特許第6228533号(P6228533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228533
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】ヨウ化水素酸製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 7/13 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   C01B7/13
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-258469(P2014-258469)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-117619(P2016-117619A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 彩星
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−044598(JP,A)
【文献】 特公昭50−034409(JP,B1)
【文献】 米国特許第03716576(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B7/00−11/24
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化水素酸に水に難溶なヨウ化物を添加し、常圧蒸留によってヨウ化水素酸を濃縮する工程を備える、ヨウ化水素酸製品の製造方法であって、
前記水に難溶なヨウ化物が、ヨウ化鉛、ヨウ化金、ヨウ化ビスマス、ヨウ化銀及びヨウ化銅から選ばれるヨウ化物である、ヨウ化水素酸製品の製造方法
【請求項2】
前記水に難溶なヨウ化物がヨウ化銀及び/又はヨウ化銅である、請求項1に記載のヨウ化水素酸製品の製造方法。
【請求項3】
前記水に難溶なヨウ化物の添加量が、ヨウ化水素1molに対して0.1〜0.7molである、請求項1又は2に記載のヨウ化水素酸製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化水素酸製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ化水素酸は、各種ヨウ化物の合成原料、医薬品の製造原料又は還元剤として重要な物質である。ヨウ化水素HIの水溶液であるヨウ化水素酸の主たる製造方法は、赤リンの懸濁液にヨウ素を加える方法(非特許文献1)、ヨウ素の懸濁液に硫化水素ガスを送入し、還元して製造する方法、還元剤の水溶液に、ヨウ素を連続又は間欠的に添加して反応を行なわせ、反応後に反応液よりヨウ化水素酸を蒸留により留出させるヨウ化水素酸の製造方法(特許文献1)などが知られている。
【0003】
ヨウ化水素酸の製品化には、57.0質量%以上の濃厚なヨウ化水素酸が求められている。例えば、主だったヨウ化水素酸の製造メーカーカタログには57.0質量%以上の数値が提示されており、化学商品には約58質量%のヨウ化水素酸が記載されている。
【0004】
ここで、製品として好適なヨウ化水素酸を得るために、ヨウ化水素酸の製造の際、反応時点でヨウ化水素酸の濃度が水とヨウ化水素との共沸混合物の濃度(57.0質量%)を超えるように調整するのが一般的である。なぜならば、濃厚な溶液を蒸留により留出する場合には、初留から57.0質量%を超える濃厚な溶液が留出し、その後、次第に共沸混合物の濃度に向かって、濃度が変化しながら留出が続き、平均濃度として57.0質量%以上のヨウ化水素酸を得るのが容易なためである。
【0005】
ところで、一般に回収されたヨウ素を含む溶液(以下、「ヨウ素回収液」ともいう)では、ヨウ化水素酸としての濃度は希薄な場合が多い。このような希薄なヨウ素回収液から57.0質量%を上回る濃厚なヨウ化水素酸を得るヨウ化水素酸の製造方法が求められている。しかしながら、蒸留に供するヨウ化水素酸が希薄な場合に、常圧蒸留では、低濃度の初留から共沸混合物の濃度へ近づくように留出が続くので、初留をカットしても平均濃度として共沸混合物の濃度57.0質量%を上回るヨウ化水素酸を得ることは困難だった。なお、常圧蒸留での共沸混合物の濃度の文献値は57.0質量%であるが(非特許文献1等)、実績ベースでは56.7質量%程度のものしか得られない。
【0006】
