【実施例1】
【0027】
図1は、実施例1の光学フィルタの構成を示した図である。
図1のように、実施例1の光学フィルタは、基板10と、基板10上に第1層11a、第2層12、第1層11b、第3層13の順に積層された積層構造と、を有している。
【0028】
この実施例1の光学フィルタは、入射角度50°、波長870nmの光を透過させるバンドパスフィルタとして動作するものである。なお、入射角度は基板10主面に垂直な方向と、光の入射方向との成す角である。
【0029】
基板10は、アモルファスのSiO
2 (溶融石英)からなる厚さ1mmの平板状である。平面視での形状は、矩形、円など任意の形状でよい。厚さは1mmに限らず、他の層と干渉しない厚さであれば任意である。また材料は、SiO
2 以外にも、Al
2 O
3 、ZrO
2 、TiO
2 、MgOなどの酸化物、SiN、BN、などの窒化物、SiONなどの酸窒化物、MgF
2 、CaF
2 、LiFなどのフッ化物、などの硫化物を用いることができる。作製の容易さの点から、第2層12や第3層13と同一材料とすることが望ましい。
【0030】
実施例1の光学フィルタについて、基板10裏面(第1層11aが接している面とは反対側の面)から光を入射させて使用する場合には、基板10裏面にその裏面での反射を防止するための構造、たとえば裏面にARコートやモスアイ構造の層を設けてもよい。フィルム状のARコートやモスアイ構造の膜を張り付けてもよい。
【0031】
第1層11aは、基板10上に接して位置している。また、第1層11bは、第2層12上に接して位置している。第1層11a、bはアモルファスのSi(屈折率およそ4)からなり、厚さ210nmである。この厚さとした理由については後述する。
【0032】
第1層11a、bの材料にはSi以外にも、基板10よりも屈折率が高く、かつ、設計波長λ近傍のある波長より短波長側あるいは長波長側において吸収(望ましくは透過率が20%以下、さらに望ましくは10%以下)する材料であれば任意の材料を用いることができる。吸収する帯域以外の帯域ではなるべく透過率が高い材料が好ましい。設計波長λ近傍とは、たとえば0.75λから1.25λの範囲である。Siは800nm以下の波長帯域の光を吸収し透過率0〜10%であるから、確かに設計波長λ(=870nm)の近傍の800nmより短波長側を吸収する材料であり、この条件を満たしている。なお、吸収する帯域の幅は、光学フィルタにおいて使用する波長帯域をカバーする範囲であればよい。
【0033】
Si以外には、たとえば、第1層11a、bの材料として半導体を用いることができ、Si以外にGe、CdS、CdSe、Sb
2 S
3 、ZnS、ZnSe、CdTe、などを用いることができる。また、GaAs、GaNなどのIII−V族半導体、ZnOなどのII−VI族半導体、ITOなどの酸化物半導体を用いることも可能である。不純物をドープすることにより吸収端を制御してもよい。
【0034】
また、第1層11a、bは、なるべく屈折率の大きな材料が望ましく、屈折率が3以上の材料が望ましい。実施例1の第1層11a、bの材料として用いているアモルファスSiは屈折率がおよそ4であり、これを満たす材料である。屈折率を大きくすると、光学フィルタへの入射角の変動に対して、第1層11a、b中を透過する光の第1層11a、b主面に対する角度の変動が小さくなるため、入射角依存性が低減される。
【0035】
第2層12は、第1層11a、bの間に、それぞれに接して位置している。第2層12は、屈折率1.35のアモルファスのSiO
2 からなり、厚さ180nmである。この厚さとした理由については後述する。
【0036】
なお、第2層12の材料は、SiO
2 以外にも、設計波長λの光を透過し、かつ第1層11a、bよりも屈折率の低い材料であれば任意の材料を用いることができる。たとえば、SiO
2 以外にも、Al
2 O
3 、ZrO
2 、TiO
2 、MgOなどの酸化物、SiN、BN、などの窒化物、SiONなどの酸窒化物、MgF
2 、CaF
2 、LiFなどのフッ化物、を用いることができる。ただし、光学フィルタの設計波長λにおける透過率を向上させるために第2層12の設計波長λにおける透過率はなるべく高いことが望ましく、90%以上であることが望ましい。
【0037】
第3層13は、SiO
2 からなり、厚さ1μm以上である。この第3層13は、第1層11bの酸化を防止するなど耐環境性の向上を目的として設けたものであり、第1層11b表面を覆うようにして設けたものである。厚さを1μm以上としているのは、設計波長以上の厚さとすることで他の層との干渉が生じないようにするためである。
【0038】
なお、第3層13は必ずしも基板10や第2層12と同一材料とする必要はなく、他の材料によって形成してもよい。たとえば、SiO
2 以外にも、Al
2 O
3 、ZrO
