特許第6228445号(P6228445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6228445保持シール材、保持シール材の製造方法及び排ガス浄化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228445
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】保持シール材、保持シール材の製造方法及び排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20171030BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 11/45 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 11/46 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   F01N3/28 311N
   F01N3/28 311P
   B01J33/00 G
   D06M13/513
   D06M15/267
   D06M11/45
   D06M11/46
   D06M11/79
   D06M101:00
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-253601(P2013-253601)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2015-110932(P2015-110932A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2016年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 隆彦
【審査官】 菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−204462(JP,A)
【文献】 特開2002−206421(JP,A)
【文献】 特開2002−013415(JP,A)
【文献】 特開2012−157809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
B01J 33/00
D01F 9/08
D06M 11/45 − 11/79
D06M 13/513
D06M 15/267
D06M 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中でマイナス電荷を帯びる無機繊維からなるマットを準備するマット準備工程と、
バインダ溶液中で、プラスの電荷を帯び、電荷の反発により凝集せずに均一に分散するカチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤からなるバインダ溶液を準備するバインダ溶液準備工程と、
前記バインダ溶液に前記マットを含浸する含浸工程と、
前記バインダ溶液を含浸させた前記マットを乾燥させる乾燥工程とからなる工程によって製造することを特徴とする保持シール材の製造方法。
【請求項2】
前記バインダ溶液準備工程において、さらにシランカップリング剤からなるバインダ溶液を準備する請求項1に記載の保持シール材の製造方法。
【請求項3】
前記マット準備工程では、無機塩法により紡糸原液を調製した後、紡糸工程による無機繊維前駆体の作製工程、ニードルパンチング処理工程、焼成工程を経て作製した無機繊維からなるマットを準備する請求項1又は2に記載の保持シール材の製造方法。
【請求項4】
前記バインダ溶液準備工程では、ガラス転移温度が−5℃以下のポリマーからなるカチオン性有機結合剤を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の保持シール材の製造方法。
【請求項5】
前記バインダ溶液準備工程では、前記カチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の含有率が前記カチオン性有機結合剤を構成するポリマーと前記カチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の合計体積に対して20〜60重量%となるバインダ溶液を準備する請求項1〜4のいずれか1項に記載の保持シール材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持シール材、保持シール材の製造方法及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、スス等のパティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される無機繊維集合体からなる保持シール材とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持シール材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。そのため、保持シール材には、圧縮されることによる反発力で発生する面圧を高め、排ガス処理体を確実に保持する機能が求められている。さらに、排ガス処理体をケーシングに収容する際には、保持シール材を構成する無機繊維が破断し、大気中に飛散することが知られている。このような無機繊維の飛散によって、大気中に飛散した無機繊維が保持シール材を取り扱う作業者の作業環境に悪影響を及ぼすという問題が存在する。
【0004】
従来、このような問題を解決するために、有機結合剤と無機バインダの凝集物を保持シール材に含浸する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−157809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、有機バインダと無機バインダの凝集物を用いており、無機繊維の飛散を抑止する効果は、凝集物が付着した部分に限定される。そのため、凝集物が存在しない部分で無機繊維が破断した場合には、無機繊維の飛散を抑止することができない。また、排ガスの熱により有機バインダが焼失した後には、無機繊維の表面に残存する無機バインダが繊維同士の滑りを防止することで面圧を向上させているが、残存する無機バインダは無機繊維の表面の一部にしか存在しないため、面圧を向上させる効果は小さい。そのため、面圧向上効果と無機繊維の飛散抑制効果を充分に達成できていないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、無機繊維の飛散量を効果的に抑制することができるとともに、保持シール材に要求される面圧特性を充分に満足できる保持シール材及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記保持シール材を備えた排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の保持シール材は、無機繊維からなる保持シール材であって、上記無機繊維は、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われていることを特徴とする。
【0009】
本発明の保持シール材は、上記無機繊維の表面全体が、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われているので、可撓性が維持されつつ、上記被膜の強度が向上し、本発明の保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を金属ケーシングに圧入等して排ガス浄化装置を作製する際、無機繊維の飛散を抑制することができる。
【0010】
また、カチオン性有機結合剤中にカチオン性無機結合剤を含有させることによって被膜の強度が向上し、無機繊維同士が接触したとき、被膜とともに繊維が滑ることが抑制され、室温での面圧が向上する。
【0011】
本発明の保持シール材において、上記被膜が形成された無機繊維の表面は、平滑であることが好ましい。
無機繊維は、上記被膜により概ね全体が覆われており、その表面に有機結合剤が充分に存在して平滑であると、被膜の強度がより高くなり、無機繊維の飛散を抑制することができる。
【0012】
本発明の保持シール材では、上記カチオン性有機結合剤は、ポリマーからなり、上記カチオン性無機結合剤は、無機微粒子が溶液中に分散したコロイド溶液であり、上記無機繊維を被覆する被膜は、上記カチオン性有機結合剤に由来する上記ポリマー中に上記カチオン性無機結合剤に由来する上記無機微粒子が分散していることが好ましい。
本発明の保持シール材において、有機結合剤及び無機結合剤は、カチオン性のものであるので、これらを用いた被膜は、上記カチオン性有機結合剤に由来する上記ポリマー中に上記カチオン性無機結合剤に由来する上記無機微粒子が均一に分散しており、被膜の強度が高くなる。
【0013】
本発明の保持シール材では、上記カチオン性有機結合剤に由来するポリマーと上記カチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子とは、シランカップリング剤により結合されていることが好ましい。
