(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、扇板状のヨーク部と、ヨーク部から突出するティース部とを一体に有する圧粉磁心を成形する際の金型の破損原因について鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
【0014】
図28に示すような、扇板状のヨーク部110と、ヨーク部110の扇状の平面から垂直方向に突出するティース部120とを有する圧粉磁心100を成形する場合を検討した。このような圧粉磁心100を成形する場合、
図29、
図30に例示するような構成の金型500を用いることが考えられる。この金型500は、扇状の型孔510hを有するダイ510と、ダイ510の型孔510hに嵌合される上パンチ520及び下パンチ530とを備える。ダイ510はヨーク部110の周面を成形する。上パンチ520はヨーク部110の下面(ティース部120が突出される面とは反対側の面)を成形する端面520fを有する。下パンチ530は第1下パンチ540と第2下パンチ550とからなる。第1下パンチ540は、ティース部120の周面を成形する貫通孔540hを有すると共に、ティース部120が突出するヨーク部110のティース形成面を成形する環状端面540oを有する。環状端面540oは平坦面に形成されている。第2下パンチ550は、第1下パンチ540の貫通孔540hに挿通され、ティース部120の上端面を成形する端面550fを有する。
【0015】
このような金型500を用いて圧粉磁心100を成形する場合、ダイ510の型孔510hと下パンチ530により形成される金型500のキャビティに、軟磁性粉末を主原料とする原料粉末を充填し、上パンチ520と下パンチ530により圧縮して、圧粉磁心100を成形する。原料粉末を圧縮した際、粉末が圧縮されることにより、第1下パンチ540における貫通孔540hの内周面に側圧が作用する。
図30中、黒塗り矢印は第1下パンチ540に作用する側圧を表す。そして、第1下パンチ540に側圧が作用することにより、第1下パンチ540の貫通孔540hが押し広げられる結果、第1下パンチ540の内周角部に応力が集中し、第1下パンチ540が破損する原因になるとの知見を得た。特に、圧粉磁心100を高密度化するために成形圧を高くした場合は、第1下パンチ540に作用する側圧が大きくなることから、第1下パンチが変形して破損し易い。
【0016】
[本発明の実施形態の説明]
以下、本発明の実施態様を列記して説明する。
【0017】
(1)本発明の一態様に係る圧粉磁心は、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる圧粉磁心であって、
扇板状のヨーク部と、
前記ヨーク部と一体成形され、ヨーク部から突出するティース部とを有し、
前記ヨーク部の表面のうち、前記ティース部が突出される面をティース形成面とするとき、前記ティース形成面は、前記ティース部の周縁と前記ヨーク部の周縁との間に形成される凹部を有する。
【0018】
上記圧粉磁心は、ヨーク部のティース形成面に凹部が形成されている。そのため、この圧粉磁心を成形する金型には、この凹部に対応する凸部が形成された環状端面を有する第1下パンチが用いられる。このような金型(第1下パンチ)を用いて圧粉磁心を成形する場合、原料粉末を圧縮する際、原料粉末に凸部が進入することでアンカー効果が生じ、側圧による第1下パンチの変形が抑制される。そのため、圧粉磁心を高密度化するために成形圧を高くしても、第1下パンチの内周角部に発生する応力を低減でき、第1下パンチの破損が起こり難い。したがって、金型(第1下パンチ)の破損を抑制できるので、上記圧粉磁心は、高密度化が可能で、生産性に優れる。
【0019】
(2)上記圧粉磁心の一態様として、前記凹部が、前記ヨーク部の周方向両側の周縁に沿って形成されていることが挙げられる。
【0020】
凹部がヨーク部の周方向両側の周縁に沿って形成されている場合、第1下パンチの環状端面に有する凸部は第1下パンチの周方向両側の周縁に沿って形成され、これにより、圧縮成形時の側圧による第1下パンチの変形を効果的に抑制できる。そのため、第1下パンチの内周角部に発生する応力を低減する効果が高く、第1下パンチの破損を効果的に抑制できる。したがって、圧粉磁心をより高密度化できる。
【0021】
(3)上記圧粉磁心の一態様として、前記凹部が、前記ティース部の周縁に沿って全周に亘って形成されていることが挙げられる。
【0022】
