(54)【発明の名称】板幅方向における中央部と端部の強度差が少なく、曲げ加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板、およびこれらの製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板を用いて得られるものであることを特徴とする板幅方向における中央部と端部の強度差が少なく、曲げ加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
請求項6において、前記溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を行うことを特徴とする板幅方向における中央部と端部の強度差が少なく、曲げ加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らが上記特許文献4で提案したように、曲げ加工したときの割れは、軟質相(フェライト)と硬質相(マルテンサイト)の界面で応力が集中することにより発生する。そこで割れの発生を抑制するには、軟質相と硬質相の硬度差を低減することが必要である。そのため、本発明では、金属組織を軟質なフェライトを5%以下に抑制した、マルテンサイトとベイナイトの混合組織とし、成分組成のうちC量を0.25%以下に抑えてマルテンサイトの硬度を低減している。
【0019】
しかし曲げ加工性を改善するために金属組織を上記のように実質的にマルテンサイトとベイナイトの混合組織にすると、溶融亜鉛めっき処理を施す前に行う均熱処理後の冷却過程において、冷却停止時に板幅方向で板温に差が生じることによりベイナイト変態速度が板幅方向で異なり、板幅方向における中央部と端部で強度差が発生する。
【0020】
そこで本発明者らは、この強度差を低減するために更に検討を重ねた。その結果、ベイナイト変態発熱を利用すれば良いことを見出した。即ち、均熱処理後の冷却過程において、冷却停止後の低温保持初期に端部でベイナイト変態発熱により板温を上昇させれば、低温保持後半でのベイナイト変態を抑制できる。こうしたベイナイト変態発熱を利用するには、金属組織全体に対するベイナイトの比率を15面積%以上とする必要がある。また、低温保持初期におけるベイナイト変態を促進させるために、Tiを積極的に添加してオーステナイトの微細化を図る。ところが、ベイナイト変態抑制効果の高いMnとBを多量に含有すると、低温保持初期におけるベイナイト変態が抑制されてしまうため、本発明では、Mn量とB量に基づいてTi量の下限値を適切に設定する必要がある。
【0021】
以下、GI鋼板を代表例として用いて具体的に説明する。本発明のGI鋼板は、素地鋼板(溶融亜鉛めっきを施す前の鋼板の意味)の表面に溶融亜鉛めっき層を有しているものである。ただし、本発明はGI鋼板に限定されず、GA鋼板も含まれる。
【0022】
上記素地鋼板の金属組織は、マルテンサイト、ベイナイト、およびフェライトを有し、金属組織全体に対する比率は、マルテンサイトが50面積%以上、ベイナイトが15〜50面積%、フェライトが5面積%以下(0面積%を含む)を満足しているところに特徴がある。即ち、硬質相であるマルテンサイトを主体とし、フェライトよりも相対的に硬度が高いベイナイトを第2相とすることによって、マルテンサイトと第2相との硬度差を小さくし、曲げ加工性を改善している。また、本発明では、後述するように、素地鋼板に含有させるC量を0.25%以下に抑えることによって、マルテンサイトの硬度を低減しており、ベイナイトとの硬度差をできるだけ小さくしている。
【0023】
上記マルテンサイトは、GI鋼板の引張強度を高めるために必要な組織である。マルテンサイトが、金属組織全体に対して50面積%を下回ると強度を確保できない。従ってマルテンサイトは50面積%以上、好ましくは60面積%以上、より好ましくは70面積%以上とする。マルテンサイトの上限は、後述するベイナイトの生成量を確保するために85面積%であればよい。なお、マルテンサイトが多くなると伸びが劣化し、強度・伸びバランスが悪くなる傾向がある。従ってマルテンサイトは、より好ましくは80面積%以下とする。
【0024】
上記ベイナイトは、フェライトよりも硬質であるため、第2相をベイナイトにすることによって、マルテンサイトとの硬度差を小さくでき、曲げ加工性を向上できる。ベイナイト変態による発熱量を確保し、板幅方向の端部におけるベイナイト変態を抑制するために、ベイナイトは、金属組織全体に対して15面積%以上、好ましくは20面積%以上、より好ましくは25面積%以上とする。上限は、上述したマルテンサイトの生成量を確保するために50面積%以下とする。なお、ベイナイトが多くなると、強度の確保が困難となるため、ベイナイトは、45面積%以下とすることが好ましく、より好ましくは40面積%以下とする。
【0025】
