特許第6228443号(P6228443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228443
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20171030BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20171030BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   B41M5/00 100
   C09D11/00
   B41M5/00 120
   B41M5/00 110
   B41J2/01 501
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-252842(P2013-252842)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-139004(P2014-139004A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2016年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-276127(P2012-276127)
(32)【優先日】2012年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】若林 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】光吉 要
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−080757(JP,A)
【文献】 特開2007−186641(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/137414(WO,A1)
【文献】 特開2003−213165(JP,A)
【文献】 特開2006−282802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
B41J 2/01 − 2/215
C09D 11/00 − 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録用水系インクを用いて記録媒体に記録するインクジェット記録方法であって、該水系インクが、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)と、ノニオン性界面活性剤(B)、顔料及び水とを含有し、
ノニオン性界面活性剤(B)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
(A)成分の含有量が水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が1以上3以下であり、
該記録媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量が、0g/m以上10g/m以下である、インクジェット記録方法。
RO−[(EO)m/(PO)n]−H (1)
(Rは炭素数6以上30以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示す。m及びnはそれぞれエチレンオキシ基の平均付加モル数及びプロピレンオキシ基の平均付加モル数を示し、mは4〜100、nは0である。
【請求項2】
ノニオン性界面活性剤(B)の含有量が1.0質量%以上、9.0質量%以下である、請求項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
顔料が、自己分散型顔料、分散剤で分散された顔料又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として、水系インク中に含有される、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
顔料が、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として、水系インクに含有される、請求項1〜のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
インクジェット記録用水系インクの32℃における粘度が、2.0mPa・s以上、12mPa・s以下である、請求項1〜のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクジェット記録用水系インクの表面張力が、25.0mN/m以上、30.0mN/m以下である、請求項1〜のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
顔料を含有するインクジェット記録用水系インクを充填した容器を、インク飛翔手段を有するインクジェット記録装置に装着し、純水との接触時間100m秒における吸水量が0g/m以上10g/m以下である記録媒体に、インクを飛翔させ印字する画像形成方法であって、該水系インクが、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)とノニオン性界面活性剤(B)を含有し、
ノニオン性界面活性剤(B)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
(A)成分の含有量が水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が1以上3以下である、画像形成方法。
RO−[(EO)m/(PO)n]−H (1)
(Rは炭素数6以上30以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示す。m及びnはそれぞれエチレンオキシ基の平均付加モル数及びプロピレンオキシ基の平均付加モル数を示し、mは4〜100、nは0である。
【請求項8】
ノニオン性界面活性剤(B)の含有量が1.0質量%以上、9.0質量%以下である、請求項に記載の画像形成方法。
【請求項9】
顔料が、自己分散型顔料、分散剤で分散された顔料、又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として、水系インク中に含有される、請求項7又は8に記載の画像形成方法。
【請求項10】
顔料が、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として、水系インクに含有される、請求項のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項11】
インクジェット記録用水系インクの32℃における粘度が、2.0mPa・s以上、12mPa・s以下である、請求項10のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項12】
インクジェット記録用水系インクの表面張力が、25.0mN/m以上、30.0mN/m以下である、請求項11のいずれかに記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、インクジェット記録用水系インク、及び該水系インクを用いる画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、着色成分として顔料を用いるインクが広く用いられている。
また一方で、オフセットコート紙のような低吸液性のコート紙、又はポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂等の非吸液性樹脂のフィルムを用いた商業印刷向けの記録媒体への印刷が求められている。
これら低吸収性、非吸収性の記録媒体上にインクジェット記録方法で印字を行った場合、液体成分の吸収が遅い、又は吸収されないため乾燥に時間がかかり印字初期の擦過性が劣ることが知られている。また紙内に顔料が浸透する普通紙とは異なり、低吸収性、非吸収性の記録媒体は顔料粒子が紙上に上残りし、直接外力を受けるために乾燥後の耐擦過性も劣ることが知られている。
【0003】
これらの課題を解決するために、インク吸液層を有する記録媒体を用いるインクジェット記録方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、顔料を含有する塗工層を塗布してなるメディアに印字するインクジェット記録方法であって、メディアの前記塗工層を有する面への純水の転移量、及び塗工層を有する紙面pHが特定範囲にあるメディアに対し、粒子状の色材とエマルジョン樹脂及び界面活性剤を含有するpH8以上のインクを用いて印字するインクジェット記録方法が開示されている。また、乾燥装置を備えた記録装置が提案されている。
しかし、記録媒体や記録装置からの改善は、コストや消費電力等の観点で課題があり、インク組成からの改善が求められている。
【0004】
特許文献2には、着色顔料を、顔料分散剤及び/又は非水溶性樹脂、並びに溶媒からなる混合溶液で分散して、非水性顔料分散液を製造した後、前記非水溶性樹脂を混合して非水性顔料インクを製造し、前記インクに乳化剤と水を混合して乳化分散する水性顔料インク組成物の製造方法が開示されており、得られた水性顔料インク組成物は貯蔵安定性、印字物の密着性、耐水性等に優れると記載されている。