凹部がティース部の周縁に沿って全周に亘って形成されている場合、第1下パンチの環状端面に有する凸部は第1下パンチの貫通孔の周縁に沿って全周に亘って形成され、圧縮成形時の側圧による第1下パンチの変形をより一層抑制できる。そのため、第1下パンチの内周角部に発生する応力を低減する効果がより高く、第1下パンチの破損をより一層抑制できる。したがって、圧粉磁心を更に高密度化できる。
【0023】
(4)上記圧粉磁心の一態様として、前記凹部が、前記ティース部側に向かって傾斜する傾斜面を有することが挙げられる。
【0024】
凹部がティース部側に向かって傾斜する傾斜面を有することで、この傾斜面に対応するように、第1下パンチの環状端面に形成された凸部が貫通孔側に向かって傾斜する傾斜面を有することになる。原料粉末を圧縮する際、凸部の傾斜面に圧力が作用する。この傾斜面は貫通孔側に向かって傾斜することから、傾斜面が受ける圧力は、第1下パンチにおける貫通孔の内周面に作用する側圧を相殺する方向に働く。よって、圧縮成形時に凸部の傾斜面が受ける圧力を利用して、第1下パンチに作用する側圧の少なくとも一部を相殺することが可能となり、側圧による第1下パンチの変形がより抑制される。したがって、第1下パンチの内周角部に発生する応力をより低減でき、第1下パンチの破損をより抑制できるので、圧粉磁心の高密度化と生産性の向上とを図ることができる。
【0025】
(5)上記圧粉磁心の一態様として、相対密度が90%以上であることが挙げられる。
【0026】
圧粉磁心を高密度化することで、圧粉磁心の磁気特性(磁束密度、透磁率など)を向上できる。圧粉磁心の相対密度が90%以上であることで、優れた磁気特性を発揮できる。より好ましい相対密度は93%以上である。
【0027】
(6)本発明の一態様に係るステータコアは、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられるステータコアであって、
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の圧粉磁心を有し、
複数の圧粉磁心が環状に組み合わされて構成されている。
【0028】
上記ステータコアによれば、上述した本発明の一態様に係る圧粉磁心で構成されていることから、圧粉磁心の高密度化によって、磁気特性を向上できる。
【0029】
(7)本発明の一態様に係るステータは、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられるステータであって、
上記(6)に記載のステータコアと、
前記ステータコアを構成する前記圧粉磁心の各ティース部に配置されるコイルと、を備える。
【0030】
上記ステータによれば、上述した本発明の一態様に係るステータコアを備えることから、ステータコアを構成する圧粉磁心の高密度化によって、磁気特性を向上できる。
【0031】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る圧粉磁心、ステータコア及びステータの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
<圧粉磁心>
[実施例1]
図1〜
図4を参照して、実施例1に係る圧粉磁心10について説明する。圧粉磁心10は、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる圧粉磁心、より具体的には、ステータコアを構成する圧粉磁心であり、扇板状のヨーク部11と、ヨーク部11から突出するティース部12とを有する。この圧粉磁心10の特徴の1つは、ヨーク部11の表面のうち、ティース部12が突出される面をティース形成面15とするとき、ティース形成面15が、ティース部12の周縁とヨーク部11の周縁との間に形成される凹部30を有する点にある。以下の説明では、圧粉磁心10について説明するときは、ティース部12が突出する側を上、その反対側を下とする。
【0033】
(ヨーク部)
ヨーク部11は、
図1、
図2に示すように、圧粉磁心10を構成する扇板状の部分である。ヨーク部11は、扇形状の平面を有し、一方の平面(表面)からティース部12が突出するように形成されており、ティース形成面15を有する。この例では、ヨーク部11の厚さTyが4.9mm、幅Wyが34.6mmであり、中心角αが60°である(
図2、
図4参照)。
【0034】
(ティース部)
ティース部12は、
図1、
