特許第6228571号(P6228571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228571
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】吸音建材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/86 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   E04B1/86 S
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-106377(P2015-106377)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-217088(P2016-217088A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入江 祐一
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−241432(JP,A)
【文献】 特開平03−212539(JP,A)
【文献】 実開平07−032018(JP,U)
【文献】 特公平01−030602(JP,B2)
【文献】 実公昭63−009692(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/82 − 1/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックウールからなる基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴が一定のピッチで形成され、
上記基材の表面に不織布からなるシートが積層され
上記シートの表面に、上記ピン穴を隠蔽するための塗膜が通気性塗料の塗装によって形成され、
上記通気性塗料は、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有することを特徴とする吸音建材。
【請求項2】
請求項1において、
多数のピン穴のピッチは5〜10mmであることを特徴とする吸音建材。
【請求項3】
請求項1又は2において、
多数のピン穴が千鳥配列に形成されていることを特徴とする吸音建材。
【請求項4】
多数のピンがロックウールからなる基材の表面に押し付けられることにより、該基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴が一定のピッチで形成されており、
上記基材の表面に不織布からなるシートが積層され
上記シートの表面に、上記ピン穴を隠蔽するための塗膜が通気性塗料の塗装によって形成され、
上記通気性塗料は、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有することを特徴とする吸音建材。
【請求項5】
押付面に多数のピンが一定のピッチで突設されたピン穴加工装置のピンをロックウールからなる基材の表面に押し付けることにより、該基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴を一定のピッチで形成し、
上記基材の表面に不織布からなるシートを接着により積層し、
上記シートの表面を、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有する通気性塗料によって塗装することで、該シートの表面に、上記ピン穴を隠蔽するための塗膜を形成することを特徴とする吸音建材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音建材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の吸音建材として、従来、吸音穴の目立たない化粧板とするために、例えば特許文献1や特許文献2に示されるものが知られている。特許文献1に示される吸音建材は、MDF、パーティクルボード、石膏板、珪酸カルシウム板等からなる基板の裏面に大径孔を、また基板の表面にその大径孔に連通する細径孔をそれぞれ形成し、基板の表面にピンホールを有する樹脂製フィルムを積層して、そのピンホールが基板の細径孔を介して大径孔に連通するようにしたものである。このピンホールの孔径は1mm程度であり、1mm以下が推奨されている。
【0003】
また、特許文献2には、ロックウール板の表裏面の少なくとも一方に通気性を有するガラス繊維製の不織布を積層することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−11156号公報
【特許文献2】特開平6−297643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1のものでは、吸音性能が不十分であり、基板として吸音性を有するロックウール板を用いた場合には、吸音率がNRC(Noise Reduction Coefficient)で0.6程度レベルしか得ることができない。
【0006】