そこで、希薄なヨウ化水素酸から57.0質量%を上回る濃厚なヨウ化水素酸を製造する方法として、次亜リン酸を添加して窒素気流下にて減圧してヨウ化水素酸を濃縮する工程を有する方法等が開示されている(特許文献2)。また、常圧蒸留の際に、添加物として、例えばヨウ化リチウム等の水に易溶なヨウ化物を添加して、ヨウ化水素酸の共沸組成を低濃度側に移行させるか、又は共沸点そのものを消失させる方法等も検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−59205号公報
【特許文献2】特開2011−157237号公報
【特許文献3】特開昭51−44598号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松岡敬一郎著、「ヨウ素綜説」、霞ヶ関出版社、昭和49年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の減圧蒸留では、一定の減圧度、例えば8kPa(約60mmHg)以下の減圧度を維持しなければならないという条件が必須であり、処理コストがかかる問題がある。
【0010】
また、ヨウ化リチウムを多量に使用する特許文献3に記載の方法では、蒸留の釜残として強吸湿性を有するヨウ化リチウムが多量残ることから、多量の液が残留すると推定され、ハンドリングが悪くなる問題がある。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、常圧蒸留でも、57.0質量%以上のヨウ化水素酸を得ることができるヨウ化水素酸製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、蒸留に供する希薄なヨウ化水素酸に、水に難溶なヨウ化物を添加することにより、ヨウ化水素の蒸気圧を低下させ、常圧蒸留でも57.0質量%以上の濃厚なヨウ化水素酸を得ることができるという驚くべき事実を発見し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、ヨウ化水素酸に水に難溶なヨウ化物を添加し、常圧蒸留によってヨウ化水素酸を濃縮する工程を備える、ヨウ化水素酸製品の製造方法を提供する。
【0014】
水に難溶なヨウ化物を添加することによりヨウ化水素の蒸気圧を低下させるメカニズムは、明確ではないが、以下のように推測される。すなわち、水に難溶なヨウ化物は、水に難溶なので、従来の方法で用いられていた水に易溶なヨウ化物のように、水の沸点を上げることにより水の蒸発を抑える効果は期待できないが、蒸留の進行に伴って液相のヨウ化水素濃度が上昇することで液相のヨウ化水素酸と錯体を形成して溶解し、ヨウ化水素の蒸気圧を低下させると推測される。例えば、ヨウ化銀は、169.0g/Lのヨウ化水素酸において25℃の条件で3.5g/L溶解する。ヨウ化銀はヨウ化水素酸の中で錯イオン、例えば[AgI3−を形成して、溶解すると推定される。
【0015】
また、本発明に係るヨウ化水素酸製品の製造方法において、上記水に難溶なヨウ化物は、ヨウ化銀及び/又はヨウ化銅であることが好ましい。水に難溶なヨウ化物として、ヨウ化銀及び/又はヨウ化銅を使用することにより、より効率よく57.0質量%以上のヨウ化水素酸を得ることができる。
【0016】
更に、本発明に係るヨウ化水素酸製品の製造方法において、上記水に難溶なヨウ化物の添加量は、ヨウ化水素1molに対して0.1〜0.7molであることが好ましい。水に難溶なヨウ化物の添加量を上記範囲内にすることにより、より効率よく57.0質量%以上のヨウ化水素酸を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、常圧蒸留でも、57.0質量%以上のヨウ化水素酸を得ることができるヨウ化水素酸製品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1のヨウ化銀添加時の液相ヨウ化水素酸の濃度変化と留出液ヨウ化水素酸の濃度変化を示す図である。
図2】比較例2のヨウ化リチウム添加時の液相ヨウ化水素酸の濃度変化と留出液ヨウ化水素酸の濃度変化を示す図である。
図3】ヨウ化銀添加時のヨウ化銀添加量と濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0020】
本実施形態に係るヨウ化水素酸製品の製造方法は、ヨウ化水素酸に水に難溶なヨウ化物を添加し、常圧蒸留によってヨウ化水素酸を濃縮する工程を備える。
【0021】
<蒸留に供するヨウ化水素酸>