図2に示すように、ヨーク部11に一体に成形され、ヨーク部11のティース形成面15から垂直方向に突出する部分である。この例では、ティース部12の形状が三角柱状であり、ティース部12の上端面の端面形状が三角形状、より具体的には二等辺三角形状である。ティース部12の形状はこれに限定されるものではなく、例えば、端面形状が台形状などであってもよい。なお、「三角形状」及び「台形状」とは、幾何学的に厳密な意味での三角形及び台形でなくてもよく、完全な三角形及び台形に限らず、角部に丸みを有するものなども含めて、実質的に三角形及び台形とみなされる範囲を含む。アキシャルギャップ型の回転電機の場合、ロータと対向するティース部12の対向面積が大きい方が性能向上に有利であることから、ティース部12の対向面積が大きくなるように、ティース部12の形状(端面形状)を適宜選択することが好ましい。また、ティース部12の個数は、1個でも複数でもよく、この例では、隣り合う2個のティース部12を有する。アキシャルギャップ型の回転電機の場合、隣り合う2個のティース部12でヨーク部11を介して磁気回路を形成するため、ティース部12の個数は2n(nは自然数)個とすることが好ましい。
【0035】
ティース部12の周縁は、
図2に示すように、ヨーク部11の周方向に交差する2つの側縁21、22と、ヨーク部11の径方向外側に位置して両側縁21、22に交差する外周縁23により構成されており、両側縁21、22が外周縁23よりも長い。ヨーク部11の周方向外側に位置するティース部12の側縁21は、ヨーク部11の周方向両側の周縁に沿っている。ヨーク部11の周方向は、後述するように複数の圧粉磁心10を組み合わせて環状のステータコア210(
図23参照)を構成したとき、ステータコア210の周方向に対応する。この例では、ティース部12の幅Wtが22.4mm、高さHtが12.9mmであり、ティース部12の周縁からヨーク部11の周縁までの距離Lが6.1mmである(
図3、
図4参照)。
【0036】
(凹部)
凹部30は、ティース形成面15に設けられている。この例では、
図2に示すように、凹部30がティース部12の周縁に沿って全周に亘って形成されているが、凹部30はティース部12の周縁とヨーク部11の周縁との間に形成されていればよい。また、凹部30は、一連として環状に形成されていてもよいし、複数に分けて上記環状の周方向を分断するように形成されていてもよい。凹部30は、少なくともヨーク部11の周方向両側の周縁に沿って形成されていることが好ましく、ティース部12の側縁21に沿って形成されていることがより好ましい。凹部30がヨーク部11の周方向両側の周縁に沿って形成されている場合、圧粉磁心10を成形する際、後述するように、金型(第1下パンチ)の破損を効果的に抑制できるからである。特に、この例に示すように、凹部30がティース部12の周縁全周に亘って形成されている場合は、金型(第1下パンチ)の破損をより一層抑制できる。その他、ティース部12が一対ある圧粉磁心10に部分的に凹部30を設ける場合は、側縁22側に凹部30がなくてもよい。
【0037】
この例に示す凹部30の断面形状は、
図3、
図4に示すように、半円形状であり、円弧状の曲面を有する。「凹部の断面形状」とは、凹部30の長手方向に直交する面(ティース部12の周面に直交する面)で切断した断面の形状をいう。凹部30の断面形状はこれに限定されるものではなく、例えば、三角形状(V字状)や矩形状(U字状)などであってもよい。なお、「半円形状」、「三角形状」及び「矩形状」とは、幾何学的に厳密な意味での半円形、三角形及び矩形でなくてもよく、完全な半円形、三角形及び矩形に限らず、実質的に半円形、三角形及び矩形とみなされる範囲を含む。凹部30の断面形状は、角部が曲面(R形状)であることが好ましく、これにより、角部に起因する亀裂の発生を抑制し易い。角部をR形状とする場合、角部の曲率半径が0.2mm以上であることが好ましい。
【0038】
凹部30の深さは、例えば0.5mm以上2.5mm以下であることが挙げられる。凹部30の深さが0.5mm以上であることで、金型(第1下パンチ)の破損を抑制し易い。凹部30の深さが2.5mm以下であることで、凹部30によるヨーク部11の磁路面積の減少を抑制でき、磁路面積の減少による磁気特性の低下を抑制し易い。凹部30の深さは、例えば1mm以上2mm以下であることが好ましい。この例では、凹部30の曲率半径Rが1mmであり、深さDが1mmである(
図3参照)。
【0039】
(構成材料)
圧粉磁心10は、軟磁性粉末を圧縮成形したものであり、主として軟磁性粉末で構成されている。軟磁性粉末は、軟磁性材料からなる粉末であり、複数の粒子から構成されている。軟磁性粉末としては、例えば、純鉄(純度99質量%以上)、及び、Fe−Si−Al系合金(センダスト)、Fe−Si系合金(ケイ素鋼)、Fe−Al系合金、Fe−Ni系合金(パーマロイ)などの鉄基合金から選択される少なくとも一種の粉末が挙げられる。圧粉磁心10を構成する軟磁性粉末は、粒子表面に絶縁被覆を有することが好ましい。軟磁性粉末の粒子表面に絶縁被覆が形成されていることで、絶縁被覆により粒子間の電気的絶縁を確保し、渦電流損に起因する圧粉磁心10の鉄損を低減できる。絶縁被覆としては、例えば、リン酸塩被覆やシリカ被覆などが挙げられる。