本発明の保持シール材において、上記ポリマーと上記無機微粒子がシランカップリング剤により結合されていると、被膜強度がより向上し、無機繊維がより破断しにくくなり、無機繊維の飛散を抑制することができる。また、無機繊維同士が接触したとき、被膜とともに繊維が滑ることが抑制され、面圧がより向上する。
【0014】
本発明の保持シール材では、上記無機繊維を被覆する被膜は、上記カチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子を20〜60重量%含有していることが好ましい。
本発明の保持シール材において、上記被膜が、カチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子を20〜60重量%含有していると、本発明の保持シール材を用いて排ガス浄化装置を作製した際、排ガスの導入等により温度が上がり、有機結合剤が分解、焼失すると、無機微粒子に起因して無機繊維の表面に多数の凹凸が形成され易くなり、無機繊維同士が接触した際に無機繊維同士がより引っ掛かり易くなり、面圧を向上させることができる。
【0015】
本発明の保持シール材では、上記無機繊維を被覆する被膜は、上記カチオン性有機結合剤に由来するポリマーを保持シール材全体の重量に対して2重量%以下含有しており、上記カチオン性有機結合剤を構成するポリマーのガラス転移温度(Tg)は、−5℃以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の保持シール材において、ガラス転移温度が−5℃以下のポリマーからなるカチオン性有機結合剤を用いることで、無機繊維の表面を覆う被膜が硬くならず、可撓性に富むので、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際などに保持シール材を曲げ易くなる。
【0017】
本発明の保持シール材では、上記無機繊維は、無機塩法により紡糸原液を調製した後、紡糸工程による無機繊維前駆体の作製工程、ニードルパンチング処理工程、焼成工程を経て作製した無機繊維であることが好ましい。
本発明の保持シール材は、無機塩法により作製されているので、無機繊維の強度が高く、そのばらつきも小さく、さらに、ニードルパンチング処理によって形成された無機繊維の交絡箇所にバインダ被膜が形成されることで、無機繊維同士の絡み合いを強固にし、保持シール材の面圧を向上させることができる。
【0018】
本発明の保持シール材の製造方法は、無機繊維からなるマットを準備するマット準備工程と、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤からなるバインダ溶液を準備するバインダ溶液準備工程と、上記バインダ溶液に上記マットを含浸する含浸工程と、上記バインダ溶液を含浸させた上記マットを乾燥させる乾燥工程とからなる工程によって製造することを特徴とする。
【0019】
本発明の保持シール材の製造方法では、カチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤とは、後述するように、バインダ溶液中で、プラスの電荷を帯び、電荷の反発により凝集せずに均一に分散するため、上記バインダ溶液準備工程で準備されるバインダ溶液は、カチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤とが良好に分散したバインダ溶液となると推定される。そして、このバインダ溶液に無機繊維が含浸されると、液中の無機繊維はマイナス電荷を帯びるので、電荷の引力により、カチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤とが無機繊維の表面全体に吸着し、無機繊維の表面全体が、カチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤とが良好に分散されてなる被膜に覆われることとなると推定される。
そのため、本発明の保持シール材の製造方法により得られた保持シール材は、無機繊維の飛散を抑制し、面圧を向上させることができる保持シール材となる。
【0020】
本発明の保持シール材の製造方法では、上記バインダ溶液準備工程において、さらにシランカップリング剤からなるバインダ溶液を準備することが好ましい。
本発明の保持シール材の製造方法に係る上記バインダ溶液準備工程において、さらにシランカップリング剤からなるバインダ溶液を準備することにより、バインダ溶液中又は無機繊維にカチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤が吸着する際、シランカップリング剤によりカチオン性有機結合剤を構成するポリマーとカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子がしっかり結合し、無機繊維上で、より強力な被膜を形成するため、該被膜は無機繊維から剥離しにくくなり、無機繊維の破断等が発生しにくい。
【0021】
本発明の保持シール材の製造方法では、上記マット準備工程では、無機塩法により紡糸原液を調製した後、紡糸工程による無機繊維前駆体の作製工程、ニードルパンチング処理工程、焼成工程を経て作製した無機繊維からなるマットを準備することが好ましい。
本発明の保持シール材の製造方法において、上記マットは、無機塩法により作製されているので、無機繊維の強度が高く、そのばらつきも小さく、さらに、ニードルパンチング処理によって形成された無機繊維の交絡箇所にバインダ被膜が形成されることで、無機繊維同士の絡み合いを強固にすることができ、保持シール材の面圧を向上させることができる。
【0022】
本発明の保持シール材の製造方法では、上記バインダ溶液準備工程では、ガラス転移温度が−5℃以下のポリマーからなるカチオン性有機結合剤を用いることが好ましい。
本発明の保持シール材の製造方法において、ガラス転移温度が−5℃以下のポリマーからなるカチオン性有機結合剤を用いることで、無機繊維の表面を覆う被膜が硬くならず、可撓性に富むので、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際などに保持シール材が折れにくくなる。
【0023】
本発明の保持シール材の製造方法では、上記バインダ溶液準備工程では、上記カチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の含有率が上記カチオン性有機結合剤を構成するポリマーと上記カチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の合計体積に対して20〜60重量%となるバインダ溶液を準備することが好ましい。
本発明の保持シール材の製造方法により得られた保持シール材では、排ガスの導入等により、有機結合剤が分解、焼失すると、無機繊維の表面に多数の凹凸が形成され、無機繊維同士が接触した際に無機繊維同士がより引っ掛かり易くなり、面圧を向上させることができる。
【0024】
本発明の排ガス浄化装置は、金属ケーシングと、上記金属ケーシングに収容された排ガス処理体と、上記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、上記排ガス処理体及び上記金属ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、上記保持シール材は、本発明の保持シール材であることを特徴とする。
【0025】
本発明の排ガス浄化装置では、保持シール材として、上記保持シール材が用いられているので、排ガスの導入等によりカチオン性有機結合剤が分解、焼失した後には、無機微粒子がしっかりと無機繊維の表面に結合し、無機繊維の表面に多数の凹凸が形成され易くなり、無機繊維同士が接触した際に無機繊維同士がより引っ掛かり易くなり、保持シール材の面圧を向上させることができる。
【0026】
本発明の排ガス浄化装置は、金属ケーシングと、上記金属ケーシングに収容された排ガス処理体と、上記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、上記排ガス処理体及び上記金属ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、上記保持シール材は、本発明の保持シール材の製造方法により製造された保持シール材であることを特徴とする。
【0027】
本発明の排ガス浄化装置では、保持シール材として、上記製造方法により製造された保持シール材が用いられているので、排ガスの導入等による加熱でカチオン性有機結合剤が分解、焼失した後には、無機微粒子がしっかりと無機繊維の表面に結合し、無機繊維の表面に多数の凹凸が形成され易くなり、無機繊維同士が接触した際に無機繊維同士がより引っ掛かり易くなり、保持シール材の面圧を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の保持シール材の一例を模式的に示した斜視図である。
図2図2(a)は、無機繊維の飛散性を測定するための測定装置の一例を模式的に示す側面図であり、図2(b)は、無機繊維の飛散性を測定するための測定装置を構成するサンプル支持アームの一部を模式的に示した平面図である。
図3図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示した断面図である。