本発明における全組織は上述したマルテンサイトとベイナイトのみから構成されていても良いが、本発明の作用を損なわない範囲でフェライトを含んでいても良い。ただし、フェライトは、金属組織全体に対して5面積%以下に抑制する必要がある。フェライトは、好ましくは4面積%以下、より好ましくは3面積%以下であり、最も好ましくは0面積%である。
【0026】
上記マルテンサイト、ベイナイト、およびフェライトの面積率は、GI鋼板またはGA鋼板を構成している素地鋼板の板幅方向における中央部での面積率が、上記範囲を満足していればよい。具体的には、上記素地鋼板の板幅方向に対して垂直な断面において、t/4位置(tは板厚)からサンプルを切り出し、ナイタール腐食し、断面における任意の位置の測定領域(約20μm×約20μm)を走査型電子顕微鏡(SEM)観察(観察倍率1500倍)して面積率を算出すればよい。
【0027】
上記素地鋼板は、Mnを2.0〜4%、Bを0.0003〜0.005%含有すると共に、下記式(1)を満足する量のTiを含有するところに特徴がある。下記式(1)において、[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す。
0.005×[Mn]+0.02×[B]
1/2+0.025≦[Ti]≦0.15・・・
(1)
【0028】
Tiは上述したようにオーステナイトを微細化し、板幅方向における端部において、低温保持初期におけるベイナイト変態を促進し、ベイナイト変態発熱を生じさせ、低温保持後半でのベイナイト変態を抑制する元素である。こうした作用を発揮させるために、本発明ではベイナイト変態抑制元素であるMn量とB量に基づいてTi量を設定している。
【0029】
但し、Mnは、フェライトおよびベイナイトの生成を抑制してマルテンサイトの生成を促進し、強度を高めるのに有効に作用する元素である。また、Mnは、焼入れ性を高める元素である。従ってMnは2.0%以上、好ましくは2.2%以上、より好ましくは2.4%以上とする。しかしMnを過剰に含有すると、めっき性が悪くなる。また、過剰に含有してMnが偏析すると強度が低下する。更に、MnはPの粒界偏析を助長し、粒界脆化を引き起こす元素である。従ってMnは4%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは3.0%以下とする。
【0030】
また、Bは、Mnと同様、フェライトおよびベイナイトの生成を抑制してマルテンサイトの生成を促進し、強度を高めるのに有効に作用する元素である。また、Bは、焼入れ性を高める元素である。従ってBは、0.0003%以上含有させる必要があり、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.001%以上とする。しかし過剰に含有すると、ほう化物が析出して曲げ加工性が劣化したり、熱間加工性が劣化する。従ってBは0.005%以下、好ましくは0.0045%以下、より好ましくは0.0040%以下とする。
【0031】
上述したTi添加によるベイナイト変態促進作用を発揮させるために、Tiは素地鋼板に含まれるMn量とB量に基づいて決定される上記式(1)の左辺値(0.005×[Mn]+0.02×[B]
1/2+0.025;以下、Z値ということがある。)以上含有さ
せる必要がある。式(1)の左辺値(Z値)は、本発明者らが実験を繰り返して見出したものであり、各係数は、ベイナイト変態の抑制に影響を与える寄与率を示している。しかしTiを過剰に含有すると、TiCなどの微細炭化物が析出し、曲げ加工性が劣化する。従ってTiは0.15%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.09%以下とする。
【0032】
上記素地鋼板は、合金元素として上記Mn、B、Tiを含有するものであり、他の成分組成は、C:0.05〜0.25%、Si:0.5%以下(0%を含む)、P:0.1%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Al:0.01〜0.1%、およびN:0.01%以下(0%を含まない)を満足する必要がある。こうした範囲を定めた理由は以下の通りである。
【0033】
Cは、焼入れ性を向上させ、またマルテンサイトを硬質化して素地鋼板の強度を確保するために欠くことのできない元素である。従ってCは、0.05%以上、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.13%以上とする。しかしCが0.25%を超えると、マルテンサイトが硬質化し過ぎてベイナイトやフェライトとの硬度差が大きくなるため、曲げ加工性が劣化する。従ってCは0.25%以下、好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.18%以下とする。
【0034】