特許文献3には、着色剤を包含した水不溶性分散樹脂からなる色材分散体、アセチレングリコール又はそのエーテル誘導体、C1〜C5の1価アルコール化合物、及び保湿剤を含んでなる水性インク組成物であって、前記アルコール及び保湿剤とアセチレングリコール等が相互溶解する組み合わせを含んでいる水性インク組成物、及びそれを用いるインクジェット記録方法が開示されており、保存安定性と吐出安定性が両立できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260279号公報
【特許文献2】特開2007−138129号公報
【特許文献3】特開2005−154549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の技術は、水系インクの濁りや印字物の色むら抑制の点において満足し得るものではない。例えば、アセチレングリコールは水系インクの濡れ広がり性を向上させるが、低吸収性、非吸収性の記録媒体に印字した際には水系インクの濡れ広がり性が不十分であり、色むらが生じ易い。一方で、濡れ性をより高めようとしてアセチレングリコールの水系インクへの含有量を多くすると、アセチレングリコールの水系インクへの溶解性が劣るため、水系インクが濁り、また、濡れ広がり性も改善しないという問題がある。
本発明は、インクの濁りがなく、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらの抑制に優れるインクジェット記録用水系インク、及び該水系インクを用いた低吸水性の記録媒体へのインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
なお、本発明において、「低吸水性」とは、低吸収性、非吸収性を含む概念である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のアセチレングリコール(A)とノニオン性界面活性剤(B)とを含有する水系インクに着目し、(A)成分の量と、[(B)/(A)]の質量比を特定範囲とすることにより、前記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[3]に関する。
[1]インクジェット記録用水系インクを用いて記録媒体に記録するインクジェット記録方法であって、該水系インクが、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)と、ノニオン性界面活性剤(B)、顔料及び水とを含有し、
(A)成分の含有量が水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が1以上3以下であり、
該記録媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量が、0g/m2以上10g/m2以下である、インクジェット記録方法。
[2]顔料を含有するインクジェット記録用水系インクであって、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)と、ノニオン性界面活性剤(B)とを含有し、
(A)成分の含有量が水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が1以上3以下である、インクジェット記録用水系インク。
[3]前記[2]に記載のインクジェット記録用水系インクを入れた容器を、インク飛翔手段を有するインクジェット記録装置に装着し、純水との接触時間100m秒における吸水量が0g/m2以上10g/m2以下である記録媒体に、インクを飛翔させ印字する画像形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクの濁りがなく、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらの抑制に優れ、保存安定性、吐出性にも優れるインクジェット記録用水系インク、及び該水系インクを用いた低吸水性の記録媒体へのインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、顔料を含有するインクジェット記録用水系インクであって、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)(以下、単に「アセチレングリコール(A)」又は「(A)成分」ともいう)と、ノニオン性界面活性剤(B)(以下、「(B)成分」ともいう)とを含有し、(A)成分の含有量が水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が1以上3以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、インクの濁りがなく、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらの抑制に優れる効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
アセチレングリコール(A)に対してノニオン性界面活性剤(B)を質量比1以上で含有させることにより、アセチレングリコール(A)とノニオン性界面活性剤(B)との複合化作用により、アセチレングリコール(A)の含有量が1質量%以上であっても、インクに濁りが生じず、低吸水性の記録媒体に印字した際に色むらを抑制することができる。しかし、アセチレングリコール(A)の含有量が3.0質量%を超えると、水系インクの粘度や吐出性、濡れ広がり性に影響を与え、低吸水性の記録媒体に印字した際に色むらを十分に抑制することが困難になる。また、前記質量比が高い場合も、アセチレングリコール(A)と相互作用しない、すなわち、アセチレングリコール(A)のインクへの溶解性に寄与しない過剰分のノニオン性界面活性剤(B)が水系インクの粘度や吐出性、濡れ広がり性に影響を与え、低吸水性の記録媒体に印字した際に色むらを十分に抑制することが困難になるためと考えられる。
【0011】
<インクジェット記録用水系インク>
本発明のインクジェット記録用水系インクは、顔料を含有し、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)と、ノニオン性界面活性剤(B)とを含有する。
なお、「水系」とは、インクに含有される媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味するものであり、媒体が水のみの場合もあり、水と一種以上の有機溶媒との混合溶媒の場合も含まれる。
【0012】
[アセチレングリコール(A)]
(A)成分である2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコールは、水系インクの濡れ広がり性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制するために用いられる。
これらの中では、水系インクの濡れ広がり性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールが好ましい。
【0013】
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールは、アセチレンと、目的とするアセチレングリコールに対応するケトン又はアルデヒドとを反応させることにより合成することができ、例えば藤本武彦著、全訂版「新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社出版、1992年)94頁〜107頁等に記載の方法で得ることができる。
また、(A)成分の市販品としては、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社のサーフィノール104PG−50、104E、104H、104A等が挙げられる。
【0014】
(A)成分の含有量は、水系インクの濡れ広がり性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下である。(A)成分の含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.3質量%以上である。
また、(A)成分の含有量は、水系インクの吐出性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、及びインクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下である。
【0015】
[ノニオン性界面活性剤(B)]
(B)成分であるノニオン性界面活性剤は、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制するために用いられる。
(B)成分としては、ポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤、多価アルコール型ノニオン性界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0016】
(B)成分としては、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点、及び低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、炭素数が6以上30以下のアルコールのアルキレンオキシド付加物が好ましい。
