(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228580
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】フルオロキノロン類を用いた細菌性肺感染症の治療方法。
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5383 20060101AFI20171030BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20171030BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
A61K31/5383
A61K9/12
A61P31/04
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-201285(P2015-201285)
(22)【出願日】2015年10月9日
(62)【分割の表示】特願2012-507400(P2012-507400)の分割
【原出願日】2010年4月22日
(65)【公開番号】特開2016-53041(P2016-53041A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】61/172,625
(32)【優先日】2009年4月24日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511251537
【氏名又は名称】ラプター ファーマスーティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ダッドリー,マイク
(72)【発明者】
【氏名】グリフィス,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ロドニー,オルガ
【審査官】
山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−540676(JP,A)
【文献】
Mpex Candidate, MP-376, Granted US Orphan Drug Status for the Treatment of Cystic Fibrosis,MEDICAL NEWS TODAY,2008年 3月 5日,Retrieved from the Internet: URL:http://www.medicalnewstoday.com/articles/99488.php [retrieved on 20
【文献】
JOURNAL OF BACTERIOLOGY,2007年,Vol.189,No.12,p.4449-4455
【文献】
Journal of Antimicrobial Chemotherapy,1987年,Vol.20,p.585-594
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/5383
A61K 9/12
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症を有する対象中の嫌気性条件下で増殖する肺の緑膿菌感染症を治療するための医薬の製造におけるレボフロキサシンの使用であって、少なくとも50mgのレボフロキサシンのエアロゾルの治療有効量を投与して嫌気性条件下の緑膿菌の増殖を阻害するステップを具えることを特徴とする使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用であって、前記緑膿菌が嫌気性条件下で増殖すると同定されることを特徴とする使用。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の使用であって、フルオロキノロン系抗生物質を投与する前に、前記緑膿菌細菌性感染症の試料をアッセイして前記緑膿菌が嫌気性条件下で増殖するか決定するステップをさらに具えることを特徴とする使用。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の使用であって、前記緑膿菌の試料が少なくとも250μMの硝酸塩レベルにより特徴付けられる使用。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の使用であって、嫌気性条件下で増殖する緑膿菌の存在について前記肺の細菌性感染症のアッセイが行われることを特徴とする使用。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の使用であって、前記緑膿菌が硝酸塩又は亜硝酸塩を用いて嫌気性条件下で増殖可能であることを特徴とする使用。
【請求項7】
