特許第6228501号(P6228501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6228501フィルム分散液、化粧品、医薬部外品、医療用皮膚外用剤、臓器癒着防止剤、及びガン治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228501
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】フィルム分散液、化粧品、医薬部外品、医療用皮膚外用剤、臓器癒着防止剤、及びガン治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20171030BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20171030BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20171030BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20171030BHJP
   A61K 8/85 20060101ALN20171030BHJP
   A61K 47/34 20170101ALN20171030BHJP
【FI】
   A61K9/10
   A61K8/04
   A61Q19/00
   A61P17/16
   !A61K8/85
   !A61K47/34
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-76087(P2014-76087)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-196670(P2015-196670A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591091043
【氏名又は名称】ツキオカフィルム製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591225545
【氏名又は名称】ニッカン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】月岡 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 美佐夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 潤
(72)【発明者】
【氏名】小島 正紀
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/169518(WO,A1)
【文献】 特開2009−029645(JP,A)
【文献】 特開2015−051510(JP,A)
【文献】 特開平03−170761(JP,A)
【文献】 特開2007−099684(JP,A)
【文献】 特開平09−206000(JP,A)
【文献】 特開2008−048602(JP,A)
【文献】 特表2009−543900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61P 17/00
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム細片を、該フィルム細片を溶解しない分散媒に分散してなるフィルム分散液であって、
化粧料、医薬部外品、または医療用皮膚外用剤であり、
上記フィルム細片が、一辺の長さ0.01mm以上の矩形状体からなり、上記分散媒50mL中に150,000個以上分散されている、フィルム分散液。
【請求項2】
上記フィルム細片が、一辺の長さ0.3mm以上の矩形状体である請求項1記載のフィルム分散液。
【請求項3】
フィルム細片を、該フィルム細片を溶解しない分散媒に分散してなるフィルム分散液を有効成分とする、皮膚の保湿剤、または経皮水分喪失抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム分散液に関し、さらに詳しくは、簡便に皮膚等に適用でき、有効成分である液剤の蒸発を防止でき、膜厚の薄いフィルムにより形成されているので皮膚、臓器、血管内壁に密着しやすく、安全で、違和感がなく、使用感にすぐれるフィルム分散液、及びそれを用いた化粧品、医薬部外品、医療用皮膚外用剤、臓器癒着防止剤、ガン治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は重度の痒みを伴う慢性湿疹を特徴とする難治性疾患であり、その詳細な発生機序等は未だ不明である。
アトピー性皮膚炎の治療法としては、免疫機能を抑えるステロイド剤を塗布する治療法などが挙げられるが、対症療法であることや、長期投与により色素沈着などの弊害を伴うことが問題となっている。
近年、アトピー性皮膚炎の患者の罹患皮膚のpHが弱アルカリ性になる傾向が知られ、アトピー性皮膚炎の特徴的な要因とされている。この現象に基づいた治療法として、皮膚表面をpHが4.5〜6.0の弱酸性に保持する治療法も存在する。
皮膚疾患のための外用剤としては、液剤、クリーム剤、貼付剤などが挙げられ種々の提案がなされている。
たとえば、特許文献1には、皮膚に水分保護効果を持続させ、使用性に優れた薄型水溶性貼付剤として、支持体上に粘着剤層が積層された貼付剤であって、その支持体が軟質部と硬質部を共有するプラスチックから構成される繊維に、軟質部と硬質部を共有するプラスチック樹脂を厚さ7〜70μmの範囲で熱融着させた繊維フィルムから成る薄型水性貼付剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−013470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液剤の場合には、皮膚表面へ塗布した場合、体温により蒸発することで、効能が少ないという問題がある。
また、クリーム剤の場合においては、乾燥の問題に加え、べたつきなどの使用感の問題がある。
また、特許文献1にかかる提案は、接着感などがあるため使用感が悪いという問題がある。
要するに、有効成分を皮膚に長時間とどまらせて有効成分の効果を持続させる皮膚改善効果と、べたつきや違和感と言った問題がなく使用感に優れるという点との両立をさせた皮膚外用剤は未だ提案されていないのが現状である。
このため、皮膚等に用いた場合に、有効成分である液剤の蒸発を防止でき、使用感にすぐれ薬効効果が長時間持続する、皮膚外用剤の開発が要望されている。
【0005】
