(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228714
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】ロッキング機構を有するねじり吸収スプロケット
(51)【国際特許分類】
F16H 55/30 20060101AFI20171030BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
F16H55/30 C
F16H55/36 H
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-521092(P2017-521092)
(86)(22)【出願日】2015年10月14日
(65)【公表番号】特表2017-532513(P2017-532513A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】US2015055419
(87)【国際公開番号】WO2016069260
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2017年4月18日
(31)【優先権主張番号】62/072,134
(32)【優先日】2014年10月29日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500124378
【氏名又は名称】ボーグワーナー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】マリアーノ・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・クランプ
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開平3−77844(JP,U)
【文献】
特開2005−180604(JP,A)
【文献】
特開2000−154851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/30
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスプロケット(250)と;
前記第1のスプロケット(250)に並列関係で取り付けられた第2のスプロケット(230)と;
前記第2のスプロケット(230)を前記第1のスプロケット(250)に弾性的に結合して、前記第1のスプロケット(250)に対する前記第2のスプロケット(230)の制限された角回転(angular rotation)を可能にする弾性部材(270)と;
前記第1のスプロケット(250)に対する前記第2のスプロケット(230)の角運動(angular motion)が阻止される係合位置に向かって付勢され、前記第1のスプロケット(250)の回転に応答して、前記第1のスプロケット(250)に対する前記第2のスプロケット(230)の角運動が許容される係合解除位置に移動するロッキング構造体(300、600、700)と、を含む、ねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項2】
ハブ部(210)を更に含み、前記第1のスプロケット(250)は、前記ハブ部(210)上に配置され、前記第2のスプロケット(230)は、前記ハブ部(210)上に配置される、請求項1に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項3】
前記第1のスプロケット(250)は、前記ハブ部(210)に対して回転するのが阻止されるように前記ハブ部(210)上に配置される、請求項2に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項4】
前記第1のスプロケット(250)は、前記ハブ部(210)上に一体的に形成される、請求項3に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項5】
前記ロッキング構造体(300、600、700)は、臨界回転速度を上回る前記ハブ部(210)の回転に応答して前記係合位置から係合解除位置に移動し、前記臨界回転速度を下回る前記ハブ部(210)の回転に応答して前記係合解除位置から前記係合位置に移動する、請求項2に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項6】
前記ロッキング構造体(300、600、700)は、前記ハブ部(210)内に形成された第1の穴(310)と、前記第2のスプロケット(230)内に形成された第2の穴(320)と、前記第1の穴(310)内に配置された係合要素(330)と、前記第1の穴(310)内に配置された付勢要素(340)と、を含み、前記係合要素(330)は、前記ロッキング構造体(300、600、700)が前記係合位置にあるとき、前記第2の穴(320)内に着座され、前記係合要素(330)は、前記ロッキング構造体(300、600、700)が前記係合解除位置にあるとき、前記第2の穴(320)内に着座されない、請求項2に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項7】
