(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物が、グリセリン、トリエチレングリコール、ビスヒドロキシエチルスルホン及びトリメチロールプロパンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
前記記録ヘッドが、ノズル列として複数のノズル流路が連通した共通液室と、該共通液室と連通した開口部と、該開口部と連通したメイン液体供給室と、該メイン液体供給室と連通する液体供給路と、該液体供給路と連通する液体供給室と、該液体供給室を、液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室と、第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、前記メイン液体供給室の一部に設けられた気液分離部と、該気液分離部と連通する空気室と、を備え、
前記ノズル流路と、前記共通液室と、前記開口部と、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記液体供給室と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、前記ノズル流路の配列方向と前記液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、
前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、各々積層することなく配置されている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施形態に限定されず、その発明特定事項を有する全ての対象を含むものである。尚、本明細書において、「記録」というときは、記録媒体上に文字、図形、記号等の有意の情報を形成するもののみならず、特段の意味を有しない画像、模様、パターン等を形成するものも含まれる。
【0025】
本発明者らは、先述した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、樹脂分散顔料を色材に用いるインク、特にサーマル方式のインクジェット記録用のインクに有用なインク組成の設計、中でも含有させる水溶性化合物の組成を改善することで、特に、印刷を停止する必要があるため、回復操作を頻繁に行うことができないライン型ヘッドを用いて記録を行った場合に効果的なインクジェット記録用インクが提供できることを見出して、本発明に至った。即ち、本発明では、インク中に含有させる水溶性化合物の組成を改善することで、インクの目詰りの抑制を格段に向上させることができ、同時に、記録ヘッドにインクの固着が生じたとしても簡便なクリーニング操作によってヘッドを正常な状態に速やかに回復させることができる、再溶解性、固着回復性が良好なインクジェット記録用インク(以下、単にインクとも呼ぶ)を提供する。
【0026】
下記に本発明に至った経緯について説明する。先に述べたように、例えば、引用文献1に記載されている技術は、色材として、顔料自体を改質することで、その分散性を高めた自己分散型顔料を用いた技術であり、これをそのまま、樹脂分散型顔料、特に分散剤として、ブロック共重合体よりも安定した分散性を得ることが難しいランダム共重合体を用いたインクに適用することはできない。また、引用文献2に記載されている水分活性(Aw)が0.70乃至0.90であるインクは、ノズルの目詰りが起こりにくいとされているが、本発明者らの検討によれば、このようなインクであってもノズルの目詰りの問題が改善されない場合があり、特にライン型ヘッドを用いたサーマル方式のインクジェット記録においてノズルの目詰りを安定して抑制することは難しい。さらに、上記の場合も、色材として使用する樹脂分散顔料の分散剤がランダム共重合体である場合におけるインクの目詰りの発生を抑制する手段について詳細な検討はされていない。このような状況に対し、先にも述べたように、特にライン型ヘッドを用いたインクジェット記録では、ノズルの回復操作のために印刷の中断をする必要があることから、本発明者らは、上記したような場合にあっても、インクの目詰りを確実に安定して抑制でき、インクの目詰りに起因した画像のヨレなどの画像不良を生じることのない、安定して良好な画像形成が可能な水性の顔料インクの開発が急務である認識するに至り、詳細な検討を行い、本発明を達成した。
【0027】
本発明者らは、特に、ブロック共重合体よりも分散安定性に劣る、ランダム共重合体を分散剤とする樹脂分散型顔料を色材とした水性顔料インクにおいて、インクの目詰りの発生やヘッドへの固着を抑制するためには、インク中における顔料の分散安定性をより高めることが重要であると考え、その分散安定性に影響が大きい水溶性化合物について、詳細な検討を行った。本発明者らは、検討していく過程で、特にサーマル方式のインクジェット記録においては、インクの吐出の際に、ヘッドでインク中の水分が蒸発し、インクが濃縮された状態となっており、このことがノズルにおけるインクの目詰りや固着が生じる原因となっていることから、このような状態となった濃縮されたインクが、ノズルに新たに運ばれてくるインクによって速やかに再溶解できれば、先述した課題を一挙に解決できると考えた。その結果、本発明者らは、水とともに使用する水溶性化合物として、親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物が有用であるが、その場合に、これらの水溶性化合物の量を多くするとソルベントショックが起こるという問題があるのに対し、本発明で規定する構成とすることで、良好な安定したインク吐出を実現できる、インクの目詰りの発生が効果的に抑制された、再溶解性、固着回復性に優れるバランスのよいインクとなることを見出して本発明に至った。
【0028】
本発明のインクは、水性の顔料インク中における水溶性化合物の含有量を、インク全量に対して22質量%以上、50質量%以下とし、使用する水溶性化合物を、親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物と、固体のエチレン尿素を併用する構成とし、かつ、エチレン尿素をインク全量に対して11.0質量%以上となるようにして使用し、さらに、水溶性化合物の合計量中におけるエチレン尿素の占める比率が質量基準で50%以下であるものとした。具体的に説明すると、本発明で規定する、親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物としては、例えば、グリセリン等が挙げられるが、グリセリンの含有量が多くなると、インクが増粘してしまい、インクの吐出性が損なわれるといった問題があった。これに対し、エチレン尿素を併用することで、インク中における水溶性化合物の含有量を高めることができることを確認した。即ち、親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物とエチレン尿素とを併用することで、ソルベントショックを生じることなく、水溶性化合物をインク全量に対して22質量%以上、50質量%以下の範囲で含有させることができるようになる。
【0029】
さらに、エチレン尿素の量を、上記したように、本発明で規定する要件を満足する範囲でインクを含有させることで、インクは蒸発しにくく、かつ、インクの水分が蒸発した後の乾燥インクは粘性を有するものとなり、該乾燥インクが新たなインクと混合されると速やかに析出物のない良好な状態に再溶解し、また、ヘッドにインクが固着したとしても、簡便なクリーニング操作で速やかにヘッドの吐出状態を良好なものに回復されることを見出して本発明に至った。具体的には、本発明のインクは、併用する親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物との兼ね合いで、固体のエチレン尿素をインク全量に対して11.0質量%以上の量で含有させる必要がある一方で、水溶性化合物の合計量中におけるエチレン尿素の占める比率が質量基準で50%以下となるように設計したことを特徴とする。水溶性化合物の合計量中におけるエチレン尿素の占める比率が50%を超えると、乾燥インクが新たなインクと混合された場合に、乾燥インクは溶解するものの、エチレン尿素が析出した状態となるので、その吐出安定性が損なわれることになる。以下、本発明を特徴づけるインクの構成について説明する。
【0030】
[1]インクジェット記録用インク:
本発明のインクジェット記録用インク(以下、単にインクと呼ぶ)は、必須成分として、顔料と、水と、水溶性化合物とを含有し、顔料が、酸価100mgKOH/g以上、160mgKOH/g以下である、(メタ)アクリル酸エステル系のランダム共重合体によって分散した樹脂分散顔料であり、製法は、常法によるものであり、例えば、特許4956917に開示されている方法で得ることができる。また、水溶性化合物が、エチレン尿素と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物とを少なくとも含む。本発明のインクは、必要に応じて、親疎水度係数0.37以上の水溶性化合物、界面活性剤、その他の溶剤や添加剤を含有するものであってもよい。以下、成分毎に説明する。
【0031】
[1−1]水溶性化合物:
本発明のインクは、エチレン尿素と、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.37以下の水溶性化合物とを必須成分とする。
【0033】
式(A)中の水分活性値とは、水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、各水溶性化合物の20%水溶液を25℃で測定したものである。