請求項6に記載の使用であって、嫌気性条件下で増殖可能な細菌の存在について前記肺の細菌性感染症のアッセイが行われることを特徴とする使用。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の使用であって、前記肺の細菌性感染症が、嫌気性条件下で増殖する緑膿菌の少なくとも一部を有することで同定されることを特徴とする使用。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の使用であって、前記肺の感染症が少なくとも250μMの硝酸塩レベルを含む痰により特徴付けられる使用。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の使用であって、前記肺の細菌性感染症が少なくとも250μMの硝酸塩レベルを含む痰を有すると同定されることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願のクロスリファレンス〕
本出願は、2009年4月24日に出願された米国仮特許出願第61/172,625号の優先権の利益を主張する。この全優先権書類は全体を参照することによってここに組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
本出願は製薬化学及び医薬に関連するものであり、特に細菌性感染症の治療方法に関連するものである。
【0003】
〔関連技術の記載〕
嚢胞性線維症(CF)の患者に影響を与える殆どの慢性感染症に関連する病原体はシュードモナス・エルギノーザ(緑膿菌)である。嚢胞性線維症財団(CFF)によればCF患者の約55%が緑膿菌に感染している。深刻な肺疾患の増悪は慢性的な緑膿菌感染症の一般的な症状である。
【0004】
緑膿菌は硝酸塩や亜硝酸塩を利用した嫌気呼吸により又はアルギニンの発酵により嫌気的条件下で増殖することができる。CF患者の痰は平均すると250乃至350μMの硝酸塩を含有しており、1000μMの硝酸塩に達することもある。したがってCF患者の痰は緑膿菌に嫌気的条件下で増殖を促進及び維持する環境を提供することができる。
【0005】
CF患者の肺の濃密な肺性分泌物には低酸素分圧領域が存在することが確認されている。しかし、典型的な好気性の緑膿菌はCF患者の痰中の、このような微好気性環境下でコロニーを形成し、増殖をすることができる。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に開示したいくつかの実施例は、フルオロキノロン系抗生物質のエアロゾルを治療に有効な量投与するステップを含む細菌性肺感染症の治療方法に関連し、この細菌性肺感染症は嫌気的な条件下において増殖可能な細菌を含む。
【0007】
いくつかの実施例は、レボフロキサシンとオフロキサシンから成る群から選択されたフルオロキノロン系抗生物質のエアロゾルを治療に有効な量投与するステップを含む細菌性肺感染症の治療方法に関連し、この細菌性肺感染症は嫌気的な条件下において増殖可能な細菌を含む。
【0008】
いくつかの実施例では、この方法は細菌性肺感染症について嫌気的条件下で増殖する細菌の存在を検査するステップを具える。いくつかの実施例では、この細菌は硝酸塩または亜硝酸塩を利用して嫌気的条件下で増殖する。
【0009】
いくつかの実施例は更に、細菌性肺感染症について硝酸塩または亜硝酸塩を利用して嫌気的条件下で増殖する細菌の存在を検査するステップを具える。いくつかの実施例では、この細菌は緑膿菌を含む。いくつかの実施例では、この方法は細菌性肺感染症について緑膿菌の存在を検査するステップを具える。
【0010】
いくつかの実施例では、フルオロキノロン系抗生物質がレボフロキサシンである。いくつかの実施例では、フルオロキノロン系抗生物質がオフロキサシンである。
【0011】
いくつかの実施例では、少なくとも一部の細菌性肺感染症が嫌気的条件下において広がる。いくつかの実施例は、細菌性肺感染症とは嫌気的条件下で増殖しているこの細菌の少なくとも一部を有するものであると特定される。
【0012】
いくつかの実施例は、嚢胞性線維症の対象の細菌性肺感染症である。いくつかの実施例は少なくとも250μMの硝酸塩濃度の痰により特徴づけられる肺感染症である。いくつかの実施例では、細菌性肺感染症が少なくとも250μMの硝酸塩濃度の痰を有するものであると特定される。
【0013】
いくつかの実施例では、細菌性肺感染症の治療方法がトブラマイシンとアミカシンとアズトレオナムから成る群から選択された抗生物質を治療に有効な量投与するステップを具えていない。
【0014】
いくつかの実施例では、細菌性肺感染症の治療に、その他の抗生物質が治療に有効な量投与されていない。いくつかの実施例ではフルオロキノロン系の抗生物質が肺内への送達により投与される。いくつかの実施例ではフルオロキノロンの治療に有効な量は約5mg以上である。いくつかの実施例ではフルオロキノロンの治療に有効な量は約150mg以下である。
【0015】
いくつかの実施例は、嫌気的条件下での細菌の増殖を抑制する方法であり、この方法は前記細菌を前記細菌の増殖を抑制する量のフルオロキノロン系抗生物質に暴露させるステップを具える。
【0016】
いくつかの実施例では、この細菌は少なくとも約0.75mg/Lのフルオロキノロン系抗生物質を含む混合物に暴露させる。いくつかの実施例では、この細菌が緑膿菌を含む。いくつかの実施例では、この細菌が嫌気的条件下で増殖するとして特定される。
【0017】
この方法のいくつかの実施例は、前記細菌のサンプルを分析して、当該細菌が嫌気的条件において増殖するかを測定するステップを含む。いくつかの実施例では、この細菌のサンプルが少なくとも250μMの硝酸塩濃度によって特徴づけられる。