Siは、固溶強化元素として作用して素地鋼板を強化し、強度を高めるのに作用する。しかしSiはフェライトの生成を促進する元素であるため、過剰に含有するとフェライトが多く生成し、マルテンサイトやベイナイトとの硬度差が大きくなり、曲げ加工性が却って劣化する。また、Siを過剰に含有すると、めっき性が悪くなる。従ってSiは0.5%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下とする。Siは0%(即ち、検出限界未満)であってもよい。
【0035】
Pは、固溶強化元素として作用して素地鋼板を強化し、強度を高めるのに作用する。しかし過剰に含有すると、溶接性、曲げ加工性、靭性を劣化させるため、Pはできるだけ低減する方が好ましい。従ってPは、0.1%以下、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.015%以下とする。
【0036】
Sは、素地鋼板中に硫化物系介在物(例えば、MnSなど)を形成し、この介在物が割れの起点なり、曲げ加工性を劣化させる原因となる。従ってSは、0.05%以下、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.008%以下とする。
【0037】
Alは、脱酸剤として作用する元素である。従ってAlは、0.01%以上、好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.030%以上とする。しかしAlを過剰に含有させると、Al含有介在物(例えば、アルミナ等の酸化物など)が増加し、靱性や曲げ加工性を劣化させる原因となる。従ってAlは、0.1%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.05%以下とする。
【0038】
Nは、不可避的に含有する元素であり、過剰に含有すると曲げ加工性を劣化させる。また、鋼中のBと結合し、BNを析出させ、Bによる焼入れ性向上作用を阻害するため、Nはできるだけ低減することが望まれる。従ってNは、0.01%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.005%以下とする。
【0039】
上記素地鋼板の基本成分組成は上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物である。
【0040】
上記素地鋼板は、更に他の元素として、以下(a)〜(c)に示される合金元素を含有してもよい。
【0041】
[(a)Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)]
CrおよびMoは、いずれも焼入れ性を向上させ、素地鋼板の強度を向上させるのに作用する元素である。CrとMoは、単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0042】
特にCrは、セメンタイトの生成や成長を抑制し、曲げ加工性を改善するのにも作用する元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、Crは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上、更に好ましくは0.05%以上とする。しかしCrを過剰に含有すると、めっき性が悪くなることがある。また、Crを過剰に含有すると、Cr炭化物が多く生成し、曲げ加工性が劣化することがある。従ってCrは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.7%以下、特に好ましくは0.4%以下とする。
【0043】
Mo添加による強度向上作用を有効に発揮させるには、Moは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上、更に好ましくは0.05%以上とする。しかしMoを過剰に含有させても添加効果は飽和し、コスト高となる。従ってMoは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下とする。
【0044】
[(b)Nb:0.2%以下(0%を含まない)および/またはV:0.2%以下(0%を含まない)]
NbおよびVは、いずれも金属組織を微細化し、素地鋼板の曲げ加工性を向上させるのに作用する元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、Nbは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上とする。Vは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上とする。しかしNbとVを過剰に含有すると微細炭化物が多く析出し、曲げ加工性が劣化することがある。従ってNbは0.2%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.1%以下とする。Vは0.2%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.1%以下とする。NbとVは、単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0045】