【0034】
ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性化合物の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。
【0035】
水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
【0036】
水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性化合物の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、或いは疎水性の程度の相対比較が可能である。また、水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。各種の水溶性化合物の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示した。本発明で使用する水溶性化合物は、インクジェット記録用インクとしての適性を有する各種の水溶性化合物の中から、目的とする親疎水度係数を有する水溶性化合物を選択して用いることができる。例えば、表1に挙げたものの中の親疎水度係数が0.37以下である水溶性化合物であれば、本発明のインクに使用することができるが、本発明は、表1中の化合物に限定されるものではない。本発明のインクに特に好ましい水溶性化合物としては、例えば、グリセリン、トリエチレングリコール、及びビスヒドロキシエチルスルフォンなどが挙げられる。
【0038】
先に述べたように、本発明者らは、上記に挙げたような親疎水度係数が0.37以下の水溶性化合物と、エチレン尿素とを併用し、これらの含有量を本発明で規定する範囲内としたときに、インクは蒸発しにくく、乾燥後においても保湿性が良好となり、乾燥インクの再溶解性、固着回復性が良好なインクとなることを発見し、本発明を達成した。
【0039】
[1−2]色材:
本発明のインクの色材は、水溶性媒体に顔料を分散させたものである。また、顔料−樹脂分散(樹脂分散顔料)と呼ばれるタイプであり、中でも、酸価100mgKOH/g以上、160mgKOH/g以下である、(メタ)アクリル酸エステル系のランダム共重合体を吸着させて水性媒体中に分散させたものである。製法は、常法によるものであり、例えば、特許4956917号公報に開示されている方法で得ることができる。
【0040】
[1−2A]顔料:
本発明に関する顔料としては、例えば、カーボンブラックや有機顔料等が挙げられる。これらの顔料は、1種で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
カーボンブラックの具体例は、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、商品名としてレイヴァン(ロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)、ヴァルカン(Valcan)(以上キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)、プリンテックス(Printex)、スペシャルブラック(Special Black)(以上デグッサ社製)、三菱カーボンブラック(三菱化学社製)等の冠称を有するものを使用することができる。勿論、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを使用することも可能である。物性的には、本発明に用いられるカーボンブラックとしては、一次粒子径が10nm以上40nm以下、BET法による比表面積が50〜400m
2/g以下、給油量40〜200ml/100g以下、揮発分が0.5〜10%、pHが2〜9であるカーボンブラックであることが好ましく、特に、このような特性のものである場合に本発明の効果に有効に作用する。尚、DBP吸収量は、JIS K6221 A法によって測定される。
【0042】
有機顔料の具体例としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0043】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、以下のものが例示できる。勿論、下記以外でも従来公知の有機顔料が使用可能である。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168
C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61
C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240
C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50
C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64
C.I.ピグメントグリーン:7、36
C.I.ピグメントブラウン:23、25、26
【0044】
[1−2B]分散剤として機能する樹脂:
本発明のインクでは、色材として、(メタ)アクリル酸エステル系のランダム共重合体によって分散した樹脂分散顔料を使用する。本発明では、吐出性の観点からより好ましい(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を分散剤として用いる。本発明で使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びそれらと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより得ることができる。(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられ、中でも、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できることを考慮すると(メタ)アクリル酸が好ましく用いられる。尚、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体には、ランダム構造、ブロック構造、及びグラフト構造等のものがあるが、本発明では、これらの中でもランダム共重合体を使用することとした。ランダム共重合体以外の、例えば、ブロック共重合体等では、顔料の親水性が高くなるものが多く、形成した印字画像の耐水性が劣るものが多いとった別の課題があるからである。
【0045】
[1−2B−1]樹脂を製造するための単量体成分:
(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられ、中でも、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できること、入手のしやすさ、価格等を考慮して(メタ)アクリル酸が好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレンエーテルグルコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンエーテルのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0046】
本発明のインクにおいて使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、前記した(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、モノエチレン性不飽和単量体の他に、スチレン系単量体も含めることができる。ここでスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン等が挙げられる。即ち、上記した(メタ)アクリル酸エステル共重合物は、スチレン系単量体を有するスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体であることが好ましい。
【0047】
[1−2B−2]樹脂の特性:
本発明のインクでは、上記したようなモノマーから合成した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用いるが、その酸価が100mgKOH/g以上、160mgKOH/g以下であるものを使用する。より好ましくは110mgKOH/g以上、150mgKOH/g以下であるものを使用する。酸価が160mgKOH/gを超えると、顔料の親水性が高くなるため、水等の付着により顔料が溶け出して印字物のにじみが発生しやすくなる。また、その酸価が100mgKOH/gより小さくなると、インクジェットプリンターのサーマル方式における水性顔料インクの吐出安定性が低下する傾向にある。ここで酸価とは、1gの樹脂を中和するのに必要となるKOHの量(mg)であり、その親水性を示す指標となり得るものである。尚、この場合の酸価は、樹脂分散剤を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできるが、具体的な樹脂分散顔料の酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用して測定することができる。
【0048】
