特許第6228511号(P6228511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228511
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】分散性の良好な架橋アクリレート系繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/63 20060101AFI20171030BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20171030BHJP
   D02G 1/00 20060101ALI20171030BHJP
   D01F 6/18 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   D06M11/63
   D06M11/00 110
   D06M11/00 120
   D02G1/00 Z
   D01F6/18 Z
   D06M101:28
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-110840(P2014-110840)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-224408(P2015-224408A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 克也
(72)【発明者】
【氏名】小見山 拓三
(72)【発明者】
【氏名】西崎 直哉
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭58−010509(JP,B2)
【文献】 特公昭62−060502(JP,B2)
【文献】 特開2002−088645(JP,A)
【文献】 特開2006−097159(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/041275(WO,A1)
【文献】 特開2015−224409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/12
A47G 9/00 − 9/10
B68G 1/00
D01F 1/00 − 6/96
D01F 9/00 − 9/04
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D04H 1/00 − 18/04
D06M 10/00 − 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん縮率/けん縮数の比が0.60以下であることを特徴とする架橋アクリレート系繊維。
【請求項2】
トウ状態のアクリロニトリル系繊維に対して、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋処理と加水分解処理を施すことによって得られることを特徴とする請求項1に記載の架橋アクリレート系繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性の良好な架橋アクリレート系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
羽毛は、高い保温性を有しており、寝具や衣料などの中綿として広く利用されている。しかし、近年の需要増や鳥インフルエンザの流行に伴い、価格が高騰している。これに対して、羽毛以外の繊維を併用することができれば、コストダウンを図ることができる。しかし、羽毛の量が少なくなると保温性が低下する。これを補う方法として、吸湿発熱性を有する繊維と併用することが考えられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、羽毛などの動物性繊維と吸放湿発熱性繊維である架橋アクリレート系繊維を混合した中綿を使用した吸放湿発熱性保温品が開示されている。かかる中綿は、人体から発生する気相及び液相の水分を吸収することにより発熱保温することが可能である。しかしながら、架橋アクリレート系繊維は、その製造工程において繊維同士の絡みが発生しやすく、開繊しにくいため、羽毛と架橋アクリレート系繊維を均一に混合することは難しく、中綿の外観に斑ができ、品位の劣るものとなりやすい。また、洗濯等を行うとさらに絡みが増して、異物感や厚み斑を生じてしまう。また、混合が不均一になることにより吸湿発熱による保温性等の機能についても低下傾向となる。
【0004】
また、特許文献2には、短繊維混入羽毛ワタの製造方法が開示されている。かかる方法においては、短繊維と羽毛を均一に混合することが可能とされている。しかしながら、上述のように架橋アクリレート系繊維は開繊しにくい性質を有しているため、これらの方法を用いても、架橋アクリレート系繊維を羽毛と均一に混合することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−12833号公報
【特許文献2】特開平10−219526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、羽毛と架橋アクリレート系繊維を均一に混合することは容易なことではない。本発明は、かかる従来技術の現状を踏まえてなされたものであり、分散性が良好で羽毛と容易に均一混合することができる架橋アクリレート系繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の上記目的は、以下の手段により達成される。
(1)けん縮率/けん縮数の比が0.60以下であることを特徴とする架橋アクリレート系繊維。