[(c)Cu:1%以下(0%を含まない)および/またはNi:1%以下(0%を含まない)]
CuおよびNiは、いずれも素地鋼板の強度向上に作用する元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、Cuは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。Niは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。しかしCuとNiを過剰に含有すると熱間加工性が劣化する。従ってCuは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。Niは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。CuとNiは、単独で添加しても良いし、併用しても良い。
【0046】
以上、本発明のGI鋼板を代表例として用いて説明した。
【0047】
上記GI鋼板の溶融亜鉛めっき層は、合金化してもよく、本発明には、上記GI鋼板に合金化処理を施して得られるGA鋼板も含まれる。
【0048】
次に、本発明のGI鋼板およびGA鋼板を製造する方法について説明する。
【0049】
GI鋼板およびGA鋼板を構成する素地鋼板の金属組織を、マルテンサイトを主体とし、所定量のベイナイトを生成させ、フェライトの生成を抑制するには、均熱条件、および均熱後の冷却条件を適切に制御することが重要である。即ち、上記成分組成を満足する冷延鋼板を、Ac
3点以上のオーステナイト単相域の温度で均熱処理することによって、フ
ェライトの生成を抑制すると共に、マルテンサイトの生成を促進する。均熱処理後は、500℃以下、380℃以上の冷却停止温度まで、平均冷却速度3℃/秒以上で冷却してから15秒以上保持することによって、マルテンサイトとベイナイトを生成させればよい。
【0050】
まず、本発明のGI鋼板の製造方法について具体的に説明する。
【0051】
上記成分組成を有する熱延鋼板を準備する。熱間圧延は常法に従って行えばよいが、仕上げ温度を確保し、またオーステナイト粒の粗大化を防止するために、加熱温度は1150〜1300℃程度とすることが好ましい。仕上げ圧延は、加工性を阻害する集合組織を形成させないように仕上げ圧延温度を850〜950℃として行い、巻き取ることが好ましい。
【0052】
熱間圧延後は、必要に応じて常法に従って酸洗した後、冷間圧延し冷延鋼板(素地鋼板)を製造すればよい。冷延鋼板の板幅は、例えば、500mm以上であり、本発明によれば、板幅が500mm以上であっても、板幅方向における中央部と端部の強度差を低減できる。
【0053】
冷間圧延後は、
図1に示すようにAc
3点以上の温度に加熱保持して均熱処理すること
によって、フェライトの生成を抑制し、マルテンサイトの生成を促進できる。均熱処理温度がAc
3点を下回ると、フェライトが多く生成し、マルテンサイトの生成が抑制され、
強度を高めることができない。従って均熱処理温度はAc
3点以上、好ましくはAc
3点+10℃以上とする。しかし均熱処理温度の上限は特に限定されないが、Ac
3点+70℃
を超えると、オーステナイト粒が粗大化し、曲げ加工性が悪化することがある。従って均熱処理温度はAc
3点+70℃以下とすることが好ましく、より好ましくはAc
3点+60℃以下とする。
【0054】
なお、Ac
3点(加熱時フェライト変態終了温度)は、下記式(i)に基づいて算出さ
れる。式中[ ]は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない元素については0質量%を代入して算出すればよい。この式は、「レスリー鉄鋼材料学」(丸善株式会社発行、William C. Leslie著、p273)に記載されている。
Ac
3(℃)=910−203×[C]
1/2−15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]−{30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]−700×[P]−400×[Al]−120×[As]−400×[Ti]}・・・(i)
【0055】
均熱処理時の保持時間は特に限定されず、例えば、10〜100秒程度(特に10〜80秒程度)であればよい。
【0056】
