【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境への影響を考えると、被覆層に鉛化合物を含む電力ケーブルは望ましくない。一方で、高電圧の地中送電線として用いられる電力ケーブルには、機械的特性(耐外傷性)、難燃性、耐寒性等が要求される。これまで、技術的な障壁から、環境特性に優れ、かつ、耐外傷性、難燃性、耐寒性等の諸特性を満足させる高電圧の電力ケーブルは実現していなかった。
【0006】
本発明の目的は、優れた環境特性を備え、高電圧の地中送電線として用いることが可能な電力ケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、
高電圧の地中送電線として用いられる電力ケーブルであって、
導電部と、
前記導電部の外周を覆い、主に架橋ポリエチレンからなる絶縁層と、
前記絶縁層の外周を覆い、主にポリ塩化ビニルからなる被覆層と、を備え、
前記被覆層を非鉛とした
電力ケーブルが提供される。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、
前記被覆層には、
ハイドロタルサイト系安定剤、非鉛系滑剤、可塑剤、充填剤、および難燃剤が、前記被覆層の耐外傷性、難燃性、および耐寒性を相互に補完するよう配合されている
第1の態様に記載の電力ケーブルが提供される。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、
前記被覆層は、ハイドロタルサイト系安定剤を含み、
前記ハイドロタルサイト系安定剤は、
一般式がM
2+1−XM
3+X(OH
−)
2(CO
3)
x/2・mH
2O(ただし、0<x<0.5、0≦m<2)で表されるハイドロタルサイトを含み、
M
2+は、Mg
2+,Fe
2+,Zn
2+,Ca
2+,Li
2+,Ni
2+,Co
2+,Cu
2+の少なくともいずれかであり、
M
3+は、Al
3+,Fe
3+,Mn
3+の少なくともいずれかである
第1または第2の態様に記載の電力ケーブルが提供される。
【0010】
本発明の第4の態様によれば、
前記ハイドロタルサイトは、Mg
4Al
2(OH)
12(CO
3)・3H
2Oである
第3の態様に記載の電力ケーブルが提供される。
【0011】
本発明の第5の態様によれば、
前記被覆層は、非鉛系滑剤を含み、
前記非鉛系滑剤は、脂肪酸金属塩を含む
第1〜第4の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【0012】
本発明の第6の態様によれば、
前記被覆層は、可塑剤を含み、
前記可塑剤は、フタル酸ジイソノニルを含む
第1〜第5の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【0013】
本発明の第7の態様によれば、
前記被覆層は、
前記ポリ塩化ビニルを100重量部として、
2重量部以上5重量部以下のハイドロタルサイト系安定剤と、
0.3重量部以上1重量部以下の脂肪酸金属塩を含む非鉛系滑剤と、
37.5重量部以上45.0重量部以下の炭素数24以上28以下のフタル酸エステル系可塑剤と、
平均粒子径が1μm以上1.5μm以下であり、3重量部以上15重量部以下の焼成クレイを含む充填剤と、
2重量部以上10重量部以下のアンチモン化合物およびホウ酸化合物のうちの少なくともいずれかを含む難燃剤と、
を含む
第1〜第6の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【0014】
本発明の第8の態様によれば、
許容側圧が500kgf/m以上である
第1〜第7の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【0015】
本発明の第9の態様によれば、
垂直トレイ燃焼試験において燃焼長がバーナ口から1200mm以下、残炎時間が1時間以内である
第1〜第8の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【0016】
本発明の第10の態様によれば、
JIS C3005に準拠して測定される耐寒温度が−15℃以下である
