【実施例】
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
蒸留に供するヨウ化水素酸としては、伊勢化学工業株式会社製のヨウ化水素酸を水で希釈して得られた10.0質量%の希薄なヨウ化水素酸を用いた。
【0030】
上記得られた10.0質量%のヨウ化水素酸1,400gと特級ヨウ化銀試薬(和光純薬工業株式会社製)112g(ヨウ化水素1molに対して約0.44mol)を、セパラブルガラスフラスコ(蒸留容器)に仕込み、スターラーで撹拌しながら、マントルヒーターを用いて加熱し、ガラス製のラシヒリングを充填材として充填した充填蒸留塔を使用した多段蒸留にて常圧蒸留を行った。初留液のヨウ化水素酸濃度は薄く、蒸留を継続につれて濃度上昇がみられ、最終的には58.8質量%濃度の留出液が得られた。
【0031】
ヨウ化水素酸の濃度は中和滴定法により求め、不純物として懸念されるAgの濃度はICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置で測定した。
【0032】
図1は、蒸留の際のヨウ化水素酸の液相濃度変化と気相濃度変化を示す図である。ヨウ化銀を添加した場合の実測のデータをプロットで示し、比較としてヨウ化銀を添加しない場合の実測のデータを実線で示した。ヨウ化銀を添加した場合の初留液は、ヨウ化銀を添加しない場合に比べ非常に低濃度でほとんど水であるため、液相のヨウ化水素酸が濃縮され、液相のヨウ化水素酸濃度が徐々に上昇した。やがて液相のヨウ化水素酸濃度が約50質量%まで上昇すると、ヨウ化銀を添加した場合の留出液のヨウ化水素酸の濃度は急激に上昇し、57.0質量%を超える濃度の留出液が留出した。
【0033】
また、ヨウ化水素酸の濃度と銀濃度の推移をヨウ化水素酸の濃度については質量%、Ag濃度については便宜上mg/Lの単位で、下記表1に示した。表1に示すように、留出液のヨウ化水素酸の濃度が1質量%付近では、銀は不検出(1mg/L以下)だったが、ヨウ化水素酸37.5質量%の留出液においてAgが5mg/Lの濃度で検出された。しかし、それ以降の56.8質量%以上の留出液ではAgは不検出であった。得られた留出液のヨウ化水素酸の最大濃度は58.8質量%であり、Agも不検出であり、JIS K−8917に基づく分析で問題になる項目は認められなかった。
【0034】
なお、留出液37.5質量%の時点でAgが5mg/L検出されているが、銀を含むこの溶液は次回の蒸留の際に蒸留液へと戻すことでリサイクルされ、銀はロスにならない。蒸留終了後は、蒸留容器の液相側にヨウ化銀が残留したが、次回の蒸留に繰返して使用でき、ヨウ化水素酸の挙動も初回と同様であった。
【0035】
【表1】
【0036】
本操作により、最初に仕込んだ10.0質量%のヨウ化水素酸におけるHIの全量を基準として、濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸を収率68%で得ることができた。
【0037】
(実施例2)
蒸留に供するヨウ化水素酸に添加するヨウ化銀の添加量(AgI/HIモル比)を、0.11mol、0.22mol、0.44mol、0.65molに変更した以外は、実施例1と同様に操作して留出液を得た。ヨウ化銀の添加量と濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率との関係を調べた。
【0038】
図3に示すように、ヨウ化水素1molに対するヨウ化銀の添加量が0.1mol〜0.7molの範囲内である場合には、ヨウ化銀の添加量が多くなるにつれて濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率が増加するが、ヨウ化水素1molに対するヨウ化銀の添加量が0.7molを超える場合には、濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率が横ばいになる傾向があることが確認された。
【0039】
(実施例3)
ヨウ化銀に代えて、ヨウ化水素1molに対して0.44molのヨウ化銅(CuI:和光純薬工業株式会社製)を用い、多段蒸留に代えて単蒸留を行った以外は実施例1と同様に操作した。初留はヨウ化水素酸が1質量%未満の濃度で留出し、最終的にはヨウ化水素酸として57.3質量%濃度の留出液が得られ、ヨウ化銅の添加による濃縮効果が確認された。本操作により、最初に仕込んだ10.0質量%のヨウ化水素酸におけるHIの全量を基準として、濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸を収率71%で得ることができた。なお、銅の検出濃度は1mg/L以下だった。
【0040】
(比較例1)
蒸留の際に添加するヨウ化物として実施例1のヨウ化銀の代わりに、水に易溶なヨウ化カリウムを用いた以外は、実施例1と同様に蒸留した。得られた留出液のヨウ化水素酸の最大濃度は56.5質量%であり、57.0質量%以上に濃縮することができなかった。
【0041】
(比較例2)
蒸留の際に添加するヨウ化物として実施例1のヨウ化銀の代わりに、水に易溶なヨウ化リチウムを用いた以外は、実施例1と同様に蒸留した。
図2に示すように、初留液は1質量%以下の低濃度から開始したが、ヨウ化リチウムを添加した場合、液相のヨウ化水素酸の濃度17質量%付近から留出液側のヨウ化水素酸濃度が急激に上昇し、液相のヨウ化水素酸濃度をはるかに上回る留出液が留出した。蒸留が進むと、液相のヨウ化水素酸濃度より気相のヨウ化水素酸濃度の方が上回って留出するために、液相側のヨウ化水素酸濃度は次第に低下し、その後の留出液におけるヨウ化水素酸濃度が減少した。ヨウ化リチウム無添加の場合と比べ、ヨウ化リチウムを添加した場合には、共沸組成が低濃度側に移行した。得られた留出液のヨウ化水素酸の最大濃度は34.3質量%であり、57.0質量%以上に濃縮することができなかった。
【0042】
蒸留の際に水に難溶なヨウ化物(ヨウ化銀、ヨウ化銅)を添加した実施例1〜3と、水に易溶なヨウ化物(ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム)を添加した比較例1及び比較例2との対比から、水に難溶なヨウ化物を添加することにより、常圧蒸留でも希薄なヨウ化水素酸から57.0質量%以上の濃厚なヨウ化水素酸を得ることができることが確認された。