均熱処理後は、
図1に示すように500℃以下、380℃以上の冷却停止温度まで、平均冷却速度3℃/秒以上で冷却することによってマルテンサイトを生成させる。
【0057】
均熱処理温度から冷却停止温度まで冷却するときの平均冷却速度が3℃/秒未満では、冷却途中でフェライトやベイナイトが過剰に生成し、曲げ加工性が劣化する。従って平均冷却速度は3℃/秒以上、好ましくは4℃/秒以上とする。平均冷却速度の上限は特に規定されないが、素地鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考えると100℃/秒程度とするのがよい。好ましくは50℃/秒以下であり、より好ましくは10℃/秒以下である。
【0058】
冷却停止温度が500℃を超えるか、380℃を下回ると、素地鋼板の板幅方向における中央部と端部の強度差を低減できない。従って冷却停止温度は500℃以下、好ましくは490℃以下、より好ましくは480℃以下とし、380℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは420℃以上とする。
【0059】
上記冷却停止温度は、常法に従い、素地鋼板の板幅方向の中心位置における温度で管理すればよい。
【0060】
冷却停止後は、常法に従って溶融亜鉛めっきを施してGI鋼板を製造すればよいが、冷却停止後、溶融亜鉛めっきを施す前に、15秒以上保持する。これにより、板幅方向における中央部と端部のベイナイト変態を完了させ、中央部と端部の金属組織をほぼ均一にすることができる。冷却停止後の保持時間が15秒より短いと、ベイナイト変態が不十分であり、必要なベイナイト量を確保することができない。従って冷却停止後の保持時間は15秒以上、好ましくは25秒以上、より好ましくは35秒以上とする。冷却停止後の保持時間の上限は特に規定されないが、生産性や使用する溶融めっきライン長などを考慮すると1000秒程度とするのがよい。
【0061】
ここで冷却停止後の保持は、380℃以上500℃以下、かつ冷却停止温度±60℃程度で行うことが好ましい。すなわち、上記保持は必ずしも冷却停止温度で行う必要はなく、380℃以上500℃以下、かつ冷却停止温度±60℃の温度範囲内であれば許容される。
【0062】
溶融亜鉛めっきは、めっき浴温度を、例えば、400〜500℃(より好ましくは440〜470℃)とすることが好ましい。
【0063】
めっき浴の組成は特に限定されず、公知の溶融亜鉛めっき浴を用いればよい。
【0064】
溶融亜鉛めっき後は、常法に従って冷却することにより所望組織のGI鋼板が得られる。具体的には、溶融亜鉛めっき後、常温まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却すればよく、素地鋼板中のオーステナイトをマルテンサイトに変態させ、マルテンサイト主体の金属組織が得られる。平均冷却速度が1℃/秒未満では、マルテンサイトが生成し難く、パーライトや中間段階変態組織が生成するおそれがある。平均冷却速度は5℃/秒以上とすることが好ましい。平均冷却速度の上限は特に規定されないが、素地鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考えると50℃/秒程度とするのがよい。好ましくは40℃/秒以下、より好ましくは30℃/秒以下である。
【0065】
次に、本発明のGA鋼板の製造方法について具体的に説明する。
【0066】
GA鋼板は、上記GI鋼板に常法の合金化処理を施すことによって製造できる。即ち、合金化処理は、
図1に示すように上記条件で溶融亜鉛めっきした後、例えば500〜600℃程度(特に530〜580℃程度)で、5〜30秒程度(特に10〜25秒程度)保持して行えばよい。
【0067】
上記合金化処理は、例えば、加熱炉、直火、または赤外線加熱炉などを用いて行えばよい。加熱手段も特に限定されず、例えば、ガス加熱、インダクションヒーター加熱(高周波誘導加熱装置による加熱)など慣用の手段を採用できる。
【0068】
合金化処理後は、常法に従って冷却することにより所望組織のGA鋼板が得られる。具体的には、合金化処理後、常温まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却すればよく、マルテンサイト主体の金属組織が得られる。
【0069】
本発明のGI鋼板およびGA鋼板は、該鋼板の板幅方向における中央部と端部の強度差が少なく、しかも曲げ加工性に優れているため、自動車用の鋼板として好適に用いることができる。特に、自動車用強度部品、例えば、フロントやリア部のサイドメンバ、クラッシュボックスなどの衝突部品をはじめ、センターピラーレインフォースなどのピラー類、ルーフレールレインフォース、サイドシル、フロアメンバー、キック部などの車体構成部品に使用できる。
【0070】