蒸留に供するヨウ化水素酸は、ヨウ素回収液、ヨウ素回収液を電気透析、イオン交換等の操作によって濃縮して得られたヨウ化水素酸、市販のヨウ化水素酸製品を希釈して得られた溶液等が挙げられ、由来は問わない。また、蒸留に供するヨウ化水素酸の濃度は、5〜56質量%の範囲内であることが好ましく、5〜40質量%の範囲内であることがより好ましく、10〜30質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0022】
<水に難溶なヨウ化物>
水に難溶なヨウ化物とは、日本薬局方に規定される20±5℃の条件でヨウ化物1gを溶かすに要する水の量が、「1000mL以上10000mL未満(極めて溶けにくい)」又は「10000mL以上(ほとんど溶けない)」である特性を有するヨウ化物を意味する。
【0023】
水に難溶なヨウ化物としては、例えば、ヨウ化鉛、ヨウ化水銀、ヨウ化金、ヨウ化ビスマス、ヨウ化銀、ヨウ化銅等が挙げられる。これらの中では、効率よく57.0質量%以上のヨウ化水素酸を得る観点から、ヨウ化銀及び/又はヨウ化銅が好ましく、ヨウ化銀がより好ましい。
【0024】
水に難溶なヨウ化物の添加量は、蒸留に供するヨウ化水素酸におけるヨウ化水素1molに対し0.1〜0.7molであることが好ましく、0.2〜0.7molであることがより好ましく、0.2〜0.5molであることが更に好ましい。
【0025】
水に難溶なヨウ化物の添加量がヨウ化水素1molに対し0.1mol以上である場合、水に難溶なヨウ化物がヨウ化水素酸への溶解量が多くなり、ヨウ化水素の蒸気圧の低減効果を向上し、高濃度の液の留出が続くことにより、57.0質量%以上のヨウ化水素酸の収率を向上することができる傾向がある。また、水に難溶なヨウ化物の添加量がヨウ化水素1molに対し0.7mol以下である場合、水に難溶なヨウ化物がヨウ化水素酸に溶け切らずに、無駄になることを抑制することができる傾向がある。
【0026】
<常圧蒸留>
常圧蒸留としては、例えば、単蒸留、多段蒸留等が挙げられるが、多段蒸留が好ましい。多段蒸留では、蒸留塔として棚段式蒸留塔、充填蒸留塔等の公知の蒸留塔を使用することができる。充填蒸留塔の充填材としては、例えば、ガラス製のラシヒリング等が挙げられる。また、蒸留に際して、還流比の設定等、既知の技術を利用可能である。
【0027】
<その他>
水に難溶なヨウ化物を添加することによる不純物、例えば銀成分等は、液相のヨウ化水素酸の中間的な濃度で留出液に回収されるので、実際に回収したい濃厚なヨウ化水素酸とは完全に分離できる。また、留出液に回収された不純物は、釜に残留する分と合わせて、次回の蒸留で再度利用される。なお、ヨウ化水素酸の蒸留の際、液相のヨウ化水素酸の中間的な濃度での留出液に検出された不純物は、低濃度であり、どのような形態で揮散又は蒸留されるかメカニズムが明らかではない。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
蒸留に供するヨウ化水素酸としては、伊勢化学工業株式会社製のヨウ化水素酸を水で希釈して得られた10.0質量%の希薄なヨウ化水素酸を用いた。
【0030】
上記得られた10.0質量%のヨウ化水素酸1,400gと特級ヨウ化銀試薬(和光純薬工業株式会社製)112g(ヨウ化水素1molに対して約0.44mol)を、セパラブルガラスフラスコ(蒸留容器)に仕込み、スターラーで撹拌しながら、マントルヒーターを用いて加熱し、ガラス製のラシヒリングを充填材として充填した充填蒸留塔を使用した多段蒸留にて常圧蒸留を行った。初留液のヨウ化水素酸濃度は薄く、蒸留を継続につれて濃度上昇がみられ、最終的には58.8質量%濃度の留出液が得られた。
【0031】
ヨウ化水素酸の濃度は中和滴定法により求め、不純物として懸念されるAgの濃度はICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析装置で測定した。
【0032】
図1は、蒸留の際のヨウ化水素酸の液相濃度変化と気相濃度変化を示す図である。ヨウ化銀を添加した場合の実測のデータをプロットで示し、比較としてヨウ化銀を添加しない場合の実測のデータを実線で示した。ヨウ化銀を添加した場合の初留液は、ヨウ化銀を添加しない場合に比べ非常に低濃度でほとんど水であるため、液相のヨウ化水素酸が濃縮され、液相のヨウ化水素酸濃度が徐々に上昇した。やがて液相のヨウ化水素酸濃度が約50質量%まで上昇すると、ヨウ化銀を添加した場合の留出液のヨウ化水素酸の濃度は急激に上昇し、57.0質量%を超える濃度の留出液が留出した。
【0033】
