(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施形態に限定されず、その発明特定事項を有する全ての対象を含むものである。なお、同一構造の部材については図面において同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0014】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、印字特性に優れ、インク受容層とヒートシール層との接着性、開封特性、及び折り曲げ特性に優れたヒートシール可能な記録シートを見出した。
【0015】
本発明のヒートシール可能な記録シートは、インクジェット方式に好適に対応することができる。インクジェット方式で十分な画像濃度を実現するためには、インク受容層が多量のインクを吸収する必要がある。このため、記録シート上のインク受容層はやや厚くする必要があり、インクジェット特有の課題も生ずる。
【0016】
例えば、インク受容層の透明性及びインクの吸収性を確保しながら、インク受容層とヒートシール層及びヒートシール層同士の接着性を満足する必要がある。しかし、インクの吸収性を満足するために、無機微粒子を含有する空隙型のインク受容層を用いると、インク受容層が白色化してフィルムの透明性が損なわれたり、無機微粒子を含有するインク受容層とヒートシール層との接着性が低下したりする等の課題があった。そこで、本発明のヒートシール可能な記録シートにおいては、インク受容層に水分散性樹脂を添加し、そのガラス転移温度(Tg)を精密に制御してインク受容層のヒートシール特性を上げることで、上記の課題を克服した。また、インク受容層を構成する水溶性樹脂や水分散性樹脂に注目し、これらの添加量を制御した。これにより、インク受容層にヒートシール性を付与し、強い分子間力によってヒートシール性を有するインク受容層の水分散性樹脂成分とヒートシール層を構成する材料成分との接着性を高めて、上記の課題を克服した。また、インクの吸収性や、インク受容層が白色化してフィルムの透明性が損なわれないように無機微粒子の粒子径を小さくし、インク受容層の表面粗さを微小な凹凸が多くなるように制御した。これにより、インク受容層とヒートシール層との接触面積が大きくなり、アンカー効果が増大されて、上記課題がさらに解決できることを見出した。また、インク受容層を構成する水溶性樹脂及び水分散性樹脂のSP値がヒートシール材料のSP値と近い値を示すように、両者の材質を制御した。これにより、インク受容層にヒートシール性を付与し、強い分子間力によってヒートシール性を有するインク受容層とヒートシール層との接着性を高めて、上記の課題がさらに解決できることも見出した。
【0017】
一方、インク受容層を厚くすると、記録シートを包装フィルムとして用いた場合に、開封時に裂け目においてバリが発生したり、インク受容層が基材から剥がれ落ちたり、記録シートを鋭角に折り曲げて包装した場合に、インク受容層が割れたり、インク受容層が基材から剥がれ落ちたりするなどの課題があった。そこで、本発明においては、水分散性樹脂のガラス転移温度(Tg)を精密に制御し、インク受容層中で水分散性樹脂を造膜させて基材との密着性を高めることで上記の課題を克服した。また、インク受容層中の水溶性樹脂及び水分散性樹脂に注目し、これらの樹脂の添加量を制御した。これにより、無機微粒子を固定化するだけのバインダー機能として十分なインク受容層の膜強度が維持されるため、インク受容層が割れたり、インク受容層が基材から剥がれ落ちたりする課題を克服した。また、インク受容層中の水分散性樹脂は、基材とインク受容層との密着性を高めることができるため、上記の課題が解決できることを見出した。すなわち、インク受容層中の水溶性樹脂及び水分散性樹脂のSP値が基材のSP値と近い水溶性樹脂及び水分散性樹脂を選択した。これにより、基材とインク受容層との接着性が高められ、上記の課題がさらに解決できることを見出した。また基材とインク受容層との間に接着層を設けることで、基材とインク受容層との密着性が高められるだけでなく、ヒートシール可能な記録シートを柔らかく制御することもできるため、上記の課題がさらに解決できることを見出した。
【0018】
ここで、SP値について説明する。SP値は溶解度パラメーターを示し、ヒルデブラントパラメータとも呼ばれる。正則溶液論では溶媒−溶質間に作用する力は分子間力のみと仮定されるので、溶解パラメーターは分子間力を表す尺度として使用される。実際の溶液は正則溶液とは限らないが、2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られている。
【0019】
正則溶液理論では溶媒−溶質間に作用する力は分子間力のみとモデル化されているので、液体分子を凝集させる相互作用が分子間力のみであると考えることができる。液体の凝集エネルギーΔEは蒸発エンタルピーとΔH=ΔE+PΔVの関係にあることから、モル蒸発熱ΔHとモル体積Vより、溶解パラメーターは下記式で定義される。すなわち、1cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根(cal/cm
3)
1/2から計算される。
【0021】
実際の溶液が正則溶液であることは稀であるが、溶媒−溶質分子間には水素結合など分子間力以外の力も作用し、2つの成分が混合するか相分離するかはそれらの成分の混合エンタルピーと混合エントロピーの差で熱力学的に決定される。しかし、経験的に溶解パラメーターが近い物質は混ざりやすい傾向を有する。このため、SP値は溶質と溶媒の混ざりやすさを判断する目安ともなる。但し、本発明のヒートシール可能な記録シートを構成するプラスチック製の材料の場合、相溶性は使用する材質の極性によって左右され、極性が高いほど相溶性が高く、分子結合力を示すCED(凝集エネルギー密度)の平方根であらわされるSP値が近いほど相溶性が高い。
【0022】
本発明においては、SP値は下記式で示される。代表的なSP値を表1に示す。表1に示すSP値は、「プラスチック加工技術ハンドブック」、1995年6月12日、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1474頁、表3.20に示される各種プラスチックのSP値を転記したものである。
(SP)
2=CEO=ΔE/V=(ΔH−RT)/V=d(CE)/M
[ΔE:蒸発エネルギー(kcal/mol)、V:モル体積(cm
2/mol)、ΔH:蒸発エネルギー(kcal/mol)、R:ガス定数、M:グラム分子量(g/mol)、T:絶対温度(K)、d:密度(g/cm
3)、CE:凝集エネルギー(kcal/mol)]
【0024】
SP値が近いものほど相溶性が高くなるため、高い接着性を示す。本発明においては、SP値が近い水分散性樹脂とヒートシール性樹脂材料を選択して用いるとともに、SP値が近い水溶性樹脂とヒートシール性樹脂材料を選択して用いる。より具体的には、インク受容層中の水分散性樹脂のSP値と、ヒートシール性樹脂材料のSP値とのSP値の差を0以上2未満とすることで、インク受容層とヒートシール層の接着性を良好にすることができるとともに、開封時の裂け目におけるインク受容層のバリの発生及び基材からのインク受容層の剥がれ、並びに折り曲げによるインク受容層の割れ及び基材からのインク受容層の剥がれ落ちを防止することできる。
【0025】
[1]ヒートシール可能な記録シートの構成:
本発明のヒートシール可能な記録シートは、
図1に示すヒートシール可能な記録シート1のように、シート状の基材50と、基材50の一方の面上に配置されるヒートシール性を有するインク受容層53と、基材50の他方の面上に配置されるヒートシール層52とを備える。ヒートシール性を有するインク受容層53と、熱溶着特性を有するヒートシール層52が、基材50を介して配置されていることにより、本発明のヒートシール可能な記録シートは、インク受容層53とヒートシール層52が加熱圧着により接着可能となっている。また、本発明のヒートシール可能な記録シートは、
図31に示すように、基材50とヒートシール性を有するインク受容層53の間に配置される接着層55をさらに備えていてもよい。
【0026】
[1−1]基材:
基材の材質等については特に限定されない。但し、包装フィルムの開封時の裂け目部分におけるインク受容層のバリ及び基材からのインク受容層の剥がれ落ち、並びに折り曲げによるインク受容層の割れ及び基材からのインク受容層の剥がれ落ちを防止する観点から、基材のSP値と、インク受容層に含まれる水溶性樹脂及び水分散性樹脂のSP値が近いことが好ましい。すなわち、基材のSP値と、インク受容層に含まれる水溶性樹脂及び水分散性樹脂のSP値の差が、0以上2未満であることが好ましい。なお、このような基材としてはポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0027】
基材としては、例えば、ポリエステル(PETなど)、ナイロン(脂肪族ポリアミド)、ポリイミド、酢酸セルロース、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ゴム、フッ素樹脂、アイオノマー等の樹脂からなる樹脂フィルム;紙、不織布などが好ましい。
【0028】
上記のなかでも、ポリプロピレン系樹脂からなる樹脂フィルムを基材として用いることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、インク受容層に含まれる水溶性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール)や水分散性樹脂(例えば、アクリル系樹脂)とSP値が近い。このため、ポリプロピレン系樹脂からなる樹脂フィルムを基材として用いると、基材とインク受容層との接着性をさらに高めることができる。ポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン(ホモポリプロピレン)の他、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等を共重合したコポリマーやターポリマーであっても、ある程度の剛性を確保できるものであれば使用することができる。
【0029】
基材の厚さは材料強度等を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。但し、基材の厚さは5μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。基材の厚さを5μm以上とすることで、インク受容層を積層して得られる積層体のカールを防止することができる。ヒートシール可能な記録シートをロール状とする場合は、ヒートシール可能な記録シートの製造装置上での搬送性を向上させるために、基材の厚さは15μm以上であることが好ましい。また、ヒートシール可能な記録シートをカットシート状とする場合は、カットシートのカールを防止する観点から、基材の厚さは30μm以上であることが好ましい。さらに、基材の厚さをさらに好ましくは60μm以下、特に好ましくは50μm以下とすることで、インク受容層とヒートシール層及びヒートシール層同士を加熱圧着して接着させる場合の熱伝達性を良好にすることができる。
【0030】
また、基材は、JIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が50%以上の透明フィルムであることが好ましく、90%以上の透明フィルムであることがさらに好ましい。全光線透過率が上記の範囲である透明フィルムを基材とすることで、
図2及び3に示すように、インク受容層53に反転画像を印字し、ヒートシール層52を外側にして被包装物20を包装し、ヒートシール層52が画像の保護層として機能する包装物を作製する際、ヒートシール層52の側から見た画像の視認性を向上させたり、被包装物20にあらかじめプレプリントしている画像品質を損なわないようにしたりすることができる。このとき、印刷部分が被包装物20の箱デザインの白色又は淡色の部分と重なるように位置調整すると、画像の視認性をより向上させることができる。これにより、四季折々の自然や風物などの季節を感じさせるような印刷や、冠婚葬祭用などの特別な贈り物としての価値を持たせるような印刷など、趣味や価値を持たせるための種々の印刷を包装物に容易に施すことができる。なお、染料インクでインク受容層に画像を記録する場合には、紫外線による染料の分解(光劣化)を防止するために、UVカット剤を含有する基剤を用いることが好ましい。UVカット剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物などの紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛などの紫外線散乱剤などを挙げることができる。
【0031】
[2]インク受容層:
[2−1]インク受容層:
ヒートシール性を有するインク受容層は、インクを受容する層である。インク受容層のタイプとしては、通常、水溶性高分子の網目構造中に色材を受容する膨潤吸収型や、無機微粒子により形成される空隙中に色材を受容する空隙吸収型が存在する。本発明のヒートシール可能な記録シートを構成するインク受容層は、無機微粒子、水溶性樹脂、及び水分散性樹脂を含有する組成物からなる空隙吸収型のインク受容層である。空隙吸収型のインク受容層は、無機微粒子によって形成される空隙によって色材を速やかに吸収することができる。
【0032】
インク受容層を形成する際には、無機微粒子の平均粒子径、水溶性樹脂の重量平均重合度及びけん化度、並びに水分散性樹脂の材質及び添加量などを精密に制御することが好ましい。これにより、インク受容層の透明性(透過性)や、インク受容層と基材との密着性をより向上させることができる。また、インク受容層は、水溶性樹脂及び水分散性樹脂を含有するためにヒートシール性を有する。このため、インク受容層とヒートシール層との接着性を向上させることができる。
【0033】
[2−2]無機微粒子:
無機微粒子は、無機材料からなる微粒子である。無機微粒子は、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。
【0034】
無機微粒子を構成する無機材料の種類は特に限定されない。但し、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品位の画像が形成可能な無機材料であることが好ましい。無機材料の具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ケイソウ土、アルミナ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物、リトポン(硫酸バリウムと硫化亜鉛の混合物)、ゼオライト等を挙げることができる。
【0035】
無機微粒子としては、アルミナ及びアルミナ水和物の少なくともいずれかの物質からなるアルミナ微粒子が好ましい。アルミナ水和物としては、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物などを挙げることができる。アルミナ、ベーマイト構造のアルミナ水和物、及び擬ベーマイト構造のアルミナ水和物は、インク受容層の透明性及び画像の記録濃度を向上させることができるために好ましい。
【0036】
ベーマイト構造のアルミナ水和物は、長鎖のアルミニウムアルコキシドに酸を添加して加水分解・解膠することによって得ることができる(特開昭56−120508号公報参照)。解膠には、有機酸と無機酸のいずれを用いてもよい。なかでも、硝酸を用いることが好ましい。硝酸を用いて解膠することで、加水分解の反応効率を向上させることができ、形状が制御されたアルミナ水和物を得ることができ、分散性が良好な分散液を得ることができる。
【0037】