アルコールの炭素数は、上記と同様の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、また、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である。
アルキレンオキシド付加物としては、上記と同様の観点から、エチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの付加物が好ましく、エチレンオキシドの付加物が好ましい。
【0017】
(B)成分としては、上記と同様の観点から、下記式(1)で示される化合物が更に好ましい。
RO−[(EO)m/(PO)n]−H (1)
(Rは炭素数6以上30以下の炭化水素基を示し、EOはエチレンオキシ基を示し、POはプロピレンオキシ基を示す。m及びnはそれぞれエチレンオキシ基の平均付加モル数及びプロピレンオキシ基の平均付加モル数を示し、mは4〜100、nは0〜50であり、mとnの合計は4〜120である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示し、EOとPOの付加順序は問わない。)
【0018】
Rである炭化水素基の炭素数は、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点、及び低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、また、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である。
前記の炭化水素基は、上記と同様の観点から、直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、直鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。
炭素数6以上30以下の炭化水素基としては、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、2−プロピルヘプチル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、2−オクチルデシル基、ベヘニル基等が挙げられ、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、2−オクチルデシル基、ベヘニル基が好ましい。
【0019】
エチレンオキシ基の平均付加モル数mは4〜100であり、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点、及び低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下である。
プロピレンオキシ基の平均付加モル数nは0〜50であり、nは、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点及び低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは20以下である。
mとnの合計量は4〜120であり、上記と同様の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下である。
nが2以上の場合、式(1)の化合物は、ブロック体でもランダム体でもよい。ブロック体の場合、ヒドロキシ基側がオキシエチレン鎖、すなわち、RO−(PO)(EO)−Hであることが好ましい。
また、ブロック体の場合、RO−(EO)(PO)(EO)−Hのトリブロック体であってもよい。
【0020】
(B)成分の含有量は、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点、及び低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上である。また、(B)成分の含有量は、水系インクの吐出性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、及びインクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下、更に好ましくは4.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下である。
【0021】
[(A)成分に対する(B)成分の質量比]
(A)成分に対するB成分の質量比[(B)/(A)成分]は、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、及び水系インクの吐出性、保存安定性を向上させる観点から、1以上3以下である。
[(B)/(A)]は、(A)成分の水系インクへの溶解性を向上させ、インクの濁りを抑制する観点、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上であり、水系インクの吐出性を向上させ、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、及びインクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.2以下である。
【0022】
[顔料]
本発明の水系インクは、印字物の耐水性、耐候性を向上させる観点から、着色剤として、顔料を用いる。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
【0023】
顔料は、水系インク中に、自己分散型顔料、分散剤で分散された顔料、又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として含有される。
水系インクの低吸水性の記録媒体への定着強度を向上させる観点から、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)として含有されることが好ましい。
【0024】
[顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)]
(水不溶性ポリマー)
水不溶性ポリマー(以下、「(c)成分」ともいう)とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、水系インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0025】
ビニル系ポリマーとしては、(c−1)イオン性モノマー(以下「(c−1)成分」ともいう)と、(c−2)疎水性モノマー(以下「(c−2)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(c−1)成分由来の構成単位と(c−2)成分由来の構成単位を有する。中でも、更に(c−3)マクロモノマー(以下「(c−3)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0026】
〔(c−1)イオン性モノマー〕
(c−1)イオン性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0027】
〔(c−2)疎水性モノマー〕
(c−2)疎水性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0028】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(c−2)疎水性モノマーは、前記のモノマー2種類以上を使用してもよく、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリレートを併用してもよい。
【0029】
〔(c−3)マクロモノマー〕
(c−3)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c−3)マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c−3)マクロモノマーとしては、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(c−2)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0030】
〔(c−4)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、更に、(c−4)ノニオン性モノマー(以下「(c−4)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。
(c−4)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n=2〜30)等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
商業的に入手しうる(c−4)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800、同1000等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(c−1)〜(c−4)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
