
ロッド挿入部の構造は特に限定されないが、プランジャーロッドの凹溝と前記ロッド挿入部の内縁部との噛み合わせ構造が、プランジャーロッドを押し込む方向の動作のみを許容し、プランジャーロッドを引き出す方向の動作を抑止するものであることが好ましい。
【0079】
図8は、
図5に示す注射器のロッド保持具を模式的に示す斜視図である。ロッド保持具は、
図8に示すロッド保持具80のように、ロッド挿入部82が、ロッド保持具80の内縁側に突設された複数枚の可撓板84によって構成されていることが好ましい。
図8に示すロッド保持具80においては、4枚の可撓板84が略O字型のフランジ固定部86の内縁に突設された構造を有している。そして、可撓板84は、プランジャーロッドを押し込む方向に向かって45°の角度で傾斜するように突設されている。
【0080】
図8に示すロッド保持具80は、プランジャーロッドを引き出す方向に後退させようとすると、可撓板84の縁部がプランジャーロッドの凹溝と噛み合い、プランジャーロッドを引き出す方向の動作を抑止する。一方、プランジャーロッドを押し込む方向に前進させようとした場合、プランジャーロッドを押し込む力が可撓板84の撓み弾性を超えるまでは、プランジャーロッドを押し込む方向の動作がある程度は抑止される。しかし、可撓板84がプランジャーロッドを押し込む方向に向かって傾斜しているために、前記撓み弾性を超える力をかけると、可撓板84の縁部がプランジャーロッドの凹溝を乗り越える(即ち、両部材の噛み合いが外れる。)。従って、プランジャーロッドを押し込む方向の動作が許容される。
【0081】
ロッド保持具は、ロッド挿入部が、ロッド保持具の内縁側に突設された複数個の可撓ピンによって構成されていることも好ましい(不図示)。前記可撓ピンは、プランジャーロッドを押し込む方向に向かって傾斜するように突設されていることが好ましい。即ち、
図8に示す可撓板84に代えて、可撓性を有するピン(棒状体)を突設した構造としても同様の効果を得ることができる。
【0082】
可撓板の厚さ、可撓ピンの外径は、特に限定されない。但し、既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、可撓板の厚さを0.5〜2.0mmとし、可撓ピンの外径を0.5〜2.0mmとすることが好ましい。前記範囲とすることにより、前記可撓板、前記可撓ピンをプランジャーロッドの凹溝や段差部と確実に噛み合わせることができる。
【0083】
ロッド保持具のロッド挿入部以外の構造については特に限定されない。但し、
図8に示すロッド保持具80のように、略C字型に湾曲された平板体からなる筒本体把持部88と、略O字型の平板体からなるフランジ固定部86と、平板体が略C字型に湾曲された平板体からなり、筒本体把持部88とフランジ固定部86とを接続する接続部92と、を備えた構造とすることが好ましい。この構造においては、筒本体把持部88とフランジ固定部86は、筒本体のフランジ部の厚さに対応する空隙を形成するように、接続部92によって接続されている。ロッド保持具80は、筒本体把持部88とフランジ固定部86との間に筒本体のフランジ部を挟み込み、筒本体把持部88の内側に筒本体を把持することにより、筒本体の末端部に取り付けることができる。
【0084】
ロッド保持具は、
図6に示すロッド保持具80のように、筒本体把持部88の末端部に指掛部90が形成されていることが好ましい。指掛部は、筒本体のフランジ部と同様にプランジャーロッドを前進させ、または後退させる操作を容易にする部分である。
図8に示す指掛部90は、筒本体把持部88の左右両側に張り出した2枚羽形状のものである。既述のマイクロリッターシリンジの場合であれば、注射器の操作性を向上させるために、その張り出し長さを大人の指がかかる程度の長さ(片側2cm程度(少なくとも1.5cm以上))とすることが好ましい。
【0085】
但し、指掛部の形状は、
図8に示すような2枚羽形状のものには限定されない。筒本体のフランジ部と同様に、筒本体(大径部)の外径の1.5〜3倍程度の外径を有する円環状に形成してもよい(不図示)。また、指掛部を配置する位置も筒本体把持部の末端部に限定されず、任意の位置に形成することができる。例えば、