無機微粒子の平均粒子径は、120〜200nm以下であることが好ましく、140nm〜200nmであることがさらに好ましい。平均粒子径が120nm以上の無機微粒子を用いることで、インク受容層のインク吸収性を向上させることができるとともに、記録後の画像におけるインクの滲みやビーディングを抑制することができる。一方、平均粒子径が200nm以下の無機微粒子を用いることで、無機微粒子による光散乱が抑制され、インク受容層の光沢性及び透明性を向上させることができる。これにより、ヒートシール層の側からの画像の視認性を向上させることができる。さらに、インク受容層に浸透し難い顔料インクで画像を記録した場合でも、インク密度を増加させるために、又は多量のインクを受容させるためにインク受容層の厚さを増大させる必要がない。したがって、インク受容層及びヒートシール可能な記録シート全体を薄くすることができる。また、平均粒子径が上述した範囲にある無機微粒子を用いることで、インク受容層の表面の粗さを、微小な凹凸が多くなるように制御することができる。このため、ヒートシール層との接触面積を大きくすることでき、アンカー効果を発現させて、インク受容層とヒートシール層との接着性をより強固にすることができる。さらに、インク受容層の単位面積当たりの無機微粒子数を増加させ、インク吸収性を向上させることができる。これにより、画像の記録濃度を向上させることができ、記録後の画像のくすみを抑制することができる。
【0038】
無機微粒子は、公知の無機微粒子をそのまま用いてもよいし、粉砕分散機などを用いて公知の無機微粒子の平均粒子径や多分散指数を調整したものを用いてもよい。粉砕分散機の種類は特に限定されない。例えば、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、湿式メディア型粉砕機(サンドミル、ボールミル)、連続式高速撹拌型分散機、超音波分散機などの従来公知の粉砕分散機を用いることができる。
【0039】
粉砕分散機をより具体的に例示すると、以下全て商品名で、マントンゴーリンホモジナイザー、ソノレータ(以上、同栄商事製);マイクロフルイタイザー(みずほ工業製);ナノマイザー(月島機械製);アルティマイザー(伊藤忠産機製);パールミル、グレンミル、トルネード(以上、浅田鉄鋼製);ビスコミル(アイメックス製);マイティーミル、RSミル、SΓミル(以上、井上製作所製);荏原マイルダー(荏原製作所製);ファインフローミル、キャビトロン(以上、太平洋機工製)などを挙げることができる。
【0040】
また、無機微粒子としては、前述の平均粒子径の範囲を満たすとともに、多分散指数(μ/<Γ>
2)が0.01以上0.20以下のものを用いることが好ましく、多分散指数が0.01以上0.18以下のものを用いることがさらに好ましい。多分散指数を上記の範囲に設定することで、無機微粒子の大きさを一定に保つことが可能になる。これにより、インク受容層の光沢性及び透明性を向上させることができる。したがって、画像の記録濃度を向上させることができるとともに、記録後の画像のくすみを抑制することができる。
【0041】
なお、本明細書における平均粒子径及び多分散指数は、動的光散乱法によって測定された値を、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、或いはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法により解析することで求めることができる。動的光散乱の理論によれば、異なる粒径を持つ微粒子が混在している場合、散乱光からの時間相関関数の減衰に分布を有する。この時間相関関数をキュムラント法により解析することで、減衰速度の平均(<Γ>)と分散(μ)が求まる。減衰速度(Γ)は粒子の拡散係数と散乱ベクトルの関数で表されるため、ストークス−アインシュタイン式を用いて流体力学的平均粒径を求めることができる。したがって、減衰速度の分散(μ)を平均の二乗(<Γ>
2)で除した多分散指数(μ/<Γ>
2)は、粒径の散らばりの度合いを表しており、値が0に近づく程、粒径の分布は狭くなることを意味する。本明細書で定義される平均粒子径及び多分散指数は、例えば、レーザー粒径解析装置PARIII(大塚電子製)等を用いて容易に測定することができる。
【0042】
無機微粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。「二種以上」とは、材質自体が異なるものの他、平均粒子径、多分散指数等の特性が異なるものも含まれる。
【0043】
[2−3]水溶性樹脂:
水溶性樹脂は、25℃において水と完全に混和する樹脂、又は25℃の水に対する溶解度が1(g/100g)以上の樹脂である。水溶性樹脂は、無機微粒子を結着するバインダーとして機能する。さらに、水溶性樹脂をインク受容層に含有させることで、インク受容層に熱接着性を付与することができる。
【0044】
水溶性樹脂としては、例えば、澱粉、ゼラチン、カゼイン、及びこれらの変性物;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;ポリビニルアルコール(完全けん化、部分ケン化、低けん化など)及びこれらのこれらの変性物(カチオン変性物、アニオン変性物、シラノール変性物など)などを挙げることができる。
【0045】
水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコールが好ましく、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールがさらに好ましい。ポリビニルアルコールのSP値は、前述した基材のSP値や、ヒートシール層を構成しうるポリプロピレン系材料のSP値と近い。したがって、水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを用いると、基材とインク受容層との密着性や、ヒートシール層とインク受容層との接着性をより向上させることができるために好ましい。
【0046】
ポリビニルアルコールのけん化度は、70mol%以上100mol%以下であることが好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度とは、ポリビニルアルコールの酢酸基と水酸基の合計モル数に対する、水酸基のモル数の百分率を意味する。
【0047】
けん化度が70mol%以上、さらに好ましくは86mol%以上のポリビニルアルコールを用いることで、過度に硬くならず、十分な粘弾性を有するインク受容層を形成することができる。このため、基材とインク受容層との密着性を向上させることができ、密着性の不足により基材からインク受容層が剥がれるといった不具合をさらに抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールを含む塗工液の粘度を低下させることができる。このため、基材に対して塗工液を塗工しやすくなり、ヒートシール可能な記録シートの生産性を向上させることができる。一方、けん化度が100mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下のポリビニルアルコールを用いることで、適度な親水性が付与され、インクの吸収性が向上したインク受容層を形成することができる。このため、インク受容層により高品位の画像を記録することが可能となる。
【0048】
けん化ポリビニルアルコールとしては、完全けん化ポリビニルアルコール(けん化度98mol%以上99mol%以下)、部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87mol%以上89mol%以下)、低けん化ポリビニルアルコール(けん化度78mol%以上82mol%以下)などを挙げることができる。なかでも、部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
【0049】
ポリビニルアルコールの重量平均重合度は、2,000以上5,000以下であることが好ましい。重量平均重合度が2,000以上、好ましくは3,000以上のポリビニルアルコールは適度な粘度を有する。このため、重量平均重合度が上記の範囲にあるポリビニルアルコールを用いることで、十分な粘弾性を有するインク受容層を形成することができる。したがって、基材とインク受容層との接着強度を向上させることができ、接着強度の不足により基材からインク受容層が剥離するといった不具合を抑制することができる。一方、重量平均重合度が5,000以下、さらに好ましくは4,500以下のポリビニルアルコールを用いることで、無機微粒子とポリビニルアルコールを含む塗工液の粘度を低下させることができる。したがって、基材に対して塗工液を塗工しやすくなり、ヒートシール可能な記録シートの生産性を向上させることができる。また、インク受容層の細孔が埋まることを防止し、細孔の開口状態を良好に保つことができ、インクの吸収性が良好となる。したがって、インク受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
【0050】
本明細書における重量平均重合度とは、JIS−K−6726に準拠して算出された値を意味する。水溶性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。「二種以上」とは、けん化度や重量平均重合度などの特性が異なるものも含まれる。
【0051】
[2−4]水分散性樹脂:
水分散性樹脂は、水不溶性樹脂である。水分散性樹脂と水溶性樹脂を併用することで、透明性(透過性)及びインク受容層と基材との密着性が向上したインク受容層を形成することができる。また、水分散性樹脂と水溶性樹脂を併用することで、熱接着性を有するインク受容層を形成することができる。これにより、ヒートシール性を有するインク受容層が形成されるため、インク受容層とヒートシール層との接着性を向上させることができる。水分散性樹脂としては、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸系共重合体等のアクリル系樹脂、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂などを挙げることができる。
【0052】
なかでも、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂のSP値は、基材やヒートシール層を構成しうるポリプロピレン系材料のSP値と近い。また、基材とインク受容層の間に接着層が配置される場合には、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂のSP値は、接着層を構成しうる材料のSP値と近い。したがって、アクリル系樹脂及びウレタン樹脂は、基材とインク受容層、接着層とインク受容層との密着性、及びヒートシール層とインク受容層との接着性をさらに向上させることができるために好ましい。また、アクリル系樹脂やウレタン樹脂は、室温以下で造膜できるようにガラス転移温度Tgを調整することが容易である。
【0053】
[2−4−1]アクリル系樹脂(樹脂エマルション):
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、及びこれらと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより得ることができる。(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸を挙げることができる。なかでも、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できることを考慮すると(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、アクリル系樹脂には、ランダム構造、ブロック構造、及びグラフト構造等のものがあるが、いずれも好適に用いることができる。なかでも、ブロック構造を持つものは、樹脂粒子の強度が高いためより好ましく用いられる。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレンエーテルグルコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンエーテルのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸グリシジル;(メタ)アクリル酸ベンジル等を挙げることができる。
【0055】
前述の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、モノエチレン性不飽和単量体の他に、スチレン系単量体も単量体として用いることができる。スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン等を挙げることができる。すなわち、アクリル系樹脂は、スチレン系単量体に由来する構成単位を有するスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体であることが好ましい。
【0056】
アクリル系樹脂は、架橋剤によって架橋されていてもよい。架橋剤としては、例えば、多官能のイソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド化合物などを挙げることができる。架橋剤は、油溶性及び水溶性のいずれであってもよい。これらの架橋剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤としては、例えば、水系エマルジョンのポリマー粒子を構成する重合体が上記のような特定のアクリル系樹脂である場合には、エポキシ系架橋剤のうち、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、N,N,N’,N’−ペンタグリシジルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルエチレンジアミンなどの2個以上のエポキシ基を含有するポリグリシジル化合物を用いることができる。上記の架橋剤のなかでも、混和性や粘着力を高めることができる観点からは、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0057】
[2−4−2]ウレタン系樹脂:
ウレタン系樹脂としては、例えば、ジオール化合物とジイソシアネート化合物とを種々組み合わせて、重付加反応により合成されたウレタン系樹脂を用いることができる。ジオール化合物及びジイソシアネート化合物は、それぞれ1種単独で使用してもよい。また、種々の目的(例えば、ポリマーのガラス転移温度(Tg)の調整や溶解性の向上、バインダーとの相溶性付与、分散物の安定性改善等)に応じて、それぞれ2種以上を任意の割合で使用することもできる。
【0058】
ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−2,2−プロパン、4,4’−ジヒドロキシフェニルスルホン等を挙げることができる。
【0059】
ジイソシアネート化合物としては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート,1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート,m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等を挙げることができる。
【0060】
[2−5]ガラス転移温度:
水分散性樹脂のガラス転移温度Tgは、下記式(1)を満たすことが好ましく、0℃≦Tg≦30℃を満たすことがさらに好ましい。ガラス転移温度Tgが−35℃以上の水分散性樹脂を用いることで、べとつきが防止されたインク受容層を形成することができる。また、ガラス転移温度Tgが35℃以下の水分散性樹脂は、造膜しやすいため、インク受容層と基材との密着性を向上させて、包装フィルムの開封時の裂け目におけるインク受容層のバリの発生や、基材からのインク受容層の剥離をより有効に防止することができる。また、水分散性樹脂が造膜すると透明性が増すため、インク受容層を透明にすることができる。さらには、加熱圧着時の熱で水分散性樹脂が熱接着性を示すため、ヒートシール層とインク受容層との接着性を向上させることができる。なお、ヒートシール性を有するインク受容層は、60℃以上、好ましくは100℃〜160℃に加熱することで熱接着性を示すので、基材の熱変形も回避することができる。