上記GI鋼板または上記GA鋼板には、各種塗装や塗装下地処理(例えば、リン酸塩処理などの化成処理)、有機皮膜処理(例えば、フィルムラミネートなどの有機皮膜の形成)などを行なってもよい。
【0071】
塗料には、公知の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂などを使用できる。耐食性の観点から、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂が好ましい。前記樹脂とともに、硬化剤を使用しても良い。また塗料は、公知の添加剤、例えば、着色用顔料、カップリング剤、レベリング剤、増感剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤などを含有していても良い。
【0072】
本発明において塗料形態に特に限定はなく、あらゆる形態の塗料、例えば、溶剤系塗料、水系塗料、水分散型塗料、粉体塗料、電着塗料などを使用できる。
【0073】
また塗装方法にも特に限定にはなく、ディッピング法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法、電着塗装法などを使用できる。
【0074】
被覆層(めっき層、有機皮膜、化成処理皮膜、塗膜など)の厚みは、用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0076】
下記表1に示す成分組成(残部は、鉄および不可避不純物)のスラブを、1250℃に加熱し、仕上げ温度を900℃として熱間圧延した後、巻取り温度を620℃として巻き取って熱延鋼板を製造した。
【0077】
得られた熱延鋼板を酸洗してから冷間圧延して冷延鋼板(素地鋼板)を製造した。冷延鋼板の板幅方向の長さは500mmである。
【0078】
各スラブの成分組成と上記式(i)に基づいて算出したAc
3点の温度を下記表1、表
2に示す。
【0079】
また、スラブに含まれるB量およびMn量と、上記式(1)に基づいて、上記式(1)の左辺の値(0.005×[Mn]+0.02×[B]
1/2+0.025)を算出し、こ
の値をZ値として下記表1に示す。
【0080】
また、スラブに含まれるTi量から上記Z値を引いた値([Ti]−Z値)を算出し、下記表1、表2に示す。
【0081】
得られた冷延鋼板を、連続溶融亜鉛めっきラインにて、下記表2に示す均熱温度まで加熱し、この温度で50秒間保持して均熱処理した後、下記表2に示す平均冷却速度で、下記表2に示す冷却停止温度まで冷却し、この温度で下記表2に示す低温保持時間(秒)で保持してから溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板を製造するか(GI鋼板。No.20〜22)、溶融亜鉛めっき後、更に加熱して合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板。No.1〜19、No.23〜31)を製造した。
【0082】
本発明の実施例では冷却停止温度で低温保持したが、380〜500℃、かつ冷却停止温度±60℃の範囲であれば同様の結果が得られることを確認している。
【0083】
GI鋼板は、上記冷却停止温度まで冷却した後、460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて溶融亜鉛めっきを施した後、室温まで冷却して製造した。
【0084】
GA鋼板は、上記溶融亜鉛めっきを施した後、550℃に加熱し、この温度で20秒間保持して合金化処理を行ってから室温まで冷却して製造した。
【0085】
下記表2にめっきの種類(GIまたはGA)を示す。
【0086】
得られたGI鋼板またはGA鋼板(以下、単に鋼板ということがある。)の金属組織を次の手順で観察し、マルテンサイト、ベイナイト、およびフェライトの分率を測定した。
【0087】
《金属組織の観察》
GI鋼板またはGA鋼板を構成している素地鋼板の金属組織は、板幅方向の中心位置において、板幅方向に対して垂直な断面を露出させ、この断面を研磨し、更に電解研磨した後、ナイタール腐食させたものをSEM観察した。観察位置はt/4位置(tは板厚)とし、SEMで撮影した金属組織写真を画像解析し、マルテンサイト、ベイナイト、およびフェライトの面積率を夫々測定した。
【0088】
観察倍率は4000倍、観察領域は20μm×20μmとし、観察は3視野について行い、平均値を算出した。算出結果を下記表2に示す。
【0089】
次に、得られたGI鋼板またはGA鋼板の機械的特性および曲げ加工性を調べた。
【0090】
《機械的特性》
鋼板の圧延方向(L方向)と試験片の長手方向が平行になるようにJIS 13号B試験片を採取し、JIS Z2241に従って引張強度(TS)を測定した。試験片の採取位置は、鋼板の幅方向に対して中心位置(鋼板の幅方向の端面から250mm位置)と、鋼板の幅方向の端面から50mm位置の2箇所とした。測定結果を下記表2に示す。下記表2において、「中央部」とは、鋼板の幅方向の端面から
