特許第6228558号(P6228558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228558
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】スラストすべり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20171030BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   F16C17/04 B
   F16C33/20 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-47438(P2015-47438)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-166662(P2016-166662A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】神原 覚
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/091206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/04
F16C 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸のスラスト方向に作用する荷重を支持するスラストすべり軸受であって、
スラスト受面には、放射状に油溝が形成され、
前記スラスト受面の前記油溝によって区画された領域には、複数枚の樹脂シートを積層した樹脂部が構成され、
前記複数枚の樹脂シートの周方向の幅は、下層から上層に向かうに従って広くなり、
前記樹脂部の周方向の幅は、上層に向かうに従って狭くなる、
スラストすべり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のスラストすべり軸受であって、
前記樹脂部は、前記油溝によって区画された領域の周方向の略中心を通過する中心線を軸として線対称となるように積層される、
スラストすべり軸受。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスラストすべり軸受であって、
前記樹脂部は、ランド部と、ランド部を挟んで形成されるテーパー部又はステップ部と、を備える、
スラストすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストすべり軸受の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スラストすべり軸受は、回転軸のスラスト方向の荷重を支持する軸受として公知である。例えば、特許文献1には、スラスト受面が放射状に形成された給油溝により複数の扇形に分割され、周縁に沿って所定幅および一定の所定高さに突出し、前側の給油溝に向けて開口するコの字状の第1凸部が形成されたスラストすべり軸受が開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1に開示されるスラストすべり軸受では、凸部がコの字形状に形成されているため、径方向の幅が狭く、油膜圧力を高めることができず、摩擦抵抗が増加する。また、凸部がコの字形状に形成されているため、回転軸との接触面積が大きくなり、摩擦抵抗が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−148136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、摩擦抵抗を低減することができるスラストすべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、回転軸のスラスト方向に作用する荷重を支持するスラストすべり軸受であって、スラスト受面には、放射状に油溝が形成され、前記スラスト受面の前記油溝によって区画された領域には、複数枚の樹脂シートを積層した樹脂部が構成され、前記複数枚の樹脂シートの周方向の幅は、下層から上層に向かうに従って広くなり、前記樹脂部の周方向の幅は、上層に向かうに従って狭くなるものである。
【0008】
請求項2においては、請求項1に記載のスラストすべり軸受であって、前記樹脂部は、前記油溝によって区画された領域の周方向の略中心を通過する中心線を軸として線対称となるように積層されるものである。
【0009】
請求項3においては、請求項1又は2に記載のスラストすべり軸受であって、前記樹脂部は、ランド部と、ランド部を挟んで形成されるテーパー部又はステップ部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスラストすべり軸受によれば、摩擦抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態のクランクワッシャの構成を示す模式図。
図2】第二実施形態のクランクワッシャの構成を示す模式図。
図3】第三実施形態のクランクワッシャの構成を示す模式図。
図4】第四実施形態のクランクワッシャの構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を用いて、クランクワッシャ10の構成について説明する。
なお、図1(A)では、クランクワッシャ10の構成を平面視にて表している。また、図1(B)では、図1(A)のX1−X1断面を表している。
【0013】
クランクワッシャ10は、本発明のスラストすべり軸受に係る第一実施形態である。クランクワッシャ10は、クランクシャフトのメインシャフトとハウジングとの間に配置され、ハウジングに対しクランクシャフトのスラスト方向の荷重を支持する軸受である。
【0014】
クランクワッシャ10は、略ドーナツ形状の平板を半割にして形成されている。以下では、クランクワッシャ10について、クランクワッシャ10の元の略ドーナツ形状の外周円を基準とした周方向又は径方向に従って説明するものとする(図1(A)参照)。なお、図1(A)の周方向の長さは、巨視的に幅として説明する。