本発明のインクに使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の重量平均分子量は、スチレン換算で重量平均分子量(Mw)が6,000〜12,000の範囲にあることが好ましく、7,000〜9,000の範囲にあることがより好ましい。上記の範囲にすることで、樹脂分散顔料の分散安定性を高め、粘度が低く設定でき、ヒーター部分でのコゲーションを抑え、長期間安定した印字を行わせることができる。その重量平均分子量が6,000未満であると水性の樹脂分散顔料自体の分散安定性が低下するため好ましくない。また、12,000を超えると、水性の樹脂分散顔料の粘度が高くなるだけでなく、分散性が低下する傾向が認められるので好ましくない。さらに、ヒーター部分に対するコゲーションがひどくなり、サーマル方式インクジェットプリンターのノズル先端からインク液滴の不吐出を引き起こす原因となるので好ましくない。
【0049】
[1−2B−3]顔料に対する樹脂量:
本発明のインクでは、色材に上記した樹脂分散顔料を適用するが、その場合、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との割合が、分散体の分散性を保ち、さらに、顔料インクの粘度を低く保つ観点から、本質量換算で顔料1質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物が0.2〜1.0質量部の範囲内になるように調整することが好ましい。
【0050】
[1−2C−1]樹脂分散顔料
本発明のインクに使用する樹脂分散顔料は、例えば、先に挙げた顔料を、上記したような(メタ)アクリル酸エステル系重合物で被覆することで調製できる。本発明で用いる樹脂分散顔料の平均粒子径は、液中での動的光散乱法により求められる値が、70nm以上150nm以下であることが好ましく、より好ましくは80nm以上120nm以下であることが好ましい。粒子径が150nmを超えるとインクの沈降が促進されるため、長期間での分散安定性が損なわれるため好ましくない。一方、粒子径が70nmより小さくなると、画像を形成するのに十分な発色性や、得られた画像に対して十分な耐候性を得ることができなくなるため好ましくない。具体的な平均粒子径の測定方法としては、例えば、レーザ光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA 150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定できる。
【0051】
上述した樹脂分散顔料のインク中への添加量は、インク全量に対して0.5質量%以上、10質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上、8.0質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上、6.0質量%以下であることが好ましい。顔料濃度が0.5質量%より小さくなると画像を形成するのに十分な発色性を得ることができず、また、10.0%質量を超えると、水性顔料インクの粘度が上昇してしまい、吐出が困難になるため好ましくない。
【0052】
[1−2C−2]製造方法
本発明のインクでは、色材に上記したような樹脂分散顔料を使用するが、該樹脂分散顔料は、下記の製造方法で得ることができる。例えば、顔料を(メタ)アクリル酸エステル系重合物で被覆する方法として、その製造工程中に酸析工程を組み込むことが好ましい。この際に行なう酸析工程とは、顔料と、塩基性物質の水溶液に溶解している(メタ)アクリル酸エステル系共重合物とを含有する液媒体に酸性物質を加えて酸性化することにより、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物中のアニオン性基を中和される前の官能基に戻して、該重合物を析出させることである。
【0053】
この際に行なう具体的な酸析工程としては、分散工程と必要に応じて実施される蒸留工程を経て得られた水性分散体に、塩酸、硫酸、酢酸等の酸を加えて酸性化し、塩基と塩を形成することによって溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を顔料粒子表面に析出させる工程が挙げられる。このような工程を実施することにより、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との相互作用をより高めることができる。その結果、顔料粒子が水性分媒中に分散している形態を取らせることができ、水性の樹脂分散顔料として、分散到達レベル、分散所要時間及び分散安定性等の物性面や耐溶剤性等の使用適性面で、より優れた効果を存分に発揮させることができる。こうして相互作用を高めて得られた析出物を濾別する濾過工程を実施し、より好ましくはその析出物を該濾過工程終了後、洗浄する洗浄工程を実施して、樹脂分散顔料中に吸着せずに存在するフリーポリマーを除去して、再度塩基性物質と共に水性媒体中に分散させる再分散工程を実施することで、分散安定性により優れた水性の樹脂分散顔料を得ることができる。
【0054】
[1−3]界面活性剤:
本発明においては、後述するインクの表面張力をコントロールして、記録媒体におけるインクのにじみ度合いや浸透性を任意にコントロールやヘッド内でのインクの濡れ性の向上、インクのヒーター面上でのコゲーションを防止し、吐出を向上さたりする目的で必要に応じて、前述した成分からなるインクに、さらに界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、特に限定はされないが、以下のものを挙げることができる。尚、これらの界面活性剤は、単独で使用しても複数を併用してもよい
【0055】
[ノニオン性界面活性剤]
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等。脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール系界面活性剤等。
【0056】
[アニオン性界面活性剤]
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォン酸塩等。アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフン酸塩、アルキルフェノールスルフォン酸塩、アルキルナフタリンスルフォン酸塩、アルキルテトラリンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等。
【0057】
[カチオン性界面活性剤]
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド等。
【0058】
[両性界面活性剤]
アルキルカルボキシベタイン等。
その中でも、アセチレングリコール系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等は、インクの吐出安定性を向上させることができるため、特に好ましく使用される。
【0059】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、下記一般式(1)に示す化合物(1)(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、又は、そのエチレンオキサイド付加物)を用いる。
【0061】
(一般式(1)中、U+Vは0乃至20の整数である)
【0062】
[1−4]他の溶剤:
本発明のインクは、必要に応じて、さらに他の水溶性有機溶剤を含有していてもよい。水溶性有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸アミド類、複素環類、ケトン類、アルカノールアミン類、尿素類:等、各種水溶性有機溶媒を用いることができる。
【0063】
[1−5]他の添加剤:
本発明のインクは、必要に応じて、その他添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、塩等を挙げることができる。
【0064】
[1−6]水:
水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有率は特に限定されない。但し、インクの全質量に対し、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、40質量%以上85質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上80質量%以下である。30質量%以上とすることにより、顔料及び水溶性化合物を水和させることができ、顔料や水溶性化合物の凝集を防止することができる。一方、90質量%以下とすることにより、相対的に水溶性有機化合物の量が増え、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発してしまった場合でも、顔料の分散状態を維持することができ、顔料の析出や固化を防止することができる。
【0065】
[1−7]表面張力:
本発明のインクの表面張力γは、25mN/m以上45mN/m以下であることが好ましい。表面張力を25mN/m以上とすることにより、インク吐出口のメニスカスを維持することができ、インクがインク吐出口から流出してしまう不具合を防止することができる。また表面張力を45mN/m以下とすることにより、インクの記録媒体への吸収速度を最適にすることができ、インクの吸収不足による定着不良をという不具合を防止することができる。
【0066】
本発明のインクの表面張力は、温度25℃、湿度50%の条件下、自動表面張力計(例えば、協和界面科学社製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味するものとする。物流用充填液の表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