第1〜第9の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【0017】
本発明の第11の態様によれば、
公称電圧が66kV以上500kV以下である
第1〜第10の態様のいずれかに記載の電力ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた環境特性を備え、高電圧の地中送電線として用いることが可能な電力ケーブルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明者等が得た知見>
近年では、環境や人体への影響に配慮して、多岐に亘る技術分野において非鉛化が進められている。これは、電力ケーブルについても例外ではない。しかし、特に高電圧の地中送電線として用いられる電力ケーブルにおいては、その被覆層の非鉛化にあたり種々の技術的な障壁がある。
【0021】
例えば、公称電圧が22kVや33kV以下の低電圧、少容量の配電線等に用いる電力ケーブルの被覆層を非鉛化した場合では、電力ケーブルが軽量であるため、被覆層に損傷が生じ難く、また、低電圧用途であるため、被覆層が損傷を受けたとしても、その影響は限定的であった。したがって、被覆層が高い耐外傷性を有していること等も要求されなかった。このように、公称電圧が33kV以下の電力ケーブルでは、満たすべき試験条件(仕様)が厳しくないため、被覆層を非鉛化することは容易であった。
【0022】
これに対して、例えば、公称電圧が66kV以上の高電圧の地中送電線の被覆層を非鉛化した場合では、電力ケーブルの導体部分が大きく重いため、地中設備等への布設時に損傷を受け易い。高電圧のため、わずかな損傷であっても電力ケーブルの耐電圧特性への影響も大きい。これを抑制するには、電力ケーブルの被覆層が優れた耐外傷性を備えていなければならない。また、電力ケーブルは市街地にも布設されるため、被覆層には高い難燃性が要求される。電力ケーブルは寒冷地で用いられることも多く、被覆層には寒さによってヒビや割れが生じない等の充分な耐寒性も必要である。被覆層を非鉛とすると、特に耐寒性が不足し、これを補おうとすると難燃性や耐寒性等の他の特性が犠牲になってしまうことが考えられる。
【0023】
このように、公称電圧が33kV以下の低電圧の地中送電線用の電力ケーブルと、公称電圧が66kV以上の高電圧の地中送電線用の電力ケーブルとの間には、被覆層を非鉛化した際に満たすべき試験条件(仕様)に関して大きな差がある。公称電圧が66kV以上の高電圧の地中送電線用の電力ケーブルにおいては、満たすべき試験条件(仕様)が厳しく、上記のような技術的な困難性が生じることから、非鉛化が未だ実現していない。上述の特許文献1〜3等のように、電力ケーブルの被覆層に例えば三塩基性硫酸鉛等の安定剤やステアリン酸鉛等の滑剤を添加したものが現在の主流である。
【0024】
本発明者等は、鋭意研究の結果、環境特性に優れ、かつ、耐外傷性、難燃性、耐寒性等の諸特性を満足させることで、高電圧の地中送電線として用いることが可能な電力ケーブルを得た。
【0025】
本発明は、発明者等が見いだしたこのような知見に基づくものである。
【0026】
<本発明の一実施形態>
(1)電力ケーブルの構造
本発明の一実施形態に係る電力ケーブルについて、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る電力ケーブル1の軸方向と直交する断面図である。
【0027】
(構造概要)
図1に示されているように、電力ケーブル1は、導電部10と、導電部10の外周を覆う絶縁層20と、絶縁層20の外周を覆う被覆層30と、を備える。
【0028】
導電部10は、例えば純銅(Cu)、銅合金、純アルミ(Al)、またはアルミ合金等からなる複数の導電芯線を撚り合わせてなる導体等である。導電部10の外周、つまり、導電部10と絶縁層20との間には、内部半導電層11が形成されている。
【0029】
絶縁層20は、例えば架橋ポリエチレン等を主成分とする。絶縁層20の外周、つまり、絶縁層20と被覆層30との間には、外部半導電層21と遮蔽層22とがこの順に形成されている。遮蔽層22は、例えば複数の軟銅線等の導電素線が被覆されたワイヤシールド、複数巻回された軟銅テープ、またはアルミやステンレスからなる(外周面が波形の)金属被等である。遮蔽層22の外周には更に、押さえテープ23が重ね巻きされている。