したがって、本発明の目的は、簡便に皮膚等に完全密着が適用でき、有効成分である薄膜が貼付した皮膚上の液剤の蒸発を防止でき、安全で、違和感がなく、使用感にすぐれる皮膚外用剤を提供できるフィルム分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、フィルム細片と液体との混合物を皮膚に塗布した場合に、液体の蒸発が抑制され、且つ使用感がよいことを知見し、さらに、改良を行い、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.フィルム細片を、該フィルム細片を溶解しない分散媒に分散してなるフィルム分散液。
2.上記フィルム細片が、一辺の長さ0.01〜1mmの範囲の矩形状体からなり、その厚みが100〜500nmである
1記載のフィルム分散液。
3.上記分散媒が、pH4.5〜6.0の弱酸性溶液である
1または2のいずれかに記載のフィルム分散液。
4.上記弱酸性溶液が、酸性物質を水に溶解させてなる水溶液である
3に記載のフィルム分散液。
5.上記フィルム細片が、上記分散媒50mL中に150,000〜5,000,000個分散されている
1〜4のいずれかに記載のフィルム分散液。
6.上記フィルム細片の形成材料が、生体適合性材料である
1〜5のいずれかに記載のフィルム分散液。
7.1〜6のいずれかに記載のフィルム分散液を含有してなる化粧品。
8.1〜6のいずれかに記載のフィルム分散液を含有してなる医薬部外品。
9.1〜6のいずれかに記載のフィルム分散液からなる医療用皮膚外用剤。
10.1に記載のフィルム分散液からなる臓器癒着防止剤。
11.上記分散媒が有効成分として抗がん剤成分を具備する、
1または2に記載のフィルム分散液からなるガン治療剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフィルム分散液は、皮膚など種々被塗布物に塗布した場合に上記分散媒を蒸発させずに長時間保持するという性質を有し、上記分散媒またはフィルムに含まれる成分を長時間保持しつつ効率的に患部に輸送することを可能にするものであり、化粧品、医療用皮膚外用剤、臓器癒着防止剤、ガン治療剤等に好適に用いることができる。詳細には、フィルム細片が100〜500nmという薄い膜で形成されているので簡便に皮膚、臓器壁、血管内壁等に完全密着させて適用することができ、フィルム細片が貼付した皮膚上の液剤の蒸発を防止でき、安全で、違和感がなく、使用感にすぐれるものである。
そして、本発明のフィルム分散液を用いてなる化粧品及び医薬部外品、医療用皮膚外用剤は、簡便に皮膚等に適用でき、有効成分である液剤の蒸発を例えば1〜24時間の長時間防止でき、安全で、違和感がなく、子供にも簡単に塗布できる使用感にすぐれるものである。また、皮膚等に対する接着性や動きに対する追従性が高く、関節部などの伸縮がある部位にも使用することができ、皮膚への酸素の透過性も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、フィルム細片製造工程で、切断に用いる装置の一例としての箔押機を説明する図である。
図2図2は、試験例1における臨床症状重症度スコアリングの結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例2における経皮水分喪失量の測定結果を示すグラフである。
図4図4は、試験例2における体重の測定結果を示すグラフである。
図5図5は、試験例3における皮膚表層pHの測定結果を示すグラフである。
図6図6は、試験例4における経皮水分喪失量の測定結果を示すグラフである。
図7図7は、試験例4における皮膚表層pHの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のフィルム分散液を、さらに詳細に説明する。
<全体構成>
本実施形態のフィルム分散液は、フィルム細片を、該フィルム細片を溶解しない分散媒に分散してなるものである。
【0010】
(フィルム細片)
本実施形態で用いられるフィルム細片は、皮膚密着しやすい極薄で微細な薄膜からなるのが好ましい。
本発明においては、このような形態のフィルム細片を用いることにより、皮膚などに塗布した場合、皮膚等に対する接着性や動きに対する追従性が高く、小片の為、関節部などの伸縮がある部位にも使用することができ、皮膚への酸素の透過性も高く、接着感が少ないため使用感に優れ、使用時の見た目にも優れる。また、上記フィルム細片と後述する分散媒との多層構造が形成されるなどして分散液の保持性能に優れるため皮膚表面に適用した場合など適用面に対する保湿効果や所望の有効成分の保持効果、該有効成分の所望位置への浸透効果に優れるものである。(これらを総称して「皮膚への効果」と称する)。また、これらの「皮膚への効果」は皮膚以外にも、内臓、血管内などの体内においても同様に発揮される。
フィルム細片の形状は、特に限定されず、用途に応じて任意の形状にすることができ、例えば、矩形状、三角形状、菱形状、粉砕状等の形状が挙げられ、中でも、製造のしやすさと均一同形状に製造できて数量の確保等の観点から、矩形状であるのが好ましい。
上記フィルム細片の大きさは、一辺が0.01〜1mmであるのが好ましく、0.3〜0.8mmであるのがさらに好ましく、0.4〜0.5mmであるのが特に好ましい。この範囲であると、上述の皮膚への密着及び目に見え難いなどの効果がより優れたものになる。また、フィルムの大きさから毛細血管内での流通も良好に行い得ると考えられる。
また、上記フィルム細片の厚みは、100〜500nmであるのが好ましく、150〜250nmであるのがさらに好ましい。この範囲であると、上述の皮膚への密着及び目に見え難いなどの効果がより優れたものになる。
【0011】
上記フィルム細片は、上記分散媒50mL中に150,000〜5,000,00個であるのが好ましく、200,000〜500,000個であるのがさらに好ましく、200,000〜300,000個であるのが最も好ましい。この範囲であると、分散もされ易く、また、皮膚などに塗布した場合に皮膚面を多く被う効果が大きく、保湿効果が大になり上記フィルム細片と上記分散媒との量のバランスがよいため、より大きく上記の皮膚への効果が向上し、保湿を要するアトピー性皮膚炎などの医療用皮膚外用剤、化粧品(化粧剤)、医薬部外品、臓器癒着防止剤、ガン治療剤等においても好ましい。また、フィルム細片が非常に小さいため注射用途においても通常の液体と同様に取り扱うことができ、各種注射用の薬剤液としても有効である。
【0012】
(形成材料)
上記フィルム細片の形成材料は、分散媒に溶解しないもので、且つ、人体に有害な成分を含まなければ、特に限定されず、この種のフィルムに用いられる公知の樹脂材料を用いることができ、これらを単独または混合したものを使用できる。