(2)トウ状態のアクリロニトリル系繊維に対して、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋処理と加水分解処理を施すことによって得られることを特徴とする(1)に記載の架橋アクリレート系繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明の架橋アクリレート系繊維は、けん縮率/けん縮数の比として0.6以下を有するものである。このため、繊維の形態としては、けん縮による一つ一つの波形状の大きさが小さくなっている。そして、波形状の大きさが小さいため、架橋アクリレート系繊維の単繊維同士が絡みにくいという特徴が得られる。かかる本発明の架橋アクリレート系繊維は、単繊維に分散させやすく、羽毛などの他の繊維とも容易に均一混合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の架橋アクリレート系繊維は、カルボキシル基と架橋構造を含有する重合体から構成されている繊維である。かかるカルボキシル基と架橋構造を有する重合体としては、アクリロニトリル系重合体からなる繊維に1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋処理、および、加水分解処理を施して得られるものを挙げることができる。
【0010】
ここで、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物としては、2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物やヒドラジン系化合物が好ましい。1分子中の窒素原子の数の上限は特に制限されないが、12個以下であることが好ましく、さらに好ましくは6個以下であり、特に好ましくは4個以下である。1分子中の窒素原子の数が上記上限を超えると架橋剤分子が大きくなり、重合体中に架橋を導入しにくくなる場合がある。
【0011】
2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物としては、エチレンジアミン、へキサメチレンジアミンなどのジアミン化合物、ジエチレントリアミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)などのトリアミン系化合物、トリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどのテトラミン系化合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどで2個以上の1級アミノ基を有するポリアミン系化合物が例示される。
【0012】
また、ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネートなどが例示される。
【0013】
また、カルボキシル基量としては、繊維重量に対して好ましくは0.1〜10mmol/g、より好ましくは0.5〜8mmol/g、さらに好ましくは3〜8mmol/g含有することが望ましい。カルボキシル基量が0.1mmol/gを下回る場合は、後述する吸湿発熱性や消臭性などの機能が十分に得られない場合がある。また、カルボキシル基量が10mmol/gを上回る場合は、架橋構造が少なくならざるを得なくなり、吸水による膨潤によって繊維が脆化し、実用可能な繊維強度や伸度を維持することが難しくなる場合がある。
【0014】
カルボキシル基の状態としては、対イオンがH、すなわちCOOHの形(以下、H型カルボキシル基とも言う)であれば、特に、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系ガス等の消臭性能や抗ウイルス性能、抗アレルゲン性能、抗菌性能に関して優れた性能が発現する。抗アレルゲン性能については、除去対象となるアレルゲンは特に限定されないが、花粉やダニなどから発生するアレルゲンを効率よく除去することができる。
【0015】
カルボキシル基の対イオンの種類がH以外のカチオン(以下、塩型カルボキシル基とも言う)であれば、酢酸、イソ吉草酸等の酸性ガス、ホルムアルデヒド等のアルデヒドに対する優れた消臭性能、及び吸放湿性能が発現する。また、難燃性能、抗ウイルス性能、抗アレルゲン性能、抗菌性能に関しても高い効果を得ることができる。かかる塩型カルボキシル基を構成する陽イオンの例としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Be、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の金属、NH4、アミン等の陽イオンなどが挙げられ、複数種類の陽イオンが混在していてもよい。
【0016】
ここで、吸湿発熱性能を重視する場合には、塩型カルボキシル基量を4.5mmol/g以上とすることが好ましい。陽イオンの種類としては、Na、K、Mg、Ca、Al、Zn等を好適に用いることができる。また、塩型カルボキシル基量の上限としては、実用可能な繊維強度や伸度を維持する観点から8mmol/g以下であることが望ましい。
【0017】
本発明の架橋アクリレート系繊維は、けん縮率/けん縮数の比として0.60以下、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.30以下を有するものである。けん縮率/けん縮数の比は、けん縮による一つ一つの波形状の大きさの指標となるものである。この値が小さいほど、けん縮による一つ一つの波形状の大きさは小さくなる。本発明の架橋アクリレート系繊維は、かかる指標の値が0.60以下のものであり、波形状の大きさが小さいため、架橋アクリレート系繊維の単繊維同士が絡みにくいという特徴が得られる。この特徴により、本発明の架橋アクリレート系繊維は、単繊維に分散させやすく、羽毛などの他の繊維とも容易に均一混合することが可能である。一方、けん縮率/けん縮数の比の下限としては0.10以上であることが望ましい。かかる比が0.10未満の場合には、他の繊維と容易に均一混合できるものの、他の繊維との絡みが小さくなりすぎて、使用や洗濯などによって、架橋アクリレート系繊維が他の繊維から脱落しやすくなる。
【0018】
また、本発明の架橋アクリレート系繊維のけん縮率としては4%以下であることが好ましい。けん縮率が大きすぎると単繊維同士が開繊しにくくなる場合がある。また、けん縮率の下限としては1%以上であることが好ましい。けん縮率が小さすぎると、他の繊維との絡みが小さくなりすぎて、使用や洗濯などによって、架橋アクリレート系繊維が他の繊維から脱落しやすくなる場合がある。