また、ヨウ化水素酸の濃度と銀濃度の推移をヨウ化水素酸の濃度については質量%、Ag濃度については便宜上mg/Lの単位で、下記表1に示した。表1に示すように、留出液のヨウ化水素酸の濃度が1質量%付近では、銀は不検出(1mg/L以下)だったが、ヨウ化水素酸37.5質量%の留出液においてAgが5mg/Lの濃度で検出された。しかし、それ以降の56.8質量%以上の留出液ではAgは不検出であった。得られた留出液のヨウ化水素酸の最大濃度は58.8質量%であり、Agも不検出であり、JIS K−8917に基づく分析で問題になる項目は認められなかった。
【0034】
なお、留出液37.5質量%の時点でAgが5mg/L検出されているが、銀を含むこの溶液は次回の蒸留の際に蒸留液へと戻すことでリサイクルされ、銀はロスにならない。蒸留終了後は、蒸留容器の液相側にヨウ化銀が残留したが、次回の蒸留に繰返して使用でき、ヨウ化水素酸の挙動も初回と同様であった。
【0035】
【表1】
【0036】
本操作により、最初に仕込んだ10.0質量%のヨウ化水素酸におけるHIの全量を基準として、濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸を収率68%で得ることができた。
【0037】
(実施例2)
蒸留に供するヨウ化水素酸に添加するヨウ化銀の添加量(AgI/HIモル比)を、0.11mol、0.22mol、0.44mol、0.65molに変更した以外は、実施例1と同様に操作して留出液を得た。ヨウ化銀の添加量と濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率との関係を調べた。
【0038】
図3に示すように、ヨウ化水素1molに対するヨウ化銀の添加量が0.1mol〜0.7molの範囲内である場合には、ヨウ化銀の添加量が多くなるにつれて濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率が増加するが、ヨウ化水素1molに対するヨウ化銀の添加量が0.7molを超える場合には、濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸のHI量基準での収率が横ばいになる傾向があることが確認された。
【0039】
(実施例3)
ヨウ化銀に代えて、ヨウ化水素1molに対して0.44molのヨウ化銅(CuI:和光純薬工業株式会社製)を用い、多段蒸留に代えて単蒸留を行った以外は実施例1と同様に操作した。初留はヨウ化水素酸が1質量%未満の濃度で留出し、最終的にはヨウ化水素酸として57.3質量%濃度の留出液が得られ、ヨウ化銅の添加による濃縮効果が確認された。本操作により、最初に仕込んだ10.0質量%のヨウ化水素酸におけるHIの全量を基準として、濃度57.0質量%以上のヨウ化水素酸を収率71%で得ることができた。なお、銅の検出濃度は1mg/L以下だった。
【0040】
(比較例1)
蒸留の際に添加するヨウ化物として実施例1のヨウ化銀の代わりに、水に易溶なヨウ化カリウムを用いた以外は、実施例1と同様に蒸留した。得られた留出液のヨウ化水素酸の最大濃度は56.5質量%であり、57.0質量%以上に濃縮することができなかった。
【0041】
(比較例2)
蒸留の際に添加するヨウ化物として実施例1のヨウ化銀の代わりに、水に易溶なヨウ化リチウムを用いた以外は、実施例1と同様に蒸留した。図2に示すように、初留液は1質量%以下の低濃度から開始したが、ヨウ化リチウムを添加した場合、液相のヨウ化水素酸の濃度17質量%付近から留出液側のヨウ化水素酸濃度が急激に上昇し、液相のヨウ化水素酸濃度をはるかに上回る留出液が留出した。蒸留が進むと、液相のヨウ化水素酸濃度より気相のヨウ化水素酸濃度の方が上回って留出するために、液相側のヨウ化水素酸濃度は次第に低下し、その後の留出液におけるヨウ化水素酸濃度が減少した。ヨウ化リチウム無添加の場合と比べ、ヨウ化リチウムを添加した場合には、共沸組成が低濃度側に移行した。得られた留出液のヨウ化水素酸の最大濃度は34.3質量%であり、57.0質量%以上に濃縮することができなかった。
【0042】
蒸留の際に水に難溶なヨウ化物(ヨウ化銀、ヨウ化銅)を添加した実施例1〜3と、水に易溶なヨウ化物(ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム)を添加した比較例1及び比較例2との対比から、水に難溶なヨウ化物を添加することにより、常圧蒸留でも希薄なヨウ化水素酸から57.0質量%以上の濃厚なヨウ化水素酸を得ることができることが確認された。
図1
図2
図3