2 、TiO
2 、MgOなどの酸化物、SiN、BN、などの窒化物、SiONなどの酸窒化物、MgF
2 、CaF
2 、LiFなどのフッ化物、を用いることができる。また、耐環境性をさほど必要としない場合や、他の方法によって耐環境性を補う場合などには、第3層13自体を必ずしも設ける必要はない。
【0039】
また、実施例1の光学フィルタについて、第3層13表面から光を入射させて使用する場合には、第3層13表面に、その表面での光の反射を防止するための構造、たとえば表面にARコートやモスアイ構造の層を設けてもよい。ARコートやモスアイ構造の層としてフィルム状のものを用い、第3層13表面に張り付けるようにしてもよい。
【0040】
第1層11a、b、第2層12、第3層13は、結晶、多結晶、アモルファスのいずれの状態であってもよいが、形成の容易さや透過率の向上などの点からはアモルファスが望ましい。
【0041】
第1層11a、bおよび第2層12の厚さは、基板10裏面側から入射角50°で入射する波長870nmの光を透過させることを狙いとして、次のようにして設計した。
【0042】
まず、第1層11aの厚さは、870nmの光の透過率が最も高くなるように設計した。すなわち、
n1・d1/cosθ1=m・λ/2・・・ (1)
を満たすようにした。式(1)の左辺n1・d1/cosθ1は、第1層11aを透過する光の光学距離を表わしている。ここで、n1は第1層11aの屈折率、d1は第1層11aの厚さ、θ1は第1層11aを透過する光の厚さ方向に対する角度(第1層11a主面に対する角度)、λは設計波長、mは自然数である。厚さd1がこの式を満たすとき、基板10と第1層11aとの界面での反射と、第1層11aと第2層12との界面での反射が打ち消すため、第1層11aの透過率は最大となる。
【0043】
基板10裏面から入射角50°で光が入射した場合(設計入射角度θが50°の場合)、空気の屈折率はおよそ1、Siの屈折率はおよそ4であるから、sinθ=n1・sinθ1より、θ1は11°となる。また、λは870nmであるから、式(1)より、d1=105nm(m=1のとき)、210nm(m=2のとき)となる。実施例1では、Siによる短波長側の吸収によって透過帯域幅がより狭くなるように、d1として210nmを採用した。
【0044】
第1層11bについても、同様の理由によって、膜厚を210nmとした。
【0045】
次に、第2層12の厚さは、光学フィルタの透過スペクトルにおいて通過帯域幅(透過スペクトルのピークの半値幅)がより狭くなるように設計した。すなわち、
n2・d2/cosθ2=(2m−1)・λ/4・・・ (2)
を満たすようにした。式(2)の左辺は、第2層12を透過する光の光学距離を表わしている。また、n2は第2層12の屈折率、d2は第2層12の厚さ、θ2は第2層12を透過する光の厚さ方向に対する角度、λは設計波長、mは自然数である。空気の屈折率はおよそ1、SiO
2 の屈折率はおよそ1.45であるから、sinθ=n2・sinθ2より、θ2は31.9°となる。実施例1では、透過率向上のため式(2)において第2層が最も薄くなるm=1とし、d2として180nmを採用した。
【0046】
以上のように第1層11a、b、第2層12の厚さを設計することにより、入射角度50°、波長870nmの光を選択的かつ効率的に透過させることができるようにした。
【0047】
なお、設計入射角度への最適化を必要としない場合、たとえば比較的入射角度の変化の小さい条件での使用を想定している場合や、入射角度が0°に比較的近い範囲で使用を想定している場合などには、次のようにして第1層11a、b、第2層12の厚さを設計してもよい。
【0048】
第1層11a、bの厚さd1は、
n1・d1=m・λ/2・・・ (3)
を満たすように設計してもよく、第2層12の厚さd2は、
n2・d2=(2m−1)・λ/4・・・ (4)
を満たすように設計してもよい。式(3)、(4)においてn1、n2、m、λは式(1)、(2)と同様である。
【0049】
このように第1層11a、bおよび第2層12の厚さを設計した場合、透過ピークにおける透過率が低下する場合があるが、入射角依存性が小さい特性は変わりがない。また、入射角度を考慮しなくてもよいため設計がより容易である。
【0050】
次に、実施例1の光学フィルタの製造方法について説明する。
【0051】
この実施例1の光学フィルタは、Si半導体プロセスを流用して容易に作製することができる。たとえば以下のようにして作製することができる。まず、石英基板である基板10上に、高周波スパッタ法を用いてSiからなる厚さ210nmの第1層11a、SiO
2 からなる厚さ180nmの第2層12、Siからなる厚さ210nmの第1層11bを順に形成する。次に、第1層11b上に、SiO