(モノマー混合物中又はポリマー中における各成分又は構成単位の含有量)
ビニル系ポリマー製造時における、上記(c−1)〜(c−4)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(c−1)〜(c−4)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(c−1)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%、更に好ましくは20質量%以下である。
(c−2)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは86質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(c−3)成分の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは18質量%以下である。
(c−4)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
また、〔(c−1)成分/[(c−2)成分+(c−3)成分]〕の質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上であり、そして好ましくは1.00以下、より好ましくは0.60以下、更に好ましくは0.40以下である。また、〔(c−1)成分/[(c−2)成分+(c−3)成分]〕の質量比は、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.05〜0.60、更に好ましくは0.10〜0.40である。
【0033】
(水不溶性ポリマーの製造)
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
【0034】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマーは、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程1に用いる有機溶媒として用いるために、そのままポリマー溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点、及び水系インクの低吸水性の記録媒体への定着強度を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000であり、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、更に好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000である。
なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0035】
[顔料含有ポリマー粒子の製造]
顔料含有ポリマー粒子は、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
また、任意の工程であるが、更に工程IIIを行ってもよい。
工程III:工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程
【0036】
(工程I)
工程Iでは、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、ケトン類がより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0037】
水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーのアニオン性基の中和度は、顔料含有ポリマー粒子のインク中及び顔料水分散体における分散安定性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、また、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0038】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
顔料の顔料混合物中の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中及び顔料水分散体中における分散安定性を向上させる観点、顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは14質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
水不溶性ポリマーの顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点、水系インクの低吸水性の記録媒体への定着強度を向上させる観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、顔料への濡れ性及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び顔料水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは、65質量%以下である。
【0039】
水不溶性ポリマーに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、顔料水分散体の分散安定性及び水系インクの保存安定性、吐出性を向上させる観点、水系インクの低吸水性の記録媒体への定着強度を向上させる観点から、好ましくは30/70〜90/10、より好ましくは40/60〜80/20、更に好ましくは50/50〜70/30である。また、水不溶性ポリマーに対する顔料の質量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、30/70以上であることが好ましく、50/50以上であることがより好ましく、70/30以上が更に好ましく、また、90/10以下であることが好ましく、85/15以下であることがより好ましく、80/20以下が更に好ましい。
【0040】
工程Iにおいて、更に顔料混合物を分散して分散処理物を得る。分散処理物を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iの予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは20℃以下であり、分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、また、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0041】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、また、好ましくは200MPa以下、より好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3パス以上、より好ましくは10パス以上であり、また、好ましくは30パス以下、より好ましくは25パス以下である。
【0042】
(工程II)
工程IIでは、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する固体の水不溶性ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、水不溶性ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該水不溶性ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該水不溶性ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該水不溶性ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0043】
(工程III)
工程IIIは、任意の工程であるが、工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程である。工程IIIを行うことが、水分散体及びインクの保存安定性の観点から好ましい。
ここで、架橋剤は、水不溶性ポリマーがアニオン性基を有するアニオン性水不溶性ポリマーである場合において、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0044】
得られた顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは75nm以上であり、また、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、更に好ましくは110nm以下である。
なお、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、水系インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0045】
(水系インク中の各成分の含有量)