【0040】
(相対密度)
圧粉磁心10の相対密度は90%以上であることが好ましく、高密度化により磁気特性を向上できる。より好ましい相対密度は93%以上である。「相対密度」とは、圧粉磁心(軟磁性粉末)の真密度に対する、実際の圧粉磁心の密度の比率(%)のことである。
【0041】
<圧粉磁心の製造方法>
実施例1に係る圧粉磁心10の製造方法の具体例を説明する。圧粉磁心の製造方法は、金型のキャビティに、軟磁性粉末を主成分とする原料粉末を充填する充填工程と、充填された原料粉末を圧縮して圧粉磁心を成形する成形工程と、金型から圧粉磁心を抜き出す抜き出し工程とを備える。圧粉磁心の製造方法の特徴の1つは、圧粉磁心の成形に用いる金型にある。以下、図面を参照して、圧粉磁心の製造方法について詳しく説明する。以下の説明では、金型について先に説明し、その後で製造方法の各工程について説明する。
【0042】
<金型>
圧粉磁心10を成形する金型の具体例を、
図5〜
図8を参照して説明する。金型50は、
図5、
図6に示すように、型孔51hを有するダイ51と、ダイ51の型孔51hに嵌合される上パンチ52及び下パンチ53(第1下パンチ54及び第2下パンチ55)とを備え、ダイ51の型孔51hと下パンチ53により原料粉末を充填するキャビティが形成される。
図7中、黒塗り矢印は原料粉末を圧縮した際に第1下パンチ54に作用する側圧を表す。
図8は、金型50の要部を説明する概略縦断面図であり、原料粉末を圧縮して圧粉磁心10を成形した状態を示す。
【0043】
(ダイ)
ダイ51は、
図6、
図7に示すように上下方向に貫通する扇形状の型孔51hが形成されており、ヨーク部11の周面を成形する(
図8参照)。
【0044】
(上パンチ)
上パンチ52は、
図5、
図6に示すようにダイ51の上側に位置し、ヨーク部11の下面(ティース形成面15とは反対側の面)を成形する扇形状の端面52fを有する(
図8参照)。上パンチ52は、上下方向に駆動可能であり、下パンチ53と共に、キャビティに充填された原料粉末を圧縮する。
【0045】
(下パンチ)
下パンチ53は、
図5、
図6に示すようにダイ51の下側に位置し、第1下パンチ54と第2下パンチ55とからなる。第1下パンチ54及び第2下パンチ55はそれぞれ、ダイ51に対して上下方向に独立して駆動可能である。
【0046】
(第1下パンチ)
第1下パンチ54は、
図6、
図7に示すように、ダイ51の型孔51hに嵌合される。第1下パンチ54には、上下方向に貫通する貫通孔54hが形成されており、第1下パンチ54の上端面は、貫通孔54hの開口部が形成された環状端面54oになっている。第1下パンチ54は、
図8に示すように、貫通孔54hによりティース部12の周面を成形すると共に、環状端面54oによりティース形成面15を成形する。この例では、ティース部12に対応するように、隣り合う2個の貫通孔54hを有しており、貫通孔54hの形状が三角柱状である。
【0047】
貫通孔54hの周縁は、
図7に示すように、第1下パンチ54の周方向に交差する2つの側縁54a、54bと、第1下パンチ54の径方向外側に位置して両側縁54a、54bに交差する外周縁54cにより構成されており、両側縁54a、54bが外周縁54cよりも長い。第1下パンチ54の周方向外側に位置する貫通孔54hの側縁54aは、第1下パンチ54の周方向両側の周縁に沿っている。第1下パンチ54の周方向は、ヨーク部11(
図2参照)の周方向に一致しており、複数の圧粉磁心10を組み合わせて環状のステータコア210(
図23参照)を構成したとき、ステータコア210の周方向に対応する。
【0048】
第2下パンチ55は、
図6、
図7に示すように、第1下パンチ54の下端から貫通孔54hに挿通され、ティース部12の上端面を成形する三角形状の端面55fを有する(
図8参照)。この例では、ティース部12に対応するように、第1下パンチ54の各貫通孔54hに挿通される2個の第2下パンチ55を有し、第2下パンチ55が二股に分かれている。
【0049】
(凸部)
金型50の特徴の1つは、
図6に示すように、第1下パンチ54の環状端面54oに凸部60が形成されている点にある。凸部60は、
図8に示すように、圧粉磁心10の凹部30(
図3参照)を成形する部分であり、圧粉磁心10を成形した際に、凸部60の形状が転写され、ヨーク部11のティース形成面15に凹部30を形成する。この例では、