【0030】
被覆層30は、例えばポリ塩化ビニル等を主成分とする被覆材(シース)からなる。被覆材には鉛化合物が含まれておらず、すなわち、被覆層30は非鉛化されている。非鉛の被覆層30については後述する。
【0031】
以上のように、電力ケーブル1は、例えば架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル(CVケーブル:Cross−linked polyethylene insulated PVC sheathed cable)であって、例えば高電圧の地中送電線として構成されている。具体的には、電力ケーブル1の公称電圧は、例えば66kV以上500kV以下である。
【0032】
なお、電力ケーブル1は、
図1に示されているように導電部10を1つのみ有する単芯型のほか、導電部を3つ有するトリプレックス型等のように、導電部を複数有するタイプであってもよい。
【0033】
(被覆層)
被覆層30には、例えば主成分であるポリ塩化ビニル(PVC)等を基材(ベースレジン)とし、安定剤、滑剤、可塑剤、充填剤、および難燃剤等の種々の添加剤が含有されている。上述のように、これらの添加剤には鉛化合物は含まれず、被覆層30は非鉛となっている。なお、ここでいう「非鉛」とは、被覆層30が不可避不純物の含有量より多い含有量で鉛を含まないことを意味する。
【0034】
安定剤としては、これまで、三塩基性硫酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛等の鉛化合物が多く用いられてきた。本実施形態では、被覆層30を非鉛とするため、安定剤として、例えばハイドロタルサイトを含むハイドロタルサイト系安定剤が用いられる。
【0035】
ハイドロタルサイトは、一般式がM
2+1−XM
3+X(OH
−)
2(CO
3)
x/2・mH
2O(ただし、0<x<0.5、0≦m<2)で表され、複水酸化物を主骨格とする化合物である。M
2+は、例えばMg
2+,Fe
2+,Zn
2+,Ca
2+,Li
2+,Ni
2+,Co
2+,Cu
2+の少なくともいずれかである。M
3+は、例えばAl
3+,Fe
3+,Mn
3+の少なくともいずれかである。具体的には、本実施形態におけるハイドロタルサイトは、例えば、M
2+とM
3+とが、それぞれMgとAlとである、Mg
4Al
2(OH)
12(CO
3)・3H
2Oである。
【0036】
被覆層30が上記のようなハイドロタルサイト系安定剤を含有することにより、ポリ塩化ビニルから脱離した塩素を捕捉し、ポリ塩化ビニルの分解を抑制することができる。この効果を以下では「熱安定化効果」と呼ぶ。熱安定化効果により、押出時の熱安定性と、使用時の熱安定性とが得られる。詳細には、長時間押出時において、押出機内でのPVCの熱分解により発生する、いわゆる「ヤケ」を抑制することができる。また、ヤケの発生を抑制することにより、安定的な長時間押出が可能となり、いわゆる肉厚変動などを抑制することができる。また、使用時において、温度や紫外線を起因として徐々にPVCの分解、酸化、または劣化が進むことを抑制し、PVCが硬く脆くなっていくことを抑制することができる。
【0037】
滑剤としては、これまで、脂肪酸金属塩であるステアリン酸鉛等の鉛化合物が多く用いられてきた。本実施形態では、被覆層30を非鉛とするため、滑剤として、例えば鉛以外の金属を含む脂肪酸金属塩、脂肪酸等の非鉛系滑剤が用いられる。脂肪酸金属塩は、安定剤として作用させることもできる。
【0038】
脂肪酸金属塩の脂肪酸の部分や、滑剤としての脂肪酸は、例えばステアリン酸、オレイン酸等である。脂肪酸金属塩に含まれる金属としては、例えばMg,Al,Zn,Ca等が挙げられる。
【0039】
なお、滑剤としては、分子量が900以上30000以下、好ましくは2000以上3000以下であるポリオレフィンが用いられていても良い。ポリオレフィンは、例えばポリエチレンである。