【0018】
いくつかの実施例ではフルオロキノロン系抗生物質がレボフロキサシンである。いくつかの実施例ではフルオロキノロン系抗生物質がオフロキサシンである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、各種抗菌剤についての好気的及び嫌気的条件下における最小発育阻止濃度を示す。
【
図2A】
図2Aは、レボフロキサシン(LVX)についての緑膿菌の好気的及び嫌気的条件下における最小発育阻止濃度の分布を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、トブラマイシン(TOB)についての緑膿菌の好気的及び嫌気的条件下における最小発育阻止濃度の分布を示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、アミカシン(AMK)についての緑膿菌の好気的及び嫌気的条件下における最小発育阻止濃度の分布を示すグラフである。
【
図2D】
図2Dは、アズトレオナム(ATM)についての緑膿菌の好気的及び嫌気的条件下における最小発育阻止濃度の分布を示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、PAM1020,野生株についての時間経過に伴う緑膿菌の平均log CFU/mLを示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、PAM1032,nalB株についての時間経過に伴う緑膿菌の平均log CFU/mLを示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、PAM1481,nalB gyrA株についての時間経過に伴う緑膿菌の平均log CFU/mLを示すグラフである。
【
図3D】
図3Dは、PAM1573,nalB gyrA(Thr83Ile)株についての時間経過に伴う緑膿菌の平均log CFU/mLを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
嚢胞性線維症は抗生物質による治療を必要とする細菌性肺感染症を頻繁に引き起こす遺伝的疾病である。米国特許公報第2006/0276483号は全体を参照することによってここに組み込まれており、これはエアロゾル化したフルオロキノロン類と細菌性肺感染症の治療のためのその使用を教示している。
【0021】
細菌性肺感染症に存在するとされるある種の細菌は嫌気的条件下で増殖が可能である。CF患者の肺の濃密な肺性分泌物には低酸素分圧領域が存在することが確認されている。したがって細菌性肺感染症は嫌気的条件下で増殖する細菌を保有している可能性がある。CF患者にみられる低酸素環境は、ある種の抗生物質の薬理活性を妨げることがあるため治療方法の改善が必要である。
【0022】
驚くことに、フルオロキノロン類は嫌気的及び好気的条件下の両方で増殖する細菌に対して同様の活性を示す。
【0023】
〔定義〕
「微生物」という用語は、細菌類や真菌類のように顕微鏡で観察できる生物を意味する。したがって本用語の開示は、より狭義の「細菌」に関する特性をも意図している。例えば、抗菌性化合物に関連する記載は抗生物質の使用も意図している。
【0024】
「投与」や「投与すること」という用語は、脊椎動物に対してある量の抗菌性医薬組成物を与える方法を意味する。好ましい投与方法は各種要素により異なる。例えば、医薬組成物の成分や、潜在的又は実際の細菌感染部位、関係している細菌、実際の細菌感染の重症度などである。
【0025】
「哺乳類」という用語は、通常の生物学的な意味として使用している。したがって、厳密には人、牛、馬、犬、猫だけでなく他の多くの種を含む。
【0026】
「微生物感染症」という用語は、宿主生物における病原性微生物の望ましくない増殖、又は侵入の存在のことである。これは哺乳類、又はその他の生物の体内又は体外に通常存在する微生物の過剰な増殖を含む。より一般的には、微生物感染症は、微生物群の存在が宿主生物を損傷をしているあらゆる状態であり得る。したがって、哺乳類の体内又は体外での微生物群が過剰に存在している場合、又は微生物群の存在により哺乳類の細胞、又はその他組織が損傷している場合に、微生物感染症が存在することとなる。
【0027】
例えば、細菌などの微生物の抗菌剤に対する反応についての文脈において、「感受性」という用語は、抗菌剤の存在に対する微生物の感度を指す。したがって、感受性が高くなるいうことは、細菌が、微生物細胞周囲の媒体中の低濃度の抗菌剤によって増殖を阻害されることを意味する。これは微生物が抗菌剤に対して、より感度が高いということに等しい。大抵の場合、この抗菌剤の最小発育阻止濃度(MIC)は低下することになるであろう。
【0028】
「治療に有効な量」又は「薬理学的に有効な量」とは、治療効果のあるフルオロキノロン系抗菌剤の量を意味する。治療に有用な用量のフルオロキノロン系抗菌剤の量が治療に有効な量である。したがって、ここで用いられているように治療に有効な量とは、臨床試験結果、及び/又はモデル動物を用いた感染の研究により判定した望ましい治療効果が出るフルオロキノロン系抗菌剤の量を意味する。具体的な実施例では、フルオロキノロン系抗菌剤は、あらかじめ定められた用量で投与されるため、治療に有効な量は投与した用量である。この量とフルオロキノロン系抗菌剤の量は当該技術分野の当業者によって通常通り決めることができ、関連する特定の微生物株など、いくつかの要素によって変わる。さらに、この量は患者の身長、体重、性別、年齢、病歴にもよる。予防的治療の場合は、微生物の感染防止に有効な量が治療に有効な量である。