図6に示すように、圧粉磁心10の凹部30に対応して、凸部60が貫通孔54hの周縁に沿って全周に亘って形成されている。凸部60は、貫通孔54hの周縁と第1下パンチ54の周縁との間に形成されていればよく、少なくとも第1下パンチ54の周方向両側の周縁に沿って形成されていることが好ましい。また、凸部60は、一連として環状に形成されていてもよいし、複数に分けて上記環状の周方向を分断するように形成されていてもよい。
【0050】
この例に示す凸部60の断面形状は、
図8に示すように、半円形状である。「凸部の断面形状」とは、凸部60の長手方向に直交する面(貫通孔54hの周縁に直交する面)で切断した断面の形状をいう。凸部60の断面形状は、例えば、三角形状(V字状)や矩形状(U字状)などであってもよい。凸部60の断面形状は、角部が曲面(R形状)であることが好ましく、これにより、凸部60の欠けを抑制し易い。角部をR形状とする場合、角部の曲率半径が0.2mm以上であることが好ましい。
【0051】
凸部60の高さは、例えば0.5mm以上2.5mm以下であることが挙げられる。凸部60の高さが0.5mm以上であることで、第1下パンチ54の破損を抑制し易い。凸部60の高さが2.5mm以下であることで、凸部60の欠けを抑制し易い。凸部60の高さは、例えば1mm以上2mm以下であることが好ましい。この例では、凸部60の曲率半径Rが1mmであり、高さHが1mmである(
図8参照)。
【0052】
(材質)
金型50の材質としては、ダイス鋼、ハイス硬などの工具鋼や超硬合金が挙げられる。
【0053】
以下、圧粉磁心10の製造方法の各工程を順に説明する。圧粉磁心10の製造方法の特徴の1つは、上述した金型50を用いる点にある。
【0054】
[充填工程]
充填工程は、ダイ51の型孔51hと第1下パンチ54及び第2下パンチ55により形成される金型50のキャビティに、軟磁性粉末を主成分とする原料粉末を充填する工程である。
【0055】
原料粉末は、主成分として軟磁性粉末を含有する。「主成分」とは、原料粉末を100質量%とするとき、90質量%以上含有することを意味する。原料粉末には、潤滑剤やバインダ樹脂などを必要に応じて添加してもよい。
【0056】
軟磁性粉末の平均粒子径は、例えば20μm以上300μm以下、更に40μm以上250μm以下とすることが挙げられる。軟磁性粉末の平均粒子径を上記範囲内とすることで、取り扱い易く、圧縮成形し易い。軟磁性粉末の平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定し、積算質量が全粒子の質量の50%となる粒径を意味する。
【0057】
[成形工程]
成形工程は、上パンチ52と第1下パンチ54及び第2下パンチ55により充填された原料粉末を圧縮して、圧粉磁心10を成形する工程である(
図8参照)。
【0058】
原料粉末(軟磁性粉末)を圧縮成形する際の成形圧を高くすることで、圧粉磁心10を高密度化できる。成形圧は、例えば686MPa以上、更に980MPa以上とすることが挙げられる。成形圧の上限は、設備上の観点から、例えば1500MPa以下である。
【0059】
また、原料粉末の成形性を高めるため、金型50を加熱して温間圧縮成形してもよい。この場合、成形温度(金型温度)を例えば60℃以上、更に80℃以上とすることが挙げられる。成形温度の上限は、例えば200℃以下である。
【0060】
[抜き出し工程]
抜き出し工程は、金型50から圧粉磁心10を抜き出す工程である。
【0061】
抜き出し工程では、原料粉末を圧縮して圧粉磁心10を成形した後、例えば、上パンチ52を上昇させると共に、第1下パンチ54及び第2下パンチ55をダイ51に対して上昇させる。これにより、金型50(ダイ51)から圧粉磁心10を抜き出すことができ、圧粉磁心10が得られる。
【0062】
[熱処理工程]
更に、圧粉磁心10を金型50から抜き出した後、成形時に圧粉磁心10に導入された歪を除去することを目的として、圧粉磁心10を熱処理する熱処理工程を加えてもよい。圧粉磁心10を熱処理して歪を除去することで、透磁率を改善でき、これにより、ヒステリシス損に起因する圧粉磁心10の鉄損を低減できる。熱処理温度は、例えば400℃以上、更に600℃以上とすることが挙げられる。熱処理温度の上限は、例えば900℃以下である。
【0063】
<第1下パンチの破損を抑制できる理由>
次に、上述した金型50を用いて圧粉磁心10を成形することで、第1下パンチ54の破損を抑制できる理由を説明する。原料粉末を圧縮した際、粉末が圧縮されることにより、第1下パンチ54における貫通孔54hの内周面に側圧が作用する(
図7参照)。そして、第1下パンチ54に側圧が作用することにより、第1下パンチ54の貫通孔54hが押し広げられようとする。第1下パンチ54の環状端面54oには、