【0040】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジイソノニル(DINP:Di−Isononyl Phthalate)、フタル酸ジイソデシル(DIDP:Di−IsoDecyl Phthalate)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP:Di−Octyl Phthalate)等の炭素数24以上28以下のフタル酸エステル系可塑剤が用いられる。但し、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルは、環境汚染物質排出移動登録(PRTR:Pollutant Release and Transfer Register)の第1種指定化学物質であり、PRTR規制外のフタル酸ジイソノニルやフタル酸ジイソデシル等を配合することがより好ましい。
【0041】
被覆層30を構成するポリ塩化ビニルの分子は、極性を持ち、分子同士が強く引き合っており、ポリ塩化ビニルの分子間距離は短くなっている。このため、ポリ塩化ビニルは、常温で硬く、低温時の衝撃や外力に対して脆い性質を示す。そこで、被覆層30に上記のような可塑剤を加えることにより、ポリ塩化ビニルの分子間に可塑剤の分子が割り込み、ポリ塩化ビニルの分子同士の接近を抑制する。これにより、被覆層30が柔らかくなり、被覆層30の低温時の柔軟性、すなわち耐寒性を向上させることができる。
【0042】
充填剤としては、例えば焼成クレイや炭酸カルシウムが用いられる。充填剤が焼成クレイの場合、焼成クレイの平均粒子径は、例えば1μm以上1.5μm以下である。なお、平均粒子径とは、X線透過式重力沈降法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。
【0043】
難燃剤としては、無機系の難燃剤が用いられる。無機系難燃剤には、例えば三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、ホウ酸亜鉛等のホウ酸化合物が挙げられる。
【0044】
ポリ塩化ビニルは本来難燃性が高いが、可塑剤などの添加剤を添加すると、難燃性が低下する可能性がある。そこで、上記のような難燃剤を添加することにより、難燃性の低下を補完することができる。
【0045】
被覆層30には、ポリ塩化ビニルを100重量部として、これらのハイドロタルサイト系安定剤、非鉛系滑剤、可塑剤、充填剤、および難燃剤が、耐外傷性、難燃性、および耐寒性を相互に補完するよう、それぞれ以下の分量、配合されている。
【0046】
ここで、安定剤の配合量に関して説明する。鉛系安定剤は、ポリ塩化ビニルの熱分解を抑制する顕著な熱安定化効果を有しており、鉛系安定剤の配合量が少量であっても、熱安定化効果を得ることができる。しかしながら、上述したように鉛による環境への影響が懸念される。一方、ハイドロタルサイト系安定剤以外の非鉛系安定剤では、熱安定化効果が小さく、熱安定化効果を得るためには、当該ハイドロタルサイト系安定剤以外の非鉛系安定剤を多量に配合する必要がある。安定剤の配合量を増やすと、耐寒性が低下する。このため、耐寒性を確保するためには、可塑剤の配合量を増やす必要がある。可塑剤の配合量を増やすと、耐外傷性および難燃性が低下する。これに対して、本実施形態では、ハイドロタルサイト系安定剤を用いることにより、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量がハイドロタルサイト系安定剤以外の非鉛系安定剤の配合量よりも少量であっても熱安定化効果を得ることができ、可塑剤の配合量を増やすことなく、耐寒性を確保することができる。その結果、鉛系安定剤を用いることなく、耐外傷性および難燃性が向上した被覆層30を得ることができる。
【0047】
