特許第6228631号(P6228631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6228631
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】Al合金スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20171030BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20171030BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20171030BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20171030BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C23C14/14 B
   C22C21/12
   H05B33/14 A
   H05B33/26 Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-113609(P2016-113609)
(22)【出願日】2016年6月7日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥野 博行
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−059401(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104141107(CN,A)
【文献】 特開2002−322528(JP,A)
【文献】 特開2016−166392(JP,A)
【文献】 特開2017−043806(JP,A)
【文献】 特開2015−165563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C22C 21/12
H05B 33/14
H05B 33/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを6原子%超17原子%以下、および希土類元素としてNdおよびYよりなる群から選択される少なくとも1種を0.1〜5.5原子%(ただし、Ndについては2.4〜4.0原子%の範囲を、Yについては2.4〜3.0原子%の範囲を除く。)含有し、残部がAlと不可避不純物とから成るAl合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Cuを6原子%超17原子%以下、および希土類元素としてLa、Sc、Gd、Dy、Lu、Ce、PrおよびTbよりなる群から選択される少なくとも1種を0.1〜5.5原子%含有し、残部がAlと不可避不純物とから成るAl合金スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極または絶縁膜などの形成に用いられるスパッタリングターゲット(以下、ターゲットともいう)に関するものであり、詳細には液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置またはタッチパネルなどの入力装置に用いられる電極形成に用いられるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
Al合金は、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、液晶ディスプレイなどの表示装置の分野で汎用されており、配線膜、電極膜または反射電極膜などの材料に利用されている。
【0003】
例えば、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT)を備えており、その配線材料には、一般に、純Al薄膜またはAl−Nd合金などの各種Al合金薄膜が用いられている。
【0004】
Al合金薄膜の形成には、一般にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が採用されている。
【0005】
スパッタリング法は、ターゲットと同じ組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。特に、スパッタリング法で成膜されたAl合金薄膜は、平衡状態では固溶しない合金元素を固溶させることができ、薄膜として優れた性能を発揮することから、工業的に有効な薄膜作製方法であり、その原料となるスパッタリングターゲットの開発が進められている。
【0006】
近年、Al合金薄膜の生産性向上を目的として、成膜レートを従来よりも高速化することが検討されており、例えば、特許文献1および2の方法が提案されている。特許文献1では、Al又はAl合金から成り、そのスパッタ面においてX線回折法で測定された(111)結晶方位含有率が20%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットが開示されている。特許文献1の実施例では、AlにSiを添加したAl−Si系合金において、結晶方位を(111)面にすることで、成膜レートの向上が検証されている。
【0007】
また、特許文献2では、Taを含有することを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲットが開示されている。特許文献2の実施例では、AlにTaを1.5原子%添加し、成膜レートを純Al比1.6倍以上とするAl−Ta合金が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−128737号公報
【特許文献2】特開2012−224942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のAl又はAl合金において(111)結晶方位含有率を20%以上にする方法については、生産性の観点から成膜レートをより改善することが求められる。
【0010】
また、特許文献2に記載のTaを含有するAl合金スパッタリングターゲットについては、Taを1原子%以上添加するとスプレイフォーミングの際にノズルの閉塞を招き、ターゲット製造性が落ちることが懸念される。そのため、ターゲットの製造性を考慮すると成膜レートのさらなる向上は難しくなる。
【0011】