図8に示す構造のロッド保持具80において、筒本体把持部88の先端部やフランジ固定部86等に指掛部を配置してもよい(不図示)。
【0086】
[2−4]噛み合わせ構造:
図5に示す注射器50は、
図9A〜
図9Cに示すように、プランジャーロッド固定具の可撓板84を、プランジャーロッド70の凹溝76および段差部78の双方に噛み合わせることが可能な構造としている。このような構造は、簡素な構造でピストン60およびプランジャーロッド70の位置や動きを精密に制御することができる点において好ましい。以下、前記噛み合わせ構造について説明する。
【0087】
[2−4A]使用前:
図9Aは、
図1に示す注射器の使用前の状態における各部材の位置関係を模式的に示す概念図である。使用前の状態においては、
図9Aに示すように、ピストン60を筒本体の大径部16に位置させておく。この状態において、ピストン60は筒本体の大径部16に形成されたリブ17に対して非圧着状態で保持されている。これにより、筒本体の内周面にピストン60が圧着されることがなく、ピストン60がクリープ変形を起こす事態を有効に防止することができる。
【0088】
図9Aに示すように、凹溝76は、凹溝76からピストン60の先端に至るまでの長さL1が、筒本体の大径部16の長さlよりも短くなる位置に形成されていることが好ましい。これにより、使用前の状態においては、凹溝76と、ロッド保持具のロッド挿入部(可撓板84の先端)とを噛み合わせた状態とし、ピストン60が意図せず筒本体の小径部14に挿入されることを防止することができる。
【0089】
[2−4B]薬液の吸入・射出:
図9Bは、
図1に示す注射器の使用状態における各部材の位置関係を模式的に示す概念図であり、
図9Cは、
図1に示す注射器のプランジャーロッドを最大限引き出した状態における各部材の位置関係を模式的に示す概念図である。薬液を吸入する際には、
図9Bに示すように、プランジャーロッド70によりピストン60を筒本体の小径部14に押し込む。この状態においては、ピストン60の円形部が小径部14の内周面に圧着され、液密的な状態を確保しつつ、ピストン60を摺動させることができる。プランジャーロッド70によりピストン60を筒本体の小径部14の先端まで押し込み、引き出すことで、小径部14に薬液を吸入することができる。その後、再度ピストン60を押しこむことで、薬液を射出することができる。ピストン60が小径部14に押し込まれている状態においては、可撓板84は凹溝76と噛み合っていない。従って、筒本体の小径部14においてピストン60を自由に摺動させることができる。
【0090】
図9Aに示すように、段差部78は、段差部78からピストン60の先端に至るまでの長さL2が、筒本体の大径部16の長さlよりも長くなる位置に形成されていることが好ましい。このような構造とすると、プランジャーロッドを引き出して薬液の吸入する際に、
図9Cに示すように、段差部78と、ロッド保持具のロッド挿入部(可撓板84の先端)とが噛み合い、ピストン60を筒本体の小径部14に位置させることができる。即ち、ピストン60は筒本体の大径部16まで後退しない。従って、プランジャーロッド70を引き出し過ぎてピストン60が小径部14から引き抜かれてしまう事故を防止することができる。また、薬液が注射器の末端側から漏れたり、筒本体の大径部から薬液中に空気が混入したりする事態が防止される。
【実施例】
【0091】
[実施例1]
実施例1として、
図5に示す構造の注射器50を製造した。
【0092】
[1]注射筒:
熱可塑性樹脂であるシクロオレフィンポリマー(COP、商品名「Daikyo Resin CZ」<大協精工社製>)を原料として、
図1Aおよび
図1Bに示す異径円筒状の注射筒1を成形した。注射筒1は、全長約80mmとした。筒本体2の小径部14は、長さ約50mm、外径約5mm、内径約2.5mmとした。薬液充填部分となる小径部14の容量は約0.2mLとした。筒本体2の大径部16は、長さ約20mm、外径約7mm、内径約4.8mmとした。
【0093】