具体的には、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量は、例えば2重量部以上5重量部以下である。ハイドロタルサイト系安定剤の配合量が2重量部未満であると、熱安定化効果が不充分となる可能性がある。このため、押出加工の際の高温により、時間とともにPVCが顕著に分解し、いわゆるヤケの発生やそれに伴う肉厚変動などが生じ、安定した製造ができなくなる可能性がある。これに対して、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量が2重量部以上であることにより、PVCの分解を抑制することで、長時間の連続押出加工時であっても安定した製品形状を維持することができる。一方、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量が5重量部超であると、耐寒性が低下する可能性がある。これに対して、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量が5重量部以下であることにより、熱安定化効果を維持しつつ、耐寒性を確保することができる。
【0048】
脂肪酸金属塩を含む非鉛系滑剤の配合量は、例えば0.3重量部以上1重量部以下である。非鉛系滑剤の配合量が0.3重量部未満であると、被覆層30を押出成形する際においてポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂組成物と加工機の金属表面との親和性が大きくなる。このため、加工機の金属表面での樹脂組成物の流動が阻害されることで、加工機の金属表面で樹脂組成物が部分的に滞留してしまい、樹脂組成物が熱分解してしまう可能性がある。また、加工終了後の加工機の清掃を実施することが困難となる可能性がある。これに対して、非鉛系滑剤の配合量が0.3重量部以上であることにより、被覆層30を押出成形する際において樹脂組成物と加工機の金属表面との親和性が大きくなることを抑制することができる。これにより、加工機の金属表面での樹脂組成物の滞留を抑制し、樹脂組成物が熱分解してしまうことを抑制することができる。また、加工終了後の加工機の清掃を容易に実施することが可能となる。一方、非鉛系滑剤の配合量が1重量部超であると、加工機内での樹脂組成物の練りが効かず、被覆層30の表面状態(外観)が悪くなる可能性がある。そのほか、非鉛系滑剤の配合量が1重量部超であると、耐寒性が低下してしまう可能性がある。これに対して、非鉛系滑剤の配合量が1重量部以下であることにより、樹脂組成物を合成する際の練りムラを抑制し、被覆層30の表面状態や低温特性(耐寒性)を良好に保つことができる。
【0049】
炭素数24以上28以下のフタル酸エステル系可塑剤の配合量は、例えば37.5重量部以上45.0重量部以下である。フタル酸エステル系の可塑剤の配合量が37.5重量部未満であると、難燃性を高めることができるが、耐寒性が低下する可能性がある。これに対して、フタル酸エステル系の可塑剤の配合量が37.5重量部以上であることにより、難燃性を高めつつ、耐寒性を向上させることができる。一方で、フタル酸エステル系の可塑剤の配合量が45.0重量部超であると、耐外傷性が低下する可能性がある。また、可塑剤自体が可燃性であるため、難燃性が低下する可能性がある。これに対して、フタル酸エステル系の可塑剤の配合量が45.0重量部以下であることにより、耐外傷性が低下することを抑制することができるとともに、難燃性が低下することを抑制することができる。
【0050】
平均粒子径が1μm以上1.5μm以下の焼成クレイを含む充填剤の配合量は、例えば3重量部以上15重量部以下である。充填剤の配合量が3重量部未満であると、耐寒性を高めることができるが、難燃性および絶縁抵抗が低下する可能性がある。これに対して、充填剤の配合量が3重量部以上であることにより、耐寒性を高めつつ、難燃性が低下することを抑制することができ、また被覆層30の絶縁抵抗の低下を抑制することができる。一方、充填剤の配合量が15重量部超であると、耐寒性が低下する可能性がある。これに対して、充填剤の配合量が15重量部以下であることにより、耐寒性を確保することができる。
【0051】
なお、参考までに、従来の被覆層では、充填剤の配合量が本実施形態の充填剤の配合量よりも多かった(多くの場合、充填剤の配合量は20重量部以上50重量部以下であった)。このことによって、従来の被覆層では、難燃性がやや向上し、多くの場合、コストメリットが得られていた。しかしながら、従来の充填剤の配合量では、耐寒性が低下するため、多くの可塑剤を添加する必要があった。このため、従来では、可塑剤の増量によって、耐外傷性が低下する傾向にあった。また、この場合、可塑剤の増量によって難燃性が低下するため、充填剤の含有量を多くしたことによる難燃性向上の効果は相殺されていた。したがって、この場合では、むしろ難燃剤の増量が必要になっていた。これに対して、本実施形態では、充填剤の配合量が3重量部以上15重量部以下であることにより、耐寒性が低下することを抑制することができる。したがって、可塑剤の配合量を耐外傷性および難燃性の低下が懸念される程度まで増加させる必要がない。
