特許第6228742号(P6228742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6228742
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20171030BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20171030BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C10M169/04
   C10M101/02
   C10M145/14
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-72197(P2013-72197)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196389(P2014-196389A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年4月1日
【審判番号】不服2016-13805(P2016-13805/J1)
【審判請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】田川 一生
(72)【発明者】
【氏名】早坂 和章
【合議体】
【審判長】 冨士 良宏
【審判官】 佐々木 秀次
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−90255
【文献】 特開2010−144017号公報
【文献】 国際公開第2008/152984号
【文献】 特開平10−310758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C10M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動点が−10℃以下であり、鉱油系基油である潤滑油基油と、
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rはアルキル基を示す。]
で表される構造単位を含むポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤と、
を含有する潤滑油組成物において、
前記潤滑油基油の100℃における動粘度が3.5〜4.5mm/sであり、粘度指数が145以上であり、尿素アダクト値が2〜7質量%であり、
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる前記一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、前記一般式(1)で表され且つ前記Rがメチル基である構造単位の割合が0〜10モル%、前記一般式(1)で表され且つ前記Rが炭素数12以上のアルキル基である構造単位の割合が90〜100モル%であり、
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤における前記炭素数12以上のアルキル基の平均炭素数が13〜16であり、
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤の重量平均分子量が10,000〜180,000である、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる前記一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、前記一般式(1)で表され且つ前記Rが炭素数20以上のアルキル基である構造単位の割合が0〜10モル%である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関用潤滑油における省燃費性等の省エネルギー性の観点から、潤滑油組成物について、高粘度指数と低温粘度特性との両立を図る試みがなされている。
【0003】
潤滑油組成物の粘度指数を高くする方法としては、高度精製鉱油等の粘度指数が高い潤滑油基油を用いる方法がある。高粘度指数基油の製造方法としては、天然や合成のノルマルパラフィンを含む原料油について水素化分解/水素化異性化による潤滑油基油の精製を行う方法が知られている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0004】
また、潤滑油組成物の低温粘度特性を改善する方法としては、潤滑油組成物に流動点降下剤を配合する方法がある(例えば、特許文献4〜6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−154760号公報
【特許文献2】特表2006−502298号公報
【特許文献3】特表2002−503754号公報
【特許文献4】特開平4−36391号公報
【特許文献5】特開平4−68082号公報
【特許文献6】特開平4−120193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、省エネルギー性に対する要求は益々高くなっている。そして、本発明者の検討によれば、上記従来の高粘度指数基油と流動点降下剤とを組み合わせて用いても、潤滑油組成物の高粘度指数と低温流動性との両方を十分に高めることは必ずしも容易ではないことが判明した。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高粘度指数と低温流動性との両方が十分に高められた潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者は、まず、高粘度指数基油と流動点降下剤との組合せによってそれらの併用効果が異なる原因について検討した。その結果、水素化分解/水素化異性化によって高度に精製された潤滑油基油の場合、異性化の度合い(すなわちイソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率)が同程度であっても、イソパラフィンの分子構造の相違(末端から分岐位置までの炭素数の大小など)によって、流動点降下剤の効き目が異なることが判明した。特に、末端から分岐位置までの炭素数が大きいイソパラフィンを比較的多く含む潤滑油基油の場合、流動点降下剤の添加効果が不十分となりやすいことが判明した。
【0009】
そして、本発明者は、上記の知見に基づき更に検討を重ねた結果、末端から分岐位置までの炭素数が大きいイソパラフィンを多く含む潤滑油基油を用いる場合であっても、該潤滑油基油に特定のポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤を添加することによって、高粘度指数と低温流動性とを十分に高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、流動点が−10℃以下であり、鉱油系基油である潤滑油基油と、