図4図4は、本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、本発明の排ガス浄化装置を製造する方法の一例を模式的に示した斜視図である。
【0029】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明の保持シール材について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0030】
以下、本発明の保持シール材について説明する。
本発明の保持シール材は、無機繊維からなる保持シール材であって、上記無機繊維は、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われていることを特徴とする。
【0031】
まず、本発明の保持シール材を構成する各種材料について説明する。
【0032】
本発明の保持シール材を構成する無機繊維は、特に限定されないが、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、生体溶解性繊維及びガラス繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが好ましい。
無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナシリカ繊維、及び、ムライト繊維の少なくとも1種である場合には、耐熱性に優れているので、排ガス処理体が充分な高温に晒された場合であっても、変質等が発生することはなく、保持シール材としての機能を充分に維持することができる。
【0033】
アルミナ繊維には、アルミナ以外に、例えば、カルシア、マグネシア、ジルコニア等の添加剤が含まれていてもよい。
アルミナシリカ繊維の組成比としては、重量比でAl:SiO=60:40〜80:20であることが好ましく、Al:SiO=70:30〜74:26であることがより好ましい。
【0034】
上記生体溶解性繊維は、例えば、シリカ等のほかに、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、及び、ホウ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物からなる無機繊維である。
これらの化合物からなる生体溶解性繊維は、人体に取り込まれても溶解しやすいので、これらの無機繊維を含んでなるマットは人体に対する安全性に優れている。
【0035】
生体溶解性繊維の具体的な組成としては、シリカ60〜85重量%、並びに、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物及びホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を15〜40重量%含む組成が挙げられる。上記シリカとは、SiO又はSiOのことをいう。
【0036】
上記アルカリ金属化合物としては、例えば、ナトリウム、カリウムの酸化物等が挙げられ、上記アルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの酸化物等が挙げられる。上記ホウ素化合物としては、ホウ素の酸化物等が挙げられる。
【0037】
生体溶解性繊維の組成において、シリカの含有量が、60重量%未満では、ガラス溶融法で作製しにくく、繊維化しにくい。
また、シリカの含有量が60重量%未満では、柔軟性を有するシリカの含有量が少ないため構造的にもろく、また、生理食塩水に溶けやすい、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、及び、ホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の割合が相対的に高くなるので生体溶解性繊維が生理食塩水に溶けやすくなりすぎる傾向にある。
【0038】
一方、シリカの含有量が85重量%を超えると、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物及びホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の割合が相対的に低くなるので生体溶解性繊維が生理食塩水に溶けにくくなりすぎる傾向にある。
なお、シリカの含有量は、SiO及びSiOの量をSiOに換算して算出したものである。
【0039】
また、生体溶解性繊維の組成においてアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物及びホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量が40重量%を超えると、ガラス溶融法では作製しにくく、繊維化しにくい。また、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物及びホウ素化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の含有量が40重量%を超えると、構造的にもろく、生体溶解性繊維が生理食塩水に溶けやすくなりすぎる。
【0040】
本発明における生体溶解性繊維の生理食塩水に対する溶解度は、30ppm以上であることが好ましい。生体溶解性繊維の溶解度が30ppm未満では、無機繊維が体内に取り込まれた場合に、体外へ排出されにくく、健康上好ましくないからである。
【0041】
本発明の保持シール材を構成する無機繊維のうち、ガラス繊維は、シリカとアルミナとを主成分とし、アルカリ金属の他に、カルシア、チタニア、酸化亜鉛等からなるガラス状の繊維である。
【0042】
無機繊維の平均繊維長は、5〜150mmであることが好ましく、10〜80mmであることがより好ましい。
無機繊維の平均繊維長が5mm未満であると、無機繊維の繊維長が短すぎるため、無機繊維同士の交絡が不充分となり、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、保持シール材が割れやすくなる。また、無機繊維の平均繊維長が150mmを超えると、無機繊維の繊維長が長すぎるため、保持シール材を構成する繊維本数が減少するため、マットの緻密性が低下する。その結果、保持シール材のせん断強度が低くなる。
【0043】
本発明の保持シール材では、無機繊維は、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われている。
【0044】
本発明で用いられるカチオン性無機結合剤とは、カチオン、すなわちプラスの電荷を帯びた無機微粒子が分散した無機ゾル分散溶液等をいう。
プラスの電荷を帯びた無機微粒子が分散した無機ゾル分散溶液(無機微粒子溶液)としては、アルミナゾルが挙げられるが、アルミ化合物で表面処理することによりカチオン性にしたタイプのシリカゾルや、酸性ジルコニアゾル等も、カチオン性無機結合剤として使用することができる。
上記カチオン性無機結合剤としては、アルミナゾルが好ましい。
【0045】
本発明で用いられるカチオン性有機結合剤は、プラスの電荷を帯びたポリマーを水中に分散させた有機結合剤溶液をいう。
上記カチオン性有機結合剤は、プラスの電荷を帯びたポリマーを水中に分散させた有機結合剤溶液であれば、特に限定されるものではなく、具体例としては、ポリマー微粒子を水に分散させるためにカチオン界面活性剤をポリマー表面に付着させて分散したコロイド溶液、又は、ポリマー自体がカチオン性の電荷を有するポリマーからなる溶液等が挙げられる。
上記カチオン界面活性剤は、例えば、アミン塩型と第4級アンモニウム塩型に分類されるが、分子量も大きいものが好ましく、第4級アンモニウム塩型が好ましい。
第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤としては、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム(C12H25N+(CH3)2CH2C6H5Cl)、塩化オクチルトリメチルアンモニウム(C8H17N+(CH3)3Cl)、塩化デシルトリメチルアンモニウム(C10H21N+(CH3)3Cl)、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム(C12H25N+(CH3)3Cl)、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム(C14H29N+(CH3)3Cl)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(C16H33N+(CH3)3Cl)、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(C18H37N+(CH3)3Cl)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)(C16H33N+(CH3)3Br)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(C6H5CH2N+(CH3)3Cl)、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(C6H5CH2N+(C2H5)3Cl)、塩化ベンゼトニウム(C6H5CH2N+(CH3)2(CH2CH2O)2C6H4C8H17Cl)、塩化ジデシルジメチルアンモニウム(C10H21N+C10H21(CH3)2Cl)、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム(C18H37N+C18H37(CH3)2Cl)等が挙げられる。