顔料の水系インク中の含有量は、水系インクの印字濃度を向上させる観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上である。また、顔料の含有量は、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下である。
顔料水分散体の水系インクへの配合量は、水系インクの印字濃度を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。また、顔料水分散体の水系インクへの配合量は、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0046】
顔料含有ポリマー粒子の水系インク中の含有量は、水系インクの印字濃度を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上である。また、顔料含有ポリマー粒子の含有量は、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
水不溶性ポリマーの水系インク中の含有量は、水系インクの保存安定性、吐出性及び低吸水性の記録媒体への定着強度を向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上である。また、水不溶性ポリマーの含有量は、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0047】
[水系インクの任意成分]
本発明の水系インクは、有機溶媒、定着性を向上させるための水不溶性ポリマー以外の水不溶性ポリマー、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
(有機溶剤)
有機溶媒としては、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、エチレングリコール等の多価アルコール、2−ピロリドン等のピロリドン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のグリコールエーテルが好ましく、これらを2つ以上併用することがより好ましい。
本発明において、有機溶媒の含有量は、水系インクの吐出性を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%であり、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0048】
[インクジェット記録用水系インクの製造方法]
インクジェット記録用水系インクは、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、ノニオン性界面活性剤、顔料および分散剤、あるいは顔料含有ポリマー粒子の水分散体、有機溶剤及び水等を混合し、攪拌することによって得られる。
【0049】
[水系インクの物性]
インクジェット記録用水系インクの32℃における粘度は、水系インクの吐出性を向上させる観点から、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは4.0mPa・s以上であり、また、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは10.0mPa・s以下、更に好ましくは8.0mPa・s以下、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。なお、32℃における粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
インクジェット記録用水系インクの表面張力は、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらを抑制する観点から、好ましくは25.0mN/m以上、より好ましくは26.0mN/m以上、更に好ましくは26.5mN/m以上であり、また、好ましくは30.0mN/m以下、より好ましくは29.0mN/m以下、更に好ましくは28.5mN/m以下である。なお、表面張力は、実施例に記載の方法により測定される。
インクジェット記録用水系インクのpHは、水系インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは8.0以上、更に好ましくは8.5以上であり、また、インクジェット記録装置の部材耐性、皮膚刺激性低下の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.5以下である。なお、pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記インクジェット記録用水系インクを用いて低吸水性のインクジェット記録媒体に記録する方法である。
【0051】
[インクジェット記録媒体]
(吸水量)
インクジェット記録媒体の純水との接触時間100m秒の吸水量は、0g/m2以上10g/m2以下である。また、インクジェット記録媒体の100m秒の吸水量は、印字物の乾燥性を早め、定着強度を向上させ、色むらを抑制する観点から、好ましくは1.0g/m2以上、より好ましくは2.0g/m2以上、更に好ましくは3.0g/m2以上、更に好ましくは4.0g/m2以上であり、印字物の色むら、印字濃度及び光沢度を向上させる観点から、好ましくは8.0g/m2以下、より好ましくは7.0g/m2以下、更に好ましくは6.0g/m2以下、更に好ましくは5.5g/m2以下である。なお、インクジェット記録媒体の純水との接触時間100m秒の吸水量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0052】
(物性)
記録媒体の60°光沢度は、印字物の光沢度及び視認性を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは200以下である。60°光沢度は、光沢計「HANDY GLOSSMETER」(日本電色工業株式会社製、品番:PG-1M)を用いて測定することができる。
【0053】
本発明に用いられるインクジェット記録媒体としては、コート紙及びフィルムが挙げられる。
コート紙としては、例えば、「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、60°光沢度49.0、接触時間100m秒における吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m2)、多色フォームグロス紙(王子製紙株式会社製、104.7g/m2、60°光沢度36.8、吸水量5.2g/m2)、UPM Finesse Gloss(UPM社製、115g/m2、60°光沢度27.0、吸水量3.1g/m2)、UPM Finesse Matt(UPM社製、115g/m2、60°光沢度5.6、吸水量4.4g/m2)、TerraPress Silk(Stora Enso社製、80g/m2、60°光沢度6.0、吸水量4.1g/m2)、LumiArt(Stora Enso社製、90g/m2、60°光沢度26.3)等が挙げられる。
【0054】
フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これらフィルムは必要に応じてコロナ処理等の表面処理を行っていても構わない。
一般的に入手できるフィルムとしては、例えば、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート、厚み125μm、60°光沢度189.1、吸水量2.3g/m2)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル、60°光沢度58.8、吸水量1.4g/m2)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0055】
[インクジェット記録方法、画像形成方法]
本発明のインクジェット記録方法及び画像形成方法は、前記のインクジェット記録用水系インクを充填した容器を、インク飛翔手段を有するインクジェット記録装置に装着し、前記インクジェット記録媒体にインクを飛翔させ印字して画像を形成する方法である。
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録媒体に印字した後、印字物を乾燥する工程を有していてもよい。
インク飛翔手段としては、サーマル式又はピエゾ式のインクジェットヘッドを用いてインクを飛翔する方法があるが、本発明においては、ピエゾ式のインクジェットヘッドを用いてインクを飛翔させ印字する方法が好ましい。
[インクジェット記録用水系インクの印刷への使用]
本発明のインクジェット記録用水系インクの印刷への使用は、純水との接触時間100m秒における吸水量が0g/m2以上10g/m2以下である記録媒体に対する、前記インクジェット記録用水系インクの印刷への使用である。
【0056】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のインクジェット記録用水系インク、及びインクジェット記録方法を開示する。
<1> 顔料を含有するインクジェット記録用水系インクであって、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールから選ばれる1種又は2種以上のアセチレングリコール(A)と、ノニオン性界面活性剤(B)とを含有し、