【0019】
また、単繊維に分散させやすく、他の繊維とも容易に均一混合できるようにするという観点においては、本発明の架橋アクリレート系繊維の繊維長として、好ましくは13mm以下、より好ましくは8mm以下とすることが望ましい。繊維長の下限としては、あまりに短いと他の繊維と混合してもすぐに脱落して混合状態を維持できないので、1mm以上とすることが望ましい。
【0020】
本発明の架橋アクリレート系繊維の吸湿性能としては、羽毛等の他の繊維と混用した場合において、実用的な混率水準で有意な吸湿性能あるいは吸湿発熱性能を得る観点から、後述する吸湿率として好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは35%以上であることが望ましい。かかる吸湿率の上限は、特に限定されないものの、カルボキシル基導入量に限界があることから、概ね70%が上限となる。
【0021】
上述してきた本発明の架橋アクリレート系繊維の製造方法としては、アクリロニトリル系繊維に対して、1分子中に2個以上の窒素原子を有する窒素含有化合物による架橋処理および加水分解処理を施す方法を挙げることができる。
【0022】
かかる方法において、アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリルを40重量%以上、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含有するアクリロニトリル系重合体により形成された繊維である。従って、該アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体のほかに、アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体も採用できる。共重合体における他のモノマーとしては、特に限定はないが、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル(なお(メタ)の表記は、該メタの語の付いたもの及び付かないものの両方を表す);メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー及びその塩;(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有モノマー及びその塩;アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0023】
かかるアクリロニトリル系重合体を溶媒に溶解させて紡糸原液とし、これを紡糸することでアクリロニトリル系繊維が得られる。紡糸方法や条件に限定はなく、定法での紡糸が利用できる。ここで、アクリロニトリル系重合体を溶解させる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機系溶媒や硝酸、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液などの無機塩系溶媒を挙げることができる。
【0024】
次に、上記のようにして得られたアクリロニトリル系繊維に、上述した1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物による架橋処理を施す。かかる架橋処理の条件は、架橋構造が形成される限りにおいて制限はなく、該窒素含有化合物の溶液中にアクリロニトリル系繊維を浸漬し、50〜150℃で反応させた場合に好ましい結果を得られる場合が多いが、ヒドラジン系化合物を用いる場合には、以下のような条件を採用することができる。
【0025】
すなわち、ヒドラジン系化合物による架橋処理の具体的な処理条件としては、窒素含有量の増加を0.1〜10重量%に調整しうる条件である限り採用できるが、ヒドラジン系化合物濃度5〜20重量%の水溶液中、温度50〜110℃で1〜5時間処理する手段が工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とはヒドラジン系化合物による架橋処理前のアクリロニトリル系繊維の窒素含有量と該処理後の繊維の窒素含有量との差をいう。なお、窒素含有量の増加が下限に満たない場合には、最終的に実用上満足し得る物性の繊維が得られないことがあり、上限を超える場合には、十分な吸湿発熱性や消臭性等の機能が得られないことがある。
【0026】
かかる架橋処理を施された繊維は、該処理で残留した薬剤を十分に除去した後、酸処理を施しても良い。ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸や、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度3〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0027】
上述のようにして架橋処理を施された繊維、あるいは、さらに酸処理を施された繊維は、次に加水分解処理を施される。該処理により、架橋処理時に未反応のまま残存しているニトリル基などが加水分解され、カルボキシル基が生成される。
【0028】
かかる加水分解処理の手段としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液中に架橋処理を施された繊維を浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。具体的な処理条件としては、目的とするカルボキシル基の量などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜2.5重量%の処理薬剤水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。なお、上述した架橋処理と同時に加水分解処理を行うこともできる。
【0029】