したがって、本発明は成膜レートの向上に寄与し、且つターゲットの製造性に優れるAl合金スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来、Cuの成膜レートに対する向上作用については注目されていなかったが、本発明者らは、Cuを6原子%超17原子%以下と高い添加量で添加したAl合金スパッタリングターゲットは、Taを含有するAl合金スパッタリングターゲットと比較して高い成膜レートを有するとともに、優れた製造性を併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[]に係るものである。
[1]Cuを6原子%超17原子%以下、および希土類元素としてNdおよびYよりなる群から選択される少なくとも1種を0.1〜5.5原子%(ただし、Ndについては2.4〜4.0原子%の範囲を、Yについては2.4〜3.0原子%の範囲を除く。)含有し、残部がAlと不可避不純物とから成るAl合金スパッタリングターゲット。
[2]Cuを6原子%超17原子%以下、および希土類元素としてLa、Sc、Gd、Dy、Lu、Ce、PrおよびTbよりなる群から選択される少なくとも1種を0.1〜5.5原子%含有し、残部がAlと不可避不純物とから成るAl合金スパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0014】
本発明のAl合金スパッタリングターゲットは、Cuを6原子%超17原子%以下含有しているため、Al−Ta合金と比較して、成膜レートを向上できるとともに製造性においても優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、「原子%」と「at%」とは同義である。
【0016】
本発明のAl合金スパッタリングターゲットは、Al合金薄膜をスパッタリング成膜するためのAl合金スパッタリングターゲットであって、Cuを6原子%超17原子%以下含有し、残部がAlと不可避不純物とから成ることを特徴とする。
【0017】
Al合金スパッタリングターゲットとは、純Alおよび合金元素を含むAlを主体とするスパッタリングターゲットである。本発明のAl合金スパッタリングターゲットにおけるCuの含有量は、6原子%超であり、好ましくは7原子%以上である。Cuの含有量を6原子%超とすることにより、製造性に優れ、高い成膜レートを得ることができる。
【0018】
また、Cuの含有量は17原子%以下であり、割れ限界圧下率の低下をさらに抑制するためには好ましくは12原子%以下である。Cuの含有量を17原子%以下とすることにより、SF(スプレイフォーミング)工程での歩留まり、および鍛造工程での割れ限界圧下率の低下を抑制し、ターゲット製造性が急激に低下するのを防ぐことができる。
【0019】
不可避不純物としては、例えば、製造過程などで不可避的に混入する元素、例えば、Fe、Siなどがあり、これらの含有量は合計量で典型的には0.03質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明のAl合金スパッタリングターゲットは、さらに第二添加元素として希土類元素を少量添加しAl−Cu−X合金(X:希土類元素)とすることで、製造性に優れるとともに、希土類元素を添加しない場合よりも成膜レートをさらに向上させることができる。
【0021】
希土類元素の含有量は、0.1原子%以上であることが好ましく、より好ましくは2原子%以上である。希土類元素の含有量を0.1原子%以上とすることにより、上記した第二添加元素による効果を得ることができる。また、希土類元素の含有量は、5.5原子%以下であることが好ましく、より好ましくは3.7原子%以下である。希土類元素の含有量を5.5原子%以下とすることにより、SF工程の歩留まりの低下および割れ限界圧下率の低下を抑制し、ターゲットの製造性が悪化するのを防ぐことができる。
【0022】
希土類元素とは、ランタノイド元素(周期律表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味する。希土類元素の中でも、成膜レートを向上させる観点から、Nd、La、Y、Sc、Gd、Dy、Lu、Ce、PrおよびTbが好ましく、より好ましくはNdである。これらのうち1種または2種以上を任意の組み合わせで用いることができる。
【0023】
本発明のAl合金薄膜は、上記した本発明のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法にて形成することが好ましい。スパッタリング法によれば、成分または膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
【0024】
スパッタリング法でAl合金薄膜を形成する方法としては、例えば、上記ターゲットとして、Cuを6原子%超17原子%以下含有し、残部がAlと不可避不純物とから成るものであって、所望の合金薄膜と同一の組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いてマグネトロンスパッタリング法により形成する方法、および該ターゲットを用いて反応性スパッタリング法により形成する方法等が挙げられる。
【0025】
生産性および膜質制御などの観点を考慮すると、反応性スパッタリング法を採用することが好ましい。反応性スパッタリング法により成膜されたAl合金薄膜としては、例えば、窒化アルミニウム薄膜および酸化アルミニウム薄膜が挙げられる。
【0026】
反応性スパッタリング法の条件は、具体的には例えば、使用するAl合金の種類などに応じて適切に制御すればよいが、以下のように制御することが好ましい。
・基板温度:室温〜400℃
・スパッタパワー:100〜500W
・到達真空度:1×10−5Torr以下
【0027】
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状または構造に応じて任意の形状(例えば、角型プレート状、円形プレート状およびドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
【0028】
上記ターゲットの製造方法としては、例えば、溶解鋳造法、粉末焼結法、スプレイフォーミング法でAl基合金からなるインゴットを製造して得る方法、およびAl基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後に該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0029】
本発明は、上記Al合金薄膜を備えた表示装置および入力装置も含むものである。表示装置の態様として、例えば、前記Al合金膜が、薄膜トランジスタのソース−ドレイン電極並びに信号線に用いられ、ドレイン電極が透明導電膜に直接接続されている表示装置が挙げられる。また、入力装置の態様としては、例えば、タッチパネルなどのように表示装置に入力手段を備えた入力装置が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