(A)成分の含有量が水系インク中、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、(A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が1以上3以下である、インクジェット記録用水系インク。
【0057】
<2> (A)成分が好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールである、前記<1>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<3> (A)成分の含有量が、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.3質量%以上であり、また、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.8質量%以下である、前記<1>又は<2>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<4> ノニオン性界面活性剤(B)が、好ましくは炭素数が6以上30以下のアルコールのアルキレンオキシド付加物である、前記<1>〜<3>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<5> 炭素数が6以上30以下のアルコールのアルキレンオキサイド付加物のアルコールの炭素数が、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、また、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である、前記<4>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<6> 炭素数が6以上30以下のアルコールのアルキレンオキシド付加物が、好ましくはエチレンオキシド付加物又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドの付加物、より好ましくはエチレンオキシドの付加物である、前記<4>又は<5>いずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【0058】
<7> ノニオン性界面活性剤(B)が、好ましくは一般式(1)で表される化合物である、前記<1>〜<6>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<8> 一般式(1)において、Rである炭化水素基の炭素数が、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上であり、また、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である、前記<7>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<9> 一般式(1)において、炭化水素基が、好ましくは直鎖または分岐のアルキル基又はアルケニル基、より好ましくは直鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、更に好ましくはn−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、2−プロピルヘプチル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、2−オクチルデシル基、ベヘニル基であり、更に好ましくはラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、2−オクチルデシル基、ベヘニル基である、前記<7>又は<8>に記載のインクジェット記録用水系インク。
【0059】
<10> 一般式(1)において、mが、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下である、前記<7>〜<9>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<11> 一般式(1)において、nが、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下であり、更に好ましくは20以下である、前記<7>〜<10>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<12> 一般式(1)において、mとnの合計量が、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下である、前記<7>〜<11>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<13> 一般式(1)において、nが2以上であり、式(1)の化合物がブロック体である場合、好ましくはRO−(PO)(EO)−H、又はRO−(EO)(PO)(EO)−Hである、前記<7>〜<12>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【0060】
<14> (B)成分の含有量が、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、また、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下、更に好ましくは4.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下である、前記<1>〜<13>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<15> (A)成分に対する(B)成分の質量比[(B)/(A)]が、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上であり、また、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.2以下である、前記<1>〜<14>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<16> 顔料が、好ましくは自己分散型顔料、分散剤で分散された顔料又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として、水系インク中に含有され、より好ましくは顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として含有される、前記<1>〜<15>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<17> 水不溶性ポリマーが、好ましくは(c−1)イオン性モノマー由来の構成単位と(c−2)疎水性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマー、より好ましは更に(c−3)マクロモノマー由来の構成単位又は(c−4)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有するビニル系ポリマーである、前記<16>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<18> イオン性モノマーが、好ましくはアニオン性モノマー、より好ましくはカルボン酸モノマー、更に好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸である、前記<17>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<19> 疎水性モノマーが、好ましくはアルキル(メタ)アクリレート又は芳香族基含有モノマーである、前記<17>又は<18>に記載のインクジェット記録用水系インク。
【0061】
<20> 芳香族基含有モノマーが、好ましくはヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマー、より好ましくスチレン系モノマー又は芳香族基含有(メタ)アクリレートである、前記<19>に記載のインクジェット記録用水系インク。
<21> マクロモノマーが、好ましくは芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマー、より好ましくは芳香族基含有モノマー系マクロモノマーである、前記<17>〜<20>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<22> 顔料の水系インク中の含有量が、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下である、前記<1>〜<21>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<23> 顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水系インク中の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である、前記<16>〜<22>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<24> 水不溶性ポリマーの水系インク中の含有量が、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である、前記<16>〜<23>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【0062】