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rはアルキル基を示す。]
で表される構造単位を含むポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤と、
を含有する潤滑油組成物において、
前記潤滑油基油の100℃における動粘度が3.5〜4.5mm/sであり、粘度指数が145以上であり、尿素アダクト値が2〜7質量%であり、
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる前記一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、前記一般式(1)で表され且つ前記Rがメチル基である構造単位の割合が0〜10モル%、前記一般式(1)で表され且つ前記Rが炭素数12以上のアルキル基である構造単位の割合が90〜100モル%であり、
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤における前記炭素数12以上のアルキル基の平均炭素数が13〜16であり、
前記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤の重量平均分子量が10,000〜180,000である、潤滑油組成物を提供する。
【0011】
なお、本発明でいう100℃における動粘度及び粘度指数、並びに後述する40℃における動粘度とは、それぞれJIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数及び40℃又は100℃における動粘度を意味する。
【0012】
また、本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
【0013】
また、本発明でいう重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)による重量平均分子量(スチレン換算値)を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高粘度指数と低温流動性との両方が十分に高められた潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の実施形態に係る潤滑油組成物は、100℃における動粘度が3.5〜4.5mm/sであり、粘度指数が145以上であり、尿素アダクト値が2〜7質量%である潤滑油基油と、
下記一般式(1):
【化2】

[式(1)中、Rは水素又はメチル基を示し、Rはアルキル基を示す。]
で表される構造単位を含むポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤と、を含有する。上記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる前記一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、一般式(1)で表され且つRがメチル基である構造単位の割合は0〜10モル%であり、一般式(1)で表され且つ前記Rが炭素数12以上のアルキル基である構造単位の割合が90〜100モル%である。また、上記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤における前記炭素数12以上のアルキル基の平均炭素数は13〜16である。また、上記ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤の重量平均分子量は10,000〜200,000である。
【0017】
本実施形態において、潤滑油基油の100℃における動粘度は、3.5〜4.5mm/sであり、好ましくは3.6〜4.3mm/sである。また、潤滑油基油の粘度指数は、粘度−温度特性の観点から、145以上であり、好ましくは147以上、より好ましくは150以上である。潤滑油基油の40℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは14〜20mm/sであり、より好ましくは15〜19mm/sである。
【0018】
また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、上述の通り2〜7質量%であり、好ましくは3〜7質量%、より好ましくは4〜7質量%である。また、尿素アダクト値が前記範囲内であると、潤滑油基油の製造工程において脱ろう処理を行うに際し、脱ろう条件を緩和することができ、経済性にも優れるため好ましい。
【0019】
本実施形態においては、100℃における動粘度、粘度指数及び尿素アダクト値が上記の条件を満たすことができれば、潤滑油基油の製造方法は特に制限されない。例えば、減圧蒸留留出油(WVGO)、WVGOのマイルドハイドロクラッキング(MHC)処理油(HIX)、脱れき油(DAO)、DAOのMHC処理油またはこれらの混合油又はこれらの2種以上の混合油を原料として、水素化分解触媒の存在下で水素化分解し、更に、脱芳香族処理及び脱ろう処理を組み合せて処理することによって、本実施形態に係る潤滑油基油を好適に得ることができる。
【0020】
前記WVGOは原油の常圧蒸留装置からの残渣油を減圧蒸留装置で蒸留した際に得られる留出油で、好ましくは360℃〜530℃の沸点を有するものである。
【0021】
前記HIXとはWVGOをMHC処理(全圧力が100kg/cm以下、好ましくは60〜90kg/cm、温度が370〜450℃、好ましくは400〜430℃、LHSVが0.5〜4.0hr−1、好ましくは1.0〜2.0hr−1の反応条件下、360℃留分の分解率が20〜30wt%の範囲にある比較的温和な水素分解のことをいう)によって生成する重質減圧軽油である。MHC処理の触媒としてはアルミナ、シリカアルミナ、アルミナボリア等の複合酸化物担体に、第VI族金属及び第VIII族金属を担持し硫化したものが使用できる。アルミナには例えばリン化合物のようなプロモーターが添加されることがある。前記金属の担持量は、酸化物基準で第VI族金属、例えばモリブデン、タングステン、クロムは5〜30wt%、好ましくは10〜25wt%、第VIII族金属、例えばコバルト、ニッケルは1〜10wt%、好ましくは2〜10wt%の範囲にある。WVGOとHIXを混合する場合は、WVGOにHIXを50wt%以上混合することが好ましい。
【0022】
前記脱れき油とは、原油の常圧蒸留装置からの残渣油を減圧蒸留装置で蒸留し、その際に得られる残渣油をプロパン脱れき法等で処理した実質アスファルテンを含有しない油である。
【0023】