【0046】
また、カチオン界面活性剤を付着するポリマーとしては、特に限定されないが、アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。例えば、カチオン界面活性剤を分散剤として調製した、アクリレート系ラテックスやゴム系ラテックス等のエマルジョン液が使用できる。
【0047】
上記カチオン性有機結合剤を構成するポリマーとしては、ビニルピロリドン・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体硫酸塩液(ポリクオタニウム-11 大阪有機化学工業社製)、カチオン性アクリル系樹脂、カチオン性アクリル系ゴム、ジアリル系アミンポリマー、アリルアミン系ポリマー(ニットーボーメディカル)、アミノエチル化アクリルポリマー(日本触媒)、カチオン化セルロース(日本ルーブリゾール株式会社)、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)の水溶液、ポリ(メタクリル酸トリメチルアミノエチル・メチル硫酸塩)、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合物、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合物、アクリル酸塩−アクリルアミド−ジアリルアミン塩酸塩共重合物(センカ株式会社製)、が挙げられる。
【0048】
本発明においてカチオン性有機結合剤を構成するポリマーの数平均分子量は、特に限定されるものではないが、500〜100000であることが好ましい。
【0049】
本発明の保持シール材では、保持シール材を構成する無機繊維は、上記したカチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われている。
このような無機繊維を覆う被膜は、上記カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤からなる溶液中に無機繊維を含浸させることにより得ることができる。
【0050】
溶液中に無機繊維を含浸させる前、上記溶液中で、カチオン性有機結合剤を構成するポリマー及びカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子は、プラスの電荷を帯びており、そのため、電荷の反発により、溶液中でカチオン性有機結合剤を構成するポリマー及びカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子は、均一に分散している。一方、溶液中に無機繊維を含浸させると、保持シール材を構成する無機繊維は、上記カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤からなる溶液中でマイナスの電荷を帯びることとなり、カチオン性有機結合剤を構成するポリマー及びカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子が電気的に吸引され、溶液中の無機繊維の表面に均一に吸着する。
【0051】
従って、上記カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤からなる溶液中に無機繊維を含浸させることにより得られる無機繊維は、その表面がカチオン性有機結合剤を構成するポリマー及びカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子により均一に覆われる。
【0052】
本発明の保持シール材では、カチオン性有機結合剤に由来するポリマーとカチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子とは、シランカップリング剤により結合されていることが好ましい。シランカップリング剤は、無機成分が結合しやすい加水分解基と有機成分と結合しやすい有機官能基がシリコン原子(Si)に結合したものであり、シランカップリング剤の有機官能基の化学反応によってポリマーと結合し、一方、加水分解基により無機微粒子と結合する。従って、シランカップリング剤を添加することにより、ポリマーと無機微粒子とがしっかりと結合した状態で、保持シール材を構成する無機繊維を被覆する。
【0053】
上記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリス(β−メトキシエトキシ)ビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N−フェニル−γ−アミノプロピル)トリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルファン、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
本発明における有機結合剤を構成するポリマーのガラス転移温度は、−5℃以下であることが好ましく、−10℃以下であることがより好ましく、−30℃以下であることがさらに好ましい。上記有機結合剤を構成するポリマーのガラス転移温度が−5℃以下であると、被膜の強度を高くしつつ、被膜伸度が高くて可撓性に優れた保持シール材とすることができる。そのため、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際等に保持シール材が折れにくくなる。また、被膜が硬くなり過ぎないため、無機繊維の飛散を抑制し易くなる。
【0055】
本発明において、カチオン性有機結合剤に由来する上記ポリマーを保持シール材全体の重量に対して2重量%以下含有していることが好ましく、0.1〜2重量%含有していることがさらに好ましい。
上記ポリマーの含有量が0.1重量%未満の場合、無機繊維の飛散を抑制する効果が小さくなる。一方、上記ポリマーの含有量が2重量%を超える場合、排ガスの熱によって発生する分解ガスの量が多くなり、周囲の環境に悪影響を与える可能性がある。
【0056】
本発明において、無機繊維を覆う被膜中に、上記ポリマー並びに無機微粒子が分散していることは、透過型電子顕微鏡(以下、TEMともいう)によって確認することができる。炭素原子を主成分とする有機結合剤はアルミナやシリカ等から構成される無機微粒子と比較して電子密度が低く、電子線を透過しやすい。そのため、TEM画像において上記ポリマーは無機微粒子よりも明るく表示される。
【0057】
本発明における無機繊維を被覆する被膜は、上記カチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子を20〜60重量%含有していることがさらに好ましい。
上記被膜中の上記カチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子の含有量が20重量%未満の場合、無機微粒子の含有量が不足するため、結合剤(被膜)強度の向上効果が充分でなく、面圧の向上効果が小さくなりやすい。一方、上記無機微粒子の含有量が60重量%を超える場合、面圧の向上という効果はほとんど変わらないが、被膜が硬くなりすぎることがあり、無機繊維の飛散を抑制しにくくなる。そのため、無機繊維の飛散を充分抑制するためには、本発明における被膜中の無機微粒子の含有量が、30〜60重量%であることがより好ましい。
【0058】
本発明における無機微粒子の粒子径については、特に限定されないが、無機微粒子の平均粒子径は、0.005〜0.1μmであることが好ましい。
【0059】
本発明の保持シール材では、無機繊維を覆う被膜が、カチオン性有機結合剤に由来する上記ポリマー及びカチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子からなる場合、上記ポリマー等が無機微粒子を内部に含んた状態で被膜を形成しているため、比較的平滑であるが、カチオン性有機結合剤に由来する上記ポリマーを焼失させた場合、無機繊維の表面全体にわたって無機微粒子による凹凸が形成される。
本明細書において、排ガスの導入等により上記ポリマーが分解、焼失することを考慮して、実験等で上記ポリマーを焼失させる場合、特筆しない限り600℃で1時間、大気中で加熱することを指すものとする。
【0060】
上記加熱により無機繊維の表面全体にわたって無機微粒子による凹凸が形成されたのは、有機結合剤が焼失したことにより、被膜中に分散していた無機微粒子が露出したためであると考えられる。無機繊維の表面全体にわたって無機微粒子による凹凸が形成されていると、有機結合剤が焼失後、無機繊維同士が接触した際に無機繊維同士が凹凸により引っ掛かり、無機繊維の表面が滑ることが防止されるので、面圧を向上させやすくなる。
【0061】
次に、本発明の保持シール材の形状等について説明する。
図1は、本発明の保持シール材の一例を模式的に示した斜視図である。図1に示すように、本発明の保持シール材は、所定の長手方向の長さ(以下、図1中、矢印Lで示す)、幅(図1中、矢印Wで示す)及び厚さ(図1中、矢印Tで示す)を有する平面視略矩形の平板形状のマットから構成されていてもよい。