上述のようにして加水分解処理を施された繊維は次に酸処理を施してもよい。加水分解処理においてアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液を用いた場合、生成されるカルボキシル基はアルカリ金属などのカチオンとイオン結合を形成する。酸処理することにより、かかるカチオンが水素イオンに置換され、H型カルボキシル基となる。かかる酸処理の手段としては加水分解を施された繊維を塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等の酸性水溶液に浸漬し、しかる後に乾燥する方法が好適に用いられる。
【0030】
さらに、上述のようにして酸処理を施された繊維はその求められる特性に応じて、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩水溶液によるイオン交換処理を行えば、所望の金属イオンを対イオンとする塩型カルボキシル基とすることができる。さらに、水溶液のpHや金属塩濃度・種類を調整することで、異種の対イオンを混在させたり、その割合を調整したりすることも可能である。
【0031】
上述した製造方法においては、最終的に得られる架橋アクリレート系繊維のけん縮率/けん縮数の比を上述した範囲とする観点から、該繊維の原料となるアクリロニトリル系繊維のけん縮率/けん縮数の比を好ましくは0.80以下、より好ましくは0.75以下とすることが望ましい。また、かかる比の下限としては、0.10以上とすることが好ましい。かかるけん縮率/けん縮数の比とする方法としては、アクリロニトリル系繊維の一般的な製造工程におけるけん縮付与工程の条件を調整したり、熱処理後のけん縮付与処理を省いたりする方法が挙げられる。
【0032】
また、アクリロニトリル系繊維はトウの状態、すなわち、短繊維に切断されていない状態で、上述した架橋処理と加水分解処理を施すことが望ましい。トウ状態で各処理を施した場合には、処理浴中においても繊維がある程度の拘束を受けているため、液流による絡みが発生しにくくなり、また、その後の繊維の取り出しの工程などにおいてトウに張力がかかるため、けん縮が伸びて、けん縮率がより小さくなりやすいと考えられる。
【0033】
さらに、トウ状態のアクリロニトリル系繊維に対して、架橋処理、加水分解処理等の処理を施した場合には、これらの処理後に短繊維に切断することになる。この場合、アクリロニトリル系繊維を短繊維状に切断してからこれらの処理を行った場合と比べて、短繊維の繊維長のばらつきが小さくなるという利点も得られる。
【0034】
上述してきた本発明の架橋アクリレート系繊維は、架橋アクリレート系繊維の単繊維同士が絡みにくく、分散させやすいため、他の素材と均一に混合することが容易にできる。ここで、他の素材としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、天然繊維、合成繊維などを挙げることができる。なかでも羽毛と併用した場合には、羽毛の保温機能を本発明の架橋アクリレート系繊維の吸湿発熱性能で補うことができるため、保温機能を維持しながら高価な羽毛の使用量を減らすことができるという効果が得られる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。実施例中の特性の評価方法は以下の通りである。
【0036】
(1)けん縮率/けん縮数の比
JIS−L1015に従って測定し、求める。求められたけん縮率[%]およびけん縮数[個/インチ]からけん縮率/けん縮数の比を算出する。
【0037】
(2)カルボキシル基量
繊維試料約1gを、50mlの1mol/l塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、繊維試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、十分乾燥させた繊維試料約0.2gを精秤し(W1[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して撹拌する。15分後、濾過によって試料繊維と濾液に分離し、引き続き試料繊維を、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで水洗する。このときの水洗水と濾液をあわせたものを、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V1[ml])を求める。得られた測定値から、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15−0.1×V1)/W1
【0038】
上記のカルボキシル基量の測定方法において、最初の1mol/l塩酸水溶液への浸漬およびそれに続く水洗を実施しないこと以外は同様にして、H型カルボキシル基量を算出する。かかるH型カルボキシル基量を上記の全カルボキシル基量から差し引くことで、塩型カルボキシル基量を算出する。
【0039】
(3)20℃×65%RH吸湿率
繊維試料約2.5gを、熱風乾燥器で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W2[g])。次に、該繊維試料を、温度20℃、65%RHに調節した恒温恒湿器に24時間入れる。このようにして吸湿した繊維試料の重量を測定する(W3[g])。これらの測定結果から、次式によって20℃×65%RH吸湿率を算出する。
20℃×65%RH吸湿率[%]=(W3−W2)/W2×100
【0040】
(4)分散性
洗浄した羽毛(ホワイトダックダウン85%、フェザー15%)4部と水400部からなる水分散液を準備する。該水分散液を撹拌しつつ、ここに繊維長6mmの繊維試料1部と水100部からなる水分散液を添加する。添加後10分撹拌した後、脱水、乾燥を行い、羽毛と繊維試料からなる混合綿を得る。得られた混合綿から測定用サンプルを約5gを採取し、重量(W4[g])を測定する。採取した混合綿を目視で観察し、繊維試料が絡んで塊となっている部分、すなわち分散不良部分を取り分ける。また、取り分けた繊維試料の個数(N1[個])と重量(W5[g])を測定し、次式によって分散不良部分の1gあたりの個数と重量割合を算出する。
分散不良部分の1gあたりの個数[個/g]=N1/W4
分散不良部分の重量割合[%]=W5/W4×100
測定用サンプルの採取以降の手順を3回繰り返し、分散不要部分の個数と重量の平均値を求め、混合綿の分散性を評価する。