前記付勢要素(340)は、前記係合要素(330)を前記係合位置に向かって加圧するスプリング力を前記係合要素(330)に加える、請求項6に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項8】
前記ハブ部(210)は、軸に沿って延び、前記第1の穴(310)は、前記ハブ部(210)の前記軸に対して平行ではなく、垂直ではない線に沿って外側に延びる、請求項6に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項9】
前記第1の穴(310)は、前記第2の穴(320)よりも半径方向により外側に配置される閉鎖端部(312)を有する、請求項6に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項10】
前記ロッキング構造体(300、600、700)は、前記第2のスプロケット(230)内に形成された第1の穴(310)と、前記ハブ部(210)内に形成された第2の穴(320)と、前記第1の穴(310)内に配置された係合要素(330)と、前記第1の穴(310)内に配置された付勢要素(340)と、を含み、前記係合要素(330)は、前記ロッキング構造体(300、600、700)が前記係合位置にあるとき、前記第2の穴(320)内に着座され、前記係合要素(330)は、前記ロッキング構造体(300、600、700)が前記係合解除位置にあるとき、前記第2の穴(320)内に着座されない、請求項2に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項11】
前記付勢要素(340)は、前記係合要素(330)を前記係合位置に向かって加圧するスプリング力を前記係合要素(330)に加える、請求項10に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項12】
前記ハブ部(210)は、軸に沿って延び、前記第1の穴(310)は、前記ハブ部(210)の前記軸に対して垂直な線に沿って半径方向の外側に延びる、請求項10に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項13】
前記第1の穴(310)は、前記第2の穴(320)よりも半径方向により外側に配置される閉鎖端部(312)を有する、請求項10に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項14】
前記ロッキング構造体(300、600、700)は、前記ハブ部(210)内に形成された第1の穴(310)と、前記第2のスプロケット(230)内に形成された第2の穴(320)と、前記第1の穴(310)内に配置された係合要素(330)と、前記第1の穴(310)内に配置された付勢要素(340)と、オイル供給ポート(750)とを含み、前記係合要素(330)は、前記ロッキング構造体(300、600、700)が前記係合位置にあるとき、前記第2の穴(320)内に着座され、前記係合要素(330)は、前記ロッキング構造体(300、600、700)が前記係合解除位置にあるとき、前記第2の穴(320)内に着座されなく、前記付勢要素(340)は、前記係合要素(330)を前記係合位置に向かって加圧するスプリング力を前記係合要素(330)に加え、前記オイル供給ポート(750)からの油圧は、前記係合要素(330)を前記係合解除位置に向かって加圧する、請求項2に記載のねじり吸収スプロケットシステム。
【請求項15】
軸上で回転するクランクシャフト(110)を含むエンジン用ねじり吸収スプロケットシステムであって:
前記クランクシャフト(110)上に取り付けられたハブ部(210)と;
前記ハブ部(210)に対して回転するのが阻止されるように前記ハブ部(210)上に配置されたクランクシャフト駆動スプロケット(250)と;
前記クランクシャフト駆動スプロケット(250)に並列関係で前記ハブ部(210)上に配置されたバランスシャフト駆動スプロケット(230)と;
前記バランスシャフト駆動スプロケット(230)を前記クランクシャフト駆動スプロケット(250)に弾性的に結合して、前記クランクシャフト駆動スプロケット(250)に対する前記バランスシャフト駆動スプロケット(230)の制限された角回転を可能にする弾性部材(270)と;
前記クランクシャフト駆動スプロケット(250)に対する前記バランスシャフト駆動スプロケット(230)の角運動が阻止される係合位置に向かって付勢され、前記クランクシャフト駆動スプロケット(250)の回転に応答して、前記クランクシャフト駆動スプロケット(250)に対する前記バランスシャフト駆動スプロケット(230)の角運動が許容される係合解除位置に移動するロッキング構造体(300、600、700)と、を含み、