リブ17は、長さ約5mm、高さ約1mmとし、注射筒1の中心角にして90°間隔で4本形成した。4本のリブ17の先端に内接する内接円の直径は約2.8mmであった。筒本体2の末端部にはフランジ18を形成した。フランジ18は、外径約12mmの円盤状とし、その厚さは1.5mmとした。
【0094】
固定爪4は、筒本体2の先端から9mmの位置に付設した。固定爪4は、筒本体2を中心として対称となる位置に1対配置した。基部6は、筒本体2の中心軸と直交する方向に対し、+25°傾斜する方向に延びるように構成した。基部6の突出長さ(筒本体2の外周面からの長さ)は、3mmとした。針固定部8は、筒本体2の先端方向に向かって延びるように構成した。針固定部8の長さ(基部6との境界線(屈曲部)から針固定部8の先端までの長さ)は、4mmとした。固定爪4の幅は、筒本体2の外径と同等以下の幅、具体的には4mmに形成した。
【0095】
固定爪4には、針固定部8の内向面に、ネジ山10を形成した。ネジ山10は、筒本体2の中心軸と直交する直線に対し下向きに12.5°傾斜する直線状に形成した。ネジ山10の末端から下向きに突条12を形成した。突条12は針固定部8を越えて基部6に至るように形成した。ネジ山10および突条12の高さは、0.6mmとした。
【0096】
[2]ピストン、プランジャーロッド:
熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(商品名「プライムポリプロ」<プライムポリマー社製>)を原料として、
図7に示す構造のプランジャーロッド70を成形した。プランジャーロッド70は、全長約80mm、棒状部74のうち先端から凹溝76に至るまでの部分、および凹溝76から段差部78に至るまでの部分の外径は約2.3mmとし、凹溝76の深さおよび段差部78の高さはいずれも0.3mmとした。凹溝76の幅は0.5mmとした。棒状部74のうち段差部78から末端側の部分の外径は約2mmとした。操作フランジ72は、外径15mm、厚さ1.5mmの円盤状とした。
【0097】
ピストンは、前記ポリプロピレンを原料として、プランジャーロッド70と一体成形した。ピストンは
図6Aに示すピストン60と同一の形状とした。即ち、円柱状の軸部62と、軸部62の外周側に形成された鍔部64を有する形状とした。軸部62は、外径約1.2mmの円柱状とし、鍔部64は外径約2.6mm、厚さ約0.2mmの板状とした。軸部62は鍔部64を2枚有する構造とし、軸部62の先端と、前記先端から約1mm末端側の部分の2箇所に配置した。
【0098】
[3]ロッド保持具:
ポリプロピレン(商品名「プライムポリプロ」<プライムポリマー社製>)を原料とし、
図8に示す構造のロッド保持具80を成形した。略C字型に湾曲された平板体からなる筒本体把持部88と、略O字型の平板体からなるフランジ固定部86と、略C字型に湾曲された平板体からなり、筒本体把持部88とフランジ固定部86とを接続する接続部92と、を備えた構造とした。
【0099】
筒本体把持部88は、内径約7mm、外径約9.5mmの略C字型とした。略C字型の両端部は外側に開くように折り曲げた。前記両端部は互いに70°の角度をなすように折り曲げた。
【0100】
フランジ固定部86は、外径約10mm、内径5mm、厚さ約1mmの略O字型の平板体を有し、その中央開口部に長さ約1.5mm、厚さ約1mmの可撓板84を4枚突設する構造とした。可撓板84はプランジャーロッドを押し込む方向に向かって45°の角度で傾斜するように突設した。4枚の可撓板84の先端は互いに接触させず、内径2mmの円形開口(ロッド挿入部82)が形成されるように配置した。筒本体把持部88とフランジ固定部86は、1.5mmの空隙を形成するように、略C字型の接続部92によって接続した。
【0101】
指掛部90は、筒本体把持部88の左右両側に張り出した2枚羽形状のものとした。指掛部90は、幅約12mm、厚さ約1mmとし、張り出し長さは片側約18mmとした。
【0102】
[4]注射器:
前記のように成形した注射筒、ピストンおよびプランジャーロッド、ロッド保持具を組み立てることによって、実施例1の注射器を得た。