(1)−35℃≦Tg≦35℃
【0061】
[2−6]水溶性樹脂と水分散性樹脂の添加量:
本発明で使用する水溶性樹脂と水分散性樹脂には以下の作用がある。まず、水溶性樹脂は、無機微粒子のバインダーとして支配的に作用し、基材とインク受容層の密着性を向上させて、基材からインク受容層が剥がれ落ちることを有効に防止することができる。しかしながら、水溶性樹脂は熱接着性が劣る性質を持つため、無機微粒子と水溶性樹脂だけでインク受容層にヒートシール性を発現させることは困難であり、ヒートシール層とインク受容層を接着させることは困難である。一方、水分散性樹脂は、熱接着性が優れる性質を持つため、ヒートシール層とインク受容層との接着性をさらに向上させることができる。また、基材を構成する材料とSP値が近い値を示すことから基材上のインク受容層と密着性を向上させることもできる。しかしながら、水分散性樹脂はエマルションであるため、エマルションが皮膜化しても無機微粒子を固定化するだけのバインダー機能は低い。このため、水溶性樹脂を用いずに無機微粒子と水分散性樹脂でインク受容層を形成するとインク受容層の膜強度が弱いため、基材からインク受容層が剥がれ落ちやすくなる。以上から、本発明で使用する水溶性樹脂と水分散性樹脂の量を下記式(2)及び(3)の関係を満たすように厳密に制御することは、ヒートシール層とインク受容層との接着性および基材上のインク受容層と密着性を両立させる上で重要である。そこで、インク受容層における、無機微粒子の含有量P(g)、水溶性樹脂の含有量A(g)、及び水分散性樹脂の含有量B(g)は、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。無機微粒子の含有量に対する、水溶性樹脂と水分散性樹脂の含有量の合計の比を0.08以上とすることで、基材とインク受容層との密着性や、ヒートシール層とインク受容層との接着性をさらに向上させることができる。また、包装フィルムの開封時の裂け目におけるインク受容層のバリの発生や、基材からのインク受容層の剥離をより有効に防止することができる。一方、無機微粒子の含有量に対する、水溶性樹脂と水分散性樹脂の含有量の合計の比を0.70以下とすることで、インク受容層のインク吸収性がさらに向上する。ここで、無機微粒子の含有量に対する、水溶性樹脂と水分散性樹脂の含有量の合計の比が0.08未満になると、無機微粒子の比率が多くなり、水溶性樹脂や水分散性樹脂の比率が低下する。水溶性樹脂の比率が少なくなると、水溶性樹脂の無機微粒子のバインダーとしての機能が低下するため、インク受容層の膜強度が低下し、包装フィルムとして用いた場合に、開封時に裂け目においてバリが発生したり、インク受容層が基材から剥がれ落ちたり、ヒートシール可能な記録シートを鋭角に折り曲げて包装した場合に、インク受容層が割れたり、インク受容層が基材から剥がれ落ちたりするため、好ましくない。また、水分散性樹脂の割合が低下すると、熱接着性が低下し、ヒートシール層とインク受容層の接着性が低下するため、好ましくない。一方、無機微粒子の含有量に対する、水溶性樹脂と水分散性樹脂の含有量の合計の比が0.70を超えると、インク受容層を構成する水溶性樹脂や水分散性樹脂の量が過剰になる。水溶性樹脂や分散性樹脂の量が多くなると、無機微粒子の細孔が埋まるためにインクの吸収性が低下するため、好ましくない。また、水分散性樹脂の量が多くなると、インク受容層の透明性が低下し、ヒートシール層52の側から見た画像の視認性が低下したり、被包装物20にあらかじめプレプリントしている画像品質が損なわれたりする場合があるので好ましくない。
(2)(A+B)/P=0.08〜0.70
【0062】
また、インク受容層における、水溶性樹脂の含有量A(g)及び水分散性樹脂の含有量B(g)は、上記式(2)に加えて、下記式(3)の関係を同時に満たすことが好ましい。水溶性樹脂の含有量に対する、水分散性樹脂の含有量の比を0.1以上とすることで、水分散性樹脂とヒートシール層の構成材料との分子間力が強くなる。このため、ヒートシール層とインク受容層との接着性をさらに向上させることができる。一方、水溶性樹脂の含有量に対する、水分散性樹脂の含有量の比を2以下とすることで、基材とインク受容層との密着性をさらに向上させ、基材からインク受容層が剥がれ落ちることをより有効に防止することができる。さらに、水分散樹脂の添加により生ずるインク受容層の白色化を防止することができ、インク受容層を透明にすることができる。水溶性樹脂の含有量に対する、水分散性樹脂の含有量の比が0.1未満になると、水分散性樹脂の量が少なくなるため、熱接着性が低下し、ヒートシール層とインク受容層の接着性が低下するため、好ましくない。また、水溶性樹脂の含有量に対する、水分散性樹脂の含有量の比が2.0を超えると水分散性樹脂の量の量が多くなるため、無機微粒子を固定化するだけのバインダー機能が低下し、基材からインク受容層が剥がれ落ちやすくなるため、好ましくない。さらに、インク受容層の透明性が低下し、ヒートシール層52の側から見た画像の視認性が低下したり、被包装物20にあらかじめプレプリントしている画像品質が損なわれたりする場合があるので好ましくない。
(3)B/A=0.1〜2.0
【0063】
[2−7]その他の添加剤:
インク受容層には、必要に応じて、インク受容層へのインクの定着性を向上させる目的でカチオン性樹脂を含有させてもよい。カチオン性樹脂は、分子中にカチオン性の原子団(例えば4級アンモニウム等)を有する樹脂である。カチオン性樹脂は、顔料インクや染料インクを用いた場合に強固に結合する。インク受容層の表面に定着した顔料は、インク受容層の空隙に入り込むことでインク受容層に強固に結着する。しかし、インク受容層にカチオン性樹脂が含まれていると、静電気的な結合力も向上するので、インク受容層と顔料の結着性がさらに向上する。また、染料インクを用いると、
図7に示すように残存水分の影響により染料成分68が染料成分69のように移動(マイグレーション)して、にじみが発生することを抑制することができ、耐水性を向上させることができる。
【0064】
カチオン性樹脂としては、ポリアリルアミン(例えば、アリルアミン系重合物、ジアリルアミン系重合物等)を用いることが好ましい。なかでも、低分子のポリアリルアミンは分子が小さいために、インク受容層の表面に単位面積当たりのカチオン基を多く存在させることができ、静電気的な結合を促進することができるために好ましい。なお、ポリアミンとしては、下記一般式(4)で表されるポリアリルアミンを用いることが好ましい。
【0065】
(一般式(4)中、R
3、R
4、及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、アルケニル基、アルカノール基、アリルアルキル基、又はアリルアルケニル基を示し、X
-は、無機系又は有機系の陰イオンを示し、nは重合度を表す整数である)
【0066】
カチオン性樹脂の重量平均分子量は、1,000以上15,000以下であることが好ましく、1,000以上10,000以下であることがさらに好ましく、1,000以上5,000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量が前記の範囲内であるカチオン性樹脂を用いることで、塗工液の安定性を向上させることができるとともに、インク受容層の空隙が減少しにくくなるため、色材の吸収性を維持することができる。さらに、重量平均分子量が5,000以下のカチオン性樹脂を用いると、インク受容層の表面にカチオン基(すなわち、静電気的な結合を行う吸着サイト)をより多く分布させることができるため、顔料インクや染料インクの定着性をさらに向上させることができる。
【0067】
インク受容層中のカチオン性樹脂の量は、無機微粒子(アルミナ水和物等)に対して、0.01質量%以上5質量%以下とすることが好ましく、0.01質量%以上3質量%以下とすることがさらに好ましい。無機微粒子に対するカチオン性樹脂の量が5質量%を超えると、無機微粒子の分散液や、分散液にバインダーを添加した塗工液の粘度が高くなり、分散液及び塗工液の保存性や塗工性が低下する場合がある。
【0068】
[2−8]インク受容層の厚さ:
インク受容層の厚さは特に限定されない。但し、インク受容層の厚さは5μm以上40μm以下であることが好ましい。インク受容層の厚さを5μm以上、さらに好ましくは8μm以上とすることで、インク受容層のインクの吸収性を十分に確保することができ、インクの定着性がさらに良好となる。一方、インク受容層の厚さを40μm以下、さらに好ましくは20μm以下とすることで、インク受容層の透明性を向上させることができる。さらに、加熱圧着させる際の熱伝導を良好にできるため、ヒートシール層とインク受容層との接着性をより向上させることができる。
【0069】
[2−9]その他:
インク受容層は、後述する画像とは異なる補助的な画像があらかじめ形成(プレプリント)されていてもよい。
【0070】
[3]ヒートシール層:
[3−1]ヒートシール層:
ヒートシール層は、基材の他方の面(インク受容層を配置した面の反対側の面)上に配置される。基材の片方の面にヒートシール層を設けることで、包装体を作製する際に、基材の材料選定の自由度が増す。すなわち、特許文献1で提案された記録用シートのように基材とインク受容層を直接接着することを考慮する必要がなく(基材にヒートシール性を付与させる必要がなく)、包装体としての開封性とインク受容層との接着性のみを考慮して基材を自由に選定することができる。
【0071】
ヒートシール層を構成するヒートシール性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、HDPE、LDPE、L・LDPEを挙げることができる。一方、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン−α−オレフィン共重合体、及びこれらの混合物を挙げることができる。このとき、ヒートシール性、フィルムの透明性、及び耐傷付き性等を勘案すると、α−オレフィンに由来する構成単位の含有率が3〜50モル%のものが好適である。樹脂は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれでもよいが、ランダム共重合体が好ましい。上記のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2〜10のものを挙げることができる。これらのα−オレフィンは、2種以上を用いてもよい。
【0072】
なかでも、プロピレン系樹脂は比較的低温度で接着可能であるために好ましい。また、ヒートシール性樹脂材料は、基材を形成しうるポリプロピレン系樹脂等よりも融点が低いことが好ましい。このような材料としては、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン−1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン−1、ブテン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ペンテン共重合体、これらのうちの2種以上の混合物、及びポリプロピレンとこれらとの混合物が好ましい。なお、目的・用途に応じた接着性が得られるものであれば何ら制限を受けるものではない。
【0073】
[3−2]ヒートシール層の厚さ:
ヒートシール層の厚さは特に限定されない。但し、ヒートシール層の厚さは0.5μm以上40μm以下であることが好ましい。ヒートシール層の厚さを0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上とすることで、加熱圧着させる際の熱伝導を良好にできるため、インク受容層とヒートシール層との接着性をさらに良好にすることができる。一方、ヒートシール層の厚さを40μm以下、さらに好ましくは10μm以下とすることで、ヒートシール層の透明性を向上させることができる。
【0074】
[4]接着層:
[4−1]接着層:
本発明のヒートシール可能な記録シートは、基材とインク受容層の間に配置される接着層をさらに備えることが好ましい。基剤とインク受容層の間に接着層を設けることで、接着層が基材とインク受容層のアンカー層として機能する。このため、基材とインク受容層の密着性を強固にするとともに、ヒートシール可能な記録シートを柔らかくして折り曲げ性を向上させることができる。なお、接着層を構成する材料は、ヒートシール層を構成する材料と同一であっても異なっていてもよい。接着層の構成材料とヒートシール層の構成材料が同一である場合、基材がカールしにくく、基材をより平滑に保つことができる。このため、無機微粒子、水溶性樹脂、及び水分散性樹脂を適当な媒体と混合して調製した塗工液を接着層上に容易に塗布することができる。一方、接着層の構成材料とヒートシール層の構成材料が異なる場合、インク受容層及び基材のいずれにも近いSP値を有する材料を選択できるため、接着層と、インク受容層及び基材との接着性をより高めることが可能となる。
【0075】
接着層を構成する材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンだけでなく、インク受容層に用いられる前述のアクリル系樹脂やウレタン系樹脂を用いることができる。接着層を構成する材料としてアクリル系樹脂やウレタン系樹脂を用いることで、接着層に対するインク受容層を形成するための塗工液の濡れ性を向上させ、塗工液をより容易に塗布することができるために好ましい。
【0076】
アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂は、インク受容層に含まれうる材料でもあるため、接着層とインク受容層のSP値を近くすることができ、アンカー層として密着性をより向上させうる点で好ましい。一方、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂も、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂と同様に、接着層とインク受容層のSP値を近くすることができる。但し、アンカー層としての密着性をより向上させるため、接着層の表面をコロナ放電処理やプラズマ放電処理しておく、或いは、基材の表面にイソプロピルアルコールやアセトン等の有機溶剤を塗布する、等の表面改質処理をしておくことが好ましい。
【0077】
ヒートシール可能な記録シートの折り曲げ特性をより向上させるには、接着層の最低造膜温度(MFT)を23℃とすることが好ましく、0℃以下とすることがさらに好ましい。接着層の最低像膜温度(MFT)を上記の範囲とすることで、接着層を膜状態としてヒートシール可能な記録シートを柔らかく制御することができ、折り曲げ性を向上させることができる。
【0078】
[4−2]接着層の厚さ:
接着層の厚さは特に限定されない。但し、接着層の厚さは0.5μm以上40μm以下であることが好ましい。接着層の厚さを0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上とすることで、アンカー効果をより強く発揮できるようになるため、インク受容層と接着層との密着性をさらに良好にすることができる。一方、接着層の厚さを40μm以下、さらに好ましくは10μm以下とすることで、接着層の透明性を向上させることができる。また、接着層はヒートシール層よりも薄いほうが、ヒートシール可能な記録シートをより平滑に制御できるために好ましい。
【0079】
[4]ヒートシール可能な記録シートの形状と厚さ:
本発明のヒートシール可能な記録シートの形状は、後述する画像記録装置や記録物の製造装置の構造に合わせて、ロール状又はシート状(カットシート状)であってもよい。ロール状とする場合には、インク受容層を外側にしても内側にしてもよい。但し、後述する画像記録装置の搬送機構に最適化させるためには、インク受容層を外側とし、ヒートシール層を内側としてロール状に巻かれたロール状ヒートシール可能な記録シートとすることが好ましい。
【0080】
基材の厚さは、インク受容層の厚さの1.5倍以上5倍以下であることが好ましい。1.5倍以上とすることで、シート状(カットシート状)のヒートシール可能な記録シートのカールを防止することができ、画像記録装置や記録物の製造装置におけるヒートシール可能な記録シートの搬送性を良好にすることができる。一方、5倍以下とすることで、加熱圧着させる際の熱伝達性を良好にすることができる。
【0081】
[5]製造方法:
本発明のヒートシール可能な記録シートは、例えば、基材の一方の面上にヒートシール層を設けた後、無機微粒子、水溶性樹脂、及び水分散性樹脂を含有する塗工液を基材の他方の面に塗工し、基材の他方の面上にインク受容層を形成することによって製造することができる。以下の記載においては、ヒートシール可能な記録シートの項などで既に説明した事項については割愛し、製造方法固有の事項のみ説明する。
【0082】
[5−1]基材:
基材としては、予め表面改質が行われたものを用いてもよい。基材の表面を粗面化する表面改質を行うことにより、基材の濡れ性が向上し、インク受容層やヒートシール層との密着性を向上させることができる場合がある。表面改質の方法は特に限定されない。例えば、基材の表面に、予めコロナ放電処理やプラズマ放電処理を行う方法;基材の表面にIPAやアセトン等の有機溶剤を塗工する方法;などを挙げることができる。これらの表面処理によって、インク受容層やヒートシール層と基材との密着性が高まり、基材からインク受容層やヒートシールが剥離する不具合を防止することができる。
【0083】
[5−2]ヒートシール層の形成:
ヒートシール層は、ヒートシール性樹脂材料を、ドライラミネートや押出しラミネート等によって基材に積層して形成することができる。押出しラミネートによってヒートシール層を形成する方法としては、(i)基材に対して、有機チタネート系、ポリエチレン・イミン、ウレタン系、ポリエステル系等のアンカー剤を塗布し、このアンカー剤の塗布面に、PP、EVA、アイオノマー等によるヒートシール層をフィルム状に溶融押出し成形する押出しラミネート法;(ii)2台以上の押出し機を用いて基材になる樹脂とヒートシール層になる樹脂とを、溶融状態でダイ内部又はダイの開口部で接合させる共押し出しラミネート法等を利用することができる。
【0084】
[5−3]塗工液:
インク受容層は、無機微粒子、水溶性樹脂、及び水分散性樹脂を適当な媒体と混合して調製した塗工液を基材の表面に塗布し、乾燥することによって形成することができる。媒体としては、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体としては、水;水と水溶性有機溶剤との混合溶媒;などを挙げることができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;などを挙げることができる。
【0085】
塗工液には、本発明の効果を妨げない限り、各種添加剤を含有させることができる。反転画像を記録するインクとして染料インクを用いる場合には、染料固着剤を含有させることが好ましい。染料固着剤は染料分子のアニオン性基と結合して塩を形成し、染料を水に対して不溶化させることで、マイグレーションを防止することができる。
【0086】
その他の添加剤としては、例えば界面活性剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、インク定着剤、ドット調整剤、着色剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤などを挙げることができる。
【0087】
塗工液中の無機微粒子の濃度は塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。但し、塗工液の全質量に対し、10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。
【0088】
[5−4]塗工:
基材の表面に上記の塗工液を塗工した後、必要に応じて塗工液を乾燥させることにより、
図1に示すような、ヒートシール層52、基材50、及びインク受容層53が順次積層された積層構造を有するヒートシール可能な記録シート1を得ることができる。
【0089】
塗工方法としては、従来公知の塗工方法を用いることができる。例えば、ブレードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、スロットダイコーティング法、バーコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法などを挙げることができる。
【0090】
塗工液の塗工量は、固形分換算で10g/m
2以上40g/m
2以下とすることが好ましい。塗工量を10g/m
2以上、さらに好ましくは15g/m
2以上とすることで、水分吸収性に優れたインク受容層を形成することができる。したがって、記録された画像中のインクが流れたり、画像が滲んだりする不具合を抑制することができる。一方、塗工量を40g/m
2以下、さらに好ましくは20g/m
2以下とすることで、塗工層を乾燥させる際にカールが発生しにくくなる。また、インク受容層の厚さを薄くすることにより、最終的に形成されるヒートシール可能な記録シートの厚さを薄くすることができ、加熱圧着時の熱伝導性を良好にすることができる。
【0091】
[6]画像の形成:
本発明のヒートシール可能な記録シートを用いれば、被包装体を包装して包装体を作製することができる。そして、ヒートシール可能な記録シートのインク受容層には、使用目的に応じて、包装体を作製する前及び包装体を作製した後のいずれの段階でも画像を形成することができる。
【0092】
包装体の作製前に画像を形成する場合の用途例としては、擦過性や耐水性などの耐久性が印字物に要求される場合などを挙げることができる。この場合は、
図2、3、及び32に示すように、ヒートシール可能な記録シートのインク受容層53に反転画像72を印字した後、保護層となるヒートシール層52が外側となり、インク受容層53が内側となる(被包装物20とインク受容層53が接する)ように被包装物20を包装する。これにより、反転画像72は、ヒートシール層52及び基材50を通して(
図32の場合は、ヒートシール層52、基材50、及び接着層55を通して)正像として視認される。また、ヒートシール層52は保護層として機能しうるため、耐久性に優れた包装体を作製することができる。
【0093】
一方、包装体の作製後に画像を形成する場合の用途例としては、個人カスタマイズされた画像を大量に可変印刷する場合などを挙げることができる。この場合は、
図4、5、及び33に示すように、ヒートシール可能な記録シートのインク受容層53が外側となり、ヒートシール層52が内側となる(被包装物20とヒートシール層52が接する)ように被包装物20を包装して包装体21を作製した後、この包装体21(インク受容層53)に正像画像75を印刷する。なお、グラビア印刷方式では、作製した包装体に画像を印刷するのは困難である。このため、作製した包装体に画像を印刷するには、非接触で印刷できるインクジェット方式が好ましい。
【0094】
本発明のヒートシール可能な記録シートに記録する画像は、染料インクで形成された画像であってもよく、顔料インクで形成された画像であってもよい。例えば、包装体の作製前に画像を形成する場合は、顔料インクで画像を形成することが好ましい。顔料インクで画像を形成すると、インク受容層の表面にインク中の水分や溶媒が残存しにくくなり、乾燥が容易になる。このため、水分や溶媒に起因するマイグレーション(インクの移動)を有効に防止することができる。さらに、顔料インクを用いると、形成される画像の耐光性や耐水性を向上させることができる。一方、包装体の作製後に画像を形成する場合は、染料インクで画像を形成することが好ましい。染料インクは、インク受容層の内部にまで浸透する。このため、インク受容層の表面に残りやすい顔料インクを用いた場合と異なり、擦れなどによる画像の劣化が生じにくくなり、画像品位を良好に保つことができる。
【0095】
図6に示すように、顔料インク中の顔料成分63は粒子径が大きいため、空隙吸収型のインク受容層64中の無機微粒子65で構成される細孔の内部まで浸透せず、インク受容層64の表面で定着する。また、顔料インク中の水分及び溶媒成分62はインク受容層64の内部に浸透し、顔料成分63と分離(固液分離)する。水分及び溶媒成分62はインク受容層64の内部に留まるため、顔料成分63は水分及び溶媒成分62と再度接触することがなく、インクの移動(マイグレーション)が防止される。一方、
図7に示すように、染料インクは、水分の影響により染料成分68が染料成分69のように移動(マイグレーション)してしまうため、にじみが発生するが、耐擦過性に優れる。
【0096】
また、顔料インク中の顔料成分としては、顔料粒子の周りを樹脂で被覆した樹脂分散型の顔料成分を用いることが好ましい。樹脂分散型の顔料成分を用いることによって、インク媒体を分離した後の顔料粒子同士の結着力を高めることができる。これにより、形成される顔料膜上の水分は、顔料膜によってインク受容層中の水分からほぼ遮断される。さらに、下層からの水分補給もほぼ遮断された状態になる。したがって、顔料膜上の水分が少量であれば、自然乾燥によって十分に乾燥される。
【0097】
顔料粒子の周りを被覆する樹脂としては、酸価が100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。酸価が100mgKOH/g以上の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用いると、サーマル方式でインクを吐出するインクジェット記録方式において吐出安定性が向上する。一方、酸価が160mgKOH/g以下の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用いると、顔料粒子に対して相対的に疎水性になるため、インクの定着性及び耐滲み性が良好となる。したがって、インクの高速定着及び高速記録に適する。
【0098】
樹脂の酸価とは、1gの樹脂を中和するのに必要となるKOHの量(mg)を意味し、樹脂の親水性を示す指標となりうる物性値である。なお、樹脂の酸価は、樹脂を構成するモノマーの組成比から計算により求めることもできる。樹脂の酸価の具体的な測定方法としては、例えば、Titrino(Metrohm製)等を使用する電位差滴定法などがある。
【0099】
顔料インクとしては、いわゆる水性顔料インクを用いることが好ましい。水性顔料インクは、水溶性媒体に顔料を分散させて得られるインクである。また、顔料−樹脂分散と呼ばれるタイプであり、ランダム構造である(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を顔料粒子の表面に吸着させて水性媒体中に分散させたものである。水性顔料インクの製造方法は、例えば、特許第4956917号公報等に開示されている。
【0100】
[6−1]顔料:
顔料としては、例えば、カーボンブラックや有機顔料等を挙げることができる。顔料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。カーボンブラックの具体例としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等を挙げることができる。カーボンブラックの商品名としては、例えば、レイヴァン(ロンビア製);ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)、ヴァルカン(Valcan)(以上、キャボット製);カラーブラック(Color Black)、プリンテックス(Printex)、スペシャルブラック(Special Black)(以上、デグッサ製);三菱カ−ボンブラック(三菱化学製)等を挙げることができる。勿論、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを使用することも可能である。カーボンブラックの一次粒子径は、10nm以上40nm以下であることが好ましい。カーボンブラックのBET法による比表面積は、50〜400m
2/gであることが好ましい。カーボンブラックのJIS K6221 A法によって測定されるDBP給油量は、40〜200mL/100gであることが好ましい。カーボンブラックの揮発分は、0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0101】
有機顔料の具体例としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料;リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料;アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料;イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料;ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料;ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料;チオインジゴ系顔料;縮合アゾ系顔料;チオインジゴ系顔料;その他、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等を挙げることができる。
【0102】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、以下のものを例示することができる。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61;C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36;C.I.ピグメントブラウン23、25、26。
【0103】
[6−2]樹脂:
顔料分散体に用いる樹脂としては、疎水性の顔料を水性媒体中に良好に分散させる分散機能を有するものが好ましく、ランダムコポリマーが好ましい。なお、ブロックコポリマーは、顔料の親水性が高くなるものが多く、印字画像の耐水性が劣るものが多いため好ましくない。
【0104】
ランダムコポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、及びそれらと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより得ることができる。(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸を挙げることができ、なかでも、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御しうる(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0105】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレンエーテルグルコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンエーテルのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸グリシジル;(メタ)アクリル酸ベンジル等を挙げることができる。