前記ロッキング構造体(300、600、700)は、臨界回転速度を上回る前記ハブ部(210)の回転に応答して前記係合位置から前記係合解除位置に移動し、前記臨界回転速度を下回る前記ハブ部(210)の回転に応答して前記係合解除位置から係合位置に移動する、ねじり吸収スプロケットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年10月29日に出願された米国仮特許出願第62/072,134号からの優先権の利益を主張し、その全体内容が参照として本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
車両用のチェーン駆動システムの分野では、ねじり吸収スプロケット(torsionally compliant sprocket)は、ねじり振動からチェーン駆動を隔離させるのに使用され得る。吸収スプロケットは、スプロケットシャフトとチェーンまたはギヤとの間に若干のコンプライアンスを導入するために弾性要素を含むことができる。弾性要素は、スプロケットシャフトにおけるねじり振動に対してチェーンまたはギヤで受けるねじり振動の強度を減少させる機械式ローパスフィルターとして作用する。通常的な設計は、トーションスプリングのような弾性要素によって連結される内側及び外側または前側及び後側の部品に分離されたスプロケットを含む。公知された設計は、点火順序励起(firing order excitations)が低速でチェーン−スプロケットシステムの共振周波数に近接するため、エンジンアイドル時の性能要件によって制約を受ける傾向がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
開示された実施形態の一つの態様は、第1のスプロケット、及び前記第1のスプロケットに並列関係(side−by−side relation)で取り付けられる第2のスプロケットを含むねじり吸収スプロケットシステムである。弾性部材は、第2のスプロケットを第1のスプロケットに弾性的に結合して、第1のスプロケットに対する第2のスプロケットの制限された角回転(angular rotation)を可能にする。ロッキング構造体は、第1のスプロケットに対する第2のスプロケットの角運動(angular motion)が阻止される係合位置に向かって付勢される。ロッキング構造体は、第1のスプロケットの回転に応答して、第1のスプロケットに対する第2のスプロケットの角運動が許容される係合解除位置に移動する。
【0004】
開示された実施形態の他の様態は、軸上で回転するクランクシャフトを含むエンジン用ねじり吸収スプロケットシステムである。前記ねじり吸収スプロケットシステムは、クランクシャフト上に取り付けられたハブ部、前記ハブ部に対して回転するのが阻止されるようにハブ部上に配置されたクランクシャフト駆動スプロケット、及び前記クランクシャフト駆動スプロケットに並列関係でハブ部上に配置されたバランスシャフト駆動スプロケットを含む。弾性部材は、バランスシャフト駆動スプロケットをクランクシャフト駆動スプロケットに弾性的に結合して、クランクシャフト駆動スプロケットに対するバランスシャフト駆動スプロケットの制限された角回転を可能にする。ロッキング構造体は、クランクシャフト駆動スプロケットに対するバランスシャフト駆動スプロケットの角運動が阻止される係合位置に向かって付勢される。ロッキング構造体は、クランクシャフト駆動スプロケットの回転に応答して、クランクシャフト駆動スプロケットに対するバランスシャフト駆動スプロケットの角運動が許容される係合解除位置に移動する。ロッキング構造体は、臨界回転速度を上回るハブ部の回転に応答して、係合位置から係合解除位置に移動し、臨界回転速度を下回るハブ部の回転に応答して、係合解除位置から係合位置に移動する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本明細書における説明は、添付された図面を参照し、数個の図面の全般にわたって同様の参照番号は、同様の部分を指す:
【
図1】内燃機関用クランクシャフト及びバランスシャフト駆動システムを示す図である;
【
図2】第1の実施例によるロッキング構造体を含むねじり吸収スプロケットを示す斜視図である;
【
図3】
図2のねじり吸収スプロケットの側断面図である;
【
図4】
図2のねじり吸収スプロケットのロッキング構造体に対する半径方向配列の第1の実施例を示す概略図である;
【
図5】
図2のねじり吸収スプロケットのロッキング構造体に対する半径方向配列の第2の実施例を示す概略図である;
【
図6】
図2のねじり吸収スプロケットと共に使用され得る第2の実施例によるロッキング構造体を示す詳細図である;
【
図7】
図2のねじり吸収スプロケットと共に使用され得る第3の実施例によるロッキング構造体を示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書における開示内容は、ロッキング構造体を有するねじり吸収スプロケットシステムに関する。本明細書において説明されるねじり吸収スプロケットは、吸収スプロケットがハブと共に回転する間にねじり入力振動を吸収する弾性部材を使用してハブに取り付けられる吸収スプロケットを含む。ロッキング構造体は、低い回転速度で係合して、ねじり入力振動がチェーン−スプロケットシステムの共振周波数に近接するときにもたらせることができる振動を減少または消去する。