【0067】
[1−8]粘度:
本発明のインク粘度ηは、1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.6mPa・s以上3.5mPa・s以下、さらに好ましくは1.7mPa・s以上3.0mPa・s以下にするとよい。粘度を1.5mPa・s以上とすることにより、良好なインク滴を形成することができる。一方、5.0mPa・s以下とすることにより、インクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、ひいてはインクの吐出安定性が向上する。
【0068】
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠して、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用い、測定した値を意味するものとする。インクの粘度は、界面活性剤の種類や量の他、水溶性有機溶媒の種類や量等により調整することができる。
【0069】
[1−9]pH:
本発明のインクのpHは、7.5以上10.0以下であることが好ましく、より好ましくは8.5以上9.5以下にすることが好ましい。pHを7.5未満では顔料粒子の分散安定性が悪くなり、顔料の粒子の凝集が起こりやすくなるため好ましくない。一方、pHは10.0を超えると、インクのpHが高すぎてしまい、使用する装置の部材によっては、インクと接することによってケミカルアタックを引き起こし、これにより有機物や無機物がインク中に溶出することによって、結果として吐出不良を引き起こすため好ましくない。インクのpHは、温度25℃の条件下、pHメーター(例えば、HRIBA(製)D−51等)を用い、測定した値を意味するものとする。
【0070】
[2]記録ヘッド:
以下、本発明の記録ヘッドの一の実施形態について、図面を用いて説明する。但し、本発明の記録ヘッドは、以下に説明する構成に限定されるものではない。
【0071】
[2−1]ノズル部分の構造:
まず、ノズル部分の構造について
図1A〜
図1Cを用いて説明する。
図1Aは記録ヘッドのノズルの内部構造を模式的に示す上面図である。
図1Bは
図1Aに示すノズルの内部構造を模式的に示す側面図である。
図1Cは
図1Aに示すノズルのインク吐出口を模式的に示す正面図である。
【0072】
サーマル方式の記録ヘッドは、図示のようにノズル壁153によって仕切られた複数のノズル流路159からなるノズル列が形成され、ノズル流路159に連通する複数のインク吐出口151が形成され、各々のノズル流路159の内部にインク吐出用のヒーター152が配置されている。このような構造のヘッドは、ノズル流路159内部に充填されたインクをヒーター152で加熱し、インクを発泡させることで、インク吐出口151からインクの液滴を飛翔させることができる。
【0073】
図示の形態では、ノズル流路159と共通液室112との間に、ヘッド内のインク流路中に浮遊する異物をトラップするためのノズルフィルター155が設置されている。また、ノズル天板162が貼り付けられる天板部材113は異方性エッチング等で形成されたインク供給開口(不図示)を備え、外部からのインクを共通液室112からノズル流路159に導入可能に構成されている。
【0074】
ノズル流路159はノズル壁153によって左右の両側面側が仕切られることに加えて、ノズル天板162によって上面側が、ノズル底板164によって底面側が仕切られている。即ち、ノズル流路159は、ノズル壁153、ノズル天板162及びノズル底板164を隔壁として周囲の空間から区画された略四角柱状の内部空間である。ノズル天板162は、Si等で構成される天板部材113に貼り付けられており、ノズル底板164はヒーター基板111に貼り付けられている。
【0075】
インク吐出口151はノズル流路159の一端に形成されるインクを吐出させる開口部であり、ノズル流路159を経由して共通液室112に連通されている。インク吐出口151はフェイス面に形成される。図示の例では、フェイス面はノズル壁153と一体的に形成されているが、別途フェイスプレートを設置してフェイス面を形成してもよい。インク吐出口151の開口面積は100μm
2以上350μm
2以下に構成される。開口面積を100μm
2以上とすることで不吐ノズルの発生を防止することができる。一方、350μm
2以下とすることで1つのインク液滴の量が10pL以下の微小液滴を形成させることができ、解像度を600dpi以上とすることができる。なお、前記開口面積は吐出口幅171と吐出口高さ172の積で表される。
【0076】
前記記録ヘッドは複数のノズル流路によってノズル列が形成されたライン型ヘッドである。ノズル列を形成するノズル流路の数は特に限定されない。但し、本発明の効果を発現させるためには、ノズル列の総ノズル数が1200以上であることが必要であり、1200以上9600以下であることが好ましく、1200以上4800以下であることが更に好ましい。また、ノズル列の長さが2インチ以上であることが必要であり、2インチ以上4インチ以下であることが好ましい。
【0077】
ヒーター152は、ノズル流路159に充填されたインクを加熱発泡させるための加熱手段である。ヒーター152はヒーター基板111に設置されている。ヒーター152としては抵抗体(例えばチッ化タンタル等からなる抵抗体)を用いることができる。ヒーター152には通電のためのアルミニウム等からなる電極(図示せず)が接続されており、その一方にはヒーター152への通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)が接続されている。スイッチトランジスタは制御用のゲート素子等の回路からなるICによって駆動を制御され、ヘッド外部からの信号によって、所定のパターンで駆動する。
【0078】
前記記録ヘッドは、駆動周波数1kHz以上10kHz以下で駆動させることが可能なものである。駆動周波数1kHz以上で駆動させることにより、1滴あたりのインク量が極めて小さい場合でも、単位時間あたりのインク付与量を増加させ、画像データ量、記録ドット数を増やすことができる。即ち高画質の画像を高速で印刷することが可能となる。駆動周波数10kHz以下で駆動させることにより、前記のような高速印刷時にインク吐出量に対してノズルへのインク供給量が不足して吐出安定性が低下する不具合が抑制される。前記効果をより確実に得るためには、駆動周波数3kHz以上8kHz以下で駆動させることが可能なものであることが好ましい。また、本発明の記録ヘッドは、高い駆動周波数の下でも吐出安定性が低下し難く、ノズル不吐が発生し難いため、駆動周波数6kHz以上10kHz以下で駆動させることが可能なものであることも好ましい。
【0079】
ノズルの全長は200μm以上300μm以下とすることが好ましい。この場合の「ノズルの全長」とは、ノズル流路159の長さを意味し、具体的にはノズル流路159を構成するノズル壁153のインク吐出口151側の端部から共通液室112側の端部までの長さを意味する。
【0080】
ノズル流路159は、ヒーター中心157からインク吐出口151側の端部までの部分であるノズル前方部181と、ヒーター中心157から共通液室112側の端部までの部分であるノズル後方部182に区分される。吐出速度の観点から、ノズル前方部181の流抵抗(前方抵抗)と、ノズル後方部182の流抵抗(後方抵抗)は、前方抵抗/後方抵抗の値が0.3以上0.8以下であることが好ましい。なお、流抵抗は、流路断面積、流路長、吐出するインクの粘度等の値から、ハーゲン・ポアズイユの法則により計算で求めることができる。即ち、使用するインク(ひいてはその粘度)が定まれば、前方抵抗/後方抵抗の値は、ノズルの流路断面積、流路長等により調整することができる。
【0081】
[2−2]ノズル材:
ノズル流路159を仕切るノズル壁153、ノズル天板162、ノズル底板164は、例えば感光性樹脂により形成することができる。感光性樹脂としては、ネガ型フォトレジスト等を用いることができる。具体的な市販品としては、例えば「SU−8シリーズ」、「KMPR−1000」(以上、化薬マイクロケム社製)、「TMMR」、「TMMR S2000」、「TMMF S2000」(以上、東京応化工業社製)等を挙げることができる。中でも、耐溶剤性、ノズル壁としての強度に優れたエポキシ系感光性樹脂を用いることが好ましい。具体的な市販品としては、東京応化工業社製の「TMMR S2000」が特に好ましい。
【0082】
[2−3]親水性領域、撥水性領域:
本発明の記録ヘッドはインク吐出口の周縁に親水性領域または撥水性領域が形成されたものが好ましい。親水性領域と撥水性領域のいずれを形成するかは、使用するインクの色材の種類や表面張力を考慮して決定すればよい。
【0083】
例えば色材が顔料であるか、或いは表面張力が34mN/m以下のインクを使用する場合には、インク吐出口の周縁に親水性領域が形成された記録ヘッド(親水性ヘッド)が好ましい。そして、インク吐出口の周縁に、使用するインクとの接触角が60°以下の親水性領域が形成されていることが好ましく、前記接触角が0°の(即ち、接触角を形成しない)親水性領域が形成されていることが更に好ましい。なお、親水性領域または撥水性領域の接触角はJIS R 3257に準拠して、接触角計(例えば、商品名「SImage−mini」、エキシマ社製等)を用い、ATAN1/2θ法により測定することができる。後述する実施例においても前記方法により接触角を測定している。
【0084】