図8に示すように、圧粉磁心10の凹部30を成形する凸部60が形成されていることで、原料粉末を圧縮する際、原料粉末に凸部60が進入することによってアンカー効果が生じる。これにより、第1下パンチ54に作用する側圧に対抗して、側圧による第1下パンチ54の変形が抑制されることから、第1下パンチ54の内周角部に発生する応力を低減でき、第1下パンチ54の破損を抑制できる。
【0064】
この例に示すように、圧粉磁心10が2個のティース部12を有し、これに対応して、第1下パンチ54が2個の貫通孔54hを有する場合、第1下パンチ54の両貫通孔54hに挟まれる部分は、各貫通孔54hに作用する側圧が互いに打ち消し合う。そのため、貫通孔54hの内周面のうち、第1下パンチ54の周方向内側に位置する側縁54bに沿った面は、側圧による変形が起こり難い。これに対し、第1下パンチ54の周方向外側に位置する側縁54aに沿った面は、側圧によって変形し易い。したがって、凸部60は、少なくとも第1下パンチ54の周方向両側の周縁に沿って形成されていることが好ましく、これにより、側圧による第1下パンチ54の変形を効果的に抑制できる。第1下パンチ54に部分的に凸部60を設ける場合は、側縁54b側に凸部60がなくてもよい。特に、凸部60が貫通孔54hの周縁全周に亘って形成されていると、側圧による第1下パンチ54の変形をより一層抑制できる。
【0065】
<第1下パンチの応力解析>
実施例1に係る圧粉磁心10を成形したときの第1下パンチ54に作用する応力分布をCAE(Computer Aided Engineering)により解析した。そして、CAEの解析結果から、圧縮成形時に第1下パンチ54の内周角部に発生する最大応力を算出した。ここでは、
図6を参照して説明した、貫通孔54hの側縁54aと外周縁54cとが交差する角部を角部A、側縁54aと側縁54bとが交差する角部を角部B、側縁54bと外周縁54cとが交差する角部を角部Cとし、第1下パンチ54の各角部A〜Cの近傍における応力分布を
図9〜
図11に示し、各角部A〜Cの最大応力を表1に示す。なお、解析条件は、圧縮成形時の成形圧を980MPa(10000kgf/cm
2)とし、第1下パンチ54の物性値は、ヤング率:206000MPa、ポアソン比:0.3とした。
【0066】
比較として、第1下パンチに凸部が形成されておらず、第1下パンチの環状端面が平坦面に形成された金型を用いて、凹部を有さない圧粉磁心を成形したときの第1下パンチに作用する応力分布を実施例1と同様にCAEにより解析した。そして、この参考例に係る圧粉磁心についても、CAEの解析結果から、圧縮成形時に第1下パンチの内周角部に発生する最大応力を算出した。参考例に係る圧粉磁心の場合での第1下パンチ54の各角部A〜Cの近傍における応力分布を
図12〜
図14に示し、各角部A〜Cの最大応力を表1に示す。
【0068】
CAEによる応力解析の結果から、実施例1の圧粉磁心10は、第1下パンチ54の角部A〜Cにおける最大応力が2000MPa以下であり、参考例の圧粉磁心に比較して、第1下パンチ54の内周角部における最大応力を大幅に低減できていることが分かる。したがって、実施例1の圧粉磁心10は、第1下パンチ54の内周角部に発生する応力を低減でき、第1下パンチ54の破損が起こり難い。これに対し、参考例の圧粉磁心の場合、第1下パンチの角部A及び角部Bにおける最大応力が2000MPa超であり、第1下パンチ54が変形して破損し易い。
【0069】
また、第1下パンチの角部A〜Cのうち、第1下パンチ54の周方向内側に位置する角部Cの最大応力は比較的小さいことが分かる。これは、第1下パンチには2個の貫通孔が対象に形成されているため、側圧が互いに打ち消し合うことにより、側圧による応力が生じ難いからと考えられる。
【0070】
<圧粉磁心の効果>
実施例1の圧粉磁心10は、ヨーク部11のティース形成面15に形成された凹部30を有することから、第1下パンチ54の環状端面54oに形成された凸部60によって、圧縮成形時の側圧による第1下パンチ54の変形を抑制できる。そのため、圧粉磁心10を高密度化するために成形圧を高くしても、第1下パンチ54の内周角部に発生する応力を低減でき、第1下パンチ54の破損を抑制できる。したがって、圧粉磁心10は、高密度化が可能で、生産性に優れる。
【0071】
[変形例]
実施例1では、圧粉磁心10に形成された凹部30の断面形状が半円形状であり、円弧状の曲面を有する場合を例に挙げて説明した(
図3参照)。これに限らず、凹部30は、ティース部12側に向かって傾斜する傾斜面を有する構成としてもよい。以下、変形例に係る圧粉磁心の凹部について説明する。