原料油の水素化分解は、水素化分解触媒の存在下、全圧力が150kg/cm以下、好ましくは100〜130kg/cmの中低圧であり、温度が360〜440℃、好ましくは370〜430℃、LHSVは0.5hr−1以下、好ましくは0.2〜0.3hr−1の低LHSVであり、水素対原料油比が1,000〜6,000s.c.f/bbl−原料油、好ましくは2,500〜5,000s.c.f/bbl−原料油である反応条件で行うことができる。原料油の水素化分解に際しては、原料油中360℃留分の分解率が40wt%以上、好ましくは45wt%以上、更に好ましくは50wt%以上になるよう反応条件が調節される。なお、原料油としてHIXを用いた場合、MHC処理と水素化分解の合計の分解率は、60wt%以上、好ましは70wt%以上である。また、未分解油の一部をリサイクルする場合、ここでいう分解率はリサイクル油込みの分解率ではなく、フレッシュフィールド当りの分解率を指す。
【0024】
水素化分解に用いる触媒は、二元機能を有するものが好ましく、具体的には例えば、第VIb族金属及び第VIII族鉄族金属から構成される水素化点と、第III族、第IV族及び第V族元素の複合酸化物から構成される分解点を有する触媒が使用される。第VIb族金属としてはタングステン、モリブデンがあり、第VIII族鉄族金属としてはニッケル、コバルト、鉄があり、これらは複合酸化物担体に担持後、最終的には硫化物として用いられる。
【0025】
担体に用いる複合酸化物としては、シリカアルミナ、シリカジルコニア、シリカチタニア、シリカマグネシア、シリカアルミナジルコニア、シリカアルミナチタニア、シリカアルミナマグネシアなどがあり、結晶性シリカアルミナ(ゼオライト)、結晶性アルミナホスフェート(ALPO)、結晶性シリカアルミナホスフェート(SAPO)が用いられることもある。
【0026】
複合酸化物への前記金属の担持量は、酸化物基準として第VIb族金属では5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、第VIII族鉄族金属では1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%である。
【0027】
念のため付言すれば、原料油を水素化分解するに当っては、水素化分解触媒充填床の上流側に、脱硫及び又は脱窒素能に優れた前処理触媒を充填しても差支えない。この種の前処理触媒としては、アルミナ、アルミナボリア等の担体に、第VI族金属及び第VIII族金属を担持し、硫化したものが使用できる。アルミナ、アルミナボリアにはプロモーター、例えばリン化合物が添加されることがある。
【0028】
原料油を水素化分解した後は、必要に応じて分解生成物から通常の蒸留操作で潤滑油留分を回収してもよい。回収可能な潤滑油留分としては、沸点範囲が343℃〜390℃の70ペール留分、390℃〜445℃のSAE−10留分、445℃〜500℃のSAE−20留分、500℃〜565℃のSAE−30留分が潤滑油留などがある。
【0029】
必要に応じて潤滑油留分が分離回収された前記の水素化分解生成物は、脱ろう処理された後で脱芳香族処理されるか、あるいは、脱芳香族処理された後で脱ろう処理される。
【0030】
脱ろう処理としては、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理が採用できる。
【0031】
溶剤脱ろう処理は、例えばMEK法などの通常の方法で行うことができる。MEK法は溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)などの混合溶剤を使用する。処理条件は脱ろう油が所定の流動点になるように冷却温度を調節する。溶剤/油の容積比は0.5〜5.0、好ましくは1.0〜4.5、温度は−5〜−45℃、好ましくは−10〜−40℃である。
【0032】
接触脱ろう処理は通常の方法で行うことができる。例えばペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように反応温度を調節するがその反応条件は一般に、全圧力が10〜70kg/cm、好ましくは20〜50kg/cm、温度が240〜400℃、好ましくは260〜380℃である。LHSVは0.1〜3.0hr−1、好ましくは0.5〜2.0hr−1の範囲にある。
【0033】
脱芳香族処理としては、溶剤脱芳香族処理あるいは高圧水素化脱芳香族処理のいずれもが採用可能であるが、溶剤脱芳香族処理が好ましい。
【0034】
溶剤脱芳香族処理は通常フルフラール、フェノール等の溶剤を用いるが、本発明では溶剤にフルフラールを用いることが好ましい。溶剤脱芳香族処理の条件としては、溶剤/油容積比4以下、好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、温度90〜150℃で行なわれ、ラフィネート収率は60容積%以上、好ましくは70容積%以上、更に好ましくは85容積%以上となるように操作される。
【0035】
高圧水素化反応による脱芳香族処理は、通常アルミナ担体にVI b族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150〜200kg/cm、好ましくは70〜200kg/cm、温度280〜350℃、好ましくは300〜330℃、LHSV0.2〜2.0hr−1、好ましくは0.5〜1.0hr−1の条件で行なわれる。触媒の金属担持量は、酸化物基準で第VI b族金属、例えばモリブデン、タングステン、クロムは5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、第VIII族鉄族鉄金属、例えばコバルト、ニッケルは1〜10質量%、好ましくは2〜10質量%である。
【0036】
脱芳香族処理として溶剤脱芳香族処理を用いた場合、必要によりこの処理の後に、水素化処理を行うことができる。この水素化処理は溶剤脱芳香族処理油を、全反応圧力50kg/cm以下、好ましくは25〜40kg/cmの低圧の水素化反応条件で、アルミナ担体に第VIb族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した水素化触媒と接触させることにより行う。このような比較的低圧下での水素化処理は溶剤脱芳香族油の光安定性を飛躍的に向上させる。前記金属の担持量は酸化物基準で第VIb族金属、例えばモリブデン、タングステン、クロムは5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、第VIII族鉄族金属、例えばコバルト、ニッケルは1〜10質量%、好ましくは2〜10質量%である。
【0037】
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法において、その製造過程で原料油の水素化分解後生成物から潤滑油留分を回収しなかった場合は、脱芳香族処理、脱ろう処理あるいは水素化処理の後に、通常の蒸留操作により、潤滑油留分を回収することができる。
【0038】
本実施形態に係る潤滑油基油においては、100℃における動粘度、粘度指数及び尿素アダクト値がそれぞれ上記条件を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、本実施形態に係る潤滑油基油は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1〜60質量%、より好ましくは0.5〜55質量%、更に好ましくは1〜52質量%、特に好ましくは5〜50質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0040】