【0007】
図1は、内燃機関用クランクシャフト及びバランスシャフト駆動システム100を示す図である。ねじり吸収スプロケット組立体200は、内燃機関のクランクシャフト110に連結される。ねじり吸収スプロケット組立体200は、バランスシャフト駆動スプロケット230及びクランクシャフト駆動スプロケット250を含む。クランク及びバランスシャフト駆動システム100は、ねじり吸収スプロケット組立体200が使用され得るシステムの一例である。ねじり吸収スプロケット組立体200が他の適用例に使用され得ることが理解されるべきである。
【0008】
バランスシャフト駆動スプロケット230は、第1のチェーン120を駆動する。第1のチェーン230は、一つ以上のバランスシャフト、例えば、第1のバランスシャフトスプロケット123及び第2のバランスシャフトスプロケット125によってそれぞれ駆動される第1のバランスシャフト122、及び第2のバランスシャフト124を駆動する。それぞれの第1のバランスシャフトスプロケット123及び第2のバランスシャフトスプロケット125は、第1のチェーン120と係合する。第1のチェーン120は、また、例として、補助スプロケット126及びアイドラスプロケット128を駆動することもできる。代替具現例において、バランスシャフトは、ギヤトレーンによって駆動され得る。このような具現例において、スプロケットは、ギヤに代替され、チェーンは、ギヤトレーンに代替される。
【0009】
クランクシャフト駆動スプロケット250は、第2のチェーン130を駆動する。第2のチェーン150は、一つ以上のカムシャフト、例えば、第1のカムシャフトスプロケット133及び第2のカムシャフトスプロケット135によってそれぞれ駆動される第1のカムシャフト132、及び第2のカムシャフト134を駆動する。それぞれの第1のカムシャフトスプロケット133及び第2のカムシャフトスプロケット135は、第2のチェーン130と係合する。第2のチェーン130は、また、例として、アイドラスプロケット136を駆動することもできる。
【0010】
図2〜
図3に示されたように、ねじり吸収スプロケット組立体200は、ハブ部210及びバランスシャフト駆動スプロケット230を含む。ハブ部210は、環状であり、クランクシャフト110がハブ部210を通して軸方向に延びる一般的に円筒状ボア212内に収容されるようにハブ部210をクランクシャフト110上にスライドさせることによってクランクシャフト110に取り付けられる。クランクシャフト110上に着座されると、ハブ部210の第1の端部214は、エンジンに隣接して配置され、ハブ部210の第2の端部216は、車両に対向して配置される。ハブ部210がクランクシャフト110と連動して回転するように、スプライン218のような係合構造体が一般的に円筒状ボア212に沿ってハブ部210の内面上に形成され得る。スプライン218は、クランクシャフト110上に形成される相補型構造体と係合するように構成され、このような係合は、クランクシャフト110に対するハブ部210の回転を防止する。
【0011】
クランクシャフト駆動スプロケット250は、ハブ部210の第1の端部214から軸方向に離隔された位置でハブ部210上に配置される。クランクシャフト駆動スプロケット250は、例えば、クランクシャフト駆動スプロケット250上に形成され、ハブ部210の外周部211から半径方向の外側に延びる複数の歯252によってチェーンと係合するように構成される。示された実施例において、クランクシャフト駆動スプロケット250は、ハブ部210の一体型部品として形成される。代替例として、クランクシャフト駆動スプロケット250は、ハブ部210と別個に形成されることができ、クランクシャフト駆動スプロケット250がハブ部210と一体的に移動するようにハブ部210に対して軸方向及び回転方向の両方に固定される。
【0012】
環状フランジ220は、クランクシャフト駆動スプロケット250とハブ部210の第2の端部216との間でハブ部210上に形成される。示された実施例において、環状フランジ220は、ハブ部210の一体に形成された部品である。環状フランジ220の外周部222は、ハブ部210の外周部211の公称外径よりも大きい外径を有する。環状フランジ220の半径方向面224は、ハブ部210の第2の端部216と対面し、ハブ部210の軸方向に垂直な平面に延びる。
【0013】
バランスシャフト駆動スプロケット230は、例えば、バランスシャフト駆動スプロケット230上に形成され、半径方向の外側に延びる複数の歯232によってチェーンと係合するように構成される。バランスシャフト駆動スプロケットは、環状フランジ220とハブの第2の端部216との間でハブ部210上に配置される。バランスシャフト駆動スプロケット230は、環状フランジ220の外周部222及び半径方向面224に対して着座される。バランスシャフト駆動スプロケット230を環状フランジ220に対して着座された状態に維持し、ハブ部210の第2の端部216に向かって軸方向に移動することを沮止するために、スナップリング(snap ring)またはウエーブスプリングワッシャー(wave spring washer)260のような固定要素がバランスシャフト駆動スプロケット230の先頭面234と係合する。ウエーブスプリングワッシャー260は、ハブ部210上に形成され、ハブ部210の外周部211から内側に延びる環状溝226内に配置される。