公知の樹脂材料の例としては、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリスチレン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルイソシアネート、ポリブチルイソシアネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリノルマルプロピルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルノルマルプロピルエーテル、ポリビニルイソプロピルエーテル、ポリビニルノルマルブチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリビニルターシャリーブチルエーテル、ポリビニルクロリド、ポリビニリデンクロリド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカルバゾル)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリシクロペンテンオキシド、ポリスチレンスルホン、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびこれらの共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA);多糖類(例えば、アルギネート、デキストラン、キチン、ヒアルロン酸、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、フコイジン、およびグリコサミノグリカン、ならびにこれらの化学誘導体(化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の置換および/または付加、ヒドロキシル化、酸化、ならびに通常なされる他の修飾);タンパク質(例えば、アルブミン、カゼイン、ゼイン、フィブロイン)、天然ゴム、ならびにこれらのコポリマーおよびブレンド等の天然ポリマー;セルロース誘導体(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ベンジルセルロースなど)、およびキトサン等の合成により修飾された天然ポリマー;などが挙げられる。
また、人体への安全性の観点から、上記形成材料は生体適合性材料であるのが好ましい。
なお、本明細書において、分散媒に溶解しないとは、該分散媒がいわゆる貧溶媒となる材料からなることを意味し、上記フィルム細片を常温〜80℃の分散媒に浸漬させた時、少なくとも数か月間はで、完全に溶解しないものをいう。
本明細書において、上記生体適合性材料とは、体内で生体に悪影響を及ぼさず、生体に馴染む、もしくは吸収または代謝によって排出されるいわゆる生分解性の性質をもつ材料のことをいう。
上記生体適合性材料としては、例えば、下記の天然ポリマー、合成により修飾された天然ポリマー、合成ポリマーなどが挙げられ、これらを単独または混合したものを使用できる。
上記天然ポリマーとしては、多糖類(例えば、アルギネート、デキストラン、キチン、ヒアルロン酸、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、フコイジン、およびグリコサミノグリカン、ならびにこれらの化学誘導体(化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の置換および/または付加、ヒドロキシル化、酸化、ならびに通常なされる他の修飾);タンパク質(例えば、アルブミン、カゼイン、ゼイン、フィブロイン)、ならびにこれらのコポリマーおよびブレンド等が挙げられ、これらは、単独であるか、または合成ポリマーと組み合わせて用いることができる。
上記合成により修飾された天然ポリマーとしては、セルロース誘導体(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース)、およびキトサン等が挙げられる。適切な上記セルロース誘導体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース、および硫酸セルロースナトリウム塩等が挙げられる。
代表的な上記合成ポリマーとしては、下記モノマーをそれぞれ単独で又は2種以上混合して用いて形成されるポリマーが好ましく挙げられる。
モノマー:ラクトンモノマー(例えば、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、ε−カプロラクトン、バレロラクトン、およびδ−バレロラクトン);ならびにカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネートおよびテトラメチレンカーボネートなど);ジオキサノン(例えば、1,4−ジオキサノンおよびp−ジオキサノン);1,ジオキセパノン(例えば、1,4−ジオキセパン−2−オンおよび1,5−ジオキセパン−2−オン)。
これらのモノマーから形成されるポリマーとしては、ラクトンモノマーから調製されたポリヒドロキシ酸;ポリ(乳酸);ポリ(グリコール酸);ポリ(トリメチレンカーボネート);ポリ(ジオキサノン);ポリ(ヒドロキシ酪酸);ポリ(ヒドロキシ吉草酸);ポリ(ラクチド−co−(ε−カプロラクトン));ポリ(グリコリド−co−(ε−カプロラクトン));ポリ(乳酸−co−グリコール酸);ポリカーボネート;ポリ(偽アミノ酸);ポリ(アミノ酸);ポリ(ヒドロキシアルカノエート);ポリアルキレンオキサレート;ポリオキサエステル;ポリ酸無水物;ポリオルトエステル;ならびにこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ポリマーブレンド物、およびこれらを組み合わせてなるポリマー混合物などが挙げられる。
また、上記生体適合性材料の他の非限定的な例としては、脂肪族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)など);ポリエチレングリコール;グリセロール;コポリ(エーテル−エステル);変性ポリビニルアルコール;ポリビニルアセテート;メタクリレートポリマー;ならびにこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、および組み合わせなどが挙げられる。
中でも、人体への安全性の観点から、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(グリコール酸)、変性ポリビニルアルコール、カゼイン等の生分解性を有する材料であるのがさらに好ましく、ポリ(乳酸)が、強度の点、トウモロコシやサツマイモなどの植物由来原料で大量生産が可能でコストが安い点、薄膜でも強靭である等の点から、さらに特に好ましく用いられる。
【0013】
(他の成分など)