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が60質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0041】
本実施形態において、飽和分に占める環状飽和分の割合が30〜50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が70〜50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本実施形態に係る潤滑油基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは40〜70質量%、より好ましくは42〜65質量%、更に好ましくは44〜60質量%、特に好ましくは45〜55質量%である。潤滑油基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。
【0042】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0043】
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
【0044】
また、本発明でいう潤滑油基油中のノルマルパラフィンの割合とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、当該飽和分に占めるノルマルパラフィンの割合を同定・定量したときの測定値を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占めるノルマルパラフィンは、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各ノルマルパラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25mm、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
【0045】
また、潤滑油基油中のイソパラフィンの割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占めるノルマルパラフィンとの差を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。
【0046】
なお、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05〜3質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0048】
なお、ここでいう芳香族分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0049】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜98、特に好ましくは90〜97である。潤滑油基油の%Cが80未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0050】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましくは1〜12、更に好ましくは3〜10である。潤滑油基油の%Cが20を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0051】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1〜0.5である。潤滑油基油の%Cが0.7を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは0であってもよいが、%Cを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0052】
更に、本実施形態に係る潤滑油基油における%Cと%Cとの比率は、%C/%Cが7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%C/%Cが7未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%C/%Cは、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%C/%Cを200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0053】
なお、本発明でいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%C及び%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0054】
また、本実施形態に係る潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.15以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.05以上である。潤滑油基油のヨウ素価を0.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0055】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。本実施形態に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0056】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0057】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−7.5℃以下、より好ましくは−10℃以下、更に好ましくは−12.5℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0058】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは2000mPa・s以下、より好ましくは1800mPa・s以下、更に好ましくは1700mPa・s以下である。−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう−35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010−1993に準拠して測定された粘度を意味する。
【0059】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ15、単位:g/cm)は、下記式(2)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (2)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0060】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0061】