【0014】
バランスシャフト駆動スプロケット230は、第1の内面236及び第2の内面238を含む階段型内周部を有する。第1の内面236は、第2の内面238より小さい内径を定義する。第1の内面236は、先頭面234に隣接し、ハブ部210の外周部211に対して着座される。第2の内面238は、環状フランジ220の外周部222と対面する。内面240は、第1の内面236から第2の内面238に延び、ハブ部210の軸方向に垂直な平面内に置かれる。内面240は、環状フランジ220の半径方向面224に向かって配向され、その半径方向面224に隣接する。
【0015】
バランスシャフト駆動スプロケット230は、ハブ部210及びクランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の制限された角回転を可能にする弾性部材によってハブ部210に連結される。弾性部材は、バランスシャフト駆動スプロケット230をハブ部210及びクランクシャフト駆動スプロケット250に対して中立位置に向かって後に加圧しながら、クランクシャフト110から伝達された振動を吸収するように相対回転を許容する。示された実施例において、弾性部材は、ハブ部210及びバランスシャフト駆動スプロケット230に連結される平面状トーションスプリング270である。
【0016】
平面状トーションスプリング270は、第1の端部272から第2の端部274まで延びる。第1の端部272において、平面状トーションスプリング270は、第1のピン273に連結される。第1のピン273は、平面状トーションスプリング270の第1の端部272をハブ部210の環状フランジ220に連結する。第1のピン273は、環状フランジ220を通して形成される穴221内に着座される。穴221の直径は、第1のピン273の外径に相補的であるので、環状フランジ220に対する第1のピン273の位置が固定された状態で維持される。従って、第1のピン273は、ハブ部210と一体的に移動する。
【0017】
バランスシャフト駆動スプロケット230が環状フランジ220と平面状トーションスプリング270との間に配置されるので、円弧状スロット242がバランスシャフト駆動スプロケット230を通して内面240から外面244まで形成される。従って、第1のピン273は、円弧状スロット242を通して環状フランジ220から平面状トーションスプリング270まで延びる。円弧状スロット242は、環状に細長く、バランスシャフト駆動スプロケット230の回転軸に沿って自分の半径方向中心を有する円弧に沿って延びる。円弧状スロット242の環状長さが第1のピン273の直径よりも大きいので、バランスシャフト駆動スプロケット230は、ハブ部210に対する角回転の制限された範囲を通して回転することができ、前記角回転の範囲は、第1のピン273が円弧状スロット242の端部などのうちのいずれかに到逹するときに制限される。
【0018】
第2のピン275は、バランスシャフト駆動スプロケット230に連結される。このような連結は、バランスシャフト駆動スプロケットに対する第2のピン275の移動を可能にしない方式で行われる。例えば、第2のピン275は、バランスシャフト駆動スプロケット230を通して延びる相補型大きさの穴(図示せず)内に着座され得る。従って、平面状トーションスプリング270は、クランクシャフト振動を吸収しながら、ハブ部210からの回転力をバランスシャフト駆動スプロケット230に伝達する。平面状トーションスプリング270は、外力印加の不在時に復帰する休止位置を有する。平面状トーションスプリング270がその休止位置にあるとき、バランスシャフト駆動スプロケット230は、クランクシャフト駆動スプロケット250に対して中立位置にあり、カムシャフトに対して同位相である。クランクシャフト振動を吸収しながら、平面状トーションスプリング270によって加えられたスプリング力は、バランスシャフト駆動スプロケット230をクランクシャフト駆動スプロケット250に対してその中立位置に向かって加圧する。
【0019】
図3から分かるように、ねじり吸収スプロケット組立体200は、ロッキング構造体300を含む。ロッキング構造体300は、係合位置と係合解除位置との間を移動するように動作することができる。係合位置では、ハブ部210及びクランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の角運動が阻止される。係合解除位置では、ハブ部210及びクランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の角運動が可能になる。
【0020】
ロッキング構造体300は、ハブ部210の回転速度に基づいて係合位置と係合解除位置との間で移動され得る。例えば、ロッキング構造体300は、臨界回転速度を上回るハブ部210の回転に応答して、係合位置から係合解除位置に移動することができ、ハブ部210が該回転速度の下に減速するときに係合解除位置から係合位置に移動することができる。