【0106】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を構成するモノマーには、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、モノエチレン性不飽和単量体の他に、スチレン系単量体も含めることができる。スチレン系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン等を挙げることができる。すなわち、(メタ)アクリル酸エステル共重合物は、スチレン系単量体に由来する構成単位を有するスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体であることが好ましい。
【0107】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合物のスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、6,000〜12,000であることが好ましく、7,000〜9,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲にある(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を用いることで、顔料分散体の分散安定性を高め、粘度が低く設定でき、ヒーター部分でのコゲーションを抑え、長期間安定して印字することができる。(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の重量平均分子量が6,000未満であると、水性顔料分散体の分散安定性が低下する場合がある。一方、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の重量平均分子量が12,000超であると、水性顔料分散体の粘度が高くなるだけでなく、分散性が低下する傾向にある。さらに、ヒーター部分に対するコゲーションが生じやすくなり、サーマル方式インクジェットプリンタのノズル先端からのインク液滴の不吐出が引き起こされやすくなる場合がある。
【0108】
[6−3]顔料分散体:
(メタ)アクリル酸エステル重合物などの樹脂によって顔料を被覆等するとともに、水性媒体中に分散させることで顔料分散体を調製することができる。顔料分散体中の顔料の動的光散乱法により求められる平均粒子径は、70nm以上150nm以下であることが好ましく、80nm以上120nm以下であることがさらに好ましい。顔料の平均粒子径が150nmを超えるとインクの沈降が促進されるため、長期間での分散安定性が損なわれる場合がある。一方、顔料の平均粒子径が70nmより小さいと、十分な発色性や耐候性を有する画像を形成することが困難になる場合がある。
【0109】
顔料の平均粒子径は、例えば、レーザー光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA 150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定することができる。
【0110】
インク中の顔料の量は、インク全量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましく、1.5質量%以上6.0質量%以下であることが特に好ましい。顔料濃度が0.5質量%未満であると画像を十分な発色性を有する画像を形成することが困難になる場合がある。一方、顔料濃度が10.0%質量を超えると、インクの粘度が上昇してしまい、吐出が困難になる場合がある。
【0111】
顔料分散体中の(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の量は、顔料1部に対して、0.2〜1.0部であることが好ましい。顔料1部に対する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の量を上記の範囲とすることで、顔料分散体の分散性を維持するとともに、インクの粘度を低く保つことができる。
【0112】
顔料を(メタ)アクリル酸エステル系重合物で被覆する際には、酸析工程を組み込むことが好ましい。酸析とは、顔料と塩基性物質の水溶液に溶解している(メタ)アクリル酸エステル系共重合物とを含有する液媒体に酸性物質を加え、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物中のアニオン性基を中和前の官能基に戻して、(メタ)アクリル酸エステル系重合物を顔料の粒子表面に析出させることをいう。酸析工程を実施することにより、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との相互作用をより高めることができる。その結果、水性分媒中にマイクロカプセル型複合粒子を分散させることができる。また、水性顔料分散体として、分散到達レベル、分散所要時間、及び分散安定性等の物性面や、耐溶剤性等の使用適性面で、より優れた効果を発揮させることができる。
【0113】
相互作用を高めて得られた析出物を濾別する濾過工程を実施し、好ましくは濾過工程終了後に析出物を洗浄する洗浄工程を実施してフリーポリマーを除去し、塩基性物質とともに水性媒体中に再度分散させる再分散工程を実施することで、分散安定性により優れた水性顔料分散体を得ることができる。
【0114】
[6−4]水溶性化合物:
インクには、水溶性化合物を含有させることができる。「水溶性化合物」は、水と自由に混和するか、又は水に対する溶解度(25℃)が20g/100g以上の化合物である。水溶性化合物は、水溶性有機溶媒及び25℃で固体の化合物の少なくともいずれかであることが好ましい。水溶性化合物を含有させることで、水の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止することができる。
【0115】
水溶性化合物としては、例えば以下に挙げるようなアルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸アミド類、複素環類、ケトン類、アルカノールアミン類:等、各種水溶性有機溶媒を用いることができる。また、尿素、エチレン尿素、トリメチロールプロパン等のような25℃で固体の水溶性化合物を用いることもできる。
【0116】
(1)アルコール類:
メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール等の炭素数1〜5の鎖式アルコール類。
【0117】
(2)多価アルコール類:
エチレングリコール(エタンジオール)、プロパンジオール(1,2−、1,3−)、ブタンジオール(1,2−、1,3−、1,4−)、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルカンジオールの縮合体;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール等のアルカンジオール類以外の多価アルコール類。
【0118】
(3)グリコールエーテル類:
エチレングリコールのモノメチルエーテル;ジエチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル;トリエチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル;テトラエチレングリコールのジメチルエーテル、ジエチルエーテル。
【0119】
(4)カルボン酸アミド類:
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド。
(5)複素環類:
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルモルホリン等の含窒素複素環類;スルホラン等の含硫黄複素環類。
(6)尿素類:
尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N’−ジメチルエチレン尿素)等の尿素類。
【0120】
(7)ケトン類:
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)等のケトアルコール。
(8)アルカノールアミン類:
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン。
(9)その他:
ジメチルスルホキシド、ビスヒドロキシエチルスルホン等の含硫黄化合物。
【0121】
水溶性有機溶媒のなかでは、多価アルコール類が好ましく、グリセリンがさらに好ましい。グリセリンは揮発しにくく、インクの固着を防止する効果に優れる点において好ましい。また、水溶性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、グリセリンと、グリセリン以外の多価アルコール及び含窒素複素環類を併用することも好ましい。この際、グリセリン以外の多価アルコールとしてはトリエチレングリコール等を用いることができる。また、含窒素複素環類としては2−ピロリドン等を用いることができる。このような混合溶媒は、インクの増粘を防止する効果が高い点において好ましい。
【0122】
水溶性有機溶媒の含有率は特に限定されない。但し、水性媒体の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止する効果を得るために、インク全質量に対して5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがさらに好ましく、15質量%以上とすることが特に好ましい。一方、高い駆動周波数にも対応可能とし、また、カビの発生を防止する観点から、インク全質量に対して50質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがさらに好ましく、30質量%以下とすることが特に好ましい。
【0123】
25℃で固体の水溶性化合物としては、尿素、エチレン尿素等を用いることが好ましく、エチレン尿素を用いることがさらに好ましい。25℃で固体の水溶性化合物の含有率は特に限定されない。但し、水性媒体の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止する効果を得るために、インク全質量に対して5質量%以上とすることが好ましく、9質量%以上とすることがさらに好ましい。一方、過剰の添加による不具合を防止するため、インク全質量に対して40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがさらに好ましく、15質量%以下とすることが特に好ましい。
【0124】
[6−5]界面活性剤:
インクの表面張力をコントロールし、画像記録媒体におけるインクのにじみ度合いや浸透性を任意に制御し、ヘッド内でのインクの濡れ性を向上させ、インクのヒーター面上でのコゲーションを防止し、吐出性を向上させる目的で、必要に応じて、インクに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤の具体例を以下に示す。なお、界面活性剤は単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0125】
〔ノニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等。脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール系界面活性剤等。
【0126】
〔アニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォン酸塩等。アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフン酸塩、アルキルフェノールスルフォン酸塩、アルキルナフタリンスルフォン酸塩、アルキルテトラリンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等。
【0127】
〔カチオン性界面活性剤〕
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド等。
【0128】
〔両性界面活性剤〕
アルキルカルボキシベタイン等。
【0129】
なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤やポリオキシエチレンアルキルエーテル等は、インクの吐出安定性を向上させることができるため、特に好ましい。
【0130】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、下記一般式(5)に示す化合物(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物)を用いることが好ましい。
【0131】
(一般式(5)中、U及びVは、それぞれ独立に1以上の整数を示し、U+Vは0乃至20の整数である)
【0132】
[6−6]水:
水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有率は特に限定されない。但し、インクの全質量に対し、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。インク中の水の含有率を30質量%以上とすることにより、顔料及び水溶性化合物を水和させることができ、顔料や水溶性化合物の凝集を防止することができる。一方、インク中の水の含有率を90質量%以下とすることにより、相対的に水溶性化合物の量が増える。このため、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発してしまった場合でも、顔料の分散状態を維持することができ、顔料の析出や固化を防止することができる。
【0133】
[6−7]添加剤:
インクは、目的に応じて、界面活性剤以外の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えばpH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、塩等を挙げることができる。
【0134】
[6−8]粘度:
インクの粘度ηは、1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であることが好ましく、1.6mPa・s以上3.5mPa・s以下であることがさらに好ましく、1.7mPa・s以上3.0mPa・s以下であることが特に好ましい。インクの粘度を1.5mPa・s以上とすることにより、良好なインク滴を形成することができる。一方、5.0mPa・s以下とすることにより、インクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、ひいてはインクの吐出安定性が向上する。
【0135】
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠して、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用いて測定した値を意味する。インクの粘度は、界面活性剤の種類や量の他、水溶性有機溶媒の種類や量等により調整することができる。
【0136】
[6−9]表面張力:
インクの表面張力γは、25mN/m以上45mN/m以下であることが好ましい。表面張力を25mN/m以上とすることにより、インク吐出口のメニスカスを維持することができ、インクがインク吐出口から流出してしまう不具合を防止することができる。また、表面張力を45mN/m以下とすることにより、インクの画像記録媒体への吸収速度を最適にすることができ、インクの吸収不足による定着不良をという不具合を防止することができる。
【0137】