より具体的には、本実施形態に係る潤滑油基油のρ15は、好ましくは0.85g/cm以下、より好ましくは0.84g/cm以下である。
【0062】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0063】
また、本実施形態に係る潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(3)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (3)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0064】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0065】
より具体的には、本実施形態に係る潤滑油基油のAPは、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上である。
【0066】
なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0067】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィー蒸留で、初留点(IBP)が350〜370℃、終点(FBP)が480〜520℃であることが好ましく、かかる蒸留範囲にある留分から選ばれる1種又は2種以上の留分を精留することにより、上述した好ましい粘度範囲を有する潤滑油基油を得ることができる。
【0068】
なお、本発明でいう、IBP及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
【0069】
また、本実施形態に係る潤滑油基油における残存金属分は、製造プロセス上余儀なく混入する触媒や原料に含まれる金属分に由来するものであるが、かかる残存金属分は十分除去されることが好ましい。例えば、Al、Mo、Niの含有量は、それぞれ1質量ppm以下であることが好ましい。これらの金属分の含有量が上記上限値を超えると、潤滑油基油に配合される添加剤の機能が阻害される傾向にある。
【0070】
なお、本発明でいう残存金属分とは、JPI−5S−38−2003に準拠して測定される金属分を意味する。
【0071】
次に、本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤について説明する。
【0072】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤は、上記一般式(1)で表される構造単位を含む。該ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、一般式(1)で表され且つRがメチル基である構造単位の割合は0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%であり、特に好ましくは0モル%である。当該割合が前記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温粘度特性が不十分となる。
【0073】
また、ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、一般式(1)で表され且つRが炭素数12以上のアルキル基である構造単位の割合は90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%であり、特に好ましくは100モル%である。当該割合が前記下限値未満であると、潤滑油組成物の低温粘度特性が不十分となる。なお、炭素数12以上のアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基のいずれであってもよい。
【0074】
また、ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤におけるRのうち、炭素数12以上のアルキル基の平均炭素数は、13〜16であり、好ましくは13.5〜15.5である。該平均炭素数が前記下限値未満の場合又は前記上限値を超える場合には、潤滑油組成物の低温粘度特性が不十分となる。なお、ここでいう平均炭素数は、ポリメタアクリレート系流動点降下剤の合成に用いる原料メタアクリレートに基づいて算出される平均炭素数を意味する。
【0075】
また、ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤の重量平均分子量は10,000〜200,000、好ましくは30,000〜180,000、より好ましくは40,000〜170,000である。重量平均分子量が前記下限値未満の場合又は前記上限値を超える場合には、潤滑油組成物の低温粘度特性が不十分となる。
【0076】
さらに、ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤に含まれる一般式(1)で表される構造単位の全量を基準として、一般式(1)で表され且つRが炭素数20以上のアルキル基である構造単位の割合は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%であり、特に好ましくは0モル%である。当該割合が前記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温粘度特性が不十分となる。
【0077】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤は、下記一般式(4)で表される(メタ)アクリレートのうちRが上記の条件を満たすものを選定して原料モノマーを調製し、その原料モノマーを重量平均分子量が上記の条件を満たすように重合させることによって得ることができる。なお、原料モノマーは下記一般式(4)で表される(メタ)アクリレート以外のモノマーを更に含有してもよい。その場合の一般式(4)で表される(メタ)アクリレートの含有割合は、原料モノマー全量を基準として、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上である。
【化3】

[上記一般式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rはアルキル基を示す。]
【0078】
本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤の含有割合は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは0.01〜2.0質量%、より好ましくは0.01〜1.5質量%、更に好ましくは0.01〜1.0質量%、特に好ましくは0.01〜0.75質量%である。ポリ(メタ)アクリレート系流動点降下剤の含有量が前記下限値未満であると、潤滑油組成物の低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、前記上限置を超えると、動粘度の上昇および粘度温度特性が悪くなり、省エネルギー特性が低下する傾向にある。