【0029】
「治療効果」とは、一又はそれ以上の感染症状を、ある程度、軽減させることであり、感染が治癒することを含む。「治癒」とは活動性感染症の症状がなくなることを意味し、これは感染症に関わる過剰な生残可能な細菌を、従来の測定方法による検出の限界点又はそれ以下にするように、完全に又は実質的に除去することを含む。しかし、感染症の治癒後も一定の長期間、又は永続的に感染症の作用が存在することがある(過剰な組織の損傷をうけた場合など)。ここに用いられるように「治療効果」とは、宿主への細菌負荷の統計的に有意な低減、抵抗力の出現、又は、人間の臨床試験結果又は動物試験によって測定した感染症の症状の改善として定義される。
【0030】
ここで用いられているように、「処置する」「処置」又は「処置している」とは、医薬組成物を予防、及び/又は治療目的のために投与すること意味する。「予防的処置」とは、未だ感染していないが、特定の感染症に感染している疑いのある患者、又は、さもなければその危険性がある患者を治療することである。「治療的処置」とは既に感染症にかかっている患者に治療をすることである。したがって、好ましい実施例では、処置をする(予防目的又は治療目的のいずれも)とは、哺乳類に対して治療に有効な量のフルオロキノロン系抗菌剤を投与することである。
【0031】
〔治療の方法〕
本明細書に開示したいくつかの実施例は、細菌性肺感染症の治療方法に関し、この方法は、フルオロキノロン系抗生物質の治療に有効な量のエアロゾルを投与するステップを含み、この細菌性肺感染症は嫌気的な条件下において増殖する細菌を含む。
【0032】
この治療に有効な量は、例えば少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも20mg、少なくとも50mgである。同様に、治療に有効な量は、例えば150mg以下、140mg以下、125mg以下、又は100mg以下であってもよい。
【0033】
フルオロキノロン類は嫌気的条件下で増殖する細菌に対して活性を示すため、この方法は、細菌性肺感染症について嫌気的条件下で増殖する、又は増殖できる細菌の存在を検査するステップを具える。例えば、感染症から培養をし、存在する細菌のタイプを決定する。嫌気的条件下で増殖できる細菌がいるならば、フルオロキノロンの投与を含む治療を行うことができる。さらに、そのような検査方法を使用することにより、フルオロキノロンの投与を含む治療が適切であるかどうかを決定するために他の基準を用いることができる。フルオロキノロンは硝酸塩又は亜硝酸塩を用いて嫌気的条件下で増殖する細菌でも、その細菌が緑膿菌の場合でも適切である。
【0034】
様々なフルオロキノロン類を用いて細菌性肺感染症を治療することができる。一実施例ではフルオロキノロンは、レボフロキサシンとオフロキサシンから成る群から選択される。別の実施例では、フルオロキノロンは、レボフロキサシンでもよい。別の実施例ではフルオロキノロンは、オフロキサシンでもよい。フルオロキノロンはエアロゾル形式で使用して肺内へ送達することができる。
【0035】
いくつかの実施例では、この方法は、治療に有効な量のトブラマイシンとアミカシンとアズトレオナムを用いて細菌性肺感染症を治療するステップを具えていない。別の実施例では、細菌性肺感染症の治療に、その他の抗菌剤を治療に有効な量投与していない。
【0036】
治療を行う肺性感染症のタイプは特に限定しない。肺感染症は嚢胞性線維症の患者にみられる感染症を含む。また、この方法は、平均硝酸塩濃度が少なくとも約250μM、又は少なくとも約500μMの痰を特徴とする肺感染症の治療に用いられる。この方法は嫌気的条件下で増殖している細菌の少なくとも一部を有する細菌性肺感染症に使用できる。
【0037】
さらに、細菌が嫌気条件下で増殖する、又は増殖できる限り、治療用に様々なタイプの細菌を意図している。例えば、細菌は緑膿菌である。一実施例では、治療には硝酸塩、又は亜硝酸塩を用いた嫌気的条件下で、増殖する、又は増殖能力を持つ細菌を使う。
【実施例1】
【0038】
本出願の実施例は、以下の例にさらに詳細に開示されている。これらはいかなる意味でも発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0039】
〔細菌株と抗生物質〕
嚢胞性線維症の緑膿菌単離株114株は、CF Referral Center for Susceptibility & Synergy Studies at Columbia University(New York,NY)と2箇所のCF Therapeutics Development Network(TDN)laboratories(Seattle Children’s Hospital,Seattle,WA and University of North Carolina at Chapel Hill,Chapel Hill,NC)より感受性試験用に入手した。約60%の株は近年(2004−2007)単離され、残りの40%は1980年から2004年の間に単離された。