【0062】
図1に示す保持シール材では、保持シール材の長さ方向側の端部のうち、一方の端部である第1の端部には凸部111が形成されており、他方の端部である第2の端部には凹部112が形成されている。保持シール材の凸部111及び凹部112は、後述する排ガス浄化装置を組み立てるために排ガス処理体に保持シール材を巻き付けた際に、ちょうど互いに嵌合するような形状となっている。
なお、「平面視略矩形」とは、凸部及び凹部を含む概念である。
【0063】
本発明の保持シール材を構成する無機繊維は、無機塩法により紡糸原液を調製した後、紡糸工程による無機繊維前駆体の作製工程、ニードルパンチング処理工程、焼成工程を経て作製した無機繊維であることが好ましい。
また、上記工程のなかでも、ニードルパンチング処理工程を経ていることがより好ましい。ニードルパンチング処理によって無機繊維を交絡させることで、無機繊維同士の絡み合いを強固にし、面圧を向上させやすくなる。
上記した無機繊維の製造方法は、下記する保持シール材の製造方法と同様の内容であるので、下記する保持シール材の製造方法により説明する。
【0064】
ニードルパンチング処理は、ニードルパンチング装置を用いて行うことができる。ニードルパンチング装置は、無機繊維前駆体のシート状物を支持する支持板と、この支持板の上方に設けられ、突き刺し方向(素地マットの厚さ方向)に往復移動可能なニードルボードとで構成されている。ニードルボードには、多数のニードルが取り付けられている。このニードルボードを支持板に載せた無機繊維前駆体のシート状物に対して移動させ、多数のニードルを無機繊維前駆体のシート状物に対して抜き差しすることで、無機繊維前駆体を構成する繊維を複雑に交絡させることができる。ニードルパンチング処理の回数やニードル数は、目的とする嵩密度や目付量に応じて変更すればよい。
【0065】
保持シール材の厚さは特に限定されないが、2.0〜20mmであることが好ましい。保持シール材の厚さが20mmを超えると、保持シール材の柔軟性が失われるので、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際に扱いづらくなる。また、保持シール材に巻きじわや割れが生じやすくなる。
保持シール材の厚さが2.0mm未満であると、保持シール材の面圧が排ガス処理体を保持するのに充分でなくなる。そのため、排ガス処理体が抜け落ちやすくなる。また、排ガス処理体に体積変化が生じた場合、保持シール材は排ガス処理体の体積変化を吸収しにくくなる。そのため、排ガス処理体にクラック等が発生しやすくなる。
【0066】
本発明の保持シール材の面圧は、面圧測定装置を用いて、以下の方法により測定することができる。
面圧の測定には、マットを圧縮する板の部分に加熱ヒーターを備えた熱間面圧測定装置を使用し、室温状態で、サンプルの嵩密度(GBD)が0.3g/cmとなるまで圧縮する。そのときの面圧を焼成前面圧とする。その後、10分間保持した。なお、サンプルの嵩密度は、「嵩密度=サンプル重量/(サンプルの面積×サンプルの厚さ)」で求められる値である。
次に、サンプルを圧縮した状態で40℃/minの昇温速度で片面900℃、片面650℃まで昇温しながら、嵩密度が0.273g/cmとなるまで圧縮を開放する。そして、サンプルを温度片面900℃、片面650℃、嵩密度0.273g/cmの状態で5分間保持する。
その後、1inch(25.4mm)/minの速度で嵩密度が0.3g/cmとなるまで圧縮する。嵩密度0.273g/cmとなるまでの圧縮の開放と、嵩密度0.3g/cmとなるまでの圧縮を1000回繰り返した後の嵩密度0.273g/cm時の荷重を測定する。得られた荷重をサンプルの面積で除算することにより、面圧(kPa)を求め、焼成後面圧とする。
【0067】
本発明の保持シール材を構成する無機繊維の飛散性については、以下の手順によって測定することができる。
まず、保持シール材を100mm×100mmに切り出し、飛散性試験用サンプル210とする。この飛散試験用サンプルについて、図2(a)及び(b)に示す測定装置を用いて、無機繊維の飛散率を測定することができる。
図2(a)は、無機繊維の飛散性を測定するための測定装置の一例を模式的に示す側面図である。図2(a)に示すように、試験装置200は、基台250上に垂直に設けられた2本の支柱260の上端部にサンプル支持アーム270が所定の範囲内で回転可能となるよう接続されている。さらに、2本の支柱間には、上記サンプル支持アームと衝突可能な位置に、垂直壁部材290が固定されている。
また、図2(b)は、無機繊維の飛散性を測定するための測定装置を構成するサンプル支持アーム部の一例を模式的に示した平面図である。図2(b)に示すように、サンプル支持アーム270のもう一方の端部はサンプル支持アーム270の端部同士を接続するサンプル固定部材280によって固定されている。サンプル支持アーム270の端部に接続されるサンプル固定部材280から支柱260方向に一定距離離れた位置には、もう一本のサンプル固定部材280が存在し、2本のサンプル支持アーム270は、少なくとも2箇所でサンプル固定部材によって接続されている。
【0068】
サンプル支持アーム270と支柱260との角度が90°となる位置で、サンプル支持アーム270を所定のロック機構によりロックし、飛散性試験用サンプル210をクリップ220でサンプル固定部材280に固定する。サンプル支持アーム270のロックを解除すると、サンプル支持アーム270と試験用サンプル210は支柱260を固定している基台250に向かう方向に落下を開始する、サンプル支持アーム270と支柱260との接続部を中心に回転するように向きを変え、サンプル支持アーム270と支柱260とが平行となる時点で、サンプル支持アーム270が垂直壁部材290に衝突する。この衝突により、試験用サンプル210を構成する無機繊維の一部が破断し、飛散する。そのため、衝突前後の飛散試験用サンプルの重量を計測し、以下の式(5)を用いて、繊維飛散率を求めることができる。
繊維飛散率(重量%)=(試験前の飛散試験用サンプルの重量−試験後の飛散試験用サンプルの重量)/(試験前の飛散試験用サンプルの重量)×100 (5)
【0069】
本発明の保持シール材の目付量(単位面積当たりの重量)は、特に限定されないが、200〜4000g/mであることが好ましく、1000〜3000g/mであることがより好ましい。保持シール材の目付量が200g/m未満であると、保持シール材の面圧が排ガス処理体を保持するのに充分でなくなる。そのため、排ガス処理体が抜け落ちやすくなる。保持シール材の目付量が4000g/mを超えると、保持シール材の厚みが厚くなりすぎ、保持シール材を排ガス処理体に巻き付ける際に扱いづらくなる。また、保持シール材に巻きじわや割れが生じやすくなる。そのため、このような保持シール材を用いて排ガス浄化装置を製造する場合、排ガス処理体が脱落しやすくなる。
【0070】
また、本発明の保持シール材の嵩密度(巻き付ける前の保持シール材の嵩密度)についても、特に限定されないが、0.10〜0.30g/cmであることが好ましい。保持シール材の嵩密度が0.10g/cm未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、保持シール材の形状を所定の形状に保ちにくくなる。
また、保持シール材の嵩密度が0.30g/cmを超えると、保持シール材が硬くなり、排ガス処理体への巻き付け性が低下し、保持シール材が割れやすくなる。
【0071】
本発明の保持シール材には、さらに膨張材が含有されていてもよい。膨張材は、400〜800℃の範囲で膨張する特性を有するものが好ましい。
保持シール材に膨張材が含有されていると、400〜800℃の範囲で保持シール材が膨張するようになるため、ガラス繊維の強度が低下する700℃を超えるような高温域においても、保持シール材として使用する際の保持力を向上させることができる。
【0072】
膨張材としては、例えば、バーミキュライト、ベントナイト、金雲母、パーライト、膨張性黒鉛、及び、膨張性フッ化雲母等が挙げられる。これらの膨張材は単独で用いても良いし、二種以上を併用してもよい。
膨張材の添加量は、特に限定されないが、保持シール材の全重量に対して10〜50重量%であることが好ましく、20〜30重量%であることが好ましい。
【0073】
本発明の保持シール材を排ガス浄化装置の保持シール材として用いる場合、排ガス浄化装置を構成する保持シール材の枚数は特に限定されず、一枚の保持シール材であってもよいし、互いに結合された複数枚の保持シール材であってもよい。複数枚の保持シール材を結合する方法としては、特に限定されず、例えば、ミシン縫いで保持シール材同士を結合する方法、粘着テープ又は接着剤で保持シール材同士を接着する方法等が挙げられる。
【0074】
次に、本発明の保持シール材の製造方法について説明する。
本発明の保持シール材の製造方法は、本発明の保持シール材を製造する方法に適している。
【0075】
本発明の保持シール材の製造方法は、無機繊維からなるマットを準備するマット準備工程と、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤からなるバインダ溶液を準備するバインダ溶液準備工程と、上記バインダ溶液を上記マットに含浸する含浸工程と、上記バインダ溶液を含浸させた上記マットを乾燥させる乾燥工程とからなる工程によって製造することを特徴とする。