上記フィルム細片の形成材料は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて、上記生体適合性材料以外の他の成分を含有してもよい。そのような成分としては、添加剤、可塑剤、後述する薬学的活性成分、生理活性物質、栄養成分、保湿剤、抗菌物質、防腐剤、静電気防止剤、UVフィルタもしくはUV吸収剤、美白成分等が挙げられる。
また、上記フィルム細片は、単層体でも積層体でもよく、用途や必要等に応じて、撥水処理、着色処理、乾燥処理、穿孔処理などの加工処理を施してもよい。
【0014】
(分散媒)
上記分散媒は、人体に有害な成分を含まなければ、特に制限されないが、pH4.5〜6.0の弱酸性溶液であるのが、皮膚の生理的pHであり低刺激である点、アトピー性皮膚炎の治癒効果がある点で好ましく、上記弱酸性溶液が、酸性物質を水に溶解させてなる水溶液であるのが、さらに好ましい。
上記酸性物質としては、例えば、ラクトビオン酸、局方酒石酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、グリコール酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸、ココイル、コカミド、ココアンなどのアミノ酸、グルタミン酸、カプリン酸、グリセリル、並びにこれらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、たとえば、L−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、3酢酸Na、カルボン酸Na、クエン酸Naなどが挙げられ、これらを単独または混合して使用することができる。また、上記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は上述の各酸を用いた場合におけるpHの調整ために用いることもできる。
中でも、上記酸性物質がラクトビオン酸であるのが、安全性、保湿性、酸化防止等の観点から好ましい。
上記酸性物質の濃度は、上記のpHを満足する範囲であれば特に制限されない。
また、上記分散媒には、用途等に応じて、薬学的活性成分、生理活性物質、栄養成分、保湿剤、抗菌物質、防腐剤、制汗剤、静電気防止剤、防臭剤、香料、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤等を、単独または混合して含有させてもよい。
また、上記薬学的活性成分としては、消炎鎮痛剤、消炎剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、抗生物質、抗細菌剤(抗菌剤・抗カビ剤・抗ウィルス剤等)、ホルモン剤、抗ホルモン剤、角質柔軟剤、漢方薬、ビタミン類、抗がん剤等が挙げられ、これらを単独または混合したものを使用できる。
【0015】
<製造方法>
本実施形態のフィルム分散液の製造方法を説明する。
なお、詳細については、後述の実施例に記載する。
本実施形態のフィルム分散液の製造は、フィルム細片の原料フィルムを製造するフィルム製造工程、原料フィルムを切断してフィルム細片を得るフィルム細片製造工程、得られたフィルム細片を分散媒に分散してフィルム分散液を得るフィルム細片分散工程を行うことにより実施できる。
【0016】
(フィルム製造工程)
本実施形態において用いられる上記フィルム細片は、フィルム細片製造用の原料フィルムを細片に切断することで製造されている。
上記原料フィルムは、樹脂材料を加熱し、溶解させ、添加物などを添加し混合して、フィルム形成溶液を調整し、調製したフィルム形成溶液を、プラスチックベースフィルムの表面に、公知のコーティング機で均一に塗布し乾燥させることにより製造することができる。
上記樹脂材料及び添加物は、上述のフィルム細片の形成材料から適宜決定されるものである。
上記ベースフィルムは、特に制限されず、公知のものを使用することができる。
上記のコーティング機で塗布する厚みは、特に制限されず、形成溶液の塗布量により制御することができ、材料や用途などに応じて、適宜決定されるものである。上記ベースフィルムやコーティング機を用いた塗工方法並びに乾燥方法などの原料フィルムの製造方法の詳細については、たとえば、特開2013−180546号公報の段落0011、0012に記載の方法と同様の手法を用いることができる。
【0017】
(フィルム細片製造工程)
フィルム細片製造工程は、上記フィルムを細片にする工程である。
フィルム細片製造工程の一例を説明する。
上記原料フィルムをベースフィルムに載置された状態で原料フィルムだけをハーフカットで格子状に切断し、フィルム細片にする。
上記切断は、矩形の格子状の刃を用いロータリー式のカット機で一回の操作で矩形に一回で切断する方法;または、箔押し機、シール印刷機、プレス機などの加圧機タイプの機器で縦方向の切断を行った後、横方向の切断を行う2回の操作で切断する方法等が挙げられ、中でも加圧機タイプの機器で縦方向の切断を行った後、横方向の切断を行う2回の操作で切断する方法が好ましい。これにより、矩形の格子状の刃で一度に切断する方法より切断時の押圧によるフィルムの変形をより少なくすることができる。なお、前者の方法は0.1〜0.2mm角の小片とする場合には効果的な方法である。
上記加圧機タイプの機器で、縦方向の切断を行った後、横方向の切断を行う場合の一例を以下に説明する。
まず、縦方向切断用のカッター刃と、横方向切断用のカッター刃とを、それぞれ縦用、横用に別々に準備する。
上記縦方向切断用、及び横方向切断用のカッター刃は、直線切断用のカッター刃を互いに水平に且つ刃先が同じ高さなるように、所定の間隔で複数本、金属製の枠型の内側に固定したものである。上記縦方向及び横方向切断用のカッター刃における、カッター刃の数は、100〜1000本が好ましく、200〜300本がより好ましい。
上記カッター刃は、市販のカッターの刃を用いるのが好ましい。
上記切断は、上記の縦方向切断用または横方向切断用のカッター刃を用い、上記加圧機タイプの機器で、行うことができる。
具体的には、図1に示すように、箔押機(加圧機タイプの機器)を用い、台座の上にベースフィルムに載置された状態の原料フィルムを載置し、該原料フィルムに箔押し機に所定間隔でセットされた複数の上記の縦方向切断用または横方向切断用カッター刃を押し当てて、切断を行う。
また、上記切断は、上記のベースフィルム表面の原料フィルムとベースフィルムの高さの半分程度の高さまで切断する方法、いわゆるハーフカットの方法であるのが好ましい。これにより、ベースフィルム自体を切断せず、上記フィルム細片をベースフィルム表面に接着させたままの状態にすることができるためハンドリングが容易になり、また、切断時の押圧によるフィルムの変形をより少なくすることができる。また、定数量の確保が容易となる。
【0018】
(フィルム細片分散工程)
フィルム細片分散工程は、上記フィルム細片を分散媒に分散させ、フィルム分散液を得る工程である。また、分散に先立ち、未だフィルム細片がベースフィルムに張り付いた状態であるため、フィルム細片をベースフィルムから剥離する必要がある。