2 からなる第3層13を厚く形成する。第1層11a、bの形成において、ターゲットは多結晶シリコンとし、アルゴン雰囲気で成膜する。また、第2層12、第3層13の形成において、ターゲットは溶融石英板とし、アルゴンと酸素の混合雰囲気(酸素は10%)で成膜する。以上により、実施例1の光学フィルタを作製することができる。
【0052】
なお、スパッタの条件は上記に限るものではなく、従来知られている任意の条件により形成してもよい。また、スパッタ法に限らず、真空蒸着法、CVD法など、従来SiやSiO
2 の成膜方法として知られている任意の方法によって成膜してよい。
【0053】
次に、実施例1の光学フィルタの動作原理について説明する。
【0054】
実施例1の光学フィルタは、Siからなる層(第1層11a、b)とSiO
2 からなる層(第2層12)が、所定の厚さで交互に繰り返し積層された積層構造を有しており、光の干渉によってバンドパスフィルタとして動作するようにしている。バンドパスフィルタとは、所定の波長帯域を透過し、他の帯域は透過が抑制された透過特性である。
【0055】
ここで、実施例1の光学フィルタでは、第1層11の層数を2に限定することで、第1層11による光の吸収を抑え、製造工程数を抑えている。これにより、透過ピークにおける透過率が高く、かつ製造の容易な光学フィルタを実現している。
【0056】
また、実施例1の光学フィルタでは、第1層11a、bとして、設計波長870nm近傍である800nm以下の波長帯域は吸収し、他の帯域は透過する材料であるSiを用いている。ここで、Siによる光の吸収には入射角依存性がない。そのため、設計波長近傍より短波長側の透過率は、入射角度に依らずに抑えられる。光学フィルタの透過スペクトルの透過ピークは、通常入射角度が大きくなるにつれて短波長側へとシフトするが、そのシフト量は入射角度によらないSiの吸収によって低減される。その結果として、入射角依存性の小さな光学フィルタを実現することができる。
【0057】
図2は、実施例1の光学フィルタの透過スペクトルを測定した結果を示したグラフである。入射角度は0°から80°まで10°刻みで変化させて測定した。
【0058】
図2のように、入射角度が0°のとき、波長500〜1200nmの範囲において900nmに透過率34%の透過ピークを有し、ピークの半値幅が50nmであり、800nm以下および1000nm以上の波長帯域において透過率10%以下の特性であった。つまり、設計波長900nmとするバンドパスフィルタとしての特性を示していた。また、10〜80°の入射角度においても同様にバンドパスフィルタの特性を示していた。特に、入射角が50°の場合に透過ピークは890nmであり、設計波長870nmの付近に透過ピークが生じており、設計入射角度に応じた最適化ができていることがわかった。
【0059】
また、入射角度が0°から80°へと大きくなるにつれて透過ピークは短波長側へシフトしていた。入射角度80°では波長850nmに透過率20%の透過ピークを有する特性であった。つまり、入射角度が0°から80°まで変化したときに、透過ピークは波長900nmから850nmへと50nmシフトしており、入射角依存性が小さいことがわかった。ただし、透過ピークでの透過率は34%から20%に減少していた。
【0060】
[比較例1]
比較例1として、
図4に示すような構成の光学フィルタを作製した。比較例1の光学フィルタは、SiO
2 からなる基板(石英基板)100上に、光学膜厚がλ/4のTiO
2 からなる高屈折率層101と、光学膜厚がλ/4のSiO
2 からなる低屈折率層102を交互に2回繰り返し積層し、次に光学膜厚がλ/2のTiO
2 からなる高屈折率層103を積層し、さらにその上に低屈折率層102と高屈折率層101を交互に2回繰り返し積層し、最後にSiO
2 からなるキャップ層104を積層した構造である。また、設計波長λは870nmとした。この積層構造による光の干渉により、波長λの光を選択的に透過するバンドパスフィルタとして動作するようにしている。
【0061】
図3は、比較例1の光学フィルタの透過スペクトルを測定した結果を示したグラフである。入射角度は0°から80°まで10°刻みで変化させて測定した。
【0062】
図3のように、半値幅が狭く、ピークにおける透過率が100%に近いフィルタを実現できている。しかし、入射角度が0°から80°まで変化させると、透過ピークは波長970nmから800nmまで大きく変化している。また、設計波長よりも短波長側に離れたところにも透過ピークが出現しており、また波長1100nm以上における透過率が上昇している。
【0063】
このように、比較例1の光学フィルタは、バンドパスフィルタとしての特性が十分でなく、入射角依存性も大きかった。
【実施例2】
【0064】