250mm位置から採取した試験片を用いた結果を示しており、「端部」とは、鋼板の幅方向の端面から50mm離れた位置から採取した試験片を用いた結果を示している。
【0091】
本発明では、鋼板の中央部および端部の両方の強度が980MPa以上である場合を「高強度」と評価し、合格とする。
【0092】
また、鋼板の中央部における強度と端部における強度との差は、下記式(ii)に基づいて算出される強度差の割合(強度差率ということがある)で評価した。算出した強度差率を下記表2に示す。
強度差率(%)=[(中央部の強度−端部の強度)/中央部の強度]×100 ・・・(ii)
【0093】
《曲げ加工性》
鋼板の曲げ加工性は、曲げ試験の結果に基づいて評価した。
【0094】
曲げ試験は、鋼板の圧延方向に垂直な方向と試験片の長手方向が平行になるように鋼板から切り出した20mm×70mmの試験片を用い、曲げ稜線が鋼板の圧延方向となるように90°V曲げ試験を行った。曲げ半径Rを適宜変化させて試験を実施し、試験片に割れが発生することなく曲げ加工できる最小曲げ半径R
minを求めた。
【0095】
最小曲げ半径R
minが3.0×t(tは板厚)以下の場合を曲げ加工性に優れている(
合格○)、3.0×t(tは板厚)を超える場合を曲げ加工性に劣っている(不合格×)と評価し、評価結果を下記表2に示す。
【0096】
下記表1、表2から次のように考察できる。No.1、2、4、6〜10、12、20、21、23、30、31は、本発明で規定する要件を満足している例であり、鋼板の中央部と端部における強度差率が小さく、曲げ加工性も良好である。
【0097】
一方、No.3、5、11、13〜19、22、24〜29は、いずれも本発明で規定する要件を満足していない例であり、鋼板の中央部と端部における強度差率が大きくなっているか、或いは曲げ加工性が悪くなっている。即ち、No.3、5、13は、素地鋼板に含まれるMn量およびB量に対してTi量が少な過ぎる例であり、No.11とNo.19は、Tiを含有していない例であり、いずれも[Ti]−Z値が0未満になっている。従って鋼板の中央部と端部における強度差率が5%を超えて大きくなっている。これらのうちNo.5は、更にSi量が多過ぎるため、フェライトが過剰に生成し、
ベイナイトの生成量を確保できなかった。従ってNo.5は、曲げ加工性も劣化した。
【0098】
No.14は、Mn量が少な過ぎる例であり、フェライトが過剰に生成したため、曲げ加工性が劣化した。No.15は、Bを含有していない例であり、フェライトが過剰に生成したため、曲げ加工性が劣化した。
【0099】
No.16は、均熱温度が低過ぎる例であり、フェライトが過剰に生成したため、曲げ加工性が劣化した。
【0100】
No.17とNo.27は、冷却停止温度が低過ぎる例であり、ベイナイトが過剰に生成し、マルテンサイトの生成量を確保できなかったため、鋼板の中央部と端部における強度差率が大きくなった。No.18とNo.28は、冷却停止温度が高過ぎる例であり、ベイナイトの生成量を確保できなかったため、鋼板の中央部と端部における強度差率が大きくなった。
【0101】
No.22は、C量が過剰な例であり、強度が高くなり過ぎて曲げ加工性が劣化した。強度が高くなった理由は、マルテンサイトが硬質化し過ぎたからと考えられ、マルテンサイトとベイナイトとの硬度差が大きくなり過ぎた結果、曲げ加工性が劣化したと考えられる。
【0102】
No.24とNo.26は、均熱処理後の平均冷却速度が小さ過ぎる例であり、フェライトが過剰に生成し、ベイナイトの生成量を確保できなかった。従って鋼板の中央部と端部における強度差率が大きく、また曲げ加工性も劣化した。No.25は、均熱温度が低過ぎる例であり、フェライトが過剰に生成し、ベイナイトの生成量を確保できなかったため、鋼板の中央部と端部における強度差率が大きくなり、曲げ加工性が劣化した。
【0103】
No.29は、冷却停止後の低温保持時間が短すぎる例であり、ベイナイト変態時間が短く、ベイナイト生成量を確保できなかったため、鋼板の中央部と端部における強度差率が大きくなった。
【0104】
次に、[Ti]−Z値と、強度差率(%)との関係を示すグラフを
図2に示す。なお、
図2では、下記表2に示したデータのうち、製造条件[均熱温度、平均冷却速度、冷却停止温度、または低温保持時間が、本発明で規定する範囲を外れている例(具体的には、No.16〜18、24〜29)]はプロットしていない。
【0105】
図2から明らかなように、[Ti]−Z値が0前後で、強度差率は著しく変化しており、[Ti]−Z値が0以上であれば、強度差率は5.0%以下となることが読み取れる。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】