インクの表面張力は、温度25℃、自動表面張力計(例えば、協和界面科学製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味する。インクの表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
【0138】
[6−10]pH:
インクのpHは、7.5以上10.0以下であることが好ましく、8.5以上9.5以下であることが好ましい。インクのpHが7.5未満であると、顔料粒子の分散安定性が低下し、顔料粒子の凝集が起こりやすくなる場合がある。一方、インクのpHが10.0超であると、pHが高すぎるため、使用する装置の部材によってはインクの接触によってケミカルアタックが引き起こされ、有機物や無機物がインク中に溶出して吐出不良が引き起こされる場合がある。インクの粘度は、温度25℃の条件下、pHメーター(例えば、HORIBA製、D−51等)を用いて測定した値を意味する。
【0139】
[6−11]画像の記録:
本発明のヒートシール可能な記録シートのインク受容層にインクジェット記録方式によりインクを付与すれば、画像を記録することができる。
【0140】
インクジェット記録方式とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルからヒートシール可能な記録シートに対してインク(インク滴)を吐出して画像を記録する方式である。インクジェット記録方式の種類は特に限定させず、サーマル方式及びピエゾ方式のいずれも好適に使用できる。但し、駆動パルスに応じた熱エネルギーをノズル内のインクに付与して膜沸騰により気泡を形成させ、この気泡によってノズルからインク滴を吐出させるサーマルインクジェット記録方式が他に比して高解像度であるため好ましい。
【0141】
インクジェット記録方式は、インクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)により実施することができる。インクジェットプリンタは、画像記録時に記録ヘッドとヒートシール可能な記録シートが接触しないので、極めて安定した画像記録を行うことができる点において好ましい。インクジェットプリンタの種類は特に限定されない。但し、インク吐出口及びインク流路などを含むノズルを複数集積したマルチノズルヘッドをヒートシール可能な記録シートの搬送方向と直交するように多数配列させたラインヘッドを備えたフルライン型のインクジェットプリンタを用いることが好ましい。フルライン型のインクジェットプリンタは、ヒートシール可能な記録シートの搬送に合わせて複数のノズルのインク吐出口から同時にインクを吐出させて画像の記録を行う。このため、高品位で高解像度の画像を高速で記録することができる点において好ましい。
【0142】
記録ヘッドのインクの吐出量は、20pL以下であることが好ましく、10pL以下であることがさらに好ましく、5pL以下であることが特に好ましい。インクの吐出量を20pL以下とすることで、インク受容層でのインクの広がりを抑えることができ、稠密で十分な濃度の画像を記録することができるとともに、画像層(インク層)の厚さを抑えることが可能となる。
【0143】
また、記録ヘッドを記録面に対して相対的に移動走査させつつ順次ヒートシール可能な記録シートを搬送する、シリアルヘッド型のインクジェット記録方式を用いてもよい。シリアルヘッドは液滴を小さくできるので、高品位な画像を容易に記録することができる。
【0144】
[6−12]マーキング処理:
また、画像を記録する際に、
図8に示すように、被包装物に対するヒートシール可能な記録シートの位置合わせ用のマーキング162を印刷することができる。このマーキング162を透過型又は反射型のセンサーで読み取ることにより、貼り合わせ位置を正確にすることができる。また、
図9に示すように、マーキング162に加えて、貼り合わせガイド163を印字すると、包装する際の被包装物の位置調整や包装時の折り作業(折り目位置調整)を精度良く行うことができる。
【0145】
[6−13]インクの乾燥:
本発明のヒートシール可能な記録シートに画像を記録する際、画像を形成するインクの水分量が、インクの総打ち込み量に対して70質量%以下となるまで乾燥することが好ましく、50質量%以下となるまで乾燥することがさらに好ましい。これにより、被包装物へのインクの転写を防止することができる。
【0146】
インクの総打ち込み量は、記録ヘッドのインク吐出量により調整することができる。水分量を容易に制御できるように、画像記録時のドット数を予め間引くなどしてインクの打ち込み量を制限してもよい。
【0147】
インクの乾燥は、ハロゲンヒータなどのヒーター(熱源)、ファンなどの排気装置などにより行うことができる。但し、ヒーター等の特別な乾燥手段を設けずに、十分な長さの搬送路を搬送させることによって自然乾燥を促してもよい。
【0148】
[7]ヒートシール可能な記録シートの包装と加熱圧着:
本発明のヒートシール可能な記録シートを用いれば、被包装物を包装することができる。以下、キャラメル包装及び袋タイプの包装の例を示すが、包装方法は以下に示す方法に限定されない。
【0149】
図10は、包装体の一例を模式的に示す斜視図である。
図10に示す包装体21は、ヒートシール可能な記録シートで被包装物をキャラメル包装したものである。包装体21の表面は、インク受容層であってもヒートシール層であってもよく、用途に応じて使い分けることができる。重なり部22及び23は、インク受容層とヒートシール層が接着して形成される部分である。インク受容層とヒートシール層を重なり部22及び23において加熱圧着することで、包装体21が形成される。すなわち、インク受容層とヒートシール層が加熱圧着により接着可能となることで包装体21が作製される。
【0150】
図28は、キャラメル包装の形成過程の一例を模式的に示す斜視図である。また、
図29は、キャラメル包装の形成過程の他の例を模式的に示す斜視図である。
図28は、包装体の表面をインク受容層53とした場合を示しており、包装体を形成した後に画像を記録することができる。また、
図29は、包装体の表面をヒートシール層52とした場合を示しており、包装体を形成する前に画像を記録することができる。包装体を形成する過程において、
図28に示す重なり部37ではヒートシール層52同士が接している。一方、
図29に示す重なり部38では、矢印で示す側面のヒートシール層52と接する。このように、基材の片方の面にヒートシール層を設けることで、ヒートシール層同士を接着することができる。そして、
図10に示す重なり部23の接着性が良好となり、接着不良による重なり部に発生する浮きを防止することができる。
【0151】
また、
図28に示すように、三角状の重なり部37の内側ではヒートシール層52同士が接しており、ヒートシール層52同士を相互に熱接着させることができる。このため、次の折り返し台形部分(ヒートシール層52とインク受容層53との熱接着、及びインク受容層53同士の熱接着)の熱接着包装が折り目正しく安定化する。一方、
図29に示すように、三角状の重なり部38の内側ではインク受容層53同士が接しており、インク受容層53同士を相互に熱接着させることができる。このため、次の折り返し台形部分(インク受容層53とヒートシール層52との熱接着、及びヒートシール層52同士の熱接着)の熱接着包装が折り目正しく安定化する。
【0152】
図11は、包装体の他の例を模式的に示す上面図である。
図11に示す包装体は、紛体28などをヒートシール可能な記録シートで包装して得られる袋タイプの包装体である。ヒートシール層が内側になるように、かつ、インク受容層が外側になるように、ヒートシール可能な記録シートを折り部29で折り返す。そして、ヒートシール層同士が重なった重なり部27を加熱圧着すること(合掌貼り)で包装体を形成することができる。包装体を作製後、外側のインク受容層53に正像画像75を印字する。
図30は、包装体の他の例を模式的に示す斜視図である。
図30に示す包装体は、内包物35などを凹部に収容し、ヒートシール可能な記録シートで封止して得られる錠剤包装体である。内包物35を収容する凹部がヒートシール可能な記録シートと接する面にはヒートシール層40を設けており、ヒートシール層40とヒートシール可能な記録シートのヒートシール層同士が接する重なり部39を加熱圧着することで包装体を形成することができる。包装体を作製後、外側のインク受容層53に正像画像75を印字する。このとき、非接触で画像を記録しうるインクジェット方式は、熱による内容物へのダメージを低減することができる。このため、熱転写方式とは異なり、内容物(紛体28)を封入後に画像を記録できる点で好ましい。
【0153】
なお、本発明のヒートシール可能な記録シートを包装フィルムとして使用したときの封緘部を上記のようにヒートシールによって形成するには、例えば、一定温度に加熱した熱板をシール予定面に圧着するヒートシール法の他、インパルスシール法、熱溶断シール法、インパルス溶断シール法、溶融シール法、高周波シール法、超音波シール法等を適用することができる。
【0154】
加熱圧着の温度は60℃以上に制御することが好ましく、60℃以上160℃以下に制御することがさらに好ましい。加熱圧着の温度を60℃以上とすることにより、ヒートシール層とインク受容層及びヒートシール層同士を接着することができる。一方、加熱圧着の温度を160℃以下とすることにより、過剰な熱よる基材の熱変形を避けることができる。また、被包装物の変形は上記の温度範囲で短時間の加熱により防止することができる。さらに、被包装物にヒートシール層が張り付くことを防止することができる。
【0155】
[8]包装体の開封:
図12に示すように、包装体21の一部分に切れ込み25をいれることで引き手部24を形成することができる。ユーザーが引き手部24を手でつまんで矢印S方向に引くことにより、引き手部24から裂け目26が直ぐに発生する。これにより、容易に開封することができる。本発明のヒートシール可能な記録シートは、インク受容層と基材との接着性が良好であるため、裂け目26におけるバリの発生や、基材からのインク受容層の剥がれ落ちを防止することができる。なお、精度良く開封するため、強度の高い引き手芯部36を引き手部24に設けることも好ましい。
【0156】
[9]第1の製造装置:
図13は、本発明のヒートシール可能な記録シートを用いて包装体を作製する製造装置の第1の構成例(以下、「第1の製造装置」とも記す)を模式的に示す側面図である。引き手芯部24はラミネート等により形成でき、本発明においてはインク受容層53またはヒートシール層Xの上部に形成される。引き手芯部としては公知のものが使用でき、Supastip(PAYNE社製)等が好ましく用いられる。また、引き手芯部は、基材の延伸方向と垂直になるように配置すると開封特性をより向上させることができるため好ましい。
【0157】
[9−1]主要な構成:
製造装置30は、ロール状でかつ外表に巻かれたヒートシール可能な記録シート1を搬送経路へと送り出す供給部2と、搬送経路へと送り出したヒートシール可能な記録シート1に、色材、水、及び不揮発性の有機溶媒などを含有する水系インクを直接吐出して画像を記録する記録部3とを備える。
【0158】
また、製造装置30は、インクが付与されたヒートシール可能な記録シート1の中の水分を蒸発させてインク定着性を向上させるための乾燥部4と、蒸発した水分による装置内の結露を防止するファン5とを備える。
【0159】
さらに、製造装置30は、被包装物を供給する被包装物供給部6と、被包装物をヒートシール可能な記録シート1で包装する包装部7と、包装体を排出する排出部8とを備える。
【0160】
[9−2]動作:
供給部2は、インク受容層が外表となるようにロール状に巻かれたヒートシール可能な記録シート1を図中の矢印に示す方向に回転させ、ヒートシール可能な記録シート1を記録部3へと送り出す。この際、ヒートシール可能な記録シート1はガイド板9で案内されるとともに、グリップローラ10とニップローラ11で挟持され、平坦な状態で記録部3へと搬送される。
【0161】
供給部2からヒートシール可能な記録シート1の搬送が開始されると、記録部3はヒートシール可能な記録シート1のインク受容層に画像を記録する。その後、ヒートシール可能な記録シート1は乾燥部4を通過する。乾燥部4は画像を形成するインク中の水などを蒸発させ、ファン5は蒸発した水分を排気する。これにより、インク受容層に画像が記録されたヒートシール可能な記録シート1が得られる。このとき、包装時の折り作業を精度良く行うためのマーキング印刷も合わせて行う。
【0162】
一方、被包装物供給部6は、被包装物を1つずつ供給する。ヒートシール可能な記録シート1と被包装物は包装部7に搬送される。包装部7において、被包装物をヒートシール可能な記録シート1で包装し、加熱圧着することで包装体が得られる。このとき、切り込み処理も行うことで、包装体には引き手部も形成される。このような動作を経て、包装体を得ることができる。
【0163】
[9−3]第1の製造装置とコントローラとの接続:
図14に示すように、製造装置30(画像形成記録装置)は、ネットワーク47を経由してコントローラ41に接続される。但し、この製造装置30は、ネットワーク47を介さずに、シリアル・ポート、パラレル・ポート、又はUSBポート等を介してコントローラ41に接続することも可能である。製造装置30は、記録部、乾燥部、包装部などを備えるとともに、後述するCPUが記録部に備えられ、記録部、乾燥部、包装部に接続されている。そして、CPUが、記録部、乾燥部、包装部の動作を制御するように構成されている。
【0164】
ネットワーク47は、インターネット、ローカルエリアネットワーク(LAN)等のネットワークであり、有線、無線を問わない。コントローラ41は、製造装置30を制御するためのコンピュータである。コントローラ41は、制御部44、表示部45、入出力部46、記憶部42、通信部43がシステム・バス48を介して互いに接続される。また、コントローラ41にはデジタルカメラや、画像データ等を読み込むためのドライブ装置等が接続される場合もある。さらに、コントローラ41には製版装置等が接続されることもある。
【0165】
制御部44は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を有する。CPUは、記録部、ROM等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、演算処理、動作制御を行い、システム全体を制御する。ROMは、不揮発性メモリであり、プログラム、データ等を恒久的に保持する。また、RAMは、揮発性メモリであり、プログラム、データ等を一時的に保持する。
【0166】
表示部45は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)の表示装置等である。
【0167】
入出力部46は、データの入出力を行う部分である。データの入力を行うものとしては、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等があり、これらの入力部を介して、コントローラ41に対して、操作指示、動作指示、データ入力、維持管理等を行うことができる。また、不図示のスキャナやドライブ装置等と接続され、これらの外部装置からの入力データを制御部44に転送したり、データを外部装置に出力したりする。
【0168】
記憶部42は、データを記憶する装置であり、磁気ディスク、メモリ、光ディスク装置等がある。記憶部42には、制御部44が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(Operating System)等が格納される。また、製造装置30の記録部で記録されるパターンを格納することもできる。通信部43は、コントローラ41とネットワーク47間の通信を媒介する通信インターフェースであり、通信制御装置、通信ポート等を有する。なお、パーソナルコンピュータ等をコントローラ41の代りに用いることも可能である。
【0169】
[9−4]制御系:
図15は、