また、特許文献2のものにおいては、ロックウール板の表面に積層された不織布によって吸音性能が阻害されるのは避けられない。そのため、例えば吸音率NRCで0.7程度の吸音性を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、吸音建材の構造を改良することにより、基材の表面に不織布が積層されていても、例えば吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性能が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、ロックウール板の表面に形成されるピン穴の穴径を通常の1mm程度よりも大きくし、その表面に不織布製のシートを積層するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明の吸音建材は、ロックウールからなる基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴が一定のピッチで形成され、この基材の表面に不織布からなるシートが積層され、このシートの表面に、上記ピン穴を隠蔽するための塗膜が通気性塗料の塗装によって形成され、この通気性塗料は、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有することを特徴とする。上記ピン穴は、例えば基材の表面にピンを突き刺して穴開けすることによって形成される。
【0010】
この第1の発明では、ロックウールからなる基材の表面に形成された多数のピン穴の穴径が2.0〜3.0mmであって通常の1mm程度よりも大きいので、基材表面に不織布シートが積層されているにも拘わらず、吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性能が得られる。また、基材表面に不織布シートが積層されているので、ピン穴の見えないデザインが得られるとともに、吸音建材の強度を高くすることができる。
【0011】
また、不織布からなるシートの表面に通気性塗料の塗装によって塗膜が形成されているので、仮にシートのみのときには基材のピン穴がシートを通して外部から見えるようになっていたとしても、そのピン穴は通気性塗料による塗膜の隠蔽効果により確実に隠蔽されるようになり、ピン穴が外部から見えずに意匠性を高めることができる。また、塗膜を形成する塗料は、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有するので、塗料によって吸音性能が大きく影響を受けることはない。
【0012】
各ピン穴の穴径は、2.0mm未満であると、NRC0.7以上の吸音性能が得られない一方、3.0mmを超えると、多数のピンにより基材の表面にピン穴を形成するときに各ピンが基材のピン穴から抜け出る際等にピン穴周縁の基材に割れが生じることから、2.0〜3.0mmとされている。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、多数のピン穴のピッチは5〜10mmであることを特徴とする。
【0014】
この第2の発明では、基材の表面に多数の大径のピン穴を望ましいピッチで形成して、吸音性能を高めることができる。このピッチは、5mm未満であると、基材表面でのピン穴間の間隔が狭くなり過ぎて基材に割れが生じる一方、10mmを超えると、基材表面でのピン穴の数が少なくなり過ぎて意図する吸音性能が得られないので、5〜10mmとされている。
【0015】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、多数のピン穴が千鳥配列に形成されていることを特徴とする吸音建材。
【0016】
第3の発明では、基材の表面に多数のピン穴を格子配列に比べてより密な配列で形成して吸音性能を高めることができる。
【0017】
第4の発明の吸音建材は、多数のピンがロックウールからなる基材の表面に押し付けられることにより、該基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴が一定のピッチで形成されており、上記基材の表面に不織布からなるシートが積層され、このシートの表面に、上記ピン穴を隠蔽するための塗膜が通気性塗料の塗装によって形成され、通気性塗料は、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有することを特徴とする。
【0018】
この第4の発明では、多数のピンがロックウールからなる基材の表面に押し付けられて、基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴が一定のピッチで形成され、この基材の表面に不織布からなるシートが積層されて吸音建材が得られる。この発明でも、第1の発明と同様の作用効果が得られる
【0019】
の発明の吸音建材の製造方法は、押付面に多数のピンが一定のピッチで突設されたピン穴加工装置のピンをロックウールからなる基材の表面に押し付けることにより、該基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴を一定のピッチで形成し、上記基材の表面に不織布からなるシートを積層し、このシートの表面を、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有する通気性塗料によって塗装することで、該シートの表面に、上記ピン穴を隠蔽するための塗膜を形成することを特徴とする。
【0020】