図5は、実施例2の光学フィルタの構成を示した図である。実施例2の光学フィルタは、実施例1の光学フィルタにおいて、第1層11bと第3層13の間に、第2層22、第1層21を第1層11b側から順に積層させた構造を加えたものである。それ以外の構成は実施例1の光学フィルタと同様である。また、第1層21は第1層11a、bと同一の材料、厚さであり、第2層22は第2層12と同一の材料、厚さである。すなわち、実施例2の光学フィルタは、実施例1の光学フィルタの積層構造の積層数を2から3に1つ増やした構造である。
【0065】
図6は、実施例2の光学フィルタの透過スペクトルを測定した結果を示したグラフである。入射角度は0°から80°まで10°刻みで変化させて測定した。
【0066】
図6のように、実施例2の光学フィルタの透過スペクトル形状は、実施例1の光学フィルタの透過スペクトル形状とほぼ同様であった。すなわち、波長900nm付近に透過ピークを有するバンドパスフィルタとして機能していることがわかった。また、透過ピークは入射角度が大きくなるほど短波長側にシフトしているが、そのシフト量はおよそ50nmであった。ただし、実施例1の光学フィルタに比べて透過率が下がっており、Siからなる層である第1層21を増やしたことによる吸収の影響が大きくなっていている。
【0067】
[比較例2]
図7は、比較例2の光学フィルタの構成を示した図である。比較例2の光学フィルタは、実施例2の光学フィルタにおいて、第1層21と第3層13の間に、さらに第2層202と第1層201を第1層21側から順に積層させた構造を設けたものである。それ以外の構成は実施例2の光学フィルタと同様である。また、第1層201は第1層11a、b、21と同一の材料、厚さであり、第2層202は第2層12、22と同一の材料、厚さである。すなわち、比較例2の光学フィルタは、実施例2の光学フィルタの積層構造の積層数を3から4に1つ増やした構造である。
【0068】
図8は、比較例2の光学フィルタの透過スペクトルを測定した結果を示したグラフである。入射角度は0°から80°まで10°刻みで変化させて測定した。
【0069】
比較例2の透過スペクトルを実施例2の透過スペクトルと比較すると、透過スペクトルの形状はそれほど変化していないことがわかる。しかし、透過率は全体的に大きく低下している。たとえば、実施例2の光学フィルタでは、入射角度0°の場合、波長910nm付近に透過率20%のピークがあるが、比較例2の光学フィルタでは、入射角度0°の場合、波長910nm付近に透過率11%のピークがあり、透過率が9%低下している。
【0070】
このように、比較例2の光学フィルタは、Siからなる第1層11、21、201の数が多いために、光の吸収が大きくなり、光学フィルタの特性が悪化している。
【0071】
実施例1、2および比較例2から、光学フィルタの透過率、バンドパスフィルタとしての特性、積層数の増加による作製の難度向上とのバランスを考えると、積層数は2または3とすることが最適であることがわかった。
【0072】
[比較例3]
実施例2の光学フィルタにおいて、第1層11、21の厚さを210nmから110nmに変更し、第1層11、21の積層数を3から6に増加させた光学フィルタを作製し、透過スペクトルを測定した。その結果、透過率は実施例2の光学フィルタと同等であったが、バンドパスフィルタとしての特性が低下していた。つまり、透過ピーク近傍の帯域以外にも透過率の高い帯域が生じていた。
【0073】
この比較例3から、光学フィルタの透過率、バンドパスフィルタとしての特性、積層数の増加による作製の難度向上とのバランスを考えると、実施例1、2の光学フィルタにおける第1層11の厚さを半分にした場合(式(1)においてm=2からm=1に変更した場合)であっても、積層数は2または3とすることが最適であることがわかった。
【0074】
なお、実施例1、2では、光学フィルタの設計波長を870nmとしているが、本発明はこれに限るものではなく、たとえば0.4〜10μmの可視光領域から中赤外線領域を設計波長とすることができる。特に700〜2500μmの近赤外線領域とするのに実益がある。設計波長をこの範囲の値とすると、入試角度を0°から80°に変化させたときの透過ピークのシフトが50nm以下の非常に入射角依存性が小さなバンドパスフィルタを実現することができる。また、この波長領域では、従来、入射角依存性の小さな光学フィルタを実現できていなかった点からも利点がある。
【0075】
また、実施例1、2では、設計入射角度を50°としているが、本発明はこれに限るものではなく、0°以上90°未満の任意の角度を設計入射角度とすることができる。たとえば20〜70°とすることができ、この範囲の値であっても、バンドパスフィルタとして良好な特性を示す。
【0076】
また、実施例1、2では、光を基板10裏面側から入射させて光学フィルタを使用しているが、本発明の光学フィルタは基板10裏面側とは反対側から光を入射させて使用してもよい。