【0052】
また、アンチモン化合物およびホウ酸化合物のうちの少なくともいずれかを含む難燃剤の配合量は、例えば2重量部以上10重量部以下である。難燃剤の配合量が2重量部未満であると、難燃性が不足する可能性がある。これに対して、難燃剤の配合量が2重量部以上であることにより、所望の難燃性を得ることができる。一方、難燃剤の配合量が10重量部超であると、被覆層30における各成分の偏在や分散不良が生じ易い。また、品質のばらつきが生じ易く、耐外傷性の低下が生じ易くなる。これに対して、難燃剤の配合量が10重量部以下であることにより、被覆層30における各成分を均一に分散させることができる。また、品質のばらつきが生じることを抑制でき、耐外傷性が低下することを抑制することができる。
【0053】
このように、ハイドロタルサイト系安定剤、非鉛系滑剤、可塑剤、充填剤および難燃剤のそれぞれを上記配合量とすることで、耐外傷性、耐寒性、難燃性のそれぞれの特性を相互に補完することができる。
【0054】
なお、電力ケーブル1は、例えば以下のように製造することができる。
【0055】
例えば、純銅、銅合金、純アルミ、またはアルミ合金等からなる複数の導電芯線を撚り合わせて導電部10を形成する。導電部10の外周を覆うように、内部半導電層11、絶縁層20、外部半導電層21の原材料を順次、または一括して押出成形する。その後、外部半導電層21の外周において、例えば複数の軟銅線等の導電素線が被覆されたワイヤシールド、複数巻回された軟銅テープ、またはアルミやステンレスから成る金属被等を被覆して、遮蔽層22を形成する。次に、遮蔽層22の外周を覆うように、押さえテープ23を重ね巻きする。次に、例えばポリ塩化ビニル製の被覆層30を更に押出成形する。
【0056】
(2)電力ケーブルの諸特性
電力ケーブル1の被覆層30に求められる耐外傷性について、
図2を用いて説明する。
図2は、電力ケーブル1の布設の様子を示す模式図である。
【0057】
図2に示されているように、電力ケーブル1は、例えば人孔80a付近に配置したケーブルドラム83から人孔80内へと繰り出され、人孔80付近または人孔80a内に設置されたホーリングマシン85や、電力ケーブル1の先端部に予め取り付けられたワイヤ2により牽引されながら、管路81内を経由して他の人孔80b等に引き入れられる。ホーリングマシン85は、電力ケーブル1を挟み込んだキャタピラ状の駆動部をモータで回転させることで電力ケーブル1を牽引する。ワイヤ2は、他の人孔80b付近に配置したウインチ84により巻き上げられることで電力ケーブル1を牽引する。
【0058】
このように電力ケーブル1を地中設備内に布設する際、例えば管路81内を引きずられることで、電力ケーブル1の被覆層30には損傷が生じ易い。損傷を抑え、耐電圧特性等を所定値以上に維持するため、電力ケーブル1には高い硬度、すなわち耐外傷性が要求される。
【0059】
なお、地中送電線の布設にあたっては、許容張力、許容曲げ半径、許容側圧等が管理される。電力ケーブル1は、これらの許容値を満たしていなければならない。許容張力は、地中設備内を牽引される際に地中送電線に生じる張力の許容値である。許容曲げ半径は、地中設備内の所定の経路に沿うよう地中送電線を湾曲させる際の曲げ半径の許容値である。許容側圧は、地中送電線の側面に加わる圧力の許容値である。地中送電線を湾曲させた際には、特に大きな側圧が加わり易い。許容側圧は、被覆層30の硬さと密接な関係を有しており、被覆層30が硬ければ許容側圧が高くなる。本実施形態の電力ケーブル1では、許容側圧は、例えば500kgf/m以上である。このような許容側圧は、公称電圧が66kV以上の電力ケーブルにおいて必要とされ、この点が、公称電圧が33kV以下の電力ケーブルと異なる。
【0060】