【0076】
(a)マット準備工程
本発明の保持シール材の製造方法では、まず、無機繊維からなるマットを準備するマット準備工程を行う。
保持シール材を構成するマットは、種々の方法により得ることができるが、例えば、ニードリング法又は抄造法により製造することができる。
ニードリング法の場合、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、まず、例えば、塩基性塩化アルミニウム水溶液とシリカゾル等とを原料とする紡糸用原液を調製した後、この原液を用いた紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して3〜10μmの平均繊維経を有する無機繊維前駆体を作製する。続いて、上記無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製し、これにニードルパンチング処理を施し、その後、焼成処理を施すことによりマットの準備が完了する。
【0077】
(b)バインダ溶液準備工程
次に、カチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤を混合したバインダ溶液を調製するバインダ溶液準備工程を行う。この際、カチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤を混合した溶液に、さらにシランカップリング剤からなる液を添加して、バインダ溶液としてもよい。実際に、シランカップリング剤からなるバインダ溶液を調製する際には、最初にカチオン性無機結合剤の溶液にシランカップリング剤からなる液を添加して、よく混合し、その後、カチオン性有機結合剤からなる溶液を添加することが望ましい。
【0078】
本発明のバインダ溶液準備工程で用いるカチオン性無機結合剤としては、特に限定されず、本発明の保持シール材の説明において述べたカチオン性無機結合剤を使用することができ、アルミナゾル等を用いることができる。
【0079】
本発明のバインダ溶液準備工程において、バインダ溶液中のカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の濃度は特に限定されないが、無機微粒子の濃度は、固形分換算で0.2〜20重量%程度であることが好ましい。
【0080】
本発明のバインダ溶液準備工程において、カチオン性無機結合剤と混合するカチオン性有機結合剤としては、特に限定されず、本発明の保持シール材の説明において述べたものを使用することができるため、その詳細な説明は省略する。カチオン性有機結合剤を構成するポリマーの好ましい数平均分子量の範囲、種類も同様である。
【0081】
本発明のバインダ溶液準備工程において、カチオン性有機結合剤を構成するポリマーの濃度は、特に限定されないが、固形分換算で0.2〜20重量%程度であることが好ましい。
【0082】
本発明のバインダ溶液準備工程において、カチオン性有機結合剤を構成するポリマーのガラス転移温度は、特に限定されないが、−5℃以下であることが好ましく、−10℃以下であることがより好ましく、−30℃以下であることがさらに好ましい。
【0083】
本発明のバインダ溶液準備工程において準備するバインダ溶液中のシランカップリング剤の濃度は、特に限定されないが、有効成分換算で10〜5000ppmであることが好ましい。シランカップリング剤の濃度が10ppm未満の場合には、シランカップリング剤の量が不足するため、カチオン性有機結合剤を構成するポリマーとカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子を充分強力に結合させることができず、一方、シランカップリング剤の濃度が5000ppmを超える場合は、カチオン性有機結合剤を構成するポリマーとカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子を充分に結合させる量よりも多くなり、過剰な添加となるので好ましくない。なお、有効成分換算とは、シランカップリング剤が溶媒等を含んでいる場合、実際のシランカップリング剤のみの重量で換算した濃度をいう。
【0084】
本発明のバインダ溶液準備工程では、カチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の含有率がカチオン性有機結合剤を構成するポリマーとカチオン性無機結合剤のを構成する無機微粒子の合計体積に対して20〜60重量%となるバインダ溶液を準備するのが好ましい。
【0085】
本発明のバインダ溶液準備工程では、結合剤溶液のpHを調整するためのpH調整剤を添加してもよい。
【0086】
(c)含浸工程
次に、上記バインダ溶液に上記マットを含浸する含浸工程を行う。
【0087】
(d)乾燥工程
この後、上記含浸工程を経た上記マットを、110〜140℃程度の温度で乾燥させる乾燥工程を行い、水分やその他の溶媒を蒸発、除去し、無機繊維がカチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われた本発明の保持シール材を製造することができる。
【0088】
その後、図1に示すような凸部と凹部を備えた形状の保持シール材とするためには、保持シール材を所定の形状に切断する切断工程をさらに行えばよい。
【0089】
本発明の保持シール材は、排ガス浄化装置の保持シール材として使用することができる。
【0090】
以下、本発明の排ガス浄化装置について説明する。
本発明の排ガス浄化装置は、金属ケーシングと、上記金属ケーシングに収容された排ガス処理体と、上記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、上記排ガス処理体及び上記金属ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、上記保持シール材は、本発明の保持シール材、又は、本発明の保持シール材の製造方法により製造された保持シール材である。
【0091】
図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、本発明の排ガス浄化装置100は、金属ケーシング130と、金属ケーシング130に収容された排ガス処理体120と、排ガス処理体120及び金属ケーシング130の間に配設された保持シール材110とを備えている。
排ガス処理体120は、多数のセル125がセル壁126を隔てて長手方向に並設された柱状のものである。なお、金属ケーシング130の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることとなる。
【0092】
次に、本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体(ハニカムフィルタ)及び金属ケーシングについて説明する。
なお、排ガス浄化装置を構成する保持シール材の構成については、本発明の保持シール材としてすでに説明しているので省略する。
【0093】
本発明の排ガス浄化装置を構成する金属ケーシングの材質は、耐熱性を有する金属であれば特に限定されず、具体的には、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属類が挙げられる。
【0094】
本発明の排ガス浄化装置を構成するケーシングの形状は、略円筒型形状の他、クラムシェル型形状、ダウンサイジング型形状等を好適に用いることができる。
【0095】
続いて、排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体について説明する。
図4は、本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体の一例を模式的に示す斜視図である。
【0096】
図4に示す排ガス処理体120は、多数のセル125がセル壁126を隔てて長手方向に併設される柱状のセラミック質からなるハニカム構造体である。また、セル125のいずれかの端部は、封止材128で封止されている。
【0097】
セル125のいずれかの端部が封止されている場合、排ガス処理体120の一方の端部からみたときに、端部が封止されたセルと封止されていないセルとが交互に配置されていることが好ましい。
【0098】
排ガス処理体120を長手方向に垂直な方向に切断した断面形状は、特に限定されず、略円形、略楕円形でもよく、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形等の略多角形であってもよい。
【0099】
排ガス処理体120を構成するセル125の断面形状は、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形等の略多角形でもよく、また、略円形、略楕円形であってもよい。また、排ガス処理体120は、複数の断面形状のセルが組み合わされたものであってもよい。
【0100】
排ガス処理体120を構成する素材は特に限定されないが、炭化ケイ素質及び窒化ケイ素質等の非酸化物、並びに、コージェライト及びチタン酸アルミニウム等の酸化物を用いることができる。これらのうち、特に、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質等の非酸化物多孔質焼成体であることが好ましい。