図13に示す記録部に設けられた制御系の構成を示すブロック図である。ホストPC120から送信された記録データやコマンドは、インターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、記録部の記録データの受信、記録動作、ロ−ル紙Pのハンドリング等、全般的な制御を司る演算処理装置である。CPU100は、受信したコマンドを解析した後、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開する。記録前の動作処理としては、出力ポート114、モータ駆動部116を介してキャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118を駆動し、各々の記録ヘッド33K、33C、33M、33Yをキャッピング位置(待機位置)から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる。
【0170】
続いて、
図13に示すように、一定速度で搬送されるヒートシール可能な記録シート1にインクを吐出し始めるタイミング(記録タイミング)を決定するためのセンサー部31(先端検出センサ)でヒートシール可能な記録シート1の位置を検出する。その後、
図15に示すように、ヒートシール可能な記録シート1の搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する色の記録データを順次に読み出し、この読み出したデータを各々の記録ヘッド33K、33C、33M、33Yに記録ヘッド制御回路112を介して転送する。これにより、記録ヘッドの各ノズルに設けられた吐出エネルギー発生素子が記録データに従って駆動され、駆動された吐出エネルギー発生素子によってノズルからインク滴が吐出される。吐出されたインク滴は、記録ヘッドに対向する位置にあるヒートシール可能な記録シートのインク受容層へと着弾し、ドットを形成する。このドットの集合によって所望の画像が形成される。
【0171】
なお、上記のようなCPU100の動作は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。プログラムROM104には、制御フローに対応する処理プログラム及びテーブルなどが記憶されている。また、作業用のメモリとしてワークRAM108が使用される。
【0172】
[9−5]第1の製造装置の動作フロー:
次に、
図13に示す製造装置30の動作フローを、
図16に示すフローチャートに従って説明する。このフローチャートは、
図15に示すCPU100により実行される。
【0173】
記録部のCPUは、コントローラよりネットワーク又は各種ポートを介して記録データが送信されたか否かを判断し(S101)、記録データが送信されていると判断されると(S101のYES)、供給部からの未記録のヒートシール可能な記録シートの供給を開始させ(S102)センサー部でヒートシール可能な記録シートの検知を行い、センサー部がヒートシール可能な記録シートを検出していなければ(OFFであれば(S103のYES))、ヒートシール可能な記録シートへの記録部による記録動作を開始する(S104)。記録動作が終了すると(S105のYES)、乾燥部は、記録部によって記録されたヒートシール可能な記録シートから余分な水分を蒸発させるための乾燥処理を行う(S106)。
【0174】
一方、前述のようにCPUに記録データが送信されると(S107のYES)、被包装物供給部から被包装物が給送される(S108)。この後、記録部で記録されたヒートシール可能な記録シートとの位置合わせを開始し(S111)、ヒートシール可能な記録シートとの位置合わせが完了した時点で(S113)、先のステップへと進む。このとき、S114のステップはYESとなり、包装部で被包装物はヒートシール可能な記録シートによって包装される(S115)。この後、包装体は(最終記録物)を排出部に積載させる(S116)。
【0175】
[9−6]記録処理:
記録ヘッドに形成された複数のノズルからヒートシール可能な記録シートにインク(インク滴)を吐出して画像を形成するインクジェット方式画像形成装置(インクジェットプリンタ)が広く使用されている。ノズルからインク滴を吐出させる技術として、駆動パルスに応じた熱エネルギーをノズル内のインクに供給して膜沸騰による気泡を形成させ、この気泡によってノズルからインク滴を吐出させる技術が知られている。形成する画像に応じた多数のインク滴がノズルからヒートシール可能な記録シートに吐出されることによりヒートシール可能な記録シートに画像が形成される。
【0176】
インクジェットプリンタには、画像記録速度を向上させるために、インク吐出口及びインク流路等からなるノズルを複数集積したマルチノズルヘッドをヒートシール可能な記録シートの搬送方向に直交させて多数配列させたラインヘッドを用いる、フルライン型のものがある。このフルライン型のプリンタでは、ヒートシール可能な記録シートの搬送に合わせて複数のノズルのインク吐出口から同時にインクを吐出させて画像を記録する。このため、上記のフルライン型のインクジェットプリンタによれば、画像品位で高解像度の画像を高速で形成する、包装時の速度と同速度で印字できるという現在のプリンタに対する要求を満足させることができる。但し、印字部と包装部の間に速度差を生じる場合には、速度差を吸収及び調節するためのたるみ部12(
図17)を設けてもよい。また、インクジェットプリンタは、画像記録時に記録ヘッドとヒートシール可能な記録シートとが非接触であるので、非常に安定した画像記録を行うことができるという利点も有している。
【0177】
図13に示す製造装置30においては、ヒートシール可能な記録シート1は、グリップローラ10とニップローラ11とに挟持されつつ記録部3へと搬送される間に、ガイド板9が存在する。ヒートシール可能な記録シート1はガイド板9の上を通過し、案内されて記録部3に入る。記録部3は、K、C、M、Yからなる4つの記録ヘッドを主な構成要素としている。4個の記録ヘッドは、画像データに応じてインクを吐出し、ヒートシール可能な記録シート1に設けたインク受容層にインク滴を吐出して画像を形成する。
【0178】
[9−7]水分蒸発制御:
インク受容層表面にインクが残存すると、被包装物にインクが転写する場合がある。このため、インクジェット記録後、包装前のインク材転写材の搬送路に効果的な工夫を施したプレ乾燥が必要な場合がある。ヒーター等の特別な乾燥手段を設けずに、転写前に十分な長さの搬送路を備える構成として自然乾燥を促しても良い。また、蒸発したインク成分による装置内部の気流制御や排気手段が必要な場合がある。
図13に示すように、ヒートシール可能な記録シート1上のインク受容層に記録した画像を、乾燥部4とガイド板27の間を通す際に、ハロゲンそれに順ずる熱源及び風、又はこれらの組み合わせによる蒸発機能を持つ乾燥部7によって、受容層に記録した画像に含まれているインクの主成分である水や若干の揮発性溶剤成分を蒸発させる。さらに、蒸発した気体が装置内において結露等するのを防ぐために、ファン10によって気流及び排気の制御を行う。気流制御を併用することによって、インク受容層表面の飽和蒸気圧も改善されて乾燥が促進される場合もある。
【0179】
水分制御によって、インク受容層中のインクの水分量(色材を除く水と不揮発性溶媒等の総量)を、インクの総打ち込み量に対して。好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下に制御する。インクの水分量が70質量%を超えて残る場合には、インク受容層の厚みにもよるが、乾燥が不十分のため、被包装物に未乾燥のインクが転写する場合がある。また、インクの総打ち込み量は、インクの吐出量により異なるが、水分制御が適切に行われるように、予め画像形成時のドット数を間引くなどによって打ち込み量を制限するなどして、適正な打ち込み量に設定することができる。
【0180】
[9−8]包装工程:
図13に示すように、記録部3においてインク受容層に画像が形成されたヒートシール可能な記録シート1は、ガイド板9の上に案内されて包装部7へと移動する。この包装部7においては、枚葉の形態で被包装物供給部6に置かれた被包装物が、レジストガイド14で位置を補正され、ヒートシール可能な記録シート1の搬送に合わせて供給される。
【0181】
包装部7においては、ヒートシール可能な記録シート1で被包装物を包装するとともに、インク受容層とヒートシール層、及びヒートシール層同士が重ね合う部分を加熱圧着する。これにより、インク受容層とヒートシール層、及びヒートシール層同士が強固に接着し、包装体が作製される。
【0182】
また、加熱圧着の温度は、60℃以上160℃以下に制御すればよい。この温度で加熱圧着することで、過剰な熱よる基材や被包装物の変形、又は内容物へのダメージを防止することができるとともに、被包装物にヒートシール層が張り付くことを防止することができる。
【0183】
[10]第2の製造装置:
次に、本発明のヒートシール可能な記録シートを用いて包装体を作製する製造装置の第2の構成例(以下、「第2の製造装置」とも記す)について説明する。
【0184】
図18は、本発明のヒートシール可能な記録シートを用いて包装体を作製する製造装置の第2の構成例を模式的に示す側面図である。
図18に示すように、製造装置32は、ロール状でかつ外表に巻かれたヒートシール可能な記録シート1を搬送経路へと送り出す供給部2と、被包装物を包装部へ供給する被包装物供給部6と、被包装物をヒートシール可能な記録シート1で包装する包装部7と、包装体に水系インクを直接吐出して記録する記録部3とを備える。さらに、製造装置32は、包装体に記録されたインクを乾燥させる乾燥部4と、蒸発した水分による装置内の結露を防止するファン10とを備える。被包装物は、インク受容層が外側になるように包装される。包装体の作製後に画像を記録するする構成が、前述の第1の製造装置との主な相違点である。第1の製造装置との共通部分は、第1の製造装置と同じ装置及び同じ制御系構成を有しているので説明は省略する。
【0185】
[11]第3の製造装置:
第3の製造装置は、印字部と包装部が分離独立している。第3の製造装置では、ラインヘッドを備えたプリンタにロール状に加工したヒートシール可能な記録シートが搭載されている。そして、印字されたヒートシール可能な記録シートはロール状に巻き取られる。その後、公知の包装機によって被包装物をヒートシール可能な記録シートで包装して包装体を得る。ヒートシール可能な記録シートに印字する際にマーキングも同時に印刷し、転写時にはロール上のマーキング処理をセンサーで読み取り、被包装物との位置あわせを自動的に行って包装する。
【0186】
図19は、本発明のヒートシール可能な記録シートに印刷する記録装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図19に示す記録装置は、ヒートシール可能な記録シートに画像を印刷するプリンタ301である。
図20は、
図19中の搬送機構を模式的に示す斜視図である。また、
図21は、ラインヘッドプリンタの搬送機構の構成例を模式的に示す側面図である。まず、
図21に示す巻き出しロール313に、
図22に示すようにインク受容層53が外表になるように巻いたヒートシール可能な記録シート1をセットする。ヒートシール可能な記録シート1は搬送ベルト310によって印字ヘッド311に搬送され、画像が印字された後、巻き取りロール314によって印字物として巻き取られる。
【0187】
なお、
図23に示すヒートシール可能な記録シート1のように、ヒートシール層52が外表になるように巻いたヒートシール可能な記録シート1(内巻きのロール)を用いる場合には、
図24に示すような搬送パスで印字する。内巻きのロールは、インク受容層の表面にゴミ付着を防止する効果がある。
【0188】
[12]第4の製造装置:
第4の製造装置は、印字部と包装部が分離独立している。
図25に示すように、第4の製造装置では、ロール状に加工したヒートシール可能な記録シートをラインヘッドを搭載したプリンタに搭載して印字した後、カット部315でヒートシール可能な記録シートをシート状にカットする。その後、公知の包装機によって被包装物をヒートシール可能な記録シートで包装して包装体を得る。
【0189】
[13]第5の製造装置:
第5の製造装置は、印字部と包装部が分離独立している。第5の製造装置では、カットシート状に加工したヒートシール可能な記録シートを、
図26に示すようなシリアルヘッドを搭載したプリンタに搭載して印字する。その後、公知の包装機によって被包装物をヒートシール可能な記録シートで包装して包装体を得る。
【0190】
[14]第6の製造装置:
第6の製造装置は、印字部と包装部が分離独立している。第6の製造装置では、公知の包装機によって被包装物をヒートシール可能な記録シートで包装して包装体を得る。このとき、インク受容層が外側になるように包装体を作製する。次いで、
図27に示すようなラインヘッドを搭載したプリンタに搭載して画像を印字する。
【0191】
[15]第7の製造装置:
第7の製造装置は、印字部と包装部が分離独立している。第7の製造装置では、公知の包装機によって被包装物をヒートシール可能な記録シートで包装して包装体を得る。このとき、インク受容層が外側になるように包装体を作製する。次いで、
図26に示すようなシリアルヘッドを搭載したプリンタに搭載して画像を印字する。
【0192】
以上説明したように、上記第1〜第7の製造装置によれば、本発明のヒートシール可能な記録シートを用いることで用途に応じた様々な包装体を提供することができる。
【実施例】
【0193】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例の構成のみに限定されるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0194】
<顔料インクの調製>
((メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成)
撹拌装置、滴下装置、温度センサー、及び上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器にメチルエチルケトン1,000部を仕込み、メチルエチルケトンを撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(商品名「ブレンマーTGL」、日本油脂社製)33部、及びペルオキシ−2−エチルヘキサン酸−t−ブチル67部を混合して得た混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価が110mgKOH/g、ガラス転移温度Tgが89℃、重量平均分子量が8,000の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
【0195】
(水性顔料分散体の調製)
冷却機能を備えた混合槽に、フタロシアニン系ブルー顔料1,000部、合成例で得た(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、及び水を仕込み、撹拌及び混合して混合液を得た。なお、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)は、フタロシアニン系ブルー顔料に対して、不揮発分で40%の比率となる量を用いた。また、25%水酸化カリウム水溶液は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)が100%中和される量を用いた。さらに、水は、得られる混合液の不揮発分が27%となる量を用いた。得られた混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。なお、分散液の温度を40℃以下に保持した。
【0196】