【0015】
クランクワッシャ10は、本体15に油溝16が形成され、樹脂としての第一樹脂シート11と、樹脂としての第二樹脂シート12と、樹脂としての第三樹脂シート13と、を積層して構成されている。
【0016】
本体15は、略ドーナツ形状の平板を半割にして形成されている。本体15のスラスト受面(クランクシャフトを支持する側)には、複数の油溝16が形成されている。油溝16は、外周円の中心から外周円に向かって放射状に形成されている。言い換えれば、油溝16は、外周円の径方向と平行に形成されている。本実施形態のクランクワッシャ10では、3本の油溝16が形成されている。
【0017】
ここで、本体15の油溝16によって区画された領域、或いは、本体15の周方向の端側と油溝16とによって区画された領域を、テーパーランド領域TPとする。
【0018】
第一樹脂シート11は、本体15のテーパーランド領域TPに積層(コーティング)されている。第一樹脂シート11は、本体15と略同一の略ドーナツ形状のシートを周方向にて第一幅W11に分割して形成されている。第一幅W11は、テーパーランド領域TPの幅と略同一である。
【0019】
第二樹脂シート12は、第一樹脂シート11に積層(コーティング)されている。第二樹脂シート12は、本体15と略同一の略ドーナツ形状のシートを周方向にて第二幅W12に分割して形成されている。第二幅W12は、第一幅W11よりも狭いものとされている。
【0020】
第三樹脂シート13は、第二樹脂シート12に積層(コーティング)されている。第三樹脂シート13は、本体15と略同一の略ドーナツ形状のシートを周方向にて第三幅W13に分割した形状である。第三幅W13は、第二幅W12よりも狭いものとされている。
【0021】
つまり、第一樹脂シート11、第二樹脂シート12及び第三樹脂シート13は、それぞれの周方向の幅が上層に向かうほど狭くなるように積層されている。
【0022】
また、第一樹脂シート11、第二樹脂シート12及び第三樹脂シート13は、本体15のテーパーランド領域TPの周方向の略中心を通過する中心線Cに対して線対象となるように積層されている。
【0023】
言い換えれば、第一樹脂シート11、第二樹脂シート12及び第三樹脂シート13は、それぞれの周方向の略中心を通過する中心線を、テーパーランド領域TPの中心線Cに合わせて積層されている。
【0024】
なお、本実施形態では、第一樹脂シート11、第二樹脂シート12及び第三樹脂シート13は、同じ材質の樹脂シートによって構成されている。
【0025】
このような構成とすることで、第三樹脂シート13から周方向に沿って油溝16までには、第三樹脂シート13の端部、第二樹脂シート12の端部及び第一樹脂シート11の端部によってステップ形状が形成される。
【0026】
第三樹脂シート13の端部、第二樹脂シート12の端部及び第一樹脂シート11の端部によって形成されるステップ形状は、巨視的にはテーパー形状となる(以下、テーパー部Tとする)。また、第三樹脂シート13のスラスト受面側をランド部Lとする。
【0027】
なお、本実施形態では、第三樹脂シート13の端部、第二樹脂シート12の端部及び第一樹脂シート11の端部によって形成されるステップ形状が巨視的にはテーパー形状となるが、樹脂の粘度や成分の調整によりテーパー形状とする構成としても良い。
【0028】
クランクワッシャ10の作用について説明する。
上述したように、クランクワッシャ10では、スラスト受面側にクランクシャフトのメインシャフトが潤滑油を介して摺動(回転)している。
【0029】
クランクシャフト(エンジン)の高回転領域では、テーパー部Tのくさび作用によって、潤滑油の油膜圧力が向上し、クランクワッシャ10とクランクシャフトとの摩擦抵抗が低減される。ここで、くさび作用とは、潤滑油が隙間の厚いほうから薄いほうへ引き込まれ、油膜には圧力が発生し,発生した油膜圧力が軸に作用する荷重を支えている現象である。
【0030】
クランクシャフト(エンジン)の低回転領域では、第三樹脂シート13(ランド部L)のみが潤滑油を介してクランクシャフトと接触するため、固体潤滑剤を含む樹脂により低摩擦力を実現し、クランクワッシャ10とクランクシャフトとの摩擦抵抗が低減される。
【0031】
クランクワッシャ10の効果について説明する。
クランクワッシャ10によれば、摩擦抵抗を低減することができる。
【0032】
すなわち、クランクワッシャ10によれば、低回転領域では第三樹脂シート13による低摩擦力の実現によって、高回転領域ではテーパー部Tのくさび作用によって、摩擦抵抗が低減され、全回転領域にて摩擦抵抗を低減することができる。
【0033】
また、クランクワッシャ10によれば、第一樹脂シート11、第二樹脂シート12及び第三樹脂シート13を中心線Cに対して線対象となるように積層することによって、スラスト受面に対しクランクシャフトがどちらの回転方向であっても、同様のくさび作用を奏する。そのため、回転方向によってクランクワッシャ10を特定することなく、部品の共通化を実現できる。
【0034】
図2を用いて、クランクワッシャ20の構成について説明する。
なお、図2(A)では、クランクワッシャ20の構成を平面視にて表している。また、図2(B)では、図2(A)のX2−X2断面を表している。さらに、図2に示す周方向及び径方向についても図1と同様である。
【0035】
クランクワッシャ20は、本発明のスラストすべり軸受に係る第二実施形態である。クランクワッシャ20は、本体25に油溝26が形成され、樹脂としての第一樹脂シート21と、樹脂としての第二樹脂シート22と、樹脂としての第三樹脂シート23と、を積層して構成されている。
【0036】
本体25、油溝26及びテーパーランド領域TPについては、第一実施形態の本体15及び油溝16と同様の構成であるため説明を省略する。
【0037】
第一樹脂シート21は、本体25のテーパーランド領域TPに積層されている。第一樹脂シート21は、本体25と略同一の略ドーナツ形状のシートを周方向にて第一幅W21に分割して形成されている。第一幅W21は、テーパーランド領域TPの幅よりも十分小さいものとする。
