(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
骨盤の臼蓋に配置された合成樹脂製半球殻部材と摺動するセラミック製骨頭ボールと大腿骨に固定されるステムの先端のステムテーパー部との間に択一的に配置される人工股関節用コンポーネントとしてのスリーブを複数備え、
各前記スリーブは、前記セラミック製骨頭ボールに結合される結合部を含む外側部と、この外側部に取り囲まれるように配置される内側部と、を含み、
前記内側部は、前記ステムテーパー部が挿入される挿入穴を形成する挿入穴部と、当該挿入穴部に形成され前記ステムテーパー部に支持される支持部と、を有し、
各前記スリーブの前記結合部の形状は、互いに同一であり、
各前記スリーブの前記内側部の形状は、互いに異なっており、
前記スリーブの周方向における前記支持部の配置が、一の前記スリーブと他の前記スリーブとで異なっていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネントユニット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のスリーブは、スリーブ状の本体部と、接触規制部と、支持部と、を有している。本体部は、骨頭ボールに形成された嵌合用穴に嵌合するとともに、ステムテーパー部を挿入される挿入穴を有している。接触規制部は、本体部における挿入穴を区画する内周の少なくとも一部とステムテーパー部の外周との接触を阻止するように構成されている。また、支持部は、本体部の内側に向かって突出するように設けられ、ステムテーパー部と当接することで本体部をステムに支持させる。
【0007】
たとえば、セラミック製骨頭ボールの破損などに起因してステムテーパー部に損傷が生じたときにおいて、ステムテーパー部にバリなどの出っ張り部分が生じると、この出っ張り部分がスリーブの支持部に接触し、その結果、スリーブの支持部を適切にステムテーパー部に結合できないおそれが生じる。また、ステムテーパー部に生じる損傷の形態は、種々考えられる。このため、ステムテーパー部の損傷に起因する当該端部の変形の態様を事前に的確に想定しておくことは、困難である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、ステムテーパー部に損傷が生じた場合でも、この損傷の状態に拘わらず、スリーブをステムテーパー部により確実に固定できるようにすることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工股関節用コンポーネントユニットは、骨盤の臼蓋に配置された合成樹脂製半球殻部材と摺動するセラミック製骨頭ボールと大腿骨に固定されるステムの先端のステムテーパー部との間に択一的に配置される人工股関節用コンポーネントとしてのスリーブを複数備え、各前記スリーブは、前記セラミック製骨頭ボールに結合される結合部を含む外側部と、この外側部に取り囲まれるように配置される内側部と、を含み、前記内側部は、前記ステムテーパー部が挿入される挿入穴を形成する挿入穴部と、当該挿入穴部に形成され前記ステムテーパー部に支持される支持部と、を有し、各前記スリーブの前記結合部の形状は、互いに同一であり、各前記スリーブの前記内側部の形状は、互いに異なって
おり、前記スリーブの周方向における前記支持部の配置が、一の前記スリーブと他の前記スリーブとで異なっている。
【0010】
この構成によると、各スリーブの内側部の形状が、互いに異なっている。このため、仮に、セラミック製骨頭ボールの破損などに起因してステムテーパー部に損傷が生じ、ステムテーパー部に変形が生じた場合でも、たとえば、人工股関節再置換術において、術者は、この変形に応じた内側部を有するスリーブを選択できる。しかも、内側部の形状の異なる複数のスリーブが用意されていることにより、ステムテーパー部の変形の状態に応じた適切なスリーブを、術者が、当該ステムテーパー部を確認しながら選択できる。よって、事前にステムテーパー部の変形状態を正確に想定してスリーブを用意する必要がない。以上の次第で、本発明によると、ステムテーパー部に損傷が生じた場合でも、この損傷の状態に拘わらず、人工股関節再置換術の術中において、術者は、最も適したスリーブを選択しステムテーパー部に確実に固定できる。
さらに、スリーブの周方向における支持部の配置が、一のスリーブと他のスリーブとで異なっている。この構成によると、ステムテーパー部に生じた損傷の形状に合う支持部を有するスリーブを、術者が選択できる。これにより、スリーブの支持部を、ステムテーパー部に、より確実に受けさせることができる。
【0011】
上記目的を達成するための第2発明に係る人工股関節用コンポーネントユニットは、骨盤の臼蓋に配置された合成樹脂製半球殻部材と摺動するセラミック製骨頭ボールと大腿骨に固定されるステムの先端のステムテーパー部との間に択一的に配置される人工股関節用コンポーネントとしてのスリーブを複数備え、各前記スリーブは、前記セラミック製骨頭ボールに結合される結合部を含む外側部と、この外側部に取り囲まれるように配置される内側部と、を含み、前記内側部は、前記ステムテーパー部が挿入される挿入穴を形成する挿入穴部と、当該挿入穴部に形成され前記ステムテーパー部に支持される支持部と、を有し、各前記スリーブの前記結合部の形状は、互いに同一であり、各前記スリーブの前記内側部の形状は、互いに異なっており、前記スリーブの軸方向における前記支持部の配置が、一の前記スリーブと他の前記スリーブとで異なっている。
この構成によると、各スリーブの内側部の形状が、互いに異なっている。このため、仮に、セラミック製骨頭ボールの破損などに起因してステムテーパー部に損傷が生じ、ステムテーパー部に変形が生じた場合でも、たとえば、人工股関節再置換術において、術者は、この変形に応じた内側部を有するスリーブを選択できる。しかも、内側部の形状の異なる複数のスリーブが用意されていることにより、ステムテーパー部の変形の状態に応じた適切なスリーブを、術者が、当該ステムテーパー部を確認しながら選択できる。よって、事前にステムテーパー部の変形状態を正確に想定してスリーブを用意する必要がない。以上の次第で、本発明によると、ステムテーパー部に損傷が生じた場合でも、この損傷の状態に拘わらず、人工股関節再置換術の術中において、術者は、最も適したスリーブを選択しステムテーパー部に確実に固定できる。さらに、スリーブの軸方向における支持部の配置が、一のスリーブと他のスリーブとで異なっている。この構成によると、ステムテーパー部に生じた損傷の形状に合う支持部を有するスリーブを、術者が選択できる。これにより、スリーブの支持部を、ステムテーパー部に、より確実に受けさせることができる。
(
3)好ましくは、各前記スリーブの前記内側部は、当該スリーブに嵌合された状態の前記ステムテーパー部との間に隙間を形成するための隙間形成部を有している。
【0012】
この構成によると、隙間形成部が設けられていることにより、スリーブに嵌合された状態のステムテーパー部と、スリーブの内側部との間に隙間が形成される。この隙間に骨セメントなどの固定剤が充填されることで、スリーブは、ステムテーパー部に、より確実に固定される。また、この隙間は、ステムテーパー部の損傷などに起因する出っ張りを収容する部分としても用いることができる。
【0013】
(
4)好ましくは、前記内側部の前記支持部の形状および位置の少なくとも一方が、一の前記スリーブと他の前記スリーブとで異なっている。
【0014】
この構成によると、ステムテーパー部に生じた損傷の形状に合う支持部を有するスリーブを、術者が選択できる。これにより、スリーブの支持部を、ステムテーパー部に、より確実に受けさせることができる。
【0015】
(
5)好ましくは、各前記スリーブの前記支持部の位置は、前記ステムテーパー部の基端側端部と向かい合う位置を含む。
【0016】
たとえば、ステムテーパー部のうち、当該ステムテーパー部の基端側部分に損傷が生じている場合には、人工股関節再置換術において、ステムも交換されることが好ましい。よって、人工股関節再置換術において、スリーブの支持部と確実な結合を行えないようなステムが再度用いられることを抑制できる。
【0021】
(
6)好ましくは、前記人工股関節用コンポーネントユニットは、複数のトライアル用スリーブをさらに備え、複数の前記トライアル用スリーブの形状は、それぞれ、複数の前記スリーブの形状と同一である。
【0022】
この構成によると、術者は、スリーブを実際にステムテーパー部に固定する作業に先立ち、トライアル用スリーブをステムテーパー部に取り付けることができる。これにより、術者は、予め、ステムテーパー部の形状に最適な形状のスリーブを、トライアル用スリーブを用いることで決定し、その後、上記最適な形状のスリーブをステムテーパー部に固定することができる。よって、人工股関節再置換術などにかかる手間を、より少なくできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、ステムステムテーパー部に損傷が生じた場合でも、この損傷の状態に拘わらず、新しいスリーブをステムテーパー部により確実に固定できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、骨盤の臼蓋側に配置されるセラミック製骨頭ボールと、大腿骨に大部分が埋設される棒状のステムの先端のステムテーパー部と、の間に配置される人工股関節用コンポーネントのユニットとして広く適用することができる。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る人工股関節用ユニット1を示す断面図であり、大腿骨100および骨盤101の断面の一部とともに示している。
【0027】
人工股関節用ユニット1は、スリーブ11(111)、セラミック製骨頭ボール12、およびステム13を備えて構成されている。
【0028】
図1では、スリーブ111、セラミック製骨頭ボール12、およびステム13が組み合わされた状態の人工股関節用ユニット1が、人工股関節として適用された状態を示している。すなわち
図1は、人工股関節置換術によって、人工股関節用ユニット1を股関節に対して適用した場合の概念図である。後述するように、スリーブ111は、本発明の「人工股関節用コンポーネント」の一例であるが、初回の人工股関節置換術に置いては、スリーブを用いずにセラミック製骨頭ボール12とステム13を直接嵌合にて組み合わせて用いることも、一般に行われている。
【0029】
そして、不幸にしてセラミック製骨頭ボール12の破損が生じた場合には、人工股関節再置換術が行われる。本発明の主な対象となる人工股関節再置換術では、ステム13および後述の臼蓋カップ102は温存され、スリーブ111およびセラミック製骨頭ボール12が交換される。
【0030】
図2は、人工股関節用ユニット1におけるスリーブ111、セラミック製骨頭ボール12、およびステム13の一部を拡大して示す断面図である。なお、
図2において、ステム13については一部を示している。
図1および
図2に示すように、セラミック製骨頭ボール12は、その外形が球面部分を構成するボール状に形成されており、大腿骨100において骨盤101の臼蓋101a側に配置される。そして、このセラミック製骨頭ボール12は、臼蓋101aに配置されるとともに金属製外側半球殻部材102aおよび合成樹脂としてのポリエチレン製内側半球殻部材102bを有する二層構造の臼蓋カップ102に対して、外形の球面部分において摺動するように配置されている。
【0031】
また、セラミック製骨頭ボール12には、嵌合用穴12aが設けられている。嵌合用穴12aは、セラミック製骨頭ボール12の外側に向かって開口形成されており、スリーブ111が嵌合するように構成されている。この嵌合用穴12aは、開口側から奥側に向かって緩やかに直径が小さくなる円錐曲面(テーパ状面)の一部を有している。
【0032】
ステム13は、棒状に形成されており、その一端側(基端側)の大部分が、大腿骨100の髄腔部100aに埋設される。ステム13のネック部14は、大腿骨100から突出するように配置されている。ネック部14の先端部は、ステムテーパー部15を有している。このステムテーパー部15は、先細り形状に形成されており、先端に向かうにしたがい直径が小さくなる柱状部分である。
【0033】
このステムテーパー部15は、基端15aと、先端15bとを有している。このステムテーパー部15には、スリーブ111が取り付けられる。スリーブ111には、セラミック製骨頭ボール12が取り付けられる。なお、ステム13は、生体埋植(埋設)用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成されている。
【0034】
図3は、スリーブ111の断面図である。
図4は、スリーブ111の斜視図である。
図1〜
図4を参照して、スリーブ111は、セラミック製骨頭ボール12とステム13のステムテーパー部15との間に配置される人工股関節用コンポーネントを構成している。スリーブ111は、人工股関節用ユニット1の構成部材としてだけでなく、人工股関節再置換術において、人工股関節用コンポーネントとして単独で適用することもできる。
【0035】
スリーブ111は、生体埋植(埋設)用に医療機器としての認可承認を得たチタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成されている。スリーブ111は、後述するように、複数のスリーブを含むスリーブユニットから術者によって択一的に選択された部材である。
【0036】
図2および
図3を参照して、スリーブ111は、上記の材料の塊を切削加工することなどにより、中空の円錐台形状に形成されている。スリーブ111は、外側部21と、内側部22(221)とを有している。
【0037】
外側部21は、円錐台の外周部の形状を有している。外側部21は、結合部23を有している。結合部23は、セラミック製骨頭ボール12のうち嵌合用穴12aを形成している部分と結合するために設けられている。結合部23は、外側部21の少なくとも一部に形成されている。結合部23は、セラミック製骨頭ボール12の嵌合用穴12aの周面にテーパー嵌合している。これにより、結合部23は、セラミック製骨頭ボール12の嵌合用穴12aの周面に対して、くさび効果による荷重が生じた状態で確実に嵌合している。
【0038】
なお、結合部23の全てがセラミック製骨頭ボール12の嵌合用穴12aの内周部と結合される必要は無く、結合部23の少なくとも一部が嵌合用穴12aの内周部に結合されていればよい。上記の構成を有する外側部21に取り囲まれるようにして、内側部221が配置されている。
【0039】
内側部221は、ステム13のステムテーパー部15に嵌合される部分として設けられている。内側部221は、挿入穴部24(241)を有している。
【0040】
挿入穴部241は、ステム13のステムテーパー部15が挿入される挿入穴を形成している。挿入穴部241は、支持部25(251)と、隙間形成部26(261)とを有している。
【0041】
支持部251は、ステム13のステムテーパー部15に支持される部分として設けられている。支持部251は、周方向C1の全域に亘って、ステム13のステムテーパー部15と接触している。支持部251は、第1支持部251aと、第2支持部251bとを含んでいる。
【0042】
第1支持部251aは、ステム13のステムテーパー部15における基端15aと結合するために設けられている。第1支持部251aの位置は、ステム13のステムテーパー部15における基端15aと向かい合う位置を含んでいる。ステム13のステムテーパー部15のうち当該ステムテーパー部15の基端15aから、ステムテーパー部15の高さh1の1/3〜1/4までの位置に、第1支持部251aが接触することが好ましい。このような構成とすることで、ステムテーパー部15の基端15aには傷が生じていないステム13を、人工股関節再置換術において再利用することとなり、十分な強度を維持されたステム13を再利用することができる。
【0043】
第1支持部251aは、本実施形態では、円環状の突起部分として形成されており、スリーブ111の軸方向S1における基端部に配置されている。第1支持部251aは、スリーブ111の径方向R1の内方に向けて突出している。第1支持部251aの内周面は、ステム13のステムテーパー部15の外周面の形状に沿う先細りテーパー状に形成されている。第1支持部251aは、ステム13のステムテーパー部15の基端15a寄りの部分に、たとえば圧入によってテーパー嵌合されている。これにより、第1支持部251aは、ステム13の円錐台状のステムテーパー部15の外周に対して、くさび効果による荷重が生じた状態で確実に嵌合するように構成されている。第1支持部251aとスリーブ111の軸方向S1に距離をあけて、第2支持部251bが配置されている。
【0044】
第2支持部251bは、ステム13のステムテーパー部15における先端15bと結合するために設けられている。第2支持部251bは、本実施形態では、円環状の突起部分として形成されており、ステム13のステムテーパー部15に配置されている。第2支持部251bは、スリーブ111の径方向R1の内方に向けて突出している。第2支持部251bの内周面は、ステム13のステムテーパー部15の外周面の形状に沿う先細りテーパー状に形成されている。第2支持部251bは、ステム13のステムテーパー部15の先端15b寄りの部分に、たとえば圧入によってテーパー嵌合している。これにより、第2支持部251bは、ステム13の円錐台状のステムテーパー部15の外周に対して、くさび効果による荷重が生じた状態で確実に嵌合するように構成されている。第1支持部251aと第2支持部251bとの間に、隙間形成部261が配置されている。
【0045】
隙間形成部261は、スリーブ111に嵌合された状態のステム13のステムテーパー部15とスリーブ111との間に隙間27(271)を形成するために設けられている。隙間形成部261は、内側部221の内周面に形成された溝状の部分であり、第1支持部251aの内周面および第2支持部251bの内周面に対して、スリーブ111の径方向R1の外方に位置している。本実施形態では、隙間形成部261は、スリーブ111の周方向C1の全域に亘って形成されている。
【0046】
隙間271は、
図2に示す断面(軸方向S1と平行な断面)において、平行四辺形形状に現れる。隙間271には、骨セメント30が充填されている。この骨セメント30によって、スリーブ111とステム13のステムテーパー部15とが固定されている。以上が、スリーブ111の構成である。
【0047】
上記の構成を有する人工股関節ユニット1において、たとえば、セラミック製骨頭ボール12が、大きな衝撃を受けて破損する場合がある。このような場合には、破損したセラミック製骨頭ボール12を交換する人工股関節再置換術が行われる。この再置換術では、
図5に示す人工股関節用コンポーネントユニット10が用いられる。
図5は、人工股関節用コンポーネントユニット10の断面図である。
【0048】
図2および
図5を参照して、人工股関節用コンポーネントユニット10は、複数のスリーブ11(111,112,113,114)を含んでいる。
【0049】
スリーブ111,112,113,114が互いに異なっているのは、それぞれの内側部22(221,222,223,224)の形状である。本実施形態では、スリーブ111,112,113,114において、内側部22(221,222,223,224)の形状以外の構成は、互いに同一である。本実施形態では、各スリーブ111,112,113,114の結合部23の形状は同じである。一方、各スリーブ111,112,113,114の内側部22の形状は、互いに異なっている。スリーブ111,112,113,114は、人工股関節再置換術において、患者に固定されたステム13のステムテーパー部15の破損および変形の状態に応じて、術者によって択一的に選択される。
【0050】
スリーブ111は、前述したように、ステム13のステムテーパー部15に取り付けられるように構成されている。このスリーブ111は、標準タイプのスリーブであり、人工股関節再置換術において、ステム13のステムテーパー部15に損傷が生じていない場合に、術者によって選択される。
【0051】
図6は、セラミック製骨頭ボール12、スリーブ112、およびステム13のステムテーパー部15を示す断面図である。
図2、
図5および
図6を参照して、スリーブ112は、ステム13のステムテーパー部15のうち先端15b寄りの部分に出っ張り部152が存在している場合に、人工股関節再置換術において術者によって選択される。出っ張り部152は、たとえば、ステム13に以前結合されていたセラミック製骨頭ボール12の破損に伴って発生する。
【0052】
なお、以下では、スリーブ111と対応するスリーブ112,113,114との相違点について主に説明し、スリーブ111と対応するスリーブ112,113,114との共通の構成の説明は、省略する場合がある。スリーブ111の構成とスリーブ112の構成との差異点は、支持部25(251,252)の形状にある。
【0053】
具体的には、スリーブ112は、外側部21と、内側部22(222)とを有している。
【0054】
内側部222の挿入穴部24(242)は、支持部25(252)と、隙間形成部26(262)とを有している。
【0055】
支持部252は、第1支持部252aと、第2支持部252bとを有している。
【0056】
第1支持部252aの構成は、第1支持部251aの構成と同様である。
【0057】
第2支持部252bは、スリーブ112のうちスリーブ112の周方向C1における一部(たとえば、半分)にのみ、形成されている。そして、スリーブ112のステムテーパー部において、スリーブ112が形成されていない部分は、隙間27(272)の一部を形成している。このような構成により、スリーブ112に、出っ張り部152を収容できる。出っ張り部152は、ステム13のステムテーパー部15の先端15bに形成された出っ張り部分である。よって、支持部252の第1支持部252aおよび第2支持部252bは、この出っ張り部152の影響を受けることなく、ステム13のステムテーパー部15に支持されることができる。
【0058】
図7は、セラミック製骨頭ボール12、スリーブ113、およびステム13のステムテーパー部15を示す断面図であり、ステム13のステムテーパー部15の軸方向S1に沿う断面を示している。
図8は、スリーブ113、およびステム13のステムテーパー部15を示す断面図であり、ステム13のステムテーパー部15の径方向R1に沿う断面を示している。
【0059】
図2、
図7および
図8を参照して、スリーブ113は、ステム13のステムテーパー部15の先端に、出っ張り部153が存在している場合に、人工股関節置換術において術者によって選択される。出っ張り部153は、たとえば、ステム13に以前結合されていたセラミック製骨頭ボール12の破損に伴って発生する。出っ張り部153は、軸方向S1におけるスリーブ113の略中央に形成されている。
【0060】
スリーブ111の構成とスリーブ113の構成との差異点は、支持部25(251,253)の形状にある。
【0061】
具体的には、スリーブ113は、外側部21と、内側部22(223)と、を有している。
【0062】
内側部223の挿入穴部24(243)は、支持部25(253)と、隙間形成部26(263)とを有している。
【0063】
支持部253は、内側部223のうち、隙間形成部263を除く全域に形成されている。隙間形成部263は、スリーブ113の軸方向S1におけるスリーブ113の中間部に形成されている。また、隙間形成部263は、スリーブ113の周方向C1におけるスリーブ113の一部(たとえば、約1/4)に形成されている。隙間形成部263によって形成された隙間27(273)に、出っ張り部153が配置され、かつ、骨セメント30が充填されている。
【0064】
支持部253は、軸方向S1におけるスリーブ113の両端部に配置され、かつ、中間部に配置されている。したがって、ステム13のステムテーパー部15に出っ張り部153が存在している場合でも、支持部253とステムテーパー部15との結合によって、スリーブ113とステム13とが堅固に固定される。
【0065】
図9は、セラミック製骨頭ボール12、スリーブ114、およびステム13のステムテーパー部15を示す断面図である。
図9を参照して、スリーブ114は、ステム13のステムテーパー部15の先端に、出っ張り部154が存在している場合に、人工股関節置換術において術者によって選択される。出っ張り部154は、たとえば、ステム13に以前結合されていたセラミック製骨頭ボール12の破損に伴って発生する。この出っ張り部154の形状が出っ張り部152(
図6参照)の形状と異なっている点は、以下の通りである。すなわち、出っ張り部152がステム13のステムテーパー部15の先端15bに形成されているのに対して、出っ張り部154は、ステム13のステムテーパー部15の先端15bと基端15aとの間の略中央部に形成されている。また、出っ張り部152の高さ(径方向R1の高さ)と比べて、出っ張り部154の高さが大きい。
【0066】
図2および
図9を参照して、スリーブ111の構成とスリーブ114の構成との差異点は、隙間形成部26(261,264)の形状にある。
【0067】
具体的には、スリーブ114は、外側部21と、内側部22(224)とを有している。
【0068】
内側部224の挿入穴部24(244)は、支持部25(254)と、隙間形成部26(264)とを有している。
【0069】
支持部254の構成は、支持部251の構成と同様である。
【0070】
隙間形成部264は、隙間形成部261と比べて、より深い溝を形成している。本実施形態では、スリーブ111,114の径方向R1において、支持部254からの隙間形成部264の深さが、支持部251からの隙間形成部261の深さよりも大きく設定されている。このような構成により、隙間形成部264が形成されている位置におけるスリーブ114の厚み(肉厚)は、隙間形成部261が形成されている位置におけるスリーブ111の厚みよりも小さく設定されている。隙間形成部264によって形成された隙間27(274)には、ステム13のステムテーパー部15の出っ張り部154が収容されている。
【0071】
図5を参照して、上記の構成により、スリーブ111,112,113,114において、内側部221,222,223,224の支持部251,252,253,254の形状および位置の少なくとも一方が、スリーブ111,114と、スリーブ112と、スリーブ113とで異なっている。
【0072】
なお、本実施形態では、スリーブ111,112,113,114を総称していう場合は、単に「スリーブ11」という。また、内側部221,222,223,224を総称していう場合は、単に「内側部22」という。また、支持部251,252,253,254を総称していう場合は、単に「支持部25」という。また、隙間271,272,273,274を総称していう場合は、単に「隙間27」という。
【0073】
図10は、人工股関節用コンポーネントユニット10に含まれる複数のトライアル用スリーブ411,412,413,414の断面図である。
図5および
図10を参照して、人工股関節用コンポーネントユニット10は、複数のスリーブ111〜114に加えて、複数のトライアル用スリーブ411〜414を含んでいる。複数のトライアル用スリーブ411〜414は、人工股関節再置換術を行う際に、スリーブ111〜114の何れを選択すべきかを術者が選定する際に用いられる。
【0074】
トライアル用スリーブ411,412,413,414の形状は、それぞれ、スリーブ111,112,113,114の形状と同一である。トライアル用スリーブ411,412,413,414の材質は、スリーブ111,112,113,114の材質と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0075】
図11は、人工股関節再置換術の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
図11を参照して説明する場合、
図1〜
図10も適宜参照しながら説明する。
図11を参照して、術者が患者に人工股関節再置換術を施す場合、術者は、患者に埋設されているステム13の損傷状況を、施術前に確認する(ステップS1)。具体的には、術者は、患者の大腿骨近位部周辺の患部をX線撮影またはCTスキャン撮影する。
【0076】
次に、術者は、患部の周辺の患者の組織を切除して患部を露出させた状態で、古いセラミック製骨頭ボール12とスリーブ111とを除去する(ステップS2)。
【0077】
次に、術者は、患部を目視した状態で、患者のステム13の形状に最適なスリーブ11を選定する(ステップS3)。具体的には、術者は、ステム13のステムテーパー部15の形状に応じたトライアル用スリーブ411,412,413,414を適宜選択し、選択したトライアル用スリーブをステム13のステムテーパー部15に試着させる。
【0078】
次に、術者は、選定したトライアル用スリーブ411,412,413,414と同形状のスリーブ11(111,112,113,114のいずれか)を、人工股関節用コンポーネントユニット10から選定する。そして、術者は、当該選定したスリーブ11に、新しいセラミック製骨頭ボール12と、ステム13のステムテーパー部15とを取り付ける(ステップS4)。この取り付け作業において、術者は、隙間27に、骨セメントを充填し、スリーブ11をステム13に固定する。
【0079】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる人工股関節用コンポーネントユニット10によると、各スリーブ111,112,113,114の内側部221,222,223,224の形状が、互いに異なっている。このため、仮に、セラミック製骨頭ボール12の破損などに起因してステム13のステムテーパー部15に損傷が生じ、ステム13のステムテーパー部15に変形が生じた場合でも、人工股関節再置換術において、術者は、この変形に応じた内側部22を有するスリーブ11を選択できる。しかも、内側部22の形状の異なる複数のスリーブ11が用意されていることにより、ステム13のステムテーパー部15の変形の状態に応じた適切なスリーブ11を、術者が、当該ステムテーパー部15を確認しながら選択できる。よって、事前にステム13のステムテーパー部15の変形状態を正確に想定してスリーブ11を用意する必要がない。また、各スリーブ111,112,113,114の結合部23の形状が互いに同一であることから、内側部221,222,223,224の形状に拘わらず、同一のセラミック製骨頭ボール12を用いることができる。以上の次第で、ステム13のステムテーパー部15に損傷が生じた場合でも、この損傷の状態に拘わらず、人工股関節再置換術の術中において、術者は、最も適したスリーブ11を選択しステム13のステムテーパー部15に確実に固定できる。
【0080】
また、本実施形態によると、スリーブ111,112,113,114は、それぞれ、隙間形成部261,262,263,264を有している。この構成によると、スリーブ11に嵌合された状態のステム13のステムテーパー部15と、スリーブ11の内側部22との間に隙間27が形成される。この隙間27に骨セメント30が充填されることで、スリーブ11は、ステム13のステムテーパー部15に、より確実に固定される。また、この隙間27は、ステム13のステムテーパー部15の損傷などに起因する出っ張り152,153,154を収容する部分としても用いることができる。
【0081】
また、本実施形態によると、複数のスリーブ11において、内側部22の支持部25の形状および位置の少なくとも一方が、複数のスリーブ11間で異なっている。この構成によると、ステム13のステムテーパー部15に生じた損傷の形状に合う支持部25を有するスリーブ11を、術者が選択できる。これにより、スリーブ11の支持部25を、ステム13のステムテーパー部15に、より確実に受けさせることができる。
【0082】
また、本実施形態によると、各スリーブ11の支持部25の位置は、ステム13のステムテーパー部15の基端15aと向かい合う位置を含む。たとえば、ステム13のステムテーパー部15の基端15aに損傷が生じている場合には、人工股関節再置換術において、ステム13も交換されることが好ましい。よって、人工股関節の再置換術において、スリーブ11の支持部25と確実な結合を行えないようなステム13が再度用いられることを抑制できる。
【0083】
また、本実施形態によると、スリーブ111の周方向C1における支持部251(254)の配置が、支持部252,253の配置と異なっている。この構成によると、ステム13のステムテーパー部15に生じた損傷の形状に合う支持部25を有するスリーブ11を、術者が選択できる。これにより、スリーブ11の支持部25を、ステム13のステムテーパー部15に、より確実に受けさせることができる。
【0084】
また、本実施形態によると、複数のトライアル用スリーブ411,412,413,414の形状は、それぞれ、複数のスリーブ111,112,113,114の形状と同一である。この構成によると、術者は、スリーブ11を実際にステム13のステムテーパー部15に固定する作業に先立ち、トライアル用スリーブ411〜414をステム13のステムテーパー部15に取り付けることができる。これにより、術者は、予め、ステム13のステムテーパー部15の形状に最適な形状のスリーブ11を、トライアル用スリーブ411〜414を用いることで決定し、その後、上記最適な形状のスリーブ11をステム13のステムテーパー部15に固定することができる。よって、術者は、人工股関節再置換術にかかる手間を、より少なくできる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られず、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0086】
(1)たとえば、上記実施形態では、術者が、トライアル用スリーブを用いて、患者に最適なスリーブを選定する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、人工股関節用コンポーネントユニットに、トライアル用スリーブが含まれていなくてもよい。
【0087】
(2)また、上記実施形態では、スリーブの軸方向における支持部の位置が、各スリーブで共通である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、
図12に示すように、スリーブの軸方向における支持部の位置が、各スリーブで同一でなくてもよい。より具体的には、
図12に示す人工股関節用コンポーネントユニット10Aが用いられてもよい。人工股関節用コンポーネントユニット10Aのスリーブ111、112,113は、軸方向S1におけるスリーブ111の一対の端部に支持部25を有している。一方、スリーブ114Aは、軸方向S1における一対の端部の一方(基端部)にのみ、支持部25を有している。このような構成であれば、ステム13のステムテーパー部15に生じた損傷の形状に合う支持部を有するスリーブ11を、術者が選択できる。これにより、スリーブ11の支持部25を、ステム13のステムテーパー部15に、より確実に受けさせることができる。
【0088】
(3)また、上記実施形態では、支持部の第1支持部が、円環状に形成された形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、
図13に示すスリーブ111Bが適用されてもよい。スリーブ111Bの支持部251Bの第1支持部251aBは、周方向C1に等間隔に複数(たとえば、4つ)設けられている。周方向C1における第1支持部251aB間の空間は、骨セメントを充填するための空間として活用することができる。
【0089】
(4)また、
図14に示すように、軸方向S1の中間部に第3支持部251cを有するスリーブ111Cが設けられてもよい。第3支持部251cは、ステム13のステムテーパー部15の軸方向中間部に接触する。このような構成であれば、ステム13のステムテーパー部15の先端15bに欠損部155が生じていても、スリーブ111Cとステム13との結合面積を、十分に確保できる。