(1)スパッタリングターゲットの作製
スプレイフォーミングにて110kgを溶解し、Al合金プリフォームを得た後、プリフォーム重量を重量計により測定し、スプレイフォーミング時での歩留まり(SF歩留まり)を算出した。得られたプリフォームをカプセルに封入し脱気して、HIP装置で緻密化した。そして450℃にて加熱を施した後、鍛造工程にて下記式を用いて圧下率を算出した。
圧下率:(L−L)/L×100 (%)
初期サンプル長さ:L、圧下後サンプル長さ:L
また圧下時に目視によりサンプルの割れを確認し、割れが確認された直前の圧下率を割れ限界圧下率とした。
【0032】
SF歩留まりについては、下記基準により評価した。
SF歩留まり = プリフォーム重量/溶解原料(110kg)×100 (%)
○:40%以上
△:30%超〜40%未満
×:30%以下
【0033】
割れ限界圧下率については、下記基準により評価した。
○:50%以上
△:30%超〜50%未満
×:30%以下
【0034】
(2)成膜
透明基板として無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を用い、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表1に示すAl合金を成膜した。成膜に当たっては、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10−6Torrに調整してから、上記金属膜と同一の成分組成を有する直径4インチの円盤型スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行った。
【0035】
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:19sccm
・スパッタパワー:500W
・基板温度:室温
・成膜温度:室温
・成膜時間:10分間
【0036】
(3)成膜レートの算出
作製した薄膜の膜厚を触針段差計(NTS製 Alpha Step250)によって測定した。膜厚の測定は薄膜中心部から、半径方向に3点測定しその平均値を膜厚(Å)とした。このようにして得られた膜厚をスパッタリング時間(s)で除して、平均成膜速度(Å/s)を算出した。
【0037】
後述する実施例1では、Al合金平均成膜速度を純Al平均成膜速度にて除して成膜レート比を求めた。表1に示していないが、Al−1原子%Taの成膜レート比(成膜レート:純Al比)は1.5倍であった。したがって、成膜レート比が、Al−1原子%Taの成膜レート比である1.50を超える場合を、合金化による成膜レートの向上効果が認められる範囲とした。また、実施例2では、Al−7原子%Cu−希土類合金の平均成膜速度を、Cuを7原子%含有するAl合金にて除して成膜レート比を求めた。
【0038】
(4)総合判定
総合判定については、下記基準により評価した。
○:成膜レート比が1.50以上であり、SF歩留まりおよび割れ限界圧下率の少なくとも一方が○である。
△:成膜レート比が1.50以上であり、SF歩留まりおよび割れ限界圧下率がいずれも○ではない。
×:成膜レート比が1.50以上であるがSF歩留まりおよび割れ限界圧下率の少なくとも一方が×である、または成膜レート比が1.50以下である。
【0039】
<実施例1>
表1に示す組成のAl膜を成膜し、成膜レートおよび製造性について評価した。結果を表1に示す。表1において、例1〜4は実施例、例5〜8は比較例である。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように例1〜7の純Al、Al−1原子%Cu〜Al−17原子%CuではCu添加量の増大に伴い、成膜レートの向上が確認され、例4のAl−17原子%Cuでは純Al比2.12倍まで向上した。
【0042】
例1〜4のAl−6.1原子%Cu〜Al−17原子%CuではAl−1原子%Ta(1.50倍)より速い成膜速度が確認されたが、成膜レートが向上した。一方、例5〜8に示す純Al、Al−1原子%CuおよびAl−5原子%Cuの成膜レート比はAl−1原子%Taと同等程度以下であり、成膜レートが向上しなかった。この結果から、Al合金スパッタリングターゲットにおけるCuの含有量を6原子%超とすることにより、成膜レートが向上することがわかった。
【0043】
また、例4に示すように、Cuの含有量が12原子%を超えると割れ限界圧下率が低下することから、Cuの含有量を12原子%以下とすることにより、割れ限界圧下率の低下を抑制できることがわかった。Cuの含有量の増加に伴い割れ限界圧下率が低下した要因として、添加元素の増大に伴い、ターゲット中の金属化合物が増大したため、ターゲット硬度が増加し、結果割れが発生したと考えられる。
【0044】
また、例8に示すように、Al−17原子%CuよりCu添加量が多い範囲では、ターゲット製造時の加工工程に割れが頻発し、生産性が悪くなることがわかった。この結果から、Cuの含有量を17原子%以下とすることにより、ターゲットの生産性を向上できることがわかった。
【0045】
<実施例2>
実施例1で抽出したAl−Cu合金に、少量で成膜レートの向上作用が確認されている、希土類元素を添加し、Al−Cu−X合金(X:希土類元素)とすることで、さらなる成膜レートの向上作用を確認した。成膜レートおよび製造性を評価した結果を表2に示す。表2において、例9〜24は実施例、例25および26は比較例である。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、例9〜24のAl−7原子%Cu−希土類合金では、Al−7原子%Cu合金に対する成膜レート比が1.01〜1.78であり、成膜レートの向上作用が確認された。これに対して、例25では希土類元素の添加量が0.05原子%と少なすぎるため、第二添加元素による成膜レート向上作用は確認されなかった。また、例26は、希土類元素の添加量が6原子%と多すぎるため、割れ限界圧下率が基準に達しなかった。
【0048】
この結果から、さらに第二添加元素として、0.1〜5.5原子%の希土類元素を添加することにより、Al合金スパッタリングターゲットの成膜レートを向上できることがわかった。
【要約】      (修正有)
【課題】成膜レートの向上に寄与し、且つターゲットの製造性に優れるAl合金スパッタリングターゲットの提供。
【解決手段】Cuを6原子%超17原子%以下含有し、残部がAlと0.1〜5.5原子%のNd、La、Y、Sc、Gd、Dy、Lu、Ce、Pr及びTbから選択される少なくとも1種の希土類元素と不可避不純物とから成るAl合金スパッタリングターゲット。反応性スパッタリングで成膜された、窒化アルミニウム薄膜又は酸化アルミニウム薄膜
【選択図】なし