電力ケーブル1の被覆層30には、火炎や高熱等により着火しない性質や、着火しても延焼しない性質、つまり、難燃性も求められる。
【0061】
電力ケーブル1の難燃性は、例えば垂直トレイ燃焼試験にて規定することができる。垂直トレイ燃焼試験は、米国電気電子学会(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers)の規格IEEE std 383−1980に準拠する試験法である。試料であるケーブルを直径の1/2の間隔を保って垂直トレイ内に並べ、バーナで20分間、火炎を当てた後のケーブルの燃焼具合を評価する。係る燃焼試験を3回行い、いずれもケーブル燃焼長がバーナ口から1200mm以下、残炎時間が1時間程度以内であれば合格とする。本実施形態の電力ケーブル1は、このような垂直トレイ燃焼試験に合格することのできる難燃性を備える。
【0062】
電力ケーブル1の被覆層30には、寒さによってヒビが入ったり、割れたりしない性質、つまり、耐寒性も求められる。
【0063】
電力ケーブル1の耐寒性は、例えばJIS C3005に準拠した耐寒温度にて規定することができる。本実施形態の電力ケーブル1では、JIS C3005に準拠して測定される耐寒温度が−15℃以下である。
【0064】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例】
【0065】
次に、本発明に係る実施例について比較例とともに説明する。
【0066】
(1)実施例および比較例の電力ケーブルの製作
被覆層を非鉛とした実施例に係る電力ケーブルと、比較例に係る電力ケーブルとをそれぞれ製作した。以下の表1〜3に、実施例および比較例の電力ケーブルが備える被覆層の組成を示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
なお、表中、堺化学工業株式会社製安定剤であるHT−1は、主成分がハイドロタルサイト(Mg
4Al
2(OH)
12(CO
3)・3H
2O)であり、滑剤を含まない。
【0071】
表1および表2に示されているように、実施例1〜23では、フタル酸エステル系可塑剤の配合量を37.5重量部以上45.0重量部以下、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量を2重量部以上5重量部以下、非鉛系滑剤の配合量を0.3重量部以上1重量部以下、焼成クレイからなる充填剤の配合量を3重量部以上15重量部以下、三酸化アンチモンおよびホウ酸亜鉛のうちの少なくともいずれかを含む難燃剤の配合量を2重量部以上10重量部以下とした。
【0072】
一方で、表3に示されているように、比較例1〜11に係る電力ケーブルを製作した。比較例1、2、6〜11に係る電力ケーブルでは、鉛系安定剤、または鉛系滑剤を用いた。また、比較例2〜11では、安定剤、滑剤、充填剤、および難燃剤のうちの少なくともいずれかの配合量を所定の範囲外とした。
【0073】
(2)評価
上記のように製作した実施例および比較例の電力ケーブルに対して、以下のように評価を行った。
【0074】
(外傷性)
図3(a)は外傷試験の様子を示す模式図であり、(b)は(a)のA−A’線断面図であり、(c)は(a)のB部拡大図である。
図3(a)および(b)に示されているように、試験台83の上に、管路に模擬したケーブル受部82を介して、約40℃で2時間以上加熱した電力ケーブル1を2本載置した。2本の電力ケーブル1に荷重81を1.5mにわたって均等に載せたまま、速度10m/分で電力ケーブル1を移動させた。電力ケーブル1がケーブル受部82を移動する際の、被覆層30の剥がれ等の損傷状況を確認した。なお、このとき、荷重81を、8.83kN(900kgf)、11.8kN(1200kgf)、14.7kN(1500kgf)とした。また、
図3(c)に示すように、ケーブル受部82は、高さ8mm、断面における角部が1〜2mm程度面取りされたものを用いた。荷重81の上限値で剥がれや亀裂が確認されなかった場合を合格とし、剥がれや亀裂が確認された場合を不合格とした。
【0075】
(難燃性)