【0038】
第二樹脂シート22は、第一樹脂シート21に積層されている。第二樹脂シート22は、本体25と略同一の略ドーナツ形状のシートを周方向にて第二幅W22に分割して形成されている。第二幅W22は、第一幅W21よりも広いものとされている。
【0039】
第三樹脂シート23は、第二樹脂シート22に積層されている。第三樹脂シート23は、本体25と略同一の略ドーナツ形状のシートを周方向にて第三幅W23に分割して形成されている。第三幅W23は、第二幅W22よりも広いものとされている。なお、第三幅W23は、テーパーランド領域TPの幅と略同一である。
【0040】
つまり、第一樹脂シート21、第二樹脂シート22及び第三樹脂シート23は、それぞれの周方向の幅が上層に向かうほど広くなるように積層されている。
【0041】
また、第一樹脂シート21、第二樹脂シート22及び第三樹脂シート23は、本体25のテーパーランド領域TPの周方向の略中心を通過する中心線Cに対して線対象となるように積層されている。
【0042】
言い換えれば、第一樹脂シート21、第二樹脂シート22及び第三樹脂シート23は、それぞれの周方向の略中心を通過する中心線を、テーパーランド領域TPの中心線Cに合わせて積層されている。
【0043】
このような構成とすることで、第三樹脂シート23から周方向に沿って油溝26までは、第二樹脂シート22の端部及び第一樹脂シート21の端部によって、第三樹脂シート23が傾斜してテーパー形状(以下、テーパー部Tとする)が形成される。また、第三樹脂シート13の平坦なスラスト受面側をランド部Lとする。
【0044】
クランクワッシャ20の作用及び効果については、第一実施形態のクランクワッシャ10と同様であるため、説明を省略する。
【0045】
図3を用いて、クランクワッシャ30の構成について説明する。
なお、図3(A)では、クランクワッシャ30の構成を平面視にて表している。また、図3(B)では、図3(A)のX3−X3断面を表している。さらに、図3に示す周方向及び径方向についても図1と同様である。
【0046】
クランクワッシャ30は、本発明のスラストすべり軸受に係る第三実施形態である。クランクワッシャ30は、本体35に油溝36が形成され、第一樹脂シート31と、第二樹脂シート32と、第三樹脂シート33と、を積層して構成されている。
【0047】
本体35、油溝36、第一樹脂シート31、第二樹脂シート32及び第三樹脂シート33は、第一実施形態の本体15、油溝16、第一樹脂シート11、第二樹脂シート12及び第三樹脂シート13と同様の構成であるため説明を省略する。
【0048】
なお、第三樹脂シート33は、第一樹脂シート31及び第二樹脂シート32とは、樹脂の材質が異なるものとされている。
【0049】
具体的には、第三樹脂シート33は、第一樹脂シート31及び第二樹脂シート32と比較して、剛性が低く、かつ、耐摩耗性が高い樹脂シートが使用されている。一方、第一樹脂シート31及び第二樹脂シート32は、第三樹脂シート33と比較して、剛性が高く、かつ、耐摩耗性が低い樹脂シートが使用されている。
【0050】
クランクワッシャ30の作用及び効果については、第一実施形態のクランクワッシャ10とほぼ同様の効果であるため、第一実施形態のクランクワッシャ10と同様の作用及び効果については、説明を省略する。
【0051】
本実施形態のクランクワッシャ30の特有の効果について説明する。
クランクワッシャ30によれば、第三樹脂シート33に剛性が低く、かつ、耐摩耗性が高い樹脂を使用することによって、低回転領域での摩擦抵抗をさらに低減することができ、さらに樹脂シートの耐久性を向上することができる。
【0052】
図4を用いて、クランクワッシャ40の構成について説明する。
なお、図4(A)では、クランクワッシャ40の構成を平面視にて表している。また、図4(B)では、図4(A)のX4−X4断面を表している。さらに、図4に示す周方向及び径方向についても図1と同様である。
【0053】
クランクワッシャ40は、本発明のスラストすべり軸受に係る第四実施形態である。クランクワッシャ40は、略ドーナツ形状に形成されている以外は、第一実施形態のクランクワッシャ10と同様の構成であるため説明を省略する。
【0054】
クランクワッシャ40の作用及び効果については、第一実施形態のクランクワッシャ10と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
なお、本実施形態では、本発明のスラストすべり軸受をクランクワッシャ10としたがこれに限定されない。例えば、本発明のスラストすべり軸受をピニオンギアワッシャに適用しても同様の作用及び効果が得られる。
【0056】
なお、本実施形態(第一実施形態〜第四実施形態)の樹脂の構成としては、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、又はシリコーン樹脂のうちの一の樹脂と、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、グラファイト、六方晶ボロンナイトライド、合成マイカ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうちの一の固体潤滑剤とを組み合わせたものとしている。
【0057】
また、本実施形態(第一実施形態〜第四実施形態)の樹脂には、耐摩耗性向上のために、Al2O3、AlN、SiO2、CrO2、Si3N4、SiC、又はZrO2等の硬質粒子が添加され、なじみ性向上のためSn、Pb、Bi、Zn、Ag、Cu又はIn等の軟質金属が添加されても良い。
【0058】
また、本実施形態(第一実施形態〜第四実施形態)では、樹脂シートを積層する構成としたが、これに限定されない。例えば、樹脂をパッド印刷によって積層する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0059】
10 クランクワッシャ
11 第一樹脂シート
12 第二樹脂シート
13 第三樹脂シート
15 本体
16 油溝
図1
図2
図3
図4