前記親水性領域は、インク吐出口が形成されている部材(フェイス材)を親水性材料により構成する方法、前記フェイス材の表面(フェイス面)を親水処理する方法、前記フェイス面に親水性膜を付与する方法等により形成することができる。
【0085】
前記フェイス材としては、例えばエポキシ樹脂等の樹脂、特にエポキシ系感光性樹脂を用いることができる。
【0086】
フェイス面を親水処理する方法としては、フェイス面を粗面化する方法を挙げることができる。粗面化の方法としては、例えば、レーザー照射処理、UV/O
3処理、プラズマ処理、加熱処理、酸化処理及びエンボス加工処理等を挙げることができる。レーザー照射処理には、エキシマレーザー、YAGレーザー、CO
2レーザー等のレーザーを用いることができる。また、インク吐出口周縁部を親水性が高い液体に長時間浸漬する方法により処理してもよい。「親水性が高い液体」としては顔料インク等を挙げることができる。例えば、フェイス材を使用する顔料インク中に10分間以上、浸漬すればよい。
【0087】
フェイス面に親水性膜を付与する方法としては、フェイス面に金属膜や親水性の樹脂膜を形成する方法を挙げることができる。親水性膜は、親水性を有するのは勿論のこと、フェイス材に対する付着性が良好な材料により形成することが好ましい。そのような材料としては、水溶性樹脂及び水不溶性低分子化合物を含む組成物等を挙げることができる。例えば、水溶性樹脂(ヒドロキシプロピルセルロース等)と水不溶性低分子化合物(ビスフェノールA等)を、適当な溶媒(ジメチルホルムアミド等)に溶解させ、その溶液をフェイス面に塗布し、乾燥させ、必要に応じてアルコール等で処理することにより、親水性膜を形成することができる。
【0088】
親水性領域の形成は、前記方法の中からフェイス材を構成する材質に応じて適宜選択すればよい。また、親水性領域の形成は、前記方法を2種以上組み合わせて行ってもよい。前記方法の中では、ノズル周辺部をエポキシ系感光性樹脂により構成するとともに、前記ノズル周辺部をUV/O
3処理し、更に顔料インク中に浸漬することにより親水化処理する方法が好ましい。
【0089】
また、例えば色材が染料であり、かつ、表面張力が34mN/m超のインクを使用する場合には、インク吐出口の周縁に撥水性領域が形成された記録ヘッド(撥水性ヘッド)が好ましい。そして、インク吐出口の周縁に、使用するインクとの接触角が90°以上の撥水性領域が形成されていることが更に好ましく、使用するインクとの接触角が100°以上の撥水性領域が形成されていることが特に好ましい。
【0090】
撥水性領域は、インク吐出口が形成されている部材(フェイス材)の表面(フェイス面)に撥水性膜を付与する方法等により形成することができる。
【0091】
フェイス面に撥水性膜を付与する方法としては、フェイス面に超撥水性の樹脂膜を形成する方法を挙げることができる。超撥水性の樹脂膜は、従来公知の方法により形成することができる。例えば、フェイス面にフッ素樹脂、シリコーン樹脂等を塗工して樹脂膜を形成する方法、フェイス面においてフッ素系モノマーをプラズマ重合させてフッ素樹脂膜を形成する方法等を挙げることができる。また、フェイス面に撥水撥油性の樹脂膜を形成する方法を採用してもよい。例えばフルオロ炭素化合物を重合させたフッ素樹脂からなる膜を形成する方法等を挙げることができる。中でも、フッ素系溶媒(旭硝子製「CXT−809A」、住友スリーエム製「<ノベック>HFE−7100」、「<ノベック>HFE−7200」、「<ノベック>HFE−71IPA」等)に、含フッ素シリコーンカップリング剤(例えば、信越化学製「KP−801M」等)を溶解させた溶液を調製し、この溶液をフェイス面に加熱蒸着させることにより、撥水性膜を形成する方法が好ましい。
【0092】
[2−4]記録ヘッドの全体構造:
次に、記録ヘッドの全体構造について
図2A〜
図2Cを用いて説明する。
図2A〜
図2Cに示すような構造の記録ヘッドは、特開2013−014111号公報に開示されている。従って、本願明細書においては前記公報の内容を引用することとし、その概略を説明するに留める。なお、
図2Aは、本発明の記録ヘッドを模式的に示す正面図であり、
図2Bは、
図2AのA−A断面図であり、
図2Cは、
図2AのB−B断面図である。説明の便宜上、正面図において液体供給ケースカバーは省略している。
【0093】
本発明の記録ヘッドは、図示のように、ライン型ヘッドが、ノズル列を形成する複数のノズル流路と連通する共通液室112と、共通液室112と連通する液体供給口127と、液体供給口127と連通するメイン液体供給室126と、メイン液体供給室126と連通する液体供給路137と、液体供給路137と連通する液体供給室(第一液体供給室134、第二液体供給室135)と、液体供給室を液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室134と第二液体供給室135とに分離するように配設された供給フィルター118と、メイン液体供給室126の一部に設けられた気液分離部120と、気液分離部120と連通する空気室141と、を備えていることが好ましい。
【0094】
そして、ノズル流路と、共通液室112と、液体供給口127と、メイン液体供給室126と、液体供給路137と、液体供給室(第一液体供給室134、第二液体供給室135)と、供給フィルター118と、気液分離部120と、空気室141とが、ノズル流路の配列方向と液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、メイン液体供給室126と、液体供給路137と、供給フィルター118と、気液分離部120と、空気室141とが、各々積層されることなく配置されていることが好ましい。
【0095】
図2A〜
図2Cに示すような構造の記録ヘッドは、気液分離型の記録ヘッドと称される。気液分離型の記録ヘッドはインクの自重を利用してノズル内にインクを充填するため、従来構造の記録ヘッドと比較して吐出安定性を確保することが極めて困難である。従って、気液分離型の記録ヘッドは本発明の効果を最も享受することができる形態の一つであると言える。
【0096】
セラミック製のベースプレート110はシリコンにより形成されるヒーター基板111を支持している。ヒーター基板111には、液体の吐出エネルギー発生素子としての複数の電気熱変換体(ヒーターまたはエネルギー発生部)とこれらの電気熱変換体に対応するノズルを構成するための複数の流路壁とが形成されている。また、ヒーター基板111には各ノズルに連通する共通液室112を囲む液室枠も形成されている。このように形成されたノズルの側壁及び液室枠の上には、共通液室112を形成する天板部材113が接合されている。従って、ヒーター基板111と天板部材113は互いに一体化した状態でベースプレート110に積層接着されている。このような積層接着は、銀ペーストなどの熱伝導率のよい接着剤によって行われる。ベースプレート110におけるヒーター基板111の後方には、実装済みの電気配線基板(PCB114)が両面テープ(図示せず)により支持されている。ヒーター基板111上の各吐出エネルギー発生素子とPCB114とは、各々の配線に対応するワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0097】
天板部材113上面には、液体供給部材115が接合されている。液体供給部材115は液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117より構成されており、液体供給ケースカバー117が液体供給ケース116の上面を塞ぐことにより、後述する液室や液体供給路が形成される。液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117の接合は、例えば熱硬化型の接着剤などにより行われる。また、液体供給ケース116には供給フィルター118及び排出フィルター119が配設されている。供給フィルター118は液体供給部材115に供給された液体中の異物の除去を目的とし、排出フィルター119は記録ヘッド外部からの異物の侵入を防止することを目的とする。各々のフィルターは熱溶着によって液体供給ケース116に固定されている。さらに液体供給ケース116の一部には気液分離部120が形成され、気液分離部120に突出する形で外部より液面検知センサ121が実装されており、上述したような液室内の液体量の制御を行う。
【0098】
ここで、液体供給ケースと116液体供給ケースカバー117の2つの部品の嵌合により形成される液室及び液体供給路等の構成について説明する。液体供給ケース116の天板部材113との接合面には、ノズルの配列方向と略平行かつノズル列の幅に渡って矩形状の開口部である液体供給口127が形成されており、液体供給口127の延長上には貯留室状のメイン液体供給室126が形成されている。即ち、メイン液体供給室126はノズル列と略平行かつノズル列の幅に渡って形成されている。また、液体供給口127と対向側の天面は、ほぼ全域にわたって気液分離部120を最上部とした傾斜(メイン液体供給室傾斜129)を構成している。メイン液体供給室傾斜129には2つの開口部が形成されており、1つは液体連通部131、他方は気液分離部120である。
【0099】
気液分離部120はメイン液体供給室126の一部として形成され、メイン液体供給室126の他の部分よりも深さが大きくなっている。これは、後述するように液室内の液体に混在する気泡を破泡する効果を高めるためである。図示の形態においては、気液分離部120の内部にステンレスの電極を3本実装しており、図中左側より上限検知電極123、グランド電極124、下限検知電極125である。グランド電極124と上限検知電極123間の通電、グランド電極124と下限検知電極125間の通電により、メイン液体供給室126内の液面を上限と下限の間に維持する構成となっている。図示の形態のインクジェットヘッドにおいては、気液分離がなされた液体の液面を検知することで、検知の信頼性を向上させることが可能である。