【0040】
緑膿菌PAM1020(野生株),PAM1032(nalB),PAM1481(nalB gyrA(Asp87Tyr)),及びPAM1573(nalB gyrA(Thr83Ile))は、関連する排出性を介した耐性機構と標的変異による耐性機構の代表であり、レボフロキサシン時間−殺菌試験に用いた。
【0041】
これらの研究に用いた抗生物質はトブラマイシンとレボフロキサシンとアミカシンとアズトレオナムを含んでおり、嚢胞性線維症のエアロゾル治療に使用されている、又は開発されている。好気性の感受性試験用に、レボフロキサシン塩酸塩とトブラマイシン硫酸塩とアミカシン二硫酸塩をLKT Laboratories(St.Paul,MN)から購入し、アズトレオナム塩は、MP Biomedicals(Solon,OH)から購入した。嫌気性の感受性試験用の抗生物質は全てUnited States Pharmacopeia(Rockville,MD)から購入した。
【0042】
〔感受性試験〕
抗生物質MICのエンドポイントはCLSI参照法による微量液体希釈法により得た。Clinical and Laboratory Standards Institute.Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically−Seventh Edition:Approved Standard M7−A7.CLSI,Wayne,PA,USA,2006参照。好気的試験用に抗生物質を以下の濃度に連続的に希釈した。レボフロキサシンとトブラマイシンは0.03乃至32mg/L,アミカシンとアズトレオナムは0.125乃至128mg/Lの濃度に希釈した。嫌気性感受性試験は、緑膿菌に嫌気呼吸をさせるためにカチオンを調整したMueller Hinton培養液(CAMHB)に1%の硝酸カリウム(KNO
3)の添加が必要であった。嫌気性感受性試験用に、凍結したMICプレートを溶かし、嫌気性チャンバー中に一晩保管して、試験株の接種の前に全ての酸素を確実に除去した。嫌気性感受性試験用の全ての抗生物質の希釈範囲は0.125乃至128mg/Lであった。嫌気条件下での培養は48時間まで延長を要し、54%の単離株が必要であった。
【0043】
〔殺菌活性〕
好気性且つ低酸素の時間−殺菌試験を行って32乃至1,024mg/Lの範囲の濃度におけるレボフロキサシンの殺菌力を測定した。レボフロキサシンの濃度は、同系の緑膿菌株であるPAM1020(MIC=0.125mg/L),PAM1032(MIC=1mg/L),PAM1481(MIC=4mg/L)及びPAM1573(MIC=8mg/L)に対して、MICの16倍乃至2,048倍の範囲であった。好気性且つ低酸素Mueller−Hinton培養液(MHB)を初回接種の1×10
7乃至1×10
8CFU/mlに希釈した。低酸素条件は、試験管中のMHB容量を最大限にすること、及び37℃での培養を行う間に振とうしないことにより、シミュレーションした。これらの条件、又はOxyrase酵素システム(Oxyrase,Inc.,Mansfield,OH)で処理したMHBを用いた増殖率は同様であった。最終的な培養液量は10mlであった。0分,10分,20分,40分,80分,160分で各培養液から0.5mlのサンプルを取り除き、ただちにMHBで2回洗浄し、レボフロキサシンのキャリーオーバーの作用を最小限に抑えて、次いで生理食塩水で希釈してMueller−Hinton寒天培地(MHA)に平板培養した。寒天培地は37℃で48時間培養し、殺菌活性を測定した。検出限界は2 log
10CFU/mlであった。いずれかの条件下で培養した細菌数は対応t検定で比較した。
【0044】
〔結果〕
好気性と嫌気性のMIC試験の結果が
図1の表に要約されている。嫌気性条件下ではレボフロキサシンの有効性はほとんど変わらなかった。MIC
50はわずか2倍に増加しただけであり、MIC
90は増加しなかった。これに対して、嫌気的培養では、トブラマイシン、アミカシン、アズトレナムのMICの幾何平均値は、それぞれ約7倍、約4倍、及び約6倍に増え、嫌気条件下でのアズトレナム、トブラマイシンのMIC
50値は、それぞれ4倍、16倍に増加した。単離株の40%以上がトブラマイシン、アミカシン、アズトレナムの4倍以上のMICの増加を示したのに対し、レボフロキサシンではわずか4%であった。
【0045】
図2A乃至Dは緑膿菌の全114の単離株を用いた各抗生物質についての好気的及び嫌気的MIC結果の分布を示す。嫌気的条件下ではトブラマイシン、アミカシン、及びアズトレナムが薬剤活性の低下を示した。これに対して、レボフロキサシンの好気的及び嫌気的MIC分布は変わらなかった。
【0046】
MIC分布のシフトによってわかる時間−殺菌曲線を展開させて、好気的且つ低酸素条件下で、同系緑膿菌株にエアロゾル投与後に得た高濃度のレボフロキサシン抗菌活性を決定し、CF患者の肺に存在する部分的酸素勾配をシミュレーションした。
図3に示すように、10分以内に迅速且つ持続的なin vitroの抗菌活性が、両条件下の各レボフロキサシン濃度で、各株について観察された。(p>0.05)。