【0079】
本実施形態に係る潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、本実施形態に係るポリ(メタ)アクリレート系以外の流動点降下剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、摩耗防止剤(極圧剤、油性剤など)、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0080】
これらの添加剤を本実施形態に係る潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有割合は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0081】
本実施形態に係る潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは7.0〜9.0mm/s、より好ましくは7.2〜8.8mm/s、さらに好ましくは7.3〜8.6mm/s、特に好ましくは7.3〜8.5mm/sである。100℃における動粘度が前記下限値未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、また、前記上限値を超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0082】
また、本実施形態に係る潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは28〜40mm/s、より好ましくは30〜38mm/s、さらに好ましくは31〜36mm/s、特に好ましくは32〜35mm/sである。40℃における動粘度が前記下限値未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、前記上限値を超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0083】
本実施形態に係る潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは200〜270、より好ましくは220〜265、さらに好ましくは230〜260、特に好ましくは240〜258、である。本実施形態に係る潤滑油組成物の粘度指数が前記下限値未満の場合には、低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがあり、また、前記上限値を超えると、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0084】
本実施形態に係る潤滑油組成物の−40℃におけるMRV粘度は、10,000〜60,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは10,000〜50,000mPa・s、さらに好ましくは15,000〜40,000mPa・s、特に好ましくは15,000〜35,000mPa・sである。ここでいうMRV粘度とは、ASTM D4684に規定されるMRV粘度を示す。−40℃におけるMRV粘度が前記下限値未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、また、前記上限値を超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0085】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、高粘度指数と低温粘度特性とを高水準で両立することができるものであるため、様々な潤滑油の用途において好適に用いることができる。潤滑油組成物の用途としては、具体的には、乗用車用ガソリンエンジン、二輪車用ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスヒートポンプ用エンジン、船舶用エンジン、発電エンジンなどの内燃機関に用いられる潤滑油(内燃機関用潤滑油)、自動変速機、手動変速機、無断変速機、終減速機などの駆動伝達装置に用いられる潤滑油(駆動伝達装置用油)、緩衝器、建設機械等の油圧装置に用いられる油圧作動油、圧縮機油、タービン油、ギヤ油、冷凍機油、金属加工用油剤などが挙げられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
<流動点降下剤>
表1に示すポリメタクリレートA〜Kを調製した。ポリメタクリレートA〜Kは一般式(1)で表される構造単位を有するものであり、Rとしてメチル基、Rとして表1に示すように特定の炭素数のアルキル基を特定の割合で有するものである。表1には、ポリメタクリレートA〜Kの重量平均分子量、並びにRのうち炭素数12以上のアルキル基の平均炭素数を併せて示す。なお、表1には、炭素数nのアルキル基をCnのように表記した。例えば、C1はメチル基を意味する。
【0088】
【表1】
【0089】
[実施例1〜10、比較例1〜15]
実施例1〜10及び比較例1〜15においては、表1に示すポリメタクリレートA〜K、並びに以下に示す潤滑油基油及び添加剤パッケージを用いて、表3〜7に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。表3〜7には、潤滑油組成物の100℃における動粘度及び粘度指数を併せて示す。
【0090】
<潤滑油基油>
表2に示す基油1〜3(いずれも鉱油系基油)を用いた。
【0091】
【表2】
【0092】
<添加剤パッケージ>
摩耗防止剤、金属不活性化剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、防錆剤および酸化防止剤からなる添加剤パッケージAを用いた。
【0093】
[MRV粘度の測定方法]
実施例1〜10、比較例1〜15で得られたSAE−10相当の潤滑油基油について、JIS K2010「自動車エンジン油粘度分類」ならびにASTM D4684“Standard Test Method for Determination of Yield Stress and Apparent Viscosity of Engine Oils at Low Temperature”に記載の方法によりMRV粘度を測定した。測定したMRV粘度、並びに降伏応力(イールドストレス、Y.S.)の有無を表3〜7に示す。なおY.S.が検出された場合の粘度は比較できないため、数字を明記しない。Y.S.が検出されたことが0W−20の規格を外れることを意味する。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】