【0021】
示された実施例において、ロッキング構造体300は、第1の穴310及び第2の穴320を含む。第1の穴310は、ハブ部210の環状フランジ220内に形成され、環状フランジ220の半径方向面224から内側に延びる。また、第1の穴310は、第1の穴310がハブ部210の軸に対して平行ではなく垂直ではない線に沿って延びるように、半径方向の外側に延びる。従って、第1の穴310の閉鎖端部312は、環状フランジ220の半径方形面224における第1の穴310の開口よりもハブ部210の軸から半径方向により離れている。第2の穴320は、バランスシャフト駆動スプロケット230の内面240内に形成される。示された実施例において、第2の穴320は、一般的に半球状であるが、他の幾何学的形状が使用され得る。
【0022】
第1の穴310及び第2の穴320の開放端部は、半径方向に整列される。ロッキング構造体300が係合位置にあるとき、第1の穴310及び第2の穴320の開放端部は、また回転方向にも整列される。ロッキング構造体300が係合解除位置にあるとき、第1の穴310及び第2の穴320の開放端部は、ハブ部210及びクランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の角運動に対応して、互いに対して回転整列の内外に移動することができる。
【0023】
ハブ部210に対してバランスシャフト駆動スプロケット230をロッキング及び解除するために、ロッキング構造体は、圧縮スプリング340のような弾性付勢要素によって第2の穴320と係合するように付勢されるディテントボール330のような係合要素を含む。ロッキング構造体300の係合位置において、ディテントボール330は、第2の穴320内に着座され、第1の穴310内に部分的に配置される。ディテントボール330が係合位置で環状フランジ220の半径方向面224とバランスシャフト駆動スプロケット230の内面240との間の境界面にわたっているので、バランスシャフト駆動スプロケット230は、ディテントボール330の位置によって引き起こされた機械的干渉によって、ハブ部210に対して回転することが阻止される。
【0024】
臨界回転速度を上回るハブ部210の回転は、ロッキング構造体300が係合位置から係合解除位置に移動させる。特に、ディテントボール330上に作用する遠心力[すなわち、回転によって引き起こされた外側見掛け力(outward apparent force)]は、ディテントボールが半径方向の外側に移動させる。第1の穴の閉鎖端部312が第2の穴320よりも半径方向の外側により離れているので、ディテントボール330は、圧縮スプリング340によってディテントボール330に加えられたスプリング力に対して、閉鎖端部312に向かって第1の穴310内に移動する。ディテントボールが第2の穴320から出て、これ以上環状フランジ220の半径方向面224とバランスシャフト駆動スプロケット230の内面240との間の境界面にわたっていないので、ロッキング構造体300は、係合解除位置に到逹し、ハブ部210に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の回転が許容される。ハブ部210の回転速度が臨界回転速度の下に連続的に降下するとき、ディテントボール330は、圧縮スプリング340によって加えられたスプリング力に応答して第2の穴320と係合するように後に移動して、ロッキング構造体300を係合位置に配置させる。臨界回転速度は、圧縮スプリング340のスプリングレート(spring rate)によって設定され得る。
【0025】
前記の説明は、ディテントボール330を含むものとしてロッキング構造体300を言及しているが、ディテントボール330は、円筒状ピンのような他の幾何学的形状の構造体で代替され得ることができることが理解されるべきである。
【0026】
前記の説明は、説明の便宜上、単一のロッキング構造体300を言及するが、複数の類似または同一のロッキング構造体300が提供され得ることが理解されるべきである。例えば、
図4に示したように、複数のロッキング構造体300は、環状フランジ220及びバランスシャフト駆動スプロケット230上に半径方向配列で離隔され得る。この実施例において、ディテントボール330及び第2の穴320は、その数が同一であり、各ディテントボールは、第2の穴320のうちの特定の一つに対応する。クランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の回転の制限された角範囲は、第2の穴320のうちの特定の一つにのみ係合できることを保障する。他の実施例では、