【0072】
傾斜面を有する凹部の具体例を、
図15を参照して説明する。
図15の上図に示す凹部31は、ティース部12側に向かって傾斜する傾斜面41と、傾斜面41からティース部12の周面に繋がる円弧状の曲面42とを有する断面形状である。この例では、曲面42の曲率半径Rが1mmであり、凹部31の深さDが1mm、幅Wdが3mmである。一方、
図15の下図に示す凹部32は、ティース部12側に向かって傾斜する傾斜面41と、ティース部12の周面から延長された垂直面43と有する断面形状であり、傾斜面41と垂直面43とが交差する角部44がR形状に形成されている。この例では、角部44の曲率半径Rが0.5mmであり、凹部32の深さDが1mm、幅Wdが3mmである。凹部31、32の断面形状はいずれも、凹部の頂点を通る垂線に対して非対称形状であり、傾斜面41の方が長い。
【0073】
図16は、
図15に示す凹部31、32を成形する第1下パンチ54の凸部61、62を示す。
図16の上図に示す凸部61は、凹部31に対応するように、貫通孔54h側に向かって傾斜する傾斜面71と、傾斜面71から貫通孔54hの内周面に繋がる円弧状の曲面72とを有する断面形状である。この例では、曲面72の曲率半径Rが1mmであり、凸部61の高さHが1mm、幅Wbが3mmである。一方、
図16の下図に示す凸部62は、凹部32に対応するように、貫通孔54h側に向かって傾斜する傾斜面71と、貫通孔54hの内周面から延長された垂直面73と有する断面形状であり、傾斜面71と垂直面73とが交差する角部74がR形状に形成されている。この例では、角部74の曲率半径Rが0.5mmであり、凸部62の高さHが1mm、幅Wbが3mmである。凸部61、62の断面形状はいずれも、凸部の頂点を通る垂線に対して非対称形状であり、傾斜面71の方が長い。
【0074】
<作用効果>
圧粉磁心10に形成された凹部31、32の傾斜面41に対応するように、第1下パンチ54に形成された凸部61、62が傾斜面71を有する場合、原料粉末を圧縮する際、傾斜面71に圧力が作用する。傾斜面71が受ける圧力は、
図16の白抜き矢印で示すように貫通孔54h側に向かって作用するため、圧縮成形時に貫通孔54hの内周面に作用する側圧を相殺する方向に働く。よって、圧縮成形時に凸部61、62の傾斜面71が受ける圧力を利用して、第1下パンチ54に作用する側圧の少なくとも一部を相殺することが可能なため、側圧による第1下パンチ54の変形がより抑制される。
【0075】
<第1下パンチの応力解析>
図15の上図に示す凹部31が形成された圧粉磁心10を変形例1、
図15の下図に示す凹部32が形成された圧粉磁心10を変形例2とする。
図16を参照して説明した第1下パンチ54を用いて、変形例1、2に係る各圧粉磁心10をそれぞれ成形したときの第1下パンチ54に作用する応力分布を実施例1と同様にCAEにより解析した。そして、変形例1、2に係る各圧粉磁心についても、CAEの解析結果から、圧縮成形時に第1下パンチ54の内周角部に発生する最大応力を算出した。変形例1及び変形例2に係る各圧粉磁心の場合での第1下パンチ54の各角部A〜Cの近傍における応力分布を
図17〜
図19及び
図20〜
図22にそれぞれ示し、各角部A〜Cの最大応力を表2に示す。
【0077】
CAEによる応力解析の結果から、変形例1、2の圧粉磁心10は、実施例1の圧粉磁心10に比較して、第1下パンチ54の内周角部における最大応力をより低減できていることが分かる。したがって、変形例1、2の圧粉磁心10は、第1下パンチ54の内周角部に発生する応力を更に低減でき、第1下パンチ54の破損をより抑制できる。これは、変形例1、2の圧粉磁心10では凹部31、32が傾斜面41を有しており、傾斜面41を成形する傾斜面71が第1下パンチ54の凸部61、62に形成されていることによるものと考えられる。第1下パンチ54の凸部61、62が傾斜面71を有することで、圧縮成形時に傾斜面71が受ける圧力によって、第1下パンチ54に作用する側圧の少なくとも一部が相殺されるためである。また、変形例1、2の対比結果から、傾斜面41(傾斜面71)が長い変形例2の方が第1下パンチ54の内周角部に発生する応力を低減する効果が高いと考えられる。
【0078】
<ステータコア>
図23を参照して、実施形態に係るステータコア210について説明する。ステータコア210は、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられるステータコアであり、圧粉磁心10を有し、複数の圧粉磁心10が環状に組み合わされて構成されている。この例では、圧粉磁心10を6個一組として円環状に配置し、互いに隣接するヨーク部11の周方向両側の端面同士を接着剤などで接合することにより、ステータコア210を構成している。