フィルム細片分散工程においては、上記のフィルム細片が多数張り付いたベースフィルムをそのまま分散媒に浸漬させて、ベースフィルムからフィルム細片を剥離させると共に、剥離されたフィルム細片を分散媒に分散させる。その上でベースフィルムだけを取り出すことにより、本実施形態のフィルム分散液を得ることができる。
なお、剥離、分散に用いる溶媒は、分散媒を用いず、他の溶液を用い、上記の剥離、分散を行った後に、成分を添加するなどして、分散媒を調整してもよい。
上記分散媒の成分は、目的や用途などに応じて、上述した弱酸性溶液などから種々選択可能である。
上記フィルム細片の濃度の調整方法は、特に制限されず、例えば、浸漬させるベースフィルムの数は、一定の数量をカウントして一定の大きさにカットしておくことによって確実な数量をカウントできる。浸漬液の中へ入れる枚数を変えることにより数量をより確実に調整、管理することができ、また、ろ過などによりフィルム細片を濃縮し、分散媒に再縣濁させて調整することもできる。
【0019】
なお、上記フィルム細片分散工程は、上記の製造方法で述べた方法以外の方法でも行うことができる。例えば、上記ベースフィルム上に製造した上記フィルム細片を上記ベースフィルムから剥がし取る方法として、ベースフィルムの表面部に鋭利な刃先等を押し当てながら、ベースフィルムだけを移動させて剥がし取る方法などを用い、上記フィルム細片のみを収集し、収集した上記フィルム細片と上記分散液とを混合するなどしても行うことができる。
この場合は、上記フィルム細片の保存や保管に上記ベースフィルムが必要でないため、フィルム分散液の製造時において運搬が楽であることや、製造時の保存・保管場所が少なくて済むことなどのメリットがある。また、上記フィルム細片の数の調整は、上記フィルム細片の重量の計測などにより行うことができる。
【0020】
<用途・使用方法>
本実施形態のフィルム分散液は、フィルムに各種薬剤などを含有させて細片にしたものを液中に分散してなるものであり、皮膚外用剤、化粧品(化粧剤)、医薬部外品、臓器癒着防止用の他、抗がん剤など薬剤を含有させ患部へ直接塗布することにより局所治療を行うガン治療剤などの用途で、人や動物の皮膚などに塗布すること等により使用することができる。
本実施形態のフィルム分散液は、これを皮膚に塗布したときに効率的に分散液の成分を、皮膚等の所望の位置に輸送することができるものである。例えば、従来より市販されている接着剤を用いた貼付薬は、皮膚に貼付すると、含有する薬剤が直接肌に接触して吸収されるだけではなく接着剤の作用により皮膚表面並びに表皮部分を放射線状に拡散した後に真皮内部に吸収される。このため従来の貼付薬ではピンポイントに所望の位置だけに薬剤を注入することはできなかった。これに対して本発明のフィルム分散液においては、分散液を保持した上記フィルム細片の積層物が接着剤なしで直接皮膚に密着するため、分散媒中の薬剤が分散液を塗布した場所においてのみ直接、皮膚に浸透する。このため、効率的に分散液の成分を皮膚の所望の位置に注入することができる。
【0021】
また、本発明のフィルム分散液は、上述の性質を有し、体液の蒸発を防止でき、皮膚の保湿効果が高いため、シワ防止、潤い感、美白等の効果があり、また、本発明のフィルム分散液は、分散されているフィルムの密着性が強く、また各フィルム細片が強靭な膜であるため、口紅の上にフィルムを張り付けた場合、コーヒーカップ、茶碗、衣服などに口紅が付着(再付着)するのを防ぐこともでき、全ての皮膚に適応可能な化粧品(化粧剤)、医薬部外品として好適に使用することができる。
【0022】
また、上記フィルム細片が前述したような生体適合性材料である場合は、より安全に使用することができ、人や動物の体内においても使用することができる。例えば、後述する臓器癒着防止剤や、抗がん剤をフィルムの中へ含有させて患部へ直接塗布するガン治療剤などの用途で用いることができる。この場合、上記「皮膚への効果」は、内臓などの体内においても同様に発揮され、また、抗がん剤など薬剤を含有した細片フィルムを患部の局部だけに貼着させ局部にのみ薬効があるようにできるため、薬剤の副作用が少ないものである。
【0023】
また、本発明のフィルム分散液は、分散されているフィルム細片の大きさが血液細胞よりも薄い場合もあるので、血管内投与を行うこともできる。これにより、口から体内へ入れることはできない場所などにおいても薬物の輸送が可能となる。この場合、本発明で用いられる上記フィルムに、薬剤を含有させ、血管内で塞栓を形成せずに毛細血管を安全に通過させるため血液細胞と同等それ以下に細片したものを使用することができる。
血管内投与の例としては、例えば、血管内の病因の治療が挙げられ、具体的には、リュウマチ、動脈壁のコレステロール消失、心肥大防止、毛細血管腫、血管内皮腫、腎盂炎、腎盂腎炎などの治療に使用することができる。これにより、従来薬剤のように血流となって血管内を流動するだけでなく、血管内の患部に付着して長期にわたって患部を治療することができる。これらは、公知の薬剤を上記フィルムに含有させることにより実施でき、配合量は、配合成分や用途などに応じ、任意である。
また、フィルムが上述のように小さいので分散液ながら針を流通可能であり、注射用の剤として有用である。本発明の分散液を注射用の剤として用いれば、患部のみに薬剤を投与することが可能となり、経口投与した場合のような副作用を低減させることが可能である。また、上述のように患部にフィルムが密着して薬剤を放出浸透させることができるので、注射剤として用いると薬を効果的に使用することができる。
【0024】
次に、本発明の化粧品及び医薬部外品を説明する。
本発明の化粧品は、上述の本発明のフィルム分散液からなるものである。
本発明の化粧品は、皮膚へ塗布することにより使用することができ、分散媒の成分やフィルム形成成分を適宜変えることで、種々の化粧品及び医薬部外品として使用することができる。
ここで、本発明の医薬部外品とは、有効成分、効能、効果などにより、薬事法で定義される医薬部外品の範囲に入るものをいう。
本発明の化粧品は、上述のフィルム分散液の性質を有し、体液の蒸発を防止できるので、皮膚の保湿効果が高く、シワ防止、潤い感、美白等の効果があり、化粧品として好適に使用することができる。
本発明の化粧品及び医薬部外品に用いられる上記分散媒は、人体に有害な成分を含まなければ、特に制限されないが、pH4.5〜6.0の弱酸性溶液であるのが、皮膚の生理的pHであり低刺激である点で好ましく、上記弱酸性溶液が、上述の酸性物質を水に溶解させてなる水溶液であるのが、さらに好ましく、上記酸性物質がラクトビオン酸であるのが、安全性、保湿性、酸化防止等の観点から特に好ましい。