これら多孔質焼成体は、脆性材料であるので、機械的な衝撃等により破壊されやすい。しかし、本発明の排ガス浄化装置では、排ガス処理体120の側面の周囲には保持シール材110が介在し、衝撃を吸収するので、機械的な衝撃や熱衝撃により排ガス処理体120にクラック等が発生するのを防止することができる。
【0101】
本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が好ましく、この中では、白金がより好ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いる事もできる。これらの触媒は、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0102】
本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体としては、コージェライト等からなり、一体的に形成された一体型ハニカム構造体であってもよく、あるいは、炭化ケイ素等からなり、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム焼成体を主にセラミックからなるペーストを介して複数個結束してなる集合型ハニカム構造体であってもよい。
【0103】
本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体は、セルに封止材が設けられずに、セルの端部が封止されていなくてもよい。この場合、排ガス処理体は、白金等の触媒を担持させることによって、排ガス中に含まれるCO、HC又はNOx等の有害なガス成分を浄化する触媒担体として機能する。
【0104】
本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体は、外周面に外周コート層が形成されていてもよい。排ガス処理体の外周面に外周コート層が形成されていると、排ガス処理体の外周部を補強したり、形状を整えたり、断熱性を向上させることができる。なお、排ガス処理体の外周面とは、柱状である排ガス処理体の側面部分を指す。
【0105】
上述した構成を有する排ガス浄化装置100を排ガスが通過する場合について、図3を参照して以下に説明する。
図3に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(図3中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)120の排ガス流入型端面120aに開口した一のセル125に流入し、セル125を隔てるセル壁126を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁126で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス処理側端面120bに開口した他のセル125から流出し、外部に排出される。
【0106】
次に、本発明の排ガス浄化装置の製造方法について説明する。
【0107】
図5は、本発明の排ガス浄化装置を製造する方法の一例を模式的に示した斜視図である。
本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体および保持シール材は、図5に示すように排ガス処理体120の周囲に沿って保持シール材110を巻き付け、巻付体140とする。次に、この巻付体140を金属ケーシング130に収容することで、本発明の排ガス浄化装置となる。
【0108】
次に、巻付体140を金属ケーシング130に収容する方法としては、例えば、金属ケーシング130内部の所定の位置まで周囲に保持シール材110が配設された排ガス処理体120を圧入する圧入方式(スタッフィング方式)、金属ケーシング130の内径を縮めるように外周側から圧縮するサイジング方式(スウェージング形式)、並びに、金属ケーシングを第1のケーシングおよび第2のケーシングの部品に分離可能な形状としておき、巻付体140を第1のケーシング上に載置した後に第2のケーシングをかぶせて密封するクラムシェル方式等が挙げられる。
圧入方式(スタッフィング方式)によって巻付体を金属ケーシングに収容する場合、金属ケーシングの内径(排ガス処理体を収容する部分の内径)は、上記巻付体の外径より若干小さくなっていることが好ましい。
【0109】
本発明の排ガス浄化装置は、互いに結合された2層以上の複数枚の保持シール材から構成されていてもよい。複数枚の保持シール材を結合する方法としては、特に限定されず、例えば、ミシン縫いで保持シール材同士を結合する方法、粘着テープ又は接着剤で保持シール材同士を接着する方法等が挙げられる。
【0110】
これらの工程を経て、本発明の排ガス浄化装置が製造される。
【0111】
本発明の排ガス浄化装置では、排ガス処理体と金属ケーシングとの間に、保持シール材が介在しており、上記保持シール材は、本発明の保持シール材、又は、本発明の保持シール材の製造方法により製造された保持シール材である。
そのため、保持シール材が高い面圧を発揮することができ、排ガス処理体を安定的に保持することができる。さらに、排ガスの熱によって被膜中の有機結合剤が焼失した場合、無機繊維の表面全体には無機微粒子による凹凸が形成される。この無機微粒子による凹凸が無機繊維の表面全体に形成されていることで、繊維同士が滑りにくくなり、高い面圧を発揮することができ、排ガス処理体の脱落を抑制することができる。
さらに、排ガス処理体を金属ケーシングに収容する際には、保持シール材を構成する無機繊維がいずれの部位で破断したとしても、被膜により無機繊維が飛散することを抑制することができる。
【0112】
以下に、本発明の保持シール材、保持シール材の製造方法、及び、排ガス浄化装置の作用効果について説明する。
【0113】
(1)本発明の保持シール材では、保持シール材を構成する無機繊維は、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われているため、可撓性が維持されつつ、上記被膜の強度が向上し、本発明の保持シール材が巻き付けられた排ガス処理体を金属ケーシングに圧入等して排ガス浄化装置を作製する際、無機繊維の飛散を抑制することができる。
(2)本発明の保持シール材では、カチオン性有機結合剤中にカチオン性無機結合剤を含有させることによって被膜の強度が向上し、無機繊維同士が接触したとき、被膜とともに繊維が滑ることが抑制され、室温での面圧が向上する。
【0114】
(3)本発明の保持シール材で、上記カチオン性有機結合剤に由来する上記ポリマーと上記カチオン性無機結合剤に由来する無機微粒子とがシランカップリング剤により結合されていると、被膜強度がより向上し、無機繊維がより破断しにくくなり、無機繊維の飛散を抑制することができる。
【0115】
(4)本発明の保持シール材の製造方法では、上記構成及び効果を有する本発明の保持シール材を容易に製造することができる。
【0116】
(5)本発明の排ガス浄化装置では、排ガス処理体と金属ケーシングとの間に、保持シール材が介在しているので、排ガスが漏れるのを防ぐことができるとともに、保持シール材を構成する無機繊維表面にカチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤に由来する成分からなる被膜により覆われているので、保持シール材の面圧が高く、排ガス処理体を安定的に保持することができる。
【0117】
(6)さらに、本発明の排ガス浄化装置では、排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体に排ガスが流通すること等により、被膜中のカチオン性有機結合剤を構成するポリマーが焼失する。上記ポリマーが焼失すると、被膜を構成する無機微粒子が露出して凹凸を形成し、無機繊維同士の摩擦が大きくなるため、保持シール材の面圧を高く保つことができる。
【0118】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0119】
(実施例1)
(a)マット準備工程
まず、以下の手順により無機繊維からなるマットを準備した。
【0120】
(a−1)紡糸工程
Al含有量が70g/lであり、Al:Cl=1:1.8(原子比)となるように調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al:SiO=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、さらに、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加して紡糸原液を調製した。
得られた紡糸原液を濃縮して紡糸用混合物とし、この紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して平均繊維径が5.1μmである無機繊維前駆体を作製した。
【0121】
(a−2)圧縮工程
上記工程(a−1)で得られた無機繊維前駆体を圧縮して、連続したシート状物を作製した。
【0122】
(a−3)ニードルパンチング工程
上記工程(a−2)で得られたシート状物に対して、以下に示す条件を用いて連続的にニードルパンチング処理を行ってニードルパンチング処理体を作製した。