分散不良部分の1gあたりの個数の平均値が8個以上、あるいは、重量割合の平均値が5%以上となる場合には、混合綿の外観の斑が目立ち、品位の劣るものとなる。
【0041】
[実施例1]
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体Ap(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)を48%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。該紡糸原液を用いて、常法に従って紡糸を行い、切断することなく、トウ状態で、単繊維繊度0.9dtexのアクリロニトリル系繊維を得た。なお、紡糸におけるけん縮付与工程の条件を調整することによって、アクリロニトリル系繊維のけん縮率/けん縮数の比を0.71とした。
【0042】
かかるトウ状態のアクリロニトリル系繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。架橋導入された繊維を、3%硝酸水溶液中に浸漬し、90℃×2時間酸処理を行った。続いて3%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃×2時間の加水分解処理を行い、3.5%硝酸水溶液で処理し、水洗し、脱水した。次いで、トウ状態の繊維を引き出して、短繊維状に切断し乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有する実施例1の繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
実施例1で得られたトウ状態のアクリロニトリル系繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。架橋導入された繊維を、3%硝酸水溶液中に浸漬し、90℃×2時間酸処理を行った。続いて3%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃×2時間の加水分解処理を行い、3.5%硝酸水溶液で処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、脱水した。次いで、短繊維状に切断し乾燥することにより、Mg塩型カルボキシル基を有する実施例2の繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体Ap(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)を48%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。該紡糸原液を用いて、常法に従って紡糸を行い、切断することなく、トウ状態で、単繊維繊度0.9dtexのアクリロニトリル系繊維を得た。なお、紡糸におけるけん縮付与工程の条件を調整することによって、アクリロニトリル系繊維のけん縮率/けん縮数の比を0.62とした。
【0045】
かかるトウ状態のアクリロニトリル系繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。架橋導入された繊維を、3%硝酸水溶液中に浸漬し、90℃×2時間酸処理を行った。続いて3%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃×2時間の加水分解処理を行い、3.5%硝酸水溶液で処理し、水洗し、脱水した。次いで、トウ状態の繊維を引き出して、短繊維状に切断し乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有する実施例3の繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
アクリロニトリル90重量%、アクリル酸メチルエステル10重量%のアクリロニトリル系重合体Ap(30℃ジメチルホルムアミド中での極限粘度[η]=1.5)を48%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調製した。該紡糸原液を用いて、常法に従って紡糸を行い、短繊維状に切断し、単繊維繊度0.9dtex、けん縮率/けん縮数の比が0.91のアクリロニトリル系繊維を得た。
【0047】
かかる短繊維状態のアクリロニトリル系繊維に、水加ヒドラジンの20%水溶液中で、98℃×5時間架橋導入処理を行い、洗浄した。架橋導入された繊維を、3%硝酸水溶液中に浸漬し、90℃×2時間酸処理を行った。続いて3%水酸化ナトリウム水溶液中で90℃×2時間の加水分解処理を行い、3.5%硝酸水溶液で処理し、水洗、脱水、乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有する比較例1の繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
比較例1の繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整した後、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、脱水し、乾燥することにより、Mg塩型カルボキシル基を有する比較例2の繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から分かるように、けん縮率/けん縮数の比が0.6以下である実施例1〜3では、分散不良部分の個数、量がともに少なく、他の繊維と均一に混合できることがわかる。一方、けん縮数/けん縮率の比が0.6を超える比較例1および2においては、分散不良部分の個数および量が多く、混合綿の外観の品位が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の架橋アクリレート系繊維は、単繊維に分散させやすく、羽毛などの他の繊維とも容易に均一混合することができる。特に羽毛と併用した場合には、羽毛の保温機能を本発明の架橋アクリレート系繊維の吸湿発熱性能で補うことができるため、保温機能を維持しながら高価な羽毛の使用量を減らすことができる。