この第の発明では、ピン穴加工装置のピンが基材の表面に押し付けられて、その基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴が一定のピッチで形成される。この基材の表面に不織布からなるシートが積層され、このシートの表面に、樹脂よりも多量の顔料が入っていて顔料間に形成される隙間により通気性を有する通気性塗料によって塗装が施されて、ピン穴を隠蔽するための塗膜が形成される。このことにより、不織布によって補強されて強度が高く、ピン穴が隠蔽されて見映えが良く、かつ吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性能を有する吸音建材が容易に得られる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、ロックウールからなる基材の表面に穴径2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴を一定ピッチで形成し、基材の表面に不織布からなるシートを積層し、シートの表面にピン穴を隠蔽するための塗膜を、樹脂よりも多量の顔料が入っていて該顔料間に形成される隙間により通気性を有する通気性塗料の塗装によって形成したことにより、基材の表面に不織布が積層されていながら、例えば吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性を有する吸音建材を得ることができるとともに、ピン穴を通気性塗料による塗膜の隠蔽効果により確実に隠蔽して、吸音性能に影響を与えることなく吸音建材の意匠性を高めることができる
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係る吸音建材を一部破断して示す斜視図である。
図2図2は、基材の表面を拡大して示す平面図である。
図3図3は、図2のIII−III線断面図である。
図4図4は、ピン穴の配列の変形例を示す図2相当図である。
図5図5は、吸音建材の製造方法の製造工程を装置と共に示す図である。
図6図6は、ピン穴加工装置のピンが基材の表面にピン穴を加工している状態を拡大して示す正面図である。
図7図7は、実験1の結果を示す図である。
図8図8は、実験2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0024】
図1は本発明の実施形態に係る吸音建材Aを示し、この吸音建材Aは、例えば建物の天井部に吸音天井材として、或いは壁部(特に上部)に吸音壁材としてそれぞれ施工される。尚、吸音建材Aは、建物において天井部や壁部を除くその他の部分に施工されてもよいのは勿論である。
【0025】
吸音建材Aは板状の基材1を有する。この基材1は、高吸音性を得るためには比較的軽量の基材が好ましく、例えば比重0.19〜0.26程度のロックウール板からなり、その厚さtについては、特に限定することなく一般に用いられているものから選ぶことができる。
【0026】
基材1の表面には、多数の有底状ピン穴2,2,…が一定のピッチpで形成されている。このピン穴2は、基材1の表面にピン14,14,…(図6参照)を突き刺すことによって形成されるものであり、このピン14は、後述するように、例えばピン穴加工装置12(図6参照)の押付面に突設されている。多数のピン穴2,2,…は、図2に示すように、互いに直交する縦方向及び横方向に並ぶように格子配列に形成されている。この他、図4に示すように、多数のピン穴2,2,…は、縦方向(又は横方向)に沿って並んで列を形成しているが、互いに隣接する列同士では各列の両ピン穴2,2が横方向(又は縦方向)に沿って並ばずに縦方向(又は横方向)にずれるように配置される千鳥配列に形成されていてもよい。
【0027】
図3にも示すように、上記各ピン穴2は有底円筒状のもので、その穴径dはd=2.0〜3.0mmとされている。この各ピン穴2の穴径dは、2.0mm未満であると、NRC0.7以上の吸音性能が得られない一方、3.0mmを超えると、後述するように、ピン穴加工装置12のピン14を基材1の表面に押し付けてピン穴2を形成するときに、各ピン14が基材1のピン穴2から抜け出る際等にピン穴2周縁の基材1に割れが生じることから、2.0〜3.0mmとされている。NRC(Noise Reduction Coefficient)とは、各周波数の吸音率の算術平均値である。
【0028】
また、多数のピン穴2,2,…のピッチpは5〜10mmが好ましい。このピッチpが5mm未満であると、基材1表面でのピン穴2,2間の間隔が狭くなり過ぎて基材1に割れが生じる一方、10mmを超えると、基材1表面でのピン穴2の数が少なくなり過ぎて意図する吸音性能が得られないからである。
【0029】
さらに、各ピン穴2の深さDは、基材1の裏面まで貫通しない深さであればよい。例えば基材1の厚さtを9〜25mmとしたとき、ピン穴2の深さDは各基材1の厚さに合わせて非貫通のものが形成される。
【0030】
このような多数のピン穴2,2,…の基材1表面に対する開口率は3〜40%であることが望ましい。このピン穴2,2,…の開口率は、3%未満であると、基材1表面でのピン穴2の数が少なくなり過ぎて意図する吸音性能が得られない一方、40%を超えると、基材1表面でのピン穴2の数が多くなり、ピン穴2のピッチpが狭くなり過ぎるために基材1に割れが生じるので、3〜40%とすることが望ましい。
【0031】
上記基材1の表面には、不織布からなる不織布シート5が多数のピン穴2,2,…の上から接着により積層一体化されている。この不織布シート5は、例えばガラス繊維不織布(ガラス不織布)等からなり、その秤量は例えば70g/m程度である。この不織布シート5を接着する接着剤としては、酢酸ビニルやアクリル等、一般的に使用できるものであればどのようなものでもよい。
【0032】
また、上記不織布シート5の表面には、通気性塗料によって塗装が施されて塗膜8が形成されている。この通気性塗料は、樹脂に対し多量の顔料が入っているものであり、この顔料間に隙間が形成されて通気性を有する。通気性塗料は、例えば以下のような主成分を有する組成の塗料が用いられる。
・樹脂(酢酸ビニル、アクリル、PVA等):15〜25重量%
・顔料(炭酸カルシウム、酸化チタン、クレー等の無機粉体、パーライト等多孔質の無機粉体):75〜85重量%