まず、ニードルが21個/cmの密度で取り付けられたニードルボードを準備した。次に、このニードルボードをシート状物の一方の表面の上方に配設し、ニードルボードをシート状物の厚さ方向に沿って一回上下させることによりニードルパンチング処理を行い、ニードルパンチング処理体を作製した。この際、ニードルの先端部分に形成されたバーブがシート状物の反対側の表面に完全に貫出するまでニードルを貫通させた。
【0123】
(a−4)焼成工程
上記工程(a−3)で得られたニードルパンチング処理体を最高温度1250℃で連続して焼成し、アルミナとシリカとを72重量部:28重量部で含む無機繊維からなる焼成シート状物を製造した。無機繊維の平均繊維径は、5.1μmであり、無機繊維径の最小値は、3.2μmであった。このようにして得られた焼成シート状物は、嵩密度が0.3g/cmであり、目付量が1500g/mである。
【0124】
(a−5)切断工程
上記工程(a−4)で得られた焼成シート状物を切断して、無機繊維からなるマットを作製した。
【0125】
(b)バインダ溶液準備工程
(b−1)カチオン性無機結合剤溶液調製工程
アルミナコロイド溶液(アルミナゾル)(日産化学工業社製 アルミナゾルAS−550(固形分濃度:15wt%))を水で希釈し、無機微粒子の固形分濃度が2重量%のカチオン性無機結合剤溶液を調製した。
このカチオン性無機結合剤溶液にシランカップリング剤(信越化学工業社製 KBM−5103)を200ppm添加し、充分に撹拌し、混合溶液を調製した。
(b−2)カチオン性有機結合剤溶液調製工程
ガラス転移温度が−34℃であるカチオン性アクリレートを水に分散させたカチオン性アクリレート系ラテックス(日信化学工業製2642(固形分濃度:40wt%))を用い、水で希釈することにより、固形分濃度が2重量%のカチオン性有機結合剤溶液を調製した。
【0126】
(b−3)混合液調製工程
上記工程(b−1)で得られた混合溶液に上記工程(b−2)で得られたカチオン性有機結合剤溶液を、混合溶液:有機結合剤溶液=1:1の重量比になるよう加え充分攪拌し、カチオン性有機結合剤を構成するポリマーが固形分濃度で1重量%、無機微粒子が固形分濃度で1重量%、シランカップリング剤が固形分濃度で0.01重量%のバインダ溶液を調製した。
【0127】
(c)含浸工程
上記バインダ溶液準備工程(b)で得られたバインダ溶液中に、マット準備工程(a)で得られたマットを浸漬した後、引き上げた。
【0128】
(d)乾燥工程
上記含浸工程(c)を終えたマットを、温度130℃、風速2m/sの熱風を吹き付けることにより加熱熱風乾燥して、保持シール材とした。
【0129】
(実施例2)
シランカップリング剤を添加しなかったほかは、実施例1と同様にして保持シール材を製造した。
【0130】
(比較例1)
カチオン性無機結合剤溶液調製工程(b−1)において、カチオン性無機結合剤溶液の代わりに、シリカコロイド溶液(シリカゾル)(日産化学工業社製 スノーテックスST−50(固形分濃度:48wt%))を水で希釈し、無機微粒子の固形分濃度が2重量%のアニオン性無機結合剤溶液を調製したほかは、実施例1と同様にして保持シール材を製造した。なお、シリカゾルは、アニオン性無機結合剤溶液である。
【0131】
(比較例2)
カチオン性有機結合剤溶液調製工程(b−2)において、カチオン性有機結合剤溶液の代わりに、ガラス転移温度が−10℃であるアクリルゴムを水に分散させたアクリレート系ラテックス(日本ゼオン社製 Nipol LX854E(固形分濃度:45wt%))を用い、水で希釈することにより、固形分濃度が2重量%の有機結合剤溶液を調製したほかは、実施例1と同様にして保持シール材を製造した。なお、上記アクリレート系ラテックスは、アニオン性有機結合剤溶液である。
【0132】
(比較例3)
カチオン性無機結合剤溶液調製工程(b−1)において、カチオン性無機結合剤溶液の代わりに、シリカコロイド溶液(シリカゾル)(日産化学工業社製 スノーテックスST−50(固形分濃度:48wt%))を水で希釈し、無機微粒子の固形分濃度が2重量%のアニオン性無機結合剤溶液を調製し、カチオン性有機結合剤溶液調製工程(b−2)において、カチオン性有機結合剤溶液の代わりに、ガラス転移温度が−10℃であるアクリルゴムを水に分散させたアクリレート系ラテックス(日本ゼオン社製 Nipol LX854E(固形分濃度:45wt%))を用い、水で希釈することにより、固形分濃度が2重量%の有機結合剤溶液を調製したほかは、実施例1と同様にして保持シール材を製造した。
【0133】
(比較例4)
カチオン性無機結合剤及びシランカップリング剤は用いず、カチオン性有機結合剤溶液調製工程(b−2)において、カチオン性有機結合剤溶液の代わりに、ガラス転移温度が−10℃であるアクリルゴムを水に分散させたアクリレート系ラテックス(日本ゼオン社製 Nipol LX854E(固形分濃度:45wt%))を用い、水で希釈することにより、固形分濃度が1重量%の有機結合剤溶液を調製し、この有機結合剤溶液に保持シール材を浸漬したほかは、実施例1と同様にして保持シール材を製造した。
【0134】
(カチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子とカチオン性有機結合剤を構成するポリマーの含有量(重量%)の測定)
各実施例及び各比較例で得られた保持シール材を一定重量サンプルとして採取し、カチオン性有機結合剤を構成するポリマーが溶解する有機溶媒(テトラヒドロフラン)を選び、ソックスレー抽出器にて上記ポリマーを溶解し、サンプルから分離した。この時、溶解した有機結合剤に含まれる無機微粒子もサンプルから分離され、有機溶媒中に上記ポリマーと無機微粒子とが回収される。
この上記ポリマーと無機微粒子とからなる有機溶媒をるつぼに入れ、加熱により有機溶剤を蒸発除去した。
るつぼに残った残渣を、保持シール材に対するカチオン性無機結合剤の重量とみなし、保持シール材の重量に対する含有量(重量%)を算出した。
さらに、るつぼを600℃で1時間加熱処理し、上記ポリマーを焼失させた。るつぼ中には、無機結合剤を構成する無機微粒子が残留しているので、これをカチオン性有機結合剤を構成するポリマーとカチオン性無機結合剤を構成する無機微粒子の合計に対する無機微粒子の含有量(重量%)とみなし、その含有量を算出した。残りがカチオン性有機結合剤を構成するポリマーの含有量(重量%)となる。
【0135】
本実施例及び本比較例では、上記方法により、カチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤の含有量の測定が可能であるが、ポリマーが架橋性樹脂の場合、架橋性樹脂を溶出させる有機溶媒が現在見つかっていない。そこで、その場合には、原料となる保持シール材を採取して重量(A1)を測定し、本実施例及び本比較例と同様の条件でカチオン性有機結合剤とカチオン性無機結合剤とを無機繊維に付着させた後、充分に乾燥させ、重量を測定する(A2)。この後、600℃で1時間加熱処理し、さらに重量を測定する(A3)。A2−A3がカチオン性有機結合剤の重量であり、A3−A1がカチオン性無機結合剤の重量となるので、サンプルの重量に対するカチオン性有機結合剤及びカチオン性無機結合剤の含有量(重量%)を算出することができる。
【0136】
(面圧試験)
各実施例及び各比較例で得られた保持シール材について面圧試験を行った。
面圧測定装置による面圧試験の方法は、本発明の保持シール材の説明における段落番号[0066]で説明したとおりである。
結果を表1に示す。
【0137】
(無機繊維の飛散性試験)
各実施例及び各比較例で製造した保持シール材を用いて、無機繊維の飛散性試験を行った。
無機繊維の飛散性試験の方法は、本発明の保持シール材の説明における段落番号[0067][0068]で説明したとおりである。
その結果を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1に示すように、実施例1〜2に係る保持シール材を用いると、いずれも焼成後で35kPa以上の高い面圧を確保することができ、さらに無機繊維の飛散を0.10wt%以下に抑制することができた。
一方、無機結合剤を構成する無機微粒子としてアニオン性無機微粒子を用いた比較例1では、バインダ溶液中で有機結合剤及び無機微粒子が凝集しており、繊維飛散量が高く、面圧も低くなっていた。
また、有機結合剤を構成するポリマーとしてアニオン系ポリマーを用いた比較例2では、やはりバインダ溶液中で有機結合剤及び無機微粒子が凝集しており、繊維飛散量が高く、面圧も低くなっていた。
また、無機結合剤を構成する無機微粒子としてアニオン性無機微粒子を用い、有機結合剤を構成するポリマーとしてアニオン系ポリマーを用いた比較例3の保持シール材では、保持シール材を構成する無機繊維に無機微粒子が付着しておらず、そのため、繊維飛散量は比較的低いが、面圧が低くなっていた。
また、有機結合剤を構成するポリマーとしてアニオン系ポリマーを用い、無機結合剤を添加していない比較例4の保持シール材では、比較例3と同様、保持シール材を構成する無機繊維に無機微粒子が付着しておらず、繊維飛散量は比較的低いが、面圧が低くなっていた。
【符号の説明】
【0140】
100 排ガス浄化装置
110 保持シール材
120 排ガス処理体
130 ケーシング
図1
図2
図3
図4
図5