<25> インクジェット記録用水系インクの32℃における粘度が、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは4.0mPa・s以上であり、また、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは10.0mPa・s以下、更に好ましくは8.0mPa・s以下、更に好ましくは7.0mPa・s以下である、前記<1>〜<24>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
<26> インクジェット記録用水系インクの表面張力が、好ましくは25.0mN/m以上、より好ましくは26.0mN/m以上、更に好ましくは26.5mN/m以上であり、また、好ましくは30.0mN/m以下、より好ましくは29.0mN/m以下、更に好ましくは28.5mN/m以下である、前記<1>〜<25>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インク。
【0063】
<27> インクジェット記録用水系インクを用いて記録媒体に記録する、インクジェット記録方法であって、該水系インクが、前記<1>〜<26>のいずれかに記載の水系インクであり、該記録媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量が、0g/m2以上10g/m2以下である、インクジェット記録方法。
<28> 記録媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量が、好ましくは1.0g/m2以上、より好ましくは2.0g/m2以上、更に好ましくは3.0g/m2以上、更に好ましくは4.0g/m2以上であり、また、好ましくは8.0g/m2以下、より好ましくは7.0g/m2以下、更に好ましくは6.0g/m2以下、更に好ましくは5.5g/m2以下である、前記<27>に記載のインクジェット記録方法。
<29> インクジェット記録用水系インクを、インク飛翔手段を有するインクジェット記録装置に装着し、前記インクジェット記録媒体にインクを飛翔させ印字して画像を記録する、前記<27>又は<28>に記載のインクジェット記録方法。
<30> インク飛翔手段が、サーマル式又はピエゾ式のインクジェットヘッド、好ましくはピエゾ式のインクジェットヘッドを用いてインクを飛翔する、前記<29>に記載のインクジェット記録方法。
<31> インクジェット記録媒体に印字した後、印字物を乾燥する工程を有する、前記<29>又は<30>に記載のインクジェット記録方法。
<32> 前記<1>〜<26>のいずれかに記載のインクジェット記録用水系インクを充填した容器を、インク飛翔手段を有するインクジェット記録装置に装着し、純水との接触時間100m秒における吸水量が0g/m2以上10g/m2以下である記録媒体に、インクを飛翔させ印字する画像形成方法。
【実施例】
【0064】
以下に実施例等により、本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例等においては、各物性は次の方法により測定した。なお、「部」及び「%」は特記しない限り、「質量部」及び「質量%」である。
【0065】
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
【0066】
(2)顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体の固形分濃度の測定
30mLの軟膏容器にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0067】
(3)顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社、型番:ELS−8000、キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10-3質量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0068】
(4)[インクジェット記録用水系インクの表面張力の測定
白金プレートを20℃に調整したインク5gの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に浸漬させ、表面張力計「CBVP-Z」(協和界面化学株式会社製)を用いて、ウィルヘルミ法で測定した。
【0069】
(5)インクジェット記録用水系インクの粘度の測定
E型粘度計「TV−25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃にて粘度を測定した。
【0070】
(6)インクジェット記録用水系インクのpH
pH電極「6337−10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F−71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃におけるインクのpHを測定した。
【0071】
(7)インクジェット記録媒体の純水との接触時間100m秒での吸水量
自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msにおける転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
「Spiral Method」
Contact Time : 0.010〜1.0(sec)
Pitch (mm) : 7
Length Per Sampling (degree) : 86.29
Start Radius (mm) : 20
End Radius (mm) : 60
Min Contact Time (ms) : 10
Max Contact Time (ms) : 1000
Sampling Pattern (1 - 50) : 50
Number of Sampling Points (> 0) : 19
「Square Head」
Slit Span (mm) : 1
Slit Width (mm) : 5
【0072】
製造例1(顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造)
(1)水不溶性ポリマーの合成
スチレン(和光純薬工業株式会社製)46部、メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)14部、スチレンマクロモノマー「AS−6S」(東亞合成株式会社製、分子量6,000、固形分50%)30部、ポリプロピレングリコールメタクリレート「ブレンマーPP−1000」(日油株式会社)50部を混合し、モノマー混合液140部を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン18部及び連鎖移動剤である2−メルカプトエタノール0.03部、及び前記モノマー混合液の10%(14部)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、モノマー混合液の残りの90%(126部)と前記連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン42部及び重合開始剤2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)「V−65」(和光純薬工業株式会社製)3部を混合した混合液を滴下ロートに入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー溶液(重量平均分子量:100,000)を得た。水不溶性ポリマー溶液の固形分は、60質量%であった。
【0073】
(2)顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体の製造
前記(1)で得られた水不溶性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー66部をメチルエチルケトン148部に溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液18.8部と25%アンモニア水2部、及びイオン交換水372部を加え、更にシアン顔料「CFB−6338JC」(大日精化工業株式会社製)100部を加え、顔料混合液を得た。中和度は100モル%であった。顔料混合液をディスパー翼を用いて7000rpm、20℃の条件下で1時間混合した。得られた分散液をマイクロフルイダイザー「高圧ホモジナイザーM-140K」(Microfluidics社製)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理した。