次に、上記吸音建材Aの製造方法について説明する。図5はこの製造方法の工程を装置と共に示しており、製造工程は、ピン穴加工工程、接着剤塗布工程、不織布シートラミネート工程、第1乾燥工程、塗装工程及び第2乾燥工程を備えている。図5において、10は基材1の搬送方向に沿って設置された複数の搬送ローラであり、複数の基材1,1,…は、所望の寸法に切断されて、各々の表面を上側に向けた状態で搬送ローラ10,10,…上に載置されて図5の左側から右側に向かって順次搬送される。
【0033】
上記ピン穴加工工程は、ピン穴加工装置12によって基材1の表面に多数のピン穴2,2,…を形成するものである。ピン穴加工装置12は、搬送ローラ10,10,…上の基材1に対して昇降可能に設けられた加工平板13を有する。図6に示すように、この加工平板13の下面は平面からなる押付面とされ、この押付面には円柱状の多数のピン14,14,…が一定のピッチp1で突設されている。このピン14,14,…の配列は、上記吸音建材Aの基材1表面に形成されるピン穴2,2,…と同じ格子配列(又は千鳥配列)であり、ピン14,14,…のピッチp1は基材1表面のピン穴2,2,…のピッチpと同じとされている。また、ピン14の外径d1はピン穴2の穴径dと、またピン14の突出高さhはピン穴2の深さDとそれぞれ略同じとされている。そして、搬送ローラ10,10,…上に載置されているロックウールからなる各基材1に対し加工平板13を下降移動させて、その押付面の多数のピン14,14,…を基材1の表面に押し付け、これを基材1を搬送方向にずらしながら複数回繰り返すことにより、基材1の表面全体に穴径dが2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴2,2,…を一定のピッチpで形成する。
【0034】
接着剤塗布工程は、上記ピン穴2が形成された基材1の表面に接着剤塗布装置16によって接着剤17を塗布するものである。接着剤塗布装置16は、搬送面が搬送ローラ10,10,…と同じ高さで水平方向の回転軸心を有する受けロール18と、この受けロール18の上側に基材1の厚さよりも少し大きい間隔をあけて配置され、受けロール18と略同径で水平方向の回転軸心を有する塗布ロール19とを備えている。塗布ロール19の側方上側には、例えば塗布ロール19よりも小径で水平方向の回転軸心を有する補助ロール20が配置され、この補助ロール20の外周面と塗布ロール19の外周面とは当接していて両ロール19,20間に、接着剤17を収容する接着剤溜まり21が形成されている。そして、受けロール18及び補助ロール20を図で時計回り方向に、また塗布ロール19を図で反時計回り方向にそれぞれ回転させながら受けロール18と塗布ロール19との間に基材1を通過させ、この基材1の表面に接着剤溜まり21の接着剤17を塗布ロール19の外周面に載せて導いて塗布する。
【0035】
不織布シートラミネート工程は、ラミネート装置23により基材1の表面に不織布製のシート5を接着してラミネートするものである。ラミネート装置23は、搬送ローラ10,10,…の上側に基材1の厚さよりも少し大きい間隔をあけて配置された水平方向の回転軸心を有する押圧ロール24を備えている。押圧ロール24の上側には、長尺の不織布シート5を巻いた供給ロール25が配置されており、この供給ロール25から送り出された不織布シート5を押圧ロール24に引き寄せて押圧ロール24と基材1表面との間に挟み込み、押圧ロール24によって不織布シート5を基材1の表面に押圧して、両者を基材1表面の接着剤17によって接着し、基材1表面に不織布シート5を接着により積層一体化する。尚、この不織布シート5は基材1表面に接着された後に図外の切断装置によって基材1の大きさに切断される。
【0036】
第1乾燥工程は、上記のようにして表面に不織布シート5が積層された基材1を不織布シート5と共にドライヤー27によって乾燥し、その接着剤17を固化させる。
【0037】
塗装工程は、上記不織布シート5の表面を例えばスプレー式の塗装装置29によって塗装するものであり、塗装装置29は、第1乾燥工程を経て搬送された不織布シート5の表面に通気性塗料を噴霧して、そのシート5表面を通気性塗料によって塗装する。
【0038】
第2乾燥工程は、上記のようにして不織布シート5の表面に塗布された通気性塗料をドライヤー27によって乾燥して固化させる。
【0039】
以上の工程を経由することで、表面に多数の有底状ピン穴2,2,…が一定のピッチpで形成された基材1の表面に不織布製のシート5が積層され、その不織布シート5の表面が塗装された吸音建材Aが製造される。このことにより、不織布シート5によって補強されて強度が高く、ピン穴2,2,…が塗膜8によって隠蔽されて見映えが良く、かつ吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性能を有する吸音建材Aが容易に得られる。
【0040】
すなわち、この吸音建材Aは、ピン穴加工装置12の多数のピン14,14,…がロックウールからなる基材1の表面に押し付けられることにより、基材1の表面に穴径dが2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴2,2,…が一定のピッチpで形成され、その基材1の表面に不織布からなる不織布シート5が積層されているものとなる。
【0041】
したがって、上記実施形態においては、ロックウールからなる基材1の表面に多数のピン穴2,2,…が形成され、その各ピン穴2の穴径dが2.0〜3.0mmであって通常の1mm程度よりも大きいので、基材1表面に不織布シート5が積層されているにも拘わらず、吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性能が得られる。また、基材1表面に不織布シート5が積層されているので、ピン穴2の見えないデザインが得られるとともに、吸音建材Aの強度を高くすることができる。