IEEE std 383−1980に準拠して、上述のように、試料であるケーブルを直径の1/2の間隔を保って垂直トレイ内に並べ、バーナで20分間、火炎を当てた後のケーブルの燃焼具合を評価した。係る燃焼試験を3回行い、いずれもケーブル燃焼長がバーナ口から1200mm以下、残炎時間が1時間程度以内であれば合格とした。
【0076】
(耐寒性)
JIS C3005に準拠して、被覆層30と同等の試験片を準備し、試験片を、所定時間、所定の温度の媒体中に浸した後、打撃を加え、破壊するか否かを調べた。破壊したときの温度が−15℃以下であれば合格とした。
【0077】
(3)結果
比較例1と実施例1〜23とを比較する。比較例1に係る電力ケーブルでは、外傷試験による耐外傷性、垂直トレイ燃焼試験による難燃性、および耐寒性は合格であった。なお、比較例1では、充填剤の配合量が15重量部超であることに起因して、複数回のうちの数回の耐寒性試験では、耐寒性が不合格となる場合があった。これに対して、実施例1〜23に係る電力ケーブルでは、外傷試験による耐外傷性、垂直トレイ燃焼試験による難燃性、および耐寒性は合格であった。すなわち、非鉛系化合物により構成された実施例1〜23に係る電力ケーブルは、鉛化合物を含む比較例1と同等以上の特性を有していたことを確認した。
【0078】
次に、フタル酸エステル系可塑剤の配合量について、実施例1〜23、比較例5および10を比較する。可塑剤の配合量を37.5重量部未満とした比較例10では、耐寒性が不合格であった。一方、可塑剤の配合量を45.0重量部超とした比較例5では、滑剤の配合量が1重量部超であることによって低下した耐寒性を補完するように、耐寒性を向上させることができたものの、耐外傷性が不合格であった。これに対して、実施例1〜23では、可塑剤の配合量が37.5重量部以上45.0重量部以下であることにより、耐寒性を向上させつつ、耐外傷性が低下することを抑制できたことを確認した。
【0079】
次に、ハイドロタルサイト系安定剤の配合量について、実施例1〜23、比較例2および11を比較する。安定剤の配合量を2重量部未満とした比較例2では、熱安定化効果が得られず(ヤケ等が発生するなどして)長時間押出が困難であった。一方、安定剤の配合量を5重量部超とした比較例11では、耐寒性が不合格であった。これに対して、実施例1〜23では、安定剤の配合量が2重量部以上5重量部以下であることにより、熱安定化効果により長時間押出を安定的に行うことができ、耐寒性が低下することを抑制できたことを確認した。
【0080】
次に、滑剤の配合量について、実施例1〜23、比較例2〜5を比較する。滑剤の配合量を1重量部超とした比較例2〜4では、耐寒性が不合格であった。なお、比較例5では、上述のように、滑剤の配合量が1重量部超であるものの、可塑剤の配合量が多いため、耐寒性が補完されていた。これに対して、実施例1〜23では、滑剤の配合量が0.3重量部以上1重量部以下であることにより、耐寒性が低下することを抑制できたことを確認した。
【0081】
次に、充填剤の配合量について、実施例1〜23、比較例1、8および9を比較する。充填剤の配合量を3重量部未満とした比較例9では、難燃性が不合格であった。一方、充填剤の配合量を15重量部超とした比較例8では、耐寒性が不合格であった。なお、比較例1では、上述のように耐寒性が不合格となる場合があった。これに対して、実施例1〜23では、難燃性が低下することを抑制しつつ、耐寒性を向上させることができたことを確認した。
【0082】
次に、難燃剤の配合量について、実施例1〜23、比較例6および7を比較する。難燃剤の配合量を2重量部未満とした比較例7では、難燃性が不合格であった。一方、難燃剤の配合量を10重量部超とした比較例6では、耐外傷性が不合格であった。これに対して、実施例1〜23では、難燃性を向上させつつ、耐外傷性が低下することを抑制できたことを確認した。
【0083】
以上のように、実施例1〜23によれば、ハイドロタルサイト系安定剤、非鉛系滑剤、可塑剤、充填剤および難燃剤のそれぞれの配合量を調整することにより、耐外傷性、耐寒性、難燃性のそれぞれの特性を相互に補完することができたことを確認した。また、実施例1〜23によれば、優れた環境特性を備え、高電圧の地中送電線として用いることが可能な電力ケーブルを提供することができたことを確認した。