得られた水不溶性ポリマー粒子の分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得た。固形分濃度は20質量%であり、顔料含有水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は100nmであった。
【0074】
実施例1〜11、比較例1〜11(水系インクの製造)
表1に示す所定量の添加剤、顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体(固形分20質量%)25.3部(顔料3.04部、水不溶性ポリマー2.03部)、グリセリン10部、ジエチレングリコール25部及び全量を100部となるようにイオン交換水を添加、混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:1.2μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、pHが8.8の水系インクを得た。
得られた水系インクの物性を表1及び2に示し、水系インクの製造に用いた化合物を表4に示す。
【0075】
実施例12〜17、比較例12〜14(水系インクの製造)
顔料として、顔料含有水不溶性ポリマー粒子の水分散体の代りに、表3に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして、pHが8.8の水系インクを得た。
得られた水系インクの物性を表3に示し、水系インクの製造に用いた化合物を表4に示す。
なお、表3に示す顔料の詳細は、以下のとおりである。
・カプセル化顔料(Bk):製造例1(2)で用いたシアン顔料の代わりにカーボンブラック顔料「モナーク800」(キャボット社製)を用いた。
・カプセル化顔料(M):製造例1(2)で用いたシアン顔料の代わりにマゼンタ顔料「PR−122」(大日精化工業株式会社製)を用いた。
・カプセル化顔料(Y):製造例1(2)で用いたシアン顔料の代わりにイエロー顔料「PY−74」(大日精化工業株式会社製)を用いた。
・自己分散カーボン:顔料含有水不溶性ポリマー粒子の代わりに自己分散カーボン 「cab−o-jet−300」(キャボット社製)を用いた。
・自己分散有機顔料(C):顔料含有水不溶性ポリマー粒子の代わりに自己分散有機顔料 「cab−o-jet−260M」(キャボット社製)を用いた。
・水溶性分散剤顔料(C):製造例1(2)で用いた水不溶性ポリマーの代わりに水溶性ポリマー「ジョンクリル61J」(BASF社製)を用いた。
【0076】
<水系インクの評価試験>
下記の試験1〜4を行った結果を表1〜3に示す。
試験1(色むらの評価)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェットヘッド「KJ4B-HD06MHG-STDV」(京セラ株式会社製)を装備した印字評価装置(株式会社トライテック製)に実施例、比較例で得られた水系インクを充填した。
ヘッド電圧26V、周波数30kHz、吐出液適量12pl、ヘッド温度32℃、解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧−4.0kPaを設定した。
記録媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、記録媒体を搬送台に減圧で固定した。
印字命令を前記印字評価装置に転送し、水系インクをインクジェット記録方式で記録媒体上に、打ち込み量100%(12pl、600×600dpi)のベタ画像を、下記の記録媒体1〜4に印刷し、印刷物を作成した。
・記録媒体1:グロスコート紙「OKトップコートプラス」(王子製紙株式会社製)
A4サイズ、吸水量:4.9g/m2
・記録媒体2:グロスコート紙「UPM Finesse gloss」(UPM キュンメネ社製)
A4サイズ、吸水量:3.1g/m2
・記録媒体3:マットコート紙「UPM Finesse Matt」(UPM キュンメネ社製)
A4サイズ、吸水量:4.4g/m2
・記録媒体4:シルキィコート紙「TerraPress Silk」(Stora Enso社製)
A4サイズ、吸水量:4.1g/m2
得られた印刷物の印字部を観察し、色むらが生じているか目視にて観察し、以下の基準で評価した。数値が大きいほど、色むらがなく優れている。結果を表2に示す。
【0077】
(色むらの評価基準)
4:評価した記録媒体4種に色むらが観察されなかった。
3:評価した記録媒体の1種に色むらが観察された。
2:評価した記録媒体の2種に色むらが観察された。
1:評価した記録媒体の3種に色むらが観察された。
0:評価した記録媒体のすべてに色むらが観察された。
【0078】
試験2(インクの濁りの評価)
インクを製造後、25℃で1時間放置し、油浮き、相分離、白濁等によるインクの濁りの有無を目視により観察した。「無」及び「乳化」が好ましく、「無」がより好ましい。
【0079】
試験3(保存安定性の評価)
インクを密閉容器内で、70℃恒温室下で1週間保存した。保存前と保存後の32℃における粘度を前記測定法により測定し、その変化率((保存後粘度/保存前粘度)×100(%))を求めた。
値が100%に近いほど、保存安定性に優れるが、120%以内であれば実用に供することができ、110%以内であることが好ましい。
【0080】
試験4(吐出性の評価)
試験1と同様に記録媒体1に連続して40枚印字を行った。1枚目及び10枚目毎に、印字物を目視にて観察し、「よれ」や「欠け」、「しぶき」の発生の有無を評価し、下記の基準で吐出性を評価した。
値が大きいほど、吐出性に優れるが、レベル3であれば実用に供することができ、レベル4以上であることが好ましい。
(吐出性の評価基準)
5:印刷40枚目でも「よれ」や「欠け」、「しぶき」は確認されなかった
4:印刷40枚目までに「よれ」や「欠け」、「しぶき」が発生した。
3:印刷30枚目までに「よれ」や「欠け」、「しぶき」が発生した。
2:印刷20枚目までに「よれ」や「欠け」、「しぶき」が発生した。
1:印刷10枚目までに「よれ」や「欠け」、「しぶき」が発生した。
0:印刷1枚目で「よれ」や「欠け」、「しぶき」が発生した
ここで、「よれ」とは、吐出しているが、飛翔方向が不安定で細い白い筋が入ることをいい、「欠け」とは、吐出していないノズルがあり、太い白い筋が入ることをいう。また、「しぶき」とは、インクジェットノズルからインクが霧状に吐出して、記録媒体が汚れる状態をいう。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
表1に示す実施例1〜11の水系インクは、低吸水性の記録媒体に印字した際に、色むら及びインクの濁りがないか、非常に少なく、また、保存安定性、吐出性も実用レベル以上であり、優れていることが分かる。
一方、表2において、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールを1.5質量%含有するインク(比較例1)では、インクの濁りが生じ、色むらが起こった。ノニオン性界面活性剤のみを含有するインク(比較例2)では、色むらを改善できなかった。
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールの含有量が1質量%未満のインク(比較例5;0.8質量%)では、色むらが改善しなかった。
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールの含有量が3質量%を超えるインク(比較例6;3.2質量%)では、インクジェト吐出させることができず、印刷評価ができなかった。
ノニオン性界面活性剤の添加量が少なく、質量比[(B)/(A)]が1未満のインク(比較例3;0.3)では、インクの濁りが改善されず、色ムラも改善されなかった。ノニオン性界面活性剤の添加量が多く、質量比[(B)/(A)]が3を超えるインク(比較例4;3.3)では、インクの濁りは若干改善されたが、色ムラは改善されなかった。
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド付加物(比較例8)を含有するインクは、2質量%含有してもインクの濁りは生じないが、色むらの改善効果は劣る。更にノニオン性界面活性剤を含有したインク(比較例9)でも、色むらは改善しなかった。
また、比較例10及び11は、特開2005−154549号の実施例に用いられているものであるが、インクの濁り、色むらが生じ、吐出性も劣っている。
以上のとおり、実施例1〜11の水系インクは、比較例1〜11の水系インクに比べ、低吸水性の記録媒体に印字した際に、色むら及びインクの濁りがなく、また、保存安定性、吐出性も実用レベル以上であり、優れていることが分かる。
また、表3に示す実施例12〜17の水系インクは、比較例12〜14の水系インクに比べ、低吸水性の記録媒体に印字した際に、色むら及びインクの濁りがなく、また、保存安定性、吐出性も実用レベル以上であり、優れていることが分かる。このことから、本発明のインクジェット記録方法は、各種の顔料を用いたインクジェット記録用水系インクを用いて広く適用することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のインクジェット記録方法によれば、インクの濁りがなく、低吸水性の記録媒体に印字した際の色むらの抑制に優れ、保存安定性、吐出性にも優れるため、インクジェット記録方法として、広範囲で好適に使用することができる。