【0079】
<ステータ>
図24を参照して、実施形態に係るステータ200について説明する。ステータ200は、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられるステータであり、ステータコア210と、ステータコア210を構成する圧粉磁心10の各ティース部12に配置されるコイル220とを備える。各コイル220は、集中巻きにより形成されている。
【0080】
<アキシャルギャップ型モータ>
アキシャルギャップ型回転電機の具体例を説明する。以下では、
図25〜
図27を参照して、実施形態に係るアキシャルギャップ型モータ(以下、単に「モータ」と呼ぶ場合がある)について説明する。
【0081】
アキシャルギャップ型モータ400は、
図25、
図26に示すように、ロータ300とステータ200とが軸方向に対向して配置され、この例では、ロータ300の両側にそれぞれ対向するように2個のステータ200が配置された構造である。ロータ300及びステータ200は、円筒状のハウジング410に格納され、ハウジング410の両側にはそれぞれ円板状のプレート420が取り付けられている。両プレート420には、中心に貫通孔が形成されており、シャフト430が貫通孔に軸受440を介して回転自在に支持されている。
【0082】
ステータ200は、ティース部12側がロータ300に対向するように配置され、ステータコア210のヨーク部11側がプレート420に固定されている。
【0083】
ロータ300は、複数の磁石320と、磁石320を支持する支持部材310とを備える。磁石320は、平板状であり、
図27に示すように、円環状の支持部材310の外周側に埋め込まれており、ロータ300の周方向に間隔をあけて配置されている。この例では、ロータ300が10極の磁石320を有する。磁石320はロータ300の軸方向に着磁され、隣り合う磁石320の磁化方向が互いに逆になるように並べられている。支持部材310の内周側は、シャフト430のフランジ部431に固定され、ロータ300がシャフト430に支持されている。
【0084】
以上説明した本発明の実施形態に関連して、更に以下の付記を開示する。
【0085】
[付記1]
扇板状のヨーク部と、前記ヨーク部から突出するティース部とを有する圧粉磁心を成形する金型であって、
前記ヨーク部の周面を成形する扇形状の型孔を有するダイと、
前記ダイの型孔に嵌合され、前記ヨーク部の下面を成形する端面を有する上パンチと、
前記ダイの型孔に嵌合され、前記ティース部の周面を成形する貫通孔を有すると共に、前記ティース部が突出する前記ヨーク部のティース形成面を成形する環状端面を有する第1下パンチと、
前記第1下パンチの貫通孔に挿通され、前記ティースの上端面を成形する端面を有する第2下パンチと、備え、
前記第1下パンチの環状端面には、前記貫通孔の周縁と前記第1下パンチの周縁との間に凸部が形成されている金型。
【0086】
[付記2]
前記凸部が、前記第1下パンチの周方向両側の周縁に沿って形成されている付記1に記載の金型。
【0087】
[付記3]
前記凸部が、前記貫通孔の周縁に沿って全周に亘って形成されている付記1又は付記2に記載の金型。
【0088】
[付記4]
前記凸部が、前記貫通孔側に向かって傾斜する傾斜面を有する付記1から付記3のいずれか1つに記載の金型。
【0089】
[付記5]
扇板状のヨーク部と、前記ヨーク部から突出するティース部とを有する圧粉磁心の製造方法であって、
付記1から付記4のいずれか1つに記載の金型を用い、
前記ダイの型孔と前記第1下パンチ及び前記第2下パンチにより形成される前記金型のキャビティに、軟磁性粉末を主成分とする原料粉末を充填する充填工程と、
前記上パンチと前記第1下パンチ及び前記第2下パンチにより充填された前記原料粉末を圧縮して、前記圧粉磁心を成形する成形工程と、
前記金型から前記圧粉磁心を抜き出す抜き出し工程と、を備える圧粉磁心の製造方法。
【0090】
[付記6]
前記成形工程において、圧縮成形する際の成形圧を686MPa以上とする付記5に記載の圧粉磁心の製造方法。
【解決手段】アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる圧粉磁心であって、扇板状のヨーク部と、前記ヨーク部と一体成形され、ヨーク部から突出するティース部とを有し、前記ヨーク部の表面のうち、前記ティース部が突出される面をティース形成面とするとき、ティース形成面は、前記ティース部の周縁と前記ヨーク部の周縁との間に形成される凹部を有する圧粉磁心。