また、上記分散媒は、薬学的活性成分、生理活性物質、栄養成分、保湿剤、抗菌物質、防腐剤、制汗剤、静電気防止剤、防臭剤、香料、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤、美白剤等の成分を配合させ、化粧品用途に好適に用いることができる。
これらの成分の配合量は、配合成分や用途などにより任意である。
本発明の化粧品の製造方法は、上述のフィルム分散液の製造方法と同様である。
本発明の化粧品は、上述のように塗布することにより使用することができる。
【0025】
次に、本発明の医療用皮膚外用剤を説明する。
本発明の医療用皮膚外用剤は、上述の本発明のフィルム分散液からなるものである。
本発明の医療用皮膚外用剤は、上述の本発明のフィルム分散液の性質を有するため、上記分散媒が蒸発せずに長時間保持され、分散媒の成分の皮膚に対する効果が高いものであり、また、皮膚に対する接着性や追従性が高いため、関節部などの伸縮がある部位にも使用することができ、シート状の外用剤を用いる場合のように剥れを気にしなくても良く、極薄膜を取扱う超困難作業を避けることができる。また、従来のクリームや軟膏などのべたつき感や、バップ剤などの装着時の不快感がなく使用感に優れ、皮膚への酸素の透過性も高いものである。
本発明の医療用皮膚外用剤の製造方法は、上述のフィルム分散液の製造方法と同様である。
本発明の医療用皮膚外用剤は、皮膚へ塗布することにより使用することができ、分散媒の成分やフィルム形成成分を適宜変えることで、褥瘡等種々の皮膚疾患の外用剤として使用することができる。
例えば、本発明の医療用皮膚外用剤をアトピー性皮膚炎の治療用に用いる場合は、分散媒をラクトビオン酸からなる弱酸性溶液等にして、使用することができる。
この場合、上記医療用皮膚外用剤に含まれる上記フィルム細片が皮膚表面を完全に覆い尽くさなくても、点在するだけで分散媒が保持され、分散媒が皮膚表面の大部分を覆って、長時間保湿効能効果が持続する。
【0026】
次に、本発明の臓器癒着防止剤を説明する。
本発明の臓器癒着防止剤は、上述の本発明のフィルム分散液からなるものである。
本発明の臓器癒着防止剤は、上述の本発明のフィルム分散液の性質を有するため、上記分散媒が蒸発せずに長時間保持され保湿効果が高く、塗布した臓器に対するバリア効果を発揮する。臓器癒着を、効果的に防止することができる。
また、本発明の臓器癒着防止剤は、塗布だけで簡単に使用できるものである。
本発明の臓器癒着防止剤として使用する場合、上記分散媒がユーロコリンズ液、ウィスコンシン液などの臓器保存液であるのが、生体適合性、癒着防止効果、保湿効果などの観点から好ましい。
本発明の臓器癒着防止剤の製造方法は、上述のフィルム分散液の製造方法と同様である。
本発明の臓器癒着防止剤は、臓器へ塗布することにより使用することができる。
【0027】
次に、本発明のガン治療剤を説明する。
本発明のガン治療剤は、上記分散媒またはフィルムが有効成分として抗がん剤成分を具備する上述のフィルム分散液からなるガン治療剤である。
本発明のガン治療剤は、上述の本発明のフィルム分散液が、上記分散媒を蒸発せずに長時間保持するという性質を有するため、上記分散媒またはフィルムに含まれる抗がん剤成分を効率的に保持し患部に輸送することを可能にするものである。このため、本発明のガン治療剤をガン患部に直接塗布することにより、効率よくガン治療をすることが可能となり、また、局所的に治療を行うため、副作用も抑えることができる。
上記抗がん剤成分としては、殺がん、ガン細胞増殖抑制、がん転移防止、がん再発防止または発がん予防等に効果を有する成分であれば特に制限されず、例えば、このような成分を有するものとしては、下記のような公知の薬剤などが挙げられる。
イマチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、リツキシマブ等の分子標的薬;エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリピン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクボスファート、テガフール、テガフールウラシル、TS−1、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサートなどの代謝拮抗剤;ゼヴァリン、イマチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、イリノテカン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセルなどの植物アルカロイド;イホスファミド、シクロフォスファミド、ダカルバシン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチンなどのアルキル化剤;アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、スマンクス、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ドキシルなどの抗癌性抗生物質;オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチンなどのプラチナ製剤などが挙げられ、これらを単独または混合したものを使用できる。
これらの抗がん剤の使用量は、用いる抗がん剤によって任意である。
本発明のガン治療剤の製造方法は、上述のフィルム分散液の製造方法と同様である。
本発明のガン治療剤は、臓器等へ塗布することにより使用することができる。
【0028】
本発明は上述した実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
上途した使用方法は、フィルム細片を分散液に分散させ医療用皮膚外用剤として使う方法を述べたが、フィルムを細片化する前のシートを皮膚に貼付することも可能で有る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕
(フィルム分散液の製造)
(フィルム製造工程)
樹脂材料としてのポリ乳酸ペレット50gを酢酸エチルにて溶解させた後、フィルム形成溶液を調整した。
調整したフィルム形成溶液を、PET、OPPからなる厚みが10μm、1000mm巾のベースフィルムに、コーティング機で、厚みが200nmになるように均一に塗布し、乾燥させ、ベースフィルムの表面に厚みが200nmのポリ乳酸からなる原料フィルムを形成した。
【0030】
(フィルム細片製造工程)
上記原料フィルムが搭載されたベースフィルムを、スリッター機で、120mm巾にスリットした。
スリット後の上記のベースフィルム表面の原料フィルムを、格子状にハーフカットして切断し、フィルム細片にした。
切断は、縦方向切断用、横方向切断用のカッター刃をそれぞれ別々に準備し、縦方向の切断を行った後、横方向の切断を行うことにより、上記のベースフィルム表面の薄膜フィルムだけを格子状に切断した。