【0100】
気液分離部120の延長上にはエア連通部130があり、その先はエア流路として機能する空気室141となる。さらに先には前述した排出フィルター119が配設されており、排出ジョイント133に連通する。排出フィルター119は撥水性を有する材質によって構成されており、万が一エア流路(空気室141)に液体が流入し、排出フィルター119にインクが付着することで、フィルター内部にインクのメニスカスが形成されても、その撥水性によってフィルター部の毛管力を低減することができ、インクを容易に除去することができる。
【0101】
一方、メイン液体供給室傾斜129に設けられた液体連通部131を介して液体供給路137が設けられている。液体供給路137は、液体連通部131から供給フィルター118近傍まで管状を成しており、メイン液体供給室126とほぼ同一平行平面上に形成される。供給フィルター118もまた、メイン液体供給室126と略同一平行平面上に配置されている。供給フィルター118は液体供給室を二室に分離するように配設され、供給ジョイント132に連通する側の室、即ち記録ヘッド内の液体供給の流れに沿って上流側の室が第一液体供給室134、下流側の室が第二液体供給室135となっている。供給フィルター118はメイン液体供給室126と略同一平行平面上に配置されているため、供給フィルター118の両面に隣接する第一液体供給室134及び第二液体供給室135もまた、メイン液体供給室126やインク吐出口配列面139とほぼ平行平面上に配置されることになる。
【0102】
第二液体供給室135は供給フィルター118上方に開口(以下、第二液体供給室開口136という)があり、これを介して液体供給路137に連通している。また、第二液体供給室135の天面はこの開口を最上部とする傾斜(以下、第二液体供給室傾斜138という)が形成されている。
【0103】
以上のように、メイン液体供給室126、気液分離部120、液体供給路137、供給フィルター118、第一液体供給室134、第二液体供給室135は、各々インク吐出口配列面139と略平行平面上に設定される。一方でA−A断面に示すように、メイン液体供給室126、液体供給路137、供給フィルター118、気液分離部120は互いに平面の鉛直方向に重ならないように配置することが重要である。
【0104】
供給フィルター118は、フィルター孔径が1μm以上10μm以下、フィルター面積が10mm
2以上500mm
2以下のステンレス製メッシュであることが好ましい。フィルター孔径を1μm以上、フィルター面積を10mm
2以上とすることで、流路抵抗(圧力損失)を低減させ、記録ヘッドの内の気泡を移動し易くすることができる。前記効果をより確実に得るためには、フィルター面積を200mm
2以上とすることが更に好ましい。一方、フィルター孔径を10μm以下とすることでノズルへのゴミの流入を確実に防止することができ、フィルター面積を500mm
2以下とすることで記録ヘッドを小型化することができる。前記効果をより確実に得るためには、フィルター孔径を3μm以上8μm以下とすることが更に好ましい。
【0105】
[2−5]インクの充填:
本発明の記録ヘッドにおいては、前記ライン型ヘッドの前記インク吐出口と連通する内部空間に、インクジェット記録用のインクが充填されている。インクは、前記内部空間のうち、少なくともインク吐出口から共通液室までの部分(即ち、ノズル流路及び共通液室)に充填されていることが好ましい。
【0106】
[3]インクジェット記録装置:
本発明のインクジェット記録装置は、インクジェット記録用の記録ヘッドと、前記記録ヘッドに供給するインクを収容するインク収容部とを備えたインクジェット記録装置である。そして、前記記録ヘッドが、本発明の記録ヘッドであることを特徴とするものである。前記インク収容部の形態は特に限定されない。例えば
図3に示すようなインクタンク等を挙げることができる。
【0107】
[3−1]インクタンク:
図3はインクタンクの拡大断面図である。インクタンク230は液体収容容器であり、その内部にはインクを収容する液室(インク室231)が形成されている。インク室231は、ジョイント部232のみにおいて外部と連通可能な閉空間となっている。インクタンク230は、記録ヘッドに対して着脱可能に構成されている。また、インクタンク230は、記録ヘッドの上部に備えられている。インク室231は柔軟性のある部材により形成されており、その内部には負圧発生用のバネ233−1と、バネ233−1に接続された圧力板233−2が内蔵されている。バネ233−1は、圧力板233−2を介してインク室231を内部から外部に向かって付勢し、インク室231の内部空間を拡大させる。即ち、バネ233−1はインク室231の内部に所定の負圧を発生させており、バネ233−1、圧力板233−2及びインク室231は一体となって負圧発生部233を構成している。ジョイント部232には不織布製のフィルター234が備えられている。
【0108】
図4は記録ヘッドの拡大断面図である。記録ヘッド220は、電気熱変換素子(インク吐出用のヒーター)などのエネルギー発生素子(不図示)を備えている。このエネルギー発生素子によって、インク室221内のインクI(液室内の液体)は吐出口220Aから吐出される。インク室221には、インクIと共に空気(気体)が存在する。従って、インク室221内には、インクIが収容されたインク収容部(液体収容部)と、空気(気体)が収容された空気収容部(気体収容部)と、が形成されることになる。
【0109】
インク室221の上部には、インク室221とインクタンクのインク室を連通させるためのインク供給部222が設けられている。インク供給部222の平均的な幅は10mm程度である。また、インク供給部222の開口部にはフィルター部材223が備えられている。図示のフィルター部材223は、SUS製のメッシュにより形成されている。そのメッシュは金属繊維を織り込んだ構造となっている。フィルター部材223が細かい目を持つことにより、外部から記録ヘッド内にゴミが侵入し難くなる。
【0110】
フィルター部材223の下面は、インクを保持可能なインク保持部材224に圧接されている。
図5Aは
図4に示すインク保持部材の拡大斜視図であり、
図5Bは
図5Aに示すインク保持部材のVb−Vb断面図である。
図5A及び
図5Bに示すように、インク保持部材224には断面円形の流路224Aが複数形成されている。それぞれの流路224Aの口径は1.0mm程度である。
【0111】
また、
図4に示すように、インク室221の上部には、開口部225が設けられている。開口部225にはフィルター226が備えられている。開口部225は外部の流路である移送部(不図示)に接続することが可能に構成されている。この移送部は液体及び/又は気体を移送することが可能な流路である。開口部225は、インク室221内のインクI及び/又は気体を外部に流出させ、或いは記録ヘッド220の外部の液体(インクなど)及び/又は気体をインク室221内に流入させることが可能に構成されている。即ち、開口部225は、液体を単独で流出・流入させるのみならず、液体とともに気体を流出・流入させることが可能に形成されている。
【0112】
図3に示すインクタンク230のジョイント部232と、
図4に示す記録ヘッド220のインク供給部222とを連結させることにより、
図3に示すインクタンク230と、
図4に示す記録ヘッド220が直接的に接続される。この際、
図3に示すインクタンク230のフィルター234と、
図4に示す記録ヘッド220のフィルター部材223とは、上下から相互に圧接された状態となっている。このように形成されたインクタンクと記録ヘッドとの連結部は、その周囲をゴム製の弾性キャップ部材で囲むことにより、密閉性が維持される。前記のように記録ヘッドとインクタンクが直接的に接続された構造は、それらの間のインク供給路(液体供給路)を極めて短くすることができる点において好ましい。
【0113】
[3−2]記録装置の全体構成:
インクジェット記録装置のその他の構造等については特に限定されない。例えば
図6に示すような記録装置300を好適に用いることができる。
【0114】
図6は、インクジェット記録装置の全体構成を模式的に示す概略構成図である。記録装置300には、外部のホスト装置(コンピュータ装置308)が接続されている。記録装置300は、コンピュータ装置308から入力された記録データに基づいて記録ヘッド305からインクを吐出し、画像を記録することができるように構成されている。
【0115】
記録装置300においては、記録媒体301として複数のラベルが仮付けされたラベル用紙を用いている。記録媒体301はロール状に巻回された状態でセットされている。但し、本発明のインクジェット記録装置においては、記録媒体として、紙のみならず、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等のインクを受容可能な媒体であれば、材質を問わず使用することができる。
【0116】
記録装置300は、記録媒体301を搬送する搬送手段として、搬送モータ303、搬送ローラ302、ロータリーエンコーダ310及びロールモータ311を備える。搬送モータ303により搬送ローラ302を駆動させることで、矢印A方向に向かって一定の速度で記録媒体301を搬送することができる。ロータリーエンコーダ310によって記録媒体301の搬送速度や搬送量を検出することができる。ロールモータ311によって矢印A方向とは逆方向に記録媒体301を巻き戻すことができる。用紙検知センサ304は記録媒体301の特定部分を検出するセンサである。図示の例ではラベル用紙に仮付けされた個々のラベルの先端を検出している。前記検出に基づいて画像の記録タイミングを決定することができる。