図5に示したように、それぞれのディテントボール330が2つ以上の穴と係合することができる。示されたように、各ディテントボール330は、そのそれぞれの第2の穴320だけでなく、追加穴320’とも係合することができる。各ディテントボール330は、バランスシャフト駆動スプロケット230がその中立位置にあるとき、そのそれぞれの第2の穴320と整列される。追加穴は、クランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の移動の角度限界に従ってそれぞれの第2の穴320に対して配置される。クランクシャフト駆動スプロケット250に対するバランスシャフト駆動スプロケット230の速度が移動の角度限界付近ではより遅くなるので、バランスシャフト駆動スプロケット230が追加穴320’のうちの一つと成功的に係合する機会が増加される。
【0027】
図6は、
図2〜
図3のねじり吸収スプロケット組立体200と共に使用され得る第2の実施例によるロッキング構造体600を示す詳細図である。ねじり吸収スプロケット組立体200は、ロッキング構造体300がロッキング構造体600で代替され、他に説明されることを除いては、
図2〜
図3に対して説明した通りである。
【0028】
ロッキング構造体600は、ロッキング構造体300と類似しているが、第1の穴610がバランスシャフト駆動スプロケット230内に形成され、第2の穴320が環状フランジ220の外周部222とバランスシャフト駆動スプロケット230の第2の内面238との間の境界面でハブ部210内に形成されるように再配置される。第1の穴610は、ハブ部210の軸に垂直に、例えば、ハブ部210の軸から半径方向の外側に延びる線に沿って配向される。ディテントボール630及び圧縮スプリング640は、ロッキング構造体300に対して前述した方式でロッキング構造体600の係合及び係合解除を行うようにする。
【0029】
図7は、
図2〜
図3のねじり吸収スプロケット組立体200と共に使用され得る第2の実施例によるロッキング構造体700を示す詳細図である。ねじり吸収スプロケット組立体200は、ロッキング構造体300がロッキング構造体700で代替され、他に説明されることを除いては、
図2〜
図3に対して説明した通りである。
【0030】
ロッキング構造体700は、ハブ部210内に形成された第1の穴710及びバランスシャフト駆動スプロケット230内に形成された第2の穴720を含む。ピン730は、係合位置において半径方向面224と内面240との間の境界面を横切って延び、係合解除位置において第1の穴710内に完全に撤収する。ピン730は、圧縮スプリング740によって係合位置に付勢されたスプリングである。圧縮スプリング740の反対側で、供給ポート750からの油圧が第1の穴710内に入る。圧力下のオイルは、例えば、クランクシャフトオイル供給部によって供給ポート750に供給され得る。第1の穴710内の油圧が圧縮スプリング740のスプリング力を克服するのに十分ではないとき、ピン730は、第2の穴720内に部分的に着座され、ロッキング構造体700は、係合位置にある。第1の穴710内の油圧が圧縮スプリング740の付勢力を克服するのに十分であるとき、ピン730は、第1の穴710内に移動し、ロッキング構造体700を解除位置に配置させる。油圧がクランクシャフトオイル供給部によって提供される具現例において、係合解除位置への移動は、エンジン油圧が一般的にエンジン速度の関数であるため、ハブ部210の回転速度の関数として起こるだろう。他の具現例では、例えば、弁によって供給ポート750へのオイル供給を作動させることによって、ハブ部210の回転速度と独立的にロッキング構造体700の移動を可能にする油圧供給源が使用され得る。
【0031】
ねじり吸収スプロケット組立体200がバランスシャフト駆動スプロケット230及びクランクシャフト駆動スプロケット250を含むものとして前述されたが、ねじり吸収スプロケット組立体200は、クランクシャフト及びバランスシャフト駆動組立体とは異なる適用例で使用され得ることが理解されるべきである。
【0032】
ねじり吸収スプロケット組立体200がバランスシャフト駆動スプロケット230及びクランクシャフト駆動スプロケット250を含むものとして前述されたが、クランクシャフト駆動スプロケット250は、クランクシャフトが別個のスプロケットまたは他の構造体を使用する適用例で省略され得ることが理解されるべきである。
【0033】
ねじり吸収スプロケット組立体200に関する前記の開示内容は、ねじり吸収ギヤにも適用され得ることが理解されるべきである。一実施例として、バランスシャフト駆動スプロケット230及びクランクシャフト駆動スプロケット250うちの一つまたは両方いずれもギヤトレーンまたは歯付きベルトとの係合のためのギヤ歯で代替され得る。他の実施例として、バランスシャフト駆動スプロケット230は、ギヤトレーンまたは歯型ベルトとの係合のためのギヤ歯で代替されることができ、クランクシャフト駆動スプロケット250は、省略され得る。
【0034】
ねじり吸収スプロケット組立体200に関する前記の開示内容は、ねじり吸収プーリーにも適用され得ることが理解されるべきである。例えば、バランスシャフト駆動スプロケット230及びクランクシャフト駆動スプロケット250のうちの一つまたは両方いずれもベルトとの係合のためのプーリーで代替され得る。
【0035】
本開示が、現在最も実用的且つ好ましい実施形態であると現在考慮されるものと関連しているが、本開示は、様々な変形及び同等の構成を含むものの意図されているものとして理解されるべきである。