具体的には、上記縦方向切断用、横方向切断用のカッター刃は、市販の直線切断用のカッター刃を、0.45mm間隔で、互いに水平で、縁部以外の刃が同じ高さになるように223本、金属製の枠に固定したものである。なお、縁部のカッター刃については、高さを縁部以外の刃より0.3〜0.5mm高くなるようにし、ベースフィルムが縁部の刃で切断されるようにした。また、縁部以外の部分のカッター刃は、ベースフィルムの半分の高さまで切断されるいわゆるハーフカットで薄膜だけが切断される高さにし、上記原料フィルムが搭載されたベースフィルムの上記原料フィルムだけが切断され上記ベースフィルムは半分の高さまで切断されるようにした。
切断は、図1に示すように上記縦方向切断用、横方向切断用のカッター刃を加圧機タイプの切断機を使用して、行った。具体的には、シール印刷機(商品名:シール印刷機、岩崎鉄工株式会社製)にセットして、縦方向の切断を行った後、横方向の切断を行い、一片が0.45mmの正方形状のフィルム細片が縦223×横223の49729個の格子状に、ベースフィルム表面に形成された、100.35mmの正方形状のベースフィルムを得た。
【0031】
(フィルム細片剥離・分散工程)
得られた上記の表面に上記フィルム細片が形成されたベースフィルムを、分散媒に浸漬させ、上記フィルム細片を剥離し分散させ、上記ベースフィルムのみを取り出し、本発明のフィルム分散液を得、それを本発明の医療用皮膚外用剤とした。
具体的には、上記のベースフィルム5枚を、分散媒としての2.5%ラクトビオン酸溶液(pH=5)50mLに、5時間浸漬させ、上記フィルム細片を剥離し分散させ、上記ベースフィルムのみを取り出し、上記分散液50mL中に約248,645個の上記フィルム細片を含む、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を得た。
【0032】
〔実施例2〕
上記分散液50mL中のフィルム細片数を497,290個にした以外は、実施例1と同様にして、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を得た。
【0033】
〔試験例1〕アトピー性皮膚炎モデルマウスに対する効果試験(臨床症状重症度スコアリング)
アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスに、実施例1で得られた本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を塗布し、臨床症状重症度スコアリングにより、その効果を調べた。
試験は、アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスとしてのNC/Tnd系統マウス(21−24週齢、雌雄)を用い、塗布開始3日前にバリカンにて頸背部皮膚を20×30mmの矩形状に除毛し、除毛した部分に0.2mL塗布し、塗布した部分の皮膚状態を下記方法による臨床症状重症度スコアリングにより評価することにより行った。
臨床症状重症度スコアリングは、塗布開始前、塗布開始4日、8日、11日、14日後の計5回行った。
また、本発明の医療用皮膚外用剤の代わりに蒸留水を塗布した試験、2.5%ラクトビオン酸溶液のみ塗布した試験を比較試験として同時に行い、また、各実験群のマウスは7匹とした。
得られた結果を図2に示す。なお、データの統計処理はFisher testによる多重比較検定を用いて行い、図中「★」「★★」は、それぞれコントロール群(蒸留水)と比較におけるP<0.05、P<0.01の有意差を意味し、「#」「##」はそれぞれ、塗布開始前との比較におけるP<0.05、P<0.01の有意差を意味する。

方法:
臨床症状重症度スコアリングは、除毛した頸背部皮膚部分について、次の分類に基づく観察項目を観察し、観察結果を下記分類に基づき評点化して、スコア付けをすることにより行った。
なお、スコア付けは、評価を行う試験室においてNC/Tndマウスを30分間、馴化させた後、観察者以外の者が各群のマウスをブラインド化し、観察者がブラインド化されたマウスのスコア付けすることにより行った。
観察項目:
1.Pruritus/itching(掻痒症)
2.Erythema/hemorrhage(発赤・出血)
3.Edema(浮腫)
4.Excoriation/erosion(擦傷・組織欠損)
5.Scaring/dryness(痂皮形成・乾燥)
評点化:
上記観察項目について下記に示すスコアにより評点化した。
0… 無症状
1… 軽度
2… 中等度
3… 重度
【0034】
〔試験例2〕アトピー性皮膚炎モデルマウスに対する効果試験(経皮水分喪失量)
アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスに、実施例1で得られた本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を塗布し、経皮水分喪失量を測定し、その効果を調べた。
試験は、試験例1と同様にして、アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスを除毛し、フィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を塗布し、塗布した部分の経皮水分喪失量及び体重を下記方法により測定することにより行った。測定は、塗布開始前、塗布開始7日後、14日後の計3回行った。
また、本発明の医療用皮膚外用剤の代わりに蒸留水を塗布した試験、2.5%ラクトビオン酸溶液のみ塗布した試験を比較試験として合わせて行い、各実験群のマウスは7匹とした。
方法:
測定を行うマウスは、測定当日に測定を行う環境に60分以上馴化させ、さらに空調機器を停止させた後、2−3%イソフルラン含有酸素ガスを充填させた麻酔瓶に入れて麻酔し、測定部分における経皮水分喪失量を経皮水分喪失量測定装置(商品名:Multi probe adapter、CK electronic社製)により測定した。また、合わせて、体重を電子天秤(商品名:HL−320、アーンストンハンセン社製)により測定した。
なお、経皮水分喪失量の測定は、測定用のプローブを測定部分の皮膚に押し当て、数値が安定するまでほぼ均等の圧力で保持して行い、また、測定結果は3回測定してその平均値を算出したものである。
得られた結果を図3(経皮水分喪失量)、及び図4(体重)に示す。なお、データの統計処理はFisher testによる多重比較検定を用いて行い、図中「★」「★★」は、それぞれコントロール群(蒸留水)と比較におけるP<0.05、P<0.01の有意差を意味し、「#」は塗布開始前との比較におけるP<0.05の有意差を意味する。
【0035】
〔試験例3〕アトピー性皮膚炎モデルマウスに対する効果試験(皮膚表層pH)
アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスに、実施例1で得られた本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を塗布し、皮膚表層pHを測定することにより、その効果を調べた。
試験は、試験例1と同様にして、アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスを除毛し、実施例1で得られた本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)を塗布し、塗布した部分の皮膚表層pHを下記方法により測定することにより行った。測定は、塗布開始後2時間、6時間、12時間、24時間の計4回行った。
また、医療用皮膚外用剤の代わりに蒸留水を塗布した試験、2.5%ラクトビオン酸溶液のみ塗布した試験を比較試験として同時に行い、各実験群のマウスは7匹とした。
方法:
測定を行うマウスは、測定当日、測定を行う環境に60分以上馴化させた後、2−3%イソフルラン含有酸素ガスを充填させた麻酔瓶でマウスに麻酔をかけ、測定部分における皮膚表層pHを皮膚毛髪用pHメーター(商品名:portable pH meter、HANNA社製)により測定した。
得られた結果を図5に示す。なお、データの統計処理はFisher testによる多重比較検定を用いて行い、図中「★」「★★」は、それぞれコントロール群(蒸留水)と比較におけるP<0.05、P<0.01の有意差を意味し、「#」「##」はそれぞれ、塗布開始前との比較におけるP<0.05、P<0.01の有意差を意味する。
【0036】
〔試験例4〕ヒトに対する効果
次に、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)の人に対する効果を調べるための基礎実験として、下記方法による試験を行った。
方法:
健康な若者の両腕の前腕部内側(手根の幅の中点かつ手首と肘窩を結ぶ中点)の皮膚の一部を、2×2cmの市販のセロテープ(登録商標)で接着と剥離を約20回繰り返し、皮膚バリア(角質層)を薄く軽微に剥がした。皮膚バリアをはがした部分に、実施例1及び2で得られた本発明のフィルム分散液を0.1mL塗布し、剥離前と剥離直後、そして塗布後5分、30分、60分、90分、120分毎に、皮膚表層pHと経皮水分喪失量とをそれぞれ測定した。
皮膚表層pHの測定は、皮膚毛髪用pHメーター(商品名:portable pH meter、HANNA社製)を用いて行い、経皮水分喪失量は、経皮水分蒸散量測定器装置(商品名:Multi probe adapter、CK electronic社製)で行った。
また、医療用皮膚外用剤の代わりに蒸留水を塗布した試験、2.5%ラクトビオン酸溶液のみ塗布した試験を比較試験として同時に行い、各実験群の被験者は9人(平均年齢26歳±5、男性4名、女性5名)とした。
なお、試験は、EUにおける化粧品の効能・効果を評価するための科学的専門機関(EEMCO)による角質水和評価ガイドラインをもとに、試験室内の温湿度を20〜22℃/40〜60%になるように調整して行い、また、セロテープで皮膚バリアを剥がす前に測定部位(前腕部内側)を空気中に露出し、15分間の馴化時間を設けた。
得られた結果を図6(経皮水分喪失量)及び7(皮膚表層pH)に示す。
なお、データの統計処理はFisher testによる多重比較検定を用いて行い、図中「★」「★★」は、それぞれコントロール群(蒸留水)と比較におけるP<0.05、P<0.01の有意差を意味し、「++」は2.5%ラクトビオン酸溶液のみ塗布群との比較におけるP<0.01の有意差を意味する。
【0037】
以下、結果を考察する。
図2〜5は、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)の効果を、アトピー性皮膚炎自然発症モデルマウスで調べた結果である。
図2は、臨床症状重症度スコアの結果である。図2から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、コントロール及び2.5%のラクトビオン酸のみの塗布よりも、アトピー性皮膚炎の臨床症状に対する効果が高いことがわかる。
図3は、経皮水分喪失量の結果である。図3から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、コントロールよりも、経皮水分の喪失が少ないことがわかる。
図4は、体重の測定結果である。図4から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)による体重の増減は見られないことがわかる。このことから、図3の経皮水分の喪失量の結果は体重の増減によるものではないことがわかる。また、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、体重の増減を伴うような悪影響を示さないことがわかる。
図5は、皮膚表層pHの測定結果である。図5から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、コントロール及び2.5%ラクトビオン酸のみの塗布よりも、長い時間、皮膚表層のpHを保つことがわかる。このことから、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、分散媒のpH等の性質を長い時間保つことがわかる。
【0038】
図6及び図7は、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)における、ヒトへの効果を調べた結果である。
図6は、経皮水分喪失量の結果である。図6から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、コントロールよりも、経皮水分の喪失が少ないことがわかり、特に実施例1の本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)で効果が高いことがわかる。
図7は、皮膚表層pHの測定結果である。図7から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、コントロール及び2.5%ラクトビオン酸のみの塗布よりも、長い時間、皮膚表層のpHを保つことがわかり、特に実施例1の本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)で効果が高いことがわかる。
以上から、本発明のフィルム分散液(医療用皮膚外用剤)は、マウスにおいてもヒトにおいても効果が高いものであることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7