【0042】
また、基材1表面に形成される多数のピン穴2,2,…のピッチpは5〜10mmであるので、ピン穴2が2.0〜3.0mmと大径であっても、その大径のピン穴2を多数基材1表面に望ましいピッチで形成して、吸音性能を高めることができる。
【0043】
また、基材1表面に対するピン穴2,2,…の開口率は3〜40%であるので、基材1の表面に多数の大径のピン穴2,2,…を望ましい開口率で形成して、吸音性能を高めることができる。
【0044】
また、多数のピン穴2,2,…が格子配列又は千鳥配列に形成されていると、基材1の表面に多数のピン穴2,2,…を望ましい配列で形成して吸音性能を高めることができる。特に、千鳥配列にしたものは、隣同士のピン穴2,2のピッチpをそのままに、対角線方向のみの距離を少し縮めてピン穴2,2,…の配置ができ、ピン穴2の数を増やすことができる利点がある。
【0045】
さらに、不織布製のシート5の表面が通気性塗料によって塗装されているので、仮にシート5のみのときには基材1のピン穴2がシート5を通して外部から見えるようになっていたとしても、そのピン穴2は通気性塗料の塗膜8による隠蔽効果により確実に隠蔽されるようになり、ピン穴2が外部から見えずに意匠性を高めることができる。また、塗料は通気性を有するので、塗膜8によって吸音性能が大きく影響を受けることはない。
【0046】
そして、吸音建材Aを建物の天井に施工して吸音天井材とするか、或いは建物の壁に施工して吸音壁材とすることにより、吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性能を有する吸音天井材又は吸音壁材が容易に得られる。
【0047】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態では、ピン穴加工装置12は、下面の押付面に多数のピン14,14,…が突設された加工平板13を有する平板タイプのものとしているが、外周面に多数のピンが一定のピッチで突設されたピン穴加工ロールを用いてもよく、このピン穴加工ロールを回転させながら、ピン穴加工ロールに基材1を通過させることにより、基材1の表面に穴径dが2.0〜3.0mmの多数の有底状ピン穴2,2,…を一定のピッチpで形成すればよい。
【実施例】
【0048】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0049】
(実験1)
比重がρ=0.260、ρ=0.205、ρ=0.188の3種類のロックウールからなる基材を用い、これら基材の表面に平板で穴径が1.6mmの1種類のピン穴を加工し、又は人手によって穴径が1.6mm及び1.2mmの2種類のピン穴を加工した。その後、ピン穴が形成された基材の表面に不織布シートを接着し、さらにそのシート上に塗装を施した。
【0050】
そして、ピン穴が形成されていない状態の基材自体、ピン穴が形成された基材、不織布シート及び塗装が施されたものを例1〜例10とし、各例についての吸音率NRCを測定した。その結果を図7に示す。尚、図中の○印は該当部分、又は該当処理を行ったことを示している。また、剛壁NRCとは、残響室の床上に試験体を直置きして測定したもので、裏側に空気層がない構造での吸音率であり、E400NRCとは、床上に試験体の表面から床まで400mmになるようにして裏側に空気層を設けた構造での吸音率である。
【0051】
この図7の結果を見ると、例1と例2又は例3との比較、例6と例7との比較、及び例8と例9との比較により、ロックウールからなる基材の表面に穴径1.6mm又は1.2mmのピン穴を形成することで、その吸音率は基材自体の吸音率よりも高くなっている。しかし、例4、例5及び例10に示すように、このような穴径のピン穴が形成された基材の表面に不織布製のシートを積層し、その上に塗装を施すことにより、吸音率が低下していることが判る。
【0052】
(実験2)
実験1とは異なり、比重0.19のロックウールからなる基材を用い、この基材の表面に平板で穴径が2.0mmで深さが18mmの多数のピン穴を加工し、その上に不織布製シートを接着した後、不織布シートの表面に塗装を施した。これを実施例1の試料とした。試料の面積は6.48mである。
【0053】
また、同様に、同じ比重0.19のロックウールからなる基材の表面に平板で穴径が2.4mmで深さが17mmの多数のピン穴を加工し、その上に不織布シートを接着した後、不織布シートの表面に塗装を施した。これを実施例2の試料とした。試料の面積は6.48mである。
【0054】
これらの実施例に対して周波数100〜5KHzのうちの18の周波数毎の吸音率を測定し、それらの平均値としてNRCを求めた。その結果は図8に示すとおりである。
【0055】
この図8の結果から、本発明のように基材表面に穴径2.0mm以上のピン穴を形成することで、その基材表面に不織布シートを積層して塗装を施したとしても、NRCが0.7以上となることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、基材の表面に不織布が積層されていながら、吸音率NRCで0.7以上の高い吸音性を有する吸音建材を得ることができるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0057】
A 吸音建材
1 基材
t 厚さ
2 ピン穴
d 穴径
p ピッチ
D 深さ
5 不織布シート
8 塗膜
12 ピン穴加工装置
14 ピン
d1 外径
p1 ピッチ
h 突出高さ
16 接着剤塗布装置
23 ラミネート装置
29 塗装装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8