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置の流路を洗浄し、洗浄液と分散液を混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら2%塩酸を滴下してpH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液にてpH9.5に調整した。遠心分離器を使用し、6,000Gで30分間かけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整して水性シアン顔料分散体(顔料分:14%)を得た。
【0197】
フタロシアニン系ブルー顔料を、カーボンブラック系ブラック顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料、及びジアゾ系イエロー顔料にそれぞれ変更したこと以外は、上述の水性シアン顔料分散体の場合と同様にして、水性ブラック顔料分散体、水性マゼンタ顔料分散体、及び水性イエロー顔料分散体を得た。
【0198】
(インクの調製)
表2に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体及び各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール社製)で濾過して各色(Bk、C、M、及びY)の顔料インクを調製した。なお、表2中の「AE−100」は、アセチレングリコール10モルエチレンオキサイド付加物(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)を示す。
【0199】
【0200】
<ヒートシール可能な記録シート及び包装体の製造>
(実施例1)
【0201】
[アルミナ水和物分散液の調製]
ベーマイト構造(擬ベーマイト構造)を有するアルミナ水和物(商品名「Disperal HP14」、サソール製)20部を純水に添加した。酢酸0.4部をさらに添加して解膠処理し、アルミナ水和物分散液を得た。得られたアルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物微粒子の平均粒子径は140nmであった。得られたアルミナ水和物分散液にホウ酸0.3部を添加し、20%のホウ酸添加アルミナ水和物分散液を得た。
【0202】
[ポリビニルアルコール水溶液の調製]
ポリビニルアルコール(商品名「PVA235」、クラレ製)をイオン交換水に溶解し、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。なお、ポリビニルアルコールの重量平均重合度は3,500、けん化度は87〜89mol%、SP値は9.4であった。
【0203】
[インク受容層形成用塗工液の調製]
ホウ酸添加アルミナ水和物分散液100部にポリビニルアルコール水溶液25.0部を加えた。水分散性樹脂としてアクリル系樹脂0.74部をさらに加え、スタティックミキサーにより混合してインク受容層形成用の塗工液を調製した。アクリル系樹脂としては、商品名「ビニルブラン2684」(日信化学工業社製、Tg20.0℃、固形分濃度30.0%)を用いた。また、アクリル系樹脂のSP値は9.3であった。
【0204】
[ヒートシール可能な記録シート及び包装体の製造]
調製した塗工液(混合直後のもの)を、基材の一方の表面にヒートシール層があらかじめ形成された積層シートの、基材の他方の表面に塗工し、乾燥して、空隙吸収型のヒートシール可能な記録シートを製造した。塗工液の塗工にはダイコーターを使用し、5m/分の塗工速度で、乾燥後の塗工量が15g/m
2となるように塗工した。また、乾燥温度は100℃とした。なお、積層シートとしては、厚さ25μmで、ポリプロピレン系の基材の一方の表面にポリプロピレン系のヒートシール層が形成された積層シート(商品名「アルファンHS−101」、王子エフテック社製)を使用した。形成されたインク受容層の厚さは15μmであった。また、ヒートシール層のSP値は8.1であった。
【0205】
得られたヒートシール可能な記録シートに、前述の第1の製造装置(
図13に示す製造装置30)を用いて顔料インクにより印刷し、評価に使用するヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。製造装置30の記録部3としては、ラインヘッドを搭載したプリントモジュール(商品名「PM−200Z」、キヤノンファインテック製)を用いた。包装体を製造する際の加熱圧着は、温度150℃、圧力0.5kg/cmで行った。
【0206】
(実施例2)
アクリル系樹脂を、Tg−34.0℃、固形分濃度40.0%の商品名「ビニルブラン2642」(日信化学工業社製)に変更し、添加量を0.55部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0207】
(実施例3)
アクリル系樹脂を、Tg0℃、固形分濃度30.0%の(商品名「ビニルブラン2651」、日信化学工業社製)に変更し、添加量を0.74部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0208】
(実施例4)
アクリル系樹脂を、Tg32℃、固形分濃度40.0%の商品名「ビニルブラン2641」(日信化学工業社製)に変更し、添加量を0.55部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0209】
(実施例5)
アクリル系樹脂を、Tg32℃、固形分濃度28.0%の商品名「ビニルブラン2652」(日信化学工業社製)に変更し、添加量を0.79部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0210】
(実施例6)
アクリル系樹脂の添加量を0.37部、ポリビニルアルコールの添加量を26.3部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0211】
(実施例7)
アクリル系樹脂の添加量を4.44部、ポリビニルアルコールの添加量を11.11部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0212】
(実施例8)
アクリル系樹脂の添加量を5.12部、ポリビニルアルコールの添加量を8.33部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0213】
(実施例9)
アクリル系樹脂の添加量を6.66部、ポリビニルアルコールの添加量を225.00部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た
【0214】
(実施例10)
アクリル系樹脂の添加量を4.44部、ポリビニルアルコールの添加量を150.00部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0215】
(実施例11)
アクリル系樹脂の添加量を0.56部、ポリビニルアルコールの添加量を18.75部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0216】
(実施例12)
アクリル系樹脂の添加量を0.51部、ポリビニルアルコールの添加量を17.31部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0217】
(実施例13)
アルミナ水和物を、商品名「Disperal HP13」(サソール製、アルミナ水和物微粒子の平均粒子径は130nm)に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0218】
(実施例14)
アルミナ水和物を、商品名「Disperal HP18」(サソール製、アルミナ水和物微粒子の平均粒子径は180nm)に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0219】
(実施例15)
アルミナ水和物を、商品名「Disperal HP22」(サソール製、アルミナ水和物微粒子の平均粒子径は220nm)に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0220】
(実施例16)
積層シートを、厚さ30μmで、PET系の基材にPE系のヒートシール層が形成された積層シート(商品名「マイラー850」、帝人社製)に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。なお、ヒートシール層のSP値は8.1であった。
【0221】
(実施例17)
アクリル系樹脂(商品名「ビニルブラン5202C」、日信化学工業社製、MFT18℃、固形分濃度40.0%)を、グラビア印刷機を使用して、基材の一方の表面にヒートシール層があらかじめ形成された積層シートの、基材の他方の表面に5m/分の塗工速度で、乾燥後の塗工量が2g/m
2となるように塗工し、乾燥して接着層を形成した。乾燥温度は100℃とした。また、ヒートシール層のSP値は8.1であり、接着層のSP値は9.25であった。そして、形成した接着層の表面にインク受容層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0222】
(実施例18)
接着層を形成するためのアクリル系樹脂として、商品名「ビニルブラン2651」(日信化学工業社製、MFT0℃、固形分濃度30.0%)を用いたことを除いては実施例17と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0223】
(実施例19)
接着層を形成するための樹脂として、ウレタン系樹脂(商品名「スーパーフレックス170」、第一工業製薬社製、MFT5℃、固形分濃度33.0%)を用いたことを除いては実施例17と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0224】
(実施例20)
積層シートとして、厚さ25μm、ポリプロピレン系の基材の一方の表面にポリプロピレン系の接着層及び他方の表面にヒートシール層が形成されたシート(商品名「アルファンBDH−224」、王子エフテック社製)を用いたことを除いては実施例17と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。なお、接着層の動摩擦係数は0.27であり、ヒートシール層の動摩擦係数は0.23であった。また、接着層及びヒートシールは、コロナ処理により表面処理されていた。
【0225】
(実施例21)
接着層を形成するため樹脂として、ウレタン系樹脂(商品名「スーパーフレックス210」、第一工業製薬社製、MFT23℃、固形分濃度35.0%)を用いたことを除いては実施例17と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0226】
(実施例22)
接着層を形成するためのアクリル系樹脂として、商品名「ビニルブラン2585」(日信化学工業社製、MFT30℃、固形分濃度45.0%)を用いたことを除いては実施例17と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0227】
(比較例1)
インク受容層形成用の塗工液を調製する際に無機微粒子を添加しなかったことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0228】
(比較例2)
インク受容層形成用の塗工液を調製する際に水溶性樹脂を添加しなかったことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0229】
(比較例3)
インク受容層形成用の塗工液を調製する際に水分散性樹脂を添加しなかったことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0230】
(比較例4)
ヒートシール層を有しない基材(商品名「テトロンG2膜厚25μフィルム」、帝人社製)を用いたことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0231】
(比較例5)
アクリル系樹脂を、Tg−39℃、固形分濃度40.0%の商品名「ビニルブラン2650」(日信化学工業社製)に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。
【0232】
(比較例6)
アクリル系樹脂をウレタン樹脂に変更し、ウレタン樹脂をTg43℃、固形分濃度30.0%の商品名「スーパーフレックス620」(第一工業製薬社製)、添加量を0.74部に変更したことを除いては実施例1と同様にして、ヒートシール可能な記録シート及び包装体を得た。なお、ウレタン樹脂のSP値は10.5であった。
【0233】
<評価>
(インク吸収性)
ヒートシール可能な記録シートに画像を記録してインク吸収性を評価した。画像はプリントモジュール(商品名「PM−200Z」、キヤノンファインテック製)を使用して記録した。今回は、記録装置で使用するインクの中で定着性の最も低いマゼンタ(M)インク単色で評価を行った。印刷は単位面積(1200dpi×1200dpi)に対するインク打ち込み濃度を10〜100%の範囲(10%刻み)とし、ヒートシール可能な記録シートにベタ印字を行った。定着性不良には、記録面に対してインクの定着不良で発生する包装体へ転写と、インク受容層の塗工バラツキ等で発生する濃度の不均一がある。印刷後のヒートシール可能な記録シートを目視することによって、包装体への転写と、濃度の不均一の有無を確認し、以下の基準でインク吸収性(定着性)を評価した。結果を表3−1〜3−3に示す。
評価基準(単位面積に対するインク塗布量の割合が、40%の条件において判断する)
◎:画像乱れ(不均一、転写)の発生がない。
○:一部不均一なところはあるが、インクが被包装物に転写しない。
△:被包装物に一部のインクが転写する。
×:インクが乾かずに、被包装物にインクが転写する。
【0234】
(接着性)
包装体を用いて、ヒートシール層とインク受容層との接着性を評価した。具体的には、加熱圧着後の包装体の封止部であるヒートシール層とインク受容層の張り合わせ部分を手で引き剥がし、以下の基準で評価した。結果を表3−1〜3−3に示す。
○:ヒートシール層とインク受容層の張り合わせ部分が接着し剥がれにくい。
△:ヒートシール層とインク受容層の張り合わせの一部分に容易にはがれやすい部分が存在する。
×:ヒートシール層とインク受容層の張り合わせ部分が接着していない。
【0235】
(密着性)
包装体を用いて、基材とインク受容層との密着性を評価した。具体的には、包装体の一部分に切り込みをいれて引手部分を形成し、引手部分を手でつまんで引いた。そして、引手部分から発生する裂け目を目視で確認し、以下の基準で評価した。結果を表3−1〜3−3に示す。
○:裂け目部分にバリが発生せず、インク受容層が基材から剥がれない。
△:一部分にバリ発生やインク受容層が基材から剥がれている部分が存在する。
×:バリが発生しインク受容層が基材から剥がれている。
【0236】
(インク受容層のべとつき性)
ヒートシール可能な記録シートを構成するインク受容層のべとつき性を評価した。具体的には、インク受容層に手で触れた際の張り付き度合いを、以下の基準で評価した。結果を表3−1〜3−3に示す。
○:インク受容層がべとつかない。
△:インク受容層が若干べとつくが手に張り付かない。
×:インク受容層のべとつきがひどく、手に張り付く。
【0237】
(折り曲げ性)
包装体を用いて、基材とインク受容層の折り曲げ性を評価した。具体的には、インク受容層が接触するようにインク受容層を内側にして180°折り曲げた。次に、ヒートシール層が接触するように折り目に沿って折り曲げた。そして、2つの折り目を目視で確認し、以下の基準で評価した。結果を表3−1〜3−3に示す。
○:折り目部分のインク受容層が割れず、基材から剥がれない。
△:インク受容層の一部が割れ、基材から剥がれている部分が存在する。
×:折り目部分のインク受容層が割れ、基材から剥がれている。
【0238】
【0239】
【0240】