【0117】
記録装置300は、その上部に4つの記録ヘッド305と、これらに対応するインクタンク306を備えている。前記4つの記録ヘッドは、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクを吐出するための記録ヘッドである。
【0118】
記録ヘッド305は、記録媒体301の最大幅記録幅よりも幅広に構成された、いわゆるライン型ヘッドであり、インクを吐出可能な複数のノズルを備えている。ノズルのインク吐出口は記録ヘッド305の下面側に開口している。記録ヘッド305は、その長手方向が記録媒体301の搬送方向と交差する方向(図中の矢印Aに直交する方向)に沿うように配置されており、前記長手方向に沿って複数のノズルが配列されてノズル列が形成されている。
【0119】
記録装置300においては、搬送モータ303によって搬送ローラ302が駆動され、搬送ローラ302によって記録媒体301が矢印A方向に定速度で搬送される。用紙検知センサ304によって記録媒体301の特定部分が検出されると、その検知位置を基準として4つの記録ヘッド305のインク吐出口から順次、インクが吐出される。この際、インクはインクタンク306から記録ヘッド305に供給される。このように、記録媒体301が記録ヘッド305の下部を通過するときに、それらの記録ヘッド305の複数のノズルからインクが吐出され、記録媒体301に画像が記録される。なお、記録ヘッド305はライン型ヘッドであるため定位置に固定された状態でインクを吐出する。即ち、シリアルヘッドのように左右に往復しながら、インクを吐出することはない。
【0120】
記録装置300は、記録ヘッド305の回復動作を行うための回復機構として、キャッピング機構307、ブレード309などを備えている。
【0121】
回復動作とは、記録ヘッド305が初期状態と同様の適正な吐出性能を発揮するように回復させるための動作である。例えば吸引回復、加圧回復、予備吐出、ワイプ回復等の動作を挙げることができる。吸引回復とは、記録ヘッド305のノズル内の増粘インクをキャッピング機構307に吸引除去する動作であり、加圧回復とは、記録ヘッド305のノズル内の増粘インクをキャッピング機構307に加圧排出する動作であり、予備吐出とはノズル内の増粘インクを吐出によりキャッピング機構307に排出しインクのメニスカスを安定させる動作であり、ワイプ回復とは、記録ヘッドのフェイス面をブレード309により払拭し、フェイス面に付着したゴミやインクを除去する動作である。これらの回復動作は組み合わせて実施することもできる。
【0122】
キャッピング機構307は、各々の記録ヘッド305のインク吐出口をキャッピングする機構であり、記録ヘッド305の下部に配置されている。記録ヘッド305とキャッピング機構307は、
図6の左右方向に相対移動させることが可能に構成されている。一方、ブレード309は、各々の記録ヘッド305のフェイス面を払拭する部材であり、記録ヘッド305の下部に配置されている。
【0123】
吸引回復を行う場合には、記録ヘッド305をキャッピング機構307によりキャッピングした状態で、チューブポンプ(不図示)により、キャッピング機構307のバッファータンク(不図示)の内部を減圧する。これにより、記録ヘッド305のノズル内の増粘したインクをキャッピング機構307に吸引除去し、ノズル内をリフレッシュする。
【0124】
加圧回復を行う場合には、記録ヘッド305をキャッピング機構307によりキャッピングした状態で、記録ヘッド305のノズル内を加圧する。これにより、ノズル内の増粘したインクをキャッピング機構307のキャップ内に加圧排出し、ノズル内をリフレッシュする。
【0125】
ワイプ回復を行う場合には、ブレードモータ(不図示)によりブレード309を駆動させ、記録ヘッド305のノズルのフェイス面を払拭し、さらに加圧回復(予備吐出)を行う。これにより、ノズルのフェイス面がクリーニングされ、インク吐出口におけるメニスカスが整えられる。
【0126】
なお、これらの回復動作によりキャッピング機構307に蓄積されたインクは、所定の量まで蓄積された段階で、チューブポンプ(不図示)により吸引され、廃インクタンク(不図示)に廃棄される。
【0127】
[3−3]制御系:
次に、インクジェット記録装置の制御について説明する。
図7は、
図6に示す記録装置の制御系のブロック構成図である。前記記録装置は、記録ヘッドを含む記録機構に加えて、CPU(中央処理装置)、USBインターフェース部、ROMなどの制御系部品を備えている。CPU401は、プログラムROM402に記憶されているプログラムを実行して、前記記録装置の各部を制御する。プログラムROM402には、前記記録装置を制御するプログラムやデータが格納される。前記記録装置の処理は、CPU401がプログラムROM402内のプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0128】
コンピュータ装置308から出力された記録データは、前記記録装置のインターフェース・コントローラ403に入力される。記録媒体(ラベル)の枚数、種類及びサイズ等を指示するコマンドも、インターフェース・コントローラ403に入力され、解析される。CPU401は、これらのコマンドの解析の他、記録データの入力、記録動作、記録媒体のハンドリング等、記録装置全般の制御を司るための演算処理を実行する。前記演算処理は、プログラムROM402に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。前記プログラムは、後述する
図8に示すフローチャートの手順に対応するプログラムを含む。また、CPU401の作業用のメモリとして、ワークRAM404が使用される。EEPROM405は書き換え可能な不揮発性メモリである。このEEPROM405には、前回の回復動作を実施した時刻、複数の記録ヘッドの相互の距離及び搬送方向における記録位置を微調整(縦方向のレジストレーション)するための補正値等、前記記録装置に固有のパラメータが記憶される。
【0129】
より具体的には、CPU401は、入力されたコマンドを解析した後、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ406にビットマップ展開する。このデータに基づいて描画が行われる。また、CPU401は、入出力回路407及びモータ駆動部408を介して、搬送モータ303、ロールモータ311、キャッピングモータ409、ヘッドモータ410及びポンプモータ418を制御する。キャッピングモータ409はキャッピング機構307を駆動するためのモータであり、ヘッドモータ410は記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cを移動させるためのモータであり、ポンプモータ418はチューブポンプを駆動するためのモータである。記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cは、キャッピング位置、記録位置及び回復位置の間で移動される。キャッピング位置はキャッピング機構307によってキャッピングされる位置、記録位置は画像を記録するための位置、回復位置は回復動作を行うための位置である。
【0130】
記録装置により画像を記録する際には、
図6に示すように搬送モータ303により搬送ローラ302を駆動して、記録媒体301(図示の例ではラベル用紙)を一定の速度で搬送する。そして、ロータリーエンコーダ310によって記録媒体301の搬送速度や搬送量を検出する。
図7に示す制御系においては、この一定速度で搬送される記録媒体に対する画像の記録タイミングを決定するために、用紙検知センサ304によってラベルの先端を検出する。用紙検知センサ304の検出信号は、入出力回路411を介してCPU401に入力される。搬送モータにより記録媒体が搬送されると、ロータリーエンコーダ(不図示)の信号に同期して、CPU401がイメージメモリ406から色毎のイメージデータを順次読み出す。前記イメージデータは、記録ヘッド制御回路412を介して、対応する記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cのいずれかに転送される。これにより、記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cが、前記イメージデータに基づいてインクを吐出する。
【0131】
ポンプを駆動するためのポンプモータ413は、入出力回路407及びモータ駆動部408を介してその駆動を制御される。操作パネル414は入出力回路415を介してCPU401に接続される。また、前記記録装置の環境温度と環境湿度は温湿度センサ416によって検出され、A/Dコンバーター417を介してCPU401に入力される。
【0132】
[3−4]回復シーケンス:
環境温度が40℃以上となり、水が蒸発した場合には、記録ヘッドにインクの固着が発生しやすくなる。従って、記録ヘッドからヘッドキャップが外れたヘッドオープンの状態で、かつ、水分が蒸発した場合には記録ヘッドのフェイス面を回復する回復シーケンスを入れることが好ましい。
【0133】
図8は、記録ヘッドの回復シーケンスの工程を示すフローチャートである。
図8に示す回復シーケンスは、記録ヘッドがキャップから開放されたキャップオープンの条件(条件501)となると発動する。回復シーケンスが発動すると、温湿度センサにより記録装置の環境温度及び環境湿度が取得(検出)される(工程502)。前記検出の結果、環境温度が40℃以上、環境湿度が70%以下であり(条件503)、かつ、前回の吸引回復からの累計時間が1時間以上となった場合(条件504)、ノズル内のインクをリフレッシュするための加圧回復(予備吐出)と、フェイス面を払拭しクリーニングするためのワイプ回復が行われる(工程505)。なお、条件504は、吸引回復が行われた場合にはリセットされる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例の構成のみに限定されるものではない。尚、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0135】
[合成例:(メタ)アクリル酸エステル系ランダム共重合体の合成]
撹拌装置、滴下装置、温度センサー、及び上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器にメチルエチルケトン1000部を仕込み、撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。この反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置より、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(日本油脂社製、商品名:「ブレンマーTGL」)33部、及びペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル67部を混合し、得られた混合液を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価が110mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)89℃、重量平均分子量8,000の(メタ)アクリル酸エステル系ランダム共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
【0136】
[インクの色材に用いるブラック顔料分散体の調製]
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、ポリマー溶液の調製で得た(メタ)アクリル酸エステル系ランダム共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)、25%水酸化カリウム水溶液、水及びカーボンブラック顔料を仕込み、撹拌、混合して混合液を得た。ここで、それぞれの仕込量は、カーボンブラック顔料1000部、(メタ)アクリル酸エステル系ランダム共重合体は、カーボンブラックに対し不揮発分で40%の比率となる量、25%水酸化カリウム水溶液は、(メタ)アクリル酸エステル系ランダム共重合体の酸価が100%中和される量、水は、混合液の不揮発分を27%とするのに必要な量である。得られた混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。尚、分散液の温度を40℃以下に保持した。
【0137】
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置の流路を洗浄し、洗浄液と分散液を混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら2%塩酸を滴下してpH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液にてpH9.5に調整した。その後、遠心分離器を使用し、6000Gで30分間かけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整してカーボンブラック顔料分散体(不揮発分:20%)を得た。さらに、得られた水性のブラック顔料分散体の顔料濃度が約14%になるように純水を加えて調整し、これを、後述するインク調製に使用するブラック顔料分散体とした。
【0138】
[インクの色材に用いるシアン顔料分散体の調製]
シアン顔料分散体は、色材として、Pigment Blue 15:3を使用する以外はブラック顔料分散体と同様の方法で調製した。
【0139】
[インクの色材に用いるマゼンタ顔料分散体の調製]
マゼンタ顔料分散体は、色材として、Pigment Red 122を使用し、顔料に対する樹脂の比率を40%から30%に変更した以外はブラック顔料分散体と同様の方法で調製した。
【0140】
[インクの色材に用いるイエロー顔料分散体の調製]
イエロー顔料分散体は、色材として、Pigment Yellow 74を使用し、顔料に対する樹脂の比率を40%から35%に変更した以外はブラック顔料分散体と同様の方法で調製した。
【0141】
[インクの調製]
(実施例1)
以下の方法で、実施例1のインク1を調製した。容器に、色材としてブラック顔料分散体(顔料濃度約14%)21.4部を加え、水溶性化合物として、固体のエチレン尿素の40%水溶液27.5部(エチレン尿素固形分:11部)、グリセリン7部、トリエチレングリコール2部、固体のビスヒドロキシエチルスルフォンの65%水溶液3.1部(ビスヒドロキシルエチルスルフォン固形分:2部)を加えた。さらに、これにノニオン性界面活性剤であるアセチレノールE100(川研ファインケミカル製)0.5部及びBC−20(日光ケミカルズ製)1.0部を加え、残り純水(イオン交換水)を投入して全体を100部とした。これらをプロペラ撹拌機にて30分以上撹拌した後、孔径3.0μmのフィルターで濾過することにより、実施例1の黒色のインクジェット記録用インク1を得た。
【0142】
(実施例2〜6、比較例1〜3)
先に調製したブラック顔料分散体を用い、水溶性化合物などの組成を変えて、実施例2〜6のインク2〜6、及び比較例1〜3のインク7〜9を調製した。具体的には、表2に記載の成分を、表2に記載の量で使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例及び比較例の各インクを得た。
【0143】
【表2】
【0144】
[評価]
上記で得た実施例及び比較例の各インクを用い、インクジェット記録装置で画像を形成して、後述する方法で、それぞれのインクを評価した。評価結果を表2中に示した。具体的には、インクジェット記録装置としては、サーマル方式のインクジェット記録装置(キヤノンファインテック社製「LXD5500」)を用いた。そして、インクジェット記録ヘッドとして、
図1A〜
図1C及び
図2A〜
図2Cに示す構造のインクジェットヘッドを備えた上記装置を使用した。具体的なスペックは表3に示すものとした。
【0145】
【表3】
【0146】
<再溶解性、固着性試験>
インクジェット記録装置として、LXP5500(キヤノンファインテック製)を用い、温度15℃、湿度10%の環境下で、下記のようにして印字を行った。該インクジェット記録装置のインクタンクに、表2に示した各インクをそれぞれ収納し、上記のスペックの記録ヘッド上に1200dpiの密度で1列に並んだ4800個の吐出口から、1滴ずつインクを吐出させて、各インクでそれぞれノズルチェックパターン印字を行った。その際、メディア(被記録媒体)には、キヤノンファインテック社製マットラベルを使用した。
上記試験後、密閉キャップし、60℃環境下において、2週間放置し、回復操作を行った際のノズルチェックパターン印字の状況を下記の基準で評価した。
○:クリーニング操作一回で正常印字ができる。
×:クリーニング操作二回以上で正常印字ができる。
【0147】
<固形物の析出>
上記のスペックの記録ヘッドに各インクを充填後、密閉キャップをせずに2週間室温で放置し、ノズル先端部を観察し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
○:ノズル先端部に固形物の析出がない。
×:ノズル先端部に固形物の析出が認められる。
【0148】
表2に示したように、実施例1〜6のインクは、クリーニング操作一回でノズルが回復して性状な印字ができることを確認した。その理由は、後述するように、比較例のインクを用いた場合との比較から、インク中のエチレン尿素、及び、水溶性化合物の含有量が本発明で規定の範囲内である結果、十分な再溶解性、固着性が得られたと考えられる。
【0149】
上記した実施例のインクに対し、表2に示したように、比較例1のインクは、インク中のエチレン尿素の量が11質量%未満であり、インクの水分が蒸発した後の乾燥インクがクリーニング操作により、新たなインクと混合される際に、再溶解性が劣るものとなり、クリーニング操作が二回以上必要となった。比較例2のインクでは、水溶性化合物の合計量中におけるエチレン尿素の占める比率が50%を超える結果、保湿性が十分でなく、固着性に劣るものとなった。また、比較例3のインクでは乾燥インクは溶解するものの、固形物が析出した状態となり、固着性に劣るものとなった。
【0150】
表2のブラック顔料分散体の顔料を、シアン、マゼンタ、イエローの分散体の調整で得た各色の顔料に変え、同様にインクを調製し、黒色のインクの場合と同様の評価を行った。その結果、各色の顔料分散液の顔料を用いて調製したインクは、いずれも、実施例の黒色のインクの場合と同様に好適な結果を示した。また比較例については、再溶解性、固形物の析出の点で黒色のインクと同様に劣った結果となった。このことから、シアン、マゼンタ、イエローのいずれの顔料分散体を使用しても、本発明で規定するインク組成、特に水溶性化合物を満足するように設計することで、固形物の析出がない、再溶解性